オッツダルヴァ「問おう。貴様が私のマスターか?」 凛「……」 (564)


『Fate/stay night』と『ARMORED CORE for Answer』のクロスです。

基本は中の人繋がりです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413259256


[遠坂家の屋敷]


凛「来なさい、私のサーヴァント!」ピカアッ


ゴゴゴゴ…


凛「地鳴り……? 一体何がどうなってんの……」


バシュウッ
ドガシャアァン!!


凛「きゃああぁッ!!? なっ、何なのよもう!!」バラバラ


『……フン、ここが予定のポイントか。随分と殺風景な場所だな』ゴウン ゴウン


凛「で……デカい、ロボット……!? てゆーか、あたしの屋敷がメチャクチャじゃない!! どーしてくれんのよ!」


ガコン、プシュー


凛「人が降りてきた……?」


スタスタ


オッツダルヴァ「問おう。貴様が私のマスターか?」

凛「……」

オッツダルヴァ「人の言葉も介さんか。仕方あるまい」

凛「失礼ね! ちゃんと聞いてるわよ!」

オッツダルヴァ「では、なぜ黙っていたのだ?」

凛「……あのねぇ、よもや自分のサーヴァントが主の屋敷を壊して現れるなんて、一体誰が想像つくのかしら?」

オッツダルヴァ「ほう、この陳腐な建物は貴様の家だったのか。まだ地上に人が住める場所があるとは、思ってもいなかったな」

凛「……?」

――――――――――


凛「確認するけど、あんたはどのサーヴァントなの?」

オッツダルヴァ「まるで意味がわからんな、貴様」

凛「あんた……サーヴァントなら、自分が英霊で、どのクラスに属するかくらいわかってるはずでしょ?」

オッツダルヴァ「知らんものは知らん。ここにいるのはランク1、オッツダルヴァだ」

凛「ランク……1? ってことは、サーヴァントでは一番の実力者なの?」

オッツダルヴァ「当たり前だ」

凛「へぇ……(もしかして、こいつがセイバー……?)」



凛「まあいいわ。で、あたしはこれからあんたのこと、なんて呼べばいいのかしら? 普通なら、アーチャーとか、セイバー、ランサーやキャスターみたいにクラス名で呼ぶべきなんだけど」

オッツダルヴァ「……ふむ。気に入らんが、そのままで呼べば良かろう」

凛「……お、オッツダルヴァって?」

オッツダルヴァ「言い方が気に入らんな、貴様」

凛「(こいつ……)」イライラ

凛「で、もう一つ教えて欲しいんだけど」

オッツダルヴァ「何だ?」

凛「真名よ。あなたの、本当の名前。あたしはあんたのマスターとして、知っとく必要があるでしょ?」

オッツダルヴァ「……」

凛「どうしたの? 急に黙って。まさか、知らないなんて言うんじゃないでしょうね?」


オッツダルヴァ「……本当の名前など、私にはない」

凛「は……はあァッ!?」

オッツダルヴァ「あえて言うなら私は、複雑な、あるいは分裂した男だということだ。故に、私に真名は存在しない」

凛「ど、どういうことよ……」ズーン

凛「(自分の真名すらわからない英霊……ってか、そもそもこいつ英霊なの? てゆーか、オッツダルヴァって何!? 全ッ然聞いたことない名前なんだけど!)」クシャ クシヤ

凛「と……とにかく、あんたはわたしのサーヴァントなんだから、これから始まる聖杯戦争を勝ち抜くために、わたしの指示には絶対に従ってもらうわよ。わかった?」ビシッ

オッツダルヴァ「さあ、どうだかな」シラー

凛「……(何で、よりによってこんな変な奴を引き当てちゃったんだろ、私……)」ハァ

オッツダルヴァ「(聖杯戦争、か……。国家解体戦争、リンクス戦争といい、人類は戦いから逃れられんか……)」


――翌日


[衛宮邸]


大河「士郎、起きろ。いつまで寝てるつもりだ」ユサユサ

士郎「うぅん……藤ねえ、ごめん……」

大河「今日の朝食当番はお前だろう。桜がやってくれているぞ」

桜「おはようございます、先輩」ニコッ

士郎「すまない桜……ほとんど任せっきりにしちゃったな」

桜「いいんです。私、好きでやってるんですから」

士郎「そんな……悪いよ。俺だって、いつまでも桜に頼ってばかりじゃな……」カチャカチャ

桜「あ……やります! それ、自分でやりますから……!」アセアセ

大河「……存外、鈍い男なのだな。お前も」

士郎「……?」


[遠坂邸]


凛「……」ムカムカ

オッツダルヴァ「何やら機嫌が悪そうだな、貴様」

凛「当ッたり前でしょ! あんたが昨日屋敷を壊してくれたおかげで、片付けでろくに寝てもいないのよ!!」ゲッソリ

オッツダルヴァ「住む場所なら、他にいくらでもアテがあるだろう。汚染された地上よりは、空の方が空気がいい」

凛「……何、言ってるの?」

オッツダルヴァ「だが人は、いずれ大地に還る。そういう意味では、貴様は正しいのかもしれんな」

凛「……(ダメだ。こいつの言ってること、全然ついていけない……)」ハァ



凛「ああ……忘れてた。あんたと契約したわけだし、手続きは済ませないと」

オッツダルヴァ「何をする気だ? 貴様」

凛「電話よ。今回の聖杯戦争の監督役、綺礼に連絡しなくっちゃ」


トゥルルル…


凛「綺礼? 私だけど、昨日サーヴァントと契約したから、正式にマスター登録をお願い」

???『…………貴様、何者だ』

凛「はぁ? あなた……何言ってるの? 私よ、遠坂凛。何かの悪ふざけなら、あまり感心しないわよ」

???『…………』

凛「ちょっと綺礼、聞いてる?」

???『……そのような名の人間は、ここにはいない。私は死神だから』ガチャリ

凛「! 切られた……」ツー ツー

凛「(声は確かに綺礼だった……でも、死神って……どういうこと?)」


[冬木教会]


凛「綺礼、いるんでしょ? 出てきなさいよ」


シーン…


オッツダルヴァ「まるで、もぬけの殻だな」

凛「おかしいわね。いつもは、この礼拝堂にいるのに……」

オッツダルヴァ「……なるほど、ECMが展開されているか。きな臭くなってきたな」

凛「ECMって……何?」

オッツダルヴァ「簡単に言えば、電子妨害を引き起こすための手段だな。そんなことも知らんのか、貴様」

凛「……悪かったわね。あいにく、そっちの分野には詳しくなくてね」

オッツダルヴァ「そんなことより貴様、あれに気がつかんのか」

凛「……? 何、あのモニター……」


ザザザザ…


???『やあ、おはよう。何の用かな?』

凛「音声……!? あの画面から発しているの?」


???『ひょっとして、君かな? さっき電話をかけてきたのは』

凛「! どうしてそれを……」

???『いやいやいや、これは失礼したね。君が参加者というのなら、喜んで迎えたものを。J、彼女のマスター登録、もう済んだのかな?』

J『……問題ない』

凛「! 今の、綺礼の声……」

???『これで、君も聖杯戦争の正式な参加者となった。おめでとう、君を歓迎するよ。遠坂凛』

凛「ちょ……ちょっと待ちなさい!」

???『何かな?』


凛「あなた、一体何者なの? 声だけ出して隠れてないで、姿を見せたらどうかしら? 大体、ここは綺礼の教会よ。あいつはどこにいるの?」

???『質問が多いね。僕が答えるとでも?』

凛「何ですって……!」ムカッ

???『まあ、一つだけなら答えてあげようかね。君の言う人間――言峰綺礼は、既にここを立ち去ったよ』

凛「え……ええっ!?」

???『彼の失踪に伴い、代わりに僕と、この“J”が、聖杯戦争の監督役として君達をサポートするよ』

凛「綺礼がいなくなった……って、それ、どういうことよ! ちゃんと説明――」

???『話が長くなった。じゃあ、よろしく』プツン

凛「ちょっ、ちょっと! まだ話は終わってないわよ!」

オッツダルヴァ「どうやら、切られたようだな」

凛「……一体、何が起こってるわけ?」

凛「(綺礼が消えて、代わりに出てきたのはモニターに映った奇妙なエンブレムと、声の主。その片割れ、“J”とかいうヤツは、声が綺礼と全く同じか、よく似ているし……)」

オッツダルヴァ「考えても仕方あるまい。聖杯戦争は、もう始まったのだからな」

凛「わかってるわよ。けど、この件に関しては、野放しにもできないわ。定期的に探りを入れてみるしかないわね」

オッツダルヴァ「小細工か? 残念だが、あまり趣味がいいとは言えないな、貴様」

凛「……うっさいわね。あんたに頼らずとも、あたしだけでやるわよ」


――夕方


[衛宮邸]


大河「……」

士郎「どうした、藤ねえ? 怪訝そうな顔して」

大河「……実は、この周辺で、何人かの住民が体調不良を訴え、病院に運ばれる事態が頻繁しているんだ。中には、重症で救急搬送された者もいたほどな」

士郎「食中毒とかの、集団感染じゃないのか?」

大河「それが、どうも違うらしい。原因は不明、ただ、患者の7割に重度の後遺症、残り3割は死亡だそうだ」

士郎「何だよそれ……物騒だな。新種のウイルスによる感染症、じゃなければいいな」

大河「ああ……そうだな」

大河「(そんな生易しいものだったら、私がこうも胸騒ぎするはずはないがな……)」



――数日後


[遠坂邸]


オッツダルヴァ「どこへ行く気だ? 貴様」

凛「学校に決まってるでしょ。あんたも、霊体化してついてきなさいよね」

オッツダルヴァ「……フン。これでは、まるで亡霊だな」シュウゥゥ…

凛「霊体なんだから当たり前でしょ」

オッツダルヴァ「肉体は滅びても、魂までは死なず、か。都合が良すぎるとは思わんか、貴様」

凛「どういう意味よ?」

オッツダルヴァ「……まあいい。今の貴様には、到底わからない話だったな」

凛「……(いちいちムカつくわね、こいつ)」



[学校門前]


凛「……ッ!!」ドクン

オッツダルヴァ「結界が張られているとはな。この感触、かなり派手にやっているようだが」

凛「異常を感じやすい結界を、ここまで大っぴらに張る奴なんてよほどの三流よ。どっちにしろ、あたしのテリトリーでこんなゲスな物仕掛けたこと、後悔させてやるんだから」

オッツダルヴァ「どうする気だ?」

凛「まず、この結界がどんなものかを調べる必要があるわ。壊すか残すかは、その後決めればいい。あんたは放課後までの間、結界の起点だけでもいいから下調べをしておいて」

オッツダルヴァ「まさか、この私に雑用とはな。覚えておけよ、貴様」シュンッ

凛「(なんだ、素直に言うこと聞くじゃん)」


――放課後


[学校屋上]


凛「結界の起点は、これで七つ目か。でも厄介だわ。この術式、私の手じゃ負えない」

オッツダルヴァ「だからと言って、このまま何もしないのもどうかと思うがな」

凛「そりゃそうよ。とりあえず、消しておきましょうか。邪魔をするくらいにはなるでしょ」

???「なぁんだ、消しちまうのか。勿体ねぇ」

凛「!?」

オッツダルヴァ「何者だ? 貴様」

???「開口一番それかよ。 随分と口の悪い英霊なこった」


凛「その槍……まさか、ランサーのサーヴァント!」

ランサー「いかにも。俺の姿が見えてるってことは、お嬢ちゃんはそこの兄ちゃんのマスターってわけかい」

オッツダルヴァ「この忌々しい結界は、貴様の仕業か?」

ランサー「小細工を弄するのは魔術師の役目だ。俺達はただ命じられるままに戦うだけ、そうだろ?」ジャキン

凛「くッ……!」ダッ

オッツダルヴァ「手を貸せ、貴様」パチン

凛「え?」


オッツダルヴァが指を弾いたその瞬間――。

凄まじい轟音と共に、巨大な人型の物体が降ってきて、土煙を立てる。

その形、その姿を視認する間もなく、凛は見知らぬ空間へ転移していた。


ランサー「な、なんだ!? あのデカブツは!」


ゴオォォ…


凛「……あれ、ここどこ?」

オッツダルヴァ「見ての通り、ネクストの操縦席だが」

凛「ネクスト……?」


オッツダルヴァの手に掴まった直後、凛は彼の愛機、≪ステイシス≫のコックピットに転移させられたのだ。

混乱する凛が真っ先に見やったメインモニターには、ちっぽけな人影と化したランサーが鮮明に映し出されていた。


オッツダルヴァ『運が無かったな、貴様』

ランサー「て、てめぇ! どこに行きやがっ……がはッ!!」ゴボッ

凛「ら、ランサーが血を……! どうなってんの?」

オッツダルヴァ『……なるほど、PA(プライマルアーマー)無しでここまでとは。やはり、耐性は無さそうだな、貴様』


ランサー「てめぇ、一体どこの英雄だ! 妙な技を使いやがって……そんなデカいワケのわからねぇモンを動かすサーヴァントなんぞ、聞いたこともねぇぞ!」

オッツダルヴァ『くだらない質問に、わざわざ私が答えるとでも思っているのか、貴様』

ランサー「何だと……!?」

オッツダルヴァ『敢えて言うのなら、ここにいるのはランク1、オッツダルヴァだ』


ガサッ


ランサー「!? 誰だ!」フッ

オッツダルヴァ「逃げたか。まあ、生身の人間でネクストに勝てるわけもない」

凛「違うわよ! さっきの人影を追って行ったんだわ! 早く降ろして! このままじゃ……!」

オッツダルヴァ「全く……面倒ばかりかけるな、貴様」


[校内廊下]


士郎「くそっ、何なんだよアレは!」ゼエゼエ

士郎「(デカいロボットに、青いタイツの男……!? 何だって、この学校であんなものが現れたんだ?)」

ランサー「よお」

士郎「え?」


グサリ
ブシュゥッ


士郎「…………あ」バタリ

ランサー「運が悪かったな坊主。ま、見られたからには死んでくれや」

士郎「」ドクドク

ランサー「死人に口無しってか。運も力もねぇ、てめぇの人生を呪うんだな」

ランサー「(全く、俺のマスターも嫌な仕事させやがる。これで英雄だなんて、お笑い草だな)」

ランサー「……わかってるよ。七人目を捜すんだろ? 直ぐに戻るさ」シュウゥゥ…



――――――――――


士郎「…………っ、うぅ……」ハー ハー

士郎「(……生きてるのか、俺……)」

士郎「一体、何が起きた……?」キョロ キョロ


ジャラッ


士郎「(……? 何だこれ……赤い、宝石?)」

士郎「と……とにかく、家へ帰らないと……」



[衛宮邸]


士郎「何だったんだ、あれ……マトモじゃなかったぞ」

士郎「(殺されかけたのは本当か……いや、殺されかけたんじゃなくて、殺された)」

士郎「(……でも、今はこうして生きている……。あの後、やって来た他の誰かに助けられたんだ)」

士郎「誰だったんだ……? 礼ぐらい言わせて欲しいけど……」


シーン…


士郎「……っ!!(天井から!?)」バッ


ドスン!


