絵描き「あのさ」モデル「……」(23)
絵描き「私思うの。人間は九割の自尊心と一割の思いやりでできているって。」
モデル「……」
絵描き「なんでそう思うか、聞きたい?」
モデル「……」
絵描き「いろんな人を見てて、そう思ったからよ。ホント、そう思った」
モデル「……」
絵描き「自尊心十割だともれなく傲慢に」
モデル「……」
絵描き「逆に、思いやりが自尊心を上回れば、卑屈な人間になりかねない」
モデル「……」
絵描き「なんでそう思うか、聞きたい?」
モデル「……」
絵描き「優しい人間は、大抵馬鹿見てるの、見てきたから」
モデル「……絵、描いてください」
絵描き「ごめん」カキカキ
絵描き「思うんだけどさ」
モデル「……」
絵描き「よくその体制でいられるよね、キミ」
モデル「……」
絵描き「辛くない?」
モデル「……」
絵描き「足とかプルプルしちゃわないの?」
モデル「……」
絵描き「はいはい、描けでしょ。分かってますってば」カキカキ
絵描き「なんか喉かわいちゃった」
モデル「……」
絵描き「モデルくん、冷蔵庫にあるジュースとってきて」
モデル「……」
絵描き「あ、もちろん動いちゃだめだよ、モデルくんだからね」
モデル「……」
絵描き「ぷぷぷ」
絵描き「ねぇ、モデルくんってさ」
モデル「……」
絵描き「結構、美形だよね」
モデル「……」
絵描き「こんな、ろくに売れない絵描きの家で突っ立っててくれるなんて」
絵描き「うれしいな」
モデル「……」
絵描き「あーなんかなぁ」
モデル「……」
絵描き「昔はビビビッ! とアイディアが湧いてきたんだけど」
モデル「……」
絵描き「最近なぁ……」
モデル「……」
絵描き「なんていうんだっけ? こういうの? 倦怠期?」
モデル「スランプ」
絵描き「そうそう」
絵描き「結婚ってさぁ」
モデル「……」
絵描き「お互い「スキだっ!」って思った人同士でするんだよね?」
モデル「……」
絵描き「だよね?」
モデル「……」
絵描き「ホラ、おとぎ話とかでもそうじゃん。様々な困難を共に経ていくうちに、お互いを好きになったと二人は確信し、そして結ばれる」
モデル「……」
絵描き「冷めてるねぇ」
絵描き「……」カキカキ
モデル「……」
絵描き「……」カキカキ
モデル「……」
絵描き「……」カキカキ
モデル「……」
絵描き「……」カキカキ
モデル「……」
絵描き「凄くない!? 私めっちゃ真面目に仕事してる!!」
モデル「まだ三分しか経ってません」
絵描き「ピカソの絵が下手だっていう人と、上手だっていう人、分かれるよね」
モデル「……」
絵描き「私は上手いと思う」
モデル「……」
絵描き「凄く個性的でいいよね。なんていうか、やっぱり成功してる人ってさ、向かい風に向かってグングン進んでくよね」
モデル「……」
絵描き「俗に塗れず、自分を持ってる人って、凄く素敵だと思う」
モデル「……」
絵描き「絵描きでもあるよ。向かい風に向かって進むのあきらめちゃうこと」
モデル「……」
絵描き「お前の絵は下手だって、貶されると途端に怖くなって、周りの真似事をしだすの。そうするとね、」
モデル「……」
絵描き「死んじゃうんだよ、自分が」
モデル「……」
絵描き「そーはなりたくないね、絶対なってやんないんだから!」
モデル「……」
絵描き「ってくらい強く思わないと、自分が死にそうで怖い、とかない?」
モデル「……」
絵描き「……」カキカキ
絵描き「モデルくん、ちょっと絵描いてみて」
モデル「……」
絵描き「うさぎさん」
モデル「……」カキカキ サッ
絵描き「……やっぱ、モデルくんはモデルがぴったりのお仕事だね!」
モデル「……」
絵描き「なんで、モデルくんってモデルになろうと思ったの?」カキカキ
モデル「……」
絵描き「私、なんで絵描きになろうと思ったか知りたい?」カキカキ
モデル「……」
絵描き「母さんがさ、すっごく綺麗な絵を描く人でさ」カキカキ
モデル「……」
絵描き「ああなりたいって思ってたら、いつの間にか」カキカキ
モデル「……」
絵描き「母さん、すっごい綺麗な絵描くんだよ」カキカキカキカキ
モデル「……」
絵描き「昔いった海の絵とか、公園の絵とか、花の絵とか」カキカキカキカキ
モデル「……」
絵描き「ありがちな絵かもしれないけど、いちばん、いちばん」グシャグシャグシャグシャ
パシィン!
絵描き「……!」
モデル「……」
絵描き「いちばん……ステキだったんだ、母さんの絵が。なのに、なのに」
絵描き「どうして殴るの、モデルくん……」
絵描き「……そっか」
絵描き「ねぇ」
絵描き「前、話したよね」
絵描き「人間は九割の自尊心と一割の思いやりでできているって」
絵描き「母さんは、優しい人間だった」
絵描き「傲慢人間な父さんのせいで、卑屈人間になった」
絵描き「私がちっちゃい頃は、母さん、凄く生き生きと絵を描いていたのに」
絵描き「お金のことなんて気にせず、絵を描いてたのに」
モデル「……」
絵描き「父さんは自尊心十割、母さんは思いやり十割、」
絵描き「ねぇ、モデルくん、私はどっちなんだろう」
絵描き「二人の間から産まれてきた私は、どっちなんだろう」
モデル「……」
絵描き「……不思議だね、もう何年も、ずっとずっと一緒にいるのに」
絵描き「私達、お互いのこと何にも知らないじゃない」
絵描き「貴方はずっと黙ってて、私はずっと駄弁ってる」
絵描き「その間、凄く楽しかった」
絵描き「母さんは、お見合いで父さんと結婚したあと」
絵描き「ずっと幸せじゃなかったと思う」
絵描き「どんどん、母さん醜くなっていったから」
絵描き「もう、あんなの母さんじゃないとすら思うよ」
絵描き「男、嫌いになってた」
絵描き「人のせいにするのはよくないと思うけど」
絵描き「モデルくん、こんな優柔不断な女は嫌い?」
モデル「……すきです」
絵描き「ホント?」
モデル「貴方のくだらない話がすきです」
絵描き「……! 私も! 私もそれを聞いてくれるモデルくんがだいすき!」
絵描き「でも、よく喋るモデルくんって気持ち悪いね」
モデル「……」
絵描き「違う違う! なんか不慣れだからびっくりしたっていうことで!!」
絵描き「……でもすごい理想的だなぁ、こういうの」
モデル「……」
絵描き「いつの間にかお互いをすきになってた、なんて」
モデル「……」
絵描き「まだ、さっきのこと気にしてるの?」
モデル「……」コクリ
絵描き「ご、ごめん。これからはちゃんとモデルくんの絵描くから!」
モデル「今まではちゃんと描いてなかったんですか?」
絵描き「う……本気九割、適当一割くらいで」
モデル「なら、丁度いいじゃないですか」
絵描き「……そうだね」ニッコリ
―――――
――
絵描き「さーて、描こう」
モデル「……」
絵描き「やっと描く気になったか……とでも思った!? 残念! ま、一分間に一回、「愛してるよハ
ニー!」って言ってくれたら描いてあげてもいいかな!」
モデル「……」ジロ
絵描き「分かったうそ、ごめん、そういう臭いのいらないって思ってるんでしょ? 私も」
絵描き「じゃあ、描くね……っとその前に」
絵描き「私を選んでくれて、ありがとう」
モデル「……臭いのは嫌いなんじゃ」
絵描き「たまには、ね。もう一生こんなこと言わないだろうから」
モデル「……」
絵描き「……女からするなんて、変なんじゃ」
モデル「いつだって僕は受け身じゃないですか。僕の未来を描くのは貴方の役目ですよ」
絵描き「……しょしょしょ、しょうがないなぁ///」
モデル「……」
絵描き「……///」チュッ
モデル「まずは一歩、ですね」
絵描き「うわぁああぁぁあああぁぁキスしちゃったぁぁああぁぁあああ/// うわああああん///」ゴロゴロ
モデル「……」チュッ
絵描き「……! ちょ! モデルくんなにすんのくぁwせdrftgyふじこlp!!」プシュー
モデル「……(先は長いな)」
おしまい
id変わりましたが>>1です。短い話ですが完結できてよかったです。
途中でレス入れてくださった方々のお陰で書く気になれました。ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません