ほむら「なんて?」まどか「ラーメンだよ!」 (39)

うんざりするくらい同じ時間を繰り返す。
それが良い結果につながるのならまたあるいは良かったかもしれない。
しかし残酷な程時は淡々と流れ、発生しては消えていく世界で彼女は死んでゆく。
どうしてそんな辛い現実を受け入れてまで私は繰り返すのか。
未だわたし自身の中に明確な答えは存在しない。 
答えは存在しないが
支えは存在する。
数多の世界が発生しては消えていく世界で確かに私のことを理解してくれる彼女がいた。
そんな彼女を守るためにも
私は今回も同じ質問を繰り返す。
何度でも、何度でも、何度でも。
あなたを助けるために繰り返す。

ほむら「あなたは自分の人生が尊いと思う?」

まどか「そんなことよりほむらちゃんラーメン好き?」

ほむら「…」

ほむら「なんて?」

まどか「ラーメンだよ!」

幾億もある可能性のうちの一つ。
確かにこの時の世界は今でもはっきりと思い出せる。
だけど
なんでラーメンだったのかは分からない。

第一話

夢の中で食べたような



私は少しだけ考える振りをする。
いや、フリをするフリをするというか
要はかなり考える。

ほむら「ら、ラーメン?」

ラーメンってあの?
あのラーメンのこと?

ほむら「ど、どうしてそんなことを聞くのかしら?」

まどかはどの時間軸でも良い意味で自分の世界を持っていた。
それは私がどれほど欲しくても手に入れられないようなもので
そして、いつしかその世界に入りたくなった私がいる。
で、なんでラーメン?
その疑問を率直にぶつけることはせず私は少しだけ遠まわしに聞いてみた。

まどか「だから、ほむらちゃんはラーメンが好き!?」

怖い。
このまどかは怖い。

ほむら「き、嫌いではないけれど…」

まぁ、どちらかというと好きな部類ではある。
好きではあるがまどかのように熱く迫るほど好きでもない。
せいぜい作る手間が少ないから、とかそういう理由だ。

まどか「そうだよね、ラーメン、美味しいよね」

どうやらこの世界ではほぼ初対面の人にラーメンの好き嫌いを聞く習わしがあるらしい。
まぁ、そんなことありえないのだけれど。

まどか「やっぱり、あれはほむらちゃんなんだね」

まどかは意味深な言葉を残して去ってしまう。
あれ、が指すものが何なのかはわからないが取り敢えずはまどかは嬉しそうにスキップしながら教室に戻っていった。
まどか、保健室に連れていってないわよ
そんな言葉を飲み込んだまま私はしばらくその場に立ち尽くしているのだった。

さやか「ところでさぁ、まどかさっきの転校生になんかガン飛ばされてなかった?」

そう言う青髪の少女の名前は美樹さやか。
先程の転校生、暁美ほむらの挨拶に何やら違和感を覚えたようだった。
言い方も少し荒くなる。

まどか「うん、そうかも」

対してまどかは頬を若干紅潮させながら嬉しそうに言うのだった。

仁美「あらあら、まどかさんは転校生さんが気に入ってしまったようですね」

こっちの緑色の髪の毛の子は志筑仁美。
鹿目まどか、美樹さやか、志筑仁美は幼い頃からの友人で今日のように放課後はよく喫茶店で時間を潰すことが多い。

まどか「ウェヒヒ、実はね、私ラーメン食べたんだ」

は?というような声を出すさやか。
誰でもそうするだろう。

さやか「まどかのラーメン好きは今に始まったことじゃないけどさ、なんでこのタイミングでいうの?」

さやかは少しイライラした口調で問いただす。
まぁ、このイライラした口調自体が三人の中ではお約束のようなものになっているのだが。

まどか「ラーメンをね、夢の中で食べたような、そんな気がするの」

仁美「食べたって…もしかして、暁美さんとですの?」

そう聞かれてまた嬉しそうにまどかは頷く。
ラーメン通で知られたまどかだ。
そんな彼女がこんなに嬉しそうな顔をするのだ、よほど美味しかったに違いない。

さやか「…はぁ、それで、美味しかったの?」

まどか「今まで味わってきたどのラーメンよりも美味しかったよ」

眩しいくらいの笑顔を向けてまどかは答える。
その眩しさは時としてとても神秘的で神々しい物になるのかもしれない。
だが、その眩しさが向けられているのは、如何せんラーメンなのだった。

