右京「ミノル…?」 (96)
相棒×クロユリ団地のクロスssです。
クロユリ団地の方は基本映画の設定を使っていますが、
ssの都合でかなり原作を弄っています。
久しぶりの相棒ssですがそれでもいいという方はよろしければ見てやってください。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413380211
~???~
甲斐「ハァ…ハァ…ここはどこだよ!?」
暗い密室、そこで甲斐享は目が覚めた。
何故自分がここにいるのか?
本来ならそんな当たり前な事すらも把握できずに、ひたすら叫び続けていた…
甲斐「誰か!誰かいないのか!?」
必死に助けを呼ぶカイト。
そんな時…
『ねぇ、遊ぼ?』
甲斐「え…?」
ふと聞こえた幼い子供の声。
恐る恐る振り返ってみるとそこにいたのは…
<三日後>
~警視庁(特命係)~
右京「ふぅ、もう三日ですか…」
杉下右京、この警視庁の窓際部所である特命係に所属している警察官である。
右京は本来ならここにいるべきはずのたった一人の同僚について気にかけていた。
するとそこへ…
角田「よ、暇か?コーヒー貰いに来たよ!
ところで…その…何だ…カイト坊ちゃんは今日も来てないのか?」
右京「えぇ、今日で三日です。何処で何をしているのやら…」
そう、右京が危惧していたのは自分と同じくこの部所に所属する甲斐享についてであった。
そんな時…
((プルルルルル!))
角田「はいこちら特命係!なんちゃって…え?あっ!これは失礼しました!?」
右京「おやおや、どうしましたか?」
角田「内村部長からだ。大至急部屋に来いとさ…」
~内村部長の部屋~
内村「話は聞いている。
お前のとこの甲斐享が既に三日も無断欠勤しているそうだな。」
中園「まったく…杉下!
これというのも上司であるお前が弛んでいるから部下もこのような体たらくなんだぞ!?」
右京「確かに、彼の無断欠勤は直属の上司である僕の責任でもあります。」
右京が呼び出された理由はカイトのこの三日間の無断欠勤についであった。
常に特命係の粗探しをする内村部長と中園参事官は、
日頃何かと刑事部の邪魔をする特命係を警視庁から追い出そうとしているので、
今回のカイトの無断欠勤はまさに格好の理由であった。
…のだが…
内村「本来ならヤツをクビにしてやってもいいがお前も知っての通り、
甲斐享は大変面倒な事に警察庁の甲斐次長の御子息でもある。
お前らなんぞどうなってもいいが甲斐享がこのまま無断欠勤を続ければ次長の名に傷が付く!」
中園「いいか杉下!こうなったのもお前の責任だ!
なんとしても甲斐享を探し出して連れてこい!これは命令だぞ!!」
右京「…」
~花の里~
右京「…という訳です。」
幸子「そんな、カイトさんが三日も無断欠勤なんて心配ですね…」
悦子「嘘…」
ここは右京たちがよく訪れる花の里。
そこでは女将である月本幸子とカイトの恋人である笛吹悦子が、
右京からカイトがこの三日間無断欠勤している話を聞いていた。
悦子「そんな…享が三日も無断欠勤しているなんて…」
幸子「これって亀山さんや神戸さんなら問答無用でクビだったかもしれませんね…」
右京「悦子さん、カイトくんと同棲しているあなたなら何か事情をご存知かと思ったのですが。」
悦子「ごめんなさい、実は私も享が三日も欠勤していた事を今初めて知ったものだから…」
幸子「それってどういう事なんですか?」
悦子「実は…」
悦子からカイトの事を聞き出そうとしていた右京だが、
同棲相手である悦子すらカイトが無断欠勤している事を知らなかった。
それには理由があった。
実はカイトが無断欠勤する三日前にある事情で外出して以降、帰らなくなったという。
悦子「…というわけで享は私にも何も告げずに何処かへいなくなっちゃったんです…」
右京「なるほど、しかし一体何処へ行ったのでしょうかねぇ?」
悦子「そういえば…!」
右京「おや?何か思い出した事でも?」
悦子「実はいなくなる何日か前に享は手紙を受け取っていたんです!
一応手紙を持ってきたんですけど…これです。この手紙です。」
悦子は手紙の入った封筒を渡した。
しかし右京は手紙よりもまず封筒の、それも配信した主の名前に注目をしていた。
右京「送ってきたのは『小西秀子』、なるほど。あの事件ですか…」
右京はかつてカイトと共に解決したある事件について思い出していた。
[小西皆子]
カイトの子供時代の幼馴染、小学1年生の頃に結婚を約束した婚約者でもあった女性。
しかし当時はカイトたちもその事を遊びの一貫としか思っていなかった。
その後、小西皆子は家庭の事情により転校。
以後カイトとは疎遠となり次に再会したのが皮肉にも…
※(相棒シーズン12 第9話)
右京「小西皆子、以前殺害された芸者の女性ですね。
カイトくんもまさか疎遠になって数年後に死体安置所で再会するとは夢にも思わなかったでしょに…」
幸子「でもそれじゃあこの小西秀子っていう女性は誰なんですか?」
右京「その女性は被害者の母親です。しかし何故母親から手紙が送られてきたのですか?」
悦子「手紙の内容がどうも小西皆子が犯罪に手を染めていた原因についてなんです…
杉下さんも小西皆子は享と疎遠になってから犯罪に手を染めていたのはご存知ですよね?」
右京「えぇ、小西皆子は過去に売春歴が有りそれが原因で女子少年院に送られ、
それに成人した後は覚せい剤で服役した前科もあります。
カイトくんはその事実に最後まで否定的でしたが…」
悦子「その事について手紙にはこう記されていたんです。」
右京「手紙に…?拝見します。」
それから右京は手紙の内容を読んでみた。
そこに書かれていたのは小西皆子がある日を境に小西皆子の性格が荒み、
それが両親の離婚の原因に至ったという内容であった。
右京「その時期が…小学2年生の頃?