士郎「うあッ!」ドシャ

ランサー「……チッ、外したか」


士郎「お、お前は……!」

ランサー「一日に同じ人間を二度殺すとは思ってなかったぜ。いつになく、人の世は血生臭いということか」ジャキン

士郎「(武器……何か代わりになる物は……!)」バッ

士郎「……トレース、オン。構成材質、補強……」キイィィン

ランサー「ほお、巻紙を武器に使うとは、変わった芸風だな。微弱だが魔力も感じる。心臓を穿たれて生きてるのはそういうことかい」

士郎「……っ」ギリッ

ランサー「いいねぇ、少しは楽しめそうだ」ビュンッ

士郎「くッ!」ガキン



――――――――――

ゲシッ


士郎「ぐはあッ!!」ガシャァン

ランサー「詰みだな。全く、機会をくれてやったのに、無駄な真似しやがって」

士郎「……っ、がはッ」ゴホ ゴホ

ランサー「しっかし、わからねぇなぁ。機転は利くのに魔術は空っきしときやがる。筋はいいが……もしや、お前が七人目だったとか? だとしても、これで終わりなんだがな」

士郎「……っ、ふざけるな……」

士郎「(助けてもらったんだ……助けてもらったからには、簡単には死ねない。俺は生きて、義務を果たさなければならないのに、死んでは義務が果たせない……! こんな所で、意味もなく……)」

士郎「――平気で人を殺す、お前みたいな奴に!!」


ランサーの槍が、士郎に迫る。

が、その矛先は、突如として訪れた衝撃によって軌道をずらされ、士郎の身体に届くことはなかった。


ランサー「な、何だ!? 今度は何が起きやがったんだ!」ダダッ

士郎「……こ、これは……」


巻き上がる土煙の中から姿を現した、鋭角的なフォルムが目を引く白い機体――。

その両手には銃が握られ、頭部と思わしき部分には幾つもの青い光点が煌めき、純白のカラーリングが夜空に映える。


???『遅くなりました。申し訳ありません、マスター』

士郎「……マ、マスター……!?」

???『こちらは、≪ホワイト・グリント≫オペレーター、フィオナ・イェルネフェルトです。“彼”との契約により、貴方の召喚に従い参上しました』

士郎「(声……? あのロボットみたいなヤツから聞こえるのか?)」

???『まずは目標の排除を優先します。マスターは安全な場所へ退避して下さい』

士郎「ちょ、ちょっと待て! 契約って何の……!?」

ランサー「ちくしょう! また変なデカブツが出て来やがった! さっきのヤツとは違うみてぇだが……何がどうなってやがるんだ!?」


士郎「! あいつ、逃げる気か?」

ランサー「ったく、こっちゃ様子見が目的だったんだがな! 手札が見えない以上、ここは退かせてもら…………っ」ガクン

士郎「……?(なんだ? 急に倒れたぞ)」

ランサー「……うっ、うげェッ……!!」ゴボゴボッ

士郎「な……なんだあいつ、いきなりあんな量の血を吐いて……」ウッ

フィオナ『民間施設が密集しているこの区域では、PAは展開していません。ですが、やはり通常のサーヴァントにも、汚染の影響は強く顕れるようですね』


士郎「何の話してるんだ? 意味が全くわからないぞ、説明してくれ!」


ドサリ


ランサー「」ゴボリ

士郎「え……(し、死んだ……のか?)」

フィオナ『……付近に、ネクストと思われる機影を確認。これより、迎撃に向かいます』

士郎「お、おい! ちょっと待てって!」

フィオナ『マスターは、ここで待機して下さい』シュゴオッ

士郎「と、飛んだ……!?(あの図体で、あんな速さが出せるのか……)」


――――――――――


いつもと変わらない、冬木の夜――。

しかし、彼ら二人にとっては、そうではなかった。

それもそのはず、彼らの上空では今、二機のネクストが目にも止まらぬ速さで、高機動戦闘を繰り広げているのだ。

数十メートルはあろうその巨大な体躯から繰り出される挙動で、人々が寝静まった閑静な住宅街を縦横無尽に飛び交い、無数の火線を描く。

端から見れば、尋常ならざる光景である。

思わず目を釘付けにされた衛宮士郎と遠坂凛は、自分達が今何を見ているのか、想像もつかないだろう。

世界の歪みは、今この瞬間から生まれ始めていた……。


ドヒャァ!

ドガガガ


凛「……何、何なのよ、これ……何が起きてるわけ!?」

凛「(もう一体、あいつと同じロボットがこの街にいるの!? てことは、近くにサーヴァントのマスターも……?)」

士郎「おーい、遠坂!」タッタッタ

凛「え、衛宮君!?」

士郎「遠坂、ありゃ一体何なんだ!」

凛「こ、こっちが聞きたいわよ! てか、なんだって衛宮君がここにいるのよ! 危ないじゃない!」

士郎「あの飛んでる白いヤツが、突然俺の家に現れやがったんだ。そしたら、敵が近くにいるとか言い出して、そのまま飛び出して行ったんだ」

凛「え……?(衛宮君が……どういうこと?)」


――――――――――


オッツダルヴァ「ホワイト・グリント、なぜ貴様がここにいる……!」

フィオナ『そんな、あなたは……ラインアークで沈んだはず……』

オッツダルヴァ「……まあ、いいだろう。貴様には、ここで墜ちてもらう。今度こそな」

フィオナ『そういうわけにはいきません。私達には、まだやるべきことが残っているのです』


ビーッ、ビーッ


オッツダルヴァ「何っ、システムダウンだと!? 何がどうなってる……」

フィオナ『活動限界……機体の制御、不可能です』



士郎「これで良いんだな、遠坂?」キイィィン

凛「ええ。これで、あの二機も大人しくなるはずよ」

凛「(まさか、こんな形で令呪を使うなんてね……)」キイィィン

士郎「それにしても、何なんだこの痣……いつの間にできてたんだ?」

凛「詳しくは後で話すわ。まずは、あの戦いをやめさせないと。ただでさえ、被害が酷いことになるから……」

士郎「……ったく、戦争やるなら、よそでやってくれっての」


[衛宮邸]


士郎「聖杯戦争……?」

凛「率直に言うと、衛宮君はそのマスターに選ばれたの。あなたの左手に刻まれた聖痕が、マスターである何よりの証よ」

士郎「聖痕って……この痣が?」

フィオナ「令呪のことです。マスター」

士郎「令呪って言うのか、これ……」

凛「そう。その令呪がある限り、マスターはサーヴァントを従えられる――。つまりこの令呪は、絶対命令権なの。サーヴァントの意思をねじ曲げてでも、言いつけを守らせるのがその刻印。さっきだって、あなたのあのロボット……攻撃を止めたでしょ? 私も、令呪を使ってあいつを止めたわけだし」

士郎「そっか。それで、あの時戦いが止まったのか……」


――――――――――


凛「……とまあ、説明はこんな感じね。正直、私でもわからないことがありすぎるんだけど……」

士郎「まだ何かあるのか?」

凛「フィオナ……とか言ったかしら? あなた、本当に衛宮君のサーヴァントなの?」

フィオナ「正確には違います。マスターのサーヴァントは“彼”であり、私ではありません。私は、表に出ない彼の代弁者として、ここに現界しています」

凛「“彼”って……まさか、あのロボットを動かしてたの、サーヴァントなの? でも、サーヴァント本人がマスターに顔を見せないなんて、どうかしてるわね」

フィオナ「……彼は、ネクストから降りることをしません。ですが、マスターが必要と判断すれば、私を通じて呼び出すことができます」

士郎「ちょっと待ってくれ。聖杯戦争ってのには大体理解したけど、ネクストって何なんだ? それに、あのロボット……あんなもの、今まで見たこともないぞ」

凛「それ、私も知りたいわ。私のサーヴァントも、あのロボットみたいなのと一緒に現れたの。あれは一体、どういうものなのかしら?」

フィオナ「……わかりました。順を追って説明しましょう」


◇設定解説


[リンクス]


第五次聖杯戦争にて出現した、サーヴァントの中でも特異な存在。

通常のサーヴァントと違い、突出した身体能力は持たないため、リンクス単体で見た場合、その戦力としては余りにも貧弱である。

リンクス共通の宝具として、アーマード・コア(AC)≪ネクスト≫と呼ばれる機動兵器があり、リンクスはネクストを操縦することで、初めてその真価を発揮する。

リンクスがネクストに搭乗した際、既存の武具や兵器を超越した威力を発揮することから、ネクストを操るリンクスの戦力は、他のサーヴァントより一線を画している。




[ネクスト]


リンクスのみが操れる、次世代人型機動兵器の総称。

全リンクスの共通した宝具であり、他の宝具と比べて使用制限が緩い。

新種の物質≪コジマ粒子≫を動力源に、プライマルアーマー(PA)やクイックブースト(QB)、オーバードブースト(OB)といったコジマ粒子由来の技術を搭載する事により、従来の兵器を遥かに凌駕する圧倒的な機動力と防御力を誇る。

リンクスの意思により、自由自在に召喚・操縦できるが、活動時間はマスターの魔力に依存する。

また、サーヴァント同様、霊体化と似たように姿を消すことができる。

しかし、ネクストほどの質量を持つ物体を不可視状態にする場合、莫大な魔力を短時間で消費してしまうため、マスターへの負担が尋常ではなく、基本は実体化した状態で稼動する。




[コジマ粒子]


ネクストのジェネレーターや各所機構、武器に使用される粒子。

プライマルアーマーやクイックブースト、オーバードブーストなど、ネクストがネクストたる能力の多くはコジマ技術に由来している。

更には、アサルトアーマーやコジマブレード、コジマキャノンなど、ネクストの武装としても活用される。

特徴として、広範囲かつ長期にわたり地球環境を汚染する性質があり、生態系への悪影響と、個人差はあるが人体への健康被害を及ぼす。

ただし、リンクスを召喚したマスターは、その時点からコジマ汚染への耐性が備わる。

また、リンクスがネクストを操縦する際、機体から放出されるコジマ粒子は、マスターとリンクスの敵対意識がある者に強く反応し、毒性を帯びる。

逆に、敵対意識がない者に対しては、コジマ汚染への影響はほとんどない(ただし、その者にとって無関係な人間は、汚染の影響を受けることがある)。

――――――――――

凛「……なるほど。衛宮君のサーヴァントや、あいつは元々、同じ世界でリンクスと呼ばれていて、あのネクストとかいうロボットに乗って戦ってたのね」

フィオナ「はい。この世界に喚ばれた経緯は不明ですが、聖杯戦争については最低限の知識が与えられているかと思われます」

士郎「ちょっと……質問いいか?」

フィオナ「何でしょう?」

士郎「あの青い服の男……ランサーとかいう奴が、ネクストが近くに現れた後、突然血を吐きながら倒れたんだ。あれって、あんた達と何か関係があるのか?」

フィオナ「恐らくそれは、ネクストの動力源に使用される物質、≪コジマ粒子≫の影響ですね」

凛「コジマ……粒子?」



フィオナ「発見者の名前から、そう命名されました。私達がいた世界では、発電施設のエネルギー原動力として利用され、生活圏に欠かせない存在です。また、軍事的有用性も高く、コジマ粒子を軍事技術に転用した兵器が多く開発されました。ネクストも、コジマ粒子あっての技術の産物なのです」

凛「随分と便利なものじゃない。でも、欠点がある……でしょ?」

フィオナ「……その通りです。一度外界に漏れたコジマ粒子は空間に残り、環境や生態系、人体に悪影響を及ぼしてしまうのも事実です。コジマ技術の塊であるネクストは“歩く汚染源”と呼ばれ、ネクストが戦闘行為を行った地域は、汚染の程度にもよりますが、最悪の場合は不毛の地と化してしまう場合もあります」

凛「つまり……今でいう原子力発電や原子爆弾に使われる、放射線に似たような性質のものね」

士郎「待てよ。それならこの街だって、さっきネクストが戦ったばかりだろ。汚染の影響を既に受けているってことか? それに、関係のない一般人だって、もう汚染に晒されているんじゃないのか?」

フィオナ「そのことなのですが、私にも詳しくはわからないのです。元々、汚染の影響も慢性的なもので、直ぐに表面化するわけではありません。一度に大量のコジマ粒子を浴びた場合は即死することもありますが、あなたとあの男性があれだけホワイト・グリントの近くにいて、あなただけ何ともないのは不可解です」

士郎「そ、そうか……」

凛「思えば、私もあのコックピットに入ったことあるけど、今のところ何ともないわね」

フィオナ「人体への汚染の影響も、個人差がありますので、現状では明確な答えを出せません。ですが、極力汚染の影響を少なくするために、高高度での戦闘を心掛けます。実際、彼もあのネクストも、地上戦を避けて空中戦に持ち込もうとしていました」

士郎「それで、あんな上空で戦ってたわけか」

凛「……(あいつ、口は悪いけどやることはやるのね。ちょっと見直したかな)」


――――――――――

士郎「でもおかしいだろ。どうして、聖杯戦争なんてふざけた殺し合いをしなきゃならないんだ?」

凛「……本当は、そのことについて詳しく知ってる人間に会わせてあげたいんだけど、あいにく行方不明なのよね」

士郎「行方不明って……どういうことだよ」

凛「(衛宮君をあの教会に連れて行くのは危険……だけど、行ってみる価値はあるか)」

凛「ついて来て。一応、そいつがいた場所くらいは案内するわ」


[冬木教会]


士郎「ここは……」

凛「教会よ。本当は、ここにいた知り合いの神父が聖杯戦争の監督役を務めてて、参加者の手ほどきとかしてくれるんだけど……」

士郎「今はいない……ってことか」

凛「ええ……」

凛「(もし何かあったら……その時は頼むわよ?)」

オッツダルヴァ(……気が進まんが、まあいいだろう)

凛「とりあえず、中に入るわよ。くれぐれも、勝手な行動はしないでね」

士郎「わかってるって。こっちは、てんで何もわからないんだ」


[冬木教会/礼拝堂]


士郎「何か、結構不気味な教会だな……」

凛「……いるんでしょ? さっさと出てきなさい」

士郎「……?」


???『やあ、おはよう。君は、この前来たマスターだね。そっちのもう一人は見ない顔だけど』


士郎「声!? どこからだ?」

凛「あのモニターよ。ヘンなのが映ってるでしょ?」

士郎「ほ、本当だ……」

???『今日は何の用かな? もしや、そっちの彼が新しいマスターに選ばれたから、正式に登録して欲しいとでも言うのかい?』


凛「そういきたいところなんでしょうけど、まだ当の本人が納得してないのよね」

士郎「俺は、聖杯戦争なんていう、馬鹿げた殺人ゲームに参加するつもりはない。それに、俺がサーヴァントのマスターとして選ばれたんだとしたら、他を当たった方がいいと思うな。マスターが、真っ当な魔術師から選ばれるのだとしたら」

???『なるほどね。つまり君は、この聖杯戦争に参加する気もなく、自分にはその素質がないと。それに、聖杯戦争という存在自体に疑問を抱いているわけだ』

士郎「そうだ」

???『いやはや、これは珍しいね。まさか、こんなマスターが本当にいたとは』

凛「綺礼の代わりにいるんだったら、その辺りの説明もできるはずよね? やってみなさいよ」


???『もちろん。けどその前に、一応聞いておこうかな。君、名前は?』

士郎「衛宮……士郎だ」

???『衛宮士郎。君が、セイバーのサーヴァントで間違いないね?』

士郎「セ、セイバー……?」

凛「えっ、衛宮君がセイバーのマスター!?」

???『まさか、君達自分のサーヴァントがどのクラスか知らなかったのかい? まあ、僕の下にはマスターとサーヴァントの契約が完了した時点で、誰がどのサーヴァントと契約したかすぐにわかるけど』

凛「じゃ、じゃあ……私のサーヴァントは……!」

???『君のサーヴァントはアーチャーだよ、遠坂凛』

凛「そ、そうだったの……(何かもう、今更すぎて……何も言えないわ)」


???『ともかく、君のマスター登録は済ませておくよ、衛宮士郎。これで君も、晴れて聖杯戦争の正式な参加者だ』

士郎「ちょっ、ちょっと待てよ! 俺はまだ、聖杯戦争に参加するなんて一言も言ってないぞ!」

???『マスターとして選ばれたからには、君に拒否権は無いよ。ましてや、マスターの権利を他人に譲るなど、もってのほかだ。マスターとは、その人間に与えられたある種の試練だ。その痛みからは、聖杯を手にしない限り解放されない』

士郎「何……!」

???『全ては、聖杯を得るにふさわしい人間を選別するための儀式なんだ。持ち主に無限の力を与える万能の盃――。それを手にすることができるのは一人だけ。これは、聖杯自身が決めたことだ』

士郎「聖杯が……決めた?」



???『全ては、聖杯自身が行うことなんだよ。七人のマスターを競わせ、一人の持ち主を選定する。それが聖杯戦争だ』

士郎「納得いかないな。一人だけにしたって、他のマスターを殺さなきゃならないなんて、気に食わない」

???『それはちょっと違うね。聖杯戦争は、他のマスターを退場させればいいんだ。だから、必ずしもマスターを殺す必要はない』

士郎「そ……そうなのか?」

???『でも、よく考えてごらん。サーヴァントに対抗できるのはサーヴァントだけだ。しかし、サーヴァントはサーヴァントを以てしても、簡単には倒せない。だとしたら、どうすると思う?』

士郎「……! まさか……」

???『いかにサーヴァントが強力であっても、そのマスターを消してしまえばサーヴァントも消滅する。マスターを先に始末した方が、効率がいいよね』

士郎「そ……それじゃあ、サーヴァントが先にやられた場合はどうなるんだ?」

???『令呪がある限り、マスターの権利は残る。主を失い、行き場を失ったサーヴァントが、また別のマスターにつくこともある。だからこそ、マスターはマスターを殺すのさ』


