神官「勇者...様...?」(216)
神官「勇者様!勇者様!どうしたんですか!?起きてください勇者様!」
勇者「...ん」
神官「勇者様!目を覚ましましたか!どうしてこんな洞窟で倒れていたんですか!というか、大丈夫なんですか!?」
勇者「...大...丈夫。」
神官「いや、大丈夫に見えないんですけど!ぼんやりしてないでしっかりしてください勇者様!」
勇者「......」ポケー
神官「勇者...様...」
宿屋
神官「…」ガチャ
戦士「あ!神官、帰ってきたか!」
魔法使い「お帰り。えっと……で、勇者は?」
神官「ええ…発見はしたんですが…その…。」
戦士「...どうしたんだ?」
勇者「......」ポケ-
戦士「…ん?」
魔法使い「勇…者…?」
戦士「おーい、勇者ー?」ブンブン
勇者「……何?」
戦士「あ、喋れはするのか。……ってそうじゃなくて。一体どうしたんだお前?元気の化身みたいな奴のくせに。」
勇者「別に…普通。」
戦士「いや絶対に普通じゃないから!お前今までそんなテンション低い時なんて一瞬でも無かっただろ!」
魔法使い「勇者…本当にどうしたの…?」
戦士「神官!勇者はどうしてこんなんなっちまったんだ?」
神官「私にもわかりません...。町外れの洞窟で勇者様を倒れている所を発見して...それ以降ずっとこんな感じです。」
戦士「洞窟?勇者、お前あんな所で何やってたんだ?」
勇者「......なんか、巨大な魔物がいたから......追いかけて......洞窟に......多分。」
戦士「多分ってなんだ多分って。」
勇者「......さあ?」
戦士「さあ...ってお前なぁ...。こいつ本当に勇者か?誰かの変装なんじゃねえのか?」ビヨ-ン
勇者「......いふぁい。」
神官「偽物...ですか。可能性がゼロとは言えませんが...。」
魔法使い「で、でも見た目はちゃんとした勇者だけど...。」
戦士「こういう時は質問が一番だな。おい勇者!私との模擬戦でお前は何勝何敗だ?」
勇者「うー………21勝5敗3引き分け…だと思う。」
戦士「...あれ?お前それだけしか負けてなかったっけ?…お前確か8敗くr」
神官「21勝5敗3引き分けで間違いないですよ。」メモペラペラ
戦士「そ、そうだそうだ!お前ので正しいんだ!」
勇者「…うん…正しい。」ポヤァ
魔法使い「(あんなに元気だった勇者が…どうして?それに、なんだろう?なんか他にも違和感を感じる…)」
魔法使い「え、えっと...勇者?...ちょっと、僕の杖を握ってみてくれる?」スッ
勇者「…?こう…?」ギュッ
魔法使い「……………あれ?これって……まさか!?」
戦士「?」
神官「…どうかしたのですか?」
魔法使い「勇者の……魔力が、空っぽになってる!」
戦士「は?」
神官「そう…なのですか?」
勇者「…」ポヤァ
戦士「魔力が空って…私みたいにか?」
魔法使い「いや…普通どんな人でも多かれ少なかれ魔力はあるはずなんだけど...今、勇者は文字通り空っぽ…魔力が全く感じられない!」
神官「なんと…それは大変な事ではないのですか?」
魔法使い「…理論上は魔力が全くなくても生活には支障ないと聞いたことはある。けど、魔力がゼロという人は今まで例が無いはず…。」
戦士「そうか。ただ、問題は生活どうこうよりも戦闘に関してだが…」チラッ
勇者「……」ポヤァ
戦士「お前の事で話してるんだ!ちゃんと聞け!」ポカリ
勇者「……痛い。」
戦士「(勇者が魔法を使えない......いやまて。ひょっとしたら、剣の腕までも落ちていたりしてないよな?でも、もしそうだったら...)」
戦士「えーい!勇者っ!」
勇者「.......?」
戦士「模擬戦するぞ!異論は認めん!さあこい!」ガシッ
勇者「......ぇ?...ぁ?」ズルズル バタン
神官「...おや、戦士さんはそうとう不安らしいですね。」
魔法使い「僕だって不安だよ...。いくら勇者でも、魔法が使えないっていうのは戦闘の時きついんじゃないかな?」
神官「確かに、そうですね。......私は、親戚に手紙で聞いておきましょう。」
魔法使い「あ、前に話していた魔物に詳しいっていう親戚の人のこと?」
神官「ええ。あの人は変わった人ですから、意外と何かわかるかもしれません。」
1時間後
戦士「よう......今帰ったぞ。」ボッロボロ
勇者「......ただいま。」ボロッ
神官「...お帰りなさい。どうやら剣術の方は問題ないみたいですね。」カイフクマホウ ピカ-
戦士「いやー、良かった。剣の腕まで落ちていたら、どうしようかと。これで一安心だ。」
勇者「......なんか、戦士、怖かった。」
魔法使い「それより、どうするの?予定では、明日にはここを出るはずだったよね。」
神官「勇者様の異変...。放っておくのはあまり良くないと思いますね。」
戦士「勇者は魔法剣士的なポジションだからなぁ。魔法と剣の両立で戦わないと厳しいんじゃないのか?」
勇者「......問題、ない。」
戦士「問題ありまくりだバカ。魔法使えないなんてただの戦士じゃないか。言っとくが戦士のポジションは渡さないぞ。」
魔法使い「...結局、それが本音じゃないの?」
神官「どちらにしろ、原因だけでも掴んでからにしましょう。出発は延期です。」
勇者「……大丈夫だって。」
戦士「だったらシャキッとしろこの馬鹿!」ポカリ
勇者「……痛い。」
神官「一応、今から勇者様をお医者様に見せに行ってきます。もしかすると、お医者様なら何か分かるかもしれませんしね。」
戦士「そうか、分かった。それじゃ…私達は魔物の討伐依頼でもこなして小金を稼ぐとするよ。」
魔法使い「『達』って、あの…僕も?」
戦士「当たり前だ。他に誰もいないだろ。」
魔法使い「ええ…でも僕、勇者が心配で…。」
戦士「神官がついてるんだから大丈夫だ。討伐依頼が済んだらついてに酒場にも行く予定だぞ。」
魔法使い「なら行きます。」ガタッ
診療所
医者「うーん…申し訳ありませんが、私にはさっぱりです。」
勇者「……」ポヤァ
神官「そうですか…病気の類いでないとすると、やはり……あの洞窟ですかね…。」
医者「洞窟?ひょっとして、町外れにポツンとあるあの洞窟の事ですか?」
神官「ええ、そうですが…。」
医者「あの洞窟は立ち入り禁止になってるんですよ。入口に立て札があったはずですが…。」
神官「実は、あの立て札は私が来た時にはバラバラに壊れていまして…文字が読めなかったんです。恐らくは魔物の仕業かと思いますが。」
医者「なんと…そうでしたか。後で私が町長に報告しておきましょう。」
勇者「……zzz」
神官「……ちょっと気になったんですが、あの洞窟がどうして立ち入り禁止なのか理由をご存知ですか?」
医者「さあ…町長は立ち入り禁止の理由を頑に言おうとしないんですよ。そのせいか、ある噂が流れましてね。」
神官「噂……ですか。」
医者「はい。実は立ち入り禁止のお知らせが出る数週間前に、町長の娘が失踪する事件があったんです。それと何か関係があるんじゃないかってね。」
神官「失踪…?その話、詳しく聞かせて頂けませんか?」
医者「ええ…構いませんよ。」
勇者「……」スピ-スピ-
あれ?同じのSS速報で前にあったような?
>>12
はい。向こうで掲載していましたが、内容が行き詰まってしまったため、
こちらで再挑戦させて頂いています。
前回の反省を生かしながら、ゆっくりペースでやっていきたいと思っていますので、
どうか生暖かい目で見守って下さると有り難いです。
酒場
魔法使い「ぷはぁ...。親父!もう一杯!」
酒場主人「へいへい。お嬢ちゃん、見かけの割によく飲むねぇ。」
魔法使い「なんだよ。そっちの方が親父も嬉しいだろ?」
酒場主人「まあそうだけどよ。ただ飲み過ぎで汚いものをまき散らすのは勘弁してくれよ。」
魔法使い「心配すんなって!そんなヘマしねぇよ!」グビグビ
戦士「はぁ…いつも思うけどお前のそれは酔いってレベルじゃないな。もう二重人格だそれ。」
魔法使い「そーか?みんなこんなもんじゃねぇの?」
戦士「そんなのあるわけない…と思うけどな…。とにかくお前はいろいろ変わりすぎだ。」
魔法使い「はっきりしねぇなぁ。お前ももっと飲めばいいのに…。」
戦士「いや、私はお酒には弱いんだ。遠慮しておく。」
魔法使い「そりゃ残念だな。お前は人生を相当損してるぞ。」グビグビ
酒場主人「はっはっは!違いねぇ!」
戦士「はいはい。損した分は他でちゃんと元をとるから。それより、あまり飲み過ぎるのは勘弁してくれ。」
魔法使い「なんだよ。さっきの討伐依頼でけっこう儲けたからいいだろ?」
戦士「あんまり無駄遣いすると神官に怒られる。いくら目的が近いとはいえ、節制は大事だぞ。」
魔法使い「別にまだまだたっぷりあるじゃねぇか。仮になくなってもまた討伐依頼こなしゃいい。お供してやるぜ?」
戦士「出来ればしばらく遠慮したい。あのデカい毒蜘蛛のせいで一回死にかけたんだぞ。」
酒場主人「毒蜘蛛...ってまさかあんたたち、あの討伐依頼を達成したのか!?」
魔法使い「おう、そうだけど...どうしたんだ?」
酒場主人「いや、あの毒蜘蛛の依頼は相当危険で、何人もの腕利きが命を落としたって話だぜ。それを倒すだなんて......強いんだなあんた達。」
魔法使い「なるほど。どーりで報酬がズバ抜けて高かったわけだ。」
戦士「確かにその分いろいろヤバかったな。と言っても、魔法使いがほとんど倒したようなものだがな。」
酒場主人「へえ~。このお嬢ちゃんがねぇ。そりゃ凄いな。」
魔法使い「買いかぶりすぎだ。戦士があいつを引きつけて相手してくれなかったら、絶対ヤバかったって。」
戦士「その性格になっても謙遜癖は変わってないんだな。私は今までお前以上の魔法使いを見た事無い。」
酒場主人「ほう、流石だな。.........あの娘さんだったら、きっとすぐにでも仲良くなれただろうに。」
魔法使い「ふむ……じゃ、失踪前に何か気になること言ってたりとかしてたか?」
戦士「おい、どうした。いきなり聞き込みを始めちゃって。」
魔法使い「酒場は情報交換の場だぜ?それに俺はこの町長娘失踪事件が、勇者の異変と何が関係あるに違いないと睨んでるんだ。」
戦士「……どうかな。私には関連性が全く見えないけど。」
酒場主人「気になること……か。失踪する前日に、町外れの洞窟へ大きな魔物が逃げ込むのを見たから退治しにいくとか言ってたな…。この町近辺はあまり魔物とかでないから、みんな珍しいこともあるもんだと、噂し合ってたぜ。」
戦士「……!」
魔法使い「……ほーら、なんか怪しくなってきた。」
宿屋
神官「なるほど……そっちも同じような情報を手に入れたというわけですね。」
魔法使い「うん……一応他の人にも当たってみたけど皆大体同じ話だったよ。」
戦士「半分…結局…半分も……」
神官「…戦士はさっきから一体どうしたんですか?」
魔法使い「ち、ちょっと悲しいことがあって……アハハ」
勇者「……お腹…空いた。」
魔法使い「もうちょっと我慢してて。それで、遅くなる前にみんなで町長さんの所に行った方がいいと考えているんだけど…。」
神官「え?ああ、それならもう私たちが話を聞きに行きましたよ。」
戦士「…え?」
魔法使い「あ、そう……なんだ。相変わらず仕事が早いね…。」
(町長「娘は、洞窟へ魔物退治に行った後、すっかり人が変わってしまったんです…。」
町長「何を聞いても上の空。まるで人形のように無表情で、魔法もできないと言いだして……。
町長「次の日には、『探してくる』と謎の書き置きを残して、家からいなくなっていたんです…!」)
神官「…とのことだそうです。今の勇者様の状態とほとんど一致していますね。」
魔法使い「やっぱり…あの洞窟が原因なのかな?でも、神官はあそこにいったんだよね?」
神官「はい…勇者を連れてすぐに出ましたが……別段変わった所はありませんでした。」
戦士「……それより彼女の『探してくる』ってどういうことだろうな?」
魔法使い「…単純に考えるなら、何かを『無くした』って意味じゃないかな。」
神官「『無くした』…というと魔力のことでしょうか。彼女はそれを探しに旅立った…とか?」
戦士「私からすれば『勇者らしさ』が無くなっている方が問題な気がするがな。」
神官「とにかく、今日の所は休みましょう。明日は少しあの洞窟を」
勇者「いやだ」
魔法使い「……え?」
勇者「いやだ」
戦士「い、いや勇者はここに残っていていいんだぞ。洞窟へ行くのは私たちだけで」
勇者「そうじゃない……明日は、出発するべき。」
神官「しかし勇者様。あなたは魔法が使えないと、これから苦労するかもしれませんよ。」
勇者「この…『神聖剣』があれば……問題ない。記憶が…そう言ってる。」
魔法使い「確かに、勇者の証であるその剣の力はすごいものだけど……」
戦士「だからって、お前の異変を放っておくわけにもいかないだろ!」
勇者「…別に…みんなが残りたいんだったら…それでもいい。」
勇者「俺…一人で……進むだけだ。」
神官「……!」
戦士「ほほう。冗談を言うようになったな勇者。ちょっと表に出ろ。」
魔法使い「戦士落ち着いて!剣で挑んでもまた返り討ちにあうよ!」
戦士「知るか!全武器使った本気モードで屠ってやる!」
魔法使い「屠るのだけはやめて!倒すのはせめて普通に!」
神官「二人共、落ち着いてください。今は、これからのことを話すべきです。」
戦士「フン……私は、勇者を縛ってでもこの町に留まって原因を探すべきだと思うけどな。」
魔法使い「……僕も探索を続けるべきだとは思うけど……急がないといけないっていう
勇者の言い分も……一理あるかなって…」
神官「魔王の存在によって、魔物が異様に活発に活動し、毎日のように被害が出ていますからね。
早く魔王を倒せば、それだけ助かる人が増えるのは確かでしょう。」
戦士「その考え方もわかる…。けど」
神官「ちなみに、私は勇者様に賛成します。」
魔法使い「…!」
戦士「!?」
勇者「zzz…」
戦士「……意外だな。うちのメンバーでもっとも慎重な神官が。」
神官「慎重だからこそです。洞窟を再び調べるとなるとリスクが高いですから。ちょっと失礼な言い方になりますが、私たちまで勇者様と同じ状態になってしまうかもしれません。」
神官「この町で調べられることは十分調べたと思いますしね。先に進みながらこの現象に関する情報を集めていった方がいいでしょう。」
魔法使い「…そう…だね。勇者が対処できないような現象なら、僕たちが何人行っても一緒かも。」
戦士「魔法使いまで!?ちょ、二人共よく考えてみろ!もし勇者がずっとあのままだったら…」
神官「戦士さん。」
戦士「…? なんだ。」
神官「性格が変わっても、あの人は正真正銘の勇者です。それは、さっき戦士さんも確認したはずです。」
戦士「…ああ。」
神官「その彼が、はっきり言っているではないですか。自分は大丈夫だと。」
神官「私も最初は不安でしたが、勇者様の目はちゃんとまっすぐです。」
神官「信じてあげても、いいのではないですか?」
戦士「……っ」
勇者「……」スピ-スピ-
戦士「えーい!勇者っ!」
勇者「……」グ-スカピ-スカ
戦士「起きろコラ!」ボガッ
勇者「!!」ピョ-ン
戦士「模擬戦闘本気バージョンを始める!一回私とガチでやり合ってもらうぞ!」ガシッ
勇者「……お腹…すいt」ズルズル バタン
魔法使い「……結局、こうなるんだ…。」
神官「まあ、戦士さんはこういうコミュニケーションが一番得意ですから。」
魔法使い「物騒だよね…。でも、本気バージョンってことはやっぱり武器全部を使うのかな?」
神官「そうでしょうね。いつもの模擬戦闘ではなぜか剣しか使いませんが、5つ全部を使うのであれば、
勇者相手でも勝敗はわかりませんね。」
魔法使い「剣、槍、鎚、盾、鞭…。いつも思うけどよくあれほどの武器を使いこなせるよね。」
神官「ええ。だからこそ、近接戦闘に関しては彼女の右に出る者はいないとまで言われているんですよね。…あまり張り切りすぎないでもらいたいものですが。」
ガチャ
戦士「…フッ」ボッロボロ
勇者「…」ボロボロ
神官「で、どうしますか?」カイフクマホウ ピカ-
戦士「…いいだろう!私も賛成しよう!」
魔法使い「そ、そう…。(なんか、単純だなぁ…。)」
戦士「いやー、ちょっと挑発したら凄い勢いで責め立ててきてな。まだ勇者らしい所が残っていると安心した。」
勇者「…ご……は…ん。」
神官「…勇者様が餓死しそうなので早く夕飯にしましょう。」
戦士「あ、先食べといてくれ!今の模擬戦で痛んだ武器の修繕頼んでくるから!」タッタッタ バタン
魔法使い「(……また武器屋さんを泣かせてしまうだろうな…。)」
神官「皆さん今日は特に疲れているでしょうから、早く食べて早く寝ることにしましょう。」
今日は一旦ここで切ります
書きだめもそんなにあるわけじゃないので、少し上げるペースを落とすかもです。
翌日 町を抜けた後の大草原にて
神官「……魔物の群れが来ました!ポイズンスライム8匹……それと魔狼11匹ほどです。」
魔法使い「了解。それじゃ、ポイズンスライムを主に狙って先制攻撃を仕掛けておく。」スッ
戦士「OK。接近戦になったら勇者は魔狼を中心に頼む。私は魔法使いと連携してポイズンをやる。」チャキッ
勇者「ん……了解。」チャキッ
魔法使い「十分引きつけたかな…そろそろいくよ!」カエンマホウ・ダイ!
