ゾンビ娘「なんのために生まれて、何をして逝きるのか」 (66)

<浴室>


バシャァァァアアアア

ゾンビ娘(わたしの一日は、大抵朝の禊から始まる)ゴシゴシ

ゾンビ娘(前日に川から汲んでおいた水で、身体の表面に付着した腐敗物を専用の容器に流し落とす)ゴシゴシ

ゾンビ娘(別に、川の中に入って身体を洗ったりしても大した問題はないそうだが、魔導士様いわく)ゴシゴシ

ゾンビ娘(『その方がエコになる。そうした方が自然に優しい』ということらしい)ゴシゴシ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1416063976

バシャァァアアアア

ゾンビ娘(わたしは毎朝のこの時間が嫌いだ)ゴシゴシ

ゾンビ娘(だってたまに、身体の一部が洗う拍子にポロリと落っこちて、自分が死者だと嫌でも実感させられるから)ゴシゴシ

ゾンビ娘(不快な思いをしたくなければ、禊は、特別丁寧に優しく行う必要がある)

ゾンビ娘(……それが終わると、注射)ゴシゴシ

バシャァァァアアア

ゾンビ娘(魔導士様特製の、何が入ってるのかよくわからない液体を、注射針で喉元にブスリ)

ゾンビ娘(こうすることで、ゾンビとしての品格ある理性と、生者にも負けない肉体の鮮度を保つことができる……らしい)

ゾンビ娘(じゃあ数日やらないとどうなるのか。試したことはない。だって、怖いから)

チャプン

ゾンビ娘「ふぃー……」プカプカ

ゾンビ娘(それが終わると、朝ごはんの支度をして、前日に言いつけられていた時間の通り魔導士様を起こす)

ゾンビ娘(朝は、わたし個人が思うに、それほど生きている人間の普通の毎日と変わらないんじゃないかと思う)

ゾンビ娘(問題なのは、どちらかというと夜――)

ガラガラガラ

魔導士「おい。ゾンビ娘」

ゾンビ娘「なんでしょう?」

魔導士「これから私は眠るが、明日ちゃんと起こしてくれよ」

ゾンビ娘「はい」

魔導士「明日はやいんだから、お前は夜の方が体調がいいからといって、夜更かししないではやく休眠しろよ」

ゾンビ娘「はい、こころえています」

魔導士「そうか。ならよかった。お休み」

ゾンビ娘「はい、おやすみなさい」

ガラガラガラガラ ピシャ!

ゾンビ娘(わざわざ、お風呂の戸を開けて、言うことだったんだろうか?)

ゾンビ娘(……途中中断が入ったし、もう一回、復習し直した方がいいのかな?)

ゾンビ娘(いや、中断が入ったあと、最後をインプットするだけでいいよね。面倒くさい)



ゾンビ娘(――わたしは、毎晩、一日の朝昼晩に自分が普段何をするかを、強く意識してから明日に臨まなければならない)

ゾンビ娘(そうしないと休眠後、朝一番、自分が何をしたらいいのかもわからない、実に低能なゾンビになりさがってしまう)

ゾンビ娘(自分でも、これってとても面倒だなと思うけど、だって脳が腐ってるからしょうがない、と考えれば何かすこし慰められたような気持ちになる)

ゾンビ娘(だから明日のわたしにも、夜はこの考え方をぜひ試してみて欲しい、と今のわたしは思う)



ゾンビ娘(今日の確認、おしまい)