まどか「帰りにラーメン屋寄っていこうよ」

さやか「いや、普通にパスだわ、夜ご飯入らないっつーの」

まどかの頼みを一蹴するさやか。
それもそうだった、何故なら彼女はもううんざりするくらいまどかのラーメン屋のお誘いを受けてきたのだから。

まどか「えぇ!なんで!マミさんも来るよ!」

さやか「マミさんが来ても私は行かないっての!大体ご飯食べれなくなるって言ってんでしょ!」

まどかの悲痛な叫びも虚しくさやかはそれをさらに一蹴して、踵を返した。
ちなみにギスギスしたような雰囲気ではない。
仁美からすればいつもの光景だ。

まどか「そんなぁ…マミさんもくるのに…」

そんな声を上げてまだ講義するまどか。
しかしさやかの決意は変わらない。

さやか「行かないっての、それにマミさんが来るのはほぼ毎日でしょ」

そこでさやかは少しだけ自慢の先輩を誇るようにこう言った。

さやか「だってあの店は元々マミさんのもんなんだから」

まどか「…お邪魔します…」

恐る恐る、まどかはその扉をあけた。
正確に言えば横にスライドさせた。
巴マミの、さらに言えば亡くなった巴マミの両親が営んでいたラーメン屋はスライド式のドアだったからだ。

マミ「あら、鹿目さん、いらっしゃい」

優しい、けれど凛とした声でもてなす、金髪巨乳縦ロールの女の子は巴マミ。
まどかの尊敬する先輩の一人で、世界でも珍しい、魔法少女のラーメン屋である。

まどか「ウェヒヒ、いつもの、あります?」

申し訳なさそうに、けれどどこか期待しているようにまどかは聞く。

マミ「はいはい、ハリガネネギ多めバリコテとんこつね」

そんな少し呪文めいた名称を言いながら巴マミは調理を始めていく。
ちなみにとんこつの出汁は豚のげんこつと背骨からとっている。

まどか「…ふぁ…」

思わずそんな息が漏れる。
まどかはこの時間が今のどの時よりも生きていると実感できるのだ。
まぁそれしか楽しみがないと言われればそれまでだが。

誰も見てなくても俺は淡々と自己満足のために書く。
だって俺はラーメンもまどマギも好きだから。
明日書く、おやすみ。

マミ「できたわ……私特製の……ティロ・フィナー麺よッ……!」

ぐつぐつ煮え滾る鍋の中身にはッ……!!!黒い麺ッ……!!黒い麺ッ……!!
まるで巴マミの脂肪分から抽出したようなその濃さは類を見ないッ……!!!

ほむら「二重(ダブル)ショックッ……!!!」

ほむら「幽霊なんかに出会うよりももっと奇怪な遭遇……!!」

マミ「さぁ……たぁ~~~~んとお食べぇ……?」ニヤァ

まどか「こ、こいつぅ~~~~ッ!!!」

まどかは察するッ……!!
このラーメンは罠であるとッ……!!自分たちを嵌める罠であるとッ……!!!
がっ……!!!暁美ほむらは動揺しないッ……!!!むしろッ……だからこそ対峙するッ……!!!

ほむら「いいわよ……受けて立とうじゃないッ……!!!」

まどか「ほ、本気……?ほむらちゃん……?」

まどか「あんなおぞましい物を食べたらッ……!!!死んでしまうッ……!!!」

ほむら「黙りなさいッ……!」ドンッ

まどか「ひぃいいい!!!」ガタガタガタ

割れるテーブルッ……!鍋から零れ落ちる黒い麺ッ……!!
怒り狂うほむらッ……!!!ニヤリ顔の巴マミッ……!!!

次回、ほむら死す

ずるずる、とまどかの美味しそうに麺をすする音が聞こえる。
今の季節はどちらかというと夏よりなのだがこれが冬だと尚一層ラーメンの価値は跳ね上がる。 

まどか「やっぱりマミさんのラーメンは絶品です!」

すすりながらまどかは答えた。

マミ「うふふ、ありがと」

それに答えるようにマミもにっこりと笑う。
まどかがこのラーメン屋に通うようになってひと月近く経つがほぼ毎日まどかはこの店に通い続けている。

QB「やぁ、まどか、また来たのかい」

ほぼ毎日通い続けているまどかはほぼ毎日この白い生き物、通称QBに魔法少女にならないか、と勧誘され続けているのだ。

まどか「やだよ、ラーメン食べてる方が楽しいもん」

そう言ってぷいっと横を向くまどか。 
それが本心なのか違うのかは本人しか知らないが。

そんなやりとりをしている最中勢い良くスライド式のドアががらりと空いた。
普段は(平日の夕方、要はまどかが来る時間)アイドルタイムと言ってほぼお客は来ない筈なのだから、二人は目を丸くしたのだった。
そして来た人物も意外だったのだ。

