貴音 「四条貴音のらぁめん探訪」 (24)
――――――らぁめん。
それは最早、ただの食に非ず。
日々探求、精進していく道であり、人そのもの。
らぁめんは文化。
らぁめんは進化。
らぁめんは可能性。
今日もまた新しい出会いを探して――――――。
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皆さん、いかがお過ごしですか。
四条貴音です。
本日はライブがあるため、遠く北の大地よりお届けいたします。
P「貴音、どうした?」
私一人の単独ライブだった為、プロデューサーと行動を共にしております。
貴音「いえ、プロデューサー。折角この地へ参ったのですから、その……」
P「あぁ、解ってるよ。ラーメンだろ?」
貴音「流石は私のプロデューサーですね。それでは善は急げと申します、こちらへ来る前にめぼしいお店はちぇっく済みです」
そう、ライブがこの地でライブが行われると聞いてから、すぐに雑誌を購入し、らぁめん情報を得ていたのでした。
情報によると、なにやららぁめん道場なる心惹かれる施設が、ここ空港内に存在しているとのこと。
早速空港内の案内板を見ながらやってまいりました。
道場というから、もっと道場然とした佇まいかと思いきや、煉瓦造りの入り口をくぐると、所謂ふーどこーとの様相を呈しております。
沢山の人で賑わう場内。
数多軒を連ねる各店がしのぎを削るかのように、道行く私達に声をかけてきます。
事前に行きたい店を決めていましたが、こうして店頭まで来るとどのらぁめんも、真、心惹かれますね。
しかし、一度決めたお店を決めるのは、自分の志を曲げること。
それは四条の家の物として許されません。
ここは心を鬼にして、他の店の誘惑を断ち切らなければ……!
足早に目的の店まで移動し、席まで案内していただきました。
入り口で、プロデューサーの持つきゃりーばっぐを預かっていただけるなどの細やかな気配りが嬉しいですね。
席に着き、まずはメニューと向き合います。
この時が一番心血を注ぐ瞬間なのです。
というのも、特に事前情報がある時は、その情報だけに囚われてしまいがちなのでそれ以外の情報にも必ず目を通さねばならないのです。
これは何もらぁめんだけに限ったことではありません。
アイドルどして活動していく上で、例えば雑誌で、例えばてれびで、他のアイドルの情報を得る機会は多数あります。
しかし、媒体を通して得た情報と、実際に目で見た情報では、受ける印象というものは変わってくるのです。
ですから私は、このように一番本物に近い情報を逐一取り入れるようにしております、それがひいては私自身の為になると信じて
いますから。
話が逸れましたね、早速注文いたしましょう。
貴音「あの、もし」
店員「はいお伺いいたします」
私が声をかけると、近くにいた店員殿がすぐさま駆けつけてくれました。
この迅速な対応が、とてもありがたいですね。
貴音「味噌ばたーこーんらぁめんを一つ」
P「ホタテラーメンの味噌一つ」
店員「味噌バターコーンとホタテの味噌ですね、ありがとうございます」
注文を受けた店員殿が厨房へと行き、それを調理担当の方へ伝えております。
らぁめんが来るまでに案内された時に出されたお水を一口。
冷たくて喉が潤います。
P「やっぱこっち来たらラーメンは食べておきたいよな」
貴音「えぇ、味噌、塩、醤油とそれぞれ違った味が楽しめますから」
P「すごいよな、三箇所でそれぞれ特化した味があるんだもんな」
貴音「出来ることなら全て頂きたいですが……」
P「それは勘弁してくれ……。そんなに時間に余裕はないんだ……」
貴音「分かっております、こうして一杯のらぁめんを食べる時間を作っていただけただけでも
私は充分感謝しております」
私がそう言うと、プロデューサーは自分が食べたかっただけだから気にするなと言いましたが、恐らく本音と建前が半々といったところでしょうか。
この御方は、そうやって本音を隠しながら気遣いをしてくださるのです。
建前だけでなく本音も含まれているようですから、私からは何も言いません。
そんな風に雑談をしていると、お互いのらぁめんが運ばれてきました。
味噌らぁめんの上に、もやし、刻みねぎ、めんま、ちゃあしゅう、もろこしが四方に盛ってあり、その上にばたーが鎮座しております。
プロデューサーの方には山盛りの白髪ねぎに帆立が三つほど。
他にも何か乗っているみたいですが、こちらからでは詳しく見えません。
目の前に置かれた丼から湯気と共に、芳醇なすぅぷの香りが立ち上ってきました。
両手を合わせて
二人「「いただきます」」
丼を乗せたお盆には白磁のれんげと穴の沢山空いた金属製のれんげが一つづつ。
白い方は普通のれんげですが、この金属の方は一体……?
答えは出ませんが、麺が伸びてしまってはいけません。
白磁のれんげにすぅぷをすくい、ひと啜り。
味噌の風味と、これは……出汁は昆布でしょうか?
