騎士「小悪魔系女子と行く、ぶらりミスタルシア探訪の旅」 【神撃のバハムートSS】 (299)




■神撃のバハムートとは?
美麗なイラストがウリの全米ナンバーワンファンタジー。
モバゲーで配信されており、アニメ、小説、4コマ、ラジオなどメディアミックスも幅広い。
最近はフィギュア化されているキャラクターもいるほどの大人気ゲーム。知らない人は是非プレイしてみて欲しい。


神撃のバハムート公式:http://shingekinobahamut.jp/


神撃のバハムートWiki:http://seesaawiki.jp/mnga_bahamut/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412282373

突然ですが皆さん、人外っ娘ってどう思います?

かわいいですよね。すごい可愛いですよね。

人間のような容姿、人外の要素。

そのマッチングはまさに神の作りし奇跡!!!

そう思いませんか?

思ってください。

思え。


――さて、何で私が急にこんな話をしているかというと、


いるからです、人外っ娘が


「……………」


私のことを不思議そうな目で見つめる少女。

年齢は10歳くらいでしょうか。かわいい盛りですね。

耳のあたりから生えた小さな翼

髪からちょこんと顔をだす、小さな角


びっくりするほど愛らしい。


私がこんな世界に飛ばされたのも、きっと彼女と会うためだったのでしょう。

そう、私がここ、『ミスタルシア』に飛ばされてきたのは、ちょうど二時間くらいまえでしょうか。

―――


いつもののどかな昼下がり、私は本屋で『萌え萌え魔物辞典』という本を購入しました。
普通に現代なので安心してください。

その帰り、外でこの本を読むのは少しアレかなと思い、スマホに手を出しました。

何か面白そうなアプリはないかなと探していると、あるではありませんか。

『神撃のバハムート』

そんなふうに書かれたアプリをダウンロードし、チュートリアルをクリアしました。

と、その頃にはしっかり我が家についており、素晴らしい時間つぶしだったと思ったものです。





まぁ大方の予想通り、家に着くなり不思議な光によってここへ飛ばされ……





「です~~~!!」


という妙な悲鳴が聞こえてきたというわけです。

#1『トレジャーハンターインプ』



もちろん悲鳴の原因はこの子。すっごい勢いでゴブリン共に襲われていた。

ちなみにそのゴブリンは、俺の中にある謎のパワーで瞬殺してあげた。
こんなに強かったっけ。俺。

こんな子が何故こんな森の中で一人なのか

何故襲われていたのか

何故そんなに可愛いのか……聞きたいことはたくさんある。

そう思いながら彼女を見つめていると、彼女の方から口を開いた。



「助けてくれて、ありがとうです」


ぐうかわ。


「と、ところでおにーさんは……一体どこから来たです?」


なんだこのですです口調。可愛いじゃねぇか。やるなこの子。
萌えポイントたけぇわオイ。

おっと、萌えてる場合じゃない。
質問に答えないと怒ってると思われる。

かといってこの剣と魔法の世界(ミスタルシア)で日本とか言ってもなー……。


「異世界だよ」


そう答えておくことにした。

異世界です?と彼女は一瞬不思議そうな顔をするも、すぐに納得したようだった。

異世界からくるってそんなにあるあるなの?

とりあえず、この世界の事と、この可愛い女の子の事を聞くことにした。



――

トレジャーハンターインプ(ノーマル)
http://i.imgur.com/ReHBjBN.jpg

―――


「トレジャーハンターインプ……そういう呼び方をされてるです」

まんまじゃん

彼女曰く、魔物は種族名で呼ばれるらしい。そういうもんなのか。

個人の名前はないの?と問うと、少し顔を赤らめながら

「ルルミィです」

と答えてくれた。可愛い名前だ。

しかし名前を名乗る風習はないのだろうか?

逆に何者かと問われたので、「通りすがりの騎士だよ」と答えておいた。

「騎士さまですか」

何故か様付けだ。よほど先ほど助けたことを恩に感じているのだろう。

で、本題。

「どうしてこんなところに……?」

「わたしは、『聖宝』を探しているです」


セイホウ?そういえば、チュートリアルで一つもらったような気がする。

取り出してみると、凄く驚いた顔をされる。


「そ、それを一体どこで手に入れたんです!?」

顔が近い!いい匂いがする!!

どこと言われても、チュートリアルの際にもらっただけとは言えないので、
「気が付いたら持っていた」とだけ答えておく。

「この辺りに、聖宝が……?」

一気に真剣な目つきになる。流石トレジャーハンター。お宝の匂いは見逃さないか。


「なあその……聖宝ってのは一体なんなんだ?」

「知らないで持ってたです……?」


全く知らない。いや知ってることは知ってる。
確か6つ集めるとなんか起きるとか聞いた。チュートリアルで。


「6つ集めれば、あらゆる願いが叶うという幻のアイテムです」


チュートリアルの説明と違うんだけど……。


「ただ、実際はすこし違うですね。聖宝はそれぞれが特殊なチカラをもったアイテムだと聞いてるです」


聖宝に関してなんだか詳しそうだ。流石トレジャーハンターは伊達じゃない。


「たとえばわたしの持つこのマップは……『その者が最も欲するもの』を指し示すと言われているです」

「すごいな」

「はいです。ですが、このマップも、6枚集めなければ効果は発揮されないです。
その代わりに、『他のマップ』の位置を指し示してくれてるです」

広げられた、古びた地図の一点が光っている。LEDみたいだが、おそらく違うんだろうな。


「わたしは……おかーさんを探しているです」


一瞬、空気が重くなる。

これだけ若くして、母を探さなければならない。
それがどれだけ大変な事なのか……俺にはとてもじゃないがわかる気がしない。

しかし、彼女は楽しそうに笑う。

「おかーさんは、凄腕のトレジャーハンターです。
おかーさんにかかれば、どんなお宝でも見つけられるです!」


明るく語るその姿から、本当にお母さんの事が好きなんだなという気持ちが伝わってくる。

「おかーさんは、わたしに色んなことを教えてくれました。これがその、最後の試練です」


そう言ってマップを見つめる。

先ほどの言葉通り、マップには『その者が最も欲するもの』が指し示される。
つまり、彼女の場合なら、母が表示されるはずだ。

それを理解して、このマップを揃える事こそが最終試練として提示されている。

いくら凄腕のトレジャーハンターの親子でも……ちょっとキツいんじゃないかなぁと感じる。
まぁ、お互い信頼しあってるようだし、これくらいがちょうどいいのかもしれない。


「ところで、騎士さまはこれからどうするです?」


……

……あっ、そうじゃん。

俺、異世界から来ちゃった系じゃん。

どうしよ。何も考えてなかった。


とりあえず元の世界に戻るのもいいけど……


「………?」


俺が見つめると、きょとんと首をかしげる。
可愛い。

はっ、しまった。つい。

とりあえずこんな可愛い子がいるならもう少し残ってもいいんじゃないかと思った。


「あの―――」


そんな風に色々考えていると、彼女から提案があった。


「良かったら、わたしのマップ探しを手伝ってほしいです」


それは、こちらとしては割と願ったり叶ったりの提案であった。

#2『ラミア』


「ぴぴぴぴーぴぴぴー、ぴぴぴー、ぴぴぴっぴ、ぴぴぴー……」

「それ、なんの歌です……?」

「ドラゴンクエストのフィールドのテーマ」

「ドラゴンのクエストなんてあるです?」


話しが通じない。そりゃそうか。


「それにしても、森の中で口笛なんて、騎士さまも大胆です?」


え?発情してると思われたの?
嫌だなぁ。確かに性的興奮は覚えてるけど、別にこれに深い意味は……


―――と、


視線を感じる。


ものごっつい視線……


「そこか!」

と振り向くと、一人の少女がニコニコしていた。


あらかわ。


隣の小悪魔……ルルミィよりも少し大柄で、15歳くらいだろうか。
気の強そうな外見をしてお……



「うわああああああああああっ!?」


そこでびっくりして腰を抜かしてしまった。

下半身が、ない


いや違う、正確にはある!そう……蛇なのだ。限りなく大蛇。

人間サイズの大蛇……の先に女の子!?これって……。


「ラミアさんです」


やっぱラミアさんか……伝説だけじゃなく。普通にいるのね。


「何よ、人の姿を見るなり腰を抜かしちゃって……呼んだのはそっちでしょ!?」


ラミアさんがお怒りである。

てか、あれ(口笛)は呼んだことになるのか。


「非常に高い攻撃力を持つですが、怒らせなければ怖くないそうです」


怒らせちゃったぞ?


「怒ってるわよ」


ほら、お怒りじゃないか!

激おこぷんぷん丸じゃないか!

……ん?

待て、これ本当に怒ってるのか?

なんかやけにノリがいいし、そもそも襲ってこない……。

もしかして……。


「あの」

「何よ」

「もしかして、人と話すの久々だったりします?」


「……………」


急に黙りこむラミアさん。
図星だったようだ。



――

ラミア(ノーマル)
http://i.imgur.com/s3bBoQI.jpg

「………なによ、人と話すのが久しぶりで、悪い!?」


逆切れなされた。


「そうよ!こんな所に人なんてめったに来ないわよ!
来たと思えば、アンタみたいに腰を抜かして、化け物どうこう言って走って逃げるのよ!
どうせアンタだってそうなんでしょう!?」


…………なるほど


「寂しかったんですね」


「ッ!?」


ラミアさんが赤くなり、こちらを睨みつける。
照れる人外も最高に可愛い。


そんなラミアさんをそっと抱き寄せ、頭を撫でる。


「ちょっ……何すん―――」


「寂しかったんですね。ゆっくり話でもしませんか?」

その一言で、ラミアさんは完全に沈黙する。


「流石騎士さまです!」


ルルミィがぱちぱちと拍手をする。流石なのか、どうなのか。

―――


「町にはいけないわ、森は森で人間に逃げられるわ、
どこに行ってもロクな事がないのよねー、ホント」


というわけで、俺とルルミィはラミアさんとのお話中である。

何故かラミアさん、自分の尻尾?で俺の体をぐるぐる巻きにしている……。

彼女曰く、「こうすると落ち着く」かららしい。俺のほうはいつ捕食されるか不安だ。


彼女の苦労話に、ルルミィはうんうんと頷く。


「だいたい人間さんは、魔族に偏見を持ち過ぎだと思うです」

「わかる!?そうよね~。魔族ってだけで弓を向けるとか、本当やめて欲しいわよね!」


魔族トークに花が咲く。俺はだいたいついていけないので、質問をしてみる。


「そもそも魔族と人間って、どう違うんだ?」

二人とも「そういえば」といった顔をした後、少し考えて回答してくれる。

「たぶん、生まれとか育ちじゃない?」


そんなもんなの!?


「基本的には魔族の子は魔族になるですが……まれに、天使なのに魔族になったり、
魔の力を持った人間が魔族となったりするですから……結構あいまいかもしれないです」


へー、そんなシステムなのか。
じゃあ俺とルルミィが小作りしたらどうなんのかな。ハーフが生まれんのかな?
なんかハーフって響きがかっこいいよね。

「わたしですか?わたしは後天的な魔族です」

俺の視線に気づいたルルミィが答えてくれる。後天的?


「はい、もともとは人間だったですよ」


えっ


「何驚いた顔してんの?ここいらじゃ元人間の魔族なんて珍しくもなんともないわよ?」

「そういうもんなんですか?」

「そういうもんなの」


へー……と俺が関心していると、ルルミィが補足してくれる。


「悪魔に心を売った人間、死に際に強い怨念を持った人間、強大な力に飲み込まれてしまった人間……、
魔族になるパターンは結構いろいろあるですよ」


てっきり、魔族は皆魔族スタートなのかと思ってた


「そういう私も元人間よ?」

そうなの!?
てっきりヘビと人間のあいのこかと

「今なんか失礼な事考えなかった……?私の一族は、大蛇神への供物を怠ったのよ。
その時の跡継ぎである私が、呪いとして半蛇半人のラミアとなったわけ」


い、意外とヘヴィなエピソードだ……辛くないのか?


「辛い?まぁ最初はそうだったけど、慣れてみれば意外と快適よ?強いし」

確かに強そうだよなぁ……ゴブリンくらいなら一ひねりだろ。


「ちなみにモンスターで有名なゴブリンさんですが、あの人たちも元々人間ですよ?」

「ええっ!?」

「ま、ゴブリンと人間の子は生まれた時からゴブリンだけどね」


へぇ……そんなシステムだったのか……


ってことは人間→魔族 と

魔族+人間→魔族 みたいに複数のパターンがあるのな。


またモンスターについて詳しくなってしまったぜ。


そうして楽しく談笑していると……ガサガサと木の葉の揺れる音がした。

と、本日はとりあえずここまでです。

こんな感じで、ノーマル~ハイレアまでの、あんまり本編で出番のない可愛いカードを紹介しつつ、
騎士さまたちがのんびりミスタルシアを冒険するお話です。

ピユラさんは確かに出番ないかもしれませんね……本編で大活躍ですから。
ヘカテーさんは微妙なラインですが、ソードヴァルキリーちゃんは展開次第では普通に登場しそうです。

では、再開します。

#3『クーシー』


ラミアさんは満足したらしく、俺の拘束を解いてくれた。

肩がこる。しかし先ほどの木の葉の音が気になる。まさか、敵?



……いや、犬かなんかだろ。

と、ラミアさんとの談笑に戻ろうとした瞬間―――


「騎士さまっ!」


目の前を、ナイフが通過した。


ルルミィがとっさに突き飛ばしてくれなければ、俺の顔はぱっくりいってたところだろう。
しかし、この世界で圧倒的に強くなったはずの俺が躱せないとは……どんな相手だ?


「ちぇー、はずれかぁ」


そう残念がるのは……ええええっ!?

ちょ、ちょっと待って、犬耳!?犬耳じゃん!?

リアル犬耳少女……うわ尻尾までついてる!!デュフ、デュフフフッホホ!


「騎士さま気持ち悪いです……」


しまった、つい興奮してしまった。まさかリアルで出会えると思ってなかったから……。

しかしナイフを携えた犬耳美少女はやる気まんまん。次の一撃で俺を殺そうとしていることは明白だ。


―――

クーシー(ノーマル)
http://i.imgur.com/ODDP6E5.jpg

と、考えを巡らせていると、ラミアさんがなんでもない世間話のように声をかけた。


「クーシー、何の用?この人は私のお客さんなんだけれど」

「へぇ、じゃあ半分ちょうだい?」

「ごめんね?私はこの人を殺すつもりも、食べるつもりもないの」


会話が物騒すぎるだろ。

人外美少女って普段こんなこと話してんの?こえーわ。やっぱファンタジーってこえーわ。


「それじゃあ、勝手にもらっていこうかな?」


交渉決裂―――そういった風に感じ取れた。

クーシーと呼ばれた少女はぐっと体をかがめると、ものすごい勢いでこちらに跳躍し―――



「ごふっ!?」



その途中でラミアさんの尻尾が直撃してその場にくずれ落ちた。
音の感じから、あばらや肋骨は少なくとも折れてるだろう。


「できればあなたとは戦いたくないの。どう?引いてくれる?」


ラミアさんクソつええ

ていうかこういう、小柄で早いのとは相性がいいのかもしれない。確実にパワータイプだし。


「うが……ぐぐ……」


お腹を押さえてもだえ苦しむ少女は……正直見てて気持ちの良いものではない。
俺はチュートリアルでもらった『アレ』を使う事にした。


「さ、飲めよ。その代わり襲わないでくれよ?」


『キュアウォーター』というアイテムだ。
基本的には、俺の体力を回復させるためのものだが……魔物にどれだけの効果があるかは不明だ。


「……いいの? ゴホッ」


涙目になり、血を吐きながらも聞いてくる。
そんな様子が見てられなくなり、「いいからさっさと飲んでくれ」と答える。


「……ありがと」


そういうと少女、クーシーはゴクゴクとキュアウォーターを飲み始めた。
すると、体の傷がみるみるふさがっていき、顔に活力が戻ってくる。


「……ぷはーっ!ごちそうさま!まさかニンゲンに助けられるとは思ってなかったよ!」

俺も一日に二度も魔物を助けるとは思ってなかったよ。

「本当にありがとう!この恩は一生忘れないからね!」


そういって、クーシーは俺に一枚のカードを差し出す。


「なにこれ」

「『証』だよ?知らない?」

「証……?」


「騎士さま、証とは、相手を共に戦うべきだと認めたものに送る……いわば契約のようなものです。
証があれば、そのものがいなくても、力を借りる事ができるです」


へー、すごいな。ん?でもなんかこれ……チュートリアルでみたような……


あっ、カードだ!普通にカードだ!

このゲームは確か5枚のカードでデッキが組める、そのためのカードが、こっちでは『証』って呼ばれてるのな。


ってことはあれか。妖○ウォッチみたいなもんか。仲良くなって、証もらう的な。


「……ありがとう、お前の力が必要になった時、使わせてもらう」

「ううん、こちらこそ。最初は殺そうとしてごめんね?」


なんて会話だよ。これ現代日本じゃ絶対味わえねぇな。
『殺そうとしてごめんね?』とかヤンデレですら言わねぇわ。

そんなサツバツとした会話をして、クーシーは去っていく。


「今日はもう集合の時間だから、またね!」


本当、嵐のようなヤツだったな。

と、しんみりしていると、ラミアさんから声をかけられる。


「ねぇ騎士」


ん?


「貴方はどうして……自分を殺そうとした者を助けられるの?」



確かに、当然の疑問である。
この世界では、そんな甘い話は通用しない。

今回の俺だって、チートな能力持ちのくせして一瞬で殺されそうになったわけだし。


まぁでも、何故かって聞かれたら


「可愛かったからかな」


こう答えるしかないだろう。

#4『ハイライトメイジ』


「ふえぇ……」



涙を零しながらうずくまる少女。

彼女はハイライトメイジの資格を持ち、れっきとした白魔導師だ。


その攻撃力、魔力は強力であり、一流魔導師でさえも一目置くほどである。


ただ一つの欠点を除いては……。


「ま、また魔物さんたちを……」


彼女の欠点、それは「感情が爆発すると一緒に魔力も暴走してしまうこと」である。
先ほど述べたように、強力な魔力の持ち主である彼女の魔力が暴走すると……、


現状のように、森の一部を完全に破壊してクレーターを作り出してしまう事も……。


そういったことがないため、今回彼女は『ウィル村』という所で魔導師として修練を積むために森を渡っていた。

が。


「道に迷ったですうぅぅ……」


方向音痴である。


何故彼女を単独で送り出したのか、未だに見当がつかない。

おそらく両親は、彼女の有り余るパワーなら魔物くらい余裕だと踏んだのだろう。


もしくは、家を破壊して追い出されたか……。


と、そこに通りがかるのは、軽い旅装束に身を包み『騎士さま』と呼ばれる青年と、
ちいさなハネがチャームポイントの『ルルミィ』と呼ばれる小悪魔である。


―――

ハイライトメイジ(レア)
http://i.imgur.com/0lOJmlz.jpg

―――


小さい女の子が道で困っている。


これは助けないといけない……!


たとえ罠であろうと、この先どんな危険な事があろうと……、


少女だけは保護する!!!それが俺の生き様だ!!


「ど、どうしたです騎士さま……?」

「あ、ごめん、ちょっと意気込んでただけ。おーいそこの少女や」

「ふぇ……?」


おう、第一声が『ふぇ』とな。なんともかわいい。可愛らしい。
もう結婚してもいいかな?おっとついつい妄想が……。

「困りごとかな?」

「あっ、あのっ、私……道に迷って……」

「そうか、近くの村まで連れて行こうか?」

「すぐ近くですし、騎士さまがいるなら安心ですよー」

ルルミィが太鼓判を押してくれる。いい子だホント。


「い、いいんですか……?」


うるうると上目使いで見つめてくる。
良いに決まってるじゃないか!!と俺が大喜びで即断即決。

俺たちは魔導師の少女と共にウィル村へ向かう事にした。

―――


俺たちがウィル村へ向かう道中……そこには魔物が……!!

現れることもなく。


なんと盗賊団が……!!

いるってこともなく。


天変地異が……!!

おこるはずもなく。



めちゃくちゃ普通に村へ辿りついてしまった。
いいのか、こんなにイベントなくて。


そう思いながら村へ入ろうとすると……


「よし!ずらかるぞ!」


村の前で番兵が倒れ、馬車と、あきらかにならず者である人間が数人話している。


あ、これ……さっき出なかった感じの盗賊……。
ここにいたのね。


「ふぇぇぇぇぇっ!?と、盗賊さんですぅぅ……!?」


魔導師の子がすげぇびびってる。
そら怖いわな。


「ひぃ……怖い人間さんがいっぱいです……」


ルルミィも怖がっている。やっぱ魔族より人間のほうが怖いんじゃないか?

しかしああいう事はよくないな。俺のムテキパワーでボッコボコにしてやろう


「おい君たち」


「ああ?なんだテメェ。旅人か?よし。そこの女と身ぐるみおいてけよ」


カチンと来た。こんなザコが俺様になんでそんな口聞くんだ?アア?
こいつはキツイお灸をすえてやらねばならん。と、俺が剣に手をかけると、


「……ふぇ」


魔導師の子がすごい顔をしていた。マジ泣き5秒前だ。


そして、その場の『何か』が彼女に集まっていくのを感じる。


あ、これヤバイ奴だ。そう俺が直感した時は既に遅く――――







俺は10mくらいふっとんで近くの木に引っ掛かっていた。


え? え?



盗賊たちの方を見ると、彼らも同じような目にあったらしく、剣は折れ、
馬車はグッシャグシャになっており、数人、足や腕の骨を折って立てなくなっていた。


どういうことなの……

「ふぇぇん……またやっちゃいましたぁ……」


またってどういうことだ。


「私……感情が暴走すると勝手に光魔法を使っちゃう体質なんですぅぅう……」


すんごいめんどくせぇ体質だな!?しかも尋常じゃない威力だし!


幸い盗賊団の方に死者はいなかったらしく、皆骨折や打撲、意識不明の重体で済んでいる。

……済んでいる?まぁいいか。


すると、村の中で悪い事してた盗賊が現れ「なんだこりゃああっ!?」と驚いている。

そら驚くよね。仲間と移動手段がズタボロにされてんだもん。

「テメェの仕業か!」 といきなり絡んでくる。うぜぇ。


俺はせっかくなので「そうだ……貴様もボロ雑巾のようになりたくなければ……、
今すぐ盗ったものをここにおいて、仲間を連れて帰るがいい」


とかっこよく言っておいた。
意外とこういうのはこっちでは通用するらしく


「ちくしょう!覚えてろよ!」

とありきたりなセリフを残して盗賊は去って行ったのである。


危機は去った。すごい俺何もしてないけど。
せっかくファンタジー世界でクソ強いのにマジで役に立たない……。


と、ちょっと落ち込みながらボロ雑巾と化したルルミィの手当てをしていると、
いきなり老人がかけよってきた。


「あ、貴方様が盗賊どもを追い払ってくれたのですね!?」

と。

正確には違うが、もうめんどくさいしそういう事にしておいた。

とりあえず今回はここまでです。
なんせキャラが多いので、中々長くなりそうです。

再開します。

#5『リトルソルジャー』


「我が村に伝わる秘宝……『リング』を守って欲しいのです」


そう老人から切り出された時、ルルミィと俺は顔を見合わせた。

「リングというと……これと同じものですか?」

俺はチュートリアルでもらった『レッドリング』を老人に差し出す。


老人は驚いた顔で「これをどこで?」と尋ねてきたが、
俺は答えに困ったので、素直に答えておくことにした。


「えっと……俺、異世界から来まして。その時に何故か持ってたんです」


流石に信じてはくれないよなぁ~。


「なるほど……予言の騎士様でしたか」


えっ、

あるの、そういうの。


「貴方様なら信じられる。どうか、我らが守りしリングを……盗賊どもから守ってくだされ。
もちろん、必要であられるなら、貴方様に差し上げましょう」


いいのか!?秘宝だぞ!?

と、俺が困っていると……、


「もらえるです?じゃあ遠慮なくいただくです!」


と元気いっぱいに応えるルルミィ。こいつすげぇがめつい。
流石トレジャーハンター名乗るだけあるわ。


「そこで、マヌカーン遺跡に行っていただく事になるわけですが……一人、護衛をお付けします」


護衛、別に必要ないけどなぁ。
まぁいざっていう時のために、人では多い方がいいか。子守しなきゃいけない感じだし……。


と、一人の少女が部屋に入ってきた。


……


「あの、護衛は?」

「この子です」


即答される。
どうみても子どもなんだよなぁ……ていうかこの部屋にいる人間が、俺と老人除く3人全員子どもなんだよなぁ……。

「よろしくね!」


元気は百点。

年齢は16歳くらいだろうか。顔は綺麗というより可愛い系。くりっとした目がチャームポイント。

ひきしまったウエストに対してほんのりと主張するお胸。発展途上だがこれはこれで最高だ。

短めのスカートからすらりと伸びる足は健康的なエロスを醸し出し……


って品評会してる場合じゃねぇ


「……この子ですか?」

「見た目は幼い少女ですが、腕は立ちます。必ずや騎士殿のお力になるでしょう」


……お、おう。


まぁいいか。可愛いなら。


―――

リトルソルジャー(ノーマル)
http://i.imgur.com/3IGhDsX.jpg

―――

というわけで、俺のパーティは、

俺(20代のおっさん)

小悪魔(10歳くらいの少女)

魔導師(12歳くらい少女)

剣士(16歳くらいの少女)


という、なんともチグハグでハーレムなパーティとなってしまった。

嬉しい反面、このメンツでガチの殺し合いをするのかと考えると嫌な汗が出る。


できれば置いていきたいんだけど……


「お宝あるところにわたしがいなくてどうするです!」

「ふぇぇ……こ、今度はちゃんと、お役に立つですぅ……」

「斬るよ!!なんでも斬るよ!!まかせてねー!」



やる気まんまんである。おいてけねぇなこれ。

仕方なく俺らは、このパーティで出発することになったのだ。

―――


道中で軽い自己紹介を済ませる。


ふぇぇふぇぇ言ってる魔導師がリセ
元気いっぱいの絶対領域剣士がロレッタだそうだ。


ルルミィといい、ラ行は必ず入るのかもしれない。

二人とも魔族が珍しいのか、色々と質問している。


「ま、魔族って人を食べないんですかぁ……?」


すっげー失礼な質問だなオイ。


「わたしは別に好きじゃないです。ただ、やっぱり食べるなら人間ってお友達もいるですよ!」


マジかよ偏見じゃねぇのかよ。こえーよ。


「やっぱり魔術が使えるの?」

「ううん……わたしはあんまり才能ないですから……ただ、
いくつか教えてもらったのがあるですから、使えないことはないです!」

へぇ、魔法か。


そういやここ、剣と魔法の世界だもんな。それくらいあるか。


魔法と言えば、あの意味わかんない超範囲白魔法しか知らないな。

てかあれは二度と食らいたくない。


そうこうしているうちに、マヌカーン遺跡らしき場所にたどり着いた。

モンスターもたいしておらず、かなり余裕のある道中だった、が……


「い、いやな雰囲気です……?」


なんというか、遺跡の近くには黒~い何かが漂っており……、

俺たちを不安にさせるには十分すぎる恐ろしさだった。

今回はここまでです。
SR以上は結構個人の名前がありますが、ノーマル付近は名無しの子が多いようです。

HRで名前もついてて皆からも注目されていたのにもかかわらず、
本編での出番が皆無に等しかったルリエ・エレナは是非出したいですね!
ってか本編で再登場しないんですかね……しないか。

それでは再開しますー

#6『シャドウデビル・モリアナ』


遺跡に入ろうとした、その瞬間。

ありえない程嫌な気配を感じる。


何故だろうか……すごく入りたくない。恐ろしい、帰りたい……、

そんな感情でいっぱいになる。


俺が青い顔をして、遺跡に入れないところを見て、ロレッタが

「どうしたの?先行くよ?」

といい、入ろうとし――――


「待てッ!!」


思わず叫んでいた。

理由はわからない。

だが、危険な感じがしたのだ。間違いない。


すると――


「うふふふ……」


どこかから声が聞こえる。笑っている。

とにかく、不吉な声……


すると、いきなり遺跡の中から盗賊たちが襲い掛かってきた。


奴らはこの場所の秘宝について知っていたようだ。

盗賊の斬撃を素早く避け、剣の柄で重い一撃を入れる。

が―――


「何ッ!?」


盗賊は、怯まない。


意識さえなくなってもおかしくないような一撃だが、明らかに聞いていない。
『まるでダメージがないかのように』俺に襲い掛かってくる。

囲まれてしまった、まずい、このままでは……


と思ったら、すごい顔のリセ。

あっ



「ふぇぇえええぇええええん!!!」



またしても、俺たちは吹き飛ばされた。


今回はルルミィをかばうことに成功。

顔が赤くなっている。かわいい。

ロレッタは自分で受け身をとってた。つよい。

盗賊たちは……


まるで死んだかのように指一本動かさない


どういう事だ?今の一撃で、そこまでの強さはないはず。


すると、物陰から憎々しげな顔をこちらに向けた少女が現れた


「……ねぇ、なんでこんなことするの?」


その少女が背後にまとう黒い影。この状況からみるに、彼女が今回の犯人であることは間違いない。


―――

シャドウデビル・モリアナ(ノーマル)
http://i.imgur.com/9Hxm5xb.jpg

その方法とは――


「おらっ」

ドスッ、と俺の剣が地面に刺さり、女の子は苦痛に顔をゆがめる。


そう、今回の不思議な能力の正体は、『影』だ。

おそらく先ほどは盗賊の意識を刈り取ったあと、影をとりつかせて操っていたのだろう。

先ほど盗賊が動かなくなったのは、リセの光魔法で、『影』が消滅したためか。


……このゲーム、女の子強すぎませんか?


「なんで……」


「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?
ねぇなんでこんなことするの?ねぇ……!!!」



なにこのここわい



影をまとった女の子から黒い塊が発射される。
しかし即座に剣ではたき落とし、トドメとばかりに刺し殺す。


「……ッ!!」


その様子を見た女の子は絶句し、苦虫を噛み潰したような顔になる。


「アタシの邪魔するんだ……あなたも……」

まるで親の仇をみるかのように、俺を激しく睨みつける。

リセとロレッタ、それにルルミィも続けて臨戦態勢に入り、一触即発――


かに見えた。


「まぁまぁ、話だけでも聞かせてくれよ」


と、俺が少女に切り出したのである。

一か八かの賭けだが、この場合、


「……え?お話、聞いてくれるの?」


乗ってくることが多いのだ。

影を操る悪魔・モリアナは、自分の生涯をつらつらと語り始めた。


―――


彼女は平凡な魔術師の家系に生まれた、どこにでもいるような魔法使いの少女だった。

彼女には優しい兄、厳しくも尊敬できる父、そして温かく自分たちを見守ってくれる母がおり、幸せそのものだった。

だが、近辺の魔物が凶暴化しているという噂があり、彼女は力をつける必要があったのだ。


彼女は並々ならぬ研究の末、影を操る魔術を会得する。


「やったよ!お兄ちゃん!これで悪い魔物たちとも戦える!」

彼女は自身の成功を、最も信頼する兄と喜びあった。


影を操る魔術は想像以上のものであり、かなり強力な魔物とも戦えるものであった。


これならば安心、モリアナはそう確信していた。


しかし――――



「……お兄ちゃん?」


彼女が次に見た兄の姿は、体中を切り刻まれ死亡し、もはや原型も留めていなかった。

そしてその魔の手は、モリアナの身にも襲い掛かる。



「―――ッ!」


彼女はとっさに身をかわし、影の魔術で対抗する。

しかし、凶暴化しており、数が多くなる魔物に苦しい戦いを強いられ、ついには追い詰められてしまう。

「ここでアタシがやらなきゃ……村の皆も殺されちゃう」

彼女は決意する


「教典に眠りし悪魔よ!我が魂を贄として、今ここに顕現せん!」


いざという時の切り札、悪魔との契約である。


悪魔との契約で自身も魔族となったモリアナは、圧倒的な力を見せつけ、魔物を殲滅する。

村には無事、平和が戻った。


かに見えた。





「悪魔だ」



「悪魔の子よ」



「村から追いだせ」



「呪われるぞ」






村のために、兄を殺されてもなお奮闘したモリアナに対する村人たちの態度は冷たかった。

モリアナを悪魔と蔑み、侮蔑し、石を投げた。


人間を捨て、地獄に行くことを覚悟した彼女。

しかし、その想いは彼らには伝わらない。



そして彼女は、村から出ていくことを決意したのであった。

―――


「だからね……もう友達なんていらないんだ。
アタシには影がある。これで、皆殺しにしてやるんだ」


そう語るモリアナは、とても14歳の少女には見えなかった。


そんな辛い過去を持った少女に、俺はかける言葉が見つからなかった。


場の空気が重くなる中、ロレッタが急に空気の読めない事を言いだした。


「じゃあ、あたしと友達になってよ」

「えっ」


モリアナが面食らった顔をする。確かに俺もこの展開でこの発言はびっくりだよ。


「だってあんた強いじゃん。あたし弱い奴と友達になんてなりたくないし」


最もな正論である。しかし、お前話聞いてた?


