真姫「……何これ?」海未「七輪ですよ」 (95)
-園田家-
真姫「海未」
海未「おや、おはようございます。真姫」
真姫「勉強は順調?」
海未「まずまずと言った所ですね……気を抜いていたら大変な事になりそうですけど」
真姫「あなたなら気を抜きすぎるってこともないんじゃないの?」
海未「そう言ってくれるととても嬉しいです」
真姫「……あれ?」
パチパチ……
真姫「……何これ?」
海未「七輪ですよ」
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真姫「七輪ってなに?」
海未「知らないのですか?」
真姫「競輪なら知ってるけど」
海未「七輪は木炭や豆炭を燃料に使用する調理用の炉の事です」
真姫「ふーん」
海未「調理だけではなく、焚き火の様に暖房器具として使用したり……」
海未「陶芸品を焼くためにも使用できるらしいです」
真姫「なんかすごいわね」
真姫「で、その七輪がどうして海未の家の庭でメラメラ燃えてるのよ」
海未「それはですね……少しお待ち下さい」
真姫「……?」
海未「お待たせしました」
真姫「何これ?イカ?」
海未「スルメです」
真姫「何が違うのよ」
海未「スルメはスルメイカと言う種類のイカの干物の事を言いまして……」
海未「まぁ、私も詳しくは知らないのですが」
真姫「それを焼くの?」
海未「はい、父にお酒のつまみを作ってくれと言われたので」
真姫「……そうね、スルメって言ったらお酒が思い浮かぶわ」
海未「実はこの七輪は父が昔から愛用していたもので……よく縁側で干物を焼いている姿を傍で見ていました」
真姫「見てるだけ?」
海未「危ないからと近づかせてくれませんでした」
海未「なので成長した今だからこそ、火の番を任される様になった、と言う事です」
真姫「楽しそうね」
海未「はい、子供の頃からの夢だったので……ふふっ」
真姫「……」
真姫「ねぇ海未」
海未「なんでしょうか」
真姫「私も一緒にやってもいい?」
海未「いいですよ」
海未「興味が出てきましたか?」
真姫「ちょっと」
海未「そうですか」
真姫「本で焚き火に魚を焼いてたのを見た事あるから役に立つはずよ」
海未「言いにくいのですが全然違うのでその知識役に立ちません」
海未「まぁ最初は私のやり方を見ていてください」
真姫「うん」
海未「まず、このスルメを一度水に濡らします」
真姫「ちょっと待ちなさいよ」
海未「なんですか?」
真姫「どうして干したものをまた濡らすのよ」
海未「これは上干しスルメといって、炙るとすぐに焦げでしまうんです」
海未「なので一度水に濡らしてから炙ると焦げにくくなり、またふっくらと焼き上がりますのでとても美味しいですよ」 パチャ
真姫「そうなんだ」
海未「では焼いていきましょう」
パチパチ
真姫「スルメの足が踊り始めたわね」
海未「昔はこれを見てイカさんがまだ生きてます!だなんて言ってましたっけ……」
真姫「ふふっ」
海未「ちょっと想像して笑うのはやめて下さい」
真姫「海未が言ったんでしょー」
海未「それはそうですが…」
真姫「それよりそろそろ裏返したほうがいいんじゃないの?」
海未「そうですね」 チョイ
海未「温度が高いので気をつけないとすぐに焦げてしまいますね」
真姫「そうね」
パチパチ
海未「……」 スンスン
海未「……このような匂いを、芳しいと言うのでしょうか」
真姫「……」 スンスン
真姫「スルメの匂いがする」
海未「ふふっ……そうですね」
海未「そろそろいいでしょう」 チョイ
真姫「上手く焼けたかしら?」
海未「まずはこのスルメを腕と胴体に分けます」 パキ
真姫「腕?足じゃないの?」
海未「一般的には足と呼ばれているようですが、本来の名称は腕のようです」