ボゥ--ボゥ--
ピギャ---ワオ---ン
プギャ---ワフ---ン
戦士「よし、今のうちだ、行くぞ!」ダッ
勇者「……」コクリ ダッ
夜中 大草原 野宿場所
神官「…戦闘フォーメーションを変えてみても、今の所は問題ないみたいですね。」
戦士「まだ雑魚敵の集団だからな。この先の大物でうまく立ち回れるかが問題だ。」
魔法使い「大丈夫。勇者の分まで、僕が頑張るから。」
勇者「……ありがと。」
戦士「それより、次の町まであとどれくらいあるんだ?」
神官「このペースで進んでいけば明日の夕方頃には次の町へ到着できますよ。」
魔法使い「ふーん、意外と近いんだね。」
神官「ですがその次の町へ行くには、洞窟を進むか山を登るかしかなくて…………おや?」
鳩「クルッポ-」
魔法使い「あ、あれって神官さんの鳩じゃないですか?」
神官「ええ。どうやら返事が来たようですね。」
戦士「親戚のおじさん…だっけ?本当に知ってたりするのか?」
神官「ま、まあ。あの人は変わり者ですから…もしかすると……。」
神官「…………」ウ-ン
戦士「…やっぱ、分からないって?」
神官「……いや、心当たりが無いことも無いと…書いてるんですが…」
魔法使い「!」
戦士「ほ、ホントか!」
勇者「……」モグモグ
神官「ええ。『ただ、自分が知ってるものだとは断定できない。確信を得るために、ある証拠が欲しい』と書いてあります。」
魔法使い「証拠?」
神官「…………『勇者の似顔絵』が欲しいと書いてあります。」
戦士・魔法使い「「は?」」
鳩「クルックルッ」
勇者「……?」スッ
鳩「クルッ!?」パタパタ
魔法使い「…それ、ただ単に勇者のファンなだけじゃなくて?」
神官「流石にそれはないと思います……けど。」
戦士「一体どんな手紙だ。ちょっと見せてみろ。」バッ
戦士「…ってなんだこれは?一体何語だ?」
神官「なんでも、古代の文献に乗っていた言葉だそうで。あの人が手紙書く時はいっつもこの言葉で送ってくるので解読が大変なんですよ。」
魔法使い「……なんで?」
神官「先ほども言いましたが変わり者なんですよ。変人が変なことをするのに理由なんて求めるだけ無駄ですよ。」
戦士「(あの神官が変人呼ばわりって…よっぽどだな。)」
勇者「……♪」ツカマエタ
鳩「クル---!」ジタバタ
魔法使い「勇者それ神官の鳩だからいじめちゃダメ!」
神官「ちなみに、魔法使いさんは似顔絵とか描けます?」
魔法使い「う、うんまあ…それなりには。」
魔法使い「でも、流石に今はちょっと暗くて描けないかな…。」
神官「まあそう急がなくて大丈夫でしょう。町について一段落ついたら描いて下さい。」
戦士「その親戚とやらどこに住んでいるんだ?もし近くに済んでいるなら、直接会いにいけると思うが。」
神官「…………あの人は王都に住んでいますからね。会いにいくのは、流石に難しいでしょう。」
魔法使い「(…え?)」
戦士「それなら仕方ないか。…というかそもそも似顔絵がなんで証拠になるんだ?」
神官「さあ、私にもよく分かりません。それより、もうそろそろ休みましょう。勇者様、鳩は放しておいて下さい。」
勇者「……わかった」ポイ
鳩「クルッポ-!」ベチャ
戦士「(…こういうのに無頓着なのは、相変わらずだな。)」
魔法使い「…感知魔法、張り終わったよ。」
神官「ありがとうございます。それでは皆さん、おやすみなさい。」
戦士「おう。おやすみ。」モゾモゾ
勇者「zzz…」
魔法使い「………(あの鳩が来た方角って、確か…)」
次の町 宿屋
魔法使い「ん……できた。こんな感じでいい?」ペラッ
神官「ええ。十分すぎる出来ですよ。わざわざありがとうございます。」
戦士「それにしても上手いなこれ。画家で食っていけるレベルじゃないか?」
魔法使い「そ、それ程でもないよ…(モデルが微動だにしなくて描きやすかったしね…。)」
神官「これで、何か進展があるといいんですけどね。」
戦士「さて、それじゃ」ズイッ
魔法使い「そろそろだね」ズイッ
神官「お話の時間……ですね」ズイッ
勇者「…?」キョトン
戦士「そんな顔すんな。もう話をしてくれてもいいころだろ。」
魔法使い「勇者さんが洞窟に入って何が起こったのか…ほとんど話していないよね?」
神官「あの時は町の調査に集中していましたが、今日改めて勇者様が体験した話を詳しく聞きたいと思いまして。」
勇者「……えー……眠い。」
戦士「お前は前もそう言って!今度こそ吐いてもらうからな!」ポカリ
勇者「……痛い。」
勇者「あの時……町を歩いていたら、外に…魔物がいた…から追いかけた。」
魔法使い「…ちなみに、それどんなのだった?」
勇者「…スライムっぽく透けて、ゴブリンみたいな体して…変なお面してた…っけ?」
戦士「聞くな。…それにしても変な魔物だな。いやホントに魔物かソイツ?」
神官「まあ、人間やただの動物ではないでしょうね。」
勇者「…で、洞窟へ逃げたから…追いかけた。一番奥まで行った。……魔物は消えた。」
魔法使い「……え?」
戦士「き、消えた…って…?」
勇者「……なんか、空気に溶けるみたいに…スーって…」
神官「…………」
勇者「…そしたら、洞窟の壁が……ピカー……って」
戦士「ピ、ピカー??」
魔法使い「光った…ってこと?」
勇者「うん……それで、眩しくて……気が遠く…なって…終わり。」
戦士「お、終わり?え、それだけか?」
勇者「…」コクリ
魔法使い「つまり、変な魔物を追いかけて…洞窟に入ったら…壁が光って…こうなったと。」
戦士「手がかりどころか、もうますます訳が分からなくなってきたな…。」
神官「……勇者様。自分の振る舞いが以前と大きく違っている事、自覚してますか?」
勇者「……うん。」
神官「では、勇者様が自分自身で感じ取れる『変化』がどういうものか、教えてもらえますか。」
魔法使い「…?」
勇者「変化…………変わった……こと?」
神官「ただ、勇者様から魔力が失われているという変化は分かっています。私が知りたいのは、勇者様の『心』の変化です。」
勇者「『心』…?」
神官「そうです。脳で考える理屈的な『変化』ではなく、心で感じる『変化』を教えて頂きませんか?」
戦士「な、何を言っているのかサッパリなんだが…」
勇者「……」
勇者「…今まで、『心』のことを考えた記憶なんて、無い…。」
勇者「だから…『心の変化』と言われても、よくわからない。」
神官「そう…ですか。」
勇者「ただ…」
魔法使い「?」
勇者「以前の自分から…何かかが抜け落ちているのは、分かる。」
勇者「なんだか、胸の辺り…大きな穴……あるみたい。」ギュッ
勇者「大事な物がごっそり抜けた感覚がして……すごく…モヤモヤしてる。」
神官「(……あの手紙で言ってた事は、やはり…!)」
戦士「…あの、すまん。さらに訳がわからなくなった。」
魔法使い「ひょっとして…勇者の何か大事な物をあの洞窟が奪い取った…とか?もし、そうだとしたら…」
神官「……私にも、何が何やらさっぱりですね。どうやら、話を聞いただけで解決できるような問題ではなかったようです。」
魔法使い「……!?」
戦士「そうだなー。私はもう考えすぎて頭痛くなってきた。」
神官「でしたら、気分直しに武器屋と防具屋に行ってみてはどうでしょう。この町は鍛治業が盛んで、武器も防具も非常に質が良いのが揃っていると聞いています。」
戦士「お、それは是非ともいかないとな。ほら、勇者も行くぞ。」クイックイッ
勇者「…え?いや……俺の剣は別に……」
戦士「剣じゃなくて防具!お前の防具もうボロボロだったろ!もう面倒くさいは聞かないからな!」ガシッ
勇者「いや……だから…歩けるって……」ズルズル バタン
神官「やれやれ…いつものパターンですね…。」
魔法使い「……」ジッ
神官「…どうしました?」
魔法使い「いや……もっと深く追求していくのかと思ったら…意外とあっさり諦めたんだね。」
神官「…まあ、勇者様に話を聞いたくらいで簡単に解決するような問題じゃなさそうでしたしね。」
神官「旅も終盤を迎える頃合いですし、今問題についてあれこれ考えるのは良くありませんよ。」
魔法使い「(勇者と話する事を提案したり、自分から詳しい質問投げかけたりしたのも神官なのに…どうして急に消極的に?)」
神官「それに……私は、王からちゃんと言いつけられていましてね。」
神官「『勇者が魔王城へ一刻も早くたどり着けるように全力でサポートせよ。それがお前の任務だ。』と。」
神官「今私がやるべきことは、勇者の背中を後押しすること。この問題は、旅が終わったらゆっくりと解決しましょう。」
魔法使い「そう……そうだよ…ね。」
神官「魔法使いも、店を回ってきてはどうですか?お金、少しなら自由に使っていいですよ。」チャリン
魔法使い「うん…そうする。ありがとう。」
魔法使い「(王様推薦の神官だけあって、色々あるんだなぁ……やっぱり、思い過ごしなのかな…?)」
数時間後 宿屋
神官「…この先の山を超えたら、もう魔王城まで町は二つしかないようですね。」チズバサリ
魔法使い「最後の町から魔王城までは随分離れているね…ま、当たり前だけど。」
戦士「いよいよラストスパートって感じだな。」
勇者「…」コクリ
神官「あの山を通るには二つルートがあります。」
神官「一つは普通に山を登るルート。時間こそかかりますが、魔物の数が少ないので、商人などが一般的に使用しているルートでもあります。」
神官「もう一つは、洞窟を通っていくルートです。元々、この洞窟はルート短縮のために開通されたものらしいです。」
神官「が、そのうち強い魔物が住みつくようになり、何度も討伐隊が魔物を追い出そうと戦闘を繰り返してきたそうです。」
神官「洞窟は崩落の繰り返しによって複雑な構造になり、魔物討伐が断念された今でも魔物がたくさん住みついている...。」
神官「ですが、魔物との戦闘時間を考えても、登山ルートの半分以下の時間で抜けられるはずですよ。」
戦士「そうか。…私たちもそれなりに強くなったし、ここは急ぎの道で洞窟ルートへ行った方がいいんじゃないか?」
勇者「……洞窟通って……急ぐべき。」
魔法使い「でも、折角武器も最高級の物を新調したんだし…体力や武器の温存という事も考えて、登山ルートもありだと思う。」
神官「そうですね…。これから先の町にはここほど良い物は売っていないでしょうし………まあ、でも」チラリ
勇者「……一刻も、早く……進む。絶対。」
神官「勇者様、妥協する気はないようですよ?」
魔法使い「ハァ…わかったよ。ちょっと心配だけど、洞窟を進もう。」
戦士「何、心配するな。いざとなったら、私がなんとかする!」ドンッ
神官「(…もうすぐ、ですね。)」
次の日 洞窟内
魔狼「ウォォ~ン」
勇者「!」バッサリ
ゴブリン「ゴブッ!」
戦士「ああもう!そんな錆びた斧なんか効かないよ!」ガキン ザシュ
ファイアスライム「ピキ-!」ボワッ
魔法使い「っ!水連弾!」バンバン
神官「全体回復魔法・祝福!」パァァ
戦士「ちょっと、これは、多すぎ...だろ!」ザシュッ
魔法使い「洞窟の中だから広範囲魔法もできないし...きついかも!」バシュッ
神官「ですが、確実に数は減っています...もう少しです!皆さん!」パァア
勇者「.........」ザシュッ ザシュッ ザシュッ
一時間後
戦士「.........」ゼ-ゼ-
魔法使い「.........」ハ-ハ-
勇者「......」フゥ
神官「もう...来ないのでしょうか?」カイフクマホウ ピカ-
魔法使い「......そう...みたい。周りに魔物の反応はないよ。」タンチマホウ
戦士「(やっぱり、登山ルートにしとけば良かったかも......)」
勇者「......うん。そろそろ...行こう。」
戦士「え?もう?」
勇者「もう。」
魔法使い「ゆ、勇者。あと少しだけ休も?流石に今のラッシュはキツかった...から。」
勇者「...でも」
神官「まあ、そう焦らないで下さい勇者様。...それに、ちょっと気になることがあります。」
戦士「気になる...こと?」
神官「率直に言うと、魔物の様子がいつもと違っている印象を受けました。」
勇者「......うん。なんか、やたらめったら?......に感じた。」
戦士「......そう、言われてみれば......防御よりもひたすら攻撃!みたいな感じだったな。」
魔法使い「そ、そうだった...の?」
神官「分かりやすく言うなら『焦ってた』感じがします。」
戦士「『焦り』......私たちを倒そうと躍起になってたってことか?魔物が?」
魔法使い「な、なんで...?」
神官「さぁ...あくまでも見た印象ですから。思い違いかもしれませんね。」
神官「...ですが、この不自然なまでの魔物の数...ひょっとすると」
ヴゥゥーー!ヴゥゥーー!ヴゥゥーー!
