ココア「インターディメンド?」(125)

 
 ようこそ。
 ここはご注文はうさぎですか? の世界。平和で、大きな問題など見当たらない理想的ともいえる世界です。
 そんな世界の、木組みの家と石畳みの街。そこに住む少女、ココア――主な主人公は彼女と、あなた達自身。
 彼女はどうやらとある少女と仲良くなりたいそうです。あなた達の役割は、ココアを導き、物語の結末を見届けること。
 ……さて、ゲーム開始の前にいくつかルールが存在します。

 ※1 安価あり。基本選択肢を選んでもらうものになります
 ※2 インターディメンドやダイブの設定が本家と違う、というのはよくあること
 ※3 ごちうさ原作三巻までの知識
 ※4 真面目な場面でしくじるとコンティニューあり。コンティニュー後は間違えた選択肢は消えます。
 ※5 行き当たりばったり

 説明は以上です。

長くなりましたがこのSSはこれで終わりです。
ここまで支援、保守をしてくれた方々本当にありがとうごさいました!
パート化に至らずこのスレで完結できたのは皆さんのおかげです(正直ぎりぎりでした(汗)
今読み返すと、中盤での伏線引きやエロシーンにおける表現等、これまでの自分の作品の中では一番の出来だったと感じています。
皆さんがこのSSを読み何を思い、何を考え、どのような感情に浸れたのか、それは人それぞれだと思います。
少しでもこのSSを読んで「自分もがんばろう!」という気持ちになってくれた方がいれば嬉しいです。
長編となりましたが、ここまでお付き合い頂き本当に本当にありがとうございました。
またいつかスレを立てることがあれば、その時はまたよろしくお願いします!ではこれにて。
皆さんお疲れ様でした!

 
 ついに完成した。
 その人物は自分の興奮を抑えることができなかった。
 勝ち目のない戦いに勝利するための最終手段。おおよそ現実では考えられない不思議なチカラ。
 それをその人物は完成させた。
 まずは実験。誰かに試すとしよう。
 口元に笑みが浮かぶ。もし成功しそのまま進めば、未来は無限大。きっと、自分が納得する結末も訪れる。
 笑顔を浮かべ、その人物は部屋から出た。

面白そう

 
 休日の朝。ラビットハウス。
 
ココア「ぐー……すぅ」

ココア「うーん……もう食べられな――っ!?」ガバッ

 シンとしている室内。何かの気配を感じココアは身体を起こしたが、誰もいない。

ココア「え? 気のせい、なのかな。誰かいたような気がしたのに。あれ? なんだろうこれ」

 何も変わらない。なのに自分はなにを感じ、起床することができた。そのことに疑問を抱く。
 何か、いつもと違うような気がし、ココアは周囲を見回す。すると、部屋のテーブルの上にメモを見つけた。

ココア「なになに……」パラッ

ココア「『インターディメンド』?」

 聞いたことがない単語だった。彼女はメモの文字を読んでいく。
 なんでも、インターディメンドとは他次元の力を借りる技術のことを指すらしい。
 そしてココアはその技術に適正があるらしい。


ココア「――よく分からないけど、便利そう……。でもなんで私なんだろう?」

 聞いたこともない未知の技術。けれど彼女はすぐ信用した。最初にわいた疑問はなんで自分に、そして何故自分の部屋にメモが、ということ。

ココア「誰かに相談したいけど――」

 また、メモにはこうも書いてあった。
 このことについては他言無用。願いをも叶えかねない強力な加護を得るため、悪用されるようなこともあるらしい。
 何もかも怪しい。だが、ココアの心に『願いを叶えかねない強力な加護』という言葉が強く響いた。
 自分の望み。それは――ある少女と仲良くなること。

ココア「試すだけなら……いいよね」

 きっと、技術と言ってもメモでできることなど、おまじない程度の筈。
 ココアは寝起きの頭でメモを読み耽った。


 『インターディメンド。
 その対象となった者は他次元からの干渉を受け、大いなる加護を受ける。
 他次元からは対象者の世界を様々な形で見、影響を与えることができる。
 今回は不特定多数の人物が、対象者へ大きな転機が訪れた時、提示された選択を行うという形だ。
 レベルとしては中程度。選択肢自体、自由を狭めるもの。それに選択肢は比較的健全なものに限られており、特別異常な行動をとることもない』

ココア「っていうことは、健全じゃない選択もあるってことだよね……ちょっと怖くなってきたかも」


 恐怖心はある。だが、リスクがあるのは現実も同じ。
 それを恐れていては何もできないというのも、同じ。
 安全だということは文面からなんとなく分かった。

ココア「よっし! やるよ!」

 そうと決まれば行動開始。ココアは立ち上がり、テーブルに再度視線を向けた。
 メモによると、対象者となるためのペンダントがテーブルに置かれているらしい。

ココア「これ、かな」

 テーブルの上。陽の光に当たり輝くペンダント。何かの真空管、だろうか。
 デザインはいまいちだけれど、アナログな感じがココアにかっこよく見えた。

ココア「これをつけて――」カチャ

 ペンダントを首に。メモに書かれていた開始の合図は――

ココア「チノちゃんと仲良くなりたい!」

 願いを公言すること。

 
ココア「……」

 シーン……。

ココア「こ、これでいいのかな?」

ココア「えっと――他次元のみんな、聞こえてる?」

ココア「私ココア。不特定多数で見てるって聞いたけど、どんな形で私のことを見てるのかな?」

ココア「私のお願い、叶えるために協力……って独り言みたいで虚しい」ハァ

ココア「――よし、早速試しに行こうかな。今の私ならいける気がするよ! なんとなく!」

 真面目な彼女のことだ。もう起きているだろう。
 ココアはメモを丁寧に折り、棚にしまっておく。そして意気揚々と着替えをはじめた。

 
 ラビットハウス。居間。
 手早く着替えを行い、身支度を整えたココアはまっすぐそこへ向かった。
 今は休日の朝。確かチノはこの時間、朝食をしている筈だった。

ココア「おっはよー! チノちゃん!」

チノ「あ、ココアさん。おはようございます」

 予想通りいた。
 朝に自分一人でココアが起きてきたことに驚いているのだろう。その目は微かに大きく開かれた。

チノ「珍しいですね。ココアさんが早起きなんて」

ココア「うん。私でもそう思うけど――」

 選択
1・「お昼寝したからかな」
2・「チノちゃんに会いたかったから」
3・「チノちゃんモフモフしたい!」

 選択権 このレスから1つ下。

1
期待

 
ココア「お昼寝したからかな」

チノ「お昼寝……ですか?」

 答えを聞いたチノが首を傾げる。それもそのはずで、昨日は平日。
 一般的な高校生なら昼寝をする時間はあまりないのだが――

チノ「いつお昼寝を?」

ココア「え? 私なにか言った?」

 きょとんとするココア。チノはいよいよをもってその表情に混乱を浮かべる。

ココア(あ、もしかして……)

 インターディメンド。その単語が思い浮かぶ。
 他次元から干渉する者が、たった今自分の答えを選択してくれたのだろう。

ココア(なるほど……。これは便利かも)

 自分とは違う視点の選択。自分らの事情を知っているかは分からないが、一人ではないことは大きな安心感があった。お昼寝というのも、それほど悪くはない答えだ。

ココア「学校とか、喫茶店で働いているときちょこちょこ、かな」

 チノの台詞を思い出し、苦笑しつつ答える。するとチノはほっとするように息を吐く。

チノ「そ、そうですか。……って、昨日寝てたんですか」

ココア「春の陽気が気持よくて。それにお客さんも少なかったから……えへへ」

チノ「相変わらずですね。ご飯食べます?」

ココア「うん、食べる。お腹空いたんだー」

 いつもと変わらないやりとり。笑顔を浮かべつつ、ココアは思う。これでもいい。でも、もっと仲良くなりたいのも事実。
 何か手はないのだろうか。
 
 【チノの精神世界へのアクセスが解禁されました】


 行動選択(?は選択不可)
 1・ラビットハウスでバイト
 2・外に出かける(甘兎or街を散策)
 ?・ザッピング
 ?・ダイブ

 選択権は1つ下


ココア「うん、ラビットハウスでバイトしよう」

ココア「朝ごはんも食べたし、元気一杯だし」

ココア「チノちゃんには、今日は別に手伝わなくていいって言われたけど、折角のチャンスだからね」

 朝食を食べ終え、しばらく。
 時折チノにまとわりついたりして、ぐーたらしているとあっという間に開店時間が近づいてきた。
 自室のベッドに座り考えて出た結論は、働くこと。
 それ以外の選択もあったのだが、折角皆がいてくれるのだ。チノといたほうがいいに決まっている。

ココア「よーし、頑張ろう!」

 制服に着替え、ラビットハウスの店内へ。そこには既に制服姿のチノがいた。


チノ「ココアさん。どうしたんですか? 制服に着替えて……。まさかお店のお手伝いを?」

ココア「うん。特に予定もないから、お手伝いしようかなって。大丈夫かな?」

チノ「構いませんけど、いいんですか? 休みの日なのに」

ココア「平気平気。チノちゃんのためならえんやこらだよ」

チノ「なんですかそれ。まぁココアさんが言うならいいです。ありがとうございます」

 チノは心なしか嬉しそう――に思える顔をし、ふぅと息を吐く。
 会話が終わり、彼女はカウンターを丁寧に拭き始める。何をするかはココアに任せるらしい。

ココア(そろそろ、何をするべきか選択――来たりして)

選択
1・チノちゃんにいつも以上に構う
2・時給は出ない。ならば楽しくパンを作ろう

 選択権は一つ下

2

ココア「私パン作ってくるね」

 確かリゼも来るようなことを言っていた。ならば自分がすることは殆どないだろう。
 どうせぼんやりするくらいなら時間を有意義に使いたい。
 そこで、自分が得意とするパン作りだ。これならばチノだけでなく、お客さんに配布することもできる。
 まさに一石二鳥であった。

チノ「パンですか? いいですね。楽しみです」

ココア「ふっふっふ。時間もあるし、期待しててねチノちゃん」

 ココアは意気込んで厨房へと駆けていった。

 お昼時。厨房にこもっていたココアはようやくパンを完成させた。

ココア「できたー!  うん、いい出来!」

 前々から構想はしていた新作パン。会心の出来にココアは感嘆をもらす。

ココア「ラビットハウスの看板をモチーフにした、カップとウサギのコーヒーパン……惚れ惚れする出来だよ」

 見た目は勿論、味にもこだわった逸品である。

ココア「これもみんながいるからかな。……いまいち、どこで選択してくれてるのか分からないけど」

 言葉もなにも聞こえてこない。ただ、得意のパン作りもいつもより腕前が向上しているような気もした。

ココア「ありがとう、みんな。よーしっ、これでアピールするってことだよね!」

ココア「数は10個くらい作ったし、全員に行き渡る……最初に誰に渡すか、だね」

ココア「ここはやっぱりチノちゃんだよね。うん、行こうっ」


ココア「チノちゃーん!」ダダッ

チノ「完成しました?」

ココア「うん! どうぞ、チノちゃん」

 ラビットハウスのカウンター。その中へいたチノに、パンを手渡す。包み紙に包まれたそれを見て、チノは目を輝かせた。

チノ「これは……まさにラビットハウスのパンですね。においもいいです」

ティッピー「これは嬉しいのう。チノ、早速試食じゃ」

 テンションを上げる一人と一匹。腹話術までして喜んでくれるチノに、ココアは恥ずかしそうに笑う。

チノ「はい。……もぐ」パクッ

ココア「ど、どうかな?」

チノ「美味しいですね。大人な味です」

ココア「本当っ? よかったぁー。リゼちゃんもどう?」

リゼ「ああ。私にも食べさせてくれ」

 接客から戻り、ココアらの元へ来ると頷くリゼ。と、そのタイミングでちょうどよく彼女のお腹が鳴った。

ココア「リゼちゃん、そんなに楽しみにしてくれてたの?」

リゼ「ち、違――わなくはない。いい香りがしてお昼時のお腹には辛いんだ」

チノ「ちょうどいいですし、交代でお昼ご飯にしましょう」

ココア「うん。じゃあすぐ用意するね」

 赤くなるリゼ、パンをかじるチノ。二人を去り際に見、ココアはホッと安心する。
 間違いなく成功、だろう。

 
 ラビットハウス。夜。ココアの自室。

ココア「……うん」

 今日一日を思い返し、ココアは一人頷いた。
 だらだらしたり、適当に散歩に出るよりはるかに充実した休日であった。
 良い日であったと言えるだろう。だがココアの願望が達成するかどうかと言われれば、微妙なところだ。

ココア「もっと、なにか……ないのかな」

 日常だけでは、彼女、チノの奥深くを知ることはできない。
 もっと、心を覗きこむような何かがあれば……あるいは。

ココア「なんて、都合いいことないよね」

 嘆息。腰掛けていたベッドに寝そべり、ココアは天井を見上げる。

ココア「チノちゃん……もっと笑うようになってくれないかな」

 小さな少女の影。太陽のようなココアだからこそ、チノの表情、時折見せる悲しげで寂しげな表情のことが気にかかった。
 ココアが彼女と仲良くなりたいと願うのも、それを気にして。年頃のようにもっと笑ってほしい。楽しい思いをしてほしい。お節介だと分かっていても、その願いを捨てることはできなかった。

ココア「――明日も頑張ろう」

ココア「今日はもう遅いから寝るね、みんな」

 目を閉じ、ココアは語りかける。徐々に眠気が襲ってきた。

ココア「みんなの世界はどんな場所なのかな?」

ココア「やっぱり、チノちゃんみたいな子もいるのかな」

ココア「ちっちゃくて、モフモフで、大人しくて、人見知りで……」

ココア「みんなは……その子の、力になれたりしてるんだろうなぁ」

ココア「私は、何もできないから羨ましいよ」

ココア「……ん、う」

 眠りに落ちていく。あっという間にも思えた一日。その終わり。
 いつか来る別れの日まで、何ができるのだろうか。
 まどろむ意識は疑問を投げかけるばかりで、答えは出なかった。

『私は何も知らなかった』
『幸せの中に潜む何かを』
『その何かに対する対応を』
『奪われる悲しみを』
『何もできない苦しみを』
『世界はどこまでも残酷で、きっと、全ていなくなってしまう』
『――そう』
『奇跡がなければ』

【ダイブ:香風 智乃  LV.1 『旅立ちの駅』を開始します】

 知らない場所。時刻は不明。

ココア「うーん……これはキリマンジャロ……で、こっちが、オムライス」ムニャムニャ

???「起きて、ココアちゃん」

ココア「ええっ……オムライスと逆? それは流石に――」

???「ココアちゃん。何の夢みてるの。ほら、そんなギャグチックな夢みてないで、早く起きて――」

ココア「本当だ……ケーキと間違ってる。私、やっぱりバリスタには」

???「とうっ!」ドンッ

ココア「けふぅ!? な、なに!?」ガバッ

ココア「あ、あれ……?」

 何かの衝撃を受け、目を覚ましたココアは首を捻った。
 自分が座っているのは何もない場所だった。青色一色で、他にはなにもない。
 ココアが座っている、物理的に床がある筈の場所にもなにもない。ただ透明な、目に見えない壁のようなものがあるだけだ。

ココア「夢?」

 とても現実味があるとはいえない光景。当然のように彼女は夢と結論するのだが。

???「夢じゃないよ」

 それを否定する声が、ココアの足元から。そういえば、起きる前に何者かの声を聞いたような気もした。

ココア「……えっ?」

 慌てて下へ視線を向ける。するとそこには

ココア「……ティッピー?」

 白くてモフモフした生物、ティッピーがいた。

???「ティッピーじゃないよ」

ココア「そ、そうなのっ?」

???「私はチッピー。チノちゃんの心の護。初めましてだね、ココアちゃん」

 チッピー。そう名乗る毛玉はぺこりと頭を下げる。が、毛のせいで丸い形が少し凹んだくらいにしか見えない。

ココア「……確かに、声も違うし――って、なんで喋ってるの!?」

 一瞬納得しかける。しかしココアは気づいた。
 声が違うもなにも、ティッピー自体が声を出しているわけではない。腹話術をする人物次第で、ティッピーの設定は変わるのだ。
 つまり、誰かがティッピーの声を出しているに違いない。

ココア「誰かいるんだね!」

 きょろきょろ。辺りには青。そして自分。チッピーと名乗るティッピー。

ココア「……まさか私の幻聴」

チッピー「もう少し自分を信じてもいいんじゃないかな」

ココア「でも、うさぎが喋るのって……」

 信じられない思いでココアはチッピーに触れる。

ココア「モフモフ……ティッピーとはまた違う」

 柔らかい感触。幸せな手触りに、一瞬で細かいことはどうでもよくなった。

チッピー「あのー、ココアちゃん。説明いいかな?」

ココア「もふ――説明?」

チッピー「うん。これからはじまることについて。ちょっと長くなるけど――」

 ぴたりと、そこで台詞を途切れさせるチッピー。

ココア「長くなるけど?」

チッピー「長くなると思ったけど、いいや。体験した方が早いよね」

ココア「え゛?」

 不穏な響きの言葉にココアは硬直する。次の瞬間、彼女の視点は暗転した。

ココア「……うん?」

 暗転した視界が正常に戻る。時間にして瞬き程度。
 僅かな時間視界は黒に包まれ、次の瞬間目を開くとそこは何もない空間から目に見えて変化していた。

ココア「うわぁ……なにこれ」

 夢にしては意識がはっきりしすぎている。しかし現実にしては不思議すぎる。
 わけの分からない状況ではあったものの、ココアは不思議な光景に目を奪われていた。

ココア「駅に街に……ロケット?」

 目の前に広がっているのは、絵本のような景色。
 ココアらの住んでいる街に似た、見慣れた街並み。そして巨大な駅と汽車。更にはビルのようにそびえているロケットだった。

ココア「チッピー……はいないし、どこかに行くべきなのかな」

 じっとしているわけにも行かない。ココアは顎に手を当て、どこに向かおうか考えた。

 選択
 1・見慣れた街
 2・巨大な駅
 3・ロケット

 選択権はこの一つ下

3

な、何が始まる??

ココア「よし! まずは目立つ場所だよね! 定番として」

 思考は突然終了。結論を出して、ココアはとりあえず目につくロケットへと向かっていった。

 ○

 ロケット前。

ココア「ほえー……」

 遠くからでも巨大に見えていたロケット。近くから見るとそれは更に巨大に見えた。下から見上げても先が見えることはない。

ココア「でも、なんか玩具みたい」

 上が三角。胴体が円柱。そして窓が数個。下は四角に、二等辺三角形が二つ。
 簡単に言えば、積み木で作ったようなシンプルなフォルムをしているそれ。これが飛ぶかと言われれば、断じて否だ。

ココア「なんなんだろう、これ」

 飛ぶかは分からない。だがこうもあからさまに目立つのだ。なにかあるのだろう。
 ココアはロケットの周りに視線を向け、そして看板と一人の少女を見つけた。
 看板の方は至って普通の木製の者だったが、その傍らに立つ少女には見覚えがあった。

ココア「シャロちゃん?」

 何故かフルール・ド・ラパンの制服を身にまとった――シャロ。
 彼女はココアが視界に映っているであろう距離と方向を観ているのだが、反応を示さない。ただぼんやりと前を見ていた。

ココア「シャロちゃんっ。良かったぁ、知ってる人に会えて。ここどこか分かる?」

???「ここは立ち入り禁止区域です。そして私の名は案内うさぎです」

ココア「へっ? ええと、どういうこと?」

 迷いどころか、感情のない言葉にココアはぽかんとした。シャロの目は未だココアを捉えず虚空を見たまま。まるで機械のようだ。

案内うさぎ「看板を見てください」

ココア「う、うん……」

 看板を見る。

 『時が来るまでこのロケットに乗ることは禁止されています。危険なので決して近づかないよう』。

 簡潔で、それでいて意味が分からない警告だった。
 とりあえずここにいるのはいけないことらしい。

ココア「禁止なのは分かったけど――シャロちゃん、なんでここにいるの? あと、冗談とかじゃ……」

案内うさぎ「私はここに立ち、人々が誤って乗らないよう警備することが仕事ですから。それと、シャロではありません。案内うさぎです」

ココア「う、うん……わかったよ」

案内うさぎ「用件はそれだけですか? では、すみやかにここから離れてください」

 チャキッ、とシャロがどこからともなく銃を取り出す。彼女はココアを見ないままその銃口を向けた。

ココア「しゃ、シャロちゃんっ!? それ危ないような――」

 慌てて、やめさせようと一歩踏み出すココア。刹那、銃声が響く。

案内うさぎ「警告です。これ以上前に出るならば、容赦なく撃ちます」

 地面に空いた小さな穴。それを見ただけで威力は十分理解できた。間違いなく本物だ。

ココア「ご、ごめんなさい!」ピューッ

 ココアは慌ててその場から走り去った。
 その瞬間、ようやくココアは理解した。あのシャロは本物ではない。シャロの姿をした何者かなのだと。

 選択
 1・見慣れた街へ
 2・巨大な駅へ

 選択権は一つ下

1

ココア「はぁっ、はぁ……っ」

 息が切れるまで、限界がくるまで走る。
 とにかく危険から、ロケットから遠ざかっていくと、ココアは自然と街にいた。
 見慣れた木組みの家と石畳の街。今年の春からやって来た、第二の故郷だ。
 街並みはまったく同じ。だが、おかしなところが多々あった。

ココア「……誰もいない」

 街に誰もいないのだ。しんと静まり、辺りは無音。ココア自身の呼吸の音が、鼓動すらも大きく聞こえる。

ココア「どこなんだろう、ここ」

 立ち止まり、改めて考える。
 夜になり、自分は寝た。そして不思議な場所でチッピーという生き物に遭い、気づいたらここにいた。
 夢でも現実でもない。今まで経験したこともない不思議な現象だった。

ココア「考えても分からないよね」

 自分の頭ではたかが知れている。
 思考にふけっていた頭をぶんぶんと振り、ココアは嘆息する。

千夜「あ、ココアちゃんじゃない」

 と、そこへよく見知った人物が通りがかる。

ココア「千夜ちゃん! よ、よかったー! 千夜ちゃんは千夜ちゃんだよね!? 私のこと分かるよね!?」

千夜「え? 勿論分かるけど……」

ココア「うえーん! 千夜ちゃーん!」

 自分の友人が見つかった。そのことに安堵し、ココアは駆け寄る。千夜は彼女のことを優しく受け止め、抱きしめた。

千夜「どうしたの? ココアちゃん。怖いことでもあった?」

ココア「うんっ。シャロちゃんに会ったら銃を向けられて、みんないなくて――寂しくて」

千夜「――それのなにがおかしいの?」

ココア「え?」

千夜「ココアちゃん、疲れているの? ここに人がいないのは昔からだし、シャロちゃんは昨日ここを去ったじゃない」

 笑顔で言われる言葉。ここは現実とは違う。それを分かってはいたが、ココアは動揺を隠せなかった。

ココア「そ、そう……なの?」

千夜「ええ。みんながここを旅立つのは当然のこと。決まりなのよ」

ココア「なんで?」

千夜「決まりだから。今日もリゼちゃんがここを出るわ。いつかはココアちゃん、あなたもここを出ることになるのよ」

ココア「リゼちゃんがっ!?」

 飛び上がるココア。リゼが遠くに行くというのに、何故この千夜は笑顔を浮かべているのか。

ココア「なんで止めないの!?」

千夜「そういう決まりだから」

 また、同じ答えが返ってくる。きっと彼女もまたさきほどのシャロと同じような存在なのだろう。

ココア「それって、ロケットでするの?」

千夜「いいえ。駅で汽車から旅立つのよ」

 それだけ聞いて、ココアは駈け出した。リゼはもしかしたら、自分の知っているリゼかもしれない。そんな希望を抱いて。

 巨大な駅。
 ホームのみがある大きな駅には、建物の二、三階ほどの高さはある汽車が停車していた。

ココア「リゼちゃーん!」

 間に合ったようだ。汽車の近くに見える、リゼの人影にココアは手を振りつつ駆け寄る。
 振り向いた彼女は気さくな笑顔を浮かべた。

リゼ「ああ、ココアか。どうした?」

ココア「どうした? じゃないよ。ここから出て行くんでしょ?」

リゼ「まぁ、そうだな。それがどうかしたか?」

ココア「だめだよ! リゼちゃんが行ったら、私もチノちゃんも千夜ちゃんも寂しいし……」

リゼ「何言ってるんだ。お前もじき旅立つことになるんだぞ」

 リゼの表情に疑問の色が浮かぶ。ココアが自分を引き止めることを、本気で不思議に思うような顔で彼女は首を傾げた。


リゼ「それにここから外に出た世界は素晴らしい。楽しいことも沢山あって、様々なことがある。いつまでもこんな場所にひきこもっているわけにもいかないだろ」

ココア「それ、は……私も、止められない、けど。でも」

リゼ「というわけだ。私もみんなに続く。ま、いつか帰ってくるさ」

 笑顔で言い、リゼは汽車に乗っていく。止める間もなかった。おそらく時間があっても止めることはできないだろう。
 ココアは、これが現実でないことを祈ることしかできない。
 やがて、汽車は汽笛を鳴らし走り去った。徐々にスピードをつけ線路を進んでいき――そして消えた。と同時に、ココアの目の前に白い毛玉が現れる。

チッピー「……ここがどこか。なんでこんなことになっているか分かった?」

ココア「チッピー!?」

ココア「全然分からないよ。どうしてみんな……あんな」

 おかしな世界。自分に銃を向けてくるシャロ。去っていく友達のことを笑顔で語る千夜。嬉しそうに去るリゼ。
 なにもかもが理解することができず、まるで悪夢のようであった。

チッピー「うん、そうだよね。説明されてないんだし、普通はそう。でも現実でも夢でもないことはよく分かったでしょ?」

ココア「それは……うん」

 ここは現実ではない。でも夢でもない。何かしらの不思議な場所だということは理解できたのは確か。

チッピー「それで充分。さて、じゃあ説明しようかな」

 と、チッピーは宙に浮いてココアの頭に乗る。

ココア「や、柔らかい……っ」

 それだけで、割と心が落ち着くココアであった。頭の上でチッピーが語る。

チッピー「ここはね、深層心理の第一層。普段は誰も入れない場所」

チッピー「――チノちゃんの精神世界だよ」

ココア「精神世界? 深層心理? ええと……」

チッピー「要するに、チノちゃんの心の中、ということ」

ココア「ああっ、なるほど。分かりやすいね」

 心の中。つまりは、チノが生み出した世界ということ。チッピーが言っていることはなんとなく分かった。

ココア「でもなんで私がそんなところに?」

チッピー「それは多分、インターディメンドの影響と、ココアちゃん自身の想いのせいかな」

ココア「私の……」

チッピー「心の中を覗ければ、間違いなくその人のことをよく知れるから」

 確かに、何を思っているのか、悩んでいるのか、それが分かれば仲良くなることもできる筈だ。自分の願望を叶えることへの近道とも言えなくもない。

チッピー「ここに来れるのは悪い話じゃないでしょ?」

ココア「うんっ。ここが現実じゃないなら、今までのもそれほど深刻に考えなくてもいいし」

チッピー「そうでも……ないんだけどね」

ココア「そうなの?」

チッピー「うん。ここはチノちゃんの世界。だからここに現れるものはすべて彼女が生み出した、彼女の分身。大体のことに理由はあるし、そこに干渉すればチノちゃんに何らかの変化が起きる可能性もある」

ココア「なるほど……よく分からないや」

チッピー「まぁ、そのうち分かると思うよ。それにココアちゃんには頼もしい味方もいるし、多分心配ないと思う」

ココア「味方――みんなのこと?」

チッピー「うん。不特定多数の協力者。彼らは視点があれば、ココアちゃん以外の人を見たり、過去を自由に振り返ることもできる。きっと導いてくれるはずだよ」

ココア「イマイチ効果は分からないんだけど……すごいことのように聞こえるね」

ココア「……それで、私は何をすればいいのかな? 帰れたりする?」

チッピー「うん。帰ろうと思えば自由に帰れるはずだよ」

チッピー「で、ココアちゃんがここでするべきなのはより深い階層に入り、チノちゃんを理解すること。チノちゃんと仲良くなることを望むならね」

ココア「望むよ。そのためにインターディメンドもしたんだから」

チッピー「そうだね。じゃあ、どうすればいいか話すよ」

チッピー「ここがチノちゃんの精神世界だってことは分かったよね?」

ココア「な、なんとなく……」

チッピー「うん。なら大丈夫。ここはまだ第一階層だから、それほどチノちゃんはココアちゃんに心を開いてはいない。だから――」

ココア「ええっ!? 私、そんなにチノちゃんに信用されてないの!?」

チッピー「当然だよ。まだまだ一緒にいる時間も短いし、ここは心の中。自分でも把握できない無意識で、他人を受け入れられると思う?」

ココア「思う! チノちゃんは私の妹だし、私なら即大歓迎だよ!」

チッピー「ココアちゃんは幸せ者だよね、ある意味」

チッピー「まぁとにかく、チノちゃんの心はココアちゃんを受け入れていない。だから低い階層にしかまだ入れない。これは当然のことで、普通なら心の中に一歩足を踏み入れるだけでも驚くことなんだ。普通なら入ろうとした時点で他人を弾いちゃうからね」

ココア「……うーん、ということは、えっと」

チッピー「それなりに信用しているってこと」

ココア「そうなのっ!? ほっとしたよー」

チッピー「……大丈夫かなぁ」

チッピー「ここからさらに奥の階層に進むには、チノちゃんの信頼を得ることが大切になるんだ」

チッピー「この世界を歩きまわって、ココアちゃんはココアちゃんの思ったように行動する。そしてみんなはそれをサポートする。困難も多いだろうけど、多分それで大丈夫」

チッピー「チノちゃんにひどいことしたい、とか思わないでしょ?」

ココア「当然だよ!」

チッピー「うん。なら大丈夫。きっとココアちゃんはここから先に進むことができるよ」

チッピー「ココアちゃん。ここにあるものはチノちゃんに関係したもの。そのことを忘れないで、考えて行動してね」

ココア「うん、分かったよチッピー」

 頷いたココアは頭上のチッピーに手を伸ばす。が、その手は空振った。両手で確認するように自分の頭を触り――そして、チッピーがいないことに気付く。
 いつの間にか消えたらしい。