海未「次に胴体をこのハサミで適当な大きさに切ります」
真姫「私がやるわ」
海未「ではお願いします」
パチパチ……
真姫「出来たわ」
海未「ありがとうございます。では父に持っていきますね」
真姫「うん」
――
海未「持って行きました」
真姫「どうだった?」
海未「きれいに焼けていて美味だそうです」
真姫「そう」
海未「お零れを頂きましたので一緒に食べませんか?」
真姫「いいわね、食べたい」
海未「はいどうぞ。熱いので気を付けて下さいね」
真姫「ありがとう」
海未「では、いただきます」
真姫「いただきます」
真姫「……」 モグモグ
海未「……」 モグモグ
真姫「結構柔らかいわね、スルメ」
海未「そうですね、味がしっかりとついていて……とっても美味しいです」
真姫「ねぇ海未」
海未「はい」
真姫「顎が疲れた」
海未「早すぎませんか」
真姫「スルメの癖にこの真姫ちゃんの顎を疲れさせるなんていい度胸じゃないの」
海未「スルメは噛めば噛むほど味がするので、もう少し味わって食べてみてください」
真姫「うー」 モグモグ
海未「お茶も入れてきましたのでどうぞ」
真姫「ありがとう……んく」 ズズッ
海未「……」 コク
海未「はぁ……落ち着きますね」
真姫「そうね」
海未「ところで真姫はどうして私の家を訪ねに来たのですか?」
真姫「……忘れた」
海未「そうですか」
パチパチ……
真姫「……」
海未「どうかしましたか?」
真姫「ううん、七輪の火を見てるだけ」
海未「なるほど……いいですよね、この感じ」
真姫「うん、見てて落ち着くわ」
海未「わたしも好きなんです。炭が燃えているのを見るの」
海未「夜だととても綺麗な茜色になるんですよ」
真姫「そうなんだ……ちょっと見てみたい」
海未「休日はよく七輪を出していますので、良ければまた来て下さい」
真姫「うん、分かった」
パチパチ……
海未「……あ、そろそろ炭が燃え尽きそうですね」
真姫「これを足せばいいの?」
海未「はい、お願いします」
海未「……あ、母が呼んでいる様なので少し行って来ますね」
真姫「行ってらっしゃい」
スタスタ……
真姫「……こういうのってよく中をかき回したりしてるけど、何か意味あるの?」
真姫「ちょっとやってみようかしら……」 カチャカチャ
真姫「あ」ブワッ
海未「お待たせしました……どうかしましたか?」
真姫「けほっ!けほっ!……は、灰が舞って……げほっ」
海未「だ、大丈夫ですか?」
真姫「平気……ちょっと賢くなったから」
海未「?」
海未「ふ、ふふふ……何をやっているのですかもう」
真姫「い、いいじゃない別に……気になったんだから」
海未「次からは炭の補充や位置を変える時に触って下さいね」
真姫「…むぅ」
海未「それはさておき、もう一つ注文が来てしまいました」
真姫「何か焼くの?」
海未「はい、これです」
真姫「……何だっけ、これ?見たことはあるのだけど……」
海未「これはししゃもです」
真姫「ああ、ししゃもね。そうね、知ってたわよ。何よ、知ってたわよ」
海未「まだ何も言ってないのですが」
真姫「で、これを焼くの?」
海未「はい、どうやら父の友人が北海道からお土産を持ってきて頂いたとの事なので一緒にと」
真姫「へぇ、ししゃもって北海道で漁れるのね」
海未「そうですね、日本ではどうやら北海道の太平洋岸のみに生息しているらしいです」
真姫「日本では?」
海未「これはちょっとした豆知識なのですが……」
海未「今現在日本各地に販売されているししゃもはカラフトシシャモといって、ししゃもとは違う種類の魚なのだそうです」
海未「なので本物のししゃもは現地に行かないとあまり食べる機会はないみたいですね」
真姫「ふーん」
