両津「御坂美琴のクローンだと?」 (43)

中川「はい。ウチで研究を進めていたんですが、ようやく完成しそうなんです」

麗子「御坂美琴って、あの学園都市の超能力者よね。電気を自由自在に扱うっていう」

寺井「両さん、学園都市って何だい?」

両津「簡単に言うと、日暮みたいなヤツが山ほどいるところだ」

寺井「4年に1回しか起きない人達ばかりってこと?」

両津「そっちじゃない! 超能力の方に決まってるだろうが!」

中川「最先端の技術で能力開発を行う、技術の粋を集めた一大都市なんですよ」

麗子「サイコキネシスとかテレポートとか、他にも色々あるみたい」

寺井「へぇ~。現物第一の両さんがそんなものを信じるなんて意外だな」

両津「わしも日暮の力を身をもって味わっているからな……」

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寺井「クローンなんてSF小説の中だけだと思ってたよ。完成が楽しみだね」

中川「法律や世論の問題もありますので、まだまだこれからですよ」

麗子「そもそも作るのが大変そう。どうやって作るのかしら?」

中川「人体と同じ成分で素体を作って、元となる人間のDNAマップを埋め込むんだ」

寺井「工程は意外と単純なんだね」

両津「それだと人型にならんし心も持たん、ただの肉の塊だ。市販の牛肉と変わらんぞ」

中川「ですから、人体・人格を形成するZID02、RIZ13、HEL03などを投薬するんです」

両津「げっ! クローンなんて胡散臭いものにいくらかけてるんだ……」

中川「確かに研究費は相当ですが、1体あたりの単価は18万円くらいですよ」

両津「なに、18万円だと!?」

中川「え、えぇ……」

両津「そのクローンは何体おるんだ!?」

中川「今の計画では2万体を予定していますが」

両津「ほう……ねぇ、中川くぅ~ん」サササッ

中川「うわっ! 急に近付かないでください!」

両津「その話、わしにも一口かませなさい。安心しろ、こいつは必ず儲かる!」

中川「ええっ!?」

麗子「また両ちゃんの悪いクセが出たわね……」

数週間後――


中川「こちらがクローンの、妹達(シスターズ)ミサカ00001号です」

00001号「はじめまして、とミサカは初対面の方々に挨拶します」

両津「こいつは凄い!」

部長「我々も『御坂美琴』を資料で見たことはあるが、それと瓜二つだな……」

寺井「双子でもここまで似ないだろうね」

中川「先輩の麗子ドールも精巧でしたが、こちらは見た目が本人そのものですから」

両津「オリジナルの御坂美琴みたいに電気を自由に操れるんだよな?」

中川「本物ほどの出力はありませんが、それなりには使えますよ」

中川「00001号、能力をみんなに見せてあげるんだ」

00001号「了解しました、とミサカは軽くスタンガン並の電気を放出します」

ビリビリッ

部長「うおっ、手から電気が!? せ、静電気みたいなものか?」

両津「携帯も満足に使えん部長にはカルチャーショックがでかすぎたか……」

寺井「このクローン達の用途は何なんだい?」

中川「被災地や海外の僻地など、電力の及ばない場所に派遣させる予定です」

両津「ふふふ。わしならこいつをもっと面白く活用できる!」

中川「ほ、ほどほどにお願いしますね……」

00001号「顔色が優れませんが、とミサカは中川社長の体調に一抹の不安を覚えます」

麗子「いつものことなのよね、これも」

翌日から両津SV(スーパーバイザー)による、妹達の運用計画がスタートした!


両津「震災以降、電気料金が高騰し続けている! わしはこれに目を付けた!」

両津「妹達を各家庭に派遣し、電力会社とは別口で電力を供給させるのだ!」

社員A「電気の代替ですか。料金は、やはり既存の電気代と同じく月額制ですか?」

社員B「妹達の維持費として、食費や備品、クリーニング代も含まれますし……」

社員C「食費なんて1日500円で済ませても、月に15,000円もかかりますね」

社員D「利益を見込むと20,000円……いや、30,000円は欲しいところです」

両津「甘い! 妹達の料金は、月額1,000円だ!」

社員達「「おおおおぉぉ~~~~っ」」

社員A「しかし、それでは採算がとれませんが……」

両津「安心しろ、そこも考えてある。わしは儲からんことはやらん主義だからな」

『妹達派遣』は、月額1,000円という安さが話題を呼び、利用者が続出した。
特に電力供給のためとはいえ、女子中学生が毎日訪問するという点が男性に大受けした。

しかし両津の真の本当の狙いは、そのオマケの『オプション』サービスにあった!


