パーフェクトまきちゃんメモとは、パーフェクトなまきちゃんのメモである。
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私の名前は西木野まき。
音ノ木坂学院一年生。知性あふれるスーパー天才美少女よ。
この指は心に響く音色を奏でる。
この頭は清涼飲料のように知識を吸収する。
この顔は世の人間全てを魅了し。
この口(正確には喉、声帯と言うべきかも)は奇跡の歌声を放つ。
唯一、私に弱点があるとすれば……そう。
くせっ毛なこと。
でも、完璧すぎないことがより人間的な魅力を生んでるわけよ。
むしろ、すでに私はくせっ毛を私の魅力の一つに取り込んでしまっているの。
その弱点を含め、このまきちゃんはパーフェクトな存在である。
そんなパーフェクトなまきちゃんをみんなはこう呼ぶわ。
りん「パーフェクトまきちゃん」
まき「あら、どうしたの?ワイルドりん」
りん「りんは常日頃から思うことがあるの」
まき「あなたはなにを思っているの?ワイルドりん」
りん「どうして木になっているりんごは、地面に落ちるのかな?」
まき「ふむ」
りん「他にも、ジャンプしたりんは必ず落下してしまうし」
まき「ふむ」
りん「これはとっても不思議なことだよ、パーフェクトまきちゃん。
そこでりんはヒラメイたんだけど、もしかしたらこれは地球の力なのかも知れない。
あらゆるものは、地球に引っ張られているのかもしれない。逆に言うと、地球にはあらゆるものを引っ張る力があるんだよ。
りんはこの力にダイソンパワーと名付けることにしたんだけど」
まき「ダイソンパワー……それはおそらく万有引力というものよ」
りん「ばんゆういんりょく?」
まき「ええ。既に先人がその不思議を発見してしまっていて、歴史に名を残しているわ」
りん「そんな!」
まき「どうしてそんなことを考えたの?」
りん「りんは考えてないよ。ヒラメキだよ」
野生の勘とはときに恐ろしいものだ。
ただ、残念なことに常人はそのことに自力で気が付く前に学校で教わってしまう。
おそらくワイルドりんも教わっているはずなのだけれど。
そのあたりが、ワイルドりんの由縁でもあるのだ。
まき「あなたがもっと早く生まれていたら、物理の教科書に載っていたかもね」
りん「きっといつか、りんはタイムマシンに乗ってその人にそのことを教えに行っちゃうんだ」
なるほど。ニュートンの発見の裏には未来人ワイルドりんが介入しているらしい。
りん「やっぱりパーフェクトまきちゃんに相談してよかったよ。公に発表して恥をかくところだった。
やっぱりパーフェクトまきちゃんはなんでも知ってるんだね」
まき「ええ。私の辞書に知らないの文字はないわ」
大抵のことはマキペディアに載っているのだ。ふふん。
りん「パーフェクトまきちゃんの頭の中には辞書があるの?」
まき「ええ。もはや大図書館と言ってもいいわ」
りん「パーフェクトまきちゃんはライブラリーまきちゃんでもあるのか」
えり「パーフェクトまき!」
まき「あら、どうしたの?スマートキューティエリー」
そんな完璧な私にもライバルがいる。
それがスマートキューティエリー。
彼女もまた、私同様博識であり、容姿も端麗である。
だが、この完璧美少女まきちゃんの上に立つ者がいてはならないので、やはり私の方が完璧ということになる。
つまりスマートキューティエリーも人格者であることは間違いないのだけれど、それでも私が頂点なのだ。
えり「今日はいい天気ね!お外で一緒にお弁当を食べましょう」
まき「そうね。たまには悪くないかも」
りん「りんもご一緒するにゃー」
えり「二人は、休日はどんな風に過ごしているの?」
まき「私は……そうね。休日は勉強をしたり、作曲をしたりするわ。あとは調べ物。
私には考えなければいけないことがたくさんあるから、それを忘れないようにメモをとっているの。
そのメモに沿って疑問に答えていくのよ」
りん「メモにはどんなことが書いてあるの?」
まき「日常で疑問に思ったことがビッシリよ。私は常にそのメモを確認して、答えを調べているの」
りん「パーフェクトまきちゃんは知らないことがないんじゃないの?」
まき「ええ。ないわ。でも今の私には知らないこともある」
りん「え?じゃああなたはパーフェクトまきちゃんではないの?」
まき「私はパーフェクトまきよ」
りん「よくわからないや」
えり「そうね。少し難しい問題だわ」
りん「りんもメモしておくよ」
えり「で、りんは休日はなにをしているの?」
りん「そうだにゃー。りんは、逆立ちとか」
まき「逆立ち?」
りん「そう。逆立ち」
非常に興味深い。ワイルドりんは休日は逆立ちをして過ごすか。
そこにはいったいどんな意図があるのだろう。
りん「でも、逆立ちはつまらないんだ」
まき「どうしてつまらないのに逆立ちをするの?」
りん「考えたこともないや」
まき「ふむ」
ワイルドりんの本能がそうさせるのだろうか。
えり「つまらないなら、他に何かするんじゃないの?」
りん「そうだよ。よくテレビを見ながら逆立ちをしてるの」
まき「逆立ちしたままテレビを見れるの?」
りん「ううん。全然なんだかわからないよ。ひっくり返って見えるから」
えり「じゃあテレビもつまらないわね」
りん「うん、逆立ちはつまらなくて、逆立ちをするとテレビもつまらなくなるんだ」
まき「それは由々しき問題ね」
えり「じゃあどうするの?」
りん「そこでね、テレビもひっくり返せばいいことにりんは気がついたんだ」
まき「どうやってテレビをひっくり返すのかしら。近頃はブラウン管みたいに厚さがないし」
えり「そうねえ、たとえば天井から吊るすとか?」
まき「それが確実ね。つまり天井に穴を開けて紐を通す必要があるわけね」
えり「そうするとりんのおうちは冷蔵庫も、洗濯機も、タンスや本棚もひっくり返っているのかしら」
まき「そうしないと逆立ちには不便だものね」
えり「つまりりんは休日には日曜大工と模様替えをしているのね」
りん「全然違うよ」
まき「ではどうやってテレビをひっくり返すの?」
りん「これはね、実は簡単なんだ」
残念ながら、私はその方法が思いつかなかった。
しかし私は常に考える人であって、答えを知らなければいけない。
私の全知とは、見聞を広めることなのだ。
