水嶋咲「Heart note」 (13)
Mマス水嶋咲SSです。
ちょこっとだけオリジナル設定あり。
書き溜めあまりなしの突貫です。
よろしければお付き合いください。
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01
頬杖をついて窓から外を眺める。
外では運動部が部活をやっていて、気合を入れる声と熱気は、ガラス一枚を隔ててこことはまるで別世界のようにも思える。
俯瞰の景色は、高いのが怖いということもあるけれど、多少ながらも死を連想させるから嫌いだ。
あたしはつい最近、アイドルになった。
アイドルになるということは、名が一般世間に知られるということに大した差異はない。
あたしは男だけれど可愛い格好が好きで、隠れて女装をしてきた、という過去がある。
誤解をして欲しくないのは、あたしは性同一性障害とは違い、単なる可愛いもの好きだということだ。
だから男を好きだなんて事はないし、女の子になりたいとも思わない。
普通に女の子が好きな年頃の学生だ。
可愛いものが好きで、『可愛い女の子』を求め続けているうちに、理想の可愛い女の子を探すよりも自分で自分が一番可愛いと思う格好をした方がいいと思った、それだけの事なのだ。
理想はどんなものよりも身近にある方がいいに決まっている。
そういう意味では、あたしはナルシストなのかも知れない。
自分では、そうは思わないけれど。
もちろん、自分でも周りと違うとは自覚している。
普通ではないとも理解しているつもりだけれど、誰かに迷惑を掛けている訳でもない。
個人の趣味は、周囲に影響が無ければ他人が干渉するものじゃない。
あたしが何を好きでも、他人には関係ないでしょう?
そりゃあ、あたしが女装することで誰かが傷付いたり悲しんだりするのならば別だけれど、そういう事もない。
いや、正確にはなかった、と過去形になるのだけれど。
そう。
アイドルになる事で名前が知られてしまった。
あたしが女装好きの男だって事が、世間様に流布されたのだ。
今更だけど、我ながら少々軽率だったと思う。
可愛い衣装がいくらでも着られるなら、それを仕事に出来るならどんなに素晴らしい事なんだろう、と思ってアイドルの道を歩むことを決めたけれど。
「性別ってそんなに重要かな……」
机に頬をくっつけてしなだれる。
最近は女装も板についてしまい、ついつい細かい所作も女の子っぽくなってしまった。
あたしにしては珍しくナイーブな理由は明確だ。
あたしがアイドルになったことで、周囲の見る目が変わった。
当たり前と言えば当たり前だ。学校では目立たない、どこにでもいる平凡極まりない男子がいきなり女装アイドルとしてデビューしたのだ。
元々友達も少なかったことだし、奇異の目に晒されることしばらく。
次第に、怖くなってきた。
あたしは間違っているのだろうか。
あたしのことを好きだって言ってくれるファンの人たちもいるし、家族も放任主義だから好きにやらせてもらえているけれど。
いつか、今を後悔する時が、来るのだろうか。
それが、一番怖い。
「水嶋くん?」
頬を机とランデブーさせていると、不意に背後から声を掛けられ、口から心臓が飛び出しそうな思いと共に振り返る。
と、そこには見覚えのあるクラスメイトの女子がいた。
今でも自分の鼓動がうるさく全身を打っている。
我ながら悲鳴をあげなかった自分を褒めてあげたい。
彼女は確か、クラスの委員長と図書委員会の委員長も務めているしっかり者だ。
個人的に会話した記憶はほとんどないが、物静かでいて有無を言わせない強い圧力は、どこか荘一郎に似ている。
「もう下校時刻だけど」
「え、あ……うん」
急な展開に生返事を返してしまう。
部活をしない生徒には下校時刻が設けられている。
