東方かたわ少女 博麗霊夢編(24)
3月14日 晴れ
香霖堂から日記帳を買ってきた。霊夢には似合わないと言われたが、私としては日記をつけるのは嫌いではない。だけど三日坊主にはならないように気をつけよう。
霊夢「あら、お帰り。なにそれ」
私が境内に入ると家の中から霊夢がふわふわと飛びながらやってきた。
なぜ飛んでいるのかというと、霊夢には足がない。
少し前の異変で、解決したはいいものの。怪我で足を失ってしまったからだ。
魔理沙「あぁ、これか。日記帳だよ」
霊夢「ふぅーん。似合わないわねぇ」
魔理沙「そう言うと思ったよ」
私がすねたようにそう言うと、霊夢はごめんと笑いながら縁側まで飛び、着地した。
霊夢「そういえば昨日の妖怪退治ありがとね」
霊夢が足を失ってからというもの、妖怪退治などの荒事はすべて私が請け負っている。
霊夢曰く、足なんて飾りらしいが。もし次は霊夢自体を失うことになったらと思うと私は気が気でない。
魔理沙「良いさ別に。ただの雑魚だったからな」
霊夢「そう。ちょっと待ってなさい。お茶入れるわ」
魔理沙「私が入れるぜ。そのまま待ってるといいぜ」
霊夢「そう? じゃあ頼んだわ」
博麗神社にある唯一の茶葉の入った缶を開けると、もうあまり中身がなかった、あとで夕食の材料を買うついでに買ってこなければいけないようだ。
やかんにお湯をいれ、八卦炉でお湯を沸かす。これのほうが火にかけるより早く沸騰するのだ。
香霖も大変便利なものを作ってくれたな。と一人香霖堂の方に向かって軽く感謝をしておく。
そんなことをしているとやかんが鳴き、私は急須に勢い良くお湯を注いだ。
魔理沙「霊夢、お茶が入ったぞ」
霊夢「ありがと、ずずーっ。魔理沙もずいぶんお茶を入れるのが上手くなったわね」
魔理沙「それはどうもありがとさん。それで今日の夕飯は何が食べたい?」
霊夢「何でもいいわよ。あ、山菜とかいいかもしれないわ」
魔理沙「了解」
それからしばらく、私たちは茶菓子のないお茶会を楽しんだのだった。
慧音「おや、魔理沙じゃないか。人里に何か用か?」
人里に入り、ほうきから降りると、慧音に声をかけられた。
魔理沙「人間が人里に来ちゃいけないのかよ」
慧音「はっはっは。そういえばそうだったな」
そう笑うと慧音を見て、悪気がないことは分かったが、そんなに私は人間っぽくないだろうか。少しショックだ。
魔理沙「というかいつもどおりの買い物だぜ」
慧音「そういえばそうだな。そうだ、霊夢は元気なのか?」
魔理沙「元気だよ。ずいぶんな」
慧音「それは良かった」
慧音はもう一度笑い、それじゃあ霊夢によろしく頼むと言い、寺子屋のある方へ戻っていった。
魔理沙「うーむ」
妹紅「ん? 魔理沙じゃないか」
私がきゅうりを持ち、どちらの方がいいかと悩んでいると。綺麗な白髪を炭で汚した妹紅がやってきた。
魔理沙「おぉ、久しぶりだな。元気か?」
妹紅「殺してもしなないよ」
魔理沙「それもそうだな」
二人で笑うと、私は妹紅の押してきた大八車に目を向けた。正確には大八車の荷物にだが。
魔理沙「あのつぼは何なんだ?」
妹紅「八目うなぎだよ。今から炭と一緒にミスティアの所まで卸しに行くのさ」
ほぅ。八目うなぎか。今日の夕飯は蒲焼でもいいかもしれないな。
そう思い私は八百屋での会計を手早く済ませ、妹紅についていくことにした。
ミステ「こんにちわ、妹紅さん。それに魔理沙さんも」
妹紅「おう、持ってきたぞ」
妹紅が大八車から荷物を降ろす。炭を軽々と運んでいるが、私には到底無理だろう。
魔理沙「ミスティア。蒲焼を二つ焼いてくれないか」
ミステ「まだ営業時間じゃないんですけど、魔理沙さんですから特別に焼いてあげますよ。あ、妹紅さんも食べます?」
妹紅「おうっ」
炭で汚れた顔で爽やかに笑う妹紅。もしこいつが男だったらつい惚れてしまいそうになるくらいの爽やかさだ。
いや、もちろん私は霊夢一筋なのだが。
ミステ「出来ましたよ~」
炭で焼かれたヤツメウナギが香ばしい香りをあげる。ぐぅ、とおなかの虫が鳴き、思わず赤面してしまう。
そういえば帰ってからお茶しか飲んでない。どうりでお腹が空くわけだ。
ミステ「あはは。一枚食べますか?」
財布を開くとお金が心もとない。残念だが、無理のようだ。
ミステ「サービスです」
ミスティアの粋な計らいにより、私のおなかの虫をどうやら鎮めることが出来そうだ。
魔理沙「ありがとうな」
妹紅「もぐもぐ。うん、美味いな」
ミステ「どうも」
魔理沙「いただきます」
ミステ「どうぞ、召し上がれ」
串に刺さった蒲焼にかぶり付くと口の中にタレの味が広がる。身は固く、少し泥臭いがもう慣れたものだ。
魔理沙「美味しいよ」
ミステ「どうもありがとうございます」
隣をみると妹紅はすでに食べ終えており、串をくわえて、焼けるヤツメウナギを見ていた。
魔理沙「もぐもぐ」
それに少し遅れて私も食べ終える。それから少しすると蒲焼を葉っぱで包んでミスティアが渡してくれた。
ミステ「今度はぜひ食べに来てくださいね」
魔理沙「考えておくぜ」
ミステ「霊夢さんも連れてきてくださいね」
魔理沙「うーん。それはちょっと難しいかもしれないぜ」
霊夢は大丈夫だろが、霊夢が晒される好奇の視線というものに私が耐えられない。ミスティアが神社まで来てくれればいいのだが、それは流石に無理だろう。
断るとミスティアは少し寂しそうな顔をして微笑んだ。
ミステ「仕方ないですもんね。うん。それじゃあいつか宴会を開いたら振舞いますよ」
魔理沙「うん。ありがとうな、ミスティア」
ミステ「はい。それではお気をつけて」
ほうきに跨る。飛ぶのは人里を出てからやったほうがいいのだろうが、見てるのは妹紅とミスティアだけだ。別にいいだろう。
二人に手を振り、ほうきに魔力をこめる。
体がふわりと重力に逆らい宙に浮く。そのまま私はすべるように夕方の空へ飛んだ。
人里がどんどん離れる。私は買ったものを落とさないように片手でしっかりと抱え込みながら博麗神社を目指して飛んだ。
さて、帰ったら蒲焼とあと何を作ろう。材料は適当に買ったが調理はどうしよう。やはり山菜ならてんぷらがいいだろうか。
まぁ、それは帰ってお茶を飲みながら考えよう。
魔理沙「あ………」
そこで私は気づいた。
抱え込んだ荷物を見るが、記憶のとおりそこにお茶の葉はない。
魔理沙「やっちまったぜ」
仕方ない。霊夢は少し不満を言うだろうが、我慢してもらおう。
その代わり明日はお茶とようかんでも買ってこよう。
財布は薄くなるが、霊夢の笑顔が見れるのなら構わないだろう。
お金で買えないものを手に入れるため、お金を払う。そういうお金の使い方もいいだろう。
私は半ば開き直って博麗神社に向かうため赤く染まる空を駆けた。
4月7日 曇り
3月も終わり、寺子屋の入学式がある頃だ。慧音は今頃ずいぶん忙しそうにしてるんだろうなぁ。まぁ、そんな事はどうでも良いが、今日は霊夢と一緒に香霖堂に行ってきた。相変わらず閑古鳥が鳴いていたから冷やかしでも構わないだろうと思ったら文句を言われた。なんて心の狭いやつなんだろう。
香霖「いらっしゃ、なんだ魔理沙か」
霊夢を抱いて香霖堂に入ると、こっちをみた瞬間にため息をつかれた。接客態度が悪すぎると思う。客じゃないが。
霊夢「私もいるわよ」
香霖「みたいだね」
香霖は眼鏡の位置を直し立ち上がって奥から椅子を持ってきた。
香霖「座ったらどうだい? 霊夢」
どうやら私の分はないだようだ。ちくしょう。
霊夢「そんなに気を使わなくて大丈夫よ。普通の人よりかは大分マシなんだし」
そう言って霊夢は私の腕から抜け出し、ふわふわと飛んで香霖の近くに着地した。
霊夢「そうそう香霖。お茶」
香霖「茶葉をくれ、ってわけじゃないんだろうね。仕方ないなぁ。魔理沙頼んだよ」
魔理沙「この店はお客にお茶をいれさせるのか?」
香霖「そう思うなら何か買ってくれ」
香霖の家はもう勝手を知ったものなので、どこに何があるかを把握している。
ついでに言えば香霖がどこに茶菓子を隠しているのかも、どの茶葉が一番高いのかもだ。
私は迷わず一番高い茶葉と、茶菓子の饅頭を取り出した。
魔理沙「うん。流石香霖。良い茶葉使ってるぜ」
別にこれは窃盗ではない。だって家主から許可は出てるからな。お茶を入れろって。
魔理沙「良い匂いだぜ」
お湯を注ぎ、数分待つと、お茶独特の良い匂いがしだした。
魔理沙「でも紅茶もたまにはいいかもしれないな」
紅茶といえばレミリアだ。あの赤い館の主は今日も咲夜の思いつき紅茶を入れられているのだろうか。
今月はなんだろう。梅だろうか。いや咲夜がそんな当たり前のチョイスをするとは思わないからなんか他のものなのだろう。
魔理沙「これで、よし」
お茶を人数分入れ、お盆で茶菓子と一緒に運んだ。
香霖「そういえば霊夢。君は本当に車椅子は要らないのかい?」
戻ってくると香霖が店の片隅にある車椅子を持ってきて霊夢に聞いていた。
それに対し霊夢は車椅子に見向きもせずお茶を受け取るためだけにふわふわと、飛んできた。
霊夢「いらないわよそんなもの。見てのとおり移動手段には困ってなくてね」
火傷しないように注意しながら霊夢がお盆からお茶を取る。そのままふわふわと畳の上へ着地した。
香霖「しかし、いつもそれだと霊力を喰うだろう?」
霊夢「大丈夫よ。こんななりでも博麗の巫女よ」
そういい霊夢は饅頭を食べる。
香霖「魔理沙。また僕のお菓子を」
魔理沙「お茶には和菓子が必要だぜ。んー美味しい。やっぱり甘味は乙女の燃料だぜ」
香霖の不満を無視して私も饅頭を食べる。口の中にあんこの繊細な甘みが広がる。こんな良い代物がなんで香霖の家にあるんだろうか。
香霖「あぁ。僕の秘伝の饅頭が………」
魔理沙「どうした香霖。いらないのか? なら貰うぜ?」
香霖「食べるよ。あぁ、ちくしょう」
まったく香霖は男のくせに女々しい奴だ。まぁ、私が男らしいという意見も聞かないわけではないが。
魔理沙「なぁ香霖。なんか面白いものは入ってないのか?」
香霖「面白いもの、ねぇ。そういえばこないだ黒い帽子をかぶった少女と、スキマ妖怪を幼くしたような少女がうちで買い物をしていったな」
魔理沙「それのどこが面白いんだ?」
香霖「そこで彼女が取り出したのがこれさ」
そういい香霖はお金を入れる、えっとなんて言っただろうか。そうだレジだ。レジから長方形の紙を取り出した。
霊夢「なにそれ」
香霖「これがお金さ」
霊夢「はい?」
霊夢はお茶を飲みながら、なに言ってるの、こいつ。を表情だけで表した。
香霖「あぁ。僕たちが普段使っているお金とは別物だが、これもまたお金なんだよ」
魔理沙「まぁ、香霖の目で見たんなら間違いないと思うが。そんなお金見たことないぜ?」
ん? いや待てよ。たしかそれはどこかで見たような気が……… えっとどこだっただろうか。
魔理沙「そうだ早苗だ」
そういえば早苗ん家で見たんだ。あの時はただの紙だと思ってたから記憶に薄いが。
霊夢「早苗がどうかしたの?」
魔理沙「守矢神社で見たんだよ。それ」
香霖「へぇ。それなら外の世界のお金なのかもしれないね」
魔理沙「この偉そうな顔したおっさんがねぇ」
香霖から受け取り眺めてみる。
魔理沙「おっ。なんだこれ」
お金の中心の白い楕円を日に透かしてみるとそこには、お金に書かれた人物と同じものが浮き出た。
