穂乃果「賢い犬ほのわん」 (136)

・ほのわんと飼い主の絵里のお話、ほのわんは喋るので注意
・勝手な妄想なんで違和感はおやつにしてください
・ちょっと暗かったりひどい目にあったりします


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夏のある日

今よりも昔、あるところに一匹の犬がいました

穂乃果「穂乃果だわん!」

犬の名前は穂乃果と言い、外国人の女性に飼われていました

絵里「穂乃果ー?お散歩の時間よ」

穂乃果「わーい!お散歩お散歩!」フリフリ

絵里「今日は広場に行きましょうね」

穂乃果「うん!首輪つけて!首輪!」

絵里「はいはい、今つけてあげるからね」

外出の時にだけつけられる首輪
犬は飼い主との絆が感じられる首輪がとても大好きでした



絵里「いい?このボール拾ってくるのよ?」

穂乃果「わん!任せて!」

絵里「そーれ、行きなさいっ!」

穂乃果「わんわんわん!」ダッ

絵里「いい子ね、ご褒美のパンよ」ナデナデ

穂乃果「やったぁ!」モグモグ

絵里「穂乃果は本当にパンが大好きね」

穂乃果「うん!でも絵里ちゃんの方がもっと好きだよ!」

絵里「穂乃果っ!」キュン

犬は飼い主に似てとても賢い犬でした



絵里「じゃあ、穂乃果。お買いものしてくるからここで大人しくしててね?」

穂乃果「えー……、穂乃果も……」

絵里「ごめんね、あのお店の人は犬が苦手だから連れていけないのよ」

穂乃果「うぅ……じゃあ待ってる」

絵里「お利口さんね」ナデナデ

穂乃果「早く帰って来てねー!」

絵里「ええ、じゃあちょっと待っててね?」

また、犬はとても素直でいい子でした

穂乃果「うー、暇だなぁ。あ!あっちからパンの匂いが!」フラフラフラ

穂乃果「パン……パン……」フラフラフラ



穂乃果「……あれ?ここどこだろう……」クゥーン

ただ、賢いと言っても所詮は犬です。
人に比べるととてもおバカでした。

穂乃果「うぅ……、また迷子に名ちゃったよ……」

穂乃果「絵里ちゃん……絵里ちゃん……そうだ!こんな時はあの場所だっ!」タッタッ

おバカな犬はよく迷子になるので
頭を悩ませた飼い主が対策として
迷子になったときの集合場所が決められていたのです

穂乃果「到着!早く絵里ちゃんこないかな?」

ここで待ちさえすれば飼い主が必ず迎えに来てくれる。
犬はそのことだけは決して忘れませんでした。

絵里「穂乃果っ!」

穂乃果「絵里ちゃんっ!わんわん!」

絵里「もう!また迷子になって!駄目じゃないっ」ギューッ

穂乃果「うぅ……、ごめんなさい……」シュン

絵里「穂乃果が居なくなったと思ったら私……私!」

穂乃果「くぅーん……」

単身で日本の文化を学ぶために留学をしている飼い主にとって犬は唯一の家族でした

絵里「……でもちゃんとここまで来れたのね、偉いわよ」ナデナデ

穂乃果「わん!ここに来れば絵里ちゃんが来てくれるって知ってるから
この場所だけは忘れないようにしてるんだっ」フリフリ

絵里「ふふっさすが穂乃果ね!とても賢いわよ」ナデナデ

穂乃果「くぅ~ん」

このように犬は飼い主にたくさんの愛情を注がれながら
毎日を幸せに生きていました。そう、あの時までは

~~~~~

<ごめんくださーい!エリチおる!?

穂乃果「わんっ!?誰かきたよー?」

絵里「あら、この声は希かしら。最近は軍の方も忙しいって聞いてたんだけど……」

穂乃果「希ちゃんきたの!?わーい!」フリフリ

希は飼い主の数少ない友達で
軍隊に所属をし、とても忙しい生活をしていました





絵里「希、久しぶりじゃない」

穂乃果「久しぶり希ちゃん!わんわん!」

希「久しぶりやね、穂乃果ちゃんも元気そうやな―――ってそれどころやない!」

絵里「ど、どうしたのよ、そんなに慌てて!」

希「大変や!ついにエリチの母国との関係が本格的に悪化して来て……
何時戦争になってもおかしくないんや」

絵里「本当なの!?危ないとは思っていたけどついに……」

穂乃果「???」

希「このままエリチが日本に居たら危険や
大事になる前に逃がそうと思って今日は来たんよ」

絵里「そ、そんな……、私は日本がっ!」

希「エリチが日本が大好きなのは知ってる
けど周りがそれを許さない状況になってるんよ……」

穂乃果「ねえ、何のお話してるの?」

絵里「……ごめんね、ちょっといま大切な話だから大人しくしててね」

穂乃果「うん、あっちで遊んでるね」タッタッタ

希「ええ子やね」

絵里「私のペットだからね!それよりも今は……」

希「せやね、エリチ逃げるタイミングは今しかないんや
戦争が始まれば日本から出ていくのは難しくなる……」

絵里「……」

希「その時にエリチが居たら絶対に無事に暮らせるってことはないんよ
連行された挙句、最悪拷問されるかもしれない……」

絵里「な、なんでそんな……!」

希「今は過激派の勢力が大多数やから何があってもおかしくないんや
そうなったら穂乃果ちゃんだってどうなるか……」

絵里「穂乃果……。残念だけど戻るしかないのね……」

希「何もできなくて本当にごめんなぁ……」

絵里「希が居なかったら私はこのまま連行されていたかもしれないんでしょ?
十分いろんなことをしてもらってるわよ」

絵里「それで出発はいつなの?」

希「今夜や」

絵里「今夜!?だいぶ急ね……」

希「もはや一刻の猶予もないんよ!港に船を用意させるから
深夜に最低限必要な物だけを持って集合で」

絵里「ええ、わかったわ。さっそく準備をしないとっ……!」

~~~~~
深夜

穂乃果「ねえ、こんな夜中にどこいくの?」

絵里「ちょっとした旅行よ?静かにしててね」

穂乃果「うん……、だけど眠いよ……」

絵里「これから船に乗るから、そしたら一緒に寝ましょうね」

穂乃果「わん……」



希「エリチ!こっちや!」

絵里「希!」

穂乃果「希ちゃん……」ウツラウツラ

希「穂乃果ちゃん元気ないなぁ」

絵里「いつもならとっくに寝てる時間だからね……、それより船の方は?」

希「ちょっと行ったところに待機させてある、いつでも出発可能や」

絵里「そう、なら急ぎましょうか」

希「せやね、何やらきな臭い動きもあるみたいやし早くいかんと……っ!」

<こっちだこっち!

<外国人が港に向かってると通報があった!探せっ!

<怪我くらいならさせてもいい!絶対に逃がすな!

