地下水道跡 ホームレステント群生地

長老の小屋


ｶﾞﾁｬ

乞食「ジジィ！　心臓発作は起こってねえか？」

長老「なんだ騒がしい……てめぇの声で発作が起こりそうだってんだ」

乞食「客だぜ。愛すべき出戻りだ」

長老「出戻り？　ふん、根性無しが――」ﾍﾟｯ

盗賊「誰が根性無し？」

長老「――小僧？　小僧、お前か！　おお……何日ぶりだ」

盗賊「じーさん、相変わらず一日が72時間なんだな。三年くらいになるよ」

長老「そんな細かいことぁいい、いい。よく来た。まあ入れよ」

乞食「ヘッ、見ろ。目の色変えやがった」

長老「てめぇの分の茶は無しだな」

乞食「連れてきてやったんだから飲ませろよ！」

長老「ふん」ｽﾀｽﾀ


盗賊「なんかじーさんちパワーアップしてんね。元々、放棄された管理人の小屋改造してたけど」

乞食「そこだ。実はジジィの奴な……」


＜俺の話のネタをぶん取ろうってんならセンセイに来てもらうぞクソ野郎！


乞食「おおっと」

盗賊「ああ、相変わらずだわ」

長老の小屋 リビング



盗賊「リビングだ！」

乞食「おうよ。儲かってるからな」ｶﾞﾀ

盗賊「椅子もテーブルもちゃんとしたやつだし……どっから掻っ払わせたんだよじーさん。廃品じゃないでしょこれ……うわ、魔導ポケットラジオまで。変な形だな」ｶﾞﾀ

長老「冷蔵庫もある。ほれ、茶請けのクッキー」ｺﾄ

乞食「っしゃあ、頂きます！」ﾊﾞｸﾊﾞｸ

盗賊「いただきます！」ﾊﾟｸﾊﾟｸ ｽﾞｽﾞｰ

長老「小僧、暫く食ってなかったのか？　落ち着いて食えよ。……おい、てめぇはもうちょっとペース落としやがれ」

盗賊「甘い……美味いよじーさん、ホントありがとな」ｽﾞｽﾞｰ

乞食「ったく天の声様々だ」ﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸﾊﾞｸ

盗賊「天の声？」ﾊﾟｸ

長老「こいつだ」ﾄﾝﾄﾝ

盗賊「？　このラジオがどしたの？」

長老「声を聞くのさ」ｶﾁ

『―――――』ｻﾞｻﾞｯ


安価一つ下

『TaIS3NT7O』ｻﾞｯ

『うんこを…探せ…』ｻﾞｻﾞｯ


盗賊「はあ？　うんこ??」ﾊﾟｸﾊﾟｸ

乞食「食欲失せるな……」ｶﾁｬ

長老「流石は天の声だ。お前からクッキーと紅茶を見事守り通した」ﾓｸﾞ

盗賊「えーと……何なの、これ」

長老「魔法のラジオさ。アンテナはない、チャンネルは合わせられない、魔翌力の補給も必要なし。見た目はガラクタだが、こいつは"喋る"」

盗賊「喋る……？」

長老「スイッチを押せばな。9ケタの文字列を喋って、それから求めに応じて喋る。俺はこいつに一儲けするのを手伝って貰ったんだ」

乞食「今みてぇにトンチンカンな時も多いがな」

長老「そのための文字列だ。何ヶ月も付き合ってくうちに分かったんだが、こいつはどうも言葉の内容の傾向を表してるようでな」

長老「天の声には複数の意志があり、こいつはその目安となる。同じ文字列が続いて、あんまりにも言ってることの訳が分からんようなら無視すれば良い」

長老「名前のようなもんだ。アテにならんこともあるが、まあ、何事も好意的に捉える方が文句を垂れるより楽しいし建設的というものだろ」

盗賊「……」

長老「俺がボケたと思ってるか？」

盗賊「いや……まあ、今聞いたし……うん」

長老「そうだな。もう一度喋らせてみるか」

長老「どれ。ラジオよ、何か、小僧にやらせてみたいことはないか？」ｶﾁ


『――――――』ｻﾞｻﾞｯ




安価下

『tqcIpOx2o』ｻﾞｯ

『銀の剣を手に入れろ』ｻﾞｻﾞｯ


長老「ふむ……銀の剣」

乞食「銀製のナイフのことか？」

盗賊「銀製品か。貴族様のお屋敷は警備がヤバいから、あんま盗みに入ったことはないかな……けど確かに剣って言った」

盗賊「銀の武器と言えば？」

長老「ヴァンパイアハンターだな。怪力無双・超能力・魔法のエキスパートの吸血鬼に、銃弾やら剣やら聖水やらで立ち向かう命知らず共」

盗賊「この街にも支部はあるね。吸血鬼が出た話なんか聞かないけど、それも仕事の成果だったりして」

乞食「吸血鬼の狩人？　なんでそいつの武器が出てくる」

長老「さあな」

長老「だがこいつは手に入れろとも吐かしたぞ。さあ行け小僧、夜の番人から武器を掻っ払って来い」

盗賊「え、今から？」

長老「言っただろ、こいつの喋る通りに動いて俺は成功したと。ほら、こいつを見てみろ」ｶﾞｻｺﾞｿ

盗賊「銀行の通帳じゃん。……うわっ！」

乞食「ああ、やっぱそういう反応するよな」ｳﾝｳﾝ

長老「一財産築けたって寸法だ。ブレはあるが信頼して良い。しみったれた"栄光の手"なんかよりずっと役に立つぞ」

盗賊「……じーさんがそこまで言うなら、信じない訳にはいかないかな」

乞食「良かったなぁジジィ。なあ聞けよ小僧、最初は誰も信じなかったんだぜ。ついにボケたってな」

盗賊「おっさんは？」

乞食「『証拠を見せてやる』、って言われてラジオの声聞かされてな。出された茶にクスリが入ってたんじゃねぇかと疑った」

長老「ふん、クソガキ共は若い癖に頭が固くて駄目だ。お前は別だがな小僧」

盗賊「はは……。よし」

乞食「……よし、ってオイ。本当にやるのか」

盗賊「他にやることもないしね。腕試しだと思ってさ」

乞食「いや、いや、死に急ぐことはねえぞ。あそこは筋モンの連中だってゴタつくのを避けてるっていうじゃねえか」

乞食「絶対危ねえよ」

盗賊「うん」ｽｸｯ

乞食「マジでか。知らねえぜ……」

長老「小僧」ﾎﾟｲｯ

盗賊「わっと。ラジオ？」ﾊﾟｼ

長老「持って行け。俺にはもう必要ない」

盗賊「本当？　へへ、ありがとじーさん。俺も稼いじゃうかんね」

長老「小僧」

盗賊「まだなんかあんの？」

長老「死ぬなよ」

盗賊「背中押したのじーさん」

長老「……」ﾌｯ

盗賊「大丈夫だよ。クッキー美味しかった、また来るね」ﾀｯ

貧民街 地下水道出口



盗賊「ふう……日差しが目に悪い」

盗賊「さてと。支部の場所は分かってるけど、連中の武器を盗むんなら準備が要るよね。まずは偵察かな、情報収集でもいい」

盗賊「んー、迷うね。……そうだ」ｺﾞｿ

ラジオ『……』

盗賊「ヘイ、ルェイディオゥ～。盗賊少年に道を示したまーえー」ﾎﾟﾁ


ラジオ『――――――』ｻﾞｻﾞｯ



安価二つ下

『G2XFXnsjo』ｻﾞｯ

『明日の深夜二時、ここから横のわき道に入れ』ｻﾞｻﾞｯ

『ヴァンパイアハンターの少女に出会えるだろう』ｻﾞｰｯ


盗賊「うわ、ホントに喋った。しかも普通に。Seekうんこ発言は何だったんだ」

盗賊「ハンターの少女ね……明日の２時に、そこの脇道……ああ、あそこか。ホントにあそこか？」

盗賊「まあ、分かったよ。待ち伏せしてみよう」

盗賊「って違う、今日の予定だよ！　予言が聞きたかったんじゃなくてさ！」ﾎﾟﾁ


『――――――』ｻﾞｻﾞｯ



安価下

『tqcIpOx2o』ｻﾞｯ

『吸血鬼に襲われる』ｻﾞｰｯ

『銀の剣を手放すな』ｻﾞｻﾞｯ


盗賊「……銀の剣を盗って来いっつってた奴か。ふうん……それで剣ね」

盗賊「ハンターの取りこぼしに、このままじゃ血を吸われるってこと？　それはやだな」

盗賊「けど、俺剣なんか使えないぜ？　ナイフとかならよっぽどのことがない限り負けないけどさ」

盗賊「ふーむ。……ま、考えるのは後でにするか。ホラ吹いてるだけかもだし」

盗賊「こーゆー時はコイントスだな」ﾋﾟﾝｯ

盗賊「表。じゃ、情報収集から行こうかね！」

盗賊「真っ昼間なら吸血鬼だって出ないだろーし？」ｽﾀｽﾀ




「…………」

中心街 メインストリート



ﾜｲﾜｲ ｶﾞﾔｶﾞﾔ

商人A「らっしゃいらっしゃい！　おっ、そこのお兄さん！　ちょっと――」

商人B「観光に来たんなら是非ウチの屋台に寄ってってくれよ！　今なら――」

商人C「ｵﾆｲｻﾝｵﾆｲｻﾝ。服買ﾜﾅｲ?　ｶｯｺｲｲﾉｱﾙﾖ」

商人D「果物買ってってくれませんかー、新鮮っスよー。いやね、これ売れないと――」



盗賊「活気があって大変よろしい。……あ、あのお兄さん黒いのに連れてかれた。買うまでカタコト軟禁コースだな」

盗賊「お上りさんならしかめっつらで歩かなきゃね」

露店商「観光業とブラックマーケットが特産のこの街でそいつは良くないますネ。客引き遠ざかる、スリ近寄って来ル」

露店商「お上りさんなら大人しくカモられるよろしいです。授業料払って覚える。授業料貰って私達潤う。二人ともウィンウィン、替え玉万歳ますです。ウィンウィンウィンウィン」

盗賊「聞き取り難いからやめなよ。ストラップ踏み潰すよ？」

露店商「……そんなことヲすれば買い取ってもらウぞ。今、文無しノ君に私の店ガ誇るボッタクセサリーの額が払えるのカい」

露店商「聞いタよ。入居者が来て追い出されたんダろ？　時期的・人間的に見て、そろそろ金欠になる頃だと思ってイた」

盗賊「耳早いねー」

露店商「君に売れる物ハ無い」

盗賊「ここには、でしょ？」

露店商「……」

盗賊「……」

露店商「……成ル程」ﾄﾝ

【本日は閉店しますた】

露店商「ついテ来い」ﾃｷﾊﾟｷ

盗賊「そー来なくっちゃ。片付け手伝うよ」ﾃｷﾊﾟｷ

露店商「まっタく……」ﾃｷﾊﾟｷ

盗賊「木彫りばっかだね。まだ付呪済みって言って売ってるの？」ﾃｷﾊﾟｷ

露店商「付呪ならしテる」

盗賊「出来たんだ」

露店商「商人なら誰でもやっていル付呪さ。……"売れロ"とね」

盗賊「ははは」

露店商「片付ケ完了」ﾖｯｺｲｼｮ

露店商「こっチだ」ﾀﾞｯ

「！」

盗賊「それっ！」ﾀﾞｯ ｸﾞｲｯ
商人B「あっ、てめ！」

ｶﾞｯｼｬ-ﾝ ﾀﾞﾊﾞｰ

商人B「ぎゃああああ原価クソ以下儲けたっぷりの特製ラーメンがああああ!!　てめぇ[ﾋﾟｰｰｰ]!!!!」ｼｬｷﾝ

「なんだなんだ？」「どっかの間抜けがBんとこのスープ鍋ひっくり返しやがったんだよ」「ざまあみろ手首ラーメンが」


目深フード「……ちっ」

中心街住宅地 露店商の家


露店商「あいつハ何だ？」

盗賊「さあ？　あんたんとこに情報貰いに来ようとした時にはもうついて来てた。尾行がもー下手で下手で」

露店商「貰いに、ッて……一応私は情報屋なんだガね。君はいつも儲け話ヲ嗅ぎ付けて来るが、基本的には厄介事ばかリだ。まっタく」

露店商「そレで？」

盗賊「ヴァンパイアハンターのことが知りたい」

露店商「吸血鬼ノ狩人の？　何故マた」

盗賊「理由は聞かないで欲しいんだけど、次の獲物を奴らに決めたんだ。奴らの使ってる銀の剣。……出来ればナイフとかがいいけど」

露店商「ふーん……。そうダな」

露店商「色々と噂は聞く。が、確かな事ハ少なイな。何せ、我々としても取り付く島がないのデね」

盗賊「どういうこと？」

露店商「奴らハ戦士なんダよ」

盗賊「戦士……あー。ハンターなんかやってるくらいだしね」

露店商「出自ヲ辿れば納得すると思ウぞ。元々ハ"教会"の騎士団に端を発スる、魔物や異教徒ヲ皆殺しにする為の部隊だったらシい」

露店商「そこから吸血鬼に特別恨みを持つ連中ガ集まりだシて、やがてハ対吸血鬼のスペシャリスト集団となッた」

露店商「教会とは直属ノ主従でこそなくなって久しイが、関係そのものは至っテ良好で、吸血鬼絡みノ他にも表沙汰に出来ない仕事ヲ下請けている……そウだ」

盗賊「おっかな」

露店商「化け物の相手ガ務まるんだカら、人間相手など造作モないということなんだロう」

露店商「チビったカい、クソがキ」

盗賊「ううん。全然」

露店商「君ノ生き肝はさぞ良い値ガ付くだろウね」

盗賊「取り付く島がなかったってのは？」

露店商「教会から建前ト放蕩ぶりを引イて、ストイックさと復讐心ヲ足し、戦闘力と潔癖さに磨きをかけタ存在、と言えば察して貰えるだろウか」

盗賊「なーる……」

露店商「利潤ニ生きない狂人達とは本質的に分かり合えナい、と悟っタよ。我々"商会"ニ組するような人間でハね」

盗賊「面子とお金が大好き。みんな言うよね、魚臭い顔したマフィアだって」

露店商「あくまで『商会』だ。聞かなかったことニしてあげヨう」

盗賊「ありがと」


ｺﾝ ｺﾝ


盗賊「お客さんだよ。……銃なんか持ってどうしたの」

露店商「今日は誰も来る予定ハ無い筈なんダが」ﾁｬｷ

露店商「誰ですますカー？」

盗賊「ああ、それやるんだ」

露店商「黙ってイろ。……どなたですー？」

盗賊「分かってる癖に」

露店商「まアな」ｶﾞﾁｬｯ

ﾊﾞﾀﾝｯ

露店商「返事をシろ」ｼﾞｬｷｯ

ｼｰﾝ…

露店商「撒けていなかっタか？」ﾁｬｯ

盗賊「……」

露店商「どうしタ、鼠？」

盗賊「銃貸して」

露店商「予備のをあげヨう。入ってる弾代ハ後で請求スる、遠慮なく撃つとイい」ｽｯ

盗賊「気配がする……」

露店商「何処ダい」

盗賊「……静かに……」


「…………」


盗賊「……上だッ！」ﾊﾞｯ

「……何！」

ｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｯ

盗賊「どーよ!?」ﾄﾞﾔｧ

「バレしまっては仕方ないですね」

盗賊「外れっスか」ﾁｬｷｯ ﾊﾞｯ

露店商「壁ヲ脊に！」ﾊﾞｯ

ﾊﾞｷﾊﾞｷﾊﾞｷﾊﾞｷｯ

盗賊「!?　天井が……ッ」

ｽﾀｯ

目深フード「……」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ

露店商「どうやっテ天井裏にッ……修理費は貴様の臓器デ払わせてやロうッッ！」ﾄﾞﾝﾄﾞﾝｯ

ﾋﾞｽﾋﾞｽｯ

目深フード「かっ……」ｸﾞﾗｯ…

露店商「頭に二発。くたバれ、ゴミくズが」

目深フード「…………」ﾕﾗ

盗賊「(倒れない？　……まさか、コイツ)」

目深フード「……」ﾊﾞｯ ｷﾞﾗﾘ

盗賊「(目が、合っ――)」

露店商「何だッきサ、」

ｺﾞｫｯ ｶﾞﾌﾞｩｩｯ

露店商「…………ま……ぁ」

目深フード「……ん」ｶﾞﾘｯ

露店商「ぁ……あ、ぐぉおあぁあああああああああ!!」ｶﾞｸｶﾞｸｶﾞｸｶﾞｸ

目深フード「」ｼﾞｭﾙﾙﾙﾙﾙﾙﾙﾙ

盗賊「そいつを放せ!!」ｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｯ

ﾊﾞｽﾊﾞｽｯ

目深フード「ふふ」ﾎﾟｲｯ

露店商「う……」ﾄﾞｻ

ｷﾞｭﾝｯ ﾊﾟｻｯ

盗賊「!!　当たったのに――」

銀髪女「銃を撃っても無駄です。それに」

盗賊「舐めんなッ」ｶｼﾝｯ

盗賊「え゛」ｶｼﾝｯｶｼｯ

銀髪女「使うのなら装弾数は体で覚えなさい」ﾌﾞﾝｯ ﾊﾞｷﾞｬｱｯ

盗賊「リボルバーを素手でっ……」

銀髪女「さもなくば、命取りになりますよ」ｶﾞｼｯ

盗賊「ぅぐ！」ｷﾞﾘｷﾞﾘ

銀髪女「……そこの、平たい顔の彼のに口を付けて。お預けを喰らったところですので、今の私は少し腹が立っています。一足早くメインディッシュを頂きましょうか」ｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞ

銀髪女「若ぁい、血を……」んあ…

盗賊「かっ、は……ッ」ﾁﾗ

露店商「うぅ……ぐぅ……」ｽﾞ… ｽﾞ…

盗賊「……ふ、へっ」ｷﾞﾘｷﾞﾘ

銀髪女「どうしました？」

盗賊「い、や……別に？　こんな、華奢なお姉さんに、襟掴まれて持ち上げられる、なんて、なっさけないなー、ってね」ｸﾞｸﾞｸﾞ

銀髪女「仕方ありませんよ」ｸｽｯ

銀髪女「貴方は人間で、私は吸血鬼ですから。どぶ鼠と月程の差があります」

盗賊「ふー、ん」ｸﾞｸﾞ…

銀髪女「もう良いですか？」

盗賊「じゃあ……鼠、ならさ……」

銀髪女「なんです」

盗賊「ちょっとくらい粗相してもいいよね……」

銀髪女「度によりますが、」ﾓﾐｯ

銀髪女「…………はい？」

ｸﾞﾆ ｸﾞﾆ

盗賊「あー、手、滑っちゃった。やーらか……」ﾓﾐﾓﾐ

銀髪女「……」

盗賊「わあ、最高……ローブ越し、でも、分かるよ、すんげー巨乳……」ﾓﾐﾓﾐｻﾜｻﾜ

銀髪女「………………それはどうも」ﾋﾞｷｨｯ

銀髪女「せぇッッ!!」ﾄﾞｽﾞｩｯ

盗賊「！！！　ぐぶっ」ﾄﾞｻｯ

銀髪女「糞餓鬼。血を吸うのは肉塊になった後がいいようで」

銀髪女「望み通りにしてあげまｓ……」ｻｸｯ

銀髪女「……？」ｸﾙ


露店商「はーッ……ハーっ……」ﾌﾗｯ…


銀髪女「貴方、……貴様……何を、背中に、投げて……」ｸﾗ

露店商「……銀、食器……ナイふだ……ふっ、掴んダ手が、焼けるヨう、だ……」ｶﾞｸ

銀髪女「くっ……！」ﾌﾗ

盗賊「……おらぁッ!!」ﾄﾞｯ

銀髪女「この……っ」

盗賊「げほっ、全力でド突いたのにフラつくだけかよ！」ﾀﾞｯ

露店商「鼠？　何、ヲっ」ｸﾞｯ

盗賊「肩貸す、立って！　裏口から出よう！」ｸﾞｲｯ

銀髪女「待ちなさいッ、少年……！」

盗賊「っとその前に」ｻﾞﾗｯ ｼｬｷﾝ

銀髪女「銀食器を……!?」

盗賊「サーカスに勧誘されたナイフ投げ連弾を喰らえッ!!」ﾋｭﾋｭﾋｭﾋｭﾋｭﾋｭﾋｭｯ

ｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｯ

銀髪女「ぐっ……あぁぁああッッ!!」ｼﾞｭｩｩｩｳｳｯ

盗賊「そのまま全身焼けちまえ、ウシ乳吸血鬼！」ﾀﾞｯ

露店商「修理費は、いずレ必ず……」

盗賊「いいから行こう！」


ﾊﾞﾀﾝｯ


銀髪女「ぐぅぅううぅッ……糞、餓鬼め……鼠……畜生にも劣る、どぶ鼠がぁ……あぁああッぁ……!!」ｼﾞｭｳｳｳｳｩｩｩｳｩ

銀髪女「くぅ……うっ！」ｸﾞｯ ﾌﾞｼｯ

ﾌﾞｼｭｳｯ ｶｼｬﾝ
ｸﾞｼｭｯ ﾁｬﾘｨﾝ

銀髪女「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

銀髪女「くっ……教会の聖付呪を受けた武器だったら危なかったが…………安物の銀食器でもこの様とは……」ﾌﾗﾌﾗ

銀髪女「精練技術を上げたようですね、人間風情が……！」ﾌﾗﾌﾗ

銀髪女「……鼠……貴方はそれの真価が分かっていない……」

銀髪女「私にはそれが必要なんですよ……どうしてもね……！」

銀髪女「はぁ、……はぁ、はぁ」ﾁﾗ

【13時35分】

銀髪女「日没まで……あと6、7時間ですか……」

銀髪女「ふ……ふふ。精々、逃げなさい……」

銀髪女「夜になったらすぐに見付けて、貴方をバラバラにして、年若い血に塗れた"秘宝"を手に入れてみせますよ……」

中心街 路地裏


露店商「はァっ、はァっ、グっ、ふゥッ……」ﾖﾛﾖﾛ

盗賊「ボロ切れだけじゃ、キツい？」

露店商「かなリね。だが、日光は大丈夫そウだ……それとハ別に、体ガ、熱い……見ロ、さっき銀食器ヲ掴んダ手を」

盗賊「焼け焦げてんね……」

露店商「……ハンターに同ジく、コウモリ野郎の噂ヲ聞かない理由モこれで分かッた……分かってしまッた」ﾌﾗ

盗賊「お伽話の通りだった訳だ。銀が弱点、日光に当たったら塵になる……日光はちょっとなら大丈夫みたいだけど」

露店商「七面鳥の気分だガね。……そシて、血ヲ吸われたら同じ吸血鬼にナる、ト……」

露店商「被害者ノ話を聞かナい？　そりゃそウだ、死体の始末ガ簡単過ギる……そレか、仲間入りヲするシか、無くなるのだかラな。よく出来テる……まっタく」ﾌｯ

盗賊「肌の色がヤバいよ、どんどん血の気が失せてってる。薬とかないの？」

露店商「あれば奴らに少子化問題ヲ味わわせてやれルな……おッと」ｸﾞﾗ

盗賊「うわっ」ｸﾞﾗﾘ


ｽﾞﾃﾞﾝ

ラジオ『』ｶﾁｯ


露店商「すまナい、鼠……大分楽になってきたのダが」

盗賊「気にしないで。元はと言えば、俺のせいだし――」


ｻﾞｯ…


露店商「……何ノ、音ダい？」

盗賊「へ？　……あ、ラジオ……今の衝撃でスイッチ入ったのか」

盗賊「……」

ラジオ『……』

露店商「……壊れタか」

盗賊「違う、これでいいんだよ。……そうだ」

盗賊「なあ。一部始終、見てたろ。どうすればいい、２時にあそこへ行けばなんとかなるんだよな？」

盗賊「こいつと俺ので合わせれば、隠れ場所とかのツテはありそうだけど……正直、あれを相手に出来る奴なんているとは思えない。悪戯に被害が増えるだけだ。人には頼らず何とかしたい」

盗賊「２時まで、大体半日だ。どうしていよう」


ｻﾞｻﾞｯ

ラジオ『――――――』ｻﾞｻﾞｯ





安価二つ下

『Xek+Xro9O』ｻﾞｻﾞｯ

『地下に身を隠せ』ｻﾞｻﾞｻﾞｯ


露店商「ホう……」

盗賊「妥当なとこではあるな。地下水道、じーさん達のとこか……」

露店商「……網の目ノように張り巡らされているこの街のライフライんだ。地図無しで迷い込メば、最悪、野垂レ死ぬ……」

盗賊「俺は大丈夫。旧水道から現役の水道まで、通れる所は全部頭ん中入ってるから。……３年前の記憶だけど」

露店商「なラ安心だ」

盗賊「吐かせ。……う、げふっごほっ」

露店商「君モ、やられていタな。平気なのカい」

盗賊「つー……。下のアバラが何本か逝ってる。肺は無事だから問題ないよ」

盗賊「地下ボクシング界は早急に女性部門を作るべきだね」

露店商「全財産賭けてもいイな」

盗賊「ははは。あいたたた」ｽﾞｷｽﾞｷ

露店商「笑ウな、痛むだロう」

盗賊「あれ、ボッさんなんか余裕？」

露店商「……体調ガ回復してキた」

露店商「視力ガ上がってイる。耳ガよく聞こえルし、鼻モ翌利く」

盗賊「それって……」

露店商「代わリに、日陰ノここでも太陽ガ眩しくて仕方がナい」

盗賊「……わあ」

露店商「そシて……」


露店商「酷く、喉ガ渇イた」ﾆﾔｧ


盗賊「!?　牙がッ……」

露店商「冗談ダよ」ﾌｯ

盗賊「……やめてよねホントに。さっきのチチ牛シルバーと今ので完璧八重歯恐怖症んなったよ俺」

露店商「行コう。案内ヲ頼む」

盗賊「まっタく」

露店商「……クソがキめ」

旧地下水道 ホームレステント群


乞食「おらっ、ロイヤルストレートフラッシュだ！」ﾊﾞｼｯ

ﾎｰﾑﾚｽA「うわ、マジか」

ﾎｰﾑﾚｽB「ほら持ってけよ」

乞食「よっしゃ、チップ総取りだ！」ｶﾞｻｶﾞｻ

ﾎｰﾑﾚｽB「タバコのチップだけどな」

乞食「タバコだろうがバタコだろうが、賭けたもんをこうゴッソリ手繰り寄せるってのはやっぱ癖になるぜ。……おいA、てめぇのこれ殆どシケモクじゃねえか！」

ﾎｰﾑﾚｽA「シケモクはタバコ一本半分ってルールだろ」

乞食「だからってお前、これなんかもう持ち手んとこすら無ぇぞ！　ふざけんなよてめぇ！」

ﾎｰﾑﾚｽA「ちゃんと確認しねぇてめぇが悪い」

ﾎｰﾑﾚｽB「だな」

乞食「クソがー！」

盗賊「や、おっさん。楽しそうだね」

乞食「あん？　小僧。もう盗って来たのかよ」

盗賊「これからだよ。いや実は、その前にトラブっちゃってさ。夜まで匿ってくんないかなー……って」

乞食「はあ？　トラブル持ち込むのご法度だってのは分かってんだろ」

盗賊「そーなんだけどー……」ﾎﾟﾘﾎﾟﾘ

露店商「メリットモちゃんとあルぞ」

乞食「……商会お抱えの情報屋か。木彫りの、Mr.ボッタクセサリー」

ﾎｰﾑﾚｽA「……」ｺﾞｿ

露店商「我々ガ、貸し借りヲ重んじる人種だというのハ知っているだロう。手伝ってくれれば有事ノ際には助力ヲ約束スる」

乞食「組織としてじゃなくあんた個人としての、だろ。そういうのも良くねぇんだが……」

露店商「でハ私と、何ヨり、私の友人ヲ見殺しにすると言うんダな」

乞食「ほら出たよ。これがあるから平たい顔族と関わるのは嫌なんだ」

露店商「そウか」

盗賊「ちょっとちょっと二人ともストップ！　おっちゃん達ほら銃しまってって。ボッさんも、気ぃ立つの分かるけど落ち着きなよ」

乞食「……」

ﾎｰﾑﾚｽAB「……」ﾁｬｷ

露店商「……やハり、効かないノだろウか」

盗賊「わかんないけど、あれ見た感じじゃ多分ね。でも痛そうではあったよ」

露店商「ゾッとしなイな……」

乞食「何の話だ？」

盗賊「匿ってってのは言葉の綾でさ。幾つか頼み、聞いて欲しいんだ」

盗賊「センセイいる？」

貧民街 集合住宅地

闇医者の診療所兼自宅


ｺﾝ ｺﾝ

＜入れ

ｶﾞﾁｬ

乞食「こんちわ、センセイ。さっきぶり」

盗賊「ふぅ、ふぅ……ちょっとキツくなってきた」ｽﾞｷ

露店商「……」

闇医者「お前か。それに鼠。久しぶりだな」

闇医者「そっちの平たい顔は初めて会うが……」

露店商「中心街の方デ露店商をやってイる。まずは、我々の共通の友人ヲ診てやって欲シい」

闇医者「鼠か？　どうした」

乞食「鳩尾に一発。アバラが折れたんだとさ」

闇医者「透視魔法を使う、服捲れ……そこまで重傷じゃあない。が、随分強烈なのを喰らったらしいな」

盗賊「センセイが往診ついでにじーさんちででも茶ぁしばいててくれれば動かなくて良かったんだけどね」

闇医者「馬鹿を言え。地上の方が切羽詰まっている患者は多い、誰も彼もがお前達のように生き汚くはないんだ」

乞食「逞しき漢達と言え」

闇医者「ふん。……それに不衛生だしな。外科ならこっちに来たのは正解だ」

盗賊「魔法でパパッとやっちゃってくれよ」

闇医者「治療費」

盗賊「ツケで！　こないだの分は払い終わったからいいでしょ？」

闇医者「……それに。魔法なら一瞬で治るが、痛いし、あまりやると体が魔法に甘えて癖が付くぞ。賞金稼ぎや警察じゃあるまいし、たまには休んだらどうだ」

露店商「時間ガ無いンだ。……これで足りルか」ｶｻ

闇医者「半額だな。残りは払えよ？」

盗賊「勿論。じゃあお願いします」

闇医者「医者の言うことは聞くもんだぞ……押さえてろ」ﾎﾞｩ…

盗賊「……痛。いた、痛いっ、い゛ッ、ぃぃいだだだだだだだだだだだだだだだだぁああ!!!!」ｽﾞｷｽﾞｷｽﾞｷｽﾞｷｽﾞｷｽﾞｷ

露店商「しっかりするンだ」ｶﾞｼｯ

乞食「了解。……お前、稼げない時期は男娼でもやれば？　小綺麗にすりゃイケそうだぜ」ｶﾞｼｯ

盗賊「気持ち悪ぃこと言うなよ!!　いだッ、センセイ痛い！　ボッさん手ぇ冷たい！　ぎゃああああ!!」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ


ｻﾞｻﾞｯ


盗賊「痛い痛い痛い痛い痛い！　ちょっこれホントに痛いんだけどぉ!!」

乞食「騒ぐなよ、ご近所に誤解されんだろうが。センセイが」

盗賊「その手があったか!!　きゃあああ助けてええええ誰かあああホモがあああああ!!」

露店商「……、オや？」


ラジオ『――――――』ｻﾞｻﾞｯ



安価下

『lVkU6TP5O』ｻﾞｻﾞｯ

『誰かの尻の穴を舐めまわせ』ｻﾞｯ


露店商「……アほか」

闇医者「よし、終わりだ。ホモ呼ばわりした分ツケは割り増しさせて貰うぞ」

盗賊「ってぇー……」

乞食「お疲れさん。てか、いつラジオのスイッチ入れたんだ？」

盗賊「は？」

露店商「喋っていタよ。ホモラジオとは恐れ入っタが」

盗賊「コケた時にイカれたのかな？　やっべーな……じーさんから貰ったのに」

露店商「どうでもイい。次ハ私だ」

乞食「あ？　どっか悪いのか」

盗賊「……」

闇医者「どうしたんだ」

露店商「…………」

闇医者「黙ってちゃ分からん」

盗賊「顛末を話す必要があるね……」

……


盗賊「って訳なんだけど……」

乞食「」ﾁｬｷ

闇医者「」ｽﾁｬ

露店商「銃もメスも恐らく効かナい、というのは話の流れデ理解して貰えたト思ったのダが」

盗賊「日光もね。もっかい鏡でピカッてやる？」

露店商「ヨせ。本当ニ痛いンだ」

闇医者「ああ、まあ、信じる。信じはするが……信じはするが。鼠の痣が小さかったから、てっきり鈍器か何かで殴られたものだと……女の拳とは」

乞食「よく生きて帰れたなぁ小僧。本当に噛まれてねえんだな？」

盗賊「俺はね。鉛玉ぶち込んで乳揉んでナイフ刺しただけ」

乞食「うらやま……しくねえか」

露店商「商会ノ医者に診て貰うことも考えタが、下手ヲ打てば追い出されるかも分からナい。鼠から貴方ノ話を聞イて、まずハ貴方に診て貰おうと思ったノだ」

闇医者「成る程な……だが力になれることは少ないと思うぞ」

露店商「構わナい」

闇医者「ふむ。時間がないと言っていたが？」

盗賊「夜中の２時。それまでに貧民街の端の方で……あー、重要人物と待ち合わせしててさ」

盗賊「(ホントに居てよねお願いだから……)」

闇医者「端切れの悪い……そうだな、１時間くれ。手早く人体実験をしてみよう」

露店商「何？」

闇医者「色々と伝承やら伝説にあるだろう、所謂弱点が。手軽に試せるヤツをやってみて、対処方と対策方を知るのさ」

盗賊「銀、日光、他にどんなのがあんの？」

闇医者「そうだな……大蒜、流水、十字架、炎。後は鏡に映らない、招かれないと家に入れない、なんてのもあったか。で、銀に日光……」

露店商「ハ、もういいだロう」

闇医者「いやそうもいかない。鼠、その銀髪の吸血鬼にお前はトドメを刺せたのか」

盗賊「え……いや、わかんないけど。逃げんのに必死だったし」

露店商「奴ハ死んでいナい。聞こえたンだ、悪魔のようナ声で『畜生にも劣るどぶ鼠め』ト言っていたノが」

乞食「うへえ……」

盗賊「おっぱい揉まれたくらいで何をそんな……何百万年モノの処女な訳？」

乞食「そこじゃねえだろ」

闇医者「とにかく、ならば弱点には"程度"ってものがあるんだろ……」

露店商「……………………まサか」

闇医者「冗談だ。さあ始めよう、現代医学がどこまで通ずるのか、俺も気にならないと言えば嘘になる」ﾆﾔﾘ

闇医者の診療所兼自宅

二階 書斎


乞食「……ほーん。じゃああんまり使ってねーのか、コイツ」ｺﾝｺﾝ

ラジオ『』ｼｰﾝ

盗賊「さっきなんか勝手に喋りだしたんだよ？　ボッさん待ってる間に休憩すんのはいいけど、俺ぶっちゃけコイツがいつまた喋りださないかビクビクしてんだ」

盗賊「直接言い当たった話はいまんとこ無いけど、それがまた不気味でさ。剣術真剣に覚えてみようかな……けど佩くと邪魔んなんだよな」

盗賊「つーかさ、なんか疫病神な気がしてきたよ。こっちのと交換しちゃおっかな」ﾎﾟﾁ


普通のラジオ『――えー、では続いてのお便り……PN"ジワタネホより愛を込めて"さんから』

普ジオ『ジワタネホって何？(笑)「いつも楽しく聞いてます」どうもありがとう！　「リクエストは僕が相棒と共に第二の人生を歩むことになったそのきっかけの曲です」おおー第二の人生頑張って！』

普ジオ『曲は、フィ――』ｻﾞｰｻﾞｻﾞｻﾞｻﾞｻﾞ


乞食「……途切れちまった」

盗賊「あれ、調子悪いのかな……じゃあいーや」

乞食「じゃあって何だよ」

盗賊「僕は盗賊だぜ？」

乞食「センセイのモンに手ぇ出すのは許さねえぞ。……なあ、もういっそのことハンターの支部とやらにでも駆け込んだらどうなんだ」

盗賊「はあ？　マジで言ってんの」

乞食「ナイフは得意なんだろ？　自前のそいつが通用しねえってんなら用立てて貰えやいいじゃねえか」

盗賊「自前って、これ？　カランビットってゆーんだよ、いい加減名前覚えな」ｼｬｷﾝ

盗賊「で……ハンターに、ね。……なんて言うんだよ。ウシ乳の話をすんなら、どうしたってボッさんのことが明るみに出ちゃうぜ」

盗賊「評判通りなら連中、撥ねたウシ乳の首の隣に撥ねたてホカホカのボッさんヘッドを並べて晒すぞ。きっと」

乞食「……」

盗賊「何その目。ほっときゃいいって？　やだよ」

乞食「けどよ」

盗賊「友達は助ける、絶対だ」

盗賊「誰であってもね。おっさんがボッさんと同じ立場でも、俺はそうするよ」

乞食「……ガキめ」

盗賊「それにね、全部が全部友達だからって訳じゃないし」

乞食「……そうだろ」

盗賊「ボッさんがチョンパるじゃん？」ﾁｮｰﾝ

盗賊「商会怒るじゃん？」ｶﾞｵｰ

盗賊「でもヴァンパイアハンターには勝てないじゃん？　バックが国教だし」ﾁｰﾝ

盗賊「商会めっちゃ怒るじゃん？」ｼｭｲﾝｼｭｲﾝｼｭｲﾝｼｭｲﾝ

盗賊「そもそもの原因を探すでしょ？」ｷｮﾛｷｮﾛ

盗賊「だーれだ」

乞食「お前」

盗賊「俺はラジオとじーさんが怪しいと睨んでる」

乞食「真実はない」

盗賊「うん、で多分許されることもない」

乞食「そういうことか……」

盗賊「……まあ、なるようになるって。今までこんな大事に巻き込まれたことなんかない、生まれて初めての大仕事だよ！」

乞食「最終的にどうするんだ」

盗賊「変わらないよ、銀の剣を盗む。……けど、なんか出費が嵩みそうな気がするからね、この仕事。もう一つ決めたよ」

乞食「？」

盗賊「せっかくなら全部盗む」

乞食「全部って……」

盗賊「ヴァンパイアハンターの剣だよ」


ｻﾞｯ


盗賊「何本あるのか知らないけど、元取れるくらいは稼ぎたいからね。溶かして、インゴットにして、故買屋に売る」

乞食「買う奴、いるかね……捌けねーだろ」


ｻﾞｻﾞｯ


盗賊「まあ、ゴールだけとりあえず決めとけばなんとかなるって。……あれ」


ラジオ『――――――』ｻﾞｰｯ





安価下

『I7KGAOWDO』ｻﾞｻﾞｯ

『お前ん家の地下にもスゴイ剣あるけどな』ｻﾞｻﾞｯ


盗賊「……は？」

乞食「小僧の家？」

盗賊「前の空き家のことかな」

乞食「そこしか無えだろ。このタイミングで言われてもって感じだが……」

盗賊「時間はまだある。ボッさんは掴んだだけでケロイドだったんだ、ハリネズミ状態の奴ならどんだけって話さ。……っと」

乞食「来たか？」

盗賊「うん。貧乏そうな足音」

ﾄﾝ ﾄﾝ ﾄﾝ ﾄﾝ

ｺﾝｺﾝ

乞食「入ってくれ」

ｶﾞﾁｬ

ﾎｰﾑﾚｽA「よう。ジジィから貰って来てやったぜ」

ｼｭﾙ ﾊﾞｻｯ

盗賊「わあ、最新号だ！」

ﾎｰﾑﾚｽA「富裕街、中心街、貧民街、その他５エリアの地図。と、地下水道の地図最新版。この３年の間に新しく工事されたとこだって完璧よ」

盗賊「ふーん……へーえ……あ、ここ塞がったのね……でこっちが伸びてー……ほうほうほう」

盗賊「ん？」

乞食「どうした、めぼしいとこは無かったか？」

盗賊「ううん、それはめっちゃ見付かった。新しい通路ヤバいよ、吸血鬼の奴どころか王国軍の絨毯捜査からだって隠れられそうなポイントがざっくざく」

乞食「ならなんだ」

盗賊「地上の中心街と照らし合わせて……端っこの……ここ。番地見て」

乞食「知らない番地だが」

盗賊「元俺んちの隣」

乞食「ふーん？」

中心街 中流住宅地

元盗賊の家周辺


乞食『おいおい、休んどかなくていいのか』

盗賊『ちょっと行ってすぐ戻ってくるだけだよ！　気になってしょーがない』

乞食『木彫り野郎はどうすんだ』

盗賊『それまでには戻る！』ﾀｯ

乞食『ったく……ほらこれ持ってけ』ﾁｬｷ

盗賊『ああ、はは。ありがと』ｽﾁｬ



ｶﾂ ｶﾂ ｶﾂ


盗賊「ラジオのお導きってね」

ラジオ『……』

盗賊「(でもやっぱ不気味かな)」

盗賊「……お、見えてきた見えてきた」


犬「ワンワン！」

子供「待てー！　あはははは！」

母「あんまり遠くへ行っちゃ駄目よ？」

子供「はーい！」


盗賊「(夫婦だけだと思ってたけど、子連れだったんだ。旦那さんは仕事中かな)」

盗賊「(俺は住んでたから知ってる。この家に地下室は"無い")」

盗賊「(けど、地図では明らかにここの下に空間があるような水道の通し方をしていた)」

盗賊「(あるんだ、隠し通路かなんかが。……管理が杜撰だったから住家にしてただけなのに、まさか灯台下暗しを地で行ってたとはね。仕事が上手くいかない訳だよ)」ﾔﾚﾔﾚ