勇者「!!」
戦士「ま、魔法使い!どうした!」
魔法使い「ま、魔物が接近してくる!しかも......魔力量が、普通の魔物とは桁違いみたい!」
神官「(な............まさか。いや、そんなはずは)」
?「おっとっと......不意打ちやろーとしたのに。探査魔法かけてたのかよ。ケッ」
勇者「...」ジャキ
魔法使い「え......こ、声?」
戦士「何者だ。お前。」
魔族将軍「さーて、一応初めまして、かな?勇者御一行サマ?」
戦士「ひ、人…?いや、違うぞ!」
魔法使い「人型だけど…巻き角にあのコウモリ羽……間違いない、魔族だよ!」
魔族将軍「…へー。最近の人間は、魔族と魔物の区別がつくようになってたのか。知らんかった。」
神官「……」
魔族将軍「…まー。もっと大事な区別がついてないみたいだけどな!」ケラケラ
戦士「ワケ分からんこと言うな!…というか、魔族って魔王城を守護する魔王直属の部下じゃなかったか!?」
魔法使い「確かに……なんでこんな所に…」
魔族将軍「おーいおい。そんなに驚く事でもないだろーに。」
魔族将軍「我らが魔王様を狙う勇者一行が、魔王城に刻一刻と近づきつつある。」
魔族将軍「なら、その前に叩き潰しちゃえ!...という発想に辿り着くのは、いたって普通だろ?」
神官「……あの魔物を追い立てていたのは、あなたでしたか。」
魔族将軍「そーそー。こうして消耗した所を狙えば…………!!」
勇者「………邪魔、だ。」ブンッ
魔族将軍「いきなりかよ……全然消耗してねえなオイ!」グググ
勇者「………。」ギリギリ
魔法使い「魔を滅する勇者の剣を、素手で止めた………!」
戦士「いや…あいつ…手のひらから何か出てるぞ!」
勇者「……トゲ、か。」
魔族将軍「せーかい。俺は体のあらゆる所からトゲがニョキニョキ出せる体なのさ。」
魔族将軍「フグみたいでキモいよなー。当人の俺ですらあんまり好きな能力じゃないんだよー。」ガキンッ
勇者「…」ズザッ
戦士「そ、そうか。…なら、能力無しで戦うってのはどうだ?私たちは歓迎するぞ。」
魔族将軍「ところがどっこい。この能力…」ウニュ
魔族将軍「意外と便利なんだよね!」ウニュウニュ!
魔法使い「ぜ、全身から…とげが!?」
勇者「…確かに、キモい。」
魔族将軍「……いくぜ?『千本飛ばし』」ビュビュビュビュ!!
戦士「!…魔法使い!」ガチンッ
魔法使い「…電磁障壁付与術!」ビビビビン
キン!キキキキキキン!
魔族将軍「……盾を媒介にして巨大な電磁シールドを張ったのか…。」
魔族将軍「見事な連携プレイ…だな。流石勇者一行。」
戦士「…どうする?あれじゃうかつに近寄れないぞ。」
勇者「……いつもの、対遠距離魔物用の動きで。」
神官「……それはやめた方がいいです。彼の攻撃は遠距離かつ広範囲です。そしてこの狭い洞窟…勇者様と戦士さんの陽動は通用しないでしょう。」
戦士「なら…どうすればいいんだ?」
神官「…幸い、この防御シールドで敵の攻撃は防げます。これを盾にしつつ、魔法使いが遠距離から……」
ボコッ
ボコボコッ
ボコボコボコッ
魔法使い「…な、何…!」
勇者「地面…!」
戦士「下から来るぞ!避けろ!」バッ
神官「っ…!」バッ
ビュビュ!!ビュビュ!!
ビュビュ!!ビュビュ!!
魔族将軍「盾があるからって、慢心するのはよくないな。」
魔族将軍「俺のトゲは体から離れても自在に操れる。数に限りはあるがな。」
戦士「…皆、大丈夫か?」
勇者「俺は……無事…でも」
魔法使い「……う…」グサリ
神官「魔法使い…!今抜きます…!」
魔族将軍「そんな暇、無いと思うけど?『千本飛ばし』」ビュビュビュビュ!!
戦士「なっ…くそっ!電磁効果が消えた…防ぎきれるか!?」ガキン
勇者「…!」バッ
キキキキキン!キン!キン!キン!キン!キキン!
キキキン!キキン!キン!キン!キン!キキキン!
戦士「ゆ、勇者…!」
魔族将軍「ほぇー…剣だけでこれの大部分を弾くなんて…恐るべし勇者。」
勇者「………」ハァハァ
神官「(さっきの魔物のラッシュで大分体力を使ったはずなのに…まだこれ程の力を…)」
魔法使い「ごめん…勇者。僕がしっかりしていれば…」
魔法使い「……!?う…うぁ…」バタリ
戦士「魔法使い!どうした!?」
神官「…こ、これは…!」
魔族将軍「あ、言い忘れてた。俺のトゲはな、血と魔力を吸い取って膨張するんだ。刺さったままにしておくと、どんどん膨らんで、傷口もエラいことになるぜ?」
神官「……」ヌキッ×7 カイフクマホウ ピカ-
魔法使い「……ありがと、神官……。」フラフラ
魔族将軍「一安心してるとこ悪いが、次は更に多くするぜ?」ウニュウニュウニュウニュ!
戦士「…トゲはさっきより細いが、量は倍…ってところか…どうする…」
勇者「……」ジャキ
魔族将軍「『二千本飛ばし』」ビュビュビュビュビュビュビュビュ!!
魔法使い「……『塞氷結界』」ゴゴゴゴゴゴ!!!!
キキキキキン!キキキキキン!キン!キン!キキン!
キキキン!キキン!キキキン!キキキキキン!
キキキキキン!キキキキキン!キン!キン!キキン!
キキキン!キキン!キキキン!キキキキキン!
中断します。
改行制限のため変な所で区切れています。
できるだけ一気にたくさん投稿できるように、
書き溜めも増やしていくようにします。
魔法使い「ハァ……ハァ……うっ…」バタリ
戦士「魔法使い!馬鹿、無理しやがって!」ダキッ
勇者「……」
神官「(これは…炎熱系魔物を封じ込める時に使う結界術…それで私たちを囲って防御を…)」
神官「(だが、本来これは敵単体に対して使用するもの……魔物との戦闘に加え、トゲで魔力を吸い取られている状態で、これほど巨大な結界を作るとは……)」
魔法使い「……勇…者……来て…。」
勇者「……!」ザッ
戦士「ま、魔法使い…?」
魔法使い「僕……ヘマをしちゃったから…。魔力…ほとんど空っぽだ…。多分、今は…もう戦えない。」
魔法使い「だから……僕の残りの魔力…少ないけど、勇者が……受け取って…。」
勇者「!?」
魔法使い「一時的でも……勇者が、力を戻せれば…きっと、あいつを…。」
神官「…しかし、魔力の直接の受け渡しはリスクが高い…。専用の魔導器具の無い今は…。」
魔法使い「…分かって…る。勇者…剣、貸して…。」
勇者「……」ジャキッ
戦士「……剣?なんで?」
神官「まさか…? ……出来るのですか?」
魔法使い「この剣は、特別。これに魔力を預ければ…きっと、勇者の力に…。」
魔族将軍「…『三千本飛ばし』」
ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュ!!
ガガガガガガガガガガキキキキキキキン!!!!
キキキキキキキン ガガガガガガガガガガ!!!!
魔族将軍「ちっ……ほんっとに硬いな…。」
魔族将軍「(どーするかな…。あんまり時間かけると、面倒な事に…。いや、どっちにしろアイツがチクったら同じか...。)」
魔族将軍「(まあいい……これでお開きにするか!)」ズズズズズズズズ!
魔族将軍「必殺『大釘打』…この巨大トゲで、一気に貫いて終わりかな?」
勇者「……ここ…だ!」バッ
魔族将軍「…なっ…んだと!?」
魔族将軍「(い、いつのまに結界の外に出てやがった!?てっきり中で引きこもってると思ったのに…!)」
勇者「……!」ブンッ
魔族将軍「(くそっ、この『大釘打』の重さじゃ、避けられないか…!)」
ガキンッ
勇者「……」ギリギリ
魔族将軍「まっ…特に問題は無いけど…ね。」
魔族将軍「俺の体のトゲを使えば、剣なんて避ける必要も無い。ちっとは学習したら…」
勇者「…燃え盛れ、『浸炎』」
魔族将軍「…え?」
ボオオオオ!!ボオオオオ!!ボオオオオ!!
魔族将軍「ギャァァ!!アッチ!アチチチチ!!」
魔族将軍「(うっそだろ!?俺が覗き見したやつには確か…!)」
魔族将軍「(ええい!そんなことより、もっと距離を…!)」バッ
勇者「…『風刃・颪切り』」ズバッシュ!!
魔族将軍「はぃぃい!?ちょっちょ危ねぇ!!」ヒラリッ
勇者「………む、外したか。」
魔族将軍「(む。じゃねぇよ!ああくそっ!ここまで本気でやり合う気なかったのに!)」
魔族将軍「こいつでどーだぁ!!『五千本飛ばし』!!」
ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュ!!!!!!!!
勇者「……『風刃・大旋風』」フゥゥオオオ!!
フヒュルルルルルルル……フォォォォオオオ!!
キキキキキキキン!!キキキキキキキン!!!!キキキキキキキン!!
魔族将軍「(あーもう…ここまでする気は、無かったんだがな…。)」
魔族将軍「(まあでも……なかなかいい体験ができた…。)」
魔族将軍「………いやはや、見事な戦いっぷりだな。勇者。」ハクシュパンパン
勇者「……」ザッ
魔族将軍「この勝負、預けるわ。氷の中で縮こまってる仲間達にもよろしく言っておくんだな。」クルリ
勇者「…逃がすと、思ってるのか?」ジャキッ
魔族将軍「いくら平静装っても、結構ギリギリなのは分かるぜ。今までお前が使った魔剣技は体力も魔力も消費が激しい事くらい知ってんだぞ?」
勇者「…関係ない。貴様を……倒さないと……後々」
魔族将軍「また会えたら…な。『千本飛ばし』」ビュッビュッビュッビュッ!!
勇者「…?どこに、飛ばして……?」
ピキッ ピキピキピキ…
戦士「勇者っ!奴は落盤を起こす気だ!」
勇者「…っ!?」
ピキピキピキピキピキピキピキピキピキ
魔法使い「早く……結界に入って!ここなら大丈夫だから…!」
勇者「……」バッ
ピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキ!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
戦士「…収まった…か?」
魔法使い「今……開ける。」シュゥゥウウウ
神官「…ふむ。思ったより大きく崩れている訳ではなさそうです。…ですが、この先は完全に塞がってしまったようですね。」
戦士「あいつは逃げた…か。結局、何だったんだあいつは。私たちを本気で倒す気は無かったのか…?」
勇者「………」
魔法使い「………あ」フラリ
勇者「……!」ガシッ
魔法使い「…!あ…ありがと、勇者……。」
勇者「……」オブル
魔法使い「……///」
神官「……洞窟の開通は困難。そして今回の戦闘で皆さんの疲労も溜まっています。…今日の所は、引き返すしかありませんね。」
戦士「…くそっ、あいつめ……。面倒なことしてくれたな…。」
魔法使い「(……僕が、もっとしっかりしないと…。)」
今日はここまで。
とりあえずキリがいいところまで貼りましたが、書き溜めもしたいので
次の更新は少し遅くなるかもです。
さっきの町 宿屋
魔法使い「……」ス-ス-
勇者「…」ベットニヨコタエ
戦士「こんなに疲れたのは久しぶりだ…。まさかあんな所で魔族に出くわすなんて……」
勇者「……魔族が…魔界の外で活動する……聞いた記憶がない…。」
神官「…そうですね。魔族は、いつも魔王城で迎え撃つよう……歴代勇者の記録にも、魔族が人間界にまで来るといった事例は無いはずです。」
戦士「…それって、ヤバいんじゃないのか…。もし、あんな力を持つ魔族を町を襲い始めたら……」
神官「…その可能性も考えられなくはないですね。今はもう、前例で語れる状況じゃなさそうですから。」
勇者「……急ごう。魔法使いが、回復したら………すぐ。」
神官「ですが、今日はもう遅いです。明後日、登山ルートを使って先を急ぐとしましょう。」
戦士「…うーん……なあ、町の人達に洞窟開通の手伝いを頼めないのか?勇者一行ですって言えば喜んでやってくれると思うんだが?」
神官「……それは王様から禁止されてるって前も言ったじゃないですか。魔王側に情報が行き渡らないよう、勇者の名を出すのは避けろと。」
戦士「いや確かにそうだけど。でももう魔族にまでバレてるじゃないか。こうなったらいっそ開き直って堂々とした方がいいんじゃないか?」
勇者「……」コクコク
神官「…それでも、私はあまり賛成しません。例え人手があっても、時間はそれなりにかかりますし、あの洞窟は一晩経てばすぐに魔物が住み着きます。」
神官「作業中の皆さんを守りながら戦うのは難しいですし、危険です。」
神官「そして何より、彼らがほとんど使わない洞窟を、私達のために危険を冒して掘り返しに行かせるというのに気が進まないのです…………個人的な感情になってしまいますが。」
勇者「………」
戦士「…そっか。……そうだよな。悪い。変な事言って。」
神官「いえ。全然変な事ではありません。魔王城を目前にして急ぎたいという気持ちはよくわかります。」
神官「ですが、『急がば回れ』とも言います。安全かつ着実な道を選ぶ方が良いと私は考えていますから。」
勇者「…………」
神官「さて、戦士さんも今日はゆっくり休んでいて下さい。明日で武器の整備等を行って、明後日山に向かって出発します。」
戦士「ああ…そうさせて、もらうよ。」ドサリ
神官「さ、勇者様。私たちも部屋へ戻りますよ。」ガチャ
勇者「……」コクリ
次の日
戦士「……魔法使い。大丈夫か?」
魔法使い「……うん。魔力はほとんど回復した。もう大丈夫だよ。」
戦士「そうか…。でもまあ、念のため今日だけはゆっくり休んでくれな。いざって時のために、体調は万全にしておかないと。」
魔法使い「…でも、ゆっくりしてなんかいられないよ。早く魔王を倒さなきゃ...いけないのに……。」
戦士「落ち着け。…今はお前が要なんだ。勇者が魔法を自由に使えない今は…な。」
魔法使い「……戦士」