北の大地ですからおそらくはそうかと。
味噌らぁめんとしてはあっさりとした味わいですね。
しかし決して物足りないという訳ではなく、とても良い塩梅でまとまっているように感じます。
それでは箸を入れましょう。
ばたーにはまだ手を付けません。
麺を箸で掴み、すぅぷと照明とできらきらと輝いています。
太めのちぢれ麺はすぅぷと良く絡み、先ほどのあっさりとした味わいがより深まって喉を通って行きました。
貴音「んっく……ふむ、これは……」
P「美味いか、貴音?」
貴音「えぇ、真、美味ですね」
P「はは、そうか。そりゃ良かった」
などと会話を挟みつつ、麺と野菜を食べていきます。
もやしはとてもしゃきしゃきとした歯ごたえがあり、柔らかい麺との食感の差が楽しいですね。
めんまはしんなりと、かつめんま特有のしょっかんがしっかりとあり、醤油のしょっぱさが口の中で味に変化をもたらします。
少しばたーがとろけて来たところで、暖かいすぅぷをかけて溶かします。
溶けたられんげでかき混ぜ、そのまますくって口に運ぶと。
貴音「んっ……!? こ、これは……!」
溶かす前のあっさりとした風味から一転、まろやかさとこくの深さが増し、かつほんのりと甘みも加わりました。
貴音「んっく……ぷぁ……こんなに味が変わるものなのですね……驚きました」
箸では少し掴みづらいですが、もろこしも、噛むと弾けるかのようにぷちぷちと弾力があります。
貴音「あむっ……ほぅ……んむっ……んぐっ」
ちゃあしゅうはしっかりとした歯ごたえがあり、めんまよりもしょっぱさが際立っていました。
甘みが増したすぅぷとの相性が非常に良いですね。
いかにも肉という肉で、男性にも女性にも嬉しいのではないでしょうか。
貴音「はふっ……ずるるっ……んっく……ぷはっ」
お互い食べることに集中しだしたのか、自然と会話が途切れ、麺をすする音と場内の喧騒だけが耳に入ってきます。
それからあっという間に麺を完食し、すぅぷの海に沈む細かな麺やもろこしと格闘しております。
ふと、用途の分からなかった金属製のれんげが目に入りました。
瞬間、閃きのようにこのれんげの使い方が降って湧き、確かめるようにすぅぷに入れます。
適当に中をさらい、すくい上げると、空いた穴からスープが落ちて、れんげの上にはもろこしだけが乗っています。
貴音「なんと……!?」
そうなのです、この穴あきれんげはすぅぷをすくわずに具だけをすくえる画期的なれんげだったのです!
私、あまりの出来事に驚いてしまいました。
しばらくそうやってもろこしやらをすくっていると
P「貴音、ホタテ一個食べるか?」
と、プロデューサーからの申し出が。
貴音「よろしいのですか? そちらの中心の食材なのでは……?」
P「俺は二個食ったし、美味かったから貴音にも食わせてやろうと思ってさ」
そこまで気を遣って頂くと、何だか申し訳なくなってきます。
しかし、せっかくの申し出なのでありがたく頂戴いたしましょう。
決してほたてが気になった訳ではありません。
えぇ決して。
プロデューサーの方に丼を動かすと、ほたてを一つ移してくれました。
それを箸で掴み一口かじります。
貴音「はむっ……んっ……ん~~~!!?」
歯を押し返すのではないかと言わんばかりの弾力から生み出されるぷりっぷりの食感、ひもの部分は噛むほどに味が染み出してきて、いつまでも噛んでいたくなります。
貴音「あむっ……はむっ……んっく……はぁ~……」
P「美味かったか?」
貴音「…」
P「貴音?」
貴音「はっ……!」
あまりの美味しさに、少しだけ我を忘れておりました。
ふぅむ、北の大地、そんなつもりはありませんでしたが心の何処かで侮っていたようです。
絶品のほたてに舌鼓を打った後はすぅぷを飲み干し、無事完食いたしました。
最後の一滴まで、真、美味しゅうございました。
氷の溶けた水を飲み干し、お会計へ……はて?
貴音「プロデューサー?」
P「いいからいいから、これも経費だよ」
貴音「なんと!」
食事代まで出していただいて、良いのでしょうか……?
しかし経費と言われてしまうと、私には口出しできなくなってしまいます。
ならば、すてーじでのぱふぉーまんすで御恩をお返しするといたしましょう。
そうすればきっと、プロデューサーも喜んでくれるのでは無いでしょうか。
P「さぁて行くか貴音」
貴音「はい、参りましょう」
P「美味いもん食ったし、気合入るな」
貴音「はい、きっと、最高の出来栄えを約束いたします」
P「おぅ! 頼むぞ」
道場を出て、空港の外へ出ると、肌寒く感じる気温となっておりました。
しかし、温かならぁめんと、暖かな心遣いのお陰でむしろ心地よい気温と感じる私がいます。
この地で一体どんなふぁんに出会えるのか、今から楽しみですね。
四条貴音のらぁめん探訪。
今日も素晴らしい出会いがありました。
いつの日かまた、次の出会いを求めて――――――。
完食
終わりです。
お腹すきました。
少しでもお腹を空かせられたら幸いです。
それではお目汚し失礼しました。
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