黒井「さて、堅苦しい挨拶もここまでにしておいて、さっそくだがこれから君に仕事を与えようと思う」
P「仕事、ですか。しかし、私はこのプロダクションの内情を何一つ知っていないのですが」
黒井「知る必要があるかね?」
P「その方が、業務を円滑に進められると思います」
黒井「一般論だ、それは。わが961プロでは、そんなことにも対応出来ない人材に用は無い」
P「わかりました。これから仕事をしていくうえで、随時学んでいくので問題ありません」
黒井「ウィ、よろしい。では仕事内容だが」
黒井「君に二人のアイドルのプロデュースを一任しようと思う」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412417361
ひびたかの961時代のSSです
といっても、ぶっちゃけパーフェクトサンもワンダリングスターも>>1はプレイしてないので原作と違う部分があると思います
ていうか改変しまくりであります。まず美希は961プロにはいません
そのことを考慮して読んでいただけるとありがたいです
P「そういうわけで、君らのプロデューサーを任された。これからよろしくな」
響「よろしくお願いしまーす!」
貴音「よろしくお願いします」
響「自分は我那覇響って言うんだ! 出身は沖縄! でね…」
P「あー、自己紹介はしなくていい。基本的な情報には後で目を通しておくから」
P「四条さんも同様だ。これから、君達はトップアイドルを目指して活動していくわけだが、その為の時間はあまりにも短い」
P「アイドルをしている時間が短いというよりは、君達の活動、活躍次第でその残り時間が減ってゆく。つまり、売れる見込みがないと判断されれば、ここは容赦なく君らに引導を渡す」
響・貴音「……」
P「その逆も然り。君達がトップアイドルに近づけば、そしてトップアイドルに君臨し続けることが出来れば、好きなだけアイドルを続けることが出来る。もちろん、自らのアイドル生活に終止符を打つことも自由だ」
P「わかったかい? つまり、アイドルとして0からのスタートである今の君達には自己紹介などをしている悠長な時間などないわけだ」
>>3の最後の行に
響「え、あ、そ、そうなのか…」
の文章が抜けてました、サーセン
P「言ってるそばから長くなってしまったな。とにかく、今日はこれから君達の実力を確認しようと思う。今から動きやすい服装に着替えて15分後、スタートできるようレッスン場で準備しておくように」
響・貴音「はい!」
~~~
黒井「3か月だ」
黒井「3か月で彼女達をAランクアイドルに育ててもらう」
P「…わかりました」
黒井「そこで泣きごとを言わないあたり、やはり君は私が見込んだ男だよ」
P「黒井社長がそう言う、ということは彼女達がそれだけのポテンシャルを秘めていると思っていますから」
黒井「うむ、その通りだ。だがしかし、やはり厳しい時間でもある。そんじょそこらのプロデューサー、プロダクションではまず不可能だ」
黒井「だが、普通のことを普通にこなすレベルではこの世界を戦っていけない」
井「それはアイドルにだけ言えることではなく、私達も同様だ。一流のアイドルを育てるには一流の環境がいる」
黒井「そして、それらを昇華させることによって王者を生むことが出来るのだ」
黒井「達成できないものはここにはいらん。必要ないのではない、邪魔なのだ。害にしかならん」
P「つまり、3か月で達成できないのならば」
黒井「君にはここを去ってもらう」
黒井「せいぜい、私を失望させないよう努めてくれたまえ」
~~~
P(『君には』…ね。『君達には』の間違いだろう)
P「よし、ストップ。もう十分だ」
響「ハッ…ハッ…!」
貴音「フッ…ハァッ…!」
P「きついか?」
響「だ、だって、さっきから何時間ノンストップで踊らされてると思ってるんだ!」
P「大体3時間と40分だな。だが、定期的に水分と小休憩は取らせているだろう?」
響「で、でも…」
P「それがこなせないのは君達の練習不足。事実、最後の一時間は見れたものではなかった。それだけさ」
響「うっ…」
P「四条さんは何かあるかい?」
貴音「…いえ、私達の努力不足に他なりません」
P「じゃあ、これで今日の活動は終わろうと思う。後は好きにしていいぞ」
響「えっ」
P「なんだい? 我那覇さん」
響「え、えっと、だって、今踊ってたんだよ!? 何か他に言うことないの!?」
P「他にって?」
響「だ、だから、自分達のダンスを見て、良かったところとか悪かったところとか…」
P「言うことはないよ。じゃあ」バタン
響「……」
貴音「……」
響「……はぁ」
貴音「上がるのですか?」
響「うん…。四条さんは?」
貴音「貴音で結構ですよ。そうですね、私はもう少しだけ」
響「もう、あんだけ踊ったんだよ? 疲れ過ぎて練習にならないよ」
貴音「あそこまでの運動をせずとも、出来ることはあります」
響「…なら、自分も付き合おうかな」
~~~
響「なあ、貴音。これから、どうなると思う?」
貴音「あいどる活動が、ですか?」
響「うん、特にプロデューサーとの関係」
貴音「さあ、見当もつきません」
響「自分は…うまくいく気がしないぞ」
貴音「なぜそのように思うのですか?」
響「だって、プロデューサーは自分達のことをアイドルである前に人として見てない気がするんだ」
貴音「……」
響「さっきの…あんなの、自己紹介もこなしてない段階でやる練習じゃないぞ」
貴音「…ぷろでゅうさあの真意はともあれ、では、なぜ響は最後までれっすんをこなしたのですか?」
響「……それは」
貴音「内容に疑問を感じるならば、意見をし、どうしても納得いかないのであれば中断することも可能ではあったかもしれません」
響「じ、自分はそんな簡単に投げだすほどやわじゃないぞ! …それに」
響「あそこで文句を垂れたらなんか悔しいから…」
響「だから、おかしいなって感じても、ただ自分達をいたずらにいじめてるんじゃないかって思えても」
響「文句はあいつの言うメニューを涼しい顔でこなしてから言ってやろうと思って…」
貴音「ふふっ…なるほど」
響「まあ、涼しい顔は全然出来なかったんだけどね。まさか、あんなにとは思ってなかったし」
貴音「きっと、ぷろでゅうさあはそういうところを試していたんじゃないでしょうか?」
響「え?」
貴音「私たちが負けん気が強く、自分の芯をしっかり持ったアイドルであることを確認するためにこのような無理難題を与えた」
貴音「そして私と響はそれに応えた。だからこその『言うことは無い』というわけではないのでしょうか」
響「……」
貴音「きっと、明日からは落ち着くはずです。だからと言って楽なめにゅーではないでしょうが」
響「…そうかな」
P「あいつら、あんだけ動いた後だってのに…」
P「……」
P「確かに、黒井社長があそこまで言うだけはあるな」
P(3か月か…)
P「おはよう」
P「おはよう」
響・貴音「おはようございます!」
響「今日は何のトレーニングだ? 順番から言うとダンスだけど」
P「いや、今日はまずミーティングを行う」
貴音「みーてぃんぐ、ですか。初めてですね」
P「厳密に言うと軽くはしてるけどな。まあ、今日は君達に重大な報告があるってわけだ」
響「ま、まさか、自分達クビ!?」
P「早とちりするんじゃない。報告っていうのはな」
~~~
貴音「御機嫌ですね、響」
響「そうか~? でも、しょうがないぞ!」
貴音「確かに、この日の為に日々の鍛錬で己を磨いてきた、と思えますからね」
~~~
響「自分達の曲!?」
P「ああ、今、社長が一流の作曲チームに依頼しているところだ」
貴音「それは、まこと楽しみですね」
P「完成するのは、約三週間後らしい。それまでにしっかり基礎を固めるぞ」
~~~
響「そうだ、貴音! 今日は自分の家でご飯を食べていかないか?」
貴音「いいのですか? 響」
響「もちろんだぞ! 今思えば、貴音にはアイドルのこと以外は詳しく教えてもらったこと無かったからな!」
貴音「そうですか。では、食事をしながら私の故郷の話でも」
響「決まりだな! じゃあ、これから…ん? あれは…」
貴音「ぷろでゅうさあですね、帰りでしょうか?」
響「いいこと思いついた! おーい、プロデューサー!」
P「ん? ああ、我那覇さんじゃないか。どうした?」
響「えっとね、今から自分の家でご飯食べない!?」
P「あほたれ。アイドルが男を自宅に招いてどうする」
響「あ、そっか…えーっと、じゃあ、貴音! やっぱ自分の家じゃなくてもいいか?」
貴音「ええ、構いませんよ」
P「話が見えん。なんのことだ」
響「だから、自分達と一緒にご飯食べようって!」
P「忙しいから無理だ。じゃあな」
響「か、軽すぎるぞ! 別に食事くらいいいじゃんか! どうせ家か外で食べるんでしょ!」
P「食事しながら仕事するからな」
響「…嘘ついてるだろプロデューサー」
P「なんのことだ」
響「プロデューサーは仕事を全部会社で終わらせてくはずだ! だから、仕事が残ってたら帰らない!」
P「…誰に聞いた?」
響「へへーん! 何を隠そう自分がプロデューサーのことを観察してたんだぞ! 今日も鞄持ってないしな!」
P「勘違いだ。じゃあな」
響「うぎゃー! ま、待つんだぞー!」
貴音「お待ちください」
貴音「ぷろでゅうさあ、その態度はあまりにも冷たすぎるんじゃないでしょうか」
P「……」
貴音「私達はあなたが見えません。まるで、実態のない幽霊を相手にしているような、奇妙な感覚を覚えます」
P「知る必要があるのか?」
貴音「あります」
P「……」
響「プロデューサー…」
P「…はぁ、わかったよ。ただし食事は会社の食堂だ。妙な噂を立てられるのも困るからな」
響「ほんとか!?」
P「ああ、先に行って待ってろ。ついでに用事を済ませてくるから」
響「やったな、貴音!」
貴音「……」
響「貴音、どうしたんだ?」
貴音「…あの、この近くに面妖なものは見えませんでしょうか?」
響「面妖? なんのことだ?」
貴音「いや、あの、いないのならいいのです…」
P「確かにおごりでいいとは言ったが…」
響「どうしたんだ?」
P「どう考えても食べすぎだろう」
貴音「別に私の分を負担してくれなくてもよろしいのですよ? ですが響は」
P「いや、俺は自分の財布の心配をしてるんじゃないの。心配してるのは四条さんの体のことだ」
貴音「はぁ…」
P「はぁ、じゃないよ。まさか、普段からこんな食べてるわけではあるまいな?」
貴音「いえ、普段よりも抑えておりますが…」
P「減らせ」
貴音「そんな!」
P「馬鹿野郎、自分の節制も管理出来ないのにトップアイドルになれるか」
貴音「で、ですが、これが私の適量でありまして、我慢も欲をかいてもいないのです…」
P「つまり昔からこれが普通で、そんな生活をしてきた結果、今の体型に落ち着いていると?」
貴音「はい、その通りです」
P「……はぁ、わかった。明日からメニューを増やして調整をする。それが嫌だったら食事を控えろ」
貴音「ふふっ、望むところです」
P「まったく…とんだアイドルを担当させられたもんだ」
響「あー! それを言うなら自分達もとんだプロデューサーをつけられたんだぞ!」
P「言ってくれるな。どこらへんがとんだプロデューサーなんだ」
響「まず性格が悪いでしょ! そんでもってひねくれてるでしょ! で、ぶっきらぼうで無愛想だ!」