まき「ぜひ教えて欲しいわ」
りん「えっとね、まずりんが逆立ちをしています」
まき「ふむ」
りん「次に、その状態でテレビがひっくり返したとしよう。両方ひっくり返っている状態になるよね。
つまり、どっちもひっくり返っていないのと同じなんだよ」
まき「なるほど」
りん「逆に考えて、りんは逆立ちをやめれば、テレビもひっくり返るんだよ」
えり「まさに逆転の発想ね。逆立ちだけに」
まき「それだとテレビどころかその瞬間世界がひっくり返ったことになるわね」
りん「りん一人が逆立ちするのと、りん以外の全てが逆立ちするのと、大きな違いはないと思うんだ」
私はこの現象に「逆立ちとテレビの法則」と名付けることにした。
まき「今もりんは逆立ちを続けているのかもしれない」
えり「じゃあ私も、まきも逆立ちしているのかしら」
りんによって世界はひっくり返されてしまった。
だとすると、この地面は地面ではなく、天井なのかもしれない。
そして私たちが天井にぶら下がっていられるようにしている力こそ、ダイソンパワーなのかもしれない。
まき「えりは、休日はなにをしているの?」
えり「私は葦になっているわ」
りん「アシ?」
まき「葦。イネ科の植物ね。ヨシともいうわ」
りん「えりちゃんは休日は草になっているんだね」
えり「ええ。葦は葦でも、考える葦よ」
まき「ふむ」
えり「ひたすら思考するの。森羅万象についてね」
りん「まきちゃんみたいに?」
えり「どうかしら」
りん「スマートキューティえりちゃんとパーフェクトまきちゃんが頭いい理由がわかったよ。
それで具体的にはどんなことをしているの?」
えり「何もしないわ。だって葦だもの。何もせず、ただ考えるの。
朝起きて、ずっと布団の中から出ないこともあるわ。ロクにものも食べずにね」
まき「それじゃダメよ」
りん「そうにゃ」
まき「考えるだけじゃダメ。答えを見つけなきゃ」
りん「そっち?」
えり「答えを見つけるために考えるのではないわ。パーフェクトまき。考えることに意味があるの」
まき「なにそれ」
えり「私もあなたと同じように、日頃疑問に思ったことについて考えるわ。
例えばこの社会の矛盾とか、人生とは、とか。例えば空と海が青いのはなんでだっけ?とか。
どうして塩ゆでした卵に殻越しに塩味がつくのか、とか。シロナガスクジラのシロナガスってなんだろう?とか。
カステラってなんか変な響きだなー、とか」
りん「えりちゃんは不思議な休日を過ごしているんだね」
まき「考えるだけのあなたと違って私はその疑問の答えを知っているわ」
えり「知っているだけでしょう?あなたはその答えを調べただけに過ぎないわ」
まき「なんですって?」
えり「あなたは、なんでも知っているけど、何も考えていないわ。
私は自分で考えるの。自分で答えを出すの。たとえ間違っていたとしてもね」
まき「私は……何も考えていない?」
えり「ええ。りんのほうがよっぽどものを考えているわ」
りん「ええ~?照れるにゃー」
まき「そんな馬鹿な!私はパーフェクトまきちゃんよ!?誰かに劣るはずがないわ」
えり「じゃあ、試してみる?」
まき「なによ!やってやろうじゃない!」
えり「じゃあ、まきとりんで勝負をしてもらうわ」
りん「勝負?」
えり「ルールは簡単。μ’sのメンバーについて観察、考察してもらうわ。
それをまとめた文を私に提出して、より優れてるものを書いたほうが勝ち」
まき「その人がどういう人かを考察して、まとめればいいのね」
えり「ええ。期間は特に定めないわ。できたら持ってきて。自分以外の八人についてよーく観察することね」
りん「よくわからないけど、おもしろそう!」
こうしてパーフェクトまきちゃんとワイルドりんの熾烈な争いの火ぶたが切って落とされた。
・・・・・
とりあえずお風呂上がりに今日の疑問、得た知識をこのP(パーフェクト)M(まきちゃん)M(メモ)に書き綴る。
これが私の日課だ。きっと今回の勝負にも何か役に立つだろう。
今日は次のことを書き加えた。
PMM(パーフェクトまきちゃんメモ)
ワイルドりんの興味深い話
・ダイソンパワー
あらゆるものを引き寄せる力。「逆立ちとテレビの法則」(後述)によって世界がひっくり返ってしまっているなら
ダイソンパワー≠万有引力 の可能性もある。
・逆立ちとテレビの法則
両方裏なら両方表ってことでいいのではないだろうか。逆もまたしかり。
すでにこの世界で正逆、裏表はあやふやなものなのかもしれない。
そんな感じの法則。証明はされていない。
スマートキューティエリー
・休日は考える葦。飲まず食わず動かずでひたすら思考する。
考えている内容はアホみたいなことばかり。
パーフェクトまきちゃん
・私は考えない人……?
【ワイルドりん】
とりあえず私は手始めにワイルドりんについて考えてみることにした。
まずは敵を知ること。それが勝利に繋がるものよ。
残念ながらこの問題はどこを調べても誰に聞いても答えはない。
スマートキューティエリーの言うとおり、自分で考えなくてはならないのだ。
しかし私は彼女と違って間違った答えを出すわけにはいかない。
なぜなら私はパーフェクトまきちゃんなのだから!
りん「おはよう、まきちゃん」
まき「……」
りん「考え事?」
まき「あ、ああ……おはようワイルドりん。ちょっとね」
りん「なに見てるの?」
まき「ああ、これは」
別に見ていたわけではない。少なくとも今は。
ただ座ってぼーっと考え事しているのも見てくれ的にアレなので、美術作品の資料のようなものを机に広げていた。
スマートキューティエリーが休日を使って思考する理由がなんとなくわかった気がする。
りん「みてみて!モナリザの真似!」
まき「似てないわ」
りん「パーフェクトまきちゃんはどれが好きなの?」
まき「言ってもわからないでしょ」
りん「うん。そうなんだけど」
まき「ワイルドりんも知ってそうなのは……そうね、ミロのビーナス、ゲルニカ、考える人とか……」
りん「考える人の真似!」
まき「似てないわ」
りん「え?そう?この何も考えてなさそうな感じが最高に似てると思うんだ」
まき「だからよ。考える人は考えているのよ」
りん「なにを?」
まき「さあ」
りん「この人が自分で、オレ今考えてるっす。超考えてるっす。って言ったの?