士郎「じゃあ、この令呪を今ここで使い切ったらどうなるんだ?」

凛「ま、待って衛宮君! 正気なの!?」

???『確かに、そうすれば君のマスターとしての権利は消失するね。その場合、聖杯戦争が終わるまでの君の安全は、僕が保証するよ』

士郎「な……何だってあんたに、安全を保証されなくちゃならないんだ?」

???『それが、僕達の役割だからさ。僕はね、繰り返される聖杯戦争を監督するために存在するんだ。マスターでなくなった魔術師を保護するのは、監督役の務めでね』


士郎「繰り返されるって……今までこんなことが、何度もあったのか?」

???『今回で五度目だよ。前回は十年前に同じ聖杯戦争があった。ちょうどその頃は、未だ原因不明となっている新都の火災が起きた年だね』

士郎「……!?(十年前って……それじゃあ、あの事故は……!)」

???『聖杯に選ばれた者を止める力など、この世には存在しない。なにしろ、望みを叶える万能の盃だからね。己が欲望に突き動かされ、非道や殺戮の限りを尽くそうとする人間が聖杯を手に入れたら、果たしてどうなるかな?』

士郎「…………っ」ゴクリ

???『それを許せないと言うのなら、君が勝ち残ればいい。そうすれば、少なくとも無差別な殺人者に聖杯が渡ることはないよ』

士郎「…………(俺が、勝てばいいのか……?)」

???『後は君の意志次第だよ。僕も忙しいんでね、話はここで終わりだ。君の健闘を祈るよ、衛宮士郎』プツン


[冬木教会/門前]


フィオナ「話は終わりましたか?」

士郎「ああ……」

フィオナ「……どうするのですか、あなたは」

士郎「…………マスターとして、戦うって決めたよ、俺」

フィオナ「そうですか。では、これからよろしくお願いします、マスター」

士郎「“士郎”でいいよ」

フィオナ「では、私のことも“フィオナ”と呼んで下さい。ついでに、彼のことは“レイヴン”と」

士郎「レイヴン……それが、俺のサーヴァントの名前か?」

凛「ちょ、本気なの? あなた、サーヴァントの真名をバラすなんて、そっちの正体をバラしてるようなものよ」


フィオナ「これは、彼の本当の名前ではありません。ただ、私は生前、彼のことをそう呼んでいただけです」

凛「そ、そう……(思えば、彼女達やあいつも過去の英雄ってわけじゃなさそうだし、真名が知られたとこで何の影響も無さそうね)」

士郎「フィオナにレイヴンか。これから、よろしく頼む」

フィオナ「こちらこそ。彼も、あなたの下で、最後まで戦うと言っています」

士郎「……そうか。それは良かった」

士郎「(十年前の火災が、聖杯戦争によって引き起こされたんだとしたら……俺は、あんな出来事を二度と起こさせるわけにはいかない。絶対にだ)」



こうして、衛宮士郎は自ら戦いの運命を受け入れた。

今、リンクスとネクストという、未知のイレギュラーを抱えて、まだ誰も知らない新たな聖杯戦争が始まる。


〈Chapter 1〉 -Thinker-


サーヴァント・リンクスと契約を交わし、ネクストなる力を手に入れた衛宮士郎と遠坂凛。

しかし、この異端とも言えるマスターとサーヴァントは、彼らだけではなかった。

小柄な少女に付き従う、殺戮に飢えたサーヴァントの正体とは?

無邪気な殺意が、二人に襲いかかろうとしていた……。


[街道]


凛「それじゃ、ここからは一人で帰ってちょうだい」

士郎「えっ?」

凛「あのねぇ、ここまで案内してあげたのは、あなたがまだ敵じゃなかったからよ。でもこれで、衛宮君もマスターの一人になった。本来だったら、お互いのマスターとサーヴァントが知れてるなんて、一触即発状態なんだからね?」

士郎「でも俺、遠坂と戦うつもりなんてないぞ?」

凛「やっぱり……そう来ると思った。参ったわね、これじゃあ連れてきた意味が……」

オッツダルヴァ「倒しやすい敵が目前にいるなら、すぐに叩くべきだとは思わんのか? 貴様」シュウゥゥ……

凛「言われなくてもわかってるわよ、全く……」


オッツダルヴァ「わかっているなら、なぜ行動に移さんのだ?」

凛「そ、それは……」

オッツダルヴァ「まあ……私としては、アナトリア失陥の元凶がなぜここにいるのか、そちらの方が疑問だがな」

フィオナ「…………」ギリッ

士郎「フィオナ……?」

オッツダルヴァ「貴様らが仕掛けてこないのなら、こちらから出ても文句はあるまい。ホワイト・グリントが目の前にいるというだけで、私には十分すぎる理由があるのだからな」

凛「ちょ、ちょっと待ちなさいって……」



???「ねぇ、お話はまだ終わらないの?」



凛「……!?」ビクッ

士郎「だ……誰だ? あの女の子……」


イリヤ「はじめまして。私はイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。アインツベルンって言えば……わかるよね?」

凛「アインツベルン……!」

???「嬢ちゃん。自己紹介なんていいからよ、早く殺らせてくれないか?」

イリヤ「もう……バーサーカーったら、ホントせっかちなんだから」プクー

???「悪いな。身体が生きてる間は、殺すしか能がなくてね」

凛「バーサーカー……ってことは、あの男が……!?」

オールドキング「オールドキング、だ。こっちでは、いきなりバーサーカーなんて名前で呼ばれるから驚きだな。確かに俺も、狂ってると言われりゃ狂ってるのかもな」ククッ


オッツダルヴァ「……生きていたとはな、貴様」

オールドキング「久しぶりじゃないか、旅団長。いや、今はオッツダルヴァって呼んだ方がいいのか?」パチン


ズドォン!!


士郎「なっ、何だ!?」グラリ

凛「あのデカいの……まさか、あいつもネクスト持ちなの!?」


ゴオォォ…


イリヤ「もういいよ。殺っちゃえ、バーサーカー!」


――――――――――


真夜中の夜空。

上空では、三機のネクストが飛び交っている。

実質2対1という、本来ならば不利な状況ではあるものの、オールドキングのネクスト≪リザ≫は、ステイシスとホワイト・グリント相手に互角か、それ以上の立ち回りを見せていた。



オールドキング『どうしたよ旅団長? 久々の戦闘で鈍ってるのか?』

オッツダルヴァ『……ッ、味な真似を……』

オッツダルヴァ『(奴め……ああも動きが良くなるものなのか?)』

オールドキング『流石はイリヤの嬢ちゃんだ。マスターの魔力が高ければ高いほど、機体のステータスが強化されてるとはな』



迫り来るリザの俊敏さに、翻弄されるオッツダルヴァ。

至近距離でのショットガンを浴びそうになったが、どこからともなく入った銃撃が、オールドキングの動きを牽制した。



オールドキング『やるじゃないか、ホワイト・グリント。確かに、企業のやっかみを買うだけの実力があるわけだ』

オッツダルヴァ『貴様……』

フィオナ『共同して目標を撃破せよと、マスターからの指示ですので。それに、あなたのマスターも同じ意見です』

オッツダルヴァ『……貸しは作らんぞ、ホワイト・グリント』

フィオナ『わかっています』



オールドキング『でもな、俺ばっかりに気を取られていると、とんでもないことになるぜ?』

オッツダルヴァ『何だと?』

フィオナ『! あ、あれは……』



フィオナが、接近する熱源に注視する。

自律型ネクストが5機、この空域に現れたのだ。

無差別に、ただ機械的に攻撃をするこれらの機体を放っておけば、地上に住む民間人は間違いなく犠牲を被る。



オッツダルヴァ『自律型とは、また面倒な代物を寄越してくれる……』

フィオナ『“彼”が、あのネクストを抑えます。あなたは、自律型ネクストを排除して下さい』

オッツダルヴァ『……いいだろう。せいぜい足掻いてみせるんだな』



OBを噴かし、ステイシスは自律型の殲滅に乗りだした。

一方のホワイト・グリントは、単機でリザに挑む。



オールドキング『ホワイト・グリントと一騎打ちか。たまには、殺し甲斐のある奴とやり合うのも悪くない』

フィオナ『(士郎の魔力がもっと足りてれば、本来の実力を発揮できるのですが……今はやるしかありません)』


――――――――――


オールドキング『I'm a thinker to,to,to,to,to……』

フィオナ『機体損傷、40%……!』



士郎からの魔力供給が不足しているせいか、ホワイト・グリントは思うような戦いができずにいた。

事実として、マスターの魔力不足は、ネクストの全ステータス、ひいては武器の威力や残弾数にも影響する。

イリヤスフィールほど素質の高い魔術師をマスターに持つオールドキングは、リンクスとしての実力以前に機体性能が飛躍的に上昇している。

かつて、最強とまで称されたホワイト・グリントさえも、マスターからの魔力が得られないであれば、追い詰められるのも仕方がないと言えるだろう。



フィオナ『残弾、ゼロ……』カチカチ

オールドキング『どうやら、全部撃ち尽くしちまったようだな』



武器を全て使い切ったホワイト・グリントは、回避に徹する。

しかし、QBやOBでいくら攻撃を躱そうとも、攻撃手段がないのではどうしようもない。

まさに、危機的状況と言えた。


オールドキング『何っ……!』



思いもよらぬ被弾に、リザが体勢を崩す。

その攻撃は、先程まで自律型ネクストの掃討に向かっていたステイシスのものだった。


オッツダルヴァ『……これで、借りとやらは返したぞ。ホワイト・グリント』

フィオナ『あ……ありがとうございます』

オッツダルヴァ『礼など要らん。貴様は、ここで静観していればいい』



そう言い残し、リザへ突貫するステイシス。

しかし、よく見てみれば、ステイシスにも武器は残っていない。

恐らくは、先程の一撃と自律型ネクストとの戦闘で、全て使い切ったのだろう。



オールドキング『血迷ったか? 旅団長』



オールドキングの機体が、淡い緑色の光に包まれる。

その光景が、ある前兆だと気づいたフィオナは、思わず声を上げてしまった。


フィオナ『アサルトアーマー!? そんな、このような場所で使うなんて……!』

オールドキング『何か問題でもあるのか? 殺し合いの最中に周りの奴を気にするなんて、俺からすればどうかしてるぜ』

フィオナ『あ、あなたという人は……!』

オッツダルヴァ『所詮は獣だ。人の言葉も介さんだろう』



突っ込むステイシスと、それに相対するリザ。

このままいけば、アサルトアーマーの餌食になり、オッツダルヴァとその機体は間違いなく致命傷を負うだろう。

しかし、それでもオッツダルヴァは止まることをせず、むしろ加速をかけた。



オールドキング『馬鹿だな、あんたも』



勝ちを確信したオールドキングの笑い声が、オッツダルヴァの耳に届く。



オッツダルヴァ『――ランク1を嘗めるなよ、貴様』



オッツダルヴァの口元が、僅かに動く。

それは、何かの呪文を詠唱するかのようでもあった。

次の瞬間、ステイシスとリザがぶつかり合うのと同時に、コジマ収縮の光が眩い閃光を放つ。



オールドキング『勝っ――』



光は、一瞬で収まった。

それは、凄まじい快音と共に、オールドキングの機体がバラバラに砕け散ったのと、ほぼ同時だった。



フィオナ『一体、何が……』



ステイシスの右腕が、前に突き出されている。

その腕に取りつけられた物体を、フィオナは見覚えがあった。



フィオナ『あれは……』



ステイシスの右腕に取りつけられていたのは、アルゼブラ社製の射突型ブレード≪KIKU≫だった。

恐らくは、リザのアサルトアーマーが発動する直前に、機体同士が接触するのと同時にオッツダルヴァが使用したのだろう。

しかし、武装を全て失ったはずのステイシスが、どこにそんな武器を隠し持っていたのか。

格納武器は幾つか存在するが、少なくともこれほど大型の武器を隠すことなどできないはずである。



フィオナ『……! 応答して下さい!』



ほぼ大破しかけたステイシスが、高度を下げて落下する。

フィオナはホワイト・グリントに促し、ステイシスの回収に向かわせた。



フィオナ『……(とにかく今は、あの機体とリンクスの救出が先です)』



今回の戦闘では、アサルトアーマー発動前にリザを撃破できたため、幸いにもコジマ粒子拡散による被害は防がれた。

疑問は残るものの、今のフィオナには、それだけで十分だった。



[間桐の屋敷]


臓硯「こっ、言峰…………貴様……!!?」バタリ

綺礼「…………」

『ミッション終了、と言ったところかな?』

綺礼「……たわいもない」

『これで、彼女に住み着いた邪魔者は消えた。あとは、僕達の手で器を管理し、完成まで待つだけだね』

綺礼「聖杯…………秩序を破壊する力、異分子……」ブツブツ




〈Chapter 2〉 -Spilit of Motherwill-


バーサーカーのサーヴァント、オールドキングを倒したオッツダルヴァ。

しかし、彼自身の損耗もまた大きく、暫くはサーヴァントとしての役目も果たせそうにはなかった。

そんな中、巨大な敵が彼らの前に立ちはだかる。

歪められた聖杯――。

その完成に至るまで、戦いは更なる破壊を呼ぶ。

冬木の夜に、平穏が訪れることはない……。


[衛宮邸]


凛「ちょっと、本気なの? イリヤスフィールを匿うって……」

士郎「イリヤはまだ幼いんだぞ。それに、他のマスターに命を狙われるかもしれないじゃないか」

凛「そりゃそうでしょうけど、あの子は私達の敵だったのよ? それに、アーチャーだってかなり深手を負ったんだから……」
 
士郎「それじゃ、あの教会に預けるか? それこそ危険だと俺は思うがな」

凛「…………わかったわよ。その代わり、あたしもここに住む。それでいいわね?」

士郎「ええっ? 何だって遠坂が、俺ん家に住む必要があるんだ?」

凛「監視よ。あの子が変な真似しないようにね。それに、あんたには指導することが山ほどあるんだから」



ドンドン!!


士郎「な、何だ!? こんな真夜中に来客か?」

凛「全く、うっさいわね。ただの酔っ払いじゃないの?」



「先輩っ、先輩! 助けて下さい!!」ドンドン!



士郎「その声……桜か!?」ガラッ

桜「せっ、先輩……!!」ダキッ

士郎「おわっ……/// ちょっ、何があったんだ?」

凛「桜……どうしたのよ?」

桜「そ、その………それが……」フルフル



――――――――――


士郎「慎二が、死んでた……?」

桜「物音がして部屋から出たら、兄さんが血だらけで倒れてて……助けを呼んでも、誰からも返事がなくて……」

凛「怪しい奴とか、いなかった?」

桜「それが……私が助けを求めて走ってたら、突然背の高い女の人が出てきたんです。それで、その人が私に向かって『マスター、逃げて下さい』って言ったんです」

士郎「マスター……?」

桜「はい。でも、その女の人は直後に、金縛りにあったように急に動かなくなりました。そしたら今度は、神父さんのような格好をした男の人が現れて、女の人は消えてしまいました」

凛「……何ですって?」

士郎「遠坂、心当たりがあるのか?」

凛「(まさか綺礼が……? でも、今まで姿を見せなかったのに、どうして今更、桜の家に……)」


凛「……私、これから桜の家へ行ってみるわ。その神父って奴が本当にいるのだとしたら、色々と聞きたいことがあるのよ」

桜「遠坂先輩……」

士郎「本気なのか、遠坂? それに、お前のサーヴァントは今、戦える状態じゃないだろ」

凛「だけど……行くしかないわ。衛宮君は桜を守ってあげて。桜だって、衛宮君を頼ってここまで来たんでしょ?」

桜「は……はいっ」

士郎「桜……」
 
オッツダルヴァ(単独行動か。無謀としか思えんな、貴様)
 
凛「(アーチャー……!)」

オッツダルヴァ(まあ、貴様の護衛と言ってはなんだが、私の代理人をつけよう。必要とあらば呼ぶがいい)

凛「(代理人……?)」

オッツダルヴァ(……いけるな? フラジール)



ゴオォォ…



CUBE『はい。そのつもりです』


[間桐の屋敷]


