王様「穀潰しの息子よ」勇者「魔王を倒しに行け…だと?」(151)

王様「無論、行くじゃろ」

勇者「行くわけねぇーだろ」

王様「何故じゃ」

勇者「逆に訊くが、なんで俺がそんな面倒なことをしなきゃならない?」

王様「お前が勇者だからじゃよ」

勇者「なんで俺が勇者なんだよ。この間まで普通に息子として扱ってただろうが」

王様「魔王側の動きがなかったからのう」

勇者「その魔王が動き出したから急きょ俺を勇者にしたわけか」

王様「そうじゃ」

勇者「…俺より向いてる奴は探せばいくらでもいるだろ」

王様「お前でなくてはならんのじゃ」

勇者「だから…なんでだよ。俺があんたの息子だからか?」

王様「お前がこの国で一番強いからじゃ」

勇者「一番強い…ねぇ」

勇者「本音を言えよ」

王様「…なんのことじゃ?」

勇者「あんたは何もせずにただ怠惰を貪る俺を、追い出したいだけだろ?」

王様「……お前は努力と言うものを知らずに強くなった」

王様「だがそれではいかんのじゃ」

王様「おいさらばえたこのわしの唯一の望みは、お前に努力を知ってもらうことじゃよ」

勇者「…そうかい」クルッ

王様「それでも承けぬか」

勇者「当たり前だろ」

王様「そうか…」

王様「戦わないか…そうじゃろうな…魔王はお前より強いじゃろうからな…」

勇者「…あ?」ピタッ

王様「…どうした」

勇者「今なんつったよ…」

王様「魔王はお前より強いと…」

勇者「…そんなに強いのか…その魔王は」

王様「じゃからお前を頼っておる」

勇者「……」

勇者「いいぜ」

王様「…!」

勇者「魔王だかなんだか知らねぇが、俺より強い奴がいるってなら倒しに行く」

王様「おお…!本当か勇者よ…!」

王様(バカな奴よ…こいつはこうやって煽ればすぐに釣られる…死ぬほどの苦労を味わってくるがよいわ!)

勇者(ジジイ…てめーは俺を煽ってやる気にさせたつもりだろうが)

勇者(俺は『魔王を倒す』としか…まして『王国を守る』とは一度も言ってねーんだぜ)

王様「よし!ならばさっそく仲間を探しに行くがよい!武器の調達もせねばな…」

勇者「んなもんいるかよ」

王様「いらぬのか…?どっちがじゃ?」

勇者「どっちもだ」

王様「……」

勇者「まぁ、風避けになりそうなデカい奴とか…そういうのを連れてくのはいいかもな」

王様「…と、とにかく行ってくるんじゃ」

勇者「おう……あ、そうだ」

王様「…?」

勇者「金くれよ、金」

王様「そ、そうじゃな…軍資金は必要じゃな…ほれ、このカードを持っていけ」

王様(この穀潰しにマトモに金が使えるとは思えんが、やむを得んのう)

勇者は 30000g(1g=100円)の入ったカードを 手に入れた

勇者「大事に使わせてもらうぜ」

・いわゆる勇者と魔王のssです

・ただしその手のゲームは一切やったことがないので、オリジナルの要素が多いです

・多少の地の文が入ることがあります


上記の三点を留意の上でお読みいただければ幸いです

勇者「仲間か…」スタスタ

勇者「なんだ…その辺プラプラしてる職無しでも捕まえればいいのか…?」

勇者「いや、せっかくなら使えるやつが欲しい…あんまりテキトーに探すのもダメか」

勇者「さてどうするか」


城の外

ワイワイ

勇者「………」

勇者(外に出るのは何年ぶりだ…5年?いやもっとか)

ガヤガヤ

勇者(何も変わってねぇな)

勇者「無能どもがざわざわ群れてやがる」ボソッ

チンピラ「……おい!今なんか言ったか!?」クルッ

勇者「こういう奴らがいるから外には…」ブツブツ

チンピラ「おい兄ちゃ?」ガシッ

勇者「出たくねぇーんだよ!」グイッ

勇者は、肩に乗ったチンピラの手を取って、思いっきり捻りあげた

チンピラ「〇×☆◎〒�・�・�・!!??」

勇者「てめぇーみたいな軟弱な奴はなぁー…」グググ

チンピラ「いだだでででで!!」

勇者「頼まれても連れてかねぇぞ」パッ

チンピラ「な、なんなんだよぉ…チクショー」


勇者「ダメだ…やっぱり仲間はいらねぇ…イライラするだけだ…」ブツブツ

勇者「武器…武器が優先だな」スタスタ


チンピラ「あのヤロウ許さねぇぞ…ボスに連絡だ」ピッ

チンピラ「あ、ボスですか?今どこに…」

チンピラ「…武器屋…?」

チンピラ「ああいや、なんでもねぇです。ゆっくりしてってくだせぇ」ピッ

チンピラ「おい兄ちゃん!」

勇者「あ?なんだてめぇ…まだ懲りねぇのか」

チンピラ「い、いやそうじゃねぇよ。今、武器がどうとか言ってたろ?」

勇者「だったらなんだ」

チンピラ「この先をしばらく行くとよ、『ポーウェン』って店があんだよ。いい武器が揃ってんだぜ」

勇者「そこに行けって言いてぇのか」

チンピラ「お、おう」

勇者「今しがたその腕を捻りあげたばかりの憎き俺にか」

チンピラ「あ、あそこは紹介制の店なんだよ!」

勇者「紹介制ね…まぁいいぜ」

勇者「その『ポーウェン』とやらに行ってやる」

チンピラ「おう…!」ニヤリ

チンピラ(バァーカ!店にはすでにボスがいる!あの男が『俺からの紹介を受けた』ことをボスが知れば、必ず接触するはず!)

チンピラ(俺が直接に敵討ちを頼むのも情けねーからな…!)

武器屋『ポーウェン』

勇者「ここか」ガチャ

ギィイイ…

?「…お、珍しいな…この店に俺以外の客が来るとは」

店主「いらっしゃいお客さん」

勇者「……」

店主「鍬ですか?鋤ですか?」

勇者「なんのことだ?」

店主「…あぁ、武器ですか」

?「そりゃますます珍しい」

店主「で、誰から紹介を…」

勇者「…街でチンピラ風情から聞いた」

店主「チンピラ…?」

勇者「赤い髪をトサカみたいに逆立てた奴よ」

?「!!」

?「そいつは俺の部下だぜ」

勇者「あ?」

?「なるほどな。なんでいきなり連絡してきたのかと思ったら、そういうことか…」

?「お前…」

勇者「……」

?「俺にオススメの武器を教えてもらいたいんだろ!」

勇者「…じゃあ、頼む」

店主「いやそうは言っても…」

?「いーじゃんかよ。俺が紹介したってことにすればさ。な!?」

店主「まぁ、それなら…」

勇者「なんで武器屋のクセに紹介制なんてやってんだ」

店主「ウチはなるべく武器は売りたくないんだよ。だから紹介を受けた、本当に武器が必要な人にだけ…」

勇者「なるべく武器を売りたくない?」

店主「…18年前のあの魔族大征討…わたしはその中で一部隊を率いて、たくさんの魔族を殺した」

店主「そのときの嫌な感触が、どうにもぬぐえない…」

店主「早い話が、武器が嫌いになってしまったんでしょう」

勇者「じゃ、なんで武器屋なんてやってる?」

店主「祖父の代からやっとりますからなぁ」

?「いいもの揃ってるんだぜ。店を手放すわけにはいかねーんだろ」

店主「割りきれんのですわ…いやはやなんせ生活がかかっとりますから」

勇者「…まぁなんでもいいけどな」

勇者「ところで…てめーはなんなんだ」

?「俺?俺はアレだ、この辺じゃちょっとは名のあるグループのトップだ。ボスだ!」

勇者「そうかいボス。で、グループってのは」

?「お前そりゃグループっつったらモンスター狩りに決まってるだろ?」

勇者「……モンスター狩り」

ボス「なんだよお前…モンスター狩りやってんじゃねぇの?新米だから武器探しに来たんじゃねぇの?」

勇者「俺は違う。そんなことはしねーよ」

ボス「ふーん…まぁいいや。んでオススメだけどよ、やっぱ男なら…」

ボス「…剣だよな!」シャキーン!!

