井之頭吾郎「岐阜県 興宮のクリームパフェ」 (37)

おきのみや…

…初めて来る場所だ。

「…?」

『エンジェルモート チケットをお持ちの方に只今スペシャルクリームパフェ無料サービス!!』

…。
チケットは、持ってないか。

何処で手に入るんだろう?

「…あ」


「ありがとうございましたー!また来てくださいねー!」
「また来るナリよー!!!」


……。
このご時世に、凄い格好だなあ。

寒くないのか?
…というより、アレはそういう問題にならないのか?

「…寒っ…!」

…今年の冬は、冷えそうだ。



時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たすとき、つかの間、彼は自分勝手になり、自由になる。
誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高の行為。
この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の癒し、と言えるのである。

『岐阜県 興宮のクリームパフェ』

……。

…うわぁ~。


……凄い田舎だ。


さっきの所からそんなに離れてないと思うが。

何だか過去にタイムスリップしたみたいだ。

「…お」

合掌造りの家だ。
なかなか見ないよなあ。

ああいうのって、風情があって良い。

心が、洗われるようだ。

「…あ」

…あそこだな。

すぐに分かってしまう。

この昔ながらの家が多い中、一つだけポツンと。

…あそこだけ別世界なんじゃなかろうか。

「すいません。本日お約束していた井之頭と申します。前原さん、いらっしゃいますか?」

…しかし、こんな所にスーツのおっさんが来るのも珍しいだろうな。

道ゆくおばあちゃん達の、宇宙人を見るような目が、…少しキツい。

「…」

……遅い。

まさか、留守なのか?
…日にちは間違えては…ないよな。

「…」

……もう一度、呼び鈴を押して出なかったら、電話しよう。

「…前原さん、本日お約束していた…」

「あー!どうもどうも!よく来てくれました!待ってましたよ~!」

「…」
「……井之頭さん?」

「あ、はぁ…そ、それではお邪魔します」

「どーぞどーぞ!おーい、お茶用意してー!」

………待たせ過ぎ。

「いや~しかし有難いですね!私の絵を店に飾ってもらえるなんて!」

「ええ。私の知人が経営している旅館の玄関に一枚欲しいと。何でも、前原さんの作品を見て非常に気に入ったと申していました」

「それは嬉しいですね!何枚でもお描きしましょう!…いやね?私実はですね…」


……長くなりそうな予感。
しかし、俺とそう年齢は変わらなさそうなのに、随分若々しく見える。

…俺が老けて見えるのか?
髭も何だか、シャレオツ。

…俺も髭生やしてみようかな。
意外と似合ってたりして。

「…で、息子も30になって子供も産まれてまたこれが可愛いんですよ!!……井之頭さん?」

「!!…は、はい」

「私の息子は中学の頃から色んな子からモテましてね?同級生や上級生からもアピールを受けてたみたいでね!…しかしこの息子が鈍い鈍い!!…で、大学卒業してやっと付き合いだしてですねぇ!」

………おいおい、仕事とは全く関係の無い話しだしたぞ。
…しかし息子さんがいるのか。

…子供を育てるって、難しくないのかな。
…俺には、ちょっぴり無理そう。

「…それでは、この日までによろしくお願いします」

「はい!ありがとうございました!…あ、井之頭さん!」

「は、はい?」

「話を聞いてもらったお礼と言いますか…」ゴソゴソ


…一応、自覚はしてるんだ。

「…はい!これ、エンジェルモートのチケットです!!興宮から来たんですから、きっと目にしてるでしょ!」

……これって…。

「…あ」

…あの、ちょっといかがわしそうな…。

大丈夫かな?

「あ、いえ、前原さんが貰った物ですから…」

「いいんですよ!私は、ほらこんなに!!!」

……やっぱり、若々しい。
あの店、人気あるんだなあ。

…結局、貰ってきてしまった。

俺はどうも、押しに弱い。

…いや、しかし何だか甘い物が無性に食べたくなってきたぞ。

スペシャルクリームパフェ、か。

…いかん。
思えば思うほど、口の中が甘さを欲しがっている。

……。

駄目だ。
食べ物の事を考えた途端。

無性に…。

腹が。

減ってきた。

…甘い物で腹が満たされるかどうか分からんが、とりあえず行ってみよう。

男なら、当たって砕けろだ。
もし駄目だったら、また別の店でガッツリ行こう。

「…」

エンジェルモート。
…来てみたはいいが、いかんせん客層が…。

…偏ってる気がする。

「…!いらっしゃいませー!一名様ですか?」

……まさかの降りてきた!!