<翌日>


魔導士「ゾンビ娘。出かけるぞ」

ゾンビ娘「今日はどこへですか? 昨日のご依頼を果たしに行くんですよね?」

魔導士「ああ。あの街、の近辺にある森だ」

魔導士「どうやらそこに住んでるキノコどもがへそを曲げたらしくてな」

魔導士「近頃、街の方に無茶苦茶な量の白濁したべたつく霧を流してくるんだと」

魔導士「純粋に不快だし、視界も悪いし、これ以上こじれると大変困る。報酬は弾む、だそうだ」

魔導士「ほら、そこらの魔石をかごにいれて持ってくれ。せめてものご機嫌取りに使う手土産だ」

ゾンビ娘「はい」ガサゴソ

ゾンビ娘「わざわざはるばるここまで、あの街の人が魔導士様に頼みにやって来たとは意外ですね」

ゾンビ娘「妖精便を飛ばせば、それで済むことなはずですが」

魔導士「これは重要な頼み事だ、と私に知らせるための誠意ってやつだよ」

魔導士「まあもっとはっきり言ってしまえば、妖精便では、私がすぐに仕事にとりかからない可能性が高いと考えたんだろう」

魔導士「なんでも近々、王都から偉い貴族が直々にあの街を視察しに来るくらしい」

魔導士「で、街の住民たちからすれば、こんな悪条件で彼の方をお出迎えはしたくないと必死なのさ」

魔導士「散々念押しされた。今回はできる限りすぐ解決してくれ。本当に困ってるって」

ゾンビ娘「ははは、魔導士様ってものぐさですもんね」

魔導士「……まあ、いくらものぐさとはいえ、あれだけ必死に頼み込まれてはな。重い腰を上げざるをえん」

魔導士「大なり小なり面倒そうな案件、ってことで、あまり乗り気はしないが、はやく済ませよう」

魔導士「ほら、無駄話はここまでだ。行くぞ」

ゾンビ娘「はい、わかりました」

<森>

ゾンビ娘「しっかし、酷い空気だなぁ……」スタスタ

魔導士「あー、この空気、お前にもわかるのか?」スタスタ

ゾンビ娘「ええ、わたしにもわかります。いつもよりじめじめと、湿っていて不快ですね」スタスタ

魔導士「バカ者。私が言ってるのはそういうことじゃない。雰囲気が殺気だってるって話だ」スタスタ

ゾンビ娘「え? そうなんですか?」キョトン

魔導士「……訊いた私がバカだったよ」スタスタ

ゾンビ娘「ちょっと! なんですか、その言い草っ!」スタスタ

<森奥>


魔導士「よし、止まれ。ここらでいい」

ゾンビ娘「はい」ピタッ

魔導士「いつもなら、ここにある木の幹のどれかをドンと蹴とばして彼らを呼んでも、しこたま怒られたうえでどうにか許される」

魔導士「――程度の信頼関係は築けていると思うのだが、今それをやったらこじれるどころじゃすまん」

ゾンビ娘「まあ、でしょうね」

魔導士「ということで待とう」

ゾンビ娘「待つ?」

魔導士「ああ、数時間だか一日だか二日だか知らんが、相手から顔見せしてくれるのを気長にな」

魔導士「どうせ今だって、挙動言動は誰かから逐一チェックされてるんだ」

魔導士「こちらの誠意がきちんと伝われば、出てきてくれるはず」

ゾンビ娘(見られてるのに、木を蹴とばしても、とか言ったんですか)

魔導士「寝るから、何かあったら起こせよ」

ゾンビ娘「はい。わかりました」

<森奥 数時間後>

ガサガサ ズズズ…


魔導士「来たか」

ゾンビ娘「……」zzzz

魔導士「おい、起きろ。来た」ユサユサ

ゾンビ娘「え? ……あ、はい」ガバッ


?「――貴様が使いか。……他の人間どもに比べればマシだが、どの道同じことよ」


魔導士「お久しぶりです」

魔導士「相変わらずお変わりのない風貌で」



?「変わりない? ふん、変わらぬものなどないわ。ゆっくりであれ、急ぎ足であれ、みな変わってゆく」


ゾンビ娘(うわー……なんか面倒そうなヒト? ですね……)


