美希「失くした1/2」 (19)



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携帯電話の画面に水滴が落ちてきた。
雨が降っているわけではない。
空は晴れている。

画面に落ちる水滴は、ひとつふたつ、と数を増して行った。

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わけもなく空を見上げていた。
視界に入り込んでくる雲が少しだけぼやける。

だけど、太陽の光がすぐにそれを乾かしてくれるって自分にそう言い聞かせていた。



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「どうしてこんな結果になってしまったんだろう」

遠く離れた場所で私たちは同じ言葉を呟いた。


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その日、社長が連れてきた女の子は髪が長くて、綺麗な顔をした子だった。

「おぉ、ちょうどいいところに。
我が事務所にアイドルが一人増えることになったよ」

アイドルとは言えまだまだ候補生だけれどね。
本当に嬉しそうに社長は笑っていた。

「再び765プロの名を、日本中に轟かせようじゃあないか!」

いつまでも変わらない理想と夢を持ち続ける社長を、おれは羨ましいと感じた。

おれは、もう夢を失くしてしまったから。

大切な半分を、失くしてしまったから。

「……まぁ、頑張って一日も早く候補生が取れることを祈ってるよ」

どうせ無理だろうけどね。


ここには世界を舞台にしているやつが居たんだ。
みんなそれに慣れちまってる。

だからこの子も保って半年かな?

「なーんか、期待はずれなの。 あの千早さんがいた事務所だから、もっとキラキラしてると思ったけど……ここ、つまんない場所だね」

だが、そいつはなんの臆面もなくそう言い切った。

「あふ……それで、あなたが千早さんの元プロデューサーって聞いたけど、あなたが一番キラキラしてないね」

なんの興味も無いかのように、まるで道端に落ちてるゴミでもみるかのような目つきで言った。

「ガッカリなの」

最後にポロリとこぼれたその言葉に、

『失望しました』

記憶の箱が、暴れだした。


『あなたが……いてくれたら、それだけでいいのに』

『もう、いいです。 わかりました。 結局、私は一人ぼっちになってしまうんですね』

『もう、やめます。
春香に……いえ、やっぱいいです』







『さようなら』






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「……っ!……あぁ、いや大丈夫ですよ」

どうやらおれはあのあとしばらく固まっていたらしい。
音無さんに肩を叩かれ、目の前からすでに社長と生意気な候補生が消えていることに気がついた。

「あまり、自分を責めないでくださいね?」

そうはいっても、今この事務所がこんな雰囲気なのは、おれのせいじゃないですか……。

「彼女、星井美希ちゃんって言うんですけど、二人とも一瞬で打ち解けてましたよ」

響・貴音のレッスンも終わってるってことは……一時間近くぼーっとしていたということである。

流石にもっと早く声をかけろよ、と思った。

「それで、あいつはどんな感じですか?」

765に入るのを考え直してくれていれば、おれとしては万々歳だ。
あの星井とかいうガキとはうまくやっていける自信がカケラもない。

「響ちゃんのダンスと、貴音ちゃんの歌にはしゃいでましたよ。
『なんで二人とも未だにデビューしてないのか意味わかんないの』って言ってました」

二人をデビューさせないのは、無駄だからだ。
あいつらは頃合いを見て、というかそろそろ961プロに引き渡すつもりだ。
今の765プロでは、響や貴音ほどの才能があってもそれを潰しかねないほどに資金がない。

資金があれば二人のアイドルとしての地位は一年もしないうちに盤石のものとなるはずなのだ。

「社長には悪いけど、おれはもう自分でアイドルをプロデュースすることはないと思います。
おれができるのは、そいつがどんなアイドルを目指せばいいかのアドバイスだけですから……」

そんなこと、ないと思いますよ。

そう言った音無さんの声には力がなく、何故かおれを責めているように聞こえた。


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「我那覇、四条お前らに話がある。飯食ったら屋上に来い」

星井との出会いから数週間後、おれは四条貴音と我那覇響を呼び出した。

二人が来るまで、缶コーヒーを片手にタバコをふかす。
遠くの空を見つめながら、煙が風に揺れて消える様に心を溶かしていた。

「話ってなんだ?」

五本ほど吸ったところで、ドアが開き響が不機嫌そうな声で現れた。

「響、そのような態度は失礼ですよ」

そうはいいつつも貴音の視線も氷のように冷たい。
正直ちょっと興奮するんだよな、こいつの敵意しかない表情。
おれって実はマゾなのかねぇ?