凛「静か過ぎるわね……」コツコツ

凛「(人の気配もなければ、魔術の痕跡も感じ取れない。一体ここで、何が起こったのかしら)」

CUBE『これは……』

凛「どうしたの?」

CUBE『屋敷全体に、コジマ粒子の残滓が確認できます。この濃度、並の人間なら即死のレベルですね』

凛「(コジマ粒子による汚染……だとしたら、まだ他にあたし達と同じリンクスを従えるマスターが……?)」

凛「何かあったら呼ぶわ。それまで待機してて」

CUBE『はい』

凛「(何としても、桜の言ってた神父とやらを見つけ出してやるわ)」タッタッタ



――――――――――


凛「……」カツカツ

凛「(捜索からもう30分経つ。まだ慎二の死体しか見つかってないし、収穫は薄いわね……)」



ジャラリ



凛「……っ!!(誰かいる!?)」キッ



殺気を感じ取り、咄嗟に身構える凛。

刹那、黒い人影が凄まじい速さで跳躍し、鎖に繋がれた鉄杭を凛に投げつけた。



凛「くッ!」ダッ



すんでのところで回避し、体勢を立て直す。

すると、凛の目前には、露出度の高い服装に身を包んだ、長身の女性が立っていた。



ライダー「……」

凛「サーヴァント……!」



生身の人間が、サーヴァント相手に太刀打ちできるはずがない――。

そう考えた凛は、腹に目一杯力を入れて、大声で叫んだ。


凛「来なさい、フラジール!!」



しかし、彼女の声は木霊を響かせるだけで、誰一人としてやってくる気配はない。

再びの静寂が、凛の恐怖を煽る。



凛「え……」



背筋が凍りつく。

向こうのサーヴァントは、いつでもこちらを殺せるはずだ。

ならば、やれることはただ一つ。



凛「このっ!!」



携帯していた宝石の幾つかを放り投げ、魔弾として撃ち放った。

間違いなく命中するはず――。

そう思った次の瞬間、凛は信じがたい光景を目の当たりにする。


凛「なッ……どういうこと!!?」



ライダーに命中するはずの魔力の塊は、彼女の前に張られた薄い膜のようなものに阻まれ、霧散した。

よく見てみれば、ライダーの周囲には薄緑色に光る粒子が彼女を包み込むように環流し、長く流麗な頭髪も、淡い緑色に発光しながらゆらめいている。



凛「あれって……まさか、プライマルアーマー!?」



ネクストの機体周辺にコジマ粒子を安定的に環流させることで、各種攻撃によるダメージを軽減・無効化させる防御膜、粒子装甲――。

PA(プライマルアーマー)と呼ばれるそれを、ライダーは即座に自らの周囲に展開し、凛の攻撃を防いだのだ。



凛「!! あいつは……!」



ライダーの背後には、いつの間にか一人の男が立っていた。

そして、その男の顔を、凛はよく知っていた。



綺礼「……」

凛「綺礼……!」


綺礼「……下がれ。そこの娘に用はない」

ライダー「……」サッ

凛「綺礼……これはどういうこと? あなた、そのサーヴァントのマスターなの?」

綺礼「……」

凛「答えて! 今の今まで、どこで何してたのよ?」

綺礼「……この男は、既に死んだ。肉体という器を捨ててな」

凛「何……言ってるの?」

綺礼「ここは用済みだ。行くぞ」

ライダー「……」コクリ

凛「ま、待ちなさい!」



男――言峰綺礼を追おうとする凛だったが、ライダーによって阻まれてしまう。

その間、綺礼は既に凛の視界から消えていた。



凛「ちッ、逃げられた……!」

ライダー「……」スタッ

凛「……一応聞いとくわ。あなた、あの男のサーヴァントなの?」

ライダー「…………桜を、頼みます」

凛「……え?」



それだけ言い残し、ライダーは消えた。

そして、さっきまで綺礼が立っていた廊下に、落ちている物を見つけた。



凛「これは……ディスク?」



凛が拾ったものは、一枚のMOディスク。

それに一体何が記録されているのか、気になった凛はそれをポケットにしまい、その場を立ち去った。


[冬木市/上空]


CUBE『AMSから、光が逆流する……!』



夜空に、断末魔が木霊した。



CUBE『ギャアアアア!!』



フラジールを墜としたのは、通常のそれとは形も大きさも異なる、異形のネクスト。

あの日、あの場所で、任を解かれたある男が最後に戦った、因縁の機体――。

本来、この世界にあるはずのない遺物は、世界を破滅へと陥れる。

その前兆に、誰も気づくことはなかった……。


[衛宮邸]


凛「……ただいま」ガチャリ

士郎「遅かったじゃないか……」

凛「何よ……気持ち悪い言い方ね。しかも声低いし」

士郎「ああ……すまん。多分疲れてるんだと思う。気がつきゃ、もう夜中の3時半だ」

凛「それはいいとして、桜は?」

士郎「寝かしてる。いくらパニクってたとはいえ、さすがに寝ないとキツいだろうし」

凛「そうね。ところで衛宮君、コレ、再生できる機械ない?」

士郎「ディスク……か。でもなんで、こんな古いモンを?」

凛「いいから。何かの手掛かりになるかもしれないのよ」



――――――――――


士郎「それじゃ、再生するぞ」カチッ

凛「ええ。お願い」



ザザザザ…


『アビスへようこそ
 これがファンタズマだ
 私はついにこいつと一体になった
 もう誰にも私を止めることはできない
 死ね』



ブツン



士郎「ノイズがかかってたけど……男の声、みたいだったな」

凛「…………」

士郎「おい、どうした遠坂?」

凛「な、何でもないわ……」

凛「(……どうして、どうして父さんの声が、こんなとこで……)」

J(黒グリ)→常時高濃度コジマ汚染展開&V時代の高火力ミサイルと大口径実弾の雨嵐+AA

ジョシュア(アレサ)→異形の超大型兵装から発射される弾幕&多段QBによる高速機動戦闘+AA

正面から対決したならまだしも、どちらにしろフラジールが奇襲されたら勝ち目のない機体とパイロットだな…


――翌日


桜「おはようございます、先輩。朝ご飯、もうできてますよ」

士郎「おはよう、桜。面目ないな、また任せっきりに……」

桜「いいんです。私、昨日から先輩にはお世話になってるんですから」

イリヤ「おはよう、士郎!」ガラッ

士郎「イリヤか……朝っぱらから元気だな」

桜「あ……あの、先輩……この子は?」

士郎「ん? ああ、桜にはまだ紹介してなかったな。イリヤっていうんだ。俺の家でしばらく面倒見ることになった」

桜「そ、そうなんですか……」

凛「おはよ……牛乳とってくんない?」ゲッソリ

士郎「遠坂……なんて顔してるんだ」

凛「うっさいわね。朝は苦手なのよ」

桜「(と、遠坂先輩まで……)」


――――――――――

[衛宮邸/士郎の部屋]


士郎「……というわけで、遠坂とイリヤは、しばらくここに住むことになったんだ。何となくわかってくれたか?」

桜「は……はい」

士郎「桜も、俺達と一緒に住まないか? 昨日のこともあるし、遠坂の話だと、もうあの家には戻らない方が良さそうだろ」

桜「えっ……い、良いんですか?」 

士郎「この家はだだっ広いからな。3人くらい人数が増えたところで、どうということはない」

桜「あ、ありがとうございます!」

桜「(先輩の家で、寝食を共に……)」ドキドキ

士郎「そうと決まれば部屋割りだ。居間で二人が待ってるしな、行こうか」


――――――――――


[衛宮邸/凛の部屋]


凛「それじゃあ、これからの方針を決めるわよ」

士郎「ああ」

凛「基本的に、桜とイリヤは家で待機よ。ここ最近、かなり物騒だし、下手に外へ行かない方がいいわ。外出する時は、必ず私か衛宮君の同伴付きね」

士郎「異論はない。でも、学校はどうするんだ? 俺や遠坂、桜は大丈夫だろうけど、イリヤを一人にするのはマズいだろ」

凛「……命かかってんのに、呑気に学校なんて行く必要ないと思うけど?」

士郎「そ、そうだな……」

凛「それと……現状でイリヤに危険はないけど、いざという時はこちらも相応の対処をするわ。一応、あの子もまだマスターなんだから」 

士郎「……わ、わかったよ」

士郎「(あのイリヤが、リンクスの、しかもバーサーカーのマスターだったなんてな。俺に懐いてる時の表情からは、想像もできないけど……)」



[衛宮邸/土蔵]


士郎「……くそっ、やっぱりダメだ」

士郎「(強化の魔術すらロクに扱えないとか……俺、戦力としては問題外だよな)」

オッツダルヴァ「何を難しそうな顔をしてる、貴様」

士郎「!? お、お前は……」

オッツダルヴァ「こんなところで、人目を避けて魔術の鍛錬か。いや……そうでもしなければ、貴様の無能さを皆に見せびらかすことになるからな。わからんでもない」

士郎「……何だと」

オッツダルヴァ「貴様にできることは、精々そのカビた脳みそで必死に想像することぐらいだ。現実で弱々しい貴様にとっては、打ってつけの方法だな」

士郎「……っ(言いたいこと言いやがって……自分が無力なことくらい、身にしみるほどわかってるさ)」



凛「衛宮君、こんな所にいた……って、アーチャー! 傷はもう治ったの?」

オッツダルヴァ「問題はない。ネクストの修復も、ほぼ完了した」

凛「なら良かったわ。ところで、ここで何してたのよ?」

士郎「見ての通り、俺は魔術の鍛錬を……」

オッツダルヴァ「なに、暇を持て余していただけだ」

凛「そう。悪いけど衛宮君、私これから自分の家へ戻るから、あの二人の面倒を見てて。夕方までには帰るから」

士郎「わかったよ。なるべく外には行かないようにする」

凛「頼んだわよ。アーチャー、あなたも行けるならついて来て」スタスタ

オッツダルヴァ「良いだろう。暇潰しには丁度いい」シュウゥゥ…

士郎「……さて、俺もやることはやらなきゃな」



――1時間後


士郎「疲れた……」ハァ ハァ

士郎「(失敗続きだな……めげてもしょうがないけど)」

士郎「もう昼飯時か。桜とイリヤにご飯作ってやらないと……」



ゴトゴトッ



士郎「あ……(積みっぱなしの戸棚が……)」

士郎「ここの整理整頓、もっとしっかりやっときゃ良かったな」ゴソゴソ

士郎「……? なんだ、これ……」

士郎「(カード……か? 何かを読み込む部分があるぞ……)」

士郎「……まあいっか。昼飯食った後でも調べよう」



――――――――――


[衛宮邸/土蔵]


士郎「さて……これが一体何なのか、調べてみるか」

士郎「(まずは、このカードキーと関係がありそうな物を探して……)」キョロキョロ

士郎「……? あれは……!」

士郎「(カ、カードリーダー!? なんで家の土蔵に、こんなものが設置されてるんだ? 切嗣(オヤジ)だって、こんなのがあるなんて教えてくれなかったぞ!)」

士郎「……まさか、これを読み込めってことか?」スッ



ピーッ

ゴゴゴゴ



士郎「(か、隠し扉……!! しかもこれ、エレベーターじゃないか!)」

士郎「…………入ってみるか」ウイィィン


[衛宮邸/地下施設]


士郎「…………な、何だここは……」



士郎が目にしたのは、辺り一面見たこともない機械類に埋め尽くされた、謎の地下施設。

薄暗い室内は一見、古く寂れているように見えたが、どの電子機器もランプが点滅していることから、未だ休むことなく稼働しているのだろう。



士郎「あれは……?」



部屋の真ん中には、人が一人分入る大きさのカプセルが設置され、何本ものケーブルがそれを中心に周辺の機器へ繋がれている。

カプセルの側には小型の端末機が置かれ、モニターの電源も入ったままであった。



士郎「……これ、入れるのか?」



カプセルに近づく士郎。

端末機を見やると、カードの差し込み口があった。

ふと、自分が持っていたカードを思い出して、それを差し込んでみる。

すると、モニターの画面が光を帯び、スピーカーから音声が流れ出た。



『……士郎。聞こえてるかい? 僕だ、衛宮切嗣だ』



士郎「お、親父……!?」



『この部屋に来たということは、士郎にも僕と同じ道を歩める時がやってきた、ということかな』



士郎「……ど、どういう意味だ」




『このカプセルに入れば、士郎は必ず強くなれる。これは、そういう物なんだ』



士郎「……?」



『ただし、力を手にするということは、それに値する大きな責任が伴うということだ。それを受け入れる覚悟が、力を得るに足りうる理由があるのなら、僕は君に、力を与えようと思う』



士郎「親父……」



『僕が、士郎にできるのはここまでだ。もし、力を手に入れたいのなら、カードの裏に印字された文字を入力してくれ。そうすれば、カプセルの扉が開く。後は、君がこの中に入れば、約束通り、力を与えると誓おう』



音声は、そこで途切れた。

士郎は、取り出したカードの裏面を見る。

そこに印字されていた文字列を、コンピューターに打ち込んでみた。



『最終更新……被検体≪レオス・クライン≫の認証を確認。強化手術を行いますか?』



士郎「…………お、俺は……」




強化手術を――


1.受ける
2.受けない


>>375
までの回答数で多かった方を採用します

1



士郎「(……考えるまでもない。俺は切嗣に憧れて、正義の味方を目指すって決めたんじゃないか)」

士郎「俺は……親父が果たせなかった夢、必ず叶えてみせるよ」



ゆっくりと歩を進める衛宮士郎。

彼の心には、迷いなどなかった。

自らが為すべきと思ったことを為し遂げるため、少年は常人の垣根を越えるべく、その身を委ねた。


――夕方


[衛宮邸/居間]


イリヤ「シロウ、お腹減ったわ」

士郎「夕飯まで我慢しとけ。おやつ食った後にまた食べると、太るぞ」

イリヤ「もう! シロウのいじわる!」

桜「あの……クッキー焼いてみたんで、良かったら食べてみてください」

イリヤ「わーい! サクラ大好き!」

桜「先輩も、どうぞ」

士郎「あ、ああ……ありがとう」

桜「お味、どうでしょう……お口に合いましたか?」

士郎「……美味しい、美味しいよ桜」パクパク

桜「よ……良かったです! 気に入ってもらえて」ニコッ

士郎「……?(昨日のことがあるのに、今日の桜はいつにも増して元気そうだな。立ち直りが早い……のか?)」


――――――――――


[衛宮邸/凛の部屋]


士郎「で、何か収穫はあったのか?」

凛「これといったものは特に……でも、こんなのが見つかったわ」パサッ

士郎「何だ、コレ……?」ペラペラ

凛「父さんの部屋から見つけたのよ。何かの書類らしいけど、肝心の本文が潰れてて読めやしないわ。でも、表紙だけはハッキリと残ってる」

士郎「……! 『ファンタズマ計画』……?」

凛「そう。あのディスクの音声で聞こえた、“ファンタズマ”って言葉が、その書類の表題に書かれているのよ」

士郎「(ファンタズマ……どういう意味なんだ?)」


――夜


[新都/ビル屋上]


綺礼「……」

ライダー「……」

『彼女の調子、問題なさそうかな?』

綺礼「……万全だ。いつでも構わん」

『それは良かった。じゃ、始めるとしようか』

綺礼「……ジェネレーター出力上昇。オペレーション、開始」



ライダーの体躯が、淡い光に包まれる。

有無を言わさず従わされつつも、唯一身を案じる主の無事を祈りながら、彼女はゆっくりと口を開いた。



ライダー「……他者殲滅・移動要塞(スピリット・オブ・マザーウィル)」



[衛宮邸]


士郎「な……」

凛「こ、これって……何? 何なの!?」



押し潰されそうな凄まじい魔力の波動を感じ取り、外に出た二人は、まず自らの目を疑った。

余りにも巨大で、街一つが地上からそそり立つかのような、謎の構造物――。

突き出した甲板には幾つもの砲台とミサイルランチャーがあり、目を引く巨大な主砲が左右に三門ずつ、計六門搭載されている。

まさに、要塞としか言いようがなかった。



フィオナ「あれは……アームズフォート……!」

士郎「な、何だそれ……」

フィオナ「ネクストに代わって、各企業が競って開発を進めた、超大型機動要塞です。あれはその中でも、最も巨大なものです」

凛「あんなに大きいの……どうやって呼び出すのよ」

フィオナ「わかりません。ですが、あれを放っておいたら、間違いなくこの街に、計り知れない被害が出るでしょう」

士郎「くそッ……止めるぞ! フィオナ、ネクストは出せるな? レイヴンにも伝えてくれ!」

フィオナ「了解しました、士郎」

凛「あたし達も行くわよ、アーチャー!」

オッツダルヴァ「わかっている。よもや、アームズフォートが相手とは思ってもなかったがな」


――――――――――


凛「士郎、あの二人は?」

士郎「地下室に避難させた。あそこなら、ここいらの避難場所よりも頑丈だろうし」

凛「なら良いわ。私達はここで彼らのサポート、それでいい?」

士郎「ああ。俺達がついて行ったところで、どうこうできるわけじゃないしな。対処法を知ってるなら、あいつらに任せよう」

凛「アーチャー聞こえる? 手筈通り、頼んだわよ」

オッツダルヴァ『……フン。マスターの指示とあらば、致し方あるまい。まあ、空気で構わんがな、貴様』

フィオナ『……期待しています。ランク1のリンクス』


[BLIEFING]


ミッションを説明しましょう。

依頼主はオーメル・サイエンス社。

目的は、BFF社の主力AF≪スピリット・オブ・マザーウィル≫の排除となります。

敵AFの主兵装は、大口径の長距離実弾兵器です。

図体ばかり大きな、時代遅れの老兵ではありますが、その威力、射程距離は、それなり以上の脅威です。

そのため、依頼主からは、VOBの使用をご提案頂いています。

確かに、VOBの超スピードがあれば、容易く敵の懐に入り込むことができるでしょう。

懐に入った後は、敵AFの各所に配置された砲台を狙ってください。

砲台の破壊から、内部に損害が伝播し易いという構造上の欠陥が報告されています。

随分と杜撰な設計ですが、まあ、彼らなど所詮そんなものです。

説明は以上です。

オーメル・サイエンス社は、このミッションに注目しています。

くれぐれも、宜しくお願いしますね。




[新都/市街地]


