女神「たまには下界に遊びに行くとするかのう」(104)

<天界>

武神「おや……? 女神、どこに行く?」

女神「たまには下界に遊びに行こうと思ってのう」

武神「下界へ? 珍しいこともあるものだな」

邪神「もしかして、なんか用事でもあんのか?」

女神「実は少し前に、ある村を災害から救ったことがあるのじゃ」

女神「その時、また行くと約束しておったのでな」

武神「ほう、少し前というのはいつ頃だ?」

女神「ちょうど300年前じゃ」

武神&邪神「!?」

邪神「ぷっ、ギャハハハハッ!」

女神「なにがおかしいのじゃ?」

邪神「オメェ、人間の寿命がどのぐらいか知ってんのか?」

女神「ざっと7~800年といったところじゃろう?」

武神「……だいたいその10分の1だ」

女神「なにっ!?」

邪神「ギャハハハハッ! もう絶対死んじまってるじゃねーか!」

邪神「約束してても、相手が死んじまってたらどうしようもねぇなァ!」

女神「ぐぬぬ……」

武神「しかし……その者たちの子孫はいるかもしれん」

武神「女神が約束した村人たちが、子孫に約束のことを言い伝えている可能性はある」

女神「!」ハッ

女神「そう、そのとおりじゃ!」

女神「わらわは子孫に会いにいくところだったのじゃ!」

女神「邪神め、早とちりしおって! このバカモノめが!」

邪神「ぬうう……」

武神「ところで、下界へ降りる時のルールは覚えているか?」

女神「ルール?」

武神「天界と下界をつなぐ『ゲート』を天界側から通過するには──」

武神「“神”のままではダメだ」

武神「一度“人”にならねばならん」

女神「…………」

女神「……ああ、覚えておるぞ! も、もちろんじゃ!」

邪神(一瞬『そんなのあったな~』みてえなツラしてたな、コイツ)

武神「一度“人”になると、24時間“神”には戻れん」

武神「“人”の状態でもしものことがあると、本当に死んでしまう」

武神「ゆえに、下界に降りても最初の一日は大人しくしていることだ」

女神「うむ、分かっておる」

<ゲート>

女神「では、行ってくる」

武神「楽しんでこい」

邪神「ま、誰もオメェとの約束なんざ知らんってのがオチだろうがよ!」

女神「やかましい!」

女神「どれ、“人”になるとするか」パァァ…

シュゥゥゥ……

女「これでよし、と」

女「ふうむ、人になると多少外見が変化するから、美貌が損なわれてしまうのう」

女「だが、どうじゃ? 人になっても十分美人じゃろ?」クネッ

武神&邪神「…………」

女「なんかコメントせんか!」

武神「あと、忠告しておくと──」

武神「“女神”としてでなく“女”として人間と接する場合は、口調を変えた方がいい」

女「口調を? どうしてじゃ?」

武神「今の人間の女は、あまり『わらわ』とか『じゃ』とかいわんからな」

女「ふむ、了解した」

女「ところで武神、おぬしやけに下界のことに詳しいのう」

武神「!」ギクッ

邪神「詳しいに決まってるぜ。コイツ、しょっちゅう下界に行ってるからな」

女「ほう? どうしてじゃ?」

邪神「コイツ、人間たちの闘技場観戦にハマってるんだ」

邪神「もちろん、さすがに参加することはしねえがな」

邪神「神のくせに、ある剣闘士のファンになったこともあるくれえでさ……」

武神「余計なことをいうな!」

女「武神、なかなか可愛いところがあるではないか」フフッ…

武神「うぐぐ……」

女「では出発じゃ! 戻ったら、わらわの土産話をたっぷり聞かせてやろう」

武神&邪神「…………」

人間の“女”として、下界に降り立った女神──

女「……暗い」キョロキョロ…

女(わらわが救った村の近くに降り立ったはずじゃが、今はまだ夜じゃな)

女(野宿はイヤじゃし……村の誰かに泊めてもらうとするか)

女(一文なしじゃが、まぁなんとかなるじゃろう)

女(えぇ~っと、村がある方角はあっちだったはずじゃ。行ってみよう)スタスタ…

村があった地点にたどり着くと──

女(な、なんじゃ!?)

女(のどかで小さな村じゃったというに、城壁のようなものができておる)

女(どうやって入ればよいのか……?)キョロキョロ…

女(おお、あっちに入り口らしき門があるではないか)

女(あそこから入れてもらうんじゃな、きっと)

女(おっと、言葉づかいに注意せねば)

<入り口>

女「あの……」

門番「なんだ、お前は?」

女「わら……私、この村に入りたいんだけど……」

門番「そりゃ無理だ。もう門は閉じちまってるからな」

女「なんじゃと!? ……なんですって!? どういうことなのよ!」

門番「この門は夜9時で閉めちまうんだ。惜しかったな」

女「なんとかならないの?」

門番「『女神教』の決まりでな。たとえトップである大神官様でも例外はないよ」

女(女神教……?)

女「女神教って、なによそれ」

門番「おいおい、本当になにも知らないのか。もしかして、迷子か?」

女「ちがうわよ!」

門番「すまんすまん。せっかくだから、教えてやろう」

門番「この町は300年前、女神様に救われたのさ」

門番「もっともその頃は村だったらしいがね」

門番「その時、女神様から直接教えをいただいたメンバーが開いた宗教が『女神教』」

門番「以後、ここは女神様の祝福を受けた町『女神の町』として急速に発展したのさ」

女「おお……!」

女(そういえば、わらわは村人に色々と教えを授けておった)



女神『夜9時以降はなるべく外出しないようにするのじゃ。危ないからのう』

村長『かしこまりました、女神様! そのようにいたします!』



女(──という感じで)

女(まさか、自分の教えが自分の首を絞めることになるとは……トホホじゃ)

女(他にも色々しゃべった気がするが、忘れてしもうた。いかんな)

女(まぁ、そんなに変なことはしゃべっておらんはずじゃから、大丈夫じゃろう)

女(それにしても──)

女(『女神教』か……よいではないか、よいではないか! いい響きじゃ!)

女(あの時の村人はわらわのことを忘れるどころか、崇拝してくれておった!)

女(邪神め……このことを知ったらさぞ悔しがることじゃろう!)

門番「で、アンタどうすんだい?」

女「へ?」

門番「この門が開くのは朝7時だが、それまでどうすんだい?」

女「えぇ~と、こういう場合、みんなどうしてるのかしら?」

門番「あっちに、粗末だが宿泊用の小屋がある。門限に間に合わなかった者のためにな」

門番「部屋が分かれてるわけじゃないし、あまり女性にはオススメできんが──」

女「かまわないわ」

門から少し離れたところに、みすぼらしい木製の小屋が建っていた。

<小屋>

女(やれやれ、本当に粗末な小屋じゃな)

女(女神ともあろう者が、こんなところで一夜を過ごさねばならんとは……)

女(まぁよい、明日になればこの町に入れる)

女(明日の夜になったら、女神としてこの町に降臨してやろう)

女(きっと、皆がわらわを歓迎してくれることじゃろうて……ふふふ……)

やがて、門で女神と同じ目にあったであろう者たちが次々小屋に入ってきた。

女(やれやれ……一人きりで眠れると思いきや……)

女(やはり9時で門が閉まってしまうのは早すぎる気がするのう)

女(もし降臨したら、10時ぐらいにするよう訂正してみるか)



戦士「さて、寝るか」

ターバン「明日が楽しみデース」

旅人「枕を置いて、と」スッ

チンピラ「粗末とは聞いたが、こりゃホントに粗末だな」ゴロン…

大男(おいおい、女がいるじゃねえか!)ニヤ…



女(しかも、全員男とは……わらわ好みの男はおらんがのう。残念じゃ)

真夜中──

大男「おい、ねえちゃん」モゾッ…

女「?」

女(なんじゃ……せっかく気持ちよく眠っておったのに)

大男「俺は女神とか興味なくてよ、たまたまこの町に来たんだがよ」

大男「アンタみたいな美人、めったにお目にかかれねえ」

大男「なぁ……楽しませてくれや」ジュルリ…

女(こやつ、わらわの体を狙っておるのか)

女(ほ~う、なかなか見どころのある若造ではないか。褒めてやりたいところじゃ)

女「かまわないわよ」ニコッ

大男(この女、マジかよ! こりゃあ、楽しませてもらえそうだ!)

女「ただし……これだけいっとくわね」

大男「あ?」

女「わらわの味を知ってしまうと、もう元には戻れんことは覚悟しておくのだぞ?」

大男「…………!」ゾクッ…

大男(なんか今、すっげえ悪寒が走った……! この女、やべぇ……!)

大男「へ、へへへ……悪かったな、ねえちゃん。ただの冗談だよ、冗談……」

大男「お、おやすみ……」ゴロン…

女(なんじゃ、つまらん。根性なしめが)

翌朝──

女「ふう、案外よく眠れたもんじゃ」ググッ…

旅人「…………」チラッ

女「なんじゃ? 人の顔というのは、あまりジロジロ見ないようにするもんじゃ」

旅人「あ、いや、ずいぶん古風な喋り方をなさるんだな~、と思って」

女(あ……!)

女「もんじゃ……もんじゃ焼きっておいしいわよね! 私、大好き!」

旅人「!?」

女(ふう、うまくごまかせたか……?)



ターバン「カレーの素晴らしさ、広めるヨ!」

戦士「さて、行くか」スクッ

チンピラ「おう」

大男「やべぇ……やべぇよう……」コソコソ…

<女神の町>

門を抜け、自分を崇拝する町に入った女神。

女(さて、のんびり“神”に戻れる時刻まで時間をつぶすかのう)

女(──と思ったが、なにやら騒がしいのう。どうしたんじゃ?)

女「あの……私、旅の者なんですけど、今日ってなにかあるのかしら?」

町民「今日? 決まってるじゃないか、大イベントがある日だよ!」

女「大イベント?」

町民「そう、この町にとっての最大のイベント『女神降臨祭』だよ!」

女「女神降臨祭……!?」

町民「伝承によると、300年前のちょうど今日──」

町民「女神様は、当時村だったこの地に降臨し、村人たちを救った」

町民「その後、女神様はさまざまな教えを我々に授けて下さり」

町民「そして、300年後に再び降臨すると言い残し、天に帰っていったのさ」

女「なるほど、だから祭りの準備でみんな大忙しなのね!」

町民「そういうことさ!」

町民「この祭りのためにやってきたっていう、観光客もいるみたいだしね」

女(ふっふっふ、グッドタイミングとはこのことじゃな)

女(というか、危なかったのう。わらわが忘れてたらアウトじゃった)ホッ…

女(祭りは今夜──ならばわらわが“神”に戻る時間にも間に合う)

女(“神”に戻ったら、祭りの最中に降臨して皆を驚かせてやろう)ニヤ…

すると──

ザッザッザッ……

白いローブに身を包んだ集団が、整列をしてどこかに向かっていく。



女(なんじゃあれは? やけにものものしいのう)

女「あの人たちはいったいなんなの?」

町民「彼らは、『女神教』の僧兵たちさ」

町民「祭りで行う“儀式”の準備に大忙しなんだよ」

女(どれ……面白そうじゃ。ちょいとついてってみるか)スタスタ…



町民「気の毒な儀式だが……教えは絶対だからね……」

町民「あれ? いなくなってる……どこいったんだろう?」

興味本位で、僧兵たちについていく女神。

女「ねえねえ。あなたたち、どこに行くの?」

隊長「…………」ギロッ

女「な、なによ」

隊長「どうやら、この町の人間ではないようだな」

隊長「我々は大神官様の命により、女神降臨祭の準備を進めている最中だ」

隊長「消えろ。二度目はないぞ」

ザッザッザッ……



女「むう……」

女(なんという無礼な奴らじゃ! ……まぁよい)

女(なにをするかぐらいは、見届けても大丈夫じゃろ)

まもなく、僧兵たちはある一軒家に到着した。

<家>

隊長「さぁ、子供を連れていくぞ」グイッ

父「くっ!」

母「ああっ……!」

少年「お父さん、お母さん……」

母「お願いします……どうか……!」

隊長「今さらジタバタするな! これはもう決まったことなのだ!」

隊長「『女神教』の教えは絶対……」

隊長「お前たちの子供は、女神様降臨のための生贄として捧げられるのだ!」



女(な、なんじゃと!?)

父「やはり、こんな儀式は納得できない!」

隊長「納得できないというのなら、どうするというんだ?」

隊長「我々僧兵が女神様に関することなら、特権を与えられていることは知っていよう」

隊長「逆らえば……どうなるかは分かるだろう?」ギロッ

隊長「我々とてなるべくなら、そのような権利を行使したくはないのだ」

父「うぐっ……」

少年「お父さん! ボク、いいんだよ!」

少年「ボクが死ぬことで、女神様が降りてくるんなら……喜んで死ぬよ!」



女(どうする、どうするのじゃ、わらわ!?)

女(と、とにかく……止めるしかあるまい!)

女(わらわはとっくに降りてきておるのじゃから……無駄死にじゃ!)

女「ちょっとちょっと」

隊長「さっきの女か……なんの用だ?」

女「その子を女神降臨の生贄にするなんて、そんなバカなことはやめた方がいいわ」

女「そんなことしなくても、女神は降りてくるんだから」

女「だから、そんな下らない儀式は──」

隊長「……二度目はないと、いったはずだな?」

女「へ?」

隊長「総員、この女を捕えよ! 神殿に連行する!」

僧兵A「はっ!」

僧兵B「ははっ!」

女「ちょっ……なにするんじゃ! バカ、胸をさわるでない!」

女神は神殿で裁きを受けることになってしまった。

神殿内にある、牢屋に閉じ込められた二人。

<牢屋>

女(参ったのう……こんなことになるとは)

女(“女神”であれば、こんな牢屋ぐらいちょちょいのちょいじゃが)

女(今のわらわではどうしようもないのう……)

少年「おねえさん、ごめんなさい」

少年「ボクのせいで巻き添えにしちゃって……」

女「そんなこと、気にしなくていいのよ」

女「……ところで、生贄というのはいったいなんなのかしら?」

少年「女神様が降臨するために必要な儀式だよ」

少年「少し前に、町の子供がみんな集められて──ボクが大神官様に選ばれたんだ」

女「まさか、いつもこんなことをやってるの?」

少年「ううん……。だけど、女神様の教えは絶対だから今回は特別……って」

女「生贄の儀式の時間はいつ?」

少年「町の門が閉まる時間だから……夜の9時、かな」

女(──ということは、わらわが神に戻る時間には間に合うのう)

女(なら、この子供は助けられるというわけじゃな)

少年「ボク……怖い……」

少年「女神様には悪いけど、死にたくないよ……」

女「おお、よしよし」ギュッ…

少年「!」

女神が少年を抱き寄せる。

少年「女神様……助けて……」

女「大丈夫、女神様は必ず助けてくれるわ」ギュゥ…

少年「うん……」グスッ…

女(ふふふ、可愛いものじゃな)

女(安心せい。おぬしは必ずわらわが助ける)



しばらくして──

僧兵C「さっきの女、出ろ! 大神官様が直々に裁きを下される!」



女「は~い」

<大神官の部屋>

女(……ずいぶん豪勢な部屋じゃ)

女(あそこにあるのは、わらわの絵じゃな……“女神”時のわらわに似ておる!)

女(女神に戻ってもわらわが女神だと思われない、ということはなさそうじゃの)

大神官「ワシこそが大神官であ~る!」

大神官「女神様の教えをいただいた村長の末裔であ~る!」

大神官「女神教及び女神の町は、全てワシが取り仕切ってお~る!」

女(なるほど……面影が少しだけある)

大神官「キミは崇高なる女神降臨の儀式をジャマしたと聞いておる」

大神官「女神様の教えに逆らうことは、この町の滅亡を意味する」

大神官「本来ならば死罪にしても飽き足らぬ罪業であるが──」

大神官「今日はめでたい降臨祭の日、素直に謝罪をすれば許そうではないか!」

女(なんじゃ……。ではとっとと謝ってしまうか)

女(ん? あそこにあるのは──)

女神『これはわらわが天界で作ったツボじゃ』

女神『出来はあまりよくないが、おぬしにやろう。花瓶ぐらいにはなるじゃろ』

村長『おお……ありがとうございます! 家宝にいたします!』



女(懐かしいツボじゃのう……)

女(当時は陶芸を始めたてで、まだまだヘタクソじゃった)

女「あそこにあるツボ──」

大神官「おお、あれは女神様が授けてくださった『聖なる器』──」

女「ずいぶんヘッタクソねえ、まったく形が整ってないし」

大神官「!?」

女「あんなもの、花瓶にもならないわよね。よくとっといたもんだわ」

大神官「!」ブチッ

女(わらわもあれから上達したし、もっといいものを──)

大神官「キサマァァァァァッ!!!」

女「な、なによ? ビックリしたわ……」

大神官「キサマは……即刻、処刑であ~る!」

大神官「女神様の『聖なる器』を、よりにもよってヘタクソ呼ばわりとは……!」

大神官「許せん! 許せ~ん!」

大神官「隊長! この女を今すぐ処刑せよ!」

大神官「記念すべき日にこんな女が町にいては、女神様が降臨して下さるわけがない!」

大神官「そうなれば、あの子供の犠牲も無駄になってしまうし──」

大神官「この町が女神様に滅ぼされてもおかしくな~いのだからな!」

隊長「はっ!」

女「ちょ、ちょっと待って! だってどう見てもヘタクソ──」

大神官「まだいうのか! ええい、とっとと連れてってしまえ~い!」

隊長「来い!」グイッ

今回はここまでです

処刑のため、神殿の中庭に連行された女神。

<中庭>

女(どうしてこうなるんじゃ!)

女(自分のツボを自分でヘタクソといって、なにが悪いんじゃ! まったく!)

女(この世には神も仏もおらんのか!?)



数名の僧兵が、女神に向けて矢を放とうとする。

隊長「これより、処刑を開始する!」

女(まずい……今あんな数の矢を喰らったら、死んでしまう!)

隊長「構えいっ!」バッ

僧兵A「…………」ギリッ…

僧兵B「…………」ギリリッ…

女(ううっ……こうなればカミングアウトするしかない!)

女「ま、待ってくれ! わらわは女神なのじゃ!」

隊長「なにを言い出すかと思えば……ふざけるなよ!」

隊長「突然、口調をそれっぽくしたところで、だまされるわけがなかろう!」

女「信じてくれ! せ、せめて、処刑は夜になるまで待って──」

隊長「だれが待つか! まったく大人しく謝罪していればすぐ釈放されたものを……」

隊長「天で女神様に謝罪するがいい! ……いや、地獄行きかもしれんがな!」

女(くそぉ~、信じてもらえん……!)

