男「いらっしゃいませー」 (62)
男「……今日も雨か」
ここはとある町にある、小さな料理店。
ひどく寂れたような店だが、料理の味はどれも素晴らしいものである。
働いているのは緊張感が無い店主、サボリたがりの青年、会計&ウエイトレスの女の子の三人。
ぽつりと存在する「飯屋 雨上がり」。今日も常連客は店主の料理を求め、扉を開ける。
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【今日のおすすめ ペペロンチーノ】
青年「ほんっとこの町は、雨ばっかっすねー。俺じめじめしてるの嫌いなんですよ」
男「まぁ仕方ないな。この町は雨の神様に守られてるらしいし」
女「テーブル拭き終わりました! もう開店しても良いんじゃないですか?」
男「お疲れさん、じゃあ開けますかー」
青年「あ、旦那。今日のおすすめは何っすか」
男「んー」
男「……ペペロンチーノって書いといて」
カランカラーン
女「いらっしゃいませー!」
老人「今日も雨ですな」
男「よう爺さん」
老人「やあ。今日のおすすめは……ペペロンチーノか。一つ頂きましょう」
女「ペペロンチーノ、一人前です!」
男「聞こえてるよ。青年、湯沸かしといて」
青年「えー」
男「はよ」
青年「分かったっすよ」
老人「ほっほっほ、いつも仲がよろしい事で」
男「こいつは忙しくならないと本気出さねーからな」
青年「まだ余裕じゃないっすかー」
男「はい、うちのルール言ってみろ」トントントントン
女「『出来るだけ早く、美味しい料理をお出しする』です!」
青年「……はーい」カチッ
男「全く……」ジュゥゥゥ
老人(おぉ、良い香りですな)
青年「湯オッケーっす」
男「おっしゃ」パラララ
男「上がったぞー」
女「はーい! お待たせしました、ペペロンチーノです!」
老人「素晴らしい香りですね……頂きましょう」
老人「うむ、相変わらずのお味で!」
老人(もちもちとしたスパゲティ、ニンニクの香りと唐辛子のピリッとくる辛さ)
老人(とろみのあるオイルが絡みついて、麺の旨みと甘みがじわじわと染み出てくる!)
老人「……ごちそう様でした。満足です」フキフキ
男「そりゃどうも。また来いよー」
青年「あざっした」ペコリ
女「ありがとうございましたっ! またお越し下さいませー!」
老人「ええ。また来させていただきますとも」
【今日のおすすめ 秋刀魚定食】
男「……よしっと」
青年「ありゃ、今日は何仕入れてきたんですか」
男「良い秋刀魚が安売りしてたからな。今日は秋刀魚定食だ、味噌汁とおひたしの用意すんぞ」
青年「うーっす……」
女「店長、ティッシュが切れてるんですけど、どこに予備ありますか?」
男「あ、これだな。よろしく」
女「はーい!」ニコー
男「お前もあれくらい楽しそうに働いてくれればなぁ……」
青年「聞こえないっすね」
男「ハァ……よし、開店だ!」
カランカラーン
女「いらっしゃいませー!」
旅人「……」
女「おひとり様ですね、席にご案内いたします!」
男(変わった服装だ、遠くから来たのかな)
旅人「……この、秋刀魚定食とやらを一つ」
女「秋刀魚定食一人前です!」
男「よっしゃ」
青年「眠てぇ……」カチャカチャ
男「おお、やっぱアタリだったな。すげぇ香りだ」ジュゥウゥゥ
青年「まかない期待してますねー」
男「こいつ……」ハァ
女「おまたせしましたっ! 秋刀魚定食です!」
旅人「……」スッ
旅人「……うまい」
男(そりゃな。今朝仕入れた特上の秋刀魚だ。さらに大根おろしとスダチ醤油を添えてある)
旅人「皮がパリパリ……身はホクホクで、ジューシーな脂を大根おろしが包み込んで……)
旅人「味噌汁とほうれん草のおひたしも……申し分ない味……」
旅人「……ごちそう様でした」カランカラーン
女「ありがとうございましたー!」
青年「旦那、今の人、どこかで見たような」
男「……んー、確かに……どこだっけ?」
青年「……あ! 確か、有名な詩人の人ですよ!」
男「ああー、思い出した! この前テレビに出てたな」
青年「驚かないんすか?」
男「どんな人だろうと客は客だ。さ、皿洗ってこい」
青年「……そうっすね」
【今日のおすすめ クリームシチューセット(パンはサービスでお付けします)】
男「やっとピーク終わったな」
青年「あー、疲れた……」ハァ
ザアァァァァァ……
女「……雨、強くなってきましたね」
青年「やった、もうこの雨なら客も来ないっすね」
男「はは、こやつめ」グッ
青年「おっと、暴力は良く無いっすよ」サッ
カランカラーン
女「いらっしゃいませー!」
巨漢「一名だ」
女「かしこまりました! 席へご案内します!」
青年「あの人、すげぇでかいっすね」
男「雰囲気が違う……ただ者じゃねぇな」
巨漢「クリームシチューセットを一つ」
女「はいっ! クリームシチューセット一人前でーす!」
男「あいよ!」
青年「旦那、分かってるっすね。木の器とスプーンとは」
男「クリームシチューは何か木の器がしっくり来るよな。何でだろ」
青年「パン焼けたっすよ」
男「よし、上がったぞー!」
女「おまたせしました、クリームシチューセットです!」
巨漢「いただきます」
巨漢「……ふむ、舌に染み入る優しい味だ……」
巨漢「カブはとろとろに煮えていて、鶏肉は柔らかく、ホウレン草も良い味を出している」
巨漢「こんな寒い日にぴったりの一品だな」
男「どうも、気に入ってくれて何よりです」
巨漢「故郷を思い出すよ」
男「お客さん、仕事は何をしておられるんですか?」
巨漢「敬語は止めてくれ……もう必要無い。私は元軍人だ」
男「!」
巨漢「主人は、家族は居るかい?」
男「居るが、……昔、勘当を受けてね。もうずっと会ってない」
巨漢「そうか……家族は良いものだ。いつか和解出来るといいな」
巨漢「旨かった。また食べに来る」スッ
男「……おう」
女「ありがとうございました! またお越しくださいませー!」
青年「旦那、あの人」
男「ああ、家族を亡くしたんだろうな……」
青年(……そーいや、旦那の昔話って聞いた事なかったな)
【今日のおすすめ ブッフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮込み)】
男「二人ともお疲れさん、もうちょっとで店閉めるから上がっていいぞ」
青年「よっしゃ!」
女「いえ、まだ頑張りますよ!」
男「そーかそーか、ありがとうな!!」チラ
青年「……分かったっすよ、最後まで働きますよ」
男「おう、残ってる皿洗っといてくれ」ニヤ
カランカラーン
女「いらっしゃいませー!」
令嬢「一名です」
女「はい、お席にご案内します!」
令嬢「ブッフ・ブルギニョンを一つ」
女「かしこまりました、ブッフ・ブルギニョン一人前です!」
男「はいよー」
男(うわ、最後の味がよく染みた一個を……羨ましい!)
男「上がった!」
女「お待たせいたしました、ブッフ・ブルギニョンです」コト
令嬢(……素晴らしい香り)
令嬢「いただきます」
男(育ちが良さそうな人だな)
令嬢「……絶品ですね」
令嬢(牛肉の煮込み加減が絶妙ですね、煮崩れないギリギリの火入れ)
令嬢(スプーンで簡単にほぐれて、とろとろのゼラチン質と赤身の旨み、デミグラスソースが混ざり合って……)
令嬢(付け合せのマッシュポテト、レモンを絞ってオーブンで焼いたアスパラも素晴らしい出来です)
令嬢(……私が求めていたのは、こんな味!)