ココア「いない……本当に不思議な世界だね」

ココア「これからどうしようかな」

 選択
 1・チノを探す
 2・これまで行った場所を詳しく探索(街or駅orロケットいずれか選択)

 選択権は一つ下

1

 見慣れた街のラビットハウス。その前。

ココア「チノちゃんがいないことに気づいて、ここまで来たけど」

 無人の街を歩いてやって来たのは、現実の世界と変わらぬラビットハウス。ここならばチノもいる筈。
 そう直感的に歩いてきたのだが――1つ懸念があった。

ココア「チノちゃんも街を出て行ったり……してないよね」

 あり得ないことではないと、己の心が答えているのがよく分かった。
 街の住人だけではない。あのシャロやリゼまでもが、街を去ってしまったのだ。チノが出て行った後でもおかしくはない。

ココア「考えていてもしかたないかな。よし、突撃!」

 意気揚々と、ラビットハウスのドアを開く。カランカランとベルの音。聞き慣れたそれを心地よく思い、彼女は中へ足を踏み入れた。

チノ「いらっしゃいませ!」ニコニコ

ココア「……」バタン

 カラン。ドアが閉じられ、ベルの音が小さく響いた。冷静な顔をしたココアは、店前の看板を見た。

ココア「ラビットハウス……で、チノちゃん、だよね?」

ココア「すごい笑顔だった……見間違いじゃなかったら、満面の笑みだったよ」

ココア「思わずドアを閉めちゃうくらい」

ココア「もう一回。今度は覚悟するから大丈夫。うん」

ココア「――よし!」カランカラン

チノ「いらっしゃいませー! ココアお姉ちゃん!」

ココア「……! ただいまー! チノちゃん!」ダッ

チノ「あ、当店おさわりは禁止です」ヒョイ

ココア「ああっ、でもなんか嬉しい!」

 勢いあまってテーブルに激突。が、そんなことは気にならないくらいココアのテンションは上がっていた。
 笑顔で明るいチノ。そんな彼女が自分のことをお姉ちゃんと呼んでくれたのだ。テンションが上がらないはずがない。

ココア「……いたた。チノちゃん、この街にいたんだね」

チノ「ここは私の故郷ですから。私はずっとここにいますよ」

 笑顔で答えるチノ。トレイを抱え、現実と同じ彼女は快活な口調で言う。

ココア「そっか。良かった」

 理想的――なのだが、何故か何かが気にかかる。

ココア「……」

 チノから目を離し、ココアは店内を見回す。
 客はおらず無人。特におかしな点も見当たらず、現実と変わらないラビットハウスであった。
 ――ある一点を除いて。

ココア「あれってなにかな?」

 店内。その中心に置かれた奇妙なオブジェ。形はティッピーを型どっているようだ。金色に輝いており、大きさはチノの身長程度。巨大で、豪華な像であった。

チノ「この街の英雄、ティッピーの金像です」

ココア「え、英雄?」

チノ「はい。ロケットに乗り、飛び去った後この場所に戻ってきた――唯一の存在です」

ココア「ロケット?」

 ココアの脳裏に、あの巨大なロケットが思い浮かぶ。
 危険で、時が来たら乗れるというそれ。どうやら本当に飛ぶらしい。

 選択
 1・『ティッピー』はどこ?
 2・『唯一』?

 選択権は1つ下

ココア「唯一?」

 チノが何気なく言い放った言葉。それが引っかかった。
 唯一。つまり、他に『戻ってこなかった』人がいるということ。
 普段の自分では気づきもしないであろう疑問に、ココアは干渉なのだと判断する。そして同時に感心もした。

ココア「誰か他にもロケットに乗ったの?」

チノ「はい。二回、ロケットは飛びました」

ココア「一回に一人、合計二人ロケットで飛んだってことかな」

 尋ねると、首肯。

チノ「そうです。一人目はティッピー。二人目は母です」

ココア「チノちゃんの、お母さん?」

 ロケット。危険。時が来るまで。二人。母。ティッピーだけが戻ってきた。
 頭の中に言葉がいくつか浮かんでは消える。何か、分かりかけた気がした。

 が、あと一歩。はっきりとした結論は出なかった。

チノ「母は何も言わず、突然ロケットに乗って去ってしまいました。それっきりです」ニコニコ

ココア「チノちゃん、寂しくないの?」

 どんどんと人がいなくなってしまう街。戻ってくるとリゼは言っていたが、きっと誰も汽車に乗ったあと戻ってはこなかったのだろう。
 チノは一人、そんな場所で喫茶店をしていて寂しくはないのだろうか。
 ロケットのことよりも、ココアはそれが気になった。

チノ「寂しいですよ。だからこうやって、笑顔でいるんです」

 あっさりと、チノは認めた。

ココア「なら、なんで……」

チノ「止めることはできません。だから、せめて気持ちよく旅立てるように、です」

 選択
 1・そんなことしても何も残らないよ
 2・私がずっといるから、それはやめよう?

 選択権は1つ下

1

ココア「そんなことしても何も残らないよ」

 口が勝手に動く。しかし、概ねそれは自分の気持ちと同じものであった。
 皆がいなくなって寂しい。なのに何も言わず笑顔でいる。それは矛盾していると思うのだ。

チノ「なら、どうしたらいいと思うんですか?」

ココア「それは、行かないでって引き止めたり」

チノ「迷惑ですよね。それにココアさんは友達が決めたことを否定するんですか?」

ココア「しないよっ! でも、ただ見送るんじゃなくて、別れるまで思い出をつくったり――」

チノ「それも、何も残りません」

 きっぱりと断言するチノ。見れば、いつの間にか彼女の顔から笑顔が消えていた。

ココア「そんなことないよ。忘れなければ、きっと――」

チノ「やめてください」

ココア「やめないよ。チノちゃんが寂しがってるんだから、黙ってられないよ」

チノ「――やめてください」

 一歩、チノへ踏み出そうとする。すると、チノはココアへ手をかざした。
 その動作に呼応するかのように室内だというのに、強力な風が起こる。立ってもいられない。ココアはすぐ風に飛ばされた。

ココア「わっ!?」

 風に飛ばされ、開いた喫茶店のドアから街に。地面を転がり、壁にぶつかるとようやく風は治まった。
 バタンと音。喫茶店のドアが閉じ、辺りには静寂が戻る。

ココア「うう……チノちゃん」

 追い出すだけの目的だろう。痛みはなく、怪我もなかった。よろよろと立ち上がり、ココアはラビットハウスのドアを開こうとする。
 が、勿論開かない。

ココア「失敗――なのかな」

 ため息を一つ。チノを怒らせてしまったようだ。

???「ココアさん、ですね?」

 落胆するココアの後ろ。のんびりとした声がかかる。

ココア「青山さん?」

 振り向くと、そこに立っていたのは小説家の青山ブルーマウンテン。何故か赤い郵便のマークがついた帽子をかぶっている。

???「青山ではありません。私は配達うさぎ。ココアさん。あなたに郵便です」

 すっと、ココアへ一枚の封筒を差し出す。ココアは反射的にそれを受け取った。

ココア「あ、ありがとう。……これは、誰から?」

配達うさぎ「さぁ? 分かりません。では私は仕事があるので、これで」

 のんびりと、歩いて去っていく青山。とても仕事があるような人間の歩き方とは思えなかった。

ココア「なんだろう」

 青山を見送り、ココアは手渡された封筒を開く。白色をした長方形の、何かの招待状のような封筒の中には――紙が一枚。

『ココア様。あなたがこのたびの旅立ち当選者として選ばれたことを、お知らせします。ロケット、駅。どちらでもお好きな方でこの街から一時間以内に旅立ってください』

ココア「なに……これ」

 無機質な印字を読み、ココアは呟いた。

ココア「ここから去れってことだよね……」

 他の人のように、チノを置いて。どこか遠くへ。
 ……果たして、それはしてもいいことなのだろうか。
 重要な選択のような気がした。ここがチノの精神世界ならば、自分の行動が、自分への認識に繋がる可能性が高い。
 となると、これからとるべき行動は――

 選択
 1・旅立とう
 2・嫌だ

 選択権は一つ下

2

ココア「嫌だ……」

 チノを置いて、旅立つ。寂しいと言っていた彼女を一人にする。
 それだけはできなかった。ココアは一人呟く。
 ――けれど、嫌だと言っても、何かできることはあるのだろうか。
 ココアは考えに考え、一つの結論を出す。

ココア「よし、無視しよう!」

 手紙は服のポケットへ。暢気な口調で言って、ココアは歩き出した。
 探索していない場所はまだまだある。ココアはあてもなく街を進んでいった。
 ――そして、一時間が経過しようとしていた。

ココア「何も見つからない……駅もロケットも街も、何もないよ」

 適当に歩くこと約1時間。
 何も目立ったことは発見できず、喫茶店を追い出されてから進展は何一つなかった。

ココア「旅立つ、しかないのかなぁ……」

 嫌だと直感的に判断した。しかし今の状況を省みるに、旅立ちを検討した方がいいような気もしなくはない。でもチノを一人にしたくないのもまた事実であった。
 どうすればいいか分からず、ココアは独り言をもらす。答えるものは――

???「そうです」

 ――いた。
 いつの間にか、ココアの前に立っていた人物。軍服のようなものを身に付けた、チノ。
 喫茶店にいたチノとはまた違う、冷たい目をした彼女は手にしている銃をココアに向けた。

ココア「チノちゃん!? な、なんで、チノちゃんが」

???「私は断罪うさぎ。チノではありません」

 チノの姿をした断罪うさぎは淡々と語る。そして、横に一歩動く。すると彼女の後ろに隠れているものが見えた。
 それは、よく見知ったもの。けれど決して見ることがないもの。
 シャロの……亡骸であった。

ココア「ひっ!?」

 身が竦む。うつろな目をどこかに向け、口を微かに開いたシャロ。その口の端からは血が流れており、腹部には血が流れていた。
 誰がどう殺したのか、一目瞭然。
 ココアは銃――そしてチノへ視線を向けた。