確か小西皆子がカイトくんと転校で疎遠になった頃でしたね。」
悦子「そうです。
その時期から小西皆子は性格が荒んでしまったという話です。
当時小西皆子はある団地に住んでいたらしいんです。
その団地の名前が…」
[クロユリ団地]
右京「クロユリ団地?団地にしては珍しい名前ですねぇ。」
幸子「本当に!なんだか百合のお花がいっぱい咲いてそうなイメージですね!」
悦子「それから小西皆子は性格が荒んで両親は離婚。
母親が引き取って新潟で売春をして女子少年院に送られたらしいです。
母親の考えではもしかしたらあの団地に彼女を変えた原因があったんじゃないかって…」
右京「それを確かめにカイトくんはそのクロユリ団地に行ったわけですね。
なるほど、クロユリ団地ですか。」
悦子「それと封筒には手紙の他にひとつだけ変なメモ用紙があったんです。これなんですけど…」
そのメモ用紙を渡された右京。
メモ用紙にはカタカナでたった三文字こう記されていた…
[ミノル]
右京「ミノル…?」
~クロユリ団地~
右京「ここがクロユリ団地ですか。」
翌日、右京はさっそくクロユリ団地を訪れていた。
そこは古びた集合団地、そこの一角にかつて小西皆子の一家が住んでいたとの事である。
周囲には耐久年数の関係で破棄されたゴミ収集所がある以外は至って普通の団地であった。
右京「なるほど、花壇に百合が咲いていますね。
だからクロユリ団地、それも暗赤色の…だからクロユリ団地なのですね。」
花壇に咲いている百合の花。
それがこの団地がクロユリ団地と呼ばれる由縁でもあった。
右京「おや?」
ふと、右京はあるモノに注目した。
それは団地の隅っこにある小さな公園の砂場。
そこには今さっきまでこの辺りの子供が砂遊びをしていた形跡があった。
右京「おや?まるで今まで子供がいたような…?」
((キィーコ…キィーコ…))
右京「おやおや?今度はブランコがひとりでに動いていますね?」
まるで姿の見えない何かが右京を誂うかのように奇妙な行動をしていた。
そんな時…
???「ミノルくん!ダメよ!」
右京「ミノルくん…?」
一人の女性が居もしない誰かに注意をしていた。
その姿にさすがの右京も不気味なモノを感じてしまうほどであった…
~402号室~
ここはクロユリ団地の一室。
そこに右京は先ほどの女性に招かれ部屋の玄関前まで来ていた。
右京「おや!これは珍しい!イギリスの紳士靴メーカーのイーニアスの革靴ですね!
僕は革靴には目がなくて…
それにしてもこの家の下駄箱は靴がキチンと整頓されていますねぇ。
紳士靴、子供靴、それに婦人靴、こちらのご家庭はあなたを合わせれば全部で4人家族といったところでしょうか?」
???「あの…あなたは…?」
右京「失礼、自己紹介がまだでしたね。警視庁特命係の杉下と言います。
実は少しお話を伺いたい事がありましてお時間よろしいでしょうか?」
明日香「……わかりました……
私の名前は二宮明日香、この家には…その…家族と一緒に住んでいます…」
その女性、二宮明日香はまるで何かに怯えているかのように余所余所しかった。
右京「失礼ですがご家族の方は?」
明日香「両親は共働きで、あと弟が一人いるんですけどそっちも学校へ…」
右京「そうですか、ところで良い時計をしていますね。どなたかのプレゼントでしょうか?」
明日香「あぁ…これは最近両親が私にプレゼントしてくれた物なんです…
小学生の弟なんてこれを見て私に嫉妬して『まだ早い!』って言ってやったら、
『そんなに変わらなくせに』とか失礼しちゃいますよね…
けどそれよりも…今度の連休は家族一緒に出かける事になって…」
右京「…」
明日香が付けていた時計を間近で見つめる右京。
その時計は最近プレゼントされた割には長年使い込まれた物に見えた。
だがそんな時、ある奇妙な音が聞こえてきた…
((ガリッ!ガリッ!))
右京「おや?この音は何でしょうか?」
明日香「またあの音だ…」
右京「また…とは?」
明日香「いつも聞こえてくるんです…隣からこの奇妙な音が…気味が悪くて…」
右京「なるほど、それなら僕にお任せ頂けますか。これでも警察官ですので。」
それから右京は隣人に注意を呼びかけようと隣の玄関にノックをするのだが…
((コンッ!コンッ!))
右京「失礼、警察の者ですが?」
「………」
しかし返事はない、これはどうした事なのか?
右京「変ですねぇ、あのような物音がするのだから留守ではないはずなのですが…?
表札は、401号室の篠崎さんですか。
失礼ですが篠崎さんとはどういう方なのですか?」
明日香「いえ、実は私…あまり親しくないのでわからないんですけど…
篠崎さんは高齢の方で一人暮らしをしているはずです。」
右京「なるほど、一人暮らしですか…」
気になった右京は401号室の扉を開けてみようとする。
すると不思議な事に部屋の鍵は掛かっておらずそのまま部屋の中に入ってみた。
部屋の中は食べ物がそのまま散乱していて荒れ放題な状況であった。
それに亡くなったとされる妻や子供の仏壇、どれも今よりも若かりし頃のモノばかり…
そんな部屋で右京はある発見をする、それは新聞のスクラップ記事だ。
右京「このスクラップ記事は22年前のバス事故…?」
その時であった…
明日香「「キャァァァァァッ!?」」
右京「明日香さん!どうしましたか!?」
明日香「お…お爺さん…お爺さんが…」
右京「これは…」
明日香が発見したのは何と壁を掻きむしったまま死亡した老人であった!
それから数分後、右京の連絡で警察が到着。さっそく事件の捜査が行われた。
芹沢「死亡したのはこの団地の401号室に住む篠崎さん。年齢は70歳。
この団地には古くから住んでいる住人です。」
伊丹「こんな古びた団地で爺さんが孤独死かよ…
まったく、こんな寂れた場所でたった一人誰からも心配されずに死ぬなんて哀れなもんだ。」
芹沢「そうっすよね、独り者は年老いたら誰も世話をしてくれないというのが辛いですからねぇ…
先輩も老後を考えて真剣に婚活に勤しんだ方がいいっすよ?」
伊丹「一々余計なんだよお前は!それで米沢、死因は?」
米沢「遺体の死因ですが、これは衰弱死ですな。」
伊丹「衰弱死だぁ?」
米沢「仰る通り、衰弱死です。
外傷も壁を掻きむしった際の爪の傷以外はありませんでしたし他に死因は考えられませんな。」
右京「なるほど、衰弱死ですか。
しかし衰弱死となると何故篠崎さんが部屋の壁を掻きむしったのかが気になるところですが…」
伊丹「うわっ!特命!?」
芹沢「ちなみに杉下警部が遺体の第一発見者ですから…」
伊丹「まったく、警部殿が行くところ死体の山ですねぇ!
どっかの名探偵の孫や身体は子供の頭脳は大人な小学生並みに事件に遭遇してるんじゃないですか!」
右京「お世辞は結構、ところで第一発見者は僕ではなく彼女ですよ。」
伊丹「彼女ぉ?」
明日香「はい、私が最初にあのお爺さんを見つけたんです…」
芹沢「ところで警部は何でこの団地に来たんですか?」
伊丹「そういえば警部殿、聞きましたよぉ!
お宅のカイト坊ちゃんが三日も無断欠勤しているって。
警部はそのカイト坊ちゃんを探すように命じられていたんじゃないんですかぁ?」
右京「えぇ、仰る通り。
僕はそのカイトくんの足取りを辿ってこのクロユリ団地まで趣いたのですが…」
明日香「カイト…?」
右京「そうです!失礼しました!
まだあなたにお話を伺っていなかったのですが三日前に甲斐享という青年が、
このクロユリ団地に小西皆子という名の女性について尋ねに来ませんでしたか?」
右京は今回何故自分がこのクロユリ団地に来たのかという理由を明日香に説明した。
すると明日香から思わぬ返事が…
明日香「私…その甲斐さんと三日前に会っています。」
芹沢「本当に!?」
伊丹「だが当の本人はどこにいるんだよ?」
明日香「それは…ミノル…ミノルくんが…!」
右京「またミノルくんですか…」
[ミノル]
あの手紙に入っていたメモ用紙に書かれていた名前。
それに先程明日香が公園で叫んでいた名前、その『ミノル』がカイトと何の関係があるのか?
右京は事の詳細を明日香から詳しく聞いてみる事に…
明日香「三日前、甲斐さんは皆子ちゃんについて聞きたい事があるって言ってこの団地を訪れたんです…
けど…彼は…彼は…」
右京「カイトくんはどうなさったのですか?」
明日香「彼はミノルくんに連れて行かれたんです…」
伊丹「つーかミノルって誰だよ!?」
芹沢「その前に今この棟に住んでいるのは彼女と篠崎さんしか住んでいないはずですけど?」
右京「はぃぃ?」
明日香「それは…ミノルくんは…幽霊だから…」
「「幽霊!?」」
明日香「彼は…だからやめてって言ったのに…」
明日香の幽霊という発言を聞いていた伊丹と芹沢も思わず声を上げて驚いた!
というよりもそんな馬鹿げた話をこれ以上聞く気にはなれずにいた…
伊丹「馬鹿馬鹿しい!何が幽霊だ!警察舐めるのもいい加減にしろ!?」
芹沢「まあこの篠崎さんも衰弱死ですし事件性は無さそうですからね…」
米沢「それでは引き上げるとしましょうか。」
こうして一部の捜査員を残して伊丹たちは引き上げてしまう。
さすがに幽霊などと警察の人間は信じるはずはないだろう。唯一人を除いては…
右京「なるほど!幽霊ですか!それは実に興味深い!」
明日香「す…杉下さん…?」
右京「僕はオカルトには興味津々でしてねぇ!
スコットランドヤードで研修に行った時には、
ポルターガイスト現象が起こるであろう物件を隈なく探したものです!
…おっと失礼、話が脱線してしまいましたね。
しかし何故カイトくんだけが連れて行かれたのでしょうか?」
明日香「それって…どういう事ですか…?」
右京「もしもそのミノルくんという幽霊が居たとしましょう。
その幽霊は何故あなたには手を出さなかったのでしょうか?
ミノルくんにはカイトくんだけを連れ去るだけの理由があった。
しかしその理由は何なのでしょうかねぇ?」
明日香「それは…甲斐さんは…扉を開けてしまったからだと思います…」
右京「扉…?」
明日香「突然死んだ人がうちの部屋の扉を叩いたんです。
『開けて…』『開けてくれ…』って。
私は開けるなって忠告して甲斐さんもその事を最初は拒否していたんです。けど…」
右京「開けてしまったという事ですね。
しかし何故カイトくんは扉を開けてしまったのでしょうか?」
明日香「声です…」
右京「声…?」
明日香「その死んだ人は皆子ちゃんだったんです…
それもかなり苦しそうな声を上げながら…開けてと言って…だから甲斐さんは扉を…」
右京「小西皆子さんの声ですか…」
それから右京は怯える皆子を部屋に戻して自分は暫く団地内を調べてみる事に。
しかしこの団地には篠崎が死んだ今、二宮家以外に他の住人はいないようであった。
そんな時、ゴミ捨て場のダストボックスにゴミを漁るホームレスを発見する。
そのホームレスがなんと…
右京「おや、あのホームレスはもしや?」
一郎「ハァ…やっぱりここのゴミはろくなのが無いな…」
右京「やはり、お久しぶりですね一郎さん。」
一郎「あれ?誰かと思ったら杉下さんじゃないですか!もしかして何か事件でもあった?」
右京「まあそんなところです。
それにしても大きなダストボックスですねぇ、人間一人は余裕で入れそうなスペースをしてますよ。」
一郎「でもここのダストボックスは鍵掛かってないからね。
子供がこんなとこを隠れんぼにでも使ったら危ないかもしれないだろうけど…」
右京が偶然にも再会したのはかつて何度か事件に居合わせた一郎という名のホームレスであった。
右京は彼から何故この団地には住人が少ないのか聞いてみるのだが…
一郎「でもやっぱりダメだなここは…
住人が少なすぎてろくなゴミがない、あの事故が起こるまではここも宝の宝庫だったのになぁ…」
右京「一郎さん、何故この団地には住人が少ないのかその理由について心当たりはありませんか?」
一郎「そりゃ…そうだよ。あれ見てみな。」
一郎が指さした方向、そこには看板が立ててあった。
その看板はこのクロユリ団地が取り壊されるというお知らせだった。
右京「なるほど、取り壊されるのですか。だから…」
一郎「まあ結局この取り壊し工事だけど、
去年の12月に工事を担当するはずだった土建屋の若社長が殺しをやっちまってね。
その後も他の土建屋が気味悪がって中々入札が決まらなくて役所もお手上げ状態なんだよ。」
右京「看板に書かれてある担当の土建屋は酒田土木会社…あぁ、そういう事ですか。」
一郎「まぁ、それ以前からこの団地は俺たちホームレスの間でも曰く付きなんだけどね…」
右京「曰く付き?それはどういう意味でしょうか?」
一郎「そうさな、あれは22年前の事だよ…」
そして一郎は22年前の事件について語り出した。
22年前、この団地の自治会のとある催しで家族絡みの遠足があったそうだ。
バスで山まで遠足に行くという至って普通の催しなのだがそこで交通事故が発生した。
バスが転倒し乗客に多くの死者が出るほどの被害であった。
一郎「それが発端だった。」
右京「発端?」
一郎「その事故の遭った直後、一人の男の子が消えたんだよ。名前が確か…」
右京「ミノル、もしかしてそんな名前ではありませんか?」
一郎「そうそう!ミノル!それだよ!本名が木下稔!
そのミノルって子が突然謎の失踪を遂げて、
当時は事故のあった直後だから探している場合じゃなくてなぁ…」
右京「…」
一郎「それからさ、この団地で住人が立て続けに死んでいったのは!
