黒神めだか「ふむ、ここが学園都市か」 (68)

学園都市。
総人口230万、最先端の科学技術が研究・運用され、壁外と比べ数十年先を行く陸の孤島。
その孤島で日夜、能力者の開発が行われていることを知るものはそう多くない。
正確に言えば、その実態を事実を、現実のものとして受け止めている者が少ない。ということだ。
ほとんどの人間がテレビの向こうの、雑誌の上での、夢の中での、話だと思っている。それは学園都市に通う本人達(モルモット)も同じく。

閑話休題。

そんな学園都市に姉妹校があることを知っている人間はもっと少なくなる。
都市全体の姉妹校というのも可笑しな話だが、それはその姉妹校がそれだけで都市に匹敵する歴史・設備・人材が揃った……『異常』な教育機関ということだ。

その名は箱庭学園。

とある人外が生み出した天国にして地獄。

不気味で素朴な、囲われた世界。

学園都市の命題である「神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの」、その目的。

命題の先にある真髄。

「とある少女の自殺を止める」

彼女が通っていた、学園。

これは終わった物語。終わりきった、閉ざされきった、止まりきった物語。

人外に恋した人間の。

人間を愛した人外の。

結末はバッドエンドの。

だからこれは、あとがきだ。

人間と人外に人生振り回された者達の。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1415289888

注意事項

とある×めだか

捏造した設定、キャラクターの改変、独自解釈。

時系列混線。
めだか側はめだかちゃんが学園長になって数ヶ月後。
とあるは化学一話の手前くらい。
つまり六、七月

窓のないビル。

その部屋は……いや部屋というのも烏滸(おこ)がましい。
なぜならそこには何もかもがなかったからだ。入口も、窓も、階段も、扉も、出口もない。
心がなければ人間ではないように、部屋を構成するために必要なものが何一つとして揃っていなかった。
さながら『箱』。

完成された世界。

そこにはおそらく人間と呼べるものが二つあった。
一つは、どこまでも人外に近づいた人間。世界最大の科学者であり、世界最大の魔術師。人類最大……言うなればそんな存在。
彼、あるいは彼女は円柱状の水槽の中で逆さまに、目の前にあるもう一つの人間のようなものを見下すように見上げていた。

「歓迎するよ、箱庭学園理事長。いや、黒神めだか」

「お心遣い感謝する、アレイスター=クロウリー学園都市総括理事長」

返ってきたのはあまりにも若すぎる……しかし百年生きた老獪のような重みを感じさせる『言葉使い』。まあ、彼女のことだから前任の理事長から何かを完成させたのか、あるいは自らのスタイルを確立させたのだろう。
人類にしてはあまりに異常な……完成された存在。

とりあえず、ラスボス二体の紹介はそんなかんじだ。

「転入……ということでよかったのかね」

人類最大は確認を……というより会話を楽しもうとしているようだった。

「ええ。箱庭学園は現在、先に起きた『五月戦創(ごがつせんそう)』結果……修復不可能、利用不可能になってしまいましたから。姉妹校たるここ学園都市でならば全生徒を振り分けることが可能かと思いまして」