「あのー、お客様?」

「あ、いえ、その…」

「あ!チケットをお持ちなんですね!でしたらどうぞ!今ならキャンペーン実施中ですので!」

……もう入らなければいけない空気になってる。

ええい、行ってしまえ。
井之頭吾郎、いざ参る。

「わぁ~!素晴らしい眺めでゴザルなぁ!」
「お持ち帰りしてしまいたいですなぁ!」



……とっても場違いな気がする。
少なくとも俺には、分からない世界だ。

「…ん?」


「久しぶりに来たけど、本当に美味えなあ!」
「食べ過ぎたらまた太るよ?」
「甘いもんは別腹だろ?…久しぶりに、魅音のエンジェルモート制服姿を見れたら、満腹になれるんだがなあ?」
「け、圭ちゃん!もう私そんな年齢じゃないよ!」
「ははははは!おじさんはどうしたおじさんは!」
「も、もう!今日は晩御飯手抜きにしてやろうかな!」
「そ、それだけは勘弁を…」





……夫婦かな?
ああいう客もいるんだなあ。

しかし、時代は変わるものだ。
今では、女の方が強い。

尻に敷かれるなんて、よく言われてるもんな。

「お待たせしましたー!スペシャルクリームパフェです☆」

お、来たか。
…うわぁ~…なんじゃこりゃ…。

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…でかい。
こりゃ想像以上だ。

…一人で食べる量じゃないよな、どう見ても。

ここはお一人様だと、見た目も飯もキツそうだ。

「…いただきます」

…。
パフェを食べる時の初めの一口って、幸せだ。

クリームの甘みがじんわりと広がって、体の疲れを癒してくれる。

…。

トッピングのチョコも、いい味出してる。
お菓子を刺しただけなのに、何か特別感がある。

「…」
やっぱり、パフェにはイチゴやバナナがつきものだよな。

パフェというのは、ある意味絵に似ている。

クリームやトッピングのお菓子で描く芸術だ。

見てて楽しい、食べて楽しい。

こういうのも、アリアリ。

「…………ふぅ」

…やっぱり、多い。
こんなおっさんが食べきれる量じゃないのか。

…昔だったらきっとすぐにたいらげられたよな。

俺も年を取ったものだ。

「……!!」

『私はいいんですよ!!ほらこんなに!!!』

…歳は関係無い、か。
ならば、俺もまだまだ現役!

俺は年を取ったんじゃない、重ねたんだ。

前原さんを見てたら、そんな感じがする。

俺もまだまだ負けてられない。
それに無料で貰ってるんだ。
食べなきゃ店に失礼だ。

周りの武将達を切り崩していって…。

最後残った大将、イチゴ。

…。

イチゴ将軍、打ち取ったり。

「ありがとうございましたー!またお越し下さいねー!」

…やっぱり、寒くないのかな。
あんな格好で外に出て、客を見送って。

…しかし食べ過ぎた。
しばらく、甘い物はいいかな。

「…ん?」



「悟史君、…久しぶりにエンジェルモート制服姿、見せちゃいましょうか?」
「い、いいよ…それに今日は魅音達も来てるんだろ?」
「あら、お姉の方が好みだったりするんですか?…詩音、泣いちゃう」
「そ、そんな事ないよ!詩音の方が…あ」
「……うふふ」



……さっきの夫婦の奥さんに似てる、というか同一人物。
…双子かな?

…ま、いいか。




ゴロ~

ゴロ~

ゴロ~

イッノッガシッラ

ゴロ~

ゴロ~

ゴロ~

イッノッガシッラ

本日久住さんがやってきたのは…

「はい!…実はですね…ここ、岐阜県です!」
「と言っても白川郷じゃないんですよ…行ってみたいです(笑)」

そんな中、久住さんにスタッフから何やらプレゼントの飲み物が…

「あら!これはこれは…うん、グレープフルーツジュースです(笑)」
「………店には無いんだもんね(笑)」

「うわ、本当に凄い格好してますねぇ…ちょっと嬉しいかも(笑)吾郎は興味無いみたいだけど(笑)」

そして久住さんが注文したのは…

「お待たせしましたー!ホットケーキでーす☆」

「いや~……正直、味なんかもう気にならないよね(笑)」

そんな中、店の店長さんとちょっぴりお話…

「このお店って、昭和からあるんですか!?」

「そうなんですよ~…その時は、私と、わたしの姉があの格好してました(笑)」

「ええー!見てみたいなそれ(笑)」

「いや~ん(笑)…でも大変でしたよ?結構ファミレスとかフランチャイズのカフェとか出来て、皆そっちに行ってしまいますからね」

「いや僕はこっちに来るね(笑)」

「あははは!是非ご贔屓に…(笑)」

久住さんも思わず鼻の下が伸びるこのお店、エンジェルモートは岐阜県、興宮駅から徒歩5分!

その時はチケットを忘れずに!

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