ほむら「…あ、え?」

ほむらは困惑する。
何故ならまどかの話になんとなく当てられて、気紛れで寄ったラーメン屋にまどかとマミが居たからだった。

 

ほむら「…」

落ち着くべきだ。
取り敢えずは三秒だけ深呼吸するべきだ。
よし。

ほむら「…どうして貴方達がいるの?」

まどか「わあっ!やっぱりほむらちゃんもラーメンが好きなんだね!」

相変わらずこのまどかは人の話を聞かない。
というより、なぜマミが頭にタオルを巻いてスープの味を確かめているのだろう。
謎が謎を呼びほむらの頭はショート寸前になる。
そんな中、マミが口を開いた。

マミ「…あなたどこかであったのかしら?」

しまった…!そんな声が思わず出かかる。
この時間軸のマミとは初対面だった。 
多くの時間軸の中でほぼ毎回衝突しあっていた私と彼女の相性は最悪なはず。
私は何とか誤魔化そうと押し黙った。

ほむら「…」

まどか「…ウェヒヒ」

途端にまどかが不気味な笑いを上げる。
まるで自分には全てお見通しだとでも言うような笑い。

ほむら「…まどか?」

私は少し不安になって聞いてみた。

まどか「ウェヒヒ、ほむらちゃんはマミさんのこと知ってるんだよね!」

ぎくり、とそんな音がしたかと思うほど背筋に悪寒が走る。
まずいまずいまずい、そんなことを知られてしまったらますます警戒されてしまう。
ど、どうすれば…。

まどか「やっぱりほむらちゃん、マミさんに弟子入りに来たんだよね!?」

ほむら「そ、そうよ!」

どうすれば良いんだろう。
口は災いのもととはよく言ったものだ。
もう口から出任せは当分やめておこう。
私はキラキラした目でこっちを見るまどかと少し驚いたような目で見つめてくるマミを横目にそう決意したのだった。

第二話

それはとっても美味しいなって



マミ「湯切りのタイミングが違うわ!かためんはもう少し早くよ!」

ラーメン屋に響くマミの声。
そう、ここは巴マミの両親がかつて営んでいたラーメン屋なのだ。
発注や、スープ作り、それに原価率や生産率の計算などはほかの社員に任せているとはいえ、ラーメン作りにおいてはこの店でマミの右に出る者はいない。

ほむら「こ、こうですか!?」

びしっ、と湯を切る音が響く。
その度に手首の角度を調節しなければならず私はあたふた、もたもたするだけだった。

マミ「…まったく、貴方が入ってきてもう四日立つけど未だに湯切りもできないなんて…!」

と、マミは少しイライラした口調で私を咎める。
なんでこんな事やってんだろう、あ、そっかまどかのせいだ。
まぁ、厳密に言えばまどかのせいではなく自分のせいなのだが今の私に自分を責めるような力は残されていない。

マミ「あら、もうこんな時間?お昼にしましょう」

マミはそう言ってさっきまでの鬼の形相をふっと解き、こう聞いてきたのだった。

マミ「暁美さんは何が食べたい?」

ほぼすべての時間軸でマミのお昼といえば必ずイタリアンな料理と紅茶が出てきたものだが今回は違う。
種類もさほど少なくはないがそれはあくまでラーメンというくくりの中での話だ。

