裸少女「もっと、私を『殴打』してぇ……」 (58)
「あぶぅっ! ごへぇっ!」
私のむき出しの腹部に岩のように固い拳が何度もめりこんでいく。
私の口からは異様な味がする胃液が吐き出され、両目からは涙が止めどなく溢れる。
さらに目の前の男は年頃の少女である私の顔に、容赦なく拳を振りぬく。
「げぶぇっ!」
私の頬がパンパンに腫れ上がり、口から血の混じった唾液とともに、
折れた奥歯が吐き出される。
「ぐ……うえぇ……」
全身を殴打されアザだらけになった私は、もはや立っているのもやっとだった。
だがこの状況に私は――
「え……えへへへへぇ……」
この絶望的な状況に私は心から歓喜していた。
「も、もっと……」
「もっと、私を『殴打』してぇ……」
数週間前。
領主の娘である私は、自宅である屋敷の自室で本を読んでいた。
「□□お嬢様」
屋敷で働いているメイドの一人がノックのあとに部屋に入ってくる。
彼女はティーセットが乗ったワゴンを部屋に運び入れた。
「お茶をお持ちしました」
「ええ、ありがとう」
メイドがテーブルに置いたティーカップに紅茶を注いでくれる。
彼女がしてくれるのはそれだけではない。
ベッドメイクから料理、掃除や洗濯などはメイドたちが全てやってくれる。
私も挑戦したことがあるが、彼女たちの腕には遠く及ばなかった。
「お嬢様は私たちに指示をしてくれればよいのです。
私たちはあなたにお仕えしているのですから」
……お仕えか。
そう、私は貴族。領主の娘。
私は彼女たちに奉仕される立場。
人の上に立つ立場。
――たとえ彼女たちに暴力を振るったとしても、彼女たちは逆らえない。
そう、そうなのだ。
領主である私の父は、領民に重税という暴力を振るっている。
おかげで父の住民からの印象は最悪のようだ。
それを知ったのは数か月前のことであったが、私はそれについて特に罪悪感を感じなかった。
領民が不満を爆発させて暴動を起こすのは自由だし、今の状況に甘んじて何もしないのも、
彼ら自身の選択だと思ったからだ。
だが、今の私は領民に大きな不満を感じている。
私は読んでいた本に意識を戻す。
そこには、体中を何度も殴打された上に土下座を強制された女が、
必死に許しを請う様子が文章で描写されていた。
私は最近、この手の描写がある本を片っ端から集めている。
そのきっかけは父の行いを知った少し後のことだった。
父に不満を持ちながら何も行動を起こさない領民はどんなものなのだろうかと、
こっそり屋敷を抜け出して様子を見に行ったのだ。
屋敷を離れてしばらくは賑わった通りが続いていたが、
少し離れた所にいた領民は皆、想像以上に質素な生活をしていた。
見た所、今日の食い扶持すら危うい者もいるようだ。
しかし、彼らは人を出し抜いてでも這い上がることをしなかった、
あるいは出し抜かれた。
おそらくその二通りなのだろう。
そのころの私は領主の娘らしく、奪って当然、与えられて当然という考え方しかなかった。
――だが、その私の思考がものの見事に変わる出来事はこの後起こる。
私が通りを進んでいくと、一人の男が立ちふさがった。
「おい姉ちゃん、金を貸してくれ。いやだとは言わせねえ」
私の身なりを見て、金を持っていそうだと思ったのか男はいきなり金をせびって来た。
失敗だった。こんな清潔な服を着ていたらこの通りの者でないことはまるわかりだ。
男は見るからにみすぼらしく痩せてはいたが、私よりは力が強いだろう。
どうしていいかわからないまま立ちすくんでいると、男が行動を起こした。
「金を出せって言ってるだろ! 早くしろ!」
「ひっ!」
生まれてから他人に怒鳴られるということが無かった私は、
その大声に震え上がって涙目になってしまった。
だが、その直後。
「早く出せ、このノロマがぁ!」
男の右拳が私の顔に振りぬかれた。
「あぶぅっ!」
その一発で私はいとも簡単に倒れてしまう。
殴られた痛みよりも殴られたという事実にパニックになってしまった。
「あ……ひい……」
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
素直にお金を出して許してもらえるだろうか。
それとも為す術なく殺されてしまうのだろうか。
――え? 『許してもらう』?