戦士「え?い、いや別に勇者が要じゃないとかそういう意味で言ったんじゃなくてだな…。」
魔法使い「…大丈夫。それはわかってる……けど。」
戦士「けど?」
魔法使い「……ううん。なんでもない。」
神官「……勇者様。」
勇者「…ん?」
神官「眼に隈ができてます。それに顔色も悪いです。……昨晩は眠れなかったのですか?」
勇者「……そんなところ。」
神官「…今日は一応自由行動としてますが…勇者様はゆっくり休んでいた方が良いですね。」
勇者「…でも。」
神官「何か、したいことがあるのですか?」
勇者「……鍛錬。」
神官「そう…ですか。無理に引き止める訳ではありませんが、オススメはしませんね。魔王城へ向けての最後の段階に入ってる今は、鍛錬よりも休息を優先し、万全の状態を整える事が第一だと思います。」
勇者「…………」
神官「…それでは、私はこれで失礼します。」ペコリ
コツコツコツ バタン
勇者「……」
ムクリ ジャキッ
鍛冶屋「………よし。こんな感じでどうだ?」スッ
戦士「……これだけ奇麗に直っていれば十分です。すみませんね、一気に4つも修理してもらっちゃって。」
鍛冶屋「気にすんなって。どれも凄くいい得物で、こっちも鍛え甲斐があった。結構大事に使ってるみたいだな。」
戦士「…ああ、どれも恩師から譲り受けた大切なものだ。それじゃこれ、お代な。」ジャラ
鍛冶屋「はいよ。確かに受け取った。またいらっしゃい。」
ガチャガチャ テクテク バタン
戦士「さて…」
戦士「(武器の整備は終わった…となると暇だなぁ…。)」
戦士「(まだ昼過ぎだし…街巡りでもして、魔法使いにお土産でも買ってくか…)」テクテク
家具屋「さあさあいらっしゃい!あなたの体に合わせたオーダーメイドの家具をお造りいたしますよー!」
服屋「お好みのデザインや大きさでお作りいたします!これを機におしゃれをしてみませんか?」
宝石屋「あなたの大切な人に素晴らしいプレゼントをあげてみませんか?仲が深まること間違い無しです!」
戦士「(……うーん。)」テクテク
短いですが今日はここまで。
忙しくて描き溜めも中々進みませんが、ちょくちょく更新を続けたいです。
魔法使い「あー!生き返った!ありがとなー戦士!やっぱこれがないとやってけないわ!」
戦士「(…結局、お酒にしちゃったけど……ま、本人が喜んでるからいっか。)」
戦士「自分から持ってきておいてなんだけと、あまり飲み過ぎるなよ。一応病人…なんだから。」
魔法使い「安心しろ、自分が今どれくらい飲めるかぐらいは正確に分かってるつもりだ。」グビグビ
戦士「(確かに、魔法使いはガバガバ酒を飲んでいるように見えるけど、二日酔いとかしてるのは見たことないな…そこは流石というべきなのか。)」
魔法使い「あーそうだ。そういえばさっき、神官の鳩が帰ってきたみたいだぜ。」
戦士「え?ああ、あの似顔絵欲しがってた親戚か!で、なんて書いてあったんだ?」
魔法使い「……それがさ、神官曰く色々ダラダラ書いてあったみたいなんだけど、結論から言うと
『わからない』らしい。」
戦士「……は?」
魔法使い「結局、分からなかったんだとさ。全く、俺がわざわざ絵書いてやったってのに……」ブツブツ
戦士「(その親戚、もしかして本当にただの勇者ファンじゃないだろうな…)」
魔法使い「神官もそのせいか悩んじゃってたみたいでな…さっきなんて鳩にブツブツ話しかけてたんだぞ。」
戦士「…はあ、あの神官がねえ。大丈夫かな…。」
魔法使い「…ま、大丈夫じゃね?すぐちゃんと立ち直るだろ。神官なんだし。」グビグビ
戦士「(うーん……神官、やっぱりショックだったのか…あの手紙に結構期待してたのかな…。)」
戦士「…そうだ。勇者にはそのこと言ったのか?まあ、あいつは興味なんてないだろうけど。」
魔法使い「いや、今この宿にはいない。神官曰く鍛錬に行ったらしいんだと。魔王城まで近いから神官も一応止めたんだけどな…。」
戦士「勇者が自分から鍛錬ねぇ。いつも嫌々私の鍛錬につき合っていた勇者が…。嬉しいような悲しいような…。」
魔法使い「まあ…魔法が使えない以上は、剣術特化しかないしねー。魔王城を目前としてコンディションを整えるのも大事だけど、今の勇者なら鍛錬も一つの道だと思うよー。…どっちにしろ神官はいい顔しないだろうけど。」
戦士「…よし。そんなら私もつき合ってやるか!鍛錬ってのは一人でやるよりも二人の方が捗るに違いないからな!」タッタッタ バタン
魔法使い「えっ…ちょっ…………ったくもー。こっちは話し相手いなくて暇だってのに。」グビグビ
魔法使い「(…俺だって、神官に止められなきゃ、鍛錬したいってのに…。もっと…勇者のためにも、頑張らなきゃいけないのに。)」
次の日
神官「それでは、出発しましょう…と言いたい所ですが…。」
魔法使い「……」チラッ
戦士「……」チラッ
勇者「…?」ドロッドロ
神官「勇者様、どうして服がそんなに汚れているのですか?」
勇者「…昨日の鍛錬で……戦士が泥を跳ねて…」
戦士「おい何濡れ衣着せてんだ。あんな硬い地面で泥なんか跳ねるか。」
神官「…夜中ですね。どこに行ってたんですか?」
魔法使い「…」
勇者「…ぇ」
神官「目に、大きな隈が出来ています。どんな場所でも横になったらすぐ寝れるような勇者様が、寝不足なんてありえない。あの洞窟の件の後でも、勇者様は毎日が快眠だったはずです。」
勇者「……」
神官「夜、何をしていたのですか?」
勇者「洞窟…」ボソリ
戦士「え…?」
勇者「洞窟を…開通してた。」
魔法使い「開通って……まさか、あの瓦礫を…一人で?」
勇者「…」コクリ
神官「……なるほど、そうでしたか。早く先へ進むために…そんなことを。」
戦士「なんだ。そんなことなら私だって手伝ったのに。私も山登りしたくないし。」
魔法使い「(……二晩もそんなことを…以前の勇者よりも、魔王への執念が強い…。)」
神官「…何度も言いますが、魔王城までもうすくなのです。ここで無茶して勇者様の身に何かあったら、私は王に顔向けできません。」
勇者「…ん。」
神官「もちろん、勇者様の気持ちも十分理解出来ます。ですが、魔王城に着くまで無理しないでください。」
勇者「わかって…る。」
戦士「神官、もういいだろ。せっかく勇者が近道を頑張って作ってくれたんだ。早く先に進もう。」
神官「…わかりました。ですが、次の町では勇者様はゆっくり休んでもらいますからね。」
今日はここまで。
平日は忙しくなりそうなので、今のうちにちょっとだけ更新です。
ここからちょっと展開が駆け足になるかも。
山越えの町 宿屋
戦士「ふう。思ったより魔物が少ないこともあって、早く抜けられたな。」
神官「そうですね。……では、魔法使いさん。」
魔法使い「…うん。」
勇者「?」
魔法使い「催眠魔法!」ピカッ
勇者「…っ!? ……………zzz」ベッドニドサリ
戦士「うわっ!ビックリした!」
魔法使い「本来なら、勇者は身体影響系魔法の大半が効かないはずだけどね…。」
神官「魔法使いさんの手腕もありますが、やはり勇者様に疲れが溜まっていたことが大きいでしょうね。」
戦士「…ま、いくら勇者でも、あの作業は骨だっただろうな。」
神官「…さて、ここには2、3日程滞在します。物が買える最後の機会ですから、持ち運べるだけ買っておきましょう。」
魔法使い「…ん?この先にも、一つ町があるんじゃなかった…っけ?」
神官「……ああ。前の町で話したことですね。申し訳ありません。あの話は語弊がありまして、地図上では町扱いになっていますが、この先にあるのは町というより小さな砦です。」
魔法使い「えっ?そうなの?」
戦士「あー、お前とか勇者は知らないのか。私は軍に所属してたから知ってたけど。」
神官「昔はあそこに町があったんですけどね…魔物による襲撃で壊滅してしまいまして…」
神官「そこで、その跡地に魔物の襲撃に対応するための砦が出来たという訳です。私たちがそこで利用出来るのはせいぜい宿泊施設くらいでしょう。」
魔法使い「うっそ…そんなことが。」
戦士「お偉いさんはあまりそういう話を公表したくないんだ。むやみに民を怖がらせたらいけないってさ。私たちも口止めされたよ。」
魔法使い「うーん…。正直じゃないってのは良くないと思うけどなぁ…。」
神官「まあ、この場合嘘や正直というよりただ黙ってるだけですが…あまり感心できることじゃないのは確かですね。まあ、上にも事情がありますから。」
神官「さて、それじゃあみんなで見て回りましょうか。まず買うべきものは対魔物用のテントですね。相当値が張りますが、今まで溜めてきたお金を使えば十分足ります。ここから先の魔物は段違いですからね。万が一を考えておくにこしたことはありません。」
戦士「そうか…。ここまで頑張って溜めたお金を使うのは少々惜しい気はするが……まっ、最後だしな。」
魔法使い「うん、薬草なんかは大して消費してないけど…どうせだからありったけ買っちゃおうか。」
神官「……そうですね。最低限のお金はこちらで残しておきますから、買えるだけ買っちゃって下さい。あ、もちろん必要性のある物だけですよ。いらないものを無理に買う必要は無いですからね。」
三日後
神官「それでは皆さん、出発しますよ。」ズッシリ
勇者「……重そう。」
魔法使い「し、神官。なにも買った物全部一人で持たなくても…。」
戦士「そ、そうだぞ。そのテントとか、私が持とうか?」
神官「いえいえ、戦士さんの武器も十分重たいでしょう。皆さんに疲労を溜めさせる訳にもいきませんし、荷物は私に任せて下さい。」
魔法使い「で、でも…そんな大荷物じゃ流石に…。」
神官「なに、心配いりませんよ。さほど遠い距離じゃありませんしね。」スタスタ
勇者「神官……力持ち。」
戦士「(…いつか、神官と腕相撲とかやってみたいな。)」
短いですが、今日はここまで。
境界の砦
勇者「……これ?」
神官「ええ、ここが魔物の侵入防止及び監視のための砦です。」
魔法使い「本当に近かったんだね……。それにしても、大きいね。」
戦士「私も見るのは初めてだが…砦というよりむしろ城壁みたいな感じだな。」
神官「そうですね。大抵の魔物は高い壁で十分防げますからね。」テクテク
兵士「…!あの、ちょっと。ここは一般の人は立ち入り禁止ですよ。」
神官「ええ、わかっています。こちらの書状を見て頂けますか?」ピラッ
兵士「……こ、これは!」ペラペラ
兵士「失礼しました!すぐ部隊長の所までご案内いたします!こちらへどうぞ!」
境界の砦 執務室
部隊長「…狭苦しい所で申し訳ござません。何しろ防衛特化の城砦なので、歓待できるような部屋がなかなかありませんので…。」
神官「あ、いえ。全然構いません。これから先は厳しい道のりとなるので、一晩だけ休ませて頂ければと思ってお立ち寄りしたのですが…。」
部隊長「はい、大丈夫です。ちょうど空いている部屋が4つありますので。先ほど、掃除するよう言っておきましたから、すぐにご案内できると思います。」
神官「お忙しい所、本当にありがとうございます。」
部隊長「いえいえ。魔王によって魔物が活発化する時期とはいえ、時々魔物を追っ払うだけですから。勇者様達のお仕事に比べたら大した事ありません。」
兵士「隊長!全ての部屋の清掃、完了しました!」ガチャ
部隊長「おお、早いな。それでは、勇者様達を部屋まで案内してくれ。」
兵士「はい!それでは、皆さん。こちらについて来て下さい。」トットット
勇者「…………」テクテク
戦士「……」ジ-
神官「……戦士?」クルッ
魔法使い「…どうしたの? 戦士?」
戦士「い、いや……私は、ちょっと話したいことが。」
神官「……? そうです…か。」
テクテクテクテクテク ガチャ バタン
戦士「……」
部隊長「…あのなぁ、そんなに硬くなるなっていつも言ってるだろ。お前らしくもない。」
戦士「…ご無沙汰しておりましたっ!先輩!またお会いできて嬉しいです!勇者様と旅立った後、私はいろいろな体験を……」
部隊長「いやいや、だからってそう大声でたくさん喋られても困る。普通にしろ普通に。」
戦士「は…。嬉しくてつい……すみません。」
部隊長「いやいい。うれしいのは俺も一緒だしな。…それより、武器の方は大丈夫か?」
戦士「はいっ!常に補修を欠かさず、最高のコンディションを保つよう心がけました!今はご覧の通りの状態となっています!」ガチャガチャ ドサリ
部隊長「ほう……じゃ、少し確認させてもらおうか。」スッ
カチカチ ガチャガチャ ブンッ ドッサ フュンフュン
戦士「……ど、どうですか?」ゴクリ
部隊長「……」クイックイッ
戦士「……!」ビクッ
部隊長「…ビクビクしなくていい。ほら、こっちきて。」クイックイッ
戦士「……う…。」オズオズ
部隊長「……ありがとうな。」ポンッ
戦士「…!」///
部隊長「完璧だ。ここまで良い状態を保っておいてかつ、お前がきちんと使い込んでくれているのがわかる。やはり、お前に託して正解だった。」
戦士「…ありがとうございますっ!」
部隊長「…ただし、だ。」
戦士「…?」
部隊長「武器の状態よりも重要なのは、武器を扱う腕前だ。それはもちろん分かってるよな?」
戦士「……ぅ」
部隊長「お前がどれだけこれらを使いこなせてるか、気になるな。とはいえ、魔王戦も近いから強制はできない…が。」
戦士「やりますやります!私の腕前、是非ご覧になって下さい!」
部隊長「……いい子だ。さて、それじゃ付いて来てくれ。」ガタッ
訓練場 数時間後
戦士「……」ゼ-ハ-ゼ-ハ-
部隊長「すまないな。久しぶりに歯ごたえあったから、ついつい張り切ってしまった。疲れたか?」
戦士「いーえ全然!これぐらい何でもありませんよ!」ピョン!