もしかしたら、考える人は何も考えてないかもしれないよ。
あの格好をみた人が、あの人すごい考えごとしてそう……って勝手に言ったのかも」
まき「……そうなのかしら。考えてるつもりなんだけど……」
りん「わあ!この絵りんが書いたやつみたい」
まき「ピカソは落書きじゃないのよ、ちゃんと……」
りん「この間ね、美術で人物画を書いたんだけど、りんは斬新なものが書きたくて……
正面から見た顔と横顔を合体させてひとつの顔にしたんだ」
まき「まさかあなたが立体の放棄を心得ていたなんて」
りん「え?もともとあるやり方なの?革新的だと思ったんだけどな」
まき「あなたがもっと早く生まれていたら、美術の教科書に載っていたかもね」
りん「そしたらりんはもう死んでるから、それは嫌だな」
おそらくワイルドりんがこの手の話題に興味を示したのはモノマネがしたかったからだろう。
今もおそらく、真似できそうなものを探しているといったところかしらね。
まき「そうそう、ワイルドりん。ゲルニカの真似はしちゃだめよ」
りん「どうして?このヘンテコな絵はなにを描いたものなの?」
まき「……簡単に言えば、戦争の絵……かしら」
りん「それはよくないね」
まき「そう。とてもよくないわ」
りん「でも残念ながら、りんは図らずしてゲルニカの真似をしてしまったよ。
パーフェクトまきちゃん、これは戦争なんだよ」
まき「確かに。所詮私も愚かな人間ということかしら。
非常に残念なことに、人類の進化は戦争とともにあるわ。
今日の便利な道具の多くは、元をたどれば軍事的なものだったりするし……
とにかく、私も争うことで成長するのね。本当に本当に残念なことに」
りん「戦争はよくないけど、争うこと自体が悪いことだとは思わないよ」
まき「ええ。この勝負は命のやり取りではないし、お互いの成長につながるといいわね。
もちろん、私は負けるつもりなんてないけれど」
りん「例の勝負、パーフェクトまきちゃんは何かしているの?」
まき「ええ。私はよく考えているし、よくメモもしているわ」
りん「りんは作文とか苦手だからなあ」
まき「ワイルドりんはどんな調子?」
りん「苦手なりになんとか。でもあんまり長くは書かないつもり」
まき「ワイルドりん、論文とはたった数行の結論を言いたいが為に何枚も書き連ねるものよ」
りん「難しいのは嫌いだにゃ。そうだなあ……32文字くらいでやってみる」
まき「たった30数文字で8人の人間について語ろうというの?」
りん「これは自分の国語のテストからの統計なんだよ。
りんは30字以上で答える問題になると極端に正答率が下がるんだ。
だから決して手を抜くわけではなくて、これが精一杯なんだよ」
まき「あなたがどんな短歌を歌うのか楽しみにしてるわ」
りん「パーフェクトまきちゃんこそ、あんな啖呵を切っちゃって大丈夫かにゃ?
考えすぎで倒れたときの為に担架を用意しておいたほうがいいかもよ」
間違いなくワイルドりんは強敵だ。これは認めざるを得ない。
それでも、これは頂点を決める戦争なのだ。負けるわけにはいかない。
パーフェクトまきちゃんの名にかけて。
【メトロノームほのか】
星空りんと言う人間はなかなか難解だった。
そこで私は他の問題に並行して手をつけることにした。
この効率の良さもまた、有能の証なのよ。
ほのか「どうしたの?まきちゃん難しい顔して」
まき「どうもしないけど」
高坂ほのか。μ’sのリーダー格とも言えるこの人を紐解くことで……
他のメンバーについても何かわかるかもしれない。
それになにより。
単純な人から手をつけたほうがことが進みそうだわ。
とりあえず現時点でのPMMのメトロノームほのかの項を確認する。
PMM
メトロノームほのか
・パンが好き
以上。
まいった。情報が少なすぎる。
そもそもなんでメトロノームほのかなんてわけのわからない命名をしたのかも思い出せない。
他の項はもうちょっと丁寧に書かれているのに……
ほのか「ねえねえパーフェクトまきちゃん、何見てるの?」
まき「だだだダメ!見ないで!」
ほのか「えー?気になるー!」
まき「ダメなの!」
ほのか「ええ~ちょっとだけ」
まき「もう!見ちゃダメなの!!!」
ほのか「じゃあ見ないから、何か教えてよお」
まき「しつこい!」
ほのか「ショボーン」
メトロノームみたいにカチカチうるさいからだったかしら。
ほのか「ショボーン」
まき「……」
ほのか「ショボーン」
まき「……」
ほのか「ショボボーン」
まき「……わかったわよ」
ぱああ、と表情が明るくなる。
本当に単純でわかりやすいんだから。
でもPMMについては他言するわけにはいかない。
まき「作曲のためのアイデアを書いてたのよ」
ほのか「そうだったのか!」
嘘ではない。このPMMには作曲のためのアイデアもぎっしり詰まっている。
ほのか「私もね、新メニューのアイデアを書いたりしてるよ」
まき「新メニューってなんの?」
ほのか「そりゃあ和菓子のさあ」
まき「どんなの?」
ほのか「ええ~?パーフェクトまきちゃんが教えてくれなかったから教えなーい」
まき「別にいいけど」
ほのか「え?でも、どうしてもって言うなら教えてあげてもいいよ」
まき「別にいいったら。それより今日の練習メニューを教えてちょうだい」
ほのか「バナナクリーム羊羹とか、口の中でパチパチするやつ入り饅頭とか」
まき「変わった練習をするのね、今日は」
ほのか「もう!練習じゃなくて!」
まき「はいはい、わかったわよ。ちなみに駄菓子なんかにある口の中でパチパチするのの正体は炭酸ガスよ」
ほのか「あとはね!フィッシュ&チップス&あんドーナツとか」
まき「どれもあまり美味しそうじゃないわ」
ほのか「そんなことないよ!じゃあパーフェクトまきちゃんは考えられるの!?」
まき「当たり前でっしょー。そうねたとえば……」
ほのか「たとえば?」
まき「……」
ほのか「……」
まき「……」
ほのか「ほら思いつかない!」
まき「ちょ!すぐには思いつかなかっただけよ!」
ほのか「ほんとにぃ~?」
まき「ていうかなんで私がこんなことしてるのよ」
いつもこうだ。ついメトロノームほのかのペースに乗せられてしまう。
まき「メトロノームほのかはすごいわね」
ほのか「やっとわかったか。新メニューってのも難しくて……」
まき「そうじゃなくて……」
間違いなく単体最強はこのパーフェクトまきちゃんなのだけれど……
いくら私といえど、数という力を相手取るには限界がある。
このメトロノームほのかはいつの間にか周りの人間を巻き込んで味方につけてしまうのだ。
彼女には、人をひきつける何かがあるのだ。
なにか、特別な力を持っているのだ。
まき「……そうだ、メトロノームほのかはパンが好きなのよね」
ほのか「うん」
後日、「トマトパン」という新メニューが穂むらに並ぶ事になるのだけれど……
果たしてこれは和菓子なのだろうか、と物議を醸した。
・・・・・
お風呂上がり。今日もPMMに書き加える。
PMM
メトロノームほのか
・パンが好き
・和菓子の新メニューを考えている
センスは今ひとつ。
・トマトパン
トマトは和菓子ではないし、パンも和菓子ではないのだけれど、トマトパンは和菓子なのだ。
・なにか特別な力を持っている
正体不明。ほのか力(仮)としておく。
・・・・・
おそらく、この「特別な力」の正体が高坂ほのかという人間を語るにあたってキーとなるだろう。
私は早急にこの謎のパワーを解明しなければならない。
やはり、彼女をよく知るあの二人についても並行して調べることが最適そうだ。
【ムーンソルトうみ】
うみ「私は♪赤い♪バラの姫よぉ~♪」