ゆっくりと、しかし確実に歩を進める、巨大な鉄の要塞――。

道行く建造物をスクラップのように踏み潰し、人の営みをことごとく破壊する。

要塞から伸び出る火線が街を焼き、送り出された兵器群が無差別に、ただ淡々と蹂躙する様は、以前までこの世界にはなかったものだ。

だが人々は、決してその正体に気づくことはない。

都合の良い恐怖は、世界の常であるというのに……。



――――――――――


凛『VOB、使用限界近いわ! 通常戦闘、準備して!』



VOBを装備したステイシスとホワイト・グリントが、一度も被弾することなくマザーウィルに接敵。

時速2000kmも超える超加速飛行で、無数の砲撃を難なくかい潜ったのだ。



オッツダルヴァ『……いよいよか。なに、すぐに終わらせるさ』

フィオナ『各種武装……全弾フル。機体コンディション、良好です(士郎の魔力に、変化が……?)』

士郎『ブリーフィング通りだな。後は、そっちの方法に任せる。何としても、そいつを止めてくれ!』

凛『VOB、使用限界よ。パージするわ!』



VOB接続が解除され、外部ブースターが空中分解する。

すかさずOBを起動させ、素早く敵の懐に入り込んだ二機は、作戦行動に入った。



フィオナ『目標捕捉。ホワイト・グリント、ミッションを開始します』


――――――――――


戦闘開始から45分。

フィオナは、ある異変に気づき始めていた。



フィオナ『(破壊したはずの箇所が、修復している……?)』



それだけではない、いくらMTやノーマルACを撃破しようとも、その数は一向に減る気配がないのだ。



オッツダルヴァ『これは……どういうことだ。いくらこのマザーウィルとはいえ、ここまで無尽蔵に湧き出るものでもあるまい』

フィオナ『……! もしかして……』



ある仮説が浮かび上がったフィオナは、遠方で待機している士郎と凛に、通信を飛ばした。



フィオナ『二人とも、応答願います。これから、私の言うことをよく聞いて下さい』


[衛宮邸]


士郎「遠坂、聞いたか?」

凛「ええ。あの要塞をコントロールしている本体が、近くにいるってことね」

士郎「おかしいと思ったんだ。あんなに大きいものが存在するのに、誰も避難したり騒いだりする気配が無いなんてな」

凛「あの要塞が、何者かの手によって魔力で隠蔽され具現化しているのなら、一般人が気づくはずもないわ。それに、操ってる側の人間から魔力が絶えず供給されるてるとなると、アレにいくら損害を与えてもいずれ修復される」

士郎「俺達で打って出よう。あいつらがアレを食い止めている間に、こっちは術者を黙らせればいいんだろ」

凛「わかってるわよ。けど、士郎はここに残りなさい。あなたの中途半端な魔術じゃ、返り討ちに遭うわ」

士郎「うっ……」

凛「代わりに、あなたは桜とイリヤを見ててあげて。地下室が安全でも、あの二人に何か起こったら危ないわ」

士郎「……わかった。頼んだぞ」

突然ですが、宣伝です!




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なんと!つまらないと今話題のこのSSスレが…

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文句があればこのスレまで

P「俺が…タイムスリップ?」
P「俺が…タイムスリップ?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367720550/)

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――――――――――


[新都/市街地]


凛「……! 見つけた!」



新都にあるセンタービルの屋上に、光る人影が見える。

紛れもなくその姿は、以前間桐の屋敷で相対した、女のサーヴァントに違いなかった。



凛「っ、痛っ……!?」



ライダーのいるビルへ向かおうとした途端に、突然、右手の令呪に痛みが走る。

それは、彼女のサーヴァントが危機に瀕している何よりの証拠だった。



凛「(……アーチャー、あいつに何があったの?)」



何とも言えない不安に駆られながらも、凛はライダーの元へ足を急がせた。


――――――――――


オッツダルヴァ『メインブースターがイかれただと!』



それは、突然の出来事だった。

オッツダルヴァがマザーウィルの破壊に専念している間、どこからともなく跳んできた銃弾が、不幸にもステイシスのメインブースターに直撃したのだ。

真っ先に、共闘していた白いネクスト機を睨めつける。



オッツダルヴァ『……狙ったか、ホワイト・グリント!』

フィオナ『私達ではありません! マスターの方針に背くことなど、私にも彼にもできるはずが……!』

オッツダルヴァ『だとしたら何だコレは! どこからかわからんが、隠れて私を狙う奴でもいると言うのか!』



ステイシスが滞空していたのは、 貨物船着場の付近、その上空。

ということは、落下コースはやはり――



オッツダルヴァ『よりによって海上で……クッ、ダメだ、飛べん!』



徐々に迫る海面。

数秒後、衝撃と共にコックピットごと揺らされ、海水が窮屈な操縦席に流れ込んでくる。



オッツダルヴァ『……浸水だと!  馬鹿な、これが私の最後と言うか!』



忘れることもない、あの時と全く同じ状況に陥ったことに、オッツダルヴァは今までにない苛立ちを覚えた。

まさか、二度も同じ羽目になろうとは――。



オッツダルヴァ『認めん、認められるか、こんなこと』


――――――――――


[新都/センタービル]


凛「……!! アーチャー……!」



自分と、そのサーヴァントとの魔力パスが消え去る感覚。

令呪の痛みも消え、今はもう使われることのなくなった聖痕のみが、未だ彼女をマスターたらしめる証明となった。

しかし、眼前の状況は決して、彼女の心中など察することなく、現実を突きつける。



ライダー「……」

凛「ちいッ……効いてない!」



ライダーは依然として動く気配もなく、コジマ粒子を身体の周囲に撒き散らしながら、マザーウィルのコントロールに徹している。

それを妨害せんとした凛だったが、持ちうる最高の攻撃を以てしても、PAを貫通は愚か、減衰させることすら叶わない。

だからと言って、ライダーに接近戦を挑もうにも、彼女を中心に放出される高濃度コジマ粒子を一度に浴びれば、いくら耐性がある凛でも命に関わる。



凛「どうしよう、このままじゃ……!」



事実として、マザーウィル進撃による破壊とその被害は、凛の予想を遥かに超えるものだった。

それをこのまま放置すれば、更に多くの人命が塵芥のごとく散っていくだろう。

何もできない自分にどうしようもない怒りをぶつけながら、凛は策を必死に探し求めていた。



――――――――――


王小龍『……一度のみならず、二度も水中に没したか。ランク1も、所詮は飾りに過ぎん……』

王小龍『(アサシンのサーヴァント……実に私らしいと言えば私らしい、か)』



???『闇討ちか。全く変わってないな、王大人』



王小龍『……? 貴様は……!』



???『BFFの重鎮としては、あのAFを手助けしたいところなのだろうが、アレを好き放題にさせておくのは、私の信条に反する。悪いが、覚悟を決めてもらおう』



王小龍『……インテリオルの女狐め。よもや私の邪魔をするとは……』


――――――――――


マザーウィルの砲火は衰えず、敵AFの侵攻を止めることができないフィオナは、次第に焦りを感じていた。



フィオナ『(……まだでしょうか。このままだと、いずれ街は廃墟に……)』

???『そこの白いネクスト、聞こえるか?』



通信回線に、聞き慣れない声が乱入した。

同時に、 ホワイト・グリントの真正面を、真鍮色の軽量二脚型ネクストが通り過ぎる。



ウィン・D『こちらは≪レイテルパラッシュ≫、ウィン・D・ファンションだ。このAFを操っている術者は、私が仕留める。貴方には、暫くその場で持ちこたえて欲しい』



歯に衣着せぬ物言いで幾多の戦果を挙げ、“GAの災厄”とまで称された、インテリオル・ユニオンが誇るランク3の女性リンクス。

フィオナも、その名前には聞き覚えがあった。

彼女がこの場に居合わせるとは予想していなかったが、敵意はないらしく、むしろ協力すると言ってきている。

オッツダルヴァがいなくなった今、考えるより先にフィオナは、迷わず返答を返した。



フィオナ『……了解しました。頼みます』

――――――――――


[新都/センタービル]


ウィン・D『今すぐその場を離れろ。貴方まで巻き込まれるぞ』 



凛「え……? だ、誰!?」



ふと、知らない声が聞こえた。

誰ともわからない、女の声だった。



ウィン・D『アレを止めるためだ。わかっているな?』



凛「……!」



瞬時に声の主の意図を読み取ったのか、凛は魔術を駆使してビルの屋上から素早く離脱した。

100メートル先の雑居ビルに飛び移り、元いた場所を眺める。

ライダーは微動だにせず、コジマ粒子を散布しながら直立したままで、先ほどと変わりはない。

すると――



凛「あっ……!?」



瞬間、まるで稲妻のような光の奔流が、凜がいたビルの屋上に突き刺さった。

そこに、もはやライダーの姿はない。

残ったのは、抉られたビルの上半分から溶け出した建材と、鮮やかな焼け跡のみだった。



◇サーヴァント紹介


セイバー[Unknown]
真名:アナトリアの傭兵
宝具:ホワイト・グリント(中量二脚)

マスターは衛宮士郎。
その姿、声を視認することはできず、常にネクストのコックピットから離れることはない。
マスターとの意思疎通は、代役としてオペレーターのフィオナ・イェルネフェルトが務める。
非企業勢力ラインアークのリンクスであり、名アーキテクト、アブ=マーシュの手になるオリジナル機を操る・。
ランクは9だが、最高クラスのリンクスであることは間違いなく、リンクス戦争では単機で一企業を壊滅させている。


アーチャー[オッツダルヴァ]
真名:不明
宝具:ステイシス(軽量二脚)

マスターは遠坂凛。
旧レイレナードの出身と言われる、オーメルの切り札。・
生え抜きとは異なり、常に戦場にある、実戦派の天才。
標準機LAHIREのコンセプトをあからさまに無視した中距離射撃スタイルが、オーメルとの距離感を象徴している。
新都にてスピリット・オブ・マザーウィルとの交戦中、ストリクス・クアドロの放ったスナイパーキャノンの狙撃を受け、メインブースターに直撃してしまう。
その後、新都の湾岸に墜落、海中に没した。


ランサー
真名:クー・フーリン
宝具:刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)

魔術師バゼット・フラガ・マクレミッツによって召喚される。
しかし召喚から7日目、バゼットは旧知であった言峰綺礼により騙し討ちに遭い令呪を奪われ、令呪の強制力を以て綺礼をマスターとすることに賛同させられる。
綺礼の命令により諜報活動を強いられていたが、衛宮士郎が偶発的に召喚したホワイト・グリントに遭遇、機体から放出されたコジマ粒子による汚染に耐えきれなくなり、全身から血を吹き出して死亡。
今回の聖杯戦争最初の脱落者にして、コジマ汚染最初の犠牲者となった。


ライダー
真名:メドゥーサ
宝具:他者殲滅・移動要塞
   (スピリット・オブ・マザーウィル)

間桐桜のサーヴァントとして召喚されるはずだったが、言峰綺礼と何者かの手によって儀式を改竄され、以来は綺礼のサーヴァントとして従わされる。
体内にコジマ粒子を貯蔵したジェネレーターを埋め込まれ、コジマ粒子とサーヴァントの融合体として実験材料にされた。
その影響により、自身の宝具が本来の能力を失い、代わりにAF≪スピリット・オブ・マザーウィル≫を強制召喚してしまう。
最期は、レイテルパラッシュの放ったハイレーザーキャノンによって蒸発した。


キャスター
真名:ウィン・D・ファンション
宝具:レイテルパラッシュ(軽量二脚)

GAの災厄と呼ばれた、インテリオルの女性リンクス。
前線兵からは、ブラス・メイデンの蔑称で呼ばれることも多い。
乗機レイテルパラッシュは、軽量ながら高い火力を誇り、容赦ない戦い振りと、完璧なミッション成功率で名高い。
新都を襲ったマザーウィルの無差別殺戮を看過できず、ホワイト・グリントに協力し、コントロール源のライダーを跡形もなく消滅させた。
マスターは不明。


アサシン
真名:王小龍
宝具:ストリクス・クアドロ(四脚)

謎の多いBFFの老リンクス。
かなりの高齢であると言われているが、詳細は不明。
遠距離狙撃用の重四脚機を操り、支援に徹するスタイルは国家解体戦争当時から変わることはない。
マザーウィルとの戦闘に扮してステイシスを遠方から狙撃し海中に沈めたが、後にレイテルパラッシュによって撃破され、聖杯戦争から脱落した。
実は、言峰綺礼と何者かによって召喚され、利用されていただけのサーヴァントだった。


バーサーカー
真名:オールドキング
宝具:リザ(逆関節)

マスターはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
かつて反体制武装勢力リリアナを率いたリンクス。
ORCA旅団内でも孤高を保つ、確信的な異端者。・
アルゼブラベースの逆脚機に、重ショットガンという構成は、かつてのナンバー2、サーダナとの繋がりを伺わせる。
聖杯獲得を悲願とするアインツベルンが偶然にも召喚したサーヴァントだったが、当の本人は聖杯自体に興味はなく、ただ殺せるという理由で聖杯戦争に参加した。
オッツダルヴァを追い詰めたものの、武装が尽きたはずのステイシスによって射突型ブレードの攻撃を受け、機体もろとも貫かれ死亡。


〈Chapter 3〉 -Today-


AFの出現により、新都は壊滅した。

冬木の街は、確実に破滅への階段を歩き出したのだ。

新都での戦いでサーヴァントを失った遠坂凛は、衛宮士郎に協力する形で、引き続き聖杯戦争を続行する。

士郎も、キャスターのサーヴァント、ウィン・D・ファンションと合流を果たした。

今日を生きる人々を守る――。

それだけを迷い無い信条とし、彼らは未知の敵へ立ち向かう。

全ては、聖杯を邪悪な者の手に渡さないため。

しかし、聖杯そのものが、既に世界を破滅させる力を持っていたとしたら……。

世代を越えて語り継がれた万能の願望器も、その本来の意味を失いつつあった。

――――――――――


気づけば、知らない場所にいた。

夕暮れ時だろうか、辺りは不気味に暗くなり、風の音だけが鼓膜を震わす。

よくよく見てみると、ここは見たこともない建造物ばかりで、近未来的な造りをしているような――。


『アナトリアに接近中の、所属不明機体を確認』


声が聞こえた。

間違いない、フィオナの声だ。


『あれは……!? 何故、あの機体が……!』


いつにもない、取り乱した声を絞り出していた。

あの冷静そうな彼女が、ここまで声を荒げるているのが不思議でならない。


『来てはダメ! 何かおかしいわ!!』


ノイズが走って、フィオナの声は途切れた。

代わりに聞こえるのは、何かの駆動音。

それは、段々と近づいてくる。


『遅かったな』


男の声だ。

感情すら感じさせない、とても冷淡な声だったが、どこか虚しさを覚えるような、そんな気がする声だった。


『……言葉は不要か……』


――――――――――


「イメージしろ。現実で自らの非力を悔やむヒマがあるなら、想像の中で打ち勝て」


知ってる声だ。

この声は、確か遠坂のサーヴァントと似ている。

コイツとはどうあっても相容れないと、自然に思い込んでしまうような声だったが、今は不思議とそうは感じない。


「イメージするのは、常に最強の自分だ。まあ、貴様にできるものなら、せいぜいやってみせるんだな」


いちいち癪に触る言い方だ。

けれど、とても大事なことを伝えようとしている気もする。


士郎「イメージって言われても……何を想像しろってんだ」



――――――――――


[衛宮邸/土蔵]