みんな気味悪がってね…
最後に引っ越してきたヤツが6年前に失踪して以来誰も寄り付かなくなっちまった。」
右京「6年前ですか…」
一郎「この団地で不幸な目に遭うヤツは決まって妙な事を言うんだ。
『ミノルが現れた…』
行方不明になったミノルがこの団地の連中を不幸に貶めてるんじゃないかってね!」
右京「なるほど、どうもありがとうございます。大変参考になりました。」
一郎「じゃあ俺はもう行くよ。
こんなとこいつまでもいたら呪い殺されるかもしれないからさ!
今度飯でも一緒に食べようぜ!」
こうして一郎の話を一通り聞いた右京。
事故の詳しい詳細を知るために先程篠崎宅で得たスクラップ記事を読んでみる事に…
右京「なるほど、これが交通事故の記事全部ですか。」
22年前、遠足会の帰り道に起きたバスの交通事故。
そのバスの乗客は4家族で二宮家、篠崎家、木下家、それに…
右京「小西家、なるほど。
今回の事件で関わっている4家族がこの事故に遭遇してしまったわけですか。」
記事には以下の詳細が書かれていた。
事故当時、座席順は前列が木下家、中列が二宮家と小西家、後列が篠崎家と…
右京「木下家はその時の事故により少年を残し死亡。
やはり、だからミノルくんは事故直後行方不明になってもろくに搜索もされなかったわけですか。」
そしてもうひとつスクラップ記事で注目すべき点があった。
それは記者が被害者遺族にインタビューしている記事である。
内容は以下の通り…
『今回の事故については本当に何と言ってよいのやら…』
『生き残った姪はまだ小学2年生になったばかりなんですよ!』
『久しぶりの家族の楽しい遠足だったのに何でこんな悲劇が!?』
右京「この記事は…やはりそういう事でしたか。」
右京はその記事を読み終えると同時にある人物へ連絡を取ろうとする。
その人物は…
右京「もしもし、米沢さんですか?
大至急確認してほしい事があるのですが、22年前に起きたバスの交通事故についてです。
それとこれから言う事をよく聞いてください。もし僕が………」
米沢に事件の他にも何やら頼み事をする右京。
その時であった!
「「「キャァァァァァァァッ!!??」」」
右京「この声は!?」
突然団地から悲鳴が!急ぎ駆けつけるとそこは!?
~402号室~
右京「明日香さん!どうしましたか!?」
明日香「ハァ…ハァ…い…今お爺さんが!お爺さんがいたんです!?」
右京「お爺さん?」
明日香「間違いありません!篠崎さんです!あれは篠崎さんでした!!」
右京「篠崎さん?しかし篠崎さんは先程我々が遺体として発見したはずですよ?」
明日香「そうです…けど確かにあれは篠崎さんだったんです!
それに篠崎さんは私にこう言ったんです。
『お前は殺される!』
そう言っていました!」
右京「殺される?」
明日香はパニック状態でまともに会話ができなかった。
仕方なく右京は台所まで連れて行き、彼女が改めて落ち着くまで待つ事に…
右京「どうですか、少しは落ち着きましたか?」
明日香「はい、さっきは取り乱してごめんなさい。けどもう大丈夫です…」
右京「そうですか、ところで尋ねたい事があります。
恐らくカイトくんにも同じ事を尋ねられたかと思いますが…
あなたは小西皆子さんと昔お友達だったのではありませんか?」
明日香「そうですけど…」
右京「やはり、『皆子ちゃん』と呼ぶものですから子供時代の友人だったのですね。」
明日香「はい、皆子ちゃんは活発な子でよく私や弟と4人で隠れんぼをして遊んでいました。」
右京「4人?あなたと弟さんと皆子さん、あともう一人は…?」
明日香「それは勿論…ミノルくん…」
『ミノルくん』、明日香がその名を呟いた時であった!
((ドンッ!ドンッ!))
右京「玄関から音が…?」
明日香「これは…ダメ!出ちゃダメ!?」
玄関からドンッ!と激しいノックの音が聞こえてきた。
しかし明日香は決して玄関を開けるなと右京に忠告する。その理由は…
明日香「あの時と同じ…ミノルくん…ミノルくんが怒ってるんだわ!?」
右京「ミノルくんが…何故?」
明日香「あの子は普段は大人しい子だけど…
遊び疲れてみんなが家に帰るのをとても嫌がっていたの…!
その時は異常なまでに怒るの…
『何で遊んでくれないんだ!』って…あの子と一緒にいてそれが一番怖かったの…」
((ドンッ!ドンッ!))
『お姉ちゃん…開けてよぉ…』
頻りに玄関を開けてくれと玄関から子供の声が…
しかし明日香は絶対にその声に耳を傾けてはいけないと訴える。
カイトもそうやってドアを開けてしまいミノルに連れ去られてしまったからだ。
右京「しかしこうしていても埒が開きませんね。どうしたものやら…」
明日香「あぁ…ミノルくん!もうやめて!?」
必死に懇願する明日香、その時だった!
『杉下…杉下…』
明日香「今度は子供じゃなく大人の声が…!」
右京「この声は…どこかで聞いたような…?」
『杉下…私ですよ…杉下…』
右京「あなたはもしや…小野田官房長!?」
その声は右京にとって懐かしくも聞き覚えのある声、
それはかつての上司でもあり因縁のある間柄でもあった小野田公顕であった!
右京「ですがあなたは既に亡くなっているはず…これは一体!?」
そう、小野田公顕は2009年に警視庁の幹部職員に逆恨みの形で殺害されてしまった。
その光景を右京自身も間近で目撃していたのに一体何故…?
『助けてください杉下…早く中に入れて…』
右京「…」
明日香「苦しんでいる…きっとミノルくんの所為だわ…」
右京「ミノルくん…ですか…」
明日香「そう、あの子は昔からそうだった…
ミノルくんは私や皆子ちゃんとは2歳離れた6歳の男の子…
普段は大人しいけど自分の思い通りにならない事があれば怒って暴れ出して…
年上の私たちでも手が付けられなかった…」
右京「なるほど、これで全ての謎が解けました。」
明日香「え…?それはどういう事…?」
そして右京は玄関の前に立った。
しかし決して扉を開けずに、玄関の前にいるであろう官房長に語りかけようとする。
右京「官房長、お久しぶりです。杉下です。」
小野田『杉下…久しぶりですね…さぁ、早く扉を開けてください…』
右京「勿論、他ならぬ官房長ですから一刻も早く開けたいのですが…
その前にひとつだけ、質問させてほしい事があるのです。」
小野田『質問…?一体何故…?それよりも早く扉を…』
右京「簡単な質問です。官房長には当然の事ですのですぐに終わりますよ。」
そして右京は官房長にある質問をする。それは…
右京「官房長、あなたのお名前。つまり本名は何というのでしょうか?」
小野田『ハァ…?本名?』
明日香「杉下さん…何を言っているの…?」
右京「答えてください官房長。あなたならすぐにわかるはずですよ!」
右京「官房長ッ!!」
声を荒らげて官房長に呼びかける右京。
そして官房長も観念したのか右京に対して返答を…
小野田『公顕…』
右京「はぃぃ?」
小野田『小野田公顕(こうけん)…これでいいですか?』
右京「…」
右京の質問に答える官房長、だが…
右京「なるほど、小野田公顕(こうけん)。今の発言に間違いはありませんね。」
小野田『そうですよ、私はお前の知る小野田公顕(こうけん)。これで納得しましたか?』
右京「えぇ、納得しましたよ。
扉の前にいるあなたが僕の知る小野田官房長とはまったくの別人だという事がね!」
【!?】
明日香「杉下さん!それってどういう事なんですか!?」
右京「これは僕も最近になって知った事ですが、官房長の本名。
つまり公顕(こうけん)という名前はこれは公顕(きみあき)と読む名前だそうです。」
明日香「き…きみあき?」
右京「その通り!
しかしこの扉の前にいる官房長の名を騙る人物は公顕(こうけん)と読んでいました。
もし扉の前にいるのが本物の官房長なら、
自分の本名を間違えるなどという愚かしい真似は絶対にしないはずですよ!!」
『!?』
((ダダダッ!))
明日香「逃げて行くの…?助かったわ…」
扉の前にいる何者かが去りホッとひと安心する明日香。
だが右京にとってはここからが本番であった…
右京「それでは本題に入りましょうか明日香さん。」
明日香「本題…?」
右京「そう、本題です。そろそろあなたの幻を解き放つ時が来たのですよ!」
明日香「幻…?一体何を言ってるの!?」
右京のいう幻、それは一体何だというのだろうか?
右京「明日香さん、あなたは本当はこの家にたった一人で住んでいるのではありませんか?
それも昨日、今日の話ではなく…22年も前からずっと!」
明日香「馬鹿な事を言わないで!私にはちゃんと家族が!」
右京「家族ですか?ではこの玄関の前にある革靴に注目してください!」
明日香「革靴…?それはお父さんの靴じゃ…」
右京「そう、これはあなたのお父さまの紳士靴です!
イーニアスの革靴ですがよくお手入れされていますねぇ…
それも今まで一度も履いた事すらないくらい綺麗なままで!」
明日香「それが何か…?」
右京「いくらブランド物の靴とはいえ一度くらいは履いているはず!
それを一度も履いていない。いえ、それだけではありません!
この下駄箱にある靴はどれも長年使用した形跡がない!
靴は外出する時に絶対に使われる必需品!
それがまったく使われてないというのは絶対にありえません!
つまり、あなたは嘘をついているんですよ!!」
明日香「嘘…そんな…じゃあ私の家族は!?」
自分の家族はいない。
それならば一体どうなったというのか!?
明日香はその事を右京に問い質そうとする。
そこで右京は篠崎宅で発見したスクラップ記事を明日香に読ませた。
明日香「これは…」
右京「22年前、この団地の自治会で催された遠足会で起きた事故についての記事ですよ。
そこにはこう記されています。
『バスが横転事故、乗員、乗客に死者が出るほどの大惨事!』と…
犠牲になったのはバスの運転手に乗務員。
それに前列に居たミノルくん以外の木下家に後列の篠崎家、
それにもうひと組犠牲になったのが…
『二宮勲』 『二宮佐智子』 『二宮聡』
つまり二宮家のご家族はその事故であなた以外全員亡くなってしまっているんですよ!!」
明日香「そんな…だって時計は!お父さんとお母さんから貰った時計が!?」
右京「最近プレゼントに貰った時計だそうですね。
しかしよく見てください。実の娘へのプレゼントにそんな古びた時計を用意する親がいますか?」
明日香「古びた…?
嘘…だって…お父さんとお母さんがくれた時計…
そうだ…お父さんはやっとお休みが取れたんですよ!
だから今度は家族一緒に出掛けるんです!?」
右京「えぇ、あなたは確かにご家族の方と出掛けましたよ。22年前に…」
明日香「そんな…どうしてそんな事がわかるんですか!?」
右京「スクラップ記事をよく見てください。被害者遺族のインタビューの記事です。
そこにあなたが今言った事が全て載っていますよ。」
右京にそう言われた明日香はそのインタビューの記事を見てみた。
するとそこには…
『今回の事故については本当に何と言ってよいのやら…』
『生き残った姪はまだ小学2年生になったばかりなんですよ!』
『久しぶりの家族の楽しい遠足だったのに何でこんな悲劇が!?』
明日香「これ…私がさっき言っていた事と全部同じ…けど一体どうして…?」
右京「思えばあなたのお話にはいくつかの矛盾点があった。
まずは弟さんについて、あなたは現在30歳くらいのはずです。
なのに小学生の弟さんから『そんなに変わらなくせに』と言われるのはどう考えても違和感があります。
ですがこれが22年前の発言ならあなたと弟さんは1歳差しかありません。
先ほどの『そんなに変わらなくせに』の言葉が一致するんですよ!」
明日香「じゃあ…私がいつも話していた家族は…?」
右京「あなたはこの22年間ずっと思い込んでいたのですよ。
死んだはずの家族が今もまだ生きていると…」
明日香「そんな…じゃあ…私は…一体どうして…?」
明日香は22年前の事故から今日までの日の事を振り返っていた。
家族など本当は何処にもいなかった。
あの事故のあった日からいつもたった一人…彼女は孤独だった…
右京「あなたは今日までその事実に目を背いてきたのですね。
ですがそんな日々も終わりを告げる時がきたのですよ。
さぁ、教えてください。カイトくんは一体どこにいるのですか?」
右京が明日香からカイトの居場所を聞き出そうとした時であった…
明日香「「あ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」
右京「明日香さん…!?」
((ゴンッ!))
右京「がはっ…!?」
明日香「…」
明日香は周りにあった鈍器で右京を気絶させてしまう。そして…
…
……
………
甲斐「杉下さん!しっかりしてください!」
右京「カ…カイトくん?ここは…?
ハッ!そうでした!僕は二宮明日香さんに気絶させられてここに!?
僕とした事が…迂闊でした…!」
右京は目が覚めると、
行方不明になっていたカイトと一緒に奇妙な室内に閉じ込められていた。
周りは分厚い鉄板で閉ざされ、床にはゴミの燃えカスが散乱している状態であった。
右京「ここはもしや…ゴミ収集場では!?」
明日香「さすが杉下さん、もうお気づきになったんですね…」
甲斐「明日香さん!あんた一体何を考えてるんだ!?」
明日香「私たちは今焼却場の中にいるんですよ!」
「「焼却場!?」」
甲斐「おい!何でこんな事をするんだ?」
明日香「あなたたちが私の秘密を暴こうとするから…だから…」
右京「秘密、やはりそういう事だったのですね。」
甲斐「杉下さん!一体どういうことなんですか!?」
右京「そもそも事の発端は22年前のバス事故に合ったのです!