ほむら「じ、じゃあ味噌…」

なぜこんなことをやっているのかは自分でもわからない。
わからないが。
こんなところで食べるラーメンもまぁ、なかなか、たまにはいい物だと思えたのだ。

ずるずる、とラーメンをすする音だけが響く。
どうやら今日はこのラーメン屋は休みらしい。
どうりで昼前になってもお客が一人も来ないはずだった。

マミ「ところで、何で暁美さんはこの道に?」

思わずラーメンを吹き出しそうになる。
どうしてと言われても単なる暇つぶしとしか言えないのだけれど。
だがそれはバカ正直にいうほど私も愚かではない。

ほむら「…あなたの味に惚れたのよ」

そんなことはない、確かに巴マミの作るラーメンは美味しいが別にだからと言って作る側になろうと思うほどのものでもない。

マミ「まぁ…!」

だがそんな私の気持ちを知ってか知らずか、いや、きっと知らないけれど
巴マミは嬉しそうに目を輝かせる。

ほむら「さぁ、食べ終わったら再開しましょう」

何故か私が指揮をとっていそいそと食器を片付ける。
この時間軸の巴マミは基本的にラーメン以外のことには疎いのだ。
まぁ魔法少女のことは良く分からないが。

魔法少女。
それは祈りから生まれ最後は絶望で終わる存在。
倒し続けてきた魔女を糧に生きる者。
自分だけの願いのために自分の人生を差し出した、そんな者たち。
そうだ、忘れるところだった。
今回の時間軸がどれほどイレギュラーでも関係ないのだ。
私はただ最善だと思う行動をとってさえいればいい。
例えそれがラーメン作りの修行でも知ったこっちゃない。
耐えて見せる、まどかの為なら耐えて見せる。
そう決意したが、その反面罪悪感もあった。

意外と、ラーメン作りって楽しいな

そんな気持ちを無理やり押し込んでまた私は巴マミの元で湯切りの練習を始めたのだった。

マミ「今日はこれくらいにしましょうか」

そう言って巴マミは頭に巻いていたタオルを取る。
予想以上に疲れた。

マミ「うふふ、お疲れ様、暁美さん」

そう言って紅茶を差し出す巴マミ。
なんだ、巴マミらしいところもあるじゃない。
まぁ、巴マミ本人なのだから当たり前と言えば当たり前なのだけれど。

マミ「私は少し予定があるから先帰っててね」

予定、とは何だろうか。
やはり魔法少女のパトロールだろうか。
…そう言えばこの時間軸のマミがもう既にまどかとさやかに出会っているとしたら、お菓子の魔女が現れるのは今日のはず。
…嫌な予感がする。
それはまぁ今までの時間軸でほぼ毎回体験してきたので予感と言うよりは予想だが。

私は魔法瓶に入れられた紅茶を飲まずにそっと盾の中に忍ばせ、こっそりと巴マミのあとをついていった。

ほむら「やっぱりここね」

巴マミを追いかけて着いたのは病院。
お菓子の魔女の結界。
この世界の最初にして最大の分岐点の一つ。

ほむら「…食べられなければいいけど」

何度も時間を繰り返してきたがお菓子の魔女に巴マミが返り討ちに合う時は決まって頭から食べられてしまう。

最初こそ衝撃と恐怖で吐き気を催してしまったが今はもうなれてしまった。

ほむら(嫌な慣れね…)

そんなことを考えているうちに、不意に巴マミが立ち止まる。
ピタリと、何かを感じ取って立ち止まる。

マミ「…ついて来ては行けないわ」

ほむら「!!」

しゅるり、とリボンが私の体に巻き付いてくる。
しまった、今回の巴マミがラーメンに固執しているとはいえベテランの魔法少女であるという事実は変わらない。

マミ「…そこで待ってなさい、お説教はそのあと」

少し冷めた目で見てくる巴マミはそのまま結界の奥へ姿を消してしまった。
何のためらいもなくその歩を進めていった。

ほむら「…」

きつく結ばれた体をよじって何とか抜け出そうとする。
だが無理だ。
やはりベテランと言うだけあって彼女の魔法はそこらの魔法少女とは一線を画す。

「…抜け出したいのかい?」

その声にはっとする。
そうだ、そう言えばここ最近見ていなかった。
巴マミといつも一緒にいて、まどかとの契約を虎視眈々と狙う物。

憎悪が蘇ってくる。
そうだ、お前のせいで私は。
殺してやる。
今すぐにでもこのリボンを解いてお前の喉をかききってやりたい。
私は唯一動かすことのできる盾の付いた右手でどうにか抜け出そうとするが、やはりそれだけでは抜け出せない。

ほむら「QB…!」

憎悪のこもった目で敵を睨む。
そうだ、本当の敵は魔女なんかじゃない。
甘い言葉で誘惑し人を人ならざるものに変え、そして最後には魔女という呪いの象徴へと導く物。

QB「やぁ、ほむら」

その声を聞くだけで私は頭がおかしくなりそうだった。

QB「抜け出したいのかい?」

ぎりり、と私は奥歯を噛み締める。

ほむら「そうね、早く出てお前を殺してやりたいわ」

もしここから抜け出せるなら目の前の害獣を考えつく限りの残酷な方法で殺してやる。
そう思う程に憎い敵からかけられた言葉は私の頭を冷静にさせた。

QB「やれやれ、巴マミを死なせたくないという点では今僕たちは手を組むべきだと思うけどね」

ほむら「…あなたにこれがどうこう出来るというの?」

そう言って左手に巻き付いているリボンを顎でさす。
私の手には若干の粉が付いていた。

ほむら「こんな強力なまほ…」

粉?
粉?
なんで粉?

