小鳥「へ？　あ、はい。い、いってらっしゃい」

あずさ「いってきます～」

がちゃ、ぱたん

小鳥「聞き間違い……かしら？」

春香「どうしたんですか、小鳥さん？」

小鳥「あら、春香ちゃん。おはよう」

春香「えへへ、おはようございます。それで、何かあったんですか？

　　　何だか不思議な表情でしたけど」

小鳥「あぁ、それがね春香ちゃん。さっきあずささんから小鳥さんって呼ばれたのよ」

春香「？　何か問題なんですか？」

小鳥「いや、問題ではないけど、一体何があったのか不思議で」

春香「え～っと、わ、私あんまり頭良くないから、小鳥さんが何を言っているのか……」

小鳥「えぇ！？」

春香「あの、私には全然普通の事だと思うんですけど」

小鳥「いや、そうなんだけど違うのよ」

春香「う～ん、でも。小鳥さんの事は皆小鳥さんって呼んでますよね？」

小鳥「そう、ね」

春香「でも、小鳥さんにとっては不思議なんですよね」

小鳥「そうなのよ」

春香「う～ん……？」

小鳥「えっと、だからね……」

春香「あ、もうこんな時間！　小鳥さんすみません、私もうレッスンに行かないと……」

小鳥「え？　あ、そうよね。うん、気をつけて行ってらっしゃい」

春香「はい！　いってきま～……うわひゃあ！」

どんがらがっしゃ～ん

小鳥「大丈夫！？」

春香「あはは……。だ、大丈夫です！　それじゃあ今度こそ、行ってきます！」

小鳥「はい、行ってらっしゃい」

がちゃ、ぱたん

小鳥「う～ん、一体どうしちゃったのかしら……？」

響「ピヨ子？」

小鳥「あら響ちゃん、おはよう」

響「うん、おはよう」

小鳥「今日ははいさいじゃないのね」

響「自分だっておはようくらい言うぞ」

小鳥「うふふ、普段と違うからなんだか新鮮ね～」

響「そ、そうか？」

小鳥「えぇ」

響「じゃあ、これからもたま～に普通の挨拶しようかな」

小鳥「ふふっ、皆驚くかもしれないわね」

響「あはは、ちょっと見てみたいぞ！」

小鳥「突然変わったりすると驚くもの、呼び名とか」

響「呼び名？」

小鳥「えぇ、さっきね、あずささんから小鳥さんって言われたの」

響「へぇ」

小鳥「へぇ、って」

響「それって普通じゃないのか？」

小鳥「いや、普通じゃないのよ！」

響「そうなの？」

小鳥「例えば貴音ちゃんから我那覇さんって呼ばれたらどうする？」

響「そ、そんなの嫌だぞ……！」

小鳥「そうでしょう？」

響「貴音はそんな事言うわけないぞ！　だって、貴音と自分は親友なんだから！」

小鳥「いや、響ちゃん。喩え話だから、ね？」

響「貴音は……貴音は……！」

貴音「私がどうしました？」

響「た、たがねぇ……！」

貴音「どうしました響？　そのように顔を歪めて」

小鳥「貴音ちゃん、おはよう」

貴音「おはようございます、小鳥嬢」

響「ねぇ、貴音は自分の事を我那覇さんなんて呼ばないよね！？」

貴音「我那覇さん……はて？　そのように他人行儀な呼び方をする理由はありませんが……」

響「だがねぇ～～……！」

がばっ

貴音「きゃっ」

小鳥「ピヨォォォォ！！　ひびたかキマシタワー」

貴音「こ、小鳥嬢……。響にいったい何が……？」

小鳥「それが……。かくかくピヨピヨ」

貴音「なるほど……。まるまるめんようという訳ですか」

響「うぅ……ぐすっ」

貴音「響、泣かないでください。私があなたを他人行儀に扱うことなどありえないのですから」

小鳥「ごめんね、響ちゃん。まさかこんなに傷つくなんて思わなくて……」

響「な、なんくるないぞ……」

貴音「さ、響。あちらへ」

響「うん……」

すたすた

小鳥「あぁ……行ってしまったわ」

――――数時間後



小鳥「はぁ、やっと一段落ね。あ、もうこんな時間！」

がちゃ、ぱたん

Ｐ「ただ今戻りました。う～、トイレトイレ……」

いそいそ

あずさ「ただいま戻りました～」

小鳥「あ、お帰りなさい～」

あずさ「うふふ、小鳥さん、ただいまです」

小鳥「あ、また！」

あずさ「え？」

小鳥「だって、あずささんいつも私の事を『音無さん』って呼ぶじゃないですか

　　　なのに今日は突然下の名前で呼ぶからびっくりして……」

あずさ「あぁ、そうですね～」

小鳥「ねえあずささん、どうして急に下の名前で？」

あずさ「う～ん、私、色々考えたんですけど。苗字で呼んでるのって小鳥さんだけなんですよ」

小鳥「そうですね」

あずさ「だから、なんだか壁を作ってしまっているような気がしてしまって……」

小鳥「そんな事ないですよ」

あずさ「うふふ、ありがとうございます」

小鳥「別に気にしなくてもいいのに。大体千早ちゃんだって音無さんって呼んでくれますよ？」

あずさ「でも、千早ちゃんって結構苗字で呼んでる子多いじゃないですか」

小鳥「あ～、年下のやよいちゃんですら苗字呼びですよね」

あずさ「えぇ、私の場合小鳥さんだけなんです。だからもっと仲良くなるために、私も下のお名前で呼ぼうかと……」

小鳥「そういうことだったんですね」

あずさ「混乱させてしまってすみません」

小鳥「いえ、あずささんが私ともっと仲良くなりたいって思ってくれた事が嬉しいです」

あずさ「小鳥さん……」

小鳥「まぁ、そんな事しなくても私とあずささんは仲良しだと思いますけどね」

あずさ「うふふ」

小鳥「さて、謎も解決したところでそろそろ帰りましょうか」

あずさ「はい！」

小鳥「どうでしょう、よかったら飲みに行きませんか？」

あずさ「まぁ！　うふふ、素敵なお誘いですね～」

小鳥「この前ちょっと良いバーを見つけたんですよ」

あずさ「それは楽しみです～」

小鳥「それじゃあ行きましょう」

あずさ「は～い！」

がちゃ、ぱたん

Ｐ「ふ～、スッキリした。さぁあずささん、帰り……あれ？」





おしまい