令嬢「主人、まだお若いですが……私の所で働く気はありませんか?」スッ
男(……うわ、超金持ちの実業家の娘さんじゃねーか! お抱えの料理人になれって事だな)
女(店長、何て答えるんだろ……)
青年(旦那……)
男「お断りします」
令嬢「……理由を聞いても良いかしら?」
男「俺は、この小さな店で、自分の信念に基づいて、お客様のために料理を作っています」
男「ずっと誰か一人のためだけに作るのは、俺の料理じゃないんです」
令嬢「そうですか……」
令嬢「……すごく美味しかったです、無理を言って失礼しました」
令嬢「また、来させていただきますね?」ニコ
男「ええ、待ってますよ」
カランカラーン
青年「……さっきの旦那、すげぇかっこよかったっすよ」
男「別に……、ほら、さっさと皿片づけろ!」
【今日のおすすめ カレーライス】
男「洗い物終わったか?」
青年「やったっすよ」
男「もう閉店の時間だし、お前は戻ってていいぞ。女はまだ頑張ってくれ」
女「はいっ!」
青年「お疲れ様っす、まかない楽しみにしてるっすよ」
男「腹減ったなぁ……」
カラン……
女「いらっしゃいませ!」
サラリーマン「……一人です」
女「かしこまりました、お席にご案内しますね。あ、暖かいタオルです、寒かったでしょ?」
サラリーマン「どうも……」
男(さすが女だな。沈んでいる客に対しては落ち着いた雰囲気で接し、細かい気配りが出来る)
サラリーマン「カレーライス一つ……」
女「はい。カレーライス一人前です」
男「了解」
男(俺のカレーライスは、レストランのような気取った感じではない)
男(ごろごろしたじゃがいも、大きく切った人参、玉ねぎ。いわゆる家庭的なカレーに近づけようとしている)
男「よろしく」スッ
女「お待たせいたしました、カレーライスです」
サラリーマン「……いただきます」
サラリーマン「……!!」
ポロ……ポロ……
男(おいおい、泣き出したぞ!)
サラリーマン「みっともない所を見せてすみません、ですが、この味……まるであいつのような……」
サラリーマン「実は、私リストラをくらいましてね……惨めなもんですよ。ずっと家族のために働いてきて」
サラリーマン「でも、家族からは良い父親と思われては居なかったんですね」
サラリーマン「告白した三日後、離婚する事になりましたよ……はは」
サラリーマン「何の為に今まで生きて来たんだろうなぁ……」
女「……貴方の心中、私に全てが分かる訳では無いですが」
女「貴方は今まで家族のために一所懸命働いてきた――それだけでも、立派な事だと思いますよ」
女「しばらく休んで、落ち着いたら……今度は自分のために生きてはいかがですか?」
サラリーマン「……うん、うん……!!」
サラリーマン「ありがとう、ございます……!!」
サラリーマン「うまい、うまい……!!」ガツガツ
男(……良かった)
サラリーマン「ごちそう様でした……何か、話を聞いてもらえてすっきりしました」
女「それは良かったです、またのご来店、お待ちしておりますね♪」
サラリーマン「ええ、ありがとう……」
カランカラーン
【今日は定休日です】
男「どうも」
師匠「おう、お前さんか」
男「とりあえずギョーザ、半炒飯とつけ麺1,5玉で」
師匠「あいよ」
……♪……♪
男(やっぱ居心地が良い店内だな。俺もこんな店にしたい)
男(流れてる音楽が絶妙なんだよなぁ)
師匠「先にギョーザと半炒飯だ」
男「お、きたきた。いただきまーす!」
カリッ ジュワッ!!
男「うめぇ!! やっぱ師匠の餃子は最高だな!!」
師匠「何を言うか、出している品全てが最高じゃ」
男「それもそうか」ハハ
男「うーん! 炒飯も米の甘みと刻んだチャーシューのコクがたまらんな!」
男(そう、師匠は食材のうまさの引き出し方が絶妙なんだよな……まだ越えれねえか)
師匠「上がったぞ、ほいつけ麺。お待ちどうさん」
男「おお……」ゴクリ
男「~!! 病み付きになる味だな!」
男(太麺自体にもしっかりとした甘みがあって、それが超濃厚な魚介系スープとばっちり合ってる!)ズルッ
男(師匠のスープは濃厚なのにすっきりとした後味が残るんだよなぁ……隠し味が分からん)
男「……うまかった! ごちそう様!!」
師匠「相変わらず、気持ち良い喰いっぷりじゃのう」ニコニコ
男「やっぱ師匠の料理はすげーな」
師匠「フッフッフ……男よ、お前の店はどうじゃ?」
男「いつも通りかな、女はよく働いてくれるし、青年はやる気に欠けるけど……まぁ良い仕事してるし」
師匠「そうか……男、今でも家族に会いたくないか?」
男「……実は、この前元軍人のゴツい人が来てさ」
男「やっぱり、家族は良いものだな……とは思った」
師匠「そうか……その心を忘れていないのなら、いつか和解出来よう」
男「そうだな……」
師匠「……一杯いくか」
男「……おう」
男「ごちそうさん、昼からはのんびりその辺を散歩するわ」
師匠「うむ。じゃあの」
男「じゃ……ありがとうな」
パタン
師匠「……元軍人……あいつの事かの? まぁ、何にせよ良い影響を受けたのならそれでいい」
師匠「しっかり自分の道を歩め、男」
【今日のおすすめ イカの刺身】
青年「旦那、今日のおすすめは何っすか」
男「いか焼き。良いイカ仕入れて来たからな」
青年「うーっす」
女「お茶入れましたよー」
男「お、サンキュ」
青年「開店までまだ時間あるっすね、テレビ付けますね」ポチッ
「う~ん、このイカの塩辛で酒が進みますね!」
「昼間から飲んでいいんですかー?」
「はっはっは、大丈夫ですよ!!」ゴクゴク
青年「うわ、うまそうだなぁ」
男「……」プルプル
「酒がうまい!」プハー
男「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
女「!?」
男「青年!!」
青年「は、はい!」
男「おすすめ変更だ!! イカ焼きに書き直せ!!」
青年「はぁ!? もうちょっとで開店っすよ!?」
男「細かい事は良いんだよ! 俺の細胞全てがイカを焼けと命令している!」
青年(うわ面倒くせ、旦那にスイッチが入っちまったよ)
男「行くぜえええぇぇえぇぇえ!!」トントントントン
【今日のおすすめ イカ焼き】
酒豪「どうも~」カランカラーン
女「いらっしゃいませー!」
酒豪「やぁ女さん。今日も元気だね。さっそくだけど冷奴と枝豆、後は酒と……おすすめのイカ焼きで」
女「はい! 店長、冷奴・枝豆・イカ焼き・お酒です!」
男「おう! やるぞ青年!」
青年「はーい……」(旦那がスイッチ入ってる時はサボれねぇんだよなぁ)
女「お待たせしましたー!」
酒豪「お、きたきた。いただきます」トットットッ
酒豪「……かーっ!! 最高だねぇ!」
男(うまそうに呑んでんじゃねえよ……生き地獄じゃねえか)
酒豪「お、このイカ焼きは……ワタのタレかな?」スッ
酒豪(おお、コリコリのイカとまったりしたワタの旨み、それに大量のネギが生臭みを消している!)
男(ワタを絞って醤油・生姜・酒・レモン汁で煮切ったタレだ。合わんはずがないだろう)
酒豪「酒が進むねぇ!! もう一本追加で!」プハー
女「はーい!」
青年「……旦那、酒に合う料理にしたのは失敗っすね」ニヤ
男「くっそぉ……俺だって呑みてえよ……!!」プルプル
青年「……何で?」チラ
男「開店前だっつーのに、この行列……何かあったのか?」
女「店長! こっそり盗み聞きしてきました!」
男「でかした! で、何だって?」
女「以前ご来店された、令嬢様がこの店の事を褒めていたそうです!」ビシッ
男「ああ……なるほど……」
青年「うわぁ……」ゲンナリ
男「やる気だせ、そろそろ店開けるぞ!」
【今日のおすすめ コロッケ定食】
ワイワイ ガヤガヤ
青年「ウオラアァァァァァ!!」トントン ジュウウゥゥゥ カチャチャッ
男「コロ定上がり! もつ煮込みとペスカトーレも置いとくぞ!!」コト
女「はい!」
青年「旦那ァ! 次は何っすか!」
男「刺身とブリ大根、鶏もも肉のペッパーソテー二人前だ!」
青年「うっす!!」
男(厨房は地獄とはよく言ったもんだぜ!!)