そう、22年前…乗客の4家族の運命を変える出来事が…!」
そして右京は22年前のバス事故の真相について語り始めた!
右京「22年前のバス事故、それは『帰り道』に起きた。これが重要なのです!」
甲斐「帰り道って何でそこが重要なんですか!?」
右京「それは当時のミノルくんの性格に問題があったからです。
明日香さん、ミノルくんはお友達と遊ぶといつも帰るのを嫌がる。そうですね!」
明日香「そうよ、あの子はいつも帰るのを嫌がっていたの…それが…」
右京「そう、その所為であの事故は起きてしまった。
いえ、あれは事故というよりも事件!それも殺人事件ですよ!!」
甲斐「殺人事件!?」
明日香「…」
右京「実は先程鑑識の米沢さんにお願いして22年前のバス事故の資料を調べてもらいました。
そのバスのハンドル部分の指紋を調べてもらったところ、ドライバーの他にもうひとつ奇妙な指紋が付いていました。」
甲斐「奇妙な指紋…?」
右京「それは小さな子供の指紋、そう!行方不明になったミノルくんの指紋ですよ!」
甲斐「ハァッ!?」
右京「明日香さん!つまりはこういう事ですね!
ミノルくんはバスの帰り道に恐らく大人の誰かに『もう帰るんだよ』と言われて、
心底腹が立った!
普段から遊びが終わると怒るミノルくんです。その発言に怒り出したのでしょう…
だから前列の席にいたミノルくんはドライバーのハンドルを悪戯に操作して、
バスを横転させてしまったのです!」
甲斐「なんですって!?
けどちょっと待ってください。それはおかしいですよ!
それが本当なら何でその記事にミノルくんがやった事が記載されていないんですか!?」
右京「恐らくその他の生存者たちには知らされずに犯行に及んだのでしょう。
彼は事件当時6歳、小さな身体をした少年なら大人の目を掻い潜って悪戯をする事も可能だったはず…」
明日香「そうよ、それを…」
右京「その光景をあなたは目撃してしまった!」
甲斐「えぇっ!?」
明日香「…」
甲斐「でもおかしいじゃないですか!
もし彼女がそんな光景を目撃していたなら何で事故の直後に誰にも言わなかったんですか!?」
カイトの真っ当な疑問、だがそんな疑問を明日香は悔しながらこう答えた!
明日香「そんな事言っても誰も…誰も信じてくれなかった!」
右京「そう、6歳の少年がドライバーのハンドルを悪戯したなどと誰も信じなかったのでしょう。
だから…あなたは…」
甲斐「まさか…」
右京「そうです、明日香さんは…復讐を行ったのですよ!!」
甲斐「そんな…!?」
明日香「…」
そして右京はミノルが何故失踪したのかその理由を明日香の前で暴いてみせた!
右京「明日香さん、率直に言いましょう!
22年前、あなたは団地に設置してあるダストボックスを使い、
ミノルくんをこのゴミ収集場で焼き殺したのですね。
その殺害方法はあなたが隠れんぼの鬼をする振りをしてミノルくんがダストボックスに隠れるように仕組んだ。
そしてゴミ収集車はそれに気づかずにミノルくんを持って行き、そしてミノルくんは…」
甲斐「焼け死んだ…それじゃあここにはミノルくんの焼死体が…?」
明日香「そう、たぶんその焼却場を探せば出てくると思うわよ!」
甲斐「それじゃあキミはミノルくんに家族を殺されたからその復讐に…
けどそれだと小西皆子はバス事故には全然関わりがないんじゃ…?」
右京「いいえ、彼女もこの事件に深く関わっているのです!
そう、その事が原因で後に性格が荒んでしまうほどに…
22年前、バス事故であなたの他にもミノルくんが犯した罪を目撃していた人物がいたのです!
それが、小西皆子だったのですよ!!」
甲斐「そんな…!?」
明日香「…」
右京「それだけではありません。
恐らくあなたは彼女にこう唆したのではありませんか?
『家族の復讐をしたい、手を貸してくれ!』と!」
甲斐「それじゃあ小西皆子はこの二宮明日香と共犯だったんですか!?」
明日香「…」
22年前のバス事故、ミノルが引き起こした事件のもう一人の目撃者である小西皆子。
彼女が明日香とミノルの殺害の共犯であったとはカイトにとってその事実は衝撃的でった!
甲斐「そんな…小西皆子が…」
右京「そう考えると全ての解釈が可能となります!
22年前、小西皆子は二宮明日香と共に犯行に及んだ。
しかし幼い子供が殺人などという行為を行えば心身にどんな影響を与えるか…
そしてそれが後に小西皆子の人生に大きな影響を及ぼしてしまった!
殺人の事実を隠すために彼女の心は荒みあのような人生を送ってしまったのでしょうねぇ。」
明日香「皆子ちゃん。死んじゃったんだ…
だから私から離れるなってちゃんと忠告しておいたのになぁ…」
甲斐「忠告…?一体どういう事だ!?」
明日香「私と皆子ちゃんはお友達だった。
私はバス事故の時、家族を死に追いやったミノルくんが許せなかったの…
けど私一人でミノルくんを殺すのは恐かった。
だから皆子ちゃんにも手伝ってもらったの!
けど皆子ちゃんは…あの後…新潟に引っ越しちゃった…
酷いよね、わたしを置いてけぼりにするなんて…」
右京「やはり…彼女はあくまで共犯。実行犯はあなただったのですね!」
明日香「そう、まず皆子ちゃんに頼んでミノルくんを隠れんぼに誘ったの。」
右京「団地の前にあるダストボックス、隠れんぼをするのにあの場所は実に隠れやすいですからねぇ。
そのダストボックスにミノルくんは誤って隠れてしまった。
しかしその事を知りながらあなたと小西皆子は隠れんぼをやめてしまいその事に気付かなかったミノルくんは…」
甲斐「このゴミ収集所に間違って送られてしまい焼却されてしまったと…
なんて残酷な話だ…」
思わずミノルに同情してしまうカイト。
だが明日香は…
明日香「残酷ですって!?」
『残酷』、そのカイトの発言に明日香がこれまでにないほど声を荒らげ始めた!
明日香「あの子は…ミノルくんは…私の家族を殺した後…こう言ったのよ!