「お前らを961に売ることが決まった。
うちだと金がないからな。デビューさせても成功できるか微妙なんだ。
その点961なら資金はアホほどあるからお前らの実力なら成功間違いなしだ、おめでとう」

前置きが長いのは嫌いだから、核心だけをズバリと伝える。
政治家もおれのようにことの核心をズバッと言ってくれりゃいいのにな。

「それは……私たちにこの事務所から出ていけ、ということですか?」

おーおー、背景に炎が見えるぜ。
実は熱血な性格してるところも、おれは好きだよ?

「千早が出て行って、それを追って春香と真。
真を追って今度は雪歩が出て行って、今の自分らと同じようなこと言われて真美とやよいもいなくなったよね」

……それで?
真美とやよいはちゃんと成功してるじゃないか。

「本気でいっているのですか? あのような作った笑顔しかしてないというのに……それで成功してると? 本当にそう思っているのですか?
あの二人を961に渡して正解だった、と今でも思っているのですか?」

765の凸凹コンビは二人ともがおれに殺意に近い怒気を向けていた。

ここまで嫌われると笑えて来るな。

「おいおい、真美は亜美より売れてて、やよいもここにいた時の年収以上の月収稼いでるだろ?
これを成功と言わずなんというんだ?」

二人はアイドルが見せてはいけないような顔をし、さみしそうにため息をついて踵を返していった。

「……がんばれよ、お前らはトップに立てる器なんだからよ」

二人の消えたドアに向かって、誰も聞くことのない独り言をつぶやく。

響も貴音もこの事務所から消えれば、星井美希とやらもここに残るとは言い出さないだろう。

これで、いいんだ。


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「つーかーれーたー!」

事務処理をしていると、現在765プロ唯一となってしまったアイドルたちが帰ってきた。

「律子ぉ~さっさと明日の打ち合わせして今日はもう帰りましょう」

「そうですね、私も今回は疲れちゃいました」

秋月律子プロデュースの竜宮小町。
千早が出て行ったあと、この事務所を辛うじて運営させているユニットだ。

「明日は……伊織と亜美はオフ。あずささんはグラビアの撮影がありますから、午前九時には家を出れるようにしておいてください」

手帳を開きながら、三人に指示を出す律子。

「んー、明日あんたら事務所くる?」

少し考えたあと、オフを言い渡した二人にそう聞いた。

「ピヨちゃーん、明日ってピヨちゃん忙しいのー?」

「明日はそうでもないわよ。 書類も溜まってないし、竜宮の出た番組とかが溜まってきたからそれを整理するくらいかしらね」

音無さんの返事を聞くと、

「じゃあ、来ようかな、いおりんも来るよね?」

ニパっと笑い、竜宮小町のリーダーである水瀬伊織へ顔を向けた。

「そうね、やることもないし学校終わったら、寄るわよ」

ジトッとした目で亜美見つめた。

「あ、はは……やだなーいおりん! 亜美ももちろん学校終わったら、だYO!!」

律子と伊織の視線が、亜美へと突き刺さる。

「そ、そんな睨まなくたっていいっしょー! 」

「あはは、冗談よ冗談。 じゃあ明日くるなら明日以降の打ち合わせは明日やりましょう。
多分二人が学校終わる頃にはあずささんも撮影終わって事務所にみんな揃うしね。
それじゃあ、解散!」

じゃれあう四人をみていると、羨ましいような悔しいような気持ちになった。


~~~

翌日。
音無さんと無言で昼飯を食っていると、事務所の扉が勢いよく開かれた。

「ちょっと! 響と貴音がここからいなくなるってどういうことなの!」

入ってきたのは金色の毛虫だった。

「……お前には関係のないことだよ」

びっくりした拍子にこぼしたお茶を拭きながら、答える。

「関係なくないって思うな。 ミキは二人とユニット組んで、キラキラするってきめたんだもん」

「……お話にならん、帰ってどうぞ」

「うー……小鳥!」

恐らくおれに何をいっても無駄だと察したのだろう。
標的を音無さんに向けた。

「プロデューサーさんの言う通りよ。
この書類に社長が判を押せば、だけどね」

言いながら、音無さんは書類を星井に見せた。

「……じゃあ、社長を説得したらいいの?」

書類にさっと目を通すと、怒りは消えたようだった。
思ったよりも冷静で頭の良い子だったと認識を改めなくてはならないようだ。

「まぁ、無駄だと思うけどやってみなよ」

社長だっておれのやり方を納得してくれている。
だから、説得なんて無駄だ。

「……ふふーん、ミキを甘く見過ぎだって思うな。
説得なんてそんな面倒なことしなくても……」

星井はニヤリと笑うと、手に持つその書類をビリビリに破り捨てた。

「こうしちゃえばいいだけなの!
書類がないから、ハンコも押せないよね?
じゃあ、社長にそう伝えて来るの~!」

そのまま、星井は軽やかなステップで事務所を出て行った。


前言撤回だ。

やっぱり星井美希はただのバカだった。


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「おぉ、やっと来たかね」

「ふん、私を待たせるとはいい度胸をしているではないか、ポンコツプロデューサー」

その夜、社長に呼び出された店へ行くと、何故か黒井社長もいた。

「こんばんは、真美とやよいはどんな様子ですか?」

「つまらなそうな笑顔を貼り付けただの文字通り偶像となっている。
金は産んでいるからまだ置いてやるがそろそろ潮時だぞ」

相変わらず口は悪いが根はいい人だと思った。
おっさんのツンデレとか誰も得しないけどな。

「それで、今度は響ちゃんと貴音ちゃんをうちに回すと聞いたが?」

この人は自分が認めたアイドルのことは名字ではなく名前で呼ぶ。
このおっさんが「やよいちゃん」とか言ってんのを聞くと、犯罪臭が半端ない。

「はい、ですがデビューさせるのは半年待ってもらえますか?半年後には星井美希も二人と同じレベルにはなります。こいつらは、三人でデビューさせてやって欲しいんです」

黒井社長は苦々しい顔つきになった。
対して高木社長は楽しそうに笑っている。

……なんなんだ?

なんか、嫌な予感が……。

「そういうことだ、どうだね? 私の人を見る目は確かだろう?」

突然社長がそんな意味のわからないことを言い出す。

「うるさい、私だってこいつのことは多少なりとも認めているんだ。
貴様が優れているわけではない」

……き、きもちわるい。

「あ、あの……話が読めないんですが?」

「つまり、響ちゃん、貴音ちゃん、美希ちゃんは961では引き受けない、ということだ。
資金力のないしみったれた事務所でデビューさせるんだな」

…………。

………………は?

「ちょ、なにいってんすか? うちからデビューって……律子が過労死しますよ?」

「お前こそ何を言っているんだ。
765プロにはたった一枚のCDで世間を魅了した瑠璃色の歌姫を生み出したやつがいるではないか」

「そういうことだ。 我那覇くん、四条くん、星井くんのプロデューサーは君に任せようと思う。
これは、社長命令だよ」

入社して初めての社長命令は、最悪のものだった。


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「さて、どうなるかな?」

「私が知るか。 それよりもやよいちゃんと真美ちゃんのことだ。
二人ともそろそろ限界だぞ?」

「お前の方針は、孤高だからな。
彼女たちには辛いだろう」

「形だけの団結など、言葉だけの絆など無意味だからな。
孤高であるからこそ、人は強くなるのだ」

「否定はしないさ。
それに、幼い二人には酷かもしれないがこれは乗り越えて欲しい壁なのだよ」

「……二人を組ませようと思うのだが“雇い主として”どう思う?」

「ふふ、いいんじゃあないか? 」

「……なんだ、それは?」

「彼が作った企画書だよ」

「わんつー・ているず……相変わらず忌々しい奴だな」

「……お前には迷惑をかけるな。本当にありがたく思っているよ」

「やめろ、気色悪い。
これは私なりのケジメだ」

「……小鳥くんに対して、か?」

「そうだな。 私と貴様は一生小鳥ちゃんには償い続けねばならん」

「そう、だな……」


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頭が痛い。
胸がムカムカする。
腹の奥が熱い。

「……仕事、サボっちゃった」

小学生かっ!と自分をぶん殴りたくなる。

しかも、三人を呼び出しておいてのサボりだ。
今頃三人とも事務所で待ちぼうけを食らっているに違いない。

「あー、最悪。死にたい」

だが、どんな顔で会えばいいのか検討がつかない。

「……寝るか」

携帯の電源を切り、布団を頭からかぶる。
これでおれを邪魔するものはなにもない!

なんてことにはならないのが社会人ってやつなんですよね。


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「おーい! でてこーい!」

物凄い声量と扉を壊す勢いでぶっ叩く金髪毛虫の襲来により、おれのサボりはぶち壊された。
サボりがぶち壊されるって変な表現だね!

「……きったない部屋だな」

「真、ひどい部屋ですね」

「うわ、あり得ないくらい膨らんだペットボトルがあるのー」

近所迷惑なので、渋々開けると三人は遠慮なく入り込んで来た。
そしてこの言い草である。

「……なんのようだよ」

「こっちのセリフだぞ。 クビを言い渡されて、放置されて、また呼びつけられたと思ったら、呼びつけたやつがサボりって……舐めてるのか?」

「舐めていいのか?」

「死ねばいいのに……やっぱこんなやつと話しても意味ないさ貴音、美希、帰るぞ」

響のこの汚物を見るような目……貴音には敵わんな、ゴミめ。

「もう、響も素直になったらいいの。
本当は仲直りしたいんでしょ?」

……はい?

「……そんなわけないじゃん」

「ほんと、めんどっちぃの。
ねぇ、プロデューサー? ミキってバカだけど、バカじゃないんだよ?」

……やめろ。

「ミキは知ってるの。 プロデューサーが本当は、765プロのみんなを何よりも大切にしてて、千早さんを失くしたことを誰よりも悲しんでるって」

やめてくれ。

「響や貴音も本当は知ってるの。
ただ、こわいんだよね?」

やめてくれよ。

「でも、大丈夫だよ」

やっぱり、こいつはダメだ。

「ミキの夢は、みんなでキラキラすることだから」

こんなのとうまくやっていけるはずがない。

「ミキね、千早さんに憧れてるの。
765プロにいた時の千早さん、にね?
あとあと、昨日小鳥に見せてもらったんだ」

こっちの話をなんも聞かないやつと、うまくやっていけるはずない。

「会ったことないけど、春香や真くん。雪歩や真美ややよい。
みんなが揃ってた頃の765プロの映像。
そこに、ミキも入りたいなって……ミキも仲間にいれて欲しいなって思ったの」

もう、そんな765プロはないんだよ……。
おれが、壊しちゃったんだよ……。

「あは、ミキに任せろって感じなの!
竜宮小町とミキ達三人で、みんなを取り返す……はおかしいかな?
だって、みんなまだ“765プロの”アイドルだもんね!」

美希の言葉に、響と貴音はまるで豆が鳩鉄砲……いやいや、鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。


「ど、どういう……ことですか?」

「それ、本当なのか?」

「うん! 二人の移籍の書類も、移籍じゃなくて出向になってたの。
出向って、元の場所にいたまま他のところ行くことだよね?
千早さんたちや真美とやよいの書類もみたけど、みんな出向だったの!」

こいつは、本当にことごとくぶっ壊していくな。

「な、んで……なんでなんさー、プロデューサー!
どういうことなの? 千早が……千早に敵わない自分たちを、追い出そうとしてたんじゃ……」

はは、響はやっぱおバカだな。

「私たちは……見捨てられたわけでは……なかったのですか?」

貴音まで……そんなこと思ってたのか。

「そんなわけないって思うな!
