”誰も知らない小さな国”の最後のページから始まります。まあ、50年位前の童話なんですけどね
コロボックル(こぼしさま)の味方のせいたかさんとおちび先生、その連絡係のコロボックルのお話です。
・・・小山 つばきの木の上・・・
せいたかさん「……コロボックルの味方になったし、コロボックルの住む小山も本当にぼくのものになった。ゆめのようじゃないか………」
おちび先生「せいたかさあん」
せいたかさん「あ、おちび先生だ。もう一人のコロボックルの味方……あの人も、いい人だし……おーい、おちび先生!こっちだよ」
おちび先生「つばきの木の上にいたのね、私もいくわ」
せいたかさん「気をつけろよ」
おちび先生「大丈夫よ……ヨイショ…おめでとうございます。とうとう小山の持ち主になったわね」
せいたかさん「ありがとう。おちび先生のおかげだよ」
おちび先生「ううん、私はちょっとお手伝いしただけ。これからは、小山に住むのね?」
せいたかさん「いや、たまに遊びに来るだけなら良いけど、住むのにあの小屋はちょっと狭すぎる」
おちび先生「じゃあ小山にはすまないの?」
せいたかさん「そのうち住もうとは思っているよ」
おちび先生「じゃあ……」
せいたか「うん。あの小屋はコロボックルたちに譲って、もう一つちゃんとした家を立てるつもりだ」
おちび先生「でも生活するとなると……」
せいたか「電気はもう小屋まで引っ張ってあるし、水はこのいずみからポンプで引こうと考えてるんだよ」
おちび先生「素敵ね!お台所は少し広いぐらいのほうが使いやす……」
カラス「カーカー」
せいたか「あ、もうこんな暗くなってしまった。送ろう」
おちび先生「う、う…ん。ありがとう……」
・・・その日の晩、オチビ先生のうち・・・
おちび先生「ハア……ねえ、おハギちゃん、いる?」
シュッ、トン
ハギノヒメ「はい、ここにいます。どうしたんですか、ため息なんかついて」
おちび先生「だってあの人わたしの気持ちに全然気がついてくれないんだもの。結構誘ってるつもりなんだけど。わたし魅力ないのかな」
ハギノヒメ「そんな事無いですよ。このあいだヒイラギノヒコから聞いたんです、せいたかさんがおチビ先生のことをすごく素敵な人だって言ってたって」
おちび先生「ほんと!?」
ハギノヒメ「はい」
おちび先生「嬉しいわ。でも、ヒイラギノヒコはあなたにそんな話しまでするのね?」
ハギノヒメ「えっ!あ、あの、はい……」マッカッカ
おちび先生「あら?ひょっとしてオハギちゃん、ヒイラギノヒコの事……」ジー
ハギノヒメ「……」モジモジ
おちび先生「そうなの。ひょっとしてもうプロポーズされた?」
ハギノヒメ「ぷろぽーず?」
おちび先生「結婚の申し込みの事よ」
ハギノヒメ「あ、それなら、はい…」
おちび先生「いいなあ、おハギちゃんに先を越されちゃった。山のせいたか童子さんはいつになったらプロポーズしてくれるのかしら」
ハギノヒメ「あの、ヒイラギノヒコに言ってもらいましょうか、おちび先生が、その、えーと、ぷ、ぷろぽーずってのを待ってるって」
おちび先生「いやよ、恥ずかしいじゃない、ガツガツしてるみたいで。ヒイラギノヒコにも言っちゃあダメよ。男の人は口が軽いから」
ハギノヒメ「わかりました。絶対言いません」
舞台は昭和30年前後です。
せいたかさんは電気技師、その連絡係がヒイラギノヒコ
おちび先生は幼稚園の先生、連絡係がハギノヒメ
ヒイラギノヒコは次の世話役(大統領のようなもの)です
まあ、知らなくても何も困りませんが……
・・・翌日 小山の小屋・・・
ハギノヒメ「……って言ってたの。あの二人うまくいくかしら?」
ヒイラギノヒコ「どうかな?せいたかさん、女の人に積極的なほうじゃないし……だけど内緒って言われたんだろ?」
ハギノヒメ「あっ……」
ヒイラギノヒコ「口が軽いのは男じゃなくておハギじゃないか」
ハギノヒメ「ゴメンナサイ・・・」シュン
ヒイラギノヒコ「まあ。あやまらなくてもいいけど。せいたかさんたちが早く結婚してくれると安心なんだけどな。
何か出来る事は無いかな?やっぱりワシからせいたかさんに言ってみようか」
シュッ、トン
モチノヒコ老人「そういうものは本人同士に任せておく事だ」
ヒイラギノヒコ「あ、世話役」
モチノヒコ老人「すまないな、立ち聞きして。しかし、こういうことは周りが口をはさむとかえってこじれる」
ヒイラギノヒコ「はい」
モチノヒコ老人「とはいえ、早く落ち着いて欲しいものだな」
・・・2週間後、小山の小屋・・・
おちび先生「新しい家はいつ建てるの?」
せいたかさん「うーん、やっぱり住めるような家を建てるとなったら金が要るからなあ」
おちび先生「小山に家を建てたら一人で住むの?」
せいたかさん「コロボックルたちがいっぱいいるから独りってわけじゃない」
おちび先生「そうね……ハア」
せいたかさん「どうしたんだい?ため息ついて……」
おちび先生「どうもしない…」
せいたかさん「でも……」
おちび先生「なんでもないって言ってるでしょ!」
せいたかさん「ならいいけど……」
おちび先生「外でお茶を入れてくるわ」ギギイ
シュッ、トン
おちび先生「あ、おハギちゃん」
ハギノヒメ「うまくいきませんね」
おちび先生「そうね……」
ハギノヒメ「ヒイラギノヒコならきっとすぐわかってくれるのに」
おちび先生「ハイハイ、ご馳走様。のろけないでよ」
ハギノヒメ「ゴメンなさい」
シュッツ、ササッ
モチノヒコ老人「あ、おハギ、良い所にいた。せいたかさんはどこだ?」
ハギノヒメ「小屋の中にいますけど、なにか」
モチノヒコ老人「峯のおやじさんが倒れた」
ハギノヒメ「峯のおやじさん?」
おちび先生「小山の元の持ち主でしょ」
ハギノヒメ「あ、そうか」
モチノヒコ老人「たまたま峯の家の近くを通りかかったら、おやじさんが倒れたって大騒ぎになってたんだ」
おちび先生「それは大変だわ。ねえ、せいたかさん!峯のおやじさんが病気なんですって!」
せいたかさん「えっ、なんだって!峯のおやじさんが!?」
おちび先生「ヒコ老人が教えてくれたの!詳しくはわからないけど」
せいたかさん「わかった。今から峯の家に行ってくる。今日は悪いけど送れないよ」
おちび先生「あたしも行くわ」
せいたかさん「君も?」
おちび先生「ええ。病人が出たときは女手が必要なものよ」
せいたかさん「そうか、じゃ一緒に行こう!走れるかい?」
おちび先生「はい!」
・・・峯のおやじさんの寝室・・・
峯のおやじ「心配かけちまったな」
せいたかさん「どうですか、まだ痛みますか?」
峯のおやじ「とりあえず落ち着いたけどな、若い頃から無理をしたから心臓の方がな……」
せいたかさん「そんなこと言わないでくださいよ」
峯のおやじ「自分の体のことは自分が一番よくわかってる。ただ心残りはな、お前さんの嫁さんを見ることが出来ねえってことかな」
せいたかさん「それは……」
峯のおやじ「そっちのお嬢さんは、お前さんのガールフレンドかい?」
せいたかさん「そういうわけじゃ……」
おちび先生「はい、そうです」
せいたかさん「えっ?!いや、そのう……」
峯のおやじ「こいつは良いヤツなんだがぐずぐずしたところがあって。よく面倒を見てやってください」
おちび先生「ええ」ニコ
せいたかさん「いや、面倒見るって、そ、そんな関……」アタフタ
・・・2時間後・峯のうち・・・
峯のおやじ「仲良く帰って行ったか。なんとかうまくいきそうだな。仮病まで使ったかいがあったってもんだ」
モチノヒコ老人「手伝ってくれて、ありがとう」
峯のおやじ「仮病なんか使ったのは人生で初めてだ。けど、こぼしさまに言われたら嫌とは言えないからな。
しかしこの齢まで、まさかこぼしさまが本当にいるとは思わなかった」
モチノヒコ老人「掟で味方以外の人間に姿を見せられないからな。世話役自ら掟をやぶってしまった」
峯のおやじ「俺もあいつらをダマしたしな。若いやつらのために、俺たち年よりは汚れ役をするもんだよ。なあ、こぼしさま」
モチノヒコ老人「そう言ってもらうと気が楽になる」
峯のおやじ「二人だけの秘密だな」
モチノヒコ老人「ああ」
・・・峯の家からの帰り道・・・
