叢雲「拒否…ですって?」 提督「拒否…だと?」 大和「はい、拒否です」 (733)

前作は
叢雲「私たち、何のために・・・」 提督「・・・それが俺たちさ」
となります。
前作を読まなくても読める物になるよう気をつけるつもりではありますが、関連する言葉など出てくるため前作を読んでいただけると助かります。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1415878009

深海凄艦に対抗できる艦娘という戦力がありながら、艦娘が市民団体の妨害により出撃できずに海上自衛隊と民間船に多大な被害が出た「北大東島沖事件」から、三ヶ月が経った。
事件の中心となった小規模鎮守府である那覇鎮守府は呉鎮守府との統合か、増強かで意見がわかれた。
当初、県民感情に配慮すべきと言う意見が多数だったが、神出鬼没な深海凄艦への対抗拠点は多い方が良いと言う意見も出始めた事。
現在交渉中の東南アジア各国との対深海凄艦協定を締結したさいの拠点としては最適な位置だったこともあり、議論は完全に宙に浮いていた。

「引き上げるならさっさと引き上げる。増強するならさっさと増強する。早く決めてもらいたいもんだな」

「ま、上の議論なんてそんなもんですよ。全員の納得する意見を出そうと議論する。でもそんなものは出ないからいつか強攻策に出る。そして不満が爆発する…国の政治なんてどこもそんなもんです」

「そう言うもんなのかねぇ?」

沖縄守備隊から出向しているスタッフと世間話をする。
そうだ、呉鎮守府へ引き上げるとなれば、彼らともお別れな訳だ。
俺は30にも満たない、特進と言う餌に惹かれただけの無能な提督。呉鎮守府の年上の部下には常に助けられてばかりだった。
彼らに禄に報いもせず置いていく…というのは少し気が引けた。





一機の彩雲がゆらゆらとこっちに近づいてくるのが見えた。
私は手を伸ばし、その彩雲をやさしく抱き止める。
私の艤装に飛行甲板があればもう少し楽をさせてあげれるのにな…こんど提督に改装できないか、お願いしようかな?

「お帰りなさい、どうだった?」

彩雲機長の妖精さんの話を聞く。

「周囲四百キロ、敵影無し…うん、異常は無し、今日の哨戒はこれで終了。」

仲間に振り返り報告する。

「よっし、今日の任務もこれで終了か…とっとと帰って飯にするか!」

「アンタね…また潜水艦にやられても知らないわよ?」

早く帰ろうとする摩耶に叢雲が釘をさす。
この二人に私、瑞鳳を加えた三人がこの那覇鎮守府のメンバー。これはずっと変わってなかった。

「うっせぇなぁ…どっち道潜水艦が出たらアタシに出来る事は無いんだ、しっかり警戒してくれよ、叢雲」

「ハイハイ、全く…せめてもう一隻駆逐艦が来て欲しいわ、私一人で全方位を警戒するには限界があるもの…」

叢雲を先頭に、次が私、最後尾が摩耶という単縦陣で鎮守府に向かう。私は99艦爆を三機、発艦させて対潜警戒に当たらせた。


「第一艦隊帰投しました!」「梯子下ろせー!」

「しっかし…これだけはなんとかなんねぇかなぁ…」

海岸で梯子の用意をする海自隊員を見てアタシは呟いた。
この鎮守府は貧乏だ。他の鎮守府なら水路でドッグと直結してたり、海岸に直接ドッグを併設していたりするがここはそうは行かない。
海岸から少し離れたところに宿舎や艦娘用ドッグが建設されたため、出撃時は擬装を背負って歩いて海に飛び込み、帰投時は梯子を昇って陸に上がる。
無事なときは良いが損傷しているときは一苦労だろう。

「無理ね、このいつ消えるかわからない貧乏鎮守府にそんなお金、あるわけ無いじゃない…先に上がるわ、よっと」

叢雲が梯子を登りながら言う。まぁ、他の鎮守府…ここと似たような小規模鎮守府の中にはクレーンで吊ってぶら下げて運ぶような所もあると聞く。それに比べたらまだマシなのかも…

「お疲れ様です、瑞鳳さん…よっと、ファイトォー!!」

「い、いっぱぁ~つ…」

途中まで梯子を昇った瑞鳳に手を差し伸べた隊員が瑞鳳を引っ張りあげた。こいつはなぜかファイトの後の一発を言わないと拗ねてしまう、変な奴だった。
しかし、あたしらは良いが重い艤装を持った戦艦クラスの艦娘がここに来たら…
「そんときゃ綱引きだな」と真顔で言った提督は今思い出してもぶん殴りたくなる。


「作戦完了、第一艦隊帰投したわ、報告書よ」

「はい、はい…了解しました。少し不安もありますが…良いでしょう。あの子たちにも良い経験になると思います。」

執務室に入ると提督が電話をしていた。ノックの返事を待たずに入ってしまう辺り、この鎮守府は結構フランクだと思う。小規模ゆえだからだろうか?
提督は私を一瞬見た後、指で「ここに置け」と机の隅をさす。

「了解です、明日にでも必要書類を持って行きますよ。えぇ、えぇ、はい・・・」

電話で話しながら報告書を軽く見た後、親指と人差し指で円を作る。OKのサインだ。
報告書を提出したら後は自由だが、私はじっと、メモを取りながら電話をしている提督を眺めていた。

「はい、ではそういう事で。」

『安心したまえ、君が居ない間は私が直々に鎮守府に赴き、可愛い艦娘達と楽しい時をすごすことにしよう』

「アナタの居場所はここではないでしょうに…それに奥さんもいるでしょうが…」

『たしかに、妻と35年幸せに過ごしてきた。しかし艦娘があまりに魅力的過ぎて…』

「しゃれにならない冗談は辞めろ!!」

『私は常に本気だよ、冗談をいう時もな…では、また明日』

やれやれ、あのおっさんにも困ったもんだ。
受話器を電話に置きながら深い溜め息をついた。

「一佐と電話?」

「あぁ、まったくあの野郎…今までの方法で俺が動じなくなったと思ったら更にもう一手撃ってきやがった…」

「あの人にも困ったものね?」

やれやれと、叢雲が首を横に振った。
今の電話の相手はこの横須賀鎮守府の上位組織である沖縄基地隊の隊長だ。階級は一佐。
背の低い定年直前のおっちゃんだが、ときたま真顔で冗談を言い出す。食えないおっさんだ。

「それで、叢雲?俺に何か用か?」

「なにも?でもそろそろ夕食だからまた呼びに来るより一緒に行こうかと思って」

「それはすまなかったな。では、行こうか。」

俺は席を立ち、叢雲はと共に食堂へ向かった。


「今日はビーフカレーか、旨そうだな」

沖縄基地隊から出向している主計科隊員からお盆を受け取り席に向かう。
テレビでは今日のニュースをやっていた。

『超有名アイドルにスキャンダル?アイドルを射止めた男性とは?取材班が、突撃取材を行いました。』

一番目に報道されたニュースは有名なアイドルが実は彼氏がいた…という類のものだった。
俺より先に食事をしていた海自のスタッフが興味深そうに見ている。正直、アイドルにはあまり興味は無い。いや、全くないと言っても良いぐらいだ。
結婚しようが、子供を産もうが、死のうが、気にはしない。

「アイドルも大変だなぁ、仕事以外で人と話すだけでここまでニュースになるなんて」

摩耶がスプーンを片手に呟いた。全く同感だ。自分の一挙一動が全国ニュースになる。こう言う仕事は本当に辛いだろう。

「アイドルってのは夢を売るのが仕事だからな、その夢が壊れるとなりゃ、騒ぐ人も多いのさ」

牛乳を飲み込んでから答える。いや全く、沖縄でも北海道産の牛乳が飲めるというのはすばらしい。

『次のニュースです。与党が成立をもくろむ「艦娘の扱いと有する権利にかかわる法律」いわゆる艦娘人権法ですが、今日も国会は荒れに荒れ、議論は殆ど進みませんでした。』

「すまん、リモコンくれ」

次のニュースが読み上げられる。
艦娘絡みとは言え、国の法律関係のニュースが二番目って、どうなんだろうな?
しかしこのニュースは艦娘を抱える提督としては注目しなければならない。食事中の妖精さんの一人にリモコンを渡してもらい、テレビの音量を少し上げた。

『えー、艦娘は我々、人間と同等の知能・理性・人格を兼ね備えております。艦娘がかかわるトラブルも艦娘の建造と共に増えてくる事が予想される以上。艦娘を一人の人間として扱い人間と同様に保護・あるいは罰する事の出来る法案作りは急務と言えるのです。』

『そもそも、人権、特に日本における人権、いわゆる基本的人権は日本国憲法により、全ての国民に与えられる権利で有ります。日本国民とは国籍法により定義されており、父母のいずれかが日本国民である人間、父母が不明だが日本国内で生まれた人間と定義されております』
『また、外国人が法務大臣の許可を得る事で、日本国民となる事が出来、これを帰化と言います。しかし帰化する場合は元の国籍を捨てる必要があります。』
『しかし艦娘は父母が不明なのではなく、父母と言う概念が存在しません。また、外国の国籍があるわけでもない。父母が存在しないと言う事と父母の不明を同義と考えるとしましても、艦娘は生物学的にホモ・サピエンス。つまり人と認められていません。』
『つまり、艦娘は日本国民となるだけの用件を全く満たしておらず、その艦娘に人権あるいはそれに順ずる権利を与える事は、日本国憲法に違反する事となります』

『国会では与党は艦娘に意思がある故に人権を与えるべきだ、と主張し、野党は人で無い以上人権は与えられない。と両者主張を譲りませんでした。』

テレビでは与党と野党の議員が議論を交わしているようすが議論されていた。

艦娘に人権は無い。というのは「北大東島沖事件」以降、ちょっとした社会問題になっていた。
この事件の際、艦娘に負傷を負わせた人物が海上保安庁に拘束されたのだが、艦娘には人権が無い=艦娘を傷つけても障害罪は適用されないとして、釈放されたのだ。
現在、この人物は海上保安長に対し無実の人物を不当逮捕したとして、損害賠償を請求。現在でも裁判が続いている。

「艦娘に人権は無いから何をしても良い」そう考える輩もいるようで、ニュースになる事はまれだが、艦娘へのちょっとした障害や艦娘の私物の盗難などはこの事件以降、少しずつ発生件数が増えていた。

「艦娘に人権は無いから何をされても狸寝入りするしかない」そう考える人もいるようで、艦娘を怖がり鎮守府の移転や艦娘の解体を訴える活動も徐々にではあるが、増えている。

どちらもテレビで報道されることはまれで、俺がたまに会議で聞くぐらいだ。

確かに、艦娘は人と認められていない。だから人権は与えられない。その理論はわからなくは無い。
じゃあ人間と認められれば良いのか?というとそれはまた微妙だ。艦娘を人と認めるには生物学者が解剖などの実験を行い、論文を発表し、それが学会に認められる必要がある。単純に考えても10年は掛かるだろうし、艦娘の解剖実験など出来ないだろう。
もし、宇宙人がやってきたり、ホモ・サピエンスではない人・・・ホモ・ハイデルベルゲンシスとかがいたら、それらにも人権は与えられない。とでもいうのか。
そうだというのなら、その考え方はその人の自由だろう。

艦娘達は食べるのを止めてテレビに見入っている。
当の艦娘達にとっては酷な話しだ。でも俺は艦娘達には自分たちの置かれた状況をしっかりと知ってほしい。
だから俺はテレビの音量を上げたのだ。

『艦娘の人権について、議論がされる中、艦娘の利用を条件付で認める交通会社やレジャー施設が増えています。今日は艦娘の利用を認めた航空会社に取材を行いました。』

艦娘に戸籍は無い。年齢や住所欄に何を書けば良いのかもわからない。そんな理由で、艦娘の民間交通・民間施設利用は認められない。というのが普通だった。
路線バス程度なら艦娘が乗っても誰も気づかないだろうし、問題も無いだろうが、飛行機やホテルではそうも行かない。
艦娘の利用を認めると言う事は、裏を返せば艦娘だと主張すれば住所や国籍などの情報を一切持たず、これらが利用可能になってしまう事を意味する。
そのリスクを考えれば、この措置自体は妥当とも言えた。

しかし、艦娘の存在が社会的に注目されてきてからはその考えも少し変わってきたようだ。
艦娘はちょっとした金持ちだ。国から自由に使える金が至急されるし、ずっと鎮守府で仕事をしているから金を使う機会も少ない。艦娘を新たな顧客と考え、サービスの拡大を図る。そんなビジネスモデルが顔を出し始めていた。

『わが社では丁度二ヶ月前から艦娘の皆様へのサービスを条件付きではありますが、開始しました。』

Q.なぜ、艦娘へのサービスを始めたのですか?

『わが社の目的はお客様に快適な空の旅を提供することです。艦娘の皆さんは日々の激務でお疲れになることでしょうし、たまには日々の生活を忘れてのんびり羽を伸ばしたい。そう思う方も多いと聞きます』
『わが社は、そんな艦娘の皆様に快適な空の旅、わが社と提携しているホテルでの優雅な一時、観光等を通じてリフレッシュしていただきたいと思っています』

Q.艦娘がサービスを利用するための条件とは?

『わが社では航空機の利用の際、お客様の身元をしっかりと確認させていただいています。これは安全な運行上、どうしても必要なことです。なので、我が社では、艦娘の所属部隊の責任者である人間の方の同伴、または、その責任者の方の証明書と人間の方が同伴する事を条件にサービスを提供させていただいております。』

Q.艦娘へのサービスを始めて問題は?

『我が社では、サービス開始後から今日に至るまで、利用者の方々にアンケートを実施してきました。おおむね好評で、大きな問題も起きておりません。』
『艦娘の皆様には長期休暇を取得できたさい、是非とも我が社のご案内で日々の激務の疲れを癒していただきたい。と思います。』



営業熱心なおっさんだな。そう思った。

「飛行機か…いいなぁ、一度乗って見たいぜ」

摩耶が目を閉じながらうらやましそうに呟いた。きっと感情豊かな摩耶のことだ、今頃心の中では空の上にいるに違いない。

「私も、飛行機はいっぱい見てるけど、自分自身が飛んでみたいって思うのよね…自分でやる宙返りとかきっと気持ち良いんだろうなぁ…」

瑞鳳も摩耶に続いた。瑞鳳、旅客機は自分では操縦できないぞ?

「あれ、けっこうつらいんだよね」「あしとかがくがくしちゃうよね」

瑞鳳航空隊の意見は耳に入ってないみたいだ。

「見るだけならそこらの人に負けない回数見てきたけど、実際に乗ったらまた違うんでしょうね・・・」

叢雲も珍しく妄想にふけっている。
「また私の魅力が増すのね・・・」
どんな想像してるんだこいつ。

「いいよなぁ、提督は。月曜から出張で横須賀、当然飛行機に乗るんだろ?」

摩耶がぶーぶーと文句を言ってきた。
言いたい事は分かる。みんながここに赴任して来た時は公共交通機関には乗れなかったし、艤装も重いから飛行機も効率が悪い。と、海自の艦船に乗ってきたのだ。
船旅自体は悪い物ではなかったと言っているが、バカンスには程遠いだろう。

「あぁ、その出張だが、横須賀からは艦娘の参加も要請された。実際に現場で働く艦娘の意見を聞きたいんだそうだ。」

実際はそれだけじゃない。艦娘に対する鎮守府近辺以外の民間人の感触なども調べたい。良くも悪くも、上にはこう言う思惑があるらしい。

時間が止まる。ワンテンポたってから艦娘達が俺に詰め寄ってきた

「飛行機、乗れるの?」「旅行なの!?」「たしか横須賀サマーフェスタと日付被ってたよな・・・やったな!!」
「あぁ、一人だけ、連れて来いと言われた」
「そんな・・・」「屈辱…!」「くそがぁぁぁっ!!」

最近この三人、近所の中学生にノリが似てきた気がする。
三人に詰め寄られながら俺は首を叢雲の方に曲げた

「と言うわけで、叢雲。準備をしてくれ。」

「えっ、私?」

「なんで叢雲なの?いや、ダメとは言わないけど…」

「んだよ、これから誰が行くか話し合うと言うわけじゃないのかよ…」

どうどう、と三人をなだめながら席に着かせる。
みんな牛乳でも飲んで落ち着こうぜ。

前作嫁ってんならちゃんとURL貼れよ

「二人には申し訳ないが、これは決定事項だ。叢雲がこの任に一番適していると判断した」

「まぁ、提督がそういうなら仕方ないけど…」

「でも、何で叢雲なんだ?」

「そうね、理由ぐらいは知りたいわ」

説明しても良いものか?いや、不満を抱えたまま。というのはよくないだろう。

>>21
ゴメンナサイ、配慮が足りませんでした。ご指摘ありがとうございます。
前作は以下になります

叢雲「私たち、何のために・・・」 提督「・・・それが俺たちさ」
叢雲「私たち、何のために・・・」 提督「・・・それが俺たちさ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1414836562/)

「それはな、自衛隊全体で節約に励んでおり、叢雲なら子供料金で交通機関・ホテルが使えるんだ」

「そうか、それなら仕方ないよな・・・」

「わ、私だって子供料金で…」

「瑞鳳、アンタそれで良いの?」

「瑞鳳は鎮守府唯一の航空戦力だからな、三日間とはいえ鎮守府を開けさせたくなかったんだ」

「叢雲、今から航空母艦にならない?」

「なれるわけないでしょ?」

「もうすこし空母としてのプライドを持てよ…」

瑞鳳、君はそんなに飛行機にのりたかったのか…
もう少し余裕が持てるように、会議の際戦力増強を訴えても良いかもな。

勿論、こんなふざけた理由で叢雲にしたわけじゃない。
無駄遣いするなと言いながらも流石に出張費を子供料金にしろなんて言うはずが無いし、艦隊としての格付け、みたいな物も気にすればほとんどの鎮守府は巡洋艦以上の艦を秘書艦として連れて行くはずだ。
うちの艦隊でも少数ゆえ厳密に指揮系統を決めているわけではないが訓練や任務時の艦隊指揮は摩耶がやる事が多い。
旗艦として艦娘の状況を知るものと言う意味では会議に参加するのは摩耶が最適だ。

部下がいる。と言う意味では航空隊を持つ瑞鳳も適しているといえる。簡単に熱くならないと言う意味では摩耶以上に適任だろう。
マトモに考えればこういう時に連れて行くなら摩耶か瑞鳳だ。叢雲が適している理由なんて殆ど無いと行っても良い。
しかし、摩耶と瑞鳳には連れていけない理由はあった。
二人とも民間に顔が知られ過ぎているのだ。

摩耶は民間人を暴行した事がある。
無実の男性を窃盗犯と勘違いしてしまい、拘束しようとした際に抵抗されたため、顔面を殴ってしまったのだ。北大東島沖事件の原因とも言える事件である。
さいわい、摩耶の勘違いである事がすぐわかった事と、男性の好意もあり摩耶が処分されるような事は無かった。
摩耶が男性の治療費を出すことで示談となり、男性も騒ぎを大きくしない事を約束してくれた。
今でも摩耶と男性は手紙のやり取りをたまに行っている。
しかし、このときの光景は他の民間人に撮影され、市民に襲い掛かる艦娘の映像はネット上に流出。ニュースに何度も取り上げられた。

瑞鳳はもっとまずい。民間人に武器を向けたのだ。
北大東島沖事件のさい、せめて航空機だけは発進させようと武器を構えた所を市民団体に撮影され、「民間人に武器を向ける殺人兵器」と全国ニュースで報道されてしまったのだ。
あくまで通常の発艦作業であったこと、このときはこうするしかなかった事なども報道されてきたが、それでも瑞鳳に対する民間の印象は良く無いと断言できる。
ここ数ヶ月続いている鎮守府周辺へのビラ撒きやビニールテープの中には瑞鳳を名指しで非難するものも多いのだ。


対して、叢雲は驚くほど顔が知られていない。
ここ沖縄でも、艦娘である事は分かっても誰だっけ?ぐらいの知名度だ。
叢雲は北大東島沖事件の際、民間人に負傷させられた艦娘でもあるが、叢雲は報道される事が殆ど無かった。せいぜい瑞鳳の撮影された動画や写真の隅っこに移っている誰か、ぐらいの報道のされ方だったのだ。
「摩耶」や「瑞鳳」という、世間に名の知られてしまった艦娘より、叢雲の方が「艦娘」に対する世間の反応を見るには適任だ。と判断したのだ。

「叢雲は日曜の訓練、哨戒は出ないで良い。その代わり出張の準備を行ってくれ。」

「了解したわ」

「叢雲…いいなぁ…」「提督、土産ぐらいは買って来てくれよ?」

うちの鎮守府の艦娘は皆、聞き分けの良い子ばかりで助かる。






日曜日、私は街のショッピングセンターに来ていた。
提督に出張に必要な物を買い揃えるよう言われたのだ。
と言っても、たった三日間の話しだし、サバイバルに行くわけでも無い。
でも仕事とは言え道中を制服ですごすわけにも行かない。
と言うわけで必要な物と言えば私服や下着ぐらいのものだ。

「といっても…どこに行けば良いのかしらね…」

服屋に来たは良いが、どこに向かえば必要な物があるのか悩む。
店員に聞けば良いのかもしれないが、艦娘用の服ありますか?とは聞けない。
あの婦人服と書いて有る看板だろうか?でも婦人と言えば大人の女性のことだ、私に合う服は無いような気もする。
ならあっちの子供服か?しかし少し見たが、幼稚園児の着るような服ばかりだ。私は確かに人間の子供の体格だけど…あぁいうのは着たく無い。
提督にでもついてきてもらった方が良かったか、しかし下着も選ぶのだ、流石にそれはちょっと…鎮守府に出向している海自隊員の中に女性がいればよかったのに。
途方にくれていると、救いの手が差し伸べられた。

「あら、叢雲ちゃんじゃないかい?服を買いに来たのかい?あぁ、飴あるけど居るかい?」
「やほー」

おばあさんと、その孫が私に声を掛けてくれた。


このおばあさんは私達が始めて接触した民間人の一人だ。
昔、鎮守府が総力を上げて広報任務をしていた事がある。少しでも艦娘の事を知ってもらおうと言う目論見があったからだ。
最初の広報任務は近所のボランティア団体と共同での公園のゴミ拾い。その時に出会ったのがこのおばあさんだった。
その後も何度か会う機会があり、そのたびに飴やお菓子をくれ、孫のように可愛がってくれた。提督に止められたが、私たちにお小遣いを渡そうとした事もある。
その後、艦娘への感情は悪化の一途をたどるが、このおばあさんはずっと変わらずに私たちに接してくれた。だから私たちは頑張れた。

でも、それも終わりを向かえた、おばあさんがテレビのインタビューに答え「艦娘は怖い」「居なくなれば良いと思う」と発言しているところを見てしまったのだ。
このおばあさんすらも、私達を忌み嫌っていたのか?私たちに優しくしてくれたのは怖いからこそだったのか?
私たちは知らずにこのおばあさんに依存していたところがあるかも知れない。絶望の底に叩きつけられた気がしたし、瑞鳳にいたってはテレビの前で泣き崩れてしまった。

そして北大東島沖事件の時、帰投する私たちは梯子の上でおばあさんが待っているのを見つけた。民間人は立ち入り禁止のはずの場所で、だ。
今更何しに来たのか?怪我をした私を笑いに来たのか?民間船を守れなかった私を貶しに来たのか?

「あぁ…叢雲ちゃん!無事でよかった、本当に無事でよかったよぉ…!」

侮辱の言葉でもかけられるのかと思い、顔を背けながら梯子を昇った私に、おばあさんは涙を流しながら私に抱きついてきた。

「こんな怪我までして、アンタが何をしたって言うんだい…可愛そうに可愛そうに…」

おいおいと泣くおばあさんに抱きしめられ、何度も顔の包帯を撫でられる。嗚咽で何を言っているのか聞き取れない私に、孫が変わりに説明してくれた。

あのインタビュー、おばあさんは真逆の事。艦娘は最初怖かったが、今では可愛いと思っている事。艦娘も武器を持たずに暮らせれば良いのにと発言をしたのが、編集で逆の意味に変わってしまったらしい。
テレビ局に抗議の電話をしたが、放送時間の問題と取り合ってくれず、せめて一言謝りたかった。そこに艦娘が負傷したと言うニュース。
もし私たちに何かがあれば全部自分のせいだと、提督に許可を取りずっと梯子の傍で待っていたのだと言う・・

この日以来、このおばあさんは何度も鎮守府まで会いに来てくれている。多分沖縄で一番艦娘を知る民間人だ。


「それが…近々旅行に行こうと思って服を買いに来たのは良いけど、どこに行けば良いのかわからないのよ」

「そうかいそうかい、なら私が選ぶのを手伝ってあげるよ」

「ばーちゃんが選んだ服なんて昔のセンスでしょ?私にまかせなよ」

「そんな事は無いと思うけど…ま、ここは若いもんに譲ってやるとしますか?」

「そーしなそーしな」

この孫は結構きつい言葉を言う。それでも、祖母と孫の仲は良好そうだ。

おばあさんと孫に服や下着を色々選んでもらう。結局、白いワンピースと下着を数着、買うことにした。

「似合ってるよ叢雲ちゃん、私が選んだんだから、問題は無い!」

「あぁ、やっぱりこの子に任せて正解だったわ、私じゃこんないまどきな服、目もくれないからねぇ」

「その…ありがとう。」

ふふ、これで私の魅力も…

「50パーセント増し!保障するよ!」

「そうかい?私は80パーセントは増してると思うけどねぇ?」

やはり、この二人は血が繋がっている。というか艦娘の心を読むのはやめてほしい。


「では、先に裏口で待ってる。準備が出来たらすぐ来るように」

私服の提督が先に荷物を持って裏口へ向かう。

「大丈夫?財布は持った?携帯は持った?着替えはちゃんと持ってる?迷子になったらおまわりさんに言うんだよ?水偵一機持ってく?」

瑞鳳が何度も私のカバンの中身を確認しだす。なぜか今日の瑞鳳はすごい心配症だった。

「大丈夫だろ?そこらの子供じゃ無いんだし、な?」

摩耶がバシンと私の腰を叩いた、痛い。

「ちゃんとお土産買って来いよな…さも無いとぶっ[ピーーー]から」

摩耶がぼそりと、でもはっきりと耳元でささやいてきた。
出張に行けない事をかなり根に持っているみたいだった。


「待たせたわね」

「ん、では行こうか」

裏口に向かうと提督が待っていた。
この鎮守府、裏口が非常にわかりにくい場所にある。おかげで私たちは正門を使わないで済む。

『艦娘の存在が深海凄艦を呼び寄せる』
『NO!艦娘。STOP!艦娘』

そんなのぼりを複数立てた市民団体が正門前にたむろしていた。
北大東島沖事件以来、過激な反対運動に対する批判も強くなったからか、常にメガホンで怒鳴るような事は無くなったが、それでも艦娘は裏口を使用していた。



「ここからバスに乗ってバスターミナル。そこから高速バスで空港まで向かう。」

「わかってるわ、昨日聞いたもの」

「確認だ。ちゃんと乗車時に券を取れよ?さも無いと差額の50円、余計に支払う事になる」

…もし、入り口近くの席に座り、ドアが開くたびに整理券を取って行ったら、最初のバス停から乗って最安値で終点で降りることも可能なのだろうか?


「ここから終点まで乗っていく。」

整理券を取り、バスに乗る。
流石にこの時間帯に混んでいると言う事は無く、叢雲と並んで席に座る。
他の客も数人居たが、叢雲に二度、三度視線を向けた後視線を元に戻した。
沖縄は艦娘をはじめ反対運動が過激だが、過敏に反応するのはごく一部。というのは本当らしい。
そりゃそうか、もし沖縄県民みんながあんな勢いで反対してたら、沖縄基地隊はとっくに解散しているもんな。

「ねぇ、高速バスと路線バスは違うの?」

バスターミナルで高速バスを待っていると叢雲が話しかけてきた。

「どういう意味で違うか…と言う話しになると難しい話しになるな。まずバスというのは自動車目四輪科客車類に属する車両の総称で…」

「それは動物の分類法でしょ?」

叢雲に冗談は聞かなかった。

「両方ともバスであるという点では変わらんよ。人員の輸送を目的とした細長い車両だからな。ただ路線バスは一つの市内をグルグル回るのに対して高速バスは都市と都市の間を走る。だから高速バスは立って乗ること前提のつり革とかは無いし、ドイレがあるバスも多いな。あとサイズの割りに乗客数が少ない。」




「ねぇ、整理券が無いわ」

「高速バスでは不要だ」

なるほど、確かに高速バスと路線バスはバスである事に変わりはないが、結構違う。立って乗る事を前提としてい無いし、席も広い。
テレビまであった。音は聞こえないが、バラエティ番組を放送していた。

「ねぇ、アンタ…」

隣に座っている提督に話しかける。どれぐらい乗って居れば良いのか聞こうとしたが、提督は既に寝ていた。
寝ている。と言う事は結構長い時間走るのだろう。放送で終点空港と言っているから、降り忘れる事も無いはずだ。
私も少し寝ようか。

クソ提督と呼ぶツンデレな叢雲がどうして今まで目立たなかったのか



「叢雲、起きろ、降りるぞ」

寝つけたか寝付けなかったかと言うタイミングで提督に肩を叩かれて目を覚ます。
はっきり行って、中途半端な時間に起こされてかなり眠かった。

でも提督はいつもと変わらない。
この人はいつも眠いのだろうか、それとも、少しでも寝なければいけないほどの激務なのか。


「人が…いっぱい居るのね…」

空港に到着して叢雲が最初に呟いた

「こんなんで圧倒されたら先が続かんぞ、羽田はこの5倍は人が居る。」

「そんなに?テレビとかでは見たけど、直接見るとやっぱり圧倒されるわ」

「さて、旅客機の客室には一人一つ、ハンドバッグ程度の物しか荷物を持ち込めない、残りは空港に預けて、到着先の空港で受け取る事になる。今のうちに機内で必要そうなものとかは小さいカバンに移して置くんだ」

さて、搭乗手続きは…こっちだな。

「搭乗手続きをお願いしたい、大人一人、子供一人、羽田行きだ」

「チケットはお持ちでしょうか?」

「ああ、これだ」

カウンターに居た従業員に話しかける。
30位の男と10代半ばの少女というのは少し怪しいのか、何度か顔をチラ見されたが、手続きを始める。
「申し訳ありませんお客様、お客様の方は結構ですが、お連れ様の方は搭乗できません」

「えっ、私?」
なんだと?
ミスは無かったはずだが…

「すみません、何処かミスが?」

「住所が空白になって居ますし、年齢も記入されていません、これでは搭乗をさせるわけには行きません」

「まってくれ、事前にそちらの会社に連絡してこれで艦娘の搭乗には問題ないと言われているが…」

俺が艦娘という単語を口に出した瞬間、全身に視線を感じる。多分殆どは叢雲に注がれているものだろう。

>Q.なぜ、艦娘へのサービスを始めたのですか?
人権無ければレイパーランチや福岡カフェをやり放題を狙っているのか
クズどもが

なお、コミーが我が物顔で巣くっている某島の高速バスは、整理券が出て市内線の運賃も適用される普通の路線バス……

「ママー、かんむすだってー、かんむすー」

「そうね、きっと艦娘さんもお出かけなのよ」

そんな親子の会話が聞こえ、感じていた視線は無くなる。
多少覚悟していたとは言え…すこし堪えるな。

「艦娘の方であればなおさらご搭乗はお断りさせていただいております、当社の規定では艦娘の搭乗は禁止されていまして」

こいつ、わざとじゃないのか?この会社が艦娘の搭乗を許可していることはホームページにも乗っているし、もう2ヶ月も前のことだ。
昨日今日であればまだ全従業員に周知されて居ないと言う事もありえるが…

>>38
あくまで、鎮守府と関係無い民間人にたいしての知名度なので…

>>42
あれ、旅行に行った時に空港から街まで行ったバスではそう言う事は無かったような気が…
と思ったのですが、他の所への旅行と記憶が混濁しているかもしれません。