まき「ゴキゲンね。ムーンソルトうみ」
うみ「はわわ!パーフェクトまき!聞いていましたか!?」
まき「聞いていないことにしてもいいけど」
うみ「ひい……誰もいないと思っていたのに」
まき「誰もいなかったわよ。さっきまでね」
部室で一人歌っていた彼女がムーンソルトうみ。
この勝負は自分以外のμ’sのメンバーについて調べるのがルールなので、彼女も対象である。
PMMのムーンソルトうみの項を確認する。
PMM
ムーンソルトうみ
・ムーンソルト→体操競技の技
身体能力が非常に高い。
ワイルドりんとどちらが上なのかいずれ実験をしてみたい。
天性と熟練といったところか。総合的にはどちらに軍配が上がるのか興味は尽きない。
・ラブアローシュート
ときどき本人が口走る謎の言葉。
彼女の脳内でなにが繰り広げられているのだろうか。
・山頂アタック
必殺技。ズレズレのブレブレな発言で周囲を振り回す。これらの総称。
もしかしたら上記のラブアローシュートも必殺技のひとつなのかもしれない。
・園田うみ役
驚愕の発言だったので念のため書き留めておく。
いったい彼女は何者なのだろう。
・・・・・
当初、アクロバティックうみと随分迷ったものだ。
しかしそのときの私は月面宙返りのようにヒネリの効いた命名をしたい気分だった。
それでムーンソルトうみ。これは結構お気に入りだ。
うみ「なんのようですか?」
まき「なんのって、普通に部室に来ただけだけど」
うみ「そうですか?何やら私に思うところがあるのでは?」
まき「どうしてそう思うの?」
うみ「いえ、ないならいいんです。忘れてください。さっきのこと共々」
ムーンソルトうみは基本的には大和撫子。古き良き日本の女性だ。
そのためいろいろと察しがいいと言うか、推して測るというか……
昨今ではいろいろと大ボケをかますようになってきたが、やはり彼女はクールビューティなのだ。
基本的に。
なので、私がムーンソルトうみについての調査を始めていることに薄々感づいているのかもしれない。
ちょうどいい。この方向から切り込んでみよう。
まき「ムーンソルトうみは、アクロバティックで、クールビューティよね」
うみ「その二つは共存し得るのでしょうか」
まき「ええ。躍動感のあるクールビューティと言ってもいいわ」
うみ「あまり言われると照れてしまいます……」
まき「なにか心がけていることはあるの?」
うみ「と言うと?」
まき「私はあなたという人間に興味があるのよ」
うみ「それこそいい心がけですね、パーフェクトまき。あなたが他人に興味を向けるなんて珍しい。
なにかあったんですか?」
……。今の言葉を聞いて少しハッとした。
これは勝負の為にやっていることなのか、それとも……
いや、それはあってはならないことよ。パーフェクトまき。
それじゃまるで、私は誰かさんに踊らされているみたいじゃない。
まき「別にいいじゃない」
うみ「そうですね。野暮は止しましょう。……」
そう言うとムーンソルトうみは、少し考え込むように顎に手を当て、俯いた。
うみ「私程度が女性とはかくあるべき、と語るのはなんともしがたいです……が」
どうやら私の為に考えてくれているようだ。
うみ「元始、女性は実に太陽であった。真正の人であった。
今、女性は月である。他に依って生き、他の光によって輝く、病人のような蒼白い顔の月である」
まき「平塚らいちょうね」
うみ「さすがパーフェクトまき。知っていますね」
まき「あなたは女性の地位向上を目指しているの?」
うみ「そうではありません。この言葉に物申すわけではありませんが、
これでは月があまりにかわいそうだとは思いませんか?」
まき「ふむ」
うみ「私は月には月の矜持があると思うのです。
太陽の様な女性もいれば月の様な女性もいるべきなんですよ。
この詩に続きをつけるとすれば、間違いなく現代において女性は太陽の姿を取り戻しているとおもいます。
いえ、話が大きくなりすぎましたね。なんにせよ私は月であると」
まき「恥ずかしがり屋のあなたらしいわ。その奥ゆかしさには月の光が差しているのね」
うみ「はい。元始、女性は月でも太陽でもなく『なりたい自分』になれたんですよ。
少なくとも私は太陽になりたいとは思いません。……照らすより、照らされたいんです」
まき「月だって、照らしているわよ。夜道を」
うみ「ありがとうございます。……確かに、月にしか照らせないものもありますね」
・・・・・
お風呂上がり、いつものようにPMMに書き加える。
PMM
・園田うみ役
驚愕の発言だったので念のため書き留めておく。
いったい彼女は何者なのだろう。
→園田うみは月だった。
何かの力を借りてしか輝けないとして、それは大した問題ではないのかもしれない。
ならば彼女を照らす太陽が存在しているはず。
・なりたい自分
元始、人はなりたい自分になれるものであった。
・・・・・
ムーンソルトうみを照らす太陽を見つけることが必要になりそうだ。
……「なりたい自分」。
ムーンソルトうみはそう言ったが、自分はなりたい自分になれているとでも言うのだろうか。
・・・・・
引き続き、私は月の調査を続ける。
私はロケットなのだ。
あの夜空に浮かぶ黄色いまん丸を調査するため、パーフェクトまきロケットは大気圏を突破した。
……さて、バベルの塔というものをご存知かしら?
その昔人々が神のいる場所まで到達しようと建造したと言われるアレ。
神の怒りを買い、完成することはなかったワケだけど……
それを機に人々はバラバラの言語を話すようになったとかならないとかいう神話。
いつの世も、人類は高い空を目指すものなのだ。
差し詰めロケットは現代のバベルの塔と言えるだろう。
エンジンを積んだ鉄のバベルの塔は、何処まで行くのだろう。どこへ向かうのだろう。
……神様はどこにいるのだろう。月だろうか?火星だろうか?あるいはもっと遠くだろうか。
いつかまた人々が神の怒りを買う日も遠くはないのかもしれない。
そのときは人類がエセ関西弁を話すようになったり、語尾ににゃ、と付けるようになるかもしれない。
パーフェクトまきロケットは、月の女神を怒らせないよう、慎重に調査を続ける。
まき「なりたい自分ってなんなのかしら。ねえマスターはなよ」
はなよ「なりたい自分?」
まき「ムーンソルトうみ曰く、人は誰でもなりたい自分になれる。と」
はなよ「でも、パーフェクトまきちゃんは自分が何になりたいのかわからないんだね」
まき「そう。そうなのよ。あろうことかパーフェクトまきはいままで自分自身を深く知ろうとしていなかったのよ」
はなよ「きっと、うみちゃんも気がついていないんだよ」
まき「?」
はなよ「なりたい自分って、誰かに聞くものではないと思うな」
なるほど。これも自分で考えなくてはいけない問題で、どこにも答えを教えてくれるものはないのだ。
もしかしたら、スマートキューティエリーは正しいのかもしれない。さすが我がライバル。
・・・・・
うみ「おや、パーフェクトまき。随分遅くまで残っているのですね」
まき「ムーンソルトうみこそ、もうとっくに練習は終わったのに」
うみ「私はもう帰りますが」
まき「じゃあ、ご一緒してもいいかしら」
外はすっかり暗く、満月が道を照らしているかに見えて実は街灯が照らしていることに気がついた。
うみ「月が綺麗ですね」
まき「えっ……?」
うみ「えっ?」
まき「いや、その……」
うみ「……あ!いや!他意はありません!純粋にそう思ってつい」
まき「ああ、よかった。私はまだ死にたくないもの」
うみ「パーフェクトまきは天体に詳しいんですよね。どうして月の模様がウサギと言われているんでしょう?