真姫「じゃあ、食べられる私達はラッキーだって事ね」
海未「くすくす……まだ食べていいとは言われていませんよ?」
真姫「とりあえず焼いてもいい?」
海未「そうですね。一緒に焼きましょうか」 カチャ
真姫「……?」
海未「どうかしましたか?」
真姫「そのまま網に置いて焼かないの?」
海未「ししゃもは焼くと非常に身がボロボロになりやすいので…」
海未「この様に挟む型の金網を使用します」
真姫「そうなんだ」
海未「ではこれにししゃもを挟んで…」 カチャ パチン
海未「七輪で焼いていきましょう」 カチャ
パチパチ……
真姫「……魔女裁判……火炙りの計」
海未「やめて下さい」
ジュウ… ジュッ…
真姫「……脂がすごいわね」
海未「そうですね……網から滴ってとても美味しいそうです」
真姫「……」 クゥゥ
海未「……」
真姫「鳴ってないわよ」
海未「何も言ってませんよ」
真姫「そう」
海未「はい」
真姫「……」
海未「……」
パチパチ……ジュワッ、ジュウゥ…
海未「……ズルイです、こんな音聞かされてお腹を鳴らすなと言うのが無理な話です」 クゥ
真姫「でっしょー?……私は鳴ってないけどね」
海未「そろそろいいでしょう」 カチャ
真姫「途中何回もひっくり返してたけどよかったの?」
海未「さぁ……私も見様見真似でやっているので」
真姫「ちょっと、大丈夫なのそれ」
海未「火は十分に通ってる筈ですから恐らくは大丈夫でしょう」
真姫「そう、ならいいけど」
海未「では持って行きますね」
真姫「いってらっしゃい」
海未「ただいま戻りました」
真姫「おかえり」
海未「そしてお待たせしました、またお零れをいただきましたよ」
真姫「待ってたわ」
海未「オスとメス、一匹づつですね」
海未「……どちらがどれを食べますか?」
真姫「二人だけなんだから半分半分でいいじゃない」
海未「それもそうですね」
海未「では最初に私はオスの方を…」
真姫「私はメスね」
海未「では、いただきます」 ハムッ
真姫「いただきます」 パクッ
海未「……」 モグモグ
真姫「……」 モグモグ
海未「……ししゃものオスはこんなに脂がのっているのですね。とても美味しいです……」 モグモグ
真姫「卵……プリプリ…口の中で弾けてる……」 ハフハフ
海未「んくっ…ふぅ」
海未「口の中で蕩ける…とまでは言いませんが、今まで食べたどのししゃもよりも美味しい気がします」
真姫「そうね、ししゃもなんてあまり食べたことないけど、これは美味しかったわ」
海未「あ、そちらのメスの方を頂けますか?」
真姫「いいわよ。はい」
海未「……あの、真姫」
真姫「何よ」
海未「お腹の部分が殆ど食べられているのですが」
真姫「……あ」
真姫「ごめんなさい、私焼き魚食べる時って横から食べちゃうから……」
海未「あはは……これではオスと殆ど一緒ですね」
真姫「ごめんってば、代わり私のオスもうちょっと食べていいわよ」
海未「そうですか?ありがとうございます」
真姫「……」 モグモグ
真姫(そう言えば、何気なく二人で食べ回してるけど、これって)
海未「~♪」 モグモグ
真姫「……まぁ、海未だからいっか」 モグモグ
海未「?」
パチパチ……
真姫「……」 カチャ
海未「灰を巻き上げずに炭を交換出来るようになりましたね」
真姫「コツをつかめばこんなの真姫ちゃんには楽勝よ」
海未「そうですか」
真姫「それより、網がちょっと焦げちゃってるけど」
海未「そうですね……これより少しひどくなったら交換しましょう」
真姫「うん」
パチパチ……
真姫「……あ、落ち葉が乗っちゃった」 ヒョイ
海未「ふふっ……もう秋ですねぇ」
priiiiiiiii…
海未「携帯が鳴ってますよ」
真姫「ごめん、ママから」 pi
真姫「もしもし……うん、友達の家だけど……」
真姫「ええっ?今から?……うん、分かった」 pi
海未「何かあったのですか?」
真姫「分からない、けどすぐに帰ってきて欲しいって…」
海未「そうですか……」
真姫「ちょっと行ってくるわ」
海未「はい、行ってらっしゃい」
真姫「ただいま」
海未「早いですね」
海未「お母様はどんな要件で?」
真姫「昔の患者さんからお礼の品を貰ったんだって」
真姫「ウチでは絶対食べきれないからお友達の家にお裾分けしてきてって言われて持たされたわ」
海未「そうだったのですか」
真姫「という事で、はい」 カサッ
海未「これは?」
真姫「私も中身は見てないわ」
海未「ふむ……ちょっとお借りしますね」
ガサガサ…
海未「……これは」
真姫「何だったの?」
海未「蠑螺、蛤、帆立……凄いご馳走ですよ」
真姫「貝ばっかりね」
海未「どれも採れる場所が違う種類の貝ばかり……」
海未「その患者さんがどれほど感謝しているのかが分かりますね」
真姫「そうね、もう助からないって言われてた人だったから……」
海未「頂いてもよろしいのですか?」
真姫「いいんじゃない?今頃ご近所さんに配り廻ってるだろうから」
海未「そうですか…では有り難く頂戴いたしますね」
真姫「どうぞ」
真姫「海未、七輪の準備はばっちりよ」 カチャ
海未「はいはい、下ごしらえをしてきますので少々お待ちを…」
パチパチ……
海未「ふぅ…」
真姫「おかえり」
海未「只今戻りました」
真姫「……貝は?」
海未「一応砂抜きが必要だったみたいなので、塩水に浸している最中です」
真姫「どれくらい時間かかるのよ」
海未「ざっと三時間ぐらいでしょうか」
真姫「三時間……」
海未「調理の時間も入れると丁度お夕飯の時間帯ですね」
真姫「お昼はどうするの?」
海未「そうですね……せっかく七輪を出しているので」
海未「冷蔵庫には確か……野菜やお肉はありましたね」
真姫「必要なものがあるなら買ってくるわよ」
海未「うーん」
海未「……あ、ではこうしましょう」
海未「真姫、ちょっと買ってきて欲しい物が…」 カキカキ
真姫「…うん、うん、分かったわ」
――
真姫「買ってきたわよ」
海未「ありがとうございます。こちらも準備万端です」
ガサガサ…
真姫「何だかキャンプの準備してるみたいね」
海未「そうですね…道具も一通り揃っていますし」
真姫「私は何をすればいいの?」
海未「私が野菜を一口サイズに切っていますので、それを刺すだけです」
真姫「うん、でも本当に竹串で良かったの?金串なら焼けないから安全なのに」
海未「七輪ですからね。金串だと入りきらずに逆に大変かもしれないと思いまして」
真姫「そっか……」
海未「まぁ、とにかく刺していきましょう」
真姫「そうね」
海未「……」 プス
真姫「……」 プス プス プス プス
海未「…真姫、それは流石に刺し過ぎかと」
真姫「えっ?普通じゃない」
海未「串が食材で埋もれていますよ。どこで持って食べる気ですかそれ」
真姫「……お箸ある?」
海未「いやありますけど……その考えはちょっと違うのではないでしょうか」
真姫「分かったわよ……」 ヒョイ
海未「では七輪に置きますね」 カチャ
ジュッ…ジュウゥ……
真姫「……これ、見てるだけでも楽しいわね」
海未「そうですね……バーベキューの醍醐味です」
ジュワァ……ジャアァ……
真姫「…お肉の匂いが凄い」
海未「よく考えてみれば、私達スルメとししゃもを少量食べただけでしたね」
真姫「早く食べたいわ」
海未「まぁそう焦らずに…あ、真姫の方はひっくり返しても大丈夫の様です」
真姫「そう?じゃあ……」 グッ
真姫「海未、網にお肉がくっついて離れない」
海未「……あ、油を敷くのを忘れていました」
真姫「どうするのよこれ」
海未「私がトングで網を押さえていますのでゆっくりと引き剥がしてください」
真姫「分かったわ」
カチャカチャ……
海未「……な、中々剥がれませんね」
真姫「ただのお肉の癖にこの真姫ちゃんを手こずらせるなんて……許さないんだから!」
真姫「ふっ、くっ…このぉ……!」 ギチギチ
海未「真姫、ゆっくりです!ゆっくり……」
真姫「えいっ!」
スポッ
海未「…あっ」
真姫「……」 クシダケ
海未「あ、あの、その……」
真姫「何よ……笑えばいいじゃない」 グスン
海未「い、いえその……プッ、ふふふっ……!」
真姫「もー!そんなに笑わなくてもいいじゃないのよー!」
海未「す、すみませんっ……真姫の顔がおかしくてっ…ふふふっ」 クスクス
真姫「もう……ふんっ」
パチパチ……
海未「……あ、そろそろいいみたいですよ」
真姫「私のお肉焦げなくて良かった」
海未「串焼きと焼き肉の両方するというのもなかなか見栄えがいいですね」
真姫「どうやって食べようかしら」
海未「私は串焼きなので塩で、真姫はタレで召し上がっては如何でしょうか?」
真姫「そうね、そうする」
海未「では」ヒョイ
海未「……これだけ一つ持っていると、傍から見たら食いしん坊の様に見えますね」
真姫「そうね、外じゃ恥ずかしくて絶対出来ないわ」
海未「…では、食べましょうか」
真姫「そうね」
海未「いただきます」 パクッ
真姫「いただきます」 パクッ
海未「……ふふっ、美味しいですね、真姫」
真姫「うん、美味しい……」
真姫「…ふぅ、ご馳走様」
海未「はい、お粗末様でした」
真姫「こうやって色んな物をちまちま食べるのもいいわね」
海未「そうですね……少し贅沢な食べ方なので、普段は出来ないですね」
真姫「まだ入るけど、やめておいた方がいいかしら?」
海未「私も腹八分目、と言った所ですね」
海未「すぐお夕飯の時間になりますから、このくらいにしておきましょう」
真姫「そうね」
パチパチ……
海未「……時間がゆっくりと、流れていくのを感じます」
真姫「ちょっとお年寄りみたいな事言わないでよ」
海未「ふふふ……すみません」
パチパチ……
真姫「……」
海未「お茶を淹れて来ましたよ」 コトッ
真姫「あ、ありがとう」
海未「……」 ズズッ
海未「はぁ……落ち着きますね」
真姫「そうね」
海未「……」
真姫「……」
海未「何か考え事ですか」
真姫「ううん、別に」
海未「そうですか」
真姫「……ただ、時間が経つのは早いなぁって」
真姫「そんな事、考えてただけ」
海未「……そうですか」
真姫「ねぇ海未」
海未「なんですか?」
真姫「今、9月よね?」
海未「そうですね。夜は風も冷たくなってきました」
真姫「…そっか。もう9月なんだ」
海未「気を抜いていると、あっという間に冬が来てしまいそうです」
真姫「……そうね」
海未「……」
真姫「……」
真姫「ねぇ、もう貝の砂抜けてるんじゃない?」
海未「早く食べたいのですね」
パチパチ……
海未「持ってきました」
真姫「待ってたわ」
海未「栄螺は一度湯掻いてから焼いたほうがいいので少しお待ちを」
真姫「蛤の身が貝からはみ出てるけど」
海未「ふふっ、触ってみてはどうですか?」
真姫「えー」
海未「きっと面白いと思いますよ」
真姫「……えい」 ツン
真姫「あっ……引っ込んだわ」
海未「可愛いですよね……これ、私も好きです」 ツンツン
真姫「…もう出てこないわね」
海未「これだけ触れられると流石に警戒している様ですね」
真姫「どうせ食べられるのだから潔く開いてればいいのに」 ツンツン
海未「貝からしたら冗談じゃないという感じでしょうけどね」
真姫「焼いていい?」
海未「どうぞ」
カチャ… カチャ
真姫「……」