女「こ、このバカどもが! 神殺しィ! おぬしら、どうなっても知らんからなァ!」

隊長「……なんという見苦しい女だ」

隊長「よし、矢を放──」

矢が放たれる寸前──

バキィッ! ドカァッ!

僧兵A「ぐあっ!」ドサッ…

僧兵B「ぎゃ!」ドサッ…

打撃音とともに、弓を構えた僧兵たちが倒れていく。

隊長「な、なんだ!?」



女神の命を間一髪で救ったのは、棍棒を持った二人組であった。

戦士「まったく世話の焼ける……」

チンピラ「あっちは警備が手薄だ! とっととズラかるぞ!」



女「おぬしらは小屋にいた……! 恩に着るぞ!」

女神と助っ人二人は、どうにか神殿を脱出することができた。

戦士「ここまで来れば、ひとまずは大丈夫だろう」

チンピラ「ったく、どうせこんなことになると思ってたぜ」

女(わらわはこんな奴ら知らんが、やけに馴れ馴れしいのう……)

女(じゃが、助けられたのは事実だし、礼をいわねば)

女「助かったわ……どうもありがとう」

チンピラ「なぁ~にが、助かったわ、だ。気色悪ィんだよ!」

女「な……!?」

戦士「なんだ、まだ気づいていなかったのか」

女「え……?」

チンピラ「オメェを助ける奴なんか他にいるわけねェだろ!? オレらだよ、オレら!」

女「ま、まさか……」

女「武神と邪神!?」

戦士「やっと分かったか。ちなみに私が武神で──」

チンピラ「オレが邪神だ! オメェのすぐ後に、オレらも下界に来たんだよ」

女「ぷっ……ふふふっ!」

チンピラ「あ? なんで笑ってんだ?」

女「だ、だって……武神はまだよいが……」

女「邪神はタチの悪そうな不良青年にしか見えんぞ! ……はははっ!」

女「わらわを笑わせるではないわ! ──ぶふっ!」

チンピラ「うっ、うるせえ! ダジャレみてえなこといいやがって!」

チンピラ「しかたねェだろ! オレは人になるとこういう姿になっちまうんだから!」

チンピラ「自由に姿を決められるんなら、オレだってもう少しマシな格好してるぜ!」

戦士「笑っている場合ではないぞ……これからどうする?」

女「わらわとしては、あの子供を助けたいのじゃが……」

戦士「だが、それは人間に干渉することを意味するぞ?」

女「干渉というのなら、かつてこの町を救った時点で干渉じゃろうが」

女「わらわは神であるが、今は人でもある」

女「わらわのために死んでしまうかもしれん子供を、見捨てることなどできぬ!」

戦士「神のいうこととは思えんが……気持ちは分かる。協力しよう」

チンピラ「へっ、女神が助けなくても、テメェは助けようとしてただろ、どうせ」

戦士「む……」

チンピラ「つうか、武神も気に入ってる剣闘士に手紙送ったりしてるもんな」

戦士「な、なぜそれを……!?」ギクッ

女「あの子供を助けるとなると……今からわらわたちで神殿に乗り込むのか?」

戦士「いや、さすがにそれは無謀すぎる」

戦士「それよりすぐこの町を出て、“神”に戻るまでどこかに身を潜めた方がいい」

戦士「そして、“神”に戻ったら、すかさず降臨祭に乱入するのだ」

戦士「この町の住民の、生贄すら許容する女神への信仰度合いからいって」

戦士「生贄の儀式は予定時刻通りに行われるだろうから、まず助けられるだろう」

女「ふっふっふ、さすがわらわじゃのう」

チンピラ「オメェの信者に殺されかけたくせになにほざいてやがる!」

女「黙れ三下チンピラ!」

<神殿>

大神官「あの女を逃がしただと~!?」

隊長「申し訳ありません……。二人組のジャマが入りまして……」

大神官「くっ……まさか女神様が再び降臨されるかもしれんという大事な日に──」

大神官「あのような人間が、この『女神の町』にいるとは!」

大神官「もし、女神様の機嫌を損ねるようなことがあれば、この町はどうなるか……!」

大神官「下手すればまた災害が起こるかもしれ~ん!」

大神官「逃がして……いや、生かしてなるものか!」

大神官「まだ遠くへは行ってはおるまい……町の出入り口を封鎖せよ!」

大神官「僧兵を総動員して、その三人を捕えるのであ~る!」

隊長「はっ、女神様の名のもとに!」

<出口>

町の出入り口である門は、『女神教』僧兵の集団によって固められていた。

僧兵A「ただいまより、この門は封鎖する! 町の外に出ることは許さん!」

僧兵B「この似顔絵の人物を見つけたら、すぐに我々に知らせるのだ!」ピラッ…

僧兵C「手柄を立てた者には大神官様より褒美を取らせるぞ!」

ザワザワ…… ドヨドヨ……



戦士「……くっ、先に手を打たれてしまったか!」

チンピラ「しかも、あのオレたちの似顔絵……結構似てやがる! やべぇぞ!」

女「わらわはもっと美しいがのう。邪神はもっとブサイクじゃが」

チンピラ「うるせェよ!」

チンピラ「あれじゃ町の外には逃げられねェ……どうするよ?」

女「たかが人間の兵が20人程度ではないか。武神がなんとかすればよい」

戦士「たかが、とはいうが今の私は普通の人間より少し強い程度だ」

戦士「さっきはうまく不意を突けたが……あのように警戒されていては厳しい」

チンピラ「ちなみにオレは普通の人間よりちょっと悪い程度だ。チョイ悪ってやつだな」

女「ふっふっふ……わらわは普通の人間よりだいぶ美しい」

戦士「お前たち、我々が大ピンチだということをちゃんと分かってるか?」

似顔絵が出回ったためか、女神たちはあっさり発見されてしまった。

「おい、あそこの三人!」 「女神様の敵だ!」 「捕まえろぉっ!」

ワァァ……! ワァァ……!



戦士「くっ……見つかってしまったか!」

女「逃げるぞ!」

チンピラ「逃げるったって、どこに逃げるんだよ!?」

女「知らん! 捕まりたくなければ走るのじゃ!」

タッタッタ……

お尋ね者にされてしまった神々は、あてもなく走り続ける。

タッタッタ……

女「ところで武神よ、今何時ぐらいじゃ?」

戦士「さっき時計があったが……まだ夕方の4時といったところだ」

戦士「我々が神に戻れるまで、四時間以上ある」

チンピラ「ったく、まさかたかが数時間を、こんなに長く感じる日がくるなんてな!」

女「貴重な体験じゃろうが」

チンピラ「うるせェよ!」

タッタッタ……

夕方5時を回り──

チンピラ「ちくしょう~……次はどっちに逃げる!? 右か、左か!?」

戦士「おそらく、どっちにも追っ手はいるだろうが……」

女「む、あそこにおるのは──」



ターバン「フンフ~ン」

ターバンを巻いた男が、カレーの屋台を開いていた。

女神降臨祭でカレーを宣伝すべく、出張して出店していたのである。



女「あやつはどう見ても異国の人間じゃ。この町の事情はさほど知らんはず」

女「それに……なんとなく“よい奴”という感じがする」

チンピラ「ホントかよォ?」

戦士「女神の勘に賭けるしかあるまい! 彼にかくまってもらうよう頼もう!」

<カレー屋台>

女「突然すまぬ!」バッ

ターバン「オ~、アナタたちは昨晩、あの小屋で一緒になった人たちデースネ?」

ターバン「ワタシ、女神様にカレー食べて欲しくて、この町の祭りに──」

女「ありがたい話じゃが、おぬしの話を聞いておるヒマはない!」

女「頼む、かくまってくれんか!」

女「わらわたちは、この町の人間に追われておるんじゃ!」

ターバン「…………」

ターバン「分かりましタ~! ワタシの屋台に隠れてくだサ~イ!」ニコッ

女「おおっ、ありがたい!」

屋台は大きく、人間三人が隠れるに十分なスペースが残っていた。

女「ふう……ここならば大丈夫じゃろう」

チンピラ「あとはここで数時間、息を潜めてりゃいいわけだ。楽勝だな」

戦士「どうもありがとう……助かったよ」

ターバン「気にしないでくだサーイ!」

ターバン「アナタたちが悪者でないこと、ワタシなんとなく分かりマース!」

女「わらわの読み通り、おぬしは素晴らしい男じゃ」グゥゥ…

女「!」

女(そういえば、昨晩からなにも食ってなかったからのう……)グゥゥ…

戦士「私も……」グゥゥ…

チンピラ「オレも……」グゥゥ…

ターバン「アナタたち、とてもお腹空いてるみたいデスネー!」

女「うぐっ! よく分かったのう!」

チンピラ「そりゃ分かるだろ」

ターバン「よかったら、ワタシのカレー食べませんカー?」

ターバン「もちろん、お代はいりまセーン! ワタシのおせっかいデース!」

女「おおっ! おぬしは本当にいい男じゃ! まるで神様じゃ!」

戦士&チンピラ「…………」

ターバン「ハハハ、そんな褒め方したら女神様が怒ってしまいマースヨ!」

ターバン「では、カレーを作るので、少し待っててくだサーイ!」

ターバン「できましター! さぁ召し上がってくだサーイ!」

女「いただこう」パクッ

戦士「いただきます」モグッ

チンピラ「へへっ、こりゃうまそうじゃねェか」モグッ

女「うむ、実に美味じゃ! 香ばしくて、ピリッとした辛さで……たまらんな!」

チンピラ「カレーってのは初めて食うけど、こんなにうまいもんだったのか!」

ターバン「オォ~! 気に入ってもらえて嬉しいデース!」



ところが──

戦士「…………」

女「武神よ、どうしたんじゃ?」

戦士「か……」

女「か?」

戦士「ら……」

チンピラ「ら?」

戦士「い……」

ターバン「イ?」

戦士「からい……」

戦士「辛えええぇぇぇぇぇっ!!!!!」



「こっちからすごい声がした!」 「いたぞー!」 「のたうち回ってやがる!」

こうして女神、武神、邪神は捕えられた。

女神たちは神殿に連行され──

<牢屋>

僧兵A「いいか……今度は逃げられんからな!」

バタンッ!



女「…………」

女「このバカ武神めが! あれしきの辛さで情けない!」

チンピラ「あんな悲鳴を上げるなんて、どんだけ辛いの苦手なんだよ!」

戦士「……面目ない」シュン…

少年「……おねえさん、また捕まっちゃったの?」

女「そうじゃ……ええ、そうよ」

女「どこぞのアホのせいでね……」ギロッ

チンピラ「まったくだ」ギロッ

チンピラ「普段マジメな奴ってのは、こういう肝心な場面でトチるんだよなァ~」

戦士「いや、ホント……すまん」シュン…

少年「ボクはしょうがないけど……おねえさんが死んじゃうのはイヤだよ」

女「ふふふ、大丈夫よ。すぐ処刑されるってことはないだろうし──」





「残念だったな」

隊長「『聖なる器』の侮辱、僧兵への暴行、逃走……お前たちはやりすぎた!」

隊長「よって、大神官様の命でお前たちは降臨祭にて公開処刑されることに決まった!」

隊長「それぐらいせねば、女神様がお怒りになるという判断でな」



女「なんじゃと!?」

チンピラ「ウソだろォ!?」

戦士「……すまん」

少年(おねえさん……!)



隊長「生贄の儀式よりも先に、お前たち三人の処刑は行われる」

隊長「せいぜい、おのれの犯した過ちを悔いるのだな」



女(い、いかん……! それではこの子供を助けられぬ……!)

<女神の町>

女神降臨祭、開始──

女神の降臨を待ち望む人々が、食事をし、ダンスを踊り、祈りを捧げていた。



ワイワイ…… ガヤガヤ……

「聞いたか? なんでもよそ者の公開処刑をやるんだってよ!」 「ホントか!?」

「ずいぶん過激なことするんだな……」 「仕方ないさ……日が悪すぎる」

「女神様の機嫌を損ねたら、この町は終わりだものね」 「……そういうことさ」





まずは300年ぶりの女神降臨の日を汚した三名を処刑し──

夜9時に行われる生贄を用いた降臨の儀式で、祭りはクライマックスを迎えるのだ。

<牢屋>

隊長「さぁ、出ろ!」ギィィ…

隊長「お前たちはこれより、大勢の前で処刑されるのだ!」

隊長「女神様の名のもとにな!」



女(わらわが女神じゃというに……!)ギリッ…

チンピラ(ちくしょう……手錠をかけられて逃げられやしねェ!)ガチャガチャ…

戦士(私のせいだ……)ズーン…

今回はここまで
次回へ続きます

チンピラと戦士のままじゃ分かりづらいから治しておくんなまし

>>62-63
ご指摘ありがとうございます
邪神=チンピラ、武神=戦士、で合っています
女神と違い名前に繋がりがないので分かりにくくすみませんでした

今回の投下で多分ラストまでいくので名前はこのままにさせていただきます
よろしくお願いします

<女神の町>

町の中心にある大きな広場にて、大神官が町民たちに演説を行う。

大神官「諸君! 本日の降臨祭を、大いに盛り上げてくれて本当にありがとう!」

大神官「しかし! こんな大事な日にまことに残念な出来事があった!」

大神官「なんと……女神様降臨の崇高な儀式をジャマしようとしたばかりか──」

大神官「女神様の『聖なる器』をあろうことか、ヘタクソとののしった者がいたのだ!」

大神官「そやつらは僧兵に暴行を働き、逃亡まで企てた……!」

大神官「だが、安心して欲しい! その者たちはすでに僧兵によって捕えられた!」

大神官「よって、これよりこの愚か者どもを処刑する!」

大神官「ワシとしても、この降臨祭でこのようなことを行うことは心苦しいが──」

大神官「これほどの愚か者の罪は、死によってのみあがなわれるのであ~る!」

広場の中央で磔にされる女神たち。

チンピラ「……おい、今何時ぐらいだよ?」

戦士「分からん……。が、せいぜい8時を回ったというところだろう」

チンピラ「神に戻れるまで、あと数十分はあるな……。ちくしょう、ここまでかよ!」

女「無念じゃ……」



隊長「これより処刑を開始する! 準備はいいか!?」

僧兵A「はっ!」

僧兵B「かまいませんっ!」

僧兵C「いつでもっ!」

昼間と同じように、僧兵らが弓を構える。

その時だった。

降臨祭に参加していた、昨夜女神たちと小屋にいた者たちが動く。

旅人(彼らの処刑……!?)

旅人(彼らはそんなに悪い人とは思えない!)

旅人(特にあの女性は、絶対に悪い人じゃないはずだ!)

旅人「待ってくれ!」スタタッ

隊長「なんだ?」

旅人「もんじゃ焼きを好きな人に、悪い人はいない! 処刑はやめてくれ!」

隊長「黙れ!」

ガツンッ!

旅人「ぐあっ……!」ドサッ…

もんじゃ焼き好きだったらしい旅人は、殴り倒されてしまった。

ターバン(うう……彼らが処刑されるなんて間違ってマース!)

ターバン(なんとか、処刑を止めないトー!)

ターバン「皆サーン、処刑よりカレーいかがデスカー!?」サッ

隊長「それどころではない!」バシッ

ベチャッ……!

ターバン「ああっ……!」

カレーは、皿ごと地面に放られてしまった。

大男(やべぇよ、あの女は絶対やべえんだ……!)

大男「おい、処刑とかやめとけって!」

大男「あの女は絶対やべえんだ! 俺には分かんだよ! 絶対やばいんだって!」

隊長「なにがやばいんだ! 処刑のジャマだ、消えろ!」

ドゴォッ!

大男「いだだ……! やべぇ、やべぇんだよ、あの女は……! 絶対やべぇって!」

隊長「まだいうか!」



女「やばいやばい、と連呼するな! 無礼者め!」

チンピラ「ギャハハハハッ! あのデカイ奴は分かってんな!」

戦士(彼らのおかげで処刑が少しだけ延びたが……これでもどうにもならん……!)

三人を排除して、隊長が再び号令をかけようとする。

隊長「さぁ、今度こそ処刑を行う!」



戦士「ここまでか……!」

女「どうやら……年貢の納め時のようじゃのう」

チンピラ「クッソォ~、なんでオレまで……」

女「おぬしはよい。邪神など、滅んだ方がよいからな」

チンピラ「ンだとォ!? 清廉すぎる世の中ってのもよくねェんだぞ!?」

戦士(よくこんな時にまでケンカができるな、こいつらは……)



隊長「かまえっ!」バッ

大神官「こやつらを片付けたら、すぐに女神様降臨の儀式に移るのであ~る!」

すると──

タッタッタ……

僧兵D「だ、大神官様っ! 大変でございます!」

大神官「今度はなんだ!? これ以上、ジャマをするでな~い!」

僧兵D「生贄のための子供が……あの少年が……」

大神官「あの少年が、どうしたというのだ?」

僧兵D「“おねえさんたちを殺すならボクも”と……」

僧兵D「壁に頭を打ちつけて、自殺を図り……」

大神官「な……なにい!?」



チンピラ「自殺……!?」

戦士「な、なんということだ……!」

女「…………!」

大神官「少年は……どうなったのだ!?」

僧兵D「医学の心得がある者が診ておりますが……おそらく……」



女「……くっ!」

女「バカ者どもが! あんな子供を死に追いやってしまうとは……!」

女「すぐにわらわを連れていけ!」

隊長「なにをいっている! お前はこれからしょけ──」

女「黙れッ! 早くしろ! ひっぱたくぞッ!」

隊長「うぐっ……!」

大神官「医術の心得があるようだな……。やむをえん、連れていってみろ!」

隊長「わ、分かりました……」



チンピラ「へっ……あんなにブチ切れた女神は、久々に見たな」

戦士「うむ、ざっと千年ぶりぐらいか?」

女神が大神官や隊長とともに、牢屋に向かう。

<牢屋>

僧兵E「くっ……意識が戻らない!」

少年「…………」



大神官(うむぅ~……あれではもはや……)

隊長(助かるまい……)



女「どいておれ」スッ…

僧兵E「え……」



女神は少年を抱きかかえた。

少年「…………」

女「わらわたちを想って死を選ぶとは……バカ者め……」ギュッ…

女「じゃが、おぬしのおかげでわらわの命は助かった」

女「だから……すぐ助けてやるぞ。安心せい」



パアァァァァァ……

牢屋が聖なる光に包まれる──



隊長「な、なんだこれは……!? あの女が光り始めた……!」

大神官(このあたたかな光……伝承にある、女神様の光……!)

大神官(ま、まさかッ!?)

24時間ぶりに、女神が“人”から“神”に戻った──



少年「あれ……ボクは死んだはず……。ここは、天国……?」

女神「天国ではない。あれしきの傷を治すことなど、わらわには造作もないこと」

女神「……今はゆっくり休んでおれ」ギュウ…

少年「うん……」

少年「すぅ……すぅ……」

女神(やれやれ、奇しくもこの子供が我が身を犠牲としたおかげで)

女神(わらわはこうして降臨することができた……)

女神(感謝するぞ……)

大神官(この聖なる光、あの美しき羽衣……そして、あのお姿……)

大神官(全てが伝承の通りではないか!)

大神官(ま、まさか……まさか!?)

大神官(この女……いっ、いや! このお方は──!)

大神官「あなたは……女神様!?」

女神「いかにも」

女神「300年ぶりに降臨してやったのじゃ。ちときわどかったがのう」

大神官「…………!」

大神官「ははーっ!!!」ガバッ

隊長「も、申し訳ありませんっ……!」ガバッ

その場にいた『女神教』のメンバーは、全員ひれ伏すこととなった。

降臨祭の会場でも、二人の“人”が“神”に戻りつつあった。

戦士「時間だ! 戻れるぞ!」グゴゴゴ…

チンピラ「よっしゃああああああっ!」ズオォォ…

強大な覇気と、邪悪な瘴気が二人を包む。

僧兵A「な、なんだ!? なにが起こっている!?」

僧兵B「ええい、どうせ処刑するんだ! 矢を喰らわせろ!」

ビュババババッ!

僧兵たちから矢が放たれるが──



武神「残念だが、我々には通じない」シュゥゥ…

邪神「もうさっきまでのオレたちじゃねェぜ!」シュゥゥ…

矢の雨は彼らに届く前に消滅していた。

僧兵A「お、おのれ……! ならば剣で……!」チャキッ

武神「剣で私に挑むなど、なおさらやめておけ」ヒュッ

ズシャアッ!!!

武神が剣を振るうと、人混みや建造物を器用に避け、大地が地平の果てまで割れた。

邪神「よぉ~し、オレもやってやらァ!」ポイッ

邪神が空に闇の球体を放り投げると、

ズオォォォンッ!!!

大爆発が起こった。

僧兵A「ウ、ウソでしょ……」

僧兵B「矢なんか通じるわけが、ない……」

僧兵C「か、神だ……」



武神「おっと……割れた大地は直しておかねば」ペタペタ…

邪神「……だったら、最初からやるんじゃねェよ」

<牢屋>

女神(この気配……どうやら奴らも戻ったようじゃのう)

少年「おねえさん……おねえさんが女神様、だったんだね」

女神「!」

女神「なぜ分かった? おぬしはわらわが戻る瞬間を見ておらんはずなのに……」

少年「なんとなく……かな」

少年「それに……おっぱいの感触はおんなじだったから……」

女神「ふふっ……ませておるのう」

女神「ほ~れ、これは礼じゃ。もっと味わえ」ギュゥ…

少年「うんっ……」

大神官「も、申し訳ありません! ──女神様!」

隊長「このたびは、大変なご無礼を……!」

大神官「せ、せめてこの不始末の責任は全てワシ一人に──」

女神「……もうよい。おぬしらを責めることはせん」

女神「おぬしらは早く戻って、祭りを再開せい。平和的にのう」

大神官「はいぃっ!」

女神「ところで、今何時じゃ?」

大神官「えぇと……夜の8時45分です!」



女神(古来からの言い伝えによると──)

女神(偉い者が正体を明かすシーンは20時45分に行う、のがお決まりなそうじゃが)

女神(わらわもそうなってしもうたか……)

女神「ふふふ……はっはっはっはっは……!」

<女神の町>

父「女神様……ありがとうございました!」

母「なんとお礼を申し上げたらよいか……」

女神「わらわとてこの子に助けられたのじゃ。気にせんでよい」



ザワザワ…… ザワザワ……

「あれが女神様か……!」 「美しい……」 「本当に降臨されたとは……」



大男「な? だからいったろ! あの女はやべぇって!」

大男「俺には分かってたんだ! あの女のやばさを! 絶対やべぇってさ!」

女神「やばいやばいと、やかましいわ!」

ゴッ!

大男「ごめんなさいっ!」

女神降臨祭も、いよいよ閉幕の時刻が迫ってきた。

女神「そろそろ、祭りもお開きの頃じゃな」

女神「では……せっかくわらわが降臨してやったのじゃ」

女神「わらわのありがたい言葉を聞くがよい」

大神官「は、はいっ! ぜひ、お願いいたしま~すっ!」

女神「そう力まんでよい。じゃが、心して聞けよ」

女神「……コホン」



邪神「……逃げようぜ」コソッ…

武神「ああ」コソッ…

四時間後──

女神「──であるからして」

女神「わらわを敬うという気持ちは、わらわも嬉しい」

女神「じゃがそれで人の命を奪うということはあってはならぬのじゃ……」



大神官(うう……もう深夜になってしまったが……)

隊長(いったいいつ終わるんだろう……)

ターバン(長いデース……)

大男(こりゃやべえぜ……やばすぎるぜ……)

旅人(今いってること、さっきも同じこといってたような……)

少年「すぅ……すぅ……」

人々がうんざりしてきた頃、どこかに逃げていた武神と邪神が戻ってきた。

武神「女神よ、もうその辺で……」

女神「おお、そうじゃな。まだまだ話し足りんのじゃが……」

大神官「い、いえっ! もう十分に堪能いたしました~っ!」

邪神「ところで……大神官だっけか。聞いておきてェんだがよ」

大神官「は、はいっ!」

邪神「今、武神とその辺の奴らから聞き込みしてたんだが──」

邪神「オメェらはもっと、なんつうかメチャクチャに独裁をやってると思ったが」

邪神「意外と……まともにここら辺を統治してるってのが分かった」

大神官「あ、ありがとうございますっ!」

邪神「なら、なんでだ?」

邪神「なんで、子供を生贄にするなんてマネをしやがった?」

大神官「えぇと……それは──」

大神官「実は……300年前の、女神様のお言葉が記録として残っておりまして……」

大神官「“再び降臨する時は子供が欲しい”と」

大神官「なので、子供を天に捧げるため、あの少年を使おうとしたのです」

大神官「我々にとっては、女神様の教えが全てですから……」

邪神「なにィ……!?」

武神「女神、お前本当にそんなこといったのか?」

女神「バ、バカな……わらわはそんなこといっとらんぞ!」

大神官「なにしろ、300年前のことですから……」

大神官「もしかしたら、間違って記録が残っていたのかもしれません……」

女神「うむ、きっとそうじゃ」

女神「…………」

女神「……いや、そういえば!」

村長『次に降臨されるのは、300年後ですな?』

女神『うむ』

村長『ところで、なにか欲しいものはございますか?』

女神『そうじゃな……子供が欲しいのう』

村長『こ、子供……!?』

女神『というわけで、300年後には頼んだぞ!』



女神「──というやり取りをした覚えがある。懐かしいのう……」

武神&邪神「…………」

邪神「オメェが悪いんじゃねえか! このバカ!」

女神「え、なんでじゃ!?」

邪神「だったら、子供が欲しいってのは、いったいどういう意味なんだよ!?」

女神「そりゃもちろん、子をなしたいという意味じゃ!」

邪神「なら、産みたいってハッキリいえや!」

武神「……“頼んだぞ”というのは?」

女神「ようするに、下界のベビー用品を用意してくれないか、と……」

邪神「んなもん、分かるわけねェだろ! このバカ!」

女神「なんじゃと!?」

邪神「ハァ~……オメェがちゃんとしてりゃ、こんなことにはならなかったんだ!」

女神「ぐぬぬ……」

女神「ふん、邪悪をつかさどる神に“ちゃんとしてろ”とはいわれとうないわ!」

邪神「ぬうう……」

武神「お前たち。みっともないから、本当にやめてくれ」

女神&邪神「黙れ! 辛いの苦手なくせに!」

武神「うぐぐ……」

旅人「ところで……女神様は、お子様はいらっしゃるんですか?」

女神「…………」

邪神「ギャハハハハッ! こいつにガキなんかいるかよ! 結婚すらしてねーしな!」

女神「な……!」

ターバン「邪神サマや武神サマは、女神サマと結婚しないんデスカー?」

邪神&武神「絶対イヤだ」キリッ

ターバン「ぷっ……」

大男「ぶっ!」

ハッハッハッハッハ…… ワッハッハッハッハ……

女神「お、おのれ……!」カァァ…



大神官(ワシは笑ったらまずいだろうな、立場的に……)

少年「あのう……」

女神「む?」

少年「ボクが……おっきくなったら立候補してもいい?」

少年「おねえさん……じゃなくて女神様の結婚相手に!」

父「こ、こらっ!」

母「すみませんっ!」

女神「…………」

女神「おお~、こんな子供なのに分かっとるのう! 真のいい女というものを!」ギュウ…

少年「うわっ!」ムギュッ…

女神「よぉ~し、大きくなったらおぬしを夫にしてやろう!」

邪神「だから、そういうのをやめろっつってんだよ、バカ!」

武神「うかつな発言は控えろ!」

女神「ふん、固いことをいう奴らじゃ」

女神「……まぁ、この辺にしておくか」

女神「では、わらわたちは、これでおいとまするとしよう」

女神「まだまだおぬしらに教えたいことは山ほどあるが──」

女神「わらわは神……これ以上は立ち入らぬことにしよう」

女神「おぬしらを信頼してな」

大神官「は、ははーっ!!!」ガバッ



武神「だれもいわないが、心の声が聞こえるようだ」

邪神「ああ……“もう十分だ”ってな」

女神「では達者でな! 皆、仲良く暮らすんじゃぞ!」

女神「また遊びに来た時にケンカなんぞしておったら、許さんぞ!」

邪神「じゃあな! 程々に悪さも覚えろよな! つまんねェ人間になるなよ!」

武神「心と体を鍛えることも忘れぬようにな」



少年「さようなら、おねえさん……じゃなかった女神様!」

旅人「今まで世界中を旅してきましたが、今日の出来事が一番衝撃的でしたよ」

大男「マジですんませんでした……」

ターバン「ワタシの祖国にも、カレー食べにきてくだサーイ!」

大神官「『女神教』は、女神様の教えを遵守いたしま~す!」

こうして、神々は天界に帰っていった。

………………

…………

……

その後──

<天界>

女神「邪神よ、下界に遊びに行ってくる」

邪神「またか。最近、やたらと下界に行ってねェか?」

女神「放っておいて、また『女神教』が暴走しても困るからのう」

邪神「まぁ、好きにすりゃいいけど、アイツみたいになるなよ」

女神「アイツ?」

邪神「武神だよ。アイツ、あのターバン巻いてた奴の国に行って」

邪神「リベンジとかいって“1000倍激辛カレー”とかいうのにチャレンジして──」

女神「して?」

邪神「あっちで未だに悶えてるぜ」クイッ

武神「ぐおおおおおおおおっ!!!」ゴロゴロ…

武神「ぐわあああああああっ!!!」ゴロゴロ…

武神「ハァ、ハァ、ハァ……」

天使A「武神様、大丈夫ですか!?」

天使B「水神様の泉から、お水をお持ちしました!」

武神「ありがとう」ゴクゴク…

武神「あああっ! まだ後味がああああああっ!!!」ゴロゴロ…



邪神「──ったく、なんで普通のも食えねェのに、1000倍に挑むかねェ」

女神「情けないのう……。下界の武人たちが聞いたら泣くぞ」

<女神の町>

少年「あっ、おねえさん! お久しぶり!」

女「おお、また少し大きくなったようじゃな」

少女「こんにちは!」

女「む……? おぬしは……?」

少女「最近、この町に引っ越してきたんです! よろしくお願いします!」

女「お、おお……そうか……」

少年「ボク、この娘と一緒に勉強して、『女神教』の神官になれるようがんばるよ!」

女「……う、うむ。期待しておるぞ!」

<神殿>

女神「よいか! おぬしらは人々に優しくせねばならん! 分かるか!?」

大神官「は、はいっ! おっしゃる通りでございま~す!」ガバッ

隊長「ははーっ!」ガバッ

僧兵A「なんか……今日はやけに厳しくないか?」

僧兵B「まるで、失恋でもされたかのような……」

女神「これそこ! 聞こえとるぞ!」

僧兵A&B「し、失礼いたしましたーっ!」ガバッ



女神(あんな子供との口約束を真に受けるとは──)

女神(わらわもまだまだ未熟じゃのう……)





                                 ~ おわり ~

色々いじくりながら投下終了できました
これで完結となります

レスくださった方、読んでくださった方
ありがとうございました

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