「……アタシは、貴方を殺すかもしれないんだよ?人間に、復習するつもりだし」

「その時はどっちが強いか決めよう」


なんてことだ。力でねじ伏せる宣言とは。


確かにモリアナの影攻撃は、魔力を帯びた斬撃で撃ち落とせるし、
影のある地面に剣を突き刺せば破壊することもできる。

ぶっちゃけロレッタなら勝ててもおかしくない相手だ。
こいつの強さは、そんじょそこらの兵隊よりははるかに上だろうしな。


突然の、自分と同等の位置からモノを言ってくる同年代の少女。
これがどれだけモリアナに衝撃を与えたのか。


「うぇ……ひっぐ、ぐす……あ……」


それはよくわからないが、モリアナは既に号泣していた。

「だ、大丈夫ですっ!?」

ルルミィが焦る。大丈夫。うれし泣きだから。

「ふぇっ……ふぇえ……」


リセがもらい泣きしそうになる……って!!


お前はやめろ!!!!マジでやめろ!!!

ホント落ち着け!!一旦落ち着け!!遺跡が吹き飛ぶ!!!


ロレッタがモリアナに胸を貸し、頭を撫でてやる。
男女ならば、このままゴールインしかねないいい雰囲気だ。



こうして、遺跡前での騒動は、幸せな形で幕を閉じたのであった。

今回はここまでです。モリアナが仲間になりました。
実はこの子ボイス付きなんですよ。ノーマルで序盤のクエストで回収できるんで皆さんもよかったら是非。

ヒャッハー!育成イベ続行だァー!!
本編の騎士様はモヒカンではないのでご安心ください。

ちなみに序盤クエストボイスつきはモリアナだけでなく、ベビーエルフのメイちゃん、
今回登場するドラゴンナイトのアイラちゃんもです。3属性一人ずつって感じですね。

では、再開します。

#7『ドラゴンナイト・アイラ』


モリアナの影ぱわーによって意識を失っていた盗賊は適当にそこらへんにまとめておいた。


本来のストーリーであれば遺跡内の探索中に盗賊が邪魔してくることになっていたのだろうか、
思いのほかあっさりと聖宝をみつける事ができた。


「これが、ブルーリング……」

「聖宝2つめ……2つめですーーー!!」


ルルミィが異常なまでにはしゃいでいる。そんなにすごいのか、これは。


「これが聖宝なんだね、話は聞いてたけど初めて見たよ」

え?そんなすごいのか?

もしかして滅茶苦茶珍しい?と俺はロレッタに聞いてみる。


「さぁ、少なくともあたしは見たことないよ。
生まれてから一度も目にせず死ぬ人も多いんじゃないかな」


すげぇなそれ。

そんなのを二個も集めたのか、そりゃルルミィが喜ぶわけだ。


「で、でも……」


でも?


「ふぇぇ、聖宝を持っていると、他人から狙われやすくなるって話を、
聞いたことがありますぅ……」

ガタガタと震えるリセ。なるほど、相当珍しいが故に、無意識に敵を呼び寄せてしまう、か……。

「あとは、聖宝同士は引きあうですから、同種類の聖宝を持つものと出会いやすくなるですよ」


ルルミィが補足してくれる。そういえば彼女の持つ『マップ』ももう一つのマップの位置を示してくれていた。


「ってことは俺……これからますます狙われるの?」


「そうです」

「ふぇぇ……」

「そうだね」

「そうね」


皆が肯定する。リセはふぇぇしか言ってないけど。
しかしモリアナも馴染んだな。さっきまでやたらと俺たちを殺そうとしてたのに。


……まぁ、よくあることか。


――――


俺たちが村まで戻っていると、ロレッタが急に大きな声を上げる。



「騎士様!村の方から煙が!」


……え?


まさか。


急いで戻った俺たちが見たものは、燦燦たる状況の村だった。


牛小屋や民家のいくつかが破壊され、家畜が殺され、
一部は放火されたのか焼け焦げていた。


「……ひどい」


動揺を隠せないロレッタ。


「騎士殿!」


村長である老人が走ってくる。元気だな。

「申し訳ありません。貴方の留守に……賊の侵入を許してしまいました」


あの盗賊どもまだ懲りてなかったのか。


「きゃつらはわが村の女を誘拐して……『返してほしくば西の谷まで来い』と言っておりました。誠に申し訳ないことですが、貴方様に頼る以外、我々には方法がありません……」


……罠だ。


やつらは自分のホームに呼び寄せて、確実にそこで俺を殺す気だろう。


しかし、罠だとわかっていようが行かざるを得ない。

もし行かなければ、村の女が殺されるのを黙って見過ごすこととなる。


それは、この世界に来た俺、つまり『かっこいい騎士様』がやってはいけないことなのだ。


―――


リセ、ロレッタ、モリアナには村に残ってもらう事にする。
正直戦力が減るのは痛いが、また俺が留守の間に襲撃されるのも怖い。

なにより、人数が多いと、俺が新たな力とかを発揮しても守りきれない可能性がある。


俺はこのゲームでは主人公の立ち位置で、死ぬことはおそらくほとんどないだろう。
主人公補正って奴だ。


しかし、彼女らは違う。先ほども、
ラミアの一撃で瀕死になっているクーシーを目撃したし、盗賊のうち何人かはモリアナとの戦闘で死亡している。


そう、彼女らも恐らく同様、油断をすればあっさりと死ぬのだ。


そんな危険な戦場に、連れて行くわけにはいかなかった。



……でだ。


「ルルミィ、お前も残っていいんだぞ?」


頑なに村に残ろうとせず、ぶんぶんと首をふるルルミィ


「騎士さまを巻き込んだのはわたしです。それに、わたしだって役にたつですよ!」


自信満々に言うルルミィ。
ここまで言われたら、連れて行ってあげないわけにもいかないだろう。



リセ、ロレッタ、モリアナの三人からも証をもらい、俺たちは出発する。




「……死なないでね」


普段なら気が強く、元気なはずのロレッタがつぶやくように言う。
おそらく今の状況をよく理解しているのだろう。

そんな彼女の不安をぬぐってやるように、


「ああ」


と景気よく返事をした。

―――


西の谷。

複雑な地形に加え様々な植物が群生しており、非常に見通しの悪い場所だ。
しかし、上の方に登れば下の状況はよくわかるため、敵を待ち伏せするのにはピッタリである。

盗賊団どもは普段からここを根城にしているらしい。


めんどくせぇ事極まりない連中だ。


岩や木をよけつつ進んでいると、前の方から「止まれ!」という声が聞こえた。
例の盗賊団だ。


「おう、ちゃんと来たみたいだな」

盗賊はニヤニヤと笑う。その手元にはナイフが握られ、村人であろう女性に突き付けられていた。


「おっとぉ……そこで止まって、武器を捨てろ。
妙な動きをすれば……わかってるよなぁ?」


ゲスの極みだ。しかたなく俺は武器を捨てる。


「ククク……いい心がけだ」


だが甘い。
俺の本来の武器は『証』だ。


実は証には特殊な効果があり、掲げたのち、本人の設定した詠唱を唱えれば、
その証に混められた力を発揮することができるのだ。

これを使えば、この距離であろうとあの盗賊をぶちのめすことくらい容易である。

ただちょっと人質が危険なので今は使えないが。


――――と、それを察したのか、盗賊が妙な笑みを浮かべる。


「おいおい、俺に何かしようってんじゃないだろうな?」


「まさか、そんなわけないだろう」


俺は内心焦る。まさかこいつら、証について知っているのか?


「テメェが何を隠してるか知らないが」


あ、知らないんだ。やったね。


「この辺りに俺の仲間が隠れている。
もし俺を倒せたとしても、不審な音がすれば人質の首を掻っ切るように言ってある」



えっ

「……さぁ、どうする騎士さまよぉ。このランシスさまを怒らせたのがテメェの運の尽きだぜ?」


ファンタジー世界の盗賊の癖にやる事がえげつねぇな……。

しかし、これで俺の手は全て封じられてしまったも同然。
どうする、素直に土下座でもして人質を解放してもらうか。


「そうだな……テメェだけ殺せればそっちのガキは許してやってもいいぞ?ああ?」


ちょっといい奴かもしれない。
しかし殺されるのは困る。かといって人質を殺されるのもまずい。

俺が焦りつつ考えを巡らせていると―――


「お頭ァァァァァァァァァア!!!」


盗賊の声が響く。


「どうした!テメェ持ち場を離れるなって言ったろ!!
人質を取り逃がしてんじゃねぇぞ!」


どうやらあいつが人質を管理していたらしい。ラッキー?それにしても何が……


ドドドドドドド


え、これ何の音?

ドドドって何?


「ひえぇえええ!!」


「きゃああああ!!」

「うわああああ!!」



人質と思われる村娘、裏で待機していた盗賊たち、
皆必死の形相でこちらに逃げてくる。



えっ……なにこれ。


「お、おいお前ら、どうした!?何があった!?」


お頭と呼ばれた盗賊団のボス、ランシスも必死の仲間を見て狼狽える。

彼らの後ろに動物のようなものが見え隠れする。もしかして。


「ど、ど、ドラゴンです!!野生のドラゴンが現れました!!」

おお、やっぱいるんだ。ドラゴン。


「ど、ど、ドラゴンですううううう!?」


ルルミィが盗賊団のように過剰反応する。


「え?そんなヤバイの?」


「やばいどころじゃないです!今すぐ逃げるです!
殺されちゃうです!!」


ルルミィは涙目どころかもう完全に泣いている。
そこまでヤバイのか、ドラゴン。


と、そんなやりとりをしているうちに、ドラゴンの姿が見えてくる。
こちらに向かって走ってきているようだ。


「うわああああああああああああああ!!!」


ランシスも必死に逃げ出す。

お前さっきまでの余裕はどうしたよ。

「き、騎士さま!逃げるです!逃げるです!」

ぐいぐいと服を引っ張るルルミィ。


しかしこれ、チャンスじゃないか?


………


「オラァ!!」


ランシスが人質をほっぽりだして逃げていたので、
キツめのボディーブローをお見舞いする。


「ごふっ!?」


崩れ落ちるランシス。悪は滅びる。

――――


ドラゴンを従え、盗賊たちをロープで縛る。
これでヤツらは逃げられない。

「テメェ……いつの間にそんな隠し玉を用意してやがった!」


知らねぇよ。俺もついさっき手懐けたとこだし。
ていうか人質が一人足りない。どこ行ったんだろ?

盗賊どもに聞こうとすると……。


「はぁ、はぁ……やっと追いついた!」

ドレスに胸当て、アームレギンスに大剣、
足鎧といった不可思議な格好をした少女が走ってくる。

その傍らには村娘と思われる少女がおり、これで人質とされていた村娘は揃ったようだ。

でだ。

「……君は?」


少女は少しおどおどしながら答える。かわいい。


「あ……アイラ。そのコと一緒に、剣の修業をしてたの」

アイラと名乗る少女が、スッとドラゴンを撫でる。
ドラゴンは気持ちよさそうに目を細める。

「あの……騎士様は、どうやってこのコを手懐けたの?
私意外には、懐かないのに……」


アイラが不思議そうな顔をしてこちらを見る。
確かにルルミィはガン泣きで、盗賊どもは恐れおののく。
そんなドラゴンを手懐けられる方がおかしい。しかし、俺はそもそもこの世界の人間じゃない。


「なんとなくできると思ったからな」


俺の軽い返答に、アイラはクスクスと笑う。

「そっか。騎士様は、すごいんだね」


とりあえずおおよその状況は整理できた。
アイラとドラゴンが修行中、何故かドラゴンが走り出したのだろう。
それで今回の騒ぎが起き、結果的には俺は助けられたこととなる。


もう何回女の子に助けられたかわからん……。


―――

ドラゴンナイト・アイラ(ノーマル)
http://i.imgur.com/w0Ggaf7.jpg

おっと軽いミスを
>>54>>55の間に以下の文が入ります。

―――

「て、テメェ……何……しやがる……!どら、ドラゴンが……来てるんだぞ……!?」


こいつ頭おかしいんじゃないか!?みたいな顔で見てくるランシス。

そうは言っても、せっかくチャンスなんだからやっとかないとさ。


あと……


「き、きてるです!!!もうここまで来てるですよー!!」


ルルミィが焦る。そう、ドラゴンが近づいているのだ。

人質だった村娘は三人。
そこらへんで足をくじいてる人、ランシスがとらえていた人、
あと一人探し出せば全員か。


「ひ、ヒェッ……!!……グエッ!?」

ランシスがはいつくばって逃げようとするところを踏みつける。

お前はあとでしょっぴく。


「騎士さまああああああああ!!」


ドラゴンが目前に近づく。この距離なら、爪で切り裂かれてもおかしくないというところまで。

そこまで来たら、俺は一言、ドラゴンに向かって声を放つ。


「お手!」


「ガウ!」


なんとドラゴンがお手をする。

その状況にぽかんと口をあけるルルミィや盗賊たち。

絶望的な表情をするランシス。



たった今、この場の生殺与奪の権が……俺に移った。

―――――


盗賊どもを憲兵に引き渡してやろうと思ったが、近くにそんな憲兵などいないらしい。
仕方ないので、ロープで縛ったまま、「次何かしたら今度こそ殺すぞ」と念を押しておいた。

涙目でビビってたので効果はあっただろう。


ついでに盗賊のアジトを聞きだし、金銀財宝を持てるだけ持って爆破しておいた。

こんな時に役立つのがリセの証だ。


しかし味方を巻き込む広範囲白魔法爆撃ってどういう事なんだろう。
危険すぎないか。

アジトを壊滅させた俺たちは、村娘を連れて村へ戻った。


―――


「おお……ありがとうございます。ありがとうございます……!」


村人たちが必死に頭を下げる。
やめてほしい、なんか居心地悪い。


「騎士様っ!」

ボフッ、と俺の胸に何かが飛び込んでくる。ロレッタだ。

「心配したんだからね」


すごく怒っている。
だが、こうして無事に帰ってこられたのだ。

せっかくだ、助けてくれたアイラも……。

あれ?

と、アイラは何故か村の入り口の方で待機している。


「アイラ」と声をかけると、困った顔をしてはにかむ。


「騎士さま、多分、気を使ってくれてるです」


何を気にする必要が、と思ったが、そうだ。

アイラは常にドラゴンと共に行動しているため、彼女が村に入るということは必然的に……。


これはリセが泣くパターンじゃないか……。


そうならないよう、涙目でこっちに抱きついていたリセを離し、皆に事情を説明する。

……


「ドラゴン……?本当に、あのドラゴン?」


モリアナが凄く驚いた表情をする。それだけ珍しいのだろうか


「いや、ドラゴンは珍しくないよ?」とロレッタ。

珍しくないなら、なぜ驚くのだろう。


「でも、ドラゴンと出会って、五体満足で帰ってきた人は珍しいよね」

村人たちがうんうんと頷く


マジかよ。ドラゴンこええ。


「ふぇぇ……ドラゴンは、み、ミスタルシア最強の生物と呼ばれているですぅ……」


そら五体満足で帰れないわな。


「特に、ここミスタルシアの守り神、『バハムート』それがドラゴンであるという事から、
この世界で最強の生物はドラゴンだと言われておるのです」


村長が補足してくれる。そんなのを連れ歩くアイラこそ何者なんだよと言いたくなる話だ。


しかし、アイラには借りがある。むしろドラゴンに借りがある。
俺はせっかくだから、と思い提案する。


「あのドラゴンは……人を襲うような奴じゃない。村に入れても大丈夫ですか?」


皆、一様に困った顔をする、が……。


「き、騎士様がそういうなら……あたしはいいよ!」

ロレッタががんばる。

そのがんばりが功を奏したのか、村人たちも次々と賛成してくれた。

―――

「は、はじめまして……アイラ、です」


おどおどとあいさつをする。もちろん村人たちもおどおどしている。
部屋の前でドラゴンが待機しているからだ。

ロレッタは顔が引きつり、モリアナは珍しいものを見る目で、
リセはもう半分泣いてる。必死に皆でなだめている。


「き、騎士様、やっぱり……」

アイラが「やっぱ帰るよ」と言わんばかりに袖をひっぱる。
まぁまぁ。


「俺はこの子に助けられたので、お礼や褒賞はこの子にお願いします」

そう言うと、アイラは顔を赤くし、下を向いておろおろする。


村人たちも、「救ってもらったのだから」と徐々にアイラとドラゴンに対して好意的になっていく。



最終的には、皆で復興作業をしながら笑いあえるようにまでなっていた。
ドラゴンも、襲わないとわかれば可愛いものなのかもしれない。




こうして、今日も夜が更けていく……。

今回はここまでです。
実はモリアナ、アイラはベビーエルフのメイとともにハイレア化しており、三人で仲良くしている様が公式で描かれてます。

知らない人も多いところなので是非描いていきたいですね。

バハSSは全然見ないですよね……。
無課金でも色々カードを手に入れる方法はあったりしますが、代わりに時間を消費しますからね。

では再開します。

#8『ベビーエルフ』


とある森の中で、少女は洗礼を受ける。


「これであなたも、立派なエルフです。
これからは、この森を守るため、人間と共に生き、戦う事を許します」


「はい、大教主さま」


見た目こそ幼いが、彼女はもう20年以上、この森で鍛錬を積んできた。


ようやく……その縛りから解放されるのだ。


「まずは……近くの村、ウィル村での復興作業の手伝いを命じます」


洗礼を受けていきなり雑用か、とすこし少女はむくれっつらになる。

だが、これも大人としての仕事と思うと心が躍り、一気に表情が明るくなる。


まだまだ子どもね。

洗礼を与えた大教主と呼ばれるエルフは、そう思いながら微笑むのであった。



――――

ベビーエルフ(ノーマル)
http://i.imgur.com/wgxhhkq.jpg

―――


「迷ったの……」


早速である。


洗礼を受けたとはいえ、20年間も森の中で暮らしていたエルフがそう簡単に村へ辿りつけるわけがない。

ちなみに洗礼こそ受けているが、彼女はまだ全くもって大人ではない。
普通に勘違いしているだけだ。


エルフにおける『洗礼』は森の外での活動、つまり保護下でない所で活動するという事を指す。

人間で言えば、「一人で友達の家に遊びに行っていい」程度だ。


要するに、まだまだ手のかかる子どもというわけだ。


そういった状況で様々な経験を積み、心身共に成熟し、
初めて、『大人』と呼ばれるようになる。


―――ふと彼女は、邪悪なるものの気配に気づく。


「……近くに、誰かいる」


エルフは悪、または魔族に対する気配察知が得意である。

遠くから感知し、弓矢で先制攻撃を行う事こそがエルフの本領だ。


キリリ、と弓を構える。


「キーッ!」

構えた先に現れるゴブリン、しかし、


「そこっ!」


「ギギィッ!」


破邪の力を込めた弓矢で一撃。

これぞ、エルフの強さである。

「やった……一人でも、ちゃんと勝てた!」


これならば、この道中も楽勝――、その油断が、一瞬の隙を生む


「グヘヘヘ……」


「エルフダ……」

「エルフノコドモカ……」


物陰からぞろぞろと現れるゴブリン。


そう、実際の戦闘では、敵が一人とは限らない。


「こ、これは……もしかして……ピンチってやつなの?」



もしかしなくても、ピンチに陥っていた。

――


「路銀を稼ぎたい……と?」


「はい、旅に出たばかりなので……実入りの良い仕事などあれば、と」


俺は村長に、今後の事について相談していた。

ていうかぶっちゃけ、お金がないのでいい仕事ないっすかねぇ~って感じだ。


「この財宝をいくらか持っていけば、換金できると思いますが」


盗賊どもから巻き上げた金銀財宝。しかし―――


「いや、それは復興に使ってください。僕らのせいって部分もあるので」


そこで財宝を受け取らないのがかっこいい騎士さまである。

何故かルルミィのテンションもあがる。

「騎士さま、素敵です!」


「だろ?」


と、ちょっと冗談めかして言ってみるが、女性陣は普通に評価してくれてるようだ。
この世界では、お約束、お決まりといったものが無いので、このような行動は『普通にかっこいい』のである。


「はは……騎士殿には頭があがりませんな。それなら、オーライン国で討伐隊に参加してみてはいかがでしょうか」


オーライン国?討伐隊?

いきなりの新ワード続出でよくわかんなくなる。


「オーラインはこっから東に行ったところにある国だね。
強い兵隊がたくさんいて、モンスター討伐にお金を出してるんだって」


ロレッタが軽く説明してくれる。


「なるほど、そこでモンスターを狩りまくればいいってことですね?」


わかりやすい。つまりモ○ハンみたいなやり方でガッポガッポ儲けるという事だ。

「ええ、現状、ドラゴン以上に恐ろしい魔物などおりませんし、騎士殿ならそう難しくないでしょう」


ドラゴン強すぎ。


「じゃあさっそく、オーライン国へ向かいますね」


そう言って出発しようとすると、ロレッタが目の前に立つ。


「騎士様」

「なんだ?」

あえて軽々しく返答する。質問の内容などわかりきっているのだが。


「あたしも連れて行って」


「ダメだ」

「どうして!?」


即答。

当たり前だ。


「お前にはこの村を守ってほしい」


そう言うと、ロレッタが目を伏せる。
村を守る事の重要性がわかっているからだ。


「リセ、モリアナ、アイラ……お前たちもここに残って、村を守っていて欲しい。
おそらくまたきっと、ここも危なくなるだろう」


魔物の凶暴化

盗賊の残党

その他様々な問題を考えたとき、強力な魔術、剣術のできる人間は必要だ。


皆、三者三様に複雑な顔をする。


「あの」


意外にも、一番早く答えを出したのは、リセだった。


「わ、私は……ここに残って、む、村を守ります……。
私でも……私でも役に立つっていうところを……しょ、証明したいですぅ……!」


いつになく強い口調のリセ。

その言葉に、皆が動かされる。


「リセがそういうなら、アタシも残るよ」

モリアナが、すぐに答える。

人を信じる事のなかったはずの彼女が、こう答える。


それはつまり、大きな心の変化を表している。

「私も、ここに残るよ……このコを怖がらないでくれる所なんて、
探しても中々見つからないだろうし」

ドラゴンを撫でながらアイラが言う。

これで、残らないと言ったのはロレッタだけとなる。


「……ずっこいよ」


「そうか?」


「……必ず、帰ってきてよね」


「保証はできないな」


「じゃあ探しに行くよ。この村を守る人を他に見つけて」


「それならいいか、待ってるぞ」


「……うん」


ロレッタはかみしめるように頷く。


そしてルルミィを見ると―――


「わ、わたしは一緒に行くですよ!?」


超焦ってる。うん知ってるから。

――――


こうして俺たちはウィル村を出発した。

短い間だったが、すごく居心地の良い村だった。

また、復興が終わったら遊びに行きたい。


と、オーライン国へ向かう道中、またしても少女と出会った。


出会いすぎだろ。

しかし、何だか様子がおかしい


「ハァッ……ハァッ……!」

少女にはところどころ傷を治した跡があり、服も破れ、汗をかき、必死の形相である。


「――ッ、人間!?」

え、まずい、人間嫌いな種族だろうか。

「どうした?何か……」

言葉を遮るように少女が叫ぶ。


「おねがい!早く逃げて!私は魔物に追われているの!このままだとキミも危険だから―――」

そう言うが早いか、物陰からゴブリンが飛び出してくる。


「ギギーッ!!」


数は3~4匹。しかし、並び方が悪かったな。そんな綺麗に一列だったら……。


「『テイルウィップ』!!」


ラミアの証を掲げ、能力を発動する。

証の持つ能力は『テイルウィップ』。その効果は―――



「グギャアアアッ!?」


その名の通り、ラミアさんのしっぽによる一撃を再現してくれるのだ。

ゴブリンが綺麗に一列だったので一網打尽。ゴブリンは綺麗に消えてルピや証が残る。


「………あ」


少女はぽかーんと口をあけている。


「さ、詳しく話を聞かせてもらおうか」

―――


話を聞くと、彼女はベビーエルフで、『メイ』という名前らしい。

ベビーエルフではなくいっぱしのエルフだと本人は名乗るが、

「洗礼はいつ受けたです?」

「さ、さっきだけど……?」

「一人前のエルフになるには、幾多の戦闘を乗り越え、精神的な成長が必要と聞いてるです。
洗礼を受けたところだったら、まだベビーエルフです?」

というルルミィの指摘に、がっくりと肩を落としてベビーエルフですと名乗りなおした。

てか、エルフ事情に詳しいんだなルルミィ……。


「……」

しかしこの子は時折ぽけー、とこちらをじっと見ている、何かあったのだろうか。


「どうした?俺の顔に何かついてる?」


「……きしさま」

「何?」

「……えへへー」


ニヤニヤしている。わけがわからん。
ルルミィを見るとなんだか不機嫌そうである。

「ルルミィ、これどういう事なん」

「知らないです。勝手にモテとけばいいです」

ぷんぷん。と口で言うところも可愛い。

むむ、話を聞く限りだと、このエルフの子は俺にぞっこんLOVEということか。

こんな保護対象を増やせばまた危険が増えそうだしな……。


「あ、そういえば」

ルルミィが口を開く。


「洗礼を受けた後は、共生のための仕事があったはずです?」


エルフ文化にやたらと詳しいルルミィ。お前は一体何者なんだ。


「えへへ~そんなのはもうどうでも…………よくないのッ!!」


くわっ!と目が見開かれる。
どうやらよほど重要な事らしい。


「ウィル村……ウィル村っていうのを探してるの!ど、どこにあるか知らない!?」





ウィル村と言えば……。


――――



実質徒歩五分と言うすごい近い所に案内してあげた。
ベビーエルフのメイちゃんも「まさかこんな近くとは驚きなの」と驚きを隠しきれていなかった。
ていうか偶然でここまで来るとか、運いいね君。


名残惜しそうにこちらを見続けるメイちゃんを後目に、俺たちは再び出発するのであった。

今回はここまで。
マジでストーリーが進まなくてびっくりしてます。

イベントは(一応)つながってたはずですね。
登場キャラが顔見知りという点から見て、時系列もたぶんイベント通りだったりするはずです。
なので騎士様は「皆死んだけどビーチバレーしてくるわwwwww」って感じのキャラに……。

あとマナリア編はやる予定です。
しかし、構想通りにやっていくと大分後になってしまうという弊害が……。

まぁとりあえず再開します。

#9『ドリアード』


俺たちはモンスター討伐で金を稼ぐべく、オーライン国へ向かっていた。

正直まったく道がわからないので難航すると思っていたが、ルルミィが普通にわかるらしい。
伊達にトレジャーハンターをやってないという事か。


「というよりも、わたしはオーラインの方面からこちらに来たですよ。
マヌカーン遺跡の秘宝が、もしかしたら聖宝かもと思ってです」


なるほど、つまり念願の聖宝の情報を聞きつけ、はるばるやってきていたという事か。
トレジャーハンターも大変だな……。


ちなみに俺たちが歩いているのは最初に俺が飛ばされた森。
いやあ、ここでルルミィと出会ったんだよな……。


などと考えながら歩いていると――。

歩いているとー……。


ある……あれ?

ルルミィさん?まだ着かないんですか?


「へ?何言ってるです?まだ半日も歩いてないです……?」


えっ


「一時間くらいで着かないの?」


「むしろなんで着くと思ったです?」


なんという事だ。俺は適当に一時間くらい歩けば着くと思っていたが、全くそんなことはないらしい。
ファンタジーの世界を舐めていたようだ。


「電車とかバスとかもねぇのかよ……」


「でんしゃ……?デンという生き物がいるです?」


そらわからんわな。一時間という概念はわかるようだが。

そんなほのぼのとしたやりとりをしていても魔物は現れる。
といっても、ラミアさんみたいな強力なものはおらず、ゴブリンやスケルトンといったザコばかりだ。

「オラァ!」

剣の扱いに慣れてない俺でも瞬殺である。

ふと疑問がわく。

「強い魔物は出てこないのか?」

これだけ深い森だ、凶悪な魔物が出てもおかしくない。
それとも、たまたま会わずにいられるだけなのであろうか。


「出てくるですよ?」


出てくるんだ。


「でも、強い魔物ほど、相手の力量を理解できるですよ。
今の騎士さまに勝てる魔物は中々いないので、見つけても襲わないってことだと思うです」


なるほど。

どこの世界でも、強い奴は油断がないということか。
というか俺、そこまで強くなってたんだな。道中女の子に助けられることしかなくてわからなかったが。

「そういえばルルミィは、道中強力な魔物に襲われたりしなかったの?」

「襲われたですよ」


やっぱりか。もう見た目からして尋常じゃなく弱そうだもんな。
食物連鎖で言えば最下位に位置すんじゃないかってくらいだ。

だが、それならば……。


「よく、生きてこられたな……」

「自分でもびっくりしてるです。正直、ゴブリンの大群に追われた時は本当に死を覚悟したです」

「その時はどうやって凌いだんだ?」

「騎士さまが助けてくれたです?」


あっ。

あれか。あの時か。

「じゃあ俺、もしかしてタイミング良かった?」

「そうですよ。もし騎士さまがいなければ、わたしはここに骨を埋める結果になってたかもですから」


背筋がぞっとするセリフだ。
もし俺が来なければ……このかわいいかわいいルルミィは死んでいたかもしれない。
そう考えると……ここに飛ばされたのも偶然ではないのかもしれない。


「ですからわたしはあの時から……騎士さま?どうしたです?顔がこわいです」

「あ、ごめんごめん」


すこし考えすぎていたようだ。ていうかさっきから三時間以上歩いているがまだ森を出ない。
ていうか暗くなってきた。これはまずいんじゃないか。

「ルルミィ、このまま歩いて、オーラインに着くのか?」

「今晩はこの森で野宿するです」


野宿……野宿か。
都会っ子である俺からすればキツいことだ。

温かいベッドとウオシュレットのトイレが懐かしい……。

まぁそれは、女の子であるルルミィの方が辛い問題だろう。
そう思いルルミィを見ると、


「ふんふふーん、ふんふふーん♪」


なんと鼻歌混じりである。


あれっ……別に辛くないんじゃねぇかなこれ。
むしろ余裕なんじゃないかな。

「……野宿って大変じゃないのか?なんか楽しそうだけど」

「大変ですよ?」


即答である。そらそうだ。


「虫はいるですし、トイレもないですし、寝てたら魔物が襲ってくることもあるです。できるなら避けたいですね」


至極もっともな意見である。ていうか割と大変なんじゃないのか。
よく今までトレジャーハンターなんてやってられたな。


「でも今日は、騎士さまがいるです」


えへへとはにかみながら言うルルミィ。俺がいるのといないのでは、やはり戦力的に雲泥の差なのだろうか。
夜の見張りとかしなきゃいけないのだろうか。


「やっぱり、俺がいるとモンスターへの対応も違ってくるか」

「ん?ああ、それもあるですけど……」


それも、と言う事は他に大事な事があるようだ。


「ずっと一人だったですから、誰かと一緒にいられるだけで、幸せです」



………。


……………。


想像以上にヘヴィな意見だった。

そうだ。すっかり忘れていたが、この子はこの幼さで一人旅を強いられているのだ。

その心細さと言ったら、半端なものではないだろう。


「そういえば、今日は野宿と言っても、ちゃんと泊まるところはあるですよ?」

「野宿なのに泊まるところがあるのか?」

「えへへ、それは行ってからのお楽しみです」


にこにこと笑いながら話すルルミィ。

命の危険があり、電気もガスも水道もなく、移動手段も徒歩しかなく、
その上今夜は野宿であるというにも関わらず、この笑顔である。

かわいい……かわいいのだが、やはり俺とは全く違う世界で生きてきたのか、とふと不思議な気持ちになる。


カルチャーショックのようなものを受けつつ。俺たちは森を進む。

――――


結局あの後数時間歩かされ、既に周りは真っ暗。

ルルミィの持つカンテラのおかげでかろうじで足元と目の前くらいは見える。


「これ、もうそろそろやばいんじゃないのか?」

「もう着くですよ、ほら」

そうルルミィが顔を向けると、何故か森の一部が明るくなっている。

コンビニかな?