希「言ってる傍から……、走るよ!」

絵里「ええ!行くわよ穂乃果!」

穂乃果「う、うん」ガクガク



男A「いたぞ!あれだっ!」

男B「船に乗ろうとしてる!逃げる気だぞ!」

希「見つかったで!ウチのが走るのは早い!
先に行って船を出すように言っとくからエリチも急いでな!」ダッ

絵里「ええ!穂乃果、頑張るわよ!」

穂乃果「う、うん!」





希「時間がない船出して!」

部下「しかしまだ外国人が乗ってませがっ」

希「ええから!飛び乗らせるから気にせんで出して!」

部下「は、はい!」



絵里「船が出る!?飛び乗らないとっ!」

穂乃果「こ、こわいよぅ……」

絵里「大丈夫よ!私が先に行って穂乃果を受け止めるから!」

穂乃果「うん……」

希「抱きとめるからこっちへ飛び乗って!」

絵里「ええ!……っと!」バッ

希「っ……!!後は穂乃果ちゃんを!」

絵里「そうだ、穂乃果が!穂乃果!飛び乗りなさいっ!」

穂乃果「はぁっ……はあっ……うん!」

穂乃果(あ、足が……)フラッバタン

絵里「穂乃果!?希!船を止めて!」

希「……」

絵里「希っ!」

希「あかんよ……、今止めたらあっちに飛び乗られる」

絵里「だって穂乃果がまだ!」

希「残念やけど無理や……、船を止めて捕まったらエリチはもちろん
ウチも、協力してくれた部下もその家族もただじゃ済まなくなる……
その許可はできへん」

絵里「っ……!だったら飛び降りてでも穂乃果を迎えに……!」

希「それはさせへんよ!」ガシッ

絵里「希っ!?」

希「ごめんなエリチ……、大切な友達をこんなところで死なせたくないんよ……」

絵里「そんな!穂乃果が!お願いだからっ!」

希「……穂乃果ちゃんは犬や、あいつらも興味は持たんはずやから大丈夫や」

絵里「大丈夫!?確かに今は大丈夫かもしれないけど……!その後はどうするのよ!」

希「……」

絵里「私が居なくなったら穂乃果はどうやって暮らすのよ!」

希「っ……、犬は野生の本能があるから……」

絵里「穂乃果はずっと飼い犬だったのよ!そんなものあるわけないじゃないっ……!」

希「誰かが拾ってくれるかもしれへん」

絵里「これから戦争が始まるっていう時に!?誰も犬なんて拾わないわよ!」

希「……ごめんな、どうあってもウチはエリチを離すつもりはないんや」

絵里「そんな……穂乃果!穂乃果!穂乃果―!」

希(穂乃果ちゃん本当にごめんな……どうか無事でいて……)

男A「糞っ!」

男B「待て、一人乗り遅れたやつが……」

穂乃果「!」ビクッ

男C「ってただの犬じゃねえか、ペットだったのか?」

穂乃果「……」ブルブル

男D「やはり外国人は鬼畜だな、ペットを見捨てていくとはな」

穂乃果(そんなことない……絵里ちゃんは……)

男B「そんな犬なんぞほっとけ、それよりも追うのが先だ!」

穂乃果(絵里ちゃん……疲れたよ……)クゥーン

穂乃果(ちょっと休もう……そしたら迎えに来てくれるよね……)



??(騒がしいから事件の匂いがすると思ったら、もう終わった後みたいね)

??「まったく夜中に無駄骨だったわ……」

穂乃果「すやぁ……すやぁ……」クーゥン

??「なんでこんなところに犬が……、まったく港で寝てたら風邪引くじゃない」

??「……って案外重いわね、はぁ……ついてないわ」

こうして犬と飼い主は離ればなれになってしまいました

~~~~~
矢澤家

穂乃果「んっ……絵里ちゃん……」

穂乃果(暖かい……お布団の中?やっぱり夢だったのかな……)

にこ「いつまで布団を占領してるのよ!起きなさいバカ犬っ!」

穂乃果「わ、わんっ!?」

にこ「起きたわね、おはよう」

穂乃果「こ、ここどこ!?なんでこんなところにいるの!?」ガルルルッ!

にこ「ちょっ!威嚇しないでよ。ここは私の家よ!あんた港で寝てたのよ?」

穂乃果(港で……じゃあやっぱりあれは夢なんかじゃあ……)

にこ「で、それをたまたま私が見つけて連れてきたわけ、感謝しなさいよ?」

穂乃果「うん……、ありがとう。えっと……誰?」

にこ「私はにこよ、あんたは穂乃果って言うのよね?」

穂乃果「な、なんで穂乃果の名前を……」

にこ「だって首輪に書いてあるじゃない」

穂乃果(そうだ絵里ちゃんのくれた首輪に……、えりちゃん……)シュン

にこ「……とりあえず何があったのか聞かせてもらってもいいかしら?」

穂乃果「うん……、穂乃果馬鹿だからちゃんと説明できるかわからないけど……」

にこ「犬の頭にそこまでのことは期待してないわよ。見たことだけ話してくれればいいわ」

穂乃果「えっとね……、まず穂乃果は絵理ちゃんに飼われててね」

穂乃果「あ!その絵里ちゃんってのは金髪できれいな青目の女の子なんだけど!」



にこ「ふーん、なるほどね」

にこ(飼い主は特徴的に外人ね、旅行に行くなら夜中に港に行くはずもないし
追手が来てることから逃げようとしてたのかしら)

にこ(今の日本の状態から考えるに、外国人が日本から逃げようとしたんだけど
追手が来てペットだけ置いてかれたって感じかしら)

穂乃果「ごめんね、上手く説明できなくて……」クゥーン

にこ「いいわよ、だいたいはわかったから」

穂乃果「ほぇー、にこちゃんって頭がいいんだね!」

にこ「はあ?犬に褒められても嬉しくないわよ」

穂乃果「ところでこの話聞いてどうするの?」

にこ「ああ、私は新聞記者をやってるの。記事にしようと思っただけよ」

にこ(と言ってもこんなこと記事にしたら私もただじゃ済まなさそうね)

穂乃果「しんぶんきしゃ……?」

にこ「難しかったかしら、気にしないでね。それよりあんたこれからどうするの?」

穂乃果「これから……?」

にこ「そうよ、だって飼い主に捨てられたわけでしょ?どうやって暮らしてくのよ」

穂乃果「うー!絵里ちゃんは捨ててないよ!」ガルルッ

にこ「ちょ、ちょっと牙たてないでよ!行くあてはあるのって聞いてるの!」

穂乃果「行くあて……」

にこ「そうよ、もしよかったら……」

穂乃果「そうだ!あのね!離ればなれになったときに集合する場所があるの!
そこにいけばあえるよ!」

にこ「なんだ、そんな場所あるんならいいなさいよ。で、どのあたりなの?」

穂乃果「えーっと確か、あきはばらってとこの神田通りの木の前だよ!」

にこ「秋葉原!?ここから結構距離あるわよ……」

穂乃果「へっ?どれくらい?」

にこ「3日くらいかしらね……、犬じゃないから犬の速度がわからないけど」

穂乃果「うーん……、それくらいならなんとかなるよ!」

にこ「まあ、行けない距離ではないわね」

穂乃果「わん!じゃあ早速出発するね!助けてくれて本当にありがとう!」

にこ「……いいわよ、放っておいて死なれても目覚めが悪かったしね
そうだ、ちょっと待ってなさい」

穂乃果「わん?」



にこ「はい、これお弁当よ。途中で食べなさい」

穂乃果「えっ!?お弁当までくれるの?」

にこ「途中で野垂れ死んで化けて出られても面倒だからね」

穂乃果「えへへ、にこちゃんって優しいんだね」ペロペロ

にこ「こ、こら!とびかかって顔舐めるのやめなさいっ!」

穂乃果「えへへ」ペロペロ

にこ「……まったく人懐っこいったらありゃしないんだから」

穂乃果「ありがとうね!にこちゃんが困ってる時は
今度は穂乃果が助けに行くから!」

にこ「はあ?犬に助けられるほど落ちぶれちゃいないわよ」

穂乃果「だいじょーぶ!こう見えて賢く頼りになるって
絵里ちゃんにはよく言われるから!」フリフリ

にこ「犬バカな飼い主もいたもんね……」

にこ(犬は嬉しいとしっぽ振るんだったわよね、ようやく元気になったみたいね)

穂乃果「だから待っててね、絶対に行くから!」

にこ「はいはい、期待しないで待ってるわよ」

穂乃果「じゃあ絵里ちゃんが待ってるといけないからもういくね」

にこ「ええ、前の通りをまっすぐ進めばつくから頑張りなさいよ」

穂乃果「わん!本当に助かったよありがとうね!またねっ!」ダッ



にこ「はぁ、一人身はさびしいからペットでもって思ったんだけどね」

にこ「まあ、あんな馬鹿そうな犬は別にいいかしら」

にこ「……会えるといいわね、飼い主に」

~~~~~
2日後

穂乃果「はぁ……はぁ……」

穂乃果「もう二日走りっぱなしだよぉ……」

穂乃果「にこちゃんのお弁当も食べちゃったし、お腹ぺこぺこでしにそう……」

穂乃果「もう……だめ……」グッタリ

凛「あ!かよちーん!犬が倒れてるよっ」

花陽「本当だ……、どうしたんだろう……」

穂乃果「……」グッタリ

凛「心配だにゃー」

穂乃果「……」グゥーッ

花陽「お腹……、すいてるみたいだね」

凛「そうみたいだにゃ」

花陽「麦飯おにぎり食べるかな……」ハイッ

穂乃果「……!わんわんわん!」モグモグ

凛「犬ってお米食べるだね、凛初めて知ったよ」

花陽「やっぱり麦飯はみんな大好きだからねっ!」



穂乃果「ありがとう!助かったよっ」

凛「でも凛達が通りかかってよかったね~」

花陽「うん、じゃないとどうなってたことやら」

凛「そういえば穂乃果ちゃんはなんで倒れてたの?」

穂乃果「うーんとね、、カクカクシカジカで――」

花陽「へぇー、飼い主に会うために約束の場所までいこうとしてたんだ」

凛「え、偉いにゃ!犬の鏡だよ!」ジーン

穂乃果「えへへ、それほどでもっ!それじゃあ穂乃果、もういくね!」フリフリ

花陽「うん、頑張ってね」

凛「絶対会えるよっ!頑張ってね!」

穂乃果「わん!ありがとうね!ばいばいっ!」タッタッタ







花陽「お利口さんな犬だったね~、それにあんなのボロボロになるまで走り続けて……」

凛「よほど飼い主が好きなんだろうね~、泣けるにゃ……」

花陽「……ねぇ、凛ちゃんは私と離ればなれになったら探してくれる?」

凛「当然だよっ!凛はどこに居てもかよちんを見つけだすにゃー!」

~~~~~
神田通り 

穂乃果「はあっ……はあっ……はあっ……」

穂乃果「ようやくついた……」グッタリ

穂乃果「絵里ちゃんはまだきてないみたい……」

穂乃果「まったく絵里ちゃんったら遅いなぁ!待っててあげよう」

穂乃果「絵里ちゃんが来たら一緒にお風呂に入って毛づくろいしてもらわないとっ!」

こうして犬の、飼い主を待ちづつける日々が始まりました

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二日後

穂乃果(まだこない……)グゥーッ

穂乃果(お腹すいた……、どうにかしてご飯を……。そうだっ!)キョロキョロ

穂乃果(あの人達、優しそう……よしっ!)

穂乃果「わんわんっ!」

ヒデコ「あ!わんこだ!」

フミコ「かわいいわね!」ナデナデ

穂乃果「くぅ~ん」グゥーッ

ミカ「お腹すいてるのかしら?ちょっと待ってね!はいっ、パンだよ」

穂乃果「わーい!パン大好きっ!ありがとっ」

ヒデコ「かわいー!私のも食べて!」

穂乃果「ありがとうっ!」モグモグ

ヒデコ「ずるいっ!私もあげるからね!」

犬は道行く人から食べ物を分けてもらいながら飼い主を待ち続けました

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穂乃果(絵里ちゃんを待って何日待ったんだろう……まだきてくれない……)

犬はあれから飼い主をずっと待ち続けました
だけどいまだに迎えは現れません

ミカ「わんちゃん今日もいるんだね!ほら、ご飯持ってきたよ~」

穂乃果「わんわん!ありがとっ!」モグモグ

ミカ「相変わらず可愛いわね」ナデナデ

穂乃果「わふぅ!」トローン

犬はすっかりこの辺りの名物となっていました
今では定期的に餌をあげに来る人もいるくらいです

穂乃果(絵里ちゃんに会えたらお世話になったみんなにお礼しないと!)

穂乃果(……だから絵里ちゃん早く来てよ)

~~~~~


穂乃果「うぅ……、寒いよぉ……」

穂乃果「最近はみんなせんそう?がどうたらでご飯もあまり食べれないし……」

穂乃果「うう……きつい……」

穂乃果「去年の今頃は絵里ちゃんと一緒に布団で寝てたんだよね……」

穂乃果「暖かかったなぁ……」

穂乃果「……弱気になっちゃダメだ、絶対にもう一度絵里ちゃんに会うんだもん」グゥーッ

穂乃果「うぅ……でもお腹減ったよ……」

穂乃果「くんくんっ……、食べ物の匂いが……あれはっ!」

犬の空腹は限界でした
なので目の前にあったそれに手を付けてしまうのも仕方がないことだったのです

穂乃果「……」ゴソゴソ

穂乃果「……このお肉まだ食べれるとこ残ってる」クンクン

穂乃果「……こっちの野菜のくずもいけそう」ゴソゴソ

穂乃果「……」クンクン

穂乃果(絵里ちゃんにもう一度会いたい……、そのためなら……)

穂乃果「……」モグモグモグ

穂乃果「グッス……グッス……」モグモグ

どうにか犬は冬を越すことができました
しかし、そのためには大きな代償を払う必要があったみたいです

~~~~~


穂乃果「うー!ようやく暖かくなった!」

辺りはすっかり暖かくなり
冬の間に減っていた人通りも元に戻りつつありました
しかし、時の流れは残酷で、多くの人が犬のことを忘れ去っていました
また、他にも冬に入る前とは決定的に違うことがありましたそれは……

穂乃果(誰か餌くれないかな?)ソワソワ

穂乃果(うーん、だれもくれそうにない……)

穂乃果(それどころか穂乃果のことを見ないようにしてる感じが……)シュン

穂乃果(よーし!こうなったら!)

穂乃果「わんわん!」フリフリ

女「……何この汚い犬は、あっちにいきなさい」

穂乃果「えっ……」

犬の綺麗だった毛並みは今では見る影もないほど汚く
毎日ゴミを漁っていたせいもあり、臭いもひどいものになっていたのです

穂乃果(川に行って水浴びしたほうがいいかな……)

穂乃果(でも絵里ちゃんがその間に来ちゃうかも……)

穂乃果(しょうがない……またゴミを漁ろう……)

犬は飼い主のことを考えると
どうしてもこの場から離れることができませんでした
そして季節は流れていきます

~~~~~


穂乃果「……」ゴソゴソ

穂乃果「……」モグモグ

穂乃果「……ちょっと腐ってる」モグモグ

穂乃果(絵里ちゃん……)

この頃になると犬もすっかりとゴミを漁ることに抵抗がなくなっていました
しかし、他にも犬には大きな悩みの種があったのです

子供1「お!今日もいるぞ!」

穂乃果(……またきた)

子供2「本当だ!ほら!今日は水をもってきてやったぞ!」

子供1「これでその汚い体を洗ってやるよ!」

穂乃果(また水鉄砲だ、こりないね)

犬は子供たちのいじめの対象になってしまっていました
いつも同じ場所にいる汚らしい犬、これほどいい標的はいません

子供1「最近反応しなくなったな~」

子供2「最初はいい声で鳴いてたのにねー」

穂乃果(夏だもん、水鉄砲くらい我慢できるからね)