母「～♪」

盗賊「(優雅に読書しながらティータイムですか。……あの奥さんトロそうだし、上手くやれば忍び込んだりもできるかな)」

盗賊「(どうやって調べようか……)」


ｻﾞｻﾞｯ


ラジオ『――――――』ｻﾞｯ





安価下

『EcwGrqUNo』ｻﾞｻﾞｯ

『奥さん無理矢理襲っちまえ』ｻﾞｰｯ


盗賊「また勝手に喋りだしたよ……しかもそんな時間ないって」

盗賊「つーか経産婦でしょ、今度は熟女趣味かよ。ないない」

盗賊「もっかいだけ聞いてみるかな……。方法は、考えとくか」ﾎﾟﾁ


ラジオ『――――――』ｻﾞｻﾞｻﾞ




安価二つ下

『mBRcBSIxo』ｻﾞｰ

『もうすぐ外出する。鍵は簡単に開くから忍び込め』ｻﾞｻﾞｯ


盗賊「忍び込むのはそうとして……外出？」


母「～♪……あら、もうこんな時間」ﾊﾟﾀﾑ

母「夕飯の支度をしなくちゃ……」ｽﾀｽﾀ


ｶﾞﾁｬ


盗賊「マジだった。やっぱムラあるな」

盗賊「ムラムラしてるし。……我ながら寒い」

盗賊「とにかくかかるか」ﾀﾀｯ

ｶﾁｬ ｶﾁｬ

盗賊「(鍵が新しくなってるな……けど最新のって訳じゃない。簡単過ぎて、目ぇ瞑ってても開けられるよ)」

ｶﾁﾝ

盗賊「お邪魔しまーす……さてと」

元盗賊の家 一階


盗賊「ああ、懐かしい間取り。新品の家具。余所んちの匂い！」

盗賊「リビング、キッチン、こっちは客間。二階もあって部屋数は十分。築が古いのと立地が微妙なんで扱いが悪かったけど、ホント済み良いとこだったなー……はあ」

盗賊「できればまた来たいから、証拠を残したくはない。けど、地下室があるかどうかは調べたい……どこからかかるかな」


ラジオ『』ｻﾞｯ


盗賊「おっと？」


『――――――』ｻﾞｻﾞｻﾞｻﾞｻﾞ



安価下

『階段の下の空間への隠し扉がある』ｻﾞｻﾞｻﾞ

『そこから地下へ繋がる』ｻﾞｻﾞｯ


盗賊「了解！」

盗賊「……ここか。どれどれ？」ｺﾂｺﾂ ｺﾂｺﾂ

ｺﾂｺﾂ ｺﾂｺﾂ ｺﾂｺﾂ

ｺﾂｺﾂ ｺﾂｺﾂ ｺﾂｺﾂ

ｺﾂ ｺﾝ

盗賊「！」

ｺﾝ ｺﾝ

盗賊「反響……手応えあり。……階段の最上段？　ほぼ二階じゃん……」

盗賊「踏み板が外せるようになってるみたいだ。よいしょっ」ｷﾞｯ

盗賊「……梯子？」

ｶﾝｶﾝｶﾝｶﾝ ｽﾀ

盗賊「一階部分の階段の空間……あった。隠し扉はこれだね」

ｶﾞﾁｬ
ｶﾞﾁｬ ｶﾞﾁｬ

盗賊「こっちの鍵は厳重だな……破るのに時間かかりそう。腰を据えてやらなきゃ難しいな」

盗賊「うん、確認は出来た。潮時だ」ｶﾝｶﾝｶﾝｶﾝ

ｶﾞﾊﾞ

盗賊「ふぅっ。馴れてるとはいえ、埃っぽいとこはやっぱり――」


少女「……………………」ｼﾞｯ


盗賊「好きじゃ、な、い…………うん……」

少女「…………」

盗賊「……こ、こんにちはー」ﾍﾗｯ

盗賊「(歳は10歳前後ってとこかな……吸血鬼みたいに肌が白くて、痩せてて、着てんのはパジャマ)」

盗賊「(読書家なんですか、お母さんに似て可愛くて利発そうな娘さんですね……物理学の参考書なんか読んでる、マジかよ)」

盗賊「(で、ご本を抱えたまま、穴の空いた階段から頭だけだしてる俺をじーっと見下ろして固まってる……ヤバい)」


少女「…………」

盗賊「…………」

少女「…………」

盗賊「…………」

少女「…………」

盗賊「…………」

ラジオ『――――――』ｻﾞｻﾞｯ

少女「……えっ？」

盗賊「あっ」





安価下

『孤児だが連れていくといい』ｻﾞｯ


盗賊「(どう見たってここの子だろ。引き取られたにしたって孤児とは言わなくない？)」

盗賊「(ていうかヤバいな……)」

少女「……それ」

盗賊「う、うん？　今何か聞こえたかな？　はははー」ﾖｼﾞﾖｼﾞ

少女「動かないで」ﾋﾟｼｬﾘ

盗賊「はい」ﾋﾟﾀｯ

少女「……質問に答えて。……見逃したげるから」

盗賊「……」

盗賊「(一瞬で飛び出して、悲鳴を上げられる前に口を押さえればいけるか？　いや、ここがバレちゃってるからな。口を"封じる"のが一番手っ取り早いっちゃそうだ)」

盗賊「(けど俺は盗人だ、押し込み強盗じゃない……殺しはやんない)」

盗賊「(どうする……)」

少女「……そのラジオ」

盗賊「ラジオがどうかした？」

少女「喋った」

盗賊「気のせいでしょ」

少女「すー……っ、けほけほ」

少女「ふぅ、……」ｽｰ ﾊｰ ｽｰ…

盗賊「息を溜めないで！　そ、そうだよ。よく分かったね凄いな」

少女「ちょうだい」

盗賊「えっ」

少女「くれれば帰してあげる」

盗賊「いや……それはちょっと、困る」

少女「分かった」

盗賊「いやいや待った！　違くて！　えっと、ほら、やっぱコイツに聞いてみなくちゃ分かんないから」

少女「聞いて」

盗賊「くそっ、生意気な……。頼むぜ、なんか気の利いたこと言ってくれよ」ﾎﾟﾁ


ラジオ『――――――』ｻﾞｯ




安価下

『すまんな、嬢ちゃん、俺はこいつに着いていくと決めたんだ』ｻﾞｻﾞｯ


盗賊「(……やるじゃーん)」

少女「……」

盗賊「てことみたいだから、悪いね」

少女「……そう」

盗賊「帰っていい？」

少女「…………」ｽｯ

盗賊「？　ああ、手、貸してくれんの？」ｸﾞｲ

少女「……」

盗賊「ありがと――」ｶﾞｼ


盗賊「(…………冷た!?)」ﾋﾞｸｯ


少女「……もう一度だけ聞くわ」ｸﾞ

少女「それを」ｸﾞｸﾞｸﾞ

少女「こっちに」ｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞｸﾞ

少女「渡して」ｸﾞｸﾞｸﾞｷﾞﾘｷﾞﾘﾐｼﾐｼ

盗賊「い゛っ……クソッ！」ｼｬｷﾝ

少女「？」

ｻﾞｼｭｯ

少女「いぁっ……！」ﾊﾟｯ ﾄﾞﾀ

盗賊「手の腱切った。勘弁してね」ﾊﾞｯ

少女「別にいいわ……」ｼｭｳｩｩ

少女「もう治ったから」ﾑｸ

盗賊「……勘弁して」ﾀﾞｯ

盗賊「あっちにもこっちにも吸血鬼かよ……！　今まで住んでたけどどーなってんのこの街!?」ﾄﾞﾀﾄﾞﾀﾄﾞﾀﾄﾞﾀ

少女「待って……」ﾄﾝﾄﾝﾄﾝﾄﾝ

盗賊「やだ！」ﾀﾀﾀ

少女「待って」ﾊﾞﾗｯ

ﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀｯ

盗賊「コウモリ!?　うわっ、纏わり付いて……！」

ﾋﾞﾀﾋﾞﾀﾋﾞﾀﾋﾞﾀｯ

盗賊「からの変身戻してベアハッグ!?」ｷﾞｼｯ

少女「話を聞いて……けほっ」

盗賊「うわっ」ｸﾞﾗｯ

ｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛ ﾄﾞｼｬｯ

盗賊「ぐえっ！　……離せ、やめろっ！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

盗賊「吸血鬼なんかになりたかない!!」

少女「けほ、吸わなっ、から……けほっけほっ」

少女「……かふっ！」ﾀﾗ

盗賊「へっ……？」

少女「けほっ……げほ、げほっげほっげほっ！」

少女「っえぅ……ぉえ」ﾋﾞｼｬ

盗賊「今だッ……」

少女「待っ、けふっ」


ｶﾞﾁｬ


盗賊「い゛!?」


母「私ったら、お財布を忘れるなんて……」


盗賊「おいウソだろっ」

盗賊「(ホントにトロかったよ！　しかもなんでこっち来んだ!!)」

少女「…………」

母「あら、そういえば鍵が開いてるわね。……え？」ﾋﾟﾀ

盗賊「っ……！」

少女「……ママ」

母「あっ……あなた、誰！　私達の娘に何をしているの!?」

盗賊「チクショウ、やむを得ないかっ」ｼｬｷ…

少女「っ！」ｶﾞｼ

盗賊「!?」

少女「話を、合わせて……」ﾎﾞｿ

盗賊「何だって……？」

母「か、か、傘立ての裏……あった、ショットガンっ」ﾀﾞｯ

母「い、今すぐ娘から離れなさい！　挽き肉にしてうちのワンちゃんの晩御飯にするわよッ!?」ｼﾞｬｷｯ

少女「けほっ、マ、マ……」

母「娘は病気なの！　血を吐いてたでしょうっ。それなのにも構わず、攫おうとした上に乱暴したのね!?　血まみれの服が証拠よ!!」

少女「違うのっ……」

母「もう大丈夫よ。さあこっちに来なさい。……あ、あなたを[ﾋﾟｰｰｰ]わ。こ、こっ殺してやるッ!!」

少女「ママ、話を聞いてっ！」

母「えっ……？」

盗賊「(どーするつもりだ……)」

盗賊「(ていうか早く退いてよ、乱暴されてんの俺でしょこれ)」


少女「違うの。けほ、彼は……私の、私の友達で」ｾﾞｴｾﾞｴ

少女「遊びに来てくれていたの……。けほ、けほっ、今だって、階段から落ちそうだった私を、けふ、助けてくれて……」ﾊｧ ﾊｧ

少女「勝手に家に入れた、っけふ、ことはっ、謝るわ。紹介、しなかったことも」ﾌｩ ﾌｩ

少女「だからっ……ぇほっ！」

母「分かった、もう分かったから！　無理に喋らないで！」ｶﾞﾁｬﾝ

盗賊「(投げ捨てんな！　暴発したらどうすんだよ奥さん！)」ﾋﾞｸｯ

母「早くベッドに戻りましょう。すぐにお医者様を……」

少女「彼に……手伝って、貰うわ。いいでしょ？」ﾖﾛ…

盗賊「う、うん……」ﾑｸﾘ

母「でもっ……」

少女「けほっ……ママは、お医者さんを呼んできて。彼は、場所を、知らないわ。大丈夫よ、けほ、慌てなくて、いいから……」

母「す、すぐに呼んで来るからね！」ﾀﾀﾀｯ


ｶﾞﾁｬ ﾊﾞﾀﾝ


盗賊「……」

少女「行き、ましょ」ｹﾎ

盗賊「血ィ、補給しない？」

少女「しつこい、男は、嫌われるのよ」

盗賊「……分かった」

少女「それに、踏み板も直さなきゃ。……でしょ？」

盗賊「ご親切に……」ﾖｲｼｮ

元盗賊の家 二階

病少女の部屋


盗賊「吸血鬼一家、って訳じゃないんだ」

病少女「……私だけ」

病少女「ママも、パパも、弟も、ジェリー・リーだって、私がそうなのを知らない」

盗賊「ジェリー・リー？」

病少女「飼ってる犬」

盗賊「なんか警察犬みたいな名前だな……」

病少女「……そうね」

盗賊「……で、カマトトぶって病人ごっこをやってる訳か。お母さんトロくさそうだけど良い人そうじゃん」

盗賊「下賎な人間共の群れに紛れて飲む血は美味いかよ。え？」

病少女「私は……人間よ」

盗賊「人間？　へえ！」ﾊｯ

盗賊「肌が蛆虫みてえに白くて、八重歯がおっかなくて、細っこい癖に骨を軋ませるくらいの握力があって」

盗賊「ちょん切られた腱がたちどころに回復する上に道端にほっとかれた死体みてえに冷たい手ぇしてて」

盗賊「おまけに蝙蝠に変身して階段下りる"年下"の年上のガキに病人タックルかませるよーな奴を、お前の尺度じゃ人間って言うんだ、へぇー」

病少女「違う！」

盗賊「何が違うんだよ」

盗賊「俺の友達をてめえらの仲間にしやがった、ババァみてえな銀髪の吸血鬼だってお前の仲間なんだろ？」

病少女「……えっ……」

盗賊「やっぱそーか」

病少女「あの人に、会ったの？」

病少女「けほっ……どこで」

盗賊「教えてあげたいけど、俺は殺されちゃうんでしょ？　墓場まで持ってくわ」

盗賊「やれよ、今までみたいに」

病少女「……」

病少女「怖いの？　……けほっ」

盗賊「白々しいんだよその咳ッ!!」ﾁｬｷｯ!