QB「気付いたかい?それは麺だ」

ほむら「…」

麺でした。
納得も理解もできないけれど
私がリボンだと思っていた巴マミの魔法はよくよく見る麺だった。

QB「麺ならどうにかできるんじゃないかい?」

ほむら「…」

この目の前の害獣に頼むのは癪だが、今はなりふり構っていられない。

ほむら「…私の盾に紅茶があるわ、それをとりなさい」

あれを飲まずに入れといてよかった。
熱々の紅茶ならかければふにゃふにゃになるだろう。
両手さえ使えればこっちのものだ。

QB「やれやれ、こんな時まで命令口調なんて」

QBは私の体を這い上がり盾の中から魔法瓶を取り出す。
そしてその中身を少しずつ私の左手のリボン、もとい麺にかけていく。

ほむら「…んっ!」

左手に力を込め思い切り伸ばすとぶちっ、と麺はちぎれた。
なるほど、やはり麺だ。
何度見てもリボンにしか見えないそれは、しかし確かに麺だった。

ほむら「ふう」

私は両足の麺もなんとかちぎって(主に銃で)晴れて自由の身になったのだった。

ほむら「…今度こそ死なせない」

私はそう決意し、まだ見ぬこの時間軸の巴マミの戦いへと足を踏みいれたのだった。

マミ「…これで終わりよ」

マミ「ティロ・フィナーレ!」

結界の最新部にたどり着くと、いつ聴いてもセンスを疑うような技名が聞こえてきた。
小さい魔女は為す術なく吹き飛んで壁にぶち当たる。

マミ「ふぅ」

一段落ついたと勘違いし息をつき魔女へと背を向ける彼女。
だが終わってはいない。
まだそいつは死んではいない。

ほむら「まだよっ!!!!」

私は今出る最大の声量で巴マミに注意を促した。
その声に少し驚いて巴マミはこちらを向く。

マミ「あ、暁美さん?その姿…」

どうやら私の体に麺を結びつけたときは私の格好に気づかなったらしい。

ほむら「後ろ!」

巴マミがはっとし、後ろを向くとそこには今まさに食いかからんとする黒い魔女がいた。

巴マミ「…くっ…!」

間一髪でそれを避け、今度こそというふうに巴マミは最大にして最強の魔法を唱える。

巴マミ「ティロ・フィナーレ!!」

ずどん、という轟音が響く。
上から降ってくるその魔女の残骸をひらりと避けながら巴マミは確かに微笑んだ。

巴マミ「ありがとう、暁美さん」

確かに私は救ったのだ。
この時間軸で前へ進むための力を。
私は失わずに済んだのだった。

巴マミを救った後。
何故か私は巴マミのラーメン屋で正座させられていた。

マミ「…確かに私はあなたに救われたわ」

どうやら怒っているようだ。

マミ「…あなたが魔法少女なら確かに危険でもないわ」

ほむら「あ、あの、巴マミ…?」

私はどうして怒っているのかわからない彼女の顔色を窺うように聞く。

マミ「だったらどうして教えてくれないの!」

ほむら「あ、う、ご、ごめんなさい」

どうして私は謝っているのだろう。
確かに伝えなかったことは悪いと思うがだからといってここまで怒ることだろうか。

マミ「…もう、一人で戦わなくてもいいのよね?」

ほむら「…」

ずっと悩んでいたのだろう。
きっと叫んでいたのだろう。
心の中にある恐怖と戦い続けてきたのだろう。

ほむら「…ええ」

私はそれ以降何も言わなかった。

マミ「…ありがとう」

その目の光はきっといつか強さに変わる。
それを信じて、私は今まで繰り返してきた。

マミ「ご馳走するわ」

にっこりと笑う巴マミ。
待って、こんな時間からラーメンは少し重いわ。

マミ「何がいいかしら?やっぱり味噌?」

さっきとは打って変わって期限の良くなった巴マミはるんるん、とスキップをしながら厨房へ行く。

ほむら「じゃ、じゃあ味噌で…。」

あぁ、さようなら、私のプロポーション。
こんにちは、ぽちゃほむ。
そんなくだらないことを考えていたら勢い良くドアが開く。

まどか「…こ、こんな時間に…ラーメンなんて…」

いきなり入ってきたまどかはわなわなと震え出す。
そうよね、流石に女の子らしくないわよね。

まどか「そんな不健康…だけどそれがそそる!!」