魔理沙「凄いんだな外の世界って」
感心はしたが別段面白くはなかったので香霖に返す。これは収集しようとは思わない。
霊夢「………て事は、その少女は外の人間ってこと?」
香霖「ん? あぁ、そういうことになるね。もしくは守矢神社から魔理沙が言ってたそれを盗んだかだけど」
霊夢「守矢神社から物を盗む? そんなの無理よ。魔理沙ぐらいじゃないと」
心外だ。私は魔法使いで収集家なだけであって、泥棒や強盗の類ではない。
香霖「なら外の世界の人間なんだろうね」
霊夢「そうさらっと言うけどそれって結構重大なことよ? 結界が破られたっていうのに、この私が気づかないなんて。それに紫も気づいてないわ」
異変、なのだろうか。外の世界から人が来て買い物をしていった異変。どうやって解決すればいいんだろうか。いつもどおりに魔砲でぶっ飛ばすわけにはいかないし。
魔理沙「まぁ、何も起こってないならいいか」
霊夢「そうね。今のところ世は事もなし、よ」
たまにはそんなこともあるのだろう。さて夕飯を作らなければいけない時間まではここでくつろいでおこう。
香霖の小言には耳を傾けず、畳の上に横になる。
魔理沙「夕方になったら起こしてくれ」
香霖が何か言ってた気がしたが。目を閉じ、他の世界に飛び立とうとしている私にな関係のないことだ。
願わくば香霖が今日の夕飯を作ってくれることを願って。
おやすみなさい
5月15日 快晴
桜と宴会は切っても切り離せない関係で、桜が満開の今、やはり博麗神社では宴会が行われた。昔は用意を霊夢に任せていたが、今は自分がやっているので宴会は楽しみだが準備と後片付けは鬱だ。萃香が手伝ってくれることが唯一の救いだな。あぁ、体の節々が疲れで痛むので今日はこれくらいで筆をおいたほうがいいかもしれない。もう寝よう。
魔理沙「ふわぁ………」
窓から差し込んでくる光で目が覚めた。隣を見るともうすでに霊夢はいない。どうやら先に目覚めたらしい。どうせなら私を起こしてくれればいいものを。
魔理沙「朝ごはん作らなきゃな」
一度伸びをして立ち上がる。固まってしまった体が心地よくほぐれる。さぁ、今日もがんばろう。
朝ごはんは何を作ろう。そう思いながら扉を開けるとなにやらいい香り。これは味噌汁の匂いか?
もしかして霊夢が作っているのだろうか。それならとてもありがたい。
朝から霊夢の手調理だ。なので気分も上々。これで宴会の準備をしなくていいのなら私はるんるん気分でスキップをしながら食卓に向かったに違いない。
プラスマイナス0でいつもどおりのテンションで私は食卓に向かった。
霊夢「おはよう魔理沙」
魔理沙「おはよう霊夢」
エプロン姿でふわふわ浮いている霊夢がそこにはいた。今のところテンション+1といったところか。
霊夢「今日はがんばってもらうために私が朝ごはんを作ってあげたわよ」
そう胸を張る霊夢を見て、私のテンション+2。あと3ぐらい上がれば宴会の準備をする気になるだろう。
霊夢「さぁさぁ。早く座って座って」
霊夢が背中を押してくる。しかし体重差があるため抱きつくようにして押してくる。テンション+5。もう完全にやる気だ。案外早くテンションが上がったな。
霊夢「山芋の味噌汁にヤツメウナギに出汁巻き卵よ。精をつけてがんばってね」
なんだろうこのメニューは。すごく、ドキドキする。
魔理沙「いただきます」
なんてふざけた妄想は置いておいて、霊夢の手料理に舌鼓を打つことにしよう。
霊夢「どう?」
魔理沙「あぁ。美味しいぜ」
準備を遅らせるためにもゆっくり食べたいがそういうわけには行かない。ほとんど流し込むようにして私は朝食を終わらせた。
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