黒神めだかは相変わらず日記の内容に苦労しない生活を送っているようである。

「ふむ、しかし本当に大丈夫かい。こちらはそらちらの姉妹校とは言え実際は親子校と表した方が適切な程差があるのだから」

「御謙遜を、あなたが創り上げたこの学園都市は素晴らしい場所です。箱庭学園に優るとも劣らず……正しく姉妹校ですよ」

「私は彼女の真似をしただけだよ、故に親子校さ。無論、質について劣るつもりは無いが濃度は別だ……私は都市ひとつでようやくそちらに追い付いたのだからね」

「心配なさらずとも、我が学園の生徒は環境程度に左右される者は一人もいませんから」

「ふふ、環境を大事にしないとは現代人らしいな。うん、転入について問題はない、そちらの好きなように使いたまえ」

「都市一つを自由にとは……私もまだそこまで偉くなったつもりはありませんよ」

「まだ……と来たか、まったく君は面白い。しかし実を言うともう必要ないのさこの学園都市は」

はじめて、人類最大に感情が表れた。
今までの掛け合いで一度も見せなかった表情を見せ。
心情を吐露したのだ。

「……それは」

「ああ……彼女が」



「安心院なじみが死んだからね」

それから、どこまでも人外に近い男は、切々と説いた。

「私が彼女に会った時の話は……もう、いいだろう人間が人外に出遭ってしまっただけさ」

「女子高生としては、そういった話に興味があるところなんですが」

「もう君は学園理事長だろう?それに色恋沙汰なんかじゃない、むしろ殺傷沙汰のが近しい出遭いだったと記憶しているよ」

「けれど、あなた方は」

「奇妙だけれどね、友人だったよ」

段々と曖昧だった人類最大が定まっていく。

「楽しかった、あの頃は……何もかもが」

青春を謳歌する。

「強国を滅ぼし、弱者を救い、悪鬼を説き伏せ、正義を切り捨てた」

学生のように。

「けれど、彼女は」

「ああ、自殺しようとしていた」

安心院なじみ。

人外は、人間のように、繊細で、弱かった。

「彼女の自殺を止めるには、『彼女と同じステージ』に立つ必要があった」

「そう、説き伏せるにはね。英雄か、主人公か、同じ……人外である必要があった」

獅子目言彦のような英雄か。

黒神めだかのような主人公か。

安心院なじみのような人外である必要が。

「私は……どれにも生(な)れなかった。為(な)ることはできたけれど、それでは彼女と並び立てなかった。結局、友人ではあったが、私と彼女には差があったのさ。対等ではない、並び立てない差がね」