魔導士「単刀直入に言います」

魔導士「どうして街に霧を流すのですか? 互いの領域を侵犯しない、という協定が結ばれたではないですか」


?「何を言う、貴様らが、先に我々の聖域を侵犯したのがすべての始まりだ」

?「一方的に破られた協定を、我々だけ律儀に守ってやる道理はない」


魔導士「……誰か人間が、聖域を侵した、と?」


?「そうだ。思う存分荒らしまわりおった。今だってやって来おる」

?「だから我々は、我々にできるその侵犯の報復を行っているまでよ」

魔導士「しかし、ですね。あの街の住人はあなたたちとの共生を必要としているのです」

魔導士「とてもそんなことをするとは……」


?「だが、あの街の方角からうつけた輩どもめがやって来ているのは紛れもなく事実」

?「我々は、我々の把握できる範囲で、できるだけの抵抗をしているにすぎん」

?「それが不服だと言うのならば、お前が、我々の目の上のたんこぶを取り除けば、丸々解決よ」


魔導士「…………」

魔導士「その荒した人間たちは、また、やってくるのですね?」


?「ああ、間違いない」

?「ご丁寧にも森の中で、また来る旨を仲間内で話しておったからな。この耳で聞いて知っている」


魔導士「それなら、私と、この娘がその人間たちをひっとらえて、誰の差し金かを吐かせ、根本から遺恨を潰しましょう」

魔導士「それなら霧を止めていただけますか?」


?「それなら我々も、この霧を止めることに関してやぶさかではない」

?「ちゃんと、根本の原因が究明され、事態の事実関係が判明し、同じ事態が起こらないだろうと一応の保証が得られるならばな」


魔導士「そうですか、それはよかった」

魔導士「では、私たちはこれから聖域に向かいます。構いませんね?」



?「ああ」

?「だが、わかっておろうな?」


魔導士「はいはい、わかってますよ。川で禊を行ってからにしろ、でしょ?」


?「言っておくが、その娘に禊はいらんぞ」

?「われわれと同じ、一応自然のものだからな」


魔導士「……いらないんですか?」


?「いらん」

?「土くれ。塵。灰。動いているだけの死体」

?「こんなものをわれわれの神聖な浄めの川に入れては、むしろ川が穢れてしまって非常に迷惑だ」


ゾンビ娘(しゅ、殊勝に黙って話を聞いてれば、急にずいぶん失礼な物言いしますね……このヒト)

<聖域>


ゾンビ娘「あー……。ここら辺なら、キノコさんに話を聞かれなくて済むんでしたっけ?」

魔導士「ああ。ここは彼らも手、というか根っこを伸ばさないからな」

魔導士「ここには育ち途中の魔石と、一面の土と、十分に成長した魔石しかないよ」

ゾンビ娘「そうですか」

ゾンビ娘「じゃあ、思う存分愚痴が言えますね……!」ワナワナ

ゾンビ娘「私へのあの扱い、酷いと思いませんか!? なんか喋り方というか声も、始終威圧的で傲慢でしたし!」

魔導士「あー、酷いっちゃ酷い……が、仕方のない面もあるよ」

魔導士「彼らも彼らで、自分の誇りを保つのに、環境の変化についていくのに、必死なんだ」

魔導士「その昔、人間は彼らの助けを借りて、彼らに知恵を教わって、敬いながら生きていた」

魔導士「ところが今は、人間の思惑一つで、今回みたいに自分たちの森をいきなり滅茶苦茶にされて、しかもろくに文句も言えない」


魔導士「その本質上、人間より下の身分に置かれているゾンビ、人間に使役されるしかないゾンビ」

魔導士「そういうものに彼らが今向ける視線はちょっとばかり複雑だ」

魔導士「彼らの時間感覚からすれば、人間との立場の逆転は、私たちが王様として夜ぐっすり寝て、朝になったら家臣に裏切られていたー」

魔導士「とかそういう例と大体同じくらい短い間に起きたと感じる出来事だったわけでな」

魔導士「物の見方、態度、多少混乱していても仕方ないなと思って付き合うしかない」

ゾンビ娘「はー、色々大変なんですねぇー」

ゾンビ娘「わたしと魔導士様のお気楽さとは大違いです」

魔導士「私の経験上、大抵みんな、何かしら背負ってるものだよ」

魔導士「何も背負わずずっと生き続けるっていうのは、なかなか大変だ」

魔導士「だからこそ、私はその境地を目標としてして日々をせっせと生きているわけだが」

ゾンビ娘「ははは、魔導士様らしいですね」ケラケラ

ゾンビ娘「……で、そういえば、この待ち時間っていつまで続くんですか?」

ゾンビ娘「明日? 明後日?」

魔導士「いつって、そりゃあ不届きものどもが侵入して来るまでさ」

魔導士「……ほら見ろ、あれ。あの大きい魔石、もはや立派な岩サイズの奴。印がついてる」

魔導士「次は、あれを浮かせて持ち帰るつもりだろう」



魔岩「」ドーン!