子供1「うーん寝てるのかな?」

子供2「ねえ、じゃあちょっと叩いて起こそうよ」

穂乃果「!」ビクッ

子供1「いいなっ!よーしじゃあ俺が……」

穂乃果(た、助けて絵里ちゃん……!)ブルブル

海未「やめなさい!何をやってるんですかっ」

子供1「うわ、あの園田だ!」

子供2「暴力ババアだー!逃げろー!」

海未「まったく、最近の子供ときたら……。私はまだ若いです!
……大丈夫ですか?」

穂乃果「……助けてくれたの?」ブルブル

海未「かわいそうにこんなに震えて……」ナデナデ

穂乃果「くぅーん……穂乃果のこと追い払わないの?」

海未「そんなことするわけないじゃないですか」

穂乃果「みんな汚いって言っていじめるのに……」

海未「……確かにちょっと汚いですね」

穂乃果「やっぱり……」シュンッ

海未「よし、私の家に行きましょうか、綺麗にしてあげますよ」

穂乃果「……やだ」

海未「駄目です!じゃないとまたいじめられるんですから!」グイッ

穂乃果「ちょ、ちょっと強引に!」フリフリ

それは犬にとって久々に触れた人の温かさでした
その時に感じた嬉しさは
頑なに動こうとしなかった犬を動かしてしまうほどでした

~~~~~
園田家

海未「それにしても本当に汚れていますね、一体どれくらい水浴びしてなかったんですか?」

穂乃果「わかんない……」

海未「しっぽの方も洗いますよ」

穂乃果「ひゃっ!し、尻尾は敏感だから!もっと優しく!」

海未「駄目です!この汚れは中々落ちませんからね」

穂乃果「厳しいよぉ!」

海未「あなたのためです!じゃないとまたいじめられてしまいます」

穂乃果「……うん、ありがとう」

海未「ふふっ、ほら綺麗になりましたよ。さっきとはまるで別人
いえ、別犬でしょうか」

穂乃果「うぅ……ありがとう!わんわん!」スリスリ

海未「こらっ!くすぐったいです!」

海未「ところでなんで貴方はあんなところにいたんですか?
ずっといるって有名になってますが……」

海未「それにその首輪……、捨て犬ではないのですか?」

穂乃果「うーんとね、話すと長くなるんだけど……」



海未「なるほど、飼い主に置いてかれて迎えに来るのを待ち続けていると……」

穂乃果「うん、……っといけない!早く戻らないと!」

海未「あわてなくて大丈夫です、その飼い主さんはまだ来ませんよ」

穂乃果「なんでわかるの?」

海未(この子の話から考えるに多分飼い主は外人……
戦争中のうちは迎えにくることなど……それなら……)

海未「多分ですが当分こないかと……」

穂乃果「そんなことない!絵里ちゃんはすぐに迎えに来るよっ!」

海未「そういって何日たってるんですか?」

穂乃果「うっ……で、でも」

海未「でも飼い主を待ちたいというあなたの気持ちもわかります」

穂乃果「なら!」

海未「そこでです、日中だけあの場所で飼い主を待って
夜はこの家で過ごしてみてはどうですか?」

穂乃果「そんなっ!夜に来るかもしれないし!」

海未「もちろんその可能性もあるかもしれません、しかしあなたの飼い主は
貴方がいなかったからと言ってすぐに諦めるほど薄情な人なんですか?」

穂乃果「絵里ちゃんはそんな人じゃないっ!」グルルッ

海未「ならいいじゃないですか
それにあなたも今の生活に限界を感じているんじゃないですか?」

穂乃果「うっ……それは……」

海未「それに今のままでは飼い主に会う前に死んでしまうかもしれませんよ?」

穂乃果「……」

海未「貴方はそれでいいんですか?」

穂乃果「よくない……」

海未「ならここは妥協するべきですよ、飼い主に会うためにもです」

穂乃果「……うー、わかったよ。絵里ちゃんに会うためだもん」

海未「いい子ですね、」ナデナデ

穂乃果「これからよろしくね、穂乃果っていうんだ」

海未「ふふっ、知ってますよ。散々会話の中で言われましたからね
私は海未です。これからしばらくよろしくお願いします」

穂乃果「わんっ!」

犬は海未の家で暮らすことに決めました
決して飼い主への想いがなくなったわけではありません
そしてこれは辛いことばかりだった犬にとって幸せな時間の始まりでした

~~~~~


穂乃果「わんわん!いってくるねー!」

海未「はい、行ってらしゃい」

犬は海未の家で暮らしていくうちにすっかりと元の明るさを取り戻していました

穂乃果「今日は絵里ちゃん来るといいなっ」フリフリ

穂乃果「絵里ちゃんが迎えに来たら海未ちゃんの紹介するんだ~♪」フリフリ

穂乃果「そのあとにこちゃんの家にもお礼しにいかないとねっ」

穂乃果「おにぎりくれた二人にも会いに行かなきゃっ!」

~~~~~


犬にとって飼い主を待ち続けて二度目の冬が来ました
去年の冬は辛く、とても厳しい冬でした
しかし今年は違います、犬は一人ではなかったからです

穂乃果「うぅ……寒くて寝れないよ……」ブルブル

海未「しょうがないですね、ほらもっとくっ付きなさい」ギュッ

穂乃果「ク、クーン!海未ちゃんくるしー!」フリフリ

海未「でもこうすれば暖かいですよ」

穂乃果「わ、わん……」

穂乃果(本当だ、暖かいや)

海未「それではおやすみなさい」

穂乃果(懐かしいな……、昔絵里ちゃんとよく一緒に寝たっけ)

穂乃果(絵里ちゃん今頃なにしてるのかな……)



穂乃果「ぐぅ……ぐぅ……えりちゃん……」zzz

海未「可愛い寝顔ですね」ナデナデ

海未「それにしても戦争……、長引きそうです」

海未「各地で徴兵が激しくなってると噂も聞きます……」

海未「後方支援や看護係も足りずに女性までもが……」

海未「もしかしたらいずれ私も……」

その後も犬は海未と一緒に暮らしながら飼い主を待ち続けました
そしてさらに数カ月が経ちました

~~~~~


穂乃果「うー!今日も絵里ちゃん迎えに来てくれなかったよっ」プンプン

穂乃果「穂乃果のこと忘れちゃったのかな……」

穂乃果「ううん!そんなことはない!何かあって遅れてるだけだよね」

穂乃果「迎えに来たらいっぱい噛みついてやる……!
うー!わんわんわん!」

穂乃果「ただいまー!聞いてよっ、また絵里ちゃんこなかったの!」ガルルッ

海未「……穂乃果、おかえりなさい」

穂乃果「? どうしたの?」キョトン

海未「……貴方に話さないといけないことがあります」





海未「ということです」

穂乃果「ちょーへー?うーん?」

海未「ちょっと難しかったですね、簡単に言うと私はこの家から出る……
そしてあなたとも離ればなれにならないといけないということです……」

穂乃果「えっ?な、なんでっ!?どうしてなの!」

海未「お国の事情です……」

穂乃果「そんなの嫌だよ!」

海未「私だって嫌です……、ですがもう変えられないのです」

穂乃果「そんな……そんな……」ポロポロ

海未「泣かないでください……、貴方に泣かれると私だって辛いです……」

穂乃果「無理だよ……」ポロポロ

海未「……泣きながらでいいので聞いてください、貴方のこれからについてです」

穂乃果(そっか、海未ちゃんがいなくなったらもうこの家にはいれないんだ……)

海未「あなたの世話を頼める友人がいます
できればその人の家に行ってほしいんです」

穂乃果「ぐすっ……そこに海未ちゃんは……?」

海未「……私はいません、そしてもう一つ……その家からでは貴方がいつも
飼い主を待ってる場所には行くことができないでしょう……」

穂乃果「!? ダメダメだめ!それはだめだよっ!」ガルルッ

海未「聞いてください!あなたの飼い主は……、多分まだまだ来ません」

穂乃果「そんなことない!すぐくるもん!」ウウウッ

海未「私にはわかるんですっ!
この戦争が終わるまで迎えに来ることはできないんですっ!」

穂乃果「なんで……そんなこと言うの……」ポロポロ

海未「あなたを悲しませたい訳じゃないんです
ただあなたに幸せになってほしいんです……」

穂乃果「……」

海未「お願いします……、飼い主のことは一旦諦めてください……」

穂乃果「……穂乃果もね、薄々感じてたんだ
絵里ちゃんは迎えに来ないんじゃなくて来れないんじゃないかって」

海未「なら!」

穂乃果「でもね、可能性は0じゃないでしょ?
少しでも可能性があるなら待ち続ける、それが私の幸せなの」

海未「それであなたが……!」

穂乃果「……大丈夫だよ。穂乃果こう見えて強い犬だから!
絵里ちゃんに会うまで負けたりしないからっ!」

海未「本気なんですか……?」

穂乃果「一年以上一緒だったんだもん、穂乃果のことはよく知ってるでしょう?」

海未「後悔はしませんか……?」

穂乃果「絶対にしないよ、むしろ絵里ちゃんを待てなかった方が後悔するよ」

海未「では、一つ約束してください…・・・・また私に会ってくれるって」

穂乃果「もちろんだよ!絵里ちゃんに一番に紹介するって約束するね!」

海未「穂乃果ぁ!」ポロポロ

穂乃果「えへへ、次は海未ちゃんが泣く番だね」

海未「絶対に……私が戻ってくるまで無事でいてくださいっ!」ポロポロ

穂乃果「わん!約束するよ」

海未「破ったらひどいですからねっ……」

穂乃果「うぅ……なにされるんだろう……」

海未「飼い主の代わりに私が躾け直しますからっ!それも相当厳しく!」

穂乃果「えぇー!今ですら厳しいのに!」

海未「知りません!……それが嫌ならまた私に会ってください」

穂乃果「わんっ!」

こうして犬はまた一匹になりました
そして間もなく三度目の冬がやってきます

~~~~~


穂乃果「うぅ……今年は冷えるなぁ……」ブルブル

穂乃果「耳が一段とピーンってなってるよ……」

穂乃果「でも今年は楽だねっ、海未ちゃんが別れる前に
寝床になる空き地と食料を用意してくれたから!」

穂乃果「うぅ……寒いしもう寝よう……」





穂乃果「……朝からなんか体が重いなぁ」

穂乃果「約束の場所に行かなきゃ……」

穂乃果「その前に食事を……食欲ないしいいや」

穂乃果「待っててねえりちゃん……」フラフラ



穂乃果(なんでだろう……上手く歩けないや……)フラフラ

穂乃果(頭ぼーっとして……尻尾も耳も垂れてくる……)

穂乃果(調子悪いのかなぁ……)フラフラ

穂乃果(もうちょっとで着くから……着いたらちょっと寝てよう……)ブチッ

穂乃果(? 今何か音が……首に違和感が……)フラフラ

穂乃果「あっ……、穂乃果の首輪が……絵里ちゃんとの絆が……」

穂乃果「穂乃果の宝物が……きれて……拾わないと……えりちゃん……が……」クラクラ

穂乃果「それは……だめ……」パクッ

穂乃果「え……り……」ばたっ



ことり「! わんちゃんが倒れてる!?大変!お医者さんに連れてってあげなきゃっ!」

ことり「?なんだろうこの布……大事そうに噛んでるけど……」

ことり「それよりも早くお医者さんにっ!」



真姫「なるほど、そういうわけでうちに来たのね」

ことり「そうなの!真姫ちゃんなら助けられるでしょっ!?」

真姫「あの……うちは人間専門なの知っているわよね?」

ことり「似たようなものだよ!だってこんなに苦しんでるんだよ?」

真姫「全然違うわよっ!それにただでさえ戦争で薬もないのよ?
私ができることなんて……」

ことり「じゃあ真姫ちゃんは苦しんでる人を見捨てるって言うの!?」

真姫「いや、犬なんだけど……。あなた教師の癖に頭悪いんじゃないの?」

ことり「……もしかして犬は見れないとかなの?」

真姫「さっきからそう言ってるじゃない!」

ことり「ふーん、真姫ちゃんってそんな藪医者だったんだね♪」

真姫「っ!何か言った!?」

ことり「別に~。ただ自称町一番のお医者さんの真姫ちゃんが
わんちゃん一匹救えない藪医者で驚いてるだけだよ」

真姫「くーっ!そこまで言われたらいいわよ!救ってあげようじゃないの!」

ことり「本当、でも犬だよ?」

真姫「天才は対象を選ばないのよ!みてなさいっ!」

ことり「さっすが真姫ちゃんっ!」



絵里『穂乃果お散歩に行きましょうね!』

穂乃果(絵里ちゃん……)

絵里『うーん、穂乃果ってすぐふらふらして危なっかしいわね
つけたくなかったんだけどしょうがないかしら』

穂乃果(絵里ちゃん……)

絵里『はい、首輪よ。外出の時だけつけましょうね
……え、やだ?ちょっ!暴れちゃだめよ!』

穂乃果(絵里ちゃん……)

絵里『うーん、そうね首輪ってのは、穂乃果が私の物って言う証明というか……
絆の証みたいなものよ!……え?つけたくなった?いい子ね!』

穂乃果(会いたいよ……絵里ちゃん……)

穂乃果(大丈夫……首輪がある限り絵里ちゃんとまた会える……
だって穂乃果は絵里ちゃんの物なんだもん……)

穂乃果(首輪……首輪……、そうだっ!首輪!)

穂乃果「首輪っ!首輪はっ!?」バサッ

真姫「あら、目が覚めたの?あなた5日間も眠ってたのよ?」

穂乃果「ねえ首輪は?穂乃果の首輪は!?」

真姫「ちょ、助けてあげた人間様に対して第一声が首輪だなんて……」

穂乃果「首輪がない……そんな……」シュンッ

真姫「……あなた首輪がそんなに大切なの?」

穂乃果「……うん」

真姫「ちょっと待ってなさい、確かことりがそんなようなきれを拾ってたような……」

ガチャッ

ことり「真姫ちゃん、わんちゃん起きたぁ?」

真姫「っと、ちょうといいタイミングね」

ことり「起きてる!きゃー!やっぱりかわいいっ!」ギュッ

穂乃果「うぐっ……ん?」スンスン

真姫「ちょっと!まだ病み上がりなんだから!」

ことり「へへへ、ごめんね、つい可愛くて……」

穂乃果(この匂い……)クンクン

穂乃果「ねえ、穂乃果の首輪持ってるよね?匂いがする!」

ことり「首輪?あー!そうだった、はいこれっ」

穂乃果「それ、穂乃果の首輪!」

ことり「倒れてた時にね、大事そうに握りしめてたから気になって持ってきちゃったんだ」

穂乃果「あれ……この首輪って千切れてなかった……?」

ことり「うん、ところどころすごいボロボロで千切れてたよ」

穂乃果「だよね……。でもこれって……」

ことり「だから修理しちゃった♪だってすごい大事そうにしてたんだもん!」

穂乃果「すごい……、まるで新品みたいにっ……!」

ことり「えへへ、頑張っちゃった!喜んでくれるかな?」

穂乃果「うんっ!ありがとうお姉さんわんっ!わんっ!」ペロペロ

ことり「かーっわいい!あとお姉さんじゃなくてことりっていうんだよ」

穂乃果「わん!わん!ことりちゃん大好きっ!」ペロペロ

真姫「ちなみに私は真姫って言うの、聞いてるのかしら……」


穂乃果「ことりちゃんありがとう!ありがとう!」ペロペロ

ことり「くすぐったいよぉ」

真姫「ことりったら顔舐められてよだれだらけじゃない……、
って首輪があるってことは飼い犬なの?飼い主はどこよ」

穂乃果「そ。それは……」

ことり「私も気になってたんだ、なんであんな場所で倒れていたの?飼い主さんは?」

穂乃果「えっとね、ちょっと長くなるんだけど―――」



穂乃果「ってことがあって今ちょっと離ればなれになってるんだ」

ことまき「……」

ことり「……偉いよっ!ずっと飼い主を待ち続けるなんて!なんかのお話みたい!」

真姫「能天気そうな顔して苦労してたのね……、頑張ったじゃない……」

ことり「あっ!真姫ちゃん涙目になってるよ?」

真姫「う、うっさいわね!こういう話に弱いのよっ」

穂乃果「ってわけで穂乃果行かなきゃ!
ことりちゃん真姫ちゃん、ありがとうね!」フリフリ

真姫「駄目よ!貴方はまだ病人なの。医者として退院を許可するわけには行かないわ
……あれ?でも病人って変ね、病犬って言うのかしら?」

ことり「穂乃果ちゃんってひどい状態だったんだよ?私も休んだ方がいいと思うな」

穂乃果「で、でもその間に絵里ちゃんがっ!」

ことり「大丈夫だよっ、貴方の飼い主を探すのに私と真姫ちゃんで協力してあげるからっ」

穂乃果「協力?」

ことり「うん!ずっと待ち続けても効率が悪いでしょう?いい考えがあるの」

真姫「ちょっと!何勝手に決めてるのよ」

ことり「そんなこと言って真姫ちゃんが穂乃果ちゃんを
放っておけるほど冷たくない事は知ってるんだから!」

真姫「う……、で、な、なにすればいいのよ」

ことり「ふふっ、それはね穂乃果ちゃんのことを噂にして多くの人に知ってもらうの!」

真姫「はぁ?」

穂乃果「穂乃果を噂に?」

ことり「そう!そうすれば大勢の人が飼い主を待ち続けてる犬がいることを知るでしょ
誰か飼い主さんの知り合いの人の耳にも入るかもしれない」

真姫「……なるほどね、いい案じゃない。でもどうやって噂にするのよ」

穂乃果「それで絵里ちゃんに会えるなら穂乃果なんでもするよっ!」ブンブン

ことり「穂乃果ちゃんは早く体調を治して
またいつも通りあの場所で待ってればいいんだよっ」

ことり「ことりは生徒や他の学校の知り合いに、真姫ちゃんはここに来た患者さんに
穂乃果ちゃんの話をすればいいの!」

真姫「そんなことで広まるのかしら……」

ことり「人の噂好きは侮れないからね、それに今は停戦主張のムードも相まって
みんな明るい話題に飢えてるからきっと平気だよ!」

真姫「確かにそうかもね」

ことり「今度、停戦派の人たちとの勉強会があるから、そこでも話してみるね
軍の人や記者の人も来るから興味持ってもらえれば一気に広まるかも!」

真姫「私も診察しながらいろんな層の人に話してみるわ」

ことり「そうと決まれば頑張ろうね!」

穂乃果「……ありがとう」

穂乃果「穂乃果は馬鹿だから何を話してるのかよくわからないけど……
二人が穂乃果のために頑張ってくれるってのがすごく伝わってくる」クーゥン

真姫「困ったときはお互い様よ」

ことり「それが人間だもんね」

真姫「穂乃果は犬だけどね」

時にはいじめられたり、ひどい扱いもされましたが
それでも犬は多くの人々に助けられ、暖かさに触れながらここまで生きてきました
そして今、犬にはある一つの決心が生まれていました

穂乃果(絵里ちゃんに会えたら、今度は穂乃果がみんなに恩を返す番なんだ……)

穂乃果(みんなのおかげで今、穂乃果は笑顔でいられる)

穂乃果(今度は穂乃果がみんなを笑顔にしてあげないと……)

穂乃果(だからそのためにも早く絵里ちゃんに会わないと!)

この二人との出会いが犬と飼い主のこれからを大きく変えることになりました
そして、戦争は確実に終戦に向かいだしています

~~~~~
数週間後

住人A「ねえ知ってる?あの犬のうわさ」

住人B「あー、飼い主を数年間かけて待ち続けてる犬だっけ?本当なの?」

住人A「なんか本当らしいよ神田通りにいつもいるんだって」

住人B「へぇー、忠犬もいたもんだね」



凛「ねえ、かよちん。今の話聞いた?」

花陽「うん……、穂乃果ちゃんだよね……」

凛「懐かしいにゃー!ってまだ飼い主さんに会えてなかったんだね」

花陽「うん……あんなに会いたがってたのに……」

凛「可愛そうだよ……、凛たちも何か協力できないかな……」

花陽「どうだろう……私達ただの農家だし探し出すなんてことはとても……」

凛「うーん……、なんでもいいから協力してあげたいにゃ……」

花陽「そうだ!今作ってるお米に穂乃果って名前を付けて売り出そうよっ」

凛「え?なんで?」

花陽「売るときについでに名前の由来も教えてあげるの!そうすれば飼い主さんに伝わって
穂乃果ちゃんのことを思い出して迎えに行ってくれるかも!」

凛「なるほどっ、名案だよかよちん!」

花陽「そうと決まれば日本で一番おいしいお米を作らないとね」

凛「頑張るにゃー!」

犬の噂は着実に広まりつつありました

~~~~~

にこ「はぁ……終戦ムードも相まって戦争の話題ばっかりね」

にこ「どこの記事も似たような話題ばかり、もっと面白い話題はないのかしら」

部下「にこ先輩!聞きました?あの噂!」

にこ「なに?戦争に関する話題ならだいたい知ってるわよ」

部下「違いますよ!飼い主を待ち続けてるわんちゃんの噂です!知らないんですか?」

にこ「犬?」

にこ(飼い主を待ち続けてるって……まさかね、だってもう何年も前のことだし)

部下「なんでも神田通りに数年前から飼い主を待ち続けてるわんちゃんがいるとか……
今、町では結構噂になってますよ!」

にこ「!?」ガタッ

部下「ひゃっ!急に立ち上がってどうしたんですか?」

にこ「取材に行くのよ!特集組むからあんたは準備しときなさいっ」

部下「特集?一体何の記事ですか?」

にこ「そのバカな犬のよ!」タッタッタ





にこ(あのバカ犬はまだ飼い主待ってるわけ?何年たってると思ってるのよ!)

にこ(まったく……どこまで迷惑かけるのかしら)

にこ「すいませーん、ちょっとお話をお伺いしたいんですが」

にこ「最近、噂になっているらしい犬のこと何か知っていたら教えてもらっていいですか?」

にこ(はぁ、一度会っただけの犬のためになんでここまでしてるのかしらね)

にこ(……これでバカ犬が会えなかったらただじゃおかないわよ)

~~~~~

海未「園田です、1~30番までの包帯の交換と、状態の確認終わりました」

医者「そう、じゃあしばらく休憩ね」

海未「はい」

医者「あなたもここに来てもう結構経つわよね」

海未「そうですね……」

医者「確かここに来る前は犬を飼っていたんだったかしら?」

海未「はい、とても大切な家族でした」

海未(穂乃果、貴方は今何をしているんですか……、とても心配です)

医者「その子は今どうしてるの?」

海未「わかりません……、元気に暮らしているといいのですが……
ところでなぜ犬の話を?」

医者「ああ、この前ね。医者の友達から手紙が来たのよ。面白い犬がいるんだって」

海未「面白い犬ですか?」

医者「何やら飼い主を待ち続けてる犬でね……えっとどこにいるんだったかしら」

海未「!? それは神田通りではないですかっ!?」

医者「あー、確かそうだったわね。ってあなた知ってたのね」

海未「あっ、ええまあ」

医者「何でも飼い主に知らせるために噂にしようとしてるみたいよ」

海未(なるほど、確かに噂になればもしかしたら飼い主に届くかもしれない!)スタッ

医者「って!園田さんどこにいくの?」

海未「ちょっと患者さんの様子を見てきます!」

海未(こんな離れた地に来てしまっても、私は穂乃果と繋がってられるんですね)

海未(私も噂が広まるために協力をします!……貴方が飼い主に出会えることを願って)

海未(そしてもう一度私とも……)

~~~~~

そしてさらに月日は流れました
今では国内のいたるところで犬の噂が話されています
そしてついに……

軍人A「なあ、知ってるか?あの犬の噂」

軍人B「もちろんだろ?元気出るよな。ああいう話は」

軍人A「犬でさえ飼い主に忠誠を使って頑張ってるんだもんな。俺たちも頑張らねえとな」

希「頑張るのはええけど、職務中に面白そうな話してるやん?」

軍人B「ひぃっ!も、申し訳ありませんでした!」

希「ええってええって。それでどんなおしゃべりをしていたのかな?
ウチもおしゃべり好きだから気になるなぁ~」

軍人A「えっと犬の話です……」

希「犬?なんでまた?」

軍人B「今、噂になってる有名な犬がいまして……」

希「噂?どんなんなん?」

軍人A「えっと、確か神田通りで数年間飼い主を待ち続けてる犬がいると……」

希(神田通り?確か昔のエリチの家の近くだった気が……)

希「その話詳しく聞かせてもらってええかな?」

軍人B「それでしたら特集記事が組まれている新聞がありますので!」

軍人A「こちらです!ですので今回のことは不問に……!」

希「ああ、ええよ。その代りあまりサボりすぎはいかんからね」

軍人A・B「はい!それでは失礼します!」

希「特集記事……、これやね。一面でくまれてるなんて……、気合入れてるなぁ」ナニナニ

希「『飼い主を待ち続ける忠犬、穂乃果』―――!やっぱり穂乃果ちゃんや!
生きてたんや……!早くエリチに知らせてあげないと!」

希「あとは穂乃果ちゃんを迎えに……、いや記事を見る限り生活は安定してるみたいやし
どうにかエリチに合わせられないか、で考えた方が良さそうやね」

希「立場を使って、ウチにしかできないことをやらんと……
それがせめてもの……」

~~~~~
外国 絵里の家

絵里「……」

絵里(穂乃果……)

亜里沙「お姉ちゃん、希さんからお手紙が来たよ」

絵里「希から?私に手紙なんていくらあの子でも相当危険なはずなのに……」

亜里沙「緊急って書いてあるよ?とても大事なことなんじゃないかな」

絵里「緊急?なにかしらね」

絵里(もしかして穂乃果が……)

絵里(いいえ、もう希望を持つのはやめましょう)

亜里沙「手紙置いておくね」

絵里「ええ、ありがとう亜里沙」



絵里(穂乃果と別れたあの時からもう数年が過ぎたわ)

絵里(きっとすぐに会えると信じて一年が経った)

絵里(いつかまた会えると信じて二年が経った)

絵里(そして今はもう……)

絵里(あの時、私は飛び降りるべきだった……)

絵里(押さえつけられてて無理だった?そんなの言い訳にならないじゃない)

絵里(そうすれば穂乃果はたった一人で死ぬこともなかったのに……)

絵里「っと、手紙がったわね。何かしら」パラッ

絵里「えっ……!」

希から飼い主に宛てられた手紙には穂乃果の生存を知らせる文書
そして新聞の切り抜きが入っていました

絵里「穂乃果が……生きてる?」

絵里「う、うそ……そんな……まさか……」

絵里「あの子は一人で、神田通りで私のことを待っててくれたの……?」

絵里「それなのに……私は諦めて……」ポロポロ

絵里「っ……!泣いてる暇なんてないわ!急いで迎えにいかないとっ」



亜里沙「あれ、お姉ちゃんどこか行くの?」

絵里「日本よ!」

亜里沙「へっ?」

絵里「穂乃果が生きてたのよ!迎えに行かないとっ!」

亜里沙「わんちゃんが?で、でも無理だよ!今の日本に行く方法なんてないよ!」

絵里「知らないわよっ!それでもいかないといけないの!」

亜里沙「そ、それに日本に行けたとしてもすぐに拘束されて会うどころじゃないよ!
冷静になってよ!」

絵里「でも!穂乃果が!」

亜里沙「しょうがないよ……行く方法だってないんだもん」

絵里「そ、そんな……」

絵里(ペット一匹迎えに行けないなんて……)

絵里(穂乃果は私を信じて待っていてくれてるのに何もできないの……?)

絵里(お願い穂乃果……私が行くまで無事でいて……)

こうして、多くの人の協力を得て
犬の想いは確かに飼い主へと届きました
しかし飼い主が迎えに行けるのはまだまだ先のことでした

~~~~~
そしてさらに月日は流れました
今は犬はことりの家に住んでいます

穂乃果「いってくるね……」

ことり「うん、気を付けてね?何かあったらすぐ戻ってくるんだよ」

穂乃果「わんっ!」

犬は今も変わらずあの場所で飼い主を待ち続けています



真姫「ことりー、お邪魔するわよ」

ことり「いらっしゃい真姫ちゃん」

真姫「穂乃果は今日もいったの?」

ことり「うん、また待ちに行ったよ」

真姫「そう。とっくに終戦してるってのに
まだ国の行き来ができるようになるまでかかるのかしら……」

ことり「しばらくかかるみたいだね……、徴兵された人たちもまだ帰ってこないし……
本当バカみたい」

真姫「穂乃果には時間がもうあまりないってのに……」

待ち続けて既に4年以上が経っています
この頃、犬にはもう寿命が近づいていました
もちろん犬自身もそのことに気づいていました



穂乃果「はぁ……はぁ……」

穂乃果「ようやくついた……」

穂乃果(ここまで来るのも……もうつらいや……)

穂乃果「わんっ……」

穂乃果(絵里ちゃん……会いたいなぁ)

穂乃果(海未ちゃん、約束破っちゃうかもね)

犬の限界は着実に迫りつつありました

~~~~~
外国 絵里の家

絵里「戦争もとっくに終わった……なのになんで日本に行けないのよ!」

絵里「早く穂乃果に会わないといけないのに……」

絵里「なんで私は穂乃果のために何もできないのっ……!」

コンコン

絵里「誰よっ!」

希「エリチ、ウチや」

絵里「の、希!?なんで貴方ここに……」

希「エリチを日本に連れてくためにきまっとるやん
穂乃果ちゃんに会いたいやろ?」

絵里「なっ……そんなことできるの?」

希「そのためにウチがいるんやで、荷物まとめて早く出発しよか」

絵里「……ええ!ありがとう希」

希「ええんよ、せめてもの罪滅ぼしやから」

飼い主は希が相当なリスクを負って
自分を連れ出そうとしていることに気づいていました
しかし、何も言いません
それが二人の信頼関係だったからです

絵里(ありがとう希……もうちょっとだけ待っていてね穂乃果)

~~~~~
4日後

穂乃果「ことりちゃん穂乃果もういくね」

ことり「また、飼い主さんを待ちにいくんだね?」

穂乃果「うんっ、でも今日はちょっと遅くなるから」

ことり「……」

穂乃果「心配しないでね、今までありがとう
ことりちゃんのおかげですっごく助かったよ」

ことり「うん、ことりも……穂乃果ちゃんにあえてよかったっ……」

ことり「真姫ちゃんもね、いつもは素直じゃないけど
穂乃果ちゃんのこと大好きなんだよ」

ことり「今じゃあ人間だけじゃなくて、獣医としても有名になってるほどだもん」

穂乃果「うん、知ってるよ」

ことり「最後に撫でていい……?」

穂乃果「もちろんだよ」

ことり「……」ナデナデ

穂乃果「くぅーん……」フリ……フリ……

ことり「……」ナデナデ

穂乃果「真姫ちゃんにもよろしく言っといてくれると嬉しいかな」

ことり「うんっ……うんっ……」

穂乃果「ありがとう、じゃあもう行くね」

ことり「うんっ……頑張ってね」

穂乃果「わんっ!」



穂乃果「はぁっ……はぁっ……」フラフラ

穂乃果(もう……無理……でも……最後はあの場所で……)

穂乃果(絵里ちゃんを待ち続けて色々あったな……)フラフラ

穂乃果(希ちゃん……今ならわかるよ、絵里ちゃんを守ってくれたんだよね。ありがとう)

穂乃果(にこちゃんのお弁当美味しかったなぁ)

穂乃果(花陽ちゃんと凛ちゃんのおにぎりも……みんな元気かなぁ)

穂乃果(海未ちゃん約束守れなくてごめんなさい……、躾は許してほしいかな)

穂乃果(真姫ちゃん最後に会えなくてごめんね、でも時間がないから……)

穂乃果(ことりちゃん、いつも穂乃果のお世話してくれてありがとう
何も恩返しできずにごめんね……)

穂乃果「ついた……わんっ……」

目的地にたどり着いた安堵感から犬の体からは一気に力が抜けていきます

穂乃果(絵里ちゃん私ね、最後まで待ち続けられたよ)

穂乃果(いい子だよね?褒めてくれるかなぁ……)

絵里『穂乃果、いい子ね~』

穂乃果「わんっ!」

絵里『さすが私のペットね!賢いわ!』

穂乃果「わん!」

絵里『穂乃果大好きよっ!』

穂乃果「わん」

絵里『約束よ?離れたら絶対にこの場所に集合だからね!』

穂乃果「わ……ん……」

穂乃果(約束……、守れたよ……)

それは犬が最後に見た飼い主との思い出でした


待ち続けた犬は結局飼い主にあえませんでした
けれど犬に後悔はありません、最後まで飼い主との約束を守りきった誇り
それだけが犬の中を満たしていたからです

~~~~~
次の日、犬の亡骸は徴兵帰りの一人の女性に見つけられ
手厚く葬られました

海未「約束したじゃないですか……また会うって」

海未「穂乃果は嘘つきです……、躾が必要ですね……」ポロポロ

海未はその日から犬の代わりに
約束の場所で飼い主を待つようになりました

そして三日が経ちました

海未(穂乃果はどんな気持ちでずっとここで飼い主を待っていたんでしょうか)

海未(来るかもわからないのに……そして最後まで来なかったのに)

海未(もしも穂乃果を見捨てていたのだとしたら私は……!)

海未(っと、いけませんね。あの穂乃果の飼い主なんです
そんな人ではないとわかりきってるではないですか)

希「エリチ!走ったらあかんよっ!帽子かぶらんと騒ぎに……」

絵里「今はそれどころじゃないわよっ!確かこの先が……!」

海未(何やら騒がしいですね?)

絵里「す、すいません!ここに犬がいるって聞いてきたんですが!」

海未(金髪に蒼い目……外人!?いえ、多分この人が……)

希「エリチ!素性をかくさんと!」

海未「いえ、大丈夫ですよ。穂乃果から聞いているので」

絵里「穂乃果の知り合いですか?私が飼い主の絵里です!
それで……それで!穂乃果はどこにいるんですかっ?」

海未「……ついてきてください」

絵里「は、はい!……ようやく穂乃果に会えるのねっ」

海未「……」



海未に連れられて飼い主は穂乃果の元へと歩いていきます

絵里「ねえ、こんなところに穂乃果がいるんですか?
人気がないしこの雰囲気……まるで……」

希「……エリチ」

海未「着きましたよ、ここに穂乃果がいます」

希「……」

絵里「何言ってるのかしら、穂乃果なんていないじゃない?」

海未「いえ、目の前にいますよ」

絵里「目の前って!そこにあるのは大きな石で……まるでお墓みたいな……」

海未「そこに穂乃果がいるんです」

絵里「嘘よ!隠れてるんでしょう!?出てきて穂乃果!絵里よ!迎えに来たのっ!」

希「エリチっ……!もう……」

絵里「嘘よ……嘘嘘嘘嘘!だって生きてるって!飼い主を待ってるって記事にも……!」

海未「つい先日までは生きていました……、貴方のことを待ち続けていました」

絵里「そんな……そんな……そんな……!」

希「エリチ!しっかり!」

絵里「嫌……ようやく会えると思ったのに……嫌嫌嫌!」

海未「っ!」バシン

絵里「……」

希「エリチ大丈夫!?一体何を……」

海未「しっかりしてください!あなたがこんなんでは
……そんなんでは穂乃果が浮かばれませんっ!」

絵里「穂乃果……」

海未「今からあなたに私の知ってる限りでの穂乃果のことを話します
あなたには聞く義務があります。いいですね?」

絵里「……ええ、お願いできるかしら」

海未「はい、穂乃果に聞いた話ですと、まずあなたと別れてから」



海未「以上です。これが私の知っている穂乃果のことです
徴兵期間があるので間が空いててすみません……」

絵里「そう、ありがとう。二人とも悪いんだけどちょっと先に戻っててくれるかしら」

海未「そうですね」

希「ウチらは出口で待っとるね、エリチ馬鹿なことはせんよね?」

絵里「そんなことはしないわよ、大丈夫だから」



絵里「こんな石の下にあなたがいるなんて信じられないわ……」

絵里「ようやく会えると思ったのにこんなのはあんまりじゃない」

絵里「……辛い思いまでして私を待ち続けてその結果がこれって
貴方はこれでいいの!?」

絵里「なんで私なんかを待ち続けたのよ!
穂乃果なら新しい飼い主を見つけることだってできたかもしれないのに!」

絵里「良くしてくれる人だっていっぱいいたみたいじゃない!
私のことを忘れてればもっと幸せだったのかもしれないのに!」

海未『でも穂乃果は言っていました、絵里と一緒に居ることが自分の幸せだと』

絵里「本当バカな子なんだから……」

絵里「でも私はそんな穂乃果が大好きだった……」

絵里「うぅ……穂乃果ぁ……戻って来てよ……」

絵里「お願いだから……もう一度穂乃果の笑顔がみたいのよ……」

絵里「もう一度私の名前を呼んでほしいの!一緒にお散歩に行きたいの!」

絵里「だからお願い……穂乃果……」ポロポロ

絵里「穂乃果ぁっ……!」ポロポロ

飼い主はたかが外れたように泣き続けました
日が暮れるまで泣き続け、飼い主は不意に立ち上がりました

絵里「……」ゴシゴシ

絵里(穂乃果はこんな私を好きでいてくれたんだ、待っていてくれたんだ……)

絵里(穂乃果の好きでいてくれた私であるため頑張らないと……)

絵里(じゃないと穂乃果が安心して眠れないわよね……)

絵里(私頑張るから……だから、お願い見守っていてね)

穂乃果『ファイトだわん!』

絵里(今……確かに声が……)

それは飼い主の聞いた幻聴だったかもしれません
だけど飼い主には確かに聞こえていたのです



絵里「お待たせ、ずいぶん待たせたわね」

希「……もうええの?」

絵里「ええ。大丈夫よ」

海未「これから貴方はどうするんですか?」

絵里「そうね……とりあえず穂乃果がお世話になった人達に会いに行こうと思うの」

絵里「飼い主としてお礼を言わないといけないからね」

海未「そうですか……」

絵里「駄目だったかしら?」

海未「いいえ、穂乃果の飼い主らしいと思いますよ」

希「エリチ、もうそろそろ戻らんと」

絵里「そうだったわね……」

絵里「ありがとう海未さん、今度貴方へもお礼を言いに行くわね」

海未「ええ、楽しみに待っています。その時は穂乃果の昔の話を聞いてもいいですか?」

絵里「ええ!あの子も喜ぶと思うわ」

こうして飼い主は犬がお世話になったお礼を言うために旅に出ることになりました
ペットの死を聞いて、怒る人、泣く人、気丈に振舞う人、など様々な人がいました
しかし、みんな犬のことが大好きだという気持ちは一緒でした

そしていくつもの年月が流れて行きました

~~~~~
201X年 神田通り

絵里「ねえ、前から思ってたんだけどこの犬の像、穂乃果に似てないかしら?」

穂乃果「えー!そんなことないよっ。それにこの像って一体何なの?」

絵里「えっと、何でも離ればなれになった飼い主を待ち続けた忠犬の像らしいわよ」

穂乃果「へぇー、律儀な犬もいたもんだね。結局会えたのかな?」

絵里「どうやら会えなかったらしいわよ、最後まで待ち続けた犬を
称えるために銅像が建てられたとか……」

穂乃果「そっか……、悲しいね……」

絵里「犬の名前は……、んー。名前のところが削れててちょっと読めないわね」

穂乃果「……」

絵里「どうしたの?」

穂乃果「なんだか他人事のような気がしなくて……
私も絵里ちゃんと離ればなれになったらどうするんだろう……」

絵里「……そしたら穂乃果はこの犬みたいに私を待ち続けてくれる?」

穂乃果「もちろんだよ!ずっとずっと待ち続けるよ!」

絵里「ふふっ、なら私も絶対に向かいに行くって約束するわ。
たとえ何年かかったとしてもね」

穂乃果「ぅー!絵里ちゃんっ!」ギューッ

絵里「甘えん坊なんだから、本当犬みたいね」ナデナデ

穂乃果「絵里ちゃんにだけだもん」

絵里「まったく、かわいいんだから!」

穂乃果「えへへ、じゃあデートの続きしようか!」

絵里「そうね、行きましょう穂乃果」

今では犬と飼い主のことを
きちんと知っている人は誰も居ません

それでもかつて飼い主を信じて待ち続けた忠犬が
この地に居たこと、それだけは今も語り継がれているのでした。

おしまい

ほのわんで忠犬ハチ公をやろうとしたけど忠犬ハチ公のことを良く知らなかったので
多分こんな話だろうというイメージで書きました、だいぶ長くなった・・・。ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年09月09日 (火) 10:28:35   ID: NbcJhBIi

むしろイメージで書いた分良かったよ
乙でした

2 :  SS好きの774さん   2014年09月09日 (火) 16:31:56   ID: NUhQxaOe

感動しましたガチ泣きです

3 :  SS好きの774さん   2014年09月10日 (水) 04:06:26   ID: qS00UpUo

泣きました、ありがとう

4 :  SS好きの774さん   2014年09月23日 (火) 20:52:21   ID: UPUGoX39

いい話でしたよ。乙です。

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