カランカラーン
巨漢「やぁ」
男「お、いらっしゃい!」
巨漢「すごい賑わいだな……あれ、今日はクリームシチューは無いのか」
モブ「兄ちゃん、ここの店は主人の気分によってメニューが変わるんだよ」
モブ2「そうそう、全部が日替わりメニューみたいなもんだな!」
巨漢「なるほどな……コロッケ定食を一つ」
男「あいよ!」
「チッおっせーな姉ちゃん! まだ出来ねえの!?」
女「申し訳ございません、もう少しお待ちを」ペコリ
チャラ男「ず~っと待ってんだよこっちは! トロすぎんだろ!!」
チャラ男「だいたいよ、すっげぇうめえって聞いたけどさ、この働きじゃどうせ味も――」
巨漢「……少し、良いか?」ヌウッ
チャラ男「な、何だよ……」
巨漢「……大声を上げるのは賢い選択とは言えないな……戦場じゃ真っ先に死ぬぞ?」ギロ
チャラ男「ひっ!」
巨漢「……もう少し待っても良いんじゃないか」
女「お待たせしました、コロッケ定食です!」スッ
巨漢「来たか、食ってみろ」
チャラ男(……じゃがいもの旨みとサクサクの衣、プチッとした肉のコク! 何だこのコロッケ……うめぇ!!)
チャラ男「……偉そうに怒鳴って、すいませんでした。失礼します」ペコ
男(……巨漢さん、ありがとな)ボソボソ
巨漢「――なに、構わんよ」フッ
【今日のおすすめ 豆乳鍋(小鍋立て)】
ザアァアアァァァ……
青年「寒い……今日は一段と冷たい風が吹いてるっすね」
カランカラーン
酒豪「う~寒い寒い……さっそくだけど豆乳鍋一つ、後は枝豆と酒、後ご飯も欲しいな」
女「かしこまりました!」
青年「旦那、何で小鍋立てにしたんすか……手間増えますよ?」
男「まぁ今日限定のつもりだし。それに風情があるだろ?」
青年「まぁそうっすけど」
男「よし、上がったぞー」
酒豪「おお、良いね……すごく良い香りだ」
女「お待たせしました! お好みで柚子胡椒をどうぞ!」コトッ
酒豪「いただこうか」スッ
ゴクッ
酒豪「おお……」
酒豪(素晴らしいスープだ、鶏の白湯出汁とまろやかな豆乳がマッチし、何杯でも飲めそうな深い味わいに……)
酒豪(味が良く染みた白菜、じゅわっと出汁が広がる油揚げ、そして豆腐)
酒豪(この豆腐に柚子胡椒を少し乗せて、それをご飯の上に)
酒豪「……うん、うまい!」
酒豪(今度は何も付けないで、ご飯と豆腐を頬張って)
酒豪(――豆乳スープを流し込む!)ゴクゴクッ
酒豪「あ~……!! たまらん!」
青年「うまそうに喰うなぁ……今日のまかない、俺も豆乳鍋で」
男「余ってたらな」
酒豪「酒が進むっ!」プハー
酒豪「心を温めてくれるような味だね! うまかった!」
男「どーも」
酒豪「……酒、うまかったなぁ」ボソ
男「て、てめぇ……わざとだろ!!」プルプル
酒豪「はっはっは、じゃ、失礼するよ。また来るね」カランカラーン
女「ありがとうございましたー!」
青年「あの人、うまそうに喰うんだけど」
男「見せられるこっちはたまらんよな」ゲンナリ
女「ほらほら店長、まだまだ営業中ですよー! 頑張っていきましょー!」
男「はーい……」ゲンナリ
青年「人の事言えないんじゃないんすか?」
男「何か言ったか?」
青年「別に何も?」
【今日のおすすめ ししゃもの天ぷら】
女「いらっしゃいませー!」
令嬢「こんにちは」ニコ
青年「げっ……」
男「何を呻いてんだ、いらっしゃい」
令嬢「ごめんなさい、勝手に紹介してしまいました」
男「いえいえ、おかげで大繁盛でしたよ」
青年「その分俺も働かされたっすけどね」
男「こら、無駄口叩いてないで働け」
青年「うーっす……」
令嬢「ふふ、じゃあ……ししゃもの天ぷらと親子丼をお願いしますね」
女「かしこまりました!」
青年「ああ……働きたくねえ……それにしても良いししゃもっすね」ジュワアァァァ
男「ふっくらしてるだろ? 間違いなくアタリだな」グツグツ
青年(つーか、これ食べさせたらまた客押し寄せてくるんじゃね?)
青年「うわあぁぁぁぁ……」
男「何一人で絶望してんだ……うっし、上がり!」
女「お待たせしました、ししゃもの天ぷらと親子丼です! ししゃもは天つゆでお召し上がりください!」
令嬢「はい、ではいただきます」サクッ
令嬢「!」
令嬢(普通の焼きししゃもと全然違いますね、普通はプチプチした歯ごたえなのに、これはとろっと溶けて)
令嬢(そのししゃもの卵のコクと、天つゆが絶妙なハーモニーを奏でています!)
令嬢(外のカリッとした衣、中のとろりとした卵。食べていて楽しい一品ですね)
青年「すげえ綺麗な食べ方してますね」ボソボソ
男「育ちが出てるよな」ボソボソ
令嬢(こちらの親子丼も、味がよく染みた玉ねぎ、ぷりぷりの鶏肉、三つ葉が素晴らしい味を作り上げています)
令嬢(卵はふわとろ、と言うものでしょうか。これも出汁をよく吸っていて絶品です)
令嬢(冷えた身体を温めてくれます)フゥ
令嬢「相変わらず見事な味ですね」
男「どうも」
令嬢「では」スッ
女「はい、では650円のお釣りになります!」チャリン
令嬢「ごちそう様でした。お腹いっぱいです」ニコニコ
男「人間、腹が満たされてたら戦争なんて起きないでしょうね」
令嬢「ええ、そうですね……それでは失礼します」
男「ええ、また来てください」
女「ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!」
青年「あざっしたー」
令嬢(……)
【本日は閉店しました】
青年「やーっと終わったっすね……」
男「まかない作っとくから、早く皿洗っとけよー」
青年「うっす」
女(店長! もう出来たんですか!)
男(もうちょい休ませてからだな。そっちは?)
女(だいたい仕上がりました!)
青年「終わったっす……あれ、電気付けてないんすか?」
女「青年くん!!」
パッ
青年「!?」
青年「ど、どうしたんだ、このご馳走……」
女「はい、今日は何の日でしょうか?」
青年「? ……あっ、俺の誕生日……」
女「そうだよー! はい、プレゼント!」
青年「おもっ! これ、包丁……?」
女「うん、全部同じ包丁で作業してるから、柳刃包丁もあった方が良いかなって」
青年「あ、ありがとう……大切にする」
青年「うわあ、すげえ良い匂いする……誰が作ったんだ?」
女「ほとんど私だよ? 店長は……」
男「おう、とりあえず席に付け」
青年「こ、この香りは……」
男「飯屋「雨上がり」渾身の一品…… ロ ー ス ト ビ ー フ だあぁぁ!!」
女「わあー、すごい香りですね!」
男「肉汁・醤油・赤ワイン・おろし玉ねぎで作ったグレイビーソースを添えてある! さぁいただこうか!」
青年「い、いただきます……?」スッ
青年「――!!」
青年(しっとりとした肉をかみしめるごとに、赤身の旨みと脂じゃない本来の肉汁が溢れて!)