無意識のうちに俺はこいつを睨みつけていたらしい、そいつはにっこりと笑い、言った

「申し訳ありませんが、そちらの方はお引き取りください」

「拒否…だというのですか…!」

「ちょっと、君!何をしているんだ!」

カウンターの奥から上司らしき人物が出てきて、従業員をどかしてパソコンの操作を始める。

「はい、はい!大丈夫です!お二人とも確認が取れました、ご搭乗できます!」

搭乗開始の三十分前には来ていたが、既に出発まで五分を切っていた。

「やっぱり、私たちって嫌われ者なのかしらね?」

「…すまんな、嫌な思いをさせて」

「いいわ、アンタのせいじゃ無いって事は知ってるもの」

違うんだ叢雲、俺のせいなんだ。こうなる事を見越してお前を連れてきたのは俺なんだから。





空港の事務室、先ほどお客様に失礼な対応をした従業員に注意する

「艦娘の搭乗は二ヶ月前に認められているし、マニュアルも配っただろ?忘れたのかい?」

「いえ、忘れていません、私は私の良心で艦娘の搭乗を拒否しました」

「…君が平和活動を行っている事は知っているよ。そういった君のプライベートでの思想信条をどうこうするつもりは無い。しかし業務に政治的な思想を持ち込むのはやめてくれないか、お客様にも影響があるし、君を別の部署へ移動しなければならない」

「個人の良心を踏みにじるというのですか?もし強行なさるのなら労働組合に報告しなければいけません」

平和活動、それ自体は良い。しかし、その思想を仕事に持ち出して客を差別するのは止めろ。こっちの主張はそれだけだ。
しかしこの従業員はなぜか労働組合と深いつながりがある。過去に一度、私の部下になる前の話しだが、当時の上司がこの従業員に似たような事で注意をしたらストになりかけた事があった。
労働組合やストライキの意味自体は私も認めるところではあるが、このような理由で行われては…
私は何度か、この従業員の異動を検討しているが、何度も上司に止められてうまく行っていない。




「すごいわ!あんた見て見なさい!こんなに早い乗り物が有るなんて!」

離陸直前の飛行機は新幹線より遅いぞ。

「どんどん街が小さくなって…今私、空の上に居るのね…」

飛行機だからな、当然だ
しかし、ここまではしゃぐ叢雲を見たのは始めてかもしれない。
いつもはクールな彼女も、やはり見た目相応なんだなぁ…



「お飲み物はいかがなさいますか?」

客室乗務員が声を掛けてきた。

「俺は冷たいお茶を、おい、叢雲…」

「…」

「この子はオレンジジュースを」

叢雲はずっと窓から外を見ていた。
高度も上がり、雲か海しか見えないのに、何が楽しいのか?
飛行機に乗りなれてしまった俺には理解しがたい光景だった。


飛行機に乗ると足が鈍って行かん。飛行機から降り、到着ロビーで大きく伸びをする

「ねえ、ここほんとに東京なの?まだ2時間ちょっとしかたって無いけど…まだ辺戸岬辺りとかじゃ無いわよね?」

「まさか、ほら、見てみろ」

スマホのGPSアプリで現在地を見せてやる

「本当に東京に来てるのね…飛行機というのは恐ろしい乗り物だわ…」

まあ、気持ちは判る。
俺も始めて北海道から東京に来た時、札幌から旭川に移動しただけの様な感覚がした。


「さて、これから電車で品川に向かい、そこで乗り換えて横須賀まで行く。今日はそこでホテルで一泊だが…品川駅では俺と手をつなげ、これは命令だ」

「え?なんでよ」

手を繋ぐって、恥ずかしいし私はそんな子供じゃない。

「品川は怖いんだよ…俺はいまだに東京は苦手でな」



「ちょっと・・・なんでこんなに人がいっぱい居るのよ!」
「ここが東京だからだ」
「もうすこしで迷うところだったじゃない!」
「お前が手を繋がないからだ」

大量の人の流れに分断され、もうすこしで迷子になる所だった。
艦娘が迷子とか、それこそ冗談じゃない。
同じ日本とは言え、こんなに違うものなのか、すこしカルチャーショックを受けた気分だ。



品川から電車に乗ってからは比較的静かだった。
東京の街並みも叢雲に見せ、ビルの海で圧倒させてやろうと思ったが…それはまたの機会にしよう。

「しかし…ここは人がすごい多いけど私には誰も興味を向けないのね」

「人が多いからこそ、だろうな。外国人が多い事に気づいたか?沖縄ではアメリカ人は見ても他の国の人はあまり見ないからな。どんな人が居ても気にしない。都会ゆえの長所でもあり、短所でもある。」
沖縄や飛行機内では色々な視線を向けられたが、ここではそんな事は無かった。
東京の人間が艦娘に慣れていると言う事は考えにくい。そういう人間は横須賀に居るはずだ。
良い意味でも悪い意味でも
他人に無関心なだけなんだろうな。



「予約していたものだが…」

「はい、確認できました。シングルが二部屋ですね。こちらが鍵になります」

「ありがとう」

提督がホテルのカウンターでスタッフから鍵を貰う、飛行機の時とは違ってスムーズに手続きが済んだ。

「叢雲、鍵だ。部屋は俺の部屋の隣、オートロックで部屋から一歩でも外に出たら鍵を使わないと入れん。鍵を部屋に置いたまま出るなよ。1800になったら飯を食いに行く。それまでは自由にして構わん。あと冷蔵庫の中に入っている飲み物は飲むな、追加料金取られるからな」

提督から鍵を受け取り部屋に入る。
「安いビジネスホテルだから期待すんなよ」と言われたが、鎮守府の宿舎に比べたら何倍も豪華だった。
特に、他人がシーツを敷いたベッドというのが良い。こういうのはプロの人がやるんだろうか、毎日やっているとはいえ、わたし達がやったのに比べると綺麗で、ぐっすり眠れそうだった。



「提督、入るわよ」

「あぁ、鍵は開いている」

提督の部屋に入る。左右対称な以外は私の部屋と全くおんなじだった。
まあ、当然よね。

「それで、どこで食事するの?」

「近所の居酒屋だ、プライベートの旅行ならもっと良い所に行くんだがな」

「お酒、飲んでも良いけど、飲み過ぎないでよ、明日仕事なんだから」

「…節度はわきまえているつもりだ」

まぁ、明日の仕事は夕方の会議、それまでは横須賀のイベントを見て回るだけだから、すこしぐらい飲んでも多めに見てあげるわ。
鎮守府じゃなかなか飲めないものね。





私は、失敗した。

「ううぅぅぅ…叢雲、ごめんよぉ、こんな無能な提督で…」

「あーはいはい、私は気にして無いから、ね?」

「叢雲はやさしいからそう言ってくれてるんだ、でも本当は心の中で「私の顔に傷つけさせるなんて、お前が事前に湾の様子を調べないからだこの糞提督!」とか思ってるんだ!瑞鳳と摩耶にもなんと謝れば良いのか…あぁぁぁぁ…」

提督は泣き上戸なのかもしれない。普段と量はそんなに変わらないはずなんだけど…
実際、北大東島沖事件は私たちだけでなく、提督にも大きな影響を与えたらしい。
戦闘終了の報告を受けた提督は人払いをした後執務室に篭ったが、部屋からは怒鳴り声と激しい物音が聞こえたと、海自のスタッフが教えてくれた事がある。

それでも私達が帰還するころには平静を保って普段どうりに振舞っていたと言うから、なかなかのものだ。

「うぅ…ごめんよ叢雲…ごめんよぉ…」

「あんたが悪いわけじゃ無いんだからもう良いわよ…ほら、ホテルに戻るわ、あんたの財布からかってにお金出しとくからね」

「ごめんよ叢雲…ごめんよぉ…」

壁を壊すのには同じだけのダメージを与える斧の一撃とファイアーの魔法が、ペガサスナイトには前者は大ダメージ後者はカスダメになる的なあれか

>>75
イメージ的にはそんな感じでお願いします。
あとはインディペンデンス・デイのUFOがミサイルはバリアーで防ぐのに激突するときはバリアーでなかったりとか。
厳密に考えれば護衛艦を破壊する火力を受け止めれるだけの防御力を艦娘の体積で実現する事はありえ無いレベルですので、空想科学読本レベルで見たらおかしい事だらけなのはご了承くださいとしか言えないです。

「Hey!そこの提督!私のcurry、食べて見ませんカー?」

何か食べる物を買おうと出店を探していると艦娘に呼び止められた。焼き鳥ややきそばの出店があったはずだが…そう言えばカレーフェスタも行われていたな。

「私のカレーは、南の島の美味しいココナツ入りです…食べたら病み付きになりますよ?フフフ…」

「早霜ー、その言い方だとなんか怪しいものが入っている気がしマース…」

確かに、駆逐艦の艦娘の言い方はなにか怪しい雰囲気がする。
しかし他の艦娘のカレーか、確かに食べて見るのも面白そうだが・・・

「待ちたまえ!そこの提督!」「君は提督だろう!毎日艦娘のカレーでもう飽き飽きしているのではないかな!?」「久しぶりに男のカレーとか、どうだい!?」「「護衛艦きりしまカレー!今なら250円だ!!」」

三人の上半身裸の男が様々なポーズをとりながらこっちに迫ってきている。
それに、だ

「ねぇ、後ろで仲間がパンクしそうだから手伝ってあげたら?」

「そうだな、関係者が長蛇の列を無視してカレーを貰うというのも気がひけるし…」

「ねーちゃん!金剛、榛名、早霜カレーそれぞれ一つずつ!」「私は早霜カレーを一つ!」
「は、はい!カレー三つで750円になります!お釣りは250円です!はい!そちらは250円…丁度頂きました!お姉さま!早霜!榛名はそろそろ大丈夫ではありません!助けてくださいぃ~」

「おいそこのマッチョ三人!早く戻ってきて手伝え!」

残された艦娘や海自隊員が少数で大人数の相手をしていた。

「oh! sory榛名!今行くネー!」

「むっ!何処かで困る人の声を感じる!」「ではさらばだ!!」「たまには自衛官のカレーも艦娘のカレーに負けないほど美味である事を思い出したまえ!!」

知ってるよ、俺たちだって普段は海自の主計科が作った飯食ってんだから

「なんだったのよ・・・あれ・・・」

見たところ、艦娘カレーの方が人気のようだ。それに対抗して海自隊員は良く判らない宣伝法で対抗を試みているらしい。
海自隊員は持ち場に戻る途中でも若いカップルを囲んで筋肉宣伝を繰り返していた。

『まもなく護衛艦ちびしま前で、特別大規模訓練展示が行われます。皆様是非、見に来てください』

「特別…大規模訓練?実弾演習でもやるのかしら?」

叢雲がアナウンスを聞いて怪訝そうな顔をする。
しかし特別?大規模訓練?サマーフェスタでは救助訓練の展示ぐらいだった気がするが・・・

「まさか…それにちびしまって事は…見に行くか?」

「そうね、特別と言うくらいだから、一目見て見たいわ」




叢雲はなにか、空砲ドンパチなものを想像しているようだが、実際行われた訓練は学芸会だった。
もう一度言う。あれは学芸会だった

『大変です!客船が深海凄艦に襲われて居ます!』

「あ~れ~たすけて~、であります!」

「ふふふ、重巡洋艦からは逃れられないわ!」

黒い服を纏った艦娘四人が、一人の艦娘を囲んで変な踊りをしていた。
囲まれている艦娘はたしかあきつ丸、陸自の開発した艦娘だ。

海自が艦娘の開発に成功する前、ニューギニアの一部が深海凄艦に制圧された事を受け深海凄艦の上陸に対してどのように対抗するか検討された事がある。
結論としては既存の陸上戦力でも十分対抗可能。というものだった。陸に上がった深海凄艦は戦闘力が低下するし、海上戦闘と異なり陸戦はレーダーにそこまで依存し無い事と、戦車は装甲と火力の殴りあいが主軸とあまり深海凄艦と変わっていないからだ。
深海凄艦の襲撃に対して下手に海上で撃滅するより、過疎地に誘導して上陸したところを特科と機甲科の攻撃で撃滅する。という方法が検討された事もある。
結局空母・戦艦級の深海凄艦が現れた事で計画は見直し、海自が艦娘の開発に成功した事を受け、陸自でも独自に艦娘に抵抗できる戦力の開発に乗り出した。
当初は艦娘の戦車版。を考えていたようだが、出来たのはあきつ丸だった。と言うわけだ。
今では陸自の担当官と共に横須賀鎮守府に出向、艦娘と共同で任務に当たっている。

『客船からの救援要請を受け、付近を哨戒中の第六駆逐隊が救援に現れました!』

「まちなさい、そこのしんかいせーかん!」「それ以上の狼藉は許さないよ」「その艦を早く離して、なのです!」

「あ、ありがとうございます。であります!このお礼は…」

「おれいなんて、いらないわ!もっとたよってもいいのよ!」「君は早く離脱するんだ」

四隻の駆逐艦に駆け寄り、跪きながら例を述べるあきつ丸。
駆逐艦は台詞が棒読みだ。きっと練習する暇も無かったのだろう。とっても学芸会だった。

『客船の離脱を確認した第六駆逐隊は深海凄艦との砲雷撃戦を開始しました!みなさん応援してあげてください!』

ぱんぱん!と音がしてお互いの砲口からクラッカーが鳴らされる。わざわざこのために艤装に手を加えたのか…ご苦労なことである。

「重巡洋艦に挑むなんて、命知らずね!」「Zzz・・・」「わがはいにかてるとおもっているのか?いくぞちくま!」「はい、利根姉さん!」

『重巡洋艦四隻に対し、精鋭と言えども第六駆逐隊の苦戦は免れません!』

「きゃー」「いなずま、しっかりして」「わたしは、だいじょうぶよ!」「よくもお姉ちゃんを、なのです!」

苦戦する駆逐艦達。あまりの学芸会っぽさからまわりから「ガンバレー」と声も聞こえる。
その時、スピーカーから

その時、スピーカーから男の声が入った

『こちらヴァイパー01、救援要請を受け出撃した、これより攻撃を開始する』

洋上迷彩のF-2戦闘機…を模したミニバイクが二台、会場に侵入して来て重巡の周りを旋回し始める。

「やだ、何…敵の航空機?」

「おのれ、こうくーきふぜいが、このとねにかなうとおもっているのか!」

ミニバイク、いや、F-2が会場を旋回し、ミサイルをぼとっと落とす。落とされたミサイルは煙を吹きながら重巡に向かっていく。
よくみると会場の隅でリモコンを持っている航空自衛官が見えた。まさかこのためだけに空自まで呼んだのか?
ミサイルに重巡がわざとらしく足を引っ掛けると花火でも仕込んでいたのか火花が散った。

「きゃあー、やられちゃったー」
「ぐわぁーわがはいはもうだめじゃー」

「いまよ、うちまくれー」

駆逐艦のクラッカーが乱射される。重巡達は紙テープまみれだ。

「すこしむちゃをしたわね…撤退よ!」

「ちくまー!」

「帰りますよ、姉さん」

「Zzz…ふぇ、もう終わり?って、待って古鷹、スカート引っ張らないでよぉ!」

『航空自衛隊の協力もあり、見事第六駆逐隊は深海凄艦の撃退に成功しました!皆さん拍手を送ってあげてください!!』

突っ込みどころの多過ぎる特別大規模訓練展示と言う名の学芸会は終わりを向かえた。



「なぁ、叢雲、俺たちも今度…」

「絶対やらないわよ」



夜。横須賀基地内の会議室に通される。
俺達を案内してくれたのは昼にあきつ丸を襲っていた巡洋艦の一人だった。

「あまり、そういう言い方しないでくれますか?」

「いや済まん、面白かったので」

「特別って言うから何かと思ったら…あんなもの見せられるとは思わなかったわ」

「こう見えてもみんな練習頑張ったんです!それに重巡洋艦の良い所、わかってもらえたでしょ?」

「…まあ、な」

正直アレだけ見たら…いや、何も言うまい。

「那覇鎮守府の方はこちらです。では。」

そういうと古鷹は俺たちにお辞儀して会議室を出て行った。

>>76
材料的な強度は、特殊な力場を発生させてるで説明付くじゃん。
棲艦を潰すのに対艦ミサイルが必要なら、それから派生した艦娘が対人用の銃弾程度で傷つくのは可笑しくなるし。
発生火力を受け止める強度も必要だから、漁船程度は一捻りで挽き潰せなきゃ可笑しい。
硫酸もようは酸化だし、その程度で怪我するっていうのも微妙かな。

>>89
さすがに作者が「そこまで考えてないごめんなさい」したところに更に突っ込むってのはどうなのさ。それも「こういう設定にすれば整合性とれますよ」と言う提案でなくて、「どうあがいてもおかしい」と言う否定ならなおさら。
ゴジラだって自分の熱線数万倍にして跳ね返されてもピンピンしてるくせに他の怪獣に殴られたら倒れたりするんだし、作者が積極的に議論を求めてないのであればそんなもんだ。で退けよ。

>>89
基本的な設定は軽く考えて居ますが、更にそこから踏み込んで
「このSSではこうなって居ます」は答えれても「ではなぜそうなっているのか、そしてそれはなぜそうなっているのか」レベルになると全く考えて無いので
「いや、言う事にしておいて」としか言えないです。
設定の議論を行うつもりはあまり無いので
>>90-92の方のような心構えで読んでいただければありがたいです。

「皆、集まったようだな。では会議を始めようか。呉鎮守府から今回の艦娘を連れた公共交通機関の移動で気になった点があれば教えてくれたまえ」

「はい、呉鎮守府です。移動には航空機を使用。今回の艦娘の移動では特に問題点は無かったと思います。大和はどう思った?」

「呉鎮守府、大和です。移動中視線を感じる事はありましたが…特に問題は無かったかと。」

「舞鶴鎮守府は移動に新幹線を使用しました。車内で複数の民間人に話しかけられた以外は特には。川内?」

「んー、気になった事は特に無かったかな?民間人も出張お疲れ様、とかそういうのが多かったし…でも話しかけてきた人以外からはすこし嫌な視線は感じたかも」

「函館鎮守府です。移動には航空機を使いました。空港での搭乗手続きにすこし時間が掛かりましたが…なぁ、阿賀野?」

「それは…私がチケットを忘れたからです。ごめんなさい…」

おおむね、不審な目はあっても艦娘には好意的。と行った所か。
他の鎮守府も変な視線があったという話しはあっても直接暴言を吐かれた、妨害されたと言う話は無かった。

「那覇鎮守府です。移動には航空機を使用。民間人の反応ですが…空港で一度、搭乗を拒否されました。」

俺の発言の後、提督達がすこしざわつく。

「またあそこかよ…」

「手続きにミスがあった、とかでは無いのかね?」

「ありえないと思います。事前に航空会社に確認しており、問題ないと言われていました。実際対応した従業員と別の従業員は問題ないとスムーズに手続きを進めてくれました。」

「やはり、沖縄の県民感情は他と比べるとかなり悪いようだな…」

「と言うより、一部極端に感情が悪い人が沖縄に集中している…という印象を受けたわ。」

沖縄にだって、艦娘に好意的な人は少なく無い。そうで無いと、あそこで頑張っていけない。

「やはり、沖縄の鎮守府は撤収した方が良いのでは?自衛隊や在日米軍への妨害行為もありましたが、ここまでの物は近年無いでしょう?」
「しかし、南方の対深海凄艦戦も考えると…」
「でもこう反対運動が続くと…」

「那覇鎮守府は最低限、沖ノ鳥島奪還作戦が終了するまでは維持し続けなくてはならん。沖ノ鳥島から敵が出撃した際対応できない事もありえる。それに、那覇鎮守府には万一の際の退避場所としての機能も期待している。」
「那覇鎮守府をどうするかについては沖ノ鳥島作戦が終了するまでは現状維持だ。どのようにするかはその後決める」

また棚上げ、か。棚上げと言う事は、いつ撤収するかもわからない。設備や戦力の増強も出来ない。と言う事になってしまう。
結局この議題は「艦娘への悪感情は存在するが、急遽対策するほどでも無い。各地で少数ながら起こっている艦娘関係のトラブルも艦娘人権法成立と共に減少するだろう」という結論に達した。
しかし、全国的にはそうでも、沖縄はどうなんだろうか?北大東沖事件以降、過激な反対活動は鳴りを潜めているが…





「現在政府は海自・第七艦隊合同で沖ノ鳥島攻略作戦の日程調整を進めている。まだ確定していないが、おそらく一ヶ月以内には発令されるだろう。艦娘艦隊としての基本計画を立ちあげろ、という通達が出た」

会議の議題が変わる。むしろこっちの方が本命だろう。
しかし三隻しか艦娘の居ないうちの鎮守府は沖ノ鳥島に一番近いと言ってもやることは変わらない。

「作戦の主軸は横須賀・呉両鎮守府の艦隊となる。自衛隊・第七艦隊は周辺の策敵警戒および沖ノ鳥島から撤退する敵艦艇の掃討。那覇鎮守府には損傷した艦娘の退避先と退路確保をお願いしたい」

「了解しました。しかし現状の戦力では平時の策敵ですら余裕の無い状況です。空母一隻と駆逐艦一隻の増強を要請。また、それに伴う宿舎、ドック整備の予算をお願いしたい。」

「それは私からもお願いするわ、駆逐艦が私一人だと対潜警戒にも不安が残るしドックに行くのにいちいち梯子を昇らなければいけない状況は結構みんなの負担になってるの」

唯でさえ、十分な対潜警戒、艦娘にまとまった休みを取らせることもできない状態なのだ。要請だけならタダだ。

「戦力増強は他の鎮守府に余力があれば可能だが、施設の増築は許可できん、那覇鎮守府は撤収する可能性も残っているのだ…空母と駆逐艦はどうかね?」

「新潟鎮守府です。我々は日本海の守りの主力として配備されていますが、今まで強力な深海凄艦隊には遭遇していません。空母二隻のうち、瑞鶴と睦月型駆逐艦を一隻であれば那覇鎮守府に転属させることは可能です。どうだ千歳?」

「そうですね、現状新潟の戦力はやや過剰なところがあると思います。瑞鶴も反対はしないと思いますよ?」

「待ってくれ、主力足りえる空母こそ後方部隊ではなく主力になる横須賀か呉に・・・」
「うちも軽空母二隻でなんとか回しているところが有る。現有戦力を貸し出すとなると…」
「ごめんなさい、ボクが改修すればすこしは余裕が出来るんだけど…」

「ダメみたいね、まあ戦力をよこせと言っても無理、か」
「そうだな…わかりました、現時点での要請は撤回します。ですが新規に建造できた空母・軽巡・駆逐艦を我が鎮守府に回せるようご一考いただきたい」

「それについては了解した」

摩耶と瑞鳳が旅行できるのはずいぶん後の事になりそうだ。

会議が終わったとき時計は午後の八時を回っていた。
横須賀鎮守府で食事をしてからホテルに戻る。
明日は飛行機で帰るだけ。お酒を飲んでも良いと言ったら昨日の事を覚えていたのか真っ赤になりながら「いや、いい」とだけ言って顔を背けた。
いつも冷静(で居ようとしている)提督の変わった姿をもう一度見てみたかったけど…昨日はまだ歩けたから良いけど、流石に潰れられたら運ぶだけでも面倒だから飲まない方が良いのかも。

ホテルに戻り、叢雲に鍵を渡す。

「明日はすこしゆっくり出来る。0900ぐらいに飯にしよう。それまでゆっくり休んでくれ」

「わかったわ、お休み、提督」

最初飲んでも良いと言われたときはすこし心が揺らいだが、二日連続で醜態を晒したく無い。それにそんな事になれば帰った後摩耶辺りにさんざんからかわれるだろう。
それに、もう一つ。やらねばならぬ事があった。

俺が宿泊先にこのホテルはいくつか有る。
安い、近い。それは大事だ。でも一番大事なのは、このホテルは有料放送がカード式。つまりエレベータホール前でカードを買えばチェックアウト時に不振がられずに有料放送を楽しめるのだ。
鎮守府の提督と聞いて、防大の同期や古い友人からは羨ましがられる事もあるが、辛い事も多い。
艦娘の命を預かる提督として恥ずべき事だが、艦娘相手に欲情してしまう事がある。残念ながら俺は男なのだ。
でも宿舎は部屋やトイレ・風呂こそ違えど建物自体は共有で、非常事態が起これば電話より先に部屋に艦娘やスタッフが直接来る事もある。
鎮守府に居ては禄に性欲処理もままなら無いのだ。

なので、俺がこういった出張とかの機会にすっきりしてしまおうと考える事も決して不思議な事では無いのだ。


提督とわかれて部屋に戻る。ベッドのシーツは昨日始めて来た時同様綺麗になっていた。なるほど、安いホテルでこれなら高級なホテルに行けばどんなに快適に過ごせるだろうか?
前見たテレビで「是非疲れを癒して」と言ったあの社長の言葉はあながち嘘では無いのだろう。
そういえば昨日は部屋のあちこちを見てから寝てしまった。関東のテレビを見るのも良いだろう。

「さすが関東、いろんなチャンネルがあるのね…」

沖縄で見れるテレビはせいぜい4、5チャンネルぐらい、でも関東では10チャンネル以上も見れる。BSというチャンネルはスポーツ中継や映画がメインみたいだ。
何か面白そうな番組はやって無いかとチャンネルを回していると変な文字を見つける。



「この番組は有料です、視聴される場合はカードを購入ください…?」

有料のテレビ番組、とはなんなのだろうか?
でもお金を払って見るというからにはさぞ面白い番組がやってるはず…
どれだけのお金が掛かるのか、場合によっては私のお金から出しても良いだろう。でも一応提督に確認しておこう。
たまにニュースでやる詐欺みたいに何万円も請求されたら困る。
私は部屋の鍵を持って提督の部屋に向かった。この時間ならまだ起きているはずだ。


『本日朝、ここ横須賀基地と呉基地から護衛艦および艦娘が沖ノ鳥島に向け、出港しました。』

夜。食堂で飯を食っているとテレビからニュースが流れた。

『総理大臣は出港の直前に自衛官及びに艦娘に対し「沖ノ鳥島の深海凄艦は現在わが国、国民の大きな脅威となりつつある。厳しい任務になるだろうが、諸君らが米軍と協力し、無事に任務を達成できることを願う。」と、自衛官らを激励しました。』
『基地には見送りの家族が集まったほか、深海凄艦への大規模攻撃は余計な被害を増やすだけだという市民団体が集まり、抗議の声をあげました。』

Q.自衛官の出港をどう思いますか?

A.どうも思いません、無事に帰ってくることを願うのみです。

A.お父さんにしばらく会えなくなるのは悲しいけど、いつもの事だから大丈夫

A.無事に帰ってきて欲しいですね、でも自衛隊が米軍の一部隊となっているみたいですこし不安です。

『他にも舞鶴から艦娘の出港が確認されており、那覇鎮守府も明日の朝には出撃するものと思われます。以上、横須賀基地でした。』




「ふぁぁ~おはよー、ていとく~」

テレビを見ながら食後のお茶をすすっていると食堂のドアが開き、艦娘達が入ってきた。

「ああ、こんばんは瑞鳳、大丈夫か?」

「海の上にでりゃ数日は不眠不休だろ、へーきへーき…おっちゃん、飯くれー、あと冷たい飲み物もなー」

「あいよ摩耶さん、少なめで良いかい?」

「食事が終わったら出港準備に入るわ。みんなには徹夜を強いるけど…よろしく頼むわ」

「「おう!!」」

テレビでは距離と移動速度から俺達が明日の昼に出撃するものと予想してたが…俺たちの出港は午前三時だ。
俺たちの目的は大破した艦娘の護衛と退路の確保。本体より先に到着して他色が使えるか確認しないといけないからな。
そこらへんは海自やジョージ・ワシントンの哨戒機もやってくれる手はずになっているが、現地に多数の偵察機を持っていける空母艦娘は心強いし、
ジョージ・ワシントンも沖ノ鳥島への攻撃、偵察に手いっぱいで俺たちの退路にまでは手が回らないだろう。

「じゃあ提督、言ってくるわね。瑞鳳艦隊、行きます!」
「対空・対潜警戒を厳に…出撃するわ!」
「提督!帰ってきたらなんかうまいもん食わせてくれよな!」

「ああ、良い日本酒を用意しよう」

「酒かよ…アタシも瑞鳳もあんま飲まねぇじゃねぇか…まあいい、抜錨だ!」

艦娘達がドックのドアから闇へ消えて行く。しばらくしてポチャンと言う音が3回、聞こえた。
やはり、これだけは何とかしてやりたいよなぁ…



日が昇り始めたころ、ふと窓から外を見ると車のヘッドライトのような光が集まっているのが見えた。
君たちには申し訳無いが…既にうちの艦隊は出港した後なんだ、申し訳無い。




事前の打ち合わせどうり、有志が集まる。みんな用意していたのぼりや旗を立てはじめる。
最近の沖縄はきな臭い。元から米軍基地や欠陥機オスプレイの配備など、だいぶきな臭かったが、艦娘が来てからきな臭さが増した。
兵器による授業なんて戦前そのままだし、いまだに罪無き民間人を暴行した艦娘、罪無き民間人を武器で威嚇した艦娘が処分されたとも聞かない。
「沖縄を守るため」と政府も自衛隊も言うが、実際に今、沖縄は殺し合いのための前線基地となりつつある。命どぅ宝。この島を命を奪うための拠点になどさせるわけには行かない。

そういえば、知り合いが以前艦娘に暴行を受けた人に接触、協力を要請したが、断られたらしい。
平和主義者なら暴行を受けて黙っていられるはずは無いと思うのだが、示談で解決積みだから、と取材すらさせてくれなかったようだ。
おそらく、示談と言う名の圧力が彼にかかっているのだろう。国と言うものはやる事が汚い。
沖縄の独立。これも十分実現させる意味のある事なのかも知れ無い。




昼。私たちは一日半かけて沖ノ鳥島に向かって足を進めていた。
私たち呉鎮守府は横須賀同様、対深海凄艦の主力として編成されているが、今回ほど大規模な敵との戦いは初めてだ。
私を中心に矢矧が先頭、両脇を妙高と那智が固め、更にその周囲を駆逐艦の子達が囲んでくれているいわゆる輪形陣だ。
しかし、私は正直この陣形は好きでは無い。良い思い出も無いし、駆逐艦達の子に守られるというのも、必要で効率が良いとはわかっているけど…もやもやした物を感じた


「大和さん、あれ!」

私の右前方にいた初霜が私の後方を指差した。
既に電探に写っていたとは言え、やはり自分の目で見てみたいのだろう。
彼女の指差した方を見ると一機の彩雲を先頭に少数の烈風、そして紫電改・彗星・流星の編隊が私たちの真上を超えて行こうとしていた。
飛龍・蒼龍の航空隊だ。
更にその上を遥かに速く、遥かに大きな轟音を立て4機のF/A-18が追い越していく。アメリカ空母の艦上機だ。

まず、彼らがミサイルで一撃を加え、直後に艦娘の航空隊が強襲。その後私たち水上部隊が攻撃をしかける。
「…頼みます」
私は無意識に一言呟いていた。

突然ですが、宣伝です!




((((;゚Д゚)))))))((((;゚Д゚)))))))((((;゚Д゚)))))))

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なんと!つまらないと今話題のこのSSスレが…

とうとう宣伝用のスレになってしまったぁ!





文句があればこのスレまで

P「俺が…タイムスリップ?」
ex14.vip2ch.com




「…ダイアモンド・バックスより、ジョージ・ワシントンへ…敵艦隊への攻撃は成功するも戦艦・空母を中心とする多数の艦艇が残存、友軍部隊の検討を祈る…」

鎮守府から持ってきた握り飯を食べていると叢雲が呟く。アタシや瑞鳳も同様の通信を聞いていた。

「始まったみたいね、みんな無事だと良いけど…」

「瑞鳳、偵察隊からは何か情報は?」

「今の所何も…30分前に呉鎮守府の空母を見つけただけね」

周辺に敵は無い、あたし達は後衛部隊の更に後方にいる…よし

「瑞鳳、追加の偵察機を出してくれ、東方を中心に…あたし達はもうすこし前進する」

思ったより前衛部隊は進出しているようだ。何かあったときにすぐ状況を把握出来ないとまずい、アタシは艦隊に前進を指示した。



『ちゃくだん!』『ざひょうしゅうせい、みぎへ3、きたへ2』

「よし…斉射!」

轟音、しばらくして観測機から報告が届く

『てきじゅんようかん、ちんもく!』『ふきんにてきえい、なし!』

「よし、皆ご苦労だった…損傷を受けたものは居ないか?」

回りの随伴艦を見回す。よし、特に被害を受けた奴は居ないようだ。
作戦は順調だった。米空母・空母艦娘の航空攻撃が効果を上げたようで、我々横須賀第一水上打撃部隊は損傷した残敵掃討を行い、これまでに多数の敵艦を撃破した。
先ほども沖ノ鳥島に向け後退する一隊を補足。逃げる重巡リ級を庇うように突撃して来た駆逐イ級を粉砕し、リ級も観測射撃で撃沈した。
快勝、完勝だが…こうも一方的というのはすこし引っ掛かる物を感じる。

「姉さん、いい?すこし気になってたんだけど…」

「すいません長門さん、私も…」

陸奥と古鷹が話しかけてくる。
二人ともすこし不安げな表情だった。

「どうした?」

「変だと思わない?私たちは深海凄艦の拠点の一つである沖ノ鳥島を攻撃している。その割には敵の抵抗が弱過ぎると思わない?」

「普通なら…防御にしても放棄にしてももうすこし抵抗らしい抵抗をしてくるはずです…」

確かにそうだ。あの重巡リ級だって、私たちに遭遇してから発揮した速度を米海軍の空襲の時から発揮していれば私たちに遭遇する前に離脱できたはずだ。
まさか、わざと撃沈された?
そういえば私たちは予定海域より僅かに北上していて…まさか


「金剛、金剛!?応答しろ!!」

『こちら横須賀第二水上打撃部隊の金剛デース!長門?どうしましたカー?』

「金剛、今どこだ?敵とは交戦したか?」

いけない、熱くなってしまって、声を荒くしてしまっている。しかし私の考えが正しければ金剛も…

『敵の小型艦と遭遇したけど撃破したネ?追撃戦ですこし北に移動しちゃったけど、問題nothing!』

「大問題だ!利根に水偵を出させろ!私たちは南下する!陸奥は提督に連絡!古鷹!呉水上打撃部隊に連絡を…」

矢継ぎ早に指示を出す、しかし直後に通信が入る。


『こちらイーグルス、ヤマトが敵の集中攻撃を受けている!こちらは弾切れで攻撃できない!ダムバスターズ、支援は可能か?』
『ダムバスターズ、無理だ、現在補給中…』
『ブルー・リッジよりはたかぜ、ヤマトが多数の航空機の攻撃を受けている…アカギの航空隊が支援に向かったが、到着にやや時間がかかる。君達が一番近い、ヤマトの支援に向かえるか?』
『はたかぜ了解、呉水上打撃部隊の救援に向かう』

私たちはまんまと罠に嵌められてしまったらしい。

「何で大和が…?いえ、何で大和だけ?今まで深海凄艦がここまで戦略的な行動をする事なんて…」

「陸奥!考えるのは後だ!我々も南下する!敵が足止めをしてくる可能性がある、警戒を厳に!」





「蒼龍航空隊より連絡です!敵攻撃機編隊を視認・攻撃をしかけるも撃退ならず、こちらに向かって居るようです!」

妙高が叫ぶ、同時に対空電探に敵の反応。
予定では航空隊が攻撃と同時に制空権を確保する予定だったが…敵機は戦闘機の攻撃を無視してこちらに向かってきて居るらしい。

「全艦対空戦闘用意!妙高、友軍への支援要請を頼みます!」

「大和さん!来ました!」

「主砲、三式弾装填…撃て!」

空中で砲弾が何発も炸裂する。何機かはそれで撃墜したが、残りが爆煙の中を突っ切ってこちらに向かってくる。

矢矧が、続いて駆逐艦達が砲を空に向けて撃ち始める。

「敵機、雷撃進路を取りました!」
「そっちに行きました!」

矢矧達の上空を通過した敵機が高度を落とし雷撃進路を取り始める。

「私が引き受ける!ここは通さん!」

那智が私と敵機の間に割って入り、狂ったように高角砲を撃ち始める。が、三機が那智の傍をすり抜けるように通過してしまう。

「私を無視した!?大和!敵の狙いは貴様だ!」

「くっ…回避します!」

弾幕を張りながら大きく左に舵を取る。まだだ、そう簡単にやられるものか。
一機を撃墜、しかし残りの二機が魚雷を落とす。大丈夫、かわせる筈!
二本の魚雷が私のすぐ後ろを通過する、危なかった…

「大和さん!左前方!!」

雪風が叫ぶ声が聞こえる、しまった、反応が遅れた!?

「くぅっ…!」

全身を衝撃が貫く、被雷した…でも大丈夫だ、

「こんな事で大和は沈みません!」

航空機からは逃げる事しか出来ない、でももうすこし粘れば赤城の航空隊が援護に駆けつけてくれるはず…

「大和!右後方、雷撃機三!」
「大和さん!左前方に雷跡!気をつけて!」
「貴女だけが狙われてる!逃げて!」
「大和さん!左舷上方!急降下です!!」

一度に四人の声が聞こえる。不思議と全て聞き取れた。
しかし、全方向から迫る魚雷・爆弾。回避しなければ。しかし、どちらに逃げても被弾は免れなかった。





『大和…炎上中…』
『赤城航空隊、交戦開始…』
『こんごう、シースパロー発射…数が多過ぎる!レーダーで捉えきれない!CIWS迎撃開始!』
『大和がまた被弾したぞ!』

耳に入ってくる通信を聞く限り、戦況は悪そうだ

『摩耶、聞こえるか?呉鎮守府から要請が来た、我々は大和の救援、那覇まで護衛を行う』

「わかってる!既に移動中だ、瑞鳳も艦戦を発艦している!」

『急いでくれ、他の艦・部隊への被害は少ないが大和はもう戦闘不能寸前らしい』

「了解!瑞鳳!アタシと叢雲は先行する!」

「わかったわ!」

「まさか真っ先に離脱するのがあの大和なんてね、新鋭過ぎて錬度が足りなかった?」

叢雲がぼやく

「さぁな…でも敵は他の艦や艦娘には一切構わず大和だけを攻撃しているらしい、大和が何よりも厄介と考えたのかもしれないな」

「まさか…深海凄艦がそこまで具体的に意思を持って行動した事があったの?」

「アタシは知らん、基本的に近くの艦を狙うのが深海凄艦のはずだ…さあ、急ぐぞ!」




『大和…大和!聞こえているか!損傷を報告しろ!』

頭ががんがんする、艤装が燃えている、思うように機関出力が上がらない。
そんな状況でも提督の声だけははっきり聞こえた。

「対空電探を…損傷、主砲射撃盤破損…一番、二番砲塔が使用不能です…」

『…わかった、雪風、浜風は大和を護衛して那覇鎮守府に退避しろ』

「待ってください!まだ私は…」

「提督の命令だ、貴様も艦娘なら従え、大和」

「そうです、今は赤城の戦闘機とこんごう、あきづきが空を抑えてくれてますが…いつ敵がこないかわかりません」

提督に意見しようとした私を那智と妙高が制する。
惨めだった。最近建造された私は就役と同時に呉鎮守府の旗艦となり、何度か出撃が空振りして初めての実戦だったというのに、敵艦に一発も撃つことなく戦線離脱だなんて、
しかし、彼女たちの言う事も事実だ、このまま艦隊と行動を共にしていたら足手まといになってしまう。海自の艦に収容してもらうのもその間仲間を危険にさらしてしまう。

「…わかりました、矢矧、貴女に旗艦を譲ります」

「了解、これより呉水上打撃部隊の指揮を取ります」

「雪風、浜風、沖縄まで護衛をお願いします…」

「雪風がお守りします!」

「任せてください、大和」

そんな私に、回りの皆は笑顔を向けてくれた



出来れば、「今日はここまで」だと教えてほしいな
ずっと待ってたよ

>>180
ごめんなさい、次からは区切りの時にそのように書くよう気をつけます。

「浜風、雪風は後尾に着きます、大和さんをお願いします!」

浜風に大和さんを任して最後尾に着く。この戦闘、大和さんが集中的に狙われたが、おかげで他の部隊は殆どダメージが無いらしい。
流石は大和さんです。
何度か後ろ、元々私達がいた海域の方に双眼鏡を向けると敵は大和さん集中狙いを諦めたのか他の艦を攻撃するところが見えた。
これで大和さんは安全だが、他のみんなにも無事で居てほしい。

「電探に感!」

浜風が警報を発する、慌てて双眼鏡を浜風の言う方向に向けると零戦52型の編隊が見えた。
那覇鎮守府瑞鳳航空隊。思ったより早く合流できた。向こうは予定の会合地点よりすこし前進して待機していたらしい。




『政府は先ほど、自衛隊・米軍合同で行われた沖ノ鳥島奪還作戦は所定の戦果を上げつつ成功したと発表しました。』
『沖ノ鳥島周辺に展開する深海凄艦の多数を撃破、奪還した沖ノ鳥島には観測機器を設置し、周囲の深海凄艦の活動状況を収集する方針との事です。』
『政府はこの作戦成功により、西太平洋、日本近海に置ける深海凄艦の脅威は低下した物と考えられると発表しました。』
『なお、この戦闘では海自・米海軍も多数の艦が損傷、死傷者も出ているとの事です。では次のニュース…』



「艦娘が戻ってきたぞー!」「梯子下ろせー!!」

沖縄では海自隊員が海岸に並んで私達を待っていた。
影の噂で聞く程度だったが、小規模は鎮守府は自分で陸に上がる必要があるというのは本当だったらしい。

「じゃあ先に上がるわ」

叢雲が先に梯子を登り、大和に手を差し伸べた。

「すみません」

「いいわ…って、あんたすこし重いわね…」

「すっ、すみません、擬装が重いのと機関の出力が…」


「大和、ケツ押すぞ」

大和を引っ張りあげようと叢雲が思案していると摩耶が大和を下から押し始めた。
慌てて私と雪風もそれに続く。

「ロープだ!ロープを持って来い!」

「くっ…この程度、大和の苦しみに比べたら…」

「雪風は沈みましぇん…」

「浜風!?いま私をからかいませんでした!?」

「ファイトォー!」「イッパァーツ!!」




「な…なんとか上がれました…摩耶、ここではいつもこうなの?」

なんとか梯子を登りきり地面に手を着く。最後は殆ど運動会の綱引きだった。

「あー、うちの提督が無能でな…」

「呉では水路が引かれているので…これは予想外でした…」

苦笑いしながら答える摩耶に、ぜぇぜぇと息を荒くする浜風。
私にはごめんなさいと言う事しか出来なかった。




「呉鎮守府、大和以下駆逐艦二隻、今回は救援、感謝いたします!」

摩耶に執務室を案内してもらい、室内に入る。
三人でここの提督に向かって敬礼、今日の礼を述べる。

「あぁ、礼は良い。君たちの事は呉の鎮守府から聞いている。詳しい報告は後で良いからとっとと入渠でもしてきなさい」

提督は手にした本から目を放すことなく、私たちに向かってしっしと手を振った。
呉の提督は「クールに見えてすぐ熱くなるガキ」等と言っていたが、この人が熱くなる所なんて想像できなかった。それだけ彼の言葉は冷たく感じられた。
出て行けと言われて出て行くわけにも行かない、もしかして私たちは嫌われているのか?
当然かもしれない。最新鋭戦艦と言われながら真っ先に大破撤退すると言う失態を演じ、その尻拭いをする破目になったのだから。

「失礼致します!」

執務室を後にする。摩耶が外で待っていてドックに案内してくれた。




いかん、やばかった…アレが大破した艦娘と言うものか…
なんと言うか、色々やばい、つーか、エロイ。
服はぼろぼろだし、太ももとか鎖骨とか見えてるし…つーか大和さん、アンタ紐パンですか?
正直、艦娘にここまで興奮したのは初めてだった。
この鎮守府の艦娘達は皆可愛い。しかしそれも娘や妹のような感覚であって、大和のような美しいお姉さんとかもう、ね…
一度目を合わせたらガン見してしまいそうだったから、出来るだけ視界に入れないようにしたが…まずかったか?
俺は電話を取り、呉の番号を押した。

『呉鎮守府だ、あぁ、忘鎮君か、今回はすまなかったね』

「あなたまでそんな名前で俺を呼ばないで下さい…」

『悪い悪い、覚えやすくてな』

今度はアンタに変なあだ名つけてやろうか…

『それで、どうだい?うちの艦娘は?』

「雪風、浜風は小破、艤装はうちで修理すれば2日で完全修理できます。大和の艤装は…うちで修理すると1ヶ月はかかります。早急に海自に依頼して船を回してもらいましょう。」

『いや、大和の艤装もそちらで修理してもらいたい』

「なぜです?」

電話の向こうから、ふーっ。という音が聞こえた、このやろう、タバコ吸いながら電話してるな?

『妙高から聞いたが、大和は今回の件でずいぶん傷ついているようでな、すこし休ませてやりたいんだ、それに大和に沖縄を見てもらいたいと思ってね』

そう言われると返す言葉が無かった。

「いいでしょう、その代わり…」

『雪風と浜風は大和の修理が終わるまでそちらで使ってくれ、修理に必要な資材についてはこちらからも都合がつくようにしよう』

その時、受話器から電子音が響いた、他の着信が来たのだ。

「すいません、他に電話が…また連絡します」

『ああ、頼むよ。では』

電話機のボタンを操作して、次の電話に出る。

電話機からは海自のスタッフの声が聞こえた。

『提督、横須賀基地隊からお電話です』

「あのおっさんか、繋いでくれ」

受話器からガチャっと音がする、その直後、俺は叫んだ

「やあ!呉鎮守府の妖精さんだよ!くれっちーって呼んで欲しいな!!」

『やあ!沖縄鎮守府の守り神キングシーサーだよ!!オッキーって呼んでくれたまえ!!』

「…ごめんなさい」

『まだまだ甘いな、君も』

俺の渾身のギャグは0.5秒で返された。やはりこの一佐は苦手だ。
つーかなんだよキングシーサーって、二番まで歌歌ってないんだから出てくるなよ。


更衣室で服を脱いでいると呉の艦娘達と摩耶が入ってきた。

「どうだった?提督はなんて?」

「あの…しれぇはなにも、ただ入渠してこいとだけ…」

「私たち、嫌われてるのでしょうか…」

雪風と浜風が暗い表情を見せる、あの男の悪い癖ね、これは。

「大丈夫、あの人、クールであろうとして失敗するから、冷静な降りをしていただけよ?」

「だといいのですが…」

「あ、あと提督は「提督」という呼ばれ方に拘ってるから、気をつけてあげてね?」

瑞鳳が服を脱ぎながら私の言いたい事を全部言ってくれた。

しかし…
流石は戦艦、立派なものを持っている。失礼だとは思ったが、私の目は大和の一点に釘付けだった。
ここの鎮守府は私叢雲に、瑞鳳と摩耶。摩耶はスタイルは良いと思うが、大人と言う感じはしない、だが大和は立派な大和撫子だった。
提督はどう言う女性が好みなんだろう?ふと頭の中で想像して見る。
私や瑞鳳は対象外だろう、摩耶も…良い奴だとは思うけど、女性としては?な部分が多い。
もし提督の好みが雪風だったら?私は提督を罵倒する自身がある。

改めてみんなを見渡すと皆、魅力的な人に見える。雪風だって幼児体型だけど、ガリガリな私に比べればずっと可愛い。
大和がタオルで身体を隠してドックへ入って行った。

「これ…砲弾?なんで…」

大和の服の入った籠に目が向いてしまう。なぜか砲弾が二個、置いてあった。

「叢雲…?入らないのですか?」

そして浜風、アンタはなんなの?
なんで提督の見てた番組の女性より胸が大きいのよ!
そして私は何を考えてるの!?



風呂から上がり食堂に行くと提督が隊員を集めて椅子の上に立っていた。
呉の艦娘は目を丸くしている。まあ、他の提督はこんな真似しないだろう。

「みんな!今日は良くやってくれた!海自隊員諸君!徹夜での出撃準備、ご苦労だった!」
「那覇鎮守府の艦娘諸君!良く無事に任務を果たしてくれた!呉鎮守府の艦娘諸君!最前線で良く頑張ってくれた!特に大和!君が敵の航空機をひき付けたおかげで他の艦には殆ど被害は出なかったそうだ!!」
「いーから椅子から降りてください!」「どうせアンタの次の台詞みんな知ってるんですから!」
「がっ…きょ、今日は褒美がある!親父に大量に送ってこさせた!」

一瞬ひるんだ顔をした提督が椅子から降りて厨房の奥へ走っていく。
だいたいどうなるか、海自隊員が言ったとおり、みんな知っているんだけど…今日は呉の艦娘もいるから、私だけは突っ込まないで置こう。


「酒だ!男山!笹おりだ!」
「また日本酒かよ!」「良い加減地元びいき止めろ!」「焼酎は!?ビールは!?」
「うっせー!俺は焼酎は苦手なんだよ!欲しかったら近所のスーパーで買ってこいやぁ!あ、それと、お酒を飲まれない皆様に置かれましては真に申し訳無いのですが」
「わかっとります。電話対応とかは自分らでしますよ」

「叢雲、なんなんですか、あの人は…」

浜風が私の方を見てる。
聞かないで欲しい。この人のテンション上下の激しさは私も判り切っていないところがあるのだ。
でも、この提督の振る舞い、実は最初年上の部下に対して自信の持てなかった提督が部下に着いてきてもらおうと、精一杯の強がりではじめた事だというのは私しか知らない。
(あのときよりは良い笑顔するようになったじゃない?)
最初に組んだパートナーとしては提督の成長は素直に嬉しかった。

今回はここまでです。
続きは明日の朝か、夜に書き込みます。




やれやれ、あの提督にも困ったものだ…
そんな事を思いながら皆を眺めていると電話が鳴り響く

「もしもし、こちら那覇鎮守府」

『沖縄基地隊だが…彼は居るかね?』

「一佐ですか、お疲れ様です。提督は…すいません、今は」

『そうか、まぁ、今日くらいはよかろう…君の方から後で彼に伝えておいてくれるかね?』

「了解です。」



―週刊誌。「緊急取材!国民を騙す政府と艦娘!艦娘の笑顔の下の腹黒さ!」
―先日行われた沖ノ鳥島奪還作戦だが、那覇鎮守府も出撃していた事が昨日、沖縄基地隊への取材でわかった。
那覇鎮守府から出港し、沖ノ鳥島に向かう他鎮守府の戦力と合流するのであれば12時頃に出港すれば十分間に合う計算になるが、
沖縄基地隊への取材によると実際に出港したのは9時間も前の午前三時だった。
出撃を反対する市民団体は当日朝7時から1000人(団体発表)で出撃反対デモを行ったが、既に艦娘は出港しており、市民団体は肩透かしを食らった形だ。
沖縄基地隊隊長は「機密保持の関係もあり、具体的な出撃日時等は事前に明かす事が出来ない。マスコミ各社の想定より早く出港したのは作戦上、他艦隊より先に現地に着く必要があったためである」
と説明しました。
また、寄港時に艦娘の数が増えていたと言う民間漁船からの通報に対しては「損傷した艦娘の一部が那覇鎮守府に退避して来た。彼女たちは装備の修理、休養が終わりしだい、元の所属に帰る予定だ」
と説明しました。

―平和団体代表のお話
全く、騙された。という気分でいっぱいです。
部隊の出動と言う国民の生命に直接かかわる行動を国民に何の説明も無く、邪魔されなければ良いやと国民の総意を無視した軽い考えで深夜に強行するなど、決して許されるものでは有りません。
このような暴挙を許していては「邪魔されなければいいや」と、他国へ侵攻する、軍拡する、核兵器を作る…戦前の盧溝橋事件などと同じ事になってしまいます。

―沖縄基地隊では作戦上あの時間に出撃する必要があると言っていたが
全くのでたらめです。戦うなら数は多い方が良い。これは子供にもわかる簡単なことです。
たった三人の艦娘を先行させても何も出来ません。こんな子供だましに引っ掛かるわけには行きません。

―艦娘が増えた。と言う事に着いてどう思うか
はらわたの煮えくり返る思いです。ただでさえ那覇には殺人未遂や恐喝を行った艦娘が所属しており、私たちは近隣住民の安全と平和のために艦娘の即時撤退。それが無理でも該当する艦娘の移籍か処分を要望しましたが、自衛隊がそれを聞くことはありませんでした。
そんな状況で艦娘を増強しようなどと、正気の沙汰とは思えません。
損傷したから那覇に来たと言いますが、それも嘘でしょう。沖ノ鳥島から沖縄まで来れたのに呉や横須賀に行け無い理由がありません。
これは艦娘増強をもくろむ政府が、修理のためと言い張れば我々を騙せると言う考えで行った事に他なりません。
更にその内の一隻はあの戦艦大和だと聞きます。大和のような強力な兵器が常駐すれば沖縄が脅威に晒されます。沖縄を戦争に巻き込まないために、大和をはじめ艦娘の即時処分を訴えなければいけません。

―特別コラム「沖縄への差別の象徴大和」
まず、明治以降日本政府による沖縄、琉球への差別の伝統文化や言語の廃絶強制など多岐にわたるが、そのいきつくところとして、太平洋戦争における皇土防衛の為の捨石とされた事もあるが、もっともあくどい仕打ちは、戦艦大和の沖縄海上特攻作戦だったのではないかと私は思う。
さて、そこへ大和が攻め込んできて、世界最大最強といわれたその主砲四十六㌢砲塔九門が一斉に火を吹くと沖縄はどうなっただろうか。想像しただけで瞑目するばかりである。おそらく、大和は偵察機による誘導もないので、沖縄中南部の平地に巨大な砲弾をところかまわずに打ち込んだであろう。
その弾は日米軍ばかりではなく、住民をも打ち砕いたであろう。 住民の犠牲者は、更に多数に上り、三十万人(当時の人口の半分)にも達したのではないかと、恐れる。
だが、大和は、米空母群から発艦したヘルダイバー急降下爆撃機による空からの攻撃と潜水艦による魚雷攻撃で、沖縄本島には一発の砲弾も放つことなく、四月七日に、三千人の乗組員とともに撃沈された。
あっ、よかった。戦艦大和が、沖縄のはるか北方の海に沈められてよかった。そう言えば、日本国民の多くは激怒するだろうし、やはり琉球人は日本人ではないと、その従来の差別感の正当性を再認識するに違いない。
沖縄人が、戦艦大和によりさらに多数を殺され、島の集落のことごとくが破壊されたであろうことを思えば、それはまさに明治以来の差別のいきつくところであった。

さて、その大和が艦娘となって遂に沖縄に到着したと聞き、私は今恐怖している。
大和が沖縄に存在すれば当然沖縄は敵の攻撃目標となり、大和もその主砲を日を吹くだろう。いったい140万人はいる沖縄県民のうち何人が犠牲になると言うのか。
こんな危険な艦娘。大和を沖縄に配備すると言う事自体、今現在の日本において明治以来の差別が続いている事に他ならない。
やっぱり、戦う前にもう一度沈んでくれないだろうか、事故で他の艦娘と衝突して沈んでくれれば…と、沖縄県民として願うばかりだ。

すみません、今回はここまで。
実際にあったコラムを探していたら予定より時間がかかりました。
次は今日の夜か明日の朝の予定です。

この手の自称平和団体の過激なやり口見る度にONE PIECE魚人島編に出てきたホーディ・ジョーンズを思い出すんだよなぁ。
ひたすら「人間は悪だ」と教えこまれ、自分自身が特に人間に何かされたわけでもなく恨む理由もないくせに人間を憎むホーディ。
同じく、ひたすら「戦争は悪いことだ。軍隊は戦争する悪い奴だ」と教えこまれ、戦争せざるを得ない事情も考えずに戦争やアメリカ軍を憎む平和団体。

どっちも視野狭窄と思考法機をこじらせた死んでも治らんレベルのアホどもよな。




「んん…むぅ…」

変な音で目を覚ます。

「なんだ…いまのは…ゴキブリの羽の音か…」

「いまのは…あいつの寝息です…」

「くそ…頭が痛い…何が起こってるんだ…」

頭を起こして辺りを見渡す。辺りは散々な状況だった。
摩耶は一升瓶を抱えたまま眠りこけていて、雪風は複雑に折り重なった椅子の中で丸くなっている。
瑞鳳は浜風の胸に顔を埋めたまま寝ていて、その浜風は胸元を瑞鳳の涎でべっとり濡らしながらうんうん唸っていた。悪夢でも見たのだろうか?
俺の隣で眠りこけていた隊員が声だけで俺と会話を始める。

「たしか…俺、唇だけで壁を登ってやると宣言した辺りは覚えてるんだが…」

「なんで覚えてるんすか…」

「その後嫌がる雪風にどっかのバカが酒飲ませたら椅子で巣を作り出して…」

「瑞鳳さんが酒飲んだら浜風さんに絡みだしたんすね…提督、浜風さん、いいっすね…おれ、浜風さん呉に帰ると同時に転属願いだしますから…」

「おまえ瑞鳳の飯食うためにここで飯炊きしてるんじゃなかったのかよ…」

「それはそれ、これはこれ…で、提督、それどうするんですか?」

俺と話してた海自隊員が首だけ動かして俺の腹を見る。
俺の腹には叢雲がしがみついていてすやすやと寝息を立てていた。


「…あまり起こしたくは無いが…」

叢雲の頭を撫でると「うぅん…」と唸ったが、まだ起きる気配は無かった。
あぁ、これが妹とか彼女だったらよかったのに。だが残念、彼女は艦娘で俺は提督、上司部下の関係だ。

「提督、おはようございます、いま朝食を作っていますから皆さんを起こしてあげてください。」

厨房から大和が出てきた。大和の声で、周囲に食欲をそそる匂いが漂っている事に気づいた。
そして、窓から入る朝日を浴びるエプロン姿の大和はとても美しかった。



その後、最後まで寝ていた叢雲は隊員数名にカメラを持って囲まれたまま目覚める事になる。
おそらく彼女にとってかつて無いほどの屈辱的な瞬間になっただろう。


―午後


「よしっと…大体ここの近くの説明はこんなもんかな…」

「だいぶ呉とは違いますね、当然ですが…」

「はい!雪風、覚えました!」

浜風と雪風を連れて鎮守府の周りを案内する。
装備の修理や整備で今日の出撃は無し、哨戒は全て海自に肩代わりする事になった。
あたし達は強制的にオフ、大和の艤装の修理が終わるまで一時的に那覇で働いてもらう事になる。周辺の地理もある程度把握してもらわないとな。
途中で乗ったバスで面白い光景を見かけた。二人は気づいていないようだが…

「悪魔の兵器?大戦の亡霊?艦娘について徹底研究!」
「深海凄艦から日本を守る!横須賀鎮守府の艦娘に密着取材!」

艦娘を嫌う記事を一面にした週刊誌の広告と、艦娘を応援する記事を一面にした週刊誌の広告が並んでバスの窓にはってあった。
沖ノ鳥島奪還作戦以降、艦娘のメディアの露出はかなり増えた気がする。
前にあたしが騒ぎを起こしたときなんかはネガティブな広告一面だったが…どうもメディアの流行の移り変わりというのは激しいものらしい。良く良く見れば艦娘を応援する週刊誌は前にアタシを解体しろと言う記事を書いていた。

「ほらあの子たち、艦娘よ?」「怖いわよね、普通にバスに乗ってるなんて」「でも可愛そうよね、頑張ってるのに色々言われて」

艦娘の記事の広告を睨む艦娘の図は結構おかしかったらしい。途中何度か視線を感じた。
でも気にするもんか。過激な反対派もいるが、最近はあたしらに行為的に接してくれる人も増えてきた。それで十分だ。



「すこし腹減ったな…なんか食べるか?すこしなら奢るぞ?」

「でも、摩耶さんに悪…」「まやさん!ありがとうございます!」

雪風は素直な奴だ。対して浜風はすこし引込み気味かな?明日からは叢雲も含めて艦隊運動の訓練だ、大和の護衛をしていた呉のときより厳しくしてやるから覚悟しろよ?
二人を連れてハンバーガーショップに入る。前に中学生に教えてもらってから遠出するときはここで軽く食べるのが習慣になっていた。

「摩耶様だ!」「摩耶様!踏んでください!」

「クソが…」

あまり会いたく無い連中にあっちまった。
最近外出すると良くこいつらに出会う。まさかストーカーなんてして無いよな?




「悪いね、大和さん、手伝ってもらって」

「いえ、こちらこそすいません。私たちのために引越しまでしてもらうなんて…」

「なに、どうせ近いうちに引っ越す予定でしたから」

大和と並んで市役所に向かって車を走らす。
鎮守府の宿舎の空きが一部屋しかなかったため、私が追い出される形で近くのマンションに引っ越す事になったのだ。
とはいえ、自衛隊生活では引越しはいつもの事。元々私も定年が近いし、生まれは沖縄。近いうちに宿舎を出るつもりだったから予定が数ヶ月早まっただけだ。

「それに提督も言ってたしね、宿舎に空きがあった方が増員要請が通りやすいって」


本当は一人で引っ越す予定だったが、擬装も仕事も無いと言う大和が手伝ってくれると言ってくれたのだ。
そこまでデカイ荷物が無かったと言っても、宿舎とマンションを数往復するつもりだったのが二往復で済んだのは彼女の手伝いに寄るところが大きい。
まあ、おかげで速攻で荷造りしてAVの入ったダンボールを厳重に封印するは目になった…
しかし、女性と並んで歩くと言うものはいくつになっても良いものだ。私も離婚しなければ妻と…いや、大和の年齢からすると娘の方が近いか?並んで歩いてたかもしれない。

「じゃあ後は転居届を出せば終わりだ、待っててくれ」

「はい、わかりました。」



市役所に向かう隊員の背中を見送り、私は駐車場で待つ。
彼は数分で終わると言っていたが…なぜか10分たっても彼は帰ってこなかった。


何かあったのか…?艦娘が市役所に行くというのもおかしな話だが、すこし気になって私は車を降り、ドアをロックして市役所に向かった。

市役所の自動ドアの前で隊員と会った。なぜか回りの人に声を掛けられて照れているのか頭をかいている。

「自衛隊さん、頑張ってね」「ワシらは応援しとるぞ」「役所の連中なんぞに負けちゃいかんよ?」

「どうしたんですか?」

慌てて駆け寄り声を掛ける、なぜか隊員より先に回りの人が答えた。

「役所の受付がこの人の転入届を拒否したんだよ」「この人が困ってたからみんなで助け舟を出したんだ」

「いやぁ、まさかミスの無い書類で役所に拒否されるとは思わなかったねー」

隊員と回りの人々がなぜか笑い出す。しかしそれは大問題では?

「勿論問題だよ、隊員さんからは言い難いだろうが、ワシらが抗議してやる」

「最近の市長は自衛隊に文句言えばどうとでもなると思ってる節がある。そりゃ色々迷惑をこうむったが…まさか沖縄出身の隊員にまでちょっかいだすとは思わなかったよ」

「は、はぁ…」

沖縄の市政に着いては私は全くわからない。空返事をするばかりだ。


「それじゃ、隊員さんも艦娘さんも、頑張ってな」

なぜか世間話から市政の批判が始まり、一通り話が終わり解散する。

「いやぁ、老人の話しに付き合うのも大変だなぁ?」

そう言う隊員の顔は楽しそうだった。




摩耶を「摩耶様」と慕う中学生とわかれ、バスに乗る。
事ある毎に摩耶に踏んでくれ踏んでくれと言ってたのはこの地方の方言?なわけないわよね。
でも…みんな可愛いと言ってくれてすこし嬉しかった。呉でも広報任務はやったけど、私はずっと艦隊任務だったから、民間人と触れ合う機会はあまり無い。
その中でも私達を一人の人間として扱ってくれる人に出会えて、いろいろな話が出来たのは面白かった。
あれ…バスは混んではいるけど、なぜこの人はこんなに寄ってくるの?

「っ…!?」

私のお尻に何かが触れてビックリして反応してしまう、偶然だろうか?

今回はここまでです。
次は明日の朝か夜。遅ければ明後日の夜になる可能性もあります。

これ流れ的には多分、いわゆる1-4(相当)攻略後という認識でいいのかな?

>>283
うーん、厳密に艦これの流れに沿って作っているわけでは無いので、特にそういう認識は持たない方が良いかもしれません。
1-4攻略後なら大和が居たり烈風が出てくるのもおかしな話ですし、既に今実施中の秋イベの船についても言及されています。
なので、艦これのここを攻略した辺り、次はここ。みたいな認識は持たない方が良いかと思います。




―政府と裏取引?両手に艦娘?
4ヶ月前に、艦娘が民間人を暴行した事件を覚えて居るだろうか?
世間的にも有名になった事件で、艦娘の扱いについて現在も政府内で議論を巻き起こしている要因となっている事件なので、読者の方々にも覚えている方は少なく無いだろう。
ところがこの事件、不可解な謎が一つある。被害者男性は顔面を殴られ、全治3ヶ月もの大怪我を負ったにもかかわらず、慰謝料請求などを行わず裁判にもなって居ないのだ。
この件は専門家の間で様々な憶測を呼んだが、本社はその謎の解決に繋がる一枚の写真を入手した。以下がその写真である。
―写真「バスから降りる男性と三人の艦娘」
―写真「男性から封筒を渡され頭を下げる艦娘とそれを見て微笑む艦娘」
この写真から推測されることは一つ、自衛隊は艦娘をこの男性に売る事で、自衛隊としての責任問題を回避した。
前々から噂されていた事ではあるが、この写真がその噂の信憑性を高めている。
この男性は当社の調べでは未婚、独身。「艦娘と好きなだけ援助交際しても良いから訴えないでくれ」この提案は彼にとって非常に魅力的に移った事は容易に想像できる。
写真の艦娘の笑顔が「これで我々は安泰だ」という、邪悪な笑顔に見えるのは私だけでは無いだろう。


―艦娘と何度も寝たと言うAさん(仮名)のインタビュー
-海自が艦娘を援助交際に使うと言う事はありえるのか
十分ありえる話、と言うより事実です。実際私も艦娘と援助交際をしました。援助交際の相場は約2万円と言われており、若ければ若いほど、スタイルが良ければ良いほど高くなる傾向にあります。
艦娘の場合はその相場の3倍辺りが相場になりますし、戦艦や空母…仲間内ではレア艦、と呼んでいますが、中には10万を超えたり、一日中セックスし続ける場合などは100万を軽く超える場合も有ります。
この男性は事件の被害者という側面がありますから、相場よりかなり安く取引していることでしょう。うらやましいばかりです。

-なぜ自衛隊が艦娘の援助交際を認めるのか
艦娘も所詮女、それも女ばかりの職場で溜まってるって奴です。それに人じゃ無い艦娘はいくら働いてもお給料はでない、艦娘にとっては性欲解消と小遣い稼ぎ、両方を満たせるんです。
海自としても欲求不満の艦娘に暴れられては困りますからね。認めると言うよりは黙認して居たんです。自分の懐は痛みませんしね。
おそらく自衛隊は艦娘への処分と男性への口封じ、その全てを兼ねる名案として安値での援助交際をするよう命令したのでしょう。

-艦娘の援助交際に需要はあるのか
実際何度もヤッた私がここに居ます。それに艦娘は美女ぞろいですし、年齢も人権もないから幼稚園児ともヤレるって訳です。人間相手にヤッたらお他がいが合意してても13歳未満だと犯罪ですからね…
金はかかりますが人間相手の風俗や援助交際で不細工にあたるより何倍もマシと居えるでしょう。
ほら、この写真の…この幼稚園児みたいな子や、ロリ巨乳な子(写真の拡大)ともヤレるって訳です。特にこの二人は援助交際の相場は8~10万を超えるでしょう。いやぁ、うらやましい。

(編集長注・もっと刺激的な文章が欲しい)

-艦娘とのセックスはどんな感じだったか
個人名は控えますが…私が寝たのは主に巡洋艦と呼ばれる艦娘達です。
どの艦娘も美人でしたし、巨乳も居ればロリも居る。みんな風俗嬢みたいなグロマンとかではなく、きれいなピンク色で処女を犯しているような興奮がありました。
一度だけ空母と呼ばれる艦娘と寝ましたが、見た目に反してすごい締め付けでしたよ。もっともそれから給料日までは極貧生活でしたがね。
なによりみんなしっかり感じてくれるんです。これは風俗や援交なれした人間の女には無いセックスのメリットと言えるでしょう。

やはり、被害者男性が格安で艦娘とセックスする権利を得る変わりに訴えないことを受け入れたのは事実のようだ。




―直接取材・なぜあなたは艦娘を訴えなかったのか、謎に迫る。事件被害者本人に直接インタビュー!
4ヶ月前に起きた艦娘民間人暴行事件。この事件の被害者が、長い沈黙を打ち破り遂に本誌にその胸中を語った。

-そもそも、あの事件はなぜ起こったのですか?
一言で言うなら勘違いです。私と別の女性がトラブルになり、それを私が女性に乱暴していると勘違いした艦娘が私を取り押さえようとしました。
実はこのとき、私も抵抗して艦娘を殴っているんです。それで艦娘が私を取り押さえるために殴った。というのが事件の全貌です。

-なぜあなたは海自・艦娘を訴えなかったのか?
事件直後に艦娘とその責任者の方から丁寧な謝罪を受けました。またそもそもこの事件の原因は私とトラブルになった女性にあると考えていたため、艦娘を訴える意味は無い、と考えたんです。
また、実は私と艦娘の間には艦娘が治療費を自分の給料から支払う、と言う事で示談が成立したんです。相手が直接悪いわけでも無いし、誠意ある謝罪も有るし、治療費も払ってくれる。そこを更に…とは私には出来ませんでした。
まあ、示談についてはどこのマスコミも報道しなかったようですが…(編集長注・本誌の責任も追求される恐れ有り、この行は削除する事)

-なぜ、今になって本誌の取材を受けてくれたのか
あの事件は解決したため、解決した事件で世間様を騒がせるのもよくない。と考えました。
ですが話を聞くと、どうも私や艦娘についてあらぬ疑いがかかっているとも聞きました。丁度そこに御社が取材の申し込みをしてきたので、事実を広めるべきかなと考えて取材をお受けする事にしました。

-事件の加害艦娘とのその後の関係は?
基本的には責任者の方に治療費を請求し、その数日後に艦娘が私の口座に振り込む。という形を取っているため、直接あった事は数度しかありません。
しかし何度か艦娘からは謝罪の手紙を受け取ったり、直接会ったときには世間話をする事もあります。関係は良好と居えるでしょう。

-事件前後で艦娘への印象は変わったか、また現在はどのような印象を持っているか
事件前は特に艦娘に対してはこれと言った印象は持って居ませんでした。私は仕事一筋で政治とかにあまり興味を持たなかったもので…ははは…
事件後は艦娘や海自責任者とのやり取りで、自衛隊や艦娘の存在意義を知るきっかけにもなりましたし、艦娘も一人の人間なんだと思います。
沖縄は昔から色々自衛隊や米軍とのトラブルの耐えない土地だとは思いますが…県民と政府、うまく譲り合って共存の道を歩んで欲しいですね。

(編集部注・原文は艦娘の艦名、編集部判断で艦名を伏せ、艦娘表記にした事をご了承ください)




二つの記事を見比べる。前者はゴシップ記事で有名な小規模出版社、後者はそれなりに有名な出版社か…
日付を見ると前者の方が二日早い。おそらく前者の記事を見た後者が男性に確認のため取材を申し込み、男性も前者の記事を見て取材を受ける決心をしたのだろう。
彼をまた面倒くさい事件に巻き込んでしまったかもしれない。

「提督?難しい顔をされてどうしました?」

大和に声を掛けられてはっとする。顔を上げると大和が俺の顔を覗きこんでいた。
流石にこんな記事は見せられないよな。

「あぁ、いや、読め無い漢字があってさ…アハハ…」

「漢字、ですか?大和が教えて差し上げますよ?こう見えても難しい電文とか頻繁に打ってますから」

「あ、あぁ、これ、ここの漢字なんだが…」

慌てて記事を隠し、適当な物を大和に見せる

「…提督?これ、電探ですよ?『で・ん・た・ん』です、電波探信儀、レーダーの事ですが…」

大和が怪訝な顔をして俺を見つめる。
うんごめん大和、知ってる。





「これより戦闘に入る!全艦単縦陣!行くぜ!」

「「了解!」」

摩耶を戦闘に叢雲・雪風・浜風がそれに続く。標的は私、瑞鳳だ。
私の真上を通過した天山が失速ギリギリまで速度と高度を落として摩耶達に向かう。

「右舷雷跡!」

「回避しろ!陣形を崩すな!」

「了解!」

直進する天山が浜風と雪風の間を通過する。甘いわね、一回だけじゃないのよ!


「右舷後方!雷跡三!」

今度は三機の彗星だ。

「全艦面舵!敵に反行戦をしかけるぞ!」

「は、はい!」

「浜風!遅れてるぞ!陣形を乱すな!」

摩耶を戦闘に大きく舵を切り私に向かってくる。しかしさっきの天山を回避した浜風が反応が遅れて遅れてしまう。
天山と彗星が五機編隊を組んで扇状に広がりながら浜風に向かい、一機が真上を通過した。魚雷命中、撃沈判定。


「これでっ!」「終わりです!」

その直後、叢雲と雪風が私に主砲をつき付ける。すこしはなれたところで摩耶も私に主砲を向けていた。法撃命中、撃沈判定。

「よし、状況終了!」

「浜風、大丈夫?」

「すいません、急な転舵に着いていけなくて…はぁ…」

今回は水雷戦の訓練だった、私たちの任務は基本哨戒だけど、私一人で哨戒できる範囲と時間はごく僅か、大多数は海自の哨戒機に頼っている状況だ。
それに偵察機を出したら帰ってくるまで何もやることは無い。その間こうやって訓練を繰り返しているのが日課になっていた。
実弾も訓練弾も、空砲すら使わない訓練だけど…「そこら変は貧乏ゆえ致し方なし」って提督も言ってたっけ?


「浜風、後半遅れてたぞ」

「はい、わかってます…水雷戦隊の機動がこんなに激しいものだったとは…」

「まあ、今までずっと護衛ばっかりだったんでしょ?護衛だったらそこまで急に進路は変わらないし、攻撃を受けても多少陣形を崩しても戻しやすいかもね…」

「でもここでは水雷戦が中心です!一緒に頑張りましょう!」

「えぇ、そうね」

訓練を終えてみんなで反省点などを話しあっていると彩雲から無電が入る

「彩雲から通信が来たわ、周囲に敵影無し、収容次第帰投しましょ」

「よっし、今日の任務もこれで終了か…とっとと帰って飯にするか!」

「でも油断は禁物、です。」

「道中の対潜警戒はお任せください!」


あれ、このやり取り、前も見た事があったような…
その時、叢雲が小声で話し掛けてきた。

「ねぇ瑞鳳、アンタ途中から浜風だけ集中狙いしてなかった?」

「あ、気づいた?ちょっと敵の戦法を真似して見て…」

「どうせそんな事だろうと思ったけど…」

じつは、ちょっとした嫉妬もある。
何であの子はあんなに大きいんだろう、私なんて空母なのに無いも当然だし…私以外の空母はみんな大きいのに…
私も一回ぐらい、肩がこりやすくて~って、やって見たいなぁ…
あ、別に浜風を嫌っているわけじゃないのよ、あの子は良い子よ、うん!

すこし短いですが今回はここまで。
次は明日(24日)の昼か夜になります。


摩耶から通信が入る。今回も索敵の結果敵影無し、これより帰還する…か。
さて、あの二つの記事、どう対応しようか…むしろ、何か対応できるのか?
不安に思いながら俺は電話を取り、沖縄基地隊のボタンを押した。

『やあ、きみか、そろそろ電話が来るんじゃ無いかなと思ってたよ』

「えぇ、例の週刊誌についてです。」

電話に出た少佐の声も落ち込んでいた。今日は変な冗談を聞く機会はなさそうだが…今は無性にどうしようもない冗談を聞いてみたかった。


『私も横須賀から連絡を受けたよ、一応確認するが、君は艦娘に売春などさせて無いだろうね?』

「まさか、私がそのような事を指示した事は一度もありませんし、艦娘がそのような事をしているという懸念も兆候も掴んでいません」

『なら、自衛隊としては否定するだけだが…艦娘の方は大丈夫かね?彼女達が見るにはあの記事はあまりにも酷過ぎる』

「…なんとも言えません、あの雑誌は発行部数も少ないゴシップ誌、との事なのであの記事そのものが艦娘の目に付く可能性は極めて低いと考えますが…」

『しかし今はネットと言うものも有る、完全に隠しとおすのは難しいだろうなぁ…』

そうだ、今では個人がブログで書いた話も内容次第では一週間もしないで広がる。


「…呉や横須賀は?どう対応するとか言う話し、聞いていませんか?」

『どうも向こうでも対応に難儀しているようだ、現在の対策としては戦艦や空母クラスの艦娘に事前に事情を話し、艦娘に露見した場合駆逐艦達のフォローを頼む。以外に有効な手は考えられていないらしい』

「今はうちには大和がいます。彼女に頼む事になるのでしょうか?」

全く、事務仕事を頼むと言う名目ですぐ終わる仕事を任せてしっかり休んでもらおう。と思った俺の計画はパーだ。
俺としてはこの記事が完全にただのゴシップ誌で埋もれてしまう事を願うばかりだった。





「艦長、そろそろ浮上しても良いのでは?」

「そうだな、潜望鏡深度まで浮上しよう、可能な限り、ゆっくりとだ、ソナー、周囲に反応は?」

「いえ…特にありません、ん?これは…鯨かな?」

ソナー員が言うには特に危険な相手は居ないようだ。これで乗員に新鮮な空気を吸わせてやれる。
まったく、日本軍め…どうせ攻撃するつもりが無いんだからほっといてくれれば良い物を。
僅かに船体が振動し、浮上を始める。

「艦長、潜望鏡深度です」

「潜望鏡上げろ」

「艦長、妙な音が聞こえます…」

「船か?」

「波の音だと思いますが…すこし変です、僅かに波の中に雑音のようなものが…かなりの遠距離だとは思いますが…」


ソナー員の発言に疑問を覚えるが、音も小さいと言う。きっと遠くで鯨でも居るか、岩礁に当たった波の音を聞いたのだろう。そう思って潜望鏡を覗く。
潜望鏡には、黒い黒点が猛スピードでこちらに向かって突っ込んでくる姿が映った

「急速潜行!ダウントリム40!深度200まで潜る!」

「海面に着水音多数!」「くそっ!日本人め、気でも狂ったか!?」

「違う!深海凄艦だ!早く潜れ!!」

直後、艦の上方で鈍い音が何度か響く。危なかった、もうすこし遅れていたら沈められていたかもしれない。そんなのはごめんだ。


「深度280まで潜って機関停止、奴が諦めるまでまとう」

「艦長、国際条約で深海凄艦を発見した場合は周辺諸国に通報する義務がありますが…いかがなさいますか?」

「我々が赤尾嶼付近にいる事を世界中に公表するか?そもそも浮上しない事には通信もできんだろう…ソナー、例の雑音は?」

「僅かですが…まだ聞こえます。どうも付近を周回しているようです」

ここから先は我慢比べだ。こちらが音を上げるより先に帰ってくれればありがたいが…


眠たい眼を擦りながら食堂に入る。食堂では早起きの連中や夜勤の連中が既に飯を食っていた。
テレビでは政治家献金問題に関するニュースを流していた。

「おはよう」「おはようございます」

「おはよ、提督…」

「しれ…てーとく!おはようございます!」

俺よりすこし遅れて艦娘達が入ってくる。皆それぞれ食事を受け取り、席に座った。


『次のニュースです、ある雑誌社が衝撃の記事を掲載しました、艦娘が援助』

その瞬間、事務をしている自衛官がチャンネルを変える。

『おーはー!!みんな今日も元気かな!?』

次の瞬間、テレビには子供向けバラエティ番組が映っていた。

「あっ!」「ニュース見てたのに!」「何よ、この変な番組…」

「いやぁ、なつかしいっすね、この番組もう十年以上続いてるんすよ…」

「あの…提督、チャンネルを変えませんか?」

「懐かしいな…なんか、でもこの番組見ると元気出てくるよな!」「提督もわかりますか?」

艦娘や他の自衛官の抗議をガン無視して二人で子供の時の朝の日課だった番組について語り合う。
その間リモコンはずっと事務が握り締めていた。
すまん、君には艦娘が訓練に出るまでの間茶番に付き合ってもらう。

今回はここまでです。
次回は多分明日の朝か夜になります。



今度はソースロンダリングね。
週刊誌⇒新聞⇒TV等、外信⇒国内等、会社間や媒体間をいくつか経由させることで確固たる「論拠」に仕立て上げるという手法


「本日の予定は那覇市西方100kmの地点に進出後彩雲で周辺の哨戒、哨戒中アタシらは対戦警戒訓練を行う」

ドックに置かれた机の上で摩耶が地図を指差して今日の哨戒の説明を行う。正直、昨日とやることは全くおなじだった。
その時、机に置かれた電話が鳴り始める。

「スマン、叢雲、出てくれ」

「はいはい…もしもし、こちら整備ドック、艦娘待機室…あぁアンタね、どうしたの?」

電話の相手は提督だった。提督は慌てているのか、すこし息が荒かった。

『叢雲か?まだ出港して無いな、よかった…すまんが予定変更、遠出になるが久場島に向かってくれ』

「久場島?尖閣諸島じゃない、何があったの?」

『石垣海上保安部から連絡があって海上で何度か爆発音のようなものを聞いた漁船が居るらしい。周辺諸国に問い合わせたところ北朝鮮以外からは現地で活動している艦船は無し、北からはまだ回答は来て居ない』
『現地では日本・台湾の複数の漁船が現在漁業を行っており海保・水産庁としては何よりこの海域の安全確認としたいらしい』
『それと、現地は現在日中の防空識別圏が被っている。彩雲を出すときは注意するよう瑞鳳に伝えてくれ、後で詳細を伝えに行く』

「了解、みんなに伝えるわ」


「叢雲、提督は何て?」

「任務は変更、私たちは尖閣諸島で哨戒を担当する事…あと飛行機を出すときは注意する事…後で提督が来るらしいわ」

「尖閣かぁ…一週間ぐらい帰ってこれないな…瑞鳳、食堂に弁当の追加を依頼してくれ」

「了解」

「でも…尖閣諸島ね…沖ノ鳥島は制圧したんだし、深海凄艦じゃないなら私たちの出番にはならないんじゃ無い?」

そうだ、深海凄艦の拠点だった沖ノ鳥島は先日制圧、現在確認できている深海凄艦の拠点になるとニューギニアやミッドウェイ、アリューシャン辺り。
そこから尖閣諸島に深海凄艦が現れるなんて、ありえるのかしら?



「うわあぁぁぁん!」

「大丈夫だよ、落ち着いて…」「そうだよ、私たちのづほちゃんは綺麗なままだから、ね?」

「うぅ…ずほちゃんが…わたしのづほちゃんが…汚い男共に股を開く淫乱艦娘だったなんてー!!」

「ちょ…あんた声大き過ぎ…」

俺が教室に入ると女子が一人、大泣きしていた。

「なんなんだよ、あれ…」

「あぁ、今朝のニュースさ…お前見なかったか?」

「あれ?あんなの信じてんの?」

何を馬鹿な。仮にも自衛隊は公務員、艦娘だって公務員かどうかはハッキリして無いと聞くけど…組織を上げて援助交際とか、しないだろ?


「でも今朝もニュースでやってたしなぁ…」

「うーん、そう言われるとなぁ…」

はたして、国の機関である自衛隊がそんな事をするのだろうか?
もししようものならバレレば大問題になるし、普通はやらないんじゃ…
でも、そういう所だからこそ厳重に秘密にして…と言われるとそれは違うよ、とは言えない。
すこし考えて見る。俺達が摩耶様にあった時は基本的に「踏んでください」→「お前らウザイ」から会話が始まる。摩耶様自身がどう思ってるかはわからないけど…たぶん、様式美って奴だ。
それが「踏んでください」→「しょうがねぇ、一踏み五千円な、プラス500円でグリグリ、プラス1500円で股間踏んでやる」になるのか?

それはすこし魅力的かもしれない、今まで貯めたお年玉全てを投げ打っても良いかもしれない…


そんな事を考えていると担任が入ってきた。

「よーし、お前ら席につけー…ん、どうした?」

「先生!私のづほち」「あー何でも無いです!」「この子の好きなキャラが昨日死んじゃって…」

「そうか…その気持ちは先生も良く判る。VSデストロイアでゴジラが死んだときは映画館で大泣きしたなぁ…」

先生、その時アンタ高校生ぐらいじゃないですか?それはすこし気持ち悪いです。



「提督、失礼します。今日の郵便です」

「あぁ、大和、ありがとう」

大和が郵便物の入った箱を持ってきて執務室に入る。
大和には秘書艦をしてもらうと言ってもじっさいやってもらうことはお茶汲みと郵便物の手渡しぐらいだ。
いっそ完全に休みにしてやった方が良い気もするが…

「はい提督、機密と×区分の郵便物です」

大和から郵便物を受け取る。
機密区分は…中国潜水艦が領海進入した可能性がある。という内容だった。また、深海凄艦と交戦した可能性がある…
まさか尖閣で漁船が聞いた音というのはこれだろうか?だとしたら今日中にでも艦娘達に知らせた方が良いだろう。


×区分は…昨日より多い。昨日の援交絡みの記事、やはりチェックしていた人も多い用で、それを話題にしたメディアの記事や、鎮守府への抗議の文章が多数だった。
こりゃ近いうちに記者会見する羽目になるだろうか?そんな中で、艦娘への取材を求める出版社があった。摩耶を名指しで、だ。
一考する価値はあるかもしれない。どっち道しばらくは居ないから保留だな。

「あっ、いつも食品を納品してくれる業者さん…結婚した方がいらっしゃるそうです、祝電を出すよう事務に伝えておきますね」

「あー、スマン大和、その前に話さなくちゃいけない事がある。重要な事だ」

俺は机の引き出しからあの週刊誌を取り出す。
正直、大和に言って良いかは憚られた。大和は本来呉所属だし、俺から頼んで良い事では無いかもしれない。
でもいまここに居る人物の中でこんな事を相談できそうなのは大和ぐらいしか思いつかなかった。

今日はここまでです。
次は明日の夜か、明後日朝ぐらいになるかもしれません。

仕事行きたくねぇ、朝雲欲しい




提督が私に雑誌を渡してきた。表紙を見ると水着姿の女性がポーズを取った写真と「芸能界のセックス事情!」等と言う見出しが出ている。
ハッキリ言って私は見ない、と言うより、嫌っているタイプの雑誌だった。
何のつもり?まさかこれが俗に言うセクハラとだというの?

「そんなに睨むな、その雑誌の21ページを読んで見てくれ」

「…わかりました」

ほんとにエッチな雑誌だったら警務隊呼びますからね?と付け加えて言われたページを捲る。
右側はパワーストーンでお金持ちになったと言う記事、そして左が

「あれ?摩耶…?」

この手の雑誌に似つかわしく無い、艦娘が映った写真が載っていた。





「…」

記事を読み勧める大和の顔がどんどん険しくなって行く。当然だ、俺だって必要じゃなかったらあんな記事何度も見たく無い。

「なんなんですか、これ…なんなんですか!これは!」

大和が俺に詰め寄り机を叩く、コップが転がり、床に落ちて割れた。

「なんなんですか、これは…それは私たちは役に立てなかったかもしれない!私達がやった事は日本を不幸にしただけだったかもしれない!」
「ミッドウェイでも、マリアナでも、レイテでも、坊の岬でも私たちは役に立てなかった!沖ノ鳥島でも私は何も出来なかった!国民に嫌われても当然かもしれない!」
「でも…それでも私たちは帝国…日本国の艦娘として誇りを持ってるんです!それがなんで…なんでこんな扱いをされなくちゃいけないんですか!」

「…世の中にはいろんな人が居る、それだけだ」


「私にこんな物を見せて、どうしろと言うんですか…」

「他の艦娘がこの記事の内容を知ったら、ショックを受けるだろう、その時その子たちの相談相手になって欲しい」

「私にその役目を押し付けるんですか、あなたはここの提督なのに…」

「俺が女だったらって、たまに思うよ、でも男の俺がこういった相談には、なかなか乗れ無いんだ」

「あなたは酷い人です…艦娘の提督なのに、こんな記事を見せて、更に他の艦娘の力になれだなんて…」

「恨んでくれても、構わんよ」

そうだ、むしろ恨まれて当然だ。上司が責任を全部放棄して、部下にデリケートな問題を任せようと言うんだから。


「恨みはしません…でも、わたしは…こんな事を書く連中を守って良いものか、疑問に思います…」

「そういう人たちだけじゃない、それを忘れるな、いいね」

涙目の大和と向かい合う。
国のために戦い身を滅ぼし、更にもう一度国のために戦おうとしているときにその国にこんな扱いを受けたら…
大和、お前の疑問ももっともだ。俺も今現在、お前と同じ疑問を持ってる。
でも、それでも国のために戦うのが俺達なんだ。そう思わないと、やっていけない。





尖閣諸島。日本、中国、台湾で領有権を争うこの地域はしかし日本-台湾間の合意で日台の漁船が行き交う格好の漁場でもある。

「漁船から通報のあった地点というのはどこになるんですか?」

途中で合流した海保職員に瑞鳳が質問する。

「通報した漁船が居たのはここから30kmほど北、更にそこから北西の方角からドーン、と言う音が何回か聞こえたそうです。通報を受けてから我々も捜索をしましたが…時間が経っているからか特に何も見つけられませんでした」

「深海凄艦…かしら?こんなところに?」

「まさか…と言いたいですが、沖ノ鳥島から脱出した駆逐艦や潜水艦が居るかもしれません、警戒するに越した事は無いのでは?」

「そうだなぁ…瑞鳳、その地点に彩雲を、後艦攻と艦戦も何機か出してくれ」

浜風の言葉で摩耶も警戒するべきと思ったのか瑞鳳に偵察を指示する。


「摩耶、戦闘機も出すの?」

「訓練だよ訓練…そういやここは中国の防空識別圏でもあるんだよな、大丈夫かな?」

「一応外務省を通じて皆さんが深海凄艦哨戒をする事は伝えているはずです、大丈夫だと思います」

「そうね、じゃあ…艦上機を出すわ、みんなちょっと離れてね?」

海保職員が言うならめんどくさい事にはならないだろう、瑞鳳が弓を手に取った。

「後は周囲の漁船の皆さんにも警戒するように伝えましょう、すみません、何名か手伝ってくれますか?」

「よし、叢雲、雪風、浜風、頼んだ」

まったく、一応の旗艦だからって人使い荒いわね、あんたは何をするのよ。







「おい、女の子が海の上を歩いてるぞ?」
「ありゃあ艦娘だよ、なんでこんなところに?」

「すみません!周囲に深海凄艦が居る可能性があります!」

「深海凄艦って、危ないんじゃないか?」

「まだ決まったわけではありませんが、注意だけはしてください、私たちか海保の方の警告があればすぐ避難出来る様に準備をお願いします」





「ちょっと!今時間良いかしら!?」

浜風が話しているところからすこし離れた所に別の漁船の一団を発見する、それに近づき声を掛けるが…

「军舰的女孩?」
「日本船的女儿,为什么在这样的地方吗?」

話しかけたのは台湾の漁船だったらしい、帰ってきたのは中国語だった、いけない、英語はまだしも中国語は苦手だ…

「叢雲さん、雪風にお任せください」

いつの間にか雪風が私の傍に来ていた。

「すいません!私、艦娘の雪風って言います!深海凄艦が付近に居る可能性があると…」

「雪風?」「聞いた事あるな…」「丹陽だよ!軍艦丹陽!」
「丹陽だ!」「丹陽が来てくれた!」

「えっと、その…私の話をきいてくださー!?」

いつの間にか私と雪風は漁船に包囲されてしまった。

日本語が帰ってきたゾ

今回はこれまでです。
次は明日の夜になると思います。

あと遅くなりましたが>>318さんありがとうございます。
「よくあるパターンだな」程度に考えてたのですが、手法として名前もあるんですね、勉強になりました。

おつ
雪風は中国語喋ったんだろか

>>346
中国語出来ないので、最初は機械翻訳で書いてます。あとは雪風視点出って事でご容赦ください。

>>348
そう言う事です。困った叢雲に助け舟を出して、以後中国語で会話。
作者がバカで中国語出来ないので以降雪風視点と言う事で日本語で書く事としました。




「あの、ですからね?深海凄艦、わかりますよね?それが近くにいるんで、私たちはそれを探して居ます。それがきたら、わたしたちつたえるんで、皆さんは逃げる準備をしてください」

雪風をたんやんたんやんと呼び盛り上がっている台湾漁船に雪風がジト目で中国語で何かを話している。
何を言っているかはなんとなくしか判らなかったが、台湾船団と意思の疎通は出来たのか船団はまた漁に戻った。

「ねぇ雪風、丹陽って…」

「中華民国の時の私の名前です」

「あんた、今度休暇取れたら台湾に旅行行ったら?きっと国賓待遇で歓迎されるわよ?」

「かもしれません、でも今の私は雪風なので」

「そうね…じゃあ雪風…ん、なに…?」

次に行こう、そう言おうとしたところで通信が入る、緊急電だ。




「緊急伝…?彩雲からだ…我、敵機ノ追撃ヲ受ケツツアリ、位置…敵機ですって!?敵は?こっちに戻ってこれる?…深海凄艦?まって、なんで!?私は南東よ!」

偵察機からの無電を受け瑞鳳が無線機に叫んでいた、偵察機からの通信は私にも聞こえる。しかし、敵機が居るとは、まさか…
ブツッという耳障りな音を残して偵察機からの通信が途絶える。

「すまん!偵察機が深海凄艦に遭遇した!付近にいる!漁船群の退避を!」

「了解しました!」

『みなさん!こちらは日本国海上保安庁です!深海凄艦が…』

海保職員に叫ぶと巡視船がスピーカーで叫びながら漁船に向かっていく。
しかし敵機が居るとなると、必然的に―





「きちょう!みぎからきます!くる!くる!くる!!」

最後尾の機銃員の叫びと同時に7.7mm機銃の音が聞こえる、後ろを振り向くと二機の敵機がこちらに火を吹いていた

「くそっ!」

操縦桿を右に倒し、右足を踏み込む、左主翼のすぐ傍を何発もの曳光弾が霞めて行く。

「瑞鳳さんにだでん!『我、敵機ノ追撃ヲ受ケツツアリ、位置、魚釣島北50キロ、敵機ハ深海凄艦艦上機』」

「だでんします!」

機体の後ろを通り過ぎた敵が反転、今度は左からだ、操縦桿を左に倒し、左足を踏み込む。


「ひだんしました!しゅよくからねんりょうをふいています!」

「ひがつかなければだいじょうぶ!まだとべる!!」

『こっちに戻ってこれる!?』

瑞鳳さんの声が聞こえる。戻れるかと聞かれれば戻れるだろう、でも、何度も回避運動をしている間に高度も下がり、進路もだいぶずれてしまった。
それに、今瑞鳳さんの所に戻ったら?敵機が居ると言う事は、近くに空母がいると言う事だ。その空母の位置がわからないのに、敵にみすみす母艦の位置を教えるのか?
それに今すぐ戻ったら周囲の漁船も危険にさらす。となれば

「瑞鳳さんにだでん!『我、コレヨリ南西方向ニ退避スル!』」

『南西…なんで!?私は南東よ!戻ってきて!おねが…』

ガンガン、バキバキと嫌な音と振動、機体中央部に被弾した。


「みんな、だいじょうぶ!?」

「だいじょうぶです!」「きじゅうもわたしもぴんぴんしてます!」「ですがむせんきこしょう!」

エンジンも損傷した、回転数が不安定になり、黒煙を噴き始めている。
どちらにしろ無線機が壊れたのは幸運だ、これで瑞鳳さんの声を聞かずに済む。
私は一気に操縦桿を押し込み、高度を下げ加速した。
さあ、ついて来い、すこしでも引き剥がしてやる。

そういえば…途中で一瞬だけ見た人間の飛行機、あの機体は無事に逃げきれただろうか?