ゾンビ娘「え? あれ、持って帰るんですか? 無茶苦茶目立ちません?」

魔導士「目立つに決まってる」

魔導士「だからこそ、人手がいる」

魔導士「風の魔法で運ぶ者たち、隠蔽の魔法をかける者たち……。ずらずら大人数で来るだろうな、多分」

魔導士「一人の優秀な人物を雇うより、数で揃えた方がコストがかからない以上、それほど私たちに心配の必要はないだろうが」

ゾンビ娘「う、うえぇ……。めんどうだぁ……」

魔導士「安心しろ。少なくとも餓死はない。森の果実やら食えるものを、とにかくキノコたちが親切にたくさんわけてくれるだろう」

魔導士「偏屈だが、彼らは存外優しくて扱いやすいんだ」

ゾンビ娘「魔導士様、わたしはゾンビだから、食べ物があっても慰めにならないこと、わかっててそれ言ってますよね?」

今日はここまで
神撃のバハムート(アニメ)のリタとかいうゾンビ娘可愛すぎたので
ゾンビ娘SS書いてみたい欲が抑えられなくなった

ゆっくり気が乗ったときに書いていく予定です

<一週間後 聖域>


ピーン バシュン


ゾンビ娘「あっ」

ゾンビ娘「ようやく反応ありましたね、罠に」

魔導士「いいから速く行け」

ゾンビ娘「はいはい……」ダッ!


盗賊A「うわっ!」バタン

盗賊A「い、いてえっ! 足をやられたっ!」ジタバタ


盗賊女「っ!」

盗賊女「クソ! 誰か張ってやがったのか!」

盗賊女「おい、ずらかるぞ!」

クズ魔法使いA「え?」

盗賊女「ずらかるって、言ってるんだよ!」

クズ魔法使いA「し、しかし……」

盗賊女「バカッ! あたしらが来るとわかってて張ってたんだぞ!」

盗賊女「こういうのは、ヤバい! そう相場が決まってんだよ! さっさとずらかるのが一番なんだ!」

盗賊女「今までで儲けは充分出たし、目的も一応最低限は達してるじゃないか!」

クズ魔法使いA 「ですがねぇ……」



ゾンビ娘「は~い、こんにちは~」ニコニコ


盗賊s「っ!!!!」



ゾンビ娘「てやー!」ザンッ!

盗賊BCD「「「ぎえー!」」」


クズ魔法使いB「う、うわああ!」バシュッ!


ゾンビ娘「当たるかぁっ! わたしにそんなノロい魔法がっ!」サッ


ゾンビ娘「てやー!」ザンッ!

盗賊EFG「「「ぎえー!」」」


ゾンビ娘「てやー!」ザンッ!

盗賊HIJ「「「ぎえー!」」」


ゾンビ娘「てやー!」ザンッ!

クズ魔法使いB「ぎえー!」


クズ魔法使いA 「あっ、あっ、あっ……」ガクガク


盗賊女「お、おいっ! 何突っ立ってんだっ!」

盗賊女「あんたら全員で魔法を一点集中させて殺るんだよ! はやく!」


クズ魔法使いA「――っ!」


クズ魔法使いA「う、うおおおおおおおおっ!」バシュッ! バシュッ!

クズ魔CDEFG「「「「うわー!」」」」バン! バン! バン! パン! パン!



 バシュッ! バン! バシュッ! バシュッ! パン、パン、パン!




 シーン…



クズ魔法使いA 盗賊女「…………」


ゾンビ娘「」


クズ魔法使いA「も、もろに当たったぞ!」

クズ魔法使いA「で、倒れたまま、起き上がってこない!」

魔法使いA「これはやったかっ!?」



盗賊女「……ダメっぽいよ」



ゾンビ娘「――あいにく魔力の耐性はかなりある方というか、頑丈なんですよね、ゾンビなので」

ゾンビ娘「素人に数をばかすか撃たれても、ぶっちゃけ意味がないというか」ムクリ


魔法使いA 「う、うわあああああああっ!」


盗賊女(あっ、これは間違いなく負けたな……)