青年(それにグレイビーソースのコクが添えられて、さらに強烈な肉の旨みが!!)
青年「うっめえええぇぇ!!」
男「そうだろうそうだろう、お、女のドリアもうまいな」
女「また腕を上げたでしょ?」フフン
青年「……なんか、ほんとにありがとうございます。旦那に拾われてこの店に入って、俺……」
男「あ、何かしんみりしてるけどまだプレゼント渡してないよね?」
青年「え? このローストビーフじゃ……?」
男「ほら、予定表……そしてこいつだ」スチャッ
青年(クリスマスの日、俺と女さんが休み、で……)
男「遊園地のチケットだ!! 二人で行って来い」ニヤ
青年「え、ちょっ、店どうするんすか!!」
男「細かい事は良いんだよ! ほら、まだまだ飯はあるぜ! とりあえず食べようじゃないか!」
【今日のおすすめ お茶漬け】
老人「こんばんは」カランカラーン
女「いらっしゃいませ! 暖かいタオルです、どうぞ」
老人「やぁ、これはありがたい。カウンターに座らせていただきますよ」
老人「今日は……お茶漬けですか。ではこれで」
女「お茶と出汁、どちらになさいますか?」
老人「ふむ……お茶で」
女「かしこまりましたー!」
青年(何か今日の老人さん、疲れてるみたいっすね)
男(そうだな……)
老人「いやはや、情けない事に最近仕事が上手く行ってないものでして」
男「まじか」
老人「まさかあの会社の株が大暴落するとは……おかげで最近疲れが溜まっていて」
男「そりゃ大変だな。ちゃんとしたもん食べないと」スッ
老人「ほう、これは三つ葉と醤油に漬けた鯛ですかな? いただきます」
老人(! 醤油、それに柚子の果汁を混ぜたものに漬けていたのか!)
老人(清々しい柚子の香りが鼻を突きぬけ、鯛の風味がさらに良くなっている!)
老人(それに、茶にも刻んだ柚子の皮が忍ばされていて、清涼感溢れる素晴らしい味わいだ! 三つ葉が良い仕事をしている!)
老人「美味しいですね、心がすっとします」
男「どーよ? 出汁茶漬けもうまいぞ、鶏ガラを主体にじっくり丁寧に作ったスープ、それにもやしを添えてな」
老人「」ゴクリ
老人「……負けました。いただきましょう!」
男「あいよ!」
老人「今日はご馳走様でした。久しぶりにちゃんと食べれた気がします」
男「そりゃ良かった。あんまり自分の身体酷使すんのも良く無いぞ?」
老人「ええ、肝に銘じておきますとも。では」
男「おう、またなー」
女「ありがとうございました! またお越しくださいませ!」
カランカラーン
ー数日後ー
青年「!?」ブホッ
男「うおっ、どうしたんだよ」
青年「だ、旦那……これ」スッ
【〇〇企業、新しい計画が大成功。起死回生の勢いで成長中!】
【今最も勢いのあるのは〇〇企業か】
男「老人さんの会社じゃねーか!」
青年「すっげぇ稼いでるらしいっすね、今」
男「やっぱただ者じゃねーな、あの人も……」
なにこの店行きたい、支援
>>1もよく料理したりするん?
>>21割とする方ですね。
【今日のおすすめ おひたし】
男「……」
青年「旦那、大丈夫っすか? 顔色やばいっすよ」
男「どうも体調が悪くてな……」
青年「もう閉店だし、先に休んでて下さい」
男「すまんな」フラフラ
女「大丈夫かな?」
青年「あの人、けっこう無茶するからなぁ」
カランカラーン
師匠「……男は居ないのか」
青年「師匠さん! 珍しいっすね、こんな夜に」
師匠「おかげさまで自転車が濡れてしまうわい、まったく」
女「お久しぶりです、何になさいますか?」スッ
師匠「今日は話に来ただけなんじゃが……せっかくだし、酒とおひたしを頂こうか」フキフキ
青年「うっす、どうぞ」コト
師匠「ほう、早いな……どれ」
師匠(これは……普通のポン酢ではない!)
師匠「ふむ、いい味じゃ」
青年「上等なポン酢を貰ったらしいっす」
師匠「うむ。刺々しい辛さはまったく無く、まろやかな酸味と柚子の香りが素晴らしいの」
師匠(それにもやし、ほうれん草、わかめの歯ごたえ。非常にさっぱりとした一品じゃな)
青年「……今日はどんな用があったんすか?」
師匠「男の姉が、最近かなり力を入れて探し回っているそうだ」
女「?」
師匠「せっかくだから話しておこう。そこの女さんはほとんど知らんじゃろうし」
女「ぜひお願いします!」
師匠「男はかの名店、「花鳥亭」の跡取りじゃ」
女「花鳥亭って……あの高級料理の!?」
師匠「うむ。じゃが、あいつの信念と花鳥亭の料理は合わなかったようでの……」
師匠「ある日大喧嘩し、両親に勘当されて家を飛び出したそうじゃ」
女(だから、普段は適当なのに、料理に関してだけはあんなに真剣に……)
師匠「あいつの姉は弟思いでの。居なくなった男の事をずっと探していたそうじゃ」
青年「えっ、つまり此処がバレたら」
師匠「まぁ確実に「花鳥亭」へ連れ戻されるじゃろうな」
青年「」
師匠「それを警告しにきたんじゃが……伝えておいてくれんか」
女「はい……」
師匠「……そんな顔をするな。男も昔と違う。そう簡単に事が運ぶまいて」
青年「そうっすね……」
師匠「儂はそろそろ失礼する。じゃあの」カランカラーン
【今日のおすすめ アンキモ(数量限定です)】
男「……」
青年(最近の旦那、ずっと考え事してんな)ボソボソ
女(やっぱり伝えない方が良かったのかな?)ボソボソ
青年(どうかな、教えないよりはましだと思うけど)
カランカラーン
巨漢「やぁ。カウンターに座らせてほしい」
女「いらっしゃいませ!」
男「お、巨漢さんか。いらっしゃい」
巨漢「ふむ、アンキモ、カキフライ、カレーうどん、ご飯を頂こう」
女「かしこまりました! 少しお待ちくださいませ!」
青年「……旦那? 注文入ってるっすよ?」
男「! 悪い、何だったっけ?」
青年「カレーうどん、カキフライ、アンキモ、それにご飯っす」
男「了解、すぐ作る」サッ
巨漢(……)
男「……おっけ、あがった!」
女「お待たせしました、カレーうどん、アンキモ、カキフライ、カレーうどん、ご飯です!」
巨漢「お、来た来た。いただきます」カリッ
巨漢「うむ、うまい!」
巨漢(カキフライはカリカリの衣に歯を立てると、旨みたっぷりの汁がじゅわっと飛び出してくる)
巨漢(少し苦みがあるまったりした肝。あえてソースを出さないと言う事は、素材に自信があるのだろう)
巨漢(カレーうどんにはポーチドエッグ・刻んだチーズ・黒胡椒を振ったベーコンがトッピングされている)ズルルッ
巨漢(カレー自体はかなり鋭い辛さだ。それがトッピングによって丁度良いまろやかさになる)モグモグ
巨漢(ベーコンがかなり合うな。カレー自体にも深い動物系のコクが出ている。牛骨を煮込んだものか?)
青年(すげえ喰いっぷりだなぁ)ジー
巨漢(そして、美しく盛られたこのアンキモ。乗っているのはジュレにしたポン酢か)スッ
巨漢「おお、このアンキモは素晴らしいな!」
男「だろ? じっくり寝かせてから丁寧に仕込んだアンキモだ。コクが段違いだぜ?」
巨漢(口に入れた瞬間とろりと溶け、舌をとろかすような濃厚な旨みが広がっていく!!)
巨漢「飯が進むな!!」ガツガツ
巨漢「……ふう、うまかった。店主」
男「?」
巨漢「師匠の奴から話を聞いた。自分の信じる道を突っ走れ」グッ
男「……! おう!」コツン
青年「知り合いだったんすね」
巨漢「奴とは若い頃、毎日のように戦ったものだ」
青年「えっ」
巨漢「では、失礼する」カランカラーン
青年(師匠さんって何者なんだ……)
【今日のおすすめ アンキモ(数量限定です)】
男「……」
青年(最近の旦那、ずっと考え事してんな)ボソボソ
女(やっぱり伝えない方が良かったのかな?)ボソボソ
青年(どうかな、教えないよりはましだと思うけど)
カランカラーン
巨漢「やぁ。カウンターに座らせてほしい」
女「いらっしゃいませ!」
男「お、巨漢さんか。いらっしゃい」
巨漢「ふむ、アンキモ、カキフライ、カレーうどん、ご飯を頂こう」
女「かしこまりました! 少しお待ちくださいませ!」
青年「……旦那? 注文入ってるっすよ?」
男「! 悪い、何だったっけ?」
青年「カレーうどん、カキフライ、アンキモ、それにご飯っす」
男「了解、すぐ作る」サッ
巨漢(……)
男「……おっけ、あがった!」
女「お待たせしました、カレーうどん、アンキモ、カキフライ、ご飯です!」
巨漢「お、来た来た。いただきます」カリッ
巨漢「うむ、うまい!」
巨漢(カキフライはカリカリの衣に歯を立てると、旨みたっぷりの汁がじゅわっと飛び出してくる)
巨漢(少し苦みがあるまったりした肝。あえてソースを出さないと言う事は、素材に自信があるのだろう)
巨漢(カレーうどんにはポーチドエッグ・刻んだチーズ・黒胡椒を振ったベーコンがトッピングされている)ズルルッ
巨漢(カレー自体はかなり鋭い辛さだ。それがトッピングによって丁度良いまろやかさになる)モグモグ
巨漢(ベーコンがかなり合うな。カレー自体にも深い動物系のコクが出ている。牛骨を煮込んだものか?)
青年(すげえ喰いっぷりだなぁ)ジー
巨漢(そして、美しく盛られたこのアンキモ。乗っているのはジュレにしたポン酢か)スッ
巨漢「おお、このアンキモは素晴らしいな!」
男「だろ? じっくり寝かせてから丁寧に仕込んだアンキモだ。コクが段違いだぜ?」
巨漢(口に入れた瞬間とろりと溶け、舌をとろかすような濃厚な旨みが広がっていく!!)
巨漢「飯が進むな!!」ガツガツ
巨漢「……ふう、うまかった。店主」
男「?」
巨漢「師匠の奴から話を聞いた。自分の信じる道を突っ走れ」グッ
男「……! おう!」コツン
青年「知り合いだったんすね」
巨漢「奴とは若い頃、毎日のように戦ったものだ」
青年「えっ」
巨漢「では、失礼する」カランカラーン
青年(師匠さんって何者なんだ……)
カレーうどんが重複してましたorz
「ええ、ですが……なるほど、経歴は……はい」
「……どうだった?」
「やはり、お嬢様の考えていた事で当たりのようですね。彼は「花鳥亭」出身だそうで」
「ですが、高校を卒業してから、約7年間経歴が不明です。どこかで修業でもしていたのでしょうかね」
「そう……ありがとう」
「やけに店の場所を聞いてきました。一応隠しておきましたが……」
「ええ、それが良いわ」
「……私達、まずい事をしてしまいましたかね?」
「……」
【今日のおすすめ 】
女(今日は雨が降ってないけど、空が真っ暗な雲で覆われてる……何だか不安になるな)
青年「旦那、今日のおすすめは何っすか」カランカラーン
男「おう、今日はとんじ……る……」
「……」
青年(綺麗な人だけど……なんか、すげえ厳しそうな……もしかして、この人が)
「男」
男「……姉貴」
姉「久しぶりですね、少し背が伸びましたか?」
女「!?」
男「そんな事言いに来た訳でもないだろう、何しに来たんだ?」
姉「男、「花鳥亭」に戻りなさい」
男「嫌だね」
姉「何故?」
男「最高の素材を使って、最高の腕で作る料理……それは、料理人としては本望だろう」
男「でも、普通の人が食べれない――ほんの一部の金持ちだけが食べれる料理」
男「その料理は間違った道じゃないだろうな。でも、俺はそんなの嫌なんだ」
男「この小さな店で、出来るだけ材料を安く仕入れて、貧富関係なく、たくさんの人に食べてもらいたいんだ」
男「それこそが、俺の作る料理なんだ」
青年「旦那……」
姉「……言いたい事は分かりました。随分と成長したようですね」
女「!」
姉「しっかりした考えも持っているようですし、貴方の独立を認めましょう――ですが」
姉「家で教えられた料理を、ちゃんと作れているか、それを確認させてもらいます」
男「!」
姉「三日後、また来ます……その時に、「蛸と大根の炊き合わせ」を出してもらいます」
姉「納得できない仕上がりなら、問答無用で連れ帰るつもりです。では……」カランカラーン
男「……」
青年「……旦那、大丈夫っすか」
男「……心配すんな。大丈夫だよ」ニカッ
男「……」
青年「旦那、もう来てたんすか」
男「お前こそ、いつもより早いじゃないか」
青年「俺だけじゃないっすよ」スウゥゥ
青年「わーっ!!」
女「ひう!?」ビクゥ
男「何で隠れてんだよ……」
女「な、なんか緊張してきちゃって……」
男「別に、いつも通りにすれば良い。何も特別な事をする必要は無い」
男「……いつも通りの味で認めてもらわないと、意味が無い」
女「!」
青年「そーゆー事。分かったらいつもの元気を出してくれ」
女「……うん、そうだね!!」
女「よーっし、今日も頑張りますよーっ!!」オー
男「よっしゃー」
青年「っし、取り掛かりますか」
男「……いずれ、この蛸と大根の炊き合わせはお前に継がせる予定だ」
青年「え!?」
男「まず、ぶつ切りにした蛸の滑りを塩で取る」
男「そして、大根で蛸を叩く。これがポイントだ」ペチペチ
青年「え、そんな」
男「別に今すぐ覚えろって訳じゃない。やり方だけ見てな」
男「鍋に大根、水、生姜を入れて沸騰させる」
男「沸騰したら出汁・醤油・酒を足して、落し蓋をしてじっくり煮込む」
男「これだけ」
青年「……なるほど」
男「さーて、他の料理の準備もすんぞ!」
青年「うっす」
ザアアアアァァァァアアァァ……
女(ひどい雨……大丈夫かな)
令嬢「失礼します」カランカラーン
男「うおっ、びっくりした」
令嬢「今日はお詫びをしにきました。おそらく私のせいで、何か面倒事が起きましたよね?」
男「あー、まー起きたっちゃ起きたけど……全然大丈夫ですよ。むしろ機会を頂いて感謝したいです」
令嬢「いえ、それでも私の気がすみません。何かお手伝い出来るような事はありませんか?」
男「これからもこの店を贔屓にしていただければ、それだけで十分ですよ」
令嬢「……ありがとうございます、こんな身勝手な私を」
男「――!!」バッ
コツ コツ コツ
カランカラーン……
【今日のおすすめ 蛸と大根の炊き合わせ】
【今日のおすすめ 蛸と大根の炊き合わせ】
何故かずれてました……汗
姉「……」
青年(来た!!)
女(……怖い……でも!)
女「いらっしゃいませ! 暖かいおしぼりです、どうぞ。お席にご案内します!」
女(カウンターの方が良いよね?)