「そんな…」

「艦隊集合!敵艦が近くに居るぞ!瑞鳳!他の機体を現地に集合させろ!」

「くっ…了解!」

海保職員の説得が効いたのか周囲の漁船が南下を始める。石垣島に退避するつもりだろう。
あたし達は北上する。こっからは賭けだ、アタシらが敵を見つけるのが早いか、敵が見つけるのが早いか、だ。
どちらにしろ、敵は最低でも空母一隻。沖ノ鳥島の生き残りなら単艦だと良いが…

「艦隊を組んでるとしたら厄介だな、クソがっ…」

自分でも気づかないうちに口から言葉が漏れた。

他の彩雲から通信が入る。

『敵艦隊見ゆ、正規空母1、戦艦1、軽巡あるいは駆逐艦4』


今回はここまで、次は今日の夜か明日の朝になります。
仕事から帰る時間が安定しない。

いっそ全部書いてから投降した方が良いのでしょうか

おつおつ
中国軍機が通報したのか
潜水艦は逃げ延びられたんだろうか

おつでした

毎日投稿できるって、>>1は文才かなにかか

とにかくおつでした

>>400
海保は爆発音の聞こえた地点を捜索しましたが、何も見つけては居ません。

>>404
んなこたない、と思います。
一応簡単な流れは頭の中にあるので、時間のあるときにそれを補強したり、繋げたりしてすこしずつ投降。と言う感じです。




ニュース速報。尖閣諸島沖で自衛隊艦娘艦隊と台湾海軍が共同で深海凄艦と戦闘。死傷者無し。艦娘は石垣島に入港するとの発表





石垣島が見えてくる。地図では知ってたが、こうしてみると日本から離れたここもまだ日本なんだな、と妙に感慨深いものを感じた。
港湾管理局の誘導に従い港に入る。海岸には百人ほどの民間人が見えた。

「叢雲、あれ、なんでしょう…?」

浜風が不思議そうに聞いてくる。そうか、二人は初めてなのか…

「よくあること、よ。気にしないに限るわ」

「そう、ね」

瑞鳳が淡白に答えた。


「艦娘の入港反対」「平和と観光の島に軍隊はいらない」「戦争主義者は出て行け」

そうだ、私たちはついさっき戦争をしていた。この島の人たちにとってはたった百キロ先で戦闘があった事が許せないのだろう。

「私たちは…何をしてたんでしょうか?命がけで戦ってきたのに…褒めて欲しいって言ったら贅沢かもしれません、でもそれで責められるなんて…」

「雪風、浜風、あたしの後ろに隠れてな」

市民たちの視線が突き刺さる。中破した私たちの姿が人に見られるだけでも恥ずかしいのに、それが自分達を嫌っている相手ならなおさらだ。
その時、港から出港してきた漁船の一団が迫ってきて包囲される。
嫌な記憶を思い出す。
常に行く手をさえぎる民間船、罵倒の言葉、飛んでくる空き缶や卵、酸の入ったビン。
真っ二つになったたかなみ、穴だらけになったちょうかい。


思い出しただけで怒りがこみ上げてくる。人間が皆そうじゃ無い、それは良くわかってるつもりだ。
感謝されたいわけじゃない。軍艦として生まれ、艦娘になったからはたとえ感謝されなかったとしても、みんなを守るのが役目だと思ってる。
でも、命からがら帰ってきた私たち、暖かく迎えてくれるのは夕日と提督だけなの?
私達が守りたかった物は私達を嫌っているの?

すこしおびえた顔を見せる雪風と浜風を自然と私達が囲んでいた。

「…っ」

摩耶が漁船を睨み付けたのが見えた。
漁船が十メートル程まで近づいて一斉に旗を広げた。


「おかえりなさい」「ありがとう」

「無事で良かった!」「海保の人から激しい戦いだって聞いたから心配しとったんだ!」「谢谢,日本船女儿!」

私たちにかけられたのは感謝の言葉だった。大漁旗を急造で改造したのか、不揃いな色の文字で言葉が書かれている。
台湾の漁船も居るのかおかしな日本語の旗を見て瑞鳳がくすっと噴出した。

「あんたらはなんで艦娘の入港に反対したんだ!俺たちはあの子等に命を救われたんだぞ!」
「あいつらは戦争のための、人殺しのための兵器なんだ、この島には不要だ!」
「だとしてもあんなボロボロになった娘達を追い出せというのか!?」

海岸では市民が二つに分かれて言いあいをしていた。
初めて見る光景に唖然としてしまう。


「お嬢ちゃん!お嬢ちゃん!可愛いパンツが見えとるぞ!」

「そっちのねーちゃんも!海上ストリップとかやったら海保に捕まっちまうぞー?」

漁船から声を掛けられて私達が下着同然のカッコだったことに気づく、摩耶にいたっては上半身は殆ど全裸だ
急に恥ずかしさが混みあげてが慌てて手で隠す。きっと今の私の顔は真っ赤だ。死にたい。

「そうだそうだ、これでも羽織んな!」「そーだぞ!裸は大事な男のために取っておくもんだ!」

色黒の男達が丸めた上着を投げてきて瑞鳳と雪風が慌てて受け取り私たちに渡してくれた。


「す、すみません…」「悪い…サンキュー!」

「…受け取っておくわ、感謝なんかしていないし!」

精一杯の照れ隠しなんだと自分でもわかった。

「なんならおじさんが大事な男になってもいーぞ!」「船長がやったらそれこそ逮捕でしょうが!」「違いねぇ!」

こいつら、下品だ。でも不思議とそこまで嫌な感じはしなかった。
手を振り続ける漁船とわかれて上陸すると石垣出張所の隊員が私たちを出迎えて車に乗るよう促した。

すみません、眠いのでここまでです。
次は明日(29日)の昼か夜になります。




「ゴメンネ、ほんとはもっと早く迎えに行きたかったんだけど、仕事に手間取っちゃってさ、まったく10人も居ない事務所だとめんどくさいよ~」

女性隊員に制服を渡されて車内で着替える。ボロボロの艤装と制服は一時的に預かり、後で迎えに来た海自艦艇と一緒に持ち帰る手はずだ。

「しかし…私達が陸自の制服っていうのも変な感じね、サイズも会って無いし…」

「ゴメンゴメンって、これでも出来るだけ近いサイズの物を慌てて見繕って来たんだよ?それに似合ってるよー」

「ダボダボです…」「…胴回りがすこしきつくて…」

「可愛いじゃない?」

あ、この人も厄介そうなタイプだな、アタシはギリギリサイズが合って良かった。


「海自が来るのは三日後の予定、それまで君達が泊まるホテルまで送るよ、提督さんに感謝しなよ?わざわざ自腹切ってホテル用意してくれたんだし」

「提督が?自腹?」

大抵こう言う場合自衛隊から経費が落ちるはずだが…それにあの提督がそこまでするとは考え難いけどな。

「あれ、ホテル、通り過ぎたわよ」

叢雲が窓から外を見て呟く、東…なんとかいう、有名なビジネスホテルの前を通り過ぎた。

「え?あぁあぁ、そっちじゃないの、もうすこし時間かかるよー」





「ねぇ、本当にここなの?」

「なんか、いかにも場違いって感じするね…」

艦娘の子達が唖然とした顔でホテルを見上げていた。摩耶ちゃんや雪風ちゃんは目を丸くして言葉も出ないみたい。
当然だ、仕事でホテルに行くと言ってこんな観光ホテルを案内されたらビックリするよね。

「ほらほら、とっとと手続きしちゃうよ、私いまサービス残業中なんだからさ!」

オロオロする艦娘達の背中を押してホテルに向かった。




「提督ー、今日は酒は無しっすか?」

「あるわけ無いだろ?こんな事になるなんて思ってもいなかったんだから…飲みたかったら買って来い!」

食堂で夜を食べていると隊員が話しかけてきた。
無茶を言うな、何日も前から準備していた前と違って今回は想定外なんだ、酒を用意する暇なんて無かった。

「よし、じゃあ何人か来てくれ」

「あ、買い物なら私が…」

「いいよいいよ、大和さんは食事中だろ、俺たちだけで適当に買って来るよ…よし、お前とお前、ついて来い!」

「イエッサー!」

あわただしく何人かの隊員が出て行く。俺はテレビのスイッチを入れた。


『本日昼ごろ、海上自衛隊那覇鎮守府の艦娘部隊が尖閣諸島沖で深海凄艦に遭遇。台湾海軍と共同でこれを撃破したとの発表がありました』
『この戦闘における死傷者は無し、艦娘は損傷したため石垣島に入港したとの事です。石垣島では艦娘の入港に反対する市民、賛成する市民が押しかけ、お互いにデモを展開しました』

「抗議、ですか…賛成のためにデモをするというのも、良く判らないです…」

「まぁ、賛成する人がデモをする、ってのは普通考え付かないよな」

大和の顔が険しくなる。呉では反対運動はあってもここまでハッキリした物は少なかったのだろう、過剰に反応してしまっても無理は無い。
画面には入港する艦娘に抗議の旗を立てて居る人と、漁船に囲まれる艦娘が映されていたって、ちょっと待て、思っていた以上に艦娘の格好がまずいぞ、これ公共の電波に乗せて大丈夫なのか?
慌てて大和の顔を見るが大和の顔は変わらなかった。そういえば大和は大破していても恥ずかしがったりしないで俺の前に出てたな。

『しかし、この戦闘では中国と防空識別圏が被っている空域で艦娘が航空機を発進させた事、台湾海軍と協力した事が現在の法制度上ゆるされるものなのか否か、激しい議論を呼びそうです。先生、今回の件、どうなのでしょうか?』

軍事評論家として有名な人が出てきた。たしか深海凄艦相手にミサイルが使え無いならCOIN機で良いじゃない。と、過去に言っていた人だ。


『まず、中国の防空識別圏内での航空機使用については問題は無いはずです。日本からも事前にこの海域で哨戒する旨について周辺諸国に通達しているものと思います』
『ですが台湾海軍と共同で作戦を行った事は問題でしょう。私が調べたところ日本は正式な外交ルート上での要請をしておらず、艦娘の独断で外国に支援を要請した可能性があります。』
『更に言えば複数の国家で領有権を争って居る海域でその中の一つをのけ者にして戦った。と言う話しになると思います。』

『先生の言うように、中国の一部ではこの件に抗議する人も居るみたいです。中国の日本大使館では中国政府の高官が訪れ、事前報告無しに戦闘を開始した事、日本と国交を結んで居ない台湾に中国の許可無しに援軍を要請した事などについて抗議した、と言う未確認情報を得て居ます』

まて、中国には事前に…いや、あの時通告したのはあくまで「艦娘が対深海凄艦哨戒を行う」事だ、戦闘は別だと文句を言ったのか?
いずれ、今日中に俺にも情報が入ってくるとは思うが…

「提督!ただいまッス!」「酒につまみ買ってきましたよ!」

「あ、お帰りなさい、おつまみ、私も何か作りますね、お刺身も切りましょう」

俺はあまり酒を飲まない方が良いかも知れないな。





―地元に波紋、艦娘入港
本日昼、尖閣諸島沖で海自艦娘部隊と台湾海軍が共同で深海凄艦を撃破した(詳細は4面の記事を参照)
艦娘部隊は損傷したため石垣島に入港したが、市民団体が激しく反対活動を行った。

-市民団体代表のお話
これは過去の戦闘で、他の部隊所属の艦娘が沖縄に入港したのと同じ手です。
現在石垣島は自衛隊部隊の常駐をめぐって議論が起きていますが、政府は損傷した艦娘の入港と言うほかの人が「なら仕方ないよな」と思うような手段を講じて艦娘の存在が異常では無いという異常な状態を作り出そうとしているんです。
島民を兵器に馴れさせ、軍拡の第一歩を踏み出そうとしているんです。
艦娘が守った。という意見も有りますが、それは違います。
軍隊は国民を守りません、敵を[ピーーー]ためだけの組織です。今回もあくまで敵を殲滅しただけで、結果的に漁船に被害が出なかっただけですし、艦娘が負けて居ればそのまま漁船が攻撃されていたでしょう。
沖ノ鳥島を制圧したのに石垣島周辺にまで深海凄艦が出てきたのもおそらく報復のためでしょう。自衛隊と米軍の活動はより深海凄艦を活発化させて日本中を戦争に巻き込むだけなのです。

-別の市民団体代表のお話
-今回、途中で活動を切りあげたのはなぜか
我々は戦争は良く無いと考え、そのために市民として行える活動をしていく、この理念は今後も変わる事はありません。
しかし、今回の事件で石垣島が攻撃される可能性も出てきたなか、全てに反対するような活動は帰って平和に繋がらないのか?と団体幹部で話し会い、今回は反対ししない事を決定しました。
-団体のメンバーは納得しているのか
まだ幹部に当たるメンバーで話し合ったのみで、全員への説明は済んでいません。我々は理念は変わらないが、行動は変わる必要はあると、全員に説明をする予定です。
-今後全ての軍事活動に対して反対はしないのか
さっき言ったとおり、我々は理念を変えるつもりはありません。





―日本国と共同作戦、丹陽漁船を守る
本日昼、釣魚台周辺で日本国海上自衛隊の艦娘艦隊が周囲の漁船を襲う深海凄艦と交戦。苦戦したものの周辺を周辺を哨戒中だった我が海軍が駆けつけ、共同でこれを撃破した。
太平洋での対深海凄艦戦では艦娘を保有する日本国と、強大な海軍力を持つアメリカ海軍のみが戦っている状況だが、中華民国海軍も決して劣っては居ない所を見せつけた。
日本国艦娘部隊には駆逐艦「雪風」が在籍、往年の勇姿を改めて世界に見せつけた。
雪風はかつては日本の軍艦として、そして中華民国丹陽として戦い、今も日本と台湾を守っている。

注・駆逐艦「雪風」は日本帝国海軍の駆逐艦、第二次大戦後中華民国に丹陽として引き渡され、長年旗艦として活躍した。1971年解体

社説―現在わが国・日米・ASEAN・中国・韓国が交渉中の対深海凄艦協定では日米が実戦部隊を持ち他国は情報収集に努めると言う前提で話が進んでいるが、他国も積極的に戦力を派遣し、対深海凄艦合同部隊を設立するべきでは無いだろうか?
わが国や韓国は日米中に継ぐ海上戦力を持ち、タイも空母を保有している。
勿論旗艦は雪風であるべきだ。と思うのは記者の個人的な欲求だろうから、その点は無視してもらっても構わないが





ハレンチ艦隊、石垣島へ
(写真-服が破れ下着が丸見えになっている艦娘)
(写真-上半身裸で手で胸を隠している艦娘の写真)
このようなふしだらな格好で民間港に入港する艦娘の貞操観念の無さにはあきれるばかりである。
換えの服を用意するべきだし、恥ずかしがっている風を装って自分の性的アピールをして居るのだろうか?
彼女たちは石垣島で何円稼ぐのだろうか。



今回はここまで。
朝雲がでたり緊急クエストが無ければ深夜に一回投下出来るかも知れません。
明日の午前中には投下出来ていると思います。

おつ
長くなってきたんで、登場人物や各鎮守府のまとめとか作ってもらえないか

台湾の雪風愛がぶれない

と言うわけで、>>431さんのいわれたとうりちょっとしたまとめを書こうと思います。
それなりに長くなることと、今までのまとめでしか無いので、興味の無い方は無視してくださって結構です。



世界情勢
太平洋・大西洋で深海凄艦出現(大西洋は小規模)、太平洋に多数(ミッドウェイ・キスカ・ニューギニアなど)に拠点を設営され太平洋上の海上交通は麻痺(飛行機除く)
南大西洋・インド洋はほぼ安全なのでそちらで輸出入を行っており、国民生活は一部物価の上昇にとどまっている
太平洋では日米が中心で対深海凄艦戦を展開、この動きを不振に思う国も多い


艦娘艦隊
各鎮守府の上位組織
海将
艦娘艦隊司令、人が他人の悪口をいうのが大嫌い


各鎮守府

那覇鎮守府
日本最南端の鎮守府、貧乏で人員・設備共に貧弱。反対運動に悩まされてる
提督
防大を最下位で卒業して提督になった、二十代。年上の多数の部下を引っ張るために良く無茶をする。通称忘鎮
周りの評価は「自分をクールに見せようとしてすぐ熱くなって失敗するガキ」
所属艦娘
戦艦大和(一時的)、重巡摩耶(暫定旗艦)、軽空母瑞鳳、駆逐艦叢雲・雪風(一時的)・浜風(一時的)

稚内鎮守府
日本最北端の鎮守府、初期にロシア海軍と合同で北方の深海凄艦と戦い、戦果を上げる
提督
那覇提督と同期、防大卒業時の成績は一番。那覇提督より階級は一つ上。他人を見下す癖がある。通称雪隠
所属艦娘
重雷装艦木曽 他軽巡、駆逐艦多数

釧路鎮守府
近々稚内と共に単冠湾に移転する予定

函館鎮守府
近々稚内と共に単冠湾に移転する予定
所属艦娘
軽巡阿賀野(旗艦)

横須賀鎮守府
最初に設立された鎮守府。日本艦娘部隊の主力
所属艦娘
戦艦長門(旗艦)・陸奥・金剛・榛名、空母赤城・加賀、重巡古鷹・加古・利根・筑摩、駆逐艦暁・響・雷・電、揚陸艦あきつ丸

呉鎮守府
横須賀に続いて設立された鎮守府。横須賀とならんで主力
所属艦娘
戦艦大和(旗艦・現在那覇所属)、空母蒼龍・飛龍、重巡妙高・那智、軽巡矢矧(暫定旗艦)、駆逐艦初霜・雪風(現在那覇所属)、浜風(現在那覇所属)

舞鶴鎮守府
横須賀・呉の予備戦力として整備されており、軽巡、駆逐艦を多数所有
所属艦娘
軽巡川内(旗艦)

新潟鎮守府
日本海の要として重点的に増強されているが、現在の所深海凄艦出現の報は無い
提督
現在唯一の女性提督
所属艦娘
空母千歳(旗艦)・瑞鶴、駆逐艦皐月


人々
中学生の皆さん
社会科の授業と称して艦娘についての抗議を受ける
男子は摩耶に踏まれる事を望み、女子は瑞鳳を妹にしようと暗躍する

ボランティア団体の老婆
艦娘を孫のように可愛がる。提督が止めてもお小遣いとして現金を渡して来る困った人

中年男性
摩耶に顔面を殴られるが、謝罪と治療費を請求しただけで許してくれた人。最近ゴシップ記事を書かれてしまう。地元企業課長、独身


こんなところでしょうか。無駄に長い文章に付き合っていただきありがとうございました。




自衛隊員がチェックインの手続きを終えてアタシに鍵を渡してきた。

「このホテル。オートロックだから鍵を部屋に置いたまま外に出ないように、あと何か合ったら電話してね。それじゃあ!」

そういうと彼女は帰ってしまう。

「まずは部屋に行きましょうか、どうもこの格好は人の目を引き過ぎる気がして…」

浜風がぼやいた。まぁ、サイズの合わない服にその体型じゃなぁ…
陸自の制服で目立つし、叢雲も瑞鳳もなんとなく、浜風を睨んでいる気がする。





部屋は一部屋だった、前に提督と泊まったところとはビジネスホテルと観光ホテル違いなのか、色々違った。

「見てください!海が見えます!」

「海なんて毎日見てるでしょ?」

「でも高い所から海を見るのはまた格別です!街の明かりも…えーと、なんていうんでしたっけ?百万円の夜景?」

「落ちないように気をつけてね」

雪風は窓を開けて外を見ている。確か円じゃなくてドルだけどね…航空隊の妖精達もベランダに上がって外を眺めていた。

「冷蔵庫の中に飲み物が入ってる…げ、ジュース一つで200円…有料かよ」

「こっちのお菓子は…無料でしょうか?あ、大浴場があるみたいですよ、まずは汗でも流しに行きませんか?」

そうね、それは賛成。
クローゼットを見ると浴衣が有ったので全員で着替えてからお風呂に行く事にした。





『つまり…君は艦娘が救援要請を出して居ないのに台湾海軍は艦娘から救援要請を受け取り救援に向かったと?』

「はい、その通りです。艦娘も援護に来たから南西に向かえと言う通信を聞いたと報告を受けて居ます」

電話口から海将の唸るような声が聞こえてきた

『そうか…不思議な事もあるものだ…と言いたいところだが、ありえるのか?』

「有り得るかと問われれば有りえないだろうとしか言えません。ですが、事実です。としか言えません」

『…海自内でも君と艦娘の行動を問題視する意見も出ている。シビリアン・コントロールから逸脱している。とも。』


「…それについては理解しているつもりです、私の指揮下の艦娘が私の指示を仰がずに海外艦に救援要請をしたとなれば、それも問題となるでしょう」

『とりあえず、艦娘が帰還したら詳細な通信記録の提出を頼む。航空機の妖精も含めてな。なんとか海自内でうやむやに出来ないか、こちらでも手を打ちたい』

「申し訳ありません。」

『かまわん、私は君を信じているし、君を疑うには今回の件は不可解なところも多いのだ。ではな』

海将からの電話を切る。いつもは横須賀基地隊を経由してくるくせに直接来るとは、事は結構大事かも知れない。
そして酔ったまま海将の電話に出なくて良かった。





「失礼致します…」

ドアをノックして鍵を使い部屋に入る。靴は無い、この時間は多くのお客様がお風呂かお食事の時間だ。
しかし襖の奥からは明かりが漏れ、テレビの音も聞こえる…節電しろと強く言える立場ではないが、部屋に居ないのにこれは勘弁して欲しいな…と思い襖を開けると小さい人形が何人もテレビを見ていた。
そして、それらは動いて私に話しかけてきた。

「ひっ…!?」

「あ、従業員さん、どうしました?」

「あ…あの…お布団を…」

「あぁ、では私たちは移動しますね」

そういいながら小さな人間は椅子やテーブルを隅に運んでくれた。
そうか、ここは艦娘が泊まって居ると言う部屋なのか、艦娘の中には妖精を扱うものも居るというが、きっとその妖精なのだろう
何人にも見つめられながらお布団をひく。こんな経験は初めてだ、ミスは無かっただろうか…?



更衣室で服を脱ぐ。良く見るとみんなボロボロだった。摩耶なんかあちこちに擦り傷切り傷があるし、雪風は被弾こそしなかったものの埃まみれ。
そして改めて硝煙の匂いがする。やっぱり先にお風呂入って正解だよね。

「あの子たち…どうしたの?」「喧嘩でもしたのかな…?」「変な匂いするし…何やったんだろ?」

周囲からそんな声が聞こえた。喧嘩…と言えば喧嘩だ、制服を着てない私達が艦娘だ何てわからないだろうし、硝煙の匂いなんてかいだ事も無いんだろうな。



「やっぱり広いお風呂って良い物ですね」

「そうね、那覇は結構狭いから…ここなら100人ぐらい一度に入れそうだもの…呉はどうだったの?」

「那覇よりは広いですが…洗い場と浴槽のスペースもここまで広くは無いですし、出撃や訓練の後だと流れ作業で身体洗って入って上がる。と言う感じです」

叢雲と浜風が並んで身体を洗っていた。

「広いだけ人数も…多い物ね」

「こうやって満足行くまで身体を洗うことも出来ませんし…そういう意味では後を気にしないで良い那覇鎮守府がうらやましい、と思うこともあります」

「そういえば瑞鳳、アンタ妖精達は置いて来て良かったの?」

「すこし悪い気もするけど…ここのお風呂は民間人の人も多いし、ちょっと危ないかなって」


桶に入れたお湯を身体にかけて泡を落とす。叢雲も身体を洗い終わった。
こうしてみると叢雲、いつもはキツイ態度だけど髪も長くて綺麗だし、おとぎ話の妖精やお嬢様、って感じがする。胸もあるし、私より細いし。
まあ口を開けばあんた呼ばわりだからお嬢様には程遠いかな?
浜風はまだ身体を洗って居るようだ。ねぇ、その胸を持ち上げて揉みながら洗うのって何?嫌がらせ?

「あっ、あの…良く蒸れて荒れたりするので…しっかり洗わないと…」

「ふーん、そうなのね、いーわ、羨ましいわ」

「私からすれば叢雲と瑞鳳さんの方が…急速回頭とかしたら、結構痛いんですよ…」

「でも、やっぱり羨ましいかな、浜風は美人だし…浜風が空母だったら航空機の燃料補給は困らないんだろうなぁ…」

「美人ってそんな…私なんかより瑞鳳さんの方が…って、まさか、艦載機の燃料って…」

浜風は素直な良い子。


「摩耶さん!お背中お流しします!」

「あぁ?別に良いよ、先に風呂入りなよ」

「いえ、今回のえむぶいぴーは摩耶さんですから!」

断る摩耶さんの背中に回ってタオルで背中を流し始める。
雪風はずっと艦隊を守るのが自分の仕事だと思ってました。あの時も最後まで最後尾で敵の攻撃を集めるべきだと。
前の時は雪風だけ狙われなくて、いろんな人から死神なんていわれてましたから。

「いてて…雪風、すこしやさしくやって…傷に染みる…」

「あっ、ごめんなさい!」

でも摩耶さんは自分で敵に向かって帰ってきた。雪風もそうするべきだったのかもしれません。

今回はここまでです

乙です
艦娘は一艦艇ごとに一人だけという設定ですか
それとも同じ艦艇で複数の艦娘がいて、一人一人性格とかがちがう、みたいな感じですか

>>454
RJにも二つの丸い重油溜め込んだバラストあるんやで

>>453
現在では一艦艇毎に一人だけ、と考えてください。

>>455
それ中の燃料使えないじゃないですかやだー



「ただいま…って、布団がかってに敷いてある…」

「おかえりなさいです。じゅうぎょういんさんがしいていきましたよ」

なるほど、叢雲の言っていた意味がわかったかも。確かに人に寝床の用意をしてもらうと言うだけですごい気持ちよさそうだった。

「じゃあ、食事に行きましょうか…いつもより遅くなっちゃったけど…」

「あ、ここにお食事券というのがあります。まだ大丈夫そうです」

「それじゃあ行こうか」



「だから言ったじゃない、食べきれない量を持ってくるな。って…」

「…くそがっ」

「だって…美味しそうでしたから…」

テーブルに突っ伏す摩耶と雪風、その前には結構な量の料理が乗っかっている。
気持ちは判るわ、おいしそうだし、明日の事を考えなくて良いならいろんな物を一杯食べたくなるよね?

「雪風のぶんは私が食べてあげる」「じゃあ摩耶の分は私が…」

浜風と叢雲が二人の食事を受け取る。私もまだ余裕はあるけど…


「二人とも、太るよ?」

「私はすこしお肉つけたいし…」「浜風はいくら食べてもおっぱいにいくので大丈夫です」「ちょっ…雪風!」

「ねぇ、浜風、今度私の近代化改修の素材にならない?」

「瑞鳳さんまで…もう…」

いけない、最近浜風に絡む事しかしていない気がする。だって、羨ましいんだもん…





『そうか、浜風も損傷したのか…』

「はい、申し訳ありません」

『なに、君の指揮に問題が合ったわけではないのだろう?ならば君を責める事はしない』

「…やはり大和達は呉に帰そうかと思います。この調子で戦闘を続けていればうちの設備ではパンクしてしまう」

大和の修理と日々の整備だけでドックは手一杯だ。
そこに尖閣での戦闘で損傷した装備の修理に整備、ドッグ担当のスタッフと妖精さんに計算させたところ一ヶ月は稼動戦力が瑞鳳と雪風のみになってしまう。
最近小規模な深海凄艦隊の目撃情報が増えている中、大和を抱える事は逆に那覇の戦力低下を招いてしまっている。


『無理を押し付けてすまなかったな』

「いえ…大和・雪風・浜風は機関の修理が完了次第、呉に向かわせようと思います」

『出撃の少ないん那覇で休ませてやりたい…と思ったが、裏目に出てしまったな?』

「まったく、もっと早くうちを増強するか呉に吸収してくれればこんな事にはならなかったんですよ…」

「言うな、私だって現状は憂慮すべきだと思ってるんだ」





「艦長、リンクスが深海凄艦を発見したと報告して来ました。本艦の南約200kmの地点、数は最低3隻、詳細不明です」

ブリッジでコーヒーを飲んでいると報告が入る。まったく、練習航海の最後の最後に厄介なものに遭遇したものだ。

「敵に空母がいるとまずい、リンクスは直ちに帰還させろ、進路を北に向け増速、距離を取る」

「了解、本国への報告はいかがしますか?」

「そうだな、直ちに報告してくれ」

本国から周辺国に通報が行くだろう、私の目的は無事に艦隊を本国に戻すだけ。
あと三日で横須賀、そこから二日ほどでなつかしの故郷だ。





「指令、練習艦隊から報告です。深海凄艦を発見したと」

「そうか、それで、艦隊は無事かね?」

「はい、距離が離れているため、増速し離脱するとの事です」

「わかった、くれぐれも気をつけるよう伝えておけ」

「了解、日本への通報はどうしますか?」

日本への通報、か…これが民間船なら直ちに通報させるわけだが…我が軍が日本に助けを求める形になってしまう。
もしそうなれば?国際条約にのっとった形で有っても、海軍への非難は免れないだろう、前例もある。
日本の哨戒網は優秀さ、何も起こらないだろう。
下手すれば海軍全隊が非難の的になりかねない、だからそう思うしかなかった。

「一応政府にも伝えてくれ、最終的な判断は政府が行うべきだ」


今回はここまでです

そういやCOIN機ってなに?


食事を終えて部屋に戻る。
と言ってもやることは殆どない。みんなテレビを見たりスマホを弄ったりしていた。

「浜風!アニメをやってます!」

『私に良い考えがある!』『野郎!引き摺り下ろして細切れにしてやる!』

BSと言うチャンネルでロボットのアニメをやっていた。乗り物が意思を持つ…という所に私たちに似たものを感じるのは気のせいだろうか?