桜「先輩、先輩。まだ起きないんですか?」ユサユサ

士郎「うぅ……桜、もうこんな時間か」

桜「おはようございます、先輩。最近、やっぱり疲れてるんじゃないですか?」

士郎「ああ……あんなことが起きたら、やっぱり落ち着かなくてな」

桜「やっぱり、そうですよね。もう学校には行けなくなってしまいましたし……」



新都での戦いから2日。

アームズフォートの襲来により、冬木はこれまでにない大騒乱となった。

なにせ、十年前の火災とは比べようがない程の人が死に、新都は焦土と化したのだから――。

誰もが、突然の災厄に恐怖した。

これだけの非常事態なのだから、日本政府からの援助があると思いきや、思いもよらない情報を耳にした。

日本各地で、未確認機動兵器が同時に確認されたのだ。

その兵器とやらは、全長7メートルほどの人型のロボットらしい。

それらが一斉に動き出し、街という街を戦場に変えた。

もはや援助どころの話ではなく、日本の軍事力を以てしては、未知の兵器には勝てる勝算もない。

冬木の聖杯戦争が始まって以来、日本は今、混沌の最中にいた。


桜「行きましょう、先輩? 朝ご飯、できてますよ。食材が限られて見栄えは良くないですけど……」 

士郎「贅沢言ってられないよ。それに、桜が作るなら何でも美味しいじゃないか」

桜「そんな……照れますよ」



ここ最近、桜はやたらと元気がいい。

外はこんな状況だってのに、桜に関して言えば、以前よりも明るさが増したというか……。

ことに、俺と二人きりでいる時はいつも笑っている。

逆を言えば、俺が遠坂やイリヤと何かしていると、決まって暗そうな顔をするが。

慎二の葬式だって出せていないのに、何故こうも明るく振る舞えるのか疑問だ。

何か、大事なことでも忘れているのだろうか。



――――――――――

[衛宮邸/地下施設]


士郎「――――同調、開始」


頭に浮かぶのは、一振りの剣。

魔力を一発で通し、イメージした物を現物へと変える。


士郎「……またも成功か。今までの自分が信じられないな……」


地下施設で強化手術を施されて以来、俺の強化魔術は一度も失敗することはなくなった。

それどころか、今では投影も難なくこなしている。

魔力を通すのにあれだけ苦戦していたのが、まるで嘘だったかのように思えてしまう。

とは言っても、あくまでイメージできるのは、決まって“剣”のみなのだが……。


士郎「…………」


目をつむり、再びイメージする。

ふと、今度は見たこともないものが頭に浮かんだ。


士郎「なんだ、コレ……剣じゃないよな」


ぼやけて浮かぶのは、何か鋭利な物体だ。

そして、その物体の先端からは、光が伸びている。

それはまるで、どこかのアニメや映画で見たような、ビームやレーザーのような光の剣みたいだった。


士郎「……ダメだ。とても直ぐには投影できないか」


イメージは掴んだ。

後は、この謎の物体を実体に映せるだけの精神力が必要、ということになるだろう。

――――――――――


[衛宮邸/凛の部屋]


士郎「魔術協会、聖堂教会とも連絡が取れないだって?」

凛「ええ。何度もこっちから呼んでみたけど、結局ダメだったわ」

士郎「じゃあ、これから聖杯戦争は……どうなるんだ」

凛「完全な無法状態よ。綺礼がああも派手に動き回ってるなら、隠す気なんて最初からなかったのかも。あいつの目的が何だか知らないけど、監督役がサーヴァントを操って街を襲ったなんてこと、普通じゃ有り得ないもの」

士郎「確かに……」

ウィン・D「恐らくは、もう魔術協会も聖堂教会も、残らず壊滅しているだろうな」

士郎「! 帰って来てたのか」

ウィン・D「相変わらず粗製が湧いてくるのでな。片付けには苦労するが、味方がいるなら話は別だ」

フィオナ「ここ冬木の街にも、既に未確認ACが出現しています。ネクストの相手ではありませんが、一般人には十分過ぎる脅威です」


凛「ちょっと待って……魔術協会と聖堂教会が壊滅って、どうしてよ?」

フィオナ「……実は、この国のみならず世界各地でも、未確認の兵器による襲撃があったとの情報が入ったのです」

士郎「な……なんだって!?」

ウィン・D「欧州で、複数体の超巨大兵器が出現したと聞いたが、恐らくこれはAFだ。魔術協会も聖堂教会も、既に消されているに違いない」

凛「そんな……」

ウィン・D「あれらの兵器に対抗できるのは、同じAFか、あるいはネクストだけだ。もっとも、その力を有するのはごく少数だがな」

士郎「……くそっ! もう戦争は、世界に広まってるってことかよ……」


状況は最悪だ。

聖杯戦争どころの話ではない、世界全土が戦場になろうとしている。

結局のところ、今の俺達にはこの冬木の街を守ることくらいしかできない。

その間にも、更に多くの命が、世界中のどこかで散っていくのだろう。

自分が助けられる命は、自分が助けようとした命に限られる。

それは、切嗣がよく俺に聞かせてくれたことだ。


士郎「……(聖杯に託す望み……か)」


今までは、聖杯戦争という殺し合いを終わらせるため、ただそれだけを考えて戦ってきた。

自分の望みとか、聖杯にも興味はなかったが、もし、俺が本当に聖杯を手にすることができたとしたら――。

その時俺は、一体何を望むだろうか。


――翌日


[新都/廃墟]


士郎「酷いな……」

凛「こんなに荒れ果てるなんて、ついこの前までは普通の街だったのに……」

ウィン・D『……解せんな。これほどまでに破壊を尽くす理由がわからん』



???『全く同感だな、ウィン・D』



ふと、男の声が聞こえた。

そう、その声には、聞き覚えがある。

ついこの前までは遠坂のサーヴァントとして戦い、今では夢にまで出てくるようになった、あの男の声――。



士郎「遠坂、今の……!?」

凛「……知ってる、アーチャーのだわ! でも、あいつはもう死んだはずじゃ……」



空の遥か向こう側。

黒い、逆脚のACが飛来してくる。

そしてそいつは、俺達の目の前で着陸し、銃口を向けていた。


ウィン・D『……まだ、現世に未練があるのか。テルミドール……いや、オッツダルヴァ』


凛「(オッツダルヴァ……ってことは、あいつやっぱり……!)」

ウィン・D『何をしにきた? 人類のためと言いながら、またも革命を気取る気か?』

テルミドール『……いや、私が用があるのは、そこの男だ』


そう言いながら、黒いACが俺に銃口を傾ける。

一方の遠坂は、そいつに向かって問いかけていた。


凛「アーチャー! アーチャーなんでしょ!? あんたどうして……」

テルミドール『……』


黒いACは答えない。

代わりに、その赤く光る頭部カメラが俺を睨めつける。


士郎「お前、一体何なんだ。何の目的があって、何しに来たんだよ?」

テルミドール『……私は、証明したいのだ。お前が、いかに愚かな存在かということを』

士郎「な、何だと……」

テルミドール『AFが、またも居住区域を襲い始めてるようだ。こんな所で油を売ってる場合か? ウィン・D』

ウィン・D『……貴様の仕業ではないのだろう?』

テルミドール『どうだかな。まあ、疑うならそれも構わんさ。もっとも、その間に人の命は消えていくことになるが』

ウィン・D『最初から見越してのことか、諦観者め』


ウィン・Dのネクストが飛び立った。

どうやらこの黒いACは俺に用があるらしく、邪魔なウィン・Dを先に追っ払うつもりだったのだろう。

これでこの場はもう、俺と遠坂しか残っていない。

奴にとって、これが望んでいた状況ということか。


テルミドール『私は貴様を認めない。貴様に染み付いた“正義の味方”などという理想とやらは、決して叶うことはないと断言してやろう』

士郎「っ……! 何が言いたい!?」

テルミドール『全ての人類を、等しく救うことなどできない。そのようなことくらい、既にわかっているはずだ。今の世界の有り様を見せつけられてもなお、自身の無力さを認識できぬとは、全く我ながら同情に値するな』

士郎「黙れッ!!」


俺は、腹一杯に力を込めて吼えた。

そう、こいつの言ってることは余りにも現実味がありすぎて、だからこそ腹が立つし、何より認めたくない。

俺がどんな思いで戦おうが、こいつには一切関係ないことだ。

でもどうしてか、こいつの言葉を聞いてると、何だか自分の目の前に巨大な壁が立ち塞がるかのような、重苦しい感じがしてしまう。


士郎「お前にそんなことを言われる筋合いはない! お前が何を見てきたか知らないが、だからって俺の信念が揺らぐことはないんだよ!」

テルミドール『……そうか。もはや何を言っても無意味……』


巨大な銃口が、光を灯し始めた。

今から逃げても、間に合わない――。

このままだと俺と遠坂は、間違いなく塵一つ残すことなく消し飛ぶだろう。


遠坂「ア……アーチャー!!」

テルミドール『……さらばだ。愚かな男よ』


刹那、銃弾が黒いACの銃火器に直撃した。

俺達に突きつけていたその武器は爆散し、黒いACはブースターを吹かして後退する。


フィオナ『マスターに手を出す者は、誰であろうと容赦はしません。それは、“彼”の意向でもあります』


士郎「フィオナ!」

フィオナ『お二人とも、ご無事ですか?』

凛「あたしと士郎は大丈夫! でもあなた、どうしてここがわかったの? 家の警備は?」

フィオナ『……そのことなのですが、実は……』


ホワイト・グリントの機体越しに、フィオナの申し訳なさそうな声が聞こえる。

何か、とても不吉な予感がした。


フィオナ『……あの二人は、屋敷から姿を消しました』

士郎「!! 桜とイリヤが……!?」

凛「えっ!? ちょ、ちょっとそれ、どういうわけ!!」

フィオナ『……! 二人とも下がってください!』


黒いACが体勢を立て直したようだ。

こちらを見据えているのがわかる。


テルミドール『やはり邪魔をするか……ホワイト・グリント』

フィオナ『あなたは……あなたは一体、何者なのです?』

テルミドール『ORCA旅団長、マクシミリアン・テルミドールだ。私自身、扇動家であり、諦観者であり……複雑な、あるいは分裂した男だ』


テルミドールと名乗ったそいつは、ホワイト・グリントに向かってライフルを放った。

クイックブーストを使って、レイヴンはそれを避ける。


凛「アーチャー、やめて! どうしてあんたが、こんなことしなきゃならないの!?」

テルミドール『……既に決まった運命だ。もはや避けては通れまい』


対峙する黒いACとホワイト・グリント。

両者の間には、もう割って入る余地もない。

今まさに、火蓋は切って落とされようとしていた。


テルミドール『見せてみろ。リンクス戦争の英雄の力を』


――――――――――


ウィン・D『ここは……終わりか』


居住区域に出現したAF≪カブラカン≫を撃破したウィン・D・ファンションは、損傷を負いながらも次の目標へ向かう。

未だ民間人の住む場所を蹂躙する無人兵器を、全て殲滅するために。


ウィン・D『……? 何だアレは……』


所属不明機体が一機、数百メート先から接近している。

今までに見たこともない機体だが、そのフォルムとPAを展開していることから、間違いなくネクストと思われる。

しかもその機体は、全身の塗装が黒いことを除けば、あの白いネクスト、ホワイト・グリントに形が似ていた。


???『君も、候補者の一人と認めよう。その力、是非見せてもらいたいな』

ウィン・D『……何者だ?』


聞いたこともない声が、通信回線に割り込んできた。

直後、黒いネクストが地上に降り立ち、ウィン・Dのレイテルパラッシュに向かってくる。

まるで、戦いに憑かれた亡者が、標的を見逃さんと執拗に迫るように、漆黒の機体は禍々しいオーラを放っていた。


J『目標捕捉。オペレーション開始』


[地下世界/廃棄工場]


『お前たちは何故現れる』

『何故、邪魔をする』


誰もいない、今は忘れ去られた世界に、密かに存在する者がいた。


『荒廃した世界を、人類を再生する』

『それが私の使命』


その者達は、大昔の大破壊から人類を、世界を立ち直らせるために存在した。


『力を持ちすぎたもの』

『秩序を破壊するもの』

『プログラムには、不要だ』


イレギュラー要素は抹消する。

彼らはそう判断した。

全ては、与えられたプログラムを実行するために。


『私は守るために生み出された。私の使命を守り、この世界を守る』


抑止力たる彼らの役割――。

それは、この世界と人類を延命させること。

そして今、それを果たすべき時は既にやってきていた。


〈Chapter 4〉 -Remember-・


ある男は人間を救いたいと思っていた。
だから、手を差し伸べた。

でもそのたびに、男の前に邪魔者が現れた。
男の作ろうとする世界を、壊してしまう者。

男の名はエミヤ。

またの名を、オッツダルヴァ、マクシミリアン・テルミドール。

とある未来の世界で、いずれ滅びる人類を救うために、企業の支配する世界体制に抗った男。

しかし、その望みは最後まで叶うことなく、あるたった一人の傭兵に全てを砕かれた。

その傭兵は、“首輪付き”あるいは“人類種の天敵”とすら呼ばれた。

その者の前に、多くの同胞が斃され、自らもその命を散らした。

人類を生き延びさせるためには、人の死をも厭わない――。

それが、かつて“正義の味方”に憧れた男の、辿り着いた「答え」だった。

今、理想に憑かれた過去の自分を目の前にした時、彼は何を思うのか。

そして、いずれ訪れる未来の行く果てに何があろうとも、少年は己の理想を貫こうとするのか。

果てなき戦いの世界で、男の命の灯火は、未だ燃え続けていた……。


[新都/廃墟]


両者の戦いは熾烈を極めていた。

あらゆる弾道は目標に当たることなく、空を切って消失する。

既にお互いの残弾もそう残ってはいない。

このまま続けば、両者とも摩耗するばかりである。


テルミドール『埒が空かんか……』


テルミドールのネクスト≪アンサング≫は、両手と背部に装備した武器を全てパージした。


フィオナ『……!? 何のつもりです?』

テルミドール『……見せてやろう。これが私の≪剣製≫だ』


いつの間にか、アンサングの両腕には、レイレナード製のレーザーブレード≪07-MOONLIGHT≫が取り付けられていた。


士郎「あ、あれは……!!」


それは、士郎が“剣”を投影する最中に、脳裏に浮かぶあの奇妙な物体と同一のものだった。


テルミドール『まだだ。この程度ではまだ完成とは言えん』


今度は、アンサングの背部に追加ブースターが装着されていた。


凛「どういうこと!? あんなに武器を隠し持てるなんて、聞いてないわ!」

フィオナ『あ、あなたは一体……』

テルミドール『そこの男なら、既に気づいてるはずだが』

凛『え……?』


思わず、隣にいる士郎を見つめる凛。


士郎「……そうか。お前は……」


士郎は、ゆっくりと、そして重々しく口を開いた。


士郎「――お前は、未来の俺なんだな。衛宮士郎!」


凛「え、衛宮君がアーチャー……!?」

士郎「その武器を見て確信が持てた。あれは、俺が投影を使う時に必ずと言っていいほど頭に浮かぶものなんだ」

テルミドール『フン……既に予兆はあったか』

士郎「おかげさまでな。お前がしつこく夢の中で語りかけてくるもんで、なんとなく察しはしていたが……まさか本当だったなんて」


アンサングを見上げ、睨めつける士郎。

目の前にそびえ立つネクストを操縦しているのは、未来の自分――。


テルミドール『そこで黙って見ているがいい。ホワイト・グリントを倒した後、すぐに貴様も消してやる』


テルミドールのアンサングが、猛加速をかけた。

一気にホワイト・グリントとの距離を詰める。


士郎「フィオナ、危ない!!」


ホワイト・グリントは、すんでのところでアンサングの斬撃を躱した。

しかし、テルミドールは止まることなく目標を追い詰めようとする。


テルミドール『アンジェや真改のようにはいかないが……!』


クイックブーストを駆使し、ホワイト・グリントに迫る。


フィオナ『速い……!』


機動力では完全にアンサングの方が勝っている。

近接戦闘では圧倒的にホワイト・グリントが不利になることはわかっているが、引き離そうとしても相手がそれを許さない。


テルミドール『遅い!』


レーザーブレードの切っ先が、ホワイト・グリントの手にしたライフルを焼き斬った。


フィオナ『しまった……!』


両肩に残された分裂ミサイルを、すかさず発射する。

しかし、アンサングはフレアを撒いて、ミサイルをことごとく打ち消してしまった。


テルミドール『もはや武装もそう残ってはいまい。ここで終いだ』

士郎「そうはさせるか!!」


士郎が吼えた。

瞬時に投影の準備にかかる。


士郎「――――同調、開始!」


奴と同じ武器が要る――。

相手と対等に戦える、あの“剣(ブレード)”が必要だ。


士郎「ぐ……ぐああっ!!」

 
基本骨子、構成材質、あらゆる情報が士郎の脳内を駆け巡る。

あれだけの質量を持つ武器を投影するとなると、普通の人間なら脳がショートしてしまうところだが、強化人間になった士郎ならば耐えることができる。


士郎「うおおぉぉッ!!」


ホワイト・グリントの左腕に、レーザーブレードが装着された。

ホワイト・グリントが、斬りかかったアンサングの攻撃を咄嗟に構えたブレードで受け止める。

収縮された光の束がぶつかり合い、凄まじい電光が周囲に放たれ、薄暗い廃墟をわずかに照らしていた。


テルミドール『! ほう……遂に至ったか』

フィオナ『士郎! こ、これは……』

士郎「がはっ……フィオナ、レイヴン! 武器の補充は任せろ!」


咳き込み苦しみながらも、士郎はAC用パーツの投影に成功した。

それは、彼が持ち前の才能を異常なまでに発達させた瞬間だった。


――――――――――


ウィン・D『ここまでか……』


火花を上げるレイテルパラッシュのコックピット内で、ウィン・Dは独り呟いていた。


ウィン・D『済まんな、マスター……貴方の言いつけは守れなかった』


爆炎と共に、漏れ出したコジマ粒子の煌めきだけが、跡に残った。

謝罪の言葉だけ残し、彼女はこの世界から去ったのだ。


???『まあ、こんなもんかね。終わってみたら、あっけない』


なんともつまらなそうな声が、辺りに響いた。

黒いネクストが、その場を去ろうと飛び立つ。


???『でも、まだめぼしい奴が残ってたね。彼に期待するとしようか』

J『……“器”は我々の手中にある。機は熟した』

???『いよいよだ。これから、君の望んだ世界が見られると思うよ、言峰綺礼』

J『戦い……私には、それしか満たされるものがない』


かつて、世界を破滅に陥れた兵器は、世界中で活動を開始する。

その原動力となっているのは、今や冬木の荒野に高々とそびえ立つ、巨大な塔――。

聖杯の器を得た彼らは、その肉体を消滅させることで、歪められた願望器の中身を世に解き放ったのだ。


財団『じゃ、始めようか。僕らの戦いを』


――――――――――


[衛宮邸/地下施設]