ミキね、社長さんと賭けをしたの。
もしもプロデューサーさんがミキたちを三人でデビューさせてって黒井社長に頼んだら、ミキたちを出向させないでって」

そういうことだったのか……。

「それで、ミキは勝ったのー!
だから、今日からミキたちは同じユニットなの!
みんなの誤解を解いて、765プロオールスターライブをやりたいな!」

ピカピカとした笑顔で、星井美希はそう言った。

でも、おれには……できない。

おれは……。

「もう、いいかな」

「プロ、デューサー?」

「響、貴音、ごめんな。
おれさ、もう無理なんだよ。
星井の言う通りなんだ、こわいんだよ。
おれは、千早を傷つけた。千早だけじゃない。みんなを傷つけた」

千早のあの顔が頭から離れない。

「お前らが最後だったんだ。
千早が出て行って、春香がそれ追って行って。
真と雪歩もそれに続いて……」

だんだんなにをいっているのかわからなくなって来た。

「真美とやよいはさ、優しすぎるから……みんなで一緒にやってたら、霞んじゃうと思ったんだ。
だから、孤高を信条にしてる黒井社長に預けた。
みんなで、も大切だけど、それだけじゃダメって気づいて欲しくて」

もうやだ。おれなにいってんの?

「響と貴音はさ、二人だけじゃ何かが足りないって思ってたんだ。
いまデビューさせても、意味がないって」

「あは、やっぱ俊敏?プロデューサーなの! ミキを待ってたってことだよね?」

俊敏って……あってんだか間違ってんだか微妙なラインの間違いだな。


「そう、なのかもな。
これで、三人を黒井社長に預けたら……おまえらならスタートラインにさえちゃんと立たせればどこまでも走ってくれるって。
だから、ちゃんとしたスタートラインを準備するのが、おれの仕事なんだって……一緒には、もう走れないから」

一緒に走った結果が、千早の脱退だから。

どんどん進んで行く千早に、ついて行けなくなったおれだから。

「正直さ、歌のことやダンスのことなんかおれ細かくまでわかんねーんだよ。
千早に相談されるたびに、答えることができなくなっていって、こんなんおれなんかいなくても……」

支離滅裂になっていることはわかっている。
だけど、自分では止められなかった。

だから、

「プロデューサーは、大馬鹿者ですッ!」

思い切りビンタして止めてくれたこいつには、感謝、かな?

「千早は……千早はそんなこと気にしてなどおりませんでした!
あの子は……あなたが離れて行くのを何よりも恐れていたのです」

「じゃあどうすりゃ良かったんだよ!
おれからしてみりゃ、あいつの歌は完璧だった、それなのにあいつはここがどうとかあそこがどうとか言って来る。
真剣だからこそ、下手なこと言えねぇだろ?」

思わず大声を出してしまった。

「それは……違うさ」

でも、それにひるむことなく、三人ともおれをまっすぐとみつめる。

「千早はさ、プロデューサーが良いって思ったんならそれで良かったんだと思うぞ。
前になんのために歌ってるのか、聞いたことがあるさー。
そしたら千早、褒めてくれたからって言ってた。
プロデューサーが、褒めてくれたからまた歌を歌うのが楽しくなったって」

「またって、どういうこと?」

響の言葉に、引っかかりを感じたのか、美希が尋ねる。

「それは……自分の口からは言えないさ。千早本人に聞いて」

今更ながら、自分は最低のクソ野郎だと実感した。

そうだった。

千早は、一度歌をやめていたんだった。

歌えなくなっていたんだった。

それなのに……おれは、千早を……。

何かが弾けた。


謝りたい、とかそういうんじゃない。

ただ、もう一度だけでいいから……千早に歌って欲しくなった。

輝いたステージの上で、最高のメンバーの中で。

「美希、響、貴音……おれ、もう一度だけ……夢をみても良いのかな?」

「違うぞ、プロデューサーが見るんじゃない。
自分たちみんなで見るんさ!」

「そうですね……終わらない夢を描くのも、良いことでしょう」

「さっきからずっとそう言ってるの。
プロデューサーがここに来た時の映像もみたよ?
夢は――」

「――みんなまとめてトップアイドルッ! だろ?
おれ、もう弱気になんかならねぇ……みんなを迎えに行こう」

ハッピーエンドが、見えてたはずだったのに……な。

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