<数分後>


魔導士「終わったか?」スタスタ

ゾンビ娘「はい。あらかじめ渡されていた捕縛符で、動きは全員封じてあります」

ゾンビ娘「戦闘中、それなりに斬りましたが、誰も殺してはいません」

魔導士「そうか」



盗賊女「……!?」


盗賊女「なあっ! なあっ! あんた!」

魔導士「ん?」

盗賊女「あんた、うん、やっぱりそうだ!」

盗賊女「覚えてないかい? あたしだよ! 覚えてないか!」


魔導士「あたしだ、と急に言われても……」

盗賊女「小さいころ、街傍の川に女の子と釣りしに行った記憶、あるだろ?」

盗賊女「えっと、他にぱっとあたしが思い出せるのは……」

盗賊女「うぅー! あんたの名前さえわかりゃ、知り合いだという証明は簡単なんだが、多分一度も聞いたことないんだよなぁ」

魔導士「……もしかして、君は町外れの家に住んでた女の子か?」

盗賊女「!」

盗賊女「ああ! そうだよ! 思い出してくれたか!」ホッ


ゾンビ娘「お知り合いなんですか?」

魔導士「うん。まあ、俗に言う幼馴染という奴だよ」

魔導士「私が知っていたころの彼女は、母親と二人きり、ほとんど村八分にされながら町外れに住んでいた」

魔導士「彼女らは毎日をぎりぎり食いつないでいたんだが、あるとき家を訪ねてみれば、どこかへ知らぬ間に雲隠れしていた」

魔導士「それから今日まで、とっくにのたれ死んだに違いない、と思っていた。けれど、あたしだと言われてみれば、確かに面影がある」

魔導士「……どうやらとんだじゃじゃ馬に成長したようだが」

盗賊女「フン、あたしも生きるためにはあのころより一層逞しくならざるを得なくてね」


ゾンビ娘「お二人のご縁は、えーと、どういったところから?」

魔導士「どういったところ?」

魔導士「私の家系は、代々深く魔法に関わってはいたが、正道の魔法を究明していなかった」

魔導士「だから私も子供時代、彼女と同じとまではいかなくとも、あの街で生きていて肩身が狭かった」

魔導士「そんなところからだろうな」

ゾンビ娘「へぇー」

魔導士「君は、初めて会った日のこと、覚えてるか? 私は――」

盗賊女「ハッ、やめやめ。そんな馴れ初めのあれこれ、今更細かく話し合ってもなんにもならないよ」

盗賊女「それよりもあたしがいま話したいのは、あんたが思い出してくれたなら、あたしのために何か便宜を図ってくれないかってことだよ」

盗賊女「決して短くない親密な交流のあった、あんたとあたしの仲だろ」


魔導士「……便宜って、何をどういうふうに?」

盗賊女「え? いや、あたしが被る刑罰が軽くなるようとりなしてもらうとか、あるじゃん」

盗賊女「お咎めなしで見逃して、逃がしてくれ、とまではいくらなんでも言わないけど」

盗賊女「あたしは雇われてた奴に、この近辺の地理に明るいってことで、遣わされたんだ」

盗賊女「今回の狼藉は、何もあたしがやりたくてやったことじゃない」

盗賊女「この任務を受ける前、ひどいヘマをしてね。失態を手っ取り早く挽回しなきゃ仕事どころか命がヤバかった」

盗賊女「あいつら、元手下でも、殺すときは容赦ないんだ」

盗賊女「だからそういう事情を考慮して、それなりの刑でもって許してくれるようにって――」


魔導士「それは悪いがお断りだ」

盗賊女「どうして? 風の噂できいたよ。かねてからの念願通りほどほどに出世したって」

盗賊女「あんたの家柄は、立派ではないかもしれないが、知名度はあるし信頼もされてるだろ」

盗賊女「一応物は試しに言ってみてくれるくらいいいじゃないか」

盗賊女「まさかそれで、何か減るもんがあるわけじゃないでしょ?」

盗賊女「生きていくための学がない、才もない、憐れなかつての友人を助けてくれたって、罰はあたらないと思うけど」


魔導士「なんだ、君のなかで私は『かつての友人』という扱いになっているのか」

盗賊女「あたし自身は、今でも友人……でありたいと思ってるよ」

盗賊女「でも、あんたにそのつもりがない一方通行なら、それは無理だろ」

魔導士「私だって、君と今も友人でありたいよ」

魔導士「数少ない友人との思い出、関係は、大切になるべく綺麗な形で保っておきたい」


盗賊女「だったら――」

魔導士「しかしそれとこれとは話がまったく別だよ」

魔導士「君に下される裁きがどういう内容になろうとも、私に口出しする謂れはない」

魔導士「……私の境遇は、今の君の立場とよく似ている」

魔導士「私は、困ったあの街の住民に頼まれて、そして、キノコたちに頼まれて、遣わされた」

魔導士「君の罰の重さに口出しする謂れのある者がいるなら、それはあの街の住民と、キノコたち、つまり当事者だけだ」

魔導士「誰かに言われたから。全部上が悪い。自分は集団における駒。だから、仕方なかった」

魔導士「そういう理屈で、直接降りかかってくる責任のすべてを逃れきることはできない、と私は思うね」


盗賊女「……チッ」

盗賊女「あんたは、そんなガチガチの理屈より、身近な目の前の友人を、ひとまず助けようと努力してあげるべきだ」

盗賊女「そういう甘っちょろい考え方をする、適当な生き方にどっぷり浸かった奴だとてっきり思ってたよ」

魔導士「昔はそうだったの、かもな」

魔導士「だとしても、変わったんだ。時間が過ぎて、君と同じように、私も」



魔導士 盗賊女「………………」


ゾンビ娘(記憶が全然頭に残らない、スカスカなゾンビ頭の持ち主としては)

ゾンビ娘(昔、昔、って互いに話しあえてるだけで、見てて無茶苦茶羨ましいものですね)

ゾンビ娘(久しぶりの再会にもかかわらず、場の空気が最悪に落ち込んでるのは、そりゃ見てればわかりますが、ね)