00005号「本日の定例作業は完了しました、とミサカはお客様にご報告します」

男性「じゃ、じゃあそろそろオプションの……」

00005号「これより『30分お喋りタイム』を始めます、とミサカはモードを切替えます」

男性「やった! さ、3,000円だったよね。あと食事もちゃんと用意してあるからね!」


00020号「『掃除・洗濯』を5,000円で―」

00101号「『全身マッサージ』を7,000円で―」

04083号「『衣服1枚をランダムにプレゼント』を10,000円で―」

数ヶ月後――


両津「うわははは! 見ろ、今月も数千万の利益だ!」

00001号「おめでとうございます、とミサカは両津巡査長に賞賛の言葉を送ります」

中川「やはり先輩の商才は半端じゃない……」

寺井「どういう仕組みなんだろう。月額1,000円なんて大赤字になりそうだけど」

両津「妹達の食費・交通費の負担を条件に、オプションが追加できるというシステムだ」

両津「あいつらの経費が浮く上に、オプション料まで入ってくるというわけだ」

寺井「あ、あくどいな……」

両津「良心的だろ! 強制的に高額な電気料金を払わされるよりマシだろうが!」

中川「確かに、嫌ならノーオプションでいいわけですからね……」

麗子「オプション料があるとはいえ、よく月1回の利用でそんな利益が出るわね」

中川「最初は確かに月1回だったんだけど……」

両津「『金は払うからオプションだけ何回も利用したい』という声が多くてな」

麗子「今はそっちがメインになっちゃったの? 呆れた、もう電気の方がオマケね」

両津「オプションも1回の金額が安いから、ついリピータになってしまうのがミソだ」

00001号「月に10回以上申し込まれる男性もいます、とミサカは補足します」

寺井「じゅ、10回も!?」

中川「この分だと、18万円なんて半年以内で回収できますよ」

両津「妹達は初期費も維持費も安価だしな。はははは、笑いが止まらん!!」

中川「ただ、問題もありまして……」

中川「やはりマッサージは倫理的にまずいとの声が」

麗子「ひどいわね、こんな女の子にそんなことさせるなんて」

両津「本人達も嫌がってないんだからいいだろうが!」

00001号「任務ですのでお気遣いは不要です、とミサカは両津巡査長に同意します」

麗子「そういう問題じゃないのよ、ミサカちゃん」

両津「だいたい麗子も以前、出張マッサージをやってただろ! 人のことが言えるか!」

麗子「それはそうだけど……」

両津「いかがわしい店と一緒にするな! けしからん!」

寺井「マッサージはともかく、衣服のプレゼントは十分いかがわしいよ……」

寺井「衣服といえば、前に婦警の制服をフリマに出してたよね」

中川「後でこっぴどく怒られてましたけどね」

両津「今回もあの時と同じだ。女子中学生の制服、しかも生脱ぎだからな」

00001号「脱衣シーンを撮影される方もいます、とミサカは事実をありのまま報告します」

麗子「やだ、もう!」

両津「他にも、運良く下着が手に入ったのに、靴下が良かったと残念がる奴もいるらしい」

中川「趣味は人それぞれですから……」

両津「こうしてプレゼント目当ての大学生や中年が、太い客になっていくわけだ」

麗子「売る方も買う方もサイテーだわ……」

中川「また不思議なことに、この衣服を全種類揃えようとする男性がいるんですよ」

両津「日本の男には例外なくコレクター精神が宿っているからな」

両津「お菓子の『ビックリマンチョコ』や『プロ野球チップス』が典型的な例だ」

両津「当時、シールだけ集めてお菓子自体を捨てる行為が問題になったほどだ!」

中川「えっ? なんです、そのお菓子」

麗子「そんなの聞いたことがないわよ」

両津「まったく、これだから金持ち共は……」

中川「でも分かります。僕もフェラーリの新作が出たらつい買ってしまいますし」

両津「庶民の駄菓子と金持ちの道楽を同列に語るんじゃない!」

数週間後――


麗子「ごめんなさい、手伝ってもらっちゃって」

00001号「任務の一環ですので、とミサカは上司の部下をフォローします」

中川「そういう時は同僚と言うんだ、覚えておくといい」