病少女「病気は、本当よ。嘘なんてついてない」

病少女「誤解してる。けふっ、吸血鬼は、無敵なんかじゃない」

病少女「時間が止まるだけ」

盗賊「はぁ？」


◆

◆


貧民街 集合住宅地

闇医者の診療所 二階書斎


ｶﾞﾁｬ

乞食「おう、終わったのかよ」

露店商「……酷い目ニ遭ッた」ｹﾞｯｿﾘ

闇医者「おかげで色々とはっきりしたんだ、有り難く思え。……鼠はどうした？」

乞食「旧邸宅に飛んでった、すぐ戻って来るとさ。あいつの"すぐ"は信用ならねえけどな」

乞食「なんか凄え暴れる音とか聞こえたが、まさか吸血鬼がもう一匹増えましたってオチじゃねえだろうな」

闇医者「善意の臓器提供者用拘束具を使った。こいつが完全に正気を失えば玩具も同然だったろうが、そこは裏社会に住まう人間の面目躍如といったところだ」

露店商「舐めて貰ってハ困る。……マあ、気ヲつけなければならないだろうガね」ﾌﾝ

乞食「日光なら、ねーちゃん吸血鬼みてえにフード被れば解決なんじゃ？」

闇医者「違う。血だ」

乞食「血ぃ？」

露店商「新鮮ナ血の匂いヲ嗅グと、アル中にとっての酒ノ比ではナい、尋常ならざる誘惑ニ駆られるンだ。首筋ニ噛み付きたくナる」

露店商「自分のは問題ないのガまたくせ者デね。人として生きるナら、これは最重要課題と言えるだロう……まっタく」

闇医者「伝説も概ね正解だった。十字架はなんてことなかったが、大蒜は劇毒、流水で爛れ、炎は日光と似た症状、鏡に映らない、招かれなきゃ入れない」

乞食「招かれてただろ」

露店商「クローゼットで試シた」

乞食「……」ﾍﾗ

露店商「何ガ可笑シい」

乞食「いや別に」

闇医者「とりあえず、その辺を鑑みてこんな物を作ってみた」ｺﾄ ﾄﾞｻ

乞食「普通の銃弾……か？　と、こっちの瓶に入ってるのは何だ」

露店商「燐だ」

乞食「マッチのあれか」

闇医者「弾頭に燐を塗り付けた。撃ち込めば燃え移るやも知れん」

乞食「ほう……」

闇医者「試してないがな」

露店商「是非ニ試したイね」ﾁｬﾗ

乞食「そうか！」

露店商「殺されたイか？」

闇医者「嘘か本当か知らんが……荒野を開拓していた連中が、現地の遺跡に祟られて国境周辺の一帯がゾンビだらけになった事件があった」

闇医者「その時、薬草から抽出したこいつでコーティングされた弾を撃ち込まれたゾンビ共は青い炎に包まれ悶え苦しんだという。奴らの根絶へ大いに貢献したんだそうだ」

乞食「本当かよ……」

闇医者「銀の弾丸よりは安上がりだ。それに、基本的には対面した時点でまず命はない。お守り程度に考えておけ」

露店商「頼もしいことダな……いや、今の私にハ恐ろしいノか？」

闇医者「撃ち込む日が来ないことを祈る」

露店商「アあ。……しカし、なってみるとそれ程超人的にハ思えないものダな」

乞食「例えば？」

露店商「実ハ私は虫歯なんダが、手傷はすぐさま再生ヲ始めル癖して、これガ一向に治らないンだ」

乞食「詰め物外せばいいんじゃねえのか」

闇医者「虫歯だと？」

露店商「治せなイか」

闇医者「いや……お前。危なかったな」

露店商「何ガだ」

闇医者「そいつが銀歯だったら……」

乞食「あっ……」

露店商「……見ていなイが、違ウ、ということだヨな。こレは」

闇医者「多分な」

乞食「しかし、それなら不老不死じゃあないってことなのか」

闇医者「……いや、恐らくこれは――」


◆

◆


病少女「吸血鬼になった時点での状態がずっと続くの」

病少女「殺されない限りね。……けふ、けほ」

盗賊「つまり、お前は病気してる状態で誰かに血を吸われたのか。それで、その状態が"普通"になったからずっと治んないと」

盗賊「いつから？　お母さんが怪しんでないってことは、年上の女の子ってセンは消える筈なんだけど」

病少女「ごく最近よ。一人ぼっちになりかけたところを、あの人に助けて貰ったの」

病少女「私を、夜に匿ってくれた……」

盗賊「……詩的な言い回しだね」

病少女「嫌い？　私は好き」

病少女「前まではちょっと恥ずかしかったけど、今はなんてことないわ」

盗賊「……」

病少女「家へは、何をしに来たの」

盗賊「前、ここに住んでた。忘れ物を取り来ただけ」

病少女「剣なら無いわよ」

盗賊「……知ってたの」

病少女「あの人が回収したわ」

病少女「けど外れだったみたい。放置して、それからずっと、探しているわ」

盗賊「それって……」

病少女「"答える"、宝物」

病少女「あの人はいつも"秘宝"って呼んでた」

盗賊「秘宝……」

ラジオ『……』

盗賊「こいつが？」

病少女「……」

病少女「……あの人も見たことはないんだって。だから、それが本当にそうなのかは分からない」

盗賊「じゃあ違うよ」

病少女「どうして分かるの」

盗賊「違って欲しい」

病少女「何それ」

盗賊「持ち主は俺だ。俺がそう思ってる。だから違う」

盗賊「こいつはそんなでもないけど、こいつを俺にくれた人は俺の恩人なんだ。恩人が大事にしてたもんをはいそーですかと簡単に渡せやしない」

盗賊「俺は……鎖で亀甲縛りにして日光浴さしてやりたいけど。銀ピカのやつで」

盗賊「君だってあの銀髪のこと好きなんだろ。なら分からない？」

病少女「……」

盗賊「……」

病少女「……分かる」

盗賊「でしょ。……ん、そっか」

病少女「何？」

盗賊「君、人間だね」

盗賊「ちょっと蝙蝠に変身できるけど。酷い事言ってごめん」

病少女「……いいの」

病少女「私の方こそ――」


ﾄﾝ ﾄﾝ ﾄﾝ ﾄﾝ

ｺﾝｺﾝ


母「お医者様を呼んできたわ。入るわよ？」

病少女「……」

盗賊「……そんな目で見なくても大丈夫だって」

盗賊「くくく」

病少女「えっ？」


ｶﾞﾁｬ

掛かり付けの医者「血を吐いたと聞きましたが……」

病少女「もう、落ち着いてきました」

掛付医者「……こんなに汗をかいて。いいですか、この病は魔法の力を以てしても現在の医術では太刀打ちできませんが――」

掛付医者「安静にさえしていれば発作が起こることはないんです。お母さん」

母「はい……」

掛付医者「お嬢さんも。いくらあなたが幸運の持ち主であるとはいえ、絶対安静だと言った筈ですよ？　それを……」ﾁﾗ

盗賊「……」ﾆﾍﾗ

病医者「(……なんでニヤけるの)」

掛付医者「あー、オホン。君は」

盗賊「どーも初めまして。お母さんも」

盗賊「娘さんとお付き合いさせて貰ってる者です」ｷﾘｯ

母「えっ？」

病少女「ちょっ」

掛付医者「おやおや」

盗賊「すいません挨拶が遅れて。病気のことは知ってたんですが、彼女がどーしても俺と一緒に外の景色見たいって駄々こねるもんで、折れちゃって」ﾍﾟﾗﾍﾟﾗ

盗賊「無理してでも止めるべきでした、本当にごめんなさい」

病少女「や、何言って」

盗賊「ホントにごめんな……。君のこと一番に考えんならそーするべきだったのに」ﾍﾟﾗﾍﾟﾗ

盗賊「でもさ、いい？　あんな風にガっついてお願いするのはもうやめてよ？　俺困っちゃう」ﾍﾟﾗﾍﾟﾗ

盗賊「心配しなくたって、君を子供扱いしたりなんかしないからさ」ﾆｺ

盗賊「(マセガキ)」口ﾊﾟｸ

病少女「何言ってるの!?」

母「」ﾎﾟｶﾝ

掛付医者「お嬢さん、落ち着いて。恥ずかしがることはありませんよ、最近の子なら……」

病少女「だから違っ、そんなんじゃ」

盗賊「それじゃまた来んね、今日はもう安静にしてるんだよ！」

盗賊「宝物の話は今度しよう。次は、ラジオ聞かせてあげるから」

病少女「！」

掛付医者「君、そっちは窓……」

盗賊「カーテン開けないようにっと……お邪魔しました！」ﾊﾞｯ

掛付医者「飛び降りっ……!?」ﾀﾀﾀ ｶﾞﾊﾞ

掛付医者「……いない！　まるで軽業師だ……」

病少女「あ……」

病少女「(名前、聞いてなかった)」

掛付医者「いやはや……あんなに凄い彼氏さんをお持ちでしたとは」

病少女「……その」

母「……に」ﾌﾞﾂ

病少女「え？」

母「……パパに、何て話そうかしら……うちの子が、少し年上の子を招き入れて……あ、あ、あ、汗だくになるくらい、なんてぇ……」ﾌﾞﾂﾌﾞﾂ

母「ああ……」ﾌﾗﾘ

掛付医者「お、お母さんしっかり！」

病少女「ああ、またママのはやとちりが……」

掛付医者「大丈夫ですよお母さん！　お嬢さん確認しますが、健全なお付き合いなんですよね？　ね！」

病少女「(やっぱり晩御飯になって貰えばよかった……!!)」ﾋﾞｷﾋﾞｷ




盗賊「足くじいた。ちょっとカッコつけ過ぎたかな」ｽﾞｷｽﾞｷ

盗賊「改めて考えると……うっわ、恥っずかしー。恥ーっずかしー。恥ーずーかーしぃー！　仕返しだからって調子乗ってんじゃねえよバーカ！」ｶﾞﾝｯ

盗賊「痛い……」ｼﾞｰﾝ

「あの男の子何やってるの？」
「壁に頭ぶつけてたぞ。痛そうだ……」
「見慣れない格好ね……貧民街から来たのかな？」
「もしかして泥棒？」

盗賊「(あーもうヒソヒソヒソヒソ、そんな話し方じゃ丸聞こえだって。貧民街でやったら喧嘩の特売だよ！)」

ラジオ『……』

盗賊「はあ。……あそうだ、ごめん相棒。お持ち帰りは無理でした」

盗賊「つーか俺ちゃんとした女の子とまともに話したことなんてないからさ。盗みと嘘八百とナイフしか取り柄無いから。あとポーカーフェイス？　あー、それは嘘の範疇に入るかな」

盗賊「秘宝とか言われてたけど、秘宝様から見た感じどーだった？　俺。鍛えればモテモテんなれそう？」

ｻﾞｻﾞｯ

ラジオ『――――――』ｻﾞ



>>56

しまった外れてない

それで良い、あの娘は後にお前に幸運をもたらす。秘宝には触れるな我が身に災いをもたらし街にも大災害が起きる

『それで良い、あの娘は後にお前に幸運をもたらす。秘宝には触れるな我が身に災いをもたらし街にも大災害が起きる』ｻﾞｻﾞｯ



盗賊「幸運！　……嫌われたような気ぃするけど、好感度と物の成り行きってのは違うよね。それよりも、秘宝に触れるなってどういうこと？

盗賊「あんたがそうなら、俺もう存分に触れ合っちゃってない」

ラジオ『』ｼｰﾝ…

盗賊「だんまりか。もっかい聞いて……みなくていいや。なんか聞くの怖い」

盗賊「もういい時間だし、一先ず帰ろう。こっからなら地下水道使った方が早いかな」

盗賊「帰る頃には夕方だろうね。……時間まで寝てよ」ﾀｯ

貧民街 地下水道出口

件の場所近くの建物屋上


露店商「時間ハ」

盗賊「うん……」ｺﾞｿ ﾊﾟｶ

【01:56】ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

盗賊「……4分前弱」ﾊﾟﾀﾑ ｺﾞｿ

露店商「良い子ハ寝ル時間だ」

盗賊「よかった。悪い子に会い行くんだから、巻き込んじゃ可哀相だよ」

露店商「その甘さハ本当に気に入らなイよ……。それさえ無ければ悪党として一皮剥けるというノに」

盗賊「これから朝までに目に入った奴は全員悪い子だから巻き込んでも平気だねって意味で言ったんだけど」

露店商「嘘ヲ吐け」

盗賊「はははー」

露店商「まっタく……」

露店商「！　向こウだ」

盗賊「来たの？　……大分遠い、屋根の上？」

露店商「昼間のようニよく見えるし聞こえルよ」

露店商「そレに、何より感じるンだ」


…………ﾊﾟﾀｯ……


露店商「忌まわシい、同族ノ気配を……！」ｻﾞﾜ


ﾊﾟﾀ ……ﾊﾟﾀﾊﾟﾀｯ


盗賊「やっぱ来たか……羽音！」

露店商「銃ヲ構エろ。来ルぞッ！」


ﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀﾊﾟﾀ

ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯｯ


盗賊「なんつー数っ！　熟女は違うね！」
「誰が熟女ですって、エロ餓鬼」ｷｨｷｨｷｨｷｨｷｨ

盗賊「どこだッ！」ｼﾞｬｷｼﾞｬｷｯ

「上に前に右に左。見えませんか？」ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞ

銀髪女「あと後ろです」ｼｭﾊﾞｯ

露店商「分かってイる」ｼｭﾊﾞｯ

ﾄﾞｺﾞｫｫｯｯ

銀髪女「……生きてらしたとは。それに、悪運もいいようで」ｸﾞｸﾞｸﾞ

露店商「余裕綽々、ダなッ……」ｸﾞｯ…

銀髪女「驚いてはいますよ。ですがそれ以上に不快でなりません」

銀髪女「来ますか、こちらに？　そこでアキンボをやっている餓鬼鼠を差し出せば便宜を図って差し上げますよ……おや？」ｷﾞｼｯ

露店商「何テ怪力だッ……」ｶﾞｼｨｯ

銀髪女「はあ……貴方まで性欲を持て余しているんですか」ﾊｧ

露店商「間に合ってイる。今だ鼠ッ!!」

盗賊「(信じてんよセンセイ！)」ﾁｬｷｯ

ﾄﾞﾝﾄﾞﾝｯ

ﾊﾞｽｯ

銀髪女「……また性懲りもなく銃」ﾂｩ…

盗賊「…………」

銀髪女「しかも一発外したんですか？　ふふ、素人が格好付けてやるものではありませんよ」ﾍﾟﾛﾘ

盗賊「……」

ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

露店商「蝙蝠ニ！」ｽｶｯ

銀髪女「何とか言ったらどうです」ｽﾞｲｯ

盗賊「(あんのヤブ医者ー!!)」ﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝｯ

ﾊﾞｽｯﾊﾞｽﾊﾞｽﾊﾞｽｯ

ﾎﾞｯ

銀髪女「!?」ﾒﾗ

盗賊「燃えたっ！」

露店商「セい!!」ﾄﾞｶﾞｯ

銀髪女「ぐっ！　銃創から、青い炎……？」ﾁﾛﾁﾛ

盗賊「気分いーね。あんた達と腐った死体が同列の生き物だっつーことがこれで証明されたって訳だ」

銀髪女「腐った死体……成る程、これは燐ですか。無い知恵を絞って考えたと……？」ﾒﾗﾒﾗ

銀髪女「それに……」ﾁﾗ

盗賊「(路地の方を見た？)」ｶｼｬ ﾁｷﾁｷﾁｷﾁｷ

銀髪女「……少々、侮り過ぎていましたか。これは本気でかからなければならないようです」

銀髪女「問い質す必要も出てきましたし。貴方達の素性について」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ

盗賊「問い質す……？」ﾁｷ ｶｼｬﾝ

ｿﾞﾜｯ

盗賊「(寒気？)」ﾌﾞﾙ

銀髪女「はぁぁぁあああ……！」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ

露店商「こノ感覚ハ……魔法か！」

銀髪女「喰らいなさい……!!」ｶｯ

ﾋﾞｷﾋﾞｷﾋﾞｷﾋﾞｷﾋﾞｷﾋﾞｷ

盗賊「屋上が、凍っ――」

露店商「クっ」ﾀﾞｯ

ｸﾞｲ

盗賊「ボッさ……四階建ての屋上だよここ!?」ｶﾞｼ

露店商「捕まってイろ！」

盗賊「絶対放さないでよ！」

ﾀﾀﾀﾀﾀ ﾀﾞﾝｯ

盗賊「うわあああああああああ!!」

ﾄﾞｼｬｱｯ

露店商「グ……足がっ……」ﾋﾞﾘﾋﾞﾘ

盗賊「い、生きてる……」ﾄｯ

銀髪女「そのようですね、安心しました」ｷｨｷｨｷｨｷｨ ﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞ

盗賊「！！！」

露店商「後ロに!?」

銀髪女「遅い」ﾋﾞｭｵｯ

ｽﾞﾌﾞｼｬｯ

露店商「……カ…………っ」

銀髪女「ほら。ほら」ｸﾞﾘ ｸﾞﾁｬ

露店商「ぎぃあッ……!!!!」

銀髪女「どうです？　土手っ腹に穴を開けられ、手で直接内臓をこね回される気分は。ああ、心配せずともこんなものでは吸血鬼は死ねませんよ？」ｸﾞﾁ ﾐﾁ

盗賊「何度も言わすな、放せ！」ﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝｯ

銀髪女「喧しい」ｺｫ

ﾋﾞｷﾋﾞｷﾋﾞｷｯｯ

盗賊「銃が！」ﾋﾟｷｰﾝ

銀髪女「何度もやらせないで下さい」ｸﾞｯ…

銀髪女「おっと、手が滑った」ｸﾞﾁｭｱｯ

露店商「っッッ……ッ……」ｶﾞｸ

銀髪女「……気を失いましたか。胃を握り潰されて叫ばなかった者は初めて見ました」

銀髪女「さて」ｸﾙ

盗賊「…………」ｷﾞﾛ

銀髪女「そんな顔をして。誘っているんですか？　咽が渇くじゃないですか。……それは後にして」

銀髪女「貴方、どこの手の者ですか？」

盗賊「は？　俺の手は俺のモンだよ」

銀髪女「そう。まあこれは愚かな質問でしたね」ｺｫｫｵｵ

ﾋﾟｷﾋﾟｷﾋﾟｷﾋﾟｷﾋﾟｷ

盗賊「う、ぐあッ！」ﾋﾟｷ…

銀髪女「足を凍らせました。その氷の魔法は時間と共に貴方の体を侵食し、やがて氷像となる」

銀髪女「それからこのナイフで削っていきます。私が。指の先から丁寧に。シャーベットの骨格標本になるまでね」ｼｬｷﾝ

銀髪女「駄目そうなら途中で血を吸ってあげましょう。貴方のは美味しそうですから、運が良ければ失血死せず吸血鬼になれますよ。ふふふふ」

盗賊「……趣味悪。あんた、生涯独身だね。ぐっ」ﾋﾟｷ…ﾋﾟｷ

銀髪女「では貰ってくれませんか。私は尽くしますよ、料理はご覧の通り得意でしてね」

盗賊「青田買いかよ、いよいよって感じだな……」ﾋﾟｷ

銀髪女「……質問はただ一つ。どうやってこの時間、この場所に私が来ることを知っていたのか？　それだけです」

盗賊「(……つまり、ハンターと遭遇する筈だったのか……そろそろなんだけどまだかな)」

盗賊「何言ってんの……」

銀髪女「……」ｺｫ

盗賊「ぐぅぅあッ」ﾋﾞｷﾋﾞｷﾋﾞｷ

銀髪女「二度は言いません」

銀髪女「答えろ」

盗賊「…………へ、どーするかな」


ｻﾞｯ


銀髪女「……おや」

盗賊「！」


ラジオ『――――――』ｻﾞｻﾞｯ





安価下

『今夜の予報です、突発的に雨、ところにより雷雨になるでしょう』ｻﾞｻﾞｯ


銀髪女「……」

盗賊「(そう、こいつはコレがお喋り野郎だってことを知ってる。質問は暗に確かめに来てるんだ)」

盗賊「(ナイスアシスト……か？　口八丁を添えなきゃな)」

銀髪女「何です、今のは」

盗賊「ああ……これのこと？」ｺﾞｿ

盗賊「……調子の悪いラジオでさ。勝手にスイッチ入るし、チャンネルはメチャクチャだし……」

銀髪女「天気予報でしたね。今夜、私は出歩けないようですが……はて、今何時でしたっけ」ｸﾞｲ

盗賊「触んなっ……」

銀髪女「秒針の音が聞こえたもので」ﾊﾟｶ

【01:58】ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

銀髪女「こんな時間に天気予報？　……お返しします。ああ美味しそうな首」ｺﾞｿ

盗賊「別の地方の放送でも拾ってんだろ」

盗賊「(５分前行動って言葉を知らんのか！)」

銀髪女「成る程。では」

銀髪女「昼間、話し掛けていたのは何故です？」

盗賊「…………それは」

銀髪女「最初は単におやつのつもりで貴方に目を付けたのですが……同時に微弱な魔力を感じた。ええ、ラジオというものは魔導の道具ですからそれは当たり前です」

銀髪女「しかし、人気のない場所だったとはいえ、ラジオに話し掛ける人間はそうは居ません」

盗賊「……恥ずかしいとこ見られちゃったな」

盗賊「ない？　そういうの。好きな曲とか好きな人とか、出てたら興奮すんの。好きな人が出てたんだよ丁度」

銀髪女「それはそれは……ふふ」

盗賊「ふふ」

銀髪女「ふふふ」ｺｫ

盗賊「い゛っ……！」ﾋﾟｷﾋﾟｷﾋﾟｷ

銀髪女「私も肖りたくなってきました」ｸﾞｲ

盗賊「っ……その前にこれ解け」ﾋﾟｷﾋﾟｷ

銀髪女「こんばんは。何か喋ってくれませんか？」

ラジオ『――――――』




安価二つ下

『盗賊は股間を呪われる』ｻﾞｻﾞｯ


盗賊「…………」

銀髪女「あら、それは災難ですね。こんな感じでしょうか」ﾌﾞﾝｯ

盗賊「っっ！」ﾋﾞｸｩ

銀髪女「冗談ですよ」ﾋﾟﾀ

銀髪女「汚らわしい」

盗賊「……そりゃそーだよ……基本汚いもんでしょ。俺のも、ボッさんのも、あんたのだって」

盗賊「ああ、あんたのは特に酷そうだよね。腐ってんじゃねーの」ﾍﾗ

ｺﾞｼｬ

盗賊「」ﾊﾞﾀｯ

銀髪女「死にましたか。……いや、息はある……揃って運のいいこと」ﾒﾗﾒﾗ

銀髪女「……熱い」ｺｫ

ﾋﾟｷﾝ

銀髪女「手こずらせてくれましたね」ｺﾞｿ

ラジオ『……』

銀髪女「やっと見付けましたよ。この街に流れた、という情報だけを頼りにどれだけ探したことか」

銀髪女「連中には楔の方を渡すとして……」

銀髪女「……」ｷｮﾛ

盗賊「」

露店商「」

銀髪女「……下僕は一先ず始末しました。そろそろ出て来てもいいのでは？」

銀髪女「同志よ」

「その、薄汚い格好をした二人が下僕ですって？」

銀髪女「訝るのが当然の流れというものです」

「ま、連中にはお似合いですわね」

「それよりも……」

ｺﾂ…

仮面少女「今、同志と宣いませんでした？」

銀髪女「何か問題でも？」

仮面少女「ええ」ｼｬｷﾝ

銀髪女「おや」ﾄﾝｯ

ｼｭﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞﾊﾞｯ

銀髪女「危ない危ない。聖銀の細剣は流石に洒落になりませんよ」ｻﾞｯ

仮面少女「……ッざっけんじゃねーですわ」ﾁｯ

仮面少女「次、また私と貴方との関係を同志だなどと吐かしたら、切り刻みますわよ」ﾋｭｯ ｷﾝ

仮面少女「剣で挽き肉が作れるということを思い知らせてやりますわ」

銀髪女「肝に銘じます、お嬢様」

仮面少女「チッ……」

仮面少女「それで」

銀髪女「見付かりました。持ち主も分かりました」

仮面少女「それで」

銀髪女「手に入りましたよ」ｽｯ

ラジオ『……』

仮面少女「それが秘宝？　私にはボロいラジオに見えましてよ」

銀髪女「秘宝としての名を"福音"と言います」

銀髪女「時に最良の道を、時に最悪の道を示し、因果をも曲げ、様々な人、国、世界、一説には次元の壁をも越え渡ってきたという、伝説の秘宝です」

仮面少女「……ラジオが」

銀髪女「時・場所・場合に合わせ、様々な姿を取るようです。今回はラジオだったというだけで、形を取った場合は像や精霊など、印象的な物に変じて顕現するそうな。文献に登場する際はむしろ"ただの声"として扱われていることの方が多い」

銀髪女「たった一発で国一つを滅ぼす雷。人を思うがままに操る幻覚。凄まじい力の伝説を残す秘宝は数ありますが、あらゆる場所にその影響が疑われるという意味でこれに勝る秘宝はありません」