魔導士「……おい」

ゾンビ娘「は、はいっ?」ビクッ


魔導士「そこで伸びてる汚いおっさん、しっかり抑えろ」


盗賊D「」


魔導士「そして、捕縛符をはがしたら、頬を張ってでもなんでも、起こせ」

魔導士「雇い主と、その目的、知ってることをさっさと洗いざらい吐いてもらう」


盗賊女「なあ」

魔導士「……なんだ」

盗賊女「言っとくが、質に差はあるにせよ、あたしらは一応全員プロだ」

盗賊女「あの街で、あたしらが急遽調達した魔法使いどもは、違うだろうがな」

盗賊女「あたしらの口は元から堅いし、それに重要な情報にはロックがかけられてる」

盗賊女「あっさり情報を喋るなんて、期待しない方がいいよ」


魔導士「残念ながらそうはいかん。包み隠さず潔く、絶対に喋ってもらうよ」

魔導士「無理にでも喋ってもらうのは、私が携わる魔法の得意分野にちょうど含まれてるからな」

盗賊女「得意分野……?」

魔導士「――頭の中の思考を魔法で弄り回せば、そこによほどの魔法の実力差でもない限り、普通誰だってペラペラ喋る」

魔導士「この尋問を、目の前の君に対してまずやらないのは、友達でいたいからだ」

魔導士「オーケー?」

今日はここまで

一週間何も書かず放置しちゃいましたけど
多分、今日からは書く気になって、更新ペースあがるんじゃ……ないだろうか、という予定です

<森奥>


?「この騒ぎが誰の差し金によるものか、わかったのだな?」


魔導士「はい。わかりました」

魔導士「これからこいつらを王都まで送り、同時に首謀者の審判を要求してもらうつもりです」


盗賊s「…………」グテーン


?「そうか」


魔導士「街への霧は、止めてもらえますか?」


?「ああ」

?「ただし、同じ内容の侵犯がまた起これば、すぐさま再開する」

?「という条件で構わないだろうな?」


魔導士「……ええ、それは、構いません」

<森 入口>


ゾンビ娘「ふぃー。やっと終わったけど、疲れましたぁ」

ゾンビ娘「ここ一週間、入浴すらろくにできなかったですからねー」

魔導士「とは言ってもまだしばらく家には帰れんがな」

ゾンビ娘「たとえ帰れなくとも、次に来る大抵の境遇はマシだと思えるってもんです」

ゾンビ娘「キノコたちが一応の水を毎朝支給してくれていたにせよ」

ゾンビ娘「敵を待つあんな落ち着かない心境じゃ、洗い落とせたはずのものも隅々落としきれてませんし」


ゾンビ娘「……まあ、そんなことよりも、です」

ゾンビ娘「キノコとあんな約束しちゃって大丈夫だったんですか?」

ゾンビ娘「『ただし、同じ内容の侵犯がまた起これば、すぐさま再開する』」

ゾンビ娘「今って、ちゃんと首謀者をお縄につかせられるかどうか、まだちょっとわからない状況だと思うんですけど」

ゾンビ娘「何しろ、相手は王都の貴族様ですよ? 正直揉み消されそうで……」


魔導士「だとしても、あそこで条件に関して揉めるよりはマシだろう」

魔導士「私たちにできるのは、起きたことをきちんと報告することと、また同じ事件が起こったらそれに対処するだけ」

