とうめいにんげんのうた(41)

皆、泣いてる

優しそうな人も、暖かい人も

白い服の人も、青い服の人も

皆、泣いてる

何でだろう?

僕は生まれたのに…

『ごめんなさい…ごめんなさい貴方…』

僕は生まれたよ?

頭を撫でて欲しいな?

抱き締めて欲しいな?

駄目かな…

駄目なのかな…

人は食べる

僕は食べない

口に軟らかい物を運ばない

『腹へったー』

『コンビニよる?』

僕は[お腹が空いた]が解らない

聞いても誰も答えてくれない

人が食べる物を口に運ぶ

…変なの

よく解らない

食べる方法が違うのかな?

誰か教えてくれないかな?

皆は増える、鏡があれば増えていく

たくさんたくさん増えていく

僕は増えない

たった一人の僕だ

僕はたった一人しかいないんだぞ

少しだけ誇らしい

でも、羨む人はいない

きっと凄い事なのに

あ…

もう一人僕が居たら…

僕に気付いてくれるかな?

気付いてくれるよね?

会いたいな…

グルグルと考える

哲学だ

もしかしたら僕はすでにたくさん居て

皆、互いに気付いてない?

…少し怖くなった

きっと互いに同じ思いだろうな

なにより、たくさん居たら…

僕という[あいでんてぃてぃー]が失われてしまう

これは、ショックだ…

考えないでおこう

優しそうな人が笑ってる

僕が生まれた部屋から出てきた

暖かい人も笑ってる

何かを大事に抱えてる

凄く凄く気になったけど…

僕が見てはいけない[モノ]

そんな気がした

『おぎゃあ!おぎゃあ!』

五月蝿い音だ…

心が締め付けられる音

僕はそんな音は出さなかった

とても静かだったんだぞ

家にはたくさんの生き物が居る

人、僕、犬、猫、鼠、虫…

それと五月蝿い何か

『ただいま、お母さん』

帰ってきた…

良いんだ、入れ替わりで出てくから

『おかえり』

暖かい人の言葉

僕の知らない言葉

ただいま、おかえり、いってらっしゃい

誰か…誰か言ってよ

優しそうな人がうろうろ歩く

僕の生まれた部屋の前だ

中には入らないのかな?

別の誰かは入っていったのに…

『おぎゃあ!おぎゃあ!』

まただ…

あの時と違う五月蝿い音

『う、生まれたぞ…お、俺もお爺ちゃんか…お爺ちゃん…な…何をすれば…』

『貴方、落ち着いて』

どうも嫌いだ…

何が嬉しいんだろ?

二人とも笑っている

暖かい人が泣いている

優しそうな人が動かない

くしゃくしゃになって動かない

ぼんやりと光るモノが空に上がる

これは知ってる

死だ…

『お爺ちゃん寝てるー』

『お父さん…』

『貴方…』

泣いている…

僕は悲しくても泣けない

涙が見えれば、僕だって泣けるのに

良いな…

皆、良いな…

暖かい人が動かない…

暖かい人も動かない…

きっと優しそうな人と同じ場所に行く

これは絶対だ

ぼんやりと光るモノが同じ空に上ったからだ

皆には見えていないらしい

「いってらっしゃい」

何となく呟いた

別に何も起きないけど…

あの家に居る必要も無くなった

そう、感じた

おやすみ

旅に出た

色んな場所に…

見えないモノが見えるって嘯く人の元に…

賑やかな町

たくさんの人が通る

誰も気付かない

こんなに居るのに…

皆、同じ

誰か一人くらい…

気付いてよ…

気付いて、欲しいな?

アプローチを変えてみよう

このビル一面に絵を描く

遠くからでも見えるように…

大きな大きな絵を

僕の腕をクレヨンに変えて

ほら!こんなに綺麗な色!

ほら!こんなに素敵な絵!

大切な絵

暖かい人と優しそうな人の絵

凄くない?

褒めてくれても構わんのだよ?

…駄目か

時代は歌だ

僕は声を歌に変える

高い高いビルの上で

賑やかな町にも響き渡る様に

ほら!こんなに綺麗な歌!

ほら!こんなに優しい詩!

大切な歌

暖かい人が安らかに歌った歌

僕に向けたものじゃあ無いけれど

凄いでしょ?

皆も、一緒に歌おうよ?

…また駄目か

増えない

見えない

聞こえない

変わらない

ずっと僕

ずっとずっと僕

壁に触る、触れる

人に触る、触れる

僕以外に僕は居ない

僕以外には僕が居ない

誰か

誰か誰か!

誰か誰か誰か!!

僕は居ない

この世界に僕は居ない

たぶん、きっと、おそらく…

死んでも塵の一つも残さない

たぶん、体まるごとぼんやり上がる

きっと、光りもしない

おそらく、皆と違う場所に行く

そもそも死ぬのかな?

[居ない]から死なない?

[居ない]から死んでる?