P「ぶっきらぼうと無愛想って同じ意味じゃないか?」
響「うぇ!? そーなの!? い、いや、あと、そうやって揚げ足とったりするところも!」
P「ほほーう、で、どうして性格が悪くてひねくれ者でぶっきらぼうで無愛想の揚げ足取りをわざわざ食事に誘ったりしたんだ? 俺だったら出来れば関わりたくは無い相手だと思うが」
響「えっと…それは」
P「それは?」
響「んー、よくわかんないぞ!」
P「我那覇さんの思考はほんと理解に苦しむよ」
響「と、とにかく、自分達のプロデューサーなんだから食事に誘わないのもどうかと思って! プロデューサーも嬉しいでしょ?」
P「余計なお世話さ」
響「うきー! どうしてプロデューサーはそんなにひねくれてるんだー!」
P「性分だからしょうがない」
響「こんな可愛い女の子達と食事が出来るんだからもっと喜ぶべきだぞ!」
P「可愛いってのは否定せんがな」
響「またそうやって、自分達の…ん? 今、分達のこと可愛いって…」
P「言ったぞ? それがどうした?」
響「うええええええええええ!!! 急にそんなこと言われても困るぞ!!!」
P「どうして我那覇さんはあんなに騒いでるんだ?」
貴音「響はうぶなのです。それに騒がしいのは今に始まったことではないでしょう?」
P「それもそうだな」
響「ふ、二人して自分を馬鹿にするな~!」
貴音「こうしていると、時が経つのは早いと感じますね」
P「事実、一週間と少ししか経ってないからな」
響「初めて会った時はやっていけないと思ったぞ」
P「そうか」
響「『今の君達には自己紹介などをしている悠長な時間などない』だっけ? 今、普通にしてるぞ」
P「それはあくまで活動内での話だ。この時間は俺も君達もオフだからな」
響「それなら、そうと早く言ってほしかったぞ!」
P「まあ、それだけじゃないからな」
響「? どういう意味だ?」
P「俺と君達が必要以上に仲良くなる必要がない、という意味さ」
貴音「それは…」
P「あー、勘違いしないで欲しいのは、何も俺が君達と仲良くなりたくないってわけじゃないんだ。ただな…」
P「仲良くなるか、ならないかで言ったら、それは後者の方が君達が成功する確率は上がる」
響「…それって、なんか証拠はあるの?」
P「ないよ。ただの持論さ」
響「だったら、それは間違いだぞ! きっと、自分達はもっと仲良くなった方がうまくいくさー!」
貴音「ええ、その通りです。絆が強ければ強いほど、互いを信じることができ、それは良い結果へとつながるはずです」
P「…そうか」
響「それでも、やっぱりプロデューサーは自分たちとは仲良くしたくないのか…?」
P「…いや、君達がそうしたいなら俺も出来るだけ親交を深める努力はするよ。そんなことでメンタルに支障を出されても困るからな」
響「本当か! なら、これからもよろしくなプロデューサー!」
貴音「私からも、これから多々ご迷惑をおかけいたしますが、精進いたしますので、ご指導の方をよろしくお願いいたします」
P「ああ、こっちも君達がトップアイドルに少しでも近づけるように努力するよ」
響「近づくんじゃないんだぞ! トップアイドルになってやるんだ!」
~~~
響「今日は楽しかったな、貴音!」
貴音「ええ、非常に楽しい会食となりました」
響「それにしても、プロデューサーって意外といいやつだよな。ご飯おごってくれたし」
貴音「はい、今日はいまいち見られなかった彼の本当の部分が少しだけ見えた気がします」
貴音「多少、毒を吐いていてもそこに悪意は無く、常に私達を思って行動してくれている、というのが見えてきました」
響「悪意がないってのはどうなんだ? 絶対自分で楽しんでる気がするんだけど…」
貴音「ですから、彼は響との会話を楽しんでいるだけで、貶すような心持をしていないということです」
響「うーん、でも、プロデューサーは思ったより悪いやつではないってことは分かったな! それだけでもよかったぞ!」
貴音「明日からの活動も以前より楽しくなりそうですね」
~~~
P「失礼します」
黒井「ウィ、ごきげんよう。どうだい? 彼女達は」
P「はっきり言って、そこらのアイドルとはレベルが違いますね」
黒井「初めてアイドルを担当するのに違いがわかるのかい?」
P「映像や事務所内の他のアイドルと見比べるだけでもわかる違いですから。多分、実際に見比べれば誰だってわかりますよ。それだけ、能力がずば抜けてます」
黒井「なるほどな。確かに、彼女達は以前言っていたように、素質という意味では類を見ない逸材だ。だが、しかし、それだけでは王者になることはできない」
P「ええ、素質だけにかまけて努力を怠っては育つものも育ちません」
黒井「その通り。だがしかし、もう一つ大事なものがある」
黒井「アイドル、という殻を失くせば、彼女達がただの少女であるということだ」
P「……」
黒井「同時に君もただの男だ。そして、皆ただの人間だ。わかっているな?」
P「承知しています」
黒井「先日の食堂の件。今回は特に何も言わないが、私は褒められた行動とは思えない」
黒井「君のことは買っているんだ。どこぞの馬鹿みたいな道に進んでくれるなよ」
P「はい、深く受け止めておきます」
黒井「私からは以上だ。特に無ければ下がっていいぞ」
P「失礼します」
響「プロデューサー、このステップなんだけど…」
P「ああ、それなら…こんな感じだな。足を動かすというよりは、体全体で片足を引きずるって感覚の方が近い」
響「片足を引きずる…なるほど、こういうことか!」
P「ああ、そんな感じだ」
貴音「ぷろでゅうさあは教えるのがまこと上手ですね。歌といいだんすといい、何かやっていたのですか?」
P「うん、まあ、かじる程度にはな」
響「かじる程度で自分よりも上手いなんて何だかへこむぞ…」
P「別に上手いわけじゃないさ。ただ、理屈が浮かんでくるだけで実際に発揮できるわけじゃない」
P「そういう意味では、プロデューサーってのは俺の天職なのかもな」
響「うん! それはそう思うぞ! プロデューサーがプロデューサー以外の何かをやってるって想像つかないもんな!」
P「褒めてくれてるのか?」
響「褒めてるんだぞ!」
P「そうか、ありがとう」
響「えへへ…」
貴音「そろそろ一月経ちますが、私達の絆も段々深まってきましたね」
響「そうだな! 貴音とプロデューサーは自分の家族みたいなもんだぞ!」
P「それは言い過ぎだろう」
響「そんなことないぞー! だって、自分の家にいる家族と同じくらい大切に思ってるからな!」
P「実家の家族か?」
響「いや、今住んでる家のだぞ」
P「一人暮らしじゃなかったか?」
響「そうだぞ?」
貴音「響は家にたくさんの動物を飼っているのですよ」
P「ああ、なるほど、ペットってことか。それはそれで、俺達は動物目線なんだな」
響「人間だって、動物だって関係ないぞ! どっちも大切なんだからな!」
P「失礼します」
黒井「ウィ、ごきげんよう。今日君を呼んだのは他でもない、重要な用件があるからだ」
P「なんでしょう?」
黒井「まずは、例の曲、完成したからデモを渡そうと思ってね」
P「なるほど、大体予定通りですね」
黒井「曲自体は素晴らしい出来だ。だが使いこなせるかは彼女達、君達の手腕にかかっている」
P「任せて下さい」
黒井「さて、用件は以上だが、一つ聞いておきたいことがある」
P「…なんでしょうか?」
黒井「仲良しごっこは十分楽しんだかね?」
P「……」
黒井「散々君に言っていただろう。余計な情は大事なところで足を引っ張る」
黒井「それを断ち切り、冷静な判断が出来るものだけがこの世界を勝ち抜ける。そんなこともわからないのか?」
P「何故、黒井さんはそこまで…」
黒井「君の意見は聞いていない。私は余計なことはするな、と言っているんだ」
P「……」
黒井「ふぅ…君はもう少し頭のいい男だと思ったんだが…」
P「…俺には…今の方針が間違っているとはどうしても思えません」
P「彼女達はアイドルである前に人間で年端もいかない少女です。特にこの時期は敏感で色んなものに影響されてしまう」
P「そんな彼女達に理想的な環境を提供する。それの何が間違いなんですか?」
黒井「黙れ。この際はっきり言っておこう」
黒井「彼女達はただの駒にすぎん」
とりあえず、ストックも心許無くなってきたのでいったん休憩します
響「これが自分達のデビュー曲か!」
貴音「早速聞いてみましょう」
P「……」
響「ねー、プロデューサー、聞いてもいい?」
P「……」
響「プロデューサー?」
P「え、ああ、聞いていいぞ」
P「え、ああ、聞いていいぞ」
貴音「…どうかなさったのですか?」
P「いや、特には。どうしてそう思う?」
貴音「いえ、何もないならいいのですが…」
P「俺のことはいいから、曲の方を聞いてみてくれ」
~~~
P「それはさすがにあんまりではないですかね?」
黒井「事実を言ったまでだ」
P「その駒にあなたは生かされてることを忘れていませんか?」
黒井「詭弁だ。それを言うなら、彼女達も私によって生かされている」
黒井「さらに言うなら、彼女達の代えはいくらでもあるが、私の代わりはいない」
黒井「それは私が961プロのたった一人の社長だからだ」
P「……」
黒井「私はアドバイスをしているんだ。彼女達を導くことが出来るようにね。彼女達を大事に思ってくれているのなら、言うとおりにするのが一番の近道だ」
P「…他の道があると言うのならば」
黒井「ん?」
P「決して近道ではないが、彼女達をさらなる高みへ導く道があるというのなら、どうなんです?」
黒井「馬鹿なことを」
P「質問に答えて下さい」
黒井「……ふっ」
黒井「昔…君に似た男がいたよ」
黒井「だが、そいつは結局理想を語っただけだった。それを見て私は確信した」
黒井「私のやり方こそが、正義だとな」
黒井「存分にやってみるがいい。どの道、君にはあと2カ月しか時間がないんだ」
P「言われなくても、そうしますよ。ただ、黒井さんも最低限のバックアップはして下さいよ」
黒井「愚問だな、リターンがあるのなら全面的に協力するさ」
P「ありがとうございます」
黒井「ただ、君に一つだけ言っておこう」
黒井「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言う」
黒井「君は果たしてどちらなのかな」
響「ううーん…」
貴音「悩んでいますね、響」
響「だ、だって、この歌を自分がどう歌えばいいのかどうしてもイメージできないんだぞ…」
貴音「確かに難しい題材ですね」
響「貴音はどうなんだ? どう歌うかはイメージをつかめたのか?」
貴音「はい、私は大体」
響「うがー、すごすぎるぞ貴音ー。もしかしてそういう経験があるのかー?」
貴音「いえ、私もこのような経験は…」
響「だったら、どうして『キス』の歌なんてイメージ出来るんだー」
貴音「そうですね…強いて言うなら、私はこの歌に対して響とは前提が違うかもしれません」
響「前提?」
貴音「ええ、私は何もこの歌が『接吻』だけを題材にした歌ではあると思いません」
貴音「強く想う人がいて、その方を想う歌だと私は解しています」
貴音「接吻はその愛情表現の手段の一つにすぎません。ですから、私はそこだけにこの歌の本質があるとはどうしても思えないのです」
響「じゃ、じゃあ、貴音はその『強く想う人』っていうのがいるのか?」