「姉妹校ではなく、親子校というわけですか」

「ふふ、傑作だね。それから私は、それだけを目的にして生きてきた……いや、死から逃れた。命題さ」

「『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』」

「そう、私は……彼女を」

分かってあげたかった、と。

同じように苦しみたかった、と。

そして自殺を止めたかった、と。

アレイスター=クロウリーはただ、悔いていた。

「黒神めだか。私は君を憎んでいるのかもしれない」

「はい」

「感謝しているのかもしれない」

「はい」

「羨んでいるのかもしれない」

「はい」

「やっぱり憎んでいるのかもしれない」

「はい」

「彼女を助けたのも、殺したのも、君なのだから。それくらいは許してもらいたいよ」

「どうぞ、私は逃げません」

「……君みたいな主人公に、私もなりたかった」

静寂が箱を支配した。

「……少々、戯言を遣い過ぎたね。迎えを用意しよう」

「待ってもらいたい、アレイスター=クロウリー学園都市総括理事長」

見上げるように見下して、人類最大は応える。

「なんだい」

それに答えたのは。

「安心院なじみからの伝言だ、アレイスター=クロウリー」

ただそこにいた、人外だった。

「君は……そうか、バックアップだね」

「俺は反転院だ、さっさと済ませるぞ」

「聞いてくれ、アレイスター=クロウリー。これが、安心院なじみの真髄だ」

「こほん、では……」

今さら何を伝えられようと。

今さら何を明かされようと。

今さら何をどうされようと。

アレイスター=クロウリーは揺るがないと、思っていた。

けれど。

「『親愛なる我が友人に伝える』」

その一言で、アレイスター=クロウリーの眼からは世紀単位で枯れていた涙が溢れた。

「『僕の胸のうちを明かそう』」

水槽の中では涙なんてわからないはずだけれど。

「『あの頃の僕は君にだいぶ救われた』」

その表情はみっともないほど歪んでいて。

「『ありがとう』」

心が震えているのだから。

「ああ……ありがとう」

箱の中には一人の男がいた。

救われて、終わった、男が。

凜ッ、と力強い音がこだまして。

エピローグのようなプロローグは終わる。

ここからは真の主役に話を譲ろう。

学校の主役はいつだってどこだって、教師や理事長なんかではなく。

学生なのだ。

……

「はぁ、転校生?」

「正確には転入生にゃー」

「ああ、どないな子がくるんやろ。えろう楽しみやわ」

「皆さーん、静かにしてくださーい!今日は転入生を紹介します。なんと三人!しかも内二人は先生と同じくらいの美少女ですよー」

「うっひょぉおおおお!」

「先生!もう一人は?」

「イケメンくんですよ」

「ちくしょぉおおおお!」

「それでは張り切って自己紹介どうぞ!」

「箱庭学生出身、不知火半袖でぇーす!少し前まで英雄やってたよん、仲良くしてね」

「箱庭学園出身、人吉善吉ッス。少し前まで死んでたぜ、仲良くしてね」

「箱庭学園出身、人吉瞳です☆少し前まで主婦でした、仲良くしてね」

この日、とある高校のとあるクラスにとある転入生がやってきた。

「これにて一件落着!」

凜ッ、と力強い音がこだまして。

エピローグのようなプロローグは終わる。

ここからは真の主役に話を譲ろう。

学校の主役はいつだってどこだって、教師や理事長なんかではなく。

学生なのだ。

……

「はぁ、転校生?」

「正確には転入生にゃー」

「ああ、どないな子がくるんやろ。えろう楽しみやわ」

「皆さーん、静かにしてくださーい!今日は転入生を紹介します。なんと三人!しかも内二人は先生と同じくらいの美少女ですよー」

「うっひょぉおおおお!」

「先生!もう一人は?」

「イケメンくんですよ」

「ちくしょぉおおおお!」

「それでは張り切って自己紹介どうぞ!」

「箱庭学生出身、不知火半袖でぇーす!少し前まで英雄やってたよん、仲良くしてね」

「箱庭学園出身、人吉善吉ッス。少し前まで死んでたぜ、仲良くしてね」

「箱庭学園出身、人吉瞳です☆少し前まで主婦でした、仲良くしてね」

この日、とある高校のとあるクラスにとある転入生がやってきた。

とある×めだかが探してもなかなか無かったので自分で書いてみました。

上記のように地の文アリアリで原作ブレイカーです。

とりあえずプロローグは終わり、どんどんストーリー螺曲げます。

とある高校のとある教室。

「それでは質問タイムですよ、みんなどんどん質問しちゃってください」

教室は異様なプレッシャーに包まれていた。
それは「不明瞭」という、雲か沼の中でもがいているかのような感覚。
目の前にいるのは人間のハズだ。その内二人はなるほど、事前の情報の通り我等が担任の如く美少女だ――少々、その通り過ぎてはいるのだが。残りの一人は……まあ多少事前の情報とは顔の造詣が違うようだが――うむ、まあ好青年である、眼鏡だし。
けれど、何かしっくりこない。
なぜだろう、まるで住む世界が違うような、作風が違うような感覚。

そう、感性(センス)が違う。

いや、言葉で着飾り、言葉を濁し、言葉に逃げるのは止めよう。

直球、真っ直ぐ、一方通行に、この思いを伝えよう。

(滑ってる……)

いきなり空気を真っ白く染め上げた新キャラク達に、既存キャラは距離感を掴みかねていた。

「じゃ、じゃあまず善吉君と瞳ちゃ……さんは同じ名字やけど兄妹だったり?もしかして姉弟か!?」

(青髪ピアスがいったぁああああ!)

小粋な冗句を挟みながら歩み寄る一歩。

「いや、親子だぜ」

「ぴっちぴちの42歳です!」

「嘘ぉ!?」

異常な事実で蹴散らされて遠退き三歩。

「そ、それでは能力は?」

この空気を払拭するために飛び出したおでこ広めな女の子からの質問。

「私は能力不明、能力強度0だよ」

「同じく能力不明、能力強度0だぜ」

「二度あることは三度ある、能力不明で能力強度0」

「ああ、そうですよね……三人は外部からの人なんですから」

そして、ここの高校は基本的に能力強度0の生徒がほとんどだ。転入先がこの高校ということはつまり、そういう才のなかった……あたし達のような人間なんだろう。と、吹寄整理は納得した。
聡明な彼女にしては珍しいことに、この予想は一名を除いて外れているのだが……なんにせよ同じような存在ということで先程よりも随分と縮めた既存キャラ。
そう、あと一つの質問でも投げ掛けれて場を和ませればこのクラスなのだ。すぐに大親友になっているさ。

「じゃ、じゃあ俺からも質問いいか?」

それはこのウニ頭のヒーローだって分かっている。
このお人好しは誰よりも誰とも仲良くなりたいのだから。
そんな彼を分かっているから、他のクラスメートは最後の質問を任せられるのだ。