もう良いや

何も考えない…

何も考えたくない…

コテもどきまでつけちゃってお恥ずかしい事

漂う……

漂う……

漂う……

………

………

………

……

……

……







『わぁ、綺麗な絵』



女の子だ





ビルを見上げる女の子

何を見てるの?



『優しそうな人…』



え?

『ほら、あまり離れないの』

『はーい』

待って

待って!

「待って!」

『…』

『またね』

届いた…

またねって…言ってくれた…

追いかけたら駄目かな?

ここで待った方が良い?

考えてたら見失った…

でも、またね

またね、だからここに居る

僕に気付いてくれるように

歌を歌った

『暖かい歌…』

来た…

女の子

「こんにちは」

『こんにちは』

挨拶

挨拶をしてる…

「ただいま」

『?』

間違えた

何を喋れば良いんだろう?

何から喋れば良いんだろう?

解らない…

『君はいつから、ここに居るの?』

「ずっと前」

『君は、ここが好き?』

「今は好き」

『君は…』

『何で泣いてるの?』

泣いてる?

僕が…泣いてる?

ああ…

ああああ…

言葉が溢れ出す

今までの事が全部

順番なんてバラバラで…

ただ言葉を並べるだけ

『…』

気が付いたら、言葉は無くなった

心が空っぽだ

『…よしよし』

撫でてくれた

『君は…とうめいにんげんかな?』

とうめいにんげん?

知らない、知らない言葉

それが僕?

『あ、もうこんな時間』

あ…

『一緒に来る?』

コトリと心に言葉が生まれた

「行きたいな」

言葉が生まれる

言葉を吐き出す

女の子が聞いてくれる

「変な服」

『新しい制服だよ、明日から高校生なの』

そして、いつもの言葉

『一緒に来る?』

「行きたいな」

いつも一緒…

迷惑じゃないのかな?

急に嫌わないかな?

『…』

撫でてくれた

いつもそれだけで安心する

『あれ?』

心配そうな顔

どうしたのかな?

『君が少しだけ淡く見える』

…?

また僕は居なくなるのかな

嫌だ…

でも、なんだろう

違う気がする

『居なくならない…よね?』

解らない…

最近、酷く眠い

眠った事なんて無いのに…

『淡くぼんやりだ…』

あぁ、そうか…

僕はどうやら生きてたらしい

『行っちゃうんだね』

折角、お話しできたのに

『寂しいな…寂しいよ…』

折角、撫でてくれたのに

『君はそれで良いの?』

折角、生きてるって解ったのに

「嫌だよ」

『君の、君の名前を聞かせてよ…』

『君が生きた、君だけの名前…忘れないから、忘れたくないから』

「…」

「ーーー」

ゆっくりと上る

女の子が見上げてる

やっぱりだ…

塵の一つも残さない

ぼんやりまるごと消えていく

僕も光ってるのかな?

だと良いな

僕の世界は段々と暗くなるばかりだから

優しそうな人とも

暖かい人とも

違う場所に行くんだろうな

そうか…

また一つ、解った

これが…眠い、だ



ずっと暗い

真っ暗だ







まだ暗いまま



また、眠ろう





……

………

遥か遠く…

遥か遥か遠く…

光が見える

僕も動けるみたいだし

あれ?

体が重い?

思うように進まない

あの光はまだまだ遠くにあるのに…

ゆっくり

ゆっくりで良いんだ

初めての感覚

きつい、つらい、いたい…

やめた

もうやめた

光はまだまだ遠くのまま…

僕はまるごと痺れて痛い

『…』



頭を撫でられた気がした…

もう少しだけ頑張ろうかな?

体はとても痛いけど…

少し頑張ったら

また撫でてくれるよね?

疲れた

歩くのがこんなに辛いなんて

光がほんの少し大きく見える

『…』

あ、歌だ…

懐かしい歌…

暖かい人に教えられた歌

大事な誰かに教えた歌

あと少し…

せめて歌が聞こえる間は

少しでも光を目指そう

倒れてしまった…

足が思うように動かない

ジクジクと痛む

『頑張って』

懐かしい声だ

大事な誰かの声だ

まだ手は動く、痛みも少ない

這って進む

光は大きく輝いている

『頑張って』

『頑張って』

『頑張って』

優しい、暖かい声…

でも、手伝ってはくれない

こんなに痛いのに

こんなに辛いのに

あの光を抜ければ声の人に会えるのかな?

だったら少し困らせてやろう

散々、僕を煽った罰だ

何が良いかな?

そうだ

僕には凄く嫌いな音があった

………

……



あと、少し

少し



……

………

眩しい

目が痛い、耳も、鼻も、体まるごと全部痛い…

『あぁ、ーーー』

この声だ

間違いない

大事な誰かと同じ声

暖かくて、優しい、大事な誰かの声

だから頑張ったのに…

こんなに身体中痛いじゃないか

しかし笑ってられるのも今のうちだ…

目一杯の音量で



「おぎゃあ!おぎゃあ!」


オワリ

乙!

つまり……どういうことだってばよ?

いい作品だ

転生出来たのかな?

文学的で良かった

個人的に好きだよ

(*゚-゚)つ乙

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