貴音「ええ、いますよ。私の故郷に」
響「それって、まさか、男の人…?」
貴音「ふふっ…とっぷしーくれっと、ですよ」
響「う~ん、強く想う人か…」
貴音『なにはともあれ、響にもそういう方は必ずいるはず』
貴音『それは恋焦がれる気持ちではなくてもいいのです』
貴音『ただ、その方を愛おしく想う、そんな気持でも問題は無いと思いますよ』
響「ああ言ってたってことは、貴音の想い人はきっと故郷の家族のことだろうな。少しだけ安心したぞ」
響「故郷かー、みんな元気にしてるかなー」
響(うすめー、あんまー、にーにー、アリサ…)
響「ふふっ…すーは最後まで自分の上京に反対してたなー」
響「……」
響(だめだ、少しだけ切なくなってきちゃった。考えないようにしてたのに…)
P「ぼーっとつったって何してるんだ?」
響「え? あ、プロデューサー…」
P「考え事か?」
響「うん、まあ…」
P「曲のことか」
響「えっと、まあ、正解」
P「煮え切らない解答だな。まあ、我那覇さんにも色々あるんだろう」
響「聞かないの?」
P「聞いてほしいのか?」
響「……歌のことは聞いてほしいかも」
P「まあ、確かに難しい曲だ。もしかしたらって思ってたけど、やっぱり響にはそういう経験がないんだな」
響「うー…自分、そんな分かりやすいかな?」
P「分かりやすいぞ」
響「即答しないで欲しいぞ…」
P「それは悪かった」
響「プロデューサーはキスしたことはあるの?」
P「人並みにはな」
響「変態」
P「勘弁してくれよ」
響「じゃあ、今あの歌ぐらい想ってる人はいる?」
P「特にはいないな」
響「恋愛感情っていう前提を失くしたら?」
P「それはどういう意味だ?」
響「だから、恋焦がれてるわけじゃないけど、それぐらい大事な人はいるかって聞いてるんだ」
P「そりゃ、いるさ。俺にも両親はいるし、一生の友人だっている」
響「え、友達いるの?」
P「ひどい言い草だな…」
響「だって、プロデューサーって性格悪いし…」
P「俺の性分を理解したうえで付き合ってくれてるよ。どっちもどっちだしな」
響「まあ、でも、プロデューサーは悪いやつじゃないしな」
P「そう思ってくれているなら十分だ。あ、まだ、大事なやつらがいたな」
響「誰だ?」
P「我那覇さんと四条さんさ」
響「え…」
P「まだ、出会ってから一月しか経ってないし、その出会いだってひどいもんだったが、今では二人とも大切な仲間、いや…」
P「響の言うとおり、家族みたいなもんだな」
響「プロデューサー…」
P「こんな時に言うのもなんだが、よくもまあ、俺についてきてくれたよ。さっきも言ったが第一印象は最悪だったから」
P「本当にありがとな、響」
響「べ、別に、お礼を言われる筋合いなんて…というか、本当にプロデューサーか? 別人じゃないのか?」
P「どうだろうな、俺自身もどうしてこうなってるかはわからん」
響「鳥肌立ってきたぞ…」
響「あはは、それはプロデューサーだけにだぞ。今までの仕返しだ!」
P「正直言い返せない」
響「プロデューサーって面白いな。また一つ新しい部分が見えてきたぞ。プロデューサーって自分達と出会ってから相当変わったんじゃないの?」
P「俺自身もそう思うよ。どうしてか君達といると調子が狂うんだ、退屈はしないんだけどな」
P「…我那覇さんって、あんま俺のこと言えないよね?」
響「あはは、それはプロデューサーだけにだぞ。今までの仕返しだ!」
P「正直言い返せないな」
響「プロデューサーって面白いな。また一つ新しい部分が見えてきたぞ。プロデューサーって自分達と出会ってから相当変わったんじゃないの?」
P「俺自身もそう思うよ。どうしてか君達といると調子が狂うんだ、退屈はしないが」
響「褒めてるのか?」
P「褒めてるよ」
響「絶対嘘だろ」
P「ああ、その通りだ」
響「あはは、そこは否定してよ!」
P「はっはっは…」
響「ふふっ…」
響「……なあ、プロデューサー。やっぱさっきの話していいか?」
P「煮え切らない解答をしていた原因か?」
響「うん…」
響「自分の故郷の話さー」
正真正銘の弾切れ
補充するまで少々お待ちを
あと少しだけ休む
P「あ」
貴音「おや」
P「奇遇だな、四条さん。四条さんもこの店に?」
貴音「ええ、評判を聞きつけまして」
P「評判? ここは隠れ家的なお店だと思うんだが」
貴音「同業者の皆様からはよく勧められるのです」
P「よく勧められる…? まさか、四条さん、普段からラーメン食べ歩いてるわけじゃあるまいな…?」
貴音「い、いえ! 滅相もございません!」
P「普段から言っているだろう、食べ過ぎること自体にはあまり言及しないが、カロリーの高いものを摂取する際には俺に一言声をかけろと…」ゴゴゴ
貴音「で、ですから、今週は一昨日と今日の夜に食べると事前に…」
P「正直に言え、今週何回食べた」
貴音「……」
貴音「…12回ほど」
P「最後の晩餐だ、食え」
貴音「嗚呼、なんという…」シクシク
P「とりあえず、ラーメンは今日食べたら2週間は禁止だ。ついでに今日も替え球は1回まで。スープを飲み干すことは許さん」
貴音「そんな! それではらあめんの味わいが…」
P「文句は言わせないからな」
貴音「あいわかりました…」
店主「へい、お待ち」
P「相変わらずうめーな、ここのラーメン」
貴音「…はい、私の今生で最も味わっていると思います」
貴音「しかし、少しだけ塩が効き過ぎている気が…」
P「ガチで号泣してるんじゃないよ。スープに涙が入ってる、入ってるって」
P「ふぅ~、ラーメン食うのもきつくなってきたな~。年とってんのかな」
貴音「何をおっしゃいますか、その肌、そして目の輝き、まだまだこれからですよ」
P「お世辞をどうもありがとう」
貴音「本心ですのに…相変わらずひねくれているのですね」
P「言っただろう? これが性分なんだ」
貴音「…響は、答えを見出せましたか?」
P「い~や、まだまだかかりそうだな。でも」
P「手掛かりは見つけてそうだ」
~~~
響「自分の家はさ、沖縄の小さな島にあるんだ」
響「海が綺麗で、料理がおいしくて、しまんちゅは皆とーっても優しくて」
響「だから、社長にスカウトされるまでは、東京はおろか島の外に興味なんて無かったんだ」
響「勝手に、自分はこの島から出ることなんて一度もないまま、おばあちゃんになってくんだろうなー、なんて思ってた。多分、そんなことは無いと思うけど」
P「どうして、それなのにスカウトを受けたんだ?」
響「どうしてだろうな、自分でもわからないぞ」
響「ただ、そのことを話したら色んな人に反対された。応援してくれたのは友達のアリサと従弟の次郎ぐらいだったなー」
響「特に大人組はひどかったさー。東京をなんだと思ってるんだ!ってくらいにぼろくそ言ってたぞ」
響「で、説得を続けていくうちに、最初ににーに…いや、兄ちゃんが味方に回ってくれた。次にうすめー、おばあちゃんが、その次にあんまー、お母さんも認めてくれた」
響「でもね、最後の最後まですーは…お父さんだけは認めてくれなかった」
響「自分もそこまで反対されたら考えることもあって、半ば強引に上京してきたんだ。だから、仕送りだって一切ないし、連絡はしないし、してこない」
響「たまににー…兄ちゃんの留守電があるけど、聞かないようにしてる。多分、聞いたら負けちゃうから…」
P「負ける…?」
響「うん、負けちゃう。あんだけ大見え切って島を出たんだ。すーとは喧嘩別れみたいになった」
響「まだ何も出来てない自分は島の皆に合わせる顔なんてないさー」
P「……」
響「兄ちゃんの声を聞いたら、自分絶対帰りたくなる。だから、聞かないようにしてるんだ」
P「…響はそれでいいのか?」
響「いいんだ、それだけのことを自分はしてるんだから」
P「そうか、なら俺から言えることは何もない」
響「……あの歌でさ、すごい好きな部分があるんだ」
P「どこだ?」
響「『何十回も 息が出来なくていい 死んでもいい』ってとこだぞ」
響「この歌詞を見て、なんかゾクッとしたんだ。それは多分、自分が想像したこともないほどの世界観だから」
響「でも、今は少しだけ分かる気がする」
P「……」
響「あれってさ、死んでもいいくらいその人のことを愛してるって解釈でいいんだよな?」
P「間違ってはいないと思うぞ」
響「だよな…うん、自分もそれくらい島の皆が好きだったんだ」
響「一人東京で暮らして、それがやっとわかった」
響「自分、会いたい…皆に会いたいぞ…!」
P「……ああ、きっと島の皆もそう思ってるよ」
響「グスッ…! ヒック…! にーに…無視してごめんなぁ…」
P「大丈夫だ、響の気持ちは兄ちゃんも分かってるはずさ、だから顔を上げて」
P「あー、ほら、可愛い顔が台無しだ、鼻水拭くからじっとしてろ」
響「う~、またそうやって、自分をからかう…」
P「からかってるか? 割と真剣なんだが」
響「見え透いたお世辞なんていらないぞ…」
P「俺がいつお世辞言ったんだ? あー、汚え」
響「……」
響「……バカ」
貴音「響、最近歌の方がまこと上手くなりましたね」
響「え、そうか?」
貴音「ええ、少し前まで頭を抱えていたのが嘘のようです」
響「そーかなー? うん、でも、何かをつかめてきたのは感じるぞ」
響「でも、あと何か足りないんだ。それがなんなのかは分からないんだけど…」
貴音「私達がユニットを組んでから2カ月が経とうとしています。そろそろ、この曲を発表する機会も舞い込んでくるはず」
響「うん、時間がないのは、自分も分かってる。本番までには絶対掴んでみせるぞ」
響「だけど、さっき言ったように2カ月も経って、どうして一度も仕事をしてないんだろうな? 別に歌を歌う仕事の他にもあると思うんだけど…」
貴音「それは、私にも分かりません。ですが、プロデューサーの思惑があるはずです」
響「まあ、そうだよな。もしかしたら、とんでもない舞台を用意してるかも知れないぞ」
貴音「しかし、ぷろでゅうさあが来ませんね。もう、とっくに開始時間は過ぎてるというのに…」
響「んー、ちょっと、自分探してくるぞ! 軽く探して見つからなかったらすぐ戻ってくるから入れ違いになったら言っておいてくれ!」
響「まったく、遅刻するなんてたるんでる証拠だぞ! あとで嫌味を言ってやらなきゃな」
響「……」
響(歌の方は、何が足りないんだろう…)
響(貴音の言った通り、強く想う人…島の皆を想って歌ったら段々良くなってきた)
響(でも、何か…何かが違うんだ)
響「やっぱり、そういう気持ちとは違うのかな…」
響「でも、貴音は問題ないって言ってたし…」
響「うがー! 何が何だか分かんなくなってきたぞー!」
響「……はぁ、一度整理しよう」
響(見落としてるところは無いかな…例えば、まだ大事な人が他にいる、とか…)
響「……あ」
響(そういえば、プロデューサーのことを考えながら歌ったことはなかったな…)
響「で、でも、いいのか? いくら、プロデューサーだからってあんな歌詞で…」
響「いや! 物は試しだ! やってみるぞ!」
響「……」
響「……」//
響「……むっ」/////
響「む、無理だ! 何でか分からないが絶対無理だ!」
響「む~…男でも次郎は別に何ともなかったんだけどな~」
響「どうしてなんだろう…あ」
響(プロデューサー、社長と話してるな。結構真剣そうだ)
響(…一体何を話してるんだ?)
響「……」コソコソ
黒井「まあ、私の力を使えば造作もないことだが」
P「でしたら、よろしくお願いします」
黒井「しかし、彼女達も大変だな。まるで潰そうとしてるとしか思えない」
P「信じてますから。絶対にモノにして見せませますよ」
響(な、何の話をしてるんだ…? 自分達を潰す?)
P「こだまプロの方には申し訳ないが、新幹少女は彼女達の引き立て役になってもらう」
響(し、新幹少女って、確かCランクアイドルの…そいつらと自分達が対決するのか!?)
P「メディア露出が多くなってきた彼女達は今が旬といってもいい。直にBランクへの扉を開けるでしょう。彼女達の力を示すには絶好の相手だ」
P「ただ、彼女達を倒すだけでは足りない、少なくとも圧倒することで活路が開ける」
P「最低でもBランクの力はあることを見せつけなければ、期限には間に合いませんから」
響(……期限?)
黒井「なるほどな、確かに小さな仕事をこなすだけでは期限内の達成は不可能。だが、それは他では通用しない荒業だ」
黒井「この私ほどの力がなければな」
P「使えるものは何でも使う。王者たるもの、己の勝利の為には手段は選ばない」
P「それが、ここであなたから学んだ唯一のことです」
黒井「……ふん、やはり、おめでたい部分を除けば君は私の理想の部下だよ」
黒井「だが、そこまでして失敗に終わったら、どうするつもりだ?」
P「…決まってるでしょう」
ガチャ
貴音「…あ、響、帰ってきたのですか。ぷろでゅうさあは」
響「……」
貴音「響?」
響「え、あ、プロデューサー?」
響「…いや、どこにもいなかったぞ」
>>128
読み返してたら、彼女達って単語がゲシュタルト崩壊しそうな勢いなのでちょっと修正
響(し、新幹少女って、確かCランクアイドルの…そいつらと自分達が対決するのか!?)
P「メディア露出が多くなってきた新幹少女は今が旬といってもいい。直にBランクへの扉を開けるでしょう。彼女達の力を示すには絶好の相手だ」
P「ただ、新幹少女を倒すだけでは足りません。少なくとも圧倒することで活路が開ける」
P「最低でもBランクの力はあることを見せつけなければ、期限には間に合いませんから」
響(……期限?)
ガチャ
貴音「…あ、響、帰ってきたのですか。ぷろでゅうさあは」
響「……」
貴音「響?」
響「え、あ、プロデューサー?」
響「…いや、どこにもいなかったぞ」
貴音「…何かあったのですか? 響」
響「……な、何でもないぞ! うん、何でもない!」
貴音「響…」
ガチャ
P「いやー、悪い。ちょっと野暮用で遅れちまった」
響「あー! やっと来たぞ! 何してたんだプロデューサー」
P「仕事だ仕事。そんでもって、お前達の初仕事が決まった」
貴音「まあ! ようやく、ですね」
響「……」
P「…? 我那覇さんは嬉しくないのか?」
響「え!? あ、嬉しいぞ! やっと自分達の力を見せられるんだもんな!」
響「お待たせー、ご飯だぞー」
響「あ、こら、そんなに急いで食べたら喉に詰まらすぞ」
響「そうそう、ゆっくりな」
響「……」
~~~
P『一週間後にフェスであるアイドルと対決してもらう。そのアイドルっていうのは新幹少女ってグループだ。聞いたことはあるだろ?』
P『一応、テレビ中継もされるらしい、有料放送のテレビ局だが。まあ、見てるのはマニアックな層が多いだろうな』
P『だが、そこが狙い目だ。そのマニアックな層でさえ、名前も知らないアイドルが、今、話題の新幹少女に手も足も出させないで勝ってしまう』
P『アンコールは無し、情報も最低限のものだけ、全くの謎に包まれたアイドルだ』
P『それは口コミで瞬く間に広がっていく。君達の名前が轟くのに時間はさほどかからないだろう』
P『この仕事をとってきたってのは君達の力を信じてるからだ。不可能なことだとは思っていない』
P『でも、まあ、それは理想の展開だ。僅差で勝ってもいいし、言ってしまえば負けても次のチャンスはある。あまり気負い過ぎるのもよくない』
P『君達が普段通りの力を出せばそれで問題ないさ』
~~~
響「ああは言ってたけど…」
響(自分達が、新幹少女を圧倒出来なきゃ…)
~~~
P「…決まってるでしょう」
P「このプロダクションを辞めます」
響「……え」
黒井「まあ、妥当だな」
P「元々、3か月しか時間はありませんからね。その機を逃してしまえば、間に合う可能性はほぼ残らない」
P「ですが、黒井さん、それは俺の力が足りないからであって、彼女達の能力には何の問題もない」
P「あの子たちには、トップアイドルになれる器がある」
P「金の卵をむざむざ手放すような馬鹿な真似はしませんよね?」
黒井「……」
P「良く考えて下さい」
~~~
響「自分達が新幹少女を圧倒出来なきゃ…」
P「プロデューサーが…辞める」
響「……」
響「い、いや! 自分達が勝てばいいんだ!」
響「そうすれば、プロデューサーも辞めないで、またいつも通りになる!」
響「絶対に…、絶対に辞めさせないぞ…!」
いきなりPが喋り出してワロタ
>>143
ファwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
脳内補完でオナシャス!
~~~
響「自分達が新幹少女を圧倒出来なきゃ…」
響「プロデューサーが…辞める」
P「…響」
響「はっ…!はぁっ!…え、なんだ?」
P「いや、なんだ、じゃないよ」
P「飛ばし過ぎだ、いくらなんでも」
響「あ、プロデューサーか…貴音だと思ってたぞ」
P「貴音に様子がおかしいって言われて駆けつけたが…もうレッスンが終わってから2時間経ってるぞ」
響「別にこれくらい普通だって。いつもはもうちょっとやってるよ」
P「ああ、時間的にはな。だが、それはクールダウンや柔軟も兼ねての時間だ」
響「す、少しくらい大丈夫だって…」
P「少しじゃないから言ってるんだ。ほら、水分」
響「う、うん、ありがと…」
P「…なあ、まだ歌の方が納得いかないのか?」
響「……」
P「言っておくが、響が思ってるよりも現時点での完成度はかなり高いぞ。それこそ新幹少女が相手にならないくらい」
P「それなのに、今の響はもがき苦しんでるように見える。まるで見えない敵と戦ってるように」
P「少し深刻に考えすぎじゃないのか? 今のままでも十分通用してるのに…」
響「でも…」
P「まあ、響がそうしたいってんなら俺も何も言わないさ。でもな」
P「ユニット組んでる相手に心配かけるような真似はしちゃダメだ」チョップ
響「いてっ…あ、貴音…」
貴音「……」
P「じゃあ、俺は仕事に戻るな」
響「えっと、あの…」
貴音「……響」
響「ご、ごめん! 別に貴音を不安にさせるつもりはなかったんだけど…」
貴音「…響、あなたを悩ませてるものは」
貴音「その不安は、私と分け合うことのできないものでしょうか?」
響「……うん、貴音は知らない方がいいことだ」
貴音「…そうですか。でしたら、私には何も言えません。しかし」
貴音「せめて、一人で抱え込んではいけませんよ」
響「……!」
貴音「響、あなたはとても優しい人です。ですが、他を重んじるからこそ、自己をおろそかにしてしまう」
貴音「他人を傷つけるくらいなら、自分が傷つく。そう思ってしまうほどのお人好しです」
貴音「ですが、響、あなたが他を重んじるのと同じくらい、あなたを重んじている人がいることを忘れてはいけません」
響「え…」
貴音「…あなたが苦しめば苦しむほど、この私も苦しんでしまいます」
貴音「そして、それはきっとぷろでゅうさあも同じはず」
響「……」
貴音「響、どうか、自分を大事にしてください」
響「……」
響(自分を大事に…か)
響「そんなに無茶してたのかな、自分」
響「なあ、お前達、自分はそんなに無茶してたか?」
響「…そっか、皆も心配してくれてたんだ。ありがとうだぞ」
響「そういえば、携帯の電源落としたままだったな。連絡とか無きゃいいけど」
響「……あ」
響(にーにからだ…)
貴音『せめて、一人で抱え込んではいけませんよ』
響「……」
響「少しだけなら…大丈夫だよね」
チョップ、なんだけどさ
{例}
♂「てい」チョップ
♂「あんまり~~しすぎんなよ」
♀「はうう///そ、そんなことしないもん」
……こんな奴いたら気持ち悪いだろ?
激サム演出この上ないんで、もう使わんで欲しいですわ
P「さ、今日のレッスンを始めるか。明日はフェスだから、今日は軽めのメニューで調整していくぞ」
貴音「はい」
響「……」
P「響? 聞いてるか?」
響「あ、うん、大丈夫、聞いてるぞ。軽めのメニューで調整するんだろ?」
P「ああ、その通りだ」
響「……」
P「…よし、始めよう」
響・貴音「はい!」
P(…何だ?)
P(響の様子が、何かおかしいな…)
〜〜〜
P「…よし、今日はここまでにしよう。明日もあるしな」
貴音「いつもに比べると、少し足りない気がしますね」
P「最初の方はこの程度でも、音をあげてたんだがな。それだけ君たち二人が成長したってことさ」
P「それは体力面だけではない。君たち二人の技術力も磨き上がってる」
P「特に響、よく本番までに間に合わせたな。今日は今までで一番の出来だ」
響「…そっか。自分完璧だからな、当然だぞ!」
P「でも…」
P「……」
響「でも…なんだ?」
P「…いや、なんでもない、些細なことだ。気にしないでくれ」
>>159からPが「響」って呼んでるけど「我那覇さん」に脳内補正にして下さい。すんません
P「おかしいんだよな…」
P(昨日の昨日まで悩んでたのに、どうして今日いきなり、しかも本番の前日に…)
P(それだけじゃない、長いトンネルを抜けたのに喜ぶ素振りを見せもしない)
P(あんだけ頭を悩ませて、普段元気で強がりな我那覇さんが俺に弱みを見せるほどまで追い込まれてたってのに)
P(我那覇さんだったら、絶対に喜んで報告するはずだ)
P(それと、あの表現力)
P(今までは、恋心ではないが愛しい人を思い浮かべ、それをストレートに伝えるよう歌っていた)
P(それは我那覇さんから聞いていたし、少なくとも俺自身にもそう思えた)
P(だけど、今日のあの歌い方は…)
P「どこか儚い、ような…」
P(俺の思いすごしか? いや、でも声の質は間違いなく今までのそれとは違う。少なくとも、我那覇さんが目指していた完成形とはあまりにもかけ離れてる)
P(だとしたら、昨日のうちにそっちの方が歌いやすいことに気付いて修正した…)
P(そんな器用なまねが我那覇さんに出来るか? 今日まで見てきたあの我那覇さんが? …いや、やっぱりありえない)
P「……」
P(…わからないが、何かあったのかもしれない)
P(我那覇さんの心を大きく変える何かが…)
P「…くそっ。こんなこと考えても仕方がないってのに」
P「でも、どうしても駄目な気がするんだ」
P「このまま我那覇さんを放っておいたら何か大変なことになりそうな気がする…」
P「……」
P(もう打ち合わせに向かう時間だな…)
P「我那覇さんを信じるしかない…か」
~~~
P「ん? 門の影に誰か居るな…」
P(ちょうど警備員の死角に男が…パパラッチか? 961プロを除くとはいい度胸だな)
P(…でも、カメラを持ってる様子は無い)
P(出待ちのファンか? …いや、万が一関係者かもしれん)
P(しょうがないな…)
P「あの~、すいません。ちょっと、いいですか?」
???「え? あ、は、はい!」
P「ここ、私有地なのわかります? 961プロダクションって言うんですけど」
???「は、はい…」
P「分かっていながら、どうしてそんなもの影に隠れるように覗いてるんですか? しかも、警備員を警戒するように」
???「……その…人を…待っていて」
P「誰を待っているんですか?」
???「……」
P(この反応はおそらくアイドルを待ってるな。うちはかなり情報管理を徹底してるのに、よくプロダクションを嗅ぎつけたな)
P(まあ、おそらくは興信所か何かに依頼したんだろうが、もしかしたらアイドルのストーカーっていう可能性も無いわけではない)
P「もう一度聞きます、誰を待ってるんですか?」
???「……がっ」
???「我那覇響さんを待っています…」
P「ふぅ…」
P(…やっぱりな。まさか我那覇さんのファンだとは、嬉しいのか悲しいのか)
P「すみませんね、うちはファンの方のアイドルの出待ちは…」
P「出待ち…は…」
???「……?」
P「……」
P(我那覇さんの…ファン!?)
P(ちょっと待て!? 何で我那覇さんがアイドルであることを知ってるんだ!?)
P(そもそも、二人はまだデビューしていない。アイドルと言っていい存在ですらない)
P(そんな彼女の…ファン!?)
???「…あの、どうしました?」
P「あ、いや、ちょ、ちょっと待ってて下さい」
P(何故情報が漏れた! どこかの記者がリークしたのか!?)
P(いや、ありえない! そんな情報を黒井さんが逃すわけない。必ずどこかから拾い、もみ消すはずだ)
P(なら、この男自身が…それとも961プロの誰かが個人的に漏らした…)
P(いや、ありえない。男自身が記者であればこんなに素直に応じないだろうし、うちは社秘義務の教育は徹底している)
P(なら…どういうことなんだ…?)
???「……えっと、その」
P「……」
P「……あ」
P(いつだか言っていた…)
P(我那覇さんの故郷には俺に良く似た人がいる、と)
P(よくは分からないが、確かに背丈と雰囲気は確かに…)
P「あなた、まさか…」
遅筆ですんません、色々と忙しくなってしまったので今日もこれだけです
出来れば週末にでも終わらせたいんで、もうちょっとだけ待ってちょ
あと>>175の三行目は
P(よくは分からないが、確かに背丈と雰囲気は…)
に脳内補正してください。確かにが多すぎた
ダッダッダッ…
P「はぁっ…はぁっ…!」
バン!
P「我那覇さん!」
響「ふえ!? な、なに…?」
P「こっちに…東京にお兄さんが来てる!」
響「え……」
貴音「響のお兄様が…?」
P「親父さんが危ない!」
~~~
響兄「いつも響がお世話になっています」
P「え、ええと、響なら中にいます、今すぐ呼んできましょう」
響兄「…いえ、結構です。どうせ、会おうとしないでしょう」
P「で、ですが…」
響兄「それに、もう時間切れです」
P「時間切れ?」
響兄「ええ、すぐそこにタクシーを待たせてます。もう5分で出なくては」
P「何をそんなに急いでいるんです…」
響兄「…親父が危ないんです」
P「な……」
響兄「今夜が厳しい山になるって言われています。越えたとしても長くは…」
響兄「本当は響のことを連れて帰りたかったんですけど、電話にも出ないし留守電も聞いてるかどうかわからない。それはそういうことでしょう?」
響兄「もし、聞いてくれているのならなおさらだ。あいつは意地でも帰ろうとしない。そういうやつです」
P「で、ですが…!」
響兄「あと5分で響を説得出来る気もしないですし、実力行使をしてまでして帰らせるつもりはありません」
響兄「親父も響も悲しい最後になってしまうから」
P「そんなこと言ってる場合じゃ…」
響兄「それだけの気持ちであいつはここまで来てるんですよ。だから、しょうがないです」
響兄「さて、そろそろ行きますね。親父が危ないのに長男がいないんじゃ示しがつきませんから」
響兄「…響のこと、これからもどうかよろしくお願いします」
P「……」
響兄「では」
P「…時間は…フライトの時間は何時ですか?」
響兄「8時ですね。ですが、手続きは色々あるので余裕を持って出ます」
P「その便に間に合えば帰れるんですよね」
響兄「はい、沖縄についてからの足と船はあります。飛行機だけはどうしても無理でしたが」
P「わかりました、我那覇さんを間に合わせて見せます」
響兄「え…」
P「だから、あなたは空港で二人分のチケットを持って待っていてください」
P「必ず、親父さんのところへ行かせますから!」
~~~
響「……」
P「その反応…やっぱり知ってたのか」
響「…うん、昨日色々あって今までの留守電を聞いてたんだ」
響「そしたら、最後の留守電に『迎えに行くから』って…」
P「なら、なんで帰らないんだ!」
響「……じ」
響「自分は、そんな生半可な気持ちで上京してきたわけじゃない。まだ、何も出来てないのに島に帰るなんて…」
P「何を言うかと思えば…そんな意地を張ってる場合じゃないだろう! 自分の父親が危ないんだぞ!」
響「……」
P「嫌だっていうなら無理やりにでも連れて行くぞ。そこまでしなくてもいいと言っていたが、俺には我慢できない」
響「そんなことしたらセクハラプロデューサー呼ばわりして周りの人に止めてもらう」
P「なんでこうも…我那覇さんの兄貴といい、沖縄人はみんなこうなのか?」
P「自分の親よりも大切なものなんてそうはない! それが自分のプライドならなおさらだ!」
P「絶対に帰るべきだ、我那覇さん! 必ず後悔する!」
響「……」
P「我那覇さん!」
響「……無理だ」
P「だからどうして…「だって!」
響「だって、明日のフェスがあるじゃないか! 帰ってこれるわけないぞ!」
P「そんなことを気にしてたのか…言ったよな? 我那覇さん仮に失敗しても…」
響「後は無いんだろ!? 知ってるぞ!」
P「なっ…」
貴音「え…」
響「この前、聞いたぞ。自分達がフェスに勝って力を見せつけられなければいけないって、三か月しか時間は無いって…」
響「もし出来なかったらプロデューサーはここを辞めるって!」
P「……」
響「そうだろ!?」
貴音「…真なのですか?」
P「……ああ」
響「それだけじゃない。プロデューサー、自分達の心配もしてくれてたよな。それって、プロデューサーだけじゃなくて自分達も危ないってことだろ?」
響「最初に言ってたもんな。『ここは容赦なく君らに引導を渡す』って」
P「……ああ。それはあくまで想像だがな」
響「…無理だよ。自分、二人を不幸にしてまで島に帰りたくない。いや、二人だけじゃないんだ」
響「自分はもっと、この三人でアイドルを続けたいんだ…!」
P「……」
貴音「……」
響「心配してくれてありがとう。でも、やっぱり自分は島に帰れない」
P「…我那覇さん」
響「なに…?」
P「もし本当に今日帰らなかったら、俺は絶対に我那覇さんを許さないからな」
P「そして何より俺自身を許すことは無いだろう」
響「……」
P「さっき言っただろう? 必ず後悔するって」
響「…うん」
P「それは我那覇さんのことじゃない、後悔するのは」
P「俺と四条さんだ」
響「…え」
P「なんで今日我那覇さんを帰らせることが出来なかったのか、なんで実力行使に出てまで連れて行くことをしなかったのか」
P「なぜ、我那覇さんに一生ものの後悔をさせてしまったのか…!」
P「俺と四条さんはずっと後悔する。それも自責の念は我那覇さんよりももっと強い後悔を、だ」
響「……」
P「そしたらもうアイドルどころではない、そんな状態で君達と信頼関係が作れるはずもないからな」
P「なにより、俺はアイドルにそんな思いをさせるんだったら、自分からプロデューサーを辞めてやる」
響「そ、そんなの…」
P「文句は言わせない。これは俺の人生だ、俺自身が決める」
P「だから、我那覇さんにも自分自身で決めてもらいたい」
P「全てをやりきって後腐れなく俺にプロデューサーを辞めてもらうか」
P「治ることのない、大きな傷跡を残したまま、俺と関係を断ち切るか」
P「後者を選ぶのなら、絶対に我那覇さんを許さない。顔も見たくない」
P「俺は君の目の前には二度と姿を現さない…!」
響「……っ!」
貴音「…響、ぷろでゅうさあのおっしゃる通りです」
貴音「今は、何をおいても帰るべきです」
響「…貴音」
貴音「人生とは一期一会。初めての出会いは人生に一度きりです」
貴音「同時に、今生の別れも一度きりしかないのですよ」
貴音「あなたが、父君と最後にどう別れたのかは知りません。ですが、それはあなたにとって悔いのない別れでしたか?」
貴音「胸を張って、最後の別れに文句無しと言えるでしょうか?」
響「……!」
『馬鹿野郎! アイドルなんて認めるわけにはいかねえ!』
『この島の皆は悲しむ! 後ろ指さされて出ていくのか!』
『俺は…お前に東京なんかへ行って欲しくない』
『…そうか、お前の人生だ。そこまで言われちゃ、俺にはなんも言えねえ』
『どこへでも行って来い、こんフラーが…』
響「……」
P「時間がない、早く決めよう」
響「……」
P「我那覇さん…」
響「……」
P「…響!」
すんません、ここまでっす
次は最後まで書きますんで…
貴音「これはまた面妖な…いわゆる、すーぱーかーなるものでしょうか?」
P「黒井さんに半ば強制的に買わされたんだ。超一流の企業に勤めるものは超一流の身だしなみをしろって」
P「金は俺の退職金から出したらしい。まあ、このほどの車なら立派な動産になるしな。もし、ここを辞める時には売ろうと思ってたよ」
P「ただ、その為に今まで傷をつけないよう細心の注意を払っていたが…」
P「もしかしたら、その程度では済まないかもな。しっかりつかまっててくれ」
貴音「わ、分かりました…」
響「……」
P(…この車がツーシーターじゃなかったのは不幸中の幸いだな)
P「貴音、響を頼む」
貴音「はい!」
響兄「……」
響兄(もう時間が…)
「……に! …-にっ!」
響兄「…!」
響「にーに!」
響兄「響!」
響「はぁっ…にーに、自分!」
響兄「説明は後だ! 急ぐぞ!」
響「うん!」
貴音「…あの飛行機でしょうか」
P「ああ、おそらくな」
貴音「それにしても…真、貴重な体験をさせていただきました」
P「俺だって初めてだよ、あんな速度でぶっ飛ばしたの。よくもまあ、警察に見つからなかったもんだ」
貴音「速すぎて見えなかったのでは?」
P「そんな馬鹿な。でも、途中曲がりきれなくて軽くこすったな。うわ、塗装ぼろぼろじゃないか…これは値が落ちるだろうな~」
貴音「あの…今まで、お疲れ様でした」
P「……ああ、そうか」
P「もう、これで…君達をプロデュースすることもなくなるのか」
貴音「……」
P「不甲斐ないプロデューサーで本当に済まなかった。あんな大口を叩いておきながら、結局デビューすらさせられなかったな」
P「…せめて君達にはステージの光を見て欲しかった」
貴音「プロデューサー…」
P「いや、これは言い間違いだ。君達はこれからも961プロでアイドルを続けるんだ、ステージに上がれる日はきっと来る」
P「俺は…その光を浴びる君達を一番近いところから眺めたかったんだ」
P「テレビの前や客席からじゃなく、君達のプロデューサーとして」
貴音「……」
P「正直、君達にはまだまだ教えることがたくさんある。でも、俺にはその資格がない。だからその先は君たち自身で学んでいくんだ」
P「そして、成長した姿をうんと遠くで見てる俺に見せてくれたら」
P「それ以上の幸せはない」
P「頼んだぞ、未来のトップアイドル」
貴音「…何を言っているのですか?」
P「え?」
貴音「先ほどから、資格がないだの遠くで見ているだの」
貴音「勘違いも甚だしいです」
P「じゃあ、さっきのお疲れさまは」
貴音「一区切りがついた、ということでの発言です」
P「…だが、もう俺は君達のプロデューサーには」
貴音「それは961ぷろでの話でしょう?」
P「……まさか」
貴音「私は、いえ、私達はぷろだくしょんを辞めます。響もきっとそう言うでしょう」
P「何を言っているんだ、アイドルを続けていく上であそこ以上の環境は…」
貴音「私達が、そんな理由であそこにとどまり続けると思いますか?」
貴音「そういう問題ではないのです。あの場所から移る理由に、そして、私達がアイドルを続ける理由には」
貴音「すでに含まれているのですよ、あなた様の存在が」
P「……」
貴音「それがどんな茨の道になろうとも、私達はあなた様と離れる選択肢はありません」
貴音「響、あなた様、そして私は家族なのです」
P「…厳しい未来が待ってるぞ」
貴音「ええ、承知しています」
P「もしかしたらアイドルとして日の目を浴びることは一生ないかもしれない。それほどのギャンブルだ」
貴音「望むところです」
P「黒井さんからの妨害も入ってくるだろう。売れていくならなおさらだ」
貴音「そのようなもの、全てはねのけて見せます」
P「…本当に、俺なんかについてきてくれるのか」
貴音「あなた様、だからですよ」
P「……」
P「まったく…本当に、厄介なアイドルを担当させられたもんだ」
P「四条さん、今…「貴音」
貴音「…これからは、そう呼んでくださいませ」
P「…わかったよ」
P「貴音、今まで本当にお疲れ様」
P「そして、改めてよろしくな」
P「必ず俺がトップアイドルに導いてみせる」
貴音「…はい!」
P「よし! ラーメンでも食いに行くか!」
貴音「それと、響のことも帰ってきてからは名前で呼んであげて下さい。きっと、喜びますから」
P「…わかったよ」
P「貴音、今まで本当にお疲れ様」
P「そして、改めてよろしくな」
P「必ず俺がトップアイドルに導いてみせる」
貴音「…はい!」
P「よし! ラーメンでも食いに行くか!」
アテンションプリーズ…
響兄「……」
響「……」
響兄「……すーは…ずっと後悔してたよ」
響「!……」
響兄「響が島を出ていく頃、よく咳きこんでたのを覚えてるか?」
響兄「あの時、すーは自分の体の異変に気付いてた。もしかしたら長くないかもってのも感じてたらしい」
響兄「だから、残り少ない時間を響と過ごしたかったんだって」
響「そう…だったんだ」
響兄「…馬鹿だよな。それなら、そうと言えばいいのに」
響兄「きっと、俺達のことを心配させまいと必死だったんだろう。他の人を悲しませるくらいなら、自分が無理して笑顔を咲かせる人だから」
響兄「だからこそ、お前の笑顔を曇らせたことをずっと後悔してた」
響兄「俺が家を出る直前、悲しそうな顔でそう言ってたよ」
響「そんなの…そんなの、自分だって…」
響「自分だって、すーのことだってそうだし、にーにに、島の皆にも連絡一つ寄越さないで…」
響兄「…響、吐きだしていいんだぞ」
響「うぐ…、じ、自分な…」
響「ずっと、ずっと、皆に会いたかったんだ…ひぐっ…でも、自分がこっちで寂しい思いしてるって分かったら、きっと皆心配するから」
響「にーにの声なんて聞いたら絶対に弱さを見せちゃうから…」
響兄「だから、連絡を取ろうとしなかったのか…」
響「つまらない意地張ってごめんっ…! うぅ!」
響「うぇええええん…無視してごめんな、にーにぃ…」
響「無理やり島を出てごめんな、すうぅぅ…」
響兄「……ふっ」
響兄「やっぱり、響は父親似なんだな…」
~~~
『ご搭乗ありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい…』
響「……」
響「……あ」
P「よ」
貴音「お帰りなさい、響」
P「結構滞在長かったんだな」
響「うん…すーの体が予想よりも持ってくれたんだ」
響「…でも、やっぱり、電話で言ったように最後はあっさり死んじゃった」
P「そうか…」
響「二人はどうしてたの? 961プロは辞めたんでしょ?」
P「ちょっと、探し物をな」
響「探し物?」
P「ああ、ちょうどこの先で見つけたんだ」
P「ここは止めても大丈夫だよな。さ、二人とも降りてくれ」バタン
響「…ここって」
P「765プロダクションって言うんだ」
貴音「私とプロデューサーは活動の場をここに移したいと思っています」
P「本当は他にも候補はあったんだ。だけど、どこもかしこも黒井さんの手が回っていてな、結局受け入れてくれたのはここの社長だけだった」
響「……」
P「はっきり言って、プロダクションとしての力は無いに等しい。961プロに比べるまでもなくな」
貴音「ですが、私達はそれでも構わないと思っています。活動できる場があるだけでもありがたいですから」
P「で、そこで提案なんだが…」
貴音「響も一緒にいかがでしょうか」
響「……」
P「もちろん、黒井さんには事情を話してあるから、まだ961プロで続けるっていう選択肢もある。冷静に考えるなら、俺達の話に乗る必要は無い」
P「もしかしたら、アイドルを辞めるっていう考えも中にはあるだろう」
P「これはただの勧誘に過ぎない。だから、自分自身で納得のいく答えを俺達に出せばいい」
響「……」
響「……自分な、本当はアイドル辞めるつもりだった。それで島に帰ってこようって考えてたんだ」
響「で、最後、すーの意識が残っていた夜。そのことを二人っきりで話した」
響「意識が残ってるって言っても、喋ることなんて出来ないし、正直何考えてるのか分からない」
響「だから、確証はまったくないんだけど」
響「そう話した時、すーが何だか苦しそうに見えた」
響「もちろん、それは体のどこかに痛みが走っただけかもしれない。でも、自分にはそうは思えなくて」
響「すーが、自分がアイドルを辞めるのを自身の責任に感じているんじゃないかって思えたんだ」
響「だから、すーのそんな顔を見たくなくて。とっさに、やっぱりアイドルを続ける、島の皆が自慢できるようなアイドルになるって言ったら」
響「…なんだか、少しだけ笑ったように見えたんだ」
P「……」
貴音「響…」
響「でも、きっと、そうでなくても自分は戻ってきたと思う」
響「もちろん、きっかけはさっき言った通りだけど」
響「自分にとって二人はアイドルをする理由そのものだったから」
響「自分のこっちでの家族と言ってもいい存在だったから」
響「そんな二人をこっちに放っておくことなんか出来なかったと思う」
響「…自分、961プロは辞める。でも、アイドルを辞める気は無い」
響「そうなったら、答えは一つしかないよな!」
響「二人とも、いっぱい迷惑かけてごめん! それにきっとこれからもっと迷惑をかけるかもしれないけど…」
響「自分とまた、一緒に過ごしてくれますか…?」
P「……ふっ」
貴音「ふふっ…そんなこと、決まっているでしょう」
P「今まで本当にお疲れ様。そして」
P「これからもよろしくな、響」
弾切れです
残りはエピローグだけなので出来るだけ早く、出来れば今日中に終わらせます
~エピローグ的な何か~
春香「えー! じゃあ、プロデューサーさんって今と昔では全然違うの!?」
響「そうだぞ~。自分、初めて会った時は上手くやってけるか不安だったもん」
雪歩「昔のプロデューサーはどんな人だったの?」
響「そうだな、簡単に言うと、性格が悪くてひねくれ者でぶっきらぼうで無愛想の揚げ足取りだぞ」
真「今の優しいプロデューサーからは全く想像つかないんだけど…」
雪歩「そ、そんなプロデューサーだったら、だめだめな私は見捨てられちゃいますぅ~」
響「あー、でも」
響「昔も今も、自分達アイドルをすごく大事にしてくれてたのは変わらないぞ!」
貴音「明日は何の日かわかりますか?」
P「もちろん、わかってるさ」
P「響の誕生日だろう?」
貴音「ふふっ…あなた様には愚問でしたね」
貴音「贈り物は用意しているのですか?」
P「ああ、特別喜ぶプレゼントをな。あ、一つ確認しておきたいんだが…」
貴音「あなた様」
P「どうした? 貴音」
貴音「明日は何の日かわかりますか?」
P「もちろん、わかってるさ」
P「響の誕生日だろう?」
貴音「ふふっ…あなた様には愚問でしたね」
貴音「贈り物は用意しているのですか?」
P「ああ、特別喜ぶプレゼントをな。あ、一つ確認しておきたいんだが…」
~~~
響「うぇ~ん、皆が自分にこんなにプレゼントをくれたぞ~」
P「良かったな、響。泣くほど嬉しかったのか」
響「だって、だって自分、皆に誕生日なんて教えたことないし…」
P「そりゃあ、俺や小鳥さんに聞けば一発でわかるからなあ」
響「…も、もしかして、プロデューサーも」
P「もちろんさ。はいこれ」
響「これは…CD?」
P「聞いてみるか?」
~♪
響「…これって」
P「苦労したよ。黒井さんから版権を買い取るの」
P「ずっと、歌いたがってたよな。この曲」
響「だ、だって、これは…」
響「初めてプロデューサーと練習した曲だもん…」
P「残念ながら、響のデビュー曲にはなれなかったがな。でも、今プロジェクトしてる『フェアリー』のデビュー曲にするつもりだ。嫌だったら、貴音とデュエットでもいいが」
響「…ううん、この曲はフェアリーにぴったりだ。むしろ、美希が最後のピースだった気がするぞ」
P「うん、俺も同じこと考えてた」
響「ってことは、自分への誕生日もあるし、プロデューサーはフェアリーのデビュー曲として、どうしても手に入れたかったから、そんなに苦労してまで」
P「まあ、そんなところだ。でも一つだけ違うところがある」
P「ものすごく苦労してまでこの曲を手に入れたのは、響の誕生日もあるし、フェアリーに使いたかったのもある。でも、一番の理由は」
P「この曲を響が歌っているところをどうしても見たかったんだ」
響「……」
~~~
P『この曲は響のルーツだ。あれからしばらくの時間が経って成長した響が、この曲をどう歌い、表現するのかどうしても見たくなってな』
P『リリースは3週間後。収録はその1週間前かな。つまり猶予は2週間だ』
P『ちなみに、美希にはしばらく前からレッスンさせてる。3人で合わせるのはこれからだけど』
P『あれだけ気に入ってた曲だ。振り付けは完璧だろう? 事実、貴音もそうだったし』
P『となると、残った時間で何をすべきかわかるな?』
P『期待してるぞ、響』
~~~
響「う~む…」
美希「悩んでるね、響。どうしたの?」
響「いや、歌のことでちょっとな…」
美希「何を悩むことがあるの?」
響「いや、その、なんというか…歌い方が分からなくて」
美希「? そんなの、普通に歌えばいいだけなの」
響「そ、そうなんだけど、なんかこう、イメージが湧かなくて」
美希「イメージ…美希よくわかんないけど、前は歌えたんでしょ、この曲」
響「…うん、まあ、完璧にな」
美希「なら、それと同じように歌えばいいんじゃないの?」
響「…いや、駄目だぞ」
響(あの時の歌い方は…ベストじゃない)
響(心を空っぽにした状態で歌ってたから、ある意味あの曲を表現出来てはいたけど)
響(多分、二度とあの境地には辿り着けないし、そんな歌をプロデューサーに二度と聴かせたくないぞ…)
美希「まあ、響がこの曲について色々考えているのはわかるの。すごく大事な曲なんだよね、ハニーが言ってたの」
響「うん…」
美希「ハニーに、絶対に響が誕生日迎えるまでは言うな、って念を押されまくったの。ちょっとだけ嫉妬しちゃったな」
響「…なあ、美希」
美希「なーに?」
響「美希は…キスしたことはあるか?」
美希「ないけど、それがどうしたの?」
響「いや、経験もないのに、どういう気持ちでこの歌を歌ってるのかな、て」
美希「気持ち? そんなの、ハニーへの愛に決まってるの!」
響(まあ、そうだよなあ…)
美希「美希はもし、ハニーとキスをしたらこんな感じなんだろうな~って考えながら歌ってるの」
美希「どんなシチュエーションなのか、ハニーからキスするのか、それとも美希からするのか、そんなことを考えただけでぞくぞくするの!」
響(だからこその、あの貪欲な表現なのか…)
響(なんていうか、美希は渇いた喉を必死に潤すような歌い方な気がする)
美希「響はどんな気持ちで歌ってるの?」
響「自分は…自分の大好きな人を思い浮かべて」
美希「え!? なになに!? 響って好きな人いるの!?」
響「ち、違うって! 恋愛感情とかじゃなくて、その、島の家族のこととか」
美希「なーんだ、そうなの」
響「…でも、何だか間違ってる気がするんだ。ある程度までは上手く表現できる。けど、まだ完全じゃない気がする」
響「やっぱり、恋愛感情じゃなきゃ表現しきれないのかな?」
美希「ん~、駄目ってことは無いと思うの。貴音だって、誰かに恋してるわけじゃないと思うし」
響「だよなあ…」
美希「でも…」
響「……」
貴音「響、どうしたのです?」
響「…どうしてだろうな?」
貴音「何がですか?」
響「うー…余計こんがらがったぞ~」
貴音「返答になっていませんよ。何があったんです?」
響「歌のことで美希に相談した時にな…」
貴音「…なるほど」
響「それだったら、美希の言う通りなのかもしれないけど、自分にはそんな人はいないし…」
貴音「……」
響「…何で黙って微笑んでるんだ?」
貴音「いえ、響はとても可愛らしいな、と思いまして」
響「こんな時にからかわないでくれよ…」
貴音「からかったわけではないのです。ただ純粋に苦悩する響がとても可愛らしくて、つい」
響「はあ…笑いごとじゃないのに」
貴音「そうですね、確かに美希の言うことは正しいかもしれません」
響「そうなのかな…でも、自分にそんな気持ちがあったらとっくに気付いてるだろ? やっぱり、違うぞ」
貴音「……」
響「…だから、なんで自分のことを見ながらそんな目をするんだ」
貴音「まあ、それは別として、他の人から見れば響の歌は完成してると思います。それは私の目から見ても明らか」
響「でも、自分は」
貴音「納得いかない、そうでしょう?」
響「う、うん」
貴音「それはつまり、響にしか知りえない境地ということです。つまり…」
響「つまり…?」
貴音「響の心の中にしか答えはありません。私から言えることは何もありませんよ」
響「自分の…心」
貴音「もう一度、心の中を整理してみたらどうです? 今まであったことをゆっくり一つずつ思い出してみて」
貴音「おそらく、その中にはきっと…」
響「……」
P「お、響じゃないか。どうしたんだ、屋上なんかで」
響「うん…考え事」
P「そうだろうな。まだまだ、時間はかかりそうか?」
響「わかんないぞ」
P「ま、時間はたっぷりある。長引くようだったら、収録をずらすことも可能だ。前回とは違って時間制限はない。思う存分、頭を悩ませていいぞ」
P「それに俺は響が納得いくまで付き合うつもりさ。俺に出来ることがあったら、何でも言ってくれ」
響「…なんでも?」
P「ああ、なんでもだ」
響「……」
響(もしかして…)
P「響?」
響「…貴音に言われて…考えてたんだ」
P「何をだ?」
響「それは…」
響(わからないけど…でも、もしかしたら…)
美希『響がもし誰かに恋をしてるなら、そっちが正解なんじゃないかな?』
貴音『今現在の自分の心を動かしている誰かが、響が誰よりも大切に想っている方がいるはずです』
貴音『美希が言う『正解』はその方なんじゃないでしょうか』
響(この気持ちが恋だなんて思った事は無いけど)
響(でも、確かにずっと感じてた)
響(いつしか、自分の心の中にはいつもプロデューサーがいて)
響(それは961プロにいた時からで)
響(あの時にも歌には何かが足りないと感じていた)
響「ぷ、プロデューサーは…」
P「ん?」
響(もしかしたら…いや、きっとあの時から)
響「プロデューサーは…」
響「自分と…キスしたい?」
P「……」
響「うぅ…なんか言ってよ…」
P「…なんというか、すごく困る質問をしてくるな」
響「ごめん…」
P「…響は俺とキスしたいのか?」
響「うえええ!?」
P「どうなんだ?」
響「し、質問してるのは自分だぞ! 質問返しは駄目だぞ!」
P「いきなり、そんなことを言われた俺の気持ちにもなれ。すごく困るだろう?」
響「う、うぅ…確かに困るぞ…」
P「響がしっかり答えることが出来たら、俺もちゃんと答えるよ」
響「……」
P「……」
響「じ、自分は…」
響「してみたい…んだと思う」
P「…また、微妙に引っ掛かる答えだな」
響「…気持ちが、分からないんだ」
P「気持ち?」
響「自分がプロデューサーのことをどう思っているのか分からないんだ…」
響「でも、信頼とかそういう類の気持ちではなくて」
響「ただ、プロデューサーのことを考えるとドキドキして」
響「それこそ、プロデューサーのこと思いながらあの歌を歌うと、落ち着きがなくなる」
響「それが本当に、プロデューサーのことを好きだっていうことなのか」
響「確かめるために、自分はプロデューサーとキスしてみたい」
響「……んだと思う」
P「……」
響「うう…」
P「……馬鹿だな、響は」
響「ば、馬鹿だよな! ほんと馬鹿だ、自分! そんなの勘違いに」
P「要するに、響は俺のことが好きなんだろ?」
響「う……」
P「なのに、わざわざ遠回しにするよう言って」
P「とっくに気付いてる癖に、あくまで、本当の気持ちを悟られないように」
P「でも、それもバレバレで」
P「本当に不器用なやつだな」
響「あ、あんま、言わないでよ…恥ずかしいぞ」
P「……」
P「俺もしたいよ、響と」
響「ふぇっ…」
P「俺も響とキスしてみたい」
響「…それはただ単に、自分が女の子だから?」
P「どういう意味だ?」
響「春香に同じこと言われたら?」
P「しないよ」
響「美希に同じこと言われたら?」
P「しないさ」
響「雪歩に同じこと言われたら?」
P「しないって」
響「…じゃあ、自分がしたいって言ったら」
P「したくなるな」
響「……そっ」
響「そそそそそそそそそれって!!!」
P「まあ、しないけど」
響「……えっ」
P「当たり前だろう、響はアイドルだし俺はプロデューサーだ」
響「……」
響(そ、そういえばそうだった…)
P「…その顔、考えてなかっただろ」
響「ちゃ、ちゃんと考えてたぞ! うん!」
P「なおさら馬鹿だ。立場わかっといて、そんなこと言うなっつの」
響「うっ…」
P「…まあ、俺も馬鹿だけどな」
響「え、何が?」
P「響の気持ちに答えたこと」
響「……」
P「さすがに、そこまで鈍感じゃないだろう?」
響「……」
P「…まさか、キスをするってことに囚われて気付かなかったわけじゃあるまいな」
響「えっと…」
P「うっそだろお前」
響「だ、だって、しょうがないじゃないか! 自分、まさかプロデューサーもそう思ってるだなんて…」
P「だからって、なあ…響自身も今言ってるじゃないか」
響「言ってる?」
P「俺もまさか響とキスしたいとは思わなかったんだろう?」
響「う、うん」
P「でも、実際は?」
響「したいんだろ? しないけど」
P「響は好きでもない男とキスしたりするのか? 意外だな」
響「そ、そんなことするわけ…」
響「……」
P「やっと気づいたようだな」
響「……うっ」
響「うええええええええええええええええええええええ!!!!!!??????」
P「はあ…俺もそれなりに覚悟を決めて言ったのに…悲しいぞ、響」
響「だ、だって、まさか…ええええええ!?」
P「いいか、今度ははっきり言うぞ」
P「俺も響のことが好きだ」
響「…本当か?」
P「ああ、本当さ」
響「な、なんで自分なんか…」
P「…俺のプロデュースを変えてくれたのは響だから」
響「え?」
響「え?」
P「覚えてるかな、知り合ったころに俺を無理やり食事に誘ってくれて」
P「嫌々付き合っている俺にも響は太陽みたいな笑顔を俺に見せてくれて」
P「嬉しそうに俺の悪口を言ってた響は」
P「すごく眩しく見えた」
P「いつしかその眩しさに目が眩むことはなくなって」
P「その代わりに、憧れるようになって」
P「俺にとって、太陽は必要不可欠なものに変わっていった」
P「もし、あの時響が俺に声をかけてくれなかったら、きっと今の俺はないだろうし」
P「こんな気持ちを知ることもなかっただろう」
響「……」
P「貴音にも感謝しなきゃな。こうして、俺達が惹かれあったのは、貴音が俺達を繋ぎとめていたおかげだろうから」
響「うん…」
P「…なあ、響」
響「なに?」
P「今はまだ早すぎるけど」
P「これからのアイドル人生で一区切りついた時、その時は」
P「俺とキスしてくれ」
響「……」
P「何十回も」
P「息が出来ないくらい」
P「死んでもいいと思えるくらい」
P「響とキスしてみたいんだ」
響「…でも、そこには愛があるし」
P「ああ、指輪だって輝いてない」
響「なんか…ファーストキスにしては難しいな…」
P「響にとってはな」
響「むぅ~、プロデューサーは初めてじゃないんだよなぁ…」
P「それがどうしたんだ?」
響「なんか、嫌だぞ」
P「そうか?」
響「だって、自分の初めてはプロデューサーが奪うのに」
響「プロデューサーの初めても自分が奪いたいぞ…」
P「あんまり関係ないと思うぞ?」
P「だって、俺は響と初めてキスするんだから」
響「あっ…」
P「だろ?」
響「……うん」///
P「さ、すっきりしたことだし、そろそろレッスンに向かうか」
響「うん! ねえ、プロデューサー。自分、一つ気付いたことがあるんだ!」
P「何がだ?」
響「プロデューサーは人から好きって言われるのと、愛してるって言われるのではどっちがいい?」
P「うーん、そうだな…」
P「好き、かな」
P「もちろん、愛してるって言われるのも嬉しいが、それだと見守られてたり包み込まれてるって感じがするな」
P「好きって言われるのはそのままストレートに感情を表してくれている気がする」
響「この歌はね、『愛してる』とは言っていても『好き』とは言っていないんだ」
P「そう言えば…そう、なのか。でも、確かに聞かないな…」
響「ところがね、実は言ってるんだぞ」
響「『キス、キス、キス』って部分に」
響「キ『スキ』スって」
P「へぇ、なるほどな」
響「あはは、何だか、さっきの自分みたいだね」
P「確かにな、キスって言葉に囚われて肝心の気持ちを見逃すなんてそっくりだ」
響「だから、自分はプロデューサーが見逃すことがないようにちゃんと言うぞ!」
響「大好きだぞ! プロデューサー!」
おわり
くぅ疲
ひびたかSSっつーか響SSになったね
響誕までに間に合わせたかったけど、無理ゲーでした
とりあえず>>2で言ってた大きな改変は美希が961プロにいないことと響の親父さんが生きてたことです(結局死んだけど)
美希はともかく、響の親父さんが生きてるって設定は初期設定を大きく変えてるけど、他にそういう二次創作をみたことあるからセーフかなって思って書いてました
曲っていうのはもちろんオバマスに収録されてる「KisS」です
アイマスあんま知らない人はおそらく知らない曲だけど、自分としては5本の指に入るくらいの名曲だと思う
是非聞いてみて下さい
後は曲の版権を黒井さんから買い取る為にPが単身961プロに乗り込む時の妄想なんかもあるけどとりあえず休憩しようかな、と
要望あったら書きますんで、見たかったら
テレビ『今日はこの方達に来ていただきました!』
テレビ『今、人気急上昇中アイドル、ジュピターの三人です!』
響「うげ、961プロのアイドルじゃないか」
真「最近よく出るねー」
やよい「そういえばこの前、廊下ですれ違いましたー」
春香「なんというか、ちょっと威圧的っていうか気が強かったね」
響「…なあ、プロデューサー」
P「ん、どうした?」
響「もしかして、こいつらも自分達と同じように…」
P「…まあ、そりゃあ、そうだろう。結果を出せてなきゃ、今頃アイドルを続けていることはないな」
響「…そうだよな。やっぱり、黒井はひどいやつだぞ」
春香「黒井、って誰?」
響「961プロの社長。昔の自分達の社長だぞ」
響「そいつが、ひどいやつでな…」
P「……」
~~~
コンコン
「客人をお連れいたしました」
黒井「入れ」
「失礼します」
P「失礼します」
黒井「お前は外していいぞ。二人きりにしてくれ」
~~~
コンコン
「客人をお連れいたしました」
黒井「入れ」
「失礼します」
P「失礼します」
黒井「お前は外していいぞ。二人きりにしてくれ」
「かしこまりました」パタン
P「お久しぶりです、黒井さん。ようやくお会いできましたね」
黒井「私は会いたくなかったがな」
P「ならば何故、面会を許可したんです?」
黒井「君があまりにもしつこいからだ。いちいち対応する私の身にもなってくれ」
P「ならば、俺からの連絡は全て黒井さんに回さず、拒否するよう指示を出せばいいだけの話じゃないですか」
黒井「…とにかく、あの曲は渡さん。たとえ、いくら金を積んでもな。わかったら帰れ」
P「金の問題ではないからこそ、俺はこうして黒井さんに会いに来たんです。何もせずには引き返せませんよ」
黒井「……」
P「本当は気付いているんでしょう?」
P「あの曲は彼女達にしか歌いこなせない。それほど能力を要する曲であり」
P「黒井さんも彼女達の潜在能力を信じて作った曲だ」
黒井「……」
P「あんな原石、次はいつ来るかわかりませんよ。それに仮に原石が入ってきたところで」
P「あの曲はただのダイヤでは歌えないんです」
黒井「ならば、その時はその時だ。あの曲は私が生きているうちは世に出ることはない」
P「いえ、それも無理ですね。あなたは必ずあの曲を俺に渡すことになる」
黒井「馬鹿馬鹿しい、何の根拠が」
P「黒井さんも根っこの部分では俺と変わりませんから」
黒井「……」
P「いくら悪だくみをしようが、アイドルを駒呼ばわりしようが、ブレイクすることのないアイドルを切り捨てようが」
P「あなたが本当に望んでいるものはアイドルがステージで輝くことだ」
黒井「……だまれ」
P「見るに堪えませんよ、今のあなたの姿」
黒井「…だまれ」
P「くだらない意地を張って、いたずらにアイドル達を傷つけて」
黒井「だまれ」
P「いい加減、素直に」
黒井「黙れと言ってるんだ!」
P「……」
黒井「…馬鹿なことを言うな。そんなことに何の意味がある…!」
黒井「貴様みたいな小僧にわかるか…。自分の才能を信じてきた者が現実に打ちのめされる姿を」
黒井「そして、そんなアイドル達をくだらん情が最も不幸な道に追いやるのを!」
黒井「期待を裏切れないという者、自分の居場所だと勘違いした者、馬鹿馬鹿しい感情を抱いた者もいた」
黒井「そうやって、引き際を間違えた者たちがどんな末路をたどるか貴様にわかるのか!」
P「……」
黒井「中途半端では駄目なのだ。この世界を勝ち抜ける強い精神力、体力、そして才能を持っているからこそ、この世界で輝くことが出来る」
黒井「どれか一つでも欠ける、それはアイドルになる資格は無いということ」
黒井「未練なく、希望を断ち切るのも私の仕事だ」
P「…同時に、選ばれたアイドルの為には自分の手をいくら汚そうが成功への道筋を作ってやるのも仕事、というわけですか」
黒井「……」
P「不器用な人ですね、あなたは」
P「アイドルになる資格なんて誰にでもある、俺はそう思いますよ」
P「どんなに小さな輝きでも、その輝きを大きくしたいと本人が願うなら」
P「光り輝く宝石にすることは不可能ではないと思っています」
黒井「…やはり貴様は愚者に過ぎなかったな」
黒井「いつか分かる時が来る。その時に同じことを言ってられるかな」
P「分からないでしょうね。俺の目に映るアイドルはどんな原石も輝かせて見せますから」
黒井「ふん、やはり、貴様にはあの馬鹿の事務所がお似合いだ」
P「だからこそ、765プロ以外の事務所に根回ししてくれたんでしょう?」
黒井「……」
P「俺のプロデュースが、そして彼女達が最も輝くことが出来るのが、高木社長の下であるとわかっていて」
P「それだけじゃない、限界を知ってアイドルを辞めることになった人にだってあなたは…」
黒井「うるさい! 勝手な憶測で知った風な口を利くな!」
P「…本当に、不器用な人ですね、あなたは」
黒井「……興が冷めた。曲は好きにしろ」
P「ありがとうございます」
黒井「…見せてみるがいい」
黒井「高木が、そして貴様がいつまでそんな甘ったれたことを言っていられるのか」
黒井「貴様たちが果たしてどのような末路をたどるのかを」
黒井「私はこの高級ビルの最上階から見下ろしているとしよう」
P「…臨むところです」
P「すぐに追いついて見せますよ」
~~~
P「…まあ、あの人には感謝してる人も多いんだよ」
響「え、そうなのか?」
P「ああ見えて、いろいろ世話をしてくれる人だから」
P「特に惜しくも夢を叶えることが出来なかった人にはな」
響「どういうことだ?」
P「まあ、その内わかるさ」
P「あの人にはあの人なりに考え抜いた結果が今の姿なんだ」
P「アイドルのことを大事に思うからこそ、いや、大事に思いすぎたからこそなんだろうな」
P「なんてことはない、プロダクションの社長って殻を外せば、あの人もただのアイドル好きのおっさんなんだよ」
響「…そうなんだ。なんか、自分ちょっと誤解してたんだな」
P「しょうがないさ、あっちから誤解をさせてるんだから」
響「…自分と貴音の活躍も見てくれてたりするのかな?」
P「きっと見てるよ。死んでも口には出さないけどな」
響「そっか。仮にも2カ月と少しお世話になったんだし、お礼はしなきゃな!」
響「自分達を手放したことをうんと後悔させてやるぞ!」
P「そうだな、それが最高の恩返しだ」
Rrrrrr…ガチャ
黒井「なんだ」
「黒井様。お電話です」
黒井「誰からだ」
「名前は明かそうとしませんが、声を聞かせればわかると…お断りしますか?」
黒井「…つないでくれ」
「わかりました」
「ん? つながってるのかい? おーい、聞こえるか」
黒井「…貴様か。何の用だ」
「世間話でもどうかと思ってね」
黒井「切るぞ」
「相変わらずだな、もう少し心に余裕をもったらどうだ?」
黒井「平和ボケした貴様に言われる筋合いなどない」
「トゲのある言い方も変わらないな。お互いにいい歳なんだ、もう少し穏やかにだな…」
黒井「さっさと用件を言え」
「…なに、先日彼が世話になったそうだからね、一言言おうと思ってただけだよ」
黒井「要らぬ世話だ。他にないなら切るぞ。私は忙しいんだ」
「あー、待ってくれ、後もう一つ彼から伝えて欲しいと言われていたことがあってね」
黒井「なんだ?」
「ついに完成したそうだよ。例の曲」
黒井「…そうか」
「お前んとこのジュピターが出るフェスが5日後にあるんだって? そこでの対決がてらに新曲発表するらしいぞ」
黒井「なに!? やつらがエントリーしてるなんて話は聞いてないぞ! しかも対決だと!?」
「はっはっは! 彼が来てから、うちも色々と動けるようになってね。と言っても、今回のはだいぶ苦労したみたいだが」
黒井「ふ、ふざけるな! そんなことしたら…」
「君の可愛いアイドルが負けると言うのかい? 君にしては随分弱気じゃないか」
黒井「ぐっ…ない! そんなことがあるわけがない!」
「まあ、そっちも今まで色々とちょっかいを出してきたんだ。多少のことには目をつぶってもらおう」
黒井「ちぃ! 用件はそれだけだな! 切るぞ!」
「ああ、まだもう一つあった」
黒井「なんだ!?」
「曲のお礼はステージで」
「ジュピターを倒して返す、だそうだよ」
黒井「……」
「どんな結末が待っているのだろうな。実に楽しみだ」
「では、また何かあったら連絡するな。それじゃあ」ガチャ
黒井「……馬鹿が」
黒井「それはどう考えても礼にはならんだろう」
黒井「……」
黒井「…やはり、礼にはならんな」
黒井「そんなことは当然過ぎて礼にも及ばんレベルにすぎん」
おわれ
番外編蛇足すぎワロス
妄想垂れ流しただけなんで勘弁して下さい
このSSまとめへのコメント
なんだろう。このpは他の感動系のpと違って
すごく気持ち悪い感じがする。