「こんな時期に転入なんて珍しいよな、何かあったのか?」

だがしかしここで目に見えている地雷を踏み抜くのが彼を主人公足らしめているところである。

「そりゃあちょっとした大事件だったよ、何せ一年生全員とその他学園関係者全員の全面戦争があったんだからね♪」

「そのせいで校舎……というか土地をまるごと使えなくしちまってよ。まったく、校舎を引っ張るならまだしもやり過ぎだぜ」

「ロケット一本ブチ壊した善吉が言えることじゃないと思うけどね」

「……ええと、それはどういった冗談でせう?」

「事実だけど?」

「真実だぜ」

「…………」

距離感、リセット。

そんな始まりではあったものの、このクラスと箱庭学園からの転入生ならば昼休みになる頃には。

「そうか、箱庭学園って何処かで聞いたことがあったと思ったら、『外で唯一技術レベルが追いついている場所』か」

「いやいや、流石に箱庭学園(ウチ)にも清掃兼警備ロボットなんざなかったぜ……精々サイボーグに改造人間ぐらいだ」

「いや、そっちの方がすごいと思うんでございますが……いや、サイボーグも改造人間も
こっちじゃそう珍しいことじゃねぇか」

「能力開発を受けた人間は多かれ少なかれ実験(いじ)くられてるからにゃー広義的にはそう捉えても変わらんぜよ」

「なぁなぁ、善吉クンそないなことより瞳さん紹介してくれへん?めっちゃタイプなんやわ~」

「ほぼ初対面の同い年に母親紹介するヤツがいるかよ!そういえば、お母さんどこ行ったんだ?」

「ん?瞳ちゃんならそこで多数の男子生徒と仲良くお食事中だよ♪」

「知りたくなかった親類のそんな場面!」

あっという間に仲良くなっていた

「善吉、そこのカツ丼とって。今両腕も口も塞がっててさー」

「ほらよ口開けろ」

「あ~ん。うん、美味しい!これは食われるために生きてきたって味がするね」

「『これを食うために生きてきたって味』の間違いじゃねーか、それ。ああ、確かに美味いな」

(仲が良すぎて気持ち悪い……)

