この先の未来のために出来たはずだったこと (15)
【はじめに】
このSSは『タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ』に投稿したレスを元にしました。
タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411994536/)
既に本人証明はできませんが、タイトルを投稿して下さった方にはこの場を借りて御礼申し上げます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416640488
山田太郎は悩んでいた。今日は会社に行くべきや否や。
何故なら、今日も酷い事が起こりそうな気がするからだ。
3日前、道で犬のウンコを踏んだ。
2日前、車に轢かれそうになった。
そして昨日、道路沿いのマンションから植木鉢が落下。危うく頭をカチ割るところだった。
ならば今日はどんな事が我が身に降りかかるのだろう。
そう思うと、布団にくるまった状態から一歩も動く気になれない。
悩めば悩むほど気分が沈む。
気分転換にと、太郎は布団にくるまったままリモコン取り、テレビのスイッチを入れる。
ニュースが映り、ちょうど朝の天気予報をやっていた。
「本日は曇り。所により夕方から一時雨が降るでしょう」
滑舌の良いお天気お姉さんーの声に耳を傾けながら、太郎はモゾモゾと上体を起こした。
「傘はいるのかなぁ」
誰に言うでもなく独りごちる。
もし夕方から雨が降るのなら、傘を持って行かなければならない。
しかし雨が降るのは『所により』けりなので、雨が降らなければ無駄になる。
余計な荷物になるどころか、雨が降っていないのを良い事に何処かに置き忘れるリスクもあるだろう。
かと言って傘を持たずに出かけ、雨が降れば濡れてしまうのだ。
悶々と悩んでいると、太郎の頭にふと既視感が沸いた。
遠い昔、学生の頃だっただろうか、何かの漫画で今のような話があったはずだ。
「そうか、王様はロバ!」
『王様はロバ』とは、正式名称を『王様はロバ ~はったり帝国の逆襲~』という。
作者は『なにわ小吉』。
シュールなギャグを書かせたら彼の右に出る者はそんなに居ない。
その中に確か、料理で天気予報をする話があったはずだ。
あまり詳しく書くと何かの法律に引っ掛かりそうだが、既にうろ覚えなのでテキトーに書く。
登場人物は料理人、そしてお天気お姉さんの二人。
まず、料理人が「これが今日の天気だ」と言ってお姉さんに料理を渡す。
お姉さんが食べるが、あまりに不味くて食べられない。
そこで料理人が「こんな時の醤油だ」と言ってタップリと掛け、再び料理を勧める。
今度は何とか食べられるが、お姉さんは「お醤油の味しかしません」と言葉を漏らす。
そこで料理人が一言。
「どんな天気だろうが傘持ってけぇ! そうすりゃ濡れねぇ!!」
「そうだ!」
太郎は布団から勢いよく跳ね起きた。
『備えあれば憂いなし』。
この精神を地で行ったのが先程の話ではないか。
「どんな天気だろうが傘持ってけぇ! そうすりゃ濡れねぇ!!」
正に金言。
うじうじ悩むくらいなら、何が起こっても問題無いよう準備しておけば良いではないか。
太郎はスーツに着替えると、早速準備に取り掛かった。
まずは犬のウンコ対策。
既に落ちているウンコはどうしようもない為、いかに踏まないかを考える。
と、そこで思いつくのがハイヒール。
中世ヨーロッパでは、汚物を踏む面積の少ない靴として発明されたらしい。
今回はこれを倣う事にする。
しかし太郎はハイヒールなど持っていないため、
より設置面積の少ない履物として一本歯の下駄を選ぶ。
次に車対策。
前面からの衝撃に備えてプロテクターが欲しい。
代用品として、緩衝材を詰めたリュックを前に掛ける事にする。
かと言ってプチプチでは心許ない。
通販のダンボールに入っていた、たくさん空気の詰まった緩衝材をリュックに詰める。
まだ余裕があったため、衣類を入れて隙間を埋めた。
最後に植木鉢対策。
そういえば近場の空き地に工事用ヘルメットが落ちていた事を思い出す。
行ってみると、案の定、空き地の隅に転がっている。
手に取って眺めたところ、目立った汚れは無い。
ここ数日は晴れていたからだろう。
太郎は土埃を払うと、頭に被って顎紐をとめた。
これで良し。いざ出勤。
朝の住宅街をカランコロンと下駄を鳴らして歩いていると、
通りがかった小学生に「キタローだー」と指を差されたが気にしてはいけない。
アイツは二本歯だ。一緒にするな。
満員電車でリュックは前に抱えるものだが、普段は背中に背負うものである。
通りがかった中年男が見世物でも見るような視線を向けてきたが気にしてはいけない。
お前の腹より小さいわ。高血圧で倒れろ。
工事現場の脇を抜けた時、
見知らぬ他人に「あ、お前。スパナ持ってこい!」と言われたが気にしてはいけない。
自分で持ってこい。仕事しろ。
数々の障害を潜り抜け、太郎は駅に到着した。
満員電車に押し込まれ、ガタゴト揺られて30分。突然の揺れに悲劇は起きた。
一本歯の下駄はバランスが悪い。
大きく足を踏み出してしまい、サラリーマンの足を思いっ切り踏みつけた。
鬼のような形相で睨まれて生きた心地がしない。
前にいる集団も一斉に私の方へ流れてきた。
5、6人分の荷重が掛かり、流石の緩衝材も破れて空気が飛び出した。
ブオっという屁のような音がして、皆の視線を一身に浴びる。
心なしか、周囲に隙間ができていた。
最後はヘルメットである。
その辺の空き地から拾ったものだから、中に妙な虫が湧いていたらしい。
重力に煽られ、太郎の肩にゲジゲジのような虫がストンと落ちた。
背後にいた女性が「にぎゃああああああああああっ!」という金切り声を上げる。
太郎は次の駅で降ろされた。
散々だ。
太郎は会社でスリッパに履き替え、リュックをゴミ箱に叩き込み、ヘルメットを窓から放り投げた。
すると帰り道、足裏がグニュッとして下を見れば犬のウンコである。
驚いて退いた先にまさかの車が接近中。
「死んでたまるか」と華麗に切り返したのも束の間。反対の足でまた踏んだ。
両足がヌルッとしたものだから、踏ん張りが効かずにスッテンコロリ。道路脇の植木鉢に頭から突っ込んだ。
もういい。
つまり何が言いたいかと言うと、
「この先の未来のために出来たはずだったこと」なんて考えるだけ無駄である。
━━ おわり ━━
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