仮面少女「嬉しそうですわね」

銀髪女「それはもう」

仮面少女「それが本物かどうかも定かでないというのに」

銀髪女「そこで転がっている彼らがいるじゃありませんか」

仮面少女「……？」

銀髪女「私も貴方も情報を漏らしていないのなら、彼らがこの談合を見破った方法は一つしかありません」

銀髪女「福音から聞いたのでしょう。さしずめ、『裏切り者の場所はどこか』とでもね」

仮面少女「便利ですこと……」

盗賊「(……裏切り者……？)」ｽﾞｷｽﾞｷ

盗賊「(話が見えてこないな……くそ、頭ガンガンする……頼むから気絶しないでよ、俺……)」ｽﾞｷｽﾞｷ

ﾋﾟｷﾋﾟｷ

盗賊「(これまだ続いてるし……さて、どーする……)」ﾋﾟｷﾋﾟｷｽﾞｷｽﾞｷ


銀髪女「支部長さんは？」

仮面少女「手練れを連れ立ってまだ隣国へ出張中でしてよ。二日前、四つ目を潰したとの経過報告が来たところですわ」

仮面少女「貴方に謝辞を、とも。……フン、支部長はお人善しが過ぎますわ」

銀髪女「恐悦至極」ﾌﾌ

仮面少女「調子に乗らないで下さいまし」

銀髪女「とんでもない。ともあれ……いかに吸血鬼憎しの一念で動く貴方でも、これで味方に吸血鬼がいることのメリットは理解して頂けたでしょう」

仮面少女「腹立たしい……ムカつきますわ。期間限定とはいえ、目の前で飛び回るゴキブリを斬り殺してはならないだなんて」

銀髪女「分かっているじゃありませんか。その割にさっきのは本気のようでしたが」ｸｽｸｽ

仮面少女「手を抜いたんですのよ」

銀髪女「ふふふ」

銀髪女「くく……ははははは」

仮面少女「……何を笑ってやがるんですの」

銀髪女「貴様の愚かさをだよ」ｼｬｯ

仮面少女「ッ!?」ﾊﾞｯ ｼｬｷ

銀髪女「はッ！」ﾊﾞｼｯ

ｶﾗﾝ ｶﾗｶﾗ…

仮面少女「このッ……！」

銀髪女「私の豹変に気付き、細剣に手をかけ、狙いを定めんと目を泳がし、漸く後ろに回られたと知って重心移動。後は斬るだけ？」

銀髪女「遅すぎる。そこで寝ている見習い吸血鬼の方がまだ楽しめましたよ。そもそもそこまで毛嫌いしているのに何故常に柄を握りっ放しにしておかないんです？　マヌケにも程がある」

仮面少女「貴様ッ……!!」ｷﾞﾘｨｯ

銀髪女「支部長さんは私の教えた吸血鬼共の潜伏場所へ貴方を連れて行きませんでしたね。何故でしょう」

銀髪女「いえ、結論は出ている。自分が手練れでないことを理解しているだけまだ救いがあるんでしょうかね。で、ん、れ、い、さん」

仮面少女「……蝙蝠女がぁッッ!!!!」ﾊﾞｯ ｽﾁｬ

銀髪女「ははははははははは！」

ｼｬｷｨﾝ
ｼｭﾊﾞｯ ﾌﾞﾝｯ

盗賊「(……)」

露店商「…………グ、う……」ﾋﾟｸ…

盗賊「ボッさん目ぇ覚めたの？　……動かないで、奴らに気付かれる」ﾋｿ

露店商「動かなイさ、動けナい……」ｺﾌ

盗賊「よかった。……ぅぐ」ｽﾞｷ

盗賊「(……ウシ乳ババァブロンドに殴られたこめかみが血で湿ってきてる)」ｽﾞｷｽﾞｷ

露店商「……どうイう、状況なんダい……」

盗賊「(滴ったらマズいよねー。拭えるもん無いし)」

盗賊「腹ごなしが先みたいよ……ほら」ｸｲ


仮面少女「くたばりやがれですわッッ!!!!」

銀髪女「甘い甘いっ。それでは魅了の掛かった雑魚にだって勝てません」


盗賊「あっちのですわ仮面がハンター少女。話聞くとどうもグルみたい」

盗賊「吸血鬼がハンター側にね。あのウシ乳、銀満家に同族を襲わせてんだってさ」

露店商「…………本当ニ、どういう状況なんダい」

盗賊「……」

露店商「……あレが、仲間同士というナら……こいツは、王手か……？」

盗賊「(……ですわ仮面は殺す気でやってる。けど吸血鬼は、あれは手加減してるっつーかやる気ゼロだね。さっきっから躱してばっか)」

盗賊「(今さっき俺の意識を飛ばしてくれた黄金のストレートをぶち込めば、あんなお嬢チャンバラなんざ一発KOできる。なのにやらない……殺そうとしない)」

盗賊「(下僕……魅了……裏切り者……)」

盗賊「(それから、あの子……)」

盗賊「(導き出される結論は……ってね)」

ｸﾞｯ…

露店商「……オい!?」

盗賊「寝てて。んで祈ってて」

露店商「何ニだッ……」

盗賊「病弱少女に。幸運を齎すんだってさ。……読み違ったらごめん、一緒に死んで」

ﾑｸ ﾋﾟｷ

盗賊「ああ、これ忘れてたッ……膝立ちが限界かな」

盗賊「……今は寧ろ好都合だけどね」ﾁｬｷ



ﾄﾞﾝｯ

ﾊﾞｷﾞﾝ

銀髪女「！」

仮面少女「なッ……剣が！」

盗賊「窮鼠は獲物を逃さない。……あっやべ落とした」ｸﾙｸﾙｸﾙｸﾙ ﾎﾟﾃ

銀髪女「(撃てましたか……ハンマーはもう起きないようですが)」

銀髪女「(…………)」

仮面少女「はっ、はっ、……もう、起きて……。吸血鬼！　まさか手心を加えましたの!?」

銀髪女「口の利き方のなっていない餓鬼にそんなものを加える必要はありません」

銀髪女「ですが、まあ、その」

仮面少女「？」ﾊｯ ﾊｯ

銀髪女「先に吸ってきてもいいですか？　食欲が勝ったのでしょう、死人のは不味いんです」ﾍﾟﾛﾘ

仮面少女「本当、不潔……」

仮面少女「……そこの！」ｷｯ

盗賊「俺？　それともそこの平たい顔族？」

盗賊「あんたそっちに集中しててこっち見てなかったでしょ。もしかしたらボッさんが最後の力振り絞って撃っただけで、俺は哀れな目撃者かもよ？」

露店商「(ふざけルな!!)」死ーん

仮面少女「分かっていますわね。我らヴァンパイアハンターの聖銀剣を撃ち折ったとあらば、それは教会、延いては教皇に弓を引いたと同義」ｽ

盗賊「そのギラギラした装飾リボルバーは何よ……」

仮面少女「増して、神の寵愛を受けし人の身でありながら吸血鬼の従僕に堕するなど言語道断。祈る時間さえ惜しいですわ」ﾁｬｯ

盗賊「……ウシ乳！」

仮面少女「せめて懺悔し……え？」

盗賊「お前うっさい、人様に懺悔させる前に自分達の讒言を何とかしたらどーなの。……吸血鬼！」

銀髪女「何でしょう」

盗賊「俺もう死ぬってさ。最後にお話しない？」

銀髪女「話すことなどありません」

盗賊「あーあ、もう俺のこと嫌いになっちゃった？　昼間、中心街で年下の彼女が出来たって話なんだけど」

銀髪女「そうですか」

盗賊「凄く頭良いんだけど、病気がちでさ」

盗賊「お父さんとお母さんと弟と、飼い犬にも内緒にしてることがあんだって」

盗賊「あんたは知ってるよな。その秘密」

銀髪女「……………………」

露店商「(件ノ吸血鬼の少女ノ事か)」

露店商「(私達が虫歯デ時間の喪失を察したというノに、鼠が知った切欠ハ不治の病と来たかラな……例に並ぶのガ恥ずかシい)」

仮面少女「……何の話ですの？」

銀髪女「さあ？」

仮面少女「教えなさい」

銀髪女「何の事だか」

盗賊「(シラを切ったな……)」

銀髪女「……お嬢様。呼び出しておいて申し訳ありませんが、少し外して貰えますか」

仮面少女「私が目の前にいては話せないと。解釈は自由にして宜しいのかしら」

盗賊「いや、退場して貰う前に――」

仮面少女「口を慎みなさい」

盗賊「♪Oh there once was a hero named Ragnar the Red, Who came riding to Whiterun from ole Rorikstead」

盗賊「♪And the bragger did swagger and brandish his blade, As he told of bold battles and gold he had made」

盗賊「♪But then he went quiet,ディ」

ﾄﾞｷﾞｭｩﾝ ﾁｭｨｯ

盗賊「……渾身の一撃～……」

仮面少女「黙れと歌えの区別が付かないんですの？　永遠にこの世とおさらばしたいんなら素直にそう仰って下さいまし」

仮面少女「次は当てますわ」

盗賊「緊張解したげようとしたんだってば」

仮面少女「どうもありがとう。寛大なる主よ、異教徒の魂を救い賜え」ﾁｬｷ

銀髪女「さっきのを見たでしょう？　冗談が通じないタイプなんです」

盗賊「みたいね。とりあえずそこだけ誤解を解いとこうか」

盗賊「あのさ、俺達あんた達の敵じゃないから」

仮面少女「この期に及んで……」

銀髪女「……」

盗賊「ねー？　お・ね・え・さ・ま」ﾆﾔ

盗賊「(頷け。頷け。頷け)」ｼﾞ

銀髪女「……」

盗賊「(あの子があんたにとって"例外"の人間であってくれ)」

盗賊「(バラすぞ)」

盗賊「(一家ごと吸血鬼だって叫んでやる。俺と、ボッさんと、ついでにあの子を、死なせたくないと言え)」

銀髪女「……」

盗賊「……」

銀髪女「……私に聞かれても困ります」

銀髪女「ですが」

銀髪女「やはり、外して下さい」

仮面少女「…………」

仮面少女「出来ませんわ」

仮面少女「と言ったら？」

銀髪女「……困りますね」

銀髪女「彼等は死にます。私は私の敵を一網打尽にする機会を失います」

銀髪女「そしてハンターは大口のパトロンを失うことになるでしょう」

仮面少女「…………５分だけなら」

盗賊「充分」

仮面少女「……」ﾂｶ ﾂｶ



盗賊「……ふー、行った行った」

銀髪女「ええ」ｺｫ

ﾊﾟｷﾝｯ

盗賊「ありがと。つっても足、凍傷は確定かなこれ。もうちょいで不能んなるとこだった……」ﾋﾔﾋﾔ

銀髪女「何故、あの子のことを」

盗賊「言ったろ、親に挨拶も済ませてきた。ホントだよ。……それで、あんたの話聞きたいな。散々質問してきたんだし、いーでしょ」

銀髪女「殆どには答えていません」

盗賊「聞かせてくれたらちゃんと教えたげるよ。多分、その方がスムーズに答えられる」

銀髪女「……」

盗賊「仲間の吸血鬼を裏切ったの？」

銀髪女「いきなりそこですか……」ﾌ

銀髪女「まあ、ええ。……正確には、彼等が私達を」

盗賊「……」

銀髪女「よくある派閥争いですよ」

銀髪女「吸血鬼社会のね。……専制政治は少なくなってきて久しいようですが、人間の世界でもまだあるんでしょう、どうせ。どうです？」

盗賊「あんまよく知らない。でもそうなんじゃない。落ちてる新聞と去年の新聞、社会欄に書いてあることってなんかいつも同じだし」

盗賊「あ、漫画は面白いよ！」

銀髪女「……あら」

盗賊「ティーンなんてこんなもんだって」

銀髪女「嘯くティーン。薄ら寒い」

盗賊「あんたの体温くらいね。これで一つ答えられる」

銀髪女「どうぞ」

盗賊「俺達はそいつらの従僕じゃないよ。目的は別にある」ｽﾀｽﾀ ﾋｮｲ

銀髪女「折れた聖銀剣？　そんなものどうするんです」

盗賊「これだよ。ヴァンパイアハンターの銀の剣が欲しいんだ」

盗賊「俺の本職は泥棒。御利益のあるラジオ様が、うんk……」

銀髪女「うん……？」

盗賊「(その下りはいーや)」

盗賊「……こいつを手に入れろっつーから、情報収集してたらあんたに出くわしたの」

銀髪女「それは、どういう」

盗賊「えーと……そしたら、夜中の二時にヴァンパイアハンターと会えるって言うからさ。盗難者第一号かと思ったら、その直後に『吸血鬼に襲われる』とかもこいつが言ってさ」

盗賊「襲われるから剣を手放すな、って。手に入れる前に来たけどね、あんたが」

盗賊「ボッさん！　もう寝返り打っていーよ」

露店商「イや、このまま寝させて欲シい。天女が見エる」

盗賊「ボッさーん!?　……あはは、冗談言えんなら大丈夫かな」

銀髪女「出来過ぎている」

盗賊「だね」

銀髪女「……私に言わせるとこうなります」

銀髪女「対立する派閥の吸血鬼共を片付ける為、手土産を持ってヴァンパイアハンターと手を組み、この街に潜んだのが二ヶ月前」

銀髪女「彼等が、不可侵協定を結んだ私の情報を元に吸血鬼を叩いている間、私は私でこの国に流れたという……これを、探していたのです」ｽ

ラジオ改め"福音"『』ｼｰﾝ

盗賊「さっきもご大層なこと言ってたけど、それそんな凄い物なの？」

銀髪女「ぶっちゃけ半信半疑でした」

盗賊「(ぶっちゃけって言った)」

銀髪女「ですが……むしろ、これで確信しましたよ。因果率の操作、身を以て味わうことになろうとは」

銀髪女「なんのことはありません。手土産には秘宝の情報もあり、今日は私とハンター、双方の定時報告日だったんです」

銀髪女「で、昼間。協定条件に人間を襲わないことがあったので我慢していたんですが、ついに限界が来てしまいましてね……」ﾌｲ

銀髪女「……その……消えても、社会的に問題無いよーな人なら、いいかなあ、と。こっそり」

盗賊「…………尾行が目茶苦茶下手だったのって」

銀髪女「クスリや酒や煙草、重度の禁断症状を発した人間はどうなります？」

盗賊「今凄い落ち着いてるけど、あん時のテンションは」

銀髪女「クスリや酒や煙草、重度の禁断症状を発した人間が、やっと手に取ったそれらを取り上げられたらどうすると思います？」

盗賊「……」ｼﾞﾄ

銀髪女「もしかして、聞こえてました？」

盗賊「俺じゃないけど……ボッさん覚えてる？」

露店商「『ぐぅぅううぅッ……糞、餓鬼め……鼠……畜生にも劣る、どぶ鼠がぁ……あぁああッぁ……!!』ｼﾞｭｳｳｳｳｩｩｩｳｩ」

盗賊「ジューんとこの音上手いね」

銀髪女「これは恥ずかしい……」ﾋﾟﾄ

盗賊「処女だったからセクハラに怒ったんじゃないのね」

銀髪女「……あのですね。いいですか。そういうんじゃなく、どんな女性だってあれは怒ります。あれ火に油でしたよ」

銀髪女「堂々と胸を触られて心穏やかでいられる女性なんていませんから。普通に考えて分かりません？」

露店商「分かった分かッた……」

盗賊「ボッさんはそう言うしかないよね、それで助かったんだし」

銀髪女「……とにかく、その一環で見付けたという訳です。あれだけ探したというのに、こんなあっさりと……」ﾊｧ

盗賊「で、それ献上すんの」

銀髪女「まさか」

銀髪女「これを渡すつもりはありませんでしたよ。彼等も、欲しがっていたのは別の秘宝ですしね」

盗賊「……そう」

銀髪女「はい」


盗賊「出来ればさ」

銀髪女「はい」

盗賊「返して欲しいんだけど。それ」

銀髪女「お断りします」

露店商「……」

盗賊「……そう言うだろうと思った」

銀髪女「駄目元でしたか。理解が早くて助かります」

盗賊「俺そんなこと一言も言ってねーけど」

銀髪女「？」

盗賊「そんな簡単に盗賊から物ぶん取れると思うなよ」

銀髪女「……」

盗賊「さっきさぁ。ありがとね、察してくれて」

銀髪女「……嫌味な言い回しになりますが」

銀髪女「元気にしていましたか？　……言う程、長く会っていない訳ではありませんが」

盗賊「あんたからすりゃね。一月くらいになんの？　あれくらいの時の一ヶ月って、平穏無事に暮らせんなら結構長いもんなんじゃない」

銀髪女「そんな昔のことは覚えていません」

盗賊「ちょっと失礼」ｺﾞｿ ﾊﾟｶ

【02:06】ﾁｯ ﾁｯ ﾁｯ

盗賊「あ、やべーなこりゃ」

銀髪女「どうかしましたか」

盗賊「あの子死んじゃうかも」

銀髪女「…………………………は？」


盗賊「夜中の二人歩きは危ないからね。吸血鬼がいるんじゃ、備えも必要になってくるでしょ」

銀髪女「……」ｽﾞｲ

盗賊「近寄んじゃねえ」ﾊﾞｯ

盗賊「時計を見ろ。２時６分！　俺とボッさん、二人揃って20分までに仲間の元へ帰らなきゃ、俺の仲間には中心街のさる家に押し入って貰う手筈になってる」

銀髪女「……小癪な」

盗賊「いいや。もう押し入ってる頃だろうね」

銀髪女「何……」

盗賊「見つかってるかどうかはともかくとして。合図が無ければ、そのまま――自分から『死なせて』って頼むくらいの目に遭う。んで死ぬ」

盗賊「特にお母さんとあの子は。弟君もかな？」ｸｸ

銀髪女「……!!」ｷﾞｭｱｧｯ

ｶﾞｼｨｯ

盗賊「ぐ、ぇ、ぅ゛」ｸﾞｲ

銀髪女「屑が。貴様の血を吸おうなどとどうかしていた」

銀髪女「交渉になると思ったか？　疾くお前を殺し、仲間とやらを殺す。それで終わる」ﾐｼ

盗賊「……ぃ゛ー……の゛か、な゛……」ｸﾞｷﾞｷﾞｷﾞｷﾞｷﾞ

銀髪女「勿論」

ｻﾞｻﾞ


福音『……』ｻﾞ


福音『転換点への到達を確認』ｻﾞｻﾞ


福音『選んで頂きます』ｻﾞｯ


ｻﾞｻﾞｻﾞｻﾞ

盗賊「ぁ、の、ざ……」ｼｬｷﾝ

ｻﾞｸｯ ｸﾞｻｯ

銀髪女「……」

ｸﾞｼｭｯｸﾞｼｯ ｻﾞｸ ｻﾞｸｯ

ｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸ
ｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸ

ﾕﾙ

盗賊「！　……」

ﾊﾟｯ ﾄﾞｻ

盗賊「……っぷはぁっっ、はぁッ、手の腱尋常じゃなく硬いね！　げほっ、見てよほら、あんたの白魚みたいな手が骨まで見えちゃってる」

銀髪女「もっと硬い物で殺してやる」ｺｫ ﾋﾟｷﾋﾟｷﾋﾟｷﾋﾟｷﾋﾟｷﾋﾟｷ

盗賊「氷の剣？　かっこいいねー。けどそいつで俺を斬んのはやめといた方がいい」

盗賊「なあ。福音、試してみたの？」ﾁｬｷ

盗賊「(氷は解けてる。ここだ)」

ｶﾞｩｶﾞｩﾝｯ

ｷﾞｷﾞｨﾝｯ

銀髪女「止まって見える」ﾋｭﾋｭｯ

盗賊「わあ。それでさ、だから福音を」

銀髪女「さっき目の前で試してみせただろうが!!」ﾋｭﾊﾞｯ

盗賊「そう、俺と触れてる時にね！」

銀髪女「……！」ﾋﾟﾀ

ﾀﾀﾀﾀﾀ

盗賊「(来たな)」

仮面少女「今の銃声はなんですのッ!?　……吸血鬼の下僕めが!!」ﾁｬｷｯ

盗賊「ははっ、撃てよぉッ!!　吸血鬼万歳!!　ボッさん復唱!!」

露店商「酔狂ナ……吸血鬼万歳！」ﾊﾞｯ

銀髪女「なッ――貴様ら」

仮面少女「言われずとも……ッ！」


ﾄﾞｷﾞｭﾄﾞｷﾞｭｩﾝｯ


銀髪女「(………………狙いは、分かった……)」

銀髪女「(だが、一体何故……何が目的でッ……!?)」

盗賊「」ﾆｨ

銀髪女「……くッッ!!」ｼｭﾊﾞｯ


ｷﾞｬｷﾞｨﾝｯ

ｶﾁﾝ ｶﾁｰﾝ…


仮面少女「……吸血鬼」

仮面少女「どういうつもりですの」

仮面少女「貴方、どちらの味方ですのッ……」

仮面少女「今のを聞いたでしょう。もう疑う余地はありませんわ、それは吸血鬼の奴隷！」

仮面少女「一度かけられたら二度と解けない魅了の魔法で虜にされ、吸血鬼の手足となって生きる人非人。……貴方の方が詳しいのではなくて？」

銀髪女「……私には、福音が必要なんです。福音の力が……」

仮面少女「聞きましたわ。だァからそれとこれとどういう関係があるんだっつってんですのよ!!」

盗賊「福音は俺をマスターと認めてんのさ」

盗賊「俺にしか使えないんだよ」

仮面少女「……だからなんですの？」

盗賊「それだけ」

銀髪女「…………」

盗賊「ああ、そうだ。試しに使ってみなよお姉様。"ちゃんと動かねーから"」

銀髪女「……なんですって」

盗賊「聞きたいこと。あるんでしょ？　今教えてよ」

盗賊「後で俺が聞いたげる。さあっ、高らかにどーぞ！」

銀髪女「…………」

仮面少女「……」

福音『ｻﾞ-ｻﾞ-……ｻﾞｻﾞ』

銀髪女「……」

銀髪女「教えて、下さい……福音」


銀髪女「吸血鬼を人間に戻す方法はないのですか？」

吸血鬼(銀髪女)を

１ 殺す
２ 殺さない


安価下五つまでの合計で決定

福音？『ｻﾞｰ……ｻﾞｻﾞ-』


銀髪女「……」

盗賊「ね？」ﾁｬｷ

銀髪女「……何をしているんです」

盗賊「自殺五秒前、みたいな？」

盗賊「とりあえずこれで分かって貰えたかな。俺に向かって殺してでも奪い取るをやっちゃマズいってことが」

銀髪女「言うことを聞けとでも？」

盗賊「そんな酷いこと言わないよ。ただ、俺と俺の友達に手を出さないで欲しいってだけ」

盗賊「約束してくれ。そうすれば俺も聞いてあげる」

銀髪女「今ここで貴方を拷問して聞かせることも出来ますが」

盗賊「拷問？　おっかな。頭吹っ飛ばすのとどっちが早いか比べてみる」

銀髪女「……」

盗賊「停戦に合意とみてよろしいですね？」

仮面少女「ふざけないで下さいまし」

盗賊「ふざけてなんかない。ねえ、君ってこの人に勝てんの？」

仮面少女「…………見ていたでしょう。ええ、勝てませんわよ。今は」

仮面少女「ですが、吸血鬼に会いに行って死んだとあれば誰がやったのかは一目瞭然ですわ」

仮面少女「そうなれば協力関係は当然解消。支部長はそこの吸血鬼が属する側の望み通りに対抗派閥とやらを潰し、並行してそちらも潰しに掛かるでしょうね」

銀髪女「っ……」

仮面少女「仕える吸血鬼が死ねば、貴方達従僕も灰になって死に絶える。めでたしめでたしですわ」

盗賊「へえ、そうなんだ」

仮面少女「知らなかったんですの……？」

盗賊「うん。だって嘘だもん」

仮面少女「……何が」

盗賊「いや、だから、俺ら従僕じゃないって」

仮面少女「信じるとでも？」

盗賊「なんか証明する方法とかないの？」

銀髪女「…………」ｸﾞｲ

盗賊「うわ、おい!?」

銀髪女「……首筋に魅了の刻印がありません」

銀髪女「家畜と奴隷を区別し、また他人の所有物に手を出すことがないよう、魅了を掛けた人間の首には吸血鬼ごとに家紋のようなものが浮かぶのです」

露店商「必ず首なノか？」

銀髪女「首筋です。食いつく寸前までいっても気付けるように……また、手を出された時の言い訳が利かないように」

露店商「ホう……」

銀髪女「彼には無い。彼は違います」

盗賊「俺は俺のもんだかんね」

仮面少女「………………」ｽﾁｬ

仮面少女「……はあっ！　何なんですのよまったくもう!?」

仮面少女「それじゃ何であんな風に煽ったんですの!?」

盗賊「ねえお姉様」

銀髪女「何ですか」

仮面少女「答えなさい、無視は許しませんわよ！」

盗賊「ビビった？」

銀髪女「……はい？」

仮面少女「…………」

仮面少女「……貴方」

盗賊「ああ、分かるんだ。性格悪いね」

仮面少女「実行した人間が何を……」

銀髪女「成る程……。ええ。心底」

盗賊「ははは」

銀髪女「――――今もね」ﾆｺ

盗賊「怖ーい」ﾆﾍﾗ

銀髪女「もう夜も遅い。早く帰ったらどうです」

銀髪女「なんなら送ってあげましょうか、馬よりは速く着きますよ」

盗賊「いらない」

銀髪女「貴方に手は出せません。残念ながら」

盗賊「だからいらないんだって。俺はこの後今日の寝床探さなきゃだし、こうなっちった以上ボッさんも身の振り方考える時間要るだろうし」

露店商「余計なオ世話だ」

露店商「……現実味ガ無さ過ギる」

露店商「失った物は多いが得た物モ多い。打チ明け、商会の意向ニ添うまデさ」

露店商「失せろト言うなら街ヲ去る、ハンターの事ヲ考えレばそれが安牌だロう」

盗賊「ボッさんが居なくなんのは困るなー」

露店商「吸血鬼ト、君のせいダぞ」

盗賊「ごめん。……」ﾁﾗ

仮面少女「……吸血鬼を擁する組織となれば、出向くことになりますわね。人の感性と理性を保てているのもなりたての今だけですわ」

仮面少女「ここで斬られなさい。苦しませずに――」

盗賊「苦しませずに？」つ聖銀剣(先っぽ)

仮面少女「……ここで撃ち殺されなさい。それと剣は後で返すんですのよ」

露店商「…………」

銀髪女「そんなことはどうでもいい」

銀髪女「約束は守ります。話は終わりだ、そうでしょう」

盗賊「そうだね。でもあともう一つだけネタばらししなきゃなんないことがあんだよね」

銀髪女「諄いんですよ……！」

盗賊「ホントに最後だから。あ、怒んないでよ？」

仮面少女「……」

盗賊「(婉曲させんのって疲れるな……)」

盗賊「誰も俺達の帰りを待ってなんかない」

盗賊「言ったろ、ビビったかって」

翌日


地下水道跡 テント群棲地

長老の小屋


闇医者「それで……」

盗賊「うん」

乞食「嘘に嘘を重ねて切り抜けたってのか？」

盗賊「そーだよ」

長老「あっはっはっはっはっは!!　あーっはっはっはっはっはっはhゲホゲホ」ﾊﾞﾝﾊﾞﾝ

ﾎｰﾑﾚｽA「おいおい大丈夫か」ﾄﾝﾄﾝ

長老「ああすまんすまん。しかし、ひひっ、コイツが笑わずにいられるかってんだ！」ｹﾞﾗｹﾞﾗ

闇医者「笑えるか。壊すとは言ってなかっただろうに」

盗賊「ごめんって」

乞食「しっかし――」


福音『』ｼｰﾝ

闇医者のラジオ『ｻﾞｰ……』


乞食「気絶してたのによくすり替えられたな」

盗賊「ぶん殴られるのは流石に想定外だったけどね」E:頭部包帯

盗賊「違う物を取らせる、ってのは、気付かれないように取る、ってことの応用編さ」

盗賊「コツを掴めばそんなに難しくない。トリックだよ」

闇医者「気付かなかった向こうも向こうだ。後半は人質を取られて……いたと勘違いしていたはいえ、もう少しでも冷静になられていたら危なかったな」

盗賊「ね。急拵えにしちゃ上出来だと思うけど苦肉の策もいいとこだよホント」ﾊｧ

盗賊「でも見せたかったなぁ。ふふっ、何の変哲もない壊れたラジオを手にして『探しましたよ』――」ﾌﾟｯ

盗賊「『秘宝としての名を福音と言います』。『なんちゃらかんちゃら言う伝説の秘宝です』。ぶふっ、『教えて、下さい……福音』！」ﾌﾟｰｸｽｸｽ

乞食「それで笑えんのがすげえよ」

闇医者「まったくだ。すぐに暖められたから凍傷はなんともないが、頭のそいつは一歩間違えればポップコーンだったんだぞ」

長老「ともかく、これでその吸血鬼はお前を襲うことはない。……騙されてる間は」

乞食「尾けられてねえよな？」

盗賊「勿論。ボッさんと別れた後、覚えたてのルート使って地下水道の富裕街辺りんとこ走り回ってた」

盗賊「途中までは見られてる感じがあったんだけど、明け方くらいには諦めたみたい。で、新しいとこ探険してからこっち来たって訳さ」

長老「……」

乞食「……」

闇医者「……寝てないのか」

盗賊「うん！」

乞食「今、昼だぞ……。お前、昨日一回帰ってきた時も座ってチェス指してただけだよな」

盗賊「まあね」

長老「……寝ろ、小僧。おい、毛布の綺麗なやつ取ってこい」

ﾎｰﾑﾚｽA「任してくれ爺さん」ｽﾀｽﾀ

盗賊「えー？　大丈夫だって」

闇医者「いいや、寝ろ。お前鏡を見たか？」

盗賊「吸血鬼みたいに映らないかも」

闇医者「ふざけるんじゃない。顔、真っ青だぞ」

盗賊「……」

長老「妙に小煩かったから誰も何も言わなかったんだ。……こいつのせいだと思ってたんだが」ｶﾗﾝ

乞食「聖銀剣の先端、結局持ち帰れたんだな。どうやったんだ？」

盗賊「あ、それはね――」

長老「いい、いい、後で聞いてやる。おい」

乞食「あっと……悪かったよ」

闇医者「…………」

盗賊「……なんだよみんなして。いいじゃん、二日三日くらい寝なくたって何ともないよ」

盗賊「俺は盗人だぜ？　平気だってば、心配し過ぎだ」

ｽﾀｽﾀ

ﾎｰﾑﾚｽA「ほら、小僧。昨日質屋の野郎が持ってきた中古美品だぜ。使いな」

盗賊「いいよ」

長老「……小僧」

盗賊「何」

長老「いいから寝ろ。疲れただろ。……誰もお前を馬鹿になんかしないよ」

長老「お前は上手くやったんだ。だから奴は、ここには来ない。そうだろ」

盗賊「…………」

長老「……盗賊」

盗賊「…………分かった、借りんね」

長老「寝小便は垂れるなよ」

盗賊「うっせ。……おっさん」

乞食「どうした」

盗賊「銃、まだ暫く借りてたいんだけど。すぐ新しいやつ探すから、それまで」

乞食「好きにしろよ。つーかやる。知ってるだろ？　ホームレスにゃ従業員割引があんだよ」

盗賊「……ありがとう」ｽﾀ

……


ｺﾎﾟﾎﾟ

長老「初めて見たな」ｶﾁｬ ｽﾞｽﾞｰ

乞食「何が？」ﾓｼｬﾓｼｬ

長老「あいつがビビってるとこをだ」

乞食「そういやそうだな」ｽﾞｽﾞ ﾓｼｬ

闇医者「ああ言っていたが、要は化け物に追いかけ回されていたんだ。ここに逃げ込む訳にもいかずに」ｽﾞ

闇医者「朝までな。鋭敏な奴のこと、筆舌に尽くし難かったろうよ」

乞食「……」ﾓｼｬﾓｼｬﾓｼｬﾓｼｬ

長老「てめぇ。今の話に食欲をそそるもんがあったってのか？」

乞食「世の中物騒、食えるうちに食っとかねえとな。っつーのが所感だ」ﾓｼｬﾓｼｬ

長老「もうてめぇが来た時にクッキー出すのはやめだ。むかっ腹が立ちやがる」

乞食「別にいいじゃねえか、ジジィは余裕あんだからよ……」


ｻﾞｯ


乞食「あ？」

闇医者「……ノイズ。福音か！」

長老「大層な名前をしてからに……」

長老「何の用だ。小僧なら寝ている、何かあるなら伝えてやるぞ」


福音『――――――』ｻﾞｻﾞｻﾞ




安価下

『魔女に股間を呪われる』ｻﾞｻﾞｯ


乞食「何だって？」

闇医者「……大して重要なやつじゃなかったか。一安心だな」

長老「判別の為の9桁文字列を喋らなくなってるな、少し壊したとか吐かしてたのはこのことか？」

乞食「勝手に喋ったりとかな。元持ち主としてどうよ、今の」

長老「……何とも言えんが、アテにしない方がいいタイプの喋りだろう」

長老「案外人間臭いところもあってな。あまり従順に聞いてやると、面白がってるのかたまにとんでもないのが飛んで来たりする」

闇医者「ああ」

乞食「来てたな」

長老「魔女とやらが気にならない訳ではないが……。起きたら伝えてやるとしよう。何、こいつなりのジョークとでも捉えるのが吉だろうさ」

長老「何度も同じことを言われたりしているのでもなければな」


ｺﾝｺﾝ


長老「誰だ」

＜哀れナ吸血鬼だ

長老「何？」ｽｸ

闇医者「いや、雑貨売りだろう」

長老「雑貨売り……？」

乞食「話に出てたボッさんってのだ。商会お抱え、ボッタクリの」

長老「血を吸いに来たんじゃねえだろうな」つ聖銀剣片

＜聞こえてルぞ

＜目の前デ流さないでくれれば問題ナい。対策方モ見付けたとこロだ

長老「……」

闇医者「大丈夫だ。今二つ持ってる銃の片方に銀の弾を込めてある」

闇医者「装填してる６発限りだが、暴れた奴を抑えるには十分の筈だ」

乞食「いつの間に。どうやって作った」

闇医者「昨日、倉庫で見付けた安物の銀食器を溶かして粘土型で作った。自信作だ」

乞食「器用なこって……」

長老「……いいだろう。入れ」

ｶﾞﾁｬ

露店商「まっタく不便ダよ。鼠の奴ガなっていたら憤死しただろウね」

乞食「ああ、招かれないと駄目なんだっけか」

闇医者「不法侵入は出来なくなる。吸血鬼の国は案外治安が良いのかもな」

露店商「扉ヲ開くだけでもいいんダが。忌ま忌まシい」

長老「お前が、件の」

露店商「初めて目にかカる」

露店商「"商会"紅棍(ﾎﾝｸﾞｧﾝ)相談役、露店商ダ」

長老「ふん、ご親切に」

闇医者「相談役？」

露店商「情報収集専門"部署"の頭ヲ右腕に譲ってキた。今日から私ハ若隠居だ」


露店商「没交渉のボッさんトいウ訳さ」

乞食「出世？」

露店商「ある意味デは。だガ閑職だ」

露店商「この歳デ胡座ヲ掻くべきではなイし、紅棍に相談役など普通ハ要らナい。故郷の連中ガ聞いたらきっと笑うだロう」

闇医者「恩情と厄介払いの合わせ技だな。始末されなかっただけ良かったじゃないか」

露店商「まアな……」

乞食「じゃあアレだ、お前はもう組織の威光を傘に着れねえ訳だ」

乞食「よう、フード似合ってるぜ炒飯ヴァンパイア！　仲良くしようやァー」ｳｪｰｲ

露店商「お前の血ハ何味だ？」

乞食「クッキー味かな！　お前は？」

長老「世間話をしに来たってんならそこのクッキーモンスターと一緒に煎れたての茶でシバいて叩き出すぞ」

露店商「勿論違ウ。鼠に会いニ来た」

長老「今は寝ている」

露店商「こんな時間マで」

乞食「帰って来たのはほんの１時間前だ」

露店商「……野暮用ヲ片付けると言っていタな。頭ガ上がらなイね」ｷｮﾛ

露店商「良イ家だ。元ハ管理小屋か？　座っテも？」

長老「……」ｶﾞﾀ

露店商「感謝スる」ｽ

長老「いきなり現れて図々しい野郎だ。……カンポーじゃねえが、文句は聞かん」ｺﾎﾟ

露店商「漢方茶のことを言ってるノか？　あれは私モ好きじゃナい」

乞食「茶は出すんだな」

長老「小僧の誼みだ。ふざけたことを吐かすようならすぐにでも叩っ殺してやる」ﾌﾝ

闇医者「それで、用というのは」

露店商「アあ。結局あの女ヲどうするつもりなのか聞いてみようと思っテな」

露店商「暇モ取れてしまった事ダし、必要なら手ヲ貸してやれないこともナい。成り行きによってハ面白い皮肉になりそウだ」
闇医者「どうするつもりって……どうできるというんだ」

闇医者「銀弾を貸そうか？　燐弾も時間差で効きはしたようだし、そっちならそいつを使いっ走りにやるだけで作れるが」

乞食「俺かよ！　A、頼むわ」

ﾎｰﾑﾚｽA「Bに頼もう。あいつも誰かに頼むだろうが、見てないとこでなら登場人物も増えまい」

乞食「そのうちｷﾝｸﾞﾎｰﾑﾚｽに合体するってか」

長老「……殺せるならそうするに越したことはねえだろう。あいつは嫌いそうだが」

露店商「イや、チャンスはあッた」

露店商「奴ハ間違いなく考えていタ筈だ。だがそうしなかッた――」

闇医者「……そうだな、一緒にハンターと戦えば、銃撃から守るように動かざるを得ない吸血鬼の背に回ることは容易だ。アシスタントもいたことだしな」

露店商「優秀ナな」

闇医者「後はその破片で刺せばいい。俺ならそうした」ｽﾞ

乞食「えげつねえ」ﾓｼｬﾓｼｬ

露店商「……」

長老「どうした」

露店商「……イや、何でもナい」

露店商「ああそウだ、鼠ガ言っていた野暮用というのガ何だったのか聞いてないカい。少し気にナる」

乞食「地下水道探検だろ」

闇医者「それは結果的にだ。用事があったとは言わなかったが、朝までの追いかけっこで潰されたんだろう」

露店商「……追いかけッこ？」

乞食「シエスタの理由。朝方まで吸血鬼に追いかけ回されてたんだとよ」

乞食「ったく、もうその吸血鬼ってショタコンなんじゃねえのか。ショタって歳でもねえが……」

露店商「待テ」

露店商「それハ有り得ナい」

乞食「は？　何でだよ」

露店商「あの女ハ……さっきまで、私ト一緒にイた」

長老「あぁ？」

露店商「吸血鬼としての手解きヲ受けていたンだ。半日ト少シで、とりあえず蝙蝠変身と魔法ヲ一つ使えるようになッた」

露店商「鼠のことは敵か味方カ見極めかねているようダが……。曰ク、私は"子"ニ当たるのだトさ。『どう転ぶニせよ歓迎する』などト吐かしていタよ」

闇医者「それでお言葉に甘えたと」

露店商「情報収集ガ主目的だ。そして――」ｺﾞｸｺﾞｸｺﾞｸ

露店商「――ぷハっ。早速集めた情報ガ役に立ッた」ｱﾁｨ-

闇医者「…………」

露店商「センセイは分かったようダな」

乞食「もう一匹の吸血鬼ってことだろ？　それくらい分かんぜ。一人しかいねえ」

露店商「病床ノ少女じゃなイぞ」

乞食「えっ」

長老「一人しかいねえとかほざきやがった時点で察せるもんがあったさ」

長老の小屋 寝室


露店商「(……地下なのニ増築されてイる。どうやったンだ)」

コンコン ガチャ

盗賊「…………」

露店商「起きていタか。酷い汗ダぞ、上ヲ着ろ」

盗賊「そういうボッさんは酷い顔色だよ。すげ替えたら」

露店商「大丈夫そうダな。悪イが、緊急事態かも知れナい。君ヲ追いかけ回していた奴ノ事だ」

露店商「今度ハ撒けたんだろウな」

盗賊「……聞いたんじゃないの。撒いたさ。追いかけ回してた奴っつーか……」

露店商「……」

盗賊「……あいつじゃない？」

露店商「察しガ良くて助カる」

露店商「モう、来ているらシい。対立派閥トやラが」

ﾊﾞｯ

盗賊「……」ｼｭﾙ ｼｬｷﾝ ﾁｬｷ

露店商「一緒に来て欲しい所がアる。馬車ヲ待たせてあるカら、それで行クぞ」

露店商「……凶器ト一緒に寝る趣味があるノか？」

盗賊「枕の下じゃパッと取り難かったってだけ。悪い」

露店商「君ノ機嫌は頗ルな。揺られる時間ハ少しあるカら、話ハ手短にして睡眠時間に当ててあげヨう」

露店商「これヲ落とすナよ」つ福音

盗賊「……それ見たら、眠気、覚めてきた……」

露店商「それハ良かッた」

盗賊「代わりに吐き気がする」ｵｴ

露店商「日ヲ浴びれば治ルさ。おお羨まシい」

盗賊「でしょ……」

貧民街 路上


御者「……」ﾁﾗ
馬「……」ﾁﾗ

ﾖﾀﾓﾉ「…………」ｼﾞﾛｼﾞﾛ
ヤク中「きょ！　きょんにちょわ!!」ｸﾞｵｫｫ-
浮浪者「……ZZZ」ｸﾞｰｽｶ
アル中「ﾋｯｸ、お？　寝てやがんのか。どれどれ……何も持ってねえじゃねーか」
アル中「死ねや、うぃっく」ﾁｬｷ