勇者「……」

ボス「これ、俺の剣『エッジ・オブ・カオス』!黒い刀身に金色の紋様が…最高にイカすだろ!?」

ボス「でもこれがまた高かったんだよなー。2500gだったのを1500gまで値下げしてもらって…」ブツブツ

勇者「…おい店主」

店主「なんでしょう」

ボス「しっかしいい剣なんだけどよー狩りにはイマイチ向いてねーんだよなぁ」ブツブツ

ボス「いや剣ってのは大体そうなんだけどよ。どうせなら弓矢とか槍にしとけばよかったかなぁ…」ブツブツ

勇者「ここには西洋剣しかないのか?」

店主「はい?」

ボス「ん…?」

勇者「東洋剣はないのか?」

店主「そんな高級品はここにはありゃしませんよ」

ボス「なにおまえ、収集家(コレクター)?西洋剣じゃなくて東洋剣欲しがるなんて…」

勇者「普通に考えたら東洋剣だろうが」

ボス「なんでだよ?」

勇者「西洋剣は切るものじゃなくて、思いっきり力で叩きつけるもんだ。そんなのはいん。素手でやったほうが早いからな」

ボス「そ、そうかぁ?」

勇者「…まぁ、ないならしかたねぇ。西洋剣で我慢してやる」

勇者「一番丈夫な奴はどれだ?」

店主「丈夫な奴…ですか?」

勇者「どれだけ叩きつけても壊れない奴だ」

ボス「ぷっ!お前さー剣を叩きつけてぶっ壊すなんてありえねーよ!」

店主「…一番丈夫な奴というと…これですかな」

店主「金剛剣『ダイアモンド』!刀身がダイアでできている超高級剣です」

勇者「それ、いくらだ?」

店主「500000gです」

勇者「足りねぇわ」

ボス「…当たり前だろ!」

勇者「こうなりゃもうなんでもいい……」キョロキョロ

勇者「それだ。その『ビギナーソード』でいい。30gで安いからな」

ボス「それ訓練用のやつだぜ…」

店主「ありがとうございました」

バタンッ

ボス「ホントにそれでよかったのかよ」

勇者「真剣に選ぶのも面倒だ」

ボス「剣だけに真剣?うまいこと言うね」

勇者「黙れよてめー」


「ボス!」ザッ


ボス「ん?」クルッ

チンピラ「なんでそいつと仲良くなってんすか!?」

勇者「お前はさっきの…」

ボス「はあ?お前がこいつにオススメの武器を教えてやれって言ったんだろー!?」

チンピラ「んなこと言ってやせんぜ!」

勇者「おい…」

チンピラ「!兄ちゃんあんたさっきはよくもやってくれたな!復讐しに来たぜ!」

ゾロゾロ

チンピラたち『へへへ…』

勇者「こいつらもお前の部下か?」

ボス「そうだけど…おい!復讐ってなんだ!?なにするつもりだ?」

チンピラ「ボスは黙っててくだせぇ」

勇者「…落とし物をつけてやる…ってやつか」

チンピラ「それを言うならオトシマエだ!覚悟しろよ!」

勇者「…だから本当によぉー」

勇者「…外に出るのは嫌だったんだ」スッ

ボス「剣…?お、おいまさか…!」

チンピラ「そんな安物の剣なんか役に立…」

メキャッ!!!

チンピラ「ブゲェッ!?」グシャッ

ボス「!!」

勇者「覚悟するのはてめぇーらだ…」

チンピラたち『う、うおおおおおーよくも!!』

一斉に飛びかかるチンピラたち。その数なんと7人!

ボスの目には、なすすべもなくボコボコにされる勇者が映る

はずだった…


チンピラたち『か……』ピクピク


ボス(…なんだそれ…)

まったく逆である

勇者は飛びかかるチンピラたちをすべて、剣を振るって迎撃した

厳密には、ボスに剣を振るった瞬間は見えておらず、ただ叩きのめされた姿しか分からない

しかしその決定的な証拠になっているのは…


ボス「剣が…」

ビシビシ…パキンッ!!

勇者「試し切りでダメになっちまった。だから丈夫な奴がいいって言ったのによ」

勇者「やっぱ武器はなくていいか…」ポイッ

ボス(なんだコイツ…)

チンピラ「うぐぅ…は、歯がぁ…」

チンピラたち『痛ぇよ…クソぉ…』

ボス(こいつらだって、決して弱くは…)

ボス「なんだお前…!今なにした!?」

勇者「あ…?」

勇者「…そうか、お前の部下なんだよな…いや悪いな、ついやっちまった」

勇者「でも先に突っかかってきたのはそっちで…」

ボス「そんなことはどうでもいい!」

勇者「……じゃあなんだ」

ボス「お前、なんでそんなに強いんだ…!」

勇者「…さぁな…」

勇者「許してくれるんなら、俺はもう行くぜ」

ボス「行くって、どこに!」

勇者「魔王のとこに」

ボス「……」

ボス「魔、王…?」グラッ

勇者「俺は今日から勇者。魔王を倒しに行くことになった。武器を買いにきたのもそのためだ」

ボス「……!」

様々な感覚がボスの脳内に溢れたが

学の少ないボスは、それをうまく言葉にすることができなかった

ただ、気がつくと一言

ボス「俺も着いていく!」

勇者「あ?」

ボス「いや…違う…」

ボス「着いていかせてくれ!」

チンピラ「ぼ、ボス…?」

チンピラたち『なにを言って…』

勇者「なんで?」

ボス「…なんっ…」

ボス「…つ、強いから…?お前が…?」

勇者「……よくわからん奴だな」

ボス「お、俺にも分かんねぇよ…」

ボス「でも、とにかく着いてく!いいだろ!?」

勇者「……」

勇者「まぁ、いいか…」

ボス「あ、ありがとう」

チンピラたち『嘘だろ…?』

チンピラ「……」ポカーン

チンピラ「ぼ、ボス…どうして…」

ボス「すまん…グループは解散だ」

チンピラ「あ、あんまりだ…」

ボス「正直俺は、この名前ばかりが有名になったゴロツキ同然のグループは『何か違う』と思ってたんだよ」

チンピラ「そんな…」

ボス「でもあいつは…今ので分かった…あいつは本当に強い…不思議なくらいにな…」

ボス「俺が求めていたものをあいつは持ってる気がするんだ…!」

チンピラ「……た、確かにあいつは強かったけどよぉ…!」

ボス「もっ…もし俺が!魔王を倒したら!たくさん褒美が貰えるだろう…そしたらお前らにも別けてやるよ!」

チンピラ「ほ、本当かよボス!」

ボス「ああ、約束だ!だから、それまで待っててくれ」

チンピラ「ボス…」

チンピラたち『ボスぅううう!!!』

ボス「……すまん、お前ら」

ボス(美しい絵画や石像を見たときのように…!)

ボス(大海原を豪快に進む巨大な鯨を見たときのように…!!)

ボス(俺はこいつの強さに…感動している!!!)

ボス(もっとこいつの強さを見たい!知りたい!)

ボス(こんなわがままで解散することになっちまって…本当にすまん…!)ブワッ


勇者「おいボスなに泣いてんだ、気持ち悪いぞ」

ボス「…お、俺は…もうボスじゃない」

剣士「俺は今日から剣士だ!」

勇者「…あ、そう」

とりあえず第一話的なのはここまで

世界観などの細かい設定はほとんど決めていません
手探りでいろいろやってみようと思います

次回更新は早いうちに…

第二話、更新します


�・あらすじ�・
魔王討伐を名目に、家を追い出された勇者
武器屋で勇者の強さに惚れ込んだボス…改め剣士を仲間にした

剣士「勇者ー」

勇者「……」スタスタ

剣士「なあ勇者ぁー」

勇者「……」スタスタ

剣士「無視すんなよー」

勇者「うるせぇなボス」

剣士「だからもうボスじゃねーの。剣士と呼べ」

勇者「……」スタスタ

剣士「もう2時間近く歩きっぱなしだろ?ちょっと休もうぜ」

勇者「まさかもう疲れたのか?やっぱお前連れてかないほうがよかったか」

剣士「いやいやいや…でもこのままだと10時間でも20時間でも歩いてそうだからよぉー」

勇者「時間を無駄にしたくないんだよ…」スタスタ

剣士「だいたいよぉ、魔王ってのはどこにいるんだ?」

勇者「さあな」スタスタ

剣士「そっかー知らねぇのかー」

剣士「……えっ」

剣士「知らねぇで歩いてんの!?」

勇者「いちいち声がでけぇよ」

剣士「お前それは…それはないだろ!」

勇者「何となくこっちな気がするんだよ」

剣士「時間を無駄にしたくないって言ってた奴のやることか…?」

勇者「お前だって知らないんだろ」

剣士「まぁそりゃそうなんだけどさ」ハァ

剣士「……ん?」ピタッ

勇者(魔王の場所を知らねぇなら尚更連れてく必要がねぇな。…置いてくか?)