『これで僕たちの邪魔をするヤツはいなくなった。思う存分遊べるね!』
無邪気な笑顔でそう喜んで言ってたわ!私の家族を皆殺しにしてね…!!」
甲斐「そんな事を…」
右京「…」
明日香「あの日はお父さんが忙しい仕事が終わってようやくの家族の休日だった!
お母さんも美味しいお弁当を作って楽しみに…
弟はまだ小学生になったばかりだった!
それなのに…あの悪魔は私の家族を殺したのよ!?」
涙を浮かべながらその思いを語る明日香。
しかし右京は…
右京「それでご家族の無念は晴らせましたか?」
明日香「当然よ!だから私は家族と…」
右京「えぇ、凶行に及んだあなたはそれから22年間居もしない家族との団らんを過ごしていた。
それがどういう事だかわかりますか?」
明日香「一体何を…」
右京「あなたと小西皆子は22年前に犯した罪の重さに耐え切れなかった!
だからこそ小西皆子はその後荒んだ人生を送ってしまい…
そして明日香さん、あなたも罪から逃れるために幻の家族と22年間過ごす事になった!
そんな人生で果たしてあなたたちは幸せだと言えますか?」
明日香「そ…それは…」
甲斐「そうだ!確かに死んだご家族はキミの幸せを願っていた!
でも…それなのにキミ自身はどうだ?
22年間もこの団地で家族の幻に囚われて…
そんな姿を本当のご家族が見たら…きっと悲しむぞ!?」
明日香「…れぇ…」
明日香「黙れぇっ!?」
右京とカイトの説得、だがそれが逆に明日香の逆鱗に触れてしまう!
明日香「今更そんな事言われても遅いのよ!
ミノルくんも!あなたたちも!それに私も!みんな死ぬの!
そう…皆子ちゃんや私の家族みたくみんな一緒に…!!」
((ゴォォォォッ!))
甲斐「やばい!明日香さんが…火をつけやがった!
これじゃあみんな焼け死んじまうぞ!?」
明日香「「あははははははは!!」」
カイトの言う通り、このままではこの密室は炎に包まれ全員が焼け死んでしまう。
その時だ…
『ねぇ、遊ぼ?』
明日香「え…?」
甲斐「今…声が…子供の声が…!」
右京「おや?僕には何も聞こえませんが?」
明日香「この声…まさか…」
カイトと明日香にのみ聞こえる奇妙な声…
明日香はこの声に聞き覚えがあった。
この22年間、この声の主は何度もクロユリ団地で明日香を苦しめ続けてきた張本人なのだから…
ミノル『ねぇ、遊ぼ?』
明日香「「ギャァァァァァァッ!?」」
甲斐「明日香さん!?」
右京「いけない!パニック状態を起こしたようですよ!」
突如として発狂する明日香、そんな時!
((ガシャンッ!))
伊丹「はい!警察―――ッ!」
芹沢「杉下警部!大丈夫でしたか!?」
甲斐「伊丹さん!それに芹沢さん!どうしてここが?」
右京「実は米沢さんに前もって知らせておいたのですよ。
もしも僕から1時間以内に連絡がなければこの団地近隣、及び廃棄されたゴミ収集場を調べてくれと。」
こうして右京たち特命係の危機を救った伊丹たち捜査一課。
二宮明日香はその場で取り押さえられ警察へ連行される。
その後、米沢たち鑑識の調べた結果、このゴミ収集場から一人の少年の焼死体が発見された。
その焼死体こそ、この22年間廃棄されたゴミ収集場に取り残されていた木下稔であった。
甲斐「痛たた…それにしても外じゃもう三日も過ぎてたんですね…
監禁されてたから日にちの感覚がまったくわからなかったっすよ。」
右京「どうやら監禁された際にスマートフォンや財布などを二宮明日香に取られていたようですね。
その所為で外部との連絡が取れなかったわけですか。」
伊丹「まったく!警視庁の警察官があんな小娘に不覚を取るなんてだらしねえぞ!」
芹沢「まあまあ先輩、カイトは今回被害者なんですから穏便にね!」
米沢「杉下警部、とりあえず木下稔の焼死体は回収できました。
しかしここが破棄されていたおかげで焼死体がなんとか原型を留めてくれて助かりましたな。
今も稼働していたら塵も残っていませんでしたよ。」
右京「こういうのを不幸中の幸いと言うべきなのでしょうかねぇ?」
米沢「それともうひとつ、頼まれていた物を持ってきました。
このクロユリ団地の過去数年における居住者のリストです。それではこれから本部に戻るので…」
右京「どうもありがとう。」
米沢から手渡されたクロユリ団地の居住者リストを確認する右京。
そんな時、伊丹たちにより連行される明日香の姿があった。
明日香「離して!私はここを離れたくないの!」
伊丹「うるさい!いいからさっさと乗れ!」
芹沢「先輩!相手は女性なんだからもっと穏便に!」
右京「少し待ってもらえますか!」
甲斐「杉下さん!一体どうする気ですか?」
連行される明日香を引き止める右京、その理由は…
右京「明日香さん、あなたは先程篠崎さんの幽霊を目撃したと言いましたね。
そしてその幽霊から『お前は殺される』と言われた。間違いありませんね?」
明日香「そうよ…それがどうしたの…?」
右京「もし篠崎さんの霊が悪いモノならば『お前を殺す』というのが普通です。
しかし『お前は殺される』とこれだとまるで警告のように聞こえませんか?」
甲斐「え?どういう事なんですか?」
右京「22年前のバス事故、篠崎さんも巻き込まれていました。
事故により篠崎家も篠崎さんを除いて妻と子供を亡くされています。
それにも関わらず彼はこの団地を引っ越すどころか事件の詳細をスクラップ記事にまとめていた!
何故だと思いますか?」
明日香「そんなの…知らないわよ…私の知った事じゃない…」
右京「いいえ!あなたは知るべきですよ!
何故ならあなたはこの22年間、篠崎さんに守られていたのですからね!」
甲斐「えぇっ!?それってどういうことなんですか!?」
右京「22年前、恐らく篠崎さんもミノルくんが犯したバス事故の犯行を目撃していたのです!
彼はその事を告発しようとしていた。
しかし明日香さん、あなたがミノルくんを死に追いやった事によりそれが果たせずに終わった。
ですがそんな中、ミノルくんの霊がこの団地に現れるという噂が広まり始めた!」
甲斐「それじゃあ篠崎さんは…」
右京「そうです!
明日香さんの隣人である篠崎さんはミノルくんの霊が明日香さんを引き込まないようにしていたのです!
そのために自分の命すら犠牲にして…
篠崎さんが部屋で壁を掻きむしるように亡くなっていたのはその所為だったのですよ!
