旅男「ルビーイーターか……」 (144)
SF
オリジナル
地の文多め
いかやきの過去作のログをこちらに置いてます↓
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巨大なビルが一つ、不自然に砂漠に建っている
そのビルには十五メートル程の芋虫のような、蜥蜴のような生き物が張り付いている
それを遠目に眺めていた旅人風の男が呟いた
旅男「アイアンイーター狩りか、つまんね~な~」
後ろから瓦礫に隠れている小柄な茶色の髪の少年が声をかける
茶髪「旅男、あれ倒したらいくらもらえるんだ?」
旅男「三十万から百万、一応アレも資源だからな~」
茶髪「ひと月は遊べるんじゃね?」
旅男「アホ、コストってもんがあるんだよ」
旅男「俺の薬に五万、メンテ代十万、サンルビーガンを一回使えばだいたい三~五万」
茶髪「命懸けて倒すには割にあわねーな」
旅男「そーいうこった」
しかし、旅男は小太刀の柄に赤い石を嵌め込むと、アイアンイーターと呼ばれた鯨のように巨大なモンスターに挑みかかった
その速度、跳躍力は人間のそれでは無い
茶髪「すごいな、アーティフィシャルヒューマン……」
旅男が巨大な鯨に小太刀を突き立てると、鉄の身体がゆるゆると焼け切れていく……
脳を焼き斬り殆ど抵抗させずアイアンイーターにとどめを刺した
旅男「鉄骨なんぞ美味か無いだろ、次はルビーを食っててくれや」
――地下街――
あたりには小さな鉄のボールのような物が飛んでいる
完全監視社会では当たり前の光景だ
イーター狩りなどの際を除けば破壊するだけで鉄の腕輪と牢獄の臭いランチにありつける
食えない人間は良く壊すが、イーターを狩る者達には縁の無い話だ
酒場の親父が旅男に声をかける
酒場親父「よ、英雄さんのお帰りか」
旅男「親父、いくらだった?」
酒場親父「見事なもんだ、七十になったぜ」
旅男はニヤリと笑うことでそれに答える
茶髪「やったじゃねーか、またしばらく遊んでいられるな」
旅男「遊んでる訳じゃねえ、冷却期間がいるんだよ」
茶髪「奢ってくれるんだろ?」
旅男「当たり前みたいにタカるんじゃねーよ!」
しかし、テーブルに着くとホッとしたのか旅男はランチ二人前と酒を頼んだ
茶髪「冷却するのに酒飲むのかよ」
旅男「気化熱でよく冷えるんだよ!」
茶髪「博士ちゃんがそれ嘘だって言ってたぞ」
旅男「良いだろ、別に害がある訳じゃなし」
酒場親父「お待たせ、クレジットはちゃんと管理されてるから心配するな」
旅男「誰もちょろまかさねーのは分かってるって」
旅男「完全監視社会様々だぜ」
美味い飯と酒を楽しんでいると、写真とにらめっこしながら藍色のドレスを着た見慣れない少女がやってきた
藍「……旅男さんですか?」
茶髪「……」
旅男「何赤くなってるんだマセ餓鬼」
藍「博士があなたの世話になれと……」
旅男「はあっ!?」
旅男「あの餓鬼また厄介ごと……」
そこまで言って旅男は椅子に沈んだ
いつものことである
自身のメンテナンスを任せていることもあって、若干十四歳の科学者に旅男は頭が上がらない
孤児院を作れるほど子供を押し付けられて、その全員に里親を見つけてやったのはそんな昔の話ではない
中には茶髪のようにどこにも貰われたがらない子供もいる
しかし世の中にはアイアンイーターやルビーイーターだけではなく、グリーンメーカーやマンイーターなんて厄介なモンスターもいるのだ
こんな世界で子供を連れ歩くのは狂気の沙汰だ
さて、今回はこの藍色の見るからに育ちの良さそうな娘の面倒を見ろと言うことらしい
しかし、藍色の娘に手を触れてそれが何時もの話ではないことを旅男は悟った
旅男「お前……、俺と同じか」
藍「細胞活性タイプです、お役に立てます……」
旅男「細胞活性……、怪我し放題ってか」
藍「致命傷は治せませんが、AHなら腕一本くらいなら……」
AHとはアーティフィシャルヒューマンの略称である
元々細胞活性の高いAHは人工的に蜥蜴の尻尾のように手足を再生する遺伝子が組み込まれている
旅男「ま、マセガキよりは役に立つか」
茶髪「俺だってルビーガンは撃てる!」
旅男「そのうちグリーンメーカーに種植え付けられて森になれ、バカたれめ」
グリーンメーカーとは、炭水化物と見れば種を植え付け緑の大地を作るイーターの一種だ
旅男はとりあえず一言だけ文句を言いに博士のラボに出向いた
旅男「博士、入るぜ」
博士「入室の挨拶は部屋に入る前にするものだよ」
博士と呼ばれた少女はパソコンのキーボードを弾きながら顔も上げず旅男に言葉を返す
博士「君はこの世界がなんでこうなってしまったか知ってるかい?」
旅男「あー、義務教育の範囲だろ」
旅男「まず太陽光を結晶に閉じ込めるサンルビーテクノロジーが生まれた」
旅男「強欲な人類は太陽に直接エネルギーを取りに行った」
旅男「そのせいで地球は氷河期になったが、サンルビーが高騰して金持ちは益々太陽を食いに行った」
旅男「やがて事故が起きた」
旅男「大量のサンルビーが地球に降り、世界中の氷が溶け大洪水、その後砂漠化だ」
旅男「現状を解決しようと投入したナノマシンは人工生物として進化」
旅男「今世の中を荒らしてるイーターの誕生だ」
博士「荒っぽい説明だが概ねその通りだ、過ぎた欲求は不幸を招く」
博士「だが世界を緑に戻せるのはAHの君たちだけだ」
博士「イーターが狂った原因を突き止め、またはグリーンメーカーに正しい土地を与え、世界に緑を」
旅男「分かってるが、好きにやらせてくれや」
博士「構わないよ、どうせ私達は寿命を与えられていない」
博士「のんびり行こう」
茶髪「博士もAHなんだね」
博士はやっと顔を上げる
博士「そうだよ、紳士君」
旅男「今日は一言文句を言いに来たんだよ」
博士「文句?」
博士「御礼ではなく?」
旅男「手間なんだよ、AH一人余分に養うのは」
旅男「月一で五万もする補正エネルギー薬飲まなきゃ活動停止しちまうんだからな」
博士「私は今月薬を飲んだかな?」
旅男「ちょ、勘弁してくれ、あんたが止まったら誰が俺のメンテを……」
博士「ああ、カレンダーにチェック入ってるな」
旅男「頼むぜ全く」
博士「活動停止したら君の好きなように君の好きな貧乳を弄るといい」
旅男「貧乳好きだがガキは嫌いなんだよ!」
博士「私は大分大人だと思うのだが」
旅男「弄られたいのかよ!」
博士「知識欲はある」
旅男「お断りだわ!」
博士「冗談だ、止まってたらそこのエネルギー剤を注射してくれ」
旅男「ああ、分かってる、あんまり研究にのめり込むなよ」
博士「ルビーガンの新型、プロミネンスモデルが出来たぞ」
旅男「話を聞けよ!」
藍「あの、私も貧乳だから好きですか?」
旅男「いきなり何を言ってるんだお前は!」
博士「一人で突っ込んでると血圧上がるぞ」
旅男「あんたのせいだろ!」
博士「まあまあ、ほら、これを持って行ってルビーイーターの一匹でも捕まえてこい」
博士「ルビーイーターの最低討伐報酬が三億に上がったらしいぞ」
旅男「またどこぞのオールドタイプが討伐失敗したのか」
博士「二百人くらい死んだらしいな」
旅男「ただでさえ人口減ってるのにな……」
博士「出現ポイント出しておくか?」
旅男「命が惜しいからまだいいよ」
博士「そうか」
茶髪「もったいねーな、一生食えるのに」
旅男「その前に一生が終わるわ」
茶髪「それもそうか」
博士「とりあえず丁都B地区のナノマシン製造工場のメインコンピューターにアクセスしてみたい、護衛を頼む」
博士「B地区って魅惑の響きだな」
旅男「オッサンかお前は!」
茶髪「なんでB地区が魅惑の響きなんだ?」
藍「……さ、さあ?」
旅男「知らなくて良いんだよ、行くぞおら!」
ラボを出ると丸い帽子をかぶった娘と鉢合わせた
帽子「あれ、はかせー、どっか行くの?」
博士「あれ、帽子ちゃん今日メンテだった?」
帽子「違うよー、旅男にたかりに来たの、アイアンイーター狩ったんでしょ?」
旅男「いい加減にしろよお前ら……」
博士「今からB地区に行くから一緒に行こう、メンテ代はサービスにするから」
帽子「おっけー、報酬は旅男にデンジャラストリカブトケーキおごってもらうね」
旅男「何その暗殺されそうな名前のケーキ」
帽子「トリカブトくらいいちころの美味しい特大ケーキだよ!」
旅男「なんか聞いただけで頭痛くなってきたわ……」
旅男「つかなんで俺が報酬出すんだよ!」
博士「研究費でみんなで食べよう」
旅男「なんの研究だよ」
博士「AHの細胞活性と糖分の関係性について」
藍「藍もモルモットになります!」
旅男「簡単にモルモットになりたがったらいけません!」
――丁都B地区――
丁都はどこも砂漠であるが、所々にまだアイアンイーターに食われていないビルが残っている
ほんの少しだがグリーンメーカーによる森もある
しかしそこはおおよそたくさんの人間が死んだ戦場跡だ
旅男「グリーンメーカーがいるなら気をつけないとな」
茶髪「勝てる?」
旅男「どうだかな、最近進化種のグリーンメーカーやマンイーターが目撃されてるらしいぜ」
茶髪「こえー……」
博士「進化して、AHイーターなんて呼ばれてるのもいるぞ、わっはっは」
旅男「どこが笑えるんだそれ……」
話をしていると、向こうから土煙が上がってきた
旅男「おっと、噂をすればグリーンメーカーか」
博士「緑化プログラムを打ってみたい、捕らえてくれ」
旅男「素手で、無傷でか?」
旅男「死ぬ覚悟してくれ」
博士「蜘蛛の糸あるぞ」
旅男「そういう便利なものあるなら先に出してくれよ!」
蜘蛛の糸とは文字通り蜘蛛の糸である
科学的に合成された太く強力な蜘蛛の糸を制圧用兵器として加工した物だ
旅男「帽子、足止め頼むわ」
帽子「おっけ」
帽子が新型のルビーガンでグリーンメーカーを牽制する
グリーンメーカーは蛇行しながら突っ込んでくる
そこに旅男が蜘蛛の糸を専用のランチャーで打ち出す
旅男「ヒット!」
旅男「かわせ!」
慣性で吹っ飛んでくるグリーンメーカー
藍も博士もAHであり、身体能力は高い
博士は茶髪を抱きかかえ、跳ぶ
博士「貧乳だから抱かれ心地悪かろう、許せ!」
旅男「貧乳強調するな!」
茶髪「……」
旅男「お前も照れてるんじゃねえマセ餓鬼!」
五メートル程の昆虫のような形のグリーンメーカーは、蜘蛛の糸に脚を絡め取られて転んだ
旅男「よっしゃ、止まった!」
博士「よしよし、仕事のできる奴らは好きだ」
博士「グリーンメーカーのような好んで人間を襲うタイプは報酬も良いぞ」
帽子「やったね」
博士「まあコイツはプログラミングしてから野に放つんだがな」
旅男「今回はどれくらいの規模の森が出来るかな?」
博士「大きさから言って君に以前作ってもらった森くらいの大きさにはなるんじゃないか?」
旅男「森作りが一番いい仕事だな」
藍「私もその森を見てみたいです!」
帽子「あそこはオアシスもあって良い森だよ~」
茶髪「俺も行ったことある、すげー蚊がいる」
帽子「夢を壊さない、そこ」
博士「まあ生態系が蘇っているんだから良い傾向だろう」
博士「さて……」
また博士はパソコンに向かい黙々と作業を始めた
博士「パターンが決まってるんだよね、こいつらの脳味噌のプログラム」
博士「誰かが意図的に書いた物なのは間違いないんだが」
博士「果たして誰がどこで書いた物やら……」
カチャカチャとキーボードを叩く音が響く
茶髪「あちい……」
旅男「四十度くらいか」
帽子「まだ涼しいね」
茶髪「まじかよ……」
藍「私も慣れてないので暑いです……」
旅男「しょうがねえ、冷やしてやるよ」
旅男は足元をルビーガンで撃つ
砂がたちまち凍りついた
同じ作業を何度か繰り返す
旅男「冷却してくるわ」
旅男の持つルビーガンが赤熱している
旅男はその銃を持って走り出した
博士「冷却線モード上手く機能したな」
帽子「流石は博士のルビーガン」
茶髪「サンルビーあんなに使っても大丈夫なのか?」
帽子「そんなに減ってないよ、サンルビー一個でもルビーガンを四十回使える程のエネルギーがあるんだよ」
博士「早々無くなられたら困る、人類最高の発明品にして世界に氷河期をもたらしたサンルビーだからな」
博士「まあだから今は宇宙でのサンルビーの製造は一部を残し禁止されたんだがな」
博士「っと、これでOK」
博士「後は自動で空中窒素固定を始めて光合成、水蒸気を吸着し、土を作り種を植えて草原や森を広げていく」
博士「制御下のグリーンメーカーの数が増えれば丁国中が森になるのも時間の問題だ」
旅男「ただいま」
博士「帰ったらメンテだな」
旅男「頼むわ、本当なら冷却期間にするつもりだったからな」
博士「それは悪かった」
茶髪「これからどこに行くのさ?」
博士「B地区地下工場」
博士「アイアンイーターに食われてないならもうすぐ着くよ」
帽子「小型イーターとか居そうだけど」
藍「怖いですね」
帽子「守ったげるよ~、藍ちゃんだっけ?」
旅男「まあ二、三体なら殺るが多ければ引き返そう」
博士「期待してるよ」
――B地区地下工場――
この地下施設はナノマシン製造の為に作られた工場であり、稼働は全自動で行われていた
本来機械のメンテナンスのための人員がいるはずだが、現在は閉鎖されているため、完全な無人である
博士はナノマシン製造過程に何等かのバグが入っていた可能性を探るため、この工場のメインコンピューターにアクセスし捜査する権限を得ていた
博士「完全管理社会なんて研究者には窮屈な事だが、書類一つでこんな大きな施設のコンピューターにもアクセス出来るのは有り難いな」
旅男「早めに済ませてくれよ、イーターの気配がする」
帽子「こんな狭い通路でルビー型が出たら即死だね」
旅男「それは居ないだろ、だがマンイーターだと不味い」
博士「迷い込んでくる可能性はあるが、餌もないとこに籠もってないと思うぞ、いるならアイアンイーターだろうな」
旅男「それなら楽だが、施設が死んでる可能性があるぞ」
博士「そうなんだよな、早めに全部データを吸い上げるわ」
博士は端末に自前のノートを繋ぎメインコンピューターにアクセスを始めた
旅男「しばらく暇だな」
旅男は懐から水筒を取り出して水を飲む
帽子「ボクにも頂戴」
旅男「自分の持ってきてないのかよ」
帽子「あんたにたかりに行った足で来てるんだから」
旅男「ほれ、……帰りにマンイーターでも狩って帰ろうぜ」
帽子「ああ、うん、やっぱり二人で狩った方が効率的だもんね」
博士「マンイーター発見報告で小規模なのはC地区西端だな」
博士はまたパソコンから目を上げず話す
旅男「おんなじAHでも頭脳型って奴は器用だよな」
帽子「ボクも頭脳型が良かったな~」
旅男「俺たちの生まれたラボはハンター専門のラボだったからな」
茶髪「二人は同じとこで生まれたの?」
旅男「まあな、もう潰れたが」
帽子「役割を終えた感じだけどね」
藍「AHばかり増えても困りますからね」
旅男「人間の遺伝子の保存って観点からしたら俺らみたいな人造遺伝子は混ぜ物でしかないからな」
旅男「帽子と博士が丁度最終世代か」
旅男「二人の力はオールドタイプには驚異だよな~」
博士「まあオールドタイプを守るために私たちは生まれたんだ」
博士「素晴らしい能力を与えてもらえて感謝だね」
博士「よし、終了」
旅男「帰って解析か」
博士「まずは君らのメンテだな、と、その前に」
博士「マンイーター狩るんだろ?」
帽子「狩る~」
博士「じゃあ行くか、ナビは任せろ」
旅男「ちょっと待った、小型イーターだ……」
博士「ああ、やっぱり迷い込んでたか」
茶髪「どっか隠れてる!」
藍「私が守ります」
帽子「小銭稼ぎだ~」
狭い通路から蟷螂のような物が三体歩いてくる
旅男「いただきっ」
帽子「あ、ずるい!」
旅男がルビーブレードで一体のイーターの脚を叩き斬り、とどめを刺す
後ろから帽子がルビーガンを放つ
イーター一体が溶けてはじけた
旅男は返す刀でもう一体のイーターの頭を落とした
帽子「よーし、終了~」
旅男「二人で十万くらいかな?」
博士「このくらいのイーターはどう進化するか分からないからな、危険種ならもう少し……」
博士「ん、普通のアイアンイーターだな、賞金は旅男が六万、帽子が三万」
帽子「ルビー使用代にしかならないよ……」
博士「施設を防護したってことでスペシャルボーナスで一体五万ずつだってさ」
旅男「おお、ラッキーだな」
帽子「薬は今月は飲んだし、メンテ代サービスだし、ボクは三万の儲けか」
帽子「もうマンイーター狩りに行く必要無いかな~」
旅男「まあ一応行こうぜ、狩れるだけ狩ってひと月くらいはメンテに当てたい」
博士「サボりたいだけだな」
帽子「命懸けなんだからサボりたいよ~」
藍「終わりましたか?」
茶髪「終わったなら言えよな!」
旅男「はいはい、行くぞ」
――C地区西端――
マンイーターとはグリーンメーカーが炭水化物採集のために人間を専門に襲うようになったモンスターである
本来の目的である緑化植林の能力は退化した、完全に人間を殺すだけのナノマシン細胞生物の変異種だ
ある宗教に関係する人間達には人類に対する神罰だとしてプロパガンダの具にされているが、実は犬や猫でも襲う
ただ博士には逆にイーター種に人間を守るプログラムを打てる可能性を見いだせる美味しいモルモットであるようだ
今回はプログラムの完成を見ていないため、単純に討伐が目的となる
マンイーターの特徴は素早く生命体を搾取するため小型の恐竜のような形をしている所だろうか
極限まで人工進化したAHでも手こずることがある難敵である
C地区はビルがたくさん残っている
それは、アイアンイーターを捕食する存在がいることを臭わせている
アイアンイーターが建物の鉄骨などから蓄えた鉄を、他のイーターが捕食する
マンイーターやグリーンメーカー、最悪ルビーイーターとの戦闘の可能性も有り得る事を意味している
旅男「相変わらずここはすげえな」
茶髪「昔は皆こんなデッカい建物に住んでたんだな~」
博士「今も住んでる物好きもいるがな」
帽子「アイアンイーターってとろくさいもんね、AHなら問題ないし」
博士「薬の支給とか面倒くさいと思うんだがな~」
旅男「まあビルの天辺から丁都砂漠を眺めるのもたまには良いと思うが」
茶髪「見てみたいな~」
博士「なんとかと煙は高いところに登るものだしな」
茶髪「なんとか?」
藍「子供……、とか……、あはは」
旅男「危険なイーターがいるんだからあんまりはしゃぐなよ、なんとか」
茶髪「おう」
帽子「やっぱりバカだったの」
茶髪「なっ……!」
そこに、餌の匂いを嗅ぎつけて二~三メートルのイーター達が現れる
旅男「お出ましか」
博士「私は茶髪と隠れているから頼むぞ」
帽子「ずるーい!」
藍「実戦は緊張します……」
旅男「初めてなら無理はするな」
藍「は、はい」
博士「誰にでも初体験は有るもんだよ」
旅男「……はあ、マンイーターは三匹、一人一匹と行こう」
マンイーターが射程圏に入ると、旅男はルビーガン一撃で一体倒す
帽子「はやっ」
しかしそれで他のイーター達が旅男達を見つける
うなり声をあげるとジグザグに走って攻めてくる
藍「えいっ、えいっ、あ、あたった!」
藍はデタラメにルビーガンを撃ったが、ビギナーズラックで上手く直撃する
帽子は銃を捨て、小太刀を抜くとマンイーターに直接向かっていった
旅男は銃でマンイーターを牽制する
帽子「背中撃たないでよ~?」
帽子はマンイーターの足下に滑り込むと、片足を薙いだ
尻尾を切り上げ、段々とバラバラに砕いていく
旅男「終わったか、思ったより上手く行った」
藍「たまたま当たってくれて良かったです」
旅男「この辺りは人間も少ない、多分実戦経験が乏しいイーター達だったんだろう」
博士「もう終わったのか、速かったな」
旅男「ああ」
博士「賞金は各三十万、被害報告の無いイーターにしてはなかなかの高額だ」
旅男「マンイーターにしては安いな、あっさり殺りすぎたか」
帽子「おっし、しばらくはのんびり過ごせるね」
博士「帰ってメンテナンスしよう」
藍「体がなんだか熱いです」
旅男「俺達AHはエネルギー消費がデカい」
旅男「運動するとそれだけでオーバーヒートしてメンテナンスが必要になる」
藍「覚えておきます」
茶髪「AHってすげーけど不便だな~」
――地下街――
旅男「ふう」
旅男は温めのお湯で半身浴している
博士「バイタル異常無し、三日も冷却すればまた稼ぎに出られるぞ」
旅男「そら有り難い」
博士「無茶はするなよ? 生まれたてのルビーイーターでも狩れば遊んで暮らせるんだから」
旅男「遊んで暮らす気はない」
旅男「約束を果たさねえと……」
博士「約束か……」