剣士「おい!おい勇者!」

勇者「だからうるせぇって…」

剣士「見ろよ!酒場があるぜ!」

勇者「…酒場だぁ?」

剣士「この時間の酒場は人が集まってる!」

剣士「つまりそれだけ情報も集まるってことだ!」

勇者「……」

剣士「魔王の場所知ってる奴もいるんじゃねーか!?」

勇者「…てめぇーは酒が飲みたいだけだろ?」

剣士「うっ…」ギクッ

勇者「…まぁいいか。このまま宛もなくさ迷うよりマシだな」

剣士「さすが勇者!」ガランッ

酒場『キスウィー』

がやがや…

勇者「なるほど確かに人は多いな…俺には合わねぇ」

店主「やぁいらっしゃい」

剣士「ビール!ビール!」

店主「ビールね、そちらのお連れさんは」

勇者「…水でいい」

剣士「なんだよお前、酒苦手なのか?」

勇者「俺はまだ19だからな…」

剣士「真面目だね�・」

剣士「…そっか19か。俺より3つも下なんだな。お前これからは俺に敬語を…」

勇者「ふざけんなよてめぇー」ギロッ

剣士「じょ、冗談だよ」

?「隣、いい?」

剣士「…ん?」

女「……」ニコッ

剣士(おっ、結構可愛い子…)

剣士「…ああ、いいぜ」ガラッ

女「どうも�・」

勇者「……」チッ

剣士「なんで舌打ちした?」

勇者「俺は女が嫌いだ…特にああいう頭の軽そうなやつはな」

女「聞こえてるんだけど…」

店主「はいビールね。あれ、お連れさん増えたのかい?」ゴトッ

女「あたしもビールで」

店主「あいよ」

女「……ね、君さぁ」

剣士「俺?」

女「その剣、ちょっと見せてくれない?」

剣士「これか?ああ、いいぜ」スッ

女「……」チャキッ

女「ふーん…『エッジ・オブ・カオス』か」

剣士「お、知ってんの?」

女「大した剣じゃないわね」

剣士「なにぃ!?」

女「でもキチンと手入れされてる。斬れ味は悪くなさそう」

女「残念だけど、あたしが探してるのはこれじゃない」スッ

剣士「…探してる?剣を?あんた収集家?」

女「そういうわけじゃないけど…まー気にしないで」

勇者「……」ゴクッ

勇者(水がヌルい)

剣士「でも一発で俺の剣の名前言い当てたってことは、剣に詳しいんだよな」

女「多少はね。『エッジ・オブ・カオス』くらいなら知ってるわ」

剣士「くらいって…これそんなにショボいやつだったのか?」

剣士「そういや剣といえばさぁー勇者!お前さっき武器屋で東洋剣が欲しいとかなんとか言ってたよな」

勇者「ああ」

女「東洋剣?」

剣士「…ん?」

女「あんた…『奏刹斬』って東洋剣、知ってる?」

勇者「そうせっさん…いや、知らねぇな。別に俺は剣に詳しいわけじゃねぇよ」

女「…そう」

剣士「もしかして、探してるのってそれか?」

女「うん…」

剣士「やっぱ収集家なんじゃん」

店主「はいビールお待」

女「違うッ!あの剣はあたしたち一族が代々守ってきた剣で…」

店主「…!?」ビクッ

ガシャァン!

店主「ああ�・すいません!すぐに入れ直しますから!」カチャカチャ

女「…大声出してごめん」

剣士「俺たちより店主に謝りなよ」

勇者「代々守ってきた剣を探してるってのはおかしいよな」

女「あ…しまった…」

勇者「どういうことだ?」

女「……」

剣士「…言いづらいんなら言わなくてもいいぜ」

勇者「いや言え。気になる」

剣士「…は、はは」

女「つまんない意地張るわけにもいかないか…少しでも多くの人から目撃情報を得たいし」

勇者「早く言えよ」

女「奪われたのよ。魔族に」

勇者「……へぇ」

女「2週間くらい前よ…あたしの住む村は…」

3mはあろう巨大な魔族に、壊滅させられた

剣士「…壊滅ぅ!?つーか3mってデカすぎだろ!そんなのがいるのかよ!」

勇者「怪魔族か」

女「うん…あたしは去っていく瞬間しか見てないけど、間違いないわ」

剣士「かいまぞくってなんだ?」

女「…え、あんた知らないの…?」

勇者「お前その頭ん中なに詰めてんだ?真綿か?」

剣士「い、いやぁウチ金がなくて学校行けなかったからさ…」

女「魔族には4つの種類があるの」

剣士「四つもあるのか」

女「その一つが怪魔族!人間とはかけ離れた異形の魔族よ」

勇者「残りの3つは『翼魔族(よくまぞく)』『角魔族(かくまぞく)』『尾魔族(びまぞく)』人と同じような姿をしてるが、それぞれ翼、角、尾が生えてる」

剣士「はえー…そんな名前ついてたんだな…」

女「常識中の常識よ…?」

勇者「よく知らずに生きてこれたな。恥ずかしい奴だ」

剣士「うう…」

剣士「…とにかく、その怪魔族があんたの村を潰してったのか」

女「そう。そして…」

女「潰された跡に、『奏刹斬』はなかった」

剣士「なるほど…じゃあその怪魔族は、村を潰したついでによさげな剣を見つけたからパクったんだな?」

勇者「逆だろ。話を聞くにその剣、よっぽどいいものなんだろう。ハナっからそれ目当てだ」

女「ええ…あいつは剣を奪うために、それだけのためにあたしの村を壊滅させたの」

女「…今はとりあえず剣を探してるけど、たぶんあいつを見つけ出さないと意味がない…」

女「剣もそうだけど、村のみんなが傷付いた!何人かは殺された!それが許せないのよ!」

女「だからあたしは旅をしてる…必ずあいつに…復讐を…!」ギリッ

剣士(こ、怖えー)

店主「さっきはすまんかったね、今度こそビールお待ち」ゴトッ

剣士「と、とりあえずさ、(俺ほとんど飲んじゃったけど)乾杯でもしようぜ。な?」スッ

女「そうね」スッ

勇者「……」ゴクゴク

剣士「…今の聞いてたか?」

勇者「…お前らだけでやってろ…」コトン

女「それで…あんたたち」ゴクッ

剣士「お前も飲むのかよ」

女「あんたたちは何をしてるの?」

剣士「んー?俺らは…」チラッ

勇者「魔王を倒しに行く」

女「魔王をねぇ…」ゴクゴク

女「っ…!!?」ゴフッ

女「ちょ…はぁっ!?」ゲホゲホ

女「なに言い出すの!?噴き出しそうになったじゃない!」

勇者「噴き出せばいい」

女「じゃあ、本気で言ってるわけ?」

勇者「ああ。今のところはな」

女「あんたも?」

剣士「こいつ、バカなこと言ってるなーと思うだろ?だけどめちゃくちゃ強いんだよ…」

剣士「俺はこいつの強さに惹かれて着いてくことにしたんだ」

女「あんたたちホモ?」

勇者「こいつはそうかもしれんが俺は違う」

剣士「俺も違ぇよ!?」

女「そう…魔王を…じゃあ西に向かうのね。あたしと反対方向だ」

勇者「西?」

女「…あ、違うの?」

勇者「お前…魔王の場所を知ってるのか?」

女「知ってるに決まってるじゃない…魔王城でしょ?」

剣士「え、そんな有名スポットなの?」

女「まさかあんたたち知らないの!?」

勇者「本は読むが地図は読まないからな」

剣士「本も読まないからな」

女「はぁー…呆れた」

女「ここから西にずーっと…ずぅーっと行くと魔王城があるわ。もちろん途中にいろいろあるんだけど」

勇者「…お前は場所を知ってるのか」

勇者「そうか……」

勇者「よし。お前、俺と一緒に来い」

女「へ?」

剣士「…そうだよ!ちょうどいいじゃねーか!案内してくれよ!」

女「い、嫌よ!なんであたしが魔王城なんかに…」

勇者「魔王がどんな奴か知ってるか?」

女「…そういえば知らないわ。今の魔王ってどんなのなんだろ」

勇者「なら着いてこい。魔王のことを知らないなら別に恐れることもないだろ」

女「恐れることないって…魔族の王なんだから、ヤバいやつに決まってんでしょ!?」

剣士(まぁ普通そう思うよなー)

女「まったく…ナンパにしたってもう少しうまいことを…」

勇者「……」

勇者「魔王は…そう、魔族の王だ…すべての魔族を統べる存在」

勇者「もしかしたら、お前の村を襲った怪魔族…魔王の命令で動いてるかも知れんぞ」

女「…え!?」

勇者「お前、そいつがどこにいるか知らないんだろ」

女「そ、そうだけど」

勇者「だけど俺に着いてきて、魔王を倒すことができれば…その場所を聞き出すことができるかもしれない」

勇者「もっと言えば、その剣を魔王が持ってるかもしれない」

女「……た、たしかにあり得るかもしれないわ」

女「奏刹斬は『暗黒魔法』と共鳴してその真の力を発揮する剣…」

女「魔王ならきっと『暗黒魔法』が使える…もしそのために奪わせたのだとしたら…」

剣士「暗黒魔法…?」

勇者「さぁ、どうする」

女「…待って…少し考えさせてよ」

剣士「なぁ勇者、暗黒魔法ってなんだよ」

勇者「…てめぇーは黙ってビール飲んでろ。代金なら俺が払うから」

女「あんた本当になにも知らないのね」

剣士「魔法は知ってるぜ!五属性の魔法くらいはさすがに教えてもらった!」

女「どうせlv.1しか使えないってオチでしょ」

剣士「…レベル…?」

女「五属性の魔法…『炎魔法』『水魔法』『風魔法』『雷魔法』『地魔法』にはそれぞれlv.1�・3まである。もちろん魔法の数はバラバラだけど」

剣士「俺がそのlv.1しか使えないってことか?」

女「そう。その辺にいる子供と同レベルってわけ」

剣士「なんだと!?」

女「lv.1は日常生活…家事とかに使う基本的な魔法よ」

女「魔法学校の小等部で教えられるようなものなのに…子供と同格ってのはそういうこと」

剣士「うぐっ」

女「次にlv.2。これは戦闘に使われることが多い、lv.1より遥かに強力な魔法よ」

女「発動には術式を書いたり呪文を唱える必要があるから、キチンと学ばないと使えないわ」

勇者「俺は学校を中等部で中退したから、その辺は知らん」

女「…中等部で中退!?どんだけやる気ないのよ!」

剣士「あーそれはいいからさ、最後のlv.3について教えてくれよ」

女「…lv.3は最高ランクの魔法よ。どの属性においても、圧倒的な力を発揮する」

女「でも魔法学校では絶対に教えてもらえない。卒業後に修練して得るのが普通よ。それでも大半は途中で諦めるようだけど」

剣士「あんたも?」

女「あたしはもともと魔力が少ない方だから、lv.2までしか使えないの」

剣士「あ、魔力は知ってるぜ。魔力がないと魔法が使えないもんな!」

女「当たり前のことしか言ってないんだけど…」

剣士「んで?そもそも暗黒魔法の話だったよな」

女「そうね…暗黒魔法は…えーっと」

勇者「魔族、または魔族の血の入った人間の、そのうちさらに限られた奴にしか使えない魔法だ」

剣士「なんか凄そうだな」

勇者「lv.1ですら他の属性のlv.2魔法以上の力を持ってるらしいけどな…俺も詳しくは知らん」

女「で、『奏刹斬』はその暗黒魔法によって力を解放される」

女「あまりに危険だから、あたしたちがずっと守ってたのに…」

剣士「なるほど。大変なことじゃねーか」

勇者「…そう。大変なことだ」

女「……」

勇者「もう一度だけ言うぞ…俺に着いてこい。そうすればその剣は取り返せる」

女「……っ」

勇者「魔王の場所も知らない、魔法もロクに使えない役立たずのボスと比べたら、お前はずっと欲しい」

剣士「役立たず!?まだ会って2時間ちょっとしか経ってねーのに!」ガーン

女「なによ…人をモノみたいに…」

勇者「どうする?」

女「あんた、本当に強いの?」

勇者「ああ」

剣士「……強いぜーこいつは」

勇者「俺は強い」

勇者「少なくとも魔王とかいう奴に負けるとは思ってない」

女「……ふ」

女「不思議と…そこまで堂々と言われると、逆に信じてみたくなるわ」

剣士「……ってことは?」

女「オーケイ!その話、乗ったわ!正直あんたたち二人をこのまま放っておいたら、野垂れ死んでそうだしね」

剣士「演技でもないこと言うなよ…」

女「あんたたち、名前は?」

剣士「俺はボス!…じゃねぇや、剣士だ!」

勇者「…勇者だ」

女「じゃああたしは…そうね」

女戦士「女戦士!」

第二話ここまで

えらく情報量の多い、説明ばかりの話になってしまいましたが
頭の悪い剣士くんと一緒に、覚えてしまってください

>剣士「ビール!ビール!」

やっぱりホモじゃないか(呆れ)

エッジオブカオスって元ネタ福山の曲?

>>57
そうですよ
オリジナルは『edge of chaos(カオスの縁)』ですが

あらすじ 
酒場にて、女戦士を新たな仲間に加えた
ようやく魔王城に向かうことができそうだが…

剣士「さて!新しい仲間も増えたし!さっそく魔王城にレッツゴーだ!」

女戦士「なんであいつが仕切ってるの?」

勇者「知らねぇよ」

剣士「ごちそうさーん」ガチャッ

ドガッ!!

剣士「痛っ!」ヨロッ

?「………うっ!」ドサッ

剣士「あーすまん…大丈夫か…?」

?「!?…はぁ…はぁ」

剣士(子供…?)

勇者「おいボス、早く出ろよ」

剣士「あ、ああ」チラッ

店主「駄目だよお嬢ちゃん…この店に子供は」

少女「匿って…」

店主「かく…ええっ?」

ドタドタドタ…

少女「来た…!」ガシッ

勇者「!!おい、なんだてめぇ!」

ガチッ!!

黒服の男「ここか!」

剣士「!」

女戦士「ここに隠れて!」ボソッ

少女「……!」サッ

黒服の男「おい店主!今ここに女のガキが来なかったか!?」

店主「い、いや…知らんよ」

剣士「俺たち店を出んだ、どいてくれね?」

黒服の男「クソっ…どこに行きやがった…!」ダッ

少女「……」ゴソッ

剣士「まさかマントの裾の中に隠すとは」

女剣士「初めてこれが役に立ったわ」

少女「あ、ありがとう…」

勇者「…で、なんだお前は」

少女「………」

勇者「無視してんじゃねぇよ」

少女「あなたには関係ない…」

勇者「あ?」

少女「お願い店主さん…もう少しここに…」

店主「どうしてだい?さっきの男はもう行ったのに」

少女「……mdに欠けがないか確認…しないと…」ガシャッ

店主「…?」

剣士「なんだそれ」

女戦士「ちっちゃい箱…?それにしては薄すぎるか…」

少女「…あ、あと、杖…」ガシッ

勇者「俺の足を掴むな」

少女「あ…間違えた…ごめんなさい…」

勇者「それ…貸してみろ」ヒョイッ

少女「!」

勇者(いろいろ本を読み漁ってきたがこれは…まるで見たことがないぞ…)

少女「か、返して…!」

勇者「これはなんだ」

少女「……」

店主「分かった、匿うからさ、ここじゃなくて店の奥に行ってくれよ。お客さんが入ってこれない」

勇者「そうだな」スタスタ

少女「待って…md…!」

剣士「勇者のやつ、なんのつもりだ?」

女戦士「さぁ…でも気になるわね」

店の奥にある四人がけテーブル

勇者「座れ」

少女「な、なんであなたが…」

勇者「その四角いのが気になる。どんなものなのか説明しろ」

剣士「気になるってお前…その子のものなんだから放っとけよ」

勇者「俺ははじめて見る物に対してはとことん調べんと気が済まないんだ」

女戦士「確かにあたしも見たことないわ…」

少女「こ、これは大事なものだから…」

勇者「だから?」

剣士「…やめてやれよお前…カワイソーだろうが」

少女「…でも」

少女「助けてくれたから、教えてあげる」

少女「そこのあなたにだけ」

女戦士「あたし?」

少女「これは…」ヒソヒソ

女戦士「………え?」

剣士「どうした?」

女戦士「そ、そんなものが…存在するの…?」

勇者「言えよ。気になる」

女戦士「…いい?言っても」

少女「……」コクン

女戦士「これは…『md(magic disc)』って言って」

女戦士「術式、呪文なしで魔法を使える道具なんだって」

勇者「…!」

剣士「へぇー。そんなのがあるんだな」

女戦士「あたしだって今はじめて知ったわ…そんな優れもの…」

少女「mdは、世間には一切流通してないから…」

勇者「じゃあなぜお前は持っている?」

少女「貰ったの…」

剣士「誰から?」

少女「…伝説の魔法使い、って、知ってる…?」

女戦士「伝説の…って、18年前の魔族大征討で活躍した最強の魔法使い?」

勇者「……そいつがどうした」

少女「その伝説の魔法使いが作り出したのがこのmd」

少女「弟子の魔法使いたちに渡したものしか存在してないの…だから世間にはほとんど知られてない」

剣士「なるほどな」

勇者「じゃあお前、魔法使いか」

少女「……うん」

勇者「魔法、どのくらい使える?」

少女「……」スッ

ザラララッ

女戦士「こ、これ全部md?」

少女「師匠から預かってるの…とりあえず」

少女「lv.2魔法はすべて網羅してる…」

勇者「……術式なしでいつでも使えるのか」

少女「何も必要なしにできるわけじゃ、ない…」スッ

少女「この杖の先に付いてる『発動装置(プレイヤー)』にmdを刺し込まないと…」

剣士「すげー!杖とハイテク装置が一緒になってる!」

勇者「なるほどな…」

勇者(こいつは…戦力になりえる…か?)


ドォ…ン


勇者「…ん?」

女戦士「今、揺れた…?」


わああああああああああああ!!!


剣士「外が騒がしいぞ…」

少女「……?」

ガラッ

店主「お客さんたち!早く逃げて!」

剣士「なにがあったんだ?」

店主「そ、外でさっきの男が暴れてる!魔法を使ってここ一帯の建物を潰すつもりだ!」

少女「!」

女戦士「まさか、まだこの子を…?」

勇者「…うるせぇな」ボソッ

店主「え?」

勇者「俺たちの話には関係ない。あんたは他の客だけ逃がしてればいい」

店主「か、関係ないって…」

勇者「俺は今、こいつが使えそうかどうかを聞いてんだよ」

少女「つ、使えそうって…何を…」

勇者「お前の魔法が…」

ドドォン…

わあああああああああああ!!!

勇者「……」

女戦士「さすがに逃げたほうがいいんじゃないの?」

勇者「…そうだな」ガタッ

勇者「ちょっと…黙らせてくる」ダッ

店主「いや、逃げろって言って…!」

剣士「俺も行くぜ!」バッ

店主「あんたまで!」

女戦士「……はぁー。そういうタイプなのねあいつら」

店の外

黒服の男「どこだガキィイイイイ!!出て来い!!!」

勇者「……」

剣士「あいつか…」

黒服の男「出てこないなら…もう一度…揺らしてやるぜェ!?」バッ

勇者「術式…」


黒服「地魔法lv.2!!『大地激震(グランドパクト)』!!」ググッ

黒服が両の拳を合わせて、地面に叩き込むと、そこを中心に亀裂が広がっていく


剣士「うおッ…!」グラッ

勇者「くだらねぇ」ダッ

剣士「お、おい勇者!近づいたら危ねーぞ!!」

黒服「…あぁん!?」ギロッ

勇者「……」ダダダッ

黒服「向かってくるとはいい度胸だなぁ!!だったら…」バッ

黒服「このパワーで直接殴ってやるぜ!!!」ググッ

黒服「『大地激震(グランインパクト)』!!」ブンッ

勇者「…拳の握りが素人丸出しだな」ヒュッ

剣士「バッ…ただのパンチかよ…!?腕が吹っ飛ぶぞ!」

勇者(ああ、吹っ飛ぶ)

吹っ飛ばす


ドッパァン!!!


黒服「……!!?」

 俺の拳が吹っ飛んだ!?

ザッ

黒服「!」

勇者「……」

黒服「なっ…なんだお前…なんで…なんで『大地激震』が通じな…」

勇者「お前が弱いからだ」ユルッ…

ゴンッ!!!

黒服「……!!!」メキィッ

剣士「あ、あんな緩いパンチで…あいつが地面にめり込んだ…!!」


女戦士「なるほど…確かに強いわねあんた」

勇者「!逃げてなかったのか」

女戦士「この子と隠れて見てたのよ」

少女「あなた…何者…?」

勇者「…俺は」


「あれあれぇ?」

剣士「あ?」バッ

女戦士「!?」


黒コートの男「黒服くん…やられちゃってんじゃーん?」

勇者(…今やったこいつの、上司かなにかか)

黒コートの男「フムフム…ってことは当然『md』も見つからなかったわけだね」

黒コートの男「まぁーいいかっ!こいつは捕まえたんだし、じっくり拷問でもして場所を聞き出せば…」グイッ

?「…くっ!」

剣士「誰だ…?」

少女「師匠!!?」バッ

女剣士「師しょ…あの人が!?」

黒コート「んん…?なんだ君ぃ…」

少女「どうして師匠を…」

黒コート「師匠ぉー?」

黒コート「フムフム…あーなるほどねぇ」

黒コート「君ぃ、この魔法使いの弟子かい!」

少女「っ…だ、だったらなに…」

黒コート「そしてその…大事そうに抱えた鞄…フムフム」

黒コート「md持ってるね?」ニヤッ

少女「…!」

黒コート「いただいちゃおうかなぁー!!」バッ

ガシッ

黒コート「・・・?」

剣士「やめとけよ」

女戦士「つーかあんたなんなのよ」

黒コート「んんー?君たちこそ…なんなのよ?」

剣士「俺は剣s…」

黒コート「フムフムうーん…考えるまでもない。僕の部下を倒しちゃったお前ら…」

黒コート「ズバリ邪魔者?」スッ

女戦士「術式…!?いつのまに…!」

黒コート「炎魔法lv.2『業火放熱(キャンプファイアー)』」

ボオゥッ!!

女戦士「た、盾!」バッ

剣士「暑ッ!熱ッ!!うおおおー!!」

パチパチ…パチパチ…

黒コート「男の邪魔者&女の邪魔者…そして魔法使いの弟子…そして…」

黒コート「黒服を一撃でのしたお前…何者だい?」

勇者「人のことを尋ねる前にまず自分から名乗れ…と言いたいが、お前には興味がねぇ」

黒コート「で、誰?」

勇者「…俺も邪魔者で」

黒コート「フムフム…だと思った♪」ニッコリ

第三話はまだ終わってませんが、いったん切ります
また後で更新するかもしれないです

第三話続き、更新します
予想してたより長くなってしまった…

黒コート「ふふふふ…部下がやられたのは別に痛くもなんともないが、君が邪魔者ならキチンと始末しなきゃならないね」

勇者「うるせぇな、黙って戦え」

黒コート「酷いねぇ君…」

黒コート「地魔法lv.2『落石事故(フォーリンロック)』!」グググッ

ドゴッ
ドゴッ
ドゴッ

勇者「…岩石飛ばすだけなら、魔法なんていらねぇよ」グッ

ゴガァンッ!!!

黒コート「三ついっぺんに砕くとは…フムフムすっごい馬鹿力」

パラパラパラ

黒コート「…!」

勇者「もう一発行くぞ」ボヒュッ

黒コート(そのまま止まらずに来るか…若いねぇ)

勇者「馬鹿は俺の前でヘラヘラしてるてめぇーだ」スッ

勇者「喰らえ…」ググッ

黒コート「…地魔法lv.2『土瀝青牢(アスファルトプリズン)』!」バッ

ボゴォッ

地面が迫り上がり、勇者の体を覆っていく

勇者「あ…?」

ガキィン!!

勇者「…なんのつもりだ?」

黒コート「さすがに顔しか出てない状態じゃ戦えないよねぇ」

勇者「…なんのつもりかって聞いてんだよ」

黒コート「そんな馬鹿力と真っ向から戦う必要はなーい。後回しにして、とりあえず閉じ込めとこう!」ニッコォ

勇者「……ふざけやがって」イラッ

女戦士「だったら、あたしが戦う!」バッ

勇者「…ん?」

黒コート「おやおや、焼けてなかったのか…」

黒コート「でもいいのかぁい?僕、結構強いよ?」

女戦士「よく分かんないけど、あんたはこの子の大切な物を奪おうとしてるんでしょ…」

女戦士「だったら絶対に放っておけない。あたしも大切な物を奪われたから…見過ごしておけない!」

少女「……!」

黒コート「フムフム…勇ましいねぇ…まぁなに言ってるのかよく分からないけど」

黒コート「かかっておい…」

ヒュンヒュンヒュンヒ ュ ンッ

黒コート「…って、なんの音?」クルッ

スパッ!!

黒コート「……!?」

それは、黒コートの頬を掠めて飛び抜けた。くの字をした特製の刃…

女戦士「ブーメランよ!」パシッ

黒コート「…び、ビックリしたなぁ…何だ、そんなもので戦うつもりかい」ツー…

女戦士「そんなもの、って、あと少し気づくのが遅かったら、喉笛ザックリよ?」

黒コート「…言うねぇ」

黒コート「フムフム…じゃあこれだ。炎魔法lv.2…」スッ

黒コート「…『火炎放射(ファイアバーナー)』!」カッ

ボオオオオオオッ!!

女戦士「また炎…!」バッ

黒コート「フムフム…盾ですか。それじゃあ」

黒コート「壊しちゃおうか…『落石事故(フォーリンロック)』!」

ドゴドゴッ!

女戦士「さっきの岩ね…!」スッ

女戦士「戦斧(バトルアックス)!」ブンッ!!

ザクッ!!

女戦士「…どうよ?」

黒コート「フムフム…そのマントの下にいったいどれだけの武器を潜めているのやら…」

黒コート「…じゃ、ちょっと変化球でいこうか」スッ

女戦士「…変化球?」

黒コート「地魔法lv.2…『粘土人形(クレイドール)』!」ズズズ…

地面からゆっくりと、土の塊が這い出てくる

それはぐにゃぐにゃと形を歪め…

女戦士「…二人!?」

黒コートズ『どちらが本体か分かりますか?』グルグルグル

女戦士「はっ…わざわざどっちか判別する必要はないっての!」ジャラッ

女戦士「…鎖鎌!」ブンッ!!

黒コートズ『フムフム、両方とも鎖で縛ってしまえばいい…と』

黒コートズ『甘いねぇ』スッ

黒コート「粘土人形(クレイドール)」

粘土人形(ク)!粘土人形(レ)!粘土人形(イ)!

粘土人形(ド)!粘土人形(ー)!粘土人形(ル)!


ゾロゾロゾロ…

女戦士「な…分身が分身して…さらにその分身も分身…!?」

粘土人形ズ『これだけの数は』

粘土人形ズ『縛れないだろう?』

ガシャッ

女戦士「…くっ…」

黒コート「そして…地魔法lv.1『泥飛沫(マディスプレー)』」

バシャッ!!

女戦士「!」

女戦士(…目潰し!?)

黒コート「lv.2『粘土捏丸(クレイボール)』!!」ドシュッ!

女戦士(何かを発射した!でも、見えない…)

ギュオオオオッ

女戦士(当たる!?)

スパンッ!!

女戦士「!?」

剣士「…『エッジ・オブ・カオス』!」

女戦士「あ、あんた…」

黒コート「フムフム…焼かれて悶えてると思ったら、ちゃんと戦えるのか…」

剣士「めちゃくちゃ熱かったぜ…仕返しさせてもらうからなぁ!」

剣士「でもその前に…ほら、水魔法lv.1『水鉄砲(ウォーターガン)』!」ピシャッ

女戦士「…っ」ドロッ

女戦士「た、助かった…ありがとう剣士」ゴシゴシ

剣士「しかし…どーするよこの粘土人形たち…」

ゾロゾロゾロ

剣士「20体近くいるぞ…!」

粘土人形ズ『ふふふふ…本物がどれか…分かるかな』

女戦士「まとめて倒しちゃえばいいんでしょ」

剣士「んなことできんのか!?」

女戦士「できる…けど、ちょっと準備が…」

剣士「分かった…時間を稼ぐ!」チャキッ

黒コート「無駄ですよ…粘土捏丸(クレイボール)!」

粘土人形ズ『粘土捏丸!』ドシュシュッ!!

剣士「1…23456!?六発も!?」

剣士「しかたねー…まとめて叩っ斬って…」

剣士「やるぜっ!回転斬りぃッ!!」グルンッ

スパパパパッ!

黒コート「フムフム…意外とやるなぁ。しかし…」

剣士「位置的に2発は残るか…!なら…」

ドゴ ドゴッ!!

剣士「この身で受ける!」ボロッ

黒コート「…ほう?時間稼ぎと言うだけあって…避けませんか」

剣士「う、生まれつき…体は丈夫でね…!」

女戦士「あ、あんた馬鹿でしょ!?」ガシャガシャ

女戦士「でもおかげで…準備できたわ!この大剣で…」ガシャンッ!!

女戦士「今の回転斬り…やってみて!」ポイッ

剣士「お…重っ!!?なんだこれ!」

女戦士「機巧大剣(カラクリソード)!普段はバラバラにしてあって、組み立てて使うやつなのよ!」

剣士「…よし、じゃあ今度こそ…」ググッ

剣士「『大』回転…斬りっ!!!」ブオンッ!

粘土人形ズ『……!』ザクッ

ドチャッ…ドチャドチャ…

粘土人形たちの体が崩れ、ただの泥となり辺りに散らばった

女戦士「…よしっ!」

剣士「いよっし!全員まっぷたつだ!」

ズズズ…

剣士「えっ?」

黒コート「そうかな?」ヌウッ

ガシッ

女戦士「な…なんで…っ」

剣士「後ろから…!?」

黒コート「間抜けだねぇ。粘土人形たちの影に隠れて、別の魔法を使ってたんですよ」

黒コート「lv.2『泥濘沈降(ドロヌマダイバー)』…地中に潜るこの魔法で、君たちの見えないところから指示をしてたわけです」

剣士「そ、そんなのありかよっ…」

女戦士「せっかくここまでやったのに…!」

黒コート「注意不足…もっと周りをよく見なさい君たちはぁ!アハハハハハハ!」

少女「…あなたも周りをよく見る…べき…」ボソッ

黒コート「ハハハハ…え?」クルッ

少女「『md』雷魔法lv.2『発雷針(エレキコンダクト)』」

バリッ!!!

黒コート「く…か…!?」プシュー

至近距離からの雷を受けて、黒コートは倒れ伏す

剣士「うおっ!」ドサッ

女戦士「わっ!」ヨタッ

少女「……大丈夫…?」

剣士「た、助けてくれたのか…!」

女戦士「ありがとね」

少女「べ、別に…ただ…」

少女「あ、あなたたちがやられたら…誰も師匠を救えない…から…」

黒コート「…く…」ピクッ

女戦士「…まだ生きてる!」ハッ

少女「あなたたちにダメージがいかないよう…弱い雷魔法しか使えなかったの…」

黒コート「…く…く…」プルプル

剣士「く?」

黒コート「クソガキがぁああああああああああああ!!!」ガバァッ!!

女戦士「!…モーニングスター!」ブンッ

剣士「エッジ・オブ…」シュッ

黒コート「lv.2『泥鬼硬装(マッドデーモン)』!!」ズズズ…

『粘土人形だった』大量の泥が、今度は黒コートの体にまとわりつき

その姿を、まるで悪魔のように、変容させる!

ガキィン!!

女戦士「え…硬っ!」

剣士「ウソだろぉ!?刃が通らねぇ!」

黒コート「無駄だァアア!!この泥の装甲は鉄の堅さに匹敵しィイイイ…」

黒コート「そしてそこから繰り出される打撃で、貴様らなどペチャンコだァアアアア!!!」ブンッ!!

女戦士「ちょっ…!」

剣士「うおおおおお!!?」

黒コート「まさに泥団子のように…潰れてしまえェエエエエ!!」

剣士「嫌だー!ペチャンコなんてごめんだー!」

少女「でも、いくら硬くても…」

女戦士「!」

少女「しょせん、泥…」カシャッ

黒コート「ヌウッ!?」

少女「『md』水魔法lv.2『激水奔流(マッシブフラッド)』!」ブワッ

剣士「み、水が…!」

ザバザバザバザバザバ…

黒コート「なにっ…!泥鬼硬装が崩れる…!!」ボロッ

黒コート「フムフム…そうか、水で泥を崩して…」ジュクジュク

黒コート「はっ!」

剣士「泥遊びはもう卒業したほうがいいぜ」スッ

剣士は剣を構えた

女戦士「せっかくの黒コートが台無しよ」スッ

女戦士は鎚矛(メイス)を持ち上げた

少女「ずーっとフムフム…考えてればいい…」スッ

少女は杖をかかげた…

黒コート「やめ…」

ゴスッ!

黒コート「……」ドサッ

予定変更。三話はここまでです
続き、四話も今日中に投下予定です

あらすじ
女戦士と剣士は黒コートの男と戦うが、策にハマり追い詰められてしまう
しかし少女の魔法が二人を救い、そのまま見事に勝利を収めた

黒コート「……」グッタリ

剣士「しゃあーっ!勝った!でも案外弱っちかったな!」

女戦士「あんた結構やられてたじゃん!主にあたしのおかげよ!」

少女「……」

女戦士「あ、でも」

女戦士「あなたがいなかったら負けてたかも」

剣士「そりゃ間違いないな…ありがとう!」

少女「!…ううん…別に、いいよ」


師匠「む…ぐ…」モゾモゾ


少女「そうだ!師匠…!」ダッ

剣士「……よかったな、あの子」

女戦士「……うん」

剣士「…ところでさぁ俺たち…なんか忘れてるよな?」

女戦士「それ思ってたわ」

剣士・女戦士『…あ、勇者!』

少女「今ほどきます…!」

師匠「………」

師匠「よく、やったね」

少女「…え?」

師匠「君を弟子にして7年あまり…すごい早さで魔法を修得し、mdも使いこなせるようになった君だけど」

師匠「…戦うこと…たとえそれが私との訓練だとしても。君はそれだけは拒み続けていた」

師匠「追いかけてきたあの男…君が魔法を使えば簡単に撃退できただろう?」

少女「…っ」

少女「で、でも…」

師匠「そう。君はそんなことできないんだ」

師匠「君は人を傷付けることがなによりも嫌いだからね」

少女「……」

師匠「でも今、そんな君が」

師匠「彼らを助けるために自分から戦った」

師匠「しかもあんなに落ち着いて魔法を使える…」

師匠「技術だけでもなく精神的にも、立派に成長したじゃないか」

少女「そ、それは師匠が心配で…」

師匠「私が心配なら、私だけを助けてさっさと逃げればよかった」

師匠「でも、君が真っ先に助けたのは、今まさにやられそうになっていた彼らだろう?」

師匠「君ははじめて人を傷付けた」

師匠「でも同時に、はじめて人を救えたんだ」

師匠「それだけで私は…君に魔法を教えることができてよかったと思ってる」

少女「……師匠」

剣士「勇者…おい勇者!」

女戦士「大丈夫!?」

勇者は石の塊から顔だけ覗かせている状態だった

勇者「……見てたぞ、お前らの戦い」

剣士「お、おう!ナイスだったろ!」

女戦士「ひとえにあたしの…」

勇者「ふざけてんのか」

剣士「え」

女戦士「……なんですって?」

勇者「まったく…あんな…」ビキビキ

勇者「小物相手に苦戦しやがって」バキッ!!

勇者「見ててイライラしたぜ」パラパラ…

女戦士「って…なに普通に出てきてんの!?」

勇者「こんなの簡単に壊せるに決まってるだろ」

女戦士「はぁっ!?」

勇者「戦いたいっつったのはお前だからな。俺は出なくてよかったんだろ?」

女戦士「な…」

勇者「それに、お前らの力を確認したかったからな」

剣士「……」

勇者「とりあえず、死ななかっただけよしとするが。それもこれも全部あのガキの…」チラッ

勇者「……やっぱりあいつ、欲しいな」

剣士「ほ、欲しいってお前…」

女戦士「せっかく師匠を助けてあげられたんだから、放っておきなさいって!」

勇者「うるせぇな…」スタスタ

女戦士「ちょっと勇者!」

勇者(mdとやらのおかげもあるだろうが、あの冷静な判断力は…こいつらには無いものだ)

勇者(馬鹿な女は嫌いだが、賢い女はそうでもない)

勇者(それに…)チラッ

黒コート「……」グテー

勇者(本体は大したことはないが、こいつ…一丁前に部下を連れて行動していた)

勇者(しかも、本来はその場で書いて使う魔法術式を、いくつも用意してやってきた…)

勇者(もしかすると背景に、魔王が絡んでるのかもしれねぇ)

勇者(伝説の魔法使いから託された超魔法道具『md』…女戦士の『奏刹斬』と同じように、魔王に狙われている可能性がある)

勇者(あのガキを連れてれば、なんらかのアクションがあるかもしれん。そうすればこっちとしても楽だ)