彼女が何故ここにいるのかは分からないけれど、忠告は受け取っておくべきだろう。
「…………水嶋くん、さ」
「な、何?」
不意に委員長が顔を近づけて来た。
あ、やっぱり女の子はいい匂いがするなぁ。
香水をつけている訳でもないのに、なんでだろう。
あたしも香水くらいつけようかな……。
「ほっぺ、机の跡ついてる」
目を細めてあたしの顔を指を差す委員長。
「えっ、本当!?」
慌てて頬を押さえる。
仮にもアイドルが身だしなみを注意されるとは、プロデューサーに怒られてしまう。
「ふふ、可愛いね、水嶋くん」
頬をさすりながらありがとう、と返す。
いつもは最高の褒め言葉であるはずのその単語も、今は素直に受け止められなかった。
02
「おはようございまーす」
今日はカフェ・パレードでアルバイト。
可愛い服を着てお仕事が出来るし、あたしのアイドル人生のはじまりの場所でもある、大切な場所だ。
従業員専用の控え室に入るなり、サタンを肩に乗せたアスランがなんだか良くわからないクドい決めポーズを取っていた。
あたしを認識すると、そのままの格好で不敵に笑う。
いや、ちょっと怖いよアスラン。
「ようサキ!今日も我の凱旋に相応しき日だな!」
「アスラン……何やってるの?」
「うむ、魔界に棲みし我がしもべを喚び出す儀式(訳:ライブ)のリハーサルをな」
……あんな振り付けあったっけ。
「む……?どうしたサキ、元気がないではないか」
「え、そ、そう?そんなことないよー、やだなー」
予想外の言葉に思わず取り乱してしまう。
まさかアスランに心配されるとは思わなかったので、見てわかる取り繕いをしてしまった。
逆を言えば、他人の機微に鈍感なアスランに心配される程に、あたしは落ち込んで見えるらしい。
「虚言はよせ。なんだ、マキオのように腹でも減っているのか?」
釜底の饗宴にて創造されし供物を食うか、とお手製カレーパンを差し出すアスラン。
外はパリパリ、パン生地はもふもふ、中のカレーも完熟マンゴーを使ったコクのある、あたしもお気に入りの美味しいカレーパンだ。
でも、今は食べる気にならなかった。
アスランは変人の類だけれど、料理だけは超一流だ。
何でも何処かの大会で優勝したはいいけれど、その性格からどこも雇ってくれなかったらしい。
ちなみにロールはケーキが好きなだけでいつもお腹がすいてる訳じゃないと思うけど。
「……ゲヘナの炎に灼かれた形跡もないな」
あたしのおでこに手を当てるアスラン。
平熱だな、とでも言いたいのだろうか。
あたしも大概だけれど、アスランの言葉を理解するには時々、時間がかかる。
やめてよ。
こんな時ばかり、優しくしないでよ。
「…………」
いつも変なことばかり言って荘一郎に怒られてるけれど、本当のところ、あたしはアスランが羨ましい。
アスランは自分の決めた道を歩み続けている。
在り方が他人からどう映ろうとも、どんなに情けなくても、それは真実だ。
あたしはこの先、何年経っても今のまま、大好きな自分を肯定して生きていけるだろうか。
あたしがいくら可愛くなろうとも、男が女装するのは『普通じゃあない』。
今はちやほやされてるからいいかも知れないけれど、いつか周囲に遠ざけられて、異端だと侮蔑や非難をぶつけられて、それでも自分を貫き通せるだろうか。
アスランのように、何よりも自分に対して胸を張っていられるだろうか。
自分を嫌いになる日が来るかと思うと、怖くて仕方がないんだ。
「うっ……うぇっ……」
「なっ……さ、サキ!?」
涙が止まらない。
誰かにこの震えを止めてほしい。
そんなことないよ、って言ってほしい。
「ひっ……うえええぇぇぇぇん」
「な、何事だ!とうとう運命の刻(ハルマゲドン)が来たのか!?」
本当のところはわかっているんだ。あたしは普通じゃない。
でも、好きだって理由だけじゃあダメなのかな?
わかんないよ。
誰か、教えてよ。
「わかった!今日は特別にサキに序列21の真闇龍姫・エルヴェリーゼの爵位を与えよう!だから泣き止んで――」
「なんだよ、うるさいぞアスラン」
「もうすぐ開店なんですから、遊んでいないで準備してくださいよ」
「いつまでもさぼっていないで仕事を――」
と、あたしの泣き声を聞きつけて神谷と荘一郎とロールが勢ぞろいでやって来た。
三人とも、この光景を見るなり時間が止まったかのように目を見開いてフリーズしている。
こんな時でも目を閉じたままに見える荘一郎は流石だ。本人曰く、私の眼は細いだけできちんと開けていますよ、との事だけれど、傍から見たら閉じているようにしか見えない。
もちろん、訳もわからず巻き込まれたアスランも変なポーズのまま固まっている。
「アスラン……説明してもらいましょか?」
「ちっ、違うぞソーイチロー、誤解だ!我は何もしておらん!」
だから睨まないでくれ、と逃げ腰なアスラン。
荘一郎が関西弁を話すのは、怒っているか、喜んでいるかのどちらかだ。
要は昂ぶっている時、である。
「何もせずに水嶋さんが泣くとは私には思えませんが?」
「俺はアスランが咲を泣かせるとは思えないけど……」
「カミヤ!それでこそ我と契約せし者!」
「そうですね、サキちゃんに泣かされてるアスランさんの方がまだしっくり来るような……」
誤解も何も、アスランは何も悪くないから擁護してあげたいのだけれど、嘔吐きで声が上手く出ない。
あとさりげにロール、ひどい。
「我は無実だあああぁぁぁっ!」
「あ、待ちなさいアスラン」
「行っちゃいましたね」
ごめん、アスラン。
後で誤解は解いておくから許してね。
>5
間違い発見。修正します。
「うっ……うぇっ……」
「なっ……さ、サキ!?」
涙が止まらない。
誰かにこの震えを止めてほしい。
そんなことないよ、って言ってほしい。
「ひっ……うえええぇぇぇぇん」
「な、何事だ!とうとう運命の刻(ハルマゲドン)が来たのか!?」
本当のところはわかっているんだ。あたしは普通じゃない。
でも、好きだって理由だけじゃあダメなのかな?
わかんないよ。
誰か、教えてよ。
「わかった!今日は特別にサキに序列21の真闇龍姫・エルヴェリーゼの爵位を与えよう!だから泣き止んで――」
「なんだよ、うるさいぞアスラン」
「もうすぐ開店なんですから、遊んでいないで準備してくださいよ」
「いつまでもさぼっていないで仕事を――」
と、あたしの泣き声を聞きつけて神谷と荘一郎とロールが勢ぞろいでやって来た。
三人とも、この光景を見るなり時間が止まったかのように目を見開いてフリーズしている。
こんな時でも目を閉じたままに見える荘一郎は流石だ。本人曰く、私の眼は細いだけできちんと開けていますよ、との事だけれど、傍から見たら閉じているようにしか見えない。
もちろん、訳もわからず巻き込まれたアスランも変なポーズのまま固まっている。
「アスランさん……説明してもらいましょか?」
「ちっ、違うぞソーイチロー、誤解だ!我は何もしておらん!」
だから睨まないでくれ、と逃げ腰なアスラン。
荘一郎が関西弁を話すのは、怒っているか、喜んでいるかのどちらかだ。
要は昂ぶっている時、である。
「何もせずに水嶋さんが泣くとは私には思えませんが?」
「俺はアスランが咲を泣かせるとは思えないけど……」
「カミヤ!それでこそ我と契約せし者!」
「そうですね、サキちゃんに泣かされてるアスランさんの方がまだしっくり来るような……」
誤解も何も、アスランは何も悪くないから擁護してあげたいのだけれど、嘔吐きで声が上手く出ない。
あとさりげにロール、ひどい。
「我は無実だあああぁぁぁっ!」
「あ、待ちなさいアスランさん」
「行っちゃいましたね」
ごめん、アスラン。
後で誤解は解いておくから許してね。
03
「ほら、これでも飲んで落ち着けよ」
数分後、控え室では開店を少し遅らせて緊急会議となった。
神谷がネコのラテアートが施されたカフェラテを淹れてくれる。
この短時間で、冗談みたいな器用さだ。
超可愛いので、とりあえず写メる。
「で、何があったんだ?」
「ねえ神谷、荘一郎、ロール……男の子は、可愛くちゃダメなのかな?」
「……?」
「サキちゃん、何かあったの?」
時折、どうして女として産まれて来なかったんだろう、と思うことがある。
女の子ならばいくら可愛く在ることを目指してもおかしくはないし、偏見で見られることもない。
カフェラテで唇を濡らし、手を温めるようにカップを覆う。
「ねえ、もし、もしだよ」