光のある方へガサガサと入っていくと……そこには『聖域』とでも呼べるような美しい空間が広がっていた。

何故かあたたかな光で照らされ、花が空間を彩る。
うっそうとした暗い森の傍にあるとは思えない、ほのぼのとした空間だ。


俺がしげしげと辺りを見回していると、女性に声をかけられる。


「ルルミィちゃん……また来てくれたの?」

「お久しぶりです」


どうやら知り合いとはこの人らしい。

明らかに人外とわかる見た目をしている。透き通るような白い肌に、ツタや草が絡みあって服のようなものを形成している。
顔は整っているが、ほんのりとした表情からは優しさや可愛らしさが伝わってくる。
葉を模したような髪飾りに緑の髪の毛、赤い目がなんとも印象的だ。


「……その人は?」

「騎士さまです!わたしを助けてくれた、命の恩人です!」

「そう……ゆっくりしていってね」


ニコニコと対応する女性。こんな夜中に訪ねておいて、嫌な顔ひとつ見せず、
それどころか心から歓迎しているようにさえ感じる。

いったいどういう知り合いなのだろうか。


―――

ドリアード(ノーマル)CV:伊藤かな恵
http://i.imgur.com/dMupL0Y.jpg

「……彼女は?」

「ドリアードさんです。この森で迷ってたら、何故かここで会ったですよ」


なるほど、偶然あって仲良くなった系か。

そしてドリアードといえば、元の世界でも有名なモンスターだ。
木の精あたりで、たしか自分の木を大切にし、それを傷つける者は殺すとかいう物騒なモンスターだ。


「えっと……お菓子はどこにしまったかしら」


何故かお茶とお菓子を用意しようとしており、
急な来客にうきうきしつつもあたふたしている彼女からは、そういった物騒な気配全くもってしないが。

「ほへー。ここは魔物が襲ってこないから、のんびりできていいですね」


しかし、俺の隣で干し肉をもしゃもしゃしながらのんびりしているこの小悪魔でさえ命のやりとりをしているのだ。
彼女もまた、危険なモンスターであってももう驚かないぞ。

「お茶とお菓子でもどうぞ……?お口に合うと嬉しいんだけど」

そわそわしながら用意するドリアードさん。
この人もあれか、友達少ない系か。


「ここに来る人って少ないんですか?」

「少ない……そうね。すごく少ないわね……本当、ルルミィちゃん以外でここに来たのは……数か月前に一人……だったかしら」

「少なッ!!」


少なすぎる!


「ここは魔物が入りづらい聖域で、かつ人間には到達し辛い森の深部だからですね。
妖精くらいしか来ることはないんじゃないかと思うです」


なるほど……。


「だから……お客様が来るとついはしゃいじゃって……ごめんなさいね?」

「ああ、いやいや、そういう所も可愛いと思いますよ」

「可愛い……?」

しまったつい口が勝手に。

「……」


ルルミィ、足を踏まないでくれ。


「ふふふ……ずっとこうしていられたらいいのに」

笑顔でそうつぶやくドリアードさん。
なんだかヤンデレチックで怖いぞ。お茶とお菓子は美味しいけど。


「ねぇ、貴方は旅人なの……?」

「ええ、まぁ。正確に言えば異世界人ですね」

「異世界人……?」

「ここじゃない別の世界から飛ばされてきました」

「こ、ここじゃない別の世界……?ミスタルシアじゃなくて……?」

「ええ、ニホン、トウキョウっていう所から来たんです」


あれ、なんかおかしい……?まぁいいか。
これもしかして、ミスタルシア語になってる?


「ニホン、トウキョウ……どんな所なの?何があるの?どうしてこの世界に……?」


質問が多いな!


「それはわたしも気になるです。騎士さまの元いた世界は、どんな所だったです?」


ルルミィも興味深々である。
仕方なく。俺は元いた世界の事を話すことにした。

――――


で、なんだかんだで一時間くらい話した。

電車やバスがあり、魔法はない事。

そもそも人外娘はおらず、人間と動物しかいないこと。

機械という画期的なシステムがある事……これはこっちにもあるらしい。
魔力で動く機械兵なんてのもいるとか。

この世界にこれて割と幸せであるということ。

ルルミィやドリアードさんがとにかく可愛くて愛らしいという事。


なんかを話した。


「そんな世界が……」

「にわかには信じがたいですが……今の騎士さまを見ると、嘘をついてるようには思えないです」

二人とも、驚きを隠せないようだ。


「むしろ俺からすれば、魔法のほうがよくわかんないんだけど。それどうやってんの?」

「どうやってんの、と言われてもですね……」

「魔法は……そうね……なんか……こう……なんとなく……できるように、なる?」


曖昧である。

すっげぇ曖昧である。全く参考にならない。

できるなら俺みたいな一般人でも使える魔法を知りたいのだが……。


「皆、子どもの頃に親から習うの。私はこの森に教えられたから……」

「喋ったり、歩いたりするのと同じことだと思うです。昔からできないなら、ずっとできないと思うです?」


そういわれると説得力があるな。
確かに、幼少の頃に喋れない子ってのは、手術でもしないと……ん?

それってつまり、無理やり、俺のような奴でも魔法を使えるようになるんじゃないのか。


「魔法の才能を開花させるアイテム、ですか……」

「聞いたことないか?」

「そういう珍しいものって……やっぱり聖宝なんじゃないかしら」

と、ドリアードさん。

聖宝はそこまで万能なのか。

「というより、魔法を使えない人というのは、むしろ使えない呪いをかけられていることが多いです。
とにかく騎士さまの世界は知りませんが、こちらの世界では、魔法を使えないほうが不思議ですよ」

「決定的に魔法の才能が欠けているということか……」

「でも、証は使えたですよね?」

「へ?」


証、そういえばあったなそのシステム。
というか本家バハムートでは証(カード)以外の攻撃手段がないよな。


「証は魔力を一気に消費する上、持つ事自体に制限があるです。
今の所騎士様が無制限に使えるように見えるということは、魔力自体はたくさんあるです?」


そうなのか。


「そうね、証が使えるなら……魔法もできるんじゃないかな?」


おお!これならいけるかもしれない!

「ちょっと魔法のやり方とか教えてもらっていい?今ならできそう」


二人は目を見合わせて――。


「えっと……」

「なんか、こう、手の先にぐーって感じで……」




やっぱ曖昧なんだな……。



手の先にぐーっと力を入れる。

何も起きない


「灼熱たる炎よ、わが魔力によって……」


詠唱っぽいことをしてみる。

何も起きない。


手をぶんぶん振り回してみる。


「危ないです?」


何も起きない。注意までされた。

「……き、騎士さまは強いですから魔法なんていらないですよ!」

「そ、そうよ……男の価値は魔法じゃないんだから……!」


フォローが痛い。
子どもですらできる事がこのかっこいい騎士様にできないって……。

割と落ち込むが、まぁこれもチート系主人公ゆえの悩みなのか。


しかし逆に考えてみる。


魔法が使えないなら、もっと他の事ができるのではないか。


「そういえばルルミィ」

「はいです?」

「証って……使うのに魔力がいるとか言ってたよな」

「そうですね。強力な証はそれ自体が貴重なので詳しくないですが、証を連続使用する人はそうそういないですね」


俺が持っている証は結構たくさんある。

ラミア、クーシー、リセ、ロレッタ、アイラ、モリアナ……
他にも道中でなぎ倒したモンスターのものなどがあり、複数使用を試すにはもってこいだ。


流石にここではやらないけど。


「あ、そういえば」

と、ルルミィがカバンを探る。


「これが、わたしの証です。どうぞです」


ぽん、と証を手渡される。
カバンに入ってたのか……。


「これは……そんな軽々しくもらってもいいものなのか?」

「それは人によるです?証は全ての生物が一つずつしか持てないですから、一回しか渡せないですけど」

「はっ!?」

「夫婦がお互いの証を渡しあうという話も聞くですね。えへへ」

照れ笑いするルルミィ。
これ、そんなに大事なものだったのか。

「証を破壊すれば……本人も殺すことができるという噂があるわね。
実際に破壊したところを見たことがないから詳しくは知らないのだけど……」

ドリアードさんからも説明が入る。
俺はよほど大切なものを貰ってしまったのではないだろうか?」

「大切にしてくださいです?」

「も、もちろん!」


急に証の価値が上がってしまって怖い。
腰のカードホルダーに力がこもる。てかこれなんで持ってたんだろう。


「じゃあ私からも、はい、どうぞ……?」

「えっ」


ドリアードさんからも証を手渡される。
これ、そんな軽いもんじゃないんじゃ……。

「ふふ……。いいの。どうせ今後も渡すことなんてないんだから……ね?」

にっこりとほほ笑まれ、思わず受け取ってしまう。
ルルミィ、だから足を踏むのはやめてくれ。


しかし、これで明日少し試したいことができた。
もしかすると俺は魔法を使えない代わりに、すごい事ができるのかもしれない。

そう考えるとわくわくしてきた。


「さぁ、もっとお話しましょう……?」

ドリアードさんが紅茶のおかわりを淹れてくれる。

いやでも、僕ら明日朝出発するんで……。

「流石に寝るです」

きっぱりと言ってくれるルルミィ。この子、イケメンだわ。

「そうなの…………………」


ものすごく落ち込んでる。

「ま、まぁいいじゃないかルルミィ、ちょっとだけ……」

「後で後悔しても知らないです?」



えっ?


「それじゃあ何のお話からしようかしら……ええと……じゃあ私の生い立ちから―――」




その後、ドリアードさんとのお話は日が昇るまで続いた。
俺はルルミィの言葉に従わなかったことをひどく後悔するのであった。

今回はここまでです。次回!オーライン王国!
ていうか早くマナリア編を書きたいです。

騎士様に魔法の才能はないです(断言)
でも闇でも光でも幽霊でも切り裂けるから、魔法剣の可能性が微レ存……?

ゆぐゆぐは出ないと思います。しかしモンスターが豊富な森の守り神なので、
どうしても登場する機会はあるかもしれません。

という訳で、再開します。

#10『スタディングサモナー』


翌朝、俺たちは森を出発した。
正直寝不足だったのでもう一日ここで休んでいきたいと申請したが、却下された。

ひどい。

その代わり、ドリアードさんが治癒魔法をかけてくれた。
治癒魔法って寝不足に効くの?と思ったが、みるみるうちに頭がスッキリし、8時間睡眠の後のようなすがすがしさが俺の体に現れる。

魔法ってすごいんですね、と言うと、「治るのは気分だけだから、今日はしっかり寝てね?」と釘を刺された。
やはり魔法も万能ではないということか。


「そういえば、ルルミィは治癒魔法って使えないのか?」

「治癒魔法とは相性が悪いです」


ほう。


「魔法については……適正やらがいろいろあるです。道中でまた話すですよ」

ルルミィは本当色々詳しい。こいつ本当に10歳か?
いや……見た目で判断してこそいるが、年齢はまだ聞いてなかったのか。

―――――



「そういや、ルルミィって何歳なんだ?」

「生まれてからの年齢です?それとも悪魔としての年齢です?」

「区別があるのか」

「そうですね。人族、魔族、神族……それぞれで色々な特性があるです。
さっきも言ったですが、魔法に対する適正もそれぞれで違います」

「へぇ……種族によって違うもんなんだな」

「まずわたしの年齢ですが、生まれてから16年経つので、人間としては16歳。
3歳の時に悪魔と化して13年ですから、悪魔としては……9歳程度だと思うです」


16歳!?
これ本当に16歳か!?

身長だっておそらく140cmもない。全体的に幼女と言って差し支えないスタイルだぞ!?


「その、悪魔年齢9歳程度ってのはどういう計算なんだ?」

「悪魔は2年に一度歳を取るです。悪魔としての年齢は人間であった時の年齢に、悪魔としての年齢を足したものになるです」


3+2/13って計算か……なるほど。およそ9歳という言い方が正しいな。

「つまり……9歳ってことでいいのか?」

「外見年齢に関しては間違いないですね」


なるほど。これでルルミィのギャップに合点がいく。

子どものような見た目に反して、やけに色々な事に詳しく、その上頭の回転も速い。


「人間はわかるからいいか。神族はどんな年齢計算なんだ?」

「神は……年齢なんて気にしない事が多いです。不死に近い人が多いですから、100年を基本の区切りとするです」

「ひゃっ……!?」

「さっきのドリアードさんも、1600年前には既にあの森にいたそうです。探せば『0の刻』以前からここにいた人も見つかるかもですね」

「0の刻?」

「この世界の歴史が始まったと言われる刻です。人間の歴史基準なので、神族なんかにはあんまり関係ないかもですが……」

「へぇ、じゃあ神族に聞けば、歴史の中の事実とかもわかるってことか?」

「そうですよ。だから考古学者達は森や洞窟に行き、神族を訪ねるです」

「あのドリアードさんも色々詳しかったもんな」

「はいです。ただ、森の中から出る事さえできないので……森の中の事以外については詳しくないと思うです」

「ああ……神が歴史をちゃんと観測してるとは限らないってことか」

「そうですね。だから学者さんたちも大変らしいです」

「なんかそっちの事情詳しいのか?」

「トレジャーハンターは、地元の地形などに詳しい考古学者と組むことが多いです。
情報の提供の代わりに、歴史的なアイテムを渡すですよ」


なるほど……まさかそんなところで共闘関係にあるとは。


「そういや、さっき言ってた魔法適正って?」


「これも、種によって違うです。魔族は攻撃魔法の才能適正、神族は治癒魔法の才能適正、人族は双方を均等に。あとは召喚魔法に適正があるです」


へぇ……。つまり攻撃じゃ魔族に勝てなくて、治癒なら神族に勝てない。
なので召喚でなんとか戦うって感じか。


「器用貧乏だな」

「そうでもないです。わたしは治癒が下手くそなので苦労したことも多いです……」


ほう……とため息をつく。

「治癒ってそんな便利なのか……いや便利か」


骨が折れてもキュアウオーターで治る世界だ。おそらく頭痛生理痛寝不足突然の腹痛とかにも治癒が効くのだろう。
やべぇ。治癒魔法すげぇ欲しい。

「……俺も魔法を習得したい」

「最悪、マナリア魔法学院に行けばなんとかなるです?」

「マナリア魔法学院?」

「ここミスタルシアで最も優れている魔法の学び舎です。
そこに行けば、ほとんどの人は上級魔法までを習得できると聞いているです」

「ほう……?」


なんてすごい所だ。この才能ゼロの俺ですら魔法を使えるようになるのだろうか。

「騎士様はおそらく潜在魔力が高いですから、もしかしたらなんとかなるかもですね!」


にこっ、とルルミィが微笑む。
もしかしたらなんとかなるかもって、よほどなんとかならないんじゃ?


そんなこんなで5時間くらい歩いていると、オーライン国らしきものが見えてきた。

―――


「おおー……でかい国だな!」

大きな外壁に覆われたその国は、まさに『戦う意思』を強く感じさせる。
正門が一つだけあり、そこにも門番が一人立っている。

近くに高台があり、敵の侵入を容易に感知できるようになっている。


流石、討伐隊を派遣するだけの事はある。


「あー、すまん、そこの人、止まってくれ」


門番がゆるい口調で止めてくる。『何者だ貴様!!止まれ!!』とかはないのか。


「ああ、旅人さんかい?どう……ちょっと待ってくれ、そっちの子は?」


門番がルルミィを一瞥し、怪訝な顔をする。


「……元は人間だったですけど、呪いで魔族になってしまったです」


不本意そうにルルミィが言う。
彼女なりに、魔族である事を気にしているのかもしれない。


「そうか……うーん、俺の一存で入れるのは難しいな。
こんな子供だから、問題はないとおもうんだが……」


と、門番が悩む。

ていうか、魔族ってだけで駄目なのか……?


と、悩む俺に、ルルミィが耳打ちしてくれる。


「ここは聖域を用意して、魔物の討伐を行う程の国です。
もし魔物にうっかり侵入されでもしたら、拠点を奪われ大変な事になっちゃうです」


なるほど。

敵の侵入があるかもと警戒を強めているわけだ。

こんな小さなルルミィでさえ警戒するとは……よほどの事なのだろう。


「お、デリックさんじゃないか!ちょっと来てくれ!」

街の中に兵士が引っ込んでいったと思ったら、大声で誰かを呼んでいるようだ。
すると、一人の騎士のような男が現れる。


「どうしたんだい?」

「ああ、彼らなんだが、魔族連れなんだ。俺の一存で入れていいのか迷ってしまってな……」

「魔族連れ?こんな小さな子どもなら、入れても問題はないんじゃ……」

そう言いかけたデリックと呼ばれた男が、俺を見て静止する。



「なるほど……」


何がなるほどなんですかね。


ふと横を見ると、ルルミィもうんうんと頷いている。
お前はこの状況を理解しているというのか。


「ちょっとめんどくさいことになってるですよ」

「ほう?」

「わたしは無害な小悪魔と判断されたです。しかし、その小悪魔を明らかに腕の立つ騎士が守っているのですから、
これは不自然ですし、警戒もするです」


という事は、ほとんど俺のせい……?


「なので、わたしは別に気にしてないです」


にっこりとほほ笑むルルミィ。
よかった、ちょっと傷ついてんじゃないかと心配したんだ。


「ついてきてくれ」


騎士が俺たちに向かって言う。あ、この騎士ってのは俺の事じゃないぞ。
街の騎士だぞ。しっかりした鎧に金髪。明らかに強そうな男だ。


―――

ディターミンナイト(レア)
http://i.imgur.com/c8FTHqo.jpg

――――


広場のようなところに連れてこられた。


「君たち……いや、君の実力が知りたい。
ここで僕と模擬戦をしてくれないか」


模擬戦ってそんな。


「武器はこの木剣だ。もちろん殺す気はない。
明らかに勝負がついたら決着ということにしよう」


えぇ~……木剣でも人は殺せるんだぞう……。
と思いつつも、このままでは埒が明かなそうなので、しぶしぶ決闘を受ける事に。



と、それを受けてデリックという男が声を高々に上げて周りに宣言する。


「皆!聞いてくれ!本日から我々の仲間となる勇敢な騎士だ!」


ざわざわっ、という人々のざわめきと共に、周囲の視線が俺とデリックに注がれる。


「彼は妹が呪いで魔族になってしまった!その呪いを解くため、こうして旅をしているそうだ!」


と、こっちがしていないでっちあげの説明をしてくれる。

しかしその瞬間、ルルミィを見る周囲の目が急に温かくなるのを感じる。


確信した。こいつは、いい奴だ。



「そこで彼の実力を確かめるため、これから模擬戦を執り行う!」


おおーっ!と声があがる。

火事と喧嘩は江戸の華、という言葉があるが、ここでも騎士同士の戦いというのは見ものなのだろう。

観客のボルテージが一気に上がっていくのを感じる。


「騎士さま!がんばってくださいです!」


俺の背後からかわいい声援。これは、負けられない。


「あのさ、最初に一つ確認したいんだけど……」

「ん?なんだ?何でもどうぞ」


今なんでもって……いやいや。
とりあえず俺は、ルールを確認する。


「魔法とかは使っていいのか?あと、証とか……」


「魔法剣士なのかい?言わなくても使っていいに決まってるだろう!
証は……もちろんいいが、大丈夫かい?一度使うと、数日は使えなくなるが」


え。

そんな事はない。俺の証は、一度使っても数時間で元通りだ。
ものによっては数分とかで再使用可能になるものもある。


「まぁ、使っていいならいいわ。ありがとう」

「ああ、他にもわからない事があればなんでも聞いてくれ!あと、手加減はいらない、全力で来てくれ!」


さわやかでいい奴である。

こういうキャラは得てして強いので、決して敵に回したくない。


すると、審判らしき男が現れる。


「双方、準備はいいかね?」


コクリと頷き、俺たちは一定の距離を取る。


シン……と場が静まりかえる。



「それでは……始めッ!!」


デリックが素早く距離を詰めてくる。が、遅い。
それよりも早く、俺は証を発動する。

「『クイックステップ』、『ドラゴニックアーマー』!」


証の発動に気付いたデリックは、バックステップで距離を取る。
しかし、近づいてしまった距離はそう簡単に離せはしない。


俺は足に力を籠め、勢いよく跳躍、
そして前方のデリックめがけて躊躇ない飛び蹴りを放つ。


躱せないと判断したのか、デリックは見事に木剣を使い俺の攻撃を受ける。


――――しかし、甘い。


「がはっ!?」


木剣は真っ二つにへし折れ、俺の蹴りはデリックの腹に刺さる。骨は折っていないはずだ。


「――――な」

すばやく体制を立て直そうとするが、これも遅すぎる。
素早く相手の首に木剣を突きつけ、一言。


「これでいいか?」



予想以上の攻撃に、デリックは目を見開き、汗をかいている。
どうやら想像していたよりかなり強かったらしい。


「……は、はは。降参だ」


その瞬間、わああああああっ!という歓声が響き渡る。


「やったです!流石です!すごいです!」

「兄ちゃんつええな!」

「旅の人つよーい!」

「かっこいいー!」



街で人気であろうデリックを、こうもあっけなく倒してしまったものだから……、
多少は嫌な目でみられるかと思ったが、そうでもないようだ。

実力至上主義のようなところがあるのだろうか。


「参ったよ、完敗だ」


デリックが立ち上がり、こちらに話しかけてくる。


「ああ、大丈夫か?」

正直手加減はしたが、あのコンボは強力すぎた。
骨の一本や二本いっててもおかしくない。


「大丈夫だ、鎧はへこんだけどね」


あぶねぇ。生身なら殺してたんじゃないのか。


「一つだけ聞かせてほしい」

「ん?」

「あの証……一体どんな効果なんだ?強靭、かつ素早いなんて、聞いたことがない」

「ああ、あれか」


あれはクーシーの証『クイックステップ』とアイラの証『ドラゴニックアーマー』を同時発動しただけだ。
クーシーの方は体が身軽になり、通常の1.5倍以上の速さで動ける。
アイラの方はその名の通り、体がドラゴンのように強靭になる。

どちらも数分で効果が切れてしまうため、使い時はよく考えねばならない。
もちろん、解除はいつでも可能だ。

その事についてデリックに説明すると……。


「証を……二つ?」


驚いた表情を見せる。

「珍しいのか?」

「ああ、僕の周りでは聞いたことがない。普通、一度に発動できるのは一つだけだ。
それ以上使えば、体から魔力がなくなり、ぐったりとそこに倒れ込むことになる」


つまり、魔力消費が異常に激しいってことか。


「二つ使って、そんなにぴんぴんしているとは……はは、予想をはるかに超える化け物かもしれないね」


明るい笑いとは裏腹に、その言葉には強大なものへの恐れが見え隠れする。


「とにかく、これで君もこの町の住人だ!これからよろしくな!」


ふと周りを見ると、温かい表情で迎え入れられていることがよくわかる。
デリックの思惑通りというか、悪魔でも全く気にされていないようだ。

「ありがとう、助かった」

「いやいや、その恩は、今度のモンスター討伐の時に返してくれ。期待してるよ」


ちゃっかりした奴である。

笑顔で俺の肩を叩くと、さくさくと帰宅するデリック。

あ、今日の宿どうしよう。


まぁどこかの宿屋に泊るか、と所持金を確認しようとルルミィのところへ……。



じーーーーーー…………



め、めっちゃ見られてる……。


今の今まで気づかなかったが、すごい勢いで少女がこちらを見ている。


ガン見だ。


瞬き一つしない。こわい。


ルルミィもちょっと引いてる。


その少女と目が合うと……、



「師匠ッ!!!!」



へ?


何言ってんの?この子。


――――

スタディングサモナー(レア)
http://i.imgur.com/kWIltr3.jpg

―――――――


なんやかんやで勢いに押され、その子の話を聞くこととなった。


ベレー帽に紫の髪、明るい茶色のカーディガンの下はシャツを着ており、
そこにチェックのスカートという、なんとも学生らしいいでたちだ。

顔は綺麗というより可愛い系。あどけなさの残る表情に、
くりっとした目が非常にキュートである。


「私に……召喚魔法を教えてくださいッ!!」


「無理」


「な、なんでですか!?」


「なんでもなにも、騎士さまは魔法が使えないですよ?」

「ええ!?で、でもさっきすごい勢いでジャンプしてたじゃないですか!」

「あれは……証だよ」

「証?証をあんな場面で使っちゃうんですか?」


さっきから皆証をなんだと思ってるんだよ。
あれはもうバンバン使ってく奴だろ。


「あうあう……それじゃあ、私の召喚儀式を手伝っていただくだけでいいんです……お願いします……」

「まぁ……軽く手伝うくらいなら。しかし俺たちは何もできんぞ?」


と、安請け合いしてしまう。仕方ない。可愛いもの。


「良かったです?」

「まぁいいじゃん、ちょっとくらい」

「むー……まぁ別に良いですけど」


なんかちょっとルルミィは不機嫌である。まぁいいか。

―――――

彼女の家の庭に案内される。でけぇ。
二階建てかよ。金持ちかこの子。


「あ、申し遅れました。私サモナー……いや、サモナー見習いの、『ルリ』と申します」


ルリ、ルリなぁ……なんか今後もあちこちで登場しそう。

「小悪魔のルルミィですよ」

「俺はそうだな……通りすがりの騎士とでも呼んでくれ」

「な、なんかかっこいいですね!騎士様!」


皆様付けなんだな。


「それにしても、召喚魔法なんて、一体どうしてです?
召喚は危険が多いですから、何も無理して扱う必要はないと思うですよ」


危険が多いのか……初めて知った。


「……両親に手紙を送りたいんです」

「手紙?」

「ええ、私の両親は二人とも、王宮で働く王立魔術師なんです」

「王立魔術師……!」

ルルミィが驚く。


「そんな凄いのか、それ」

「とっても強い魔術師さんです。わたしなんかですと聖魔法で一撃で殺されてしまうので、
あんまり出会いたくないですよ」


こえーよ。


「父は炎や氷を使った攻撃魔法、母は無くなった体の一部まで治せる治癒魔法を使います」


すげぇな。魔族と神族並みって感じか。
それ強いわ王立魔術師。


「その二人の子どもとして生まれた私は……どちらの才能にもすぐれ、将来は両親のように王立魔術師になれると周囲から期待されていたんです」


いい話じゃないか。


「そ、そこで問題が起きたんですっ!」


くわっ、と目が見開かれる。

このしんみりムードからその顔はビビるからやめてくれ。


「一体どうしたです?呪いにでもかかったです?」

「いえ……そういう訳じゃないんですけど……」

「どういう訳なんだ?」

「あの……その……魔力総量が……平均以下で……この歳になっても……上がらなくて……」


なんでそんなもじもじしながら言うのかさっぱりわからない。


ルルミィは聞くべきではないことを聞いちゃった感じの表情である。

「それ何か問題なのか?」

「騎士さま!」

ルルミィに咎められる。


「な、何?」

「魔法使いにとって、魔力総量が平均以下……それも王立魔術師の子どもというのは……、
とても……その……辛いことなのです!」

あ、もしかしてアレか。

中学生なのに自転車に乗れないとか、

高校生になってカナヅチとか、

社会人になって車の免許とってないとか、

そっち系?


「狩りのできない獣族くらい辛いことです!」


狩りできねぇと死ぬだろ。

ああ、それくらい死活問題ってことか。


と、当のルリは、顔を真っ赤にしてうつむいている。


「あ、ごめんなさいです……」

「いえ、いいんです……自分が一番、よくわかってますから」


本人にとっても辛い悩みなのだろう。よくわかる。

……がしかし。

「それで、何で召喚魔法なんだ?」


「悪魔との契約で、魔力量を増やしてもらおうと思って……」


ええ!?そんな軽々しく悪魔と契約していいの!?

モリアナの例を思い出せよ!迫害されるんだぞ!?


「悪魔との契約は形態によるです?」

と、ルルミィからフォロー。


「たとえば今の騎士さまもわたしと契約関係にあるですよ」

「マジか」

「はいです」


しかし見た目が悪魔になる気配は一向にない。


「見た目まで悪魔となるのは、魂を売っちゃったときですね。
人間を辞めて強力な力を得る代わりに、二度と人には戻れないです」

「なるほど」


モリアナはつまり、魂まで売りはらったということか……。


「私の悪魔に関しては、先輩から聞いたんですけど、なんでも女の子の爽やかな魔力で召喚できて、
魔力を増やしてくれるとか!」

なんだよその微妙にピンポイントな悪魔。


「でも、いくら召喚の義を行っても……全く出てきてくれないんです……」


なるほど。
それはもう、諦めるしかないんじゃないか?


「……召喚最低魔力が足りないかもです?」


ルルミィが呟く。


ルリはすさまじい勢いでルルミィの方を向く。


「る、ルルミィちゃん!どういうこと!?教えて!?」



こわい。


「ひぃっ!え、えっと、代償無しに魔力総量を増やしてくれる悪魔は、大抵が高等悪魔以上の悪魔です。
なので、召喚の義の際にも必要な魔力が、通常の悪魔や魔物より多いです……」


「なるほど」


とどのつまり、魔力の低いこの子では、高等悪魔は召喚できないという事か。


「残念だったな、方法はもう……」

と声をかけ、ルリも諦めかけていると―――


「いや、普通に方法はあるですよ?」


首をかしげたルルミィが、こともなげに言い放った。

――――


「つまり、魔法陣の起動をルリさんが行って、騎士さまがそのバケモンみたいな魔力をちょっと注いであげればいいです」


「できるのか?」


「さあ、やってみないとわかんないです。魔法を使えない人ってあんまり聞かないですし……」


ちょっとへこむ。
まぁ、俺の魔力が使えるかどうかを試すいい機会だ。やってみよう。


「じゃあ、頼むわ」


庭には既にでかい魔法陣が描かれていた。

ルリは本を開き、その詠唱に入る。


「火、土、風、水の四大元素よ。我が声に答えて召喚の義を執り行わん……」


ブツブツと長い詠唱が続く。


「その力を我が手に宿らせ―――」

「あ、騎士さま、今です。ルリさんの手を握ってあげてくださいです」

「おう」


ぎゅっ、と握ってやる。


「ひゃっ」

驚いた声も可愛い


「へ、えっと……その力を持って、ここに顕現せよ!」


カッ!!と大きな光が魔法陣から溢れる。

が。



……光が消え、何も起きない。


「また、失敗かぁ……」


ぐてーっ、とルリがうなだれる。

と、その時……、


「お、おう!?なんだこの音」


ゴゴゴゴゴゴ、という音が周囲から聞こえ、魔法陣に亀裂が入る。


「まさか!」


バゴンッ!という大きな音共に大地は割け、そこに暗黒とも呼べる黒い空間が出来上がる。

その暗黒から、見るからに強靭な悪魔が現れる。



『我は高等悪魔「ハイデーモン」我を呼びしは汝か』

無駄に重厚なボイスで語りかけてくる。

おお、これが高等悪魔……普通に戦って負けそうなくらい、強そうだ。


「は……はいッ!」

ルリは気合一杯だ。


『ほう……汝は若き身にありながら、強大な魔力と、類まれな才能を持っている』

「えへへ~……そんな」


なんか有名なスポーツ選手に褒められた子どもみたいになってんぞ。


『して、若き魔術師よ。我が力を持って、何を願う?』

「……はい、わが手に、膨大なる魔力を!」

はっきりと宣言する。


『……すまない、それは無理だ』


えっ。

「ど、どういう事ですか!?」

『我が叶える事の出来る願いは、我の力によってできる事。
汝の魔力、それはそれは強大であった。故に、我の力をもってしても、これ以上の強化は望めん」


ん……?
何か、おかしくないか?


「すまん、ハイデーモンさん」

『む?』

「その子の魔力は平均以下のはずなんだが……もっかい調べてみてくれないか?」

『ありえん』

「え?」


――――

ハイデーモン(レア)
http://i.imgur.com/yIhiD12.jpg

『我が顕現するという事は、すなわち人間が絶命するほどの魔力が使われたという事なのだ。
しかし、彼女はこうして生きており、立って会話までしている。それが平均以下という事はなかろう』


あー……。

俺が魔力を使ったのが裏目に出たかも。


「すまん、さっきのそれ、俺だ」

『何?』


ハイデーモンさん、不思議な表情。


『貴殿……この世界の人間ではないな?』

「わかるのか!?」

『無論だ……して……なるほど。貴殿、面白い魔力をしている。我が先ほど感じた魔力はこれのようだな』


納得してくれたみたい。

「面白いって……魔力に違いなんてあるのか?」

『ああ」


へぇ~

「知らなかったです」

ルルミィも知らないのに……悪魔ってやっぱすごいな。
あれ?ルルミィも小悪魔だっけ?


『魔力とは、よく井戸に例えられる』


井戸。

地下から水を引っ張ってくる。あの井戸か。


『そこの小悪魔も、立派な魔力の井戸を持ち……』


ルルミィが急に言われたので、「ひゃい」と返事をする。


『その魔術師は……うむ。枯れかけた浅い井戸だな』


ルリがうつむく。

あ、やっぱそんなもんなんだ……。


『そして貴殿。貴殿は……井戸ではない。湖だ』


「湖……?」

『ああ、海や雨といった、供給元が存在する……いわば枯れる事のない井戸と言ってもいい』


すごい好評価だな。


『とにかく貴殿の魔力は、高大な湖のように膨大である。しかし油断するな。
使いすぎれば、井戸と同様、枯れる事もある。自身の海を見つけ出すのだ』


海を見つけ出す……よくわからんが覚えておこう。


『うむ……それでは、貴殿の魔力、しかといただいた。我はこれで……』


「ちょちょちょっと待ってください!」

ルリが本気で止めにかかる。


『どうした魔術師、汝の魔力は既に底を尽きかけているぞ』

「私の魔力総量を増やしてください!」

『えー……』


なんでちょっと現代人っぽいんだよ。
さっきまでの荘厳な雰囲気どうしたよ。


『若き魔術師よ、願いを叶えるためにはそれ相応の代償が必要なのだ。
汝から願いを叶えるだけの魔力を奪ってしまえば、汝は死んでしまう』


優しい悪魔だなこの人。

『我は紳士なのだ』


心を読まれた!?


「それじゃあ、俺の魔力を使うとか?すごい膨大らしいし」


『む……?本来ならルール違反だが……」


ルールとか気にするのか。

『まぁよかろう。我々悪魔が規律を守るのもおかしい』

その通りだ。

『しかし、残念な事にまだ力が足りない。これでは魔力を与えたくても与えられん』

「まだ足りないのか?」

『いや、魔力ではない。欲力だ』

「欲力?」

『我々悪魔は、欲望の力を糧とするものがいる。我もその一人だ』

「なるほど……その欲力はどうやれば溜まるんだ?」

『人間の欲望のエネルギー……それが発動された時、自然に我の元へ集まる』


なるほど。
でもどうやってやればいいのかわかんね。



『わかりやすく言うのであれば、貴殿が性的に興奮してくれれば早い』


「はいっ!?」

『貴殿はエネルギーの塊と呼んで差支えない。貴殿が興奮するのであれば、すぐにでもこの力は溜まろう』


まじかよ……どこのエロゲですか。

『さぁ、存分に興奮するが良い』


「…………」



そう言われても……。


「あのッ!」


「はい?」


「わ、私で……興奮してください」


「……はい?」

「が、がんばります!騎士様が興奮できるように、え、えっちな格好もします!」


キリッ、と真剣な表情のルリ。

ええ……マジで……?うーん……いや、嬉しいんだけど……。


『なるほど……なら我も手を貸そう』


スッ……と右腕を動かすハイデーモン。その瞬間、ルリが「ひぃぇあっ!?」と声を上げる。

何事だよ。


『彼女のスパッツを生贄とした」


生贄ってそんな便利なシステムなんスか。


「す、スースーします……」

恥じらいつつスカートを抑えるルリ。おおう、これはそそるな。


『む、良い傾向だ』


こんなんでいいのか。

「まだまだいけます!」

そう言って、ルリが両手をグッ、と握った瞬間。


ひゅおーん。ちらっ。


風が吹き、見事なパンチラが俺の目を潤す。

「ひいいやあぁっ!」

涙目になってスカートを抑えるルリ。この子箱入りなんだなぁ。


『非常に良い傾向だ』


たまってんだね。


ぱしゃっ!と音がして、どこからか現れた水がルリにかかる。

そして、カーディガンも消滅する。


『防寒具を生贄とした』


もうなんでもアリだな、生贄。

すると、濡れているシャツがなんともまぁ、透ける透ける。
可愛い花柄のブラが薄く見える。


「え……?ひ、きゃああっ!」


気づいたルリはすばやく体を抱く。うむ。よしよし。


『我が力、見るがいい』

ハイデーモンがそういうと、ルリはなんと直立する。所謂『気を付け』の大勢だ。

こうなってしまえばブラも隠せず、スカートも抑えられない。


「~~~~~っ!?」


声にならない声が響く。


『うむ。上々だ。では最後に』


スッ……とハイデーモンが手を振ると、ルリの体の周りを温かい光がつつむ。


『良いものが見れた。これは我からのプレゼントだ。強く生きろ。若き魔術師』


おそらく、ルリの魔力総量が上がったのであろう。
これにて、一件落着だ。



フッ、という音と共に、ハイデーモンは暗闇ごと消えた。
あんなに物々しい登場しておいて、帰る時は一瞬なんだな。


「……あ、わかる」

ルリが自分の両手をみつめ、呟く。


「強くなってる、これなら……これならできる!ありがとう……ありがとう!騎士様!ルルミィちゃん!」


そういってルリが駆け寄ろうとしたとき、一陣の風が吹く。


スカートがめくれ、またパンツがみえ……ない。



それどころか、パンツがない。



これって。


「やだもう!見ないで下さいよ、騎士様……。ん?なんかスースーする……。なにこ……えっ?」





彼女の甲高い叫び声がこだました。

――――――


「あの悪魔は!!一体何を考えてるんでしょうか!?」


激おこである。

そらそうだ。何故かあの後聞いたところによると、パンツのみならず、ブラジャーも持って行かれてたらしい。
生贄か、生贄(意味深)になったのか。


「あーもう……誰にも見せたことないのに」

そういって顔を赤くし目を伏せる。かわいい。

痛い、ルルミィ足踏まないで。


「……責任、とってくれますか?」

「はい!?」

「じょ、冗談ですよ!冗談!あはは!」


笑い飛ばすルリ。しかし、先ほどの言葉は、あまりに冗談ではないように聞こえたが―――

ま、気のせいだろう。


「とにかく、この町にいる間は泊まってくれて構いませんから!自分の家のようにくつろいでください!」

「おう、助かる」

彼女はあんな痴態を見られておきながら、快く俺たちの宿を提供してくれた。
かわいい上に魔法が出来て親切。流石王立魔術師の子だ。

ルルミィもすごく嬉しそうである。彼女も魔族ということから、町に入れず、野宿したことも多いのだろうか……。

少し聞いてみる。


「ルルミィは、野宿することは多かったのか?」

「多かったですよー。悪魔ってだけで町に入れない事もあるですから!
こんな風に親切にしてもらえるのはとっても嬉しいですよ!」

ニコニコとクッションを抱きながらルルミィが言う。

……この子を大切にしてあげたくなった。

抱き寄せて頭を撫でると、ルルミィが頭の羽を擦り付けてくる。

「はは……かわいいな」

にこにこと擦り付けていたルルミィが……ふと目を見開き顔を真っ赤にする。

「い、今のはなんでもないですよ!なんでも!」


それを見ていたルリが何故かニヤニヤしている。


「あ、あう……」


オロオロするルルミィ。

「今の、何か意味があるのか?」


「えっと……言っていいんですか?」

「だめです!!」


いつになく強い口調のルルミィ。


一体あの行為はどんな意味があったのか……。あとでこっそりルリに聞いてみることにしよう。

そしてまた、今日も夜が更けていく……。

今回はここまでです。バトルとお色気と世界観の説明だけでこんなに長くなるとは思いませんでした。
騎士さまが宿を見つけるだけの過程にここまで時間がかかろうとは。

次回はオーライン周辺魔物討伐です。誰が出るのかは実は全く決まってません。

騎士様最強だと思ってたのに普通に弱かったんですよね。
あ、エタってませんよ。普通に遅筆なだけです。それでは再開しますねー。

#11『ウォーターフェアリー/ファウンテンナイアス』



「わが魔力を糧に」

「わが魔力を糧に」

「舞集え、焔よ」

「舞集え、焔よ」

「あらゆる障害を打ち払わん」

「あらゆる障害を打ち払わん」

「フレイムウェイブ!」

「フレイムウェイブ!」


ボウッ!と大きな火炎がルリの手の先から広がり、次第に力が弱まって消えていく。

一方俺はというと、手を振った時の「ぶん」という音がしただけで、何もない。


そう。本日はエリート魔術師(に昨日なった)ルリに魔法を教えてもらっていたのだ。

彼女の詠唱に併せて同じ言葉を発しているはずなのに、なぜか俺だけ一向に成功しない……。


何故だ……。


「うーん……これは、なんでしょう、どうしたら……」

「普通はこの詠唱で必ず魔法が出るのか?」

「いいえ?詠唱ってのはあくまで魔法を出やすくするサポート、イメージの具現化のお手伝いです。
魔法の使い方は……聞いたとは思いますが、自分自身のイメージでぐあーって感じが正解なので」


でたよ、「ぐあーって感じ」これ前も聞いたよ。
だからわかんねぇんだってば。


「やっぱり騎士さまは……別の世界から来たから、魔法を使えないです?」

やっぱりそうなのかなぁ、と思いつつがっかりしていると、ルリが驚きの声をあげる。


「え?」

「ああ、言ってなかったっけ。俺はここじゃない別の世界。ニホンのトウキョウってとこから飛ばされてきたんだ」

「な……え……?つまり騎士様は、異世界人ってことですか?」

「そうなるかなぁ」

「そうなるですねぇ」


「ええーーーっ!?」


驚きすぎだ。


「そういえばお二人って何で旅をしてるんですか?ずっと気になってたんですよ。そもそも異色のコンビですし!」


まぁ確かに気になる部分ではある。


「まあ一旦ルリん家戻ろうぜ、詳しくはそこで話そう」

「え、話してくれるんですか?やったー!」


テンションの高い子だ……。

―――――


ルリの家に着いた俺たちは、軽い昼食をとり、旅をすることになったいきさつ等について話した。


「……うぇっ、ひっぐ」


ルルミィの生い立ちを聞いたルリ、まさかのガン泣きである。


「べ、べつにわたしは平気ですから……泣き止んでほしいです?」

流石のルルミィもこれにはテンパっているご様子。


「……ちゃん」

「はいです?」


「私の事、お姉ちゃんって呼んでいいから!!」


「はいっ!?」


いきなりのお姉ちゃん宣言に、ルルミィと俺は顔全体からクエスチョンマークを出す。


「寂しかったんだよね……でも私の事お姉ちゃんって呼んでいいから!
むしろお姉ちゃんだと思っていいから!ここは貴方の家だからッ!!」

怒涛の勢いである。俺はもうこの子わけわかんねぇやと思考放棄していたが、
当のルルミィはまんざらでもなかったようだ。


「……えへへ、お姉ちゃん」

「なぁに?」

「えへへー」

「えへへー♪」


確かに、こうしてみるとまるで姉妹のようだ。ルルミィが実際は16歳という事実は置いておいて。


そういや。


「ところで、ルリって何歳なんだ?」

「今年で16歳になりますね。それがどうかしました?」



……同い年じゃねぇか。

この事は、しばらく本人には黙っておいてやろう。ルルミィも妹を楽しんでいるようだし。

――――――


で、そろそろ本来の目的である路銀稼ぎのため、俺はギルドへ来ていた。

ギルドというのはよくわからんが、仕事紹介所のような所らしい。

いかついおっさん共が酒を飲んでいて、一見酒場に見える。
が、壁に貼ってある依頼の数々で、「ああここがギルドなんだなぁ」と何となく理解する。


「おっ!噂の子連れ騎士様じゃねぇか!」

「何?例の騎士か?」

「おお、本当だ!」


どうやら噂になっているようだ。てかなんだ子連れ騎士様って。子連れ狼かよ。

と、横を見るとルルミィがむすっとしている。子ども扱いされたのが気に食わないらしい。


とりあえずどんな依頼が着てるのか尋ねてみることに。


「なるべく簡単そうな依頼ってないすか?」

「お?騎士様、慎重だねぇ。アンタなら一番高いランクの依頼でもこなせるっていうのに」

ガハハと笑う店主。ここの依頼のレベルってそんなもんなのか?

とりあえず色々な依頼を見て決めようと思ってたらガッタンガッタンと周りが騒がしい。
誰かが急ぎで入ってきたようだ。


「騎士君!」


この声は……。


「やはりここに来ていたか。探したよ」


やはりデリック、お前か。今度はなんの用だ。
それともアレか、俺に負けたからってベジータ的なアレになるのか。

「実は君に受けて欲しい依頼がある」

「ほう?」


少し、デリックの話を聞くことにしてみた。


―――


「今度のロカ山の掃討作戦に参加してほしい」


ロカ山掃討作戦……よくわからんが、モンスター退治か。


「君のレベルを鑑みれば、そう難しいモンスターは出ないだろう。報酬は4000ルピ、悪い話ではないと思う」


4000ルピってどれくらい?とルルミィに聞いてみる。


「だいたい、宿屋一泊が100ルピくらいです。条件などにもよるですが、
まずこれくらいが平均だと考えて間違いないと思うです。」


それって滅茶苦茶高いんじゃないの……?よほどの作戦なんだな。


「今回はほとんど危険な作戦ではなかったはずなんだ」

「はずなんだ?」


雲行きが怪しくなる。

「ああ、今回の掃討作戦では、ドラゴンが出現する恐れがある」


ドラゴン。

この世界で最強の生物と名高い、アレか。
確かに俺の『ドラゴニックアーマー』でさえほとんど無敵の体となる。
あれが敵に回るのかと思うとすこしヤバいな。


「モンスターたちの親玉。ヴァイクというドラゴンだ。知能が高く、人語を駆使し、
様々な騎士たちを返り討ちにしているという凶悪な魔物だ」


やべぇじゃん。

「しかしアイツを放置していれば、いずれ近隣の国にも被害が広がる。
できるだけ早めに叩く。そう、つまり君という戦力を手にした今しかないんだ」


俺戦力に数えられてんのか。まだ行くって言ってねぇぞ。


「もちろん、ヴァイクを討伐してくれたなら、別途報酬が出る。10000ルピだ」


10000ルピ。
宿屋に百日は泊まれる料金だ。

日本円に換算すると……いくらだ?ホテル100泊?もうわけわかんねぇな。


しかし非常に危険な作戦でもある。
いくら俺が強くてすごいからとはいえ、状況によっては普通に死ぬのだ。

特にドラゴン相手となると、流石の俺でも敵わない。


「ああそうだ、ヴァイクについてだが、奴はまだベビードラゴンのランクだ。
通常のドラゴンに比べれば遥かに弱い。だが、油断しないでくれ。小さかろうがドラゴンだからな」


なるほど、小熊みたいなもんか。

人間相手なら一撃で即死を狙えるだろう。
魔法で遠巻きに戦えれば余裕なのだろうが、いかんせん山となるとそうもいくまい。

流石知能が高いというだけはある。


「どうだろうか、正直なところ、この作戦は君の一存にかかっていると言っていい」

そこまでかよ。
そう言われると断りづらい。ルルミィの方を少し見ると、不安そうな表情でこちらを見ている。


まぁ、いざとなったら俺が守れば、この子は大丈夫だろう。

置いていくって言ってもついてきそうだし。


「わかった。参加しよう。詳しい話を聞かせてくれ」

「助かる!」


そういうとデリックは、俺に一言告げ、掃討作戦のメンバーを呼びに行った。
何と今日ブリーフィング、明日の朝決行らしい。


早い方がいいとは確かに言ったが……。

――――


そして、翌朝。

作戦によると、こちらの参加人数は10人。
強力な魔物の危険性があるにしては多い方なのだと。

もっと大勢で行くべきなんじゃねぇのかな……。


ロカ山までは馬車で数時間。
食糧等も持っていき、長期戦も覚悟のうちであるらしい。


ルルミィは来るなと言っても来るので、もう普通に連れてきた。


「わくわくです!」


男まみれの馬車の中だとルルミィは本当華になる。
小さい子どものいる傭兵もいるのだろう。皆にこやかである。

戦闘の前だというのに……。


「ルルミィちゃん、お菓子をあげよう」

「ありがとうです!」


なんでここまで和んでるんですかね。

討伐ってこんなに和気あいあいとしてるもんなのか。

と、そうこうしているうちに目的地が見えてくる。

―――――


馬車はロカ山から少し離れたところに止めておく。
魔物の襲撃を避けるためらしい。

さらにここに二人見張りを置いておく。
律儀に馬車を攻撃しにくる魔物がいる可能性を考慮してだ。


これって10人じゃ足りなくねぇか。


まぁ、とりあえずデリックが作戦を説明してくれる。
デリックを先頭、次に俺の並び、そこから右翼、左翼に二人ずつ。しんがりに二人。

これで計8人+ルルミィの9人。

基本的に出てくる魔物のレベルから問題はないといえ、いざとなったら苦労しそうではある。



「そして最後に、ヴァイクについてだが」


デリックがその言葉を発した瞬間、緩んでいた空気が引き締まる。
傭兵たちの顔が強張り、一気に戦闘を意識したものとなる。


それほどの相手だという事か。


「ヤツが現れたら、基本的には全員逃げてくれ。
そこからは作戦も指示もない。できうる限りの全力で撤退だ」


マジかよ。

と、そこで俺が一つ疑問を感じたため、質問する。

「いいのか?取り逃がして、町に来るっていう可能性は」

「ない」


きっぱりと言い切るデリック。


「町には聖域結界がある。たとえ侵入できたとして、ヴァイク一匹なら町の皆で袋叩きにすれば殺せるだろう。
奴もそれがよくわかっている。だからこそこのロカ山に住みついているんだ」


なるほど……。


聖域結界とは名の通り、魔族を寄せ付けない結界の事だ。
で、何故ルルミィが入れたのかというと、何と、彼女の持つ「マップ」のおかげらしい。

「聖宝を持つ者は聖域に入ることを許されるです」という話を昨日聞いた。
それじゃあ聖宝持ってる相手ってヤバくね、と思ったが、どうやらそうそう出会わないから安心していいそうだ。

それを二つ持ってる俺は、やはり異端なのだろうか。

――――


山、といってもそこまでガチな登山ではない。
入り組んだ地形であり、上の方に登る必要も薄いとのこと。

ていうか山の上の方は天気も変わるし空気薄いしでヒューマンの俺たちが行くべきではない。


というわけで、俺たちは麓の森に入り、モンスターを捜索する。

そんな探さなきゃいけない程少ないなら気にしなくていいんじゃ?


……と思ったのは一瞬だけだった。


「ぜあっ!」


デリックが何もない所で剣を振る。
何事だ?と思いびっくりしたが――


「これを見てくれ」


デリックの手には糸のようなものが握られている。


「アラクネの糸だ。非常に頑丈で、よくトラップの材料として使われる」


トラップ、この一言を聞いてピンときた。


「探さなければ見つからない程少ないんじゃなくて」

「ああ、奴らは我々を計画的に殺す気だ」


油断していた。

モンスターといえば知能を持たない獣ばかりかと思っていたが……、
どうやらここにいるヴァイクはそんなタマではなさそうだ。

―――――


罠を避け、警戒しつつ、進む。


これは、間違いない。


「誘い込まれている」


デリックが俺につぶやく。

そう、一匹も魔物が出てこないはずはない。
奴らは俺たちが来ることを知っていたかは知らないが、
とにかく準備や作戦があって隠れている。


つまり、こちらからは向こうが見えないが、向こうからはこちらが見える。という事だ。


その時、俺の直感が告げる。

ここは、『危ない』と。


「伏せろッ!!」

大声で叫んだその瞬間、矢が雨のように飛んでくる。

俺はルルミィをかばい、なんとか避ける。

しかし、傭兵の何人かは、体に矢を受けてしまったようだ。


まずいな。
この様子では、おそらく……。


「大丈夫か、皆!」

デリックが確認を取る。

皆口々に、「大丈夫だ!」「少し食らった」等と言っているが、
もうそんな場合ではない。


「うぐっ……?」


矢を受けた傭兵の一人が崩れ落ちる。


「どうした、ドルド!」

ドルドと呼ばれた傭兵は顔を青ざめさせている。


おそらく―――


「毒です」


ルルミィが即座に回答する。


「この矢じりに毒が塗られていたです。
すぐに解毒しないと、体を切断するか、最悪死ぬハメになるです」

冷静な分析を行う。

ベビーフェルパーたんは出ますか?

神バハは四コマが無かったら続けてなかった

>>135
ベピーフェルパーたんはノーマルだから出したいんですけど
4コマのイメージ強すぎてどうしよっかなって感じですね。
これは割と原作っていうか、元イラストを参考にファンタジーしてるところがあるんで。

「そうか、なら一旦町に戻って―――」

そうデリックが言うが、もう遅い。


「無理だ。囲まれている」


15……いや20?もう少しいるかもしれない。
かなりの数の魔物が周囲に潜んでいる。

先ほどの矢はおそらくあれで打ち止めだ。
一度の奇襲にすべてをかけるやり方とは、かなり狡猾な相手であるようだ。

まずは解毒を―――と思ったその瞬間。


「ギギィッ!!」


スケルトンが一気に数体現れる。

息をつかせぬ連携攻撃のつもりか。


「グゲゲッ!」


別の個所からは数体のゴブリン、
また別の個所からは数匹のウェアウルフ。


こいつら、戦い慣れしてやがる。


「デリック!そいつらをかばいながら戦えるか!」

「任せろ!」

「わかった!こっちは俺がやる!」

俺とルルミィはスケルトンの群れに向き直る。


「ケケケ……ニンゲンドモガッ!」

襲い掛かってくるスケルトン、しかし甘い。


「『テイルウィップ』!」

木ごとスケルトンをなぎ倒す。

数体狩り逃したが、そこはいい。


「オラァ!」

勢いよく一体を切り伏せ、その勢いのまま回転して二体目、三体目からの攻撃を受けそうになるが―――

「くらえですっ!」

ルルミィが装てん式の銃から魔法弾を打ち出す。
『クラッシュ』という魔法が込められた弾らしく、着弾と共に強い衝撃を与えるものだ。


「グゲゲッ!?」

それによりスケルトンの頭はふっとび、残り三体程となる。
デリックたちの方も、うまく応戦しているようだ。


いける。ゴブリンやウルフ程度なら、デリック達でも十分応戦が可能だ。

傷ついた仲間も解毒を施し回復しつつある。これならなんとか―――



その時、爆音が轟いた。

俺とルルミィはとっさに伏せ、衝撃を免れたが、スケルトンどもは全部吹き飛び、
俺たちの団員も数人吹っ飛び、重症を負う。


その現状を理解するために時間は必要なかった。



『コウモテコズラセテクレルカ、人間ヨ』



そう、その爆音の正体は、上空から急降下してきたヴァイクだったのだ。


「お前がヴァイクか?」


『ホウ?キサマ、ミナイ顔ダナ。旅人カ』

「ああそうだ。お前の方も上手い人間語使うじゃん?」

『キサマラ人間ニツカエテ、我ニ使エナイモノカ……。マアヨイ、一人ズツ、噛ミ殺シテヤロウ』


中々プライドの高い龍さんのようだ。


「出たか、ヴァイク……!」


ゴブリンの相手をしていたデリックも、すぐさまヴァイクに向き直る。


『ホウ?中々骨ノアル人間モイルヨウダ……』

勢いよく地面を蹴り、ヴァイクに突進するデリック。

剣を大きく振り上げ、ヴァイクを切りつける。


ズドッ、という鈍い音と共に、デリックの剣はヴァイクにめり込む。


そう。


切り裂けて、いない。

「何ッ……!?」


驚いたデリックが手を放そうとした隙に、ヴァイクの鍵爪による一撃が入る。


「ぐっ……!?」

何とか手甲と鎧で受けるが、あれでは骨は折られたかもしれない。


『人間ゴトキノ剣デ切リ裂ケルトデモオモッタカ?片腹痛イ……!』


あざけるようにヴァイクが言う。

そう、奴にとって、今のはパフォーマンスにすぎない。


そう確信した俺は―――


「デリック!逃げろッ!」

「何!?」


「傭兵を全員連れて、今すぐ逃げろ!こいつは俺がなんとかする!早くしないと全滅するぞ!」


魔物が集まってくる気配を感じる。


「何を言ってるんだ!そんなことをしたら君は!」

「だからこそだ!」

「何ッ!?」


デリックは腕が折れてもなお、戦うつもりだ。
しかしそれでは逆に、全滅の可能性が増えるだけ―――


「お前たちは先に逃げろ!俺一人ならどうとでも逃げられる!
俺がこいつの相手をしている間に、速く!」


「……くそっ!かならず戻ってこいよ!」


そういうと、デリックは団員たちと共に駆け出す。
全員、なんとか走ることはできるようだ。

「さて」


『話ハ終ワリカナ?』

「ああ、待っててくれるとは、紳士的だな」

『我々ハ貴様ラヨリ上位ニ位置スル種ダ。サテ、ゲームヲ始メヨウジャナイカ』


「……ゲーム?」


『アア、ヤツラガ逃ゲ切ルマデノ間、貴様ガ我ニ殺サレナイカ』

「……ほう?」


―――こいつは、『喰う』気だ。

わざと仲間を逃がさせて、万全の状態で俺を殺し、仲間を追って殺す。


それだけあっさりと俺を殺せるという余裕だろう。


「そのゲームは、果たして成立するかねぇ?」

『何ダト?』

「俺がお前をぶち殺しちゃうってこともありうるぜ!『ドラゴニック・アーマー』!」

―――――


一方その頃、ロカ山の横の森、ワーダインの森で、妖精がそわそわしていた。


「なんだかお山の方が騒がしいの……?」

女神の泉、と呼ばれるこの泉では、天然のキュアウオーターが採れるという。
ひとつ数万ルピと呼ばれるキュアウォーターを大量生産できるとなっては、商人が黙っていないところだが、
この泉、邪な心を持つ者は発見することさえできないのだ。


そもそも特殊な隔離空間によって構築されており、妖精の案内がなければたいていの人間は発見できない。


「そんなに気になるなら、見に行っても良いのですよ?」

「女神様……」


こちらの女神は、ファウンテンナイアスと呼ばれる。通称泉の女神様。
正確にはネレイドという水の精霊の一種である。彼女の加護により、この泉は存在しているのだ。

「私たちは何かに縛られるような存在ではありません。自由に行動してよいのです」

にこりと微笑む女神。その微笑みは見るものを魅了し、たちまちその泉の信仰者となるほどである。
これが精霊の力なのだろうか。


「じゃあ、ちょ、ちょっとだけ……いってきてもいいですか、ナノ?」


「ええ。貴方の行動は、きっとこの世界のためになります」

「……行ってきますナノー!」


意気揚々と飛び出していく妖精。それを見送りつつ、女神は少し難しい顔をする。


「たしかに、いつもと空気が違うような」


ふとした呟きだったが、彼女の顔からは、何かが起きるという確信めいたものが見て取れた。



―――

ウォーターフェアリー(レア)
http://i.imgur.com/Zr6QlET.jpg

ファウンテンナイアス(レア)
http://i.imgur.com/0dh6k6u.jpg

――――


「中々楽シマセテモラッタゾ、人間ヨ」


なんということでしょう。


ドラゴニックアーマー、クイックステップの効果時間があっさりと切れ、
既に絶体絶命のピンチとなっております。マジどうしよう。


しかし、奴には大きなダメージを与えられていない。
理由はもちろん、あの堅い皮膚だ。

ドラゴンを斬ったことのある人ならわかると思うが、奴らの皮膚は鋼鉄のように硬く、
その下にしっかりとした筋肉があるからたまったもんではない。

おかげで『ドラゴニックアーマー』の時はダメージを受けずに済んだが、
双方ともにダメージを与えられないだけで、こちらとしてはジリ貧だ。

じわじわと体力も削られ、かなりのピンチであることがうかがえる。


「やべぇな」


そのぼそりとした呟きに、ルルミィが不安げ表情を見せる。


「騎士さま……?」

「ルルミィ、いざとなったら、お前だけでも――」

「嫌ですっ!」

「おま……」

「いざとなったら、死んででも、戦ってやるです」


その眼はもはや少女のものではない。

戦場に生きるもののふ、そのものだ。


――――やるしか、ない。


「『ダブルスラッシュ』!」


ロレッタの証、ダブルスラッシュ。
強力な斬撃がヴァイクを切り裂く!


『無駄ダ』

ヴァイクは素早く身をかわし、少し羽に傷がつく程度。

「ちっ……、『シャドウトレイズ』!」


モリアナの証、シャドウトレイズ。影を作り出し、死角から攻撃させる。

ガンッ!という音とともに直撃する―――しかし。


『残念ダッタナァ?モウ少シ攻撃ガ強ケレバナ?』


効いていない。


もう、『あれ』しかない。

「ああもう!!『ホワイトエクスプロージョン』ッ!!!』


すばやくルルミィを抱きかかえ、その場に伏せ―――

驚いたヴァイクは反応が一瞬遅れ、


光の爆発が、俺たちを包む。


爆発は、山の一部を吹き飛ばし、小さなクレーターを生産する。
木々をなぎ倒し、雑草までも吹き飛ばした事に、少しの罪悪感を覚える。

もうもうとした煙につつまれ、視界が悪くなる。


「げほっ……やりすぎたなこれ」

流石のヴァイクも無傷ではないだろう。
だが、この煙では、お互い何も見えまい。

まずは煙が収まるのを待ち―――


違う。


「ルルミィッ!!」

「ですっ!?」


ルルミィを突き飛ばす、その瞬間、自分の体が宙に浮いていることがわかった。


飛んでいる、いや違う、弾き飛ばされたのだ。


数m離れた大木に、俺は強かに叩きつけられる。



……直接ぶつけられた肩と、木にぶつけた背骨の一部が折れている。

まずい。


これでは、戦闘続行どころではない。


それを見た血まみれのヴァイクが、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


『クク……グククククッ!』


満身創痍ではあるが、俺を殺す気力くらいなら十二分に残っているようだ。


『ヤッテクレタナ人間!マサカココマデトハ!別ノ出会イ方ヲスレバ、友ニナッテイタカモシレヌ!』


すばらしい賞賛、ありがたいことこの上ない。


しかし今は、絶望の階段を上るような音しか聞こえてこない。

『一撃デ殺シテヤル、セメテモノ情ケダ』


もう使える証はない。

左半身の動きが鈍って、立って歩くのがやっとというところだ。


ああ、俺はこいつに、殺される。


『俺とヴァイクが』そう確信した瞬間――――



「スレット!!!」


すれっと?

ルルミィが謎の叫び声と共に、銃弾を発射。

油断していたヴァイクに命中するが、こいつの硬い皮膚に銃が効くわけない。


はずだった。



『ナニ……?貴様……何ヲシタ!!小娘ェェェ!!』

ヴァイクの動きが、鈍る。


一体これは―――?


「騎士さまを殺すならっ……先にわたしを殺せですッ……!
でもその前に!死にもの狂いでっ!抵抗してやるです!!」


泣きながら突進するルルミィ、まずい、このままでは殺されてしまう、
ルルミィを止めようにも、体が言う事を聞かない。

「ルルミィッ!」


ルルミィに噛み付こうと大きな口をあけたヴァイクに、ルルミィが手を突っ込む。


「クラッシュ・ボム!」


ヴァイクの頭を中心に強力な爆発がおこる。


その瞬間、もちろんルルミィは―――

―――――


ロカ山からなんとか脱出したデリック達は、町に戻るため馬車に乗ろうとする。が、


「うぐっ……」

傭兵の一人、レイバルトが苦痛を訴える。

「まさか」

デリックはその様子を見て青ざめる。
毒が、残っていたのか、と。

ここから馬車を走らせても数時間はかかる。

その前にレイバルトは死んでしまうかもしれない。

しかし、解毒剤はもうなく、回復手段もない。


どうする。ここはリーダーである自分がなんとかせねばならないと、
デリックは頭を巡らせる。


他の面々も骨が折れ、血を流し、速く治療を受けないと死んでしまう。

回復魔法を使える魔術師でもいれば、話は違ったのだろうが―――


と、その時、デリック達の元に間抜けな声が聞こえてくる。


「人間の戦士サン……ナノ?」


その間抜けな声の主が、後に彼らの命の恩人となる事を、
デリック以外誰も予想すらしていなかった。

今回はここまでです。なんか想像を絶するくらい長くなってびっくりです。
オーライン国編あたりから急に長くなってるような……?