大河「……逝ったのか、ウィン・D・ファンション」


誰もいなくなった地下施設で、藤村大河――本名レミル・フォートナーは、かつての上司が駆っていたACを見上げている。

もはや使い手すらいなくなり、ひっそりと静かに眠っている機体は、もう稼働することもない。


大河「元より私に、魔術師としての力量はなかったが……喚ばれたのなら、そうするしかなかったのだ。悪く思うなよ」


衛宮切嗣が遺した書籍の中に、サーヴァントを召喚し聖杯戦争に参加する方法を見つけ、彼女はそれを試した。

それによって喚ばれたのが、ウィン・D・ファンションだった。

しかし、マスターとしての未熟さ故か、ウィン・Dが現界できる時間は限られていた。

その残りの時間を、レミルは己の心に従って行動するよう令呪を以て命じた。

それは、彼女のサーヴァントが人道に反しないであろうという、確固たる確信を持っての判断だった。


大河「……士郎、後はお前が生き残れ」


暗がりの地下施設を、レミルは更に奥へと進んだ。

その昔、まだ人の営みがあった世界に――。


[新都/廃墟]


アンサングの繰り出した斬撃が、ホワイト・グリントの装備するレーザーブレードを掠めた。

左腕に装着していた武器が破壊され、右手に握られた僅かな弾数のライフルで相手を牽制する。


士郎「――――同調、開始!!」

テルミドール『甘いわ!』


士郎が武器を投影する前に、アンサングが二刀流の袈裟斬りでホワイト・グリントの動きを制する。

残っていたライフルも今の攻撃で損失、完全に丸腰となった。


士郎「ぐ……がはっ!」

遠坂「衛宮君!!」

フィオナ『士郎! それ以上の無理は……!』

士郎「ううっ……くそッ!」

テルミドール『強化人間とはいえ、まだ剣製を十分に扱えぬ貴様では、負荷が重すぎるということだ。続ければ、確実に死ぬな』

士郎「なっ……何を!」


アンサングの追撃は止まらず、その都度ホワイト・グリントは追い詰められる。

士郎が武器を投影する前に、相手がその動きを制し、こちらから攻めに転じることができない。

加えて、無茶な投影による士郎の損耗が激しいためか、ホワイト・グリントの動きも前より明らかに鈍くなっている。

マスターの最悪とも言えるコンディションが、そのままサーヴァントへのツケとして顕れているのだ。

テルミドール『自らの命を顧みない所業……やはり貴様は愚かだな』

士郎「ぬかせ……!」

テルミドール『全く……そうまでして身を削り、力を以てして、一体貴様は何を望む?』

士郎「何……?」

テルミドール『愛する者を失い、自らの望みに見放され、それでもなお貴様は戦い続けられるのか?』

士郎「……」

テルミドール『元より貴様が目指した道は、人という生き物が支配する世界では、到底無理な話だったのだ。少なくとも、個人の自己犠牲で解決できるような話ではない。そのようなこと、とうの昔からわかっていたはずだが……』


この男――テルミドール、オッツダルヴァ、エミヤの言葉には、並々ならぬ重みがある。

あの男の、今まで経験してきた苦難や葛藤が、全て自分にのしかかってくる感触。

それでいて、どこか虚しさを帯びた声が、何よりも自分の胸に突き刺さる。



士郎「……それでも、それでも俺は、自分が信じた道を間違ってるだなんて思わない! 今までも、これからも!!」


投影を再開する士郎。

渾身の力を振り絞り、意識を集中させようとした時――


遠坂「あ、ああっ!!?」


凛の悲鳴に、思わず顔を上げる。


士郎「な――――」


目の前に、アンサングのレーザーブレードよって胴体を貫かれたホワイト・グリントの姿が映し出される。


士郎「フィオナ! レイヴン!!」


士郎は必死に叫ぶが、応答はない。

突き刺さったレーザーブレードを抜かれたホワイト・グリントは、膝をついてその場にうなだれように沈黙した。


凛「そ、そんな……」 

士郎「ま、負けた……のか」

テルミドール『終わったな。これで』


動きを止め、微動だにしない白い機体を、ただ見つめるしかなかった。


士郎「……? 何の音だ……」


士郎の鼓膜に、ゴウン、ゴウン――と、何かの駆動音が響く。


『……ま…………だ、諦め……ないで……』


ノイズがかかった声が、聴覚だけでなく頭にまで訴えかける。


士郎「フィオナ? フィオナなのか!?」

『彼……は、まだ……戦える。だから…………あなたも……』


士郎の問いには答えず、声は続く。


『……最後まで、諦めないでください。自分の、正しいと思う道を進めと……彼は言っています。例え、未来が……どのような結末で、あろうとも……それを乗り越えられるはずです。あなたなら…………きっと……』

士郎「フィオナ……?」


士郎が、ホワイト・グリントに視線を向ける。

次の瞬間、幾つものカメラアイが、一斉に青い光を灯した。


テルミドール『馬鹿な……! 再起動だと!? あり得るのか、こんなことが……』


機体の各所から火花を上げながらも、ホワイト・グリントは再び動きだす。

通常のネクストならあり得ないことだが、


フィオナ『彼は……まだあなたの力になれる。だから、あなたも諦めないで……!』

士郎「……っ!! うおおぉォッ!!」


フィオナの、レイヴンの言葉の意味を汲み取ったのか、士郎は力を振り絞り全力で投影にかかる。


テルミドール『正気か! この期に及んでまだ命を削る気とは……』

凛「衛宮君やめて! もうその身体じゃ保たないわ!」

士郎「(俺の身体など、どうでもいい! 俺のために必死で戦ってくれる奴が側にいるなら、俺はそいつに応えなくちゃならないんだ!)」


発想を思い切って転換し、剣ではない、あの機体の本来の姿を想像する。

今のホワイト・グリントに足りないものは、両腕と背部に装備された武器のみ。


テルミドール『な……なんだと!』


ホワイト・グリントの両手にライフルが、背中には分裂ミサイルが装着される。

元から装備していた武器を、士郎は全て投影によって再現したのだ。


士郎「……俺は、諦めない。誰かに負けるのはいい……だが、自分には負けられない!!」


少年の咆哮と共に、白い機体が銃口から火を一斉に噴かせる。

自らの意思で、夢破れた自分を越えようとする男の、反撃の狼煙だった。


※時系列


[2005 02/11]
大西洋で謎の巨大建造物(通称:タワー)が確認される。
タワーから、青く発光する未確認機動兵器が出現し、ヨーロッパ全土への無差別攻撃を開始する。

[2005 02/14]
未確認機動兵器を≪パルヴァライザー≫と命名。
埋葬機関がこれの排除に乗り出す。

[2005 02/15]
パルヴァライザーにより埋葬機関が壊滅する。

[2005 02/18]
現存する死徒二十七祖がパルヴァライザーと交戦するが、一日中で全滅する。

[2005 02/22]
アルクェイド・ブリュンスタッドがパルヴァライザーと交戦、死闘の末に撃破する。

[2005 02/24]
飛行型パルヴァライザーの襲撃を受け、アルクェイド・ブリュンスタッドが消滅。

[2005 02/25]
ナインボール=セラフがタワー中枢にある≪インターネサイン≫を破壊。全てのパルヴァライザーが活動を停止する。


――――――――――


オッツダルヴァ「…………」


視界が暗い。

無機物が焦げる臭いがする。

これは、自分が幼い頃に体感した記憶と似ている。


オッツダルヴァ「……そうか。負けたのか、私は……」


機体のあちこちに被弾し続け、コックピットは焼け、武器も破壊され、もはや戦える要素などない。

完全なる、敗北だった。


オッツダルヴァ「(……これが、私の“答え”か……)」


本当の意味で自分を最後に打ち負かしたのは、目の前にいるネクストでもそれを駆るリンクスでもなく、誰でもない自分自身だった。


オッツダルヴァ「……」


自然と笑みを浮かべる。

それが、今の自分に対する自嘲なのかはわからない。

まだ若き日、理想に燃え戦い抗おうとしたあの姿が、鮮明に蘇っていた。



士郎「……俺達の、勝ちだ」


息を切らし、血を流しながらも、士郎はまだ立っていた。

最後まで、己自身と戦い抜いたのだ。


テルミドール『ああ……そのようだな……』


黒煙を上げる機体から、あの男の声が響く。

その声にはもう、先程までのような冷たさはない。


テルミドール『それが……お前の“答え”なのだ。迷わず進むがいい……』

士郎「わかってる、言われるまでもない。どんな困難が立ち塞がっていようが、俺は自分の正しいと思った道を進む。決して、間違いとか後悔なんて言わせない」

テルミドール『……そうか。なら、いい……』


もはや言葉など不要――とでも言うように、エミヤの言葉はそこで途切れた。


凛「……これで、あなたの戦いは終わったの? アーチャー……」


凛の問いに、彼女のサーヴァント――オッツダルヴァは答えない。

まだ多くを語らない男として凛の記憶には残るだろうが、やがてその生き様は、彼女の側にいる少年が示すことになるだろう。

遥か遠い未来、彼女こそがとあるリンクスの導き出した「答え」の、最初の目撃者となるのだから――。



士郎「フィオナ、レイヴン! 聞こえるか?」


佇むホワイト・グリントに向かって、士郎は呼びかける。

少し間を置いて、フィオナの通信音声が聞こえてきた。


フィオナ『士郎……無事ですか?』

士郎「俺は問題ない。それより、レイヴンは?」

フィオナ『……ごめんなさい。彼はもう……あなたの力にはなれません』

士郎「え……」


一瞬戸惑ったが、次にはその言葉の意味を理解した。


フィオナ「彼は……残された最後の力を使って、戦いを続けました。ですが、彼の命には既に限界が来ていたのでしょう……」

士郎「……そ、そんな……」


ホワイト・グリントが胴体を貫かれた時、既にパイロットは瀕死の状態であった。

にも関わらず、戦いは続いた。

あの一度きりの再起動が、セイバーのサーヴァント――“アナトリアの傭兵”ができる最後の抵抗だったのだ。


フィオナ『彼は……逝く前に、私にセイバーのサーヴァントとしての権能を全て遺していきました。今では、私が士郎の正式なサーヴァントです』

凛「なっ……そんなことって、あるの!?」

フィオナ「詳しくはわかりません。ですが、彼が呼び寄せたホワイト・グリントも、私の宝具と化しています。尤も、私に乗りこなせるかどうかは別の話ですが……」

士郎「……レイヴン」


言葉こそ交わさなかったが、ただ自分のために戦ってくれた男の顔を、一度でも見ておきたいと士郎は思った。


士郎「……ん? 何だ、あれ……」

遠坂「え? 何、なんか見えるの?」


動かないホワイト・グリントの遥か向こう側、鮮やかな緑色の光が幾つか輝いているのに士郎は気づいた。

そのうちの一つが、段々大きくなっていったのは気のせいだろうか――。

気づいた時には視界が真っ白になって、何かとてつもなく重いものが自分の左腕を押し潰していた。



士郎「ぐ……あぁッ!!」

凛「衛宮君!! 腕が……!」


何かの衝撃によって吹っ飛ばされた士郎は、そのままなだれ落ちた瓦礫によって左腕を潰されていた。

言葉にできないほどの痛みが、全身に襲いかかる。


士郎「……っ、何が起きた……!?」


苦悶の表情で、士郎は上体を起こして先程まで眺めていた場所を確認する。

そこには、ホワイト・グリントの前に庇うようにして直立する、黒いネクストの姿――。


凛「ア……アーチャー!!」

士郎「あいつ、何を……!!」


全身が焼け焦げ、本当の意味で黒一色に染まった機体が、各所から煙を上げながら膝を落として崩れ落ちる。

両腕を失い、頭部も抉れ、コアや脚部もボロボロの機体は、胴体を地に着けて沈黙した。


テルミドール『……柄にもないことを……やるものではないな』

フィオナ『ど、どうして……』

テルミドール『勘違いするな……貴様の、ためではない…………“私”のためだ』


大破したアンサングのコックピットから、人影が現れる。

男は、全身という全身から血を流し、ゆっくりながらも確かな足取りで士郎と凛へ向かって来た。


オッツダルヴァ「お前達……無事か」

凛「アーチャー! あんた、まさかあたし達を庇って……」

オッツダルヴァ「……私のことは……いい。それより、そこの男は実に情けない有り様だが……」

士郎「……ぐっ、お前も人の事言えた身かよ……自分のくせに……」

オッツダルヴァ「ああ……そうだな。貴様に言われるのは……実に腹立たしいが、何より自分のことだ。間違っては……いない」


直後、咳き込んだオッツダルヴァの口から血が吐き出され、その場に膝をつき、倒れ込む。


凛「アーチャー!!」

オッツダルヴァ「……凛。最後に……お前に、頼みがある」


左腕がひしゃげた士郎に視線を向け、オッツダルヴァは自らの左腕を突き出した。


オッツダルヴァ「……私の腕を、そいつに使え」

凛「え……!?」

士郎「な……今、何て……」

オッツダルヴァ「早くしろ……っ、敵は直ぐに来る。私の命も……もう長くは保たん。消え去る前に、やってみせろ……!」

凛「む、無茶よ! サーヴァントの肉体の一部を生身の人間に繋ぐなんて、聞いたこともないわ!」

オッツダルヴァ「できるさ……少なくとも、私とその男なら、既に……」


何かを言いかけて、オッツダルヴァの意識は消えた。

うなだれて動かない彼に、凛は呼び掛け続けたが、反応が現れることはなかった。


凛「…………」


こうしている間にも、敵は近いうちにやってくる。

先程、辺りを照らしたあの眩い光は、間違いなく敵の攻撃だろう。

それから自分達の命を守ってくれたオッツダルヴァの行動を、無駄にするわけにはいかなかった。


士郎「遠坂……」

凛「……やるわよ、衛宮君。いいわね?」

士郎「……ああ、頼む」


凛は、オッツダルヴァと士郎の左腕を見やる。

精神を集中させ、術式の施行に取り掛かった。


〈Chapter 5〉 -4 the Answer-



荒れ果てた大地、汚染された大気。

いずれ自らを滅ぼすと知りながら、それでも戦いを止められない、人間の、全ての業が降りかかる。

この地球(ほし)を汚し尽くしてまでも、人は何故に力を欲し、求め、戦うのか。

その「答え」を導き出すのは、他でもない、戦う者達自身。

そして今、一人の男が、自らの選んだ道に「答え」を示そうとしていた……。


[新都/廃墟]



凛「……調子はどう? 衛宮君」

士郎「まだ痛むけど……問題ない、ありがとう遠坂」

凛「それにしても、驚くほど上手くいったわね……信じられないわ」

士郎「ああ、あいつのおかげかもな……」



死したオッツダルヴァの左腕を、凛は見事に士郎の失った左腕へ繋いでみせた。

彼女の元々の魔術師としての才覚もあるだろうが、士郎とオッツダルヴァの肉体の一部が、互いによく適合しているからこそ、成し得た業だった。



士郎「あいつは……敵は直ぐに来ると言っていた。早く、何とかしないと……」

凛「む、無茶よ衛宮君! まだ動くなんて……」

フィオナ『……恐れながら、私にはネクストを操縦する技量はありません。私の所有する宝具≪ホワイト・グリント≫も、これでは持ち腐れです』

士郎「……いや、まだわからないだろ」



そう言った士郎は、静止したホワイト・グリントを見て、



士郎「……フィオナ。サーヴァントのネクストに、マスターが搭乗することは可能か?」

凛「え、衛宮君……!?」

フィオナ『……前例はありません。ですが、ネクストを操縦するに足りるAMS(Allegory-Manipulate-System)適性が士郎にあれば、問題はないかと』