勇者(さて、どう攻めるか)ザッ

少女「な、なに……」

勇者「……」

師匠「君はずいぶんあっさり捕まってしまったけれど…」

師匠「相当強いようだね。魔力が溢れてる」

勇者「魔法は基本的に使わないからな…持て余してる」

師匠「君らは旅人かい」

勇者「ああ…魔王を倒しに行く途中だ」

少女「…え!?」

師匠「そうか…魔王を」

勇者「あんたは驚かねぇのか」

師匠「実は…私のmdを狙ってやってきたあいつは、魔王の手先だ」

勇者(やっぱりか)

師匠「魔王はmdを狙っている…恐らくあれを作るつもりだろう」

勇者「あれ…ってのはなんのことだ」

師匠「暗黒魔法のmd」

勇者「…暗黒魔法……!」

勇者「いや待て、mdは伝説の魔法使いが作り出したものなんだろ。魔王にどうこうできるものなのか」

師匠「それは分からない。魔王はmdを作り出す方法を知っているのか…独自に編み出したのか…それとも、とりあえず奪うだけ奪うつもりなのか…」

師匠「なんにせよ、魔王には謎が多い。君たちも気を付けた方がいいよ」

勇者「…余計な世話だ」

師匠「ふっ…そうかな」

師匠「じゃあ、この子を連れていってくれないか?」

少女「…!?」

勇者「…なんだと?お前からそれを言うのか?」

師匠「お前から…ふふ、やはり君もそれを提案するつもりだったね」

少女「師匠…どうして…」

師匠「君の魔法はほとんど完成された…」

師匠「だからその魔法で、これからも彼らをサポートするんだ」

少女「そ、そんなこと…」

師匠「いいかい…君に…魔法の極意を授けよう…」

少女「極…意…?」

師匠「魔法とは…」

師匠「誰かを傷付けるものじゃない。それ以上に、誰かを救うためのものだ」

師匠「伝説の魔法使い…かつて私の師は、多くの魔族をその凄まじい魔法で倒していった…」

師匠「だけど魔法でできることは破壊だけじゃない」

師匠「火を起こし。水を流し。風を吹かせ。雷を落とし。地を動かす」

師匠「この世界はそういったことが作用して生まれたんだ」

師匠「破壊の魔法じゃなく誕生の魔法で。自分のためじゃなく誰かのために」

師匠「君は戦っていくんだ」

少女「……」

師匠「君の目標…魔王を倒そうだなんて、すごく難しいことだと思う」

勇者「んなわけあるか。楽勝だ」

師匠「だけど私は反対しない。むしろ応援するよ」

師匠「もし魔王がmdを悪用するつもりなら、なんとしてでもそれを止めて欲しい」

勇者「……」

師匠「そして彼女は、きっとそのための力になれる」

少女「……」

師匠「ほんとは少し、寂しいけどね」

勇者「……ふん。後から惜しくなっても知らんぞ」クルッ

勇者「ガキ…お前、俺に着いてこい」

少女「……」

少女「ガキ、じゃない」

勇者「?」

少女「私、これでも16歳、だから…」

勇者「16?とてもそうは見えんが…」

勇者「まぁどっちにしろ、ガキであることに代わりはねぇな」

少女「ガキじゃない…!」

師匠「ふ…はははははは…!」

少女「……?」

師匠「なんだ、思ったよりうまくやっていけそうじゃないか」

少女「ど、どこを見てそう思うの…!?」

少女「だいたい、まだ行くなんて言ってな…!」

剣士「…おい勇者!いつまで話してるんだよ?」

女戦士「二人の話に無理矢理首突っ込んでるんじゃないわよね!」

勇者「こいつも連れてくことになった」

女戦士「え!?ホントに!?」

剣士「マジかよ!すげー!やったじゃん!」

少女「え、いや…」

女戦士「魔王城、絶対ヤバそうだけど…あなたがいればちょっと希望が持てるわ!」

剣士「なぁそうだ、魔法、教えてくれよ。なっ!?」

少女「う…うう…」チラッ

師匠「…行っておいで」

少女「……」

少女「…うん」

勇者「そういえばお前…なんて呼べばいいんだ」

少女「呼び方なんて、なんでも…」

勇者「じゃあガキな」

少女「それは嫌…!」

少女「……私は、魔法使い」

勇者「…そうか」

剣士「よろしくなー魔法使いちゃん!」

女戦士「よろしくね!」

少女「…よろしく」

師匠(いやいや言ってるけど、本当は)

師匠(彼らに必要とされることが、嬉しくて仕方ないんだろう?)

師匠(……そうだ)

師匠(弟子の旅立ちに…何も贈らないわけにはいかないからね)ゴソゴソ

師匠(師匠が…伝説の魔法使いが残した、この『md』と)カシャ

師匠(真の『魔法の極意』を、君に…)スッ

勇者「じゃ、行くぞ」スタスタ

剣士「もう深夜だぜ?つーか今の戦いで疲れたよ俺」

女戦士「そういえばあんたたち、宿とかどうするつもりなのよ」

魔法使い「師匠、ありがとう…」ボソッ

勇者「早くしろよ」

魔法使い「…う、うん」ダッ

師匠(…しかし魔王を倒そうなんて…彼はいったい、どれだけ強いんだろう…)

師匠(魔力の量はある程度読み取れる…けど)

師匠(彼の強さはそこじゃないように見える)

魔王城

ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!

「19996…19997…19998…19999」

ガシャンッ!!

「20000…!」バッ

スタッ

「夜のトレーニングは終了…そろそろ回数を増やすべきか…」コキコキ

「我が復讐のためには、一切の妥協も許されない!」バサァッ

コンコン

「…入れ」

側近「失礼します」ガチャ

側近「…ちょうど、トレーニングが終わったところでしたか?精が出ますね…」

「何の用だ」

側近「『魔王』様に、ご報告したいことが」

魔王「……手短に済ませてくれ。すぐにシャワーを浴びたい」

本来なら朝に投下した分とここまで合わせて第三話だったんですが、今回のを第四話ってことにします


勇者が批判されまくってますが、どんどん言ってやってください
どんどん屑度を上げていきます!

急かされたので更新します
ただし少ないです

その前にキャラのまとめを…

勇者 男 19歳
黒いツンツンした髪型と、やけに目付きが悪いのが特徴

6年間引き込もっていたが、父である王様によって追い出されてしまった不遇のニート
非常に面倒くさがりで、努力・苦労を一切知らない人間の屑
そのくせ出鱈目に強い力を持つ人間の屑
6年で城の書物を読み漁ったため広い知識を持つが、常識なんて一切知らない人間の屑
もはや人の姿をした屑である


剣士(元・ボス) 男 22歳
茶髪の、少しチャラチャラした感じのイケメン。背は勇者より高い

モンスター狩りのチームを率いていたが、勇者の異常な強さに惹かれ、彼に着いていくことにした
自慢の剣『エッジ・オブ・カオス』を使って戦うが、素手でもそこそこいける
学がないため魔法はlv.1しか使えない
人情に厚く、誰とでもすぐ親しくなれる。勇者とは真逆の存在である

女戦士 女 20歳
赤茶色のポニーテールに、大きなマントが特徴。身長は勇者以上剣士以下

村が代々守ってきた『奏刹斬』を取り戻すため、勇者に着いていくことにした
マントの下にはたくさんの武器が隠されており、それを使い分けて戦う
また、魔法学校を卒業しているため、lv.2までの魔法はだいたい使える
美人でスタイルも良いため、頻繁にナンパされるのが悩み


魔法使い 女 16歳
フードを被って杖を握るその姿はまるで老婆のようだが、反対にとても幼い容姿をしている

伝説の魔法使いが作り出した『md』を使える稀有な魔法使い
もちろん『md』がなくても魔法は得意で、lv.3の魔法もいくつか使えるほど
ただし力は弱く、まさに子供レベルの体力しかない
人見知りな性格で、ボソボソ喋るが、内心には結構いろいろ考えている

あらすじ
旅のはじまり一日目にして、剣士、女戦士、魔法使いを揃えた勇者
出だしはなかなか快調…?