『この愚か者めが!』『お、お許しください!』

「面白い…事は面白いが、話しに着いていけないな…」

「そうね…て、あの鳥、すごいですね」

「あの鳥、艦載機に出来ないかな…」


良く良く考えれば鎮守府には食堂ぐらいにしかテレビは無い。そして大抵朝はニュース、夜はバラエティーが流れている。
漫画はたまに見るが、アニメは殆ど見た事が無かった。

「そう…アニメはこういうテンポが速くて突拍子の無い展開の物が流行ってるのね…」

このアニメも面白いが…やはり私は巨人の漫画の方が好きかも知れない。

「あっ!またしれぇが崖から落ちました!」

この司令官なんなんだろう、碌な作戦は立てないし、行きあたりばったり…ハッキリ言ってうちの提督の方が何倍もマシだ。
対してこっちの…悪役で良いのよね?こっちはそれなりにマトモな作戦は立てるのに…部下が悪いわね、これは。
私ならどっちに行くのもゴメンだわ、やはり今の提督が一番。



「Zzz…Zzz…」

「もう雪風ったら…風邪、ひくわよ?」

アニメは一気に全話やる方式だったのか、放送中に雪風が眠ってしまう。
浜風が雪風を布団の中に寝かせて毛布をかけていた。
こうしてみると浜風の方がお姉さんだ、色々と。

「なあ、他のチャンネルも見て見ないか?」

「そうね、このアニメも面白いけど…せっかくだし他の番組も見て見たいわ」

摩耶の提案に私も乗る。せっかくの機会だから、いろんな物を見て見たいしね。
浜風がチャンネルを変えて行く。
あっ、世界の軍用機特集!…私は見たかったが、他のも見たいと叢雲がごねて更にチャンネルを変えた、残念。


「あれ?これって…」

浜風がチャンネルを弄る手を止める。テレビには真っ青な背景に白い文字が浮かんでいた。

『このチャンネルは有料です。試聴される場合は有料確認ボタンを押してください』

「なんでしょう、これ?」

「さあ?でも金払って見るって事はかなり楽しい番組なんだろ?」

「そうね…どうせお金は自分で出せば良いよね、浜風、ボタン押して見て?」


「だ、ダメよ!」

叢雲が血相を変えて叫ぶ。叢雲が戦闘以外でここまで感情的になるのは珍しい。

「どうしたんですか?」

「と…とにかくその有料番組はダメよ!」

「ダメって言われると見たくなるよな…叢雲、お前この番組がなんだか知ってるんだろ?」

「な…し、知らないけど!とにかくそれはダメなのよ!」

「…気になりますね、瑞鳳さん、叢雲さんを抑えてくれます?」

「はまかぜっ!?あんたなんでこんなときだけ積極的なの!?」

「ほら、叢雲、おとなしくして!」

叢雲の後ろに回りこんで両腕を押さえる。
華奢な彼女だ、私でも十分押さえ込めた。


「よし、浜風、ボタンを押せ!」

「はいっ!」

「それは…それはエッチな番組なの!」

叢雲が叫んだ、まるで戦闘中のような必死さだった。

「え?」

しかし、浜風は既にボタンを押していた。



「…えっち?これが…?」

両手で顔を覆う叢雲だが、テレビに映ったのは…水着の女性が海岸を走ったり、ポーズをとっているだけだった。

「なんだ叢雲、お前こんなんでエッチとか言ってたのか?お子ちゃまだな?」

「これぐらい少年なんとかにもあるじゃないですか」

「あんた達は…知らないのよ、この後どうなるのか…」

「ははは、何をまさか…」

『ねぇ、そんなにこれ、見たいの…?』

水着の女性はおもむろにビキニを脱ぎだした。





『そんなに私に触って欲しいの…?甘えんぼな【自主規制】さんね…』

「マジかよ…」

「これって、アレだよね…男の人の…お【自主規制】…///」

「うそ…口に入れるなんて…」

『私の胸でピクピクしてるわ…元気なのね?』

「うそ…胸で…///」

「は、浜風なら…出来るんじゃないか?ハハハ…///」

「ま、摩耶さんだって///」

「ま、摩耶、あんたあの中学生にやってあげたら?きっと…喜ぶわよ…」

「バカ!なんでアタシがあいつらにそんな事…そうだ瑞鳳!お前前あいつのプロポーズ受けてただろ!!やってやれよ!」

「ええっ!あれはただお姉さんとして、ね?」

「摩耶も瑞鳳も…可愛いからみんな喜ぶわ、きっと…///」

「む、叢雲!叢雲はどうなの!?」

「そうだ!お前はなんかそう言う事やりたい相手とかいないのか「静かにしてください」浜風?」

「…始まります」





『ああっ…すごい…ふといよぉ///』

「う、嘘…あんなのが入るの///」

「人体の神秘って…すごいな///」

「痛く…ないのでしょうか///」

「な、何よあんなの…提督の方が一回りは大きい…わ…ハッ!?」

「む、叢雲…あなた、あの提督に何かされたのですか…!?」

「あのクソ野郎…那覇に帰ったらサメの餌に…」

「叢雲…辛い事があったらいつでも瑞鳳おねぇちゃんに相談してね?」

「な…何を勘違いしてるのよ!!」



あぁ、猥談が始まっちゃいましたか、うるさくて起きてしまいました…
寝た振りって辛いんですよ?
でもみなさん、良く盛り上がれますね…雪風とか昔の艦長にそういうの好きな人がいたから話には馴れてしまったのですが…

「そ!そう言う事よ!そう言う事なのよ!とにかく寝ましょう!」

「そうだな…もう夜遅いし、寝るか!」

あ、皆さん寝るんですね?でも寝れますか?

「で、電気、消すわね!」

………

「ん…うーん…」

………

「んぅ…むう…」

………

「んっ……はぁ…」

………

「うーん…ていとくの…はっ」

明日はみなさん、お寝坊でしょうか?雪風が朝起こしてあげますね?
おやすみなさい、です。



今回はここまでです。
おやすみなさい、です。




「いつも悪いな…会社まで送り迎えしてもらうとは…」

「良いんですよ、俺が昔宴会で潰れたときも家に送ってくれたじゃないですか」

「とはいってもな…」

部下の運転する車で会社に向かう。ここ数日、ずっと会社の誰かに送ってもらっていた。
今思うと私の対応は後手過ぎて悪かったのかもしれない。いつも部下には偉そうに先を見ろとか言っているくせに…
私が艦娘と性的な関係になっていると言う記事を見せられて、私は急いで雑誌の取材を受けた。
しかしそれがかえって怪しいと思われたのかもしれない。会社の前には数人の市民団体が現れて私を解雇するよう声をあげるようになった。
最初は私に公演やなんやらを依頼して来たというのに、えらい身の変わりようだな、と最初は笑っていたが、次にはわたしの同僚や部下、更に私を庇おうとする社長まで名指しで非難してきたから笑えない。
うちの会社は企業間取引がメインだから即座に不買運動…とはいかなかったが、契約先からも今後の付き合いを考えなければならないなどと言われ始め、社長が営業妨害で警察を呼ぶぞと叫んで追い返した。
しかし今度は私の通勤ルート上で、私や会社を名指しにせずに活動を始めた。

「あー…あそこにいますねー、ここは左折しましょう…しっかし、良く飽きないもんですねー」

「まったく、君達仕事は良いのか?と言いたくなるよ…」


会社の敷地外、そして会社も私の名前も出せない。となると、会社としてはどうしようもできない。
そして私が一人で帰るときに遭遇したらどうなるか?というわけで、部下や同僚が好意で私を送り迎えしてくれている。

一番良いのは私が県外に引っ越すことだろう。そうすれば彼らも流石に諦めるはずだ、しかし、転職となれば大事だ。
貯金はあると言っても県外への引っ越しは結構な出費だし、この不況の中、私のような中年、それも会社に悪影響を与え兼ねない風評をもった男を雇ってくれる所はあるだろうか?
有ったとしてもそうとうな給料の低下を考えなければならない、これから老後を考えたりしなければいけないのにそれはかなり辛い。
もし会社が支社や工場を持っていたら転属願いを出すと言う手もあるが…あいにく私は課長と言う中途半端に偉いポジションについてしまっている。
転属しようにも、会社もはいそうですかと私を飛ばせないのだ。

「…すまんな」

「いいっすよ、でも片付いたら課の全員に奢ってくださいよ?」

「あぁ、良い店を探しておくよ」

本当は全社員の前で土下座したいぐらいだった。しかし私は課長、良くも悪くもそれなりの数の部下を抱えている。
礼は言ってもへりくだる訳には行かないのがまた辛かった。




「みなさん!あさですよー!」

雪風に布団を引っぺがされて起された。昨日のアレがあれなのか、眠ったのか眠らなかったのかわからない。こんなの横須賀以来だ。

「うそ…だろ…夢とは言えあんな事…」

「…九九艦爆…可愛いけど、さ…」

「…寝たのに、すごい疲れが…」

あんたら、どんな夢見たのよ…


「みなさん、どうしたんですか?叢雲さん、何か知ってます?」

「…あんたが寝ている間に色々あったのよ…」

「(えぇ、知ってますよ、起きてましたから)」

雪風が私の耳元で呟いた気がした。こいつ…実は一番大人なのかもしれない

「さあ!お風呂入ってごはん食べましょう!今日の朝ご飯はなんでしょうか?」





「提督、今日の郵便です」

「あぁ、ありがとう…なんかすっかり郵便配達係にしてしまったな」

「いえ、私はこれぐらいしかお役に立てませんから…」

大和から手紙の束を受け取る、あぁ、これはあの人の手紙か…

拝啓、本来なら事前にアポをとった上、直接手渡しするのが礼儀であると思うのですが、会社があなた方との接触を快く思わないため、筆を取らせてもらいました。
あの事件からしばらく経ちましたが、先日の通院で医者に完治・経過観察後以上無しを良い渡されたため、最後の治療費を請求させていただきます。

あのおっさん、丁寧だなぁ…


「そうだ大和。すこし先の話しになるが…お前たちの呉への移動が決まった」

「そう、ですか…申し訳ありません、今までお世話になりました」

「おい、すこし先だと言ったろ、そういう話は最後にするもんだ」

「あっ…失敗してしまいました…」

赤くなって頭をこつんと叩く大和、うん可愛い
しかし、大和達を呉に返しても三隻の修理でしばらくは行動不能になるか…
やはり、もっと設備と艦娘が欲しい。これは沖ノ鳥島奪還以来、ずっと思っていることだった。


うちの艦娘は重巡1・軽空母1・駆逐艦1、どうしても水上戦は魚雷に賭けた突撃・水雷戦になる。
叢雲は通信能力に賭けるところがあるし、摩耶は水雷戦の指示出手一杯、瑞鳳も軽空母ゆえ、航空機の完成に精一杯。俺とやり取りをする余裕が無くなってしまう。
尖閣での戦闘で起きた失敗だった。
やはり、戦闘中にも指揮通信に力を割ける船が欲しい、重巡・正規空母・戦艦…せめて軽巡…しかし、そうなると今度はドックでの整備すら回らなくなる。
戦力をよこせと言えば使いこなせないからと回ってこず、施設を拡張したいと言っても艦隊規模から見て不要と片付けられる。そんな状況だ。
仮に戦艦が来てくれたとしても、今の状態じゃ帰還のたびにみんなで綱引き出しね…

「提督?何かおかしい事でも…?」

「いや、思い出し笑いだよ」





風呂に入り、食事をする。昨日の失態があるからか摩耶と雪風は今回は小食だった。
しかし、一日何をしよう?
いくらなんでも一日ホテルにいるのもあれだし、ホテルから出るにも外に出るにはサイズの合わない陸自の制服…ハッキリ言って恥ずかしい。
そんな事を言ってたら瑞鳳が提案して来た。

「じゃあ、石垣出張所に電話して見る?何か服がほしいって」


「いやぁ、そろそろ来るころだと思ってたよ、あの後やっぱ制服だと恥ずかしいと思ってね、みんなの私服を買ってきたんだ」

石垣出張所の反応は早かった、流石は宣伝を主任務とする人たちだ。
とにかく、これで外に出れる。

「あ、お金はいいよ、提督さんに請求しておくから」

ごめん、提督。お金は帰ったら払うわ。





石垣島は島と言っても5万人は人がいる。南の島…と言う言葉に比べれば結構な都会だった。

「ちょっと待っててくれ、買いたい物があるんだ」

そう言って摩耶が本屋に入っていく。全く、こんなところに来てまで少女マンガとか買う必要もないでしょうに…
だが、5分たって摩耶が持ってきたのは週刊誌だった。

「なに?摩耶あなた、そういうのが好きなの?」

「情報収集だよ情報収集、アタシは叢雲とは違って漫画以外の本も買うのさ」


漫画好きで悪かったわね、知ってるわよ、アンタ私たちにないしょでりぼんとかお友達、買ってるの。
そういえばハピネスチャージって部屋で叫んでたこともあったわね?
しかし摩耶の言う事ももっともだ、私たちの情報源は朝のテレビのニュースぐらい、他に必要なニュースとかは提督が教えてくれる。
今は提督とは離れてしまっているから、自分でも積極的にいろんな情報を集めるべきかも知れない。

「前艦娘の特集組んでた雑誌を見かけたから…こういうのを知るのも必要だろ?」

摩耶が一冊づつ、私たちに雑誌を配る。さりげなくコンビニにも行ってたのかアイスがセットだった。

近くのベンチに座ってアイスを加えながら雑誌を読んで見る。たしかに、艦娘に関係有りそうな記事が載っていた。



―日本の誇る兵器でありながら我々には詳細が知られてない艦娘。今回はそんな影の日本の主役に話を聞く事に成功した
-本日はよろしくお願いします。
横須賀鎮守府所属、高速戦艦の榛名です、よろしくお願いします
-まず、艦娘とは何か、について、教えてください。
うーん…いきなり難しい質問ですね…えーと、艦娘っていうのは、用は軍艦の魂が人の形をした物、デース!実は私たちも良く判ってないのデース
-自分自身でもわからない、と?
記者さんだって、人間とは何か?と聞かれて答えられますか?哺乳類・霊長類…色々ありますが、それを自覚出来てる人っているでしょうか?
-なるほど、そう言われると答えれる人間もまずいませんよね。

-艦娘に対する日本人の感情は様々ですが、艦娘としてどう思っていますか?
確かに前の戦争では私達が不甲斐ないせいで多くの人に迷惑をかけました…ですが、私たちは今も日本の軍艦として日本を守っていくつもりです。それは理解して欲しいと思います。
-過去の軍艦としての記憶もあると聞きますが…どういうことなのでしょうか?
それは…説明が難しいです。記憶の残り方にも艦娘毎に個人差がありますから…私の場合は…うろ覚えな夢、と言った感じでしょうか?
でも、金剛お姉さまが沈んだときと呉で見たあのきのこ雲はハッキリと覚えています…すいません、榛名は大丈夫です、続けてください。
-すこし難しい質問をします、あなた方は過去にアメリカの軍艦と戦ったわけですが…現在、米軍と協力したり、アメリカでも艦娘が開発された場合、どうでしょうか?一緒に戦えますか?
えーっと…霧島、すみません…
ちょっと待って榛名…はい、これ
えーと、榛名は大丈夫です!確かに色々ありました、私もアメリカには苦しめられましたし、姉妹もアメリカ軍に沈められています。
でも、第一次大戦の時はアメリカやイギリスは味方でしたし、もうあの戦争から何十年も経っています。そんな過去の話を永遠に引きずるつもりはありません。

艦娘と話して見たが、なるほど、彼女たちは確かに軍艦だった。それと同時に、私たちと同じように悩み、苦しんでいる。
艦娘は今日も日本の海を守るために戦っている。





「へぇ…艦娘への取材、なんてのもあるのね…」

「私たちも取材されちゃうかな?何から話せば良いんだろ…」

「そういうのは取材する側から提示されるのでは?」

「私も取材、受けちゃうんでしょうか?ちゃんと答えられるかな…摩耶さん?」

雪風の声で摩耶の方を振り向く、摩耶は見た事が無いような鬼の形相をしていた


「あの…摩耶…?」

瑞鳳が、摩耶に声を掛ける、が、瑞鳳が話しきる前に摩耶は手にしていた雑誌とアイスキャンディーを地面に叩きつけた

「なんなんだよ!この記事は!あの人が何をしたって言うんだ!」

慌てて摩耶の落とした雑誌を拾う。それは摩耶が殴った男性の記事だった。

『艦娘と寝た男、その学生時代に迫る』『あいつはずっと本ばっか見てましたよ、彼女が出来た事も無い…だから援助交際とかしてるんじゃないですか?―クラスメートは語る』
『小さいころの趣味は電子工作、友人を作らず、歪んだ男の末路』『女に持てない男が両手に艦娘!』


「くそっ!くそっ!どこの誰だ!こんなのを書いた奴は!あたしがぶっ殺してやる!!あの人が何をしたって言うんだ!悪いのはあの女とアタシだろ!?あたしが嫌いならアタシだけ記事を書いていれば良いんだ!クソーっっ!!」

「摩耶さん!落ち着いて!」

雪風が摩耶を落ち着かせようとするが、その手を摩耶が払った

「放せ!落ち着いていられるか!何でこんな記事が載ってるんだよ!これじゃああの人が悪者じゃないか!!」

「摩耶、落ち着きなさい、みんなが見てるわ」

「…っ!クソがっ…」

周りを歩く交通人が私達を見てヒソヒソ話をしていた、これ以上摩耶に暴れられるとまずい
摩耶の顔を掴んでその目を見つめ、良い聞かせる。


「摩耶、アンタの気持ちは痛いほど判る、でも今あなたが激昂したって、何も変わらない…今の姿をこの雑誌の記者に見られて見なさい、もっとアンタとあの人に悪い事になるわ」

「…わかった、悪かったよ…」

「どうせ、こんな下品な雑誌…出版社が長持ちしないわよ」

「そうですよ、こんな記事…みんなしばらくしたら忘れます」

「悪い、叢雲…雪風、さっきはゴメン…」

「いえ、雪風は気にしません」

「…アタシはホテルに戻る、お前らは普通に遊んでてくれ」

摩耶が叩きつけた雑誌を拾い、ゴミ箱に放り込んでホテルに向かって歩き出した。
摩耶が心配だったし、特にやりたい事も無い、みんな無言で摩耶について行った。




アタシに、アタシの知り会いにこんな恥をかかせやがって…覚えてろよ、クソ共が…!





午前中の担当と交代してカウンターに着く、この仕事を初めて数年経つが、お客様の前にずっと立っている以上、なかなか慣れない。
カウンターについてすこしすると五人組の女の子が近づいてきた。
保護者はいないのかな?これはあれか、家族で旅行にきたは良いが、親の買い物に付き合わされた子供が疲れるか飽きたりして子供だけホテルに帰したパターンだな?
困るんだよな、こう言う事されると。万が一迷子にでもなったらこっちにまで責任が追及される。

「805号室…摩耶だ」

「はい、マヤ様ですね、少々お待ちください」

一番背の高い女の子が暗い顔で預けた鍵を要求してくる、良く見るとみんな絶望的な何かを見たような顔だ、まるで映画のミストを見た直後のような…
子供相手でも仕事だ、笑顔笑顔…しかし、マヤと言う苗字なのか?変わった名前だな?
そう思いながら客室名簿を探すと苗字は無し、名前は摩耶、特記事項に艦娘と言う文字があった。
そうか、この子達が艦娘なのか…しかし、艦娘がこんな顔をするなんて、何があったんだ?

「はい、805号室、摩耶様ですね、こちらが鍵になります…失礼ですが摩耶様、お身体の具合でも悪いのでしょうか…?」

失礼だとは思ったが、声を掛けてしまう。どう見ても心が健康そうには見えなかった。


「なんでもない、さんきゅ…」

そう言って摩耶と言う艦娘は鍵を受け取ってエレベーターに向かってしまう。

「ごめんなさい、ちょっとショックな事があって…」

一番背の低い艦娘がそう言って私に頭を下げ、みんな摩耶を追って行った。

艦娘がショックを受ける、なんてただ事じゃない気がする。
まさか自殺なんてしないよな?ホテルで自殺者が出るとかゴメンだ。
とりあえず、従業員には注意を促しておこう。そう思って私は電話を取った。

今回はここまでです。

質問に答えておきます。
>>468
COIN機というのは乱暴に言ってしまえばセスナ機のような小型プロペラ機に機関銃・小型爆弾・ロケット弾などを装備したものです。
現在でも対反政府ゲリラ用などに保有・運用している国があります。
過去に日本では「戦闘ヘリなんてやめてCOIN機を保有した方がずっと良い」と主張した軍事評論家がいました。




いかん、乗ってきたぞこの女、半分は冗談のつもりだったのに。酒の勢いで声を掛けたらこのざまだ。
しかし…これは考えようによっては幸運かも知れない。これだけの美少女と寝れる機会なんて、多分一生に一度あるかどうかだろう。

「いくら、欲しいんだい?」

「金…金なら良いよ、あたしはやな事忘れたいだけなんだから…ハハ…」

「(おい、こいつ、やばいぞ)」

相方が耳元で呟く、同感だ。
この女は笑っていた。それだけなら普通だが、その顔と笑い声は乾いていた。
そして目がおかしい、あきらかにやばい。この女の目は輝いていた。
キラキラした目。と言えば、それだけで純粋な人、心の綺麗な人、そういう印象だ。
だが、こいつの目はギラギラしていた。


「(同感だ、どう思う?)」

「(やばいクスリとかやってるかもしれん…逃げよう)」

触らぬ神にたたり無し、その言葉を破り女神に触ろうとしたが、とんだ祟り神だったのかもしれない。

「何してる?アタシは二人同時でも、いいぞ?」

いや、この子はそれでも女神だ。そう確信して彼女に話しかける

「…何があったか、聞いても良いかい?」

「おい!?」

彼女のまぶたがピクッと動いた。


「お前何考えてるんだ!?」

「様子がおかしいんだ、何かあったなら話しぐらい聞いても良いだろ?」

「んなこといってほんとにやばい奴だったらどうするんだ?」

「嫌ならお前一人で帰れ、美少女は俺の嫁、泣いてる嫁を頬って置く夫はいないだろ?」

「まったく、お前の理論はわかんねぇよ…こうなりゃやけだ、俺も行く、何かあったとき二人の方が良いだろ?」

「怖いなら帰っても良いんだぜ?」

「…俺は女を悦びで泣かせるのは好きだが、悲しみで泣かせるのはだいっ嫌いなんだよ」




[ピザ]とガリ…いや、もうマリオとルイージにしてしまおう。二人がファミレスにアタシを案内した。
いきなり路地裏とか、そんな事考えてたけどな、昨日見た番組みたいにインタビューでも始める気か、こいつら

「ラストオーダーギリギリだな、適当に頼むぞ」

マリオが適当に飲み物を頼んでいた。


「それで、何があったんだい、話しぐらいなら聞くよ?」

ルイージがさっきとはうって変わってやさしい口調で話しかけてきた。

「…ただ、気持ち良い事、したくなっただけだ」

止めてくれ、慰めて欲しいんじゃないんだ。私をボロボロにして、適当な新聞社に写真でも送ってくれりゃ良いんだ、そうすればテレビも新聞も週刊誌もアタシの記事しか書かなくなるんだから。


「いいたくないなら黙って飲み物を飲みな、でもな?そう言う事を楽しみたい奴が、そんな顔をするかね?」

マリオが飲み干したコーラの氷をガリガリしながらマリオが喋った、棘だらけの言葉の中に微妙に気遣いが見えて、提督とすこし被る。
おかしいな…見た目もぜんぜん違うのに…

「…あたしが悪者になって、目立てば良いって、そう思った」

「そんな理由で?厨二病かよ」

「なら他人を巻き込むなよ、クソが」

ごもっともだ、でもその語尾は言わないで欲しいな、マリオさん。





「そりゃ酷い、な」

気がつくとアタシは今まであった事をこの二人組みに話していた。
今話している事は報道で公開されているとは言え艦娘の秘密情報になる、アタシは機密漏えいをした事になるが…

「…で、やけになって適当な男誘って寝ようと?艦娘様が何考えてるんだか」

マリオのおっしゃるとおり、アタシには返す言葉が無かった。
しかし、なぜだろうかこの二人には何でも話せる気がした。
アタシの仲間の艦娘でもない、守ってくれる提督や自衛隊員でもない、アタシ達を蔑み攻撃して来た連中でもない、
つい十分前に知り合っただけの完全な赤の他人。あたしに対する+も-もなく完全に中立、そんな人がアタシの話を聞いてくれたのが、多分嬉しかったんだろう。


「で、自分が目だってそのおじさんへの非難の目を自分にむけよう…と」

「愚策だな、自爆特攻は旧軍のお家芸…でもないんだろ?」

やさしく話を聞いてくれるルイージと違ってマリオはいちいち突っかかる言い方をしてくる。

「他に手がないならそれも仕方ないが…まだ手はあるさ」

「そうだな、それに自棄になった行動はデメリットも大きいぞ?自分を守るために君が体を売ったとか知ったら、そのおじさんはどうなる?俺なら自[ピーーー]るね」

「…うん、なんでアタシ、そんな簡単な事に気づかなかったんだろう…」


マリオがさっきまでと違うやさしい口調で話しかけてきた

「…そういう時は一番の目的を考えるんだ、君の目的は?」

「…おっちゃんへの嘘の噂を、止めたい」

「違う、それは目的のための手段に過ぎない、手段を最初に考えると失敗するんだよ。目的は?ほら、抽象的なもので良いんだ。」

「…おっちゃんに、平和に過ごして欲しい…」

「次に、その障害になる物を考えろ、自分の行動も含めて…ほら、あんな馬鹿な考え、起せなくなるだろ?」


まったく、こいつの言うとおりだ。
おっちゃんが自[ピーーー]る。なんてまだ生易しいものだったかもしれない。
提督が、深夜に執務室で首を吊る。一佐が、首になる。アタシの姉妹たちは?
アタシを姉妹と認めてくれたちょうかいは?

「その障害の中で一番デカイ物は?」

「…あの出版社だ」

「じゃあ簡単だ、その出版社を叩けば良い、君が叩かれないように、だ」

「でも相手は…民間企業だぜ?それこそ…」

「そうだ、メディアは強い。大手なら世論を動かし、国も動かす。」

「なら、メディアでメディアを叩くのさ」

ルイージが笑顔でウインクして来た、正直、似合ってない。


「でもどうしろって言うんだ?メディアのツテなんて…」

「そこを何とかするのは君自身だ、作戦立案は巡洋艦のお手の物だろ?あの戦艦大和を差し置いて旗艦になった事もあるんだから」

「マジかよ、巡洋艦やべぇじゃん」

「それをしたのはあたしの姉貴だ…」

「二三十年前ならいざ知らず、今は結構いろんな方法があるのさ、そろそろ閉店だな、支払いは頼むぞ?」

「俺かよ!」





ルイージに支払いを任せてマリオと外に出る。

「ほんとに、いいのか?あたしを抱かなくて、アンタもそのつもりでアタシに声を掛けたんだろう?」

「さっきも言ったけど、あいつは泣いてる美少女をほっとけなくて、俺は女を悲しませるのは嫌いなのさ」

「…かっこつけてもにあわねぇぞ?」

いつの間にかルイージが後ろに立っていた

「そういう君は笑顔が似合うじゃないか」



二人とわかれてホテルに向かう。
もしあの二人以外に出会っていたら、今頃アタシは何処かのビルの裏で全裸で転がってたかもしれない。
そう思うとあの二人には足を向けて寝れないな。

ホテルの前でポケットのスマホを取り出す。電源を入れると不在着信が何十件も入っていた。

ゴメン、叢雲からの電話に出るのは後だ。アタシにはやる事が出来た。

「…もしもし、姉貴?こんな時間にゴメン」




「あーっ!失敗した!」

「どうした?いきなり叫びだして?」

「やっぱあの子と一回ヤッテおくんだった!!」

「…あの子も可愛いが、俺はもっとおしとやかな方がいいなぁ…」

「わかってねぇなお前は!ああいう乱暴なとこのある子がベッドの上でしおらしくなるのが良いんじゃないか?なぁ!」

「あーはいはい、帰るぞ?」





部屋に戻ると瑞鳳に抱きつかれた。
なんでも、警察を呼ぶか、もう少し待つかで意見が割れていたらしい。

「なんにしろ無事で良かったわ、アンタの事だから東京まで戻って出版社に突撃するんじゃないかと…」

あ、叢雲、それほんとに考えてたんだ、マジでゴメン。



「はーい、高翌雄さん?どうしたんです?こんな時間に…え?パソコン?まぁそこそこ詳しいですけど…」


「お疲れ様です…鳥海さん?どうしましたか?え?それなら出来ますが…本気ですか?」


「ちょっと愛宕さん!いきなり電話かけないでよ!スマホのゲーム、良いところだったのにー!」


「どもー!珍しいですね、あなたから電話してくるなんて?え?特ダネですか!?フムフム、私の名前は出せないけど結構な騒ぎになる…ですか」



今回はここまでです。
ごめんなさい、行った所の無いところだったので、島なのに無駄に都会にし過ぎてしまいましたね。
既に書いてしまった以上修正も出来ず、申し訳ないです。




ふと目を覚まして時計を見ると0500、起床にはまだすこし早い時間だった。
でも、二度寝するほど眠気があるわけでもないので、何となくベッドから出る。窓から外を見て見ると雨が降っていた。
…変な空だ、鎮守府の回りは雨雲が立ち込めていて雨が降っている。でも、窓から見える海の先は雲が無いのか、朝焼けで真っ赤だ。

「どーしたの時雨、雨でもみてるっぽい?」

声を掛けられて振り向くと夕立がボクの隣に立っていた。
たしか今日は夜勤明け、きっとこれから寝るつもりだったのだろう。

「うん…変わった空だな、って思って」

「たしかに、変な空っぽいかも、時雨はこう言う雨は好きっぽい?」

「ボクが雨、好きなのは知って居るでしょ?」

「でも、なんか暗い顔してたっぽい」

「…雨は、いつか止むさ、でもたまにこうも思うんだ。雨がいつか止むなら、その雨はまたいつか降り始めるんだって」

「…良くわかんないっぽい」

「雨は好きだけど、この雨は嫌いかな…朝焼けって、どきどきするんだ、良い事と悪い事が同時に起きそうな気がして、それにこの雨さ」

「…悪い事だけおきるっぽい?」

「たぶん、だけどね」





海自の船で沖縄へ、沖縄基地から鎮守府まではなぜか基地にいた陸自が送ってくれる事になった。

「オーライ!オーライ!」「いやぁー、艦娘の装備もここまでボロボロになるんだなぁ…」

「おーい、それアタシの艤装なんだ!丁寧に扱ってくれよ!」

フォークリフトで艤装をトラックに積み込む隊員に摩耶が声を掛ける。そんな時私達に声を掛けてきた人がいた。

「那覇鎮守府の艦娘ですか…よくアレだけの戦力差で勝利できたものです、尊敬します」

「あれ、艦娘…?」「こんな方いましたっけ…?」

そこにいたのは艦娘だった、が、こんな子…居たっけ?
みると雪風と浜風も首をひねっていた。

「自己紹介が遅れました、自分はあきつ丸と言います、陸上自衛隊、第一船舶隊所属…まぁ、自分一人と陸自の担当官一人の部隊ですが…」

「しってるわ、重巡四隻に襲われていたわね」

「なっ…なぜ知って居るのでありますか!?あのときの事は忘れたかったのに…」

「私、アレ見てたもの、面白かったわ…それより、どうして陸自の艦娘が海自の沖縄基地に?」

両手で顔を覆うあきつ丸に聞き始める。そういえばなんでだろう?所属の横須賀ならわかるが…


「あ、あぁ…自分、新装備試験の準備で硫黄島に向かう途中なのであります」

「新装備?あきつ丸が居るって事は艦娘用よね?どんな装備なの?」

「申し訳ないのであります、私が喋って良いのか、わからなくて…」

「えー?教えてよぅ…ね?ね?」

「瑞鳳さん…あきつ丸さんも困って居ますよ、きっと公表される機械もありますから、ね?」

浜風に窘められてしまった…でも、新装備ってなんなんだろう?陸自が作った揚陸艦娘用装備…興味は尽きない。

「みなさん!用意が出来ましたよ!乗ってください!」

陸自隊員に声を掛けられる。私たちはあきつ丸に別れを次げてトラックに乗り込んだ。




「自衛隊は集団的自衛権を盾に米軍との共同作戦を繰り返し、先日も台湾軍と、政府の許可も無しに共同作戦を繰り広げた!これは自衛隊の暴走である!」
「このままでは日本が、日本人が外国の尖兵として世界に戦争の火種を振りまき兼ねない!そしてその中心に居るのは常に艦娘達だ!」
「更にここ、平和の島沖縄には過去に殺人未遂・脅迫・売春などの問題を起した艦娘が多数在籍している、これは政府の沖縄なら負担をいくらかけても構わないという算段による物だ、艦娘がいる限り沖縄には平和は訪れない!」
「艦娘は沖縄から出ていけ!」「「沖縄からーでていけー!!」」



艦娘達が帰還したのは、そんなデモの真っ最中だった。
海自ではない陸自のトラック、それも幌をかぶせて中身が見えなかったからか、市民団体は陸自のトラックには殆ど興味を示さなかった、中身は嫌いな艦娘とその装備なのにな?

デモの中には艦娘による売春、それによる治安・風紀の乱れを懸念する声もあり、艦娘達はそれを聞いたはずだ、どう説明しようか、俺はその場に居て良いのか?
そんな事を大和と二人で悩んでいたが、帰ってきた艦娘は可愛い笑顔を見せてくれた。

「ただいま提督、艦隊、帰投したわ!」

「大和さん!ただいまです!雪風・浜風帰投しました!!」

いや、元気なのは良いけど、俺たちの気苦労はどうなるのさ?ねぇ?
大和を見ると大和がにっこり笑って言った。

「私たちはあんな風評被害何かには負けないって事ですよ」





艦娘の装備をドッグに運び込み、妖精さん達に見てもらう。
浜風は二日あれば通常航行に支障無し、雪風は被弾こそなかったが機関の一部が焼け付いており、その交換に一日。大和は旗艦の修理は終わっており武装は大半が使えないが航行には支障無し。
二日後には呉組みには呉に帰ってもらう事になるだろう。
摩耶は大破、修理には一ヶ月単位、叢雲と瑞鳳は修理に半月…摩耶の艤装と叢雲の火砲の修理を優先するよう指示を出した。

「なぁ…俺がいない間、何があったんだ?」

「色々あったんだよ、色々、提督が首になった後の後継者候補とかな」

本当に何があったんだ?ここ数日、俺はおいていかれてばっかりだ。





公園のベンチに座り、目の前の鉄の塊を見つめる。私の目の前にはかつての戦艦、三笠が静かに佇んでいた。
戦艦三笠、かつてもっとも有名な戦艦だった船だろう。激しい戦いを経験した、という意味では私や金剛達の方が上だろうが、それでも日本海軍初期においてこの方が上げた功績は計り知れない、とおもう。
ここ最近の私の休日の日課はここ、三笠公園で三笠と、それを眺める人々を見るのが日課になっていた。
それまでは休日もトレーニングばかりだったが、陸奥に「姉さんもたまには遊んで来たら?」等と言われてしまったのだ。
「人々の笑顔を守る我々が遊んでなんて居られないだろう」と言ったら「自分で笑顔になれない人に守られたって、みんな心の底から笑えないわよ」等と言われてしまう。どうも私は口では妹に勝てないようだ。
まあ、その遊びが近所の三笠公園でずっとベンチに座っているだけ…と知ったら陸奥にまた怒られるだろうな?
しかし、私はそう言った事には疎い、ここでずっと座っているのが一番のストレス解消なんだ。


三笠、貴女は私たちと共に戦ってはくれないのか、確かに三笠は私達と比べれば性能に劣る。しかし艦娘となればまた別だろう。
それに三笠が傍に居てくれるというだけで私たちはいくらでも戦える、そう思えるだけの物が私たちの中にはあるのだ。
海自でも広報や後方支援用に三笠を艦娘に…という案もあったが、うまく行って居ないらしい。
戦力外の艦娘より戦力に予算が集中されるほか、どうしても三笠の魂がつかめない、何て話しも聞いた事がある。
「三笠は生きたまま固められた剥製のようなものだ、船として生きても、死んでも居ないのかもしれないな」
そんな事を提督から聞いた事がある。
そんな時、小さな影が私に近寄ってきた


「あ、ながとおねーちゃんだ!」

年は…3~4歳だろうか?人間の男の子だ。
前にここに居るところを見つかってから妙に懐かれてしまった。母君の姿は見えない。

「こいつ、またお母さんを置いて来たな?悪い子だ!」

「だっておねえちゃんに会いたかったんだもん!」

男の子を抱き上げるとキャッキャと笑う。

「私はいつもここには居るわけでは無いといっただろう…私が居なかったらどうするつもりだ?」

「でもお姉ちゃん、大体ここに居るもん!艦娘のおしごとしてないでしょ?」

「なっ…いや、私は最強のビッグセブンだからな!私が仕事に出るというのはそれだけ日本がピンチだと言う事なんだ!」

「最強?ビッグセブン、すごいの?」

「あぁ!何しろ世界最強の七人の内の一人だぞ!私は!」

嘘は言ってないぞ?大和型やアイオワ型にサウスダコタ型…私より強いと言われる戦艦は居るが、錬度も含めれば私と陸奥が一番のはずだ


「最強の七人!すごい!」

「あぁ、私はすごいんだ!」

「仮面ライダーよりも強い?ウルトラマンよりも強い?」

「あぁ、もちろん…いや、彼らとは、どっちが強いかはわからないだろうな」

「…どうして?」

「仮面ライダーも、ウルトラマンも、正義の味方だろう?私たちだってそうだ、正義の味方同士が戦うと思うのか?」

「んー?」

できれば、この子には戦うと言う事がどう言う事なのか、知ってほしくないと思った。
しかしそれは無理と言うものだろう、たとえ明日深海凄艦が全滅したとしても、それで世界から争いが消えるわけではない。日中や日韓は今日も領土の問題があるし、中東では頻繁に自爆テロも起きている。
殺し合いが無かったとしても、生きていく上では競争は必須だ、それでも、だ。
今私が抱いているこの子が、あらゆる争いに巻き込まれなければ良い、と思うのは私のわがままなのだろうか?


「あー!やっぱりここにいた!すみません長門さん、いつも息子を見ていただいて…」

声のする方を見ると両腕に買い物袋を抱えた女性が駆け寄ってくるのが見えた。

「ほら、お母さんが呼んでいるぞ」

「お母さん!遅いよ!」

「もう、この子ったら…いつも私を置いてここに来ちゃうんです…いつも言い聞かせているのですけど…」

「…幼子を育てているのに、子供から目を離すのは感心しないな、私も常にここに居るわけじゃないんだ」

「いつも本当にすみません…」

「…いや、私も子供を持った事も無いのに偉そうな事を言ってすまない…」

「ほら、帰るわよ、お姉ちゃんにバイバイしなさい」

「うん!ばいばい!お姉ちゃん!」

私たちは子供を産めない、正確には産めるかどうかわからない。前例も挑戦もないのだから。
だから、次の世代を産めない変わりに、あの子や他の子供たちの笑顔を守ろう。
もう、あんなのはゴメンだ。私と陸奥に憧れ、毎日私の絵を書いた子供が私の中で死んでいくのは。




なにか良い写真はないかと思い、公園に来たら良い物を見つけた。子供と触れ合う艦娘。という図だ。
物影から出来るだけズームして写真を取る。
あとは、これを白黒にして解像度を落とし、二人に目線を入れる。これにちょっとしゃれたキャプションをつけたら?
警察通報事案が一件出来上がりだ。

ま、なんにしろ俺は写真を取って会社に送るだけ、さ。後は編集者の仕事だ。
悪いがあんたには俺の飯の種になってもらおう。





「こちら哨戒機、現在順調に工程を消化中。哨戒担当区域まで後2時間を予定、通信終わり」

基地に定時連絡を終え、操縦桿を握りなおす。
今日は雨、飛行する分には影響無いがそれでもあまり好きな空ではなかった。

「でも、なんというか…嫌な雨ですね」

「全くだ、こんな天気は嫌になるな、気が滅入っちまう」

「機長もそんな事言う事があるんですね」

まったく、ベテランの機長がこんな事を言うとろくな事が無い。大抵ソノブイが変なのを見つける。
しかし、まだ哨戒予定区域まで二時間ある。今日の機長予測は無駄に終わるだろう。

「なんだあれ?鳥か?」「まさか、こんな雨で鳥が飛ぶかよ、ガラスについたオイルかなんかじゃね?」

後ろの方から他の乗員の声が聞こえた。
雨を除けば今日の飛行は順調だ。でも機長の言いたい事も分かる

―あぁ、本当に嫌な雨だな

私の記憶はここで途絶えた。





「機長!第三エンジンで火災発生!」「計器が損傷した!」

急に機体に衝撃が走り、コントロールが聞かなくなる。フロントガラスがヒビだらけになって計器が割れた。
何があった?ふと横を見るとさっきまで話していた副操縦士が真っ赤になっていた。

「機長!」「うわーぁぁっ!?」

乗員たちの悲鳴が聞こえる。操縦桿を、スロットルを動かそうとするが動かない。
何があったんだ!?
その時、ヒビの入った窓ガラス、そのヒビの少ない所に、黒い点が映った。
お前か。
第二エンジンが光ったと思った。
私の記憶も、ここで途絶えた。


今回はここまでです。
次は明日の夜になると思います。




「提督、入るわよ」

提督に通信記録の提出をしようと執務室に入る。
見ると提督は机に突っ伏して眠りこけていた。

まったく、仕事中に寝るとか、緊張感無いわね。やっぱりアンタには私が居ないと駄目だわ。

「…」

まあ、今回は通信記録を提出するだけ、きっとこの後は会議だなんだで忙しいだろうし、大目に見てあげる。
寝ている提督の頬をつっつくと提督がう~んと唸った。


「…ねてないです…むらくもさん、まじやめて…」

寝言か、たぶん初めて会ったころの夢を見ているのだろう。
最近、提督で変な想像をしてしまう事が増えた。
戦闘から帰ってきた私を提督が抱き締めてくれる、頭を撫でてくれる。そんな想像。
そういえば、二人だけの時はよく頭を撫でてきて、あたしが手を振り払ってそんな事より仕事しろと言って…
一年も経ってないはずなのに無性に懐かしい。
もう一度撫でてくれないかしら?沖ノ鳥島の後酔ったせいで提督に抱きついたまま眠ってしまった事があるが、変な姿勢で眠っていたはずなのにいつもより疲れが取れた。
カッコ良く無いし、成績は悪いし…でも、私は無意識に提督を求めているのかも。


提督が私を裸にして、抱き締める。
提督が私の中に入ってくる…私の小さい身体は彼を全部受け止めきれるのだろうか?
そんなにがっついたら私が壊れちゃうじゃない、ゆっくり、ね
そう、そうやって私を気遣ってくれるところも大好きなんだから

「提督、お茶をお持ちしました…叢雲?」

はっ!
ドアが開く音がして慌てて提督を撫でていた手を引っ込める。

「ど、どうしたの大和!?」

「お茶を淹れてきたのだけど…提督はお休み、のようね」

「え、えぇ、ほんとにこいつは昔っからこうよ、目を離したらすぐサボろうとするんだから…」

「ふふ、提督も疲れているんです、昨日は私たちの異動の手続きや司令部への連絡などで殆ど眠って居ないはずだから」

そうか。私達がホテルでのんびりしている間にあんたはあんたで大変だったって訳ね。
大和がクローゼットから毛布を取り出して提督に優しくかぶせる、こうしてみるとホント絵になった。
私には提督の疲れを癒すのは無理ね、はぁ…

「大和、ここに通信記録を置いておくわ、コイツが起きたら渡しておいて」





「ふぅ…ふぅ…よし、こんなもんか…」

擬装が大破したらやることは殆ど無い、通信記録の提出は叢雲に丸投げしたしな。
かといって何もしないわけにも行かない。
尖閣以来ずっと身体を動かして居ないから、たまには身体を動かそう。そう思ってずっとトレーニングルームで身体を動かしていた。
ホントはすこし前まで浜風と雪風もいたんだが…二人とももう疲れたといって先に切りあげてしまった。
全くだらしの無い奴らだ、アタシらは体が資本だぞ、からだが。
いや、体力なくても艤装つけれればいいから、そうとも言え無い、のか?

しかし、先日のアタシはいったいどうしてたんだろう?今考えてもあのときのアタシはどうかしてたとしか思えない。
マリオとルイージが良い奴で本当によかった。もしあれが変な奴…いや、あの時はアタシがおかしかったから、普通の奴だったら?


人気のない所に連れ込まれ、壁に押し付けられる。

「へへ、本当に良いんだな…?」「今更嫌だ、って言っても遅いぜ」

「早くヤッてくれよ…アタシは全部忘れたいんだから…」

「じゃあ遠慮なく」

「んっ…んむ…んっ…」

マリオがアタシの唇を奪う、舌が口に入って来た。
ルイージはアタシのスカートを捲り、中に頭を突っ込む、息が股間に当たってくすぐったい。

「ほんと、夢見たいだぜ、君みたいな子とこんな事出来るなんてな」

マリオの両手があたしの乳房を握り締める、すこしの痛さと電気みたいな刺激が乳首から脳に流れ込んできた。


「あっ…や…///」

「いやだ、は無いだろう?ここまで俺達を誘っておいて…」

「おいマリオ、こいつパンツが濡れてるぜ、変態だな」

「だ、誰がそうさせ…っあうぅ…!」

股間に何かが擦り付けられる、アタシの、あそこがひくひく震える…

「もう準備万端じゃねぇか…どうする?」

「俺が下、お前が口だ、いいな?」


マリオとルイージがズボンのチャックを下ろす。中からモザイクのかかった二本の棒が出てきた。
ああ、アタシはこれからこの棒に上も下も貫かれて、最後は白濁液まみれで打ち捨てられる…
マリオがアタシの後ろに回りこみ、ショーツを下にずらして棒をあそこに擦り付けてきた、いいよ、早く来て…

「そこまでだ!」

その時、スポットライトに照らされた人影が現れた

「な、何者だ!貴様!」

「私の部下を傷つける貴様らに、名乗る名前は無い!!」

「こ、こいつ、那覇の提督だ!」

「ちっ、逃げるぞ相棒!」「おうよ!」

マリオとルイージが股間の棒をしまいもせず、走って逃げて行った。

「てっ、提督!」

「大丈夫だったかい?摩耶?」

「あっ…アタシ…あいつらに汚されて…」

胸と股間を丸出しにしたまま提督に抱きつく。提督はあたしを優しく抱き締めてくれた。

「摩耶は汚れてなんかいないさ…もし忘れたいなら、私がずべて忘れさせてあげるよ」

「うん、提督…来て…///」

提督に抱きついてあそこを棒に擦り付ける、いつの間にかアタシも提督も、生まれたままの姿だった。

「摩耶…」

「なぁに、提督…///」

「おまえ、ちょっと臭い」





提督のその一言で我に帰る。そういえばアタシはトレーニングで汗だく、スポーツブラからむわっと熱気と汗の匂いがしていた。

「…風呂でも入るか」

それに何で助けに来たのが提督なんだよ、そりゃシチュエーションは良かったけどさ…
白馬に乗った提督を思い浮かべて見る。うん、似合わない。
それとマリオにルイージ、お前ら良い奴だったのに、変な想像につき合わせて本当にゴメン。





「えーと、52型は8機…彗星は5機…天山はぁ…」

航空機格納庫で航空機と搭乗員の整理を続ける。
まったく、沖ノ鳥島の準備でせっかく新型になったというのに、その新型は大多数が撃墜されるか、帰還しても修理不能で放棄…
妖精さん達も多数が戦死してしまった。彼らはまた復活するから良い…と言う空母も居るけど、やっぱり死ぬと言って良い気はしない。

帳簿を引っ張り出す。補用機の52型と天山が何機かあるが…それだけではぜんぜん足りない。
廃棄予定の項目を見る。まだ廃棄されていない21型や九九艦爆、九七艦攻がまだ残っている。
次に名簿だ、交代要員の妖精さんを加えれば頭数は一応そろう…でもそれだとしばらくみんなは休み無しになっちゃうな…
機体も21型に52型、九九艦爆に彗星、九七艦攻に天山…それに彩雲、まさかの7機種運用体制だ。
可能なら運用する機種は絞るべき、機種が多いと整備や補給に手間がかかるし、妖精さんの訓練も厳しい物になる。
それに運用する私たち空母艦娘の処理能力が追いつかない…だから空母艦娘の航空機は戦闘用3機種+偵察機の4機種運用が基本だ。
でもこうしないと頭数がそろわないし…
とりあえず、何よりは補給の要請だ、烈風と流星を…これはうちには高望みし過ぎか、52型に彗星、天山の補給、交代要員も含めた数の妖精さんの配属を申請…
補給が届くまではなんとか7機種運用体制をするしか無いんだろうな?


「しばらく無理をさせるけど、よろしくね?」

机の上で座っている妖精さんの頭を撫でた。

「後はこれを提督に提出して…」

『な、何よあんなの…提督の方が一回りは大きい…わ』


「ず…ずいほう…これは、その…な…」

提督に書類を出すために執務室に入る。提督は下半身裸でアレを握り締めていた。
提督の握っていた棒が見る見る小さくなっていくのが見える、ふふっ、すこし可愛いかも…


「提督ぅ~疲れてるの?なんなら私が…癒してあげても良いんだよ?」

胸当てを外し、服を脱ぎながら提督に向かう、提督は椅子事後退したが、壁にぶつかってしまう…残念♪
そのまま提督の上に乗っかる

「ねぇ、提督…///」

そのまま提督の耳を咥えると提督がほおおおと、変な声をあげた。
そのまま提督のソレを自分のあそこに擦り付ける。

「だ、ダメだ瑞鳳…よせ…」

「提督…私の格納庫、味わって見ない?」

そのとき、机の上で一部始終を見ていた妖精さんが呟いた

「提督さん、瑞鳳さんの格納庫は、快適ですよ」

「ずいほ…ずいほうーっ!!」
「ふにゃあぁぁあん♪」



「瑞鳳さん、どうしました?」

「ハッ!?」

いけない…変な想像をしていた、これは叢雲のせい、私は悪く無い。
そうよ、仕事しないと、仕事!





「あー、集まってくれてご苦労、重要な事では無いが連絡事項がある…ん、どうした?」

執務室に集まった艦娘達を見る。なぜか三人ほど顔が赤くて俺の事を見てくれなかった。

「えー、先ほど沖縄基地隊から連絡があった、本日朝、哨戒中のP-3Cが定時連絡を最後に消息を絶ったらしい」

「深海凄艦?ですか?」

「あー、その可能性は低いというのが上の見解だ、哨戒網のかなり内側だし、数日前に現場海域を韓国の練習艦隊が通過している」
「もし深海凄艦ならこの韓国艦隊が遭遇なり何なりして居る可能性が高いからな」
「現在海自のP-3CとUS-2が捜索を行っている。我々が出動する可能性はまず無いが、一応覚えて置いてくれ」

「まあ…もし深海凄艦でもあたしたちには何も出来ないしね…」

正直、今の那覇鎮守府では雪風以外は戦力外だ。




US-2と編隊を組み現地に向かう。
果たして行方不明になった哨戒機は大丈夫だろうか?
事故で墜落するにしても何の連絡も無いというのは考えつかないし…やはり敵に撃墜された?
しかし、こんなところで誰が…いや、そういえば先日尖閣諸島で深海凄艦と艦娘が戦ったけな?警戒をするに越した事は無いだろう。

「機長!左旋回!降下してください!」

乗員の叫び声が聞こえた、それと同時に、言葉の意味を理解するより先にいわれたとうりの動作をする。

「機長!敵機です!」
「右下方!深海凄艦を発見!」

『こちらUS-2、深海凄艦の航空機をこちらも視認した、退避する!』

「こんなところに、哨戒網の内側に深海凄艦だと!?」

「ぼやくな!基地に連絡!離脱するぞ!!」

そうか、行方不明になった機体はこいつらに落とされたのか。
可能なら敵の規模を調べ、報告するべきだ。しかし…


「機長!黒点が見えます!数は3…いえ、5機!」

複数の敵機に追撃されては偵察する以前に撃ち落とされてしまう。
まずは報告、そして帰還するべきだ。

『こちらUS-2、そっちの方が足が速い、こちらが囮になる、そちらは離脱しろ』

「すまん!」

速度を上げて日本へ向かう。US-2がエンジンから火を吹いているのが見えた。
助けてやりたい、しかし対潜魚雷しか積んで居ないP-3Cに出来る事は無かった。


P-3Cより緊急連絡、空母を含む深海凄艦艦隊を発見、数は最低10
進路から攻撃目標は沖縄諸島と推定

今回はここまでです。
次回は明日を予定しています



sag「e」とsag「a」(NGワード機能をオフにする)は予備知識がなければ見間違えるかも

>>598
おっしゃる通り、sageとsagaを見間違えておりました、申し訳無いです。




「…ソナー、異常無し」

「敵艦隊との想定距離、50キロ」

「よし、深度50で待機」

まったく、この距離でもソナーで殆ど音が聞き取れ無いとは…とんでも無い敵がいたものだ。
しかし、それ以上にとんでもない連中との訓練だってしている、大丈夫、今回彼らは味方だ。

「雑音が聞こえます…数は2、接近中…58と168と思われます…更に接近」

しばらくしてコンコンと言う音が僅かに聞こえる。
よし、取り付いたな?

「よし、進路180、本艦は全速で離脱する!」

「艦長!後方…長距離で魚雷発射音…日本のそうりゅう、こくりゅうと思われます!」

「まったく、ほぼ同時に攻撃してくるとかやっぱやべぇな、あいつら…」

「無駄口を叩くな、安全圏まで離脱後、二人を艦内に収容するぞ」





作戦室に可能な限り全員を集める。しかしドック担当だけは通常作業を優先してもらっていた。

「そもそもなぜ今まで気づかなかったんだ!硫黄島よりも更に内側だぞ!」

「沖縄周辺は艦娘、艦娘航空機不足で索敵は殆どP-3CとP-1に頼っておりました、それだけでは深海凄艦に対して哨戒網が薄過ぎたのかもしれません」

テレビから海将と護衛艦隊指令の二人が良いあって居るのが聞こえた。

「それで、どうなんです、沖縄の防衛体制は?」

「護衛艦隊としては現在呉の第四護衛隊郡の出動準備を進めている、しかし主力となるちょうかいはまだ修理中…正直敵艦隊に対しては戦力不足と言わざるを得ない、艦娘艦隊は?」

「沖縄鎮守府です、現在の戦力は戦艦1、軽空母1、軽巡1、駆逐艦3…うち、全力戦闘可能なのは駆逐艦1のみ」

「呉鎮守府です、現在水上打撃部隊の出動準備を進めて居ます」

「横須賀鎮守府です、現在稼動艦娘を編成、出動準備中」

「しかし呉や横須賀では2日以上かかります…深海凄艦が空母機動部隊だった場合攻撃前に現地に到着できる見込みは…」

「陸上自衛隊第15旅団は戦闘準備を進めて居ます、高射特科連隊を名護市、うるま市に展開可能です。九州から対艦ミサイル連隊を移送する用意もしていますがこれが間に合うかは…」

「航空自衛隊、築地のF-2を沖縄に向かわせました、到着すれば沖縄から敵艦隊を攻撃可能ですが…沖縄に対艦ミサイルがありません、現在輸送機で整備班、ミサイルを輸送する準備を行っていますが…打撃力不足かと」

「第七艦隊…主力は現在シンガポールです、横須賀に残っているミサイル巡洋艦・駆逐艦を横須賀鎮守府艦娘部隊に随伴させる用意があると報告が来て居ます」


話を聞けば聞くほど状況は悪かった。
沖縄の部隊だけでは海上からの攻撃を防ぐにはあまりにも不足、他所からの援軍も間に合うかどうか、ギリギリという所だ。
自衛隊も米軍も、艦娘も沖縄にはそこまで大規模な部隊を置いているとは言えない、沖縄に集中していると言われる在日米軍だって海兵隊の攻撃部隊が中心だ。
敵の侵攻を食い止めるための部隊というのは少数しか置かれて居ないのだ。
朝鮮半島や台湾、日本本土を攻撃すれば直ちに海兵隊部隊が出撃するぞ、沖縄を叩けば他の部隊が出撃するぞ…そうやって日本や周辺諸国を守ってきたが、人間相手ならともかく国土や本拠地が明らかで無い深海凄艦にはこういう抑止力など効果は無いのだ。

そして頼みの綱のジョージ・ワシントンは中東での作戦のため日本を離れてしまっている。

「ジミー・カーターの潜水艦娘隊から通信です!」

「繋いでくれ」

潜水艦から通信が入る、スクリーンの右下に小さな画面が写り、敬礼をする二人の艦娘が現れた。

「潜水艦、伊168です!先ほど偵察を終えジミー・カーターに収容されました!」

「ご苦労、敵の戦力は?」

「伊58でち!確認できた範囲で…戦艦5、正規空母5、重巡6、駆逐艦多数…これも全数では無い可能性があるでち!」

「確認できた範囲でも20隻…いや、30隻は居る可能性もあります、これ以上の偵察は敵のピケットラインが厚くて…」

なんてこった、横須賀と呉、両方の全戦力を集めてぶつからないといけない数だ。
いや、それよりも、何で今まで気づかなかった?あと2日、いや、1日あれば呉の部隊は間に合ったかもしれないのに

「また、私達が収容された直後に爆発音が何度か聞こえました、海自の潜水隊郡が攻撃をしかけた物と思われますが…まだ報告は来ていません」

「…沖縄が攻撃されるのは回避できそうにありません、住民の避難はどうなっていますか?」




―夕方
『テレビをご覧の皆様にお願いします、これより臨時ニュースを申し上げます、テレビをご覧の皆様は多くの人にテレビを見るように伝え、一人でも多くの方がこの放送をご覧になりますようご協力をお願い申し上げます』


『海上自衛隊の哨戒機が沖縄の東方で20隻以上の大艦隊を確認しました、敵艦隊は目下沖縄諸島を目指していると思われます』
『現在の速度から考えますと早くても明後日の早朝には沖縄本島が航空機の攻撃圏内に、夕方には砲撃圏内に入る可能性があります』

『沖縄本島が攻撃されるのですか!?』『防衛体制はどうなっているのですか?』『なぜそれまで気づかなかったのですか!?』

『現在沖縄、九州の部隊をを中心に自衛隊、在日米軍が全力で迎撃戦の用意をしています。先ほども海自の潜水艦が敵艦隊に攻撃を仕掛けましたが撤退させるまでにはいたって居ません』
『沖ノ鳥島奪還後、分散した敵艦が単独行動をして哨戒網を潜り抜け、現地で合流したものだと思われます』
『自衛隊と米軍は全力で敵艦隊を食い止めますが、防ぎきれない可能性もあります、過去のデータから深海凄艦は沿岸の市街地と軍事施設を中心に攻撃する事が想定されるため、軍事施設、沿岸、飛行場、港湾などの付近に住んでいる住民の方には避難していただきたい』



ニュース速報―沖縄県の一部に避難勧告





ドックに集合した仲間を見渡す。よし、全員準備は出来ているな?

「準備はいいな?横須賀鎮守府、第一艦隊、出撃するぞ!」

水路に沿って前進する。開いたドアから見える夕焼けから血の色を想像してしまった。
陣形を組み前進、海岸に沿って湾の外へ
その時、海岸から声が聞こえた

「ながとお姉ちゃん!がんばってー!」

あぁ、あの子が手を振っている。あの子の母親も、沢山の人たちが私達に手を振っていた。
思いっきり手を振って答える。作戦行動中の私語は禁止されているが、これぐらいはいいだろ?提督。

「任せて置け!ビッグセブンは応援してくれる子供達を決して裏切らない!!」

とっさに口をついた言葉だったが、はたして私は既にこの子を裏切ってしまっている。
敵は空母を持っている、我々の速力では沖縄が空襲されてからの到着になる。


「なに?あの子?姉さんの彼氏?」

「茶化すな、行くぞ」

間に合わない事が判っている援軍、というのは惨めなものだ。

「すいません、長門さん、提督、提案があります」

「どうした?古鷹?」

「すこし計算して見ましたが…高速戦艦・重巡・軽巡・駆逐艦を先行させればどうでしょう、最大戦速で向かえば明日の深夜には敵艦隊に接触できるはずです」

『それは危険過ぎる、戦力で圧倒的に不利な状態で夜戦に持ち込むのか?さらに長時間の高速行動は疲労も溜まる、下手をすれば日没前に空襲に晒されるぞ』

提督の言うとおりだ、戦艦2隻重巡4隻で6隻の戦艦に挑むというのは…
だが、他に方法があるか?


「…覚悟の上です、呉の艦隊には沖縄に直行してもらって防衛体制を整えてもらい、私達がすこしでも敵を減らします、長門さん達にはその後残りを叩いてください」

「…金剛、赤城、どう思う?」

「bestな作戦とは言い難いデース…でも沖縄の被害をすこしでも減らす、ならそれ以外は無いと思いマース」

「…古鷹、航空支援は期待出来ませんよ?加賀さん、飛鷹さん、隼鷹さんは…ついて行け無いし、私一人だけでは…」

「挑むのは夜戦です、先行するのは私たちだけで行います」

『…利根、どうだ?』

「我輩も悪い案では無いと思う、金剛と同じ意見だ」

『わかった、横須賀艦隊は艦隊を二分する、金剛型、重巡、軽巡、駆逐艦は先行しろ、長門は空母を連れて後を追え、夜戦部隊の防空は…第七艦隊のミサイル巡洋艦に頼めないか交渉する』

…他に妙案も無し、か
私達がもっと足が速ければ…

「了解した、皆、くれぐれも無理はするなよ?」

「任せてください!」
「当然よ!」





『矢矧、横須賀から連絡があった、横須賀艦隊は夜戦をしかけるとの事だ』

「それは本当?なら私たちも…」

『いや、呉には全力で沖縄に向かうよう要請が来ている』

「あぁ、私達の足が遅いから…沖ノ鳥島でも留守番だったし…」

「不幸だわ…」

『いや、扶桑達にはしっかり沖縄の守りを固めて欲しいって事だ、おそらく沖縄空襲は防ぎきれ無いだろう…その時に君たちには民間に被害が出ないようにして欲しい』

「要は囮、ね…」

「でも、それぐらいしか役に立てる事は無いわ、なら私たちはそれに全力で取り組むまでよ」

『…わるいな』

「提督、大和達はどうなっているのですか?予定では明日には呉に戻る予定だったと…」

『大和と浜風は航行に支障の無いレベルまで修理が進んでいるが、戦闘が出来る状態じゃない、今の那覇には戦闘可能な艦艇は雪風しか居ない状態だ』

「大和…無事で居てくれれば良いけど…」





「なぁ、木曽、沖縄まで向えないか?」

「無茶を言うな、ここからだと3日はかかるだろ?それにその間北方の守りはどうするんだ?」

この提督は…今日で3回目だ、このペースだと明日までに10回は聞く事になるだろうな。

「またこの会話だにゃ」

「提督、すこしは落ち着くクマ、ゆとりの行動を心がけるクマ」

「落ち着いてなど居られるか!!」

「にゃっ!?」

提督が机をドンと叩いた、多摩の姉貴が俺の後ろに隠れる…おいそれで良いのか姉貴よ

「提督」

「…すまん」

「…どうしたクマ?何で今日になって沖縄の心配をするクマ?」

「提督、横須賀で会うまで存在そのものを忘れてたって言ってたにゃ」

「…あいつは俺が居ないと何も出来ない無能な奴なんだよ…何度課題を手伝ってやった事か…」

「知ってるクマ、そういう提督は那覇の忘鎮に門限違反を方が割してもらってたクマ」

「ホントか姉貴…その割りにあいつの事ボロクソに言ってたじゃ無いか」

「いわゆるツンデレって奴にゃ」


まったく、何でいつも無能のあいつの所に厄介事が舞い込むんだ




―朝
ニュース速報、沖縄県一部の避難勧告、避難指示に格上げ


今回はここまでになります。
次は早ければ今日の夜に投下できると思います。




那覇鎮守府作戦室、昨日の夜から艦娘もスタッフも殆ど不眠で作戦会議を続けていた。

「呉鎮守府部隊が応援に向ってきてくれているが、間に合うかどうかは判らない、というのが正直なところだ。おそらく第一派攻撃は我々沖縄の部隊だけで対応する事になるだろう」
「現在海自潜水隊郡が敵艦隊に何度か攻撃をしかけているが…効果の程は不明、くろしおが損傷、後退している」
「今日の夕方以降那覇空港に移動したF-2とF/A-18、40機が敵艦隊を攻撃する予定だが、対艦ミサイルの在庫の関係で攻撃にいけるのは一回」
「攻撃後は築地に戻りミサイルの再装填後那覇に移動、そこから再出撃をかけるが、そのころには既に沖縄は攻撃圏内だ」
「市街地の防空は陸自部隊が行い、米軍基地の防空は在日米軍が行う、また204飛行隊のF-15が迎撃を行う」
「我々那覇鎮守府艦隊は金武湾、中城湾に展開、沖縄北方に退避する民間船舶の護衛、対空戦闘を行う」

ハッキリ言って、マトモな作戦とは言いがたい。
ジェット戦闘機なら敵に撃墜される心配も殆ど無く攻撃できるが、搭載できるミサイルはF-2で4発、F/A-18は航続距離の関係で2発
はたして何隻の空母を沈めれるだろうか?

防空も十分とは言えない、那覇基地のF-15は30機、一機につき搭載できる対空ミサイルは8発。これを使いきったら補給に戻るしか無い。
そして敵空母は確認できるだけで5隻、だとすると350機は敵航空機が居る事になる。

完璧に防ぐ事は不可能だ、なら不可能なりに出来る事をするしか無い。


「浜風、悪いが主砲を一基、叢雲に移譲してくれ、現在叢雲は全ての主砲が使用不能だ」

「わかりました」

「瑞鳳は戦闘機を詰めるだけ積んでくれ、金武中城港上空で防空戦闘を行う」

「了解です…30機も居ないけど…」

「…居ないよりマシと思うしか無い」

「…いま艦娘で万全なのは雪風だけだ、頼む」

「…はい、お任せください」

「提督、アタシは…」

「摩耶、お前は待機だ、航行すらままなら無いだろ?」

「あたし居なくて大丈夫なのかよ…」

「変わりに私が行きます、安心して、摩耶」

「…わかったよ、大和」

主砲の使えない戦艦1隻、小破した軽空母1、主砲が一基しか無い駆逐艦1隻、全力航行不能な駆逐艦1隻、そして無傷の駆逐艦1隻
零戦52型10機、21型12機、彗星5機、九九艦爆8機、天山7機、九七艦攻3機、彩雲3機
この戦力で350機の相手を打ち負かす方法があれば教えて欲しいものだ。





今日は学校は午前のみ、午後から臨時休校になった、仕方ないか。
那覇鎮守府周辺は避難勧告区域とかいうのに指定されたらしく、うちの学校が避難場所に指定されたとかで、グラウンドや体育館には鎮守府周辺に住んでいる人が集まりかけていた。

「おい、呉からの増援は間に合わないってよ」「本当かよ?」「俺達どうなるって言うんだ?」「ネットじゃ増援部隊が諦めて引き返したとか…」

帰ろうとすると避難している人たちがそんな話をしていたのが聞こえた。
すこし不安になる。那覇鎮守府には艦娘が三人しか居ないし、みんな尖閣での戦闘で損傷したってニュースを聞いた。

とりあえず帰ろう。スマホを見ると親から連絡が来ていた、鹿児島の親戚の所に向うから早く帰れ、という内容だった。
摩耶様、叢雲ちゃん、瑞鳳さん、雪風ちゃん、浜風ちゃん。
そしてまだ有った事は無いけど、大和さん。
お願いだから無事で居て欲しい。





「この地域には避難勧告が出されて居ます!直ちに避難してください!」

市役所の職員が車で勧告地域を回るというので、我々も手伝うことにした。
今の所避難済みなのは三割、と言ったところか、でも殆どの家が避難の準備をしているのがわかった。
飼い犬の餌皿に餌を山盛りにしている家の前も通った、自分も犬を飼っていたから気持ちは痛いほど判る。
その時、ある家から言い争う声が聞こえた、市役所の車が止まり、職員がその家に向う。我々も着いて行く事にした。

「お父さん、避難しろって言われているんだから避難しないと…」

「いやだ!なんで市役所如きに追い出されなきゃいけないんだ!」

「頼むよ親父…どうせ一時的に離れるだけなんだから…」

「ここは俺の家だぞ!この家から出るか出ないかは俺が決める事だろう!?」

どうも、避難を渋る父親を家族が説得しているらしい。


「どうしましたか!?この地域は避難勧告が…」

「そんな言葉には誤魔化されんぞ!そうやって俺達を追い出して米軍基地の土地にする気だろう!?」

「まったく…親父ぃ、その交渉は20年前に決着したじゃねぇか…」

「安心してください、あくまで今回の避難勧告は一時的なものです、勧告が終わればすぐに戻れます、この勧告を元に市民の土地を奪うような真似はしませんから…」

「ふん、どうだか!じゃあ何で自衛隊なんかが一緒に来ているんだ?えぇ?」

「我々は市役所の要請で避難勧告、避難のお手伝いをさせていただいています、あくまで今回の避難勧告を発令したのは市役所です、国や米軍がどうこうしようと言うものでは有りません」
「それにお父さん、あなたが避難に同意しないと奥さんも息子さんも避難できないじゃないですか?もし攻撃があればあなたが御家族を巻き込むことになってしまうかもしれません」

「…わかったよ!でも後でちゃんと土地と家は帰してもらうからな!」

やれやれだ、さて、私も他の家に向うか。





『先生、今日はお忙しいところありがとうございます。まずはですが…なぜ深海凄艦はこのタイミングでこのような大規模な攻撃をしかけてきたのでしょうか?』

『そもそも深海凄艦は沖ノ鳥島を占領した後は大規模な攻撃は行ってきて居ませんでした、せいぜい付近を航行する民間船、軍艦が攻撃された事例が数件ある程度です。』
『そこに自衛隊と米軍が奪還作戦を開始し、多数の深海凄艦を撃破しました、これは彼らの報復なんです』

『なるほど、自衛隊の攻撃が均衡状態を壊してしまった、と言う事ですか…次の質問ですが、政府の報道では沖縄本島の防衛のみ話しが続けられていますが、付近には他の島もあります、それらの島の防衛体制についてはどうなっているのでしょうか?』

『そもそも自衛隊は沖縄や石垣島、北大東島等と言った離島を守る気なんて始めっからないんです、第二次大戦の時だって沖縄戦の直前に沖縄の部隊を一部撤退させていたりしています』
『日本政府から見れば沖縄とかは本土防衛のための捨て石に過ぎないという考えは戦前から変わって居ないんです、だから部隊の置かれている離島は殆ど無い』

『つまり、今回も政府は沖縄を守るつもりは無いと?』

『少なくとも私はそう思います。無論深海凄艦隊は撃破するでしょうが、政府の思惑としては沖縄を攻撃している間に突いてしまえ、という感じだと思いますよ』







学校が臨時休校となり、我々教師も生徒を家に送り届けた後、勧告区域外に住んでいる者は自宅待機を言い渡された。
テレビでは緊急報道番組として沖縄の特集が行われていた。
まったく、軍隊というのはいつもこうだ、口では国民を守ると言いながら結局国民を囮にしかしない。
国民を守るためと言いながら対馬や石垣、北大東島にはマトモに部隊を置いていない。いやそもそも防衛のためと言われるレーダーやミサイルだって、敵を妨害するための装備なら敵はそこを攻撃するだろう?
つまり、軍事力が有ると言う事はそれだけで国民を戦争に巻き込む。
有名な漫画だって、敵の軍事力を弱らせるために攻撃するから戦争が起きる、と言っていた。むしろ沖ノ鳥島を奪還しなければこんな事態にはならなかったんじゃ無いか?

その時、耳をふさぎたくなるような爆音が耳を突いた

「うわっ…なんだぁ…?」

窓から空を見上げると青い戦闘機が何機か、東に向って飛んでいくのが見えた。自衛隊か米軍の戦闘機だ。
あいつらの離着陸のせいで那覇空港は夕方から全便が運休になったと言う。
国民を守るというのなら一人でも多くを避難させるべきだろう?やはり沖縄は捨て石なのか?

テレビに目を戻すと避難を嫌がる男性を市の職員が説得し、家族が連れ出している光景が映し出されていた。
これじゃあまるで昔の強制連行じゃ無いか、見ると鉄砲を持った自衛隊員も映っている。こんなのが近くに居たら家族だっていやいや従わざるをえないだろう。
自分の家に居たい。そんなささやかな欲求すらこの国は認めてくれないのか。





「ホーク、展開よし!」「中SAM、展開作業急げ!!」
「パトリオット、展開作業開始します!」

私の後ろで陸自と空自の隊員たちの声が聞こえる。
ここは平和な公園だったが、那覇鎮守府のすぐ傍だったため勧告区域に指定され、高射特科連隊が展開する事になったのだ。
ここからなら中城湾なら射程に納める事が出来る。レーダーに映るかどうかは運次第、だが…

「自衛隊のミサイル配備反対!」「平和な公園を戦場にする気か!」「戦争は自分達の所だけでやれ!」

前を見ると立ち入り禁止のテープの前で数十人の市民達が口々に叫んでいた。

「ここからは現在立ち入り禁止です!また、この地域は避難勧告が出されて居ます!直ちに避難してください!」

何十回この台詞を叫んだだろうか?そろそろ喉が痛くなってきた。
無線を聞くとここに来る予定のミサイル車両がまだ何両か市民団体に足止めを食らっているとか…
ここは市の土地だろう、君たちの物じゃない、そして市には許可を取っているんだ。
そもそも俺だってこんなところに来たくて来ているんじゃねぇ!
何回か喉からでかかった言葉を飲み込む、私の隣の同僚がもう一度叫んだ

「ここからは現在立ち入り禁止です!また、この地域は避難勧告が出されて居ます!直ちに避難してください!」


「あの…すいません、通して…通してください!」
「ごめん!ちょっと通してくんない!?」

人ゴミを搔き分けて二人の小さな人影が出てきた、老婆と…その孫か?中学生ぐらいの女の子だった。

「ここから先は…」

「あの、わかって居ます、すぐ避難しますから…あの、これを、これを鎮守府の艦娘達に渡したいのですが…鎮守府には近付けなくて…」

老婆が手に持った物を私に見せてきた、見るとお守りのようなものが五個、握られていた。

「…申し訳ありません、我々と鎮守府は別系統の組織です、それをお渡しする事は…」

「そうですか…ではあなた達だけでもこれを持っていて下さい、お願いします」

「いえ…でも…」

私は公務員だ、市民から物を貰っても良いのか?しかし、この人はこんな危険地域にまでお守りを渡そうと持ってきてくれた、受け取らずに帰れというのは…

「わかりました、後で仲間達に渡しておきます…さ、おばあさんも早く避難してください」

「そだよばーちゃん、早くいこ」

「はい、隊員さん、気をつけて、無茶はしないでください…」

「…任せてください」

気がつくと周囲で響いて居た抗議の声は無くなっていた。





『そろそろ敵艦隊だ、全機、突撃体制!』

ヘッドセットから隊長の声が聞こえてくる、まったく、なんで射程100kmのミサイルを持ちながら30kmまで近づかなきゃいけないんだ
レーダーが警戒音を出す、見ると数キロ先に雲のようなものが見えた。敵機だ

『バイパー01!前方に敵機!!』『構うな!加速すればついてこれない!』

一気に降下加速する、敵機もついてこようとする、何機かが機銃を発射するが全て編隊のはるか後方を通り抜けて行った。
お前らは500kmも出ねぇだろ、こっちは800km以上出るんだ、やられてたまるか。

瞬間、前方で何回も大爆発が起きる、戦艦クラスの対空砲火。

『01!数が多過ぎます!』

『構うなバイパー03!怯むな!突っ込め!突っ込んで全弾ぶち込むんだ!』

レーダーが敵艦を捉えた、ミサイルを全弾発射。
あとはミサイルがそれぞれ別の敵を狙ってくれるはず、アフターバーナーを吹かして超音速で敵艦隊の真上を通過する。
曳光弾が俺達を追いかけてくる、とにかく速く、とにかく低く、だ。





「みんな、集まってるな?」

「どうしたんですか摩耶さん、今は作戦室に居ないといけないんじゃ…」

「提督に無理言って5分間だけ抜けてきた…これを持って行ってくれ、一人につき5発分しか無いけど…」

「…?これは何、摩耶?見たところ砲弾に見えるけど…」

「まさか…摩耶、アンタ私たちにもアレをやれって言うんじゃ…」

「お守りだよ、お守り…アタシにゃこれぐらいしか出来ないからな…」





『F-2部隊より入電、攻撃成功、帰投する』
『更に追加情報、敵艦隊の戦艦2、空母3、艦種不明8を撃沈、戦艦1、艦種不明5に損害を与える事に成功、F/A-18が2機被弾、帰投は可能』
『敵艦隊情報更新、敵艦隊は二部隊より構成、残存戦力は戦艦5、正規空母6、軽空母4、巡洋艦10、駆逐艦12』

空自と米海軍は攻撃に成功したようだ、しかし敵が艦隊を二つに分けていた…いや、艦隊が最初から二つ有ったとは…

「提督、みんなの準備が出来たわ」

叢雲が作戦室に入ってきた。

「わかった、行こう」

なんと言えば良いのだろう?
いつもなら「君たちなら出来る」とか「無事に帰れ」とか、そんな事を言っていた気がする。
しかし、正直この状況でどんな言葉を言ってもむなしい物になるような気しかしない。

「提督、歩きながらで良いわ、すこし言いたい事があるの」

二人でドックに向って歩いていると叢雲が話しかけてきた。

「知ってる?提督、艦娘人権法が成立したら…」

「叢雲、作戦に関係無い話をするな」

お願いだ叢雲、今はそういう話しはしないでくれ、未来の話しはやめてくれ。

「…わかった」





「全艦、全力をつくし任務に励んでくれ、那覇鎮守府艦隊、抜錨!目的地は中城湾!」

艦娘達を前にして俺はこの一言しか言えなかった。
俺の目が黒いうちは誰も沈めさせはしない、この鎮守府に来た時、確か最初そう誓ったはずだ。
だが、はたしてこの状況でその誓いを守れるのか…いや、考えるのはやめよう。俺も、艦娘も、全員が全力を尽くすだけだ。

ふとスマホを見る。母から何件もの着信とメールが来ていた。
まったく、忙しいからこっちから連絡するまでメールも電話も止めろと言ったのに、困った人だ。
父から一件だけメールが来ていた
『がんばれ、酒を送る。以上。』

「あぁ、そういや前送ってもらった酒の代金、まだ振り込んでねぇなぁ…」

ドックのそとから、ポチャンと言う音が4回、ボチャンという大きな音が一回聞こえた。
願わくば、またこの音が聞ける事を。





-夕方・日没直後

「古鷹!良いデスカー?」

「金剛さん?なんですか?」

敵艦隊まで約500km、この時間まで空襲が無いと言う事はもう明日の日の出までは空は安全だろう。
艦隊は増速、30ノットで…という所で金剛さんに声をかけられた。

「夜戦の指揮ですが、アナタに任せたいと思いマース」
「夜戦でしたらお姉さまや榛名より古鷹さんの方が経験がありますから…」

「…わかりました、全艦!こちら古鷹です!これより指揮を取ります!突撃体型を作ってください!30ノットまで増速!このまま一気に敵艦隊に向います!」


今回はここまでです。




「水上電探に感!距離40km!」

先頭を走る暁が叫ぶ。
恐らく、敵もこちらに気づいているはずだ。

「敵艦隊の一部が…分離したようだ、こちらに向かってくる一団と逃げる一団が居る」

「距離30までこのまま直進!その後主舵、進路220に取って!敵の行く手を遮りながら同行戦に入ります!」

「敵艦発砲!」

私にも見えた、闇の中から何個か光るものが見える。

「探照燈、照射!」

「奴を攻撃しマース!Fire!!」「榛名!砲撃を開始します!」






「艦長!ソナーに多数の着水音、爆発音が…」

「横須賀の艦娘達だな…魚雷の再装填は?」

「まもなく終了です、あと一射分しかありませんが…」

「よし、敵艦隊に向う。乱戦になる前に一発ぶち込むぞ」





「うっ!?」

私の回りに沢山の水柱が上がる、大丈夫、この距離でそうそうあたるわけが無い。

「古鷹!大丈夫!?」
「私は大丈夫だから!加古も砲撃用意を!」

良い感じだ、敵は探照燈を使っている私に集中攻撃をしている、他の艦も攻撃は受けているが、殆どはわたしに来ている。私が照射していた敵重巡が榛名さんの砲撃で爆発を起こした

「榛名!nice!」

「次です!あの敵を狙ってください!」

「射程に入った!我輩も砲撃するぞ!」

「古鷹さん!私たちは…!?」

「駆逐隊は距離10000まで詰めて!ここからじゃ雷撃しても命中は…くっ!?」

被弾した、でも大丈夫、砲塔が損傷しただけ、まだいける。



「筑摩!敵は奴だ!」「了解!」

「雷撃戦用意!」「了解」

戦闘は概ね順調、敵艦隊は空母を下げ、他艦艇でこちらを迎え撃ってきたが、古鷹が的確な目標を指示してくれているおかげで既に多数の敵艦を撃破している。

「敵戦艦大破!!轟沈します!」

「さあ古鷹!次のTargetはドイツですカー!?」

「金剛!!古鷹が…」

加古の悲鳴が聞こえて声のする方を見る、古鷹が真っ赤に燃えていた。

「古鷹さん!」「古鷹!?」

「私は…大丈夫です!次の目標…敵重巡!うあぁっ!?」



「古鷹!もう無理だ!後退して!後はアタシがやるから!!」

「ダメだよ加古…私がやらないと…」

艤装の火災が身体にまで回ってきている、制服が燃えている、からだが熱い、息が出来ない。
でもまだ探照燈は生きてる。

「この程度…予測の範囲内…」

「古鷹さん!下がって!探照燈は暁が…」

「ダメ!」

「我輩がやる!お主はもう!!」

ダメ、私じゃないとダメなの。
金剛さん達が居ないと敵戦艦に打ち勝て無い、利根達は最新鋭重巡、敵と戦うにはどうしても必要、暁?アナタが目だったら真っ先にやられちゃう…
私が一発でも多く、敵の弾を集める、これが一番いい。


「雷!電!古鷹を後退させて!」

「了解!」「なのです!」

探照燈と火災で敵は一番目立つ私を攻撃している。お願い近づかないで、巻き込まれるから。

「私は…大丈夫だから」

「でも古鷹!早く火を消さないと…」

「もう、無理見たいだから…」

胸と右腕に衝撃を感じる、あぁ、被弾したんだ。
口から赤いものが吹き出す、右腕の擬装が折れる。仰向けに倒れる。
からだが海に沈んでいく…溶けそうだった身体が海水で冷やされて気持ち良い。
ごめん、加古。



「古鷹!古鷹!!」

あたしの目の前で古鷹が沈んで行く、助け無いと、近づこうとしたら大爆発が起こり古鷹が見えなくなっていた。

「あ…ふる、たか…?」

弾薬庫が誘爆したんだ、アレじゃあ艤装はもう駄目だ、擬装が浮力を失ったら?そのまま艤装に引っ張られて、沈んで、二度と浮かんでこれない。

「筑摩!探照燈照射開始!」

「加古!何しておる!撃て!戦いはまだ終わっておらん!!」

そうだ、提督も、長門も言ってたじゃ無いか。
危険過ぎるって、一番危険だったのが古鷹だっただけだ。そう思おう、そう思うしか無い。

「ゴメン!砲撃開始する!ぶっ飛ばす!」

古鷹に背を向けてあたしも敵艦隊に向う。





「横須賀艦隊から入電です!我、夜戦を敢行、敵戦艦2、巡洋艦5、駆逐艦8を撃沈、戦艦1、巡洋艦2、艦種不明2を撃破!」
「被害は重巡1轟沈、戦艦以下多数が損傷…夜明け前に北方に退避し、夜明けと同時に空母部隊で空襲を仕掛けるとの事です」

「…空母は、沈めれなかったか」

やはり突破は出来なかったか、いや、戦力差を考えればこれでも大戦果と言えるだろう。
しかし、空母機動部隊の空母を沈めれず、敵艦隊の進路、速度は殆ど変わって居ない。そういう意味では敗北だ。

「提督…轟沈って…」

「…大和に連絡を、敵艦隊は予想どうり、空襲を仕掛けて来る可能性が高い。対空警戒を厳に」

「…了解」

摩耶が不安そうに俺の服の裾を掴んでた。
不安なのはみんな同じだ、でも俺がそれを表に出すわけには行かなかった。

「提督!那覇基地より連絡です!F-15、F-2、これより発進するとの事です!」

「了解だ」

この第二次攻撃とF-15の迎撃がどこまで効果を上げるかはわからない。ただ、結局敵がここに来ることには変わりは無いのだ。



今回はここまでです。




-金武中城湾
現地に到着すると殆どの船は既に北方に退避した後だったが、複数の火力発電所に燃料を供給していたタンカーがまだ数隻残っていた。

「深海凄艦の攻撃が予想されます。まだ出港は出来ませんか?」

『現在最終チェック中です、まもなく出港可能…』

この港湾の船艇、発電所を守るのが私たちの任務だ、しかし手負いの私たちでどこまで戦えるのか…
その時、上空をF-15が那覇市方面に飛んで行くのが見えた。

『大和、聞こえるか?那覇鎮守府だ』

「聞こえます提督」

『204飛行隊から連絡が有った、敵航空機は約500機、150機以上を撃墜したが残りはそちらに向っているとの事だ』
『また、横須賀の空母部隊が先ほど敵艦隊に向け航空隊を発進、呉部隊は現在沖縄本島北100km…蒼龍・飛龍が上空援護のため戦闘機を向わせている』

「了解、瑞鳳に直援隊を発艦させます、瑞鳳!」

「大丈夫です!現在発艦中!」


瑞鳳の方を向くと既に発艦作業に入っていた。
禄に訓練もでき無い鎮守府…なんて呉に居たときは聞いてたけど、沖ノ鳥島ではいち早く救援に来てくれて尖閣では強力な敵相手に勝利している。
私や他の艦娘が馬鹿にできないぐらい、修羅場を潜り抜けているのかもしれない。

『これより出港します!護衛をお願いします。』

「あ、了解です!そのまま海岸沿いに北上してください」

タンカーが動き始めた。

「対空電探に感!敵機です!」

「こちらにまっすぐ向かってきます!」

雪風と浜風の声が聞こえる。

「私と雪風で前に出て敵の攻撃を引き付けます!浜風と叢雲はタンカーの護衛を!」

せめて主砲が使えれば…いや、そんな事は言ってられない。とにかくすこしでも敵の攻撃を逸らさなければ。
雲の切れ間から敵機が見えた。まったく、数えるだけで嫌になる。300機は居るだろうか?
…大丈夫、あの時とは違う。
空自や陸自の対空部隊だって居る、瑞鳳の戦闘機だって、やられるものか。





「てきへんたいしにん!」「こうげきをかいしします!」

大量の敵機が眼下、約1000m下に見える。良く見えると見た事の無い白い機体も居る、新型か?
しかしやることは変わらない。

「てっきにこうげきをしかける!いちげきをくわえたらそのままらんせんにもちこめ!いちびょうでもながくとんでてきのめをひきつける!」

空戦の基本は一撃離脱、そして乱戦になったらサッチ・ウィーブ…だがここまで数に差が有っては一撃離脱では殆ど損害を与えれないまま上を押さえられるし、サッチウィーブもカバーしてくれる味方が居なければ意味を無さ無い。
一撃を加えて乱戦にもちこむ、昔ながらの戦法で挑むしか無いのだ。

上空から降下、敵の攻撃機に20mmを打ち込む、火を吹いたのは見えたが撃墜したかはわからない。そのまま敵編隊のど真ん中で目についた敵に20mmを撃ち込む。
敵編隊が崩れ始めた。
敵機の内何機が戦闘機なのだろうか?単純に考えても三分の一、100機は戦闘機だ。こっちは20機、どう頑張っても勝ち目は無い。
それでもやるしか無いんだ、母艦を、仲間を守るために。

後ろから曳光弾が飛んでくる、振り返ると4機の戦闘機が自分を追いかけていた。


「いいぞ、やってやる!」

操縦桿を倒し、スロットルを限界まで絞る。フラップも限界まで下げる。
推力を失い空気抵抗の増した機体の速度がガクッと落ち、敵機はそのまま自分を追い越す。
最後尾の一機に20mm、空中で爆発しバラバラになって落ちて行く、次の奴は距離が遠い、7.7mmを撃ち込む。
操作系をやられたのかふらふらと高度を下げていく。
その時、機体に衝撃が走った、直後に自分を追い越して行く敵機、しまった、5機目が居たのか。
昇降舵が動かない、脱出するしか無い。
その時自分を撃った機体が火を吹いて落ちていく。
妙な機体だった。機首が異様に太いくせに胴体が妙に細く、主翼も短い。そいつが敵機を撃墜し、急降下して行った。

『こちらりくじしけんこうくうたい、せんとうくういきにしんにゅう、こうげきかいし』



「陸自の…艦娘航空機!?」

慌てて空を見上げる。零戦に良く似た機体と妙に太くて羽の短い機体が敵編隊に突っ込んで行くのが見えた。

『あきつ丸です、瑞鳳さん、聞こえますか?』

「あきつ丸!?陸自の新装備って…」

『一式戦闘機と二式単座戦闘機であります、現在自分は那覇空港から管制を行って居ます。空母での運用は出来ませんが…拠点防空であれば使えるかと』

「あ、ありがとう!」

『ふふ、カ号だけではなく、固定翼機もあるんだよ、であります』

陸自の航空機の空戦は見事なものだ、と感心してしまうものだった。
一式戦が背後に着いた敵を急旋回で振りきり、ついていけなくて速度の落ちた敵機を二式戦が攻撃する。
急上昇で逃げる二式戦を追いかける敵機を一式戦が攻撃する。


「私たちも負けてられないわ!各機!陸自機と共同で敵を撃破して!」

「了解!」

「瑞鳳!敵攻撃機!来るわ!」

叢雲の叫びで呼び戻される。そうだ、戦闘機同士の戦闘は多少は押し戻せた、しかし攻撃機、爆撃機はこちらに迫っているのだ。

「行かせません!」「このっ!落ちろ!」

浜風と叢雲が対空射撃を開始する、しかし今の二人は二人で連装砲が三基しか無い。


「瑞鳳、砲撃開始します!」

「日章丸!敵機がそっちに向かったわ!」

私も高角砲を撃ち始めるが敵機はそのまま通り過ぎてしまう。あの敵機…タンカーに武装が無い事を知っているのか限界まで近づいて魚雷を落とす気だ。

『こちら日章丸、魚雷を食らった!浸水中…航行は可能!』

戦闘機隊は敵戦闘機に押され始めている。
私たちだけでは対空砲火はあまりにも非力。

『雪風!被弾しました!』

私たちより外側で対空戦闘をしていた雪風が被弾した。

今日はここまで、次回は明日の夜になるかと思います。

この世界の装備はメンタルモデル的なのとかデカいのを振り回してる系じゃなさそうなのに、飛行機じゃ艤装って運べないのかな

>>664
検討されてはいますが、殆ど進んでいない。という認識でお願いします。
すこしだけ語っていますが
・重くて効率が悪い(標準装備で擬装が駆逐艦100kg弱、戦艦約1トン)
・艦娘への取り付け、取り外しに専用の設備が必要
・艦娘に取り付けないで運ぶと固定できない(艦娘装備用固定器具が開発できていない)取り付る場合艦娘は数時間飛行機の中で立ちっぱ
・完全装備の艦娘を輸送機で運べる=イージス艦の空輸=外国への侵略の意図を疑われる。という政治的配慮(C-1と似たような問題です)

などから、実戦で実用性があるレベルには至っていない。という設定で居ます。

あ、本編はもうしばらくお待ちください、日付が変わるか変わらないか、ぐらいの時間には投稿できると思います。




「パトリオット発射始め!」「中SAM、攻撃開始!」

公園に配備された対空ミサイルが火と煙を吐きながら上昇して行く。
湾上空の敵機はロックオンできなかったが、鎮守府方向に向う敵機は傍を通る、かたっぱしから撃墜してやる。

「敵機!来ます!」「スティンガーまだか!」

敵の爆撃機がこっちに向きを変えて突っ込んできた。何発ものミサイルが向かっていくが、数が足りない。
くそ、富士か北海道からガンタンクを持ってきてれば!
その時、ミサイルを突破した何機かが何かを切り話した、乾電池?ちがう、連中の爆弾だ。

「伏せろ!!」

俺の上に誰かが飛びかかった、と同時に世界が暗転した。





「…!…!!」

「…い!…じょう…!!」

「おい!大丈夫か!」

気がつくと隊長が俺の両肩を掴んで揺さぶっていた。爆弾が落ちる直前に俺をつき飛ばして自分も伏せていたらしい。
右耳が聞こえない、そうだ、まだ敵は来ている、任務を…あれ?
ポケットに違和感を感じる、いけない、おばあさんから貰ったお守りが無い。
これが終わったら返すか、艦娘に渡さないといけないのに。
見ると自分の数メートル前で真っ二つに折れていた。

「俺の…身代わりになってくれたのか…?」

「敵機!来るぞ!」

感傷に浸って居る暇は無い。倒れている仲間から携SAMを奪い取り、敵機に構えた。



『大和です!被弾しました!戦闘に問題なし!』

『こちら日章丸、浸水がひどくてもう無理だ…数分以内に着底してしまう!乗員は脱出します!艦娘は船を盾にでも使ってください!』

『横須賀航空隊、敵艦隊との戦闘開始…』

『飛龍航空隊、那覇市上空の正空戦闘を開始します!蒼龍は航空隊を中城湾に向わせて!』

『こちら204飛行隊、補給を終えた、これより発進…敵機だ!クーガー1、気をつけろ!』

横須賀の艦隊が敵艦隊との戦闘に入り、呉の艦隊も沖縄に到達、戦闘を開始している。
何度か部屋全体がゆれて天井からぱらぱらと埃が落ちてくる。きっと地上は…考えたく無い。
アタシの隣にいる提督は無言でモニターを見つめ、ときたま思い出したように二言、三言指示を出していた。
ここは地下だから安心…とは言えない。もし深海凄艦が想定以上に強力な爆弾を持っていたり、出入り口に綺麗に直撃でもしたら?
きっとここに居るみんなはまとめてぺちゃんこだ、そしてそれは艤装をつけていないあたしも例外では無い。


「提督…みんなは、大丈夫かな」

「…祈れ」

祈りなさい、祈りなさい、祈りなさい。
必要な命令を出した後はこれしか無い。
最初は提督なんて楽な商売、割を食うのはあたしら艦娘ばかり、何て思っていた。
でも、自分が提督と同じ立場になって見るとわかる。提督も艦娘と同じぐらい、辛いのだ。
戦闘ではそんなに怖いと感じた事は無かった、尖閣の時だって、あの距離で戦艦の砲撃をもろに食らってたら?
下手したらアタシは首から上が無くなってたかもしれない。それでも怖くなかった。
でも今は、アタシはまだ安全なはずなのに、ずっと提督の手を握り締めていた。

『瑞鳳です!敵航空隊、後退を始めました!こちらからも艦攻、艦爆を発艦!蒼龍航空隊と共同で敵艦隊に反撃します!』

「少し、押し返し始めたな…」

提督が呟いた。
いまアタシと提督の手の間に溜まっている汗はアタシのだろうか?提督のだろうか?





深海凄艦の空襲が始まる。私の家は避難勧告区域外、攻撃される可能性は低いだろう。
だが、何度も爆発音や轟音が響いて居た。
テレビもつけず、ずっと布団の中にいたが、爆発音が聞こえなくなる。ふと窓から外を見ると、街が燃えていた。
東の方から煙が何本も登っているのが見える。金武湾・中城湾の方向だ、火力発電所が破壊されたのかもしれない。
西の方からは火の手が上がっているのが見えた、恐らくだが、那覇鎮守府やその付近の住宅だろう。
見ろ、この有様を、沖縄を守るためと何度も国が、政府が、役人が言っていたのにこのざまだ!
地元の反対を押し切り艦娘を配備して、大和なんて無用の長物まで配備した結果がご覧の有様だ!
結局艦娘も、自衛隊も何も守れていないじゃないか!!





「前方に敵機!こちら204飛行隊、クーガー1、敵機との交戦に入る!貴君らは必ず守り通す!構わず敵艦隊に進んでくれ!」

不思議な光景だった、F-15にF/A-18、F-2といった現代のジェット戦闘機と、遥かに小さいがゼロ戦や紫電改、流星と言ったはるか過去のはずの機体が並んで飛んでいるのだ。
まるで過去の英霊が自分達を守ってくれて居るような…いや、それは考え過ぎか…
見ると数機、妙に高い所を飛んでいる艦娘航空機が見えた。

「よし、こちらクーガー1、各機!加速して前に出る!そして敵編隊にAAM-4で攻撃、その後上昇!急降下してAAM-3で攻撃をしかける!」

『Cougar1、Thank You!!』

『バイパー各機、攻撃態勢!』

『かくへんたいこうげきしんろへ!』

ここで敵空母を仕留めきらないと、敵の第三派は艦娘だけで食い止める事になる。
そうなれば…考えるのは後だ、一機でも多く敵をしとめろ、深海凄艦機に対してバルカンの使用は危険と言われているが…知る物か。

「クーガー1…FOX-2!」

何本もの白線が敵に向って飛んでいく、良いぞ行け、やっつけろ。

今回はここまでです。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月14日 (日) 04:11:16   ID: EZlRZboT

もっと続きがあって完結しているはずなんだが、途中までしかかかれてないぞ

2 :  SS好きの774さん   2014年12月17日 (水) 00:46:59   ID: De40DmOb

管理人しっかりしろよ

3 :  SS好きの774さん   2014年12月21日 (日) 21:46:32   ID: GfmMXugM

このサイトって管理人ちゃんといるの?

4 :  SS好きの774さん   2015年04月15日 (水) 22:04:43   ID: LHO-NL_W

この手のスレで初めて「新潟」の二文字を見たぞありがとうありがとう平身低頭

5 :  SS好きの774さん   2015年07月25日 (土) 00:05:43   ID: ejiqdxX0

タイトルと本編の間にある、
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終わりまで読めます。

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