未だに微妙な距離感はあるみたいだが。

「というか不知火ちゃんさっき早弁して怒られとったよね?……まだ入るん?」

「んー……腹一つ目って感じかな」

「胃を複数もつですと!?」

「そんな牛(そうしょくけい)ヒロインは……アリやな」

「もしかしてそれが能力なのかにゃー?」

「いやいや、不知火はこれが素だ」

「あひゃひゃひゃ♪スキル」

「あひゃひゃひゃ♪そんなスキルだったら大歓迎だね、焼き肉毎日三食食べ放題梯子放題!」

「スキル?……あ、能力(スキル)か。とはいえそんな能力があっても上条さんはエンゲル係数的に活用できそうにありませんことよ……」

「どうせやったら研究資金がっぽり貰えるような能力がよかったわ」

「ま、ここは強度(レベル)も0~2が精々の普通の高校だからにゃー。善ちゃんの望むような学園異能バトルみたいなのは無理ですたい」

「いや望んでねぇよ!それに、そういうのはもうやりきったからな」

「お、人吉もゲームとか好きなのか?」

「それなら放課後はカミやんの部屋で一緒にゲームにゃー!善ちゃんも同じ寮やろ?」

「おお、いいぜ!中学時代Bボタン連打を極めし男略してB男と言われた俺の実力見せてやる!」

「それって誉め言葉じゃないっしょ」

「ああ、楽しそうやなー……でも今日はパン屋が忙しいから無理や……」

ここで日常は平穏に構築されていた。

今のところは、という前書き付きで。

短いですが投下終了。

次からは能力バトルに入る、予定。




その日、学園都市は一つの転機を迎えていた。


三人の不良――能力者。そしてそれらに囲まれた眼鏡をかけている優男。いつもの学園都市ならこの優男が金を巻き上げられて終わりだろう。

「我ら鎌鼬(カマイタチ)三天王!1足す1足す1が」

「惨にも死にも自由自在!」

「俺らに売った喧嘩、安く買わせて、容易く勝たせていただく!」

いや、もしかしたら優男は高位能力者で三人の不良を返り討ちにするかもしれない。

どちらにせよ、いつものこと。

この学園都市は能力者による能力者ための能力者の囲われた世界。

だが、この日からそんな『いつも』が打ち砕かれる。

「なあ、君達」

優男が手にしているのは竹刀だった。

「剣道三倍段って知ってっか」

優男は普通(ノーマル)だった。

とある道すがら。

打ち倒された仲間を視界に納めながら、二つの驚異から目を離せないスキルアウト達。かつてチームだったその人数はいまや班で括れそうな程減っていた。

それ程の激闘を繰り広げたのにも関わらず。それぞれ不揃いのバットを掲げた二人の男は笑う。

「おいおいまだまだ休むにゃ早いぜ、なんてったって今日は枝の木曜日!」

「明日は花の金曜日!」

「木金木金木金金!」

「金木金木金木木!」

「俺達は学生、そこにジャンプも」

「日曜日(サンデー)もいらねぇ」

「あるのは切った張ったの刺ースデイ!」

「カツアゲ上等フライデー!」

『俺達ゃ木金コンビ!一年三百六十五日休まず不良!』

ポーズを決める二人、ちなみにプリキュアSS。

彼らもまた、普通(ノーマル)だった。

とある高校。

「ふん、しかし能力者なんて言うものだからどんな化物が出てくるかと思いきや脅迫、威圧、力業、恫喝、恐嚇……俺のお得意、真っ正面から卑怯で戦って勝てるとは歯応え見応え聞き応え嗅ぎ応え勝ち応えのない敵だ」

転校初日で所属学校を支配下に置いた強面の男は思案する。

「まるでそういったのが通用しない本物の実力者達を隠している……裏側に押し込めているかのように、無理矢理洗礼して清浄にして整頓しているかのようだな」

やたらに鋭いこの男は将来政治家になったりするのだが……とりあえず、現時点で。

重ねて三度、普通(ノーマル)だった。

とある街角。

「まったく、女の子に手をあげるなんて信じられないね」

貴公子――その言葉が嫌味にならないほどの、いや誉め言葉にならない程の美男子がそこにいた。
対峙する厳つい風貌の男は自らのナンパテクニック――あまりにも直接的な、に横槍をいれられたのが面白くないのかすでに沸点も堪忍袋の尾も限界だ。
ちなみにナンパされていた少女は突如現れた救世主、あるいは白馬の王子の背中でこれでもかというぐらい目を輝かせている。どこかの五位程ではないにしろ。

「いいかい?女性を相手にするなら優しく……」

と、台詞の途中で動く厳つい男。
確かに先手必勝は大概の相手に当てはまるだろう、あの人外にさえ通じる攻略法なのだから間違いではない。
だが、それは最適解でもないのだ。
少なくともこの貴公子には。

「易しく――」

投げる。

「こうして――」

極める。

「寝技をかけてあげることだね」

押さえ込む。

かつて破壊臣と呼ばれた彼の最小限の動きと最大限の配慮により、すでに相手の意識は落ちていた。

「素敵……」

こっちも堕ちた。

そんな彼は、特別(スペシャル)である。

とある自販機前。

「だって、このコが飲み込んじゃったんだもん!私の120円!」

一人の少女が警備員らしき二人と口論をしている。

倒れている清掃ロボットから推測するに、どうやらジュースを買おうとして落とした小銭を運悪く飲み込まれてしまい、それを取り返そうとしたようだ。

実際、こうした事件は多々あり、どちらかといえばこれはメーカー側の技術不足というのがここの都市での認識である。普段なら少女も多少の注意と共におとがめなしとして処理されるのだが。

「だから、暴力なんて振るってない!ちょっと『待って』って爆音(こえ)を震っただけ!」

まるでダンプカーに激突されたかのような清掃ロボットの死に様に、警備員二人は首を傾げるのだった。

お金に少々うるさい彼女も特別(スペシャル)である。

とある図書館。

「確かに、科学方面の知識に関しては特別(スペシャル)です。いや、表層でこれなのだから本質はもっと異常(アブノーマル)なのでしょうか?」

左から右へ、上から下へ、手前から奥へ。

左の手と左の目で論文を、右の手と右の目で学術書を文字通り乱読する、眼鏡をかけた少女がそこにいた。

「さて、健全に得れる情報はここまでですね。紙上(ローテク)から電子(ハイテク)まであまりに情報が白すぎます、健全なるフラスコ計画ですら正しき黒さは見受けられたというのに」