せいたかさん「あれ、どうしたんだい?足が痛いのかい、びっこをひいて……?」
おちび先生「革靴で慣れない山道走ったら、まめができちゃった」
せいたかさん「どれ、見せてごらん……あ、これはひどい。バス停までおぶってあげよう」
おちび先生「でも、悪いわ……」
せいたかさん「それじゃ歩けないだろ、ほら」
おちび先生「ありがとう」
せいたかさん「ヨイショっと……」テクテク
おちび先生「重くない?」
せいたかさん「いいや、大丈夫だよ」
おちび先生「……」
せいたかさん「……」テクテク
おちび先生「どうしたの、黙り込んで」
せいたかさん「いや、別に……いい匂いするな、と思って。香水つけてるのかい」
おちび先生「つけてないわ」
せいたかさん「そうか……」テクテク
おちび先生「……」
せいたかさん「……」テクテク
おちび先生「何か言うことあるんじゃない、せいたか童子さん?」
せいたかさん「……言う事…あ、足痛むかい?」ドキッ
おちび先生「すこし……でもそうじゃなくって……」
せいたかさん「……えーと、その、おやじさん、急に変なこと言い出すから驚いたよ」
おちび先生「変なこと……ね……」
せいたかさん「あ、いや、変て言うわけじゃ……」
おちび先生「……」
せいたかさん「……」ピタ
おちび先生「……」
せいたかさん「……うん。悪いけどちょっと降りてくれるかい…」
おちび先生「はい」
せいたかさん「こっちを向いて」
おちび先生「はい」
せいたかさん「ずっと君に言いたかったことがあるんだ」
おちび先生「……」
せいたかさん「これからもずっと、コロボックルたちのために小山を見守って欲しいんだ。ぼくと一緒に……」
おちび先生「……コロボックルのため?」
せいたかさん「うん……いや、そうじゃなくて、つまりその、ぼくと……」
おちび先生「……まあ、そんなところかしらね……」
せいたかさん「え、それは……」
おちび先生「そういうと、女の子は、そっと目を閉じました……」
せいたかさん「じゃあ、その、ぼくと……」
おちび先生「どうかしら……ねえ、今晩小屋に泊まっていってもいい?やっぱり足が痛いの」ギュ
・・・何日か後 小山の小屋・・・
ハギノヒメ「幼稚園の子どもたちにせがまれて、またかみなりさまの話をしてましたよ」
せいたかさん「へー、今度はなんて言ってたんだい?」
ハギノヒメ「それはですね……」
・・・前日の幼稚園・・・
おちび先生「お山で先生は足を怪我して困っていました」
おちび先生「するとそこに、またかみなりさまが現れました。そして先生を雲に乗せてかみなりさまのお城に連れて行ってくれました」
おちび先生「お城に着くとかみなりさまは先生に『お嫁さんになってください、この綺麗なお山に一緒に住んでください』と言ったのです」
園児「ほんと!?」
おちび先生「ええ、ほんとうよ。そこで先生はかみなりさまのお嫁さんになることにしました」
園児「ええっ、かみなりさまのお嫁さんに!?どうして?」
おちび先生「お山はとても素敵なところだし、何より優しいかみなりさまの事を先生はずっと大好きだったからです」
園児「かみなりさまのお嫁さんになったら、先生も雷落としたり、雲に乗れたりするようになるの?」
おちび先生「どうかな、今度またお山に言ってかみなりさまに聞いてみます」
・・・もう一度、小山の小屋・・・・
せいたかさん「雷は落とせるかもしれないけど、雲にはのれないだろうなあ」
ハギノヒメ「でも……」
せいたかさん「なんだい?」
ハギノヒメ「寝ぼけてて良く覚えてないんですけど、このあいだおちび先生が小屋に来たとき、ふわふわして雲にのってるみたいって…」
せいたかさん「そんな事言ってたかな?ふわふわして雲に……あっ!しまった、あの時……
えーと、オハギちゃん。おちび先生が泊まりに来た時は、小屋に入らないようにしてくれ。それから……このことは絶対内緒だよ」
ハギノヒメ「わかりました。絶対言いません……たぶん」
おわり
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