海未「あ、調味料を持ってくるのを忘れていました」
真姫「何を入れると美味しいの?」
海未「そうですね…醤油や少量のお酒が一般的ですが……」
海未「何も付けずに食べるのが一番美味しいですよ」
真姫「ふーん」
海未「あ、貝口が少し開いたときに中の汁を捨てることをお忘れなく」
真姫「分かったわ」 カチャ
パチパチ……
真姫「……」 ジィー
海未「そろそろ開きそうですね」
真姫「上手くできるかしら」
海未「上手く行く事を祈りましょう」
くぱぁ
真姫「…!海未!開いたわ!」
真姫「……身が上の貝殻に引っ付いてるけど」
海未「あらら……やはり映像のようには上手くいきませんね」
真姫「どうしよう、咄嗟にトングで貝を持っちゃったけど」
海未「…ふふっ、そのまま召し上がっては如何ですか」
真姫「…そのまま」
海未「はい、小皿に乗せて…」 カチャン
海未「これなら中の水分も零さずにいただけますね」
真姫「……食べていい?」
海未「はいどうぞ」
真姫「……いただきます」 カチャ
真姫「んくっ」
真姫「……!」
海未「どうですか?」
真姫「美味しい……何も味付けしてない筈なのに……」
真姫「スープを飲んでるみたい……すごい」
海未「最初に水分を落とすことで、余分な海水を取り除き」
海未「本来の旨味成分のみを味わうことが出来るんです」
真姫「だからさっき捨てろって言ったのね」
海未「はい。折角の出汁なのに塩水の味がするのは勿体無いですよ」
真姫「そうね…だから美味しい」
海未「さて、一緒に帆立も焼いていたのですが……」 カチャ
海未「こちらは定番のバターを落として頂きましょうか」 ポトッ
ジュワァ…
真姫「…匂いが凄い」
海未「食欲をそそる香りです……カロリーが心配になってきました」
すまん、仕事と原稿に追われて中々更新が出来ない
もうちょっとだけ待って下さい
海未「……あ」
真姫「どうしたのよ」
海未「真姫、そのお洋服……そのままでいいのですか?」
真姫「えっ?」
海未「煤がついていますが…」
真姫「……えっ、やだ、何処についてる?」
海未「動かないで下さい」
真姫「あ、うん」
海未「……はい、もう大丈夫です」
真姫「ん、ありがとう」
海未「いえいえ」
海未「せっかく良いお洋服なので汚れては……と思いまして」
真姫「ホント、海未ってそういうのよく気づくわよね」
海未「お、おかしいですか……?」
真姫「ううん」
真姫「羨ましいな……って思ったの」
海未「えっと、ありがとうございます…?」
真姫「…あ、そろそろいいみたい」 カチャ
海未「そうですね。では頂きましょう」
真姫「これ、半分こにするには少し難しいわ」
海未「普通に取り出した後、お箸で崩してはどうですか?」
真姫「そうね、どうせ2人だけしか居ないし」カチャ
海未「……あっ、ちょっと待って下さい」
真姫「?」
海未「そろそろ出来上がる頃だと……少し席を外しますね」
真姫「何?まだ何かあるの?」
海未「それはですね……」
海未「今日のメインデイッシュですよ」
真姫「えっ?」
海未「ふふっ……では台所に行って来ますね」
パチパチ…
真姫「……」 カチャカチャ
海未「お待たせしました」
真姫「おかえり」
真姫「……って、何それ?」
海未「土鍋ですよ」
真姫「土鍋?お鍋でもするの?」
海未「いえそうではなく…」
海未「まぁ、開けたら分かりますよ」
真姫「開けていいの?」
海未「どうぞ」
真姫「…じゃあ」
ガパッ
真姫「……炊き込みご飯?」
海未「はいそうです」
パチパチ…
真姫「……」 カチャカチャ
海未「お待たせしました」
真姫「おかえり」
真姫「……って、何それ?」
海未「土鍋ですよ」
真姫「土鍋?お鍋でもするの?」
海未「いえそうではなく…」