今、私は――
「お嬢様!」
その声に気づくと、私を殴った男はいつの間にか取り押さえられていた。
取り押さえているのは、屋敷に使える騎士の一人だ。
「大丈夫ですか、お嬢様」
もう一人の騎士が私を保護する。
どうやら、私をこっそり尾行していたらしい。
「申し訳ありません、本来ならあのような者に関わる前に助けに入るべきでした」
「え、いや……いいわよ、気にしないで……」
「ですがお嬢様が怪我を……」
「いいのよ……うん、これでいいわ……」
「お嬢様?」
不思議に思う騎士たちと共に、私は屋敷に帰った。
その後、自室であの出来事を振り返る。
私はあの時、為す術もなく殴られた。
反撃をすることなど思いつきもせず、どうしたら許してもらえるかを考えてしまった。
――そう、私は『許してもらえるか』を考えたのだ。
今回の一件は私が一方的に難癖をつけられたものだ。
だが私は、目の前の男に許してもらう、つまり自分を男より下に位置づけたのだ。
私はいとも簡単に暴力に屈し、自分を奪われる側の存在だと無意識に考えてしまった。
そうだ、これが私の本性なのだ。
今までの奪う側の思考、人の上に位置する側の思考は私の周りの環境によって、
後天的に構築されたものに過ぎない。
事実、領主の娘でない私は一人で他者から何かを奪うことなど出来なかった。
領主の娘という仮面を剥がされた私は、他者からの暴力に屈し、
一方的に奪われる側の存在だった。
そして私は、そのことを無意識に自覚していた。
これが私なのだ。私は殴られ、一方的に奪われ、
さらにそれを許容する――
――いや、むしろそれを喜ぶ存在だった。
その証拠に、私はあの男に反撃することなど思いもしなかった。
奪う側のプライドなど私には無く、むしろ奪われる側として、
相手に媚びへつらうことしか考えていなかった。
そうだったんだ、私は奪われる側だったんだ。
人の下に立つ存在なんだ。
それがわかった後、私は女性が屈服する内容の本を片っ端から集め、
その状況を自分に当てはめる日々を送った。
本を読めば読むほど、私の奪われる側としての思考はより強固なものとなり、
こうして領主の娘として存在すること自体がとても罪深いもののように考えていた。
そのことを、どうしたら相手に許してもらえるか。
いや、どうすれば相手に許してもらえるかより、どうしたら相手に喜んでもらえるか、
自分がどんなに無様な姿を晒せば相手に喜んでもらえるかを考えるようになった。
もはや私は、相手の前に這いつくばり無様な姿を晒すことで相手を喜ばすことが、
自分の望みであることを完全に自覚した。
領民の前で土下座する自分を想像する。
今まで偉そうにふんぞり返っていた私に対し、
領民は唾を吐きかけ、頭を踏みつけ、容赦なく蹴り飛ばす。
それを想像すると、とても安心するというか、喜びが体を駆け巡る。
自分が嘲笑の対象になっている。奪われる側として役に立っている。
それが、たまらなく嬉しい。
しかし、それが実現する可能性は今のところかなり低かった。
領民は父に対して暴動を起こす気配すら見せず、
私の生活はひどく穏やかなものだった。
だからこそ、私の不満は増していった。
なぜ、領民は早く私へ自らの不満をぶつけないのか。
領主の娘を蹂躙して、富を奪いとろうとしないのか。
というか、なぜ早く私の頭を踏みつけてくれないのか。
そんな考えがグルグルと回る日々を送った。
そしてついに、私は自分から行動を起こすことにした。
父が首都で会議があるため、何日か屋敷を空けることになったのだ。
今、屋敷には私と私に近い使用人と騎士が何人かいるだけになった。
それを見計らって、私は独断で領民にお触れを出した。
『指定の日に、領主の娘である□□と領民の代表が決闘を行い、
領民が勝った場合は□□が領主に税の軽減を進言することを約束する』
――という内容だった。
町の掲示板にあるお触れの内容を領民たちが見る。
「□□様って、別に軍人でもなんでもない普通の女の子だろ?