次回はVSヴァイク決着と、ワーダインの森編です。

隔週更新になりつつあります。
再開します。

#12『アラクネベビー』




目を覚ます。

ここは――――、そうだ。確か、ロカ山というところに来て、

ヴァイク、という龍と闘い、ボッコボコにされて……。


それから……。


と、その時、ぐったりとするルルミィをみて、俺の思考は明瞭になる。


「ルルミィ!」

すぐに駆け寄ろうとするが、背中と肩に激痛が走る。

しっかりと思いだした。

俺はあの時ヴァイクと闘い敗北。
決死のルルミィの攻撃により、なんとかヴァイクを撃退できたのだ。

結果としてヴァイクを殺し損ねたが、自分たちが殺されてないうちは勝利であろう。

激痛に耐えながらゆっくりとルルミィに歩み寄る。


「……ひどいな」


顔には大きな火傷の痕があり、右手は手首の先がない。

医療技術のないここでは、この損傷を治すことなど不可能であろう。


「クソ……ッ!俺が、俺が弱いばっかりに!」

思わず憤りが口からあふれ出る。
こうなる事はわかっていた、何故ルルミィを止められなかったのか―――

そんな感情がとめどなく流れてくる。


そうすると、俺の声に反応してか、ルルミィが目を覚ます。


「…………騎士さま?」

「起きて大丈夫なのか?」

「疲れて寝てただけです」


マジかよ。

なんて度胸してやがる……これがベテランの余裕か。


「それより、ルルミィ……すまない、その……」


ルルミィの開かなくなった右目と、無くなった右手を見て俺は言う。
するとルルミィが、「ほぇ?」という間の抜けた声を出す。


「え?いやほら、その、右手とか……その……」

と、俺が言葉を濁していると。


「ああ、これです?えーっと……ふぬ……ふぬぬぬぬ!」


急にルルミィの顔が険しくなり、右手であった場所に魔力が集中していく。


すると――――



ずぼん! という音と共に、ルルミィの右手が生えてきたのである。


「…………はああああっ!?」

「あ、驚かせてすみませんです。我々魔族は、基本的に魔力で体が構成されているです。
なので、体の損傷くらいならこうやって再生することが可能です」


こともなげに言い放つルルミィ。
マジかよわけわかんねーよ。トカゲかよ。


「詳しい事はまた今度話すです。今は、ちょっと……」

そういうと、また倒れ込んでしまうルルミィ。

「ルルミィ!?」

「い、今のパフォーマンスでちょっと魔力を使いすぎたみたいです……」


俺のためにそこまでしてくれなくてもいいんだって!


しかしこの状況はまずい。
敵のボスは撃退したとはいえ、ここは敵の総本山。今野良の魔物にでも襲われたらひとたまりもないだろう。

俺は周囲を警戒し、鞄の中を探る。


そう、ここにはチュートリアルでもらったキュアウォーターがある。これを使えば大概の傷は―――



傷は……。



割れて中身が出てる……。



キュアウォーターは使えない。治癒魔法もない。


これ、詰んだ?


と、その時、ガサガサッという音が聞こえてくる。
これは、動物か人の動く音だ。


まずい、近くに誰か来ている。


そう考え、座ったままで臨戦態勢とろうとすると……



「騎士君!」


なんと、すっかり傷も癒え、なんだか心なし健康になったデリック達の姿が見えてきた。

―――――



俺たちは、ロカ山から下りて少し行ったところにある『女神の泉』とやらに連れてきてもらっていた。


「酷い怪我ナノ……」

妖精である。可愛い。本当にいたのか。
サイズもネットで見た通りだ。内臓器官とかどうなってんだろうか?


「まずは、この泉にゆっくり浸かって……傷を癒してください」

「ありがとうございます」


女神様もいる。
こちらは妖精と違って大きい。胸も大きい。素晴らしい。


と、泉に浸かると、みるみる体が元気になっていくのがわかる。

まず背中の骨折が治り、肩の骨折、
その後擦り傷や打ち身、なんと足のマメまで治っていく。

ルルミィの傷も数十分するころにはしっかり癒え、
いつも五体満足の可愛いルルミィが舞い戻っていた。


「復活です!」

「良かったの!」

妖精と小悪魔が喜び合う様子ってレアだね。


そんなほのぼのした様子を眺めていると、デリックに声をかけられる。


「復活したてで悪いんだが、ちょっといいかな」


こういう時は、たいていめんどくさいモンスター討伐とかなのだろうが……、
半死半生のところを救ってもらった恩がある。


「おう、いいぜ」

―――――


「アラクネベビー?」

「ああ、この泉の女神様に頼まれた。なんでもこの森に人を食う恐ろしいモンスターが棲みついていると」

「放っておくとまずいのか」

「今はまだベビー種だが、成長するとアラクネメイジ種にもなりかねない。
今のうちに殺しておかなければならないだろう」


よくわからんが、今殺さないとまずいってことはわかる。


「その魔物の討伐を手伝えばいいのか」

「ああ、君なら頼りになる。先ほどは本当に助かった。礼を言うよ」


先ほど……ああ、ヴァイク戦か。
まぁ俺も助けてもらったしどっちもどっちなんだけどね。


「わかった。任せろ。この泉の女神様にも恩を返さなきゃならんだろ」

「助かる!それじゃあ、まず少し、準備をしようか」


そういうと、デリックは団員達を集め始めた。
馬車待機組も含め、全員無事であったようだ。


すると、ちょいちょい、っと肩を叩かれる。
振り向くと、例の女神様がいた。
とりあえず、本当に助かったので、お礼を言っておく。


「この度はうちの団員たちも含めて助けていただいて、本当にありがとうございます」

「いえいえ。あの子のおかげですよ。それより……」


じっと俺の顔をみる。

顔近いな、やめてください、照れる。


「これが……」


え、これが何?何なの?

「あ、すみません、こちらをお渡ししておこうと思って」

パッと我に返ったのか、瓶に入った水を数本もらう。
まさかこれは!


「キュアウォーターです。この泉の加護が込められています。
旅先でお役にたててください」

「いいんですか?」

「はい、何と言ったって貴方は予言の騎士かもしれませんから」

わぁいやった。
これがあると生存率がグンと上がるぞ。


しかし予言の騎士って……、
どこかで聞いたことのあるようなワードだな。


「予言の騎士?」

「ああいえ、こちらの話です。どうかお気になさらず」


微妙に誤魔化された。


そこで、デリックが「ブリーフィングを始めるよ」と俺に声をかけてきた。
タイミングのいい奴め。

乳尻太股がけしからんメイディキャット待ってる

>>155
メイディキャット好きならハイアマゾネスとマッドピクシーもオススメでっせ。
バザーでもお安くなってるはず。

―――――


アラクネは森の深部、ここから少し歩いたところに生息している。
人やモンスターを無差別に襲い、捕食しているという恐ろしい噂だ。

そいつがいる限り、人が森に入られないという事なので、俺たちは討伐に向かう。


そうして何時間か歩いていると……しくしくとすすり泣く声が聞こえる。


「……女の子?」


デリックが不穏な表情をする。

確かに、ここに女の子がいれば大変な事になるだろう。
今回も無理矢理ついてきたルルミィは置いておいて。


すると――――


「……人間の、人?」

不思議な日本語を使う少女と出会う。

少女は蹲り、迷子にでもなったのか、泣いていた。


先ほどの啜り泣きはおそらくこの子であろう。
女の子大好きな俺はさっそく近寄り、声をかけてやる。


「大丈夫?君、迷子……?」

「……に、逃げて」

「え?」

「騎士君!!離れろ!!そいつが――――」


デリックがそう言いかけた瞬間、


俺の目の前に刃のような攻撃が飛んでくる。


俺がすばやくジャンプして躱すと、その女の子はゆっくりと立ち上がり、俺の身長を超す。


「こいつは」

「悪しき闇を晴らせ!『フラッシュ』!」

そうデリックが叫ぶと、辺りが突然明るくなり、少女のはっきりとした姿が見えてくる。

デリックさん、魔法使えたんスか……。


可愛らしい少女の上半身に―――巨大蜘蛛の下半身。


そう、こいつがアラクネだ。


――――

アラクネベビー(ノーマル)
http://i.imgur.com/Vr6NvLV.jpg

「騎士君!」

俺を助けるべく、デリックが飛び出し剣を振りかぶる。


しかし、その剣はあっさりと止められ、高い金属音が響く。


―――そう、デリックの剣は『俺によって』止められた。


「何をする!?」

焦るデリック。
他の面々も、状況について来れないのか攻撃を躊躇しているようだ。


「この子は斬るべきじゃない」


そう言い切ってやる。


「なに―――?」

驚きを隠せないデリックが次の言葉を紡ごうとした瞬間、
素早く蜘蛛の足による攻撃。

しかし


「甘い!」


これを、剣の柄で叩き落とす。

ゴギン!という音がして、クモの足は折れてしまったようだ。


「痛いっ……」


「アラクネの女の子、君に話がある」

「わた、私……に……!?」



すごく驚いている。そらそうだ。
殺しあってると思ってたら急に話し合いだもんな。

デリックも「騎士君、何を……」と言いかけ硬直。
俺の考えを尊重してくれたようだ。


「に、逃げてください……この子は……あなたたちを、殺して……」

苦しそうにそう少女がつぶやくと、蜘蛛の足による追撃が来る。

しかし、甘い。


「ッラァ!!」


ゴギッ、という鈍い音とともに蜘蛛の足をたたき折る。
そして蜘蛛の顔に前蹴り


「あぐっ!?」


少女が苦痛に顔をゆがめる。


「あ、ごめん、痛かった?」

「え、あ、はい……でも、そこまでじゃないです」


わけがわかっていないが、とりあえず逆らわない方が良いという事だけは理解したようだ。

下の蜘蛛はというと―――


「シャーッ!!」


強い威嚇、更に蜘蛛の糸を飛ばすが、それを素早く右に躱す。
蜘蛛の顔に、剣の鞘で強い一撃を叩き込む。


「ゲブッ!」

苦しそうな声である。おお、かわいそうに。


「い、いたたた……」

少女が足をひねったみたいな痛さを感じさせる声をだす。
あ、その程度なんだな。


「そろそろコイツはおとなしくなったかな?」

「……え、えっと。はい、たぶん」


会話を再開する。


「あの、貴方は何者なんですか?何故私を恐れないんですか?」


当然の質問である。

俺は当然の答えとしてこう返す。


「可愛かったからかな」

「かわっ……!?」


手で顔を覆う少女。恥ずかしいのかびっくりしたのか顔も少し赤くなっている。

ちなみに団員全員どういうことだついていけねぇぞって顔をしている。

ルルミィはもちろんほっぺが膨らんでいる。おこである。

――――


あの後数発殴ったり蹴ったりすると、蜘蛛はすっかりおとなしくなった。
勘違いしないでほしい。暴力ではない。説得だ。

団員達も座り、少女も座り、何故か少女の話を聞くという不思議な展開に、
俺以外は困惑の表情を見せている。


「ええと、何から話せば……」

「ちょっと気になる事があってさ」

「気になる事ですか」


話してみると、意外と普通の女の子である。
一体どうしてアラクネになってしまったのか、という旨を聞く。


「私がこうなったのは、村の人たちが生贄を怠ったからです」


どこかで聞いたことのある話だ。


「私の村は、元々水神様に守られ、水が豊かで、ワインの美味しいところでした。
しかし、その代償として、毎年、女を一人生贄に捧げねばならないのです」

「……大変だな」

「ですね。それである時、村長がこんな村のしきたりは、現代的ではないと言いだして……」



確かに、毎年一人ってのは正直馬鹿にならない。
他の村からも女を呼んできたいくらいだ。


「その年の生贄を家畜に変えてみたんです。すると、水神様がお怒りになられたみたいで……」


「その姿、と」


「……はい。気が付いたら村の人々を殺してしまってて。もう人の住む場所にはいられないな、って」



それでこの、人気のない森までやってきたということか。
けなげな子じゃないか。


「……呪いを解くことはできないのか?」


話しを聞いていたデリックが言う。魔法や呪いに疎いのは彼も同じらしい。


「たぶんできないですよ」


安定のルルミィさんである。
この子のいうたぶんは絶対である。

「彼女の呪いは神によるものです。位の高い呪いはそれよりも強い解呪でないと解けないです。
神をも超えるレベルの解呪となると、それこそ伝説の魔術師にでも頼むほかないです」


流石にそんなツテはない。


「……人間に戻りたい?」

「……もちろん、できるなら戻りたいですけど、もうあきらめてます」

「結構あっさりしてるですね?」

「私はちょっと、人を殺しすぎました。今更人間に戻っても、その罪は消えません」


ちょっとこの年齢で背負っちゃいけないモン背負っちゃったみたいだな。
シリアスパートがキツイぞ。


「よく頑張ったな」


落ち込む少女の頭をよしよしと撫でてやる。
蜘蛛になってからそんな経験はないのか「ひゃうっ!?」という言葉を出して大いに驚いている。


「嫌だった?」

「そ、そんなことはないですけど……」



デリック達が「英雄色を好むというけど、まさかここまでとは」と若干引いてる。

やめてよ。俺もともとこういうのが好みなんだよ。


「しかしどうするんだ騎士君。この子を放っておくわけにいかないとは言え、
治すアテがあるわけではないのだろう?」


しびれを切らしたのか、デリックが問う。


確かにごもっともな意見だ。
ていうか神による呪術を治せる人間がいるなら連れて来いってレベルだよ。


「治すアテはないが、他のアテがある」

「他のアテ……?」


デリック達の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。


俺はこう考える。


逆に考えるんだ。別にそのままでいいんだと。


彼女でなく、彼女を取り巻く環境が変わればいいんだと。

今回はここまでです。極力短く収まるようにずっと頑張ってるはずなんですが、
いつの間にかすごい量になっています。

ま、まぁホラ……ビーチボールしたのにも深いわけがあったわけですし……
ですよね?騎士様……?ノリじゃないですよね……?

とりあえず再開します。ロリまみれとか気のせいです。

#13『プリンセス/メイド・セリエ』


俺たちは結局ウィル村の横の森、正式名称は知らないが「ウィル森」と呼ばれているところに向かっている。

ルルミィと出会ったあの思い出の森だ。


話せば長くなる……わけでもない。アラクネの女の子に「もう似たような女の子がいるとこでゆっくり暮らせばいいじゃん」と俺が提案したからだ。
下の蜘蛛が暴れまわってまた人殺しになってしまう危険性もあるが、そっちに関しては別のアテがある。
とりあえず町まで戻ればいい。


……だが。


「本当にいいの?ナーヤちゃん」

「はい!こういう経験は初めてですが、結構楽しいものなんですね!」



……俺たちは今、何故か、アラクネの女の子(名前はナーヤというらしい)の上に乗って移動している。
ナーヤがでかすぎて馬車に入らないという事なので、歩いていくと言ったのだが、そうするとなんと乗せていってくれるという。


色々意外だが、割と乗り心地がいい。
蜘蛛だからか、移動が静かで揺れがすくないのだ。


「乗り心地はどうですか?」

「快適です!」


すっかり馬か何かにでもなった気分である。
まぁ、楽しそうなら別にいいのだが。


結局デリック達は先に行ってもらう事にした。
色々理由はあるが、まぁ俺らのペースに合わせる必要もないだろうしな。

――――


なんやかんやで数時間歩く。
そういえば、馬車でも数時間の距離なんだよな。これどれくらいかかるんだろ。


「ナーヤちゃん、大丈夫?」

「あ、はい、私は大丈夫なんですが……その」

「その?」

「ちょっと騎士様から魔力を吸収しちゃってるみたいで……」

「ええ!?なにそれ!?」


なにそれこわい


「よくあることですよ?魔族にはそういう器官が発達しやすいです。なんせ命綱ですし」


マジかよ。


「じゃあ皆持ってるっていうのかよ」


「羽根とか、尻尾とか、角とか、獣耳とかあるです?あれです」


あれなの!?


「魔族はごはんがなくても、眠らなくても、傷ついても、魔力さえあればなんとかなるです。
代わりに、魔力がなくなればそれはもう無力。あっさり死んじゃうです」


魔族は魔族で大変なんだな。


「これは人族の騎士さまにはわからない辛さですよ」


ふー、とため息をつくルルミィ。
お前もう完全にそっち側なんだな。


「ですから、私は疲れてないんですけど、騎士様の方は……」

「俺?今のところなんともないけど……」

「そうですか、それならよかっ……」



――――――パァン!

と、遠くで乾いた音が響く。

瞬間、二人の目つきが険しくなる。


そう、これは間違いない―――


「銃声です」

「北の方から聞こえました」


位置まで特定できるとは、流石魔族。

―――


走っていると、やたらと魔物が集まっているところが見つかる。
間違いない、あそこだ。


銃声という事は、銃を使う魔物、もしくは人がいるはずだ。
この場合、銃を使う人間が囲まれているとみるべきか。


「騎士さま、ストップです」

ルルミィに声をかけられる。何だ、急に……?



「クラッシュスター!」


ルルミィが掛け声と共に球体を投げ込む。



炸裂音。


あ、爆弾っすか。
君中々恐ろしいことするね、人に当たったらどうすんのマジで。



「大丈夫ですよ。魔物の壁をぶち破るので精一杯ってとこです」



この子やっぱこえーわ。魔族って皆こうなの?


「ひ、ひぇぇ……」


あ、違うわ。普通にナーヤ引いてるわ。
やっぱルルミィがおかしいだけだわ。この子どんな親の元で育ったんだろ。

とりあえず、ルルミィの爆撃のおかげで魔物も混乱している。
その隙をついて俺たちも切り込む。

「ぜあっ!」

魔物を一太刀で葬る俺カコイイ


「ていっ!」


蜘蛛の糸を放射状に発射し一気に魔物を無力化するナーヤ。



あれ?やっぱ俺いらなくね?


俺この世界に来てからマジで女の子に負けてばかりじゃね?


そこで、傷つきながらも戦う、明らかに高貴な方々を発見する。


「あなた方は……?」


お姫様のような少女がぽかんとした表情でこちらを見、
その従者のような少女が―――

「新手かッ!?」

と手持ちの銃を発砲。おい待て落ち着け。

ナーヤに向かって真っすぐ向かった銃弾を素早く剣で弾き落とし、
自分たちは敵ではない事をアピールする。


「俺たちは君の味方だ!信じられないかもしれないが、今は詳しく説明している場合ではない!」



まずはこの尋常じゃない量の魔物の殲滅が先である。
放っておけばマジでまずいことになってしまう。


「セリエ、今は緊急事態です、彼らを信じましょう」

「姫様がそういうのであれば!」



軽いなオイ。

――――

そうしてなんやかんやで、おそらく姫であろう方々との共闘の末、魔物を殲滅する。
雑魚相手なので割愛だ。ちなみに姫様は範囲魔法が使えたぞ。とても強いぞ。



「ご助力、誠に感謝いたします」

「ありがとうございます!」


中々対極的な二人のようだ。


「ああいや、それは別にいいんですが……なぜ姫様がこんなところに?」


「何故姫様の事を!?」


お前が姫様姫様言うからだ。


「セリエ、見ればわかりますし、貴方が姫様姫様言うからですよ?
そうですね。自己紹介が遅れて申し訳ありません。私、シフォン・ユディール・リブデル。リブデル王国第一王女です。」


やっぱりマジもんの姫様だったようだ。

レイピアを使いこなし、合間合間に補助魔法と攻撃魔法と治癒魔法を使い分けるから何者かと思ったが。


「私は従者のセリエです!姫様が心配になったのでここまで駆けつけてきました!」


「心配に?」


「ああ、お恥ずかしい話なのですが、私、従者にも何も話さず城を出てきてしまったんです」

「は?」


は?ってしまった、失礼だよな。

いやでもちょっと待って、何で?姫様ナンデ?今さっき殺されかけてたんだよ?


―――

プリンセス(レア)
http://i.imgur.com/NVNtbDO.jpg

メイド・セリエ(レア)
http://i.imgur.com/HOlgq81.jpg

バトルメイド・セリエ(Sレア)
http://i.imgur.com/YujhnO1.jpg

――――


「わたくしは小さいころから王女として育ち、剣や魔法も学んでまいりました」

「ふむ」

「そして、そのうちに、政(まつりごと)にも携わるようになり、この世界の経済や、
勢力図、魔物や人々の争いの歴史や、現代にいたる部分まで学びました」

「です」

「知れば知るほど……私は自分の力を何かに活かせないかと、逸る気持ちを抑えきれませんでした。
聞けば、治癒師がいないという理由だけで、戦で死んでいく人々もいるそうですね。
そういった場にこそ、私のような人間が赴くべきなのではないでしょうか」

「そう考えて、姫様は、誰の許可も取らず城を飛び出してしまったんです……」


それってどうなん……。


「なるほど、そういった事情が……でも、姫様が何も言わずに城を出ていくっていうのは……」

「ですが、彼らに事情を話したところで、警備をキツくされるだけです!ならば誰にも話さない方が!」


ヒートアップする姫様。そんな中、従者のセリエがおずおずと手をあげる。


「……………あの」

「どうしました?セリエ」

「ずっと言いたかったこと言っていいですか?」

「どうぞ?」


「な、な、なんで魔物と一緒にいるんですかぁぁぁぁッ!?」


ガビーン、とかいう擬音が聞こえてきそうなほどに大きなリアクションだ。
今まで我慢していたのか。偉いな。流石王女の従者だけある。

「え、えっとですね……」


あ、ルルミィもナーヤもちょっと傷ついてる。
ここは俺がフォローを入れておこう。


「まぁ魔物って一口に言っても色々いるんだよ。
この子らは元々人間で、呪いで魔族に変化させられちゃったんだよ」


「そうなんですか」


パッと目を見開く姫様。
何か感じるところがあるのかもしれない。


「え、えと……魔物って……大変なんじゃないですか?」

「そこそこ大変ですね。私の場合、下の蜘蛛が言う事を聞かなくて……すぐ人を食い殺そうとするんです」



ナーヤがそういうと、セリエは「ひぃっ!」と言って後ずさる。
そらそうだわな。しかし、姫様・シフォンは変わらず、優しい目でナーヤを見つめる。


「……でしたら、魅了(チャーム)の魔法等を覚えてみてはいかがでしょう」

「魅了(チャーム)?」


名前くらいは聞いたことがあるが、どんな魔法なのかはさっぱりだ。
なのでちらっとルルミィを見ると。


「魔力を使用して相手を操ったりできる魔法ですよ」


と簡単なお言葉が。それ結構高等魔術なんじゃないですかね。


「魔力消費も大きいですし、難しい呪文ではあるかもしれません。でも貴方、えっと……」

「あ、私はナーヤです」

「そう、ナーヤさん、貴方が平穏な生活を願うのなら……覚えてみる価値はあると思います」


ニコリとほほ笑むシフォン。やはりそこらへんの一般市民とは格が違う。
この人なら女王としてしっかり国をひっぱってくれるだろう。

――――


とりあえず一旦リブデルへ向かう事にした。幸いここから歩いて二時間もかからないらしく、そう遠い距離ではない。

でも二時間かからないから近いって考え自体そろそろ毒されてるんだろうなって思い始めた。

何気にリブデルはワーダインの森を突っ切らねばならないという。
姫様よ、もっといいルートはなかったのか。

すると、ふと嫌な気分を感じる。

ほんの少しの、ほんの些細なものだったが、ルルミィ達も感じたようで、周囲を見渡す。


何もいないか―――


と、安心しかけたその時。


「上です!」



ルルミィの一言に、俺は王女を抱えジャンプしていた。


幸い俺たちの近くに落下しただけで、直撃ではない。
俺たちを殺すつもりではないのか、「誰か殺してはならない人間がいるか」

どちらにせよ、面倒くさい戦いを強いられる事には変わりはないだろう。


「また会ったな」


「良イ反応ダナ、先ホドノ騎士ヨ。イツノ間ニカ元気にナリオッテ。食エヌヤツメ」



先ほど俺を半殺しにしたドラゴン――― ヴァイクが俺たちの前に佇んでいた。

今回はここまでです。プリンセスたちはハイレア以下のくくりじゃないんじゃ?という感じもしますが、
原作(クエスト)の通りにすると丁度いい立ち位置なので登場してもらいました。

一応、今更ですがこのSSは原作というかゲームのメインクエストのストーリーをそのままなぞっています。
やたらと戦闘シーンが多くて、ヴァイクと再戦してるのも原作通りです。

クエストストーリーとかもう覚えてる人の方が少ないと思います。
基本的にレアリティ低い子と旅をするつもりですが、展開次第では高レアリティもバンバン出てくるのでご安心ください。

では再開します。

#14『フェンサー』


『騎士ヨ、ソノ姫ヲ渡ス気ハナイカ?ソイツサエ渡スノナラバ命ダケハ助ケテヤロウ』


ヴァイクから、さっそくのご提案である。


しかし、受けてやるわけにはいかない。
奴の目的は明白だ。先生攻撃も敢て外した。
ここで俺に提案を持ちかける。


奴の目的は……姫の奪取だ。
その後何をするかは俺にはわからないが、少なくとも良い方向に転がることはないだろう。


睨みあう俺とヴァイク。


「すまんなヴァイク。その提案だけは受けられない」


『ナラ死ネ』



間髪入れずにヴァイクが突進してくる。

俺はもちろん、余裕を持って横にかわそうとする―――が、


ここで躱せば姫やルルミィが躱しきれず重傷を負う位置だ。
なんて奴だよ。ここまでわかってて攻撃してくるか。

「仕方ねぇ。『クイックステップ』、『ドラゴニックアーマー』!」


切り札の二枚をさっそく使う。
もはや仕方ないのだ。

『グオオオ!』

ヴァイクがうなりをあげて俺の剣とぶつかる。

かなり重い。必死のガードも今に潰れる。
まずい、このままでは――――、そう思った瞬間。



「レイジ!」


姫の凛とした声が響く。

何かの魔法か?と思ったその時、自分の体に力がみなぎっていくのを感じる。


「うぉぉぉらああああぁぁぁッ!」


俺はものすごい力を発揮し、守っていた剣でヴァイクを押し戻す。

異常なまでのパワーに驚愕するヴァイク。


『貴様……何ヲ!』

「俺が聞きたいわ!」

「騎士様!これは姫様の魔法、『レイジ』です!攻撃力が格段に上がります!」


なるほど、セリエが間髪入れずに簡潔な説明をしてくれる。
証の効果があり、その上これならそら相当強いわ。

「っしゃ死ねぇええええええァア!!」

そのままヴァイクに切りつけようとする―――が、もちろんバックステップで回避される。
だが、その瞬間、ヴァイクの足が止まる。


「グオ……!?」

ヴァイクの足元にねばついた糸のようなもの――――そう、ナーヤの糸だ。

「スレット!」


それと同時にルルミィがスレットを叩きこむ。これで準備は揃った。




「グワアアアアアアアアアアア!!」



俺が剣を振りおろし、ヴァイクを切り裂く。

とめどない量の血が溢れ、ヴァイクが崩れ落ちていく。



「……やったか!?」


というセリフをつぶやいた瞬間、これは死亡フラグであると思いだす。


そして、大きく上に飛ぶ。するとなんと、ヴァイクの腕がひとりでに攻撃してくる。

……というか、ヴァイクを斬り切れておらず、まだ体がつながっていたようだ。

「……チッ」

「おうどういう事だよ!何で生きてるんだよ!」


「……貴様、コノ一撃ヲ躱スカ。マァヨイ。モシココデ決着ヲツケナケレバ、
イズレニセヨ貴様ハ我ヲ殺スダロウ」



体がざっくりと袈裟がけに切られ、尋常でない血を吹き出しながらなおヴァイクは喋る。


こいつ……バケモンか?いや、バケモンか。


コォォ……という音と共に、ヴァイクの口に魔力が集中していく。


これは――――くる。


「ルルミィ!」

俺が叫ぶのが早いか、ルルミィが脇から走りだし、ヴァイクの口に爆弾をつっこむ。


「伏せてくださいです!」

「ファランクス!」


変な返事だな。と思いながら全員が伏せた瞬間、大爆発が起きる。

―――


以外にも、俺たちの傷は浅いものであった。
軽いやけどに、木々の破片などが飛び散ったかすり傷。

あの爆発の中、これで済んだということは……。


「はい、その表情、わかりますよ~。
あれは姫様の『ファランクス』です。一瞬だけですが、様々な攻撃から私たちを守ってくれます」


すげぇ。

ていうか攻撃も防御も魔法でできて、その上剣が扱えるとか姫様どんだけ万能だよ。

ていうかなんだこのメイド。今心読んだろ。


「……それより、ヴァイクがいなくなったです?爆発に紛れて逃げられたっぽいです?」

「え、ええ……またあんなのと戦うんですか……?」

ビクビクするナーヤ。

そらそうだろうな。あいつはもう本当こわいし。


と、思っていたが……。


「あ」


ふと、地面に落ちているカードを見つける。


「ヴァイクの証だ」


「えっ!?」

驚く姫様。そう、この証が意味するところは……。


「勝ったの……ですね?」

「やったです。これで騎士様超強化ですよ」

そんなに強化されるんだろうか。
この証のスキルは……メテオストライク。上空からの砲撃が行えるらしい。よくわからんけど強そう。


しかし何故……ヴァイクがあんな所で死んだのだろうか?
ルルミィの爆弾には、いくらなんでもヴァイクを一撃で爆殺できるほどの強さはない。

ならば、ヴァイク自身の失態により死んだと考えるのが一番だろう。

だが、そう考えればますます不思議だ。さまざまな敵を返り討ちにしてきたあいつが、
わざわざ失敗して死ぬような技を使うなら、さっさと撤退して不意打ちした方が良いに決まっている。

謎が多く、うんうんと唸っていると、姫様が話しかけてくる。


「お悩みのようですね」

「流石姫様……いや、ヴァイクがこんなとこで死ぬなんて珍しいと思いまして」

「……奴も、焦っていたのでしょう。貴方という怪物に」

「怪物って……酷い言いようですね」

「いやいや騎士さん、貴方自分で気づいてないかもしれませんけど、かなり化け物ですよ」

セリエからのあっけらかんとしたツッコミが入る。

「えマジ?」

「はい。最初にセリエの銃撃を弾きましたよね?あの時点で、もう人間のできる領域を超えています。
だから逆に、貴方はドラゴンと対峙しても勝てるだろうと踏みました」


一瞬でそこまで……なんつう洞察力だ。
これが一般市民と姫様の差なのか。


「貴方はドラゴンと闘い、その上で、敵の攻撃に合わせて回避や反撃を行っていました。
つまり、ドラゴンが何をしてくるか見た上で反撃する。相当の判断力と俊敏さを兼ね合わせねば不可能なことです」

「そうだったんですか……」

自分でもびっくりである。


「ドラゴンにも、それがわかったのでしょう。貴方は放っておけばいずれ本物の化け物となります。
そうなる前に、相打ちさえ覚悟で貴方を殺そうとしたのでしょう」



つまり、ヴァイクとしては、今戦況を立て直して再戦すれば、次に負けるのは確実に自分となっていた、ということか。
それならまだ、ギリギリ殺せるかもしれないラインの時点で殺しておくのがベストだろう。


「なるほど……」


ようやく納得がいった。

てことは、やっぱ俺、チートクラスの強さを手に入れてしまったってことか……。
最初からそんな強かったっけなぁ?

まぁいい。何はともあれ、ヴァイクを討伐できたのだ。
とりあえず姫様を送り届けた後、町に寄って森へ行こう。


―――


で、数時間後。


「ここがリブデル王国です」


ようやく到着である。
マジでこの世界、どんだけ歩くの好きなの?ねぇ。30分くらいでパっと着こうよ。
そしてお前らなんでそんなぴんぴんしてんの?


すっかり辺りは夕暮れ時。
流石王国というべきか、入り口は堅い城門で閉じられ、その横にちょこっと受付みたいな場所がある。
門番がボケーッと座っており、油断まるだしだが、ついでに上に高台もあるようなので、油断は禁物だ。


とりあえず王女を送り届けて……と俺がまったり考えていると。


「敵襲ーーー!!」



えっ。


「あっ」


あっ、あってなんだよ!!!
これヤバイことになったんじゃ!?


さっきまでのんびりしてたはずの門番も、姿勢を正しくこちらへ向き直る。


そして―――



「待て!!警戒態勢やめ!敵陣と思われた相手に姫様の姿を見つけた!」


「何ィ!?」


高台の男が驚く。そうか、向こうからは良く見えないのか。
てか声でけぇな。

すると城内からぞろぞろと兵士が現れてくる。城門ではない。横の勝手口みたいなところからだ。


「何事だ!」

「敵襲ではないというのは誠か!」

「敵の詳細を教えろ!」


なんかごちゃごちゃ言ってらっしゃる。困る。

こっちから近づくのもなんか怖いので、向こうの出方を待つ。

恐る恐る、兵士が近づいてくる。

そんな怖いか。


……あ、そうか、ナーヤいるわ。そら怖いわ。


「姫様!ご無事ですか!?」


若干遠目の距離から話しかけてくる兵士。
お前マジでビビりだな。


「普通に無事です!この人たちは危険ではありません!
警戒態勢をやめなさい!」


「ハッ!」


すると、いきなり緊張感がほぐれる感じがする。


魔物も怖くなくなったのか、すたすたと近づいて話しかけてくる兵士A。

「姫様。ご無事でなによりです。
それと皆さま方、姫様をここまでお守りいただき、誠に感謝いたします。来賓としてもてなしましょう」

「あ、あの……私も大丈夫なんですか?」


おろおろしながら聞くナーヤ。そら気になる。

「もちろん!種族は関係ありません。我が国の姫の友人は、我が国全員の友人です。ささ、こちらへどうぞ」


ギギィ……と城門が開けられる。いや、横の勝手口でいいっすよ。
そんな気を遣わなくても……と思ったが、そういやナーヤが通れないのだ。


ありがとう、城の兵士さん。

――――

そうして、城の中へと案内される。皆が皆、俺たちを見て頭を下げてくる。

姫様どんだけ偉いんだ。そして皆すげぇな、魔物を見てもおどろかないのか。

ナーヤとルルミィは落ち着かないようだ。


「なんか豪華なところに来てしまったです……」

「私なんかが入ってもいいんでしょうか……」

「いいんじゃねぇの。こういうことってよくあるよくある」


異世界ファンタジーもので城に招かれるなんてあるあるなので、俺は別に気にしていなかった。
どうやらそれはすごいことらしく、二人から尊敬のまなざしで見られる。くすぐったい。


広めの応接室のようなところに通される。
ナーヤも通れる広々としたドアの、広々とした部屋だ。

「い、椅子がふかふかです!」

ルルミィ、それ以上やると恥ずかしいからやめて。


「すぐに、お食事をお持ちしますね」

と、立ち上がるセリエ。


「ていうか着替えなくて大丈夫なのか?汚れてるけど」


そういうと、姫様がふっとはにかみ、返答する。


「お気遣いありがとうございます。
では、私たちは着替えてまいります。騎士様たちも、浴場をお使いになられますか?」


俺は別にいいんだけど。臭いかな?


「ルルミィとナーヤはどうする?」


「わ、わたしは遠慮しておくです」

「わたしも……い、いいです」


緊張しすぎである。

「なら俺もいいや。濡れた布とかあったら欲しいな」

「かしこまりました」


傍に控えていたメイドに一言二言言い、去っていく二人。


マジでここ広くて落ち着かないッス。

――――

で、なんやかんやまったりしたところで、部屋着?に着替えたシフォン姫様とセリエがやってくる。


部屋着?としたのは部屋着にしたら豪華だからだ。あれはなんだ。あのフリフリは。


「騎士様、お食事はいかがでしたか?」

「めっちゃおいしかったです」

「です!」

「ごちそうさまです」

「それならば何よりです。して、助けていただいた上、厚かましい事は承知しているのですが……
もう一つだけ、お願いしたいことがあります」

「それが何かによるなぁ」

「話が早い。実は、少々剣の腕が立つものがおりまして、そのものをねじ伏せて欲しいのです」

「は?」


――――


そして俺は、訓練場のようなところに連れてこられる。


「彼女です」

と姫様が指差した先には―――


「あら?そちらの庶民のような方が、今回のご相手ですの?」



ですの口調に金髪ツイン。
腰に携えるはオシャレなレイピア。
すらっとした体にほんのり主張するバスト……


そして、『お嬢様ッ!!!』と言わんばかりの豪奢なドレスアーマー?
籠手や胸当てのついたドレスと言えば早いか、とにかくフリッフリした服である。



――――
フェンサー(ハイノーマル)
http://i.imgur.com/eonP1X4.jpg

「あの子は腕も立ちます。才能もあります。家柄も良く、大成するでしょう」

「じゃあ別に叩きのめさなくていいんじゃ……」

「いえ、あのままでは、負けをしらないまま、世界の全てが自分より弱いと勘違いしてしまいます」


なるほど……。


「いざ本番で、自分より強い魔物と出会ったとき。
どう戦えばいいか、何が本当に恐ろしいか。そういったことを学んでほしいのです」


期待するからこそ、ということだろうか。


「なので騎士様、かるぅくひねってあげてくださいな」

にっこりとほほ笑むその眼からは……なんだろうか、逆らえない威圧感のようなものがただよってくる。
ここは素直に、はい、と頷くのが正解だろう。


――――


そして実践。
「証を使う時はこっそりお願いしますね?」と言われたので、俺はポケットに手をつっこんだまま証を発動。
実は「発動するぞー!」っていう気持ちさえあれば、スキル名はボソボソ呟いても勝手に発動するのだ。


そして、フェンサーの女の子と向き合う俺。


「この度はこういった機会を設けていただき幸いです。
私はフィーリア。フィーリア・ディズ・フィアラルディアです。以後お見知りおきを」


すっ、と綺麗なお辞儀をする。


「……このような機会?」

「あ、説明していませんでしたね。実は今回は、王宮近衛昇格試験という形なんですよ」

「なにそれ」

「つまり騎士様、貴方に勝てば彼女は王宮近衛兵えと昇進できるということです」

にっこりと言われても、俺にはよくわからん。
とりあえず勝てばいいのか負ければいいのかわからんが……強かったら負けよう。


「俺の事は……そうだな、通りすがりのただの騎士だとでも思ってくれ」


いつもの前口上である。

それに対し、フィーリアちゃんはふふんと鼻を鳴らし、余裕の表情である。


「そうですか、通りすがりの騎士様。
年端もいかぬ女子に膝をつかされても、悲しまないよう心の準備をお願いしますね?」


本当に余裕ぶちかましすぎだろ。

俺はちょっと、この子にお灸をすえてやることにした。

「はじめ!」


その掛け声で、戦いの火ぶたは切って落とされ……え!?早い!?


いきなりである。俺が女の子の方を確認するかどうかのレベルで、既に懐に潜り込まれる。

身長差がある分、この状況、明らかに向こうの有利である。

レイピア使いではあるが、今回の武器は双方ともに木剣、安全を考慮してだ。


………ということで、俺の圧倒的有利である。

何故かって?さっきクイックステップを使ったからだ。

実はクイックステップは、俊敏な行動に加え、動体視力何かも超強化されるので、木剣クラスの斬撃ならば、
見てからの回避余裕でしたができるのだ。

これがやたらと長いレイピアなら難しかった、ということだ。


というわけで俺は危なげなく一撃目をかわす。この状況で躱された事に驚いたのか、フェンサーの女の子、フィーリアは目を見開く。

しかしあわてることなく体を回転させ、第二撃に移ろうとする。が、甘い。

そのまま剣を振り下ろして相手の剣の柄の部分に叩きつけてやる。こちらは何もかも見えているし予測可能なので、これくらいは朝飯前だ。


威力の重さに驚いたフィーリアが剣を離す。剣はそのまま床に落ち、跳ね返ってあさっての方向へ飛ぶ。


もう武器はない。

「………ッ!?」


絶句、という表情に近い形でフィーリアは顔を硬くする。しかしあきらめない。俺からの攻撃をそのまま流し、側転、
逆立ちの姿勢で容赦のない蹴りを放つ。


「はぁっ!?」


大道芸人のような動きである。こいつ、ホントに普通の女の子か?魔族かなんかじゃないよね?

ギリギリのところでそれをかわし、腹に軽くけりを入れると、思いのほかキレイに入ったらしく、フィーリアがふっとぶ。

あ、やべ、やりすぎた。


確認の意味も込めつつ素早く駆け寄り、首に木剣を突きつける。


「そこまで!!」


姫様の声が響く。


フィーリアは―――


「……あっ……あァァ……!!」


絶望と、苦痛と、悲しみと、失望と、悔しさと―――

様々なものが入り混じったような、滅茶苦茶な表情をしていた。

――――

結果としては、俺の圧勝である。

しかし、フィーリアはマジで強かったのではないだろうか。


踏込みの速さ、身長差を活かした戦い方、とっさの機転、落ち着き。
様々な状況を考慮しても、非常に強いと評せる。

もし武器がレイピアであれば、もし俺が証を使っていなかったら―――

様々な状況は想定できるが、ほとんどの場合、俺が負けていただろう。

それくらいに、彼女は強かったのである。


「すごいですね、予想以上の強さです」

「でしょう?わがリブデルが誇る優秀な剣士なんです」


にこにこと姫様と雑談を……


雑談をしたいから、

「そろそろその土下座、やめてくれないか」


「師匠ッ!!!お願いです!!!弟子にしてください!!」



その展開大分前にやったよ。
あとキャラ変わりすぎだろ。


「生まれてはじめての敗北が、よほど心に響いたのですね」


響いたのですね、じゃねぇよ。こいつ首だけになっても懇願してきそうなくらい必死なんだけど。


「靴磨きでも雑用でもなんでもやります!!!私に剣を教えてくださいませ!!」

ん?今なんでも……いやいや。
そういう極悪なのはキャラじゃない。

ていうかマジでどうすればいいんだこの子。


そう思いながら横目で姫様を見ると、ぼそりと耳元でささやかれる。


「一応弟子にしてあげて、無理難題をやらせてみるのはどうでしょうか?」



ナイスアイデア。
それならこの堅物剣バカもおとなしくなるだろう。

「仕方ない、弟子にしてやろう」


「本当ですの!!????!!!」


うるせぇ。


「ではまず素振り1000回だ。その後城の周りを100周してこい」


「かしこまりました!!」



えっ



かしこまるの。


「いち!にぃ!!さん!!しっ!!」


ブンブンとレイピアを振りはじめるフィーリア。

マジでやる気である。


「あら……それくらいなら達成してしまいますよ?」

と姫様。


マジで?


もうこれ以上は可愛そうになってくる。

そうだ、もうそろそろ出よう。俺がいなくなればいいだけの話だ。


「じゃあ俺そろそろ……」

「そうですか?なら馬車をお出しします」

「あ、マジっすか。あざす」

「それと、お渡ししたいものがあります」

「渡したいもの?」

「ええ、これを」


と、手渡されたのは小さな銀貨。

やけに質感が良い。純銀だろうか。


「……これは?」

「プルーフメダルです。困ったことがあったらこれをお使いください」


「プルーフメダル……はぁ」

よくわからないが、綺麗なもんだしもらっておいて損はないだろ」

「じゅうご……じゅうろく、じゅうなな……プルーフメダル!?」


食いつくなぁおい。


「い、今、プルーフメダルとおっしゃいました!?」


ブンブンと素振りをしながら話すフィーリア。うざい。

「一旦素振り止めていいから。これ何か知ってるの?」

「知ってるも何も!一度だけ、どんな願いであろうとも王国の力を使って叶える事のできるメダルですわ!」


えっ



つよ


「いいんですかこれ本当にもらって」

「ええ」


マジかよやった。

しかしそんなにすごいもんだったとは。


「貴方は命の恩人であり……そして、いずれこの世界を救うお方となるでしょう。
これくらい、私たちの恩に比べれば安いものです」


ちょっと期待が重いかな。


「さ、さすが……流石師匠ですわァッ!!」


きらきらと目を輝かせるフィーリア。こいつホント犬みたいだな。
犬系の魔族にでもなったら?

――――

で、なんやかんや。

とりあえず、プルーフメダルを貰い、俺たちは帰り支度をする……するが。

「流石にこの時間ですと、出発は明日ですねー」

とルルミィが呟く。

明日か……なんかアイツ、素振りと走り込み終わらせてそうで怖いんだけど?

もしそうなったらどうしよう。

「うう、私、本当にここにいていいんでしょうか……」

おろおろするナーヤ。いつまで続けるんだろうか。

ベッドはちなみにキングサイズでも小さかったが、
「私、この姿勢のままで熟睡できますけど……」というセリフにより、あえて床で寝ることに。

魔族ってすごい。

「それで疲れが取れるもんなの?」

「疲れ自体はそもそもあんまり感じません、ただ、その……」

その?

「き、騎士様とくっついていたいです……」


顔を赤らめながらそう言うナーヤ。
何この子、大胆。

「あ、いえその!魔力が回復すれば疲れも取れますので!!魔物ってそういうもんなんで!」


あわててフォローするが、あんまりフォローになってない。
むしろこっちが目的か。

ていうか俺から魔力吸収する気だったのかよ。こええな。

「騎士様の魔力は吸っても尽きる気配がしないので……すごく心地よいんです」


あれか、飲んでもなくならないジュースみたいなもんなのか?

よくわからんが、くっついてほしいとのことなので、しばらくナーヤの体にもたれかかる。

「……あ♪」


嬉しそうだなぁおい。


そうしていると、ルルミィがとことことやってきて、俺の膝のうえにすっぽりと座る。


動けん。


「わたしも魔力を吸収するです。椅子になってもらうです♪」


楽しそうなこと極まりない。


まぁそんな感じでほのぼのしながら、今日も夜が更けていくのであった。

今回はここまでです。
次回、やっとオーラインに帰れます。

そろそろ終盤をはじめないと終わらない気がしてきました
というわけで再開します。

#15『ジュエリーウィッチ/ハピネスフェアリー』


翌日。


俺たちは出発する……はずだったのだが。


「師匠!!!」


やはり来たか。

そこには明らかに肩で息をし、目の下には凄いクマをこさえたフィーリアの姿があった。

「私を弟子にしてくれるとの約束です!!」

「そうは言ったが……」

まさかあの約束を反故にするとも言えず、俺がおろおろしていると。


「フィーリア、行ってしまうのですか?」

「姫様!」


シフォン姫様の登場である。お菓子の名前みたいだな。今更だが。


「貴方には非常に高い期待をしていました」

「ですが、先日負けてしまいました……」


がっくりと肩を落とすフィーリア。一敗がそんなに悔しいか。


「あれは私の差し金です。申し訳ありません」


ぺこり。と綺麗に頭を下げる姫様。
するとフィーリアはいきなりヘドバン……ではない、大慌てで首をふって姫様に頭を下げてもらうのをやめようとしている。

「ひひ、姫様!貴方のようなお方がそうやすやすと頭をさげてはなりませんわ!」

「そうですか?なら今回の事は不問にしていただけるのでしょうか」

「もちろんですの!」

自信満々である。


「ですって、騎士様」

「えっ」


えっ。

姫様、それずるくない……?


「あら?フィーリア、それでも旅に同行するというのですか?
もちろん私は構いません、ただ、貴方が王宮近衛兵になれるのは、今しかないと思っていたのですが……」


姫様えぐい。


「あ……えっと……その……」

おろおろするしかないよな。
なんかごめんな、フィーリア。


「フィーリア、別に俺もまたこの国に来るから、その時にでも稽古してやるって」

「……は、はい!」


ちょうどいい落としどころ、というか二人して完全に姫様の術中にはまってしまった。
流石といえば流石だ。

「じゃあ、俺たちはそろそろしゅっぱ……」

「あ、最後に少しだけ……」


まだ何かあるんスか。

―――

と、俺は何故か王宮の地下通路を歩いている。
スペースやらなんやらの都合で、ルルミィとナーヤは置いてきた。ごめんね。

「姫様、こんなところに一体何が……?」

「もののついでです。いらないものを処分していただこうと思いまして」


え?何それ。ゴミ処理?
何か最後の最後に面倒くさい雑用押しつけられたな。


しばらく通路を進んだのち、姫様が古めかしい鍵を差し込むと、
鉄製の頑丈そうな扉がきしむ音と共に開く。


「ここが宝物庫です」


「えっ」


本日二度目の「えっ」である。


「まさか姫様、貴方」


「どうせこんなところに保管しておいても誰も使いません。
私がそのうち王女になるのですから、もうこの辺りのは全部騎士様に差し上げたいくらいです」


流石に落ち着こう。金銀財宝やらなんやら、とにかく希少なものがあるんだぞオイ。
てかルルミィ連れて来ればよかったな。あ、ダメか。アイツならマジで全部持って帰るとかいいかねない。


「げほっ……少々埃っぽいですわね。誰も掃除していないのかしら……」


そらアンタが鍵持ってんだから誰も掃除できねぇよ。


「とりあえず、ここにある貴重そうなものを、是非騎士様に持って行っていただきたいと思いまして」

「プルーフメダルも貰ったのに、そんなにいいんですか?」

「もちろん。私は命を救ってもらった身。これがメダル一枚で返せる恩だと?」


むう……いまいちこの姫様には口で勝てないな。
仕方ない。お言葉に甘えるとしよう。丁度路銀稼ぎもしたかったとこだし。

と、箱を漁っていると―――


「ん?」


「どうかなされました?」

「この宝石……なんというか、温かいんですね」

「温かい?そんな宝石、存在しませんよ?」


え?


「騎士様、今もっている宝石が……、本当に、『温かい』と?」

「え、ええ……」

「ならばそれは聖石かもしれませんね」

「聖石?」

「はい。魔石の一種で、聖なる力を宿した石です。相性が合うかどうかが大きいですが、
相性の良い人間に対しては、温かさや、優しさを感じる石だそうです」

へぇ……。

「じゃあこれをいただいてもいいですか?」

「もちろん!」


にっこりとほほ笑む姫様。

「あとはこちらに色々と入っていたような……おや?」

「どうかしました?」

「騎士様、こちらの紙……何か感じませんか?」


見たところ……ただの紙切れ……じゃない!?

「これ、マップじゃないですか!?」


青い点で何かが表示されている。
この満ちる魔力、これが……ブルーマップか!


「マップ、というとあの聖宝の……」

「知ってたんですか」

「おとぎ話のようなものだと存じておりました。
まさかこんな身近にあるなどと……」


いやそこは気づこうよ。


「……あ!でしたら!ちょっと城門で待ってていただけますか!?」

「まだ何か?」

「はい!とても大切な事を思い出しました!」

――――

マップと聖石とやらを片手に、城門で待機。
オーラインまでどうするかというと、なんと馬をくれた。嬉しい。

「騎士さま!騎士さま!」


ルルミィはこのはしゃぎようである。


「マップです!マップの!二枚目です!」


そう、かなり忘れていたことだが、この旅の本来の目的はルルミィの親を探すことだ。
ちなみに俺は別に元の世界に戻る気がなくなったので、お金を稼いで商人兼騎士になろうと思っている。

つまり、ルルミィの親を見つける事だけに集中すればいいのだ。ああわかりやすい。


「ひゃっほうですーー!」

「ひゃっほうー……?」

くるくると踊りながら喜びを表現するルルミィと、
なんのことだかよくわかっていないがとりあえず喜んどけばいいだろ的なナーヤの対比が面白い。

「騎士様ー!」

くるくるしていると、姫様がダッシュでやってきた。
はしたねぇなオイ。

「姫様!?あまり勝手に城を出られては!」

ああそうだった。この人前科持ちの上に姫だったわ。


慌てる衛兵を後目に、姫が俺に何かを手渡す。


「これ!昔私が宝物庫からこっそり貰って……今の今まで大事にしていたものです!
騎士様ならきっと、うまく使ってくれるはずです!」

「これは」


これは……リング!?

「いっやっほーーーー!!ですーーー!!」

ルルミィが早くも本日最高潮のテンションに達した。


「やはり、それがかの聖宝『リング』だったのですね?
形は似ていましたし、宝物庫にマップがあるならもしかして……と思いました」


他にも何かあってもおかしくねぇな。と思いつつ、まぁとりあえずこんだけ貰っておいてまだ貰うというのはむちゃくちゃだろう。
俺たちは姫様に礼を言い、城を発つことにした。

「本当にありがとうございました」

「です!!」

「ありがとうございました……」


「いえいえ、こちらこそ。このご恩、一生忘れません。
また、私に何かあったら、そのメダルを見せ、『シフォンに用がある』とお伝えください」


ニコリ、とほほ笑むいつもの姫様スマイルだ。
これさえあれば、この国は安泰だろうなぁ。


「師匠ぉぉぉぉ!!!お達者でぇぇぇぇぇぇ!!!ですわぁぁぁッ!!」



うるさい。

――――


馬を走らせること数時間―――

途中でモンスターと遭遇して瞬殺したりしながら、俺たちはやっとこさオーラインへ帰ってきた。


……やることはいろいろある。が。


ナーヤどうしよう。


そう。簡単に説明すると、この町は対魔物用結界まで張るくらい魔物アンチな国で、
ルルミィでさえ入る時には一悶着あったのだ。


そこでこの明らかに魔物魔物した感じの、もう下半身全部魔物のナーヤを連れて行くのは少し骨が折れる。
どうしたものか。

と、おろおろしていると、門番がむしろこっちに来てくれた。



「…………やっぱ騎士さんじゃないですか」

「お、お久ー」

「無事だったのは喜ばしいことっすね。しかし、その子……」

「いやあ、どうしようかね……」

「いやもう、こればっかりはこっちじゃどうにもならないっすよ。
一応、デリックさん呼んできますけど……」


果たして、デリックでなんとかなるのだろうか。

――――


「き、騎士くん!?」

俺の顔を見るなり超びっくり。そらそうだよな。色々。


「良かった!君には本当に聞きたいことが色々あったんだ!
心配したし、あとリブデル国の姫を守りドラゴンを討伐したって本当かい!?」


そんな噂いつ流れた!?

「ああ、それよりさ、この子を町に入れたいんだけどどうすればいいかな」


「………」


ナーヤを一瞥し、黙りこくるデリック。

ですよね。


「もう、いいんじゃないかな、適当で」


いいの!?

お前頭いいキャラだったよね!?


「騎士くん、さっきの話は本当なんだろう?姫を守り、ドラゴンを討伐し、
ものすごい褒賞をいただいたとか……それが本当なら、もう君に逆らう人間はいないよ。
魔物を連れて行っても、『騎士様なら仕方ないか』でなんとかなるよ」


「なんとかなるのか!?」

「うん、たぶん」


すごい投げやりなデリックのアドバイス。

しかし、今はもうこれに頼るしかなかった。

―――――


「きゃあああああ!!!」

「うわああああ!アラクネだああ!」


「助けてえええええええ!」



案の定。


「おいデリックこれは……」

「………」


すう、とデリックが息を吸い……。


「皆!!聞いてくれ!!!」


注目が集まる。


「彼女はまたしても呪いによって半身を魔物にされた哀れな女の子だ!
勇敢でドラゴンを片手間に倒すことのできる騎士様は、彼女を救おうとしているんだ!」



片手間ってなんだ片手間って。
こっちは殺されかけたんだぞ。

そうおもっているのは俺だけでなかったのか、大衆からヤジが飛ぶ。


「ドラゴンを倒したなんてウソに決まってるだろ!」

「姫様を守って褒賞を受け取ったのもデマだ!」

「こいつは魔物を連れてきてこの町を潰そうとしている!」


う~ん、散々な言われようである。
しかし、そういえば証明になるものがいくつかあったような気がする。


「これで証拠になるかな?」


と、ヴァイクの証を見せてみる。


その瞬間、大衆の顔が引きつる。


「ど、ドラゴンの証……!?」

「ドラゴンスレイヤー……本物のドラゴンスレイヤーだ!」

「刃向ったら殺されるぞ!!」



えっ、こわ。


「あとこれ」


と、プルーフメダルどやぁ。



「うわああああああああああああプルーフメダルだぁああああああああ!!」

「本物か!?ただの銀貨じゃないのか!?」

「う、嘘だ!!偽物に決まってる!」


―――と、


「……俺は昔、王宮で働いていた」


一人のいかめしいおっさんが俺の前に出る。


「このメダルは……間違いねぇ。本物だ。リブデル国のプルーフメダルだ」


そういった瞬間、空気が凍った。


俺を見る目が変わっていくのがわかる。

畏怖、尊敬、羨望……はては恐怖から絶望まで様々。

とにかく、大衆を混乱させてしまったのは間違いないようだ。


しかし、その中で、たった一人変わらない目をしていた人物がいた。


「騎士様!帰ってたんですか?もー、心配したんですよ?何日もいなくなるから」



先日俺と一緒に悪魔を召喚した、ルーキー召喚士、いや、今では立派な魔術師となった……ルリだ。


「というかどうしたんです?この状況。割と色々説明してもらえると……。あ、そっちの大きな蜘蛛の子ですか?
本当、人外の女の子好きですねぇ。騎士様」

「いや、そういうアレじゃなくって」

と、俺がおろおろしていると――――


「ふふ……騎士くん、見てごらんよ」


デリックが半笑いで周囲を見渡す。


そう。皆の顔が……綻んでいる。

俺とルリの会話が、あまりに屈託なかったからか、とにかく、皆が皆、一様に安心感を感じているようだ。


俺が敵ではない、という事は、少なくとも理解してもらえたのだろうか。


「ほら、やっぱり何とかなった」

「結果論じゃねぇか……」


根拠のないデリックに乗せられたが……結果オーライというヤツなのかもしれない。

―――――


まだ完全にわだかまりが解けたわけではないが、とりあえずルリ宅へやってきた。
迷惑がかかるかもしれないというのに、なんていい子なのだ。


「受けた恩は倍にして返せって、親に教わりましたから」

そう言いながらてきぱきと食事の用意をする。この子、いい嫁に育つな。


ルルミィも手伝おうとしているのだが、ここで彼女の小ささが問題となる。
平均より小さいであろうルリより小さいその体では、台所まで届かないのだ。


ということで踏み台を用意してもらい、見守りながらクッキング。
なんだろうか、家庭科の授業のあとの小学生のようだ。



―――


で、昼食後、お腹一杯になったことだし、
わざわざ面倒な思いをしてまでここに来た目的を果たすことにした。


「魅了の魔法ですか」

「そうなんだよ」

「ふむ……」


ナーヤをじろじろとなめまわすように見て、ふむふむと呟く。


「この子……ナーヤちゃんでしたっけ?彼女なら余裕でしょうね。
適正もあると思いますし」

「ほ、本当ですか……?」

「はい、アラクネ種はそもそも捕縛(バインド)や魅了(チャーム)といった
相手の行動を阻害する魔法に長けている種族なんです!」


なんか嬉しくない種族ではあるが、確かに得意そうだ。


「でもまぁ、自分の下半身に使うってのは初めて聞きましたけど……。必要なんですか?」

「さぁ、最近おとなしいからなぁ」

「そ、それは騎士様がいるからです」

「え、俺?」


俺のせい?


「この子の考えてる事は、なんとなくですがわかります。散々痛めつけられたことと、
圧倒的な実力の差を感じて、騎士様のいるところでは絶対に逆らわないようになったみたいです」


マジかよ。


「騎士様……何やってんですか」

「別になにもしてないよ!?」

「調教と暴行は騎士さまの趣味ですよ」

「ルルミィ!ストップ!!変なことを吹き込むな!」

―――


「まずこうやって魔法陣を描きまして」

「ほうほう」

「上に乗ってもらいます」

「えらく面倒な手順だな」

「いや、私この魔法苦手なので、教科書通りにいこうかなと」


この時代でも教科書通りとかあるんだな。
てか魅了魔法なのに……。


「騎士様には正直無意味だと思いますけど、一応やり方だけ」


そういうと魔法陣の上の俺に向かい、スッ、と杖を向け、
何かを詠唱しはじめる。


「……、わが虜となれ!『魅了<チャーム>』!」

ぽふんっ!という音と共に、
俺をふんわりとした優しい感覚がつつむ。

そして。


「ルリィィィィィ!!!好きだぁああああああ!!結婚してくれぇえぇえぇ!!!」


俺はルリに飛びついていた。


「せ、成功しちゃった!?騎士様!?離れてください!!ちょっ……やめ!!
いあっ……その、あう……!?」


体をよじらせるルリ、その息遣いすら愛おしい。俺がこの世界に来たのも、全てこの子と出会うため―――


「『捕縛<バインド>』!!!」


「ぎゃあああああああああ!!」


いきなり体の自由が効かなくなった!
何かロープのようなものに縛られている……!?


「おお……、成功したです?」


「お前か!!!」


「ルリさん、早く魅了を解いてあげてください!」

うるせぇえ!!!俺はルリと添い遂げるんだよ!!邪魔すんじゃねぇよ!!


「ウオラァァア!!!」


と、勢いよく立ち上がると『捕縛』であろう光の紐は引きちぎられる。

「げっ、です!?」



――――――と、その時。



「あれ、俺なんでルリに求愛してたんだっけ……?」


今までの熱い情熱がすっと冷める。
そうか、これが魅了の効果……。


「すみません騎士様、まさかこんなに入るとは思ってなくて」

「おういいよ」

「しかし意外です?騎士様の魔法耐性はハンパじゃなかったと思うですけど……」


そうなのか。
そう考えると魅了とか捕縛とか、基本っぽいのにかかるのも不思議だな。


「………もしかして、魅了に極端に弱い、とかです?」

「…………まっさかぁ」

「そんな……」




その後、様々な魔法を一蹴し、魅了だけ百発百中で受け、
魅了後はあらゆる魔法に対し無抵抗にやられるという事実が発覚した。



――――


「……あ、ところで」

「はい、どうかしましたか?」


魅了の講習が終わり、ナーヤがきっちりマスターした後、
俺はルリにこの町で石を鑑定してくれる人がいないかと言う事を聞いた。



「石……ジュエリーウィッチのフィミリさんに聞けば、だいたいのことはわかると思います」


ジュエリーウィッチ。
そんなドンピシャの職業があったのか。

姫様にもらった『聖石』と呼ばれるこの石が、いったいどういう働きをするのか少し聞きたかったところだ。


「気まぐれな人ですけど、騎士様ならなんとかなると思います」


俺はいったい、どこまでなんとかできる想定なのだろうか。

――――


というわけで、俺はルリの家からいくらか歩いたところにある、
研究所とも民家とも言えないような微妙な建物に来ていた。


「これを鳴らせばいいのか……?」

ドアの横にベルが備え付けられている。
インターホンの無い時代としては画期的だな。

ごりりーん、というなんとなく間の抜けた音がしたあと、人が出てきた。


「何の用だにぃ、魔物討伐の勧誘ならお断りにぃ」


かなり独特の口調をした、落ち着いた感じの洋装の少女だった。
銀髪に色の濃い赤い瞳、大きいがすこし煤けた帽子はベテランの風格を感じさせる。

「実はちょっと、鑑定してほしい石がありまして」

「石?ウチは別に石屋じゃないにぃ。そういうのは古物商の所にでも……ん?」


ぴくっ、と少女の体が反応する。


「この気配……この雰囲気、この空気!」

少女の目がかっ開かれる。

「こんなところで立ち話も何にぃ!早く中に入るにぃ!!」


アンタさっきまでと態度急変したけどどうしたんだよ。

――――


で、中。


「ふぉぉ……!!!」


テンション超上がってらっしゃる。


「これは、魔石の中でも特別珍しい、希少精霊石にぃ……!
まさかこれが、こんな街中で見つかるなんて……!!!」


感動すらしてらっしゃる。
帽子のところから獣耳が飛び出てぴこぴこしている。かわいい。

「そんなにすごいものなんですか」

「すごいなんて言葉じゃ片づけられないにぃ。
こういうものは、ダンジョンの奥深く、そのさらに深部に行き、じっくりと熟成された魔力が石に籠り、できるものだにぃ」

「へぇ……そりゃすごい」

「しかもこれは……うん、おそらく精霊を呼び出すことができるにぃ。
高位の精霊がノーリスクで呼び出せる……これだけの石なら数千万ルピしてもおかしくないにぃ?」

「はいっ!?」


す、数千万ルピだと!?

いきなり話が飛びすぎだろ!!ヴァイクなんかよりよっぽどじゃないか!?


「……欲しい」


ぽつり。


「ちょ、それは流石に……」

「じょ、冗談だにぃ!あ、自己紹介が遅れてしまったにぃ。
私はジュエリーウィッチ、宝石関係の魔法に特化した魔術師をやってる、フィミリ・ミリィというにぃ。
以後よろしくにぃ」


――――
ジュエリーウィッチ(レア)
http://i.imgur.com/yJIE8SC.jpg


にぃにぃ言ってるが妹ではないようだ。
俺も手短に自己紹介をすませ、石について聞く。


「その精霊を呼び出すって……どうやるんですか?」

「それは流石にわからないにぃ。ただ、声をかけて呼び出すか、魔力を込めて呼び出す、もしくは強い思いで呼び出すのが一般的にぃ。試しにやってみるといいにぃ」

ほう。

・パターン1 呼びかけ

「おーい」

「おーーーい」

「すみませーん」


「精霊さーん」



………反応ナシ


「あ、あまり気にすることないにぃ、次いくにぃ」



・パターン2 魔力を込める


「はぁああああああ!」




………ピシッ、という音を立て、石にひびが入る。


「ストップ!!ストップにぃ!!壊れかけてるにぃ!!」


「えっこれ正解じゃないんですか!?」



・パターン3 強い思い



「ファミチキください……!!!」


強く念じてみた。


「何を言ってるにぃ……?」

わけわかんねーなこいつという顔をしているが、日本でテレパシーと言えばこれなのだ。



(ファミチキってなんですか?)



……えっ?