私にはそうは見えません。たとえば、女性の横顔に見えます」
まき「そうね、日本ではウサギの餅つきなんて言われているけど、国によってまちまちよ。
実際に女性の横顔としている国もあるし、カニだとか、アンドソーオンよ」
うみ「なるほど、見る人によって違ってくるわけですか」
まき「月は、様々な表情を持っているのよ。あなたのようにね」
うみ「私のように?」
まき「ええ。あなたはとっても表情豊かだもの」
うみ「まだまだ私は未熟ですね。自分の感情を表に出しているようでは……」
まき「いいじゃない。いいことよ」
うみ「え?」
まき「バカね。私にそう言ったあなたがなりたい自分を押し殺しているなんて」
うみ「ですから、私はそういうものになりたくて」
まき「自分の感情ありのままにいることこそ、なりたい自分でいるということなのよ。きっと」
うみ「……なるほど。私は勘違いしていました。それはとても難しいですね」
まき「ええ。私もそう思うわ」
うみ「では私は何になりたいんでしょうか?わからなくなってしまいました」
まき「その答えは自分の中にあるのよ。ラブアローシュートとは関係がない?」
うみ「!!!???」
PMMにも書いてあったあの言葉を口にした途端、ムーンソルトうみの顔は月のように青白くなった。
うみ「ななななな!どこでそれを!?インセプションまき!!!」
まき「私はパーフェクトまきよ。なんでも知っているの」
うみ「お、おかしなことを言わないでください!あれが私のなりたい私だなんて!」
まき「よくわからないけれど、自分に素直になるのって大変よね」
うみ「だ、だから私はそんな」
まき「私もね、いっつも素直になれないの。本当は仲良くしたいのについ突き放しちゃったり。
本当は加わりたいのに一歩引いたところから見ていたり。アンドソーオンよ」
うみ「パーフェクトまき……」
まき「……二度とないわよ。この私がこんなに素直になるなんて」
うみ「私もこのままではいられませんね……はあ」
ムーンソルトうみは覚悟を決めたようで、口を開いた。
うみ「ときどき、普段の私と違う私を想像するんです。
その私はステージで満面の笑みで踊っていたり、みんなのハートを打ち抜いたりするんです。
たくさん必殺技も持っています。ラブアローシュートとか、アンドソーオンです。
私は……そんな姿に憧れているんでしょうね。それを認められずいつももんもんしています」
まき「それがあなたのなりたい自分なのね」
うみ「かもしれません……。あまりに遠い理想です」
まき「もう、なれているじゃない」
うみ「え?」
まき「あなたはもうなれているじゃない。あなたはいつも楽しそうに踊っているし、
あるいはファンのハート打ち抜いているし、えっと……弓道も上手よ。
あなたはスクールアイドルになっているじゃない。なにも思い悩むことはない」
うみ「……」
まき「あなたはとっくの昔に、なりたい自分になれていたのよ」
月の裏側では、ウサ耳をつけたアイドルが歌っていたり、ラブアローシュートをしたりしていたのだ。
それは月は恥ずかしがり屋で、地球には見せたくない一面だった。
でも、月の裏側は宇宙からは丸見えなのだ。
月は普段はクールにビューティに地球を間接照明で照らすだけだけど、
その裏で全宇宙に向けて歌って踊って、アイドルをしていたのだ。
……宇宙№1アイドルが黙っていなさそうだ。
とにかくそれがムーンソルトうみの正体だった。
月明かりに照らされた園田うみの目元は少し濡れていて、キラッと……流れ星のように……
ムーンソルトはアクロバティックな体操の技などではなかった。
月の涙は、ちょっぴりしょっぱい塩味なのだ。
ムーンソルトうみは、涙目になるほど恥ずかしい思いをして月の裏側をみせてくれた。
私も、私の秘密を見せることで報いなければいけない。
パーフェクトまきちゃんはこう見えて義理人情にはうるさいのだ。
まき「話してくれてありがとう。お礼に私の秘密を教えてあげるわ」
うみ「パーフェクトまきの秘密?」
まき「ええ。これよ」
本来、国家機密レベルのこの「パーフェクトまきちゃんメモ」
まき「特別よ。本当に特別よ」
うみ「これは……?」
まき「この私のメモよ。絶対他の人には教えないでね」
うみ「ふふ。はい。あなたには借りがありますから、黙っています」
世界の財産たる、アカシックレコードにも迫る、このPMMをムーンソルトうみはパラパラとめくる。
……と、あるページで手が止まる。
うみ「この項は……」
まき「どうかした?」
うみ「どうしてメトロノームほのかだけ、こんなに空白が?」
まき「目の付け所が違うわね。さすが私がPMMを見せるに値すると見込んだだけのことがあるわ。
なぜかそこだけ、極端に情報量が少ないの。書いたのはずいぶん前で、事情は忘却の彼方よ」
うみ「……火炙り……なんてどうでしょう?」
まき「火炙り?ずいぶん突飛な発想ね」
うみ「不自然な空白は火炙りと相場は決まっています」
火炙り……火炙り……?