決闘なんてできるのかよ?」
「そもそも、□□様に何のメリットがあるんだこれ?」
「決闘って言っても、ゲームか何かだろ? 貴族のお遊びさ」
さまざまな憶測が飛び交っていたが、私の意図を察した者はいないようだ。
まあ、それでもいい。当日に私の本性を知ってもらえばいい。
――思い切り無様な姿を見せて差し上げます。
当日。
町の広場に多くの領民が集まった。
その中心に、代表に選ばれた××という男が皆からの声援を受けている。
××は見るからに屈強な体格で、領主への不満がかなり強いと評判の男だった。
最高の人選だ。決闘という言葉でとりあえず屈強な男が選ばれたようだが、
それに心から感謝したい気分だ。
私は広場にある檀上に上がり、挨拶をした。
「皆様、本日はお集まりいただいてありがとうございます。
これから行う『決闘』に私、□□が負けた場合、
私が領主に直訴することを約束します」
正直、半信半疑であったのだろう。
私の宣言を聞いた領民たちが歓喜の声を上げ、
××への声援が高まる。
しかし、彼らも疑問に思うことがあったようだ。
「なあ、□□様はなんであんな格好をしているんだ?」
今の私は体をすっぽり覆うマントを着ていた。
「知らないよ。決闘とやらに関係があるんじゃないのか?」
まあ、確かに関係はあるが、これから行われることを決闘と呼べるかどうか。
「それでは『決闘』の内容を説明します。
これから私と代表である××殿が戦い、相手に「まいった」と言わせたほうが勝ちです。
戦いの内容は……素手での殴り合いです」
領民たちがざわめく。
それはそうだ。別に戦いの経験のないただの女である私と、
屈強な体格をした××が殴り合いをしたら、どちらが勝つかは明白だろう。
「……それと、今まで皆様を苦しめてしまったお詫びとして、
私にはハンデを課すことにします」
私の横に使用人が立つ。
「本当に……よろしいのですね?」
使用人が私に確認をとるが、今更引き下がる気は微塵も無かった。
そして、私のマントが一気に剥ぎ取られる。
領民たち、そして××も驚愕に目を見開いた。
私は全裸の上に、両腕を後ろで縛られていたからだ。
領民たちが私の裸を見ている。
それだけで私の心は高鳴った。
正直、私はある程度プロポーションに自信があった。
おっぱいはFカップはあろう大きさだし、腰からお尻にかけての曲線も自信がある。
だが、恋人がいない私にはそれを披露する相手がいなかった。
その裸体が今、大勢の領民の前に晒されている。
「はぁん……」
乳首が立っていくのがわかる。
体が熱くなっていくのがわかる。
正直、死ぬほど恥ずかしいが、同時にかつてない気持ちよさを感じていた。
領民の中に、軽蔑しきった視線を送ってくる者がいたからだ。
どうやら何人かは私の真意を察しているのかもしれない。
その考えが当たっていることを教えるべく、私は言葉を続けた。
「ハンデとして私は両腕を封じて、おっぱいとおま○このみで戦います」
領民が今まで以上にざわめいた。
「な、何を言っているんだ!?」
「□□様は何を考えているんだ!?」
「無茶だ、おっぱいとおま○こだけで××に勝てるわけがない」
さまざまな声が上がるが、その間に私は壇上から降り、
××の前に立った。
××は裸の私を正視出来ないのか、顔を赤くして目を逸らしている。
――乱暴そうな見た目の割に真面目な男らしい。
まあいい、すぐに自分が奪う側であり、私を自由に蹂躙出来ることを思い知らせてやろう。
「そ、それではこれより決闘を始めます。
先ほど□□様が言われた通り、相手に「まいった」と言わせたほうの勝ちです。
では、はじめ!」
使用人が決闘の開始を告げる。
状況についていけない××は私の裸を見ないように努めてはいるが、
その視線がチラチラとおっぱいに向いているのがわかる。
……まあ、はじめのうちはこんなものだろう。
相手をその気にさせるべく、私から仕掛けることにした。
「さあ、いきますよ!」