「今、声が」

「え?何も聞こえなかったにぃ……?」


(今、呼びましたか?私の事を……)


頭の中に、声が響く、これは―――――


そう思った瞬間、聖石が光り出す。


「これは……!!」


ほとばしる光の中から、一人の少女が現れる。

紫に近い青めの衣装、同様にほんのりと紫の髪。
おさげともツインテールとも言えない二つくくりは、その洋装に似合わぬ純朴さを醸し出していた。



「………こんにちは。貴方が私を目覚めさせてくれたのですね?」

「は、はい!」

「握手してくださいにぃ」

「話がややこしくなるんで黙ってください」

「しゅん……」


口で言うのかよ。


「私は幸せを運ぶ精霊、ハピネススピリッツ。どうぞ末永く宜しくお願い致します」

「はい、こちらこそ……」

「いいにぃ、羨ましいにぃ……まさか一発で幸せの精霊を引き当てるなんて引き運強すぎるにぃ」


引き運というかもらい物というか……。


「それでその……ハピネススピリッツさん?俺はどうすればいいんだ?」

「どうすればもこうすればも、私は幸せを運ぶ精霊ですから、貴方の望みが叶うよう、最大限の努力をするまでです」


ほう……。
そうするとアレか、探し物が見つかったり、そういう……。


「羨ましくてたまらんにぃ……はー、精霊いいにぃ」

ぽんやりしてらっしゃる……。


――――

ハピネススピリッツ(ハイノーマル)
http://i.imgur.com/jWQuTqp.jpg


「というかここ埃っぽいですね、そういえば」

「そうかにぃ?普段から気にしないから……」


「うぇっくし!!!」


「あああ……!?な、何してるにぃ……!
まとめていた書類が落ちてしまったにぃ……!」


「え!?なんかすみません!」


ハピネスさん、あんた幸せを運ぶ精霊なんじゃ……?
俺今の一瞬で一気に運勢落ちた気がするよ?

「……?……あ!」


にこにこと手を振られても困る。そうか、もう心で通じ合いはしないんだな。


「まったくもー……せっかく整理した書類が」


いくらか飛び散った書類を戻そうと、俺も手伝うと―――



「えっ?」

「どうかしたにぃ?その辺りはそんな重要な書類はないにぃ」


「……こ、これって」


うす汚いが、魔力の籠る頑丈な紙。

一つの緑色の点が、その紙に記される。



――――そう、グリーンマップだ。


「って、グリーーンマップウウ!?」


「なにぃ!?」


「あらあら」



な、なんでこんなもんがそんなところに!?


「グリーンマップ?まさかあの聖宝の事を言ってるにぃ?」

「そうですよ!これがまさに!」

「え?それが?まっさかぁ~!」

「いやいや本物!マジモンなんですって!」

「何でそう言い切れるにぃ?他のマップを持ってないとそんなことわからんにぃ」

「持ってるんですよ!二枚!」

「えっ」


「………えええっ!?」


なんだその驚き、意外か?
あのね、俺からすればこの紙束にマップが混じってた事の方が驚きなんだよ。


「………………」


魔術師・フィミリは少し考え―――



「取引といかないかにぃ?」

「はい?」



一つの提案を、俺に持ちかけるのであった。

今回はここまでです。
ようやっと終盤に入れました。

ちょうど今日更新です。
今回は視点が変わり、女の子目線でのストーリーとなっております。

それでは再開しますねー

#16『キマイラウォーリア』


私はエルゼフィーナ。

エルゼフィーナ・フォンシトラウス。どこにでもいる普通の17歳の女の子。


……だと、思いたい。

ほんとうはちょっぴり魔物。「キマイラ」っていうヤツらしく、人間と魔物を魔術で合成して作り上げたんだってさ。

おかげで、確かに腕力も強いし、そんじょそこらの男には負けないと思ってる。


でも、嬉しくない。


私だって普通に恋がしたいし、家の手伝いとかしながらお洒落したい。

キマイラの戦士……「キマイラウォーリア」である私には、かなり無縁とわかっているけど。


今日も私は、愛だの恋だの、そういうのとは程遠い、遠征任務というのに参加している。
近くにあるオーライン国っていうところで、魔術師との戦いがあるかもしれないので、護衛をするそうだ。

かもしれないのに護衛って、なんかフシギだよね。


とりあえず、私を「作った人」が殺されて、身よりの無かった私を拾ってくれたお姫様には感謝してる。
だから、感謝分くらいは働かなきゃいけない。


……私も、お姫様とか、そういうのやってみたかったなぁ。


なんて思っても、今更だろう。
できるだけ無心になり、私は馬を走らせた。



―――

キマイラウォーリア(レア)
http://i.imgur.com/lE0gOmZ.jpg

――――


「おう!君が護衛のエルゼフィーナさん?」

「エルゼでいいよ。よろしく」


今回の護衛対象は、なんともひ弱そうな旅人だった。
「名も無き騎士」とか意味わかんない事言ってるし、なんというか魔物だらけだし、
正直戦闘っていうより遠足にいくみたいなパーティだったけど、まぁガチの戦闘がないならいいよね。

そのあと一通りの自己紹介を済ませ、今回の内容に関して詳しく聞く。


「今回は怪しい物音や、なーんか黒い魔力を感じるらしい魔術師宅に行ってお話を聞くぞー。
悪いことしてるようだったらとっちめよう。後はその魔術師がマップを持ってるかもしれないということだ」


「マップって、あのマップ?」

珍しい名前を聞いたので、思わず聞き返してみる。


マップ―――聖宝のひとつで、その名前を知らない人はいないだろう。
なんでも世界には6つのマップがあって、それを全て集めると「自分のもっとも必要とするもの」の場所がわかるそうだ。

なんとも夢のあるお話だよねぇ。

「そうそう、なんやかんやで3つ手に入ったから、あと3つだな」


……え?


「マップって……実在してたの?」


まさか。あれはおとぎ話のようなものだろうとずっと思っていた。
本当に存在するなら、それこそ夢のようなアイテムだ。誰もが欲しがるその一品を――


こいつは、3つも……?


「あ、これ言わないほうがいい奴?」

「まぁ驚かれるのは仕方のない事ですよ」


淡々と話す騎士一行。
もしかして彼ら、見た目に反して凄い奴らなのかも……?確かにあの騎士はちょっと好みの顔をしている。


いや、たまたまマップを拾っただけかもしれない。
どちらにしても、何かあるだろうという事は想像がつく。


今回のお仕事は、思ったより大変なのかもしれない。

――――

魔術師の家は、ここからそう遠くないらしい。

でも確かに、歩けば歩くほど、魔力が籠り、瘴気がたまっていっていることがわかる。


「騎士様、この気……」

女の子の一人が気づいたようだ。
この子は風貌からして魔法使いで間違いない。

名前は確か……ルリちゃんだったっけ。


「ああ、こりゃあもう、クロだな」

騎士がニヤリと笑う。
確かにこれだけの魔力や瘴気を考えれば、中心地に住む魔術師はかなりやっかいな魔術を使っているようだ。

いざ戦闘になった時のために、覚悟だけはしておいた方が良さそうだ。


―――


しばらく歩くと、点々と魔法陣、その先に一つの怪しい民家が見える。


「ここだな」

「そうだろうね、この感じからして」

かなりやっかいな魔力を感じる。
しかもこの感じ、強大な召喚魔術の最中じゃないだろうか。


ちりんちりん、と騎士がベルを鳴らす。

「ごめんくださーい」

なんとも緊張感のない男だ。
ドアを叩き斬って入ってもいいような状況じゃないかなと思うくらいなのに。


「はーい」


ドアを開けて出てきたのは、なんとも魔術師っぽい女。
こりゃあ、怪しいなぁ……。


「最近ここいらで変な物音がすると聞いたのですが、心当たりは?」


手馴れた衛兵のように質問する騎士。
そういう経験でもあったのかな?


「そうですか、新しい薬の実験をしてたのがうるさかったみたいですね。次からは気を付けます」

魔術師も素直に答える。
おどろおどろしい雰囲気でさえなければ、本当にこのまま帰ってもいいような気がする。


「騎士様!」

と、そこで魔法使いの女の子、ルリちゃんが急に叫ぶ。
せっかく平和解決しようとしてたのに……どうしたの?


「この魔法陣、魔界と現世をつなぐものです!」


え?

それって……


「捕縛<バインド>!!」


私たちが彼女に攻撃するより早く、魔術師の呪文が炸裂する。


でもこの程度の魔法――――


「無駄よ」


解けない。
魔術師は見透かしたかのようにこちらをあざ笑う。


「バレちゃったらしょうがないわね。貴方たちには、魔物の餌にでもなってもらおうかしら……?」


急に雰囲気の変わる魔術師、今までのは、やっぱり演技。


「そこに敷いてある魔法陣はね……弱体魔法を強化し、乗っている相手の弱体耐性を弱めるもの。
多少魔法に強かろうと、これの上じゃあ意味をなさない。素直に降参したら?」


ククク、と笑う魔術師。


冗談じゃない。

まさか、こんなレベルの魔術師を相手にするなんて、予想すらしていなかった。
大概の魔法は気合で弾き飛ばせる私が、身動き一つとれないなんて。

こんな魔法なら、もう誰も動けさえ――――



「えっと……そろそろいいっすか」



騎士が、先ほどまでと変わらぬ表情で話しかける。


「ふふ、命乞いかしら?」

余裕を持って魔術師が答えようとし―――

その瞳か見開かれる。


「……貴方、何故動いてるの?」


そう。騎士は何くわぬ顔で、平然と動いている。


つまり、魔法が全く効いていないのだ。


「いやあ、どうもそういう体質らしくて」

「ふ、ふざけないで!『困惑<コンフューズ>』!」

と、確実な距離で魔法を放つも―――


「いやそういうの効かないっていうか……」


効いていない。

もしかして、こいつ、化け物なの?


そういえば、周囲の女の子は一切驚いていない。

え、もしかして、こいつそれが普通なの?ずっと魔法効かなかったの?


「くそっ……『魅了<チャーム>』!!」


もうここまでやったら何しても効かないような。


「騎士様!!!」

小さい女の子が叫ぶ。

えっ、これは効くの?


「ぐわあああああああああああああああああ!!!」


騎士も叫ぶ。

えっ、これ本当に効くの?何?何が基準なの?

「……あ、平気だったわ」


「どっちなのよ!?」


思わずつっこみを入れてしまう。
何よこれ、漫才じゃないんだから。


「ちっ……じゃあそこで全員まとめて燃えてもらうわ!『フレアブラスト』!」


火炎系上級魔法!?


こんなの食らったら、ひとたまりも――――


「『ドラゴニックアーマー』!」




――――――騎士が、爆発する。



正確には、騎士は魔術師の杖を抱え込んで、自らで爆発を食い止めたのだ。



わけがわからない。


いや、頭ではわかっている。


こうしなければ、ここに縛られている私たちは、少なくとも死んでいた。



彼は敢て、自らの命を代償に――


と思った瞬間。


「そぉい!」


杖のようなものが折れる音。

煙に紛れて良く見えないけど、あれは間違いなく―――


「おう、煙いな。魔術師はボコっておいた。誰か捕縛をかけておいてくれよ。
憲兵に突き出すよ」



この瞬間、私は初めての感情に、心が支配された。

杖を折り、身体的に痛めつけ、魔法が無駄であることを思いしらされた魔術師に、
もうなすすべはないだろう。


――――そう、思ってた。


「く……ふふ……ハハ!!」


魔術師が、嗤う。


まるで何か―――秘策でもあるかのように。


『捕縛<バインド>!』


魔法使いの女の子が、素早く捕縛魔法をかける。

騎士様の攻撃の後、私たちの捕縛は解けていた。


「グッ……でも、無駄ヨ……もう……遅い……!」

うめきながらぶつぶつと呟き、嗤う魔術師。

気味が悪い。一体彼女には、何があるというのか――


そう、思った瞬間。


足元――魔術師の手元の魔法陣が光り出す。


まさか、これは。



「アハハハァッ!!もう止められない!全てを破壊しつくせ!高等悪魔よ!」



高等悪魔の召喚魔法陣―――――!



一度発動すれば、私たちに止める術はない!


「騎士様!逃げよう!ここにいたら―――」


そういうも、騎士様は一歩も動こうとしない。

「騎士様!?どうしたの!?早くー!!」


すると――

「いや……たぶん、この流れだと、うん」


何を言ってるのかわからないけど、騎士様には何か秘策があるみたいに見える。

地面が黒い闇に包まれる。


現れる。――――本物の悪魔が。



ズズズ……という轟音とともに、ピリピリとした魔力がこの場を包む。


もう私の力ではどうにもできない。


どうあがこうと、殺されるのを待つだけ―――

『我は高等悪魔「ハイデーモン」……我を呼びしは汝か』


恐ろしく、強靭な、かつ、圧倒的な高貴さを兼ね備えた悪魔が現れる。


伝承でしか聞いたことのない、本物の悪魔、ハイデーモン。

その姿は見るものを震えあがらせ……


「おっす久しぶり」

「あ、お久しぶりです」

「おひさしですよー」


軽い挨拶を交わす騎士たち。


「……」


私は思わず絶句し。



「なんでやねーーーん!?」


吠えていた。

『むむ、これは先日の騎士たちではないか、まさかこんな所で出会おうとは』


なんと、あの高等悪魔と騎士様たちは知り合いだったらしい。
もうこれ以上何があっても驚かないぞ☆



「え……え……?」


私の代わりに、状況を飲み込めていなく、
かつ震えながら苦しんでいる魔術師の姿があった。


『我を呼び出してくれた魔術師のご婦人よ、今回は鞘を納めるべきだ。
我とてこの若さで消滅させられたくはないからな』

「は……?何を言ってるの?貴方、高等悪魔なんでしょう!?」


激昂する魔術師。


『いかにも。我は高等悪魔。人間には想像もつかぬ魔力、英知を兼ね備えた存在だ』

「だったら!!殺しなさいよ!!私が召喚したのよ!?ねぇってば!」



『―――ご婦人』


ピシリ、とその場の空気が重くなる。


『我は老婆心から忠告してやってるのだ。これがわからないのか?
傷つき魔力も枯渇しかけている。今の貴方であれば一ひねりで殺すことができるだろう。
召喚されたからとて、我の意思は変わらぬ。敢て殺さないでいてやっているのだ。
この意味がわからんか?』


諭すように淡々と、魔術師に語りかける高等悪魔。


その言葉を聞いて、ふっ、と魔術師は体から力を抜く。


「まいった……降参よ……もう……煮るなり、焼くなり、好きにすればいいわ」

「おうわかった!マップくれ!」

「話が早すぎない!?」



どうやら、これにて決着らしい。

しかしまさか、高等悪魔までなんとかしてしまうとは、やっぱりこの騎士様は―――

――――――


こうしてなんと、騎士様は早くも、4枚目のマップを手に入れたらしい。
あの伝説の聖宝を、4つも集めるなんて、ただものじゃない。


私も、この人たちと一緒に―――


「フォンシトラウス殿!」


……姫様の御使いの騎士の一人だ。
せっかくいい所なのに何の用なの?


「どうしたの?」

「姫様から伝令です。事を急ぎます。今すぐ城に戻るようにと――」

「は!?」

「何やら物々しい雰囲気でした……騎士様たちのお力をお借りすることになるかもしれません」

「その時はルリに伝言しといて。俺らちょっとここ離れるから」

「はっ!」



そ、そんな!?ここまで来たのに、もう騎士様と離ればなれなんて……

せっかくの、せっかくのチャンスだと思ったのに。


そう思った瞬間。


「騎士様!」


口から勝手に声が出ていた。


「え、何?」


「また会おうね!絶対だよ!」

「……おう!」


今はこの気持ちを伝えるので精一杯。


それでも、なんだか心が満ち足りていくような気分に包まれる―――。

今回はここまでです。
この物語では、一話に最低一回は騎士様が女の子をたらしこむというシステムを採用しております。

そう言ってもらえると作者冥利に尽きますね。
更新が滞って申し訳ない。少しリアルが立て込んでるので分割してでも投下していきます。
では、再開します。

あとすんげー長くなってきたのであらすじも追加しときます。
これさえ読めば、今回からでも楽しめます!(おそらく)

■前回までのあらすじ。
なんやかんやでミスタルシアに飛ばされた騎士さまは、そこでちっさい小悪魔ルルミィと知り合い、
元の世界に戻る方法と、ルルミィの母を探す旅に出る。

で、なんやかんやで騎士様は元の世界がどうでもよくなったので、
とりあえずルルミィの母親を探そうという事になり、その唯一の手がかりである聖宝「マップ」を集めている最中であった。

んで姫を救ったり魔女を倒したりして、ついにマップが4個そろったのである。
てなわけで、騎士様たちは一旦マップ探しを中断し、アラクネの女の子ナーヤを、
仲間であるモンスター娘が多数生息するウィル森に連れて行ってあげる事にしたのだ。


「漆黒の騎士……」


俺は、先ほどぶちのめして憲兵に引き渡した魔術師、レヴィの言ったことが少し気になっていた。


漆黒の騎士とは……数年前に突如この世界に現れたミスタルシア最強の騎士であるらしい。
漆黒の鎧を身にまとい、さらに漆黒の霧を操って攻撃するという。

その力は絶大。かつ、絶対であり、どんな魔物でも、どんな戦士でも歯が立たないと言われている。


まさに怪物じみた、いや、怪物すら尻尾撒いて逃げるような化け物であるが、所詮噂、尾ひれがついているのだろう。

と、少し前の俺なら思っていたところだが……。


「騎士さま、難しい顔をしてるです」


俺の後ろから、ルルミィが顔を覗き込んでくる。

「ああすまん、考え事してたわ」


そう言いつつ、自分が馬に乗っていることを思い出す。
ボーっとしてたら、また落馬してしまうな、と思い体勢を立て直す。

「漆黒の騎士さん……っていうのが気になるです?」

流石ルルミィ、全て御見通しのようだ。


「確かに騎士様、その話を聞いてるとき、表情が変わってましたよね」


ナーヤにもバレているようだ。
ていうか俺はそんなにわかりやすいのか。


「もしかして……漆黒の騎士さんについて、何か知ってるです?」


知っているといえば知っている。
知らないと言えば、全く知らない。

そういえばタイトル記載忘れ。

#17(part1)『スルーゴースト』

俺が知っているのは、「こういうタイミングでそういう話を聞くと、なんやかんやでそいつと遭遇する」ということだ。

この場合、敵か味方かはわからないが、ほとんどのパターンで遭遇している。
おそらく、ファンタジー世界に来てしまった俺も例外ではないだろう。


本当に頼むから、敵でなく味方であってほしい……。
と、切に願う。

基本的にこういう伝説のようなヤツに限って、その能力は伝説通りなのだ。

つまり、漆黒の騎士は本当にミスタルシア最強で、霧攻撃だけで俺を無力化して殺せる程度には強いはずだ。


流石に、いくらなんでもそんな化け物と渡り合えば殺されてしまう。
何度も修羅場をくぐってきたからこそわかるが、俺は普通に死ぬのだ。


―――と、そうこうしているうちに(実はもう何時間も走り続けている)
ウィル森の近くまでやってきたようだ。


「懐かしいですねー、ここで初めて騎士さまと出会ったです?」

「ああ、あの出会いがなければきっと俺たちは……」


と、思い出話に花を咲かせようとした時―――


ぬるり。


首元にひんやりした感触が走る。

ルルミィのいたずらかな?そう信じたかった。

しかし俺の目の前に現れたものは――


「う~ら~め~し~や~」



幽霊だった。

もうぶっちぎり、まぎれもなく、この上なく幽霊だった。

可愛らしい外見をした少女の様ににも見えるが、その体は半透明。

体から体温は抜け落ちたかのように冷たく、その実ぬるりとしてひんやりと……って

「何塗ってんだ」

「アロマオイルだよー」


あっけらかんと答える幽霊少女。
一体なぜ、こんなところに幽霊が。


「き……」


き?


「きいいいいいやあああああああああああ!!」



ナーヤの叫び声が、俺の耳に大きなダメージを与えた。


―――

スルーゴースト(レア)
http://i.imgur.com/UKmwKTW.jpg

―――――



思わぬ形で、ラミアさんたちと対面することになった。


「女の子の悲鳴が聞こえたから来てみれば」

「別に来る必要もなかったみたいだね」

「なんかごめんね~、おどかしちゃって」


「ぶ、ぶぇぇ……大丈夫ですぅ……」

べそをかきながら謝るナーヤ。
一応紹介しておこう。


「ナーヤ、そろそろ泣き止んでくれ……こいつらが俺が合わせたかった人……人達?なんだよ」

「なんで人のところで口ごもるのかしら?」


ラミアさん、ぷちおこである。ごめんなさい。


こっちがラミアさん、こっちがクーシー。
それからこっちがアラクネのナーヤ、と簡単に紹介を済ませる。


「相変わらず、女の子を誑し込むのがうまいのね?」


ラミアさん、頼むから蛇睨みするのはやめてもらえません?
なんか魔力籠ってるのか動きが鈍るんですけど。


「……で、君誰」


俺は気になっていた件の少女に話を伺うことにした。


「え?私?わかんなーい!生前はねぇ……えっとぉ……うん、いいとこのお嬢様だったと思うよ!
名前は確か……確か……ス、シ…………シーラ?」


「何故疑問形なんだ」

「そんなこと言われてもー。生前の記憶とか、ちゃんと残せってほうが難しいよ!」


そういうもんなのか。

「でも珍しいわね。この辺り、ゴーストが顕現するような場所だったかしら?」

「ゴーストが顕現……そういうのに、決まりでもあるのか?」


そもそもこっちにはゴースト文化もないしな。


「決まりっていうか……普通はこんなのいないわよ。ゴースト使いが呼んでみたり、死者の怨念が強い所だったり……。
所謂『いわくつき』なんてところじゃよく聞く話だけど」

「そもそも死者が皆ゴーストになってたら大変です。なので基本的には死んだら普通に天国へいくです」


なるほど……その辺りはある程度おんなじなんだな。

まぁこっちじゃゴーストになるなんてありえねぇけどな。


「そういえばルルミィはゴーストの類は平気なのか?」

「見た目によるですね。今回のは茶目っ気があるだけなので余裕です」


流石修羅場をくぐっているだけある。
格が違ったようだ。


「し……シーラさん!!」


―――と、勢いよく話しかけたのは、なんとも意外、ナーヤである。
てっきり怖くて話すどころではないと思っていたのだが。


と聞くと。


「へっ……あ、いやその……ゴーストといっても、もとは私と同じくらいの女の子ですし……何かわけありなのかなって」


なるほど。本当にいい子だなこの子。
実は怖くて怖くてしかたないだろうになぁ。

「わけ、かぁ……」

と、当のゴーストはなんだかあまり気にしてもいないようだ。


「ていうかそもそも、私死ぬまでの記憶って薄いんだよねー。死んでから?そのへんフラフラしてただけだし。
主に洋館に棲みついててさ~、来る人おどかして……ってあれ?」

「何か思い出したのか?」

「いや、思いだしたってか……なんで私、こんな森に?」


それはむしろ、こっちが聞きたい。


「何か不思議っていうかぁ……今までこんな事なかったし?」

少し含みのある言い方である。

「今までなかったって……つまり?」

「つまりもなにも、私、何でここ来たかわかってないし」


………これは、何か妙な事件が起きてるのではないだろうか?

今回は一旦ここまでです。
次回はpart2を掲載します。

なんとか2014年中に更新できそうです。完結は来年です。
忙しさと風邪でぶっ倒れてました。再開します。

#17(part2)『ソウルミニデビル』


どこからか転移してきたゴーストは、「自分は何故こうなったか知らない」と語る。

これ明らかに何かの事件が起きているのではないか―――

そう考え、俺たちはウィル村に向かったのであった。


「騎士様久しぶりー!」

「お久しぶりなの!」

わいわいと集まってくる女の子たち。俺モテモテやん。


「おう久しぶり!積もる話もあるんだが、今日はちょっと調査も兼ねててな」

「調査?」

相変わらず元気そうなロレッタが聞き返す。


「ああ、最近森の方で不思議な事が起こっていてな。
なんでもゴーストが何故かこっちに来てしまうとかいう……何か心当たりはないか」

「ゴーストの身としても、早めに帰りたいんで」


いつのまにか俺の後ろについてきた幽霊少女・シーラだ。
何故かにゅっと現れる。

「ひっ!」という可愛らしい悲鳴を上げる少女たちをみて、けたけたと笑う。

「シーラ……?俺たち遊びにきてるんじゃないから……」

「いたいいたいぐりぐりするのやめてくださいていうかどうして触れるんですか」

えっ、ゴーストって触れるもんじゃないの。


「騎士さま、ゴーストは基本触れるものではないです。
もちろん、私たち魔の者なら干渉することができるですが……」



えっ

…………


「ま、まぁとりあえず調査に向かおうぜ」


皆、こっちを見てくれ。

なんだ、俺もしかして本当に魔の者なのか。


「そういえば騎士様って無茶苦茶強かったよね」

「あれなら魔族でもおかしくないの……」


なんか魔族である説が強まってるんですけど


「さぁ出発するです!」

ルルミィ、お前は何か嬉しそうだな。


――――

とりあえずいざというときのために光魔法を使えるリセも連れてくる。

だってゴースト系とかアレだよ?戦った記憶すらないという以前にこういうのヒューマンは瞬殺されたりするんだよ?


「ふぇぇぇ……雰囲気がすでに怖いですぅぅぅ……」

「まだその感じなのか」

「流石に数日で変わったりすることはないんじゃないかなぁ……」


確かに。
俺は長い時間を感じていたが、別に数年とかの別れをしてたわけじゃないんだな。

つい先日の事のように、というかつい先日の事だった。

村の人間から得た情報によると、近くの洞窟や森が怪しいそうだ。

村自体は別にゾンビがはびこってるとかそんなことはなく、極めて平和であるらしい。

「その他に妙な事はなかったのか?」

「他?うーん……あ、そうだ」

「お?」

「声が聞こえたね」


―――声?


「うんそう。村の外で剣の修業をしてたらね、どこからか声が聞こえてくるの。
それも、色んな声」

「誰かが話してるとかじゃなくてか」

「うん、少なくともそこに人はいなかったかな」


人がいないのに話し声……


「それ幽霊だろ」


「えっ……何か怖いなぁ。でも、優しそうな声だったよ?」

「優しそうな声……」


これは何か、ヒントになるかもしれん。
推理物では、得てしてこういう何気ない会話がヒントとなるのだ。

ふふふ


ふふふふふふ



「……………ッ!」


聞こえた。

今確かに聞こえた。

俺の頭の中に直接響くような声。

そうだ、今の「ふふふ」とかいうのは俺のセリフでもなんでもない。

どこからか聞こえたものだ。


「聞こえたか?」

「た、確かに聞こえましたぁぁぁ……!」

リセががくがくふるえている。震える系の声かなこれ。

……ん?今俺なんて思った?


「騎士様、私が聞いたのもたぶん……」

「ああ、これで間違いないだろうな」

「……この声は」

ルルミィが遠くを見ながら何かを考えている。

「聞き覚えがあるのか?」

「すこし、でも、うーん……、ちょっと、わからないです」

ルルミィでもわからないとなれば、流石に難しい―――

と思ったその時。

「この声、聞き覚えがあるの」


ベビーエルフのメイが、はっきりとした口調で言う。


「これは、お花……木やお花、自然たちの声なの」

「自然たちの、声……?」


そんなオカルトがあるのか。

「でも不思議なの。人間にはこの声が聞こえる事はないの……」

「それはどういう事だ?」

「わ、私も難しい話はあんまり覚えてないの……。ただ、自然の精霊が、何かに反応したのかも……」


自然の精霊が何かに反応……わかりづらいな。


「……騎士様!」


ルルミィが急に戦闘態勢をとる。まさか。


――――と、辺りから嫌な気が立ち込める。
所謂「瘴気」というヤツだろうか。闇色の煙が舞い上がる。


「まさか……漆黒の騎士!?」

「いや普通に違うですよ。そんな強いもんじゃないです」

「アッハイ」


違った。よかった。


と安心している暇はない。あたりの草陰から、次々と魔物が現れる……

しかも―――



「これ……全部……死んでる?」


そう、全ての魔物に、生気がなかった。

呼応するかのように次々と現れる魔物たち。

数匹なら楽勝だろうが、この数ではキリがない。


「ここは一旦引くか、ルルミィ」

「はいです。えくすぷろっ……」


―――と、そこでルルミィの動きが止まる。

「ルルミィ!?どうした」

「解決するっぽいです」

「は?」


は?



「魂ひとーつ……ふたーつ、みっつ」


どこからか、歌が聞こえてくる。


透き通るような旋律。耳に心地よい癒しとなる。


その旋律に合わせるように


魔物が、崩れていく――――

「こんなところにも。たくさんあるね……あれ?」


その旋律を奏でていたのは小柄な少女。
不可思議なぬいぐるみを抱き、大きめのジャケットを羽織った、冒険者と町娘がミックスしたようなルックスだ。
白く伸びるタイツとブーツ、それに相反して少女らしさのあるピンクの髪が可愛らしい。

その少女が近づくにつれ、魔物が次々と崩れ去り、砂になっていく。

果たして彼女は……?


「ソウルミニデビルの一種ですね」

「ソウルミニデビル?」


「私のこと……知ってるの?」

すっ、と少女が話しかけてくる。
風貌などはルルミィと似ている。おそらく名前からして小悪魔の一種なのだろう。


「魂を集める習性がある悪魔だという事は知ってるです。
でも、これはどういうことなのか……さっぱりです」

「ごめんね、私もよくわかってないの……」


えっ


――――

ソウルミニデビル(レア、ハイレア)
http://i.imgur.com/q51Sj4C.jpg
http://i.imgur.com/eCVTCyJ.jpg
http://i.imgur.com/y0OfS3N.jpg

次々と崩れ落ちる魔物から出る……何か白っぽい光?が、
彼女の持つ小瓶に吸い込まれていっている。


「私は……うん。ソウルミニデビル。小悪魔だよ。
魂を集めるのが好きなの……。魂って、キラキラして、とってもきれい」

「あなたは、その地にある魂を……形だけ復元したりできるです?」

「かたちだけ、ふくげん……?」

「難しい話は分かりづらいですか……」

「どういうことなんだ?」


俺もちょっとわかんなくなったので、ルルミィさんに聞いてみる。


「先ほどの魔物のゾンビ化を見ていると、おそらくここで死んでしまった魔物たちの魂を、
回収できるよう、土などから復元していたようにみえたです」

「なるほど」


めんどくさいシステムを利用してんだな、魂回収って。


「でもわたし、そんな事できない……あっ、でも最近は、何か魂のほうからふわ~って集まってきてくれるようになったの」

「魂から集まる?そんな事があるものなの……?」

メイも不思議な顔をしている。
やっぱエルフ的にも非常識なんだろうか。

「ソウルデーモンの系譜であるソウルミニデビルには……そんな付随能力はなかったはずです。
なにか特別な事でも起きてるです……?」

「ふぇぇ……悪魔の事はあまりよくわからないですぅ……」

「むー……」


皆が頭を抱える。ソウルミニデビルもちょこん、と小首をかしげる。可愛い。


「……ああああああーーっ!!です!」

「どうしたルルミィ」


急に大声を上げるな。びっくりするだろ。


「そ、その腕に付けてるのはまさか……!」

「これ?よくわからないけど、もらったの。綺麗でしょ?」




これって。


あれじゃん。まごうことなき


「グリーンリング……!」


俺たちが探す聖宝「リング」の一つ「グリーンリングであった」

―――――聖宝は、持つものに絶大なる力を与えるという。

そんな話をどっかで聞いた覚えがある。


この「マップ」なんかは6つでしか意味がないが、他の聖宝……
たとえば「オーブ」や「リング」は単体でも使え、使用者の能力を引き出したり、特殊な現象を引き起こしたりできるらしい。


ルルミィの能力も実は「リング」によって向上しているらしい。
道理でなんか小悪魔にしちゃ強いと思ったよ。


「その能力の向上が……」

「本人の知らないところで起こっていた!ということです」


「よくわかんないけど、聖宝の力で魂が集まってきたってこと?」

「め、迷惑極まりない話なの……」

「ごめんなさい、私、何か悪い事しちゃったかな……」


しゅん、とする小悪魔の女の子。
君は悪くないんだよ。お顔を上げ。


「気にすることはないよ。別に悪気があったわけじゃないし。
ていうか全部その『リング』のせいなんだから」


「…………」


女の子は、少し黙り、自分のリングを見つめる。

そして何故か―――外した。


「これ、貴方にプレゼント」


えっ


「もも、もらっていいです!?」

ルルミィテンション上がりすぎ。落ち着け。

女の子は、迷いのないまっすぐな目で俺を見つめて……いや、

正確に言うのであれば、「俺の胸」を何故か見つめている。


「……何、俺、なんかついてる?」

「……きれい」

「へ?」

突然のきれい発言に、一同が目を丸くする。


「貴方の魂、とってもきれい。生きてる人間なのがもったいないくらい……。
ううん、輝いている。生きる喜びかな?それとももっと別の……?」

「えっ、えっと……?」


早口でまくしたてるように俺の魂について語る女の子。
その眼の輝きはまるで、欲しかったピアノを買ってもらった小さな少女のよう。

年相応に見えるその瞳の輝きが、不思議な既視感を俺に与える。


この世界の女の子も、『向こう』と大して変わらないのかも。



――――そして俺は『死んだら魂のかけらをプレゼントする』とかいう意味のわからない約束をして、
その子と別れたのであった。

無事、三つ目の聖宝をゲットする。
マップと併せると、ついに聖宝が6個となる。大躍進だ。

これなら残りもサクサク集まりそうだ。

「リングです!リングですー!」

テンションたけぇなあハハッ。


あ、そういえば。


「シーラは?」


人をおどかすのが大好きな幽霊少女、シーラの姿をしばらく見ていない。

具体的に言うとゾンビが現れたあたりから。


と考えていると、どこからかひょこっ、と現れる。


「何言ってんの騎士様ー。私とあの子は、いわば捕食者と餌だよ!?
魂そのものであるゴーストが行ったらコレクションにされちゃうよ!」


なるほど……。

「いやー、でも今回は助かりました。素直にありがとう!
またいつか出会えたら、その時はお礼をするね!」

「そんな、別にお礼をされるほどじゃ………」


と。

俺が言い切る前に、シーラは消えていた。

一陣の風とともに。


「リングの力を失ったから……元の場所に戻れたみたいですね」

「それだけリングの力が強力だったってことか?」

「うーん……そうとも言えないです?なんせ聖宝は謎が多いですから……」

「あー、そりゃそうだよね。だってあたしたちはおとぎ話みたいなもんだと思ってたもん」


そら解明も難しいわ。

――――――

てなわけで。森に戻ってみたらゾンビとか霊とかそういうのは消えていて、
なんかこう色々一件落着。って感じなのでした。


「……でも、聖宝ってここまでの力を発揮するのね」

話しを一通り聞いたラミアさんが難しい顔をする。

「私も、正直なところ、聖宝ってよく知りません……騎士様はたくさん持ってるんですよね」

「おう、6つあるぞ」

「ねえ、アンタのそれはなにか力を発揮したりしないの?」

「めっちゃしてるらしいぞ。マップは常に持ってないマップの位置を指し示してるし」

と、マップを取り出す。

すると、マップに光の点が灯っている。
そう、これが次のマップの在り処だ。


――――て、あれ?

「この場所……」


これはここから数km歩いたところにある……っていうか

「リブデル王国……?」


「の、近くみたいね。聖宝を持ってる者ねぇ……もしかしたら厄介な敵とか?」

「そういうのはやめてください、実現するんで」

「ふふ、ごめんごめん♪」



この時の俺はまだ知らない。


その人物は『厄介な敵』なんていう、可愛いものではなかったと言うことを――――。

今回はここまでです!次回、今までずっと温めてきた強敵が登場します!やっと出せます!


あ、あけましておめでとうございます!
ものすごい長編となってしまって申し訳ない。できうる限り早急に完結させるべく、筆を早くしていきたいですね!

それでは、本年もよろしくおねがいします!

乙です
俺としてはまだまだ続けて欲しいな

お久しぶりです。更新が遅くなって申し訳ないです。

>>264
実はこのお話は12話(アニメでいうワンクール)くらいですっきり終わらせようと予定してたんですが、
予想以上にストーリーが進めにくくて長くなっちまったというわけです。
もちろんちゃんと一区切りつくまでは続けますのでご安心をー。

それでは再開しますねー。

#18『ブチデビ・バミィ/ダークフェンサー』





『…………し……さ…………ま』


『きしさま……………こ……え………る?』



不思議な声が鳴り響く、ほの暗い空間。


ここは……ファンタジーの世界……!?


ってちょっと待て。俺ファンタジーの世界に飛ばされた所だし。
ここから急に新世界に飛ばされるとかいい加減ついていけねーよ


『…………あの』


「あ、ごめんなさい。聞こえてます」



『よかった……いままで、言えなくてごめんなさい……』

『貴方を……ここに呼んだの……は………わたし……』


そういうと、謎の声の姿らしきものがぼんやりと見えてくる。
小さな小悪魔の少女。ルルミィとは違いピンク色の髪をして、黒いワンピースを着ている。


―――

プチデビ・バミィ(Sレア)
http://i.imgur.com/3GfpV6M.jpg

「ここ……ってのはこの世界、ミスタルシアのことか?」


『……そう』



なるほど。今まで散々放置されてた俺の事にようやくスポットが……。

ってか遅くね?もっと最初の方でやるべきじゃないかこれ?


『本当は……もっと早く、話したかったの』


あ、やっぱそうすか。


『貴方を呼んだ時……力を使い果たしてしまって……』



俺を呼ぶのによほど労力を要したようだ。
そりゃあまぁ、現実世界からファンタジーに人を持ってこようとしたら力使うわな。


「それで、何で俺を呼んだんだ?何をさせようとしてんだ?」


『……あの子を、守って?』

「あの子?」


あの子……俺がかかわった女の子は多いが……。
この状況下で出てくるのは一人しかいない。

「ルルミィのことか」

『そう……あの子は、大切な、希望』


希望……。
ルルミィにはまだ何か秘密があるようだ。

『あの子の力は巨大すぎる……それゆえ私たちは、あの子を悪魔の体にした……』



……つまり、ルルミィの悪魔化は、呪いなんかじゃなかったってことか。



『そう……だね。そして……あの子の死は……世界の崩壊につながりかねない』


「えっ」


『直接の原因ではないの……あの子が死ぬと、それこそ世界を滅ぼそうとする人間が現れる……』


「もしかして、その人間って」


『そう、あの子の父親、あらゆる空を制覇し……この地上に墜とされた……』


『名を……  …‥・  ・・ /』


「えっ!?ちょっとまって、なんて?よく聞こえなかった」


『ごめ……な……さい……もう……時間……………が』


ノイズ音のようなものが俺の頭の中に鳴り響き、その世界はボロボロと崩れ落ちていく。
ルルミィに関する重要な情報も聞けたし、良しとするか。


「ありがとう、小悪魔の……えっと」


『バミィ……わたしは、バミィ……この世界の、登場人物……を……』




そこでぶつりと意識が途絶えた。


いや、正確に言えば目が覚めて、夢の世界から切り離されたような感覚だった。

ふと目が覚めると、そこは兵士宿舎のような場所……

ってか、兵士宿舎だ。

不思議な夢を見たせいで記憶がまぜこぜになっているが、俺は昨日、このリブデルに到着。
宿で一泊し、本日襲ってくるであろう敵を迎え撃つ必要があるのだ。

しかし、早朝や深夜に襲ってこないとは、中々蛮族も礼儀正しい民族なんだな。
蛮族ってのは名前だけなのだろうか。


そして横を見ると、小さく丸まったルルミィ……。

ルルミィ?


「はぁっ……はぁ……あ、きしさま……おはよう、です」


息も絶え絶え、顔は赤く、更には額の紋章が怪しく光っている。これは……。


と、俺が考えているといきなり宿舎内がざわつく。何だ、敵の襲撃か。


「おはようございます騎士様。私どもの勝手な事情で呼びつけてしまい、誠に申し訳ありません……」


頭を垂れる姫様。深く頭を下げるメイド。

姫様来てたのか!そら宿舎内もざわつくわ!

「いやいや!好きで来たようなもんだから!気にしないでください!」


本当、一国の姫にこういう態度されると困る。


「……おや?ルルミィさんのこれは、もしかして」

額の紋章が怪しく光、汗を流すルルミィを見て表情を硬くする姫様。
何か知ってるんですか。


「これは……『覚醒』?」

「覚醒?」

「ええ、私も詳しくは知りません。しかし、我々は未知なる力を秘めており、
何かの拍子にその力に覚醒することがあるそうです」


マジかよ。そういう大事なことはもっと早く……。
あ、そういやこのゲームのチュートリアルでも似たような事を言ってた気がする。


確か『進化』とかいうんだったか。

ならルルミィは別に心配ない、か……。

「姫様」

「はい?」

「もしよかったら……この子を見ておいてくれませんか?
きっと大丈夫とはいえ、心配なもので」


「……意地でも私を出陣させないつもりですか?」

「それもあります」

にっこりとほほ笑んでみる。
姫様は強い。確かに剣技から補助魔法まで使える姫様なら、いてくれれば有利だろう。
しかしそういう問題ではない。


「どうか必ず……無事に帰ってきてくださいね」

「もちろん」

「絶対ですよ!?絶対ですからね!?」

「セリエさん、それフラグだからやめて」


「……きしさま、わたしも」


息も絶え絶えのルルミィ。いや……。


「お前は寝てろ」


ぺしっ、とおでこにチョップをしてやる。
そうするとルルミィはふてくされた顔をしているが、どこか誇らしげだ。

「いってらっしゃいです」

「おう」


てきぱきと支度を済ませ、城を発つ。

今回は思いのほか知り合いがいた。

王国騎士のフェンサー、フィーリア。
傭兵として雇われた兵士、エルゼフィーナ。

そしてなんと、オーラインにいたはずの魔術師、ルリである。


「今日は宜しくお願いしますね!騎士様!」


「あら皆さま、ししょ……騎士様とお知り合いで?」

「そうだね。流石女たらし……」


嫌味な笑顔を浮かべるエルゼ。

「こら、女たらしとか言うのやめなさい。皆が勘違いするだろ」

「だって事実じゃん!」

「事実じゃない!」


そのやり取りがおかしかったのか、フィーリアとルリはころころと笑う。

前線のくせにやけにほのぼのしていて女子率が高い。うーん。不思議だ。

「そういえば騎士様、今回の作戦概要についてはお聞きで?」


ちゃんと師匠じゃなく騎士様って呼んでるな。よしよし。


「あ、そういえば全然聞いてない」

「伝令兵……」

「いやアイツもきっと必死だったんだって」

―――

先日の事である。
ウィル村でまったりしていた俺の所に、伝令兵がやってきて……。


「騎士様!!どうか、どうかお力をおがじぐだざい゛!!!」


と泣きながら懇願。

俺は急いでリブデルへ向かい、宿舎で一泊。今に至るというわけだ。


―――


「まぁ、この緊急事態ですからね。仕方ありませんこと。私から簡単な説明を致しますわ」

「お願いします!」

「しゃーす」


ルリの真面目さがすごい浮くな。


「本作戦は、蛮族による進攻を食い止め、逆に将を打ち取り、
長きにわたる小競り合いに終止符を打つことが目的ですの」

ほうほう

「きっかけは先日のこと。隣国ウルムが蛮族の進攻に遭い、壊滅寸前まで追い込まれたそうですの。
それを機にウルムはわがリブデルへ救援を要請しました。普段から交流のあるウルム国が滅ぼされかけたとあっては、
こちらも黙ってはいられませんものね」


「それでなんで、リブデルへ攻めてくるんだ?」

「こちらから正式に宣戦布告を行いましたの。
ウルムへの進攻は我リブデルへの攻撃意思とみなし、諸君らを壊滅させると」


なんかこっちの方が悪人みたいだな。


「軍の総量ならばこちらが勝っているに決まっていますし、向こうは砦と呼べるものも少ない。
ならばこちらに攻めてくるしかないと思われますわ。幸い、律儀な種族ですので、奇襲や不意打ちの類は行ってこないと思われますが」


あーやっぱ紳士的な種族なんだな。自分の力に誇りを持ってる感じ?

「こっちの方が軍の総量多いなら攻めちゃってもよくね?」

「師匠、それは貴方様だから言える事ですわ」

そうなのか。

「敵陣の砦は入り組んでいる場所にあります。我々のような一般人が行けば地の利をとられ、
待ち伏せと罠によって一網打尽にされてしまうことでしょう。
そもそも身体能力は向こうが上。ここは平地での決選に持ち込むのが一番利口なやり方ですわ」


ためになるなぁ……ていうかそうか、こいつらこんな身なりして軍人なんだもんな。
ルリは派遣されてきた一般人だけど。

そういえば――

「なぁルリ、お前普通についてきてるけど大丈夫なのか?ここ一応戦場だぞ?
まだ安全なうちにおうちに帰ったほうが……」

「あの騎士様……気を使っていただくのはありがたいんですけど、一応私、王立魔術師の娘ですよ?」

「師匠。この子は類まれな魔法技術の持ち主です。一個師団を軽く凌駕する力を持ちます」


マジかよ……。
あとお前さっきがんばってたのに師匠呼びに戻ってるからな。


「ルリちゃんの魔法は確かにエグいよね。
あれだけの魔力をどうやって手に入れたのか……やっぱ才能ってやつ?」

「お、親に恥じない魔術師になるようがんばりました!」


まーあの件については言えんわな。

―――そんなほのぼのした時間を打ち壊すかのように、兵士の声が轟く。


「敵襲だ―――――ッ!!!」



すばやくテントから出て、周囲の状況を確認する。

10……20、いや100以上はいる。蛮族の集団が、こちらにゆっくりと歩いてくる。

正々堂々正面突破とは。また本当紳士的な種族だな。


しかし、蛮族たちはある程度近づいたところでゆっくりと歩みを止める。


「なんだ……魔法攻撃の準備か?」

「いいえ、彼らにそんな技術はないはずですが……」



『人間どもに宣言する!!!!』



なんと、宣戦布告か。


『我々はこれから、諸君らに対し攻撃を行う!』


「礼儀正しい種族ですわね……本当」

「お昼に進攻してくるのも、やっぱりそういう事なんですね……」

「甘っちょろいとも言うね……」


三者三様の反応である。


『しかし!諸君らが抵抗せず投稿し、物資と領土を明け渡すのであれば一切の危害を加えないと約束しよう!
無論、抵抗するのであれば攻撃を行う!町の住民に罪はないが、我々に攻撃意思を持つ者は、町民とて容赦はしない!!』


ざわつく前線。しかし、無抵抗で領土や物資を明け渡すなど、それこそあってはならない事だ。

蛮族の問いに対し、こちらの騎士団長も大きな声で答える。

魔法で拡声器のような役割をやっているようだ。



「蛮族に通告する!我々は、貴殿らの一切の条件を飲むことはできない!
貴殿らの無条件降伏並びに、撤退を要求する!この条件が飲まれないのであれば、殲滅もやむなしだ!」


こっちの方が言ってる事エグくねぇか……?



『交渉決裂だな』


蛮族の長であろうか、宣戦布告を行った蛮族がニヤリと笑う。

『出撃ィィッ!!!』


人族と蛮族、二つの声が交差する。

―――戦いが始まった。



人数で優るわが軍だが、一人一人の戦闘力ならば格段に向こうが上のようだ。
しかし甘い、こちらにはまだまだ秘密兵器がある。


「エクスプロージョン!」

蛮族たちが攻めてくるその瞬間。
我々の軍に当たらないようにルリが爆発魔法を打ち込む。


轟音が響き、火柱が燃え上がる。
これで一人も殺していないのだから中々のものだ。

しかもその爆発魔法を連発して防御壁まで張っているにも関わらず、ルリは疲れを見せていない。

なにこいつバケモン?


「私だけじゃないです、王宮の魔術師の方がたくさんきてくれているので……」


そういう問題じゃない気が。


「騎士様!来ますわ!」


無論、爆発くらいなら軽く受けてくる蛮族もいる。
奴らは魔法が使えない代わりに耐久力や腕力がこちらの比ではない。

ルリが撃ち漏らした敵の殲滅が、我々前線部隊の担当である。

白兵戦においては、あえて証を節約して闘う。

何故かは知らないが、見切って躱すことくらいなら、証なしでもできるようになっているのだ。
この超人的な直感は、おそらくバミィの与えてくれたボーナスか。

蛮族の斧をひらりと躱し、強い蹴りを手元に叩き込む。
それでも獲物を離さないのは流石と言える。

だがそれは相手も同じのようだ。


『中々やるな、人間よ』


強い者と戦えるのが嬉しいのか、口元を釣り上げる蛮族の兵。
彼らは目つぶしなどの卑怯なマネは一切せず、愚直な攻撃のみで当たってくる。

ならば、こちらもそれで答えよう。


素早く後ろに回り込み、足の腱を切り裂く。
バランスを崩した拍子に後ろから飛び、空中で一回転。強烈なかかと落としを叩き込む。


『ぐおああああああああ!!』


そこですかさずゆるんだ右手に一撃を加え、獲物を落とす。

落ちる獲物を空中で切り裂き、使えなくすれば俺の勝利だ。


『はっはっは……だがまだ、我が肉体がある!!』


えっマジかよこいつしつこいな

露骨に強いフィーリア、エルゼさえ若干の苦戦が見える。

キマイラとして腕力が鬼強いエルゼはともかく、速くて強いだけの人間であるフィーリアは、決定打が打てずに困っているようだ。

これはそろそろやるっきゃないのか。


「温存するつもりだったんだけどな……」

俺は嫌な顔をしつつ、証に手を伸ばす。


「『ドラゴニックアーマー』『クイックステップ』……!」


その瞬間、蛮族の視界から俺が消える。


『なっ……どこに!?』


―――と見せかけて。


「前だよ」

『何ィッ!?』


一旦意味もなく後ろに回り込み、焦ったところで普通に前に戻る。

そして勢いをつけた蹴りを叩き込む。


『ごふっ……!?』


アバラが5、6本は折れた音がした。
流石に立ち上がることすら困難だろう。

すかさずフィーリア達のもとへ向かい、一撃を加える。
証には制限時間があるため、ゆっくり戦うわけにはいかない。


「くっ……師匠!申し訳ありません!」

「いいから、トドメはまかせたぞ!」

すれ違いざまに蛮族の腕や足の骨を折る。
さながら通り魔のような悪質なやり方で敵の戦力を削ぐ。

俺の活躍あってか、徐々にこちらが優勢になってくる。

そりゃあ、腕や足が使えないオーガに4人がかりとかで殴り掛かればなんとかなるよな。


―――と、その時、俺の行く手を阻むように斧が振り下ろされた。

地面が裂ける程の強力な一撃をなんとか躱し、その主を見据える。


『………雑兵ばかりと思っていたが、ここまで骨のある者がいようとはな』


黒い体に白い鎧をまとったその蛮族は、明らかに他の蛮族とは違って見えた。
こいつ蛮族の長か……!


『我はバルバス。蛮族の王にして……この戦いに終止符を打つものだ!』


すばやく斧を抜き、第二撃を放ってくる。
他の相手とはけた違いの速さである。しかも当たったら一撃でお陀仏であろう。

いくら最強最高の龍の鎧でも、あの一撃は耐えられない。

更にバルバスは斧をフェイントに、左で掌底を放つ。反応が一歩遅れて脇腹に命中する。


口から息が漏れ、軽くふっとばされる。

その隙を逃さず、バルバスは素早く距離を詰める。そうはさせない。

「『ダブルスラッシュ』!」

ノーアクションからの二連撃は流石に躱せず、バルバスから鮮血が迸る。

「ぬぅっ……!」

かなり驚いた表情をしている。そりゃあこれは剣技でもなく、魔法でもないからな。


俺は一歩バックステップで距離を取り――――


「『メテオストライク』ッ!!!」


爆音が鳴り響き、兵の多くがこちらに注目する。

瞬間飛びのいた俺でも少しダメージを受けるほどの中々の砲撃が上空から放たれた。

ここまでの範囲と威力だったとは……。

バルバスは直撃、流石に助からないだろう……と思っていた。



『ふふふふふ………ハーッハッハッハ!!!』



なんとそこには、土埃を巻き上げ、高笑いするバルバスがいた。

『面白い!面白いぞ人間よ!!ここまでの使い手と相見える機会など、そうないだろう!
我が全身全霊をもってうち滅ぼさせてもらうぞッ!!!』


バルバスの体が、魔力を吸っているのか、どんどん大きくなってゆく。
見るからに強力になっていくその様に、俺は絶句するしかなかった。


だが、ここであきらめては全てが終わる。

クイックステップとドラゴニックアーマーの残っているうちに勝負を決めねばならない!


「行くぞッ!!!バルバスッ!!!!」


雄叫びを上げ、バルバスに向かう。


バルバスの直前、大きくステップを踏んで横に回り込もうとした瞬間――――――――。



―――――――――俺は、こけた。



何がどうなっているのか。

このタイミングでこけるとか。殺してくれって言ってるようなもんじゃないか。


自らの死を覚悟したその時―――。



バルバスの体が、崩れ落ちる。



――――え。

違う。バルバスだけじゃない。

次々と、蛮族も人間も関係なく、糸の切れた操り人形のように、ばたばたと倒れていく。


何があった。誰の仕業だ。


その疑問は、次の瞬間に消える事となる。



「いやー、お取込み中申し訳ない」



あまりにものんきで、戦場に似つかない声。



その声の持ち主は、漆黒の鎧を着け、漆黒の霧を体に纏っていた―――。



そう、奴こそが『漆黒の騎士』―――――――!!



「戦争か何かしてたところかな。少し聞きたいことがあるんだ。
ああ、いや何。荷物を少し見せてもらおうと思ってね……」


そこで気づく、体が、動かない。

いや体自体は動く。しかし全身が強い疲れに襲われ、立つ事すらおっくうな気持ちになっているのだ。

なんとか自分を奮い立たせ、起きる。


「………なんの用ですか?」


「おや、まだ立てたか……これはこれは。どうも初めまして。
自分はそこらへんで『漆黒の騎士』って呼ばれてる男だよ」

「そ、その漆黒の騎士が……何故ここに」

「聖宝を探していてね。『マップ』っていうのがこの辺りにあるはずなんだけど……聞き覚えは?」


「―――――ッ!?」


よりにもよって、『コイツ』がマップの所有者!?

まずい、今のままでは……いや!


「何かな?」


勝てない。まず間違いなく勝てない。
先ほどからゆったり歩いているだけのくせに、一切の隙がない。

常に後ろからの狙撃さえ警戒されている!


―――とにかく強い!直感が俺に伝える!逃げろと……!



「その反応……君はマップに関して知っているね?」

にっこりとほほ笑む漆黒の騎士。俺は蛇に睨まれた蛙のように、その場に釘づけにされ、足が一歩も動かなくなっていた。


「確かに君は……なるほど。この中では一番強い、か……。
もしかしたら君かい?マップの所有者ってのは」

「さぁ……よくわかりませんね」


「持ってるな?」


「――――――ッ!?」


なんだこいつ、訳が分からない!
表情か?声か?何で見抜いた!

「いや……ここにあった反応はレッドマップ……?」


ぼそぼそと何かを考える漆黒の騎士。

なんだ?今……アイツの気配が変わった?


「君、もしもレッドマップを持ってるのなら……何故持ってるのか聞かせてもらおうか?」


「ヒッ……!?」


一瞬、圧倒的な気迫の前に意識を失いそうになる。
穏やかな漆黒の騎士の顔から笑顔が失われ、人殺しの残虐な、冷たい目が俺を射抜く。


「返答次第では……今すぐ死んでもらう事も覚悟してほしい」


剣を抜く漆黒の騎士。



ああ、今度こそ……



今度こそ、死んだな。

今回はここまでです。
やっと本筋進んでます。次回もゴリゴリ本筋進めていきたいですね。

再開します。
ガッツリやろうとすると間隔が空くので小出しにしていこうかなと

#19『トレジャーハンター・マリー』part1


―――こいつは、まともにやり合って勝てる相手じゃない。


説明すれば、生かしておいてくれるだろうか?

……いや、このマップは、ルルミィの親のたったひとつの手掛かり。


なら、こんなところで奪わせるわけにはいかない。


「……勝利を、信じてッ!」


俺はふところから『ホーリーパウダー』という名の粉を自分にふりまく。

傍から見れば意味の分からない行動だが、この粉には俺の魔力をみなぎらせると同時に、一度使った証を即時使用可能にするという能力があるらしい。

その証拠なのか、俺の手元の証が光る。


「何を」

漆黒の騎士はたじろぐも、取り乱す様子はない。
俺が何をしてこようと対処できると判断しているようだ。

ならば食らえ、度胆を抜く連撃を――――


「『メテオストライク』!『ホワイトエクスプロージョン』ッ!!!」


刹那、俺の周囲を瞬く間に光の爆発が包み込み―――


さらに上空からは隕石が砲撃が落下してくるという……まさに地獄絵図のような状況ができあがる。


轟音が響き、凄まじい砂埃で目が開けられない。
とっさにドラゴニックアーマーを発動させ、なんとか重症は避けたものの、間近で爆発を聞いてしまったせいか耳が痛い。

キィンキィンという音が響き――――


足音が、続く。

俺の耳が回復すると同時に、絶望の音が聞こえる。


「今のは中々肝を冷やしたよ」


冗談じゃない。こっちは決死の攻撃だった。


戦闘不能はないとしても、せめて攪乱程度にはなると思った。



―――――しかし、あまかった。



風を切り裂く剣の音と共に、砂埃がかき消され、そいつの姿が見える。



「もう隠し玉は終わりかな?さ、そのマップを渡してもらおう。
何、命まで取ろうという訳じゃないさ。素直に渡して、話してくれさえすれば、そのまま家に帰ってもいいさ」


にこやかな口調とは裏腹に、そいつの声からは有無を言わせぬ力強さを感じる。

そして、いきなり体が締め付けられるような衝撃と共に、体が地面に押し付けられる。


「グラビティ。相手等ではなく、重力をそのまま操るアビリティだ。
またさっきのように妙な事をされて、話しをそらされても困るのでね」


動けない。両手、両足が鎖で縛られたかのようになり、身動き一つとれなくなる。


もう降参し、全てを話してしまおう――― そう思った瞬間。



「スレット!」



――――おい、まさか。

「――――――ルルミィ!?」


間違いない。遠くからルルミィの放った『スレット』という特殊な砲弾が漆黒の騎士に命中した。


これはドラゴンであるヴァイクにさえ有効な、特殊な攻撃だ。相手の「時間」に干渉して攻撃を鈍らせるという強力なものだ。


しかし今回は、相手が悪い。


「ルルミィ!!逃げろッ!!そいつはただモノじゃない!!早く!!」


走りながらルルミィは答える


「ふざけないでくださいですっ!」


激昂している。あの穏やかなルルミィが。


「騎士さまが殺されるのを、ここで黙って見ていろというですか!?
それなら私だって殺されてやるです!」


「馬鹿野郎!!早まってるんじゃない!俺も必ず逃げるから、お前も―――」



いや、待て?


何かおかしくないか?

よく考えてくれ。


今までの相手と違い、こいつは一番の強者。しかもケタ違いだ。


多分ヴァイクくらいなら2~3秒で消し炭にできる強さの奴だ。


ルルミィのスレットなんて児戯レベルで、当たりさえしなかったはずだ。


でも今奴は何故か、スレットが直撃、棒立ちでルルミィの方を見ている。


敵と認識していない?まさか。奴ほどの男なら、ルルミィの強さは分かるはず。

スレットという攻撃がどれだけ特殊かも一発で見抜くはずだ。


そんな奴が、スキだらけの棒立ちでルルミィを見ている……?



      まさか。


「……………ルル、ミィ?」



漆黒の騎士は、兜を脱ぎ棄てながら、ルルミィのほうへとふらふらと歩く。


もちろん、俺にかけた『グラビティ』の効果はとっくに切れ、スキだらけだ。


だが俺は、どうにもその背中を刺す気にはなれなかったのだ。



「ルルミィ……ああ、本当にルルミィなのか!?」


「………です?」


その姿が、いとしい娘を見つけた父親のようだったから―――。

―――――――

数時間のち。オーガの大群は皆帰って行った。

理由はもちろん、この漆黒の騎士一人に全滅させられ、自分たちでは敵わないと認識したからだ。


祝杯パーティもあったのだが、俺たちはそれを欠席。

少し風の当たるところで、酒を飲みながら話していた。




「勘違いとはいえ、君に暴行を働いてしまい、もうしわけない……」


漆黒の騎士……いや、ルルミィの父、グランは、申し訳なさそうに俺に頭を下げる。


「いや、こちらこそ全力で殺しに行ってしまってすみません。あまりに怖かったもんで」

「………」


当のルルミィはというと、怪訝な顔で父親を見つめている。


「あの」

「ああ、仕方ないんだ……私が家を空けたのはもう何年も前だ。確か……ルルミィが3歳の時だったかな」


3歳。ちょうどルルミィが悪魔になった時だと聞いている。


「じゃあやっぱり、ルルミィが悪魔化した原因を探しに?」

「それもある……それもあるが」


すこし複雑な事情があるようだ。

「私は元々騎空士という職業だった」

「騎空士?」

「ああ、空を駆ける機空艇というものを乗りこなし、魔物を討伐したり、様々な事を成し遂げる……まぁこちらでいう傭兵のようなものかな?」

「そんな職業が……」

「私は『空の果て』……『イスタルシア』と呼ばれるところを目指し、冒険の日々を続けていた」


イスタルシア。

この世界『ミスタルシア』とよく似た名前だが、その関係はあるのだろうか。


「しかしある時、『空間の星晶獣』という厄介な敵と出会ってね」


「星晶獣?」

「ああ、魔物……といったらいいのか。神が作ったとっても強い魔物というのか」

「セイショウジュウ……聞いたことがあるです」

「母さんが話してくれたのかもな……私は、そいつの力がまずい事を引き起こす前に、討伐しようとしていた……だが」


空間の星晶獣。名前を聞くだけでまずい事をしてきそうなのがわかる。


「いよいよ奴の力を弱め、一部を吸収しようとしたとき……全ての力を振り絞り、最後の攻撃に出られてしまった」


「そして……」

「ああ、私たちは奴の攻撃をもろにうけ……『どこか』である『ここ』に飛ばされてしまったんだ」


どこかに飛ばすことのできる相手って厄介すぎるだろ……。


「いくつかの研究の結果、この世界と、私が元いた世界はつながっていることがわかった。
奴は『空間』しか操れないから、時間そのものはそこまで変わっていない。つまり、時代は同じということだ」


「でも、元々グランさんがいたのってどこなんですか……?」


「空だ」


「空」



ありえない返答。

だが、彼の目が嘘をついてるとは、とても思えなかった。

「はは、信じられないだろう。こうして陸に足をつけていると、まるであの時の事が嘘のようだ」

そう語る彼は、嗤いながらも少し憂いを帯びた表情をしていた。


「……」

ふと横を見ると、ルルミィが居心地悪そうな目でこちらを見てくる。
父親と言っても、3歳の時に別れたのでは覚えていることなど少ないだろう。


「ルルミィ」

「はいです?」

「せっかくお父さんに会えたんだから……何か聞きたかった事とか聞いたらどうだ?」

「……」

父親も黙る。

似たもの同士かお前ら。

「……おとーさんは」


ルルミィが重い口を開く。


「どうして、家族を捨てちゃったです?」

「ええっ!?」

第一声がそれ!?


「捨てた、か……」


ふふっ、とグランさんが自嘲気味に笑う。

「そういわれても、仕方のない事だ。私は元の世界に戻るため、
家族をほっぽりだして冒険に出かけたのだから」

「……」

確かに、ルルミィの母親でさえ、今どこにいるかわかっていない。
ルルミィは、父と母に捨てられたも同然なのだ。

―――ーそういえば。


「ルルミィ、確かお前の旅の目的って……」

「あ」

「ん?そうだ、そういえば君たちは何故旅を?」

「わたし、おかーさんを探しているです」

「マリーを……?」


マリー。それが母親の名前らしい。


「彼女は凄腕のトレジャーハンターでね。我が騎空団でも活躍してくれた。
………最近めっきり会っていないがね」


「会って……それからどうするかは、まだ決めてないです。
でも、わたしも立派に成長したんだって、おかーさんに一言、言いたくて……」


そういえば、ルルミィの技術は全て、母から受け継いだものだ。

その成果を。自分がどれだけの力を身に着けたか――、見て欲しいという気持ちがあるのだろう。

「……よし、わかった。マリーの所まで案内しよう」

「知ってるんですか?」

「いいや知らんよ」

「ええー……」

「だが、彼女も聖宝のうち一つ、『パープルマップ』を持っているんだ。
つまりそれを示すための『イエローマップ』があれば簡単に特定できる」


あ、そういうシステムなのかこれ


「じゃあ貴方が持ってたのは」

「そう、エメラルドマップ。最後のマップとされる一枚だ。これは最初のマップである『レッドマップ』の場所を特定できる」


一つ持っていれば別のマップの場所がわかる。なるほど、それで導かれていくと言う事か。


「それなら安心です!わたしたちはもう4枚マップを持ってるです」

「な、4枚もか?」


これにはさすがの漆黒の騎士も驚いたようだ。


「ははは……まさか、もう4枚揃えているとは。
君はやはり、他の人間とどこか違う……特別な力があるのかもしれないな」

「そうなんですかねぇ」

「謙遜する必要はないぞ。娘をやるのは複雑だがな」


ボソリ、と俺に耳打ちするグランさん。


「………はぁっ!?」

「可愛いだろ?」

「可愛いですけど!」


可愛いけど、可愛いけどさ!!


きょとん、とした顔でこちらを見るルルミィ。

今だけはその純粋な目から、思わず顔をそらしたくなる。

とりあえず今回はここまでで。
次回はいよいよおかーさんとご対面の予定です。

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