そういえば当時私はそんなものにハマっていたような……
まき「あ!」
うみ「なにか思い出しましたか?」
まき「ビンゴよ!ムーンソルトうみ!それはお家の野菜室にあったレモンを搾って書いたのだったわ。
それはそれは新鮮で採れたてフレッシュなレモン汁を使ったのよ」
うみ「すぐに炙りましょう。今すぐ炙りましょう」
まき「そんなに私のメトロノームほのかの考察が気になるの?」
うみ「私は採れたてフレッシュなレモンの火炙りに興味があるだけです」
PMMのメトロノームほのかの項の空白部分に少しずつ、文字が浮かびあがる……
【スパリゾートことり】
まき「だから!サビ前はこうやってわざと動きを静かにして落差をつけるの!」
ほのか「違うよ!サビに向けて盛り上げなきゃ!こうやってジャンプだよ!」
まき「わかってない!メリハリが必要なの!私がそう言っているのだからそうなの!」
ほのか「やだやだ!こっちのほうがかわいいもん!」
まき「ムーンソルトうみはどう思う!?」
うみ「そうですね……こんなのはどうですか?ほっ!」
まき「別の意見を出さないで!」
ほのか「ぜっ~たい絶対絶対こっちのほうがいいよ!!!」
まき「このわからず屋!」
ことり「おはようほのかちゃん!うみちゃん!パーフェクトまきちゃん!」
うみ「ああ、おはようございますことり」
ほのか「ああ!ことりちゃん!もう聞いてよ、ねえ!」
まき「ちょっと!ずるいわよメトロノームほのか!」
ことり「えっと……あ、そうだ。今日お菓子作ってきたんだ!みんなで食べよっ」
ほのか「え!?わーいお菓子お菓子」
うみ「ことりは本当に上手ですねえ」
まき「うん。美味しいわ。紅茶が欲しくなるわね。渋めのやつ」
ことり「よかった!そうそう、新しい衣装下書きしてきたんだけど……」
ほのか「うわ~!!!かわいい!!!」
うみ「ちょ、ちょっと肌色が多くありませんか?」
まき「素敵なデザインだわ。この私の魅力がまた引き出されてしまいそうね」
ことり「ありがとう!……ところでみんななんのお話をしていたの?」
まき「なにって……」
うみ「あれ?なんでしたっけ?」
ほのか「まあいっか!あはははは」
アハハハハ……
・・・・・
PMM
スパリゾートことり
・みんなに癒しの時間と空間をお届けする
・とさか
少し不思議な、でも誰も触れてはいけない。
不可侵領域。その聖域は24時間崩れることはない。
・(・8・)
ことりの自作顔文字。かわいい。
・ことりの枕
枕が変わると寝付けないらしい。
実は結構デリケートなのかもしれない。
・・・・・
まき「スパリゾートことりは、どうやって衣装のアイデアを考えているの?」
ことり「どうやってって……どうやってだろう?」
まき「休日に逆立ちしたり、あるいは考える葦になったりしているの?」
ことり「ふえ?よくわからないけど……どっちでもないかな……たぶん。
普段の生活のなかで、なんとなく浮かんでくるんだよ。何気ないことがヒントだったりするんだ。
たとえば、今回の衣装は実はトマトパンがモデルなんだぁ」
ほのか「あ!新作、どうだった?」
ことり「とっても美味しかったよ!それでピーンときたの!」
ほのか「いやーよかったよかった。私の新メニューがこんなところで役に立つとは……」
まき「あれを考えたのは私」
・・・・・
最近私は例の勝負のことばかりで、他のことがおろそかになっていた。
私には他にも解決しなければいけない課題がたくさんあるのだ。
ダイソンパワーの正体、逆立ちとテレビの法則の証明、パーフェクトまきロケット神様探しの旅。などなど。
今日はせっかくの休日なので、それらの課題の解決に努めようと思う。
しかしこれらはなかなか難解で、いままで行き詰っていたのも事実だ。
そこで私はスパリゾートことりの助言を思い出すに至った。
日常のなかにヒントがあると。
たまには出歩きながらというのも悪くはない。
私はP(パーフェクト)M(まきちゃん)S(三種の神器)を持って部屋を出た。
ママ「あら、お出かけ?」
まき「ええ。ちょっとお散歩に行ってくるわ。お昼ご飯までには帰ってくる」
ママ「いってらっしゃい。気をつけてね」
・・・・・
【バットのぞみ】
さて、散歩に出たはいいけれど……日常とは思った以上に退屈なものだ。
私のシミュレーションでは、途中で捨て犬か猫あるいはその他の……を見つけて「お前もひとりぼっちか……」とつぶやいたり。
踏まれて萎れている花を見つけて「お前も負けるなよ……」とつぶやいたり……
しかしなかなかそんな日常には出会えないようだ。つまらない。
このパーフェクトまきちゃんの血が沸くような日常が転がっていないものかしら。
のぞみ「あら、パーフェクトまきちゃん。ひとり?」
まき「バットのぞみじゃない。そちらこそひとり?」
のぞみ「まあそうやね」
私はいつの間に神田明神まできてしまっていたようだ。
おそらくバットのぞみはバイト中なのだろう。巫女装束モードになっている。
まき「どうしてそんなことを聞くの?」
のぞみ「いや、さっきまでにこっちとりんちゃんとはなよちゃんがいたんよ」
まき「え?どうして?」
のぞみ「あの三人、休日も結構自主練習してるみたいよ」
まき「どうして私も誘ってくれないのかしら」
のぞみ「確かりんちゃんがパーフェクトまきちゃんは休日はなんや忙しいって」
まき「なるほど、気を使ってくれているのね。別にいいのに」
のぞみ「まああの三人も元は誘い合ったんやなくていつの間にか自発的にやってるうち集まったって感じやけど」
まき「ふーん」
のぞみ「混ざりたいなら、パーフェクトまきちゃんも自分から混ざらないとダメだよ?」
まき「べ、別に私はそんなんじゃ」
のぞみ「じゃあ何しにきたん?」
まき「そうね、今私は神様を探しているの」
のぞみ「おお!それは大層スピリチュアルやね」
まき「いろいろ考えたのだけれど、神様はよく天にいるって言うでしょ?
でも現代では天に向かうと宇宙に行ってしまうワケ。
神様は宇宙のどこかにいるのかしら?それとも宇宙よりももっともっと遠くかしら?
だとしたらどうやってそれを確認すればいいのかしら?課題が山積みなの」
のぞみ「神様のいる場所かあ……」
まき「バットのぞみはどう思う?参考までに」
のぞみ「宇宙よりも遠くに行く方法?」
まき「それでもいいし、神様の居場所についてよ」
のぞみ「そうやな……神様はすぐそこにいるんと違う?たとえばこの神田明神にもいると思うんやけど」
まき「神田明神は宇宙につながっているということ?」
のぞみ「そうかもね。とにかくこの日本では八百万の神という考え方があるやん」
まき「ありとあらゆるものに神が宿っているというアレね」
のぞみ「そうそう。つまりこの世のありとあらゆるものは宇宙につながっているんやね」
まき「スピリチュアルだわ」
のぞみ「どうして神様を探しているの?」
まき「一言物申してやろうと思ってね。このパーフェクトまきちゃんというものがありながら頭が高いってのよ」
のぞみ「……神様をどういう認識してるん?」
まき「神様は人々を見守っていたり、導いたり、助けてくれたりするものよ。
でもね、このパーフェクトまきちゃんを見守るだのなんだのって、100万光年早いのよ。
神様ってのは何様のつもりなのかしら。この全知全能の私を相手に」
のぞみ「神様のつもりやろ」
まき「そう!そこで私はその神様のつもりになってるやつに一言言ってやるのよ!」
のぞみ「なんて?」
まき「神様は人々を見守っていたり、導いたり、助けてくれたりしているようで、実は何もしていないってね」
のぞみ「パーフェクトまきちゃんはすごいなあ。ウチはいっつも神頼みばっかりで」
まき「神様なんかより私を頼りなさい。なにせ私はパーフェクトまきちゃんなのだから」
のぞみ「でも、神様にはパーフェクトまきちゃんにはない便利さがあるんよ」
まき「ふむ」
のぞみ「神様は、ウチの言いたいことを代わりに言ってくれたり、
ウチのやりたいことを代わりにやってくれたりするから」
まき「そうね。あなたはいつもあたかも自分の意思ではないかのようにして自分の意思を伝えたり、
自分は関係ないかのようにして陰で介入していたりするものね。
そんなあなたには神様は必需品でしょうね。言い訳するために」
のぞみ「……まいったなあ」
のぞみ「あなたはいつまで、私たちを見守っていたり、導いたり、助けたりしている"つもり"かしら?
ねえ?どっちつかずのコウモリさん」
>>44最後の行訂正
まき「あなたはいつまで、私たちを見守っていたり、導いたり、助けたりしている"つもり"かしら?