ココア「チノちゃん、なんでシャロちゃんを……」

断罪うさぎ「旅立ちから逃げて隠れていたので、私が引導を渡しました」

 逃げていた? 激しい動悸と恐怖の中、ココアはもう一度シャロを見る。
 看板の横に立っていたシャロとは、服装が違った。おそらく制服姿のシャロとは別人物なのだろう。

ココア「なんで……」

 身体が震え、頭は混乱し、どうするべきかも判断できない。チノが友達を殺害した。ここが架空の世界であろうと、そのショックはでかい。
 恐怖と悲しみ、様々な感情が混ざり、涙すら浮かべるココア。そんな彼女を見やり、チノは銃を再度構える。

断罪うさぎ「決まりですから」

 淡々とした言葉。笑顔だったチノよりも、現実のチノに近い口調と表情。これまでのことが一瞬で頭の中に駆け巡り――そして、炸裂した。

ココア「あっ……!」

 一度、二度。閃光がほとばしる。
 反射的に目を閉じ、身体を走る衝撃に小さく跳ねる。目を開いたココアは、一瞬、何をされたのか理解できなかった。

ココア「チノちゃ、う、ぁ――」

 チノの名前を呼ぼうとし、口から溢れる血。
 咄嗟にそれを地面に落とすまいとし、ココアは口元に手を伸ばす。が、口を溢れた液体は顎を滴り地面に落ちてしまう。
 とめどなく流れ、見慣れた石畳の上にゆっくり血だまりを作っていく。

ココア「がっ……ぐ、げほっ、ごほっ!」

 息苦しさを感じ、息を吸おうとし咳き込む。そしてまた血が飛び散る。
 それでも尚、ココアはチノのことを信じていた。それが、チノの姿をした何者かであろうとも、チノが創り出したもの。信じなくてはならない。
 ココアは血だまりに倒れる。腹部からは鋭い痛みと、信じられないほどの熱が。自分がこれからどうなるのか。容易く想像がついた。それでも、ココアは手をチノに伸ばした。


ココア「ち、のちゃ――っ、ぁ、はぁ……わ、わたし――み、かたで……げほっ!」

断罪うさぎ「ごめんなさい。私達は、あなたが、あなたたちが怖いんです」

 ぽつりと、表情を崩さずにチノは語る。手を伸ばそうともせず、じっとココアを見つめて。

断罪うさぎ「近くにいないでほしい」

断罪うさぎ「仲良くならないでほしい」

断罪うさぎ「嘘を言わないでほしい」

断罪うさぎ「私のことを考えないでほしい」

 連なられる言葉の数々。これまでの日々を否定するような告白。
 彼女が全てを言い終わる前に、ココアの手はぐったりと血だまりに落ちていた。目を閉じ、眠るようにしてぴくりともしないココア。
 弱々しく呼吸する彼女を見やり、チノは最後に言った。

断罪うさぎ「いなくならないでほしい」

 そして、また銃声が響いた。

 
 
 どこか。

チッピー「失敗、だね」

チッピー「ココアちゃんは現実ではまだ生きてる。でも、多分チノちゃんと真に仲良くなることはない」

チッピー「でも大丈夫。そこはSS。何度でもやり直せる」

チッピー「彼女らが何度失敗して、ひどい目に遭おうと、時間は戻る。そして君たちは失敗の記録を見ることができる」

チッピー「同じ失敗することはシステム上ない。それに、ヒントだって得られる」

チッピー「例えば、殺されたシャロの存在」

チッピー「――そう。いわばこれはゲーム」

チッピー「彼女らを導き、様々な結末を覗き見る遊び」

チッピー「それが君達と、私達の世界の差。次元の差」

チッピー「期待してるよ? 最後はいい結末を見られるって」

チッピー「じゃあ、またはじめようか」


【本日のインターディメンドはここで終了します】

おつ


インターディメンドという単語を検索してもそれといった検索結果がでてこない…
俺には元ネタは良く分からないがすごく良い、期待

インターディメンド……アルノサージュというゲームが元ネタ。
 そのゲームでは画面の向こうでコントローラーを持つプレイヤーがもう一人の主人公。

ダイブなどもアルノサージュを元にしていますが、どちらかといえばアルトネリコ寄り。

ココア「ここから去れってことだよね……」

 他の人のように、チノを置いて。どこか遠くへ。
 ……果たして、それはしてもいいことなのだろうか。
 重要な選択のような気がした。ここがチノの精神世界ならば、自分の行動が、自分への認識に繋がる可能性が高い。
 となると、これからとるべき行動は――

ココア「旅立とう」

 旅に出て、街から出て行く。
 それがきっと、この世界でチノの思う常識なのだ。それに反すれば拒絶は免れない。
 加えて、気になるのが時間。一時間と制限されている点が、嫌な予感しかしない。
 ……が、そうは思うもののやはりチノを置いていくのは気が引けた。

ココア「何か手はないのかな」

 嘆息。しかし全ての目立った場所を回り、チノに追い出された今、特に手立てはなかった。
 どこかを探索しているうちに時間があっといまに過ぎてしまうだろう。旅立ちの場所に向かうしかない。

 選択
 1・駅で出発
 2・ロケットで出発

 選択権は一つ下

ココア「ロケットかな……かっこいいし」

 短絡的な思考が頭に浮かぶ。
 遠くに行くならば、やはりロケットだろう。それにかっこいいし、なにより英雄と呼ばれるような存在になるかもしれない。
 そうなれば、チノからも好かれるかも。

ココア「うん。決めたっ」

 決断し、ココアは歩き出した。

 
 ロケット前。

???「あんた馬鹿でしょ!」

 ――に着く直前。
 街の通りが終わる直前で、ココアは脇道から飛び出した何者かに抱えられた。そのまま驚く間もなく、ココアはその何者かに脇道へ連れてかれる。

ココア「ふえっ!? だ、誰――ってシャロちゃん!?」

 突然のことに目をぱちくりさせつつ自分を抱えている人物を見れば――なんと、その人物はシャロだった。
 ただ、ロケットの前で見たシャロとは違う。表情には感情が窺えるし、服装はTシャツにショートパンツ。部屋着であろう、ラフな格好であった。

シャロ「ええ。シャロよ」

 ココアの言葉に答えたシャロは、周囲を確認。周りに人がいないことを確かめ、ほっと息を吐いた。そしてココアを地面におろす。

ココア「シャロちゃん、まだいたんだね。旅立ったって聞いたけど」

シャロ「ま、色々あってね。出来の悪い幼馴染をおいてくわけにはいかないのよ」

ココア「そっか。仲良しだもんね、二人とも」

 普段と変わらない関係。のほんとした気分でココアは笑う。が、シャロの方は落ち着きがない。まるで何かに追われているかのように、絶えず周囲を警戒している。

ココア「シャロちゃん?」

シャロ「な、なんでもない」

 咳払いを一つ。彼女は真面目な顔をしてココアを見る。

シャロ「それより、ココア。ロケットに乗る意味を分かってるの?」

ココア「え? かっこいいとか?」キョトン

 普通ならば、当たり障りない駅。しかしココアはロケットを選択した。
 そこにインターディメンドでの干渉があったのだが、ココアは分からない。

シャロ「あんな玩具になにを思ってるんだか……」

ココア「玩具っぽいのがかっこいいと思うんだけど」

シャロ「かっこいいかっこよくないはどうでもいいわ」

シャロ「ロケットに乗る意味よ。分からない?」

選択
 1・死ぬってこと
 2・帰ってこれないということ

 選択権は一つ下

2

ココア「帰れないってこと?」

 ロケットに乗った二人のうち、ティッピーだけが戻り、英雄扱い。
 となれば、普通は帰ってこれないということ。
 ココアは頭に浮かんだ言葉を口にした。

シャロ「間違ってはないけど……」

シャロ「まぁ、いいわ。はっきり分かってないなら、止める義理もないし」

 一瞬呆れるようにため息を吐くものの、シャロはすぐ元の表情に戻る。
 そしてココアに一つの紙箱を差し出した。

シャロ「旅立つココアに餞別。本当は自分が使うつもりだったんだけど……不憫だからあげる」

ココア「本当っ? ありがとう。中身はなにかな――」

シャロ「今開けるのはよしときなさいって。開けるときは本当に困ったときだけ」

 紙箱を受け取り、早速開けようとするココアをシャロは制止した。なにかわけがあるようだ。

ココア「よく分からないけど……ありがとう、シャロちゃん。見送りに来てくれたんだよね?」

 千夜と会った時は、見送りなどしないのがこの世界の常識だと思っていた。
 けれどこうして、シャロのように会いに来てくれる人もいる。そのことが嬉しく、ココアは笑顔を浮かべる。

シャロ「見送りというか……本当は止めに――まぁいいわ」

ココア「……?」

シャロ「頑張りなさい。私が言えるのはそれだけ」

 手をひらっと振り、シャロは背中を見せ去っていく。
 残されたココアは首を傾げた。

ココア「止めに……?」

 何を止めに来たのだろうか。
 ずっしりとした手応えの紙箱を手に、ココアは頭を悩ませつつロケットへと歩き出した。

ココア「乗っても……いいのかな?」

 ロケット前。特に問題なくそこまで到着し、ココアは案内うさぎへと声をかけた。

案内うさぎ「構わないです。招待状を持っている方は、自由にお通りください」

 相変わらず生気のない目。だが今度は止めることなく、彼女はココアを通す。すんなりとココアはロケットのすぐ近くまで到達した。

ココア「これに乗って、旅立つ……のかぁ」

 目の前にある、玩具のようなロケット。積み木で作ったかのような、自分の身長よりはるかに大きなそれ。
 見上げていると、まるで自分が小さくなったかのような錯覚に陥る。

ココア「わくわくするかも」

 呟いて、既に開いている入り口へ視線を向ける。中は空洞――のようだった。何もなく、特にコックピットのようなものも見当たらない。
 普通は不安を覚える点だろう。

ココア「よーし入ろう!」

 が、ココアは不安どころか、疑問を抱かずロケット内へ。
 やはり、外で見えていた通り。内部には飛ぶような仕掛けもなく、当たり前だが完全なる密室。
 ココアが中心へと足を踏み入れていくと、ロケットのドアはひとりでに閉まった。