部隊長「ハハハ。あの時に比べて随分立派になったな。これだけ剛健なら、きっと魔王も倒す事が出来るだろう。」
戦士「は、はい!ありがとうございます!」
部隊長「……さて、肝心の武器の腕前だが…」
戦士「!」ビクッ
部隊長「まず鎚と槍、そして盾。これらに関してはもう完璧だ。おそらく俺よりも上手く使いこなせてるな。日頃の鍛錬の成果がよく出てる。頑張ったな。」ポンッ
戦士「…!あ、ありがとうございます…!」///
部隊長「鞭はまあ……六割ってとこだな。まあそれはこの中でダントツに扱いが難しいから、そう高度には要求しない。だが、マスターできれば相手の意表をつく動きが可能になる。真面目にやって損は無いぞ。」
戦士「はっ、はい!」
部隊長「(それに、元々あの鞭は妻とのプレイ用のものだしな……おお、思い出したら寒気が。)」
部隊長「ただ、な…。お前にとって一番の問題は剣だ。」
戦士「……ぅ。」
部隊長「どうも槍や鎚の動きの癖が抜けてないな。その動きは無駄が多い。隙を突かれる危険性が高い上に、すぐにばてる。とっととその形は修正した方がいい。」
戦士「じ、実は……それ、結構勇者とかにも言われたりして…直そうとはしてるんですが…その、つい……すみません。」
部隊長「…いや、もう魔王戦間近なのに今更直せとか言われてもなって感じだよな。すまん。今のは忘れてくれ。」
戦士「は、はい…。」
部隊長「…よく、ここまで強くなったな。後輩の成長が見られて俺は満足した。その調子で魔王討伐、頑張れ。」
戦士「……はい! ありがとうございました!」
次いつ投稿できるか分からないので、いつもよりちょっと多めに投稿して終わります。
コツコツ バタン
戦士「……ふぅ。先輩、とても元気だったなぁ…。」
戦士「(もうちょい若かったら、絶対私じゃなく先輩が遠征メンバーだったろうな。でもあの歳でも本気出せば私より強いと思うけど…なんで私を推薦したんだろ…?)」
戦士「(……そんなことより…剣、かぁ。)」ハァ-
戦士「(剣は勇者がいたからなぁ…他の武器を重点的にやってたらこれだよ。…どうせだったら全武器完璧にしてから先輩に見てもらいたかった……。)」
戦士「(…でも先輩の言う通り、もうこの戦いで最後なんだ。どんな状況だろうとうだうだ言ってらんない…!)」
戦士「(明日は出発だ……。最後の戦いに備えて、今日はゆっくり……)」
戦士「(……いや、剣の鍛錬でもするかな…?でも、神官や先輩に怒られそう…)」
戦士「(うーん…でも、まともな鍛錬できる最後の時だと思ったら…どうしようか……)」ウーンウーン
魔法使いの部屋
魔法使い「(突発的な魔力喪失…それに伴う性格の大きな変化…)」
魔法使い「(どれだけ急激に魔力を使っても、魔力がすっからかんになることなんて絶対にあり得ないし、そもそも魔力が性格の形成に関係してるなんて聞いたこと無い…。)」
魔法使い「(…だめだ。今までの常識じゃ、勇者の異変は解けない…。)」
魔法使い「(神官は魔王討伐の方を優先すべきとは言ってたけど……やっぱり、勇者が心配だな…。)」
魔法使い「(神官なら絶対勇者の異変を放っておかないと思ったのになぁ…。魔王討伐の方が大事なのは分かるけど…。でも……なぁ。)」ハァ
魔法使い「(……いや、もうすぐ最後の戦いなんだ。悩んでる場合じゃない…よね。)」
魔法使い「(…ボクが……勇者の分まで頑張ればいい…。深く考える必要は無いんだ……。)」
神官の部屋
神官「(あと……もう少し。)」
神官「(もう少しで…………魔王城。)」
神官「…………」
神官「(いや…感慨に浸るのはまだ早いですね…。)」
神官「(勇者様がどういう選択をするのかは分からない…しかし。)」
神官「(私は、するべきことを…………するだけ。)」
神官「(私……いや、私たちの夢のために。)」
訓練場
勇者「…………」ブンブン
勇者「…………」ブンブンブンブン
勇者「…………」ブンブンブンブンブンブン
勇者「…………」ブンブンブンブンブンブンブンブン
勇者「……」ハァ-ハァ-
勇者「……大丈夫。」
勇者「……俺は、分かっている。」
勇者「魔王を倒す……勇者。……それが、俺。」
勇者「魔王……倒す。魔王……倒す。」ブツブツ ブンブン
部隊長「(飯も食べずに鍛錬とは……。下手にここの鍵渡さない方が良かったか……。)」
翌日
神官「昨日は、大変お世話になりました。では、私たちはこれで出発いたします。」
部隊長「…どうか、お気をつけて。魔王討伐、頑張って下さい。」
神官「……ええ。それでは行って参ります。」
勇者「…」ズンズンズンズン
魔法使い「…って勇者!ちょっと待って!歩くの速いって!」タッタッ
神官「…! ちょっと勇者様!単独行動は危険ですよ!」タッタッ
戦士「ああもう! 先輩!これで失礼します!」ペコリッ
部隊長「(…大丈夫……だよな。)」
すごくテンポ悪いですが、今日はここまでです。
次の投稿はさらに遅くなりそうですが、次はもうちょっと多めに投稿したいと思っています。
紫の草原
戦士「なんか、空気が気持ち悪い…。」
魔法使い「ボクたちの所に比べて、魔素が段違いに濃いね…。身体に影響はないと思うから大丈夫だよ。何年もいたりしたら分かんないけど…。」
戦士「こんなとこに何年もいてたまるか。早く魔王を倒して帰りたい気持ちでいっぱいだ。」
神官「…そう……ですね。」
勇者「……」ザッザッザッ
魔法使い「……っ!魔物反応あり!……上!」
戦士「…!」ジャキッ
神官「あれ…は!」
ブラックドラゴン「ギャーース!!!」
戦士「ドラゴン…!初っ端からこんな大物って!」
魔法使い「大きい……!修羅の山でのドラゴンとは比べ物にならない…。」
神官「この濃い魔素によって長い年月で進化した結果がこれなんでしょうね…。この大物相手にはきちんとフォーメーションを組んで…………って勇者様!?」
勇者「……」ジャキッ バッ
ブラックドラゴン「グゥォ--!!」ダッダッダッ
戦士「バカッあいつ!なんで一人で突っ込むんだ!」バッ
魔法使い「もう勇者!さっきから急ぎすぎだよ!」キュィィン
神官「……」シュュイン
5日後 黒の森
戦士「……ひょっとして、あれか?」
魔法使い「…まあ、魔界に立つ建物といったら魔王城くらいだろうから…あれがそうなんだろうね。」
勇者「……」コクリ
神官「…………ここまで近づいたなら、明後日の朝には着くでしょうね。」
戦士「いよいよ…ってことか。」
魔法使い「そうだ、勇者!君はちょっと急ぎすぎ!独断行動はやめて、ちゃんとフォーメーションに集中して!」
勇者「ぇ……ぁ………ゴメン。」タジタジ
戦士「(勇者は何回言ってもずっと一人で突っ込んでばっかだもんな…なかなか怒らない魔法使いも五日も経てば我慢の限界か…。)」
神官「勇者様、魔王城を目の前にして焦る気持ちも分かりますが、仲間を信頼し、頼ることも大事ですよ。あなたは私たちの希望なのですから、何かあっては一大事ですよ。」
勇者「……今までは、大丈夫だった……。」
魔法使い「今までは、でしょ!魔王の時はそうはいかないかもしれないじゃない!」
勇者「じゃ……魔王は、俺……一人で…たおs」
戦士「そんなアホなこと言うのはこの口か!この口か!」ムニュムニュ
勇者「……」フゴフゴ
神官「まあまあ、皆さんもうその辺で…。今日はもう野宿を…………む?」
ビッグスライム「ブギャァ-!」
角ゴブリン「フゴ-ッ!」
神官「……おっと。どうやらここは彼らの縄張りだったみたいですね。」
魔法使い「ああもう!このイライラしてる時に!」クルリッ
勇者「……」バッ
戦士「言ってるそばからお前ってやつは!」グイッ
勇者「…っ!…っ!」ジタバタ
次の日の夜 焦げた荒野
神官「…それでは明日、魔王城に……突入します。」
戦士「…ようやく、か。」
勇者「……」ウズウズ
神官「…魔法使いさん。」
魔法使い「催眠魔法!」ピカッ
勇者「…っ!? ……………zzz」ドサリ
戦士「…あ、またこれやっておくのか。」
魔法使い「当然だよ!昨日あんなこと言ってたし、下手したら夜中にこっそり魔王城行っちゃいそうだもん!」
神官「今回ばかりはゆっくり眠ってもらいましょう。魔王城に近ければ、魔物もそうそう現れないでしょう。」
魔法使い「ん?……神官、どうしてそう思うの?」
神官「…………魔王城には強い魔族が済んでいます。魔物は彼らに恐れをなして近づかないのではないかという、ただの推測ですよ。」
戦士「あーそうか。それもそうかもしれないな。」
神官「とはいえ、あくまで推測ですから。しっかり感知魔法をかけてから私たちも休むとしましょう。」
魔法使い「……うん。」
次の日 魔王城前
戦士「ここ、か。なんか、すごく渦渦しい感じがする。」
魔法使い「王都の城と同じ位の大きさかな…。魔素が今までよりさらに濃い…。」ゴクリ
神官「……」ボ-
戦士「…ん? 神官、どうしたんだ?」
神官「……いえ、なんでもありません。」
勇者「……早く。……早く。」ウズウズ
神官「おっと、失礼しました。早く中に入るとしましょう。」
魔法使い「…………」
今日はここまで。
来週忙しいので投稿出来るかは分かりませんが、ちょくちょく書き溜めを増やして
次はたくさん投稿できるようにしたいです。
魔王城内 一階
勇者「……」タッタッタッ
戦士「…なんか、不気味なくらい静か…だな。魔法使い、感知魔法はどうなってるんだ?」タッタッタッ
魔法使い「そ、それが…この城には上の方からすごく大きい反応が一つだけ……するんだけど…。」
神官「…おそらく、それが魔王……でしょうね。」
魔法使い「ただ、問題は反応が『一つだけ』ってことなんだよ…。」
戦士「え…? あ、そういえば…!城を守る魔族がいなくて魔王だけってのも妙だよな…。」
魔法使い「そう…。だから、何かしらの罠がある可能性が高いと思うんだ…。ここはゆっくりと慎重に行った方が…」
勇者「…関係ない。罠……俺が全部破る。」タタタタタ
戦士「ちょっ、勇者もうあんなに先行ってるんだけど」
魔法使い「ああもう勇者ったら! 神官もなんとか言ってやってよ!」
神官「...勇者なら、大丈夫です。私たちも先を急ぎましょう。」タタタタタ
戦士「えっ!?大丈夫ってちょっ神官待っておい!」タタタタタ
魔法使い「(神官...やっぱり、何か変だ...。)」タタタ
魔王城内 二階
戦士「…なんか、すごくガランとしてるな。ホントに城なのかここ?」
魔法使い「部屋らしきものも見当たらない...道は全部一直線...今のところは罠も無し...確かに妙だね。」
勇者「…ん。」ピタッ
戦士「あれ、どうした勇者?」
勇者「階段が……二つ。」
魔法使い「…本当だ。しかも二つとも上への階段...?」
戦士「こんな近くに二つも同じ階段はいらないよな...やっぱりなにかあるのか...。」
神官「……皆さん、両階段の横の壁に何か書いてあるようです。」
戦士「え?……あー確かになんか書いてあるようなないような...」
神官「戦士さん、魔法使いさん。右階段の文字を調べてもらっていいですか。私は勇者様と左を調べてみます。」タッタッ
戦士「お、そうだな...。ほら魔法使い、行こうか。」
魔法使い「えっ? あ、う…ん……。」
神官「ほら勇者様。こっちですよ。」クイックイッ
勇者「…いや……別にどっち進んだって……。」
戦士「あったあった…。だけどちょっと暗くてよく見えないな……。」
戦士「えーっと……どれどれ…『無念の日から 随分と時は経った。』」
魔法使い「……『かつての憎しみはほとんど消え 私達はただ無為に時を過ごしている。』」
戦士「『しかし、そのかつての憎しみが 未だに私達を縛り続けている。』………これだけか。一体なんなんだこれは。」
魔法使い「…わからない。無念の日…憎しみ…?」
勇者「…? …なに、これ。」
神官「...『この城が人間に『魔王』という生け贄を与え続けている。』」
神官「『人間の誤解と、城の憎しみが 呪いの連鎖を生み出している。』」
神官「『だが、必ず断ち切ってみせる。 私たちの夢のために。』………これ、は。」
ガコン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ガタガタ ギギギギギギ
勇者「…!?」
戦士「な、何だ!? この音!?」
魔法使い「床が揺れて…上からも音が!」
ゴガガガガガガガガ
グゥゴゴゴゴゴゴゴ
勇者「…壁…上下から!」
戦士「私たちを分断する気か! くそっ!」バッ
魔法使い「…!! ダメっ! 間に合わない!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
ドド--ン
戦士「結局、分かれてしまったか...。神官! 勇者! そっちは大丈夫か!」
神官「ええ、とりあえずこちらは二人共大丈夫ですよ…。」(壁越し)
魔法使い「…戦士、ちょっと遠くまで離れて。」グッ
戦士「え? あ、まさか…。」タッタッタ
魔法使い「爆破術式!」ドッカァァァァン!!!
戦士「うおっぷ! ちょっ!これ最大威力か! やりすぎじゃ……!」
モワモワ…モワモワ…
戦士「って、何だこの壁! ビクともしてないぞ!」
魔法使い「やっぱ…無理か…。魔力によって極限まで硬化されてる…。」ハァ-ハァ-
戦士「魔法使いが無理じゃ…どうすんだよコレ!」
神官「後ろにも壁が出来てしまっています。 …分かれて進むしかありませんね。」(壁越し)
魔法使い「しょうがない…か。勇者! 私たちが合流するまで魔王の所までたどり着いても魔王と戦っちゃダメだからね! 絶対だよ! いい!」
勇者「…うん。…多分。」(壁越し)
戦士「多分じゃない! 絶対だって言ってるだろ! 神官! ちゃんとおもりを頼むよ!」
神官「ええ…分かっています。」(壁越し)
勇者「…おもり…って」(壁越し)
魔法使い「じゃ、行こう戦士! 勇者と神官も、くれぐれも気をつけてね!」ダッ
戦士「ああ、すぐ合流しないとな!」ダッ
神官「…では、私たちも行きますよ。」ダッ
勇者「…」ダッ
今日はここまで。
ちょっと展開が遅いですがご勘弁ください。
次でいろいろ明らかにできたらなと思っています。
戦士&魔法使い
戦士「くそっ…魔王にしてやられたな。勇者達が心配だ…早く合流しないと…。」タッタッタッタッ
魔法使い「でも、この不自然な一本道といい…あの急に落ちてきた壁といい…魔王はこの城を自由に操れるのかもしれない…。もし、そうだとしたら…私たちは」タッタッタッタッ
戦士「勇者達と合流するのは無理かもしれないってことか!? おいおいそれじゃどうするんだ! 魔王が分断した私達を各個撃破しにきたら…」
魔法使い「というよりそれが目的なんだろうね…。魔王のくせに意気地なし…とは思うけど確か有効な一手であることは間違いない…か。」
戦士「でも、まだそうと決まったわけじゃ…。とにかく、先に進んで見ないことには分からないだろ?」
魔法使い「…そうだね。だけど、もし私たちが既に閉じ込められているなら…」
戦士「…なら?」
魔法使い「…………抜け道でも探すしかないね。」
神官&勇者
勇者「……」タッタッタッタッ
神官「……」タッタッタッタッ
勇者「…………」ダダダダダダ
神官「(…二人がいなくなってから、走るスピードが段違いに…。)」タッタッタッ
勇者「…………!」ダダダダダダ ピタッ
神官「…ここ、は。」ピタッ
勇者「大きな……扉。」
勇者「…ここ、か。」ザッ
勇者「……」コツコツ
神官「(二人を待つ気は……無い、ようですね。)」コツッ
勇者「……」スッ
ガタンッ ガゴゴゴゴゴゴゴ
勇者「…勝手に……開いた。」カツッ
神官「……」コツッ
コツッ コツッ コツッ コツッ コツッ コツッ コツッ コツッ
カツッ カツッ カツッ カツッ カツッ カツッ カツッ カツッ
ピタッ
神官「……」
魔王「……」ニコッ
勇者「…………お前、が。」スラリ
魔王「久しぶり……じゃなくてその前に。 初めまして、勇者。」
勇者「…俺は、お前を倒し……」
魔王「うんうん、ホントそっくり…というより瓜二つだね。やっぱあの推測は正しかったってことかな。」
勇者「…?」
魔王「ああ、ゴメン。独り言だよ。えっとまずは……ってゔぉっ!?」ガシッ
勇者「…………何だ。何が…。」
魔王「あ、頭がぁ……これが『干渉』か…。 確かに……これは、きつ……い。」
勇者「貴様…一体……。」
魔王「…ああ、最初にちょっと勇者と話したかったのに……。ごめん、もう…限界だ。」
魔王「……側近…頼む。やってくれ。」
勇者「側近、だと……どこに…?」
ドゴッ!
勇者「……っ!」ビリビリ
神官「…本当に、申し訳ありません。勇者様。」グググッ
勇者「…なん……」
神官「少しだけ…眠っていてください。」
勇者「で……」ドサッ
神官「…おっと。」ガシッ
魔王「…ああ、大分楽になったよ。ありがとう、側近。」
神官「いえ……元気そうで何よりです。魔王様。」
魔王「うん…君こそ。…あとさ、肝心の勇者気絶させる手段が『腹パン』ってどうなの? もっとまともなのなかったの?」
神官「他の皆がいたら、身体強化の薬と偽って飲ませるものがあったんですけどね…。一人だけなら、この『雷拳』で気絶させられる自信がありました。…隙を狙えたからこそですけどね。」
魔王「…ハア。相変わらずだね。…でも、また会えて本当に嬉しいよ、側近。」
神官「……喜ぶのは、まだ早いですよ。これから先は、私たちの夢が成されるか否かの大きな境目になるのですから。」
魔王「そうだったね。でも、私だって何回も練習してきたんだ。大丈夫さ。きっと説得してみせる!」
神官「…どうだが。魔王様は肝心なとこで失敗しますからね。あの時も…」
魔王「こら! 昔のことはグダグダ言わないって約束でしょ!」
神官「…すいません。」フッ
魔王「全くもう……まあいいや。行こう側近。私たちの夢、必ず叶えてみせるから。」
神官「…はい。魔王様。」
今日はここまで。
地の文無しで表現するのって大変だなと思う今日この頃。
色々分かりにくくて申し訳ないです。
ヒュォォ バシュッ! バシュッ! バシュッ!