ねえ?どっちつかずのコウモリさん」
のぞみ「そっか、そのとおりやね……でもそう簡単じゃあないんよ」
まき「ふん、まあ……いつか自分をさらけ出せるときがくるといいわね」
のぞみ「ふふ。そのときは、パーフェクトまきちゃんに暴いてもらうように仕向けよかな」
まき「本当に面倒な人」
私はのぞみと別れ、神田明神を後にする。
PMM
神様のいる場所
・神様は天にいる→宇宙にいる?
どうやったら宇宙の神様を見つけられるのか
・八百万の神
あらゆるものに神が宿るという考え。
・結論
神様は探すまでもなくどこにでもいる。
この世のあらゆるものは宇宙に繋がっているのだ。
……つまりこの世のものは全て繋がっている?
・・・・・
PMMに解決した疑問と新たな疑問を書き加えながら歩く。
今日も今日とて、パーフェクトまきちゃんはパーフェクトまきちゃんなのだ。
【ギャラクティカにこちゃん】
りん「あ!パーま!」
まき「これは自毛よ。くせっ毛よ。二度とその言葉を口にしないでね。ワイルドりん」
りん「ごめん……パーフェクトまきちゃんって長いから略称を考えてたんだ」
まき「他のでお願い。あなたたちは練習中なのね」
りん「どうしてりんが練習中ってことと、ひとりじゃないってことを知っているの?」
まき「それは私がパーフェクトまきちゃんだからだよ」
にこ「真理ね。……はあ、はあ」
りん「にこちゃんおっそいにゃー」
にこ「あんたが早すぎんのよ!!!で、何してるの?まき」
まき「私はパーフェクトまきちゃんよ」
にこ「はいはい。で、何してるの?まき」
まき「……ギャラクティカにこちゃんなんかには理解できない尊いことよ」
にこ「ふーん、とおといことね」
まき「とうとい、よ」
にこ「このふいんきでわざわざそれツッこむことないでしょ」
まき「ふんいき、よ」
にこ「ああ!うるさい!!!そうよ!そのとうりよっ!」
まき「そのとおり、よ」
にこ「むっきいいいいいい!!!」
りん「落ち着いて、ちょっと熱くなりすぎだよ」
にこ「私はあんたがパーフェクトまきだなんて絶対認めないもんね!!!」
まき「なんですって?この世の理に逆らおうっていうの?」
にこ「私は宇宙№1アイドルよ。そんなもん怖くもなんともないわ」
まき「ふんだ!ギャラクティカにこちゃんだって宇宙№1アイドルなんかじゃないわ!」
にこ「……ええ。そうかもね」
まき「ほら!……え?」
にこ「……いいじゃない別に。私だって……」
まき「なによ」
にこ「ねえ、まき。あなたが本当にパーフェクトまきだってんなら……
なんでも知ってるんなら、教えてよ。
どうしたら宇宙№1なの?どうすればなれるの?
どうすれば、私は宇宙を動かすようなアイドルになれるの?」
まき「それは……」
にこ「わからないなんて言わせないわよ」
まき「わかった。考えてくるわ。必ず教えてあげる」
にこ「ふん!じゃあ私は帰るわ。お昼ご飯の買い出しもあるし」
りん「え、でもまだかよちんが」
にこ「悪いわね、これは私一人の問題ではないの」
そういってギャラクティカにこちゃんは去っていった。
私は、考えなくてはいけない。私の名誉と威信にかけて。
PMM
ギャラクティカにこちゃん
・宇宙の動かし方
・・・・・
まき「りんたちは走り込みをしていたのね」
りん「うん、忙しいパーフェクトまきちゃんには悪いから黙ってたんだけど」
まき「いいのよ。気を使わなくて」
りん「どっちに?」
まき「え?」
りん「誘うことに?誘わないことに?」
まき「……」
りん「あ、かよちん」
はなよ「はあ、はあ」
まき「お疲れ様、マスターはなよ」
はなよ「うん、パーフェクトまきちゃん」
まき「私がいることに驚かないのね」
はなよ「え?ああ、うん」
まき「……自分から、か」
りん「うん?」
まき「次は階段ダッシュね?私も付き合おうかしら」
りん「わあ!いいの!?」
まき「ええ」
・・・・・
はなよ「パーフェクトまきちゃん、疑問は解決したの?」
まき「したものもあれば、してないものもあるわ。増えたりもするし」
はなよ「そっか。大変だね」
まき「ええ。でもそれはあなたが気にすることじゃないわ」
はなよ「そうだね」
まき「……もしかしてだけど、マスターはなよは、私とワイルドりんの勝負のことを知っているの?」
はなよ「……。え?なんのこと?」
まき「……そう、なんでもないわ」
はなよ「……たとえば、解決しなければいけない謎がたくさんあって、
それがあまりにもいっぱいで、何をどうすればいいのかわからなくて、
手の付けようがないとき、あなたはどうするの?」
まき「それでも、一つずつクリアしていくしかないと思うわ」
はなよ「もっともだね。……でも、もしかしたら。
もしかしたらそんなときは一度、それら全てを並べて見つめてみるといいかもしれない」
まき「マスターはなよ?」
はなよ「もしかしたら、それらは全て繋がっているのかもしれない。
全ての疑問がパズルのピースで、組み合わさってひとつの答えになるのかもしれない」
まき「ふむ」
はなよ「まきちゃんが抱えてる課題も、どこかで繋がっているかもしれないね」
・・・・・
あの日、ムーンソルトうみと火炙りで浮かび上がらせたメトロノームほのかの項をぼんやり眺める。
PMM
メトロノームほのか
・メトロノーム
どんなときもマイペース。一定のリズムで我が道を行く。
それはときに超ハイペースであったり、のんびりであったりする。
次第にそのペースに周りが巻き込まれ始める。
でもいつの間にか、それがみんなのペースになってしまう。
全ての演奏のベースであり、ペース。
それが、メトロノームだ。
・・・・・
これがメトロノームほのかに込められた意味だった。
そして私はほんの少しの時を経て、この不思議な力に「ほのか力」と名づけた。
あらゆるものをひきこんでしまうパワー。
……そうだ、そういえば今日の野外活動はスパリゾートことりの助言からだった。
お礼をしなくては。
まき「もしもし、スパリゾートことり?」
ことり「パーフェクトまきちゃん、どうしたの?」
まき「この前、普段のなかにヒントがあるって言っていたでしょう?
今日私も実践してみたの。おかげで捗ったわ、ありがとう」
ことり「日常を実践したの?」
まき「ええ。とても難しいわね、普段だの日常っていうのは」
ことり「う、うーん」
まき「どうしたの?」
ことり「ううん。なんでもないの」
まき「はっきり言って欲しいわ。そこがスパリゾートことりの欠点よ。
例えるなら、両方同じ模様のコインね。
そんなコイントスでは結果は得られないわ。
だって裏表がないんですも、の……」
ことり「あはは……パーフェクトまきちゃん?」
まき「ごめんなさい、お礼は後日改めて。切るわね」
プツッ
……まさか。
とりあえずいままでのPMMの疑問を書き連ねる。
PMM
・ダイソンパワー
あらゆるものを引き寄せる力。「逆立ちとテレビの法則」(後述)によって世界がひっくり返ってしまっているなら
ダイソンパワー≠万有引力 の可能性もある。
・逆立ちとテレビの法則
両方裏なら両方表ってことでいいのではないだろうか。逆もまたしかり。
すでにこの世界で正逆、裏表はあやふやなものなのかもしれない。
そんな感じの法則。証明はされていない。
メトロノームほのか
・なにか特別な力を持っている
あらゆるものをひきよせる不思議な力。
正体不明。ほのか力(仮)としておく。
ムーンソルトうみ
・園田うみ役
驚愕の発言だったので念のため書き留めておく。
いったい彼女は何者なのだろう。
→園田うみは月だった。
何かの力を借りてしか輝けないとして、それは大した問題ではないのかもしれない。
ならば彼女を照らす太陽が存在しているはず。
バットのぞみ
神様のいる場所
・神様は天にいる→宇宙にいる?
どうやったら宇宙の神様を見つけられるのか
・八百万の神
あらゆるものに神が宿るという考え。
・結論
神様は探すまでもなくどこにでもいる。
この世のあらゆるものは宇宙に繋がっているのだ。
……つまりこの世のものは全て繋がっている?
ギャラクティカにこちゃん
・宇宙の動かし方
・・・・・
まず、逆立ちとテレビの法則。
これはずっと証明できていないものだった。
しかしこれは、スパリゾートことりという存在が証明している。
彼女は裏表のないコインなのだから。
この世に裏表があやふやなものは存在していたのだ。
そして宇宙の動かし方。
これに今しがた証明された「逆立ちとテレビの法則」を当てはめる。
すると答えは簡単だ。
宇宙を動かすには自分が動けばいい。
自分ひとりが動くのと、自分以外が動くのに大きな違いはないのだ。
次にほのか力。
あらゆるものをひきつける謎のパワー。
これもとっくの昔に確認できていた。
あらゆるものをひきつける力……そうだ。
ほのか力こそ、ダイソンパワーだったのだ。
ダイソンパワーとは、あらゆるものを惹きつける力。
まさにみんなの太陽のような力。
さらに月(ムーンソルトうみ)を照らす太陽の存在。
前述のとおりだ。そう。
月(ムーンソルトうみ)を照らしていたのは太陽(メトロノームほのか)だったのだ。
全ての課題、疑問、謎が集約していく。
……つまりこの世のものは全て繋がっていると言っても過言ではない。
私は全ての謎を解いた。そう。全ては繋がっていたのだ。
・・・・・
えり「……ハラショー」
まき「でっしょー!」
りん「りんも頑張ったんだよ」
えり「ふむそうね……」
まき「ぜひ、ワイルドりんのも見たいわ。私も見せるから、見せてちょうだい」
りん「え……そんなたくさんの読みたくないよ……いいからりんの見てよ」
まき「いいの?どれどれ」
・・・・・
高坂ほのか→天真爛漫
園田うみ→一生懸命
南ことり→表裏一体
西木野まき→唯我独尊
小泉はなよ→大器晩成
矢澤にこ→七転八倒
東條のぞみ→羊頭狗肉
絢瀬えり→才色兼備
・・・・・
・・・・・
まき「あっ……32文字……」
りん「ふっふーん」
えり「どちらも別のベクトルでよくできているわ。この勝負……」
りん「いやー!やっぱりパーフェクトまきちゃんはすごいや!」
えり「えっと」
りん「りんの負けだよ!もう、適わないな」
まき「ふふ!やはりっ私の勝ちね。当然よ!だって私はパーフェクトまきちゃんなんだもの。
でもワイルドりんもよくできていたわ。ただ、相手が悪かったわね」
えり「行っちゃった……」
りん「えへへ」
えり「よかったの?私は最初から引き分けにするつもりだったのに」
りん「いいんだよ。まきちゃんはとっても負けず嫌いで、完璧主義だから」
えり「……そう」
・・・・・
私の名前は西木野まき。
音ノ木坂学院一年生。知性あふれるスーパー天才美少女よ。
この指は心に響く音色を奏でる。
この頭は清涼飲料のように知識を吸収する。
この顔は世の人間全てを魅了し。
この口(正確には喉、声帯と言うべきかも)は奇跡の歌声を放つ。
唯一、私に弱点があるとすれば……そう。
くせっ毛なこと。
私は誰にも劣らないし、たとえば誰かに見守られているとかそんなことはありえない。
そして私はなんでも知っている。本当になんでもよ。知らないことなんてないの。
だから誰かに騙されるなんてこともない。嘘なんてすぐ見抜いちゃうの。
そんなパーフェクトなまきちゃんをみんなはこう呼ぶわ。
ほのか「まきちゃん!」
うみ「まき!」
ことり「まきちゃん!」
りん「まきちゃん!」
はなよ「まきちゃん!」
にこ「まき!」
のぞみ「まきちゃん!」
えり「まき!」
りんの提案で、名前の前の横文字は撤廃した。
元はただ呼び合うのはつまらないということで始めたのだけれど、
今はこういう形で落ち着いている。
言葉というものは時代と共に進化するもので、こうして今も発展を続けているのだ。
この略称に行き着くあたりも、今の時代をよく表していると思うわ。
でもいいの。私はこの呼び名を、この名前をとても気に入っている。
「今行くから!ほのか、うみ、ことり、りん、はなよ、にこちゃん、のぞみ、エリー」
・・・・・
ある朝。目が覚める。
今日はいつもよりちょっぴり早起き。
だって今日は……
あった!枕元にプレゼント!
今日は楽しい楽しいクリスマス。
昼はμ’sのみんなでパーティ。この新しいヘアアイロンでおしゃれしなくっちゃ!
たとえば、くせっ毛を直してみたりね!
そして夜はパパとママとパーティ。この日だけは二人共帰りが早いの。
そして、今年一年のお話をたくさんするの。
……今年はたくさん楽しいことがあったわ。
いままでのどの一年よりもね。きっと、とってもとっても長いお話になるわ。
それをパパとママは優しく微笑みながら聞いてくれるの。
ああ、それってとっても素晴らしいことだわ。
今年も私のパーフェクトな生き様を存分に語らなくちゃ。
……え?どうして私がそんなに「パーフェクト」にこだわるかですって?
そんなの決まっているじゃない。
サンタさんは、いい子のところにしか来てくれないからよ。
パーフェクトまきちゃんメモ「PMMと32文字の戦い」
終劇
パーフェクトまきちゃんメモの端くれ。
ワイルドりんは全然ワイルドではない。
見た目に反して(というと失礼かもしれないけれど)とっても心は乙女だし、
スポーツ万能でがさつっぽいけど、実は繊細だったり、
元気なのに泣き虫だったり、
めちゃくちゃな言動にみえてその実とても常識人だったりする。
だから、あなたにはこの四字熟語を送る。
矛盾撞着。
乱文失礼しました。
もしも読んでくれたもの好きな方がおりましたら、ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
ラブライブのssなのにラブライブのタグが一切ついてない件
ssは面白いのに惜しい
最後のクリスマスの下りがすごくかわいかった。