女「その恐ろしさはとにかく人を掴んで離さない魔力」ヌクヌク
女「一度魅入られれば逃れることは不可能」ヌクヌク
女「やはり恐ろしい」ヌクヌク
男「なんだかんだ言ってこたつ入ってんじゃん」
女「だって寒いんだもーん」ヌクヌク
女「ねー、男ー。男も一緒に入ろうよー」
男「まだ家事済んでないから無理」
男「お前も仕事あるんじゃないのか?」
女「このこたつの前ではどんなことも些末事(キリッ)」
男「ダメ人間乙」
女「こたつ入りながら食べるみかんって最高よねぇ」
男「普段より何故か美味しく感じたりするよな」
女「でしょー?」
女「やっぱね、こたつにみかんはつきものだと思うの」
女「だから、みかん買ってきて」
男「自分で行ってこい」
女「温泉とか行ってみたくない?」
男「唐突だな」
女「世界はいつだってハプニングに包まれてるのよ」
男「俺は今ハプニング真っ最中だけどな」
女「でもこたつから出たくないなー」
女「やっぱやーめた」
男「こたつむりめ」
女「外で吹く木枯らしとか見てるとこたつ入ってるのに寒く感じちゃうなー」
男「今年の冬は特に寒いらしいぞ」
女「うー…。余計にこたつが手放せなくなるね!」
男「どんどん駄目になってくな」
女「私が悪いんじゃない、このこたつが悪いのよ(キリッ)」
男「じゃあ処分しなきゃな」
女「や!」
女「こたつといえば熱いお茶を飲みながらほっこりするのがいいと思うの」
男「お茶なら自分で入れてこいよな」
女「ふぇ!?何でわかったの?」
男「お前の行動パターンはお見通しだ」
女「これはびっくり」
女「しょうがないなー…」
女「お茶を飲んでる妄想でもしよう」
男「そこまで出たくないか…」
女「冬でもアイス食べる人ってなんなんだろうね?」
男「そりゃそういう人だっているだろうさ」
女「ふーん」
男「少なくとも俺の目の前にそれをやってるやつがいるからな」
女「てへっ」
男「腹壊すなよ」
女「こたつって誰が考えたんだろうね?」
男「さあな」
女「私はこれを作った人にノーベル賞をあげたいくらいよ」
男「また大げさな…」
女「そのくらいこたつは偉大なのよ!」
男「使ってる人間はだらしないけどな」
女「にゃぁぁぁ…。お腹痛いー…」
男「この前のアイスが効いたか…」
女「おとこぉー…」
男「はいはい、分かったからとりあえず布団に行こうな」
女「ん…」イソイソ
男(いやにあっさり出たな…)
男「ほら、薬飲んで寝てろ」
女「んー…」
男「まったく…、世話のかかる」
男「飯は雑炊でいいか?」
女「男の作ったものならなんでもー…」
男「はいはい、雑炊でいいんだな」
女「ふへへ…、男世話好きー」
男「誰のせいだ、誰の」
男(ま、雑炊はこんなもんだろ)
男(後は女に食わせるだけか)
男「おーい、雑炊できたぞ」
女「わっほい」
男「ほら、起きれるか?」
女「んむー。男、あーんして、あーん」
男「ったく、今回は特別だぞ。ほら、あーん」
女「んー!」モグモグ
女「うひひ、幸せー」
男「そりゃようござんした」
女「眠いー…」
男「こら、こたつで寝るな。余計病気が酷くなるだろ」
女「みー…」
男「しょうがないな…」
男「よっ…、と」
男(……こいつ、こんなに軽かったかな…?)
男「ほら、布団行くぞ」
女「男ー、頼むー…」
男「へいへい」
男「着いたぞ」
女「」スヤスヤ
男「…やれやれ」
男「よっこらせ…と」
男「おやすみ、女」
女「ふへへへ、男大好きー」ムニャムニャ
男「はいはい、俺も大好きだよ女」
女「くひひひひ…」ニヘラ
女「はふー、やっぱこたつっていいわー」
男「元気になって早々こたつかよ…」
女「この世にこたつに勝るものなし!」
男「んじゃ、晩飯のすき焼きはいらなかったかな?」
女「やー!食べる―!」
女「……」ジュルリ
男「まだ煮えてないから待て」グツグツ
女「男ぉ……」ウリュウリュ
男「そんな目をしてもダメだ」グツグツ
女「ここはこたつに免じて!」ビシィッ!
男「そら、生煮えの春菊だ。たんと食え」ドサッ
女「男の意地悪ー!」
男「冗談だ。ほら、こっちのは煮えてるだろ」
女「わぁ…。お肉だお肉だー!」
男「ったく、子供みたいだなぁお前…」
男(…………)
女「男、どうしたのー?」
男「あ、いや、なんでもない。女からどうやって肉を奪おうか画策中だっただけだ」
女「むー! これは私のお肉だもーん! 渡さないもーん!」
女「おっにく♪ おっにく♪」
男「あんまりはしゃぐと落とすぞ」
女「ほああああ!」ボトッ
男「言わんこっちゃない…」
女「私のこたつがぁぁぁ…!」
男「肉じゃなくてそっちかよ!?」
女「あぁ…、マイスイートラヴこたつちゃん…」
男「どれ…、この程度ならすぐとれるな」
男「よっ……と」ゴシゴシ
女「ほぇぇぇ!? 取れたよ!」
男「ま、ざっとこんなもんだな」
女「男すごーい! 男大好きー!」
女「お腹いっぱーい」
男「ほら、片づけるから手伝え」
女「こたつぬくぬくー…」
男「こたつしまうぞ」ボソッ
女「何を運べばいいでありやがりますか、隊長!」ビシィ!
男(なるほど、こうやればいいのか…)
女「男ー」
男「なんだ?」
女「暇ー」
男「そうか」
女「……」
男「……」
女「なんか一発芸やってよ!」
男「いきなりハードル高いなおい!」
女「ほら、今はやりの芸人とかいるじゃん!」
男「ああ、スギちゃんとかな」
女「ダンディ坂野とか!」
男「一発芸の芸人としてはちょっと古いな!」
女「なんでもいいからやってよ~」
男(こいつは…(怒))
男「ったく、暇ならテレビあるんだしテレビとか見とけばいいだろ」
女「男リモコーン」
男「そらよ」ポイ
女「わとと」ワタワタ
女「ほあ!?」ツルッ
女「」ゴチン!
女「~~~!!」ゴロゴロゴロゴロ
男「なんでリモコンキャッチするだけで頭に当たるんだ…」
女「あう~…」ピッ
男「ほら、どこぶつけたんだ? 見せてみろ」
女「ここ~…」
男「ん……、軽いたんこぶできてるぐらいだ。まあ平気だろ」
女「痛いよ~…」
男「しょうがねえなあ…」サスリコサスリコ
女「うー…」
男「よしよし」
女「えへへへ…」
テレビ「テメエラテレビミロヨ」
女「もうすぐ何の日か知ってる?」
男「ん? 何の日だったっけ?」
女「ほら、クリスマスだよクリスマス!」
男「おわ、もうそんな時期か。ケーキの材料買っとかなきゃな」
女「プレゼントも忘れないでね!」
男「へいへい」
女「いぇーい! メリークリスマース!」
男「あんまりはしゃぐと転ぶぞ」
女「ぐへっ」ドチャ
男「言わんこっちゃない…」
女「えへへへ…男とこうやってクリスマスを過ごせるのが嬉しくってさ」
男「そっか……」
男(…………)
女『…と来……ク…ス……や……だ…』ザザザザザザ
男(…………)
男「俺もうれしいよ、女」
男「で、プレゼントはなんだって?」
女「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!」
女「私はあのイヤリングが欲しいのです!」ビシッ!
男「…………!?」
女『あ…イ…リン……し…なぁ…』ザザザザザザ
男「あれはダメだ!」
女「ふぇっ!?」ビクッ
女「ど、どうしたの男? いきなり怒鳴って?」
女「私何か悪いことした?」
男「え、あ……すまん。なんでもない」
男「怒鳴ってごめん。でもあれはダメなんだ」
女「う、うん」
男「…………」
男「帰ったらいいもんやるから今はこれで我慢しろ」ファサ
女「わ、男のマフラーあったかーい!」
男「今の今まで使ってたからな」
女「ぬっくぬくだー」
男「さて、ひとまず買い物して帰るか」
女「男ー、ケーキの材料は?」
男「もう買ってある」
男「ただ…、チョコケーキにするか、無難に苺ケーキにするか悩んでな…」
女「苺ケーキ推奨!」
男「んじゃ、苺ケーキにするか」
女「わーい!」
男「苺も買いましたと」
女「トッピングも買いました」
男「フライドチキン用の肉も買ったし」
女「サラダの材料もオッケー!」
男「買い洩らしはもうないな」
女「男、スープの材料はー?」
男「…………」
女「男、おっちょこちょいだー」
男「わ、忘れてただけだ」
男「ほら、行くぞ」
女「わー! 待ってよー!」
女「男ー、帰ろー」
男「っとと、あんまりひっぱんなって」
女「うひひひ」
『サムクナイカ?』『オトコガイルカラヘイキー』
???「…………」ジッ
~大通りのテレビ~
nc(ニュースキャスター)「えー、昨日未明□□県○○町で辻斬り事件が発生した模様です」
nc「幸い、被害にあった女性は軽傷で済みましたが、依然として犯人は捕まっていないとのことです」
nc「街の皆さんはくれぐれも注意を怠らないようにしてください」
nc「では次のニュースです。以前より人気の高かった……」
???「…………」
女「帰ってきました」
男「帰ってきたな」
女「私は早速こたつに…」イソイソ
男「冷蔵庫に入れるの手伝え」
女「えー、冷たいよー」
男「ほら、ぶーぶー文句言わずに手伝え」
女「ぶーぶー」ブヒブヒ
男「……ケーキはいらないか?」
女「やーん!」
女「」ズズズズ
女「ほぁぁぁ」
女「やっぱこたつで飲む温かいお茶は違うよねえ」
女「そういえば男何やってるんだろ?」
女「ちょっと探し物してくるって2階に行っちゃったけど」
女「気になるなー」
女「うーむ…。ま、いっか」
男「…………」ゴソゴソ
男「……あった」
箱「」
男「この中に確か…」ガサゴソ
男「………ん」チャリ
男「これだ」ソッ
イヤリング「」
男(…………)
女『…ひ……こ…欲…かっ……だ……-』
男「…………」
男「くそったれ……!」ギュッ
女「あー、男だー」
女「そろそろケーキ作んないと3時のおやつに間に合わないよ?」
男「ん? ああ、これから作る」
女「よーし、張り切ってやっちゃうぞー!」
女『…のため…私………よ…!』
男(…………)
男「そんじゃあ、女には飾り付けでも頼もうかな」
女「この世に二つとないケーキ、作ってみせます! こたつの上で」
男「そら、出てこい」ズルズル
女「あーれー」
男「っと、クリームはこんな感じか」
男「おいそこ、勝手にクリームなめるな」
女「てへ」エヘヘ
男「まだ使うんだからな」ヤレヤレ
男「ん、鼻にクリームついてんぞ」
女「ほえ?」
男「ったく…」ペロ
女「にゃにゃにゃにゃにゃ///!?」
男「ほら、これでとれただろ」
女「う、うん……///」カオマッカ
男「うっし…」
女「ケーキかんせーい!」
男「んじゃ、片付けして食うか」
女「うんうん、じゃあ私はこたt…」
男「逃すか」ガシッ
女「んにゃー…」
男/女「「いただきまーす」」
女「おいしぃー!」
男「ん、我ながら中々上出来だ」
女「男の苺もらいー!」ヒョイ
男「女のケーキもらい―」グサッ
女「男ずるい!」
男「苺とったお前が言うな」
女「ほぁぁぁぁ…、眠くなってきた」
男「寝ててもいいぞ、家事ならやっとくから」
女「ぉぉぉ…、いつもすまないねぇ…」
男「それは言わない約束だろ、おっかさん…」
女「男って地味にノリいいよね」
男「そりゃお前といればこうもなるさ」
男「っと、忘れてた」
男「そら、さっき言ってたいいもんだ。受け取れ」
女「ほえ? なにこれ?」
男「まあ開けてみろ」
女「……? うん…」
女「……!? お、おおおおお男! こ、これって!?」
男「まぁメリークリスマス?」
女「男大好きー!」ギュッ!