――数年前――
友「お前は前に出過ぎだっつの」
旅男「とろくせーこと言ってんじゃねーよ」
二人が言い争っていると桃色の戦闘服を着た少女が割って入る
桃「はいはい、二人とも喧嘩しないの!」
三人は協力してイーター討伐をする仲間だった
最初は上手く行っていた
旅男は生まれつき戦闘の勘が良く、優秀な遺伝子を持つAHだった
二人とは生まれた研究所が違うため、元々の能力に差があったのは事実だ
他のハンターからは良くその血を妬まれたりもした
この時点で旅男が調子に乗っていたとしても、それは仕方のない話であった
そのため、ある時、事故があった
ルビーイーター二体に挑戦し、結果として仲間を失ったのだ
桃「……旅男……、森を……、人の作った森を見せて……、いつか…………」
旅男「桃、死ぬな、桃!」
旅男「桃ー!!」
――現在、ラボ――
旅男「……おっと、寝てた」
博士「悪夢見てただろ、若干バイタルが乱れたぞ」
帽子「ボクもそろそろメンテナンスしたいんだけど」
旅男「浴槽はまだ有るんだから水着着て入れ」
帽子「それでも良いけど、子供には刺激強くない?」
茶髪「……」
旅男「マセ餓鬼だから大丈夫だ」
藍「私も着替えてきます」
博士「そうしろ」
帽子「結構動いたから暑くて仕方ないよ」
博士「砂漠を歩いたしな」
博士「ほれ、旅男」
博士は旅男にドリンクを差し出す
旅男「ん……、良いな」
博士「薬はどうする」
旅男「結構稼いだし、飲んでおくか」
博士「一日で百万以上も稼いだか、メンテ費用もふっかけようかな」
旅男「聞こえてるぞ」
博士「もちろん聞こえるように言ってる、まあ今日はサービスだ」
博士「ルビー消費はどうだ?」
旅男「今日はだいぶ使ったが一個消費しきってないし、まだホライゾン一ケースあるから問題ない」
ホライゾンはサンルビーの高エネルギーを保存できる、サンルビー専用ケースだ
一つで一ダース入る
博士「当分は行けそうだな」
旅男「ハードな戦いにならなきゃな」
帽子「お待たせ~、ほーらマセ餓鬼君、ボクのビキニどう?」
茶髪「すごく……、派手」
帽子「感想、それだけ……?」
藍は薄桃色のワンピースタイプだ
旅男「いいな、似合ってる」
藍「そ、そうですか?」
帽子「あんたは本当にタラシだね」
旅男「そんなつもりはねえ」
帽子「天然だからタチが悪い」
博士「このラボにハーレムでも作る気か、私はいつでもオッケーだ」
旅男「やめろオッサン発言」
藍「は、入ります」
旅男「ああ、風呂にな」
帽子「ハーレムにかもよ?」
旅男「やめろっつの」
博士「ま、なんやかや言って旅男は面倒見が良いしな」
旅男「押し付けられては面倒だから流されてるだけだ」
帽子「よいしょっと、あ~、ちょうど良い温さ」
帽子「藍ちゃんおいで~」
藍「は、はい」
博士「メンテするからバイタル取るぞ」
博士「ま、異常はなさそうだな」
帽子「ボク結構動いたけど大丈夫?」
博士「あんたらは他のハンターと比較しても丈夫だよ、まあ砂漠だからオーバーヒートは有り得るが……」
博士「うん、問題なし、流石旅男のラボ出身の最新ハンターだ」
帽子「誉められると照れるなあ」
茶髪「俺もAHならな~」
博士「サイボーグにでもなってみるか?」
茶髪「それはなんか嫌だ」
博士「アイアンイーターにも捕食されるようになるからな、ははっ」
茶髪「絶対嫌だ」
旅男「ふう、そろそろ上がって酒でも飲みに行くわ」
博士「あんまり大量に飲むとメンテが長引くぞ」
旅男「はいよ」
――酒場――
酒場親父「よう、英雄、また稼いだらしいな」
旅男「親父、ビールとなんかツマミ」
酒場親父「おう、ちょっと待ってろ」
旅男がのんびり椅子に仰け反って座っていると目の前に唐揚げや焼き魚など大量に料理が運ばれてくる
旅男「こんなに頼んでねえよ!」
酒場親父「他のお客さんの奢りだよ、有名人だな、お前は」
旅男「ちまちま弱いイーターを狩ってるだけなんだがな……」
酒場親父「まあそういう訳だからビール代以外は気にするな」
旅男「ありがてえ、皆さん頂きます!」
客「おお、また頼むぜ凄腕ハンター!」
客2「俺の娘はマンイーターに食われちまってよお……」
客3「俺のダチはデカいアイアンイーターの下敷きだ」
客「あいつらが全滅しなきゃ気が済まねえ」
客2「旅男には苦労かけてるからな」
客3「今日もアイアンイーター狩ってくれてすっとしたぜ!」
旅男(こんな世の中じゃ、みんな不満を抱えてる……)
旅男(ちっとは役に立ってるってのは気分悪くねえな)
旅男「んで、お前等は何をしてるんだ」
帽子「あんたの金じゃないんだしいいじゃん」
藍「す、すみません、頂いてます」
茶髪「俺稼ぎねーし」
旅男「分かった分かった、食えよ」
帽子「ちっ、タラシめ」
旅男「お前は俺に恨みでもあるのか」
今日はここまででまた明日更新します
期待してる
ちょっと遅くなりましたが更新します
しばらくはお休みだ
旅男は一週間ほどは地下で遊び歩く事にした
旅男「一人じゃつまらんだろ」
帽子「ふん、迷子にならないようにボクが着いていってやるよ」
藍「私も一緒で良いんですか……?」
旅男「これからチーム組むんだ、お互いのことを知ってても良いだろ」
藍「あ、有り難う御座います」
旅男「服屋でも覗いてみるか、ドレスじゃイーター狩りは無理だろ」
藍「あ、はい」
帽子「旅男の奢り?」
旅男「お前等もちょっとは稼いだだろ……」
帽子「ケチ~」
藍「そう言えば三十万も貰えたんですよね……」
旅男「クセになるだろ、イーター狩り」
旅男「それでムキになって死ぬ奴が多い」
旅男「特にルビーイーターなんぞに挑むのは素人ベテラン問わず阿呆だ」
帽子「こいつは一度ルビーを狩ってるけどね」
藍「えっ、すごい!」
帽子「貯金は何に使ったのかな~?」
旅男「博士に餓鬼の世話させられて無くなった」
藍「り、立派ですね」
帽子「これだよ、タラシめ」
旅男「不可抗力だろ」
旅男「全くよ……、お、この店に入るか」
藍「高級そうなお店……」
旅男達は地下街の一角のブティックに入る
帽子「こんなとこに戦闘服は置いてないと思うけど~」
旅男「そうか? 女の服は良く知らんからな」
店員「ハンターの方も良くご利用になるんですよ」
店員「お客様は旅男様ですよね?」
旅男「え、ああ……」
店員「ファンなんです!」
帽子「またか」
藍「やっぱりハーレムを作るんですね……」
旅男「誤解だ、誤解!」
藍「あ、本当に戦闘向きの服がある」
帽子「タラシに奢ってもらおう~、あ、この帽子可愛い」
旅男「……こんな地下生活じゃ大した娯楽も無いもんな……」
帽子「何ぶつぶつ言ってるの?」
藍「じゃあこの藍色の服で」
旅男「好きだな、まあ似合ってるよ」
帽子「ボクはこの白地に赤い装飾の奴」
旅男「おお、似合う似合う」
帽子「ちっ」
旅男「なんだよ……」
帽子「まあ次のハントは旅男が好きな服着てやるか」
旅男「好きっつか似合ってるって……」
帽子「ほら、支払いよろしく!」
旅男「……二着で七万……だと……?」
帽子「普通っつかお安い方」
旅男「女じゃなくて良かった……」
…………
旅男「映画やってるな」
帽子「昔の映画のデジタルリマスターばっかりだけどね」
藍「意外と面白いのがあるんですよ、SFはアレですけど時代劇や恋愛物は時代が変わっても面白くって……」
旅男「詳しいんだな」
藍「映画は好きなんです……」
帽子「……休み明けたらどうするかね~」
旅男「またイーターを何匹か狩るか、博士の仕事を請け負うかだろ」
帽子「そう言えば例のコンピューターのデータ洗い出せるのかな?」
旅男「デカい工場のメインコンピューターのデータだからな、時間はかかるだろうな」
帽子「博士の事だから朝飯前とか言いそうだけど」
旅男「あり得るな」
旅男「で、この映画はどんな内容なんだ?」
藍「旅男さんも興味を持てるかと思って怪獣物なんですけど……」
旅男「仕事を思い出すだけだろそれ」
藍「あ、そっか、自然災害物か刑事物にしたら良かったかな?」
帽子「大破壊は現実にやっちゃった感あるし、アクション系はね、ボクらの方が激しいアクション出来ちゃうからね」
藍「難しいですねえ……」
旅男「恋愛物とか戦争物みたいな思想が入ってる奴の方が良かったかもな」
…………
旅男「割と面白かった」
帽子「ルビーイーターみたいに熱線を吐くモンスターが実は……、とか燃える展開だったね」
藍「伝説になってるゴリジーラシリーズですからね、私も当たりを引いた気分です」
旅男「映画を見てる時に思ったがホラーとか感情に訴える系統は楽しめそうだぞ」
藍「あ、それがあった」
藍「ジュオングシリーズかリンダシリーズ、魍魎の脳味噌シリーズなんかも面白いかも」
帽子「典型的なゾンビ物で当たりを探すのも楽しいかもね」
旅男「ふふ……」
旅男「なんか休みを満喫できた、有り難うなお前等」
帽子「ふん、タラシめ」
藍「……実は帽子さんは、旅男さんが……」
帽子「無いから」
帽子「ボクと旅男は同じラボで近似的な遺伝子を投入された……、実質兄妹みたいなものなんだから……」
藍「……!」
藍「あの……、ごめんなさい」
帽子「何が?」
帽子「何でもないよ、忘れて」
藍「……ごめんなさい……」
旅男「おい、あそこの店で売り出してるあれ……」
帽子「おお、デンジャラストリカブトケーキ!」
旅男「食ってみっか、博士にも土産を持って行けばいいだろ」
帽子「やった~、旅男奢ってね」
旅男「最初からタカる気満々だろ、まあ博士の言う糖分がAHに与える影響を確かめて見ようぜ」
藍「お酒を飲む人って甘い物は嫌いなんじゃ……」
帽子「二日酔いで甘い物は頭痛がしたり胃が焼けるって事じゃないのかな、多分」
藍「旅男さんはお酒強いから大丈夫なのかな?」
旅男「サンプルで見る限りだがでけえな、食いでが有りそうだ」
帽子「うふふ、食うぞ~!」
藍「楽しみです、茶髪君はお留守番で残念でしたね」
旅男「オフまで茶髪連れ回したく無いからな……」
店員が来ると帽子が慣れた感じで対応する
帽子「三名ね」
帽子「デンジャラストリカブトケーキ三人前とグレープゾンビシェイク三つ」
店員「かしこまりました、しばらくお待ちくださいませ」
帽子「お持ち帰りやってる?」
店員「承っております」
帽子「んじゃ後で」
旅男「ここのメニューってなんで凶悪に不安感を掻き立てるネーミングなんだ?」
帽子「楽しいから?」
藍「ここのチェーンは食欲を猛烈に削ぎ取るネーミングを目指しているそうです」
旅男「何の嫌がらせだ!」
しばらく待っているとサンプルと寸分違わない量のデンジャラストリカブトケーキが現れた
旅男「見た目と匂いは猛烈に美味そうだな」
全員一斉に一口食べてみる
旅男「ん!」
藍「すごい……」
帽子「マンゴーベースでフルーティーでプルプルした食感の後、優しい口解けのスポンジとクリームが芳醇な香りを放ってくる……」
旅男「美味い、で良いだろ、どこのレポーターだ」
帽子「んまいっ!」
藍「多いように見えますがふわふわなのでどんどん食べられますね」
帽子「デンジャラスだ……、これは太る」
旅男「AHなんだからこれくらいのカロリーちょろっと動いたら消費しちまうよ」
藍「ああ、AH用を睨んだメニューなのかも」
旅男「AHのカロリー消費は深刻だからな」
帽子「AHで良かった~」
旅男「土産持って帰ったら次はまた酒場だな」
帽子「この辺りで美味しいとこ、あそこくらいだしね~」
藍「地下五階に最近話題の美味しいレストランがあるらしいですよ」
旅男「あんまり洒落た店は飲み辛い」
帽子「だよね」
旅男「お前は飲まないんだから二人で行ってこい」
帽子「博士と同い年だしね」
藍「じゃあ茶髪君と博士と四人で」
旅男「仲間外れも寂しいな」
帽子「ワインとか変わったお酒飲めるかも、行こうよ」
旅男「そうだな、一回だけ行ってみるか」
…………
夜、地下街を一段一段降りていく
旅男「深層は余り来ないが結構良い雰囲気じゃないか」
藍「素敵なお店もいくらかありますね」
博士「今は人間のほとんどが地下住みだからな、地下も栄える」
茶髪「うう……」
茶髪「トリカブトケーキ多かった……」
旅男「あれくらいも消化できないのか、オールドタイプの餓鬼は貧弱だな」
旅男「地下五階まで階段三往復くらいしたらどうだ?」
茶髪「……無理、吐く」
藍「無理ならレストランはやめておきますか?」
茶髪「行く、仲間外れはやだ」
博士「少し腹ごなしに遊んでいくか、なんかやってないかな」
旅男「普通のスポーツってつまんないんだよな、だいたい負けるはずがないから」
博士「だよなあ」
博士「あ、釣り堀なんかあるぞ」
旅男「今から飯食いに行くからなあ」
博士「映画でも見るかなあ」
藍「映画ですか!」
旅男「こいつに火が着いちゃうからパス」
藍「今度一緒に行きましょう、博士!」
帽子「またショッピングするかなあ」
旅男「そんなに金ねえぞ」
帽子「流石に自分で買うよ、雑貨屋さんとか覗いてみよう」
茶髪「行くか~」
…………
一頻り歩き回った後、レストランに辿り着く
レストランとは言うが居酒屋のような気さくさを感じる内装だ
テーブルも小さく、カウンター席もある
旅男「おお、良い店じゃないか」
レストラン店員「旅男さん、ようこそいらっしゃいました!」
旅男「お、おう」
旅男達は奥のテーブルに案内された
博士「有名人だな、ははっ」
帽子「便利な男だよね」
茶髪「俺もオールドタイプなのに凄腕ハンターって有名になりたいな」
藍「頑張りましょう!」
旅男「海鮮メニューも豊富だなあ」
博士「良いな、酒が飲めたらなあ」
旅男「まだ六年早いよ」
旅男「俺は飲むけど、海老のソテーと白ワインにしよ」
藍「私も海老食べたいです」
茶髪「肉~」
博士「白身魚のムニエルにしよう」
帽子「ボクもそれでいいや」
博士「冷却期間明けたらまたアイアンイーターでも狩りに行くのか?」
旅男「だいぶ金使っちまったからな、ちょっと大きく稼ぎたい所だ」
博士「実害が幾らか出てるマンイーターで五百万くらいのがいる」
博士「君なら危なげなく狩れる範囲だろう」
旅男「美味しいな、それは」
帽子「三人で狩って山分けしようよ」
博士「三人なら千二百万のルビー保持型アイアンイーターがいるぞ」
旅男「それだ、ルビーイーターになる前にやっちまおう」
博士「一応ルビー保持型は運動量も高いからアイアンイーターと言っても厳しいぞ」
旅男「分かってる、優秀な仲間がいるし大丈夫だ」
帽子「もう……、旅男ったら仕方ないなあ……」
藍「私はもう少し実戦に慣れたいですが……」
旅男「そうか、じゃあまずは藍のトレーニングに群れてる小型イーター狩ってくるか」
博士「群れはなあ、奇襲されるとキツいからな」
博士「まあ小型の群れを探しておくよ、公示警報も余り宛にはならないがな」
旅男「ある程度はなんとか対処するよ、売り出し中の若手もいるしな」
茶髪「俺?」
旅男「やらないのか?」
茶髪「やる、ハンターになりたいもん」
旅男「オールドタイプなんだから兎に角射撃の腕を磨け」
旅男「後は帽子がやったみたいな脚を払ってトドメを刺す戦い方だな」
帽子「イーターは脚が弱いからね」
帽子「あいつらの体鉄が中心だし、バカみたいにデカいから自分の体重を支え切れてない事が多いんだよ」
茶髪「なるほど」
旅男「チビに向いた戦い方だしな」
藍「私も覚えておきます」
博士「じゃあまずは藍と茶髪のトレーニングで、その後デカいのを狩ってゆっくりするか」
旅男「それで良い」
旅男「まあ予め言っておく」
旅男「死ぬんじゃねえぞ」
茶髪「死なねーよ!」
藍「命だけは守りますね」
旅男「ま、あと数日はぶらぶら遊ぶけどな」
茶髪「俺も誘えよー」
旅男「映画見るか、ゴリジーラシリーズ」
帽子「この休みは映画漬けも良いね」
藍「案内しますね!」
旅男「ノリノリだな」
博士「私も明日は息抜きするか」
旅男「賑やかで良いな」
博士「映画文化とか割と興味ある」
藍「一緒に巡りましょう、博士」
博士「ふふ、お手柔らかに」
――数日後、F地区――
旅男達はハンター以外侵入禁止の危険区域を訪れていた
藍と茶髪の修行目的のアイアンイーター狩りではあるが、危険なタイプのイーターが居ないとは限らない
旅男と帽子は厳重に警戒態勢を取った
小型イーターが二、三体、こちらを見ている
アイアンイーターであれば人間に興味を示すことはない
草食動物が人間に興味を示さないように、ただ警戒するだけだ
アイアンイーターではないのか、と警戒した所でイーター達は逃げ出した
普通のアイアンイーターのようだ
崩れかかったビルでは捕食音が響いている
旅男「とにかくバラバラになるな、一体一体確実に仕留めて行け」
茶髪「分かった」
藍「頑張ります!」
旅男「くれぐれも味方を撃つなよ、危なそうなら刀か槍を使え」
茶髪「槍か……、めちゃくちゃ練習したぜ」
旅男「イメトレと実戦は違うぞ」
茶髪「分かってるよ!」
旅男「茶髪はまず射撃、次に武器の持ち替えの速さも大事だ」
旅男「藍は俺と同じ小太刀だがこれはまあ身体に沿って使うことだな」
旅男「斬れば倒せる、撃たれたり蹴られなければ死なない、分かりやすい武器だ」
旅男「……ってのは使い慣れてる俺の感想だからな、自分なりの戦い方を見いだせ」
旅男「ルビーイーターじゃなければ、なんとか撃ち殺せば終わりだ」
旅男「ついでにルビーイーターの恐ろしさを教えておくか」
茶髪「聞いておくか」
帽子「偉そうだな、小僧!」
旅男「お前だよ……」
旅男「ルビーイーターと俺が戦ったのは三年も前だ」
旅男「調子に乗ってルビーイーターを狩りに行った俺達三人は仲間を一人死なせてしまった」
旅男「相手が二匹居たこともあるが、ルビーイーターの出力を甘く見ていた」
旅男「まずルビーガンじゃ毛ほどのダメージしか与えられない」
旅男「奴らはルビーを使い切る事など気にしない、大出力のレーザーを撃ちまくってくる」
旅男「運が悪ければ初撃で死ぬな」
旅男「いかなるAHでも光速をかわす術は持ち合わせていない」
旅男「ルビーの出力を生かし、巨体だが高速で動く」
旅男「ここまでで質問は?」
茶髪「ルビーガンも効かないって、そんなのどうやって倒すんだよ……」
旅男「効かないと言うか、一瞬で修復する」
旅男「俺が倒した時はとにかく格闘を繰り返した」
旅男「格闘って言っても相手の射線に入ったら死ぬ」
旅男「死角を突いて滅茶苦茶に斬りまくった」
旅男「一体を倒した所でもう一匹は逃げ出した……」
旅男「終わった時には正直俺もオーバーヒートで死にかけてた」
旅男「いいか、ルビーイーターと会ったら隠れろ、そして逃げろ」
旅男「気が狂っても戦おうなんて思うなよ」
旅男「あと、半端なコンクリートは焼き切るからな」
旅男「さて、ここは敵地な訳だが、最後に何かあるか」
茶髪「祖国のために生きて帰ります」
帽子「どこの軍人だ」
藍「やりました!」
話をしている間に藍が一匹アイアンイーターを撃ち殺した
帽子「やるねえ」
茶髪「フライングだ!」
旅男「戦場によーいドンなんか無いぞ、一等兵!」
茶髪「イエッサー!」
茶髪は多少乱暴だがアイアンイーターを一体射殺し、槍に持ち替えて突撃し、もう一体を倒した
帽子「初陣にしては気合い入ってるね、本気なんだ」
旅男「あいつが里親に貰われていかなかったのはハンターになるためだからな」
旅男「あいつの両親はマンイーターに食われたらしい」
旅男「今はアイアンイーターがいっぱいいっぱいだろうが、いつかマンイーターを狩らせてやりたいな……」
帽子「ほんと世話焼きだよね、あんたは」
帽子「ボクも少しは手伝えるかな?」
旅男「頼むぜ、大将軍!」
帽子「あはは」
少し見ている間に次々とアイアンイーターは狩られていく
旅男「思ったよりデカい群だったな」
帽子「大型が居ないのが不思議なくらいの密集率だね」
旅男「いや」
先頭を走る茶髪と藍の前に、巨大なアイアンイーターが姿を現した
旅男「十メートル級だな」
茶髪「……やっつけてやる!」
藍「無理はしないでください!」
巨大なアイアンイーターは黙々とビルの鉄骨を剥ぎ取り、食べている
茶髪の運動能力で頭を叩くのは無理だし、ルビーガンも飛距離が遠くなると急速に威力が落ちる
下敷きになれば一撃で死ぬ
常人にしてみれば途轍もない難敵である
茶髪「こいつを……、倒す!」
茶髪はまず山椒魚のような丸い尻尾から削って行くことにした
うっかりこちらに倒れてくれば茶髪の短い人生は終了だ
尻尾を撃ちながら出来るだけ走り、位置を変えていく
藍は茶髪をサポートしつつ体幹に攻撃を加える
アイアンイーターは耳をつんざく叫び声を上げ、暴れ始めた!