ほむら「」

まどか「夜に食べるラーメン」

まどか「それはとっても美味しいなって」

私は確信した。
今回のまどかは絶対に将来太るということを。

第三話

もう何も食べれない



ほむら「…」

私は困惑していた。
それはもちろんこの時間軸の巴マミの魔法が麺だったことやまどかが大のラーメン好きということももちろん理由になるけれど。  

杏子「…」

もちろんだけど。 

杏子「な、何見てんだてめぇ!」

ほむら「…別に」

巴マミと仲違いしたはずの佐倉杏子が何故か未練がましそうにこのラーメン屋のあたりをうろちょろしていたからだった。

ほむら「…入れば?」

杏子「はっ、こんなまずいラーメン屋誰が!」

あのよだれはなんだろう。

佐倉杏子。
数ある時間軸の中でも最も扱いやすく、また、天邪鬼な性格の持ち主。
言い換えるなら極端なツンデレ属性。
そして魔法少女としての力量なら巴マミを肩を並べる程。
ぜひ引き入れておきたいわ。

ほむら「食べたいなら入ればいいじゃない」

私はわざと挑発したように言う。
それができないことは分かっているのに。

杏子「…けっ」

くだらねぇ、そう言って佐倉杏子はその提案を一蹴する。
はやり二人の間には大きく深い溝があるようだ。 
そしてその溝が簡単に埋まるものではないことを私はこれまででよく分かっているつもりだ。

ほむら「…巴マミに会いづらいのね?」

杏子「…てめぇには関係ねぇ」

またそうやって。
意地でも巴マミの逆の道を行く彼女。
その背中はとても小さく見える。

ほむら「…巴マミに会いづらいなら私が作ってあげるけど」

今日は巴マミは不在だ。
まぁ店を任されているわけではないしそもそも今日は休みだが自分で修行する分には了解を得ている。
食べるのが私か、佐倉杏子か、それだけの違いだ。

杏子「…マジで?」

お腹をきゅるる、と鳴らせながら彼女は少し輝いた目で見てくる。
あぁ、やっぱり彼女は扱いやすい。

杏子「うめぇ!四日ぶりの飯だ!」

佐倉杏子はそういってがっつく。
よほどお腹が減っていたのだろう。

杏子「ふぅ」

食べおわり一息ついたあとで佐倉杏子は持っていた箸で私を指す。
きっと巴マミが見たら怒るだろう。

杏子「ところで、お前、私のこと知ってんのか?」

…。
言うべきだろうか。
やめておくべきだろうか。
しかし彼女たちに協力関係を仰ぐならいずれは言うかもしれない事実だ。
ならばいっそ早い方がいいかもしれない。

ほむら「…えぇ、知っているわ、あなたのことも、巴マミのことも、ね」

誰よりも境遇が似ていた筈なのに。
何かの手違いで袂を分かってしまった2人。
分かり合えないのではなく分かり合おうとしない。
そんな彼女達の複雑な事情を私は良く知っている。
 

杏子「はぁ、時間を繰り返してきた、ねぇ」

私が言い終えたあと佐倉杏子は認可には信じられないと言ったふうにこちらを見る。
まぁ、当然といえば当然だ。
現象が信じられないのではない。
きっと一人の女の子のためにそこまでやるということが信じられないのだろう。

ほむら「…率直に言うわ、あなたにワルプルギスの夜を倒す手助けをして欲しい」

ワルプルギスの夜。
最悪の魔女にして災厄の使い。
あいつが起こす全ての減少は災害扱いにされ。
アイツが通る場所すべてが無へ還る。
何度繰り返しても乗り越えられない壁の一つだ。

杏子「…事情は分かったよ」

佐倉杏子は何処か遠い目をしてそういう。

杏子「…あんたがそのまどかって奴を助けるためにするべき事、一応は理解したつもりだ」

どうも含みがある言い方だ。
私は魔女化の事実以外全て語り尽くした筈なのだけれど。
だから彼女の中のまどかは魔法少女ではなくただ一人の女の子というふうに認識されているだろう。

杏子「そこで一つの疑問だけどよ」

杏子「あんたラーメン作ってる場合か?」

ぐうの音も出ない。

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