男「こら、離れろ暑苦しい!」
女「うへへへ、男ー!」チュ
男「ったく…」
…………
………
……
女「」スピー…スピー…
男「気持ちよさそうに寝てんな…」
男「よっと…」ダキッ
男(…………)
男(……これで…、良かったんだよな女……)
男「よいせっと…」ソッ
男「おやすみ、女」チュ
女「」オヤスミー
女「……んにゃ?」
女「あれ? 私なんで布団で寝てるの?」
男「ん? 起きたか?」
女「今何時?」
男「午後6時30分。もう少しでディナーだぞ」
女「んー、とりあえずこたつー」
男「本当にこたつ好きだな、お前」
女「こたつ命!」
男「はいはい」
男「さて…」
女「さて…」
男「ディナーの時間だ、女」
女「いつも子供っぽい私も…、今日だけは大人」
女「ワイン開けちゃうわ」
男「おまっ!? いつの間に!?」
女「男秘蔵のワインです♪」テヘペロ
男「しかもそれ奥にしまっといたやつ!」
女「ふはははは、覚悟しろー!」
女「……開かない」
男「バカがいる」
男「結局酔っぱらって寝たし」
男「酒弱いんだからあんまり飲むなっての…」
コンコン
男「ん? こんな時間に客か?」
男「はーい、今でまーす」
ガチャ
覆面男「…………」
ナイフ「」
男「……!?」
覆面男「……着いてきてもらえるね?」
男「書置き位させてくれ…」
覆面男「かまわんだろう」
~公園~
男「…………」
覆面男「…………」
男「……いい加減、その覆面取ったらどうです? お義父さん」
覆面男「………ぷっ」
覆面男「わははははははww」
女父「いやぁ、すまんね男君、ここまで着いてきてもらって」
男「わざわざナイフのレプリカまで用意して…お義母さんにばれたら大変でしょうに」
女父「これあった方が雰囲気出るかなみたいなww」
男(さすが女の父親だ…。よく女に似てる)
女父「缶コーヒー飲むかい?」
男「いただきます」
女父「いやぁ、街で君たちを見かけてね。久々に訪ねようかと思ったんだが、女があの状態だからね」
女父「無暗に訪ねるのも駄目かと思って、男君だけを連れてきたんだが…」
男「あの現場に遭遇した方がよほどひどいことになったと思いますが…」
女父「確かにww」
女父「それで……、今女はどうしてる?」
男「……いつも通りです」
男「以前と変わらない、あどけないままの女です」
女父「そうか……。君には苦労をかけるな男君」
男「いえ…、女には俺が着いていてやりたいですから…」
男「それに…、あいつは俺じゃないと不審がるでしょうし」
女父「そうだね……」
女父「そういえば……もう3年になるんだね」
男「ええ……」
男「あいつが記憶を無くしてから…今日で3年目です」
女父「……悲しい事故だったね」
男「そうですね…」
女父「その額の傷…、やはり消えていないね」
男「医者には残ると言われていましたから…」
男(俺は3年前の今日、女と街を歩いていて交通事故にあった)
男(原因は車の暴走運転)
男(赤信号なのに車が女に向かって突っ込んできた時に、俺はあいつを庇って事故にあった)
男(女は、その時の俺を見てショックを受け記憶を失った)
男(そうしてあいつは…、俺が恋人ということだけを覚えていて、それ以外はすっかり忘れてしまっていた)
男「すみません、あの時はご心配をおかけしました」
女父「はは、君が今元気ならそれでいいさ」
女父「女も男君も今は元気に過ごしている、僕はそれだけでうれしいからね」
男「はい……」
女父「さて、今年も女がどうだったか、聞かせてもらおうかな?」
男(女のお父さんは彼女の記憶喪失のせいで未だに彼女に会えていない)
男(彼は、今の女に悪い影響を与えるといけないから、と言っていたが…)
男(本当は会いたいに違いない…)
男(だから俺にできるのは…)
男「ええ、いくらでも」
男(出来うる限り、女のことを伝えることだ)
女父「ちょっと場所を変えよう。ここはそれには少し寒い」
男「近くにいいカフェテリアがありますよ」
女父「おお、是非案内してもらおうかな」
男(それから女のお義父さんと話をして、気が付けばもうすっかりと0時を回っていた)
男(話を聞いた後のお義父さんはとても嬉しそうな顔だった)
男(また、来年も話を聞きたい、と話していた)
男(もちろん俺もそのつもりだ)
男「ただいまー…」ソッ
女「んぅ? 男出かけてたのー?」
男「あれ? 起きてたのか?」
女「なんか目が覚めちゃって…」
男「早く寝ないと明日に響くぞ」
女「うん……」
女「男ぉ……」
男「どうした?」
女「ちょっと怖い夢…見ちゃったの…」
女「だから…一緒に寝よ?」
男「…分かった。先に上に上がっとけ」
女「うん……」
男「女…、まだ起きてるか?」
女「ん……男?」
男「ああ…、ほらかけ布団押しやってるじゃないか」ソッ
女「男ぉ……」
男「はいはい…、添い寝してやるから早く寝な」
女「うん…」
女「私ね…、とても怖い夢を見たの」
男「怖い夢?」
女「うん……」
女「男がね、死んじゃう夢」
男「…………!?」
女「見覚えのない道で、男が私を庇って車に轢かれちゃって…」
女「それで、男が頭からいっぱいいっぱい血を流してたの…」
男「女、お前まさか……!?」
女「男が真っ赤で…、血に塗れて…、青白い顔して…」
女「それが悲しくて、嫌になって、思い切り泣こうとしたところで目が覚めたの」
女「怖い…怖いよ、男……」
女「男は…どこにも行かないよね? 私の傍にいてくれるよね?」
男「…………」
男「ああ、約束する。俺はいつでも君の隣にいるよ、女」
女「」スースー…
男「…………」ポンポン
女「んぅ……」
男「……おやすみ、女」
男(……まさか女があんな夢を見るとは思わなかった…)
男(女が話していたのは間違いなく事故の時の記憶)
男(……記憶が戻りつつあるとでも言うのか?)
男「………女」
女「んー! いい朝だー!」
男「んん……」
女「んー? あ、あれ? なんで男が私の隣に?」
女「まぁいっかー!」
女「男ー、朝だぞー! 起きないとキスしちゃうぞー!」
男「さて、朝ごはんの支度でもするか」キリッ
女「ひ、ひどい…」
男「そら、朝ごはんできてんぞー…ってまたこたつか」
女「うへへ、ここまでごはんを運ぶがよいぞ、男」
男「へいへい、じゃあ料理は運んでやるから皿は自分で運んで来いよな」
女「なにそのとんち」
男「文句あるなら自分で取りに来い」
女「うみー……」
男「そういや女、昨日のこと…覚えてるか?」
女「ほえ? 昨日?」
女「うーん……、ワイン飲んだとこまでしか覚えてないなー」
男「覚えて…ないのか?」
女「私なんか変なことしてた?」
男「いや、特には…」
男「覚えてないなら、覚えてないでいいんだ」
女「そういわれると気になるなー…」
男「思い出すと黒歴史になるぞ」
女「ひっ! や、やめとく」
男「っと、そうだ女」
女「なあにー?」
男「近々仕事が忙しくなるかもしれないから帰りは遅くなるかもしれん」
女「りょうかーい」
男「くれぐれも俺がいないからって好き勝手するなよ?」
女「ぐ……」
男「子どもかお前は…」
男「行ってきます。昼飯は用意しといたから、温めて食えよ」
女「はーい」
男「それから掃除しようだとか洗い物しようだとか普段やらないこともやるな」
男「お前がやると逆に手間がかかる」
女「ぐぅ…言い返せないのが悔しい」
男「その辺はまた教えてやるからその時に覚えろ」
女「はーい」
女「いってらっしゃーい、男ー」
女「あーあ、男行っちゃって暇だなぁ」
女「私も仕事しようかしら…」
女「でも仕事って言っても本書くくらいだしなあ」
女「…………」
女「そういえば今度の締切っていつだったかしら」イソイソ
男(本当にあいつ一人残して大丈夫だったかな…)モンモン
男(なにしでかすか分からんからな、あいつは…)