姉「……ええ、お願いします」
令嬢(「花鳥亭」の若女将……この人ね)
男「……何、食うよ」
姉「? 先日、蛸と大根の炊き合わせを言ったはずですが」
男「それだけ食って帰るつもりか? 「俺の料理」も食べてもらわないと」
姉「ええ、いただきますよ――うちの料理を極めている、と納得したらね」ニコ
男「……へえ、そうかい」ビリビリ
青年(笑顔なのに、なんつー威圧感……怖え)
男「……」カチャカチャ
女「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」
令嬢「へっ!? そ、それでは私も同じものを」アセアセ
女「かしこまりましたー!」
男「……」スッ
青年「おお、良い匂いっすね」
男「よし、盛り付けだ。二人前な」
青年「うっす」
男「……どうぞ」コト
姉「……」
女「お待たせしました、蛸と大根の炊き合わせになります」
令嬢「ええ、ありがとう」
姉「見栄えは完璧……ですね。では」スッ
女(……)
青年(……)
姉「……」
男「……」
姉「煮込み加減は文句なし。味付けもよろしい」
姉「蛸の柔らかさ、大根の味の染み具合。あの頃とは大違いですね」
令嬢(わぁ、美味しい……蛸は全く抵抗無く、歯でかみ切れるほど柔らかい)ホロッ
令嬢(大根は味がしっかり染みてて、一口ごとに出汁がじゅわじゅわ溢れてくる)ゴクゴク
令嬢(蛸の風味をお酒が活かしてて、すっごく美味しい!!)
令嬢(これなら!)
姉「……」
青年(どうだ……?)
女(うう、神様……)
姉「――認めましょう。よくここまで味を洗練させましたね」ニコ
男「そ、それじゃ」
姉「ええ、貴方の独立を認めましょう。今までよく頑張りましたね」
女(……何だろ、この変な感じ。こんなあっさり……?)
青年「そんな簡単で良いんすか? 旦那をずっと探していたんでしょ?」
姉「確かに、ずっと男を探していましたが……本来の目的は、男に会う事だったんです」ナデナデ
男「頭を撫でるな」スッ
青年「……えっ」
姉「出来れば私の店に戻ってきて欲しかったのですが、男の成長さえ見届ける事が出来たら、それで良かったんです」
姉「それに、店さえ知っていたら、休みの日に来れますからね」
青年(何か、師匠さんに聞いてたイメージと違うぞ……? もっと厳しそうなのかと)
男「で、何食べるよ」
姉「そうですね……キスの天ぷらにします」
男「おっしゃ!」
令嬢(……そろそろお邪魔虫になっちゃいますね。帰りましょうか)スッ
令嬢「ご馳走様でした」チャリン
女「はーい!」
令嬢(あの人は許してくれたけど……もう私はこの店に来ない方が良いわ。余計な事をしてしまう)
男(何か余計な事考えてそうだな……ん?)ジュワアァァァ
女(……責任なんて感じる必要無いですよ。店長はお客様の喜ぶ顔が好きなんです。だから)コソコソ
女「また、来てくださいね?」ニコ
令嬢「! ……はい!」ニコ
カランカラーン
女「ありがとうございました! またお越しくださいませー!」
男(何を吹き込んだのかは知らんが……さすがは女だな)
男「ほら、どうぞ」
姉「ふふ、懐かしいですね、男の天ぷら……では」サクッ
姉「こちらも合格ですね。素晴らしく軽い歯触りと、ほくほくの身がたまりません」
男「そうだろ? 出来るだけ温度差を作って揚げたからな」
青年(……旦那、肩に背負ってたものが無くなったみたいな顔してる)
女(良かったですね、店長)ニコニコ
姉「ごちそう様でした。また来ますね」
女「はい!」
姉「あ、そうだ……ちゃんとお父様にも言っておきますね。「男はちゃんと自分なりの道を見つけた」と」
男「あの男が納得するとは思わんがな……まぁ、また来いよ」
姉「ええ」ニコ
カランカラーン
男「あ~!! 緊張した!!」
青年「旦那、お疲れっす。今日の夜は余りもんで何か作りますよ」
女「あ、私も作ります!」
男「……おう、ありがとよ」
【本日は閉店しました】
男「う~寒い寒い……しかし美味かったな。あいつらも腕上げてきてるなぁ」
男(戸締りも確認したし、もう帰るかな)カランカラーン
男(……少し、小腹が空いたな、何か喰いたい)
男(お、コンビニあるじゃん)ガララー
男(……久しぶりにカップヌードルでも食べようかな)チャリン
男「ふぅ」コポポ
男(よし、行くか)
男(この寒空の中、カップヌードルを啜るっていうのも乙なもんだ)ズルルッ
男「うん、うまい」
男(久しぶりに食べた気がするな……この醤油味。懐かしいね)
男(肉が何か変わってるな……でも美味い。それに卵、海老……)ズルッ
男「……」ゴクゴク
男「っあ~!! うめぇ」
男(今日は本当に緊張した。虚勢を保つので精一杯だったぜ)
男(まぁ、姉貴も認めてくれた事だし、まぁ良いだろう)
男(風が強いからか、夜空が綺麗だ)
男(ん、夜空……?)
男「――あ、いつの間にか、あんなにひどい雨が止んでる。珍しいな」
男「……久しぶりにお参りでも行くか」
ザッ
男(相変わらず、寂れた神社だな……俺の店も似たようなもんか)
男(こんな真夜中にお参りに来る男性ってどうなんだろ)チャリン
男「えー、店の安泰、健康、後は~」パンパン
「……さすがに神様も、一度にそんな多く叶えられないと思うけど」
男「うおっ!?」
少年「一つにしときなよ、欲張りさんは叶えてくれないよ?」
男(え、何で? こんな時間に神社に子供!? どうみてもおかしいだろ!)
少年「どれにするの?」
男(しかも服も何だあれ? すげぇ綺麗な水色の……しかもかなり古い服みたいだ)
少年「ねー、はーやーくー」
男「そ、それじゃ……あいつらが遊園地に行く日、晴れにしてくれれば」
少年「ふーん……珍しいなぁ。ま、いいか……だから姿見せたんだし」
男「え、え!? どういう……」
少年「ま、承ったよ、男さん」スウウゥゥウゥ
男(……き、消えた!?)
男(……帰ろう。怖いわ)ダッ
男「いよいよ明日だな、もう予定は決めてんのか?」ニヤニヤ
青年「まぁまぁっすね」
女「クレープ食べたいです」
青年「……でも、本当に大丈夫なんすか? 一人で店回すんでしょ?」
男「もともとお前誘うまでは一人でやってたんだ、余裕に決まってるだろ」
女「そう言えば、二人はどうして知り合ったんですか?」
男「……あの日はひどい雨だったな。店の前で、こいつが大雨の中立ち尽くしてたんだ」
青年「ちょっ、何語り始めて……」
――
【今日のおすすめ コンソメスープ】
ザアァアアアアァァァァァ
男(ひどい雨だな……ん?)
青年「……」
男(何あいつ、傘も差さずに突っ立って)
男(……あの目。昔の俺みたいな……)
男「なぁ」
青年「……あ?」ギロ
男「どうしたんだ? そんな所に突っ立ってたら風邪引くぞ」
青年「あんたには関係無い、失せろ」
男「……とりあえずうちの店来い。何か暖かいもん食わせてやる」グイッ
青年「ちょっ……」
男「ん。玉ねぎ、ベーコン、糸切りにして炒めたじゃがいもが入ってる。勿論金はいらない」コトッ
青年「……」ゴクッ
男「いらないのか?」
青年「……ちょっとだけ待ってくれ」ダッ
男「えっ」
カランカラーン
妹「……?」
青年「妹、この人が食べさせてくれるらしい。さあ、飲んで」
妹「お兄ちゃんは?」
青年「俺はいらない」
妹「そんなの駄目……凍えてるじゃん。半分こしよ?」
青年「……そう、だな」
男「いや、二人前くらい大丈夫だけどさ」コトッ
青年「!!」
青年「ありがとう、ございます……」ペコリ
男(何か訳ありっぽいな)
男「……なあ、どうしてこんな雨の中立ってたんだ?」
男「なるほど、親に捨てられたのか」
青年「……だから、日雇いのバイト探してて、でも、この雨だから現場の仕事も無くて」
青年「俺には妹しか居ないんだ、俺が守ってやらないと……!!」
男「なぁ、お前って器用?」
青年「? 普通だと思うけど」
男「じゃあさ、うちで働いてみないか。しばらくは一日分の給料払うから」
青年「えっ……」
――
男「って感じで。最近は親戚の人がお金送ってくれるらしいけどな」
青年「余計な事を……」ボソ
女「そうだったんだ……」
青年「何で涙目になってんの?」
女「だって……」
男「おかげさまですげぇ勢いで上達してくれたけどな。思ってたよりもスキルが高かった」
青年「チッ」
男「おー、照れやがって」ワシャワシャ
青年「あー!! はよ働くっすよ!!」
男「はいはい」クスッ
ガヤガヤ カランカラーン ワイワイ
男「いらっしゃいませー、はい、少々お待ちを、会計540円になります……」シュバババッ
男「カツ丼、味噌汁になります……こちらは筑前煮に鯖の味噌煮ですね」コトトッ サッ
男(おそらくこれが今日最後のピーク……しかしクリスマスだってのに多いな)
男(夜にカップルでこんな店に来ようとは思わないだろうし、後ちょっとだ!)
男「やっとアイドルタイムか……疲れた……」
男(今日は珍しく快晴だな。あいつら今頃仲良くしてるかね)
男(快晴……やっぱ、どう考えてもあの子供の言ってた事は……)
男「……あ、もう午後からの開店時間か」ガタッ
【今日のおすすめ うどん】
カランカラーン
男「いらっしゃいませー、お好きな席へどうぞ」
旅人「……」ストン
男(カウンターに座るのか、静かな人だからテーブルかと思ってたぜ)
旅人「……うどん、一つ下さい」
男「あい、少々お待ちを」サッ
旅人(……良い匂いだ)クン
男「お待たせしました」コト
旅人「いただきます……」ズルッ
旅人(出汁が良い風味だ。喉に染みわたる温かさ……添えられてるのはかまぼこ、葱、柚子の皮か)ゴクゴク
旅人「……うまい。身体が温まる」
男「そりゃどうも。お客さんはどうしてこの町へ? 詩人さんでしたっけ」
旅人「……この町の雨は、人の欲を洗い流してくれる」
旅人「しばらくは、この町の宿でのんびり過ごそうと思う」
男「そうですか……」
旅人「この町の文献を調べてみた。こんなに雨が降る理由は、雨の神様に守られているから、と」
男「らしいですね、まるで一年中梅雨みたいな天候ですし……よくその話は聞きます」
旅人「あの神社に、龍の石像があって、その口から水が出てるけど……調べた所、あれに水道は通っていない」
男「え、つまり」
旅人「自然に龍の口から水が出ている――龍は川の化身らしい」
男「……」
旅人「この町を守っているのは川の神様……と考えるのが妥当」
男(急にぺらぺら喋り始めたな)
男「……実は、先日、店を閉めた後にお参りに行ったんですが、水色のくたびれた衣を着た少年に会いまして」
旅人「ほう!!」ガタ
男(すげぇ喰いつき……)「神様への願いを言え、と言われたので、今日は快晴にしてくれと言いました」
男「すると、ただ暗闇に紛れただけかもしれませんが……目の前から消えたんですよ」
旅人「へぇ……また興味深い事が増えた。ごちそうさま」チャリン カランカラーン
男「――神様、ねぇ……妙な体験もあるもんだ」
ザアアアァァァァ……
カランカラーン
女「おはようございまーす!!」
青年「はよざーっす……」
男「うーい、昨日はどうだったよ」
女「すごく楽しかったですよ! ジェットコースターなんて久しぶりに乗りました!!」
青年「疲れた……」ゲッソリ
女「お化け屋敷も面白かったですよ? ただ青年君が」
~~
ゾンビ『オォォオォ!!』
青年『あぁ!?』ギロォ
ゾンビ『』ビクッ
~~
女「……って感じでほとんど撃退しちゃったんですけど」フフ
男「お前……ガキじゃねぇんだから……」
青年「つい反射的に」
男「……まぁ楽しんだんならいいけどさ。よし、準備すんぞ!」
【今日のおすすめ 鶏の唐揚げ定食】
酒豪「やぁ」カランカラーン
男「チッ」
女「いらっしゃいませー!」
酒豪「今舌打ちしたよね? とりあえず唐揚げ定食いただこうかな」
男「お、今日は酒頼まないんだ」
酒豪「たまには控えないとね」
男「よっしゃ!!」ジュアァァァァァ
青年(嬉しそうにしちゃってまぁ……)トントントントン スッ
男「上がったー」
女「はーい、お待たせしました、唐揚げ定食です!」コト
酒豪「いただきます」カリッ
酒豪「うーん! カリッとした衣にぷりっぷりの肉!! 口に入れた瞬間、アツアツの肉汁が飛び出してきたぞ!」
男(実況しながら喰うなや)イライラ
酒豪「隠し味は生姜、ニンニク、酒に醤油かな? 生姜とニンニクの風味が一層うまさを引き立てているよ!!」
男「一応すりおろした玉ねぎにも付け込んでいるんだがな……」
酒豪「なるほど、玉ねぎの酵素でさらに柔らかくなると言う訳か」
酒豪「これをご飯に乗せて……」パクッ
酒豪「うーん!! 酒に合うものは飯にも合う!! たまらないなぁ。味噌汁もうまい!」ゴクゴク
男「……ふぅーっ……」ピキピキ
青年「落ち着いて下さい」
酒豪「さて、腹はまだまだ減っているし、次は何を頼もうかな? お、また旨そうなメニューが……」
男「やっぱお前帰れぇぇ!!」
【今日のおすすめ ピザ】
酒豪「もう大晦日だねぇ、早いもんだ」プハァ
老人「年を取ると、一年があっという間ですな」ゴク
男「そうだなぁ……」
旅人「……」カランカラーン
巨漢「ふぅ……今日の雨は静かだな」ヌゥッ
師匠「そうじゃのう」
女「いらっしゃいませー!」
男「おお、今日はやけに揃うな」
令嬢「こんにちは」カランカラーン
サラリーマン「お久しぶりです……」
女「あら、お久しぶりです!」
青年「今日は集まるっすね」
チャラ男「ど、どうも……」カランカラーン
巨漢「ん、お前は」
チャラ男「お久しぶりです!」ビシッ
巨漢「そんな気張らなくてもいいさ」
男「で、皆さん何をご注文に?」
酒豪「そりゃ勿論」チラッ
老人「ええ」
「――おすすめのピザで!」
男「……おっしゃ、やるぞ青年!!」ニッ
青年「この人数焼くのはなかなか骨っすよ」
男「オーブンは暖めておく、この特製ソース……美味そうだろ?」ニヤ
青年「うはぁ、良い香りっすね」トロォ
男「……よっし、焼くぜ!!」
男「おっしゃ、上がったぞー!」
女「お待たせいたしましたー! それぞれ人数分のピザでございまーす!」
令嬢(この香りは……!)
チャラ男「おおー、すっげぇうまそー!」
老人「はは、それでは皆さん……」パンッ
「いただきまーす!!」
令嬢「……やはり、ビーフシチューをベースにしたソースを使っていますね」
師匠「具はスライスしたトマト、玉ねぎ、それに細切りにした、たっぷりのベーコンか」
チャラ男「うおおぉ……ベーコンから大量の肉汁が溢れて、ソースと溶け合ってるぜ……もはや目が旨さを感じる」ゴクッ
酒豪「皆、見ているだけかい? 先に頂くよ」パクッ
巨漢「ふむ」ガブッ
酒豪「……う~ん!! うんまあぁぁぁーい!!」
男(シンプルだからこそ余計来るッ……!! ああ、俺も喰っていいかな)
旅人「……絶品」
酒豪「こんがりと焦げたとろけるチーズッ! カリカリのベーコン! 味に華を添えるトマトと玉ねぎ!」
酒豪「一口食べるごとに、口の中でチーズ、肉汁、ソースが絡み合うっ!! 口の中が重厚な旨みで満たされていくっ!!」
男「……あああぁぁ~……ふぅうぅ……っ!!」プルプル
青年(迷惑極まりねぇ……)プルプル
令嬢「ドゥが非常に薄くてさっくりとしていますね」
師匠「満点じゃな。多すぎるボリュームを出来るだけ少なくしている」
チャラ男「うめええぇぇ!!」モグモグ
女(……その後、どうですか?)
サラリーマン「おかげさまで、新しい仕事を見つけてのんびりと暮らしています」ニコ
女「そうですか、それは良かったです!」パァァ
サラリーマン「先日はどうもありがとう……それにしても、うまいですね」モグッ
女「店長の料理は天下一品ですからねっ」ニコ
老人「男、たまには貴方も一緒に食べていいんじゃないですか?」
男「!!」
青年(おっ)
男「う~……!!」
青年「……」
女「……」
男「――今日くらいは良いだろう! もう一枚焼くぞっ!」
青年「待ってました!!」シュバッ!!
女「わーい!」
男「青年、準備を……」
青年「もう終わったっす」ヴウゥゥン……
男「」
女(もう終わらせてオーブンに入れてる……)
青年「焼きあがったぜぇ!!」
男「なんつー早さ……」
青年「旦那、どうするんすか?」
女「店長ー?」
男「……三等分だな」スパッ
青年「では」スッ
女「いただきまーす♪」パンッ!
後二回ほどの更新で、終わりにする予定です。
男「やっと全員帰ったか」
女「皆さんが帰られてから、店が静かですね」フキフキ
青年「まぁもともとこんな感じだけどな……うまかった」
カランカラーン
姉「こんにちは」ニコ
女「あ、いらっしゃいませ!」
男「……」チャッチャッチャ
青年「旦那? まだ注文来てないっすよ? 何で卵なんか……それに、何かに漬けこんだヒレ肉?」
姉「おすすめのピザをいただきましょうか」
女「はーい!」
青年「旦那ー? ……仕方ない、俺がやるか」スッ ヴヴン……
青年「……よし、どうぞ。お待たせしました」
姉「ありがとう、では」サクッ
姉「……! おいしいです。ソースと肉汁の風味、とろけるチーズ、香ばしく軽い歯触り。これも文句なしですね」
姉「スライスしたトマトが、デミグラス風ソースの味をより豊かにしています」ニコ
男「……よし、揚がった。これ持って帰ってくれ」コト
姉「……これは?」
男「あのクソ親父に渡してくれ、それと――」ゴニョゴニョ
姉「……ふふ、分かりました」
青年「旦那、それは何すか?」
男「こいつであの男をぎゃふんと言わせてやるのさ」ニヤ
姉「ごちそう様でした。帰ったらすぐ渡しますね」
男「おう、その……何だ。ありがとうな、色々と」
姉「……」ニコ
カランカラーン
女「何渡したんですかー?」
男「それはな……」
――
姉「お父様、兄に会ってきました」
父「……あのドラ息子の事など、私に報告する必要があるか?」ギロ
姉「まぁまぁ、それと……これをどうぞ、では……」ススーッ
父「……カツ丼、だと? 馬鹿が……揚げ物は揚げたてに限ると、ずっと教えてきただろう」
父「……ふん」パクッ
父「……? ……!!」ガツガツ
姉「ああ、それと」ガラッ
父「!!」サッ
姉「男から「俺のカツ丼は冷めてもうまい」との伝言を受けました。では」ススーッ
父(……)
父「……ふん、少しはましな飯を作るようになったか……」フッ
男(ったく、やっと年が明けたっていうのに、小雨が降ってやがる)
男(川の神様に願っとけば良かったかな)
女「おはようございまーす! 新年、明けましておめでとうございます!」バン
青年「あけおめー」
男「おう、今年もよろしくな」パタパタ
青年「こ、この香りは……まさか……」
女「鼻をくすぐる素晴らしい香り……もしかして……」
男「そう、――鰻だ!」
青年「おおぅ……」ジュルリ
女「今日のおすすめは鰻ですか」ゴクッ
男「ん、違うよ? 俺の自腹で買った奴」
青年「え?」
女「?」
男「まぁ座りたまえ」
青年「あ、はい」スッ
女「どうしたんですか?」
男「えー、今までよく働いてくれた」
青年「どうしたんすか? 店閉めるみたいな言い方して」
男「青年、女。お前らが来てくれたおかげで、この「雨上がり」も随分と繁盛するようになった」
女「えへへ……そんな事ないですよ」
男「――本当にありがとう。小さいが、これは俺の感謝の印だ」コト
青年「う……うな丼……!?」
男「さぁ、喰ってくれ! 心を込めて作った!」
女「いただいて良いんですか?」オズオズ
青年「先にいただくよっと……うっめええええぇぇぇ!!」
青年(鼻を突きぬける、本能を刺激するかのような強烈な香りっ!)
女「おいしーっ!!」ニコ
青年(ほくほくの身は、口に入れると、甘い脂がとろりと溶ける!)
青年(それに、甘辛いだけじゃなくて、白ごまが忍ばされた特製のタレ! こいつも良い仕事をしてやがる!)
男「……」ニコニコ
女「ご馳走様でした! すっごく美味しかったですよ!」
青年「うまかったっす!」
男「おう! それじゃ……店、開けるか」
女「はい! ……あ、店長!! 窓見てください!!」
青年「いつの間に晴れたんだか……でも、すげえ……」
男「ん? おぉ――虹だ!!」
雨が降る町に、ぽつりと存在する「飯屋 雨上がり」。
光を浴びて輝く虹を背に、常連客は、今日も扉を開ける――
カランカラーン
「いらっしゃいませ!!」
お目汚し失礼しました。これにて完結です。
次はすごい厨二臭いドラゴン系の奴を書きたいです。
※男が兄になっていたので訂正
男「やっと全員帰ったか」
女「皆さんが帰られてから、店が静かですね」フキフキ
青年「まぁもともとこんな感じだけどな……うまかった」
カランカラーン
姉「こんにちは」ニコ
女「あ、いらっしゃいませ!」
男「……」チャッチャッチャ
青年「旦那? まだ注文来てないっすよ? 何で卵なんか……それに、何かに漬けこんだヒレ肉?」
姉「おすすめのピザをいただきましょうか」
女「はーい!」
青年「旦那ー? ……仕方ない、俺がやるか」スッ ヴヴン……
青年「……よし、どうぞ。お待たせしました」
姉「ありがとう、では」サクッ
姉「……! おいしいです。ソースと肉汁の風味、とろけるチーズ、香ばしく軽い歯触り。これも文句なしですね」
姉「スライスしたトマトが、デミグラス風ソースの味をより豊かにしています」ニコ
男「……よし、揚がった。これ持って帰ってくれ」コト
姉「……これは?」
男「あのクソ親父に渡してくれ、それと――」ゴニョゴニョ
姉「……ふふ、分かりました」
青年「旦那、それは何すか?」
男「こいつであの男をぎゃふんと言わせてやるのさ」ニヤ
姉「ごちそう様でした。帰ったらすぐ渡しますね」
男「おう、その……何だ。ありがとうな、色々と」
姉「……」ニコ
カランカラーン
女「何渡したんですかー?」
男「それはな……」
――
姉「お父様、男に会ってきました」
父「……あのドラ息子の事など、私に報告する必要があるか?」ギロ
姉「まぁまぁ、それと……これをどうぞ、では……」ススーッ
父「……カツ丼、だと? 馬鹿が……揚げ物は揚げたてに限ると、ずっと教えてきただろう」
父「……ふん」パクッ
父「……? ……!!」ガツガツ
姉「ああ、それと」ガラッ
父「!!」サッ
姉「男から「俺のカツ丼は冷めてもうまい」との伝言を受けました。では」ススーッ
父(……)
父「……ふん、少しはましな飯を作るようになったか……」フッ
このSSまとめへのコメント
面白く、キリもいいですね。ありがとうございました。