勇者「さて魔法使い…さっきも言ったが、俺の目標は魔王を倒すことだ」

魔法使い「……」

勇者「お前、魔王について何か知ってることはあるか」

魔法使い「…ない」

勇者「そうか、ないか」

剣士「…あれ、えらく素直じゃん。悪態吐くかと思ったぜ」

勇者「別に期待してなかったからな…」

魔法使い「…!?」ガーン

剣士「いちいち気にしないほうがいいぜ」ボソッ

女戦士「だけど確かに、情報が少なすぎるわね」

勇者「少ない…が、最有力の情報はお前が持ってる」

勇者「魔王城の場所。それさえ分かってる以上、魔王について余計なことを考える必要はない…」

勇者「さっさと行ってぶっ飛ばせばいいだけなんだからな」

魔法使い「……」

勇者「地図はあるのか」

女戦士「…あるけど」スッ

ガサガサ

女戦士「この地図にはざっくりした位置しか書かれてない…」

女戦士「周りに何があるかとか、そういうのはだいぶ限られてるわ」

勇者「魔王城が…ここか」スッ

勇者「で、俺たちが今いるのがここ」ツツツツ…

魔法使い「…直線?」

勇者「最短ルートだ」

剣士「最短ルートって…大丈夫なのかよ?何があるのか分からないんだろ?」

勇者「別に何があろうと問題ねぇ。崖でもない限りはすべて突っ切る」

剣士「お前ならやりそうだな…」

女戦士「じゃ、このルートだと…」

女戦士「…しばらく行けば街があるわね」

剣士「街かぁ。じゃそこまで着いたら宿を取って…」

剣士は空を見上げた。月が煌々と輝き、目の前の道を照らしている

剣士「…のんびり歩いてたら日が出ちまうかもな」

魔法使い「……街」

勇者「行くぞ」

魔王城


墨で描いたような美麗な翼と、さらに深い漆黒を湛える長い髪

整ってはいるが、決して甘さや弱さを感じさせない、精悍な顔付き

痣か、傷口か…左の頬には真っ赤な線が一つ入っている

そして、無駄なく上質な筋肉のみで構成された、美しい肉体

この翼魔族の男こそが、全ての魔族を統べる存在…『魔王』である

魔王「…『勇者』?なんだそれは」

側近「魔王様…貴方を倒すために動いているグループです。と言っても構成員は4人だそうですが」

魔王「どこで知った?」

側近「部下から報告が」

魔王「…そうか。部下か…」

魔王「お前、俺の知らないところでいろいろやっているようだな」

側近「魔王様が自己鍛練に明け暮れてばかりいるから、代わりに私が部下を動かしているだけです」

魔王「俺に非があるかのような言い方だな」

側近「貴方に非があると言っているんですよ」

魔王「…ふっ。薄情な奴だ」

魔王「ならこれまで通り、勇者とやらの処理もお前に任せる」

側近「…かしこまりました。では、失礼します」

バタン…

魔王「狙いは俺一人か、それとも再び同胞たちを刈るつもりか」

魔王「どちらにせよ、俺の復讐の邪魔はさせない…」

勇者一行は魔王城へ向かって、移動をしていた

ひたすら真っ直ぐ歩くこと、6時間!

剣士「な、なぁー勇者…まだ着かねぇの…?」ヨロヨロ

勇者「さぁな」

剣士「はぁ…やっぱり日が出ちまった」

女戦士「地図を見るにはもう少しだと思うんだけど…ほとんど休まず歩き続けて…もう限界よ…」

魔法使い「つ、杖がなかったら、もう5回は倒れてる…ところ…」

勇者「お前らやる気あんのか……お」

剣士「!か、看板だ!看板があるぞ!」

『街まで3km』

剣士「あと3km!くおおおっ!ゴールが見えてきたぁ!」ダッ

女戦士「はぁー…絶っ対保たないわよあいつ」

魔法使い「と、遠い……」

勇者「……女戦士」

女戦士「なに…?」

勇者「地図を貸せ」

女戦士「…はい。って言うか、あんたが持っててもいいよ」スッ

勇者「……」バサッ

勇者「鏡の街、か」

魔法使い「鏡の街…?」

女戦士「知ってるの?」

魔法使い「太古の鏡が大量に発見されて、それをきっかけに、色々な鏡を扱う街になったって…」

女戦士「へぇー。あたし鏡なんて、この手鏡しか持ってな…」キラン

女戦士「わっ…歩きっぱなしだから肌がカサカサになってるじゃない!」

魔法使い「…鏡、鏡…私は持ってない…」

剣士「おーい!早くしろよー!3kmなんてすぐだぜ!」

女戦士「言ってなさい!あんた死ぬほど後悔するわよ!」

剣士「……ん?」ピタッ

女戦士「ほらやっぱり疲れてるんでしょ」

剣士「いや…なんだ?だんだん見通しが悪くなってきてるような…」ダッ!!

魔法使い「……?」

剣士「ハァ、ハァ…」タタタ

剣士「こ、これは…」

モウモウ…

剣士「霧?」

モウモウモウ…

女戦士「うわっホント…この辺って霧が多いの?」

魔法使い「ふ、二人とも…早い…」ヨロヨロ

勇者「……」スタスタ

勇者「おい、霧なんかで止まるんじゃねぇ」

剣士「お、おう、分かってるよ!」ダッ

ドスッ

剣士「うおっ!?」ヨロッ

女戦士「きゃっ!」ガンッ

剣士「痛たたた…」

女戦士「な、なに倒れてんのよ」

?「ご、ごめん!大丈夫かい!?」

剣士「ぇあ…?」

そこには、帽子を被った男がいた。剣士にぶつかったのは彼である

帽子「この霧のせいで全然前が見えなかったんだ…それに、まさか人がいるとは思わなくて…」

剣士「ああ、こっちこそ悪いな…ところで…」

女戦士「そっちから走ってきたってことは、あなた街の人?」

剣士「今言おうとしたのに…!」

帽子「そうなんだけど…朝起きて、日課の散歩に出ようと思ったらこれだよ」

帽子「こんな、霧なんて出たことがないのに…」

魔法使い「それで、ここまで走ってきたの…?」

帽子「そう!霧に驚いたっていうのもあるんだけど、それだけじゃないんだ!大変なんだよ!」

帽子「街に僕以外誰もいないんだ!」

剣士「誰も…」

女戦士「いない…?」

帽子「いつも家を出ると、だいたい同じ時間に犬を連れてるおじさんに会って、一緒に散歩に行くんだ」

帽子「でも今日は来なかった」

女戦士「それだけ?」

帽子「僕も最初は、たまたま今日はいないだけだと思ったんだけど」

帽子「それにしては物音ひとつしないのはおかしいと思って、確実に人がいそうな商店街に行ってみたんだ」

剣士「そうしたら?」

帽子「それが誰もいないどころか、普段開いてる店が全部閉まってて…」

魔法使い「それは確かに、おかしい…」

帽子「個人の家までは確認してないけど、僕以外みんな消えてしまったんじゃないかと思うんだ…」

勇者「消えるってのはどういう意味だ」

帽子「僕も最初はまったく見当がつかなかったんだけど…みんなを探してるときに思い出したことがあって」

帽子「街には昔から伝わる歌があるんだよ」

勇者「歌?」

帽子「…『白い闇が広がって 悪い人はつかまるぞ 怖い夢もやってきて 悪い人が食われるぞ』って歌なんだけど」

剣士「なんか気味悪いな…」

帽子「うん。僕が子供のころはよく親たちが『悪い人』の部分を『悪い子ども』に変えて、『暗くなる前に帰らないと怖い目に遭うぞ』って意味で歌ってた」

帽子「でも気づいたんだ。もしかしてこの歌の『白い闇』って、霧のことなんじゃないかって…」

女戦士「た、たしかにそれっぽいわね」

帽子「だろう!?なんだか怖くなってしまって、霧の広がるところから出ていこうと思ったんだ…」

勇者「……」

剣士「神隠しってやつか?ヤバいんじゃねーの!?」

女戦士「そうよ!絶対ただごとじゃない!勘違いってわけでもなさそうだし…」

帽子「それで、もしよかったら君たち、街に行って、原因を調べてくれないか!?」

剣士「お、俺たちが…!?」

帽子「…駄目かな」

帽子「正直…ちょっと怖いけどよ。でも、放っておけないぜ…」

剣士「よし!任せろ!俺たちが調べてやる!」

帽子「本当かい!?ありがとう!」

剣士「いいよな、勇者!」

勇者「…どうせ行く予定だったんだ。わざわざ回り道するのも面倒くさい」

剣士「よし、じゃあさっそく…」

勇者「ただし…帽子のあんたも一緒にだ」

魔法使い「……!」

帽子「…そうだね」

帽子「街に詳しい僕がいたほうが調べやすいだろうし、君たちに話をした本人が逃げるわけにはいかないよね…」

剣士「オッケー!そうと決まれば急ぐぞ!」ダッ

女戦士「早く休憩したいんだけど…ま、そうも言ってられないわね!」ダッ

帽子「い、いや走らなくても…!」ダッ

勇者「…お前は行かないのか」

魔法使い「…疲れたから、歩いてく…」

勇者「……」

魔法使い「…それに、帽子の彼…なにか少し、変な感じがする」

勇者「お前もか…」

魔法使い「…も…?ってことは…」

勇者「ああ、俺もだ」

勇者「あの男は散歩に出るつもりだったが、街の異変に気づき、恐ろしくなって逃げ出してきた」

勇者「…とかなんとか言っていたが。そのわりにはずいぶんしっかりしてるよな」

魔法使い「…あの、鞄?」

勇者「そうだ。あれは散歩に行く奴が使うようなサイズじゃない…もっと言えば、俺たちみたいに旅をしてる人間が使うもんだ」

魔法使い「つまり、どういうこと…?」

勇者「…さあな。だが」

勇者「違和感は『もうひとつ』ある…この霧みたいに脳内が曇ってて、いまいちはっきりしねぇんだが」

魔法使い「もうひとつ…」

勇者「まぁ、どうでもいい…原因究明なんてテキトーにやって、さっさと進むぞ」

魔法使い「休憩は…」

勇者「30分ありゃ十分だろ」

魔法使い「…えっ」

鏡の街編スタートです
編と言っても次の更新で終わるかも知れませんが

また土曜日あたりに書きます

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