魔導士「もし次回があるとすれば、首謀者も今回の事態に学ぶだろうから、より解決は困難になるがな」

ゾンビ娘「うへぇ……」

魔導士「行くぞ、王都に。こんなところでうだうだ考えていても始まらん」

魔導士「あの街に視察に来る偉い貴族、つまりこの事件の首謀者と、こいつらを連れ王都へ向かう道中で鉢合わせると面倒だ」

魔導士「だから少し遠回りをする」

魔導士「しかも、事態を察した奴が行動を起こす、なんてことのないようできるだけ急いで、な」


<約一週間後 王都に続く街道傍 とある林>


盗賊女「ねえ」スタスタ

魔導士「ん?」スタスタ

盗賊女「あんたって本当にそういう家系の奴だったんだね」

魔導士「というと?」

盗賊女「だって、この人数を自分の思うままに動かすなんてさ、おかしいでしょ」

盗賊s「…………」ズラズラ

魔導士「意識がない状態でなら、簡単だよ」

魔導士「全員に同じ、歩くという動きをさせているだけだしな」

盗賊女「ふーん」


盗賊女「…………」


盗賊女「王都ももう、近いね」

魔導士「ああ」

盗賊女「お別れって、わけだ」

魔導士「ああ」

盗賊女「……もし次があったら、あたしを敵に回したこと、後悔させてやる」

魔導士「次?」

盗賊女「今回は、あたしの完敗だ。優秀な手駒っていう、埋めがたい力の差もある」

盗賊女「でも、だからといって、次やりあって、今回と同じ結果になるとは限らない」


魔導士「こうして、意識を失わせ操る状況を極力減らし、君を精一杯友人として扱おうとしていても?」

魔導士「それこそ、君が私に要求した便宜の一種じゃないか? これは」

盗賊女「あたしが無様に負けたことと、それは話がまったく別だ」

盗賊女「この待遇に一応感謝はしてるけど、このまま牢獄にぶちこまれることに、どうせ違いはない」

魔導士「そうか」

盗賊女「あんたと遊んでた、あの小さいころの思い出、あたし、嫌いじゃないよ」

盗賊女「でも、そういう関係はもう終わった」

魔導士「……そうか」


盗賊女「それにしてもあのゾンビ女、どこ行ったんだい?」

魔導士「さあ。木の実なりなんなり、私たちの食糧を充分見つけたら帰ってくるだろう。あと、水もか」

魔導士「この、今は意識のない奴らも、食わせてやらなくちゃならないからな」

盗賊s「…………」ズラズラ

魔導士「そうじゃなきゃ死んじまう」

盗賊女「……いっそのこと殺しちまえば楽なのに、ご立派なこった」

魔導士「私の仕事じゃないからな、それは」

<王都 審理館>


観測官「わかりました。こやつらの処分については、あとは我々が裁判その他の事務をやっておきます」

盗賊s「…………」

盗賊女「…………」

魔導士「お願いします」

観測官「それでは、観測機に目を当ててください」

魔導士「はい」

観測機「」ピガー ピガー

魔導士「っ!」

魔導士(相変わらずこの、頭の中を直接見知らぬ誰かに覗かれているような感覚には慣れんな……)

魔導士(自分の得意分野に属する魔法だというのに、自分が直接その対象になるとこれだ……)