士郎「試してみる価値はある。どの道、それしか生き残る術はないんだ」


財団『やはり、生きていたとはね。かなり正確に狙ったはずなんだけど』

凛「!! その声……!」



凛と士郎、二人の耳に聞き覚えのある声が伝わる。



財団『どうやら、今の攻撃で君のサーヴァントは退場したらしい。ということは……そうか、やっぱり君が最後に残ったか。衛宮士郎』

士郎「な……何だと?」

財団『おめでとう。聖杯戦争の監督者として、君の勝利を祝福しよう。本来なら、勝ち残った君には然るべき聖杯が与えられるはずなんだけど……』



二人のいる場所から数百メートル先、淡く光る6つの光の球が、不思議な挙動で浮遊している。

その光景は、先ほど士郎が瓦礫に潰される直前、目にしたものと酷似していた。



財団『残念ながら、君が望むような聖杯はここにはない。だから僕達が、“器”と引き換えに呼び覚ましたのさ。そう、この≪タワー≫こそが、聖杯そのものだ』

凛「タワー……?」

士郎「!! 遠坂、アレ見てみろ!」



士郎が指差した方角に、天高くそびえ立つ巨塔が見える。

細部まではぼんやりとしか見えないが、タワーの存在自体は肉眼でもはっきりと視認できる。



凛「あ……あれが、あんなものが、聖杯だって言うの……?」

財団『さあ、話が終わったところで、そろそろいいかな? 早くしないと、今度こそ本当に死ぬよ』

士郎「くそっ……! フィオナ、ホワイト・グリントのハッチを開けてくれ!」



まだ残る左腕の痛みを堪えながら、士郎は静止した白いネクストへ向かい駆け出した。

すみません、テストsageです


――――――――――


フィオナ『ジェネレーター、起動しました。KP出力、70パーセントまで回復……』

士郎「動かし方は大体わかる……あとは感覚か」



ホワイト・グリントの操縦席で、士郎は見慣れないコックピットの内部を見渡す。

見たことも触ったこともない機器ばかりが目につくが、どこをどう操作すればいいのか、士郎は頭で理解できた。

それもそのはず、彼の左腕には、幾度となくネクストを乗りこなしてきた男の記憶と力が遺されており、士郎の肉体にそれが伝達されているのだ。



士郎「……っ」

フィオナ『まだ痛むのですか、士郎……』

士郎「……問題ない。発進、いくぞ」



汗を拭いながら、士郎は思う。

ついさっきまで、自分が座っている操縦席には、自分のために命を賭して戦った人間が、座っていたのだと。



士郎「……レイヴン、俺に力を貸してくれ」



メインモニターが光を灯したのと同時に、士郎は握った操縦桿を一気に押し倒した。



――――――――――


大河「あんなものを浮かべて喜ぶか、変態どもが!」



旧式の青いAC――かつて、衛宮切嗣が駆っていた機体を加速させ、藤村大河は緑色の光点が浮かぶ場所へ向かう。

そのすぐ側には、ネクスト機と思われる機影が一つ、光の球と戯れるように動き回っている。



大河「士郎……先に逝くことだけは許さんぞ」

――――――――――


フィオナ『ソルディオス砲!? こんなもの、どうやって……』

士郎「浮かんでる……? 何なんだ、こいつら……!」

フィオナ『士郎! コジマキャノンは絶対に避けてください! あれに当たれば、ひとたまりもありません!』



AF≪ランドクラブ≫から分離した6つの球体型砲台≪ソルディオス≫が、士郎のホワイト・グリントを取り囲む。

全方位から浴びせられるコジマキャノンの攻撃に、士郎は回避に専念する他ない。



士郎「ぐ……ッ、一機ずつ落とすしかないか!」



両手のライフルを、狙いを定めたソルディオス一機へ向けて連射した。

しかし、放った弾丸はすんでのところで、ソルディオスが躱した。



士郎「避けた!?」

フィオナ『QBまでとは……あのソルディオス砲、ネクストの装備まで持ち合わせているようです』

士郎「じょ、冗談じゃ……ッ、がハッ……!」

フィオナ『士郎!』

士郎「くそっ……こんなところで終わるわけには!」


吐き出した血を腕で拭い、機体の操縦に専念する。

一瞬一瞬が命取りになるこの状況で、士郎は異常ともいえる精神力でソルディオスを撃破していった。



凛「衛宮君……」



崩れ去った瓦礫の陰で、凛は士郎の戦いを見守っていた。

自らのサーヴァント――ネクストを駆る存在であるリンクスを失った彼女には、もはや魔術の域を超えた巨大兵器に対抗する力はない。

だから今は、命を賭して戦う一人の少年の、ただ無事を祈ることしかできない。



凛「き……きゃあぁッ!!」



突如吹き抜けた突風に、思わず凛は悲鳴を上げる。

直後、青い塗装で彩られたACと思わしき機体が、彼女の近くに降り立った。

敵かと思って一瞬身の危険を感じたが、直後に聞こえた意外な声に、その警戒もすぐ解けた。



大河『どうやらお前も無事のようだな、遠坂』

凛「ふっ、藤村先生!?」

大河『詳しい話は後だ。とにかく乗れ』


≪ZIO MATRIX≫とプリントされた肩のエンブレムがくっきりと見え、青いACが腕を下ろし、掌のマニュピレーターで合図を出す。

考えるより早く、凛は言われるままに走っていった。



――――――――――


士郎「……ッ、はぁッ……」

フィオナ『目標……全て撃破しました』



機体損傷80パーセント、満身創痍の状態だが、士郎は全てのソルディオスを破壊した。

初のネクスト操縦、初の実戦という条件下で生き残れたのは、普通なら奇跡としか言いようがない。



士郎「ぅあっ……」

フィオナ『士郎、身体は……』



しかしながら、当の本人の状態は、実に痛ましいものだった。

無理な操縦を継続したせいで、体内からは多量の血液が失われ、頭脳には莫大な精神負荷がかかっていたのだ。



フィオナ『もう休んでください。今すぐこの場を離脱しましょう』

士郎「ああ……」



士郎が、ホワイト・グリントを動かそうと身を起こしたその時、



財団『まさか、本当に勝つとはね。ただの人間とは、到底思えないよ』

士郎「ッ……! お前……」

財団『まだまだ面白いものは用意してある。特に“彼女”は、君に戦ってもらうのが一番良いかもね』

士郎「……?」



その言葉の意味を、士郎はまだこの時理解してはいなかった。

恐らくは、知らない方が今の士郎にとっては良いのかもしれない。

だがいずれ、彼は自らの進む道に「答え」を出さなければならない。

親愛なる者を手にかけるか、それとも世界の、人類の破滅か――。

いずれにしても、一人の少年が背負うには、重すぎる選択だった。



――2日後


[衛宮邸/地下施設]




大河「準備完了か……気をつけろよ、士郎」

士郎「わかってるよ、藤ねぇ」

凛「衛宮君……」

士郎「遠坂……どうした?」

凛「……ううん、何でもないわ。桜を……頼むわ」

士郎「ああ。これ以上、あいつらの好きにはさせない。誰かを失うなんてこと、俺はもう、ごめんなんだ」



ネクスト、ホワイト・グリントからの電気信号を全神経接続した士郎は、全身の感覚に意識を委ねる。

あの日の帰還後、士郎はネクストの何たるかを、全て身体に叩き込んだ。

全ては、これから始まる長い戦いの為に。



士郎「……待っていてくれ、桜」



連れ去られた彼女――間桐桜を取り返すため、士郎はホワイト・グリントに乗り、荒野となった冬木の大地を駆ける。

そして、今日この日、士郎にとって最も辛い日が始まった。


[BRIEFING]


マクシミリアン・テルミドールだ。

インテリオル=オーメルの最新型AF≪アンサラー≫を撃破してくれ。

アンサラーは、最新のコジマ技術の塊だ。他のAFと比べても、圧倒的な戦闘力を誇っている。極めて危険な相手だ。

厳しい戦いになるだろうが、これを制すれば、クローズ・プランは一気に最終段階に入る。

私も、メルツェルも、君にしかできないと考えている。

これで最後だ、よろしく頼む。

testです


[冬木市/廃墟]



フィオナ『あれが……あんなものが、空に浮いてるなんて』

士郎「あの武装……一筋縄ではいかない相手らしいな」



冬木市上空、破れた傘とも取れる形状をした、超大型飛行要塞が浮いている。

AF≪アンサラー≫は、 対ネクスト・AFの明確な意図が読み取れるいかにも最新型らしい性能を有しており、それは外見の特徴からも容易に推測できる。



士郎「ぐっ……」

フィオナ『士郎、どうかしましたか?』

士郎「どういうことだ……KP出力が低下している」

大河『作戦エリア全域に高濃度コジマ粒子確認。これでは、PAは役に立たない。こちらだけ裸という訳か……』

士郎「……防御は期待できない、か……」



PAが使えないような高濃度のコジマ汚染となると、ネクストは生身の装甲を敵の攻撃に晒すことになる。

加えて、機体のダメージも時間を経過するごとに増えていく。

戦闘が長引けば、それだけ不利になるということは明白だった。



大河『あんなデカいものが浮いているんだ、無理をしていない訳もない。どこでも構わない、外装を破壊していけ。何れもたなくなる。そうなれば、あとは落ちるだけだ』

士郎「わかった。さっさと終わらせるよ」

大河『それにしても、この値は……閉鎖空間ではないのだぞ……』


――――――――――


アンサラーとの戦闘が始まってから、既に30分。

戦いは、終わろうとしていた。


士郎「次ッ……!」



アンサラーから降り注ぐ無数の火線をかいくぐり、士郎は本体の甲板を次々と破壊していく。



士郎「……ぐっ、まだだ……!」



長時間のコジマ汚染には耐えているものの、自分の肉体も機体のダメージも、危うい所まできていた。

ここで一気に決着をつけなければ、ホワイト・グリント共々、共倒れになるかもしれない。



大河『アンサラーがバランスを崩し始めた。あと少しだな』

士郎「……っ、同調、開始――!!」



今にもパンクしそうな神経を、魔術回路をフルに働かせる。

弾切れになった左腕のライフルをかなぐり捨て、投影によって装着されたレーザーブレードを振るった。



士郎「これで終いだ!」



アンサラーから伸びる最後の甲板を、レーザーブレードで溶断する。

その攻撃が、決め手となった。



大河『アンサラー、落ちるぞ。巻き込まれるなよ』



各所から煙を上げ、奇妙な唸り声のような音と共にアンサラーが崩れた。

切り離されたコジマ爆発杭が地上に突き刺さり、本体の中枢部分はコジマ粒子を撒き散らしながら落下する。



大河『早くしろ! 爆発に巻き込まれるぞ!』

士郎「ぬあぁッ……!」



ありったけの速度を出し、アンサラーの付近から離脱する。

数十秒した後、凄まじい轟音と共に、コジマ爆発による巨大な衝撃波がネクストのコックピット越しに伝わり、士郎の肉体を揺さぶった。

test



財団『素晴らしい、全く驚異的だ』



若干の静寂を取り戻した廃墟に、あの忌々しい声が響いた。

先の戦闘で肉体に負荷がかかりすぎたため、士郎は重々しく口を開く。



士郎「……っ、お前……一体、何が目的だ?」

財団『何故、僕が聖杯を解き放ったのか。人間の可能性を知り、情報を集めるためだ』

士郎「……? 何を、言ってる……」

財団『人間に、可能性など存在しない。それを証明してみせる』



話の意味を全く理解できない士郎。

だがあえて、確認の意味を込めて聞いてみた。



士郎「……お前は、人間じゃないのか」

財団『人間だよ、昔はね』

士郎「昔は……?」

財団『“彼女”もかつてはそうだった。ついこの前までは、ね』



僅かな間を置いて、コックピット内にアラームが鳴り響いた。

モニターに「Unknown」の表示がされたポインタが、急速に自機へ接近しているのがわかる。



財団『この世界も大分片付いてきた。もうめぼしいやつは残ってないと思うよ、君以外は』

士郎「何……?」

財団『そして、ここでこれから君も死ぬ』



士郎が見たのは、周囲を旋回する5枚のプレート状のユニットに守られる様にして浮遊する、人型の兵器――。



士郎「な、何なんだアレは……」



LiV(Lady in Vortex)――。

間桐桜の元の肉体と人格を消去、意識のみを電子化した、兵器としてのプログラムを組み込まれた狂気の産物。

それが、士郎の前に立ちふさがる。



財団『神様は間違えてる。世界を破滅させるのは、人間自身だ』



目の前にいる敵が、かつて間桐桜と呼ばれた人間の成れの果ての姿だということを、士郎は知らない。



士郎「……(桜……お前なのか、もしかして……)」



ライフルの照準をLiVに合わせ、ホワイト・グリントは加速する。

彼の、士郎の選択は既に決まっていたのだとしたら、それに間違いはなかったはずである。

少なくとも、それが彼の出した「答え」に殉ずる行為なのだから……。


※時系列(2)


[2005 3/19]
世界各地のタワーから出現した未確認兵器群による、世界全土への一斉攻撃が開始される。

[2005 4/9]
世界中の国家が崩壊し、人間社会は無秩序状態となる。この時点で、世界の総人口は20億人まで減少。

[2005 6/24]
世界各地で「地下世界」への入口を発見。僅かに生き残った人類は、地下世界へ逃げ込む。

[2005 11/30]
全世界で深刻な汚染の拡大。生態系は死滅し、地上での生活は実質的に不可能となる。

[2006 7/28]
地下世界「レイヤード」が構築される。僅かに残された人類は、自らの生活圏をレイヤードへと移す。

[2007 5/10]
地下世界の遺跡から、人型機動兵器≪アーマード・コア(AC)≫が発掘される。これを機に、遺跡に遺された技術の解析が進められる。

[2015 12/25]
≪管理者(DOVE)≫ と呼ばれる人工知能が造られる。管理者はレイヤードの秩序を何年となく維持するため、活動を開始する。


――――――――――



士郎「……」



あの戦い――間桐桜をこの手で殺めてから、既に一週間が経とうとしていた。

ひたすら、ただひたすら迫り来る敵を全てなぎ倒し、生き残ってきた。

常に死が隣り合わせというそこに、自分の命はまるで眼中になかった。

何度も、遠坂凛に止められることもあっただろう。



士郎「……何の為に」



世界を、人類を救ってみせるという高尚な理由だけなのか。

本当は、また別の理由があるのかもしれない。



フィオナ『……士郎、そろそろ来ます』

士郎「わかってる」

フィオナ『……必ず、帰って来て』

士郎「……了解」



「答え」は一つだけではない。

それが、戦いの中でしか見つけられないのだとしたら……



士郎「……証明してやるさ、俺の意志を」



〈Chapter 6〉 -Mechanized Memories-


これは君という存在への挑戦だ。

私は、私の正しさを証明してみせる。




待ってるよ。



[冬木市/タワー周辺]



財団『J、調子はどうかな?』



綺礼『良好だ』



財団『サーヴァントの戦闘経験を統合し、作り上げたオペレーション。無数の戦場を渡り歩いた君の頭脳――』



財団『そして、この機体。これが負けるとは思えないけどね』



綺礼『貴様が欲するのは果てなき戦いの世界、そして破滅。その意味では、我々の思惑は一致している』



綺礼『聖杯戦争によって作られる体制など、私の生きる世界ではない』



財団『それを破壊するために、人をやめたと?』



綺礼『戦いの中にしか、私の存在する場はない。好きに生き、理不尽に死ぬ――』



綺礼『それが私だ、肉体の有無ではない』



綺礼『戦いはいい、私には、それが必要なんだ』




――――――――――――――――――




士郎「来やがったな、イカレ野郎」



砂嵐が吹き荒ぶ冬木の廃墟を、純白のネクストが駆ける。



財団『まあ、何と言おうとかまわないけど、僕からすればイカレてるのは全部だ、人間の』



一方、士郎のホワイト・グリントに相対するのは、禍々しいまでの黒で彩られた漆黒の機体。

しかもそれは、カラーリングだけを除けば、ホワイト・グリントに酷似したフォルムをしていた。



財団『例外なんて、存在しないんだよ』



≪N-WGIX/v≫――。

それが、士郎の前に立ちはだかる最後の敵だった。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月19日 (金) 21:12:35   ID: erqBiuyM

以外な組み合わせだ
新しい……惹かれるな

2 :  SS好きの774さん   2017年05月15日 (月) 17:43:38   ID: t0QZAulx

見ろ、所詮こいつはこの程度だ

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