あたしがいくら女の子の格好をしようとも、あたしがいくら本当の女の子よりも可愛くなろうとも。
男として産まれた以上は、男である事は未来永劫変わることはない。
「あたしがこのまま可愛いままいられなくなっても……あたしを……水嶋咲を、水嶋咲として見てくれる……かな」
その日は必ず、いつか来る。
ずっといつまでも、この楽しい現状を維持出来たら言うことはないけれど、どんなものにもいつか終わりは来る。
人が年老いて死ぬように、変わらないものなんて、どこにもないんだから。
「……咲が言いたいことは、何となくわかったよ。俺も、似たような悩みを咲と同じくらいの時に持っていたからな」
あたしの我ながら曖昧な問答に、神谷が真面目な顔で応えてくれた。
神谷は一を聞いて十を知る、みたいな側面がある。
Cafe Paradeの個性的な面々をまとめていられるのも、その聡明さがあってこそだろう。
神谷のそういうところは素直に凄いと思う。
「この先どうなるんだろう?本当に俺の決めた道は『正解』なのか?ひょっとしたら俺の選んだ方向は間違っていて、もっといい選択肢が他にあったんじゃないのか?」
「神谷……」
神谷と同級生だからか何か思うところがあるのだろう、荘一郎が表情に影を差していた。
神谷は自分の夢のために両親の反対も押し切り、単身で外国へと飛び出したと聞いたことがある。
それには、どれ程の決意と覚悟が必要だったのだろう。
今のあたしでは到底想像もつかない。
「俺も人生語れる程に歳は食っていないけどさ、人生なんて選択と後悔の連続だよ。『正解』を選び続けることの出来る人間なんていやしない」
それは、神谷が自分に向けた言葉にも聞こえた。
「人には人それぞれの壮大な物語がある。それに、正解だけわかっている人生なんてつまらないじゃないか」
そんなものは小説の中だけで充分だ、と神谷は言った。
人生に正解なんてない。
それでも、限りなく正解に近くするためにあたしたちは頑張るんだ。
「まあでも、未来がわからない、ってのは確かに不安だよな」
神谷はそう言って、微笑みながら頭を優しく撫でてくれた。
やばい、また涙が出そう。
と、その感情の堰を止めるかのように、荘一郎が何処から取り出したのかシュークリームをあたしの目の前に置く。
泣く子供を甘いものであやす荘一郎、と思うと少しおかしくて。
「……その、実のところ、私は『可愛い』ということは女の子の特権やと思てましたけど……水嶋さんが現れた事で、私の常識は覆されましたよ」
これは、口下手な荘一郎なりに慰めてくれているのだろう。
だから自信を持て、と言っているように聞こえた。
「それに、何が正しいかなんて誰にもわかる筈はないんです。だったら神谷や私、アスランさんや巻緒さんがそうしているように、好きな事をやればええと思いますよ」
神谷は世界中に自分の料理で幸せを伝える為。
荘一郎はなりゆきと言っていたけれど、あのお菓子に対する情熱の深さは、神谷の志と同じに映る。
アスランは飢えた人たちに自分の料理を食べてもらいたいと言っていた。
ロールはロールで、自分の好きなものを他人にも好きになって欲しい、と精一杯努力している。
あたしは――あたしらしく、いられているかな。
「そうだよ、不安なのは誰でも一緒だからさ、どうしても辛い時は、みんなに頼ればいいと思う。その代わり、俺や他のみんなが困った時には、サキちゃんが助けて欲しいな」
その為に俺達はこうしてここに集まっているんだからね、と笑いながら、恐らくは自分用のケーキをくれるロール。
ああ、いい奴らだな、こいつら。
あたしが女の子だったら、間違いなくこの中の誰かに惚れてる自信がある。
女の子がどんな男を好きになるのかはわからないけれど、筆頭で神谷、次点で荘一郎、ロールはどっちかと言えば友達枠だし、大穴でアスランってところかな?
「みんな……ありがと……う……ん……っ、うぇ、ううぅ……!」
あたしは脇目も振らず、泣いた。
嬉しくて涙が止まらない。
いいんだ。
泣くのはこれで最後だから。
あたしにはあたしを認めてくれる仲間がこんなにもいる。
それがわかっただけで、あたしは何処までも進んでいける。
それに、嬉しすぎて流せる涙なんて、人生で数える程しかない筈だ。
だから、今のうちに思う存分堪能しておこう。
「サキ!!」
と、いきなりアスランが力強くドアを開け、お皿を片手に帰って来た。
「し、漆黒の闇に彩られし鉤龍の咎(訳:チョコクリームワッフル)……だ!」
息切れしながら山盛りのチョコワッフルをあたしの目の前に置くアスラン。焼きたてのところを見る限り、今作ったらしい。
もしかして、あたしの為に?
「我の所為ではないが、我が引き金となったようだしな、これで泣き止め!」
「アスランが洋菓子とは珍しい……お、美味い」
「ほんまですね、この短時間でこれ程とは」
「うわあ!凄いですアスランさん、これすっごく美味しいですよ!」
「それはサキのだ!お前らが食ってどうする!」
十人分はゆうにありそうなワッフルの山を、皆がひょいひょいと食べていく。
「……あはっ」
「……サキ?」
「あははっ、いいよ、アスラン……そんなに食べたらあたし、ぷくぷくってなっちゃうよ」
涙を拭いながら、思わず笑ってしまった。みんな、あたしに甘いものばっかり与えすぎだよ。
でもそれも、友情の証だと思えば嬉しい。
すごく、嬉しいんだ。
「そうだ。咲は笑った方が可愛いよ」
と、女殺しの笑顔を浮かべる神谷。
「さあ、遅れたが開店準備だ。咲、今日は悪いが欠番だ」
「え、あ、あたしも出る!」
「駄目だ。Cafe Paradeではそんなに眼を腫らしたメイドを使う訳には行かない」
「任せてよ、俺がサキちゃんの分まで頑張るからさ」
「なんだ、今日は巻緒が女装するのか?」
「しませんよ!」
「さ、行きますよアスランさん。先程は疑ってしまいほんまに申し訳ありませんでした」
「い、いや……わかればよいのだ」
弱音を言うのも、自分を責めるのも、今日で最後にしよう。
アスランのワッフルをかじる。
ロールのくれたケーキをひとくち。
荘一郎のシュークリームにかぶりつく。
神谷の淹れてくれたカフェラテで甘味まみれの喉を潤す。
出勤するみんなの後姿を見送りながら、控室に常備してある鏡を見た。
そこにいたのは――。
04
そしてあたしは今日もあたしのまま、日々を過ごす。
「あ、水嶋くん、またいる」
下校時刻も過ぎ、プロデューサーとLineで簡単な打ち合わせをしていたらまたこんな時間になってしまった。
鞄を持って帰ろうとした瞬間、また委員会でもあったのだろう、昨日と同じように委員長が教室にやって来た。
「委員長も今帰り?」
「うん、下駄箱まで一緒に行こうか」
こうやって学校で誰かと一緒に帰るというのもあたしには珍しいことだった。
今までは、逃げるように女の子のあたしになるために、誰かにばれないように、一人でいたから。
でも違うんだ。
あたしはあたしだ。
二人いる訳じゃない。
可愛いものが好き。
男だけど、女装が好き。
全部全部ひっくるめて水嶋咲なんだから。
他人から何と言われようと、水嶋咲は水嶋咲なんだ。
「あのね、ちょっと聞いて欲しいんだけど」
「?」
下駄箱へ向かう途中、珍しく神妙な面持ちの委員長を前に、思わず疑問符が浮かぶ。
委員長の事だから勉強を教えて、とかじゃないよね?
「その……良かったら、水嶋くんと友達になりたいな、って」
「へっ?」
「ううん、別に変な意味じゃないよ。女子のグループの中でも水嶋くん、すごい人気だし、友達になりたい子、いっぱいいるよ」
その変な意味、って方がわからないけれど。
「ほら、私見ての通りだから……お化粧の仕方とか、可愛い服の選び方とか、教えて欲しくて」
「うん、全然いいよ!委員長は元がいいから絶対可愛くなるよ。あたしがパピって可愛くしてあげる!」
心の持ち方ひとつで、こんなにも世界は変わる。
人それぞれ、なんて表現は陳腐かも知れないけれど、自分を騙して押さえつけるよりは百倍マシだ。
「水嶋さん、の方がいいのかな?」
「どっちでもいいよ!」
そう。どっちでもいい。
あたしはあたしらしく、あたしはあたしのやりたい事を、あたしのやりたい方法でやるだけなんだから。
鏡に映った女の子の姿をしたあたしが、等身大のあたしそのものなんだから。
自分の心の音に正直に。
あたしはあたしらしく、進んで行く。
水嶋咲「Heart note」 END
拙文失礼いたしました。
ようやくアスランと巻緒がSR化。
なんで咲ちゃんが最後なんや……。
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