ココア「……」

 閉じたドアを確認。振り向いたココアは周囲を見回し、ぽつりと一言。

ココア「どうやって飛ぶんだろう?」

 他に気にすることもあるだろうが、それくらいしか気にならなかった。

ココア「うわっ……と」

 少しして、ロケット全体が揺れる。よろける足でなんとか窓まで近づき、外を見た。
 どうやら本当に飛ぶらしい。下から噴射による炎と土埃が見えた。案内うさぎは看板を手に、いつの間にか少し遠くへと離れている。

ココア「あ……」

 いよいよ離陸。そのタイミングで、ココアは見つけた。
 ロケットから離れ、立っている案内うさぎ。その更に奥へ立つ、少女の姿に。喫茶店で見たチノだ。
 制服を身にまとった彼女は飛び立とうとしているロケット、その窓から顔を出すココアのことをじっと見つめていた。
 ――涙を流して。

ココア「チノちゃん……」

 やはり、寂しいのだ。言っていたように。
 そんな彼女を置いて旅立つことに罪悪感があったのは否めない。が、他にどんな手があったというのか。
 ココアはチノへ手を振る。必ず戻ってくる。そう彼女に誓って。
 ロケットが飛び立つ。地面を離れ、はるか上空へ。物理の法則に従うならば、立ってもいられない状況なのだが、何故か普通に立っていることができた。
 精神世界故に、かもしれない。

ココア「これで私もこの街から出るんだね……」

 結局、何もすることはできなかった。ただ後悔はない。自分で選んでここまで来たのだ。
 ――拭えない、嫌な予感はずっと頭の片隅に残っているのだが。

ココア「ま、なんとかなるよね。みんなもいるし」

 自分には頼もしい味方もいる。それで、今この場にいるのだ。余計な不安は持たない方がいいだろう。ココアは暢気に伸びをし、窓の外を見た。
 発射してから一分も経たないが、ロケットは既に宇宙へと到達。宇宙空間をさまよっていた。

ココア「行き先はどこなんだろう」

 これからどこへ行き、何をするのだろうか。
 現実ではないが、ココアは期待に胸をおどらせる。

 そして、永遠にも近い放浪がはじまった。

ココア「……いつまで、ここにいるんだろう」

 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。
 精神世界だからか、食事や入浴、排泄その他の諸々の必要はない。欲求もない。だが、確実に精神だけは蝕まれていた。
 ロケットの中では時間を感じることもできない。そもそも時間という概念がこの世界にあるかどうかも分からない。

ココア「帰ることもできないし……」

 現実へ自由に帰れるとも聞いたが、今はその自由はないらしい。何度念じても、帰ることはできなかった。
 ロケット内には何もない。このまま宇宙空間をさまよっているだけならば、死ぬこともなく永遠とロケットの中で過ごすことになる。たった一人で。

ココア「うう……なんでロケットを選んだんだろう」

 短絡的な考えでロケットを選んだ自分。それを今更ながら悔やんだ。
 そもそも、帰ってきたら英雄扱いされる乗り物なのだ。危険極まりないはずだ。

ココア「もう少し考えるんだった……」

 ため息――をつく気力もなく、ココアは床に座り込み、ぼんやりと前を見る。身体は健康な状態。なのにひどくだるい気がした。
 無気力な状態で、ココアは周囲を見回す。何か、この現状を打破するものは。何度も行った確認をし――自分がポケットに入れていた紙箱のことを思い出した。

ココア「そういえば、なんだったんだろう」

 シャロから餞別に貰ったものだ。今は困っているため、躊躇なくココアは開いた。

 開くと、その中には一丁の銃。
 よくテレビで見るようなリボルバー。あまりにもそのままの姿をしているため、玩具のようにも見える。
 が、おそらく本物。手に伝わるずっしりとした重さで、なんとなく察す。
 多分、シャロはこうなることを知っていたのだ。
 死ぬこともできず、永遠と宇宙をさまようことになると。

ココア「……そっか。そうなんだ」

 それで、止めに来た。なのに自分はそれに気づかず――いや、なんとなく予感はしていた。
 でも不思議と止まる気には慣れなかった。
 僅かな違和感。自分のものだと思っていた選択。ココアはある一つの結論に至り、力なく笑みを浮かべた。
 銃の引き金を引き、自分のこめかみへ。
 死ぬのは怖い。けれど、このまま何もせず一人でずっと生きる方がずっと怖かった。
 深呼吸。震える手をもう片方の手で押さえ、ココアは最後に小さくもらした。

ココア「……間違えたんだね」

 銃声。あとに残ったのは静寂のみ。
 誰もいない宇宙空間で、ココアは一人眠りについた。

ココア「――っ!?」ガバッ

 悪夢から目覚めるように、ココアは突然身体を起こした。

ココア「はぁっ……はぁ……」

ココア「……部屋? ってことは帰ってきた?」

 息を乱し、ココアは部屋を見回す。
 視界に映るのは見慣れた風景。朝日が射し込む自分の部屋。ココアはホッと息をもらした。

ココア「そっか……現実じゃないって言ってたしね」

 あの世界で自分は自害した。が、こうして生きている。
 考えれば分かることだが、安堵せざるを得なかった。リアルとしか思えない世界で自害したのだから、仕方ないことだと言える。

ココア「よかった……チノちゃんと、みんなとまた会えるんだね」

ココア「一人ぼっちじゃない……」

 一人ではない。今までは当然のことだったが、それがたまらなく嬉しく思えた。

ココア「ふふ。少し寝てようかな」

 今日は平日。このまま寝ていれば、チノが起こしに来てくれる。だらけているのは否めないが、今日は日常に甘えることにする。

ココア「今日はお姉ちゃんって呼んでくれたり――」

 期待を抱きつつ、ココアは目を閉じる。
 やがて起床の時間となり、枕元の目覚ましが鳴り響く。しかしココアはそれを無視した。
 こうしていれば、いつものようにチノが起こしに来てくれる。それが、ココアの日常だった。

 が、いつまで経ってもチノは来ない。

ココア「……なんでだろう」

 鳴りっぱなしの目覚ましを止め、ココアはベッドから出る。
 チノが自分のことを放置して学校に――考えたくもないが、自分が寝過ごす回数を考えると、あり得なくもない話であった。

ココア「うう……チノちゃーん!」

 寂しくなり、ココアは部屋から飛び出す。時間はチノが家を出るぎりぎりの時刻。
 規則正しい彼女ならば、まだ家の中にいるはずだった。

ココア「いた!」

 小走りで廊下を走り、開きっぱなしだったチノの部屋、そのドアから中を窺う。すると学校の制服を着たチノの後ろ姿を見つける。

ココア「チノちゃん! おはよう!」

 近づき、チノを抱きしめる。現実の時間にして少しのことだが、久しぶりにチノと会ったような気がした。
 彼女の感触、体温、におい。心地よい感覚を、ココアは目を閉じてしっかりと味わう。いつものチノだ。ココアは思わず笑顔を浮かべていた。

チノ「っ……」

 ――が、違う、と次の瞬間直感的に思う。
 嫌がる素振りを見せるチノ。それもまたいつもと同じ反応であったが、なにかが違うと思った。
 チノがココアへと振り向く。ココアを見る。
 ――その目には、怯え。何故抱きしめられているのか。戸惑っているような表情だ。

チノ「……誰ですか?」

ココア「え?」

 思わぬ問い。冗談だとも思ったが、彼女の表情からはそんな雰囲気は感じられない。
 ココアは自分から血の気が引いていくのが分かった。

ココア「ココアだよ? ほら、チノちゃんのお姉ちゃんで――」

チノ「何を言ってるんですか? ココアさんは亡くなりました。悪い冗談はやめてください」

 ぐいっと手で押される。いつもよりも強い力で、遠慮なく。後ろへ数歩よたつき、ココアは真っ白になりかけた頭で思考する。
 ロケットに乗り、戻ってこなかったというチノの母親。
 自分もロケットに乗り、その中で自殺した。
 彼女の中で、『死者』と認識されていた人物と同じ行動をしたのだ。だから――死んだと認識されている。
 簡単なことだった。

ココア「死んでないよ。ほら、チノちゃん。私だよ? ココア」

チノ「やめてください」

 必死に自分をココアだと口にする。が、チノは決して認めない。それどころか怒った顔をして、さっさと部屋を出て行ってしまった。
 見知らない誰かが、仲良くもない誰かが、ココアを名乗る。それが許せないのだろう。


ココア「間違えなければ……」

 去っていくチノ。止める間もなく去っていく彼女。
 あの世界では口にしなかった言葉をココアは俯き、呟く。

ココア「みんなが間違えなければ、こんなことにならなかったのに」
 
 
 
【本日のインターディメンドはここで終了します】

乙です


なるほど、やっぱりゲームの中の単語だったか(ブログが検索にヒットした為)
インターディメンド…厨二心をくすぐる良い言葉だ

ココア「シャロちゃん?」

シャロ「な、なんでもない」

 咳払いを一つ。彼女は真面目な顔をしてココアを見る。

シャロ「それより、ココア。ロケットに乗る意味を分かってるの?」

ココア「え? かっこいいとか?」キョトン

 普通ならば、当たり障りない駅。しかしココアはロケットを選択した。
 そこにインターディメンドでの干渉があったのだが、ココアは分からない。

シャロ「あんな玩具になにを思ってるんだか……」

ココア「玩具っぽいのがかっこいいと思うんだけど」

シャロ「かっこいいかっこよくないはどうでもいいわ」

シャロ「ロケットに乗る意味よ。分からない?」

ココア「死ぬってこと?」

 頭の中に浮かんだ言葉。気づくとココアは自然とそれを口にしていた。
 間違いなくインターディメンド。選択された答え。

ココア(『死ぬ』……? それって)

 ココアの頭に疑問が浮かぶ。チノの母親のことはいい。話には聞いていた。
 が、ティッピーまでもが死んでいたことは知らなかった。

ココア(みんなは、私達のことを知っている……?)

 この答えが選択されたということは、自分の知らないことを知っている誰かがいるということ。
 次元が違うのだから、自分の考えなど及ばない――とは思っていたものの、こうしてそれを実感すると寒気がした。
 まるで自分たちの日常が見世物になっているような、血の気の引く不気味さ。

ココア(いやいや、信じないと駄目だよね)

 ネガティブになりかけた頭をリセットしようと、ブンブンと首を横に振る。

ココア(ここまで私を、無事に届けてくれたんだもん)

シャロ「なんだ、分かってるんじゃない。ならなんでロケットに乗ろうとしたのよ」

ココア「……え? し、知らなかったから」

 何故ロケットに乗ろうとしたのか。それは死ぬということを予想していた、『みんな』の中の一人が選択したこと。
 その人物はロケットが死を意味していることを知っていたかもしれない。知らなかったかもしれない。
 けれど、ロケットに行くと自分で決めたと思っているココアにそんな心配が生じることはない。

シャロ「知らなくて分かってるってこと? 意味が分からないわね」

ココア「ごもっとも……」

シャロ「とにかく、理解してるってことよね。ならいいわ」

 ため息を一つ。シャロは表情を引き締め、真面目な顔をする。

シャロ「ココア。実は頼みたいことがあるの」

ココア「頼みたいこと?」

シャロ「ええ。チノをこの街から連れ出してほしいの」

ココア「連れ――そんなことできるのっ?」

シャロ「ええ。旅立ち自体、駅からは自由に許されてるから」

ココア「そうなんだ……」

 チノを連れ出すなんてこと、一度も考えなかった。だがそれができるなら、一人にすることもない。
 現在の状況ではそれが一番いい手かもしれない。ココアは一人頷いた。

ココア「わかったよ。やってみる」

シャロ「ありがとう、ココア」

ココア「どういたしまして。でもシャロちゃん、千夜ちゃんのことが心配なんだよね? そっちはいいの?」

シャロ「千夜はいいの。いつか旅立つから」

ココア「そうなの?」

 まるでチノが旅立つことはないと言っているような言葉である。ココアは首を傾げる。が、シャロは休まず話を続けた。

シャロ「で、肝心の方法だけど、何かある?」

ココア「うーん……」

 考えてみる。喫茶店にとじこもったチノを出し、ともに駅から旅立つには、どうしたらいいだろうか。
 少しでも失敗すれば、前のように吹き飛ばされるのがオチ。
 何か、手はないだろうか。

 選択
 1・ロケットに乗る
 2・シャロに喫茶店へ行ってもらおう

 選択権は一つ下

ココア「シャロちゃんは……喫茶店に行けたりする?」

 頭に浮かんだのは、シャロに協力してもらうこと。
 けれどなんとなく挙動不審な彼女。何かしら事情がありそうだし、手伝ってくれるかが不安だった。

シャロ「無理! こうしてここにいるのもかなり頑張ってるのよ。ひょこひょこ喫茶店に行ったら絶対撃たれる」

ココア「えっと……一時間以内で出て行かないのってそんなに重罪なの?」

 撃たれる、なんて物騒な発言にココアは反応する。とても撃たれる理由にはならないと思うのだが。

シャロ「ここの決まりだから。出て行かないと、断罪のうさぎに追い掛け回されることになるわ」

ココア「断罪うさぎ……」

ココア(かっこいいのか悪いのか、分からない)

シャロ「そういうことだから、私は無理。命は惜しいもの」

ココア「そうだよね……困ったなぁ」

 命を狙われているならば強要もできない。ため息を吐いて、ココアは新たな手段を思案する。けれど全然思い浮かばない。
 やはり、シャロに協力してもらうしかないような気がした。

シャロ「……うう、そんな目で見ないでよ」

 ココアにそんな気はないのだが、すがるような目に見えたらしい。シャロは気まずそうに目を逸らし、何かを考えはじめた。

シャロ「――ああもう! 分かった。行ってくればいいんでしょ?」

ココア「えっ!? 大丈夫なの?」

シャロ「気をつけていけば……多分大丈夫。断罪うさぎの歩く道は規則性があるから」

ココア「そっか……ごめんね、巻き込んで」

シャロ「いいのよ。お願いしたの私だし。少しは手伝わないと」

シャロ「でも失敗しても恨まないでよ? 一時間経ちそうになったら旅立つこと。いい?」

ココア「うん。ありがとう、シャロちゃん」

シャロ「それじゃ、駅で待ってなさい」

 言って、シャロは走った。不安はあるが……自分が行ってもドアは閉まったまま。シャロに任せた方が得策だといえた。
 あとは目的地に行って待っているだけだ。

ココア「これでいいんだよね?」

 一人呟き、ココアもまた走りだす。
 駅に向かうようチノへと言ってもらい、自分は駅で待つ。それから――

ココア「って、それからのこと考えてないよ!」

 今更気付き、ココアはシャロが去っていった方向を見る。が、もういない。

ココア「ど、どうしよう……その場で考えるしかない、のかな」

 話し合う時間はない。不安を感じつつ、とりあえずココアは駅に向かった。

 巨大な駅。リゼが旅立ったそこには、いつの間にかあの汽車が停まっていた。
 発車の時を待っているようで、シュッポシュッポと音を立てている。若干やかましい。

ココア「来ちゃった……」

 着くまでに何か考えよう。そんなふうに思っていたものの、結果は散々。何も思い浮かばなかった。

ココア「馬鹿だよね……本当」

ココア「これでチノちゃんが来たら、どうなるんだろう」

 想像する。
 やって来たチノに飛ばされ、汽車に押し込まれる。何度想像しても、大方そのような結末で終わった。

ココア「すっごい拒絶されたし……当然だよね。あはは」

 チノは悩んでいた。何にかは分からないが、それに対して自分は笑顔でいることを否定してしまった。
 だから拒絶された。相手がどう思うかなんて関係ない。自分がどうあってほしいかを押し付けた結果だ。

ココア「お話できるなら、今度はしっかりしないと」

ココア「シャロちゃん大丈夫かな」

シャロ「――大丈夫よ」

ココア「ふええぇ!? しゃ、シャロちゃん!? いつの間に!?」

シャロ「さっきよ。まったく、疲れたんだから」

 考え込んでいて気付かなかったらしい。ココアの隣にはシャロが立っていた。彼女は肩を回し、深く息を吐く。
 怪我などはなく、無事喫茶店に着いたようだ。ほっとするココア。その前で、砂利を擦る音が立つ。
 誰かいる。自分の横から、前へ。顔を向けると、そこにはチノがいた。

ココア「来てくれたんだね」

チノ「シャロさんに頼まれましたから。ココアさんのためじゃありません」

 そう言って、ぷいと顔を逸らす。笑顔のチノよりも、こっちの方がチノらしい。ココアは笑う。

ココア「そっか。それでも嬉しいな」

ココア「シャロちゃん、ありがとう」

シャロ「ええ。感謝しなさい」

ココア「うん。……」

 何を、言うべきなのだろうか。
 次々と住人が去り、戻らない中、チノは喫茶店で笑顔を浮かべている。
 シャロは言った。チノはここから旅立つことはないと。それはつまり、いつかは一人になる。
 そんな状況で、チノは尚他人のことを想って何もせず、笑顔でいる。
 それだけは見過ごせない。ココアは下ろしている手を握りしめ、口を開いた。

ココア「チノちゃん……」

 選択
 1・怖いんだよね?
 2・ここにずっといるの?
 3・みんなに会いに行こう

 選択権は一つ下

3で

ココア「みんなに会いに行こう」

 言って、ココアは手を差し出した。

チノ「みんなに、ですか?」

ココア「うん。この汽車でどこかに行ったなら、きっと会えるよ。だから一緒に行こう?」

チノ「……駄目です。私には喫茶店があります」

ココア「チノちゃん寂しいんだよね? なんで我慢するの?」

チノ「我慢なんてしてません。これは私の当たり前なんです。今更苦しんだりしません」

チノ「分かっているんです。この街に残るのは私だけ。私は喫茶店がある。でも、皆さんにそれはありません」

チノ「シャロさん、リゼさん、ココアさんは学校を卒業すれば、この街からいなくなるかもしれません」

チノ「千夜さんだって、お店はありますが、夢のためにいずれ離れるかもしれません」

チノ「マヤさん、メグさんだって、これからどんなことがあるか分かりません」

チノ「みんな、いなくなるんです。そして会えなくなる。何年かに一度会えるかもれない。でも、母やおじいちゃんのように突然永遠に会えなくなるかもしれません」

チノ「……要らないんです、なくなる、辛くなる幸せなんて。だから遠くから私は笑って見ているんです」

 言葉は淡々と、しかし泣きそうな顔をして語るチノ。涙こそ浮かべないものの、その姿は痛々しい。

ココア「チノちゃん。それはみんなが思ってることなんだよ」

 対して、ココアは微笑みながら口にする。そして、チノの手を強引に取った。

ココア「みんながいなくなる。幸せな場所がなくなる。それは当たり前のこと。間違ってないよ」

チノ「なら……」

 戸惑うような目がココアに向けられる。ココアは真っ直ぐ見返し、言葉を続ける。

ココア「だから、みんながいるの。会うんだよ」

ココア「楽しいことだけじゃない。辛いことも、悲しいことも全部分けあって――そうやって、お別れの時に笑えるようにしなくちゃ」

ココア「もっと周りを頼っていいんだよ?」

ココア「誰かと別れたり、寂しかったりしたらみんなに相談して、気持ちを伝えて、友達に頼って解決する。それも必要なんだと思う」

ココア「で、みんなと会えなくなったら自分から会いに行く! それが今なんだよ!」

 暗いチノへ、ココアは遠慮なしにまっすぐ伝える。手を握り、決して目を逸らすことはせず。

第四話最後のココアがチノを引っ張っていくシーンにごちうさの核心を感じてた

チノ「でも、お店が――」

ココア「う゛。それは……どうしようかな?」

シャロ「私に聞かないで」

 見ていたシャロに意見を求めるも、ジトッとした目で当然の答えが返ってくる。

ココア「喫茶店かぁ……」

 自分は外に出られない。その言い訳に聞こえなくもないのだが、実際喫茶店を置いてどこかを放浪することなど簡単にできることではない。
 偉そうに言っていたわりには肝心なところが抜けていた。ココアは頭を必死に働かせる。そこへ、一人の男性の声が聞こえた。