魔王「…な!?」
神官「…『炎拳』」ボワァ!
ボォォ シュゥゥゥゥゥ
神官「…大丈夫ですか、魔王様。」
魔王「う、うん……完全に油断しちゃってた…。っていうか、今のって…。」
神官「まあ、予想はしてました…。でも、一応どうやってここまで来れたのか教えてもらえますか? 魔法使いさん。」
魔法使い「……しん………かん」ギリッ
戦士「…貴様ぁぁあ!!」ダッ ブンッ
神官「っ!」ヒョイッ
戦士「何故だ! お前は! どうして! こんな!」ブンッ シュッ ヴォン ドンッ
神官「戦士、さん……」タッ ヒョイッ サッ トッ
戦士「どうして! 私たちを!」シュッ! クルクルッ
神官「!」ギュウウ
戦士「裏切ったんだああ!」ブンッッ
神官「…『雷電』」ビリビリビリビリ
戦士「!? う…ぐぁ……」ビリビリ ガクッ
神官「…お怒りなのは分かりますが、少し落ち着いて下さい。」スッ
魔法使い「(ボクの魔法だけじゃなく、戦士の攻撃まで躱しきるなんて…それに、あの両手…。)」
魔王「…え、嘘。なんで勇者の仲間達が? ここには絶対入り込めないようにしてたのに…。」
神官「どーせ、またなんかヘマしたんでしょう。窓の場所とかちゃんと調節しました?」
魔王「……窓?」タラリ
魔王「……」タラタラ
魔王「…………」タラタラタラタラ
神官「はいはい。もう分かりましたよ。きっとあの二人は魔王様が調節し忘れた窓伝いにここまで来たんでしょうね。そんなこったろーと思ってましたよ。」
戦士「……くっ!」
魔法使い「神官……君は…一体」
神官「……私は、魔王様の側近です。魔族でもない、かといって人間かといえば違う。中途半端な生き物ですよ。」
魔王「えっと…初めまして。魔法使いさんと、戦士さんだね。私が魔王です。側近が世話になってたようで…。」ペコリ
魔法使い「……」
戦士「…なんだ、この魔王。」
神官「緊張してますね、魔王様。」
魔王「…この勇者に関しては、一旦預からせてもらうけど…別にどうこうするつもりはないから安心して……」
魔法使い「……」
戦士「……」
魔王「もらえない…か。そりゃそう…………ってゔぁあ!?」ガシッ
神官「…大丈夫ですか。魔王様。」
魔王「もう! 碌に人間と話も出来ない! だからこの城はやなんだ! ゔあぁ...頭がぁ!」ギシギシ
魔法使い「な...なんなの。コレ。」
神官「…魔王様。一足早く、勇者を連れて先に行って下さい。」
魔王「ゔぇ? で、でもさ。彼も側近に会いたがってたしさ…」
神官「確かに、私も会いたいです。が、まず私の仲間に説明するのが先です。何も分からない二人を放って置いたまま何処かへ逃げるなんてこと、私にはできません。」
魔法使い「…っ!」
魔王「…はあ。分かったよ…。じゃ、後で迎えに来るから。ゔぁ…あったまいだい…。」
神官「すみませんね。向こうの勇者様達によろしくお願いします。」
魔王「了解。それじゃ、行ってくる。」シュインッ!
戦士「っ!? 消えただとっ!?」
魔法使い「あいつの魔力が感じられなくなった……まさか、転移結界もなしに…空間を飛んだ……?」
神官「…あの人の能力ですよ。この能力のお陰であの人は魔王でありながら、この城に縛られなくて済むのです。」
戦士「っ!」ザッ
魔法使い「…神官。旅の途中、色々妙だなとは思っていた…。でも、まさか魔王の側近だったなんて……。」
神官「…妙、ですか。参考までに、一体どこが妙だったか教えていただけますか。」
魔法使い「……一番不審に思ったのは、鳩。」
神官「…鳩、ですか?」
魔法使い「あの鳩は北、つまり魔王城の方角から飛んできてた…。だから、神官のいう親戚は北のどこかに住んでいるのかなと思っていたけど、神官は『王都に住んでいる』って言った。だから、変だと思ったんだ。」
神官「…そうでしたか。私としたことが、手紙を受け取る際はもっと慎重にするべきでしたね。」
戦士「そ、そうだったのか……って待てよ。それじゃ、神官が言ってた『親戚』って…。」
神官「魔王様ですよ。」
魔法使い「…やっぱり。」
神官「…ふむ。ちょうどいいタイミングですし、話しておきましょう。皆さんは知る権利があります。」
戦士「……なんだ。」
神官「勇者様の、あの状態についての話です。」
戦士「!?」
魔法使い「まさか、あれは魔王の仕業なの……!?」
神官「違いますよ。魔王様との文通で分かったのは、今の勇者様がどんな状態なのかということだけで、あの洞窟が結局何なのか、なぜできたのかは分かりませんでした。」
魔法使い「……」
神官「今の勇者様は、簡潔に言えば『魔力』と『心』が抜き取られた状態です。」
戦士「…心?」
神官「『精神』『人格』…色々な呼び方ができますが、とにかく勇者様はこれを抜き取られたと考えられます。」
神官「身も蓋もない言い方をすれば、今の勇者様は記憶と体だけ残った抜け殻ってとこですかね…。」
神官「元々正義感の強い人でしたが、あの洞窟以降やたら魔王討伐にこだわるようになったのは、
『王より魔王討伐を命じられた』という記憶からなる義務感が勇者様を支配していたからでしょう。」
戦士「…そう、か。それで…。」
神官「もっとも、魔力と違って心は完全には抜き取られなかったのか、多少感情らしきものが見え隠れしていたように思えますね。」
魔法使い「……でも、ちょっと待って。それじゃ、抜き取られた魔力と心はどこにあるの?
ひょっとして、あの洞窟の中なの?」
神官「…流石魔法使いさん。いい質問です。実は、それこそが重要かつ最も不思議な事なんです。」
戦士「…?」
神官「勇者様の『魔力』と『心』は抜き取られた直後……この『魔王城』に現れたのですよ。」
戦士「……は?」
魔法使い「……え?」
神官「…ま、いきなりそう言われても分かりませんよね。」
神官「そもそも『魔力』は人間や魔物などの生物……つまり宿主があってこそ存在できるのです。」
神官「人間や魔物は体内の『魔力』を使って魔法を放つ…ですが、魔力が宿主無しの単体状態でただ存在する……なんてことは不可能なはず…。」
神官「だが、あの洞窟はそんな私たちの常識を覆して、『魔力』と『勇者様の心』をそのまま魔王城に飛ばした…。」
神官「その結果…何が起きたと思います?」
戦士「……」
魔法使い「……」
神官「…勇者様から抜き取られた大量の『魔力』は一緒に抜き取られた『勇者様の心』と反応し、その心が思い描くイメージにそって形作り始めた…。」
神官「宿主がない『魔力』は…『勇者様の心』によって、自ら『宿主』へと姿を変えた…。」
戦士「…つまり、どうゆう…?」
神官「つまり、『魔力』の体と『心』を宿した『もう一人の勇者』が、誕生したのですよ。」
戦士「はぁ!?」
魔法使い「抜き取られた…『魔力』と『心』が勇者になったっていうの!? 嘘! 作り話にしたって突拍子すぎるよ!」
神官「…私だって、あんな手紙を受け取った時には、もうなんとも言えない気持ちになりましたとも。」
神官「『こっちも、なぜか半透明の姿をした人間のイケメンが、私の玉座に座って寝ていたんだけど』なんて書き出しの手紙なんてね…。」
魔王の隠れ家
魔王「よっ……っと。ああ、凄く楽。やっぱこの空気が一番だなー。」
半透明男「お、よーやく帰って来た! お帰り魔王!」
魔王「ああ、遅くなって悪かったね。さて、始めるから準備しようか。」
半透明男「……こいつ…が?」ジ-
魔王「そうだ、お前の片割れ。まさに瓜二つだなーっていってもそりゃ当たり前か。」
半透明男「…違う! 俺の方が絶対カッコイイ!」
魔王「同じだバーカ。まあ確かにお前より無愛想だけどな。顔のパーツは少しも違わない。」
半透明男「いーや! 絶対俺の方がイケメンだ! こいつは俺よりずっっっとブサメンだ!」
魔王「はいはいイケメンブサメン談義は全て無事に終わってからにしようねー。あ、そうだ。冬の毛布出しといてくれない?
流石に直接体に封印の鎖巻くのは勇者もキツいだろうから、毛布の上からやることにしよう。」
半透明男「ういーっす。…あれ? そういえば側近さんも来るんじゃなかったの?」
魔王「ああ、彼はちょっとまだお取り込み中なのよ。だから後で…ね。」
半透明男「そっかー……残念だなー。会えば俺の記憶が戻ったりするかなーと思ったんだけどなー。」
魔王「そんなんで戻ったら苦労しないと思うけど。あ、これ勇者の剣ね。これで大好きな素振りでもしてれば?」スッ
半透明男「どれどれ…。」ガシッ スラリ
半透明男「…うーん。すっごく懐かしい感はするんだけど……なんか気に食わないなーコイツ。生理的に無理そう。」
魔王「…ま、その剣はちょっと『アレ』だからな…。ま、いいや。素振りしないならこっち手伝ってー。鎖巻くから。」
半透明男「うえー。なんか嫌な感じー。自分を鎖に巻くとか…。俺そんな趣味無いのに。」
魔王「お前よりブサメンなんでしょ? なら気兼ねなくグルグル巻きにできるじゃない。あ、でもキツくしちゃダメだよ!
大事な話し合いの前に機嫌悪くなるようなことはなるべく避けたいし…。」
半透明男「……起きたら鎖でグルグル巻きにされてる時点で話し合いも糞も無いと思うケド…。」
魔王「し、しょーがないじゃん! 話聞かずに問答無用で切りかかってこられたらそれこそ大変なんだから。グダグダ言わずにやる!」
半透明男「…へいへい。」
今日はここまで。遅れてすいませんでした。
キャラ毎にちゃんと口調の統一ができているか凄く不安ですね...。
魔王「よし、これで大丈夫かな。」
勇者「」グルグル
半透明男「…うーん、やっぱりなんか変な感じが…。」
魔王「じゃ、ちょっと勇者起こしてあげて。」
半透明男「え? 俺が? どうやって起こせばいいの?」
魔王「人を起こすのにどうやってもないでしょ。なんでもいいから早く起こして。」
半透明男「あー…はいはい。そんじゃ……くらえ必殺目覚ましビンタァ!!」パ-ン!
勇者「っ!!」ビクッ
魔王「ちょっちょっちょっと! 何やってんのお前!?」
半透明男「な、何って…前にメイドから教えてもらった必殺技の一つだけど。眠ってる相手には威力が倍になるんだってさ。」
魔王「機嫌悪くしちゃダメだっていったでしょ! 神官といいお前といいどうして暴力的手段を使いたがるんだよもう!」
勇者「う……ん」パチパチ
魔王「あ、え、えーっと…う、オホンっ。おはよう、勇者。」
勇者「魔王!? うっ……あ」ギシギシ
魔王「ごめんね。とりあえずゆっくり話すために、少しだけ拘束させてもらってるんだ…痛くない? 一応毛布もかけておいたけど……。」
勇者「ぐっ…ゔ……」ギジギジガタガタ
魔王「ちょっ、そんな暴れても無駄だからやめた方がいいよ! 疲れるだけだよ!」
半透明男「…確かに無愛想な奴だなーコイツ。」
勇者「…! な……なん…だ、お前…」
魔王「あーそりゃ確かに驚くなー。自分と瓜二つの顔した半透明人間がいたら。」
魔王「こいつは…お前があの洞窟で無くした物だよ。」
勇者「何を……言って…。」
半透明男「いや、ちょっと物呼ばわりやめて。一応俺もちゃんと生きてる存在なんだから。」
魔王「お前の『心』と『魔力』が具現化したものだ。つまり、コイツもお前自身だ。」
勇者「…なん…だ、と?」
半透明男「いやあの、無視もやめて。俺の訴えもちゃんと聞いて。」
魔王「さて、二人の勇者がここに揃ったら、ちょっといろいろとややこしくなっちゃうからね。とりあえず二人の呼び名を決めとかないといけないかな。」
半透明男「お? ようやく来たか俺の命名! イイ名前頼むぞ!」
魔王「記憶と本物の体を持つキミを、とりあえず『勇者Ⅰ』として、こっちの魔力と心を持った半透明勇者を『勇者Ⅱ』としよう。」
勇者Ⅱ「ちょっと待ってなにその捻りも糞も無いネーミング。俺言ったのよねイイ名前頼むぞって。」
魔王「私は『名前』じゃなくて『呼び名』って言ったもん。二人の名前はどっちも『勇者』でしょ?