<夕暮れ時 王都 審理館前 広場 >


魔導士「ふー」

ゾンビ娘「あっ、終わったんですね」テクテク

魔導士「ああ。奴らの身柄は引き渡したし、記憶と感情を、事件にかかわる部分、証拠として洗いざらい吐いてきた」

魔導士「私の魔法による誤った自白はあり得ないし、事実の証明には十分すぎる量の証拠だ」

魔導士「これで私たちがやれることは終わった。あとは適切な対応が行われることを祈りながら、はやく帰ろう」

ゾンビ娘「ですけど、この時間帯から王都を出てその近辺歩くとなると、ちょっと治安悪いですよ?」

ゾンビ娘「わたしとしては、疲れてるのに今更また面倒に巻き込まれるかもって可能性考えると」

ゾンビ娘「急いでるわけでもないですから、出発は明日でいいかなーって気が……」

魔導士「……そうだな、今日は宿で休んで、明日出ようか」

<王都 街路>


魔導士「おい」

ゾンビ娘「なんですか?」

魔導士「道の脇に寄れ、魔道長の行列だ。道の真ん中にいたら、馬に蹴られる」

魔導士「彼がこっちまで来たら、他の通行人となるべくタイミングを合わせて、片膝をつき頭を下げろ」

ゾンビ娘「わかりました」


魔道長「…………」パカラ パカラ

お供s「…………」パカラ パカラ


ゾンビ娘(あれが――)

魔導士「下げた顔をまだ上げるな」

ゾンビ娘「はい」



パカラ パカラ…


ゾンビ娘 魔導士「…………」


ゾンビ娘「……行き、ましたね。立って顔あげていいですか?」

魔導士「ああ」

ゾンビ娘「あれがこの国の最高権力者、なんですよね、人間の」

魔導士「実質の、な。あくまでも、形式上の最高権力者は国王だ」

ゾンビ娘「おかしい」

魔導士「……?」


ゾンビ娘「手が、震えてるんです。あの人が通りかかったのを一目見たときからずっと。こんなの初めてです」

ゾンビ娘「魔物相手ならまだしも、人間相手にゾンビであるわたしが、こんな……」

魔導士「彼はこの国最高の魔法使い、魔力をもっともその内に抱いている人間だからな」

魔導士「予期せぬ多量で緻密な魔力との突然の遭遇で、身体の機能がどこかちょっと変になってるんじゃないか?」

ゾンビ娘「そうなんでしょうか?」

魔導士「さあね、私に訊かれても困るよ」

魔導士「私はゾンビじゃない」

ゾンビ娘「……そう、ですね」

<夜 王都 宿 二人部屋>


ヒュゥゥゥゥ ドーン!


魔導士「っ!」ピクッ

ゾンビ娘「どうしました?」

魔導士「こういうの、苦手でな」

ゾンビ娘「ええ? 花火の何が苦手になれる要素があるんですか?」

ゾンビ娘「わたし、大好きですよ、花火」

魔導士「俺も昔は好きだったんだが、今は音と光がきつい」

ゾンビ娘「それが、ズーンと来るのが、いいんじゃないですか」

魔導士「そんなこと言ったって苦手なものは苦手なんだよ」


ヒュゥゥゥゥ ドーン!


魔導士「っ!」

ゾンビ娘「なんかその反応、可愛いですね」

魔導士「うるさい、ほっとけバカ者」

魔導士 ゾンビ娘「……」

ゾンビ娘「あー、魔導士様。せっかく偶然お祭りの日と被ったんだから、二人でどっか行きません?」

ゾンビ娘「ただでさえ王都なんて滅多に来ないんです」

ゾンビ娘「こんなベッドの上でだらだらしてたら、わたしたち腐っちゃいますよ」

魔導士「面倒だから却下」

ゾンビ娘「えぇー」

魔導士「明日に備えて、早く寝るぞ。私は早く帰りたいんだ。だから早起きする」

ゾンビ娘「……はい。わかりました」

スレ立てしてから全然進んでなくて笑う
エタらせる気はないし、これからペース上がるだろとは今も思ってるんですが
「じゃあこの二週間空いた時間何やってたの?」
と聞かれると、本読んでた、とか、アニメ見てた、とかが大半なので、ペースアップできる自信はない

でも、頑張ります。多分

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