タカヒロ「チノ、行ってきなさい」

 チノの父親であった。チノの隣に立った彼は、優しく言う。

タカヒロ「店はなんとかする。だからチノは気にすることはない」

チノ「おとうさん……」

ココア「うんうん。こうやって頼って、頼られて生きていくんだよ」

シャロ「大切なこと忘れてぺらぺら語ってたのは誰よ」

ココア「い、言わないで」

ココア「こほん……。チノちゃん、どう? 行こうと思ってくれたかな」

チノ「……会えると思いますか? 行き先も分からない汽車で行って」

 揺れる瞳。まだ迷っているように見えた。

ココア「会えるよ。自分が会いたい、会おうと思えば」

ココア「現実でだって、きっとそうなんだと思う。勿論、永遠に会えない――なんてこともあるだろうけど」

ココア「でも、私はチノちゃんより先にいなくなるつもりはないよ」

ココア「お姉ちゃんだからね。妹が寂しがることはしないよ」

ココア「みんなも間違いなく同じ気持ちだよ」

 確証のない言葉の数々。どうなるかは分からない。けれど、ココアは堂々と口にする。

ココア「だから、チノちゃんの想い次第」

チノ「……分かりました」

 僅かな間を空け、チノは頷く。それから目を閉じる。再び目を開いたチノは、ココアのことを見つめ返し微笑んだ。

チノ「行きましょう。みなさんと会いに」

ココア「うん! 行こう、チノちゃん」

 チノの手を引く。汽車の入り口へ向かい、ココアは後ろを振り向いた。

ココア「ありがとう、みんな。ちょっと出かけてくるね!」

チノ「行ってきます。必ず帰ってきますから」

 シャロとタカヒロの二人は笑顔で手を振ってくれる。リゼが旅だった時と、言っていることは大差ない。
 けれど何もかもが違うような気がした。
 明るく、帰ってこれると確信が持てた。

ココア「チノちゃん、行こう!」

チノ「はい。ココアさん」

 二人は顔を合わせて頷く。そして迷うことなく汽車へと乗っていった。

 
 汽車内部。
 いくつもの座席のみが連なった車内で、二人は適当な席に座り、外を眺めていた。
 汽車は既に出発しており、リゼの時とは違いゆっくりと移動していく。車で移動しているような速度だ。

ココア「……私が、ずっと一緒――に」スヤスヤ

チノ「疲れたんでしょうか……。寝るのが早すぎです」

 窓際の席に座るココア。出発からほどなくして眠りについた彼女を見やり、チノは小さく笑みをこぼす。

チノ「みんなに会いに……」

チノ「さっきまでかっこよかったのに、今はのほほんとしてますね」

チノ「――あれ?」

 窓の外へちらりと映ったものにチノは目を見張る。流れる景色の中に、男性が立っていた。
 遠くからだが誰だか分かったようだ。汽車から離れた場所。ぽつんと一人立っているのは、ラビットハウスの男性用の制服を着た、ヒゲを生やした老人。
 彼は手を振り、遠くからでも分かるほど大きく口を開いて笑う。

チノ「おじいちゃん……」

チノ「別れて、街を出て」

チノ「いつか、こんな日も来るんでしょうか……」

 やがて、その男性も見えなくなる。柔らかい座席に背を預け、チノは呟いた。

 この世界の終点。ストーンヘンジ。

ココア「うーん……ね、眠い」

チノ「ココアさん、起きてください。終点です」ユサユサ

ココア「――え?」

 終点という単語に嫌な予感がし、目を開く。慌てて身体を起こし周囲を見回すと、そこは見たことがない場所だった。
 遺跡のようなところだ。石で造られた地面、そしてドアのない扉のようなものがあり、そこでは眩しいほどの強力な光が天高く上ってる。

ココア「ここはどこ?」

チノ「終点です。そして、新しいはじまりの場所でもあります」

 ココアが起きたのを確認し、チノが立ち上がる。彼女に習って、ココアもまた地面に立った。

ココア「えっと、どういうこと?」

チノ「この階層が終了したということです」

ココア「そ、そうなの?」

ココア(私、なにもしてないような……してたのかな)

ココア「よく分からないけど、ここから先に進めるようになったってことだね」

チノ「そうですね。心の準備……とでも言いましょうか。ココアさんに対して、少しは信頼が生まれたようです」

ココア「笑顔見せるわりにきついよね……」

チノ「そうですか?」

 きょとんと首をかしげるチノ。そんな彼女へ苦笑を返し、ココアは扉を見た。

ココア「……で、どうすればいいのかな?」

チノ「あそこに一緒に入れば、それで完了です」

ココア「それだけ? もっとこう、絆を表現する抱擁とか」

チノ「ないです」ゴゴゴ

ココア「冗談だから威圧しないでっ」

ココア「それじゃ、行こう」

チノ「はい。今度こそ本当の出発です」

 手をつなぎ、二人は光の中へと入っていく。視界が光に埋め尽くされ、ココアはそこで意識を手放した。

 
 
【ダイブ:香風 智乃  LV.1 『旅立ちの駅』を完了しました】


【『ダイブ』の選択肢が解禁されました】

【『ザッピング』の選択肢が解禁されました】

 ダイブ……アクセスが許可されている人物の精神世界に入ること。
 危険も多いいが、成功すれば確実に絆を深めることができる。

 ザッピング……現在のチャンネル(ココア)から、別のチャンネルに切り替えます。
 時間軸は他チャンネルと同一ではなく、ストーリーを進めただけ進みます。話が進まなくなったら、試すといいかもしれません。

 翌日。教室。

ココア(あれから私はいつも通りチノちゃんに起こされて、学校に行った)

ココア(変わったことはなにもない……のかな。朝のちょっとの時間しか接していないから、全然分からなかったよ)

ココア(今日はバイトもあるし、学校が終わったら話してみようかな)

ココア(でも……他に何かやるべきこととかなかったっけ?)

先生「ココアさん、次、ここを読んでください」

ココア「ふえぅっ!? ええと、この公式は――」

先生「今は国語ですよ、ココアさん」

ココア「あ、はい……」

クラスメイト『クスクス』

ココア(とにかく、決めないと一日中ぼんやり……あれ? いつも通りな気がしてきた――ううん、気のせい気のせい)

行動選択
 1・チノちゃんと話す
 2・外に出かける(甘兎or街を散策or会う人物を指定)
 3・ザッピング
 4・ダイブ

 選択権は1つ下

2 甘兎

ココア「なんで来ようと思ったんだろう……?」

 放課後。甘兎庵前。帰り道の途中でなんとなくふらりとそこへ向かったココアは、首を傾げた。
 甘兎に行きたいと思ったのは事実。だけども、バイトがある日にそこへ立ち寄ろうと思うのは結構珍しいことだった。

ココア「たまにはいいかな。よし、行こう」

 チノに遅れるかもしれないとメール。時刻を確認し、ココアは甘兎へと入っていった。

千夜「いらっしゃ――あら? ココアちゃん」

 店に入ると、千夜がやって来る。彼女もココアがここに来ることを不思議に思っているようで、目をぱちくりとさせた。

ココア「こんばんは、千夜ちゃん」

千夜「はい、こんばんは。今日はどうしたの? 私ココアちゃんに何か借りたりしてたしら?」

ココア「ううん。今日は働く前に軽く甘いものでも食べようかなって」

千夜「そうなの? 嬉しいわ」

ココア「あとは千夜ちゃんに会いに……なんて」キリッ

千夜「ラビットハウスに行く前に甘兎で……なんだか浮気みたいね」

ココア「あはは。メインラビットハウスで、時々甘兎を手伝えたら、楽しいんだろうなぁ」

千夜「私は逆でもいいのよ」

 互いに笑みを浮かべつつ、席へ。ココアはテーブルの椅子に着席し、千夜はメニューを彼女の前に置く。

ココア「うーん……悩む」

 早速メニューを開き、ココアは唸る。

千夜「それだけ悩んでくれると、お店の店員として嬉し――あら? ココアちゃん、何か付けてる?」

ココア「ふえ? あ、これのこと?」

 一瞬なんのことを言われているのか分からなかったが、彼女の視線を追って察する。
 学校では目立つからと、シャツの中に入れていたペンダント。その紐が目に入ったのだろう。
 首にかかった紐を手で軽く引っ張り、ココアは尋ねる。千夜は首肯。やはりそうらしい。

ココア「ペンダントだよ。イン――お気に入りなんだ」

千夜「ペンダント? ココアちゃん大人ね」

ココア「う、うんっ、魔性を強めようって」

ココア(あ、危なかった……インターディメンドのことは内緒なんだよね)

ココア(千夜ちゃんが悪用するとは思えないけど……ルールだからね)ウンウン

千夜「そういえば、シャロちゃんも最近、ペンダントを付けてるのよ」

ココア「へー、そうなんだ。可愛いペンダントなんだろうなぁ」

千夜「うーん、しんくうかん? みたいなデザインで、可愛いよりはかっこいい物だったわよ」

ココア「真空管かぁ、渋い――へえっ!?」

 まさに自分が身に付けている物と同じ。完全に不意をつかれ、ココアは奇声を上げた。

千夜「こ、ココアちゃんっ? どうしたの?」

ココア「な、なんでもないよっ。真空管いいなぁって思っただけ」

千夜「確かに。ハイカラよね」

ココア(シャロちゃんもインターディメンドを……?)

ココア(分からない……珍しい技術でもないのかな)

ココア「今日は海に映る月と星々で」

千夜「ええ。ちょっと待ってて」

 シャロも自分と同じ力を。そう思うと、気になってもやもやせざるを得なかった。しかしそれも少しの間のこと。頼んだ甘味を口にすると、ココアの頭の悩みは見事にすっ飛んだ。

【千夜の精神世界へのアクセスが解禁されました】

ココア「ふぅ。甘くて幸せな味だった……」

ココア「さて。まだ時間はあるし、これからどうしようかな」


行動選択
 1・チノちゃんと話す
 2・外に出かける(甘兎or街を散策or会う人物を指定)
 3・ザッピング
 4・ダイブ(チノor千夜)

 選択権は1つ下

 >>1です。
 書く気はあるのですが、安価が中々こないので、ちょっと別の場所で書いてみます。

一日たってないんだからまだいいんじゃね
1で

深夜VIPは人少ないから安価来ないことは良くあることだよ
楽しみだから気長に頑張ってくれ

あ、既に速報の方に書きなおしを。
続きからやる予定です

なんだこいつ
せめてurl貼れよ

ここまで書いといてそれかよ

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