でもそれじゃややこしいから仮の『呼び名』を決めたの。分かりやすくするためなんだからネーミングセンスなんて考えてられないよ。」
勇者Ⅱ「ぐぬぬ…で、でも! なんで俺が2番目なの!? あんな抜け殻野郎より俺の方が一番にふさわしいにきまってるだろ!」
勇者Ⅰ「……」イラッ
魔王「別にどっちでもいいでしょうに。男は細かいこと気にしちゃダメだよ。」
勇者Ⅱ「細かくない! ようやくちゃんとした名前もらえることにドキワクしてたってのにー!」
勇者Ⅰ「……貴様…ら!」ギシギシ
魔王「あー、ごめんごめん。ほったらかしにしちゃってたね。」
勇者Ⅱ「ふん! こんなやつずっとほったらかしにしちまえばいいんだ!」
勇者Ⅰ「……な…に」ギリッ
魔王「こらこら! 自分同士で喧嘩しないの!」
勇者Ⅱ「だってさー、こいつすっげー態度悪いぞ! 見ろよこの反抗的な目!」
魔王「お前も十分反抗的だバカ! ホント似たもの同士だな二人共! もっと仲良くしてお願いだから!」
勇者Ⅱ「でもさ…こいつなんか気に入らないもん。」
勇者Ⅰ「……俺も、だ。」ギリリ
魔王「もう! これから大事な話をするのに! 頼むから勇者Ⅱは黙ってて!」
勇者Ⅱ「…えー。」
魔王「あんまり文句言うとメイド呼んで『お仕置き』させるぞ! いいのか!?」
勇者Ⅱ「っ!? っ! っ!」ブンブン
魔王「なら、大人しくしてなさい。…ったく、なんで自分同士で喧嘩するのかなぁ…やっぱ『心』と『体』ってのが相反する存在だからとかかなぁ…?」
勇者Ⅰ「……」ググッ
魔王「(…でも、勇者Ⅰが勇者Ⅱを気に入らないとはっきり言ってるってことは…まだ彼の中にもちゃんと感情…つまり『心』がまだあるってこと。
その『心』に強く訴えかけることができれば、まだ説得の余地は十分にあるはず…。)」
魔王「さて。本題に移ろう、勇者Ⅰ。」
勇者Ⅰ「貴様……俺を、どうする気だ…。」ググググググ
魔王「どうもしないよ。なんだったらこれから君に一切触れないと約束してもいい。」
勇者Ⅰ「…何?」グググ
魔王「だからさ…少しの間でいい。話を聞いてくれないかな…。全て終わったら、鎖も解く。君の好きにしてくれて構わない。」
勇者Ⅰ「……」ググ
勇者Ⅰ「…」スッ
魔王「ありがとう。まずは……そうだな。私たちのお願いから、伝えようかな。」
勇者Ⅰ「…お願い…だと。」
魔王「そう。あ、いやそんな怖い顔しないで。別に脅迫まがいのこというわけじゃないから。」
魔王「これを、持ってかえって欲しいんだ。そして、これを読んでよく考えて欲しい。」スッ
勇者Ⅰ「…なんだ、これは。」
魔王「魔族の歴史が記してある本だ。これさえ読んでもらえれば、君にもよくわかってくれると思うよ。」
魔王「私たち魔族が、『人間を祖としている』ってことが。」
勇者Ⅰ「……何?」
魔王「私たち魔族は、元を辿れば人間だったって話さ。それを知って欲しくて、わざわざこういう場を設けたんだ。」
勇者Ⅰ「何…ふざけたことを…。」
魔王「ふざけた、ねぇ…。人間にただ角と羽がついただけの外見の私たちを魔物呼ばわりする方がふざけるなって感じだけど…。この羽も角もお飾りみたいなもんだし。」
勇者Ⅰ「貴様らは…魔物の進化体……それが…真実だ。」
勇者Ⅱ「お前なぁあ……」イラッ
魔王「勇者Ⅱ、『お仕置k」
勇者Ⅱ「っ!! っ!!」ブンブン
魔王「まあ、今までそっちではそのように教えられていたらしいから、納得できないのもしょうがない。」
魔王「だから、改めて聞いて欲しいんだ。本当の魔族の話と、私の思いを。」
勇者Ⅰ「……」
今日はここまで。あけましておめでとうございます。
脳内ではまだ大分長く続く予定です。完結できるよう精一杯頑張らせて頂きます。
魔王「…私たち魔族の源流は、昔君たちの国から追放されたとある魔法使いの一族なんだ。」
魔王「『黒の魔法族』…調べればちゃんとそっちでも載ってるはずだよ。」
魔王「追放された理由に関してはこの本にも詳しく載ってるから、今はとりあえず省くけど…」
勇者Ⅰ「…証拠は?」
魔王「え?」
勇者Ⅰ「……言うからには、証拠を見せろ。」
魔王「あ、し、証拠? …ゴメン、それに関しては……忘れてた。」
勇者Ⅱ「(あーらら…。)」
魔王「そういうのは全部村の方で大切に保管してあるから…もし見たければ帰る時に寄ってく?」
勇者Ⅰ「…村?」
魔王「村だよ。ここからもうちょっと南東に進むとあるんだ。…すごく小さくて、村と言ってもいいのか迷うくらいだけどね。」
勇者Ⅰ「……」
魔王「とにかく、通称『魔界』と呼ばれるこの地に追放された後も、とにかく一生懸命今まで生き抜いてきたんだ。…そっちではそのまま一族滅亡ってことになっているらしいけどね。」
魔王「ここで暮らすにあたって、まず困ったのが食べ物。この地で育つ植物はあまり多くない。今は多少農耕が進んでいるけど、主な食糧は今も昔も魔物だよ。」
勇者Ⅰ「…魔物を……食う?」
魔王「そう。当時、生き残るためにはそれしかなかった。どの魔物が食べられるのか、どこの部位なら食べても大丈夫か、毒抜きはどうやってすればいいのか。…それらを命がけで調べた。私たちが安全に魔物を食べることができるのは、こうした先人たちの努力があってこそなんだ。」
魔王「私たちのこの角や羽…。これは、長い間魔物を食用としてきた結果だよ。魔物を体内に取り込み続けたことで、長い時間をかけて私たちの体に影響を及ぼしたんだ。」
勇者Ⅰ「……」
魔王「私たちの先祖…『黒の魔法族』は、魔界へ追放されて苦しい生活を強いられた当初こそ、自分達を追放した国に、人間に憎しみを抱いていた。」
魔王「でも、今となってはその出来事自体、私たち魔族にとってはただの過去にすぎないんだ。今ではこの生活が当たり前だと思っているし、今更人間に憎しみなんて持ってる人なんていないよ。」
勇者Ⅰ「嘘だ。」
魔王「…え、えーっと……あの、どうしてそんな強く否定するの…かな?」
勇者Ⅰ「俺たちは…魔族に襲われた。」
魔王「…え?」
勇者Ⅰ「体から針を飛ばす……妙な奴だ。あいつのせいで…魔法使いは……。」
勇者Ⅱ「あ、それって……あの自称将軍野郎…」
魔王「……ごめんなさいっ!!」バッ
勇者Ⅰ「!?」
魔王「私がちゃんとアイツに気をつけていたら…全て私の手落ちだ! 本当にすみませんでした!」
勇者Ⅰ「……」
魔王「あいつは私たちの中でも変わった奴で…やたらプライド高い上に、人間のこと見下してて……でもまさか君達にちょっかい出すなんて思ってなかった…。」
魔王「今、彼はメイドと執事に見張らせているからもうめったなことはしないと思うけど…ていうか、このことを真っ先に謝るつもりだったのに……なんで忘れてたんだ! あーもう私のバカ!」クシャクシャ
勇者Ⅱ「(さっきの証拠ミスといい、このどじっこ気質はどうにかならんのかね…。)」
魔王「まあ…とにかく。確かに全員とは言えないけど、基本的に人間に対して悪感情は持っていないのは本当だよ。勇者が魔王を倒しにやって来るのも、もうみんな仕方ないことだと諦めてる。」
勇者Ⅰ「…魔王が復活すると……魔物の活動が活発化する。お前のせいで…人々が苦しむんだ。」
魔王「あーうん。それは確かに間違ってないんだけど……私も、好きで魔王をやってる訳じゃないんだよ。」
勇者Ⅰ「…何?」
魔王「魔物の活性化、魔王の存在……これらは全部、あの魔王城によって生み出される。『魔王になる』というより、『魔王にさせられる』ってことなんだ。」
勇者Ⅰ「……どういうことだ。」
魔王「この話はちょっと長くなっちゃうんだけど…まあ出来るだけ簡潔に話そうか。」
今日はここまで。
長らくお待たせした割に短い、その上文章もまずいときています。すみません。
本当は一気に説得シーン終わらせたかったのですが、中々まともな文章が書けずにぐだってました。
できれば次の投下で説得終了出来るよう頑張ります。
魔王「詳しい記録が残ってる訳じゃないんだけど、伝承はしっかり伝わっていてね。それによると、あの魔王城には、初代魔王の『意識』が眠っているらしいんだ。」
勇者Ⅰ「意識…?」
魔王「そ。魔王の選出、魔物の活性化、全部あの初代魔王の意識がやってることなんだよ。」
勇者Ⅰ「…?」
勇者Ⅱ「…?」
魔王「まあちょっと信じ難い話かもしれないけど…っていうかなんでお前まで疑問符浮かべてるんだ。前に説明したでしょ。」
勇者Ⅱ「そーだったっけ……なんか難しい話は聞いた覚えはあるけど…イマイチよく分からなかった。」
魔王「…全くもー。ま、いいや。じゃ、もう一回よく聞くんだよ」
魔王「初代魔王は、子供の時点で既に大人の何倍もの魔力を有していて、当時の一族が持っていた魔法を全てマスターした。まるでおとぎ話の主人公のような、奇跡のような少年だった。ただ、一族の誰よりも、人間を憎んでいた。自分達の先祖を、仲間を、こんな地に追いやった者達に。」
勇者Ⅰ「……」
魔王「魔王城を造る技術と魔法を考え抜いたのも、この少年だと言われているんだ。彼の魔法で、魔界の土を固めてブロックを作り、それをみんなで組み立て、城を作ろうとした。人間に対抗するための象徴として、ね。」
魔王「ただ、いくら奇跡の天才少年の言うこととはいえ、あまりにも突拍子もない話だ。そんな無駄なことはやったってしょうがないという意見が大半だった。」
魔王「それでも、彼は他人の言葉には耳を貸さなかった。結局彼は毎日たった一人で作業を続け、完成した時には、彼はもう死にかけの老人だった。」
勇者Ⅱ「…ってことは、まさかあの城を一人で造り上げたってことなの? なにそれスゴくね?」
魔王「まあ、あくまで伝承だから。実際には手伝う人もいたんじゃないかな。でも、8割は彼が造ったと言っても過言じゃないと思う。」
魔王「そして、彼は死に際に初代魔王を名乗り、長年組み上げて開発した魔法……というかむしろ呪いに近いものをこの城にかけて、自らの意識を城に封印した……とされる、らしい。」
勇者Ⅰ「のろ…い……」
魔王「そう。ほらここ見てみてⅠ。」スッ
勇者Ⅰ「…首元に……その印……どこかで」
魔王「お、見たことある? これ、実は『黒の魔法族』のシンボルマークなんだよ。今じゃ『呪いの証』って扱いになっちゃってるけどね。あの城のせいで。」
勇者Ⅱ「…おい、ちょっと待て。それ魔族が元人間だっていう完璧な証拠じゃんか。なんで最初から見せなかったし。」ヒソヒソ
魔王「…ゴメン、忘れてた。」ヒソヒソ
勇者Ⅱ「人のこと言えないじゃねーか。このどじっこめ。」ブサクサ
魔王「…で、まあ御察しの通りこれは魔王の印でね。魔王城の『無意識』が、私たち魔族の中から一番魔力の高い者を選出し、この印を刻み込むんだ。これが浮かび上がったら最後、魔王城に強制転送されて、二度と出ることはできないと言われているんだ。」
勇者Ⅰ「…だが……お前は。」
魔王「そうなのよ。どうやら、流石の魔王城といえども私の力は計算外だったみたいでね。」
勇者Ⅱ「まあ結構便利な能力だよなそれ。ただ突然現れたりするもんだから、こっちの心臓が悪くなるけど。」
魔王「……Ⅱ、お前のそんな体に心臓あるのか……?」
勇者Ⅱ「俺が知るか。好きでこんな体になったんじゃないもん…多分。」
勇者Ⅰ「……なんの話をしている。」
魔王「あ、そーだった。私の能力の話だっけ? この際だから見せておこうか。」
勇者Ⅱ「(あれ、魔王城の話じゃなかったっけ…。)」
魔王「ほら見て、私の手のひら。」スッ
勇者Ⅰ「……『入』……『出』?」
魔王「そう。この右手の『入』の字と、左手の『出』の字。これが私の力なのさ。」
勇者Ⅰ「…?」
魔王「どういうことかというとだね、まずこの右手に……うーんと、そうだな…いいや、面倒くさいしこいつでいいや。」グッ
勇者Ⅱ「うあっ!? ちょっ、俺!?」
魔王「右手でコイツをつかんで、左手は伸ばしておいて…」
魔王「よっと!」シュワンッ
勇者Ⅰ「!?」
ドサッ
魔王「はいこの通り、右手の位置にいたⅡが左手の位置にワープ!」
勇者Ⅱ「痛ってー! 急にやるんじゃねえこら!」
勇者Ⅰ「…『入』から……『出』に……ということ?」
魔王「そうそう! しかも面白いことにね……えいっ」ペタッ
勇者Ⅱ「ふにゃ!?」ビクッ
勇者Ⅰ「…『出』の字が……張りついた?」
魔王「そして、右手で……じゃあ、この書類を持って、それっ!」シュイン
バサッ
魔王「ほら。こうしてマークをⅡのほっぺたに張りつけることで、その位置にワープできちゃうのさ。」
勇者Ⅱ「おいこら! 人の体で試すんじゃねぇ!」
魔王「私が魔王城から離られたのは、この右手の『入』を使って、あらかじめこの屋敷にマークしておいた『出』に自分自身ごとワープしたからなんだ。この力は普段こうやって自分が移動するのに使うのが主かな。あ、でもね。これは他にも使い方があって……」
勇者Ⅱ「話を聞けぇ! ていうかコイツが来てから俺の扱い酷くないかおい!」
魔王「もう、うるさいな…。あ、でも流石にちょっと話が脱線しすぎちゃったね。ゴメン、Ⅰ。」
勇者Ⅰ「……」
勇者Ⅱ「(…それにしても、ここまで落ち着きないのも珍しいな。やっぱ自分を殺すつもりできた奴を説得するってことで意外と緊張してんのか。普段あんなに偉そうなくせに…。)」
魔王「えーっと、どこまで話したっけな…………ああ、この印の話をしたんだっけな。」
魔王「でね、魔王城に魔王という存在がいるだけで、魔王城の魔力がここの魔素に乗せられて魔界全体にうっすらと広がるんだ。」
魔王「幸い魔族には大して影響はないんだけど、魔界の魔物はこの魔力に影響されて、異常に活動的になる。……そっちの方にまで遠征して、人間や家畜を襲うほどにね。」
勇者Ⅰ「…!」
魔王「そう、それによって君達の国は魔王の復活を察知する。そして、魔王討伐のため勇者パーティーを送り込む。魔王がいなくなれば、何十年後にまた魔王城が魔王を選ぶ。魔物が活発化して被害が出る。それが繰り返される。下手したら、永遠に。」
勇者Ⅱ「……」
魔王「こんなの誰だって得しない話さ。君達には勿論、私たちも。私はただ、この悲しいループを止めたい。願わくば、魔族を、本当の故郷へ帰してあげたい。…それが、あの人の夢。私たちの、夢なんだ。」
勇者Ⅰ「…なら……あれは………嘘、なのか?」
魔王「…何が?」
勇者Ⅰ「…昔の……歴代勇者の記録を……見せられた…記憶がある。」
勇者Ⅰ「襲いかかる……魔族……魔王を…打ち破った記録。 全て…嘘?」
魔王「あー……いや、実はそれ、あながち嘘とも言えない……かもね。」
勇者Ⅰ「…何?」
魔王「この呪いも人間への誤解を生む一因となっていてね。そもそも私がわざわざここで話そうとしたのは、単に勇者Ⅰと一対一で話したいからだけじゃないんだ。」
魔王「あの城の内部で私たち魔族が人間と出会うと、なんか体に凄い…なんだろう、『破壊衝動』みたいなのがくるんだ。目の前の人間を殺したい、ズタズタに引き裂きたい、無残な姿にしてやりたい…そんな感じのがズズズッと体を覆い尽くすような……それに逆らおうとするとこんどは酷い頭痛がくる。さっきは本当参ったよ。」
勇者Ⅱ「…それも、呪いってやつなの?」
魔王「まあ、そうなんだろうね。人間への黒い殺意を無意識に私たちへ送り込んでるってとこかな。全く本当に凄いよ。私でさえも、『この衝動に身を任せたら、どれだけ気持ち良いのだろう。』だなんて一瞬考えちゃうくらいだもの。」
勇者Ⅰ「……」
魔王「でも、もう昔の怨念に振り回されるのはもう沢山なんだ。本当は、私一人だけなら魔王城から逃げることもできる。けど、そうしたら魔王城はまた新たな魔王を選ぶだけ。それじゃ、みんなは救われない。夢を、果たすことはできない。だから、私は魔王城で待っていた。この危険な魔界まで来てくれる人間。私の思いを伝えることができる人間……勇者をね。」
魔王「だから、改めて…私の願い、聞いてほしい。強制はしない。私の願いと思いを聞いて、君がどうするのかは、君の自由だ。聞くだけでいい……。伝えられたら…私は、それでもういいんだ。」
勇者Ⅰ「…」コクリ
魔王「ありがとう。さっきも言った通り、魔族の歴史の本、それと村のみんなの意見…というか話を纏めた書類。これを持って帰って…いろんな人に見せて欲しいんだ。それと…一応そちらの王様宛の手紙も用意した……本当にできればでいいから渡して欲しい。」
勇者Ⅰ「…王へ?」
魔王「別に失礼なことは書いちゃいない。ただ、この魔王城の破壊をお願いするだけさ。向こうも隣国との戦争が終わったばっかりで苦しいだろうけど、悪い話じゃないはずさ。」
勇者Ⅱ「…あの城を破壊って、そんなこと出来るのかよ?」
魔王「…魔王がいない状態なら、人海戦術でゆっくりとダメージを与えていけばなんとかなる……と思う。」
勇者Ⅰ「……わかった。魔王……お前の願いは、聞いた。」
魔王「……ありがとう。長い間、拘束しちゃってて本当ゴメンね。今、鎖解くから」スッ
グイッ ガジャガジャ ジャラジャラジャラジャラ
魔王「はい。これでOK。大丈夫? 体痺れてない?」
勇者Ⅰ「…」コクリ
魔王「そうか。あと、君の剣はあっちに置いてあるから。…Ⅱ、鎖しまってた箱をちょっとこっちに。」
勇者Ⅱ「……わかった。」グイッ
コツ コツ コツ ス*ッ
魔王「ふう。緊張が解けて、力抜けちゃったなぁ…。なんか、立つのすらおっくうに…。」ドサッ
カチャッ コツ スラリ...
魔王「…側近の方は、大丈夫かな。他のみんなには城に近づかないようにちゃんと言っといたし、大丈夫だとは思うけど……万が一のために、早めに迎えに行った方がいいのかな。」
コツッ ダッ!
勇者Ⅱ「! 魔王!! 危ない!!」
魔王「…えっ!?」クルリ
勇者Ⅰ「……じゃあ、な。」ブンッ
ズブシュッ‼︎
今日はここまで。
長く引っ張った割にはほとんどつまらない説明パートです。すいません。
次回はもうちょっと早く投稿できるよう頑張ります。
勇者Ⅱ「…くっ…そ……痛ってえ……な。」ズムニュ
勇者Ⅰ「…!」
魔王「えっ……ちょっ、Ⅱ!」
勇者Ⅱ「大丈夫、だ…。この体なら…いくら斬られても死にゃしねえ…よ。もうなんつうか……言葉にできないくらい痛いけど、な!」グッ ヌキッ
勇者Ⅰ「ちっ…!」バッ ズザッ
勇者Ⅱ「へっ! 思った通りだ。こいつ、魔王の言葉を聞いたって何も感じちゃいねえ! こんな思いやりも感情も操り人形見てえな奴に何話しても無駄だ!」
勇者Ⅰ「…なんだと……!」
勇者Ⅱ「お? ちっとは怒ることもできるみたいだな。けどなぁ、お前みたいな無表情冷血野郎に魔王は絶対殺させやしねえ!」ジャキン
勇者Ⅰ「……」ジャキッ
魔王「やめろⅡ!! ……いいんだ。もう、私は伝えるべきことは伝えた。勇者が私の命を欲しいなら、私は……」
勇者Ⅱ「何言ってやがる! 俺も『勇者』だ!! 忘れんじゃねぇ!」
魔王「!」
勇者「短い間かもしれねえが、俺はお前と過ごした! お前の思い、願いも聞いた! お前の言葉で、俺の心はとっくの昔に決まってるんだ!」
魔王「…Ⅱ。」
勇者Ⅱ「だから俺は……うおっ!?」
ガキィン!!
勇者Ⅰ「……」ギリギリ
勇者Ⅱ「こんのっ…! 人が喋ってる時に……空気読めない野郎め!」
勇者Ⅰ「……」バッ ダッ ブンッ
勇者Ⅱ「うっ…ぐっ!」ガッキン
勇者Ⅱ「(速い! ……それに一撃一撃が重い…。執事の奴より絶対強い…!)」
勇者Ⅰ「…この程度か。」
勇者Ⅱ「ふん、いくら剣が上手くて偉そうにしててもなあ、お前は所詮魔王に指一本触れられねえぜ。死なない体を持っているこの俺が守っている限りな! 大人しく尻尾巻いて逃げたらどうだ!」
勇者Ⅰ「…」ブンッ
勇者Ⅱ「あっぶね!! 首と頭だけはやめろ流石に意識飛んじゃうから!」ヒョイッ
勇者Ⅰ「…」ブオッ
勇者Ⅱ「っ! ぐっ!」ギンッ
勇者Ⅰ「……そこを、どけ!」ザッ ブンッ
勇者Ⅱ「いやーなこった! 自力でどかしてみやがれこのバーカ!」キンッ
勇者Ⅰ「…なぜ、貴様は邪魔をする!?」グググッ
勇者Ⅱ「なぜも風邪もあるかあ! みんなと過ごして、魔王と話して、その言葉と想いが本物だと知ったからだ!」ググッ
勇者Ⅰ「…そのようなこと……他人のことなど、本物だと、貴様にどうして分かる!?」
勇者Ⅱ「分かるんだよ! お前みたいな冷徹野郎に分からないこともなあ!」
勇者Ⅰ「…何?」
勇者Ⅱ「俺のこの体ならなぁ!全部感じるんだ。熱のこもった言葉を聞くだけで! 体に触れるだけで! 俺の全身が震えて、伝わるんだ! 気持ち、想い、感情、全部わかるんだよ!」
勇者Ⅰ「…ふざけたことを……もういい。」グググググッッ
勇者Ⅱ「にゃにおう! う、ぐっ……!!」グググッ
グググッ ガッ キンッ フュルルル
勇者Ⅱ「な! 剣が!」
魔王「危ない! Ⅱ!」
勇者Ⅰ「……」ブンッ
勇者Ⅱ「しまっ…!」
ズブシュッ!
勇者Ⅱ「…なんて、な。」ガシッ
勇者Ⅰ「…! こいつ……!」ググッ
勇者Ⅱ「へっ! やっぱ頭狙ってきやがったな! こういうとこは分かりやすい奴だぜ!」
勇者Ⅱ「狙いが分かりゃ、俺の体でお前の剣を封じることもできる! …くっそ痛いけどな!」
勇者Ⅰ「…離……せ!」グイグイ
勇者Ⅱ「安心しろ! 俺だってこんないってーのはゴメンだ! だから……」スッ
勇者Ⅱ「ちょっとだけ、大人しく、してろ!」スッ ピタッ
勇者Ⅰ「…!?」
魔王「…へ?」
勇者Ⅱ「…ふんむむむ………!」グググッ
魔王「ちょちょちょっと待った。お前、一体何をして…??」
勇者Ⅱ「…悔しいけど、俺の剣の腕じゃ到底かないそうにない。 だから、俺がこいつを説得する!」
魔王「……Ⅰの胸に手を押し付けるのが…説得?」
勇者Ⅰ「くっ……やめ…!」
勇者Ⅰ「…!!」ズブリ
勇者Ⅱ「……うっし、入った! 思った通りだ!」
魔王「Ⅱの手がⅠの体に入った!? ってちょっと待って『思った通り』ってどういうこと!? お前何を考えてこんな状況思ったの!?」
勇者Ⅱ「や、俺の体こんなんだし、ひょっとしたらあいつの体に俺の手ぐらいなら入るんじゃないかと思ってさ。」
魔王「思ってさじゃねーよアホ! んなことして何なるってんだバカ! ああもう急にかっこよくなったと思ったらこれだよ全く! ちょっとでも見直した私が馬鹿だった!」
勇者Ⅱ「…よし。 ……すまん魔王、ちょっと黙っててくれ。 説得に集中するわ。」
魔王「説得って、お前なあ…。 ……って、ん…?」
勇者Ⅰ「…っ……あ……え…。」ボワーン
勇者Ⅱ「…………」グッ
魔王「(Ⅰの様子……なんだか心ここにあらずみたいな感じだな。)」
魔王「(心……説得…ねえ……。)」
魔王「(…ひょっとして、あんなんでⅠの微かに残っている心に届いているっていうのか…?)」
魔王「…………。」
魔王「(まさかな……でも、Ⅰのあの様子……。)」
勇者Ⅱ「…………」
勇者Ⅰ「…………」
勇者Ⅱ「………」
勇者Ⅰ「………」
勇者Ⅱ「……」
勇者Ⅱ「…」スッ
グッ……ズチュッ!
勇者Ⅰ「………ッ!」*ハッ
魔王「…終わったの?」
勇者Ⅱ「…俺の心は伝えられた……と思う。後は…俺が言葉で話していくわ。」
勇者Ⅱ「大丈夫。仮にこいつが何をしようとしても、お前は俺が守るから。」
勇者Ⅰ「……」
勇者Ⅰ「……今の……は」
勇者Ⅱ「俺が魔王の話を聞いて、心の底から感じた気持ちをちょっと頑張って再現したんだよ。気に入ったか?」
勇者Ⅰ「……」
勇者Ⅱ「なんだ、そんなに呆然として。こんなのまともな人間…いや、魔族でもみ~んな当たり前に感じることができるんだぜ。」
勇者Ⅰ「…俺、こんなの…………ない。」
勇者Ⅱ「そりゃあ…俺が言うのもなんだが、お前、今まともじゃない状態なんだぜ? お前の心の大半俺が持ってってるわけだし。」
勇者Ⅰ「……」ムウ
勇者Ⅱ「んな不満そーな顔されたって…まさか俺についての話をまだ疑ってんのか?」
魔王「(なんど語りかけてもほとんど表情を変えなかった勇者Ⅰが……今、明らかに『照れた』……。)」
魔王「(…本当に微かな変化だけど……ひょっとして、まさかⅡと繋がったことで、『感情』が戻った…のか……?)」
勇者Ⅱ「…まあ、その話はいいとして……お前は、今からどうするんだ?」
勇者Ⅰ「どうする…って……」
勇者Ⅱ「本当に、魔王を殺す気か…って聞きたいんだよ。」
勇者Ⅰ「…………俺は、勇者だ。」
勇者Ⅱ「あ、うん。そりゃ知ってるけど…」
勇者Ⅰ「勇者は……魔王を倒さなければならない。」
勇者Ⅱ「ん…そうだな。でも、『倒せば』いいのであって、『殺す』必要はないよな?」
勇者Ⅰ「…え?」
勇者Ⅱ「…いいか。勇者だの使命だのそういう事情云々抜きで答えてみろ。『お前は、魔王を殺したいのか?』」
勇者Ⅰ「…………」
勇者Ⅱ「さっきは殺す気満々だったけどな。今は、どうなんだ?」
勇者Ⅰ「…いや……殺す………なんて……そんな。」
勇者Ⅱ「そうだよな。魔族だろうが人間だろうが、理性がある生物を殺しにかかることを躊躇する。それが、『まともな人間』ってことなんだ。」
勇者Ⅰ「…」
勇者Ⅱ「つまり、俺のお陰で『まともな人間』に一歩近づけたってことだな。ただし、まだ完全じゃない。」
勇者Ⅰ「……」
勇者Ⅱ「…どうだ。ちょっと取引…というか、『契約』しないか? 魔王と。」
勇者Ⅰ「…?」
勇者Ⅱ「…俺らは元々一つの存在だ。だけど、今の所元に戻る方法は何一つ分かっていないわけだ。」
勇者Ⅱ「そこで、俺たちが魔王の願いを叶える代わりに、魔王に俺たちを元に戻させる。」
勇者Ⅱ「魔王を倒すのは、俺たちが『まともな人間』になってからでも遅くないだろ。」
勇者Ⅰ「…元に……できるのか?」
勇者Ⅱ「できるよな? 魔王?」
魔王「え? あ……えっと…まあ……。」
勇者Ⅱ「で き る よ な ? 魔 王 ?」
魔王「…はい。…タブン。」
勇者Ⅱ「あ?」
魔王「…で、できるできる! 絶対できるから! 大丈夫! 本当大丈夫!」
勇者Ⅱ「ほら、大丈夫だってさ。」
勇者Ⅰ「…」
勇者Ⅱ「…どうだ。たった一回でいい。魔王を、魔族を、俺を、信じてくれないか。」
勇者Ⅰ「…」
勇者Ⅱ「信じることができるのも、『まともな人間』としての必須条件だぜ。」
勇者Ⅰ「…」
勇者Ⅰ「…」
勇者Ⅰ「…」
勇者Ⅰ「…」スッ ジャキッ
勇者Ⅱ「…なっ!」バッ
魔王「!」
ザクッ!
勇者Ⅱ「…??」
魔王「…」
勇者Ⅰ「…この剣にかけて誓おう。 魔王の願いを叶えるまで、無闇に魔族を斬ることはないと。」
勇者Ⅱ「…いや、その決断は非常に嬉しいんだけど……なんでわざわざ剣を地面に突き立てたし」
魔王「確か、向こうの国で騎士が誓いをする際のポーズだったはず…まあ様式美ってやつかな。」
勇者Ⅰ「…魔王を倒すことを……国のやり方で誓えと…やらされた。」
勇者Ⅱ「それをわざわざこの場で実践してみたと…はあ、律儀なことで。」
魔王「(正直……悔しいな…。)」
魔王「(あれだけ意気込んで、あれだけ覚悟してきたのに、結局はⅡがⅠを説得しちゃった。)」
魔王「(後半完全にⅡの独壇場だった…。最初っからⅡが説得すれば良かった…。)」
魔王「(ん? あれでもⅡは元々勇者で…Ⅰも勇者で…その片方のⅡを私が説得してそのⅡがⅠを説得したわけだから結局私が勇者を説得…? ああだめだちょっと頭がこんがらがってきた。)」
勇者Ⅰ「…それで、俺はどうすればいい?」
魔王「え? あ、ああ…さっきも言った通りこの資料を国の方に持って帰って欲しいんだ。」
魔王「…ただし、あまり大っぴらにやると国の方に目をつけられる可能性がある。だから、無理はしないで欲しい。」
魔王「…無理しない程度でいい、でもできるだけ多くの人に真実を伝えて欲しい。」
勇者Ⅱ「おいおい、そんな弱気な頼みじゃ人間と魔族の共存なんて程遠いだろ。王様にこの資料を持って直談判して、これを公式に認めさせるくらいの意気込みでいかないと。」
魔王「…あのね、そう簡単に行けたら先代魔王様は失敗なんかしなかったんだよ。こういうのは、あくまで長い目で少しずつ誤解を解いていくのが肝なんだ。…思い込みってのはそう簡単に覆るものじゃない。悲しいことにね。」
勇者Ⅰ「…先代、魔王が?」
魔王「そうなんだ。先代も私と同じように人間との共存を目指していた。…というより、先代の考え方に私が影響を受けた。って言ったほうが正しいかな。」
魔王「それで、先代魔王様が同じく先代の勇者様パーティーと魔王城で相対した時…………」
バサバサッ バサバサッ バサバサバサバサッ
勇者Ⅰ「?」
勇者Ⅱ「ん、羽の音…? あ、あれって…」
使い魔「魔王様ーー!!」バッサバッサ!!
魔王「使い魔? …どうしたんだ?」
バサバサッ バサバサッ バサバサ スッ
使い魔「魔王様! 側近様…カラ、緊急…デス!」
魔王「緊急…だと!? 一体どうしたんだ!?」
使い魔「魔王城…ニ、魔族将軍及ビ…魔族ノ方数十名…魔王城…ニ侵入。
側近様及ビ…勇者仲間二名、捕ラエラレ…マシタ。」
今日はここまで
長らくお待たせして大変申し訳ございません。
一応、脳内の区分で言うとここで第1章終了みたいな形です。
そのまま脳内の区分をさらけ出すと、
第1章→(短めだけど重要な)第2章→(短めだけど重要な)第3章
→(繋ぎ目だけど長めの)第4章→(最終決戦)第5章となっています。
果てしない道のりですが完結できるよう精一杯頑張ります。
どうか長い目で見てくださるとありがたいです。
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