私はわざとおっぱいがユサユサと揺れるように体を左右に動かしながら近づく。
領民は赤面して目を逸らす者、食い入るように裸を見つめる者、
侮蔑の顔を浮かべる者など、反応はさまざまだ。
私としてはもっと侮蔑の視線を向けてほしいので、
この日のために考えた様々な技を繰り出すことにした。
「裸女戦法・おっぱいポリッシュ!」
「うわあっ!?」
私は戸惑う××の体に密着し、おっぱいをこすりつけた。
「ちょ、ちょっと!?」
「えいっ! やあっ! 私の乳首に削られなさい!」
先端の固く立った乳首で相手にダメージを与えるという『名目』の技である。
一応決闘なので、私も相手に攻撃しなければならない。
だが同時に、相手に媚びへつらいたい。
というわけで、私なりに考えた「裸女戦法」が生まれた。
ただし、この技の弱点は――
「ひゃんっ! あひぃん!」
私の方がダメージが大きいということである。
乳首が相手の服に擦れる度に、形容しがたい刺激が私の体を駆け巡り、
自然と喘ぎ声が出てしまう。
「え、えっと……」
××はまだ戸惑っている。
仕方がない、さらに技を繰り出すか。
「裸女戦法・おま○こウォッシュ!」
今度は××の膝におま○こをこすり付ける。
おま○こが濡れているので、相手は服が濡れていやな思いをする……という『名目』。
そして当然――
「あぁん! おま○こがぁ……気持ちいいよお……」
私の方がダメージが大きい。
全裸で一心不乱に股間を男の膝にこすり付ける私を見て、
××を含めた領民も気づいたようだ。
『こいつ変態だ』、と。
ようやく××が私に軽蔑の視線を向ける。
ああ――たまらない。
もっと私を軽蔑してぇ……
自然と顔に笑みが浮かぶ。
「……ふざけんじゃねえ! この変態女がぁ!」
「ごぶぅっ!」
ついに××の拳が私の腹部にめり込んだ。
その一撃でボロ雑巾のように吹き飛び、地面にたたきつけられる。
「ごほっ! ごへぇ……」
あまりの衝撃に息をすることすらままならない。
目から涙があふれ出す。
口に砂が入ってざらつく。
見上げると、××が私を怒りの表情で見下していた。
――心の底から嬉しい。
相手に見下されることが、こんなに嬉しいとは思わなかった。
今すぐ彼の靴を舐めて、自分が見下される存在だということを知らしめたいが、
まだだ、あくまでこれは『決闘』。
例え××が一方的に私を蹂躙する内容だとしても、これは『決闘』として始まったのだ。
靴を舐めるのは私が「まいった」と言ってからでないとダメだ。
そして逆に――
私は「まいった」と言わない限り、
彼に思う存分蹂躙されることが出来る。
手が使えないが、ガクガクと震える足でやっとの思いで立ち上がる。
「……ふ、ふふ。これで終わりですか?
あなたはまだ、私に不満をぶつけたいのではないのですか?」
おそらく今の私は、恐ろしく歪んだ笑みを浮かべているのだろう。
相手に媚びへつらう者特有の笑みだ。
××はもう私が変態だと確信しているのか、
ゴミを見るかの様な目で私を見ている。
「この変態女が! てめえみたいな奴が俺たちを苦しめてきたのか!?」
××の怒りはすごかった。
彼の拳が今度は私の右のおっぱいを掠める。
「ひゃんっ!」
おっぱいに赤い切り傷のような線が残る。
痛い。痛いけど、その中に確かな快感がある。
××は続けさまに私のおっぱいを何発も殴った。
「あんっ! ああんっ!」
彼の拳がおっぱいや乳首に当たる度に、
痛みと快感が襲う。
屈強な男に為す術なく一方的に殴られるのは、想像以上に気持ち良かった。
痛みでおっぱいを押さえようとも、手を縛られているので不可能だった。
そのためおっぱいの痛みに悶絶する私は、
自然と体をくねらせ、おっぱいをプルプル揺らす結果となってしまう。
その様を見て、領民たちが笑う。
「見ろよ、□□様がこんな大勢の前でおっぱい揺らしながら、
殴られて喜んでいるぞ」
「幻滅したわ。領主の娘だから上品なのかと思ったら、
こんな変態女なんてねえ」
「おーい、□□! もっとおっぱい揺らしておま○こ見せてみろよ!」
私を軽蔑し、あざ笑う声がそこら中から上がる。
この場での私は、間違いなく見下され、奪われる存在だ。
ゾクゾクする。もっと見下されたい。
そのため、新たなる技を繰り出すことにした。
「裸女戦法・おま○こ丸出しキック!」
私は蹴りを出すフリをして、おま○こを××と領民に見せつける。
領民からざわめきが上がるが、××は冷静に私の丸出しのおま○こを殴った。
「ひぎぃっ」
これまで以上の痛みが私を襲う。
内またになり、目から涙が止めどなく溢れる。
女の大事な所を容赦なく殴られたという事実に私の心がざわめく。
「自分から急所を見せてくれたら、世話無いぜ」
××が吐き捨てるように言った。
どうやら彼も蹂躙する側としてスイッチが入ったようだ。
……まだ足りない。もっと、もっと殴られたい。
その後は私の望んだ通りの一方的な蹂躙が繰り広げられた。
××は素早く私の後ろに回り、お尻に蹴りを叩き込む。
「はぎいっ!」
お尻が燃えるように熱を持ち、リンゴのように赤くなったことを感じる。
さらに私の二の腕にもう一発蹴りが繰り出される。
「あぐあっ!」
腕の骨がいとも簡単に折れ、内出血で青黒い色が広がる。
その後も脇腹、肩、おへそ、腰、鎖骨などに次々にパンチがめり込む。
「ぐへっ! おぶぅっ! がはぁっ! へげぇ!」
何か所も骨が折れ、形容しがたい痛みが広がる。
だが××は、領主の娘がこんな変態だということへの怒りからか、
さらに私に打撃を加えた。
「あぶぅっ! ごへぇっ!」
私のむき出しの腹部に岩のように固い拳が何度もめりこんでいく。
私の口からは異様な味がする胃液が吐き出され、両目からは涙が止めどなく溢れる。
さらに目の前の男は年頃の少女である私の顔に、容赦なく拳を振りぬく。
「げぶぇっ!」
私の頬がパンパンに腫れ上がり、口から血の混じった唾液とともに、
折れた奥歯が吐き出される。
「ぐ……うえぇ……」
全身を殴打されアザだらけになった私は、もはや立っているのもやっとだった。
だがこの状況に私は――
「え……えへへへへぇ……」
この絶望的な状況に私は心から歓喜していた。
「も、もっと……」
「もっと、私を『殴打』してぇ……」
とうとう私の口から本音が出てしまった。
もう隠す必要はない。私は見下され、唾棄される存在なのだ。
私の言葉を受けて、××は止めとばかりに、
私の顔の中心をめがけて渾身のストレートを放った。
「ぐべぇ!」
その一発で私は紙くずのように吹き飛び、地面に仰向けに倒れた。
鼻の骨が折れたのか、血がドクドクと流れる。
もういいだろう、そろそろ宣言する時だ。
「ま、まいりまひた……私は、殴られて喜ぶゴミクズ以下の変態でひゅう……」
その言葉に領民からの嘲笑が上がった。
これだ、これこそが私の望んでいた光景だ。
後は私が××の、いや××様の靴を舐めて敗北を決定的なものにしなければならない。
あちこちが痛む体を這いずらせて、彼の足もとに近づこうとした。
その時だった。
「全員、動くな!」
その声は父の側近の声であった。
その声を聞いた後、私は布のようなもので覆われたことを感じ、気を失った。
結局、父は予定より早く帰ってきてしまったらしい。
広場で私が一方的に殴られていたのを見た父は、
その場にいた領民を全員捕え、牢屋に送ってしまった。
さらに、どうやら私は無理やり戦わされていたものだと勘違いしたらしい。
私は傷の治療のためにしばらく屋敷から出られなくなり、
さらにそのまま縁談の話が来てしまった。
私の婚約者として紹介された男は、柔和な印象のさわやかな人だった。
傷を負った私をいたわり、心のケアにも尽力しているようだった。
だが、今の彼に私の心をどうにか出来るとは思わない。
なぜなら――
私は彼をどうやって「蹂躙する側」にするかしか考えていなかったからだ。
完
終わり!
幸せとはなんだろう
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