『男くーん、これ頼むわー』
男(この前はなぜか電子レンジが爆発してたし、その前はキッチンで火柱が上がってたな…)
『男くーん』
男(そういや、洗濯機から泡が吹き出てたこともあったし…)
『男くん聞いてるかーい?』
男「あ、はい! 大丈夫です!」
女「…………」カリカリ
女「…………」
女「………ハッ! もうこんな時間」
女「お昼御飯食べなきゃ」
女「チンしてこよっと…」
女「じゃーん! 男が作ってくれたお昼ごはーん!」
女「いっただっきまーす!」
女「」モグモグ
女「…………」
女「……やっぱ寂しいなぁ」
男(あいつちゃんと昼飯食ってるかな…? 作り置きしておいたから大丈夫だと思うけど…)
『おい、男。飯行こうぜ』
男「あ、すまんが俺は弁当あるんだ」
『へいへい。あー、いいよねぇ良妻もちは。愛妻弁当?』
男「残念ながら作ったのは俺だ」
『あー、はいはい。そういうことにしたいんだろ? 分かってるって』
男「本当に作ったのは俺なんだがなぁ…」
女「…………」カリカリ
女「……できた」
女「ふぅ…。今日の仕事終わり―!」
女「ねぇ、男ー! 今日の晩御飯は…」
女「……。そういえば帰り遅くなるって言ってたっけ」
女「晩御飯どうしよう…」
女「……コンビニ弁当買ってこよう」
男(すっかり遅くなってしまった)
男(晩飯までには帰るつもりだったが…、なんとまぁうまくはいかない世の中よ)
男(晩飯食ったのかな、あいつ…)
男(なんにせよ急がなくては)
男「あれ…? まだ電気ついてるな。あいつまだ起きてるのか?」
男「ただいまー…っと」
女「あ、おかえりー」
男「こんな遅くまで起きてて大丈夫なのか?」
女「平気平気ー。もう原稿終わって送っちゃったからしばらくお休みー!」
男「そりゃよかったな。でも夜更かししていい理由にはならないぞ」コツン
女「てへ」
女「何よー、男のこと待っててあげたんだよー。この幸せ者めー!」
男「へいへい」
女「男のいけずー」
男「はいはい」
女「男のバカー」
男「そうだな」
女「男大好きー!」
男「……っ!?」ップイ
女「あははー! 男ってば顔真っ赤ー」
男「う、うるさい! 早く寝てろ」
女「きゃー、退避ー!」
男「さて、女も寝かし付けたし、晩飯も食った」
男「そうだな…、一応書類の整理を……ん?」カタン
男「こんな時間に手紙?」
男「なんなんだ、一体」ヒョイ
男「……? 白紙?」
男「わけが分からん…」
男「女ー。もう行ってくるぞー!」
女「あーい……。いってらっさーい……」
男「夜更かししてるからだぞ?」
女「zzz」
男「とぅ!」ベシ
女「あだぁっ!?」
男「いい眠気覚ましだろ」
女「男のアホー!」ポカポカポカ
女「もう…男のバカ。まだ頭痛むし」
女「あ、でも朝ごはんは用意してくれてる」
女「……えへへ」
女「いっただっきまーす」
女「ん! 男の料理はやっぱいつも美味しいねぇ」
『被害者によりますと、犯人の顔は見ることは出来なかったが、男だったとの証言をしています』
『また、犯行の際に共通点があると見られ、葉書を残していたとして……』
女「ふーん。最近は物騒だねぇ」
女「戸締りは強化しとかないと…」
『被害者によりますと…』
同僚「最近物騒だよなぁホント。男も気をつけろよー?」
男「お前ほどちゃらちゃらしてないから人の恨みは買ってない」
同僚「へ、言うじゃねぇか。ま、俺ともなりゃあ、通り魔の1人や2人くらい…」
『犯行の際に、葉書を残していたとして…』
男「…………!?」ガタッ
同僚「お、おいおい。どうしたんだよ?」
男「白い手紙……。まさか…!?」ダッ
同僚「どこ行くんだよー!」
男「すまん、ちょっと出かける! 適当に言い訳しといてくれ!」
同僚「了解。後でなんか奢れよなー!」
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