ﾊﾟｧｰﾝ ﾜｰ ｷｬｰ ｷﾞｬﾊﾊﾊﾊ
ﾊﾟｧｰﾝﾊﾟｧｰﾝ ｽﾞｷﾞｭｰﾝ ｳﾎﾞｧｰ ｷﾞﾆｬｱｱｱ

御者「」ｶﾞｸｶﾞｸﾌﾞﾙﾌﾞﾙｶﾞｸｶﾞｸﾌﾞﾙﾌﾞﾙ
馬「」ｶﾞｸｶﾞｸﾌﾞﾙﾌﾞﾙｶﾞｸｶﾞｸﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

盗賊「騒がしいな……」

露店商「馬車ハあレだ。連中、黙らせルか？」

盗賊「出来んの……？」ﾎﾞｰ

露店商「見てイろ」ｺｫ…


ｺﾞｵｵｵｫｫｫｫｯ


盗賊「うおわッ！」

アル中「な、何だぁッ！　炎!?」

露店商「目障リだ！　今すぐ全員私ノ視界から消え失セろッ!!」

露店商「さもなクば、ファイアーショーの見物代金ヲ消し炭ニなって支払って貰うぞ……!!」ｺﾞｫｳｯ

ﾖﾀﾓﾉ「ｱｲｴｴｴ!?　ｿｰｻﾗｰ=ｻﾝ!?　ｿｰｻﾗｰ=ｻﾝﾅﾝﾃﾞ!?」ﾀﾞｯ
ヤク中「いしっししっしっしっ」ﾀﾞｯ
浮浪者「」
アル中「ひいいい、お、お助」ｺﾞｵｵｵｫｫｫｫｫｫｫｫｯ

ﾌﾟｽﾌﾟｽ

ｼｰﾝ…

盗賊「…………なんつー……」

露店商「試し撃ちガまだだったんデな。発動にまだ少し時間ガかかルが、この火炎ノ魔法なら化け物共にも通じそウだ。特に夜の住人ニは」

盗賊「そうじゃん、ボッさん吸――」

御者「ど、どうぞ。まさか魔術師の方でしたとは……」ﾋﾞｸﾋﾞｸ

盗賊「――"火傷"とか平気なの？」

露店商「……照り返しがキツイが、そこハ魔法だかラね。手袋モしていルし、直火でなければ問題ハ無い」

盗賊「いつの間に……」

露店商「眠気は覚めたカな？　それナら、対立派閥の話ヲしヨう。少し長くなルぞ」

盗賊「手短にするって言わなかった」

露店商「努力はスる。御者、早足デ乗った場所に戻って欲シい」

御者「かしこまりました」

ﾊﾟｶﾊﾟｶ ｶﾗｶﾗ

道中 馬車内


ｶﾗｶﾗ

盗賊「…………」ｸﾞ…

露店商「地図ト照らし合ワせ、君ガ見付けタ例の……」

露店商「……どうシた、押さエて。頭ハ酷く痛むノか？」

露店商「それとも――」

盗賊「そうだよ、そっちだ。……ごめん、今はいいね」

盗賊「地図っていうと、地下の剣の話？　対立派閥の話じゃないの？」

露店商「最後まデ聞け。その剣、一本だけじゃなかッた」

盗賊「ホント？」

露店商「信用できル連中ニ、君ノやった方法で街中の水道ヲ調べさせたンだ。私ガ家庭教師とトライしてイる間、地図ト睨めっこさせテね」

盗賊「家庭教師？」

露店商「後デ会わセる。とにかくそうしタら、あの家ノ他にも怪しい地下空間ヲ有す建物や地点が見つかッた」

露店商「で、そのうちノ一つに行ってミた」

盗賊「近かったの？」

露店商「行ったのハあそコの……あー、君ガ教えてくれた地下水道入口の近くダが、貧民街にハ少ナい。街全体ニ点在していタが、中心街ト富裕街、行政区ニは特に多かっタな」

露店商「結論から言ウと、剣は無かッた」

盗賊「あいつかな」

露店商「違ウ。"銀髪"にハ聞イた。……そシて、これガ元君の家にあった"剣"だそウだ」ｺﾞｿ

露店商「君ニやるトさ。私モ、こんな物は欲しくナい」ｽ

盗賊「これは……」ｼｹﾞｼｹﾞ

盗賊「…………何これ。ナイフの柄？　柄だけ？」

露店商「"楔"ダ」

盗賊「なんにも刺せなさそうだけど」

露店商「そうじゃナい。そのナイフ、小剣ノ名前ダよ」

盗賊「楔……持って回ったネーミングだ」

盗賊「もしかしてこれ……」

露店商「ソう。秘宝ダ」

盗賊「……」

盗賊「(……ヤバいんじゃない、これ。ラジオのやつはそう言ってたよな。でも、"我が身"って言ってたっけ？)」

盗賊「(マズいことになんのは俺じゃないのか？　ともかく、触れちゃったもんは触れちゃったんだ、後戻りは出来ないよね)」

露店商「それでその楔なんダが、有権者が暮らす個所ノ物は、その殆どガ無くなっていると見ていいだロう」

盗賊「有権者って……貧民街以外？　また何で」

露店商「職人区モ一部がそウだ、既に大量生産が出来る物ヲ扱う人間とカな……まあそれハいいンだ」

露店商「というノも、私や銀髪より先ニ『使える』楔を収集していた人間ガ居た」

盗賊「へえ」

露店商「王国軍人ノ将校だ」

盗賊「……物の価値が分かる人って訳」

露店商「これニ気付いたのもついさっキで、ほぼ偶然なんダが……」

盗賊「(偶然ね……)」ﾁﾗ

福音『』ｼｰﾝ

露店商「その若イ将校は、銀髪ガ来るより少し前辺りに駐屯基地へ飛ばされてきた男デね。最初は誰モ気に留めていなかッた。しかしそいつノ趣味が知れ渡ると状況は変わッた」

盗賊「蒐集癖だっけ」

露店商「知っていタか」

盗賊「有名だったからね、コレクターの少佐。目に適った珍品を言い値で買い叩きまくるブルジョワ野郎って聞いたよ」

盗賊「俺とは無関係だからどーでもよかったけど」

露店商「商会では奴が興味ヲ示すような代物を扱っていなかったカら、君ト似たようなスタンスではあッた」

露店商「だが情報収集ハ怠らないでいたとコろ、色々面白いことが分かっテね。……その時ハそんな風に思わなかっタが」

盗賊「軍資金は」

露店商「本国にコネがあッた。現王家ト昵懇の貴族の生マれ、ノブリス・オブリージュというやツさ」

盗賊「いい慣習だね。前線に出んなら」

露店商「フっ。……密輸か何かデ稼いでると睨んでいたんダが、収入の話ハ無し、財布ガあるだけだッた」

盗賊「ってことは、品目とか調べたの？」

露店商「アあ、とにかく派手に買い漁っていタよ。豪奢な物だけではナく、見初めレば、まさしくどんな奴からでも何でも買ッた」

露店商「この審美眼というノがくセ者で、彼は『羽振りは良いが何を欲しがるのか分からない若年寄』という評判を持つに至ッた」

盗賊「例えば？」

露店商「島国で描かれた水墨画や、宝石だらけの椅子といった普通に価値のある物から、沈没船の船首像、どこぞの砦の煉瓦、不死鳥の羽で作ったとかいう羽ペン……」

盗賊「……」

露店商「そノ中に、目立ちはしないが継続して手に入れていた物があッた。刃の無イ小剣が」

盗賊「売ったのは」

露店商「楔のあった土地々々ノ所有者だ。貴族、中流家庭、集合住宅ノ持ち主、老夫婦……種々様々」

露店商「豪華絢爛かつ奇妙な買い物ヲ続けなガら、イや、それらニ紛れ込ませなガら、楔ヲ探し出しては手段の清濁問わず集めていたよウだ」

盗賊「来たね。清濁問わず」

露店商「所有ないし所有権を持っていたと思しき者のウち、何人かガ消えてイた」

盗賊「交渉失敗？」

露店商「恐らくハな」

露店商「消えた連中に共通するのは――」

銀髪女『……その……消えても、社会的に問題無いよーな人なら、いいかなあ、と。こっそり』

盗賊「(……)」

盗賊「社会のゴミ、かな」

露店商「近い物がアる。少佐側としテは、『いなくなっても警察が本腰を入れないような人間』といったところだロう」

露店商「下等生物ニ認識されないようニな」

盗賊「はーん。それがあれか……蝙蝠のやり方ってことか」

露店商「『夜ヲ貴べ』。少数故ノ処世術だったノが、今では過激派のスローガンとなって久しいのだそウだ」

盗賊「つまり、ん、少佐がそうだったってことなの？」

露店商「さアな」

盗賊「さあなって。夜型引きこもり軍人？」

露店商「少佐ガそうかまではまだ分からナい。だが関連は間違いナい」

盗賊「で、銀髪の情報に繋がんだね」

露店商「対立派閥、鷹派の欲しがっていた物らシい」

盗賊「これをか……あ。"使える"やつを？」

露店商「ソう。なんデも、ちゃんとした代物ナら、盾ごと鎧ヲ斬り裂く名剣なのだトか」

盗賊「眉唾～……」ｸﾙｸﾙ

露店商「そシて、さッき。昨日ノ小娘が、支部長からの連絡ヲ受けて私の家ヘ来た」

盗賊「マジで」

露店商「銀髪ガ教えていたらシい。五つ目の潜伏場所ヲ潰しに向カい、空振りニ終わったという話だッた」

盗賊「そいつは残念」

露店商「しカし……オや」

ｶﾗｶﾗ ｶﾗｶﾗ

ｶﾗ…

盗賊「着いた？　……まだ貧民街だけど。御者さん、ここなの？」

御者「……」

盗賊「ねえってば」

露店商「鼠。銃を出せ」

盗賊「は？　……！」

ｸﾞﾗ

御者「…………」

ﾊﾞﾀﾘ

御者「」ﾌﾞｸﾌﾞｸ

盗賊「……首元に針、吹き矢か」ﾁｬｯ

盗賊「泡吹いてたにしちゃ静か過ぎだし、顔も苦しそうじゃない。知らないけど早い毒だ」

露店商「最後に道ヲ曲がったのはほンの数十秒前……道ハ狭く、挟む建物ハ高く、人気モ皆無……」

盗賊「あー、ここ近道。もう少し行けば中心街近くに出れたんだんだけど」

露店商「惜しかっタな。ドれ……」

盗賊「ボッさん待った！」ｸﾞｲｯ

ﾄｽｯ ﾄｽﾄｽｯ

盗賊「(三、いや四本。片側に少なくとも四人、反対側にも絶対居るからもっとか。クソ)」

露店商「おッと」ﾎﾞｽ

盗賊「迂闊過ぎんよ、刺さってた！」

露店商「構うもノか……射手の顔ヲ拝んでやろうと思ったまデだ」

盗賊「ったく、余裕が出るってのはいいことばっかじゃないね……」

露店商「何ダと？」

…ｽﾀｯ


露店商「……鼠」ﾋﾟｸ


ｻｻｻｻ


盗賊「来たか……とにかく篭ろう」ｿﾛｰﾘ…


襲撃者1「……」ｽｽｽ

ｶﾞｩﾝｯ

襲撃者2「!?」ﾊﾞｯ

ｶﾞｩﾝｯ ｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｯ

襲撃者1「下がれ、下がれッ！」

襲撃者2「反対側行け！」


盗賊「２丁目っ……」ﾁｬｷ

露店商「待テ。左ハ私がやロう」

盗賊「撃たれないようにね」

露店商「牽制ダな。分かッた」ｷｨ

ｺﾞｩｫｫｵｵｵｯ

襲撃者3「くっ、近付けない！」

襲撃者4「魔法使いだとは聞いてないぞ……」

襲撃者1「銃だ、銃を使え！　火力で黙らせろッ！」

盗賊「ッ！」ｸﾞｯ

ﾊﾞﾀﾝ

ｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｯ
ﾄﾞﾝﾄﾞﾝｯ ﾄﾞﾝｯ ﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝﾄﾞﾝｯ

露店商「いい御者だったんだガなっ……」ﾁｭｨﾝ ｷﾞｨﾝｯ ﾁｭｨｯ

盗賊「ドア閉めるよ、カーテンもだ」ｶﾝｶﾝｶﾝ ﾁｭｨﾝｯ ｶﾞﾝｯ

ｶﾞﾁｬ ｼｬｯ

盗賊「乾く暇も無しかよ……お抱えだったの？」ｶｼｬ ｸｲ ﾁｬﾗｯ

露店商「商会デ贔屓にはしてイた」

盗賊「それで防弾なのか、助かった……」ﾁｷﾁｷﾁｷﾁｷ

盗賊「続きだけど、ボッさん、それで見つかんなかった連中は？」ｶｼｬﾝ ｶﾁｯ

露店商「多分君ノ予想通リだ」

露店商「アジトには人っ子一人居なかっタが、この街の消印ガ入った書簡が見つかッた」

露店商「相手ハ不明。何らかの取引に関するやり取りが行われてイて、日時は二日後ノ午後５時からとダけ」

盗賊「"から"？」ｷｨ ｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｯ ｶﾞｩﾝｯ

露店商「富裕街デ重なる催しがアる。少佐がコレクションの自慢パーティを開くのだトさ」

盗賊「成る程、開会時間ね。あー、やっと繋がった」

盗賊「じゃあこいつらは」

露店商「フードにマスクでしっかりUV対策ヲしていルが、肌ノ白さはまだシも、温もりハ人のそれだろウね」

露店商「独特の気配ヲ感じナい。鷹派の従僕ト見て間違いないだロう」

盗賊「……」

露店商「信じられなイか？」

盗賊「違うよ。思ったんだけど、従僕って今ボッさんがやったみたいな吸血鬼の反応とか分かんのかな」

露店商「主が近付くと紋章ガ疼くらしイが」

盗賊「…………」

盗賊「ボッさん。今は隠そう」

露店商「会えバどうせバレるぞ」

盗賊「何も隠し通すって訳じゃないよ、敵に与える情報は少ない方がいい。かち合う時、一杯食わせられるかも知んないじゃん？」

盗賊「実は魔法が使えた商会の情報収集員、って感じで戦ってくんない」

露店商「……いいだロう。確カに、こレはいけなイな」

盗賊「でしょ」

露店商「人間デなくなってイく」

露店商「だが存外悪くナい」ﾊﾞｯ

盗賊「やめてマジで！」ﾊﾞｯ


ｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｯ

ｺﾞｫｫｫｫｫｵｵｵｫｫｵｵｵｵｵｫｵｵｵｵｯｯ


――――――
――――
――

――――


盗賊「(……数が減った。狙えるな)」ﾁｬｷ

ｶﾞｩﾝｯ
ﾊﾞｽｯ

襲撃者G「ぐぁっ……」ﾊﾞﾀ

盗賊「よぉし」ｻｯ

露店商「ソら、直火焼キだ」ｺｫ

襲撃者G「しまっ――ぎゃああああ!!」ｺﾞｫｫｯ

盗賊「ボッさん、その辺で」

露店商「今更だロう」ｺﾞｫｫ

人炭C～F「」ﾌﾟｽﾌﾟｽ

盗賊「待って、ってだけ」

露店商「……成る程」ﾌｯ

襲撃者G「うぐぅうう、あがああああ」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

襲撃者B「チッ、間に合うか！」ﾄﾞﾝﾄﾞﾝｯ

襲撃者A「行くな！　時間をかけすぎた、引き上げだ」

襲撃者B「兄弟を見捨てるのか？　それに秘宝はどうするんだ！」

襲撃者A「何時でも狙える。奴が持ってる限りは」ﾎﾞｿ

盗賊「(聞こえてまーす)」

襲撃者G「あ゛ぁぁあ゛あああ……あ゛ぁあぁあ゛あ゛」ｺﾞﾛｺﾞﾛ

襲撃者B「ならば、せめてッ」ﾁｬｷ

盗賊「！」ｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｶﾞｩﾝｯ

襲撃者B「くっ！」ﾁｭｲﾝ ﾁｭｨｯ

露店商「介錯か？　泣かせる話だガそのブルーレアは我々ノ物だ。帰レ」

露店商「炭か蜂ノ巣になりたけれバ別だガな」

盗賊「そーゆーこった」ﾁｬｷ

襲撃者A「退くぞ！」ﾀｯ

襲撃者B「すまないッ……」ﾀ


盗賊「…………ふぅー」

露店商「一服したいところダが、まだ早いんだろウな」

襲撃者G「はぁー……はぁー……ぁぁあぐ」ｶﾞｸｶﾞｸ

盗賊「そういうこと」

貧民街 路地裏


ﾃｸﾃｸ

盗賊「ここら辺でいいかな」

露店商「手早く済ませれバ問題ナい」

襲撃者「ぐぅう……」

ﾄﾞｻ

盗賊「首筋だっけ？　どれどれ……」ｸﾞｲ

ﾍﾞﾘｯ

襲撃者「……あああああッッ！！！」

盗賊「火傷が凄いけど、あるね。確定」

露店商「某。我々は時間ガ惜シい、質問に答える気はあルか」

襲撃者「……」ﾆﾔ…

盗賊「無いの？　あっそ」ｼｬｷﾝ

襲撃者「ふん……、貴様に、相応しい、醜悪な……鈎爪のような、ナイフだ、ぐっ」

盗賊「ボッさん、口塞いでくれる」

露店商「……」ｸﾞｯ

襲撃者「っ？　……！」ﾋﾞｸ

盗賊「銀髪から聞いたんだけどさぁ」ｸﾞ

盗賊「家紋って全部オリジナルなんだって？」ｽﾞ

露店商「暴れルな」

ｽﾞ…

襲撃者「!!!!!!」ﾓｿﾞﾓｿｼﾞﾀﾊﾞﾀ

盗賊「ああ動くなってのに」ｸﾞｻ

ｿﾞﾘ

襲撃者「ぅぅぐ……！　ぐぅぅぉぅ……!!」ｶﾞｸｶﾞｸ

ｿﾞﾘ ｿﾞﾘ

盗賊「変な風んなっちゃったな……肉ごといくか」

ｸﾞﾁ ｿﾞﾘ

盗賊「よし取れた」ﾋﾞｯ

襲撃者「ふーッ、ふーッ、ふーッ……」ｶﾞｸｶﾞｸ

露店商「家紋は消えないようダな」

盗賊「従僕に忠誠ってもんがあんのかどうか知んないけど、これであんたのボスは失点１だよ」ﾍﾞﾛﾝ

盗賊「こいつを銀髪に見せて、鷹派の誰なのか聞いて貰う。意味分かる？」

襲撃者「ふーっ、ふーっ……」ｷﾞﾛ

盗賊「微妙なとこかな。ボッさん」

ﾊﾟｯ

襲撃者「……勝つのは、我が主だ……。卑小なる人族に迎合した、日和見の老害などでなく……」ﾊｧ ﾊｧ

盗賊「(日和見の老害に、迎合ね)」

露店商「火掻き棒ガあっタぞ。道端のゴミも侮れなイな」ｶﾗﾝ

盗賊「うーん……」

露店商「ショック死寸前まで傷ヲ焼き付けられれば流石に喋るだろウに」

盗賊「…………」ｼﾞ

襲撃者「どう、した……やれよ」

盗賊「(仲間とか、拠点とか、色々聞きたいんだけど……痛みで口割るかな、こいつ)」

盗賊「……」ｽ

福音『……』

襲撃者「！　……」

盗賊「こいつに口を割らせるいい方法はない？」

福音『――――――』ｻﾞｻﾞ





安価二つ下

『そいつは手配犯だ、取引で応じる』ｻﾞｻﾞｻﾞｻﾞ


襲撃者「……！」

盗賊「手配犯？　サツなんざ、貧民街に住んでりゃパシリのガキンチョだって怖がんないよ」

露店商「街の自治警察ダな。一部は闇社会ノ良き友人ですらアる」

露店商「パッチワークの限界というやツだ……ガ」

襲撃者「…………」

盗賊「あんたはサツが怖いんだ？」


病少女『怖いの？』


盗賊「……俺は別に」

盗賊「怖くないけど。全然」

露店商「アあ」

盗賊「ねえ。分かった、尋問はやめよう」

襲撃者「…………」

盗賊「少し推理してみよーか？」

盗賊「調べたんだけど、魅了ってのはわりかしかかり難い分、かかると本当にヤバい幻惑系の魔法らしいね」

盗賊「術者の一挙手一投足にも『流石ですご主人様！』『なかなか出来ることじゃありませんよ』って具合になるとかなんとか」

襲撃者「……目覚めたんだよ」

襲撃者「瑣末な命を、悠久の時を過ごす、人族なんぞよりも上位に位置する貴族に捧げることの素晴らしさに」

襲撃者「焼け爛れ、刔り取られた今でも、無くなった首の皮で印が脈打つのを感じているんだ……主から下賜した、畜獣の証が」

盗賊「……」

襲撃者「俺達人間は、須らく――、!!!!」ｼﾞｭｳｯ

露店商「畜獣なら焼き鏝ノ烙印にも文句はないだロう？　耳障りなんダよ」

盗賊「ん。で、拷問にも屈しない構えだってのに、警察は嫌だと」

露店商「手配されてイる、とラジオは言っタな。つまり身元ガ割れているというこトだ」

ｷﾗ

露店商「……オや、それはなんダい」

襲撃者「！」ﾊﾞｯ

盗賊「あーあー、大の大人がうずくまっちゃって。飼い主様より大事なもんなんてないんじゃなかったの？」

露店商「こっちダな」ｸﾞｲ

襲撃者「よせ、やめろッ……！」

盗賊「左手の薬指。大分くすんでるけど、こりゃ真鍮製かな」ｶﾞｼ

襲撃者「違う……やめろ……俺は」ﾌﾞﾙ

盗賊「奥さんがいるんだ。ふーん。子供は？」

襲撃者「いない」

盗賊「居るんだ。へえ……」

襲撃者「いない！　し、死んだ、もういないんッ――いないんだ」

襲撃者「いない。いない。いない。いない」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

盗賊「おっと」

襲撃者「俺は。かち、家畜、吸血鬼……主……主が……主の」ｶﾞｸｶﾞｸ

襲撃者「ぁあ……ぁあぁああぁ、ぁぁぁ」ｶﾞｸｶﾞｸｶﾞｸｶﾞｸ

盗賊「よかった、吸血鬼仕様でも基本は同じだったか」

露店商「こレは？」

盗賊「精神に干渉する幻惑系の魔法に、解除以外の方法で刃向かうとこうなるんだってさ」

露店商「……板挟みだっタと？」

盗賊「魅了ってのは相手の心の優先順位をいじくる魔法で、取り分け複雑な"愛"を扱うから難しくて、本曰く、思考に矛盾が起こると簡単に精神に綻びが出来て、魔法の効き目ごとあっさり崩壊しちゃうんだと」