考えを纏めながらも手は棚から出した本を数時間前と寸分違わない位置に戻していく。

「この都市の技術は人が住めないほど澄んでいる」

驚くべきはその記憶量ではなく、数十冊の本を片手に積み重ねている筋肉量。

「また人吉会長……いえ、もう人吉君でした。彼は彼女のために頑張るのでしょうね」

まあ、まだ諦めていませんけど。と、恋に戦う彼女は特別な特別(スペシャル)である。

とあるお嬢様学校。

壇上に立つ長髪黒髪の、あまりにも美しすぎる男。

全校集会、新任の教師の紹介に集められた生徒達は浮わついていた。

満たされているが刺激の少ない生活に、スパイスが生まれたと思っているのだ。

「やあ皆さん、はじめまして」

だがその日、今までぬるま湯しか知らなかった箱入り娘達は。

「僕は結構古いタイプの教師でね、教師と生徒は裸一貫でぶつかり合うべきだと考えている」

絶対零度の悪寒を。

「むしろ女子中学生は皆裸であるべきなんだ――教師(アナリスト)に生徒(モルモット)が隠し事をするべきじゃない。いや、隠し事を作れると思うべきじゃない。と、言った方が正しいかな」

灼熱地獄の憤怒を。

「教師(アナリスト)は君たちの出来が如何に悪かろうと良く(マネジメント)してあげるためにいるのだから、安心してその身も心も捧げなさい」

身と心に刻み付けられる。

「ついでにブラとパンツもね」

この人、変態だ ――と。

笑顔と黒髪の眩しい彼は異常(アブノーマル)である。

とある実験施設。

「お前らが何を勘違いしているか知らねーけどよ」

呟くのはボロボロのセーラー服を纏った女子高生。

「私達は理屈ではないのです、故にそこに理論も理念も理想もありません」

引き継ぐのは燕尾服……だったものを纏う男子高生。

「殺して」「解して」「並べて」「揃えて」「晒して」「刻んで」「炒めて」「千切って」「引き伸ばして」「刺して」「抉って」「剥がして」「断じて」「刳り貫いて」「壊して」「歪めて」「縊って」「曲げて」「転がして」「沈めて」「縛って」「犯して」「喰らって」「辱めても」「私達は分かりあえねーし」「分かちあえません」・

肉の山、血の海、彼と彼女を中心に暗い室内を彩るそれら。
その肉の一欠片が高名な研究者だと、その血の一掬いが叡知の脳からこぼれ落ちたものだと、誰が信じることができるだろうか。
ましてや、それが彼と彼女を万全の施設と入念な準備の後に調べようとした結果だと、誰が信じることができるだろうか。

女子高生は海を泳いで言う。

「でも良かったな、頭のいいあんたらなら知ってるだろうけどさ……馬鹿は死んだら治るらしいぜ」

男子高生は山を登って言う。

「なんとも羨ましい限りです……私達、死ぬことですら一苦労ですから」

信じれないことに、二人は過負荷(マイナス)だった。

とあるファミレス。

一目で分かる身体に悪そうな原色そのままの色をした液体が入ったコップを両手に持ち二本のストローで器用に飲む白髪の男。

「……と、言うわけで。新・学園統括理事長の代理として、君が今関わっている実験の永久凍結を伝える」

飲みながら喋るその男の前には同じように白髪の――少年とも少女ともとれるが――目つきの悪い少年がステーキを目の前に食べるでもなく楽しむでもなく。ただ一方的な宣告を受け止めていた。

「さあ堅苦しい話は終わりだ、冷める前に食べるといい。なにせここの食事料金は我らが新・学園統括理事長のおごりなのだからな、一方通行(アクセラレーター)君」

ドリンクバー男は悪平等(ノットイコール)で、

ステーキ少年は超能力者(レベル5)だった。

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