体長十メートルのモンスターは周囲のビルに体当たりしては打ち崩していく
茶髪「くっ……、ごほっ、ごほっ」
茶髪「ぱねえっ!」
藍「ど、どうすれば倒せるんでしょう!」
旅男「落ち着け!」
旅男「お前この前に俺が十五メートル級倒した所を見ていただろう!」
茶髪「そ、そうだ」
茶髪「あいつあんなナリしてるけど、脳味噌があるんだ!」
藍「牽制します、トドメをお願いします!」
藍は崩れる瓦礫の中を俊敏に突き抜け、巨大アイアンイーターを少しずつバラして動きを止めていく
茶髪は必死に走ったが、明らかにAHについていけはしない
イーター狩りは機動力も大事な要素だ、それは間違いない
ただ
茶髪「男は、根性ーっ!!」
茶髪はイーターの上を走りながら槍でイーターの身体を切り裂いて、頭まで走る
茶髪「トドメだあーっ!」
イーターの頭と思しき部分に、深く槍を突き刺した
もしイーターが跳ね起きれば死ぬ
茶髪はそのまま槍を捨てイーターから転がり落ちて出来るだけ遠くに走った
しかし、巨大アイアンイーターは、もう動くことは無かった
茶髪「や、やったのか?」
しばらくして旅男がアイアンイーターの撃退を確認し、槍を抜いて茶髪の元に歩いて来た
旅男「……ふっ」
旅男「やりやがって!」
旅男は茶髪の手を掴んで、無理やり起こした
茶髪「や……、やったの?」
旅男は茶髪の頭を撫で回し、頷く
茶髪「やった、やったーっ!」
帽子「AHみたいな戦いぶりだったね、ボクもびっくりしたよ」
藍「すごかったです、茶髪さん!」
茶髪「えっ、えへへ」
旅男「博士に連絡を取ろう、いくらになったかな?」
茶髪「え、俺も報酬もらえるのか?」
旅男は茶髪を見て、ニッと笑う
旅男「何を言ってやがる、英雄!」
…………
博士「二人での共同作戦、一地域のアイアン殲滅と認識され、それぞれの報酬は八十万ちょっとだな」
茶髪「えっ」
旅男「稼いだな~、英雄」
藍「そっ、そんなに?」
帽子「一般的なイーター一地域殲滅報酬だね、少し少ないくらい」
茶髪「もう俺一年くらい寝てる」
旅男「さすがにそれは無理だろ」
博士「オールドタイプがAHを連れていたとは言え大型イーターを狩るのは珍しい」
博士「茶髪がそんなにできる子だとは知らなかったな」
旅男「トレーニングはしてるからな」
茶髪「うへへっ、マジ嬉しい」
藍「でもアイアンイーターの暴れ方次第で命を落としたかも知れないのは忘れたら駄目です」
帽子「その通り」
茶髪「うん、……ビギナーズラックだったんだよな」
茶髪「とにかく慎重じゃなきゃ、命がいくらあっても足りない仕事なんだ……」
旅男「分かってりゃいい、飯を食いに行くか!」
博士「藍はちょっとメンテしていけ」
藍「あ、はい」
旅男「茶髪の初陣と戦勝祝いだからな、間に合わせてくれよ博士」
博士「ふふっ、了解だ」
茶髪「……そっか」
茶髪「AHだってハンデを背負って生きてるんだよな……」
旅男「まあな」
茶髪「俺、甘えないよ」
茶髪「いつかマンイーターを倒したら、もう危ない戦いはしないようにする」
旅男「……この世で一番賢いのは、自分の力の底が分かってる奴だ」
旅男「マンイーター狩り、必ず俺も連れて行けよ」
茶髪「こ、こっちのセリフだろ」
茶髪は頬を掻きつつ酒場へと入る
客「うおおおおおっ!」
客2「英雄のご帰還だ!」
客3「やってくれたな、俺らオールドタイプの英雄!」
茶髪「あ……」
旅男「ふふっ、皆耳が早いな」
茶髪「俺……、ほんとにやったんだ……」
茶髪は子供らしく目を腫らし、泣いた
旅男「さあ親父、今日はこの若いオールドタイプの英雄をもてなしてやってくれ!」
酒場親父「任せろ、とびきり美味い飯食わせてやる!」
その日の酒場は、かつて無いほどの賑わいを見せた
藍もメンテの結果異常無しとして酒場に駆けつけた
酒場は一層盛り上がった
その日は旅男も、美味い酒を飲んだ
帽子「ハンターって言うのは、いい仕事だよね」
帽子「命を懸けた分、報われる」
旅男「みんなが苦しんでいる証拠でもある」
帽子「……頑張らなきゃね……」
旅男「無理はするなよ」
帽子「私は無理しなきゃ……、ルビーキラーの妹分だもの」
旅男「たまたまだって……」
旅男「死なないでくれよ……」
帽子「それだけ約束する」
帽子は頭を旅男の胸に埋めた
酒場親父「ほれ、手羽先の照り焼き、と、こっちはゴーヤ炒めな」
酒場親父「今日はたっぷり食えよ、博士にも言われてるからな」
旅男「ああ、博士は仕事してやがるのか」
酒場親父「今日は特別な日だから出てくるってよ」
旅男「そうか」
旅男「親父、水割り」
酒場親父「ボトル一本サービスだ、お前のお陰でうちも賑わってるからな」
旅男「ありがてえ」
やがて店に博士が来る
旅男「例の解析終わらないのか」
博士「うん……、だな」
博士「異常が無い」
旅男「そりゃ、そうなんだろうな」
旅男「生産段階で異常があればテストを抜けてないんだから」
博士「それでも生産ラインに持ってくる時にバグが入ることは有り得る」
博士「しかし、どうもそれもなさそうだ……」
旅男「誰かがプログラムを後から加えているとして、……例の宗教が怪しいのか?」
博士「完全監視社会で監視を逃れているのは地上の砂漠で暮らす一部の人間達だけだ」
博士「しかしイーターが減り、そういう監視から逃れて生きる人間も増えている」
博士「お前のかつての仲間のように……、な」
旅男「今日はやめよう、酒が不味くなる」
博士「ああ、お祝いだものな」
茶髪「いえーいっ!」
客「もっと脱げー!」
旅男「誰だ茶髪に酒飲ましたの!」
客2「置いてたライムチューハイ間違って飲んじゃったらしい」
旅男「ほら、お巡りさん来るからそれ以上脱ぐな!」
茶髪「うん……、寒い」
帽子「砂漠の夜は冷えるからね~」
藍「私も早くお酒を飲めるようになったら旅男さんのお相手出きるんですけどね~」
旅男「確かに飲み仲間が居ないのは寂しいけど、まあ俺達は寿命が無いとされてるんだし、のんびり待つよ」
旅男「さて、次はマンイーター狩りに行くか、早めにルビー擬きを狩っておくか、どうする」
博士「帽子とお前だけでルビー擬きを狩ってくるのが最善の選択だが、二人にお手本を見せるのも良いだろう」
藍「是非見ておきたいです、暴れる巨大イーターとどう戦うのか」
茶髪「見る見る~」
旅男「ルビーイーターみたいに熱線を吐くように進化したら困るし、ルビー擬き討伐で決定だな」
旅男「藍はメンテ期間でもあるし、無理はするなよ」
藍「はい!」
帽子「まあ私と旅男の全力戦闘はあんまり参考にならないかもね」
藍「お二人は奇跡的なバランスで遺伝子を組まれた超AH種なんですよね」
博士「既存人類の存続危険性への考慮から量産はされなかったが」
藍「ロボット物のエース機みたいですね」
帽子「エース機か、悪くないね」
博士「AHは既存人類に被害を与えず且つイーター討伐に十分な戦力だけ生産されて生産中止になった」
博士「言うなれば二人は人類最後の希望だ」
博士「ルビーイーターを狩り尽くすまで、死なれては困るぞ」
旅男「ルビーイーターは当分遠慮するわ」
帽子「ルビーイーターだけは捕らえてられないからプログラムを書き直すのも無理だし、必ず殺らないとだけど」
旅男「新兵器で敵の射程外から撃ち殺すとか出来ないと危ないからな」
帽子「巨大レーザー戦車とか」
博士「そんなもの作ったらアイアンイーターの餌食だな」
帽子「大型機械もミサイルもアイアンイーターにさえ勝てないんだね……」
博士「軽装備で駆け回る最新AHが現在、対イーターでは最強の兵器だ」
博士「頭と胸だけでもレーザーから保護するバイオレザーアーマーとかは考えてる」
旅男「全身耐レーザーアーマーとか動きが鈍ってグリーンメーカーにも勝てなくなりそうだしな」
藍「他の国でもやっぱりAHを使ってるんですか?」
博士「だいたいはAH禁止条約ができる前に作られたAHやオールドタイプのハンターが戦ってる……、AHが全滅した国も無くはないけど、人海戦術とか地下からミサイルを撃って倒そうとしたり……」
博士「でも、あいつらは進化するからね」
博士「下手な化学兵器は使えないし、地下や水中に潜ってくるイーターなんか生まれたら最悪だ」
旅男「そんなの生まれたら手に負えないな」
博士「対抗手段として考えてるのはイーターを食うイーターやプログラムを打ち込むイーターとかだ」
博士「後はさっきの話に絡むがイーターが食えない軽い耐レーザーバイオレザープロテクター」
旅男「いろんな事できるよな、博士は」
博士「せっかく頭脳型AHとして作ってもらえたんだから、しっかり頭を使わないとね」
博士「しかし体も知恵も全然足りないよ、人間の限界なのかね?」
旅男「俺達のメンテまで任せてるしな、助手でもつけたら良いのに」
博士「年上の助手と言うのはどうもな……、一応研究データを解析してもらってる協力研究所はあるし」
藍「私が雑事だけでもこなしますよ?」
旅男「メンテ期間だけでもなんか手伝えればいいな」
博士「君達は命懸けで戦ってるんだから、遊んでたらいいんだよ?」
旅男「もちろん遊ぶ」
藍「ご飯作ったり洗濯したりならメンテ中でも大丈夫ですよね?」
藍「それに私細胞活性化したら多少の不調は治りますから!」
博士「それ細胞の負荷が増えるだけだから」
旅男「あはは、博士は騙せないな」
藍「むう~」
博士「まあ身の回りの世話はやって貰おうかな、誰か他人を雇うより良いし」
博士「給料は月々のメンテ代無料って事で」
旅男「それは破格だな、一回のメンテで十万は取られるからな」
茶髪「たけーな」
旅男「言ったろ、コストがかかるんだよ」
茶髪「サンルビーガン一発で三~五万だっけ……、この前冷却したので二十万くらいかかってる計算だな……」
博士「サンルビーの今の相場は一個二百二十万になってるぞ」
旅男「また上がってやがる……」
博士「月とか準惑星にルビー工場はあるんだが、イーターのせいでなかなかロケットも打ち上げられなくなったからな……」
博士「海上のルビー工場の他は地上にばらまかれたルビーを採集するか、ルビーイーターを倒すか」
旅男「ルビー保持型を倒せたらルビーを取り出せるか?」
博士「できるが、イーターが使いまくった劣化してるルビーだぞ?」
旅男「まあ賞金で補充した方が早いな」
茶髪「……この前暑いって文句言って悪かった」
旅男「だからマンイーター狩ったろ」
旅男「メンテ一回するまでに百十万以上稼いだから、薬の五万は月一、メンテ十万、ルビー代は十発で、……今は三十三万から五十五万か」
旅男「最低で四十万丸儲け、ひと月は遊べる計算だ」
茶髪「俺はメンテも薬もいらないからルビー代だけか」
茶髪「ん、つまり今回俺の方が稼いだのか?」
旅男「……似たようなもんかな?」
旅男「ま、ケチくさい話はやめだ」
博士「グリーンメーカー正常化に絡んで私とお前と帽子にそれぞれ五百万ほど報酬が出るかも知れないぞ」
旅男「マジか」
帽子「うわあ、森作りって本当にいい仕事なんだあ……」
茶髪「あれを捕まえるのは俺には無理だな……」
博士「まあしっかりと森が出来てグリーンメーカーが大地に還ったのを確認後になるがな」
旅男「そうだ、ルビー擬き討伐に蜘蛛の糸貰えないか?」
博士「いいよ、五十万で」
旅男「ねえよ……」
博士「討伐成功払いでいいよ」
旅男「それなら有り難い」
帽子「それならボクも一個頂戴ね」
博士「分かった」
茶髪「一匹倒したら千二百万だっけ、ちまちま狩ってる俺の比じゃねーな」
旅男「茶髪は十三だろ? オールドタイプにしたら稼ぎすぎなくらいだぜ」
茶髪「そっか」
旅男「お前も五百万のマンイーターを倒せ」
茶髪「……」
茶髪「そうだな」
旅男「その後は中型の二十万くらい貰えるアイアンイーターを狩れば十分生活できるだろ」
茶髪「無理はそのマンイーター一回だけにする、誓うよ」
旅男「ああ」
旅男「まあその一回も俺は援護するからな」
茶髪「うん」
茶髪「旅男が仲間を亡くすのすごく嫌がるの、知ってる」
帽子「寂しがりだからね~」
藍「可愛い」
旅男「お前たまに俺のことからかうな!」
博士「まあ最悪旅男にルビーイーター狩ってもらって養ってもらうとして」
旅男「もう突っ込まねーぞ……」
博士「遠慮するなよルビーハンター」
旅男「遠慮してねえよ!」
帽子「あ、突っ込んだ」
旅男「畜生めー!」
旅男は逃げ出した
帽子「一番死んで欲しくないのは、旅男だよ……」
博士「ああ、全くだ」
茶髪「守ろうぜ」
藍「はい」
帽子「オールドタイプに守られたんじゃあいつも落ち目だよ」
茶髪「だよな、俺じゃ逆に足引っ張りそう」
博士「期待してるよ、英雄君」
茶髪「死なない程度に……」
帽子「まあ巨大アイアンイーターを狩った時みたいな無茶はあんまりやらないようにね」
茶髪「おう」
――H地区――
巨大アイアンイーターがルビーを捕食、ルビーイーター擬きへと進化を始めたとの報告があった地域である
四人はとりあえず藍と茶髪をビルの屋上に上げ、双眼鏡を持たせる
二人の超AHの本気の戦いが始まる
旅男「さあ、やるか」
帽子「オーバーヒートギリギリまで戦うよ!」
旅男「まずは周囲の小型から中型、その後変異種を狩るぞ」
帽子「分かった」
帽子「ルビー擬きはまずは蜘蛛の糸を試して脚からバラして行くんだね」
旅男「デカいから蜘蛛の糸一発じゃ止まらないだろう、気をつけろよ?」
帽子「分かった」
二人の前に小型マンイーターが現れる
旅男「行くぞ!」
帽子「おう!」
まずは一撃でマンイーターの額を撃ち抜く
射撃センスや反射速度、動体視力、あらゆる能力が常人を遥かに超える二人だ
藍や茶髪の参考にならないのはこう言った部分だろう
マンイーターが倒れるより速く、二人は次々と雑魚のアイアンイーターを狩っていく
茶髪「すげえ……、凄すぎて……」
藍「私もあんな動きは無理ですね……」
二人は中型アイアンイーターや、アイアンイーターを捕食していたグリーンメーカーをも薙ぎ倒す
茶髪「下手な映画より面白いな」
藍「本当にアクション映画を地で行ってますね」
…………
旅男「帽子、一休みだ」
帽子「分かった、後はあいつだね!」
旅男は水筒を取り出して、一口飲んだ
旅男「……ふう」
帽子「ボクにも頂戴」
旅男「……準備しておけよ」
帽子「うっかりしてた」
旅男「ほらよ」
帽子「ありがと」
帽子「まあ間接キス目当てだけどね」
旅男「ぶほっ、ごほっ!」
帽子「きゃはは、旅男汚~い!」
旅男「……からかうのが目当てだろ!」
帽子「……まあね」
帽子「旅男は好きな子いるの?」
旅男「ぐほっ」
帽子「汚~い!」
旅男「居ねえよ……」
旅男「つか、死んだ……」
帽子「……!」
帽子「またやっちゃった……」
帽子「ごめんね、旅男……」
旅男「気にするな、過去に縋るほど俺は真面目でもない」
帽子「ボクたちAHって、やっぱり子供作れないのかな……?」
旅男「し、知らねえよっ、なんだいきなり」
帽子「だってさ」
帽子は旅男に聞こえないように心の中で呟く
帽子(好きなんだもん……)
旅男「まあ作れても作らないけどな」
帽子「AHの交配は予想できない被害を招く恐れがある、って奴だよね」
旅男「法整備は人権に差し障るからされてないが」
旅男「AHなら大体は覚悟してるだろ」
帽子「でもボクらは理論上は寿命が無いじゃないか」
帽子「一人でずっと生きるなんて、嫌だよ」
旅男「……博士や藍、それに俺も居るよ」
帽子「ずっとだよ?」
帽子「死んじゃ、嫌だからね!」
旅男「ああ」
旅男「俺ももう仲間に死なれるのはこりごりだからな!」
帽子は旅男に抱き付いた
帽子「死なない……、ボクは世界最強のAHだもん」
旅男「ああ」
旅男は帽子の肩に手を回し、前を見る
旅男「奴を狩るぞ、最強のAHさん!」
帽子「うん!」
旅男たちは巨大な変異種に立ち向かい、走り出した――
今回はここまで
次回更新はかなり先になるかも知れません
正直見切り発車しましたw
一応ストーリーの展開は出来ています
今回はちょっとラブストーリー有りなので書いててドキドキです
用語とか分からなかったら聞いてください
>>25
有り難う御座います、頑張ります
ちょっと間が開きましたが更新します
ルビー擬きが旅男達に気付く前に、六本の脚の何本かをレーザーで撃ち抜く
暴れても大きな被害を出さないため、まずは機動力を奪う旅男達の基本的な戦術だ
しかし、相手は出力が売りのルビー保持型だ
サンルビーのエネルギーをきっちりと出力に転換できているかは分からないが、それでも相当なスピードで暴れ始めた
帽子がまずルビー擬きの眼前を掠めるように跳びつつ、蜘蛛の糸を撃ち出す
ルビー擬きは頭から蜘蛛の糸を被り、もがく
素早く旅男がルビー擬きの胴体に惜しみなくルビーガンを撃ち込む
帽子も射線が重ならないように跳び、小さなビルの上まで駆け上がり蜘蛛の糸に絡められている脚と胴体を撃ち抜く
旅男「流石にタフだな!」
旅男はルビー擬きの下半身に蜘蛛の糸を放ち、転ばせる
そのまま蜘蛛の糸の絡んでいない脚をバラバラに斬り払いつつ頭を目指す
帽子はルビー擬きが跳ね起きないようにルビー擬きの腹筋をレーザーで削いでいく
帽子の射線を交わし、旅男が一気にルビー擬きの頭へと跳び、トドメの一撃を放つ
ゆっくりと小太刀はルビー擬きの頭を焼き斬っていく
旅男「これで……、死んだか……!?」
旅男「おおおっ!」
旅男は念入りに頭を焼き斬っていく
普通のアイアンイーターより痩せた、八メートル程のルビー擬きは頭を失い、身体を痙攣させていたが、それもやがて止まった
旅男「くっ、ふうっ!」
帽子「はあ……、……お疲れ、ふう……」
旅男「おう、上手く狩れたな」
帽子「しかしルビー擬きってなんかずっとドラゴンぽいね」
旅男「ルビーイーターは機動力を強化するためか、痩せ型に進化する傾向がある」
旅男「まだアイアンイーターの面影が強く残ってるが、もう少しでこいつもルビーイーターになってただろうな……」
帽子「レーザー撃たれたらと思ったら、ぞっとする」
旅男「いつでも狩りは命懸けだが、千二百万の値打ちがあるハードさだったぜ」
帽子「もうボク帰ったらひと月はメンテするから……、藍ちゃんに映画奢りまくって博士に死ぬほどデンジャラスケーキ食べてもらう……」
旅男「俺も酒場で籠もるか例のレストランでワインの高い奴空けてくる……」
帽子「その前に、二人を回収してメンテナンスだね……」
旅男「討伐記録ついたかな……、博士に連絡するか……」
帽子「流石に死んだよね、こいつ」
旅男「たぶん……、ああ、博士」
旅男は携帯無線で博士に連絡を取る
博士「やったな、ルビー保持種の生体反応は消滅、無事に討伐となったぞ」
博士「報酬は地域殲滅を含め各一千万だ」
帽子「うそぉっ」
旅男「はは、破格だな」
帽子「これは一年は遊べちゃうなあ」
博士「待ってるから、早く帰ってこい、とびきりのメンテナンスをしてやろう」
旅男「はいよ!」
…………
茶髪「もうなんつーの?」
茶髪「俺途中何回かすげえ、じゃなくアホか、って言ってたもん」
客「そりゃ見たかったな」
酒場親父「討伐映像が夜のニュースで流れるらしいぞ、フルで」
旅男「ああ、その関係でインタビュー受けることになった」
帽子「恥ずかしいなあ、面倒だなあ」
旅男「一回の出演で何百万か貰えるらしいぞ」
帽子「出る出る!」
帽子「すごい稼ぎになったね、討伐報酬もたっぷりだし」
客3「茶髪、こう言うのを英雄って言うんだよ」
茶髪「なんだよー、オールドタイプの英雄って持ち上げてたクセに!」
客2「がっはっは、お前はもちろん俺達酒場の英雄さ!」
旅男「ま、そう言うわけで今日は酒無し、ラボに帰って取材待ちだ」
酒場親父「まあ夜でいいだろ、今日は沢山客が入りそうだから俺も仕込みしておくか」
旅男「さっさと勝利の美酒にありつきたいぜ、んじゃまたな!」
酒場親父「おう!」
客「楽しみにしてるぜ、旅男!」
旅男「ほら、帽子、行こう」
帽子「うん、メンテしないとね」
藍「お疲れ様です」
…………
博士「ふむ、あれだけ動いたらやっぱり少し細胞にダメージがあるな」
旅男「今頃体が痛み出した」
茶髪「大変だな、AHは」
博士「帽子の方も、大丈夫か?」
帽子「大丈夫大丈夫……、つつ……、ちょっと吊りそう」
博士「ほら、ドリンク」
帽子「有り難う~」
博士「んー、バイタルは多少乱れてるが安全な範囲だな」
博士「今回は長めに根気よくメンテしていくぞ」
旅男「いくらかかる?」
博士「蜘蛛の糸の代金と合わせて百万で良いだろう」
茶髪「たけっ」
旅男「まあ見返りは十二分にあったよ」
帽子「んふふ~、お金なんに使おうかな~」
その時、ラボのインターホンが鳴る
旅男「来たかな」
…………
女性記者「今回の討伐任務お疲れ様でした、旅男さん、帽子さん」
旅男「あ、はい」
帽子「大変な戦いでした」
女性記者「こちらのシーンですが、お二人はこのイーターの脚と胴体の辺りを執拗に攻撃されてますね」
旅男「あ、はい」
帽子「大型イーターと戦う際、一番注意する点は下敷きになることを避ける、と言う点と、そのため機動力を奪う、と言う点なんです」
帽子「とにかくイーターの動きを止めるようなそう言った攻撃パターンが基本になるんです」
女性記者「つかぬ事を伺いますが、お二人ならルビーイーターも倒せるのでは?」
女性記者「実際旅男さんは一度ルビーイーター討伐記録がありますよね、その際はお仲間がお亡くなりになったので取材は控えさせていただきましたが……」
旅男「あ、はい、ルビーイーターは本当に危険なんです、迂闊には挑めません」
旅男「今AHの研究者達が必死に耐レーザー装甲の研究をしてくれています」
旅男「もしその装甲が完成すれば、ルビーイーターに挑むこともできるでしょう」
女性記者「博士達の研究には期待しています」
…………
女性記者「では、お疲れの所有り難う御座いました、今後のお二人の活躍にも期待しております」
旅男「あ、はい、有り難う御座います」
帽子「頑張ります!」
女性記者「以上、危険なルビー保持種を討伐したお二人のインタビューでした、本当に有り難う御座いました~」
…………
茶髪「あ、はい」
帽子「ぷっ!」
茶髪「あ、はい」
帽子「ぎゃはははは!」
茶髪「あ、」
旅男「もうやめい!」
博士「あはは、当分ネタにされそうだな」
藍「あ、はい」
旅男「き、貴様……」
帽子「藍ちゃんってドSだよね」
藍「そんな事無いですよ、たぶん」
旅男「たぶんかよ!」
藍「あ、はい」
旅男「ちくしょー!」
帽子「あ、旅男、酒場行くなら一緒にいこ?」
博士「飲み過ぎるなよ~」
茶髪「あ、はい」
藍「うぷぷっ」
旅男「うわああん……」
旅男は逃げ出した
…………
客「さーて、改めて旅男と帽子ちゃんのルビー擬き討伐祝い始めるか!」
客2「お~!」
客3「待ってました!」
女性客「旅男さん一緒に飲みましょ!」
旅男「はは、じゃあご一緒に」
帽子「……」
旅男「な、なんだよ」
帽子「別に、いつから巨乳に乗り換えたのかなって」
旅男「乗り換えては無いな」
帽子「なんでそこは堂々と答えられるのよ!」
茶髪「あ、はい」
旅男「俺のグリグリは痛いぞ~」
茶髪「すいませんした」
旅男に頭をグリグリされたら頭蓋が砕け散るだろう
旅男達はさんざん飲んで、食べた
夜になってインタビューと討伐シーンを見て、酒場は大いにわいた
客「あ、はい」
客2「あ、はい」
客3「あ、はい」
女性客「あ、はい」
旅男「すみません、もうやめてください、ごめんなさい」
酒場親父「あ、はい」
博士「ははは、鬼だなみんな、やめてやれ、旅男のバイタルはもうフラットだよ」
旅男「~~」
藍「旅男さんが煙を噴いてますが」
博士「ビールでも飲ませておけ」
帽子「ボクがしっかりフォローしたのを誉めて欲しいよ、全く」
客「帽子ちゃんは淀みなく良くしゃべれたな、相手のアナウンサーも帽子ちゃんにばっかり振ってたよな」
女性客「可愛く映ってたよ~」
帽子「えへへ、有り難う御座います」
旅男「畜生……、テレビなんか嫌いだ……」
帽子「明日からしばらくはメンテしながら遊ぶんだけど、さて何をしようかな?」
帽子の横で藍が目をキラキラさせながら数枚の映画のパンフレットをちらつかせている
帽子「やっぱりお買い物と食べ歩きは外せないよな~」
旅男「俺は釣りしてこよう」
藍が半泣きになっている
帽子「分かった、藍ちゃん、明日は映画、明日だけは映画」
藍「えへへ、新作集めてきたんですよ!」
藍「と、言ってもリマスターですけど、ホラーと恋愛物と戦争物と自然災害物と……」
旅男「頑張れ帽子、魚が俺を呼んでいる、オキアミの香りが恋しい!」
帽子「あ~、はいはい」
藍「それでですね、これはSFなんですが私達みたいなAHでないオールドタイプの人が、AHだとごまかして宇宙に行く話で……」
茶髪「あ、なんか面白そう!」
藍「うふふ、食いつきましたね茶髪君!」
旅男「こいつ……、釣り堀じゃないのに釣りしてやがる……」
帽子「ボクは甘い恋愛物見たいな~」
藍「ありますよ、これはですね、既に恋愛を諦めた高齢の男性に若い少女が恋してしまう話で……」
帽子「何それ見たい!」
藍「釣れたあ~!」
旅男「本当に釣りになってるぞ」
藍「あ、旅男さんには連続シリーズの釣り映画が……」
旅男「釣りは映画で見るもんじゃねえ、自分の竿で当たりを味わうもんだ!」
藍「釣れないですね~」
旅男「俺は美味い魚で美味い酒を飲む、これは決定事項だ!」
藍「なんでそんなに映画を嫌うんですか……?」
泣き落としが入った
旅男「き、嫌ってない、ただ明日はそう言う……」
藍「明後日ならOKですね、それでですね、旅男さんも推理物なんか好きかなって……」
旅男「はあ……、すまん、映画はまた今度頼みに行くから遠慮してくれ、別に嫌いじゃない」
藍「手強いですね」
旅男「倒す気で来るな」
藍「まあ二人釣れたんで上出来でしょう……、旅男さんは次に釣り上げてみせます」
旅男「釣るのは好きだが釣られるのはな……」
博士「私も明日は釣りに行こうかな」
旅男「お、やるのか?」
博士「生物の研究は大好物なんだ、一番専門的に勉強してる分野だしな」
旅男「よし、明日は二班に別れて遊ぶぞ!」
藍「おーっ!」
帽子「楽しみだな、お買い物もいっぱいできるし……」
茶髪「一千万とか良いな~」
すみません、残りは明日更新します
更新します
…………
朝から旅男と博士は地下五階の釣り堀に来ていた
地下生活が主体となっている現代、野菜も魚も全てが工場生産されている
地上に船など作ろうものならすぐにイーターの餌になる
博士「さて、釣れるまでちょっと雑談しようか」
旅男「ああ」
博士「君はイーター種の最初に現れた物は何だと思う?」
旅男「一番シンプルなのはアイアンイーターだが……、しかし人類がアイアンイーターを作る意味が見当たらない」
旅男「もちろん瓦礫処理にあてた可能性は有るが……」
博士「答えは、グリーンメーカー」
博士「以前行ったB地区地下工場もグリーンメーカーを作る工場だった」
旅男「ふうん……」
旅男「ちょっと待て、あいつら自然に進化するよな?」
博士「そうだ、そこだよ旅男」
博士「だから私はバグを探していたんだ、本来彼らは進化などしない」
博士「だがほぼ全てのグリーンメーカーは進化し、アイアンイーターやマンイーターに変わった」
博士「グリーンメーカー自体も本来の機能を果たしていないんだ」
旅男「それは……、随分根源的な問題がありそうだな」
博士「それがバグだよ……、おっと」
旅男「ん、デカいな」
博士「鯛が釣れた」
旅男「良いねえ、お、こっちも」
旅男「シマアジかな?」
博士「へえ、そんなの釣れるんだな」
旅男「全部養殖だからな~」
博士「……バグは養殖物のグリーンメーカーには入るはずがなかった、工場で調べた限りでは」
博士「天然で交配している中でバグが入った可能性は無くはない」
旅男「世界規模だからな、そう考えた方が自然だ」
博士「でも人為的に書き換えられた痕跡が見受けられるんだ」
博士「自然に起こったバグなら、あんなに急激に多岐にわたる進化を遂げるには、どう見積もっても数千年はかかるはずなんだ、最低でな」
博士「更に言えばバグを自動修復するプログラムもあったが、これも機能していない」
博士「世界のどこでも同じ傾向で進化をしている」
旅男「人為的な臭いがするな」
博士「だろう?」
博士「お、また来た」
旅男「カワハギか」
博士「面白いな」
旅男「ハントと同じで獲物が手に入ったら最高だろ?」
博士「魚は高価だしな」
旅男「安い餌で高価な魚を釣って味わうのが最高なんだ、ここは料理もしてくれるぞ」
博士「楽しみだ」
旅男「おっし、アナゴが釣れた」
博士「後少し釣ったら食べよう」
旅男「新鮮な方が美味いからな、そうしよう」
博士「ヒラメ釣れないかな」
旅男「刺身が食いたいな」
…………
旅男「乾杯」
博士「乾杯、私はジュースだがな」
旅男「藍たちは今頃映画を見てる頃か」
博士「普通の人、オールドタイプがAHのふりをする映画だったか、どうやってごまかすんだろうな?」
旅男「リタイアしたAHが協力して遺伝子提供したり色々検査をごまかすんだと」
博士「それでごまかしきれる物かね?」
旅男「分からん、映画だから上手くやるんだろ」
博士「……いつ頃からAHに対して普通の人間をオールドタイプと呼ぶようになったのかな?」
旅男「最初は普通の遺伝子を弄らなかった人々の自嘲から始まってるみたいだが、定着してしまったな」
博士「私や君とか帽子に比べたら殆どのAHがオールドタイプな訳だが」
旅男「そいつらがオールドタイプを差別してるのを見ると笑えるよ、お前等も俺に比べたらオールドだってね」
博士「ははっ」
旅男「普通の人間だって頑張ればAHも苦戦する大型イーターを狩れるんだ、差別することなどあるものか」
博士「それを考えれば茶髪は本当に偉業を成し遂げたな」
旅男「ああ、俺のルビー擬き退治よりよっぽど勇気がいった筈だ」
旅男「それに俺達の人工遺伝子なんて所詮は他人の力なんだからな」
博士「君の完成を見た時の科学者達はどれほど歓喜しただろうね」
博士「従来のAHに比べ出力にして三割増し、それなのに従来のAHより安定しているって言うんだから」
旅男「だから奇跡的なバランスなんだってさ、その俺の遺伝子バランスを出来るだけ崩さずに別の遺伝子パターンで作られたのが帽子」
博士「君の遺伝子パターンをそのまま持ったコピーではなく、何年もかけて新作って言うのがな、その研究者魂には感心するよ」
旅男「ここだけの話だが、あいつは……、いや、やめておこう」
博士「なんだ?気になるな」
旅男「いや、博士なら分かるだろ、ハンター型AHなのになんで女なのかって話だよ」
博士「……結構深刻な話だな、よし、この話は無しだ」
旅男「大切な妹分だからな、大事にしてくれて助かるよ」
博士「メンテは任せておけ」
旅男「さて、美味い魚を食った所で、どこで遊ぶかな」
博士「私は帰って仕事するよ」
旅男「お疲れさん」
旅男が街をぶらぶらと歩いていると、前から賑やかな三人組が歩いてくる
茶髪「あ、旅男みっけ!」
帽子「旅男~!」
旅男「おう、映画どうだった?」
帽子「良かったよ、ラブストーリーもあって」
茶髪「俺には難しかったな~」
藍「次はラブストーリーですよ!」
茶髪「俺はもういいかな~」
藍「観ましょうよ~!」
旅男「まあ茶髪は俺が連れてくわ、二人で見てこいよ」
帽子「分かった~」
藍「くっ、次は茶髪君好みの映画を選びます!」
藍「旅男さんも覚悟してくださいね!」
旅男「あ~、いずれな、いずれ」
茶髪「行くか、何しよう」
旅男「飯は食ったからな、ぼんやり買い物でもするか」
茶髪「本屋行こうぜ」
旅男「トレーニングはしないのか?」
茶髪「今日はオフだ」
旅男「格好いいな、オールドタイプの英雄は」
茶髪「明日からちゃんとやる」
旅男「真面目だな、まあ俺は明日も遊ぶけど」
茶髪「AHみたいにメンテしなきゃいけない訳じゃないから、その分は努力しないとな」
旅男「次はマンイーターだな」
旅男「ヘボいAHに横取りされる前に倒さなきゃな」
茶髪「おう」
…………
数日後、長いメンテナンスを終えた旅男は茶髪の悲願であるマンイーター狩りに出掛けることにした
――D地区――
C地区に並ぶマンイーター出現ポイントのD地区は、中級ハンターが大物を狙う名所のようになっている
今もいくらかのAHのハンターがマンイーターを倒したり食われたりしているのが、響く声で分かるほどだ
このポイントで注意しなくてはならないのは敵マンイーターの実戦経験の高さと、乱戦になる可能性の高さだ
旅男なら苦戦しないが、当然茶髪では要注意ポイントであり、それを庇いつつ戦うため、旅男にとっても難しいミッションとなる
侵入した所で砂漠用のマントを羽織っているAHが旅男を見つけ、声をかけてきた
マント「よう、旅男さんじゃないか、あんたみたいな上級ハンターがこんな面倒なエリアに何の用だい?」
旅男「ああ、弟子の付き添いでな」
茶髪「おっす!」
マント「お、お前かぁ、大型イーターを食った天才オールドタイプは」
旅男「持ち上げるな、調子に乗るから」
茶髪「えへへっ、俺有名人?」
マント「AHでも大型を狩れずにメンテナンス代で苦しんでるハンターはかなり居るからな」
マント「餓鬼とは聞いていたが、本当に小さいな、いや、馬鹿にしてる訳じゃないんだ」
マント「AHのクセに大型狩れないグズはどうしようもないが、あんたは英雄だからな」
茶髪「あ、有り難う」
マント「いよいよマンイーターを狩るわけだ」
旅男「そう言う事だ、五百万のマンイーターの居場所は分からないか?」
マント「さっき叫び声がした辺りに居るんじゃないか?」
旅男「ああ、聞こえたな」
マント「熟練のマンイーターを舐めるからああなる、気をつけろよ、少年」
茶髪「お、おう」
マント「まあ釈迦に説法かも分からんがな、あはは」
茶髪「あははっ」
旅男「調子に乗るなと」
茶髪「わ、分かってるよ」
旅男「とりあえず俺が先に行く、雑魚とボスの足止めは俺がやるからお前はトドメを刺せ」
茶髪「分かった」
マント「見物させてもらおうか」
…………
旅男達がポイントに入ると、ビルの上からイーターの気配がする
上からの攻撃が優位であると考えるマンイーターであろう
旅男にしてみれば、地面を離れ自由落下するただの的であるが
それなりに実力があるはずの雑魚イーター達は次々肉達磨になって転がっていく
茶髪は得意の槍でどんどんトドメを刺して行く
旅男「多いな、まあこいつらならルビー代を気にする必要はないが」
旅男「ルビーを変える、警戒していろ」
茶髪「分かった」
茶髪はルビーガンを構える
正面からマンイーターがジグザグに走ってくる
茶髪の一撃は見事にマンイーターの脚を貫いた
茶髪「ラッキー!」
旅男「上だ!」
ルビーガンのルビーを入れ替えた旅男が上から奇襲をかけてきたマンイーターを撃ち抜く
茶髪「……助かった」
旅男「油断をするなと」
やがて少し遠目のビルから六メートル近い大型マンイーターが降りてくる
茶髪「あれか……」
旅男「作戦は分かってるな?」
茶髪「あ、ああ」
茶髪の頭の中に何パターンか死ぬパターンが思い浮かぶ
咬まれたら死ぬ
踏まれたら死ぬ
飲まれたら死ぬ
跳ねられたら死ぬ
押し潰されたら死ぬ
瓦礫が落ちてきて死ぬ
蹴り飛ばした石に当たり死ぬ
巨大マンイーターはまず、ビルを崩し石を蹴りつけてきた
茶髪「おわっ!」
イメージ通りだが、最悪だ
旅男は茶髪を気にせず、瓦礫を突ききり、ルビーガンの射程圏に巨大マンイーターを捉える
旅男にターゲットとされた瞬間にマンイーターは逃げなければならなかった
一瞬の間があれば、光速の熱線がイーターを貫く
この歴戦のマンイーターにして、有ってはいけない油断である
その油断を誘ったのは明確にルビーガンの射程を把握していた旅男ではあるが
巨大マンイーターは脚を撃ち抜かれ、もがいた
今近付くのはとても危険だ
茶髪はとりあえずルビーガンでマンイーターを撃つ
撃つ
撃つ
やがて巨大マンイーターはゆっくりと動きを止めた
旅男「博士」
博士「巨大マンイーター生命反応消滅、討伐確認、お疲れ」
旅男「だとさ」
茶髪「……やったのか?」
茶髪「なんか呆気なかったな……」
茶髪「でも、やったのか……」
茶髪「やったんだな……」
旅男「おめでとう、お前は本物の英雄だ」
茶髪「うはっ」
茶髪「段々実感が湧いてきた……」
マント「よう、やったな」
旅男「ああ、楽勝だったな」
マント「楽勝か……、あんな警戒心の強い歴戦イーターに正面から奇襲をかけるのが楽勝ね……」
旅男「倒したのはこいつだ」
マント「確かに」
マント「あんた、俺達のグループに入らないか?」
旅男「お前のグループ?」
マント「AHの自由を守るための組織……」
旅男「お前……」
マント「例の宗教とは関係ないぜ」
マント「くだらないプロパガンダで俺達は家族を持つことも許されない、そう言う雰囲気にされている」
マント「そう言った差別的な社会から脱し、俺達AHの社会を作るんだ……」
旅男「夢の見過ぎだ」
旅男「俺達の生活を支えてくれているのは多くのオールドタイプだぞ?」
旅男「食糧生産も高エネルギー薬、メンテナンス用薬剤、それらの他にも生活用品全てだ」
マント「すぐに解れとは言わない」
マント「そもそも俺達はオールドタイプに離反してる訳じゃないんだ」
マント「AHの国を作るんだ……」
それに答えたのは、旅男ではなく茶髪だった
茶髪「くだらねえ」
茶髪「あんた言ったじゃん、俺にも勝てないグズなAHも居るって」
マント「……惜しいな、お前がAHなら引き入れたのに」
マント「お前の所にもう一人凄腕ハンタータイプAHがいたな……」
旅男「あいつには手を出すな」
旅男「殺すぞ」
マント「……思想信条は個人の自由だぜ」
旅男「……」
マント「そ、そんなに凄むなよ、英雄」
マント「またな……」
旅男「もう二度と現れるな」
マント「どこで会うかなんて分からないだろ」
マント「あばよ」
旅男「……ふん……、気分が悪い」
茶髪「それより早く帰ろうぜ、報酬額楽しみだ」
旅男「そうだな、おめでとう、茶髪」
茶髪「サンキュー」
…………
博士「討伐対象以外のマンイーターに意外と美味しいのがいてな」
博士「討伐対象五百万、雑魚の総計が五百万、地域殲滅報酬三百万」
博士「一人六百五十万だ、おめでとう」
茶髪「やったあ!」
旅男「まああの地域はすぐにまたマンイーターが集まってくるがな」
博士「未熟なハンターが稼ぎに行くのに丁度良い地域だからな」
博士「マンイーターの餌も豊富って訳だ、わははっ」
茶髪「笑えねえ」
旅男「全くだ」
博士「他に報告はあるか?」
旅男「いや、何も」
博士「そうか」
博士「メンテナンスするから脱げ」
旅男「脱げとか言うな!」
博士「うへへ、若い肌はええのう」
旅男「お前はいくつだ!」
茶髪「俺先に酒場行ってるよ!」
旅男「ああ、またお祝いだな」
博士「しっかりメンテナンスしてたっぷり飲んでこい」
旅男「ああ」
…………
帽子「旅男~、たかりに来たよ~!」
旅男「お前まだルビー擬き討伐報酬残ってるだろ、かなり」
帽子「積み立てた」
旅男「堅実だな!」
帽子「旅男~」
旅男(なんかこいつルビー擬き討伐以来甘えてくるな……)
旅男「じゃあなんでも食えよ」
帽子「親父、ステーキ五百グラム!」
旅男「遠慮しろよ!」
茶髪「魚食おうかな」
藍「たらこパスタください」
旅男「ビールとなんかつまみ……、モツ炒めで」
博士「美味そうだな」
旅男「博士も来たのか」
帽子「博士もモツ炒め?」
博士「それとご飯をいただこう」
茶髪「俺海鮮炒めとご飯にする」
女性客「茶髪ちゃん私と食べない?」
茶髪「……」
旅男「照れてんじゃねーよマセ餓鬼」
旅男「ふーっ、ビールが美味いな」
帽子「ボクも飲めたらなあ……」
旅男「慌てるなって、たった六年だ」
帽子「口移しで」
旅男「ぶごふっ!」
帽子「きゃはははっ!」
旅男「からかうなっつの……」
帽子「ロリコンめ」
旅男「貧乳は好きだが餓鬼は嫌いだ」
帽子「だから何故そこは躊躇いがないのか」
旅男は結局マントの男に言われた事を誰にも話さなかった
茶髪に口止めまでした
旅男達アーティフィシャルヒューマンには一つのコンプレックスがある
自分達には親は無く、人の意志で不自然に、強引に作られた遺伝子の元に生まれてきた、言わば運命まで他人の玩具にされた存在なのだ
それは旅男にしても、それ以外のAHにしても許し難い事ではあるのだ
旅男がそれを許せたのは英雄になれる血を与えられたから故ではない
その血ではなく、その行動の結果、沢山のオールドタイプや仲間達から愛される事を知ったからだ
人は自分と言う点で自分の心の世界を作っている訳じゃなく、自分と他者との繋がりで作っているのだと、旅男は思う
客「旅男、なんか暗いじゃねーか!」
客2「飲め飲め~!」
旅男「はは、いただきます」
帽子「……」
帽子「なんか、悩んでる?」
旅男「いや、モツ炒め美味いから感動してる」
帽子「聞かない方がいいの?」
旅男「ああ」
帽子「分かった」
帽子は旅男の肩に頭を乗せた
客3「お前ら結婚しないの?」
旅男「まだこいつ十四だぞ?」
女性客「旅男さんがロリコンだったなんてショック!」
旅男「違うから!」
旅男「俺とこいつは兄妹だからな」
それは旅男にとっては、帽子を運命に翻弄させない為の防衛線だった
帽子「そーそー、関係ないない」
女性客「お似合いなのになー、無敵のAHカップル」
客「まあ色々事情があるんだろ」
客2「まあこんなこと他人が決めることじゃないわな」
そう、他人が決めることじゃない
ましてや生まれた時から他人が決めたなんて以ての外だ
酒場親父「お似合いと言えば博士や藍ちゃんだって旅男にはお似合いじゃねーか、英雄色を好むとも言うだろ」
旅男「別に好まねえよ」
帽子「貧乳は好きなんでしょ?」
旅男「好きだ」
帽子「躊躇えよ」
博士「旅男は私のラボにハーレムを作るつもりなのだ」
客「流石旅男だな!」
旅男「変な流言流すな!」
女性客「人口減少傾向なんだから良いと思うけどなあ、ハーレム」
旅男「勘弁して」
旅男(俺が好きな女はもうこの世にいない……)
旅男(ましてや人工の運命になど従いはしない)
茶髪「ハーレムいいなあ」
旅男「マセ餓鬼がなんか言った」
女性客「茶髪ちゃんも英雄だもんね~」
茶髪「……」
旅男「照れるなら言うな」
旅男「さて、目当てのイーターはだいたい狩っちゃって暇になったな」
博士「緊急的な任務がないならまた森を作りに行こう、この間のイーターは森を作ったらしい」
博士「私たちの賞金も確定した」
旅男「最近えらい儲かるな、なんかあるんじゃないか?」
博士「元々の旅男達の実力だよ」
博士「そうだ、マンイーターの脳のプログラムを吸い出しておきたい、まずそれをやるか」
旅男「博士の念願の『イーターイーター』を作るんだな?」
博士「まあまだ初歩の段階だが、基本のプログラムがどうなってるか五例くらいデータを吸い出して欲しい」
旅男「また難題だな」
博士「個人的に報酬を出すよ」
旅男「プログラムを吸い出すってことは頭を撃ち抜かなきゃ良いって事か」
博士「そうなるな」
旅男「それなら比較的楽だな、C地区からD地区の辺りでやるか」
博士「近いし、その辺りで良いだろう」
茶髪「みんなで行くのか?」
帽子「茶髪君や藍ちゃんにも丁度良いミッションじゃない?」
旅男「そうだな、マンイーターの足止めができるならだいたいのイーターに勝てるだろ」
――C・D地区間マンイーター生息域――
メンテ明け、旅男達は博士を伴い、更にマンイーター遭遇危険度の高い地域へと移動した
旅男「とりあえず地域殲滅報酬がもらえる十体まではぶっ倒すぞ」
茶髪「分かった」
藍「なんだかすごく久し振りです」
帽子「無理はしちゃ駄目だよ~?」
博士「先ずは動きを封じてくれよ」
旅男「こいつら次第だな、しくじったら倒すぞ」
博士「安全は最優先事項だ」
帽子「ラジャ」
旅男達が一通り作戦を確認するとマンイーターが現れる
旅男で有ろうが帽子で有ろうが、マンイーターにとっては食料だ
もちろん、捕食できるものなら
空から降ってくる四体のイーターのうち二体は茶髪と藍が脚を撃ち抜く
旅男「上出来だ」
旅男と帽子は残る二体をギリギリで撃ち殺す
博士「先ずは二体だな」
博士はマンイーターの頭に鉄の棒のような物を数本打ち込むと、ノートパソコンのキーボードを鬼のような速度で叩く
博士「完了」
旅男「……あんたも十分化け物だな……」
次のイーターに遭遇するのにしばらく時間がかかった
旅男「この間殲滅したばっかりだからな」
茶髪「あの時はわらわら出てきて怖かったな~」
旅男「普通あんなもんだ」
茶髪「マジか」
しばらくして、より強そうな二体のマンイーターが現れる
博士「要討伐対象だな、二体とも報酬二百万以上」
旅男「あれは茶髪達じゃ無理か、帽子、行くぞ」
帽子「おっけ」
旅男と帽子は銃を構えると同時に撃つ
反応した時にはもう遅い
二体の要討伐対象イーターはあっけなく博士の実験材料になった
博士「完了、後一匹頼む」
旅男「よし」
茶髪「本当にすげえな、旅男達は」
藍「同じAHとして誇らしく思います」
旅男「今回は賞金四人で割るからしっかり狩らないと儲からないぞ」
茶髪「うん」
藍「見つけたら狩ります」
博士「二十体くらい狩れば一人三百万は堅いだろ」
旅男「コストがな~」
博士「メンテナンス無料、な」
旅男「助かるわ」
博士「……ん?」
博士「危険種情報が入った」
博士「ルビー保持型……マンイーターだと……!?」
旅男「何っ!」
帽子「気をつけて!」
茶髪「か、かくれ……」
藍「隠れます!」
藍は茶髪を抱いてビルに隠れた
博士「……後五百メートル……、なんて速さだ!」
博士「来るぞ!」
目の前に突然巨大なマンイーターが現れる
今まで出会ったどんなイーターよりも速い
旅男が銃を構えるもビルの合間を走るイーターに狙いをつけられない
そうしている間にどんどんと瓦礫を投げつけてくる
明らかに最強クラスの難敵だ
旅男「博士も隠れてろ、帽子、挟み撃ちだ」
帽子「分かった!」
ルビーガンを使った戦いでは挟み撃ちは射線が重なる非常に危険な戦術だ
しかし、相手が悪すぎる
旅男でも苦戦は必至だ
旅男はビルの影からイーターの動きを探っている
イーターは今は大人しくしているようだ
姿を見せると同時に撃つしかないが、対面に帽子が居る事を忘れてはいけない
多少射線を高めにして撃つ
帽子は逆に短剣を構え突っ込んだ
ルビー保持型マンイーターは一瞬の判断で上に跳び、帽子に立ち向かう
その脚を丁度旅男のルビーガンが撃ち抜く
旅男「判断ミスだな、マンイーター!」
帽子は素早く二本の脚の残り一本を叩き斬る
旅男「博士、捕まえたぞ!」
博士「本当か、やるな!」
博士は素早くマンイーターの頭に鉄線を突っ込みノートを叩く
博士「完了、殺れ!」
旅男「おし、……恨むなよ」
旅男はマンイーターにルビーブレードを深々と突き刺した
博士「……討伐確認、二千万か……、こんな所で大収穫だったな」
帽子「ラッキー!」
旅男「よし、今年はもう仕事しない!」
博士「本当にラッキーだったな」
博士「茶髪と藍で後三体ほどイーターを狩ってこい」
茶髪「分かった」
藍「行きましょう、茶髪さん」
帽子「今回は前回より楽に倒せたね」
旅男「たまたまこのルビー保持型が経験が少なかったのが幸いしたな」
旅男「上に飛べば的でしかないからな」
帽子「熟練のイーターは大きいのに下から攻めてくるからねえ」
旅男「俺もびびった事があるからな」
帽子「おっと、二人をサポートしてくる」
旅男「頼んだ」
博士「しかし思わず良いデータが取れたな、ルビー保持型の情報データなんてまず取れないぞ」
旅男「ルビー保持型の進化過程が解るわけだ」
博士「大きいな、このデータは……」
帽子「ただいま~、帰ろ!」
茶髪「手強かったけど雑魚のマンイーターにはもう勝てる気がする」
藍「油断は駄目ですよ」
旅男「ふふ、頼もしいじゃないか」
思わぬ収穫に五人はうきうきとベースであるA地区地下街に帰る
旅男「いやあ、良かったな」
博士「討伐報酬は各二百五十万、旅男と帽子はプラス千二百万、殲滅報酬各二百万、更にルビー保持型のデータ報酬がなんと五千万!」
旅男「五千万!?」
帽子「博士丸儲け!?」
茶髪「ずっちー!」
藍「メンテナンス一年無料で!」
博士「それくらいは良いだろう」
博士「また取材が来るらしいな~、私はああ言うのは苦手だ」
旅男「帽子に任せろ」
帽子「あ、はい」
旅男「……」
茶髪「旅男が泣いた!」
藍「メンタルは強化されてないんですね」
…………
旅男「さて、今日は美味い酒飲みに地下五階のレストランに行くぞ」
帽子「ん~、今日はチーズを食べたい気分」
茶髪「なんか変わったもの食べたいな~」
博士「むふふ……、久し振りに大金が手に入ったな~」
藍「博士がかつて無いくらい明るいですね」
旅男「五千万丸儲けじゃ俺だって笑いが止まらないよ」
帽子「ほぼボク達の手柄なのにな~」
博士「分かってる、今日は奢りだ」
旅男「よし、百万の酒空けるか」
博士「ちょっと待て」
旅男「いいだろ~、それくらい」
帽子「白トリュフ中心に食べよう」
博士「ちょっ、飲食代で数万~百万単位はやめて」
茶髪「死ぬほど食べるぞ」
藍「エネルギー剤が必要ないくらい食べましょう」
博士「やめてくれ、研究も金がかかるんだぞ!」
帽子「博士が狼狽えるなんてめったにないよね」
旅男「もっといじめるか」
博士「メンテナンスでわざとミスるぞお前等あ!」
店員「いらっしゃいませ~」
…………
茶髪「うめぇ、これ」
旅男「地下生活で食べられる最高ランクの食材だろうな、あ、白ワインの良い奴頼む」
帽子「旅男って白ワイン好きだね」
旅男「香りは赤、味は白ってな」
藍「お酒飲みたくなりますね」
旅男「まあ二十歳になってからな」
帽子「香り高い白トリュフのパスタ……、ん~ま~い!」
博士「う~、せめて私も楽しむか」
博士「ん、なんだこの魚美味い」
旅男「金目鯛だ、珍しいだろ」
茶髪「ハム美味い、なんかいい香りする」
旅男「いやあ、今日の飯は大当たりだな」
帽子「酒場でみんなでわいわい食べるのも美味しいけどね~」
旅男「まあ夜はまた酒場に行くがな」
博士「ん~、美味い」
旅男「安い飯でも感動するくらい美味い事あるけど、高い飯はハズレが少ないな」
帽子「ちーずー、んまい!」
藍「そうだ、ここのデザートもすごく有名ですよ」
茶髪「いいな、俺メロンの奴にしよ」
博士「高っ、一品二千超えるのか」
旅男「生ハムくれ」
帽子「ん~、お肉もお魚も美味しいな~」
博士「やれやれ、まああのデータを解析すればルビーイーター対策も進むし、イーターの異常進化の理由も掴めるかも知れないからな」
博士「この至福の一時は当然の対価かもな」
旅男「人類が救われる日が来るのか……」
博士「その可能性もある、ぶっちゃけ五千万でも安いかもな」
藍「すごい情報だったんですね」
帽子「考えてみればルビー保持型マンイーターの生け捕りなんて誰にも出来ないもんねえ」
旅男「本当にラッキーだったとしか言えないな」
博士「しかし、君達のその能力が有ってこその奇跡だよ」
博士「私もたまたまその現場に居られて、良かった」
旅男「次は何を狩るかな~」
茶髪「俺単独でアイアンイーター中型を狩ってみたい」
旅男「やってみるか」
博士「B地区西に四十万のアイアンイーターが居るな」
旅男「四十万か、微妙な値段だな」
茶髪「俺だと厳しい?」
旅男「それは無い、ただちょっとな、俺達が狩るなら安いんだよ」
茶髪「コストが最低で二十万くらいだもんな」
旅男「まあ射程圏ギリギリで脳を一発で砕けば余裕だ」
茶髪「俺の射撃の腕次第か……」
旅男「オールドタイプはルビー代以外丸儲けだから良いよな」
茶髪「俺一人で行っちゃ駄目か……?」
旅男「……いずれお前一人でやるんだ、経験しておくのは悪くない」
旅男「ただ、マンイーターみたいなイレギュラーが有り得る、気をつけろよ」
茶髪「分かってる」
茶髪「俺は死なねえからな」
旅男「……ん」
茶髪は旅男が仲間を失うのを恐れる事を知っている
旅男は思う
何時までも過去は引きずらない……
それはやっぱり嘘なんじゃないのか、と
…………
帽子「旅男~」
旅男「おう、今日は藍から逃げ切ったか」
帽子「藍ちゃんは朝からホラーをあさりに行った」
旅男「何故……」
帽子「今日はボクと遊ぼ~!」
旅男「どこに行く?」
帽子「水族館行く~」
旅男「地下二階の奴か、行ってみるか」
――A地区B2F――
A地区は丁都でも最も人口が多い繁華街の一つである
B2Fはその中でも観光に重点を置いている
旅男達は二人で水族館を訪れた
デートのようだと、二人は意識してしまう
旅男「お~、美味そうな魚がいっぱいいるな」
帽子「ピラルクって美味いのかな?」
旅男「お、海の掃除屋ホンソメワケベラか」
帽子「ニセクロスジギンポでした」
旅男「鰓を食いちぎるとか凶悪すぎる」
帽子「マンタだ~」
旅男「こんな地下にどうやってジンベイザメを入れたんだろう……」
帽子「養殖だって」
旅男「すげえな現代技術」
帽子「……ねえ」
旅男「なんだ?」
帽子「旅男はまだ桃姉の事が好き?」
旅男「……」
旅男「ふう……」
旅男は帽子の目を見る
帽子は旅男の目が見られない
旅男「分からん」
旅男「振り切ったつもりだった」
旅男「だが……」
旅男「やっぱりまだ迷っている」
帽子「馬鹿だな旅男は」
帽子「それが普通」
帽子「だって、好きって、そう言う事でしょ?」
帽子「諦める事なんて、どんな理由だって出来ないよ……!」
旅男「……!」
帽子「ボクもそう」
帽子「ボクも諦められない」
帽子「なんで旅男がボクを受け入れてくれないのか、それは桃姉の事があるからだと思っていた」
帽子「でも違うんだよね、他に何かあるんだ」
旅男「……」
旅男「何故お前は女なんだろうな?」
旅男「最強のAHなら男の方が良かったじゃないか」
旅男「何故だと思う?」
帽子「……?」
旅男「俺達の生まれたラボは、俺が生まれた時歓喜した」
旅男「俺よりバランスの良いAHなんて居ない、AH廃止まで六年以上かかったのにだ」
旅男「お前は……、始めから俺のつがいとして作られたんだ」
旅男「そんな他人が決めた運命に、お前を翻弄されたくない!」
旅男「……それが全てだ」
帽子「……」
帽子「……馬鹿……」
帽子「ボクの気持ちはプログラムされた物なんかじゃ、無い!」
帽子「旅男は何にも解ってないじゃないか!」
旅男「……!」
帽子「ボクはまだ子供だから、他人に遺伝子まで手を加えられ操作されてるって感覚は分からない」
帽子「でも旅男が優しいのも、すごいのも、寂しいのも分かるの!」
帽子「……ボクは間違ってるかな?」
帽子「ボクは遺伝子に操られてる?」
旅男「……分からない」
旅男「だが、ただのAH同士でもどうなるか解らないんだ」
旅男「死産や母体が死ぬケースも多いと聞く」
旅男「そんなことは……」
帽子「ボクはハンターだよ……」
帽子「死ぬのなんか怖くない」
旅男「馬鹿野郎……」
帽子「でも死なない」
帽子「だって旅男が寂しがるもの……、あははっ」
旅男「……帽子……」
旅男はゆっくりと、帽子を抱き寄せて、キスをした
帽子「……嬉しい」
帽子「このロリコン、あははっ!」
帽子はくるりと後ろを向くと、走り出した
…………
アイアンイーターと対峙する際、最も重要な事は、潰されない事だろう
茶髪はアイアンイーターと十分な距離を取って構えた
アイアンイーターはビルの鉄鋼に夢中だ、今なら一撃で脳みそを弾き飛ばせる
茶髪はゆっくりルビーガンを構えた
…………
博士「茶髪一人でアイアンイーター中型撃破か」
博士「その後奇襲してきたマンイーターに大怪我を負わされなければ百点だったが、返り討ちにしたんだから九十点はやっても良いだろう」
茶髪「痛い」
旅男「だから気をつけろと言っただろ」
茶髪「痛い」
藍「生きて帰れたんだから良かったですよ」
茶髪「痛い」
帽子「痛いのは分かった」
茶髪「痛い」
茶髪「俺間違ってたわ、オールドタイプにもメンテナンスは必要なんだな」
博士「そりゃ肋骨折ったらな」
博士「ちゃんと治すから心配するな」
茶髪「ありがとう、博士」
博士「十万でいいよ」
茶髪「この前一年無料でいいって言った」
博士「ちっ」
旅男「ふうっ……、まあ無事で良かった、俺はネグラに帰って寝るわ」
帽子「お疲れ様、旅男」
旅男「疲れてねえよ」
旅男「……」
旅男「帽子……、さっきの話は無しにしてくれるか」
帽子「?」
帽子「どう言う意味?」
旅男「俺には……、家族を失うのは辛過ぎる」
帽子「……!」
帽子「……そうだよね……、旅男は……」
帽子「家族をもう、無くしたような物なんだから……」
博士「?」
博士「何の話をしているんだ?」
帽子「何でもない」
帽子(でも旅男……)
帽子(キスも無し、なんて、言わないよね……?)
帽子「大丈夫、まだ時間有るもの、私には」
…………
旅男達は博士を連れてグリーンメーカーの探索を始めた
B地区は既に先のグリーンメーカーによる広大な森が出来ている
森をかわし、砂漠地帯でグリーンメーカーを探す
博士「グリーンメーカーの生命反応情報が有ったのはこの辺りなんだがな……」
旅男「森が出来たからグリーンメーカーも森で捕食してるんじゃないかな?」
博士「ん~、その可能性はもちろん考慮してるが、森を広げるには砂漠地帯でグリーンメーカーを捕獲したいんだ」
博士「せっかくサービスした蜘蛛の糸も使わずに終わるのかな……」
帽子「グリーンメーカーって一番最初に作られたナノマシン細胞生物なんだよね?」
帽子「なんでこんなに少ないのかな~」
博士「グリーンメーカーは寿命が短く、繁殖能力が弱いんだ」
博士「例えば森を作ったグリーンメーカーは死んでしまう」
博士「本当は森を作る能力を得てから交配して欲しいんだがな……」
博士「それにだ、多くのグリーンメーカーはアイアンイーターやマンイーターへ進化してしまう」
博士「これがグリーンメーカーが少ない一番の理由だろう」
旅男「そもそもグリーンメーカー繁殖に必要な鉄を捕食するアイアンイーターの存在はグリーンメーカーやマンイーターを増やすための機構に見えるよな」
博士「そうだな、……もう人工進化が確定的なのかもな」
旅男「俺なら断定してしまうけどな」
博士「ごく小さな確率ではあるが、自然進化も無い訳じゃない」
博士「宝くじ一万回連続当選するくらいの確率で」
旅男「ねーよ」
博士「でもな、私でもそんな大規模な操作は難しい」
博士「誰かがイーター達の遺伝子を統括してコントロールしてるんだ」
博士「しかしそんな人間居るはずがない」
茶髪「人間じゃなかったら……、神様?」
博士「居ないだろ、少なくとも私は見たこと無い」
旅男「例の宗教……、選民教だと世界そのものが神様らしいけど?」
博士「その点は面白い観点だと思う、自然も人間も神の一部だと言われたら納得してしまう」
博士「なんせそれなら確かに全知全能になるからな、人間が知る事、出来る事は全て神の業になるわけだから」
博士「まあ選民教そのものが全く説得力無いからアレだが」
帽子「カルトだね~」
旅男「はあ、さっさとグリーンメーカー出て来ないかね」
博士「昼になったら撤退するか」
藍「ここまで来て無駄足ですか~?」
旅男「帽子、藍ってたまにキツいよな」
帽子「ヤンデレの素質を感じるね」
旅男「あいつが回復役って何かの冗談みたいだな」
帽子「そう言えばまだ回復のお世話になってないね、ラッキーと言えばラッキーなんだけど」
旅男「回復が必要なほど大怪我したくないな~」
帽子「完全に同意」
博士「しかし秋なのに暑いな」
旅男「砂漠だからな~」
帽子「多少の森じゃ気候までは変わらないのかな~」
博士「雨は増えてるらしいぞ」
帽子「ふうん、それなら自然に森が回復して行くかもね~」
旅男「それは楽だな」
博士「私の念願でもあるよ」
茶髪「グリーンメーカー出ねえなあ……」
藍「今日は撤退かな~」
…………
結局グリーンメーカーとの遭遇は出来ず、旅男達は撤退した
無収穫で終わるハントは滅多に無い事だ
博士「グリーンメーカーが多く、かつ砂漠の地域を探しておくよ」
旅男「なかなか難しいな」
藍「ご飯にしましょうか」
茶髪「飯~」
帽子「今日は何を食べようかな~」
旅男「ピザでも食いに行くか」
藍「良いですね~」
茶髪「ピザ高いからな~」
帽子「茶髪君もけっこう稼いでるでしょ」
茶髪「あ、そうか、クレジット確認してないけど八百万くらいあるかも」
博士「すごいな、それでオールドタイプって言うのがすごい」
旅男「俺の教育が良い証拠だな」
藍「死ななければいいですよ」
帽子「だよね、絶対死ぬのは嫌だ」
帽子(旅男が泣くもんね)
旅男「ま、こんな仕事だし、死ぬことも覚悟はしないとな」
帽子「そんな調子じゃ死んでも知らないよ?」
旅男「俺も可愛い貧乳オールドタイプと付き合うまでは死ねん」
茶髪「またそれか」
博士「貧乳好きもここまで来ると格好良いな」
藍「格好良くは無いですね」
帽子「…………」
帽子(どう言う事……?)
帽子(オールドタイプって何よ!)
帽子(……何よ……)
旅男「あ~、やっと帰ってきたな」
博士「空振りするとどっと疲れるな」
茶髪「昼なのに眠い」
藍「暇でしたからね~」
帽子「次はもっとしっかりした情報が欲しいよね!」
博士「ん、そうだな」
旅男「どうした、カリカリして」
帽子「殴るよ!?」
旅男「す……、すまん」
博士「どうした、帽子らしくないな」
帽子「……」
帽子「……何でもないよ……」
藍(明らかにおかしいですね)
博士(うむ……、旅男と何かあったな)
藍(そうなんですか?)
博士(帽子は旅男命だからな……)
博士(それは果たして遺伝子なのか、運命なのか……)
藍(?)
旅男「……」
旅男(俺は……、帽子を失いたくない……)
旅男(今は……、こうするしか出来ない……)
博士「次はまたルビー保持型の情報でも取りに行くかな~」
旅男「無茶言うな、無理だ」
博士「そうか」
博士「じゃあマンイーター改良プログラムをさっさと組んでマンイーター洗脳しに行くか」
旅男「それくらいなら付き合う」
博士「生け捕りだし、そっちの方が大変じゃないか?」
旅男「蜘蛛の糸の使い方は把握したからな、比較的にスピードの遅い普通種のマンイーターなら行ける」
藍「私と茶髪君も上手くやれば稼げますね」
旅男「俺達がサポートすれば大丈夫だろう」
博士「これはいよいよプログラム作りを急がないとな」
帽子「私もしばらく遊ぶからね」
帽子「旅男強制参加だから!」
旅男「ええっ!」
旅男(やっぱりキスしたのはまずかったな)
旅男(やっぱり遺伝子のせいで流されたのか……?)
旅男(いや、それは酷すぎるか……、俺がしたかったんだ)
帽子「行くの行かないの?」
旅男「強制参加だろ?」
帽子「行くの行かないの!?」
旅男「い、行くよ」
帽子「やった!」
博士「帽子も子供らしい所あるな」
帽子「大人です!」
…………
旅男「暗殺エイリアンチェーン、デンジャラススイーツフェア……」
帽子「美味しそうでしょ」
藍「私も一緒で良いんですか?」
帽子「やっぱりスイーツは女の子と食べないと」
藍「楽しみです」
旅男「デンジャラステトロドトキシンゼリー、シガテラパフェ、ハブ毒カクテル……」
帽子「説明書きが無いと内容が全く解らないね」
旅男「なんでグレープフルーツがテトロドトキシンなんだ?」
帽子「書いてるじゃん、河豚毒のような必殺の美味さ!って」
藍「南洋のフルーツたっぷり、シガテラ毒のような当たり付きパフェ……、ハブ毒のようにじっくり梨の美味さが広がるスイーツカクテル……」
旅男「なんで食欲を削ぐ!」
帽子「まあ一個ずつ全部注文してみよう」
旅男「……味は全く外れがないんだよな、この店」
帽子「チェーン店レベルじゃないよね」
藍「幸せ~、んふふ!」
帽子「藍ちゃん一口頂戴、青酸ババロア」
旅男「食ったら死ぬぞ」
帽子「死なないよ、ちょっとナッツの香りがするだけだよ」
帽子「……ん、香りと味のギャップが美味しい」
旅男「これしゃりしゃりして美味しい」
帽子「そっちも一口!」
旅男「いいよ、交換な」
帽子「腐った毒々シャーベット美味しい、腐ってない」
旅男「腐ってたら問題だろ!」
旅男「……梨美味いな」
帽子「ハブ毒かは解らないけど後からじんわり酸味が来るよ」
旅男「本当だ、なんか楽しい味だ」
帽子「さ、たっぷり食べたら服を見に行くよ!」
藍「楽しいですね~」
旅男「俺もたまにはすっきりした格好の服探してみるか」
…………
旅男「服一杯買ったな……」
帽子「今お金に余裕有るしね」
旅男「単純な討伐を一回やっておくかな、アイアンイーターくらい」
帽子「マンイーターは改良プログラム待ちだしね~」
藍「今度ルビー保持型と出会ったら私も戦いたいなあ」
旅男「儲かるしな」
旅男「もう少し実戦経験を積むのと、茶髪を守りながら戦う戦術は考えないとな」
帽子「茶髪君は奇襲要員だね~」
旅男「敵に姿を見せないようにして、藍にサポートさせて、俺と帽子で足止め、かな」
旅男「ルビーイーター以外はだいたい勝てるかな?」
帽子「この前のルビー保持型マンイーターは実戦経験高ければヤバかったかも知れないよ?」
旅男「あのスピードはな、なかなか厳しい物があった」
藍「あんなに大きいのに速いんですね……」
旅男「マンイーターは炭素系筋肉が大きいからな、ウエイトも軽いし、骨格も強いし」
帽子「普通のマンイーターでも苦戦する事があるからね~」
藍「その上で高出力のルビー保持型では確かに危ないですね」
旅男「しかもマンイーターはこっちを食おうとして攻めてくる訳で」
藍「私達だとアイアンイーターにしておかないと死にますね」
旅男「そうだな、緊急事態じゃなきゃルビー保持型マンイーターからは逃げるのが一番だ」
帽子「五百メートルを十数秒で駆けてくるけどね」
藍「すぐに捕まって食われますね」
旅男「ビルに隠れながら逃げるんだな」
…………
旅男「って話になったんだが、いいターゲットはいるか?」
博士「いや、ルビー保持型は希少種だからな、ないよ」
旅男「だよな」
博士「ルビーイーターを狩れたら一番いいんだがな」
旅男「アーマー作ってくれないと厳しいな」
博士「逆に言えばアーマーさえあれば行けると」
旅男「五分五分だな、なんとか倒すか逃げ切るか、だ」
旅男「死ぬ可能性が減れば挑みやすいって程度かな」
博士「臆病なのは悪い事じゃないよ」
博士「I地区に大型マンイーターがいるな、賞金もルビー保持型に迫る一千万だ」
博士「この間話したAHイーターだよ」
旅男「それはヤバそうだな」
博士「君なら大丈夫、ただ大型マンイーターを複数体連れていると報告がある、要注意であるのは間違いない」
旅男「大型複数体と同時戦闘は確かに厳しい、それでそこまで進化したんだな」
博士「こちらも絶対帽子と藍が外せないな」
博士「ん~、実験的にこのプログラムを使ってみようかな?」
旅男「お、まさか……」
博士「それは使ってからのお楽しみだ、つまり次は私も行くよ」
旅男「心強いよ」
――I地区――
とても危険なマンイーターが徘徊し、討伐を挑んだ多くのAHが逆に捕食対象になるため、ついにAHイーターなどと呼ばれるようになった
旅男達が訪れるのは間違いなく最高ランクの危険地帯の一つである
しかも今回の任務には茶髪や藍、博士がついてくる
攻撃的には有利であるが、とても危険度の高いミッションである
旅男「I地区は遠いな」
博士「無法者が集まる地域でもある、とても危険な地域であることは理解しておけ」
茶髪「わ、解った」
藍「震えますね……」
帽子「ボクたちだって危ないかも解らないからね……」
旅男「とにかく茶髪、お前はビルに隠れる事だ」
茶髪「おう、銃で援護できたら援護だな」
旅男「一体は倒せよ?」
帽子「十体の内の一体を倒せば殲滅報酬がつくからね~、美味しいなあ」
藍「私も頑張って一体は倒さないと!」
旅男「無理はするな、相手はAHイーターだからな」
帽子「旅男が食べられちゃったりして」
旅男「俺は貧乳美女以外に食われることはない!」
帽子「ボクが食べられちゃったりして……」
旅男「お前は俺が守る」
帽子「うん」
帽子(嬉しい)
旅男達は長い砂漠を歩き、途中にある大きな森に寄る
茶髪「あ、ここかあ、蚊がいたらやだな」
藍「ここは……、旅男さんが作った森ですか?」
旅男「そうだ」
博士「あの時は実験的に巨大グリーンメーカーの脚を奪ってからプログラムを打ち込んでみたんだ」
旅男「近くにオアシスが有ったこともあって上手くいったな」
博士「一応蜘蛛の糸は持ってきたぞ」
旅男「グリーンメーカーがいつ出てくるかも分からないからな」
五人は森の中に入っていく
藍「……涼しい……」
茶髪「あ、もう蚊に刺されてる」
旅男「確かに痒いな」
博士「私は虫除けスプレーをふりかけてきたがな」
旅男「ひでえ、俺達にも分けろよ」
帽子「ボクと藍ちゃんで使い切っちゃった」
旅男「き、貴様ら……」
藍「快適ですね……」
博士「あ、ムカデだ」
帽子「きゃああああっ!」
旅男「鬼をもくだすAHがムカデにびびってんじゃねえよ」
藍「虫は嫌です~!」
茶髪「虫は無視」
旅男「グリグリを食らわせるぞ」
茶髪「ごめんなさい」
博士「そうだぞ、親父発言は私の役割だぞ」
旅男「役割なの!?」
茶髪「甲虫居ないかな?」
旅男「甲虫までいるかな?」
博士「生き残った森も山岳地帯にはある、蚊もいるし時間が経てばそういった虫も生息範囲を広げてくる可能性はあるだろう」
博士「理想はそういった山岳地帯まで森を広げていく事だ」
博士「猪や鹿や熊のような野生動物も生活圏が広がれば再び繁殖することだろう」
旅男「野生動物をハントしてみたい物だな」
博士「安いノーマルライフル弾で仕留められるしな」
旅男「ライフルで猪ハントって楽しそうだな」
博士「天然物は美味いらしいしな~、楽しみだ」
藍「でも何年かかるか分かりませんよね……」
博士「十年くらいは最低でかかるかな~」
旅男「博士のプログラム次第だよ」
博士「だよな」
茶髪「俺も猪ならハントできるかもな~」
旅男「猪に骨を折られて死ぬ人も居るぞ」
茶髪「猪怖い」
藍「猪にも負けるとは脆弱なオールドタイプめ!」
旅男「お前は何の映画に感化されたんだ?」
藍「旅男さんが好きそうだから戦争物を観まくってました」
旅男「今度観に行くわ」
帽子「ボクとデートしようよ~」
旅男「分かった分かった」
帽子「えへへ」
帽子は旅男の腕を必要以上に強く抱き締めた
旅男「貧乳でも気持ちいいもんだな」
帽子「貧乳関係の発言は躊躇わないな貴様」
博士「貧乳では揉みしだけないがな」
旅男「やめろセクハラ親父少女」
茶髪「……」
旅男「ほら、マセ餓鬼が照れてるぞ」
博士「私の胸は揉み放題だぞ」
旅男「やめろセクハラ親父少女」
博士「親父少女ってなんか怖い」
帽子「揉んでみよう」
博士「気持ちいい」
旅男「やめろレズか」
帽子「好きなくせに!」
旅男「貧乳は好きだが!」
帽子「躊躇えよ!」
藍「貧乳なら何でもいいじゃないですか!」
旅男「何目線での発言だよ!」
博士「セクハラしてる間にオアシスに着いたぞ」
旅男「連れのAHがみんなセクハラ少女ってなんなんだよ……」
帽子「旅男のガードが固いからかな?」
旅男「……そりゃ、そうだろ」
帽子「……ごめん」
旅男「謝んな」
博士「……桃ちゃんとは会えなかったな、メンテナンスの前任者からの引き継ぎが二年前だったし」
旅男「AHにしても博士は早熟だよな」
博士「博士号自体は十歳で取った」
旅男「すげえ」
茶髪「すげえ」
帽子「ボクも頭脳型AHならな~」
旅男「俺達も神経系は強化されてるから頭を良くしようと思えば出来るらしいぞ」
帽子「勉強頑張ろ」
博士「いつでも教えるぞ」
藍「このオアシスって魚は居ないのかな~」
旅男「居たらいいな、天然物の虹鱒を食いたい」
博士「放流してみるか」
旅男「生態系復活も博士の仕事なんだよな」
博士「むしろそれがメインの仕事なんだがな、セクハラじゃなくて」
旅男「セクハラを仕事にするな」
博士「私からセクハラを取ったらお堅い根暗博士じゃないか」
旅男「そうだな、たまに根暗だと思うわ」
博士「どんなところだろう?」
旅男「突然歴史を語り出したり自分の研究を語り出したりするだろう」
博士「あれ、根暗なのか?」
旅男「殆ど独り言じゃないか」
博士「そうか、そうかもな」
博士「これからもやるがな、解説役としては」
旅男「誰に対する解説役だよ」
帽子「揉み揉み」
旅男「いつまでもセクハラしてるんじゃない!」
博士「嫌がって無いがな」
旅男「俺が嫌なんだよ!」
やがて五人は森を抜け、危険地帯、I地区に辿り着いた
今回の更新はここまでです
次回更新は要のイベントが入るので遅いかも知れませんがご容赦ください
用語とか相変わらず分かんねーよって所があればどんどん質問してください
雰囲気はいいけどところどころ文章が怪しい感じ
文が連続で「る。」で終わる感じとか
こういうときに便利なのが
俺「SSの書き方とかよく分かんないけど皆のアドバイス貰えばなんとかなるだろ」
俺「SSの書き方とかよく分かんないけど皆のアドバイス貰えばなんとかなるだろ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401292874/)
な
文章のセンスにしても「臭いランチにありつける」の部分とかも「臭いランチが待っている」の方がいい希ガス
まあそこは当人のセンスだし気づいたのかもしれんけど。
他はどうも目が滑って読み切れんなぁ
更新します
>>112
わりと語尾は気にしてますけどもっと気にしてみます
目が滑るのは造語が多いのとスペースのリズムのおかしいのが理由かな、と
今回はこれで終わりですが次回作はもう少しマシになればな、と思います
ありつけるの所は食べ物に困ってる犯罪者には正にありつける状態なんでありつけるを選びました
始まりの辺りは自分も世界観ガチガチに固まってないからちょっと迷う所ですよね
SFは世界観を固めるのが重要なのかな
I地区は殆どのビルが残っている地域だ
そこはかつてはルビーイーターの住処でもあり、凶悪なイーターも数が多い
博士「ここから危険区域だ、警戒を怠るな」
博士は監視ボールの幾つかに指令を出し、周辺の警戒を始めた
旅男「監視ボールの私用って許されてるんだな」
博士「あれは私用に買ったものだよ、悪用したら勿論捕まるが私用は問題無い」
旅男「ふうん……」
帽子「旅男監視したら捕まるかな?」
旅男「なんで監視するんだよ」
帽子「すとーきんぐ」
旅男「そりゃ捕まるわ」
博士「私も君達が討伐に出掛けたらだいたいストーキングさせてるけどな」
旅男「それは有り難いからいいけど」
博士「私生活まで追い掛けたら捕まるだろうな」
旅男「そういった線引きって誰がやってるんだ?」
博士「中央政府の使ってる中央管理コンピューター」
旅男「まあデカいコンピューターでもなけりゃ完全監視なんて無理だよな」
旅男「ん……、それって」
博士「今君が思い付いたことには言及しない方が良いぞ」
博士「無実の罪で捕まりたくなかったらな」
旅男「だが……」
博士「君の後ろに飛んでる監視ボールは私のではないぞ」
旅男「ちっ」
帽子「なんの話?」
旅男「気にするな、神様が見てるから悪さは出来ないって話だ」
帽子「……神様」
帽子「って、ええっ!」
旅男「この話はヤバすぎる、もう関わらない方がいいぞ」
帽子「……うん」
藍「完全監視の中では普通にお話も出来ませんね」
旅男「良いじゃねーか、今回も中央政府からばっちり賞金搾り取ろうぜ」
博士「あんまり稼いだらまたインタビューが来そう……」
旅男「インタビュー怖い……」
博士「おっと、危険種情報……、奴だな」
ビルの合間を縫って歩く巨大なマンイーター
およそ八メートル程であろうか、こちらを警戒する様子もなくビルの合間を歩いている
博士「あれは違うみたいだ、もっと奥にAHイーターがいる」
旅男「マンイーターが監視を敷いてるのかよ」
帽子「そんな風に見えるね」
博士「要討伐対象が十体超えてるぞ、壮絶な戦闘になりそうだな……」
藍「あは……、逃げちゃ駄目ですかね?」
旅男「俺が足止めをしていくから皆でとどめを頼む」
藍「やっぱり行くんですね……」
茶髪「頑張って儲けようぜ」
帽子「頼もしいね~」
博士「とりあえず群を外れた一体を蜘蛛の糸で捕らえてくれ」
旅男「分かった」
旅男「楽しみだな、イーターイーター」
博士「イーターイーターに出来たら青いペイントをかけて放つからそいつは倒さないでくれ」
博士「プログラムが上手くいってくれたら人間から犬猫まで守りイーターを捕食する正義のイーター誕生だ」
巨大な要討伐対象マンイーターは数匹で、巡回の真似事をしているように見える
ふと、一体のマンイーターがアイアンイーターを見つけ、追いかけ始めた
マンイーターは久々の餌にありついて嬉しそうに狩ったアイアンイーターを食い散らかしている
そこに突然脚をすくわれて、転ぶ
さっきまで幸せに食事をしていたのに、今や身動きが取れないでもがくしか出来ない
旅男「よし、上手くいった!」
博士「暴れないでくれよ、食事の邪魔をして悪かったな、よしよし」
帽子「あはっ、犬をあやしてるみたいだね」
博士はマンイーターの巨大な頭に長い鉄線を、暴れるのに苦労しながら突き刺していった
そして鬼の速度でプログラムを打ち込む
しかし、やはり初めてのプログラムに手間取っているようだ
帽子「このマンイーターが退治したイーターって博士が討伐したことになるのかな?」
旅男「それじゃまた博士が丸儲けだな」
博士「そうなったら奢るよ……、よし、これでいけるはずだ!」
タン、とキーボードを小気味良く叩く
イーターはゆっくり目を覚ました
旅男「蜘蛛の糸取っても大丈夫か?」
博士「ちょっと待ってろ」
博士はマンイーターの頭をゆっくり撫でる
マンイーターは嬉しそうにぐるる、とのどを鳴らす
博士「成功か……、いや、まだ分からんな」
博士「とりあえず蜘蛛の糸を取り払ってくれ」
旅男「分かった」
博士はマンイーターの頭と背中に青いペイントスプレーを振り掛けた
そして博士と藍たちが避難してから旅男が蜘蛛の糸を切り裂いて行く
ようやく切り終えると、マンイーターはゆっくりと身体を起こす
博士「お前をEEと名付けよう、マンイーターをかき回してこい!」
EE「アンギャーッ!」
博士にEEと名付けられたマンイーターは一直線に仲間のマンイーターの方へと駆けて行く
そして格闘が始まった
そもそもマンイーターにはマンイーターと戦う習性がない
あっさりとEEはマンイーターを捕食した
すみません、なんか疲れたので残りは明日更新しますね
おやすみなさい
おもしろかったのに終わっちゃうのか
更新します
>>119
ありがとうございます
今回は後少しです
次もSFの予定です
博士「成功だーっ!」
帽子「やったね博士!」
旅男「よし、俺達も行くぞ」
茶髪「早くやらないとあいつに全部食われちゃう」
藍「イーターはどこですか?」
博士「あの格闘音を聞きつけて集結しつつある、気をつけろ!」
旅男達は敵に発見されないように更に外側からイーターを攻撃する
巨大な要討伐対象マンイーター達も後ろから襲えば茶髪でも倒せる
茶髪「やっほーっ!」
藍「大量ハントの時間ですよぉー!」
旅男「ふふ、あいつらもやるじゃないか」
博士「AHイーターはまだこちらを警戒してる、旅男と帽子で当たってくれ」
旅男「分かった」
博士がEEに近付くとEEも頭を下げる
博士はEEの鼻先を撫でた
満足したのか、EEはうなり声を上げると、AHイーターに向かい走り出す
博士「EEがそちらにいった、気をつけろ!」
旅男「分かった!」
帽子「EEちゃんに乗ってみたいな」
旅男「アイツを倒してからだ!」
眼前にEEより一回り大きい傷だらけのマンイーターが現れる
明らかにAHイーターと呼ばれる存在だろう
AHイーターはEEが自分を狙っている事に気付き、長い尻尾ではねつけた
その後AHイーターはビルの影に隠れ潜む
流石の慎重さである
旅男達も一旦ビルの影からAHイーターを伺う
帽子「難易度で言ったらこの前のルビー保持型より上なんですけど……」
旅男「確かにな」
帽子「賞金いくらかな」
旅男「三千万は貰わないと割に合わないな」
帽子「うへへ、積み立てよ」
旅男「たまには奢れ」
二人が話をしているとEEが起き上がりビルの向こうに回っていく
AHイーターを追い立てるつもりなのだろうか
旅男「アイツ頭良いな」
帽子「EEちゃんを撃たないように気をつけないと」
旅男「よし、二手に分かれるぞ」
追われてきたAHイーターはビルを蹴りつけて別のビルの隙間に隠れる
とんでもない身のこなしである
旅男「初めて見たな、あんなに動くイーター」
対面のビルの上の帽子も呆れたような顔をしていた
AHイーターは隠れている限りは撃たれないことを知っているのだろう
こちらを伺う時も素早くビルからビルへと移って行く
仕方なく帽子が帰ってくる
帽子「あれを倒すのは難しいかも」
旅男「EEに任せてみるか」
帽子「そうだね、動きを止めてもらってから奇襲をかけよう」
EEはうなり声を上げながら自分より一回り大きいAHイーターに果敢に挑みかかっていく
尻尾に噛みつき、背中に噛みついた
流石にAHイーターも反撃する
二体は睨み合い、動かない
旅男「チャンスだ!」
旅男のルビーガンは確実にAHイーターの脚を貫いた
AHイーターは叫び声を上げ、周囲のビルに身体を打ち付けていく
埃で姿を隠したのだ
帽子「頭良いなぁ、アイツも!」
埃はルビーガンのレーザーの威力を激しく落とす
このままでは狙えないのだ
旅男「脚に怪我を負ってるんだ、そんな遠くには行かないだろ」
EEが先にAHイーターを捕らえる
素早く喉元に食らいついた
埃が落ち着いてくる中から倒れたAHイーターが現れる
旅男と帽子は素早くAHイーターにルビーガンでとどめを刺した
帽子「……EEちゃんが居なかったら倒せなかったかも」
旅男「博士の研究のお陰だな」
帽子「ちゃっかりとどめも刺させて頂きましたし、帰りますかー」
旅男「そうだな」
EEが二人の所にどすどすと誇らしげに足音を立てて帰ってくる
帽子「子犬みたい、可愛い~」
旅男「子犬……頭から尻尾の先まで全長で八メートルはあるけどな」
帽子「EEちゃんの背中に乗ってみよ」
帽子はEEの背中に乗る
EEはどすどすと博士の元まで歩いていく
帽子「お尻痛い」
博士「お帰り」
博士「んふふ」
旅男「どうした、気持ち悪いな?」
博士「いやあ、このプログラムにはいくらの値がつくかと思ったらな?」
旅男「楽しみだな」
帽子「しかし厳しい討伐だったよ、EEちゃんが殆どやっつけた感じ」
旅男「助かったな」
博士「そうだろうそうだろう」
旅男「で、こいつはどうする?」
旅男がEEを指差すとEEは首を傾げた
博士「しばらくはEEにイーターを狩ってもらおう、一応EEに攻撃しないようにハンター協会の方に通達を出しておく」
旅男「皆びっくりするだろうな、コイツ見たら」
茶髪「く、食われねえの?」
博士「もうコイツはイーターしか食わないよ、そう言うプログラムにしてある」
茶髪「生きてるマンイーターに触れるの珍しいよな、なんか小さいウロコみたいな肌触りだな」
旅男「見た目はまんま恐竜なんだよな、誰の趣味やら」
博士「全くだな」
EEを囲んで全員で語らっていると不穏な群集が旅男達に近付いてきた
旅男達は忘れていた
このI地区で危険なのはイーター達だけではないのだ
数十人の中から白い髭を生やした長老風の人物が語りかけて来た
白髭「お見事で御座います、旅男様……」
旅男「何者だ?」
旅男は男に問い返しながら帽子に目配せする
白髭「ご心配なく、我々は危害を加える者では有りません」
旅男「何者だっつの」
博士「選民教教徒だろ、いや、司教様かな?」
白髭「これはこれは、博士は流石に博識でいらっしゃいますな」
博士「ただの推測だ、ボールも付けてない、犯罪者でもない、砂漠に住んでる物好きが大勢で徒党を組んでいる、となれば選民教教徒以外にないだろう」
博士「選ばれた民として旅男に目を付けていたと言うことか」
旅男「はあ……」
旅男「そんなもんどうでも良いわ、帰れ」
白髭「そうおっしゃらずにお話だけでも……」
白髭「我々はサンルビーの雨の日を生き残った、選ばれた民なのです」
サンルビーの雨の日とは、世界を大破壊に追いやった巨大ルビー輸送船の爆発事故の事である
巨大輸送船は隕石のように大陸を焼き尽くし、世界中に散らばったサンルビーはそのまま落ちたり、砕け散り莫大なサンルビーのエネルギーで大地を、海を、氷河期で凍った世界を焼き尽くした
大破壊は更に津波をもたらし、海に面したあらゆる地域は飲み込まれた
その大破壊の中を生き残ったのが現在の人々だが、その中には中央政府に従わず生きる人々が居た
選民教教徒達である
大破壊を生き残った選ばれた民として、より優れた生き残る力を持つ者を選び、その血を残して行く
邪教である
旅男「帰れよ」
白髭「そうおっしゃらず、我々は旅男様の血を必要としてるのです」
旅男は自分の腕を皮一枚斬った
その血を白髭になすりつけた
旅男「どうぞ」
旅男「藍、頼むわ」
藍「はい、回復初めてですね」
旅男の傷はすぐに瘡蓋に変わり、その瘡蓋もすぐに剥がれた
旅男「おお、すげえ」
白髭「旅男様……」
白髭がそれでも旅男に言い寄ろうとすると、ビルの上からレーザーが降ってきた
白髭「ひゃいっ」
旅男「今度は誰だ?」
ビルの上から現れたのはいつかのマントの男と右目に黒い眼帯をした男、そしてその仲間らしき数人の男女だ
眼帯「そいつらはウチが先約だ」
マント「やあ、たまたま会えたな!」
旅男「お前らとも約束した覚えがねえな」
眼帯の男達は十メートル程のビルから躊躇いもなく飛び降りて来た
全員がAHなのだろう
眼帯「おいおい旅男ちゃんよ~」
眼帯の男は厳つい外見とは違ってとても馴れ馴れしい
眼帯「そこのAHの彼女達も子供欲しくねえ?」
帽子「欲しい」
眼帯「お嬢ちゃんはもっと大人になったらだけどな~」
眼帯「俺達はAHの国を作る、その為にAHの子供の作り方を研究してる」
眼帯「そこの博士ちゃんもまとめて一括引き抜きよ~?」
博士「はっはっはっは!」
博士「いや、あんまりバカバカしくて笑ってしまった」
博士「モテない男が集まってナンパしてるようにしか見えん」
眼帯「あちゃー、博士ちゃん厳しいねぇ」
旅男「俺はホモじゃねえしな」
藍「一昨日来やがってください」
眼帯「きびしっ」
旅男達が徹底拒否する中、帽子だけが違う様子を見せた
帽子「……ボク行きたい……」
旅男「何を……」
旅男には予感があった
だからマントの男に脅しまでかけたのだ
帽子を取られてしまう
眼帯「じゃあちょこっと見学って事で、うちに来てくれ」
マント「メンテナンスもうちの女医さんがやってくれるからな」
帽子「旅男」
旅男「行くな、帽子」
帽子「ちょこっと見学に行くだけだから……」
旅男「駄目だ」
マント「旅男さん、言ったはずだ」
マント「思想信条は個人の自由だってな」
マントの男はそう言うと選民教徒達を睨み付けた
マント「お前等も思想の押し付けしてるんじゃねえよ」
白髭「ひいっ」
先の旅男の血を擦り付けられた件で既に教徒達は引いていたのか、逃げ出した
眼帯「お嬢ちゃんの気が変わらないうちに行くか」
眼帯「なあに、見学だけだ」
旅男「行かせんぞ」
マント「いい加減往生際悪過ぎだろう」
マントの男は帽子に着いてくるよう促して、跳んだ
旅男「待て!」
帽子「ごめん、みんな、旅男!」
帽子「すぐ帰るから!」
旅男「駄目だ、帽子、行くな!」
博士「行ってこい」
博士が言うと帽子は一つ頷いて、跳んだ
博士「……はあ、何を恐れてる、旅男」
旅男「俺達の運命は玩具じゃねえ……、イーターを作り出した偉い人間達も俺達を作り出したドクター達も……」
旅男「どいつもこいつも俺達の命を弄びやがって!!」
旅男「うおおおおおお!!」
旅男の叫びは、砂漠の夕焼けに木霊した
…………
博士「はあ……」
旅男「……」
藍「はあ……」
茶髪「暗いのやめようぜ」
旅男「……ふう……」
旅男達は三人ともメンテナンスをするための湯船に浸かっている
それを茶髪は来客用テーブルにつっぷして眺めている
博士「帽子はすぐに帰って来るさ」
旅男「そんな事は分かっている」
博士「……ちょっと独り言を言うぞ」
博士「イーター発生はルビーの値段を高騰させる目的だ」
旅男「……やっぱりくだらねえ理由だな」
博士「AHに子供が作れないと言う噂が広まったのも、無力な人間の方がルビーを使うからだろう」
博士「弄ばれるだけじゃ悔しいだろうから少し面白い話をしてやろう」
旅男「どうしたら面白い話になるんだ?」
博士「私達に与えられる賞金は中央を通してサンルビー協会から八割出ている」
博士「今回の討伐報酬は旅男と帽子が五千万、藍と茶髪が一千万、殲滅報酬が各五百万、私が二千万、EEのプログラム報酬が二億」
旅男「はあっ!?」
博士「面白い話だったろう」
博士「良いんだ、こうやって荒稼ぎしていたらそれが私達の復讐になるんだ」
旅男「プログラム報酬高過ぎだろ」
博士「突っ込むのそこか?」
博士「EEは今もイーターを狩って食ってる」
博士「並みのハンターでは出来ない仕事だ」
博士「EEはいつかルビーイーターに焼き殺されるかも分からないが……」
藍「可愛かったですよね、EEちゃん……」
博士「また一目会えたらな……」
博士「因みにどんどん討伐報酬は私のクレジットに入っている、うふふ」
旅男「うふふ、じゃねえ!」
茶髪「儲けすぎじゃね、博士」
藍「いいなあ」
博士「旅男、余計なお世話ではあるが……」
旅男「分かってる」
博士「帽子が帰ってきたら運命を受け入れろ、それが人工の、アーティフィシャルな運命だとしても」
旅男「……」
旅男「分からねえよ、そんな事は……」
茶髪「俺には難しくて分かんねえけど、酒飲んで忘れろよ」
茶髪「奢るぜ」
旅男「生意気だ、糞餓鬼」
藍「美味しいもの食べましょうよ~」
博士「行くか、おっと、お前等、薬」
旅男「サンキュ」
藍「帽子ちゃんも薬、きちんと飲んだかなあ?」
旅男「女医さんがいるらしいから大丈夫だろ」
茶髪「貧乳な女医さんだったらどうする?」
旅男「それなら良いなあ、俺も行くんだったなあ」
藍「帽子ちゃんの代わりに言いますが、躊躇えよ」
…………
旅男達はそれから一週間、メンテナンスを続けた
その後も藍に映画に引っ張られたり博士に釣りに誘われたりして、旅男はゆっくり休養した
そんな中博士が慌てて酒場に来た
博士「ルビーイーターだ……、I地区に!」
旅男「何!?」
…………
旅男達がI地区に向かう事を決めると、博士は旅男の手足、胸、下半身に皮の鎧を纏わせていく
博士「まだ完成品とは言えないが、この際仕方有るまい」
旅男「助かるぜ」
博士「直撃したら穴くらいは開くかもな」
茶髪「旅男、俺待ってるぜ」
茶髪「生きて、帽子の姉ちゃんと帰ってきてくれ!」
旅男「……ああ!」
藍「私の分のアーマーも有りますか?」
旅男「藍……」
藍「私は救護班として隠れてますんで、頑張って下さい」
藍「やられるなら回復できる程度にやられちゃって下さいよ?」
旅男「分かった」
博士「二人とも無理はするなよ?」
旅男「分からん」
藍「私は無理はしません、ヤバかったら旅男さんも見殺しにします」
旅男「おい」
茶髪「死なない程度に死んでこいよ!」
旅男「死なねえよ!」
充分な準備を済ませると、藍と旅男はA地区を出てI地区へと向かう
旅男「ルビーイーターか……」
…………
眼帯「あらあら、ヤバいんじゃないの?」
マント「ルビーイーターだと?」
女医「流石に皆死ぬかもねえ」
眼帯「うへっ」
マント「とりあえず隠れてやり過ごそう」
眼帯「賛成だ」
帽子「一体何があったの?」
眼帯「おう、お嬢ちゃんも餓鬼共と地下に降りて隠れてろ」
眼帯「ルビーイーターが出たらしいから当分は外出禁止だ」
女医「参ったわね、薬が残り少ないのよ」
眼帯「はあ……」
眼帯「ルビーイーターって討伐されたことあったよな」
マント「ああ、旅男が殺った」
眼帯「旅男さんを待つか、俺らでやるしかねえ」
帽子「旅男が来るの?」
眼帯「お嬢ちゃん……、逃げろっつの」
帽子「旅男……、絶対来る」
眼帯「なんでそんなはっきり言えるんだよ」
帽子「アーティフィシャルな運命を上回る運命だから」
眼帯「意味が分かんねえ」
帽子「私が生まれたのは旅男の為なんだって」
帽子「それがアーティフィシャル、人工的な運命」
帽子「でも旅男はそれが嫌なんだって」
眼帯「分かるねえ、その気持ち」
マント「アーティフィシャルな運命か……」
帽子「でもね、ここの冴えないおっさん達より私は旅男が好き」
眼帯「ぶっ!」
マント「はっきり言うなあ……」
帽子「私が旅男とずっと一緒だったのは、それが作られた運命だからじゃないの」
帽子「たまたまメンテナンスを委託したのが同じ博士だっただけ」
帽子「それって、本物の運命だよね?」
眼帯「確かに」
女医「素敵ねえ……」
眼帯「じゃあお嬢ちゃん、五人で旅男さんを待ちますか!」
帽子「勿論!」
帽子「五人?」
眼帯「あいつを連れて行こう」
マント「そうだな」
…………
旅男「桃が撃ち殺されたのは俺が叩き殺したルビーイーターじゃなく、逃げた方だった」
藍「じゃあもしかしたら」
旅男「仇の可能性があるな、ルビーイーターなんてこの辺りには数体しかいない」
藍「絶対仇ですよ」
旅男「なんで言い切れるよ?」
藍「運命ですから!」
旅男「……」
旅男「はっ、映画の見過ぎだ!」
…………
I地区を彷徨う巨大なルビーイーター
ハンターを狩り、サンルビーを食らう食性の、化け物の中の化け物だ
ルビーガンも通用せず、逆に閃光を放ってくる
近くのビルは次々に崩れていく
その形は大型アイアンイーターのような多脚型であり、角を生やし痩せたフォルムはファンタジーのドラゴンのようである
多くのビルが倒れ、舞い上がる粉塵を旅男と藍はビルの上から眺めている
旅男「運命……、か……」
藍「まさか……」
旅男「アイツだ、桃を殺したルビーイーター」
藍「アイツなんですね……」
旅男「あの特徴的な角、忘れる訳がねえ……」
藍「旅男さん、アイツと一緒に……」
旅男「……」
旅男「仕方ねえな、どいつもこいつも俺とアイツを引っ付けたがりやがって!」
藍「これはアーティフィシャルな運命じゃありませんよ!」
旅男「分かってる」
旅男「桃への思いも桃の仇と一緒に、断ち切ってくる!!」
旅男はルビーイーターの死角を狙い、ビルを縫ってルビーイーターに近付いていく
崩れるビルの粉塵が凄まじい
旅男「さて、どう近付くかな……」
ビルの影に隠れる旅男に近付く男がいた
友「そうだな」
旅男「!?」
友「久し振りだな、旅男」
旅男「友!」
旅男「この野郎、こんな美味しい所だけさらう気か!」
友「お前の討伐の邪魔をしに来た訳じゃない」
友「お前、まだ桃の事迷ってるだろう」
旅男「……ああ」
友「その迷いを断ちに来た」
旅男「何を……、ぐおっ!」
旅男は友に強かに殴りつけられた
友「いつまでもウジウジしてるんじゃねえよ、あんな可愛いお嬢さんがお前を待ってるのに!」
旅男「何?」
遠くのビルの上、数人の人影がある
帽子「……旅男……」
帽子「旅男……、死なないで」
…………
友「お前がアイツを倒すんなら、俺もお前に謝ろうと思う」
友「落ち込んでるお前から離れて、お前を余計に苦しめちまった事を……」
旅男「それは全然気にしてない」
友「ちょっとは気にしろよ!」
旅男「はははっ」
旅男「ちょいと狩ってくるわ」
友「おう」
旅男はすっかり吹っ切れた
ルビーガンを冷却線モードにセットする
何発かルビーイーターを撃つと、効果が有ったようだ
より激しく全身の砲門からレーザーを吐き出すルビーイーター
旅男はビルを幾つか挟んでその嵐をやり過ごす
何度か冷却線を浴びせ、レーザーを吐かせると、やがてルビーイーターのレーザーの出力は落ちてきた
旅男「この戦術は使える!」
ルビーイーターはレーザーを吐くのをやめて走り出した
こちらに向かってきたかと思えばビルの影に隠れる
ルビー保持型を更に上回る高速だ
その上戦術も身に付けていた
これが旅男達の最強の敵なのだろう
旅男は出来る限りの距離を取り、ルビーイーターを冷却線で撃つ
反撃のレーザーも少なくなって来ていた
思い切って懐に飛び込み、ルビーブレードで斬りつけ、尻尾を叩き斬る
出来る限りルビーイーターの攻撃手段を削らなくてはならない
六本ある脚の内、右後ろの脚を斬りつけた
すかさずその場から跳ねて下がり、暴れるルビーイーターから一旦離れた後
旅男「ふう……、タフな敵だ」
旅男が一息ついていると遠くから足音が響いてくる
そうだ
この地区にはあいつがいた
EE「アンギャーッ!」
旅男「EE!」
旅男はEEがレーザーで撃たれるのを避けるため、EEとは反対に回り冷却線を撃ちまくった
ルビーイーターが旅男の方に向き直った瞬間、EEがルビーイーターに食らいつく!
ルビーイーターの絶叫!
旅男はルビーイーターの真正面に立ち、下顎を斬り払い、下から上顎にルビーブレードを叩き込んだ
ルビーブレードの刃先から噴き出すレーザーの刃がルビーイーターの鋼の骨格を焼き斬り、その奥にある脳を焼き斬っていく
そして頭が落ちてくるのを慌てて避けた旅男
EEは勝利の雄叫びを上げた
旅男「やったか!」
旅男「……まさか賞金博士と山分けかな……?」
旅男がEEの鼻先を撫でてやっていると、後ろから奇襲を受けた
旅男「この貧乳……帽子だな!」
帽子「貧乳で当てられた!」
帽子「……おめでとう、旅男」
旅男「ああ」
旅男「おい帽子、顔になんかついてるぞ?」
帽子「へ?」
旅男は帽子の顎に手を当てると
優しくキスをした
藍「あらあらまあまあ」
旅男「げっ」
…………
眼帯「お嬢ちゃん、帰るのか?」
帽子「うん、迎えが来たしね」
眼帯「そうだな」
マント「AHの国にあんたらが入らないのは寂しいが、仕方ないだろう」
友「あいつは寂しがりだから、もう離さないでやれよ」
帽子「知ってるし、分かってる」
帽子「もう離さない」
旅男「はあ……、仕方ねえ、年貢の納め時って奴か」
友「まあまだ手を出すのは早いかな?」
女医「旅男さんってロリコンだって友達が言ってた」
旅男「その友達酒場に居着いてるだろ」
藍「じゃあ、帰りますか」
旅男「ああ」
…………
旅男達は眼帯達やEEに別れを告げると、A地区への家路に着く
旅男「EEに乗って帰れたら楽だと思わねえ?」
帽子「乗り心地悪いよ、EEちゃん」
旅男「もうすぐA地区か、帰ってきたな」
帽子「そうだね、久々だ」
旅男「帰ったら何食おうかな」
藍「最低でも一億五千万ですかあ」
旅男「EEが入ってこなかったらなあ……」
帽子「仕方ないって、それも運命!」
旅男「運命か」
帽子「これも運命!」
帽子は旅男を抱きしめた
旅男「これは良い貧乳」
帽子「躊躇えよ」
藍「良いなあ」
旅男達がA地区の入り口にたどり着くと茶髪と博士が待っていた
藍「仕事もせずに帰ってきましたよ~!」
旅男「藍はノーギャラか、なんか奢るわ」
藍「私は映画です、映画を観ます!」
旅男「仕方ねえ、観るか」
帽子「ボクもいい?」
藍「もちろんです!」
旅男「俺の金だろ!」
旅男「……さあ、メンテして、飲むぞ!」
博士「お帰り、旅男、藍、帽子」
帽子「ただいま」
茶髪「お帰り!」
旅男「ああ、ただいま!」
――終わり――
おまけ
――I地区・地下街――
I地区地下街は荒廃していた所をAHの国を目指す者達が開拓
安定した居住空間を作り出している
外部との取引も行っており、AHに必須のエネルギー剤などの確保も滞りなく行われている
危険区域であるためAH以外が訪れる事は珍しいが、普通の人間もいる
居住上の問題点は娯楽が少ないことくらいであろうか
眼帯「お嬢ちゃん、また来たのか」
帽子「赤ちゃん見たかったからね~」
マント「ここに住んじまえば良いのに」
帽子「遊ぶ所無いからやだ」
マント「あいたた……」
眼帯「そのうち映画館やレストランくらいは作ろうと思うが、まあしばらくはAHの人材集めだ」
帽子「ただでさえ少ない上に、AHは狩りで死んじゃう人も多いから大変だね」
眼帯「生産ももう行われてないからな……まあこうやって餓鬼が生まれてきはじめたのが幸いだが」
帽子「子供の身体能力や健康状態を聞いてこいって博士に言われたんだけど」
女医「概ね異常は見られない。 AHとしての能力も持っている」
女医「母体もダメージは少ないな。 案ずるより産むが安し、か」
帽子「でもやっぱり危険性は高いんだよね」
女医「管理状態がしっかりしていないならやめた方がいいな」
女医「博士ちゃんなら大丈夫かも知れないが……まあ先の話か」
帽子「このままAHが増えていくとどうなるんだろう……」
眼帯「オールドタイプに溶け込めたら良いが、多少の差別や問題は起こるだろうな」
眼帯「とは言っても止める気は無いが」
帽子「平和に子供を作れる社会になったら良いね……」
マント「そうだな」
…………
旅男「さあ、二億分ゆっくり休もうか」
藍「映画行きましょう、グレイトフルゾンビライス」
茶髪「嫌なネーミング」
旅男「どっかのチェーン店のメニューっぽいな」
藍「協賛です」
旅男「パス……、またあのチェーンで飯を食ってたら思い出しそうだ」
博士「釣りに行くか」
旅男「良いねえ」
藍「じゃあ食事だけ奢って下さいね!」
旅男「もちろん」
茶髪「飯だ~」
藍「最近できたCDショップも行きたいな~」
旅男「まあ色々行ってみようぜ」
…………
旅男「よしきた、大物だ」
博士「所で帽子とはどこまで進んだんだ?」
旅男「いきなりなんだセクハラ親父少女」
藍「私も聞きたいな~」
旅男「なんもねえよ、まだあいつ十四だぞ?」
博士「私はいつでもオッケーだ」
旅男「ねえよ」
帽子「浮気したら許さないから」
旅男「うわあっ!」
博士「お帰り、どうだった?」
帽子「うん、順調みたいだったよ」
博士「AHの国なんてこだわりは差別的で好きではないが、まあ上手くいってるなら良かった」
帽子「旅男、子供作ろう」
旅男「いきなりストレート過ぎるだろ!」
帽子「まあ二十歳になるまでは待ってね」
旅男「おう」
藍「いいですね、幸せそうで」
茶髪「……」
博士「私は茶髪君でもいいぞ」
茶髪「……」
旅男「真っ赤になってんじゃねえマセ餓鬼」
帽子「あ、旅男、引いてるよ!」
旅男「お、よしよし」
博士「次のハントはどうするか」
旅男「イーターイーターを作りに行くか、森を作りに行くか……」
旅男「……ま、この先ものんびりやろうか!」
――おまけ、終わり――
ちゃんと更新できてるのか不安ですが、このお話はここで終わりです
中央政府に逆らうような風呂敷の広げ方も考えていましたが、準備が足りなかったのもあって、小さな恋の物語を主題にしました
次回作も作れたら良いなあ
SFは初めてで表現が受け入れられなかったのも素直に受け止めています
次もSFですが、楽しんでいただけたら幸いです
プロットはもう出来ています
来週か再来週には書き始めようと思ってます
見つけて下さったら嬉しいです
では、また
所で皆さんガタカって映画知ってますか?
ジュードロウ大好きなんで知ってるんですが、リアルなSF映画です
リアル故に派手さは無いんですが、このお話が好きになったらぜひ見てみて下さいね!
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