両津「ミサカは話し方が変だが、慣れるとこれも味があるな」

部長「両津よりよく働くしな。お前はもう来なくていいぞ」

両津「は、ははは……またまた冗談きついんですから、部長は」

部長「本心だ」

00001号「…………!」ピクッ

麗子「あら、どうかしたの?」

00001号「新しい任務が与えられましたので失礼します、とミサカは迅速に報告します」

両津「なに、新しい任務だと?」

中川「おかしいな。今のところ僕と先輩以外に、命令できる人間はいないはずだけど」

部長「それより今、どうやって任務を受けたんだ? なにもしていなかったが」

中川「それはミサカネットワークと言って、脳内のデバイスから……」

両津「中川、旧石器時代の老人にどう説明しても無駄だぞ」

部長「ぐっ……」

麗子「圭ちゃん、研究所に問い合せてみたら?」

中川「そうだね。何かあったのかもしれない」

中川「……うーん。何度電話しても繋がらないな」

部長「よし。研究所の近くにいる警官に連絡して、現地に向かってもらおう」

両津「確か、纏と早矢があの辺を巡回してましたよ」

00001号「…………」スタスタ

麗子「あ、勝手に行っちゃダメよ!」

00001号「両津巡査長より優先度の高い命令ですので、とミサカは――」

部長「おい両津!」

両津「分かってますよ! わしが付いていってやればいいんでしょう」

寺井「面倒事なら一番頼りになるのは両さんだからね」

両津「くそ! 人を便利屋みたいに言いやがって!」

――
――――

両津「なんてこった、わしが撒かれただと!? なんであんなに裏路地に詳しいんだ」

両津「おかしなバイザーをつけてたから、もしかしてそれで位置情報を……」

ピピピッ

両津「お、纏から電話か。よう、なにか分かったのか?」

纏『この能天気! 研究員を問い詰めたらとんでもないことが分かったぞ!』

両津「相変わらず無茶しやがる……」

纏『あの子達、これからみんな殺されるんだ! わけのわからない実験とかで!』

両津「なんだと!?」

某所――


00001号「う……くっ……」

一方通行「ハンドガンが反射して自分に当たるたァ、なンとも無様じゃねェか」

00001号「…………」

一方通行「さーてと。色々ゴタゴタしてるみてェだが、計画は続いてるンだよな?」

00001号「ミサカを2万体殺す、という目標は変更なし……と、ミサカは回答します……」

一方通行「そうかよ。じゃあ遠慮なく」

キキーッ!

両津「あっ、いやがった!」

一方通行「……あン?」

00001号「何故、ここが……」

両津「聞き込みとチャリンコでな。下町育ちのわしの機動力をなめるなよ」

一方通行「おいオッサン。いいトコなンだから邪魔すンなっての」

両津「そうか、お前がアク……灰汁、いや出汁? セロリだったか?」

一方通行「……一方通行(アクセラレータ)だ、バカ」

両津「それだ! それと中川にも秘密で進めてた、レベル……なんとか計画?」

一方通行「絶対能力進化(レベル6シフト)計画な。本物のバカかよ」

両津「うるさい! だまれ! 部長みたいにわしをバカバカ言いおって!」

一方通行「事実だろうが、三下ァ」

両津「なんだと! もう許さん、お前みたいなクソガキは一発殴ってやる!」

一方通行「オイオイ、素手で殴る気かよ。俺はベクトル操作っつって」

ペチンッ

一方通行「いてっ…………あン?」

両津「うーむ、手応えはいまいちだが効くようだな」

一方通行「俺はあらゆるベクトルを反射できンだぞ。てめェ、何しやがった……」

両津「拳が当たる瞬間に拳を引けば、逆に効くかと思ったんだが」

一方通行「いやァ……そりゃそうだが、どういうレベルの演算と腕が必要かって」

両津「わしがそんなもん知るか!!」

ドギャッ

一方通行「ぶべらあッ!!」ドシャア

両津「おっ、今度はバッチリだ! だんだんコツが分かってきたな!」

一方通行「こ、コツでやれるもンじゃねェだろうが……!」

両津「もう一発!」バキャッ

一方通行「ぐぼッ」

両津「人間の命を何だと思ってやがる!」

ドゴッ メキッ グチャッ

一方通行「うぎゅ! げぼァッ!」

キキィッ!