盗賊「ま、それは人間が扱う魅了魔法の場合で、吸血鬼のはもっとヤバそうだけどね。紋章とかあるし」

露店商「……覚えておコう」

盗賊「おい！」ﾊﾞｷｯ

襲撃者「ぁぐあッ」ﾊﾞﾀ

盗賊「あんたの事情はどうだっていいんだ。質問に答えられるな？」

襲撃者「俺は……捕まる、……捕まる……訳には……いかない」

襲撃者「か……ぞ……主に……主に。主に」

盗賊「化け物の言うことなんか聞かなくっていい。いいか、あんたの主はあんた。他の誰でもないあんただ」

盗賊「しっかりしな。協力してくれれば、サツやクソ吸血鬼共から守ってあげられるかもしんない。いいや……」

盗賊「守ってやる。俺は盗人だからね」

襲撃者「盗……人？」

盗賊「あんたの情報を糧に、コウモリお化けから悠久を盗んで見せるよ」

約１時間後

中心街 "商会"構成員用隠れ家


迎賓室


仮面少女「……」

銀髪女「……」ペラッ

仮面少女「……」

銀髪女「……」ペラッ

仮面少女「遅い」

銀髪女「……そうですか。確かにそうかも知れませんね」パタム

銀髪女「暫く読書などしていなかったので、スピードが落ちてしまったのでしょう。歴史小説は目が滑って……少し疲れました」ググー

仮面少女「新生吸血鬼のことですわ。というか、眼鏡でしたの」

銀髪女「ああ、これ？　昼は遠目でして。夜は調子良くなるんですが」カチャ

仮面少女「……フン、馬鹿みたい。あの男は昨日のコソ泥のガキを呼びに行ったんでしたわね」

仮面少女「逃げたのではなく」

銀髪女「何から逃げるというんです、ここは彼の家でしょうに」

銀髪女「立ちっ放しで疲れません？　これ良い椅子ですよ～」フカフカ

チャキ

銀髪女「そこは剣でしょう、突き付けるなら」

仮面少女「どこかのラジオの奴隷のせいで新品待ちでしてよ」スチャ

仮面少女「で？　戻る方法とやらは聞けたんですの？」

銀髪女「まだです。暫くは無理でしょうね」

銀髪女「邪魔はしないで下さいよ」

仮面少女「……」

銀髪女「どうしました」

仮面少女「戻りたいんですの？」

銀髪女「まさか」

銀髪女「仮に今人の身に戻れたとして……。それが文字通り、止めた時の軛を外すということなのであれば」

銀髪女「戻った瞬間、私はからっからのミイラに成り果てることでしょう。朽ちて砂になるかも。そんなのは御免です」

仮面少女「なら何故」

銀髪女「答える義理はありません。それにほら、来ましたよ」

ｶﾞﾁｬ

盗賊「こんにちはー」

露店商「吸血鬼ヲ増やしてはいなイな」

銀髪女「ええ、美味しいワインを頂いていますから」ﾆｺ

盗賊「真っ昼間から良い御身分でございますね。あんたが飲んでんの見るとワイン飲めなくなりそう」

銀髪女「そうですか」ﾄｸﾄｸ ｸｲ

盗賊「うぇ……」

露店商「そう言ウな。血ノ代わりなンだ」

銀髪女「代わりとするには味気無いことこの上ないんですがね。吸えば分かりますよ？　どうです」

銀髪女「特に処女のは格別でしてね」ｼﾞﾛ

仮面少女「…………獣」

銀髪女「今の貴方なら簡単に組み敷けますが」

露店商「馬鹿ヲ言え」

銀髪女「ふふふ」

仮面少女「……精々そうしていい気になっていなさいな」

仮面少女「事が成った暁には必ず殺す」

盗賊「四方山話はその辺でいい？」

仮面少女「ええ。貞淑をフレーバーくらいにしか思わない畜生共をさっさと滅する為にも」

盗賊「結構」ｺﾞｿ


◆

◆


銀髪女「……」

露店商「目星は付いタか」

銀髪女「付けてどうするんです？」

銀髪女「鼠。貴方でしょう、これを剥いだのは」

盗賊「聞いてどうするんです？」

銀髪女「教えませんよ」

盗賊「教えませんよ？」

仮面少女「ふざけてんですの？」

盗賊「とんでもない。なあ、なあ、銀髪、あんたに選択肢は無いんだ。情報を寄越しなよ」

盗賊「俺を追っ掛け回した挙げ句襲って来たクソ溜め共にマーキングしてやがったのはなんて野郎なの」

銀髪女「さあ」

盗賊「へえ」

銀髪女「早まらないで下さい。答えはしました」

露店商「つまり知らなイと？」

銀髪女「この紋章が魅了に出る知り合いは居ませんね。少なくとも、鷹派連中には」

銀髪女「そもそも、秘宝を追う手段を持つ吸血鬼なんて寡聞にして聞いたことがありません。そんなものがあったのなら私はまず――」

銀髪女「血眼になってそれを、乃至その人物を探したでしょうし」

盗賊「あんたがホントに寡聞っつーことでなく？」

銀髪女「失礼な、私はこれでも有名人なんですよ。そうですよね、銃の似合うお嬢様」

仮面少女「ラジオの奴隷の言う通りですわ。コレは我々ハンターの中でも大物扱いしていましたの」顎ｸｲ

仮面少女「賞金も……慎ましやかにすれば一生を穏やかに暮らせる程度の額が首に懸かっていましてよ」

銀髪女「先日までは」

仮面少女「今もですわ。一時的に止めているだけ、お生憎様」

盗賊「そんな話聞いたことないんだけど」

露店商「私モだ。あくまで事情ヲ知っている者の間でしか回っていない情報なんだロう」

露店商「肋から人ガ産まれるもノか、よくもまあここまで世に浸透したもノだ……狂人共め」

銀髪女「賞金は寧ろ有り難いんですよ。向こうから秘匿性の高い血袋が歩いてくる訳ですから」ﾍﾟﾛﾘ

仮面少女「フン」

盗賊「そうそう。派閥争いとか言ってたけどさ、そこんとこもうちょい具体的に教えて貰う訳にいかない？」

銀髪女「……」ｳｰﾝ

仮面少女「却下しますわ」

盗賊「堅物には聞いてませんわァ～。一昨日来やがれで～すわァ～」

仮面少女「チッ、これだから俗物は」ｲﾗ

仮面少女「いいですこと？　知らないでいいことを知り、首を突っ込まないでいいことに首を突っ込み、引っ掻き回して、まァだ跳梁しくさる気でいる」

仮面少女「今の段階でも貴方をふん縛って炉端でグリルにかけるには十分なんですのよどぶ鼠」

銀髪女「だ、そうです」

盗賊「あっそ。じゃ、何も知らない状態で事に当たれっての？」

仮面少女「だから――」

盗賊「言っとくけど、降りるって選択肢は無いから。邪魔だよね。撃ち殺す？　グリルにする？　やってみろよ」

盗賊「虎の威を借るのは君だけの専売特許じゃないんだぜ」

仮面少女「……」ｷﾞﾛ

銀髪女「堂々たるまさに鼠の発言ですね」

盗賊「けど、分かった。譲歩しよう」

仮面少女「……譲歩？」

盗賊「うん。ま、それは追い追い話そうか。まずはだ」

盗賊「道中、クソに襲われながら現状を聞いた。集まったからにはその話をするつもりだったんだよね？」

露店商「単なる方針模索ノつもりだったのだガね。状況ガ変わッた」

露店商「銀髪、頼みがアる。暫くここに居て欲シい」

銀髪女「三食付きなら」

露店商「……見繕ってやるからここノ人間には手を出スな」

銀髪女「用心棒料としては破格ですね」

仮面少女「用心棒？」

露店商「君にモだ」

仮面少女「はあ？　どうして私が貴方の部下を守らなければならないんですのよ」

露店商「君にも頼みがアる、といウ話だ……。今、この街に居る他のヴァンパイアハンターは何ヲしてイる？」

仮面少女「支部にいますわ」

露店商「呼べ」

仮面少女「……ついに決意が固まりましたの」

盗賊「馬鹿じゃねえの」ﾎﾞｿｯ

仮面少女「ゴミガキ？　よく聞こえなくてよ、何て？」ﾁｬｷ

露店商「茶々ヲ入れルな鼠！　いイか、ハンター。協力がしタい」

仮面少女「協力」

露店商「鷹派ノ奴かは分からなイが、この街に於ける吸血鬼の拠点と思しき情報ヲ手に入レた」

仮面少女「ああ……聞き出したんですのね」

露店商「皮の持ち主から、鼠がな。場所は職人区だ」

仮面少女「職人区。職人区の？」

盗賊「職人区のどこか」

仮面少女「それだけでは情報と言いませんわ」

盗賊「いや、ある程度予想は付けられる」

盗賊「あそこの人達は皆ギルドの人間だ。工業化の波に追いやられる前から団結してたから、後から来たよそ者が輪に入り込むなんて出来やしない」

盗賊「まして夜しか堂々と出歩けないんじゃね。自然、噂も出る」

仮面少女「つまり、聞き込みで探せと言うんですの？　はっ」

仮面少女「第一、魅了にかかった従僕の言うことを鵜呑みには出来ませんわ」

盗賊「それなんだけどさ」

盗賊「銀髪。吸血鬼の魅了ってホントに自分からは解けないの？」

銀髪女「まず不可能です。まるで解けたような聞き方ですが」

盗賊「解けかけてた。ほら、これ」ｷﾗ

露店商「……」ﾌｲ

銀髪女「指輪？　裏に文字……。血が付いていますが、結婚指輪ですね」

盗賊「犯罪者だったっぽいけど、家族が大事だったみたい。主との間で揺れてて、死ぬ間際にはひたすら女の名前繰り返してたよ。多分奥さんの名前だ」

銀髪女「犯罪者……？」

盗賊「福音に聞いた。手配犯だから取引すれば話す、って」

銀髪女「……解せない」

露店商「やはりそう思ウか、師ヨ」

盗賊「ああ、家庭教師ってそういう」

銀髪女「一夜限りですがね。……しかし、成る程……」

銀髪女「我々が人目を忍んでいるというのは話しましたか？」

盗賊「聞いた」

銀髪女「その延長線上の話です。人の世に面が割れているような人間を従僕にするなんて……」

銀髪女「いえ、長期に渡って仕えさせる気がなかったり、まさに今回のように鉄砲玉に使うというだけなら下調べ無しなのもまだ分かるんですが、引っ掛かるのはその吸血鬼の魅了です」

銀髪女「人の情ごときで解けかける魅了など、そんなものは普通ありえません」

露店商「私ハまだ使えなイが」

銀髪女「やり方自体はすぐに分かるようになります。嫌でもね」

銀髪女「まあ尤も、貴方は力に身を委ねまいとしていますから、通例よりは時間がかかりそうですが――とにかくそう、お粗末なんですよ」

盗賊「それってさ、慣れんのに時間かかるもんなの？」

銀髪女「個人差があります」

盗賊「……」ｸﾙ

露店商「どうシた」

盗賊「ボッさん。もしかしたら、そいつと仲良くなれるかもよ？」

露店商「……アあ、そういう可能性モあルな」

仮面少女「何にせよ眉唾ものの話ですわね」ﾌﾝ

盗賊「…………」

盗賊「なあ。さっきの続きだ」

仮面少女「……」ｼﾞﾛ

盗賊「君からは何も聞かない。聞かないよ」

仮面少女「それが何か」

盗賊「お仲間を動かして欲しい」

仮面少女「難しい相談ですわ」

盗賊「奴らは絶対にいる。保証する」

仮面少女「何を以て？　保証という言葉には担保が付き物でしてよ」

仮面少女「物品、責任、信頼。どれもこれも貴方のような下賎な人間にとって縁遠いものなのではなくて」

盗賊「万が一連中がいなかったら俺を殺していい」

銀髪女「……」

仮面少女「……不可能ですわ」

盗賊「じゃあ銀髪が気を使わないように、死ぬ間際"聞く"ってのはどう？　それを君が聞き届けてから殺す」

盗賊「何でもいいよ。好きなだけ条件つけな、ペナルティーのさ。どんな無茶振りでも約束する。履行は無いから」

仮面少女「……」

盗賊「さっさとしてくれ」

盗賊「連中はもう動いてるんだ」

仮面少女「……」

盗賊「……」

仮面少女「……」

盗賊「……どうせ見つめ合うんなら、仮面とじゃなくて素顔とがいいなぁ」

盗賊「ブスじゃなけりゃだけど。駄目？」ﾍﾗ

仮面少女「……」ﾌｲｯ

盗賊「駄目」

仮面少女「条件を加えますわ」

仮面少女「私も貴方達について行く。おかしな真似をしたら即殺す」

銀髪女「流石。最良の案です」ﾆｺｯ

仮面少女「分かってますわよ」

仮面少女「それならいいでしょう。伺いは立てて差し上げましてよ」

盗賊「(いけるか……？)」

仮面少女「嫌なら結構」

露店商「鼠。落とし所ハ他ニ無い」

盗賊「……分かった、一緒に行こう」

露店商「決まりダな」

露店商「＜おい！＞」

ｶﾞﾁｬ

元部下「＜どうかされましたか？＞」

露店商「＜その娘に通話機を使わせてやれ＞」

露店商「＜よく見張れ。口を滑らせたり探知される気配があれば回線を落とせ。番号は控えておけよ＞」ﾆｺﾘ

銀髪女「(あら良い笑顔)」ﾄｸﾄｸ

露店商「(……目障りな化物が)」ﾁﾗ

元部下「コチらヘ。通話機ハ二階でス」ｶﾞﾁｬ

仮面少女「物持ちですこと……」ｽｸ

ﾊﾞﾀﾝ

盗賊「何て言ったの？」

露店商「通話機まデ案内するようニと。そレと、最早上司でない私ニ協力してくれてありがトう、トも」

銀髪女「大した殊勝振りですね……」ｸｲ

露店商「だロう？」

盗賊「部下がいるって大変なんだね」

露店商「まアな」
銀髪女「それはもう」

露店商「……いるノか」

銀髪女「今はいませんが」ｺﾄ

盗賊「とりあえず準備しない？」

露店商「そうダな。銃弾、持てるだけ持っていくとイい」

盗賊「ホント！」

露店商「アあ、気にすルな」ﾆﾔ

盗賊「……程々にしとく、効かないし」ｶﾞｸ

銀髪女「…………」ﾄｸﾄｸﾄｸ ｸｲ

ｺｸ

銀髪女「(……)」ﾌ…


◆

◆


中心街 病少女の家

病少女の部屋


病少女「……だから、ただの友達なの」

弟「うん……」ｶｷｶｷ

病少女「あの男の子とは、疚しいことは何も無いの。ママが言ってるのは勘違い」

弟「うん……」ﾖﾐﾖﾐ

病少女「パパが帰って来るのは今日よ。この意味が分かる？」

弟「お姉ちゃん、ここわかんない」

病少女「ちょっと。ちゃんと聞いてたの？」

弟「うーんとね」

弟「学校の宿題の方が大事かなぁ」ﾆ

病少女「……ここは前に教えたわよ」

弟「忘れちゃった」

病少女「交換条件って言いたいの？」ﾊｧ

弟「こーかんじょーけんって何？」

病少女「ダメよ。勉強っていうのは、自分で取り組んで、自力で解けるようになることに意義があるの」

病少女「きっとかみ砕き過ぎたから忘れちゃったのね。分かった、次からはもう少し厳しくする」

弟「じゃあ、俺も厳しくするー」

病少女「……それとこれとは話が別っ！」

弟「じゃあ教えてー。いいじゃんー」

病少女「もうっ……」



蝙蝠「……」


◆

◆


銀髪女「……」ﾊﾟﾁ

銀髪女「(何か近付けばすぐに分かる。……あの子の心配は、一先ず要らない)」ｶﾁｬ

銀髪女「(問題は、窮せずとも猫に牙を剥くどぶ鼠――)」ﾍﾟﾗ…

盗賊「あ、じゃあさボッさん、上着無い？　コートでもローブでもいいから」

露店商「風邪でも病欠ハ無しダぞ」

盗賊「さっき廊下に飾ってあったヤツ貸して貰おうかと思って」

露店商「廊下……アあ、あレか。丁度いいんじゃないカい」

銀髪女「(彼は恐らく襲撃をかけてきた未熟者の居場所を聞き出せている。……含みを持たせたのは時間稼ぎ)」

銀髪女「(ハンターを近付けず、一対一で吸血鬼と相対するために他ならない)」

銀髪女「(聖銀剣の欠片と顔の平たい吸血鬼、主たる手札はその二つだけしか無い筈だ。不確かに過ぎるが、聞いた中にいけると踏める要素があった？　……)」ｼﾞ

露店商「ナイフ以外に何がある？」

盗賊「おつむと銀弾が三発。大事にしなきゃね」ｶｼｯ
福音『……』ｼ-ﾝ

銀髪女「(福音がある以上、番狂わせは十分に有り得る……)」

銀髪女「(日中は蝙蝠を飛ばせない。日の当たらない場所に潜ませたものは、日光を浴びればたちどころに消えてしまう……。しかし座視する訳にはいかない)」

銀髪女「(手を打たなければ。鏨を外し、愚弄への後悔に熟した血を肴に、本懐を遂げるための……手を)」

銀髪女「(とりあえずこの場は任せましたよお嬢様。目を離さないで下さい)」

これか？

違うな こっちか？