海未「まぁ、開けたら分かりますよ」
真姫「開けていいの?」
海未「どうぞ」
真姫「…じゃあ」
ガパッ
真姫「……炊き込みご飯?」
海未「はいそうです」
真姫「これがメインディッシュ?」
海未「はい」
真姫「何だか普通ね」
海未「えぇ、普通の材料に普通の作り方をした炊き込みご飯です」
真姫「何から何まで普通ね」
海未「はい。一つを除いては……ですけど」
真姫「えっ?」
海未「気付きませんか?」
真姫「……」
真姫「……!」スンスン
真姫「これ…海の匂いがする」
海未「ふふっ、面白い言い方ですね」
真姫「どういう事なの?」
海未「何をしたと思いますか?」
真姫「えっと…」
真姫「……何か入れた?」
海未「栄螺の出汁を入れてみました」
真姫「出汁?」
海未「初めは私も驚きましたが、母は何の迷いもなく加えていました」
真姫「美味しいの?」
海未「まだ味見をしていませんので……」
真姫「…じゃあ、一緒に食べない?」
海未「勿論です。頂きましょう」
真姫「じゃあ…いただきます」カチャ
海未「いただきます」カチャ
真姫「…あむ」
海未「はむっ…」
海未「…これは」
真姫「……美味しい。でも、変な味」
海未「何でしょうか……この名状し難い味わいは」
真姫「苦い…けど、しょっぱいような…?」
海未「しょっぱいのは塩と醤油だと思いますが…この独特の深みがある味は栄螺の筈です」
真姫「渋いとも違うし……何だかモヤモヤする」
海未「……しぇっぱい?」
真姫「は?」
海未「……」
真姫「……」
海未「…ふっ、ふふふ…!し、しぇっぱい…!ふふふふっ!」
真姫「ちょっと自分で言って面白がってどうするのよー!」
海未「す、すみません…!つ、ツボに…!壺焼きだけに……!ふぅっ!?」 ブフッ!
真姫(海未が壊れた)
海未「あはははっ!す、すみません!今日、今日私ダメですっ!あはははっ!」
真姫「全くもう……ふふっ」
海未「はぁ、はぁ……すみません。もう大丈夫です」
真姫「おかえり海未……ふふっ」クスクス
海未「はぁ……何だか一年分笑った様な気がします」
真姫「大袈裟よ」
海未「人はどんな時に大笑いするか分かりませね」
真姫「そうね、今の海未見たら嫌でも分かるわ」
海未「はぁ…疲れました」
真姫「当たり前じゃない」クスクス
海未「……でも、良かったです」
海未「真姫が楽しそうな顔になってくれて」
真姫「…えっ?」
海未「今日の真姫は、ずっと浮かない顔をしていましたから」
真姫「えっ、そうなの?」
海未「気付いていなかったのですか?」
真姫「……」
海未「まぁ、自分の表情なんて鏡を見ても良く分からないものですからね」
真姫「…うん」
海未「何があったのか、なんて無粋な事は聞きません」
真姫「どうしてそう思うの?」
海未「貴女の顔を見れば分かりますよ、もう2年も一緒にいるのですから」
真姫「…そう」
真姫「海未」
海未「何ですか?」
真姫「……ありがとう」
海未「いえいえ」
海未「…さて、日も落ちて来ましたし、そろそろ片付けましょう」
真姫「あ、待って」
海未「何ですか?」
真姫「ほら、貴女言ってたじゃない」
真姫「夜になったら七輪の灯り、綺麗だって」
海未「あぁ、そう言えば……」
真姫「片付けるのはそれからでもいいじゃない」
海未「……」
パチパチ……
海未「……そうですね、折角なので最後まで楽しみましょう」
真姫「うん」
海未「ですがもう暗くて煤を付けられても分かりませんからね?」
真姫「同じ失敗を繰り返す真姫ちゃんじゃないわよ」
海未「ふふっ、そうですね。」
~おわり~
おそらく次のスレで最後
日にち空けてすまんかった
じゃあの
このSSまとめへのコメント
ほんのりするなー。
こーゆうss大好き。
まきうみだからってのもあるけど。