麗子「いた! 両ちゃんよ!」

中川「い、一方的だ。マリアさんやボルボさんも呼ぼうかと思ってたんだけど」

纏「必要ないよ。あんなもやしっ子が勘吉の相手になるもんか」

中川「最先端の能力も先輩の前では無意味なのか……」

早矢「それより早く止めないと、ミサカさんより相手の子の命が……」

一方通行「…………」グッタリ

纏「勘吉、その辺でやめとけ! 死んじまうぞ!」

両津「ちっ。今日のところは勘弁してやるか」

麗子「まるでチンピラね……」

纏「らしくないじゃないか。あんな子供に、珍しくちょっと本気だっただろ」

両津「ハムスターの事件を思い出してしまってな、胸糞悪いぜ。おい、今日は飲みに行くぞ!」

中川「先輩、今回は完全にうちの不始末ですから。ぜひ僕に奢らせてください」

早矢「ミサカさんは大丈夫ですか?」

00001号「かすり傷ですので、とミサカは……」

中川「念のため救護ヘリを呼んでおきました。あと1分で着くそうです」

麗子「さすが圭ちゃん、手際がいいわね」

病院――


両津「なんとか計画ってのは、セロリがわしに負けたせいでオシャカになったらしいな」

00001号「計画が終わってしまっては、クローンのミサカが生きる意味は……」

両津「ばかやろう! クローンも人間と同じ生き物、同じ命だろうが!」

両津(大事な商売道具に死なれたら困る! なんとしても説得せんと……)

00001号「ですが……」

両津「ほ、ほら、ミミズもオケラもアメンボも生きてるって歌があるだろ」

00001号「存じ上げません、とミサカは首をかしげます」

両津「くそ、こんなところで世代間の差が出るとは……」

両津「とにかくだ。わしなどダニだゴキブリだと罵られても胸を張って生きているぞ」

00001号「それはただ単に図太いだけでは、とミサカは上司に毒を吐いてみます」

両津「うるさい! お前まで部長みたいなことを言うな!」

両津「だいたい、華の十代を死んで終わりにしようという精神が気に食わん!」

両津「わしなど、何度ガキの頃に戻りたいと思ったことか……」

00001号「厳密にはミサカは10歳未満ですが、と愚かな誤りを訂正します」

両津「いちいちツッコミを入れるな! ってお前、なに笑ってやがる!」

00001号「面白い人なので、とミサカは嘘偽りのない率直な感想を述べてみます」

両津「余計なお世話だ!」

両津の打算とはいえ、最終的に00001号は生きることを決意した。
しかし00001号が入院している間も、両津SVの計画は止まらなかった!


社員A「ここ数ヶ月の売上が落ちているみたいですね」

両津「実はオプションでぼったくられていることに客が気付き始めたな……」

両津「よし、それならいっそ1体300万円で売りさばく!」

社員B「ええっ!?」

両津「これなら一度買えば客はやりたい放題! わしらも単価18万円なら十分元がとれる!」

社員C「ま、まずいですって! 客に襲われたりしたら刑事事件になりますよ!」

両津「その為に、要注意の客の場合はこいつを定期的に訪問させる」

一方通行「どォもォ」

両津「妹達に償いをしたく、ぜひ手伝わせて欲しいとのことだ!」

一方通行「てめェが無理やり連れてきたンだろォが!」

両津「計画が終わって根無し草のセロリくん、生活費が欲しくはないのかね? ん?」

一方通行「三下がァ……チッ、血液逆流で弾けたトマトにしてやりゃいいンだろ?」

両津「そこまでせんでいい!」

社員D「しかし、300万円というのは……」

社員E「富裕層をターゲットにして、5,000万程度の価格にした方が良いのでは」

両津「それだと完売するか怪しい。金持ちはメイドやキャバクラで女には困っとらんからな」

両津「つまり、大学生やリーマンが手を出せる程度が丁度いいんだ」

社員F「なるほど。確かに借金すれば買えない額でもないな……」


これが大当たりし、2万体限定のミサカに予約が殺到! なんと倍率は1,000倍を超えた!

しかし後日マニア筋から、クローンはテロメアが短いため短命であることが漏れてしまい……

また倫理面の問題や風営法への抵触がマスコミに取り上げられたこともあって
あえなくボツ企画となり、両津の手元には2万体の妹達がそのまま残ってしまったのであった。

数日後――

麗子「おはよう、両ちゃん。ミサカちゃんは……あら、いないの?」

両津「あいつらは中川に返したよ。商売にならんのなら維持費がかかるだけムダだ」

御坂「ちょろっとー」

両津「うわっ! ちゃんと返したのに、なんでこんなとこにいやがる!」

御坂「え? 妹達が迷惑かけたみたいだからお詫びに……」

麗子「なによ、ミサカちゃん今日も来てるじゃない」

両津「おかしいぞ、今日からボランティアに行ってるはずなのに……」

御坂「ちょ、ちょっと。なんか誤解してない? 私は本物の」

両津「いいから帰れ! わしはもうお前らから手を引くことにしたんだ!」ダダダッ

御坂「あっ、逃げた! こら、待ちなさいよ!」

ドゴーン!!

麗子「きゃあ、コインを電撃で撃ち出したわ!」

両津「いてて……もうクローンはこりごりだ!」


おわり

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