あの壁を掻きむしる音はあなたへの警告、だったと僕は思っています。」
明日香「それじゃあ私は…ずっと守られていたの?」
右京「えぇ、この22年間あなたは一人ぼっちではなかった。
隣に支え、そして助けてくれていた人がいたのです!
あなたが過去の幻に囚われずにいればもっと違う未来が築けたかもしれません…」
明日香「そんな…いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」
右京たちが見ている前にも関わらず号泣する明日香。
幻と共に生きてきた22年間、だがその影では彼女を守ってくれていた隣人がいた。
その事にもっと早く気づけばどんなに救われた事だろうか…
伊丹「じゃあ今度こそ連行するからな!大人しくするんだぞ!」
明日香「はい…」
芹沢「それじゃあ俺たちはこれで!」
((ブオオオオ!))
甲斐「結局二宮明日香は連行されて事件は幕を閉じるんですね。
けど、杉下さん…俺まだよくわからないんですけど結局ミノルくんって何がしたかったんですか?」
右京「恐らく彼はお友達と遊びたかったのでしょうねぇ。
そう、かつてのお友達である二宮明日香。それに小西皆子と…」
甲斐「はぁ…?」
右京「実は先程米沢さんから頂いたこのクロユリ団地の過去数年間のリストですが…
6年前、つまり最後に転居してきた人物の名前見てもらえますか?」
甲斐「6年前、最後にクロユリ団地に転居してきた人物?
え~と古畑という名前の男が転居してきてますね。
あれ?でもこの男、6年前に家賃も未払で姿を消してますよ?夜逃げか?」
右京「いいえ、そうではありませんよ。彼は姿を消したのではなく殺されたのです!
小西皆子に古畑、キミはこの組み合わせに覚えがあるはずですよ?」
甲斐「小西皆子…古畑…あぁ――――ッ!?
そうか、古畑ってあの…小西皆子に覚せい剤を渡したかつての皆子の男じゃ!?」
右京「そう、その古畑です。
彼は偶然にもかつて小西皆子が子供時代を過ごしたこのクロユリ団地に越してきた!
そこでミノルくんに目をつけられたのでしょう。」
甲斐「それってどういう意味ですか…?」
右京「僕はこう推理します。
ミノルくんはかつての友達である二宮明日香や小西皆子と遊びの続きをしたかった。
しかしそのためには彼女たちに纏わりつく者たちが邪魔であった。
そう考えたミノルくんは古畑を殺害した。
それも、自分のこの居場所を守れるという一石二鳥な方法を使って…!」
甲斐「一石二鳥?なんすかそれ?」
右京「実はこの団地ですが取り壊される予定だったのです。
ですがそれも土木会社の社長が殺人事件を犯してしまった事により流れてしまった…」
甲斐「土木会社…社長…?まさか!?」
右京「そうです。小西皆子を殺害した酒田土木会社の酒田社長!
彼が殺人を犯した事によりこの団地の解体はストップされてしまったのです!」
小西皆子、それに古畑を殺害した酒田…
あの事件の被害者と犯人たちにこんな接点があったとはさすがのカイトも驚きを隠せずにいた。
甲斐「酒田に邪魔な古畑を殺させて…
それに小西皆子を殺したのはそうすればここに彼女の魂が戻るからとでも言うのか…?
何だこれ…ふざけんな!?」
右京「しかしわからない事がまだひとつだけあります。
そんな悪霊がいながらカイトくん。キミはこの三日間、よくぞ無事でしたね。
キミがミノルくんに殺害されなかった理由が何なのか僕にはまだ解けていないのですが…」
甲斐「…」
右京の疑問に対して実はカイトも同じ疑問を抱いていた。
だが、カイトにはひとつだけある心当たりがあった…
甲斐「夢を…夢を見ていたんです…」
右京「夢…?」
甲斐「閉じ込めれている間に昔の夢をね…幼い日に小西皆子と結婚を誓った夢でした。
結局それは果たせませんでしたけど…
今思えばだからこそ俺は助かったんじゃないのかなって…」
右京「なるほど、小西皆子の魂がカイトくんをミノルくんの魔の手から守っていたと…
僕にはどうも理解しがたい話ですが案外これが真相なのかもしれませんねぇ。」
小西皆子の魂がカイトを救った。
その真実を聞き満足した表情をするカイト。
実はカイトはある想いを秘めて今回このクロユリ団地へ訪れていた。
甲斐「杉下さん、俺…悦子と結婚しようかと思っているんです。」
右京「結婚?おやおや、それはおめでたいですねぇ。」
甲斐「でもそのためにはどうしても俺の中で小西皆子の問題を解決したくて…
かつて遊びとはいえ自分が結婚を誓った相手、それがどうしてあんな人生を辿る事になったのか…
それを知りたかったんです。
かつての婚約者がただ残酷な悪女だというのはどうしても納得がいかなかった…
でもこれでようやく自分の中で踏ん切りがつきました!俺、悦子と結婚しますよ!!」
右京「そうですか…」
カイトの結婚するという発言に思わず笑顔になる右京。
それと同時にある事をカイトに告げる…
右京「キミは、いえ…キミたち若者はそうやって前に進み出すものですよ。
いつまでも過去に囚われ前に進まずにいるというのは死者でしかない…
僕はそう思っています。」
甲斐「結局ミノルくんはその前に進む勇気がなかった。
いつまでも過去の楽しい時間に囚われているだけの哀れな少年なんですね…」
ミノルに対してまるで哀れみのような感情を見せるカイト。
そして気づけば陽が落ち、辺りは夜になっていた。
右京「それでは花の里へ行きましょうか。幸子さんや悦子さんが待っていますよ。」
甲斐「そうですね、悦子に結婚の話をちゃんと言わないと。」
右京「それにお父上である甲斐次長に結婚の報告をしなければいけませんねぇ。」
甲斐「え…?マジっすか!?親父は呼びたくないんですけど…」
右京「まったくキミは…
これは上司としてではなく人生の先輩としての忠告ですが、
結婚は自分たちだけ良いというモノではないのですよ!」
甲斐「ハハ、親父に報告ねぇ…それが一番苦労しそうっすね…」
右京の日産フィガロに乗り込みこの団地から出ようとする右京とカイト。
だが二人はその時、花壇に咲いている百合の花を目にした。
甲斐「百合が…昼間に見たのとは違う色に…なんというか黒い…」
右京「なるほど、暗赤色は夜になると黒く見えますからね。
だからこの団地は…クロユリ団地なのですね…」
甲斐「不気味…ですよね…」
右京「さぁ、もう行きましょう。これ以上僕たちに出来る事はありませんよ…」
そして右京は車を走らせクロユリ団地を後にした。
残ったのは…
((キィーコ…キィーコ…))
ミノル『…』
ミノル『ねぇ、遊ぼ…』
ミノル『誰か、僕と遊んで?』
~完~
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません