笑美「……別に何も起きてへんけどなぁ」

美世「トラブルが起きるタイミングがあるそうだよ」

笑美「なんや、あらかじめ分かるん？」

美世「わかるけど、わからないというか……」

笑美「……？」

――ガチャ

むつみ「おはようございます！」

美世「あ、おはようむつみちゃん、今日はどうしたの？」

むつみ「皆さんこそ……私もですけど、オフの日では？」

笑美「なんや面白い話があるから聞いてたんやけど、今のところ平和やなー」

美世「うーん、やっぱり確率は低いからね」

むつみ「確率？　面白い？」

笑美「ああ、えーとな」

笑美「今日一日、トラブルに巻き込まれる……らしいけど、さっきから平和でなんも面白くないねん」

むつみ「トラブル？　それは起きないに越したことは……」

美世「笑い話になるならなんでもいいんだって」

笑美「いやそこまでは言うてへんけど、まぁそんなもんや」

むつみ「それって大丈夫なんですか？　そもそも原理は」

笑美「そこは深ーく考えたらアカン事や」

美世「……うーん……何も起きないね」

笑美「せやなぁ、もしかして事務所に篭ってるからアカンのと違うかな、外出てみーひん？」

――ガチャ　カンカンカン

笑美「……いや、ここトラブル起きる場所やろ？」

むつみ「そう言われましても……階段ですよ？」

笑美「だからこそ、滑って転んでドジっ子ちゃうん？　ホンマに今日一日トラブル起きるん？」

美世「そうだよ？　具体的にはこのお話をしている時間が鍵」

むつみ「時間、ですか？」

笑美「ウチの時計やと現在朝の十時ごろやね」

美世「いや、その時間じゃなくて、えーっと」

美世「ここの時間」

笑美「……上？　どこに向かって指さしてるん？」

むつみ「天井には何もありませんが？」

美世「このお話が書き込まれている時間、コンマ二桁」

笑美「はぁ？　……いや、何の事やそれ」

美世「他の人はだいたい把握しているので大丈夫です、ひとつ前のお話を参考にすると……」

美世「02:45:10.36の.36部分が00から19だと次のお話でトラブルが起きる、どんな話の流れでも」

笑美「…………？？」

むつみ「つまり、その時間が該当すれば……」

笑美「……何も起きへんてやっぱり」

美世「おかしいなぁ……もうそろそろ来てもいいと思ってるんだけど」

むつみ「何も起きない場合はどうするんです？」

笑美「そりゃあ、つまらんけど一日平和に過ごすしかあれへんな」

笑美「とにかく歩いてみんと、巻き込まれるにも平穏に過ごすにも変化が無いのは……」

美世「じゃあ近場の公園でも見てみますか」

――公園

美世「あっ」

笑美「どうしたん？　言うてる間に公園に到ちゃ――」

――ビュンッ

　　バンッ

笑美「へぶっ！？」

むつみ「笑美さん！？」

晴「あー……って、笑美さんだったか。すんませんボール当たっちゃいました」

笑美「だったって何やだったって、驚いたわ」

美世「最初のトラブルだね」

晴「……？」

笑美「いやいや、これぐらいなら全然オッケーや、ぬるいぬるい」

晴「何の話なんだ……？」

むつみ「笑美ちゃんは今日一日トラブルに巻き込まれるそうです」

晴「いやわかんねーよ……なんでまた？」

笑美「オトナの都合や」

晴「成人してなかったはずじゃ」

美世「はいはいそれは置いといて、晴ちゃん一人？」

晴「一人ってわけじゃねーけど……」

メアリー「ちょっと！　ボールを取りにどこまで行ってるの！？」

いつき「ちょっと強く蹴りすぎちゃっただけだって、あれ？」

笑美「珍しいメンバーや」

いつき「笑美ちゃんどうしてここに？」

むつみ「お散歩です」

美世「皆さんは公園で遊んでる途中ですか？」

メアリー「遊んで……いいや、トレーニングよ！」

晴「何の見栄だ」

いつき「付き添いです！」

笑美「まぁ、大方予想通りやな」

むつみ「どうします？　遊びますか？」

笑美「せやな……何も起きひんとホンマおもんないし」

晴「変な期待がこっちに来るんだけど」

美世「いっその事条件を変えてみます？」

笑美「条件変えれるとか聞いてへんけど」

美世「20%ならかなりのトラブル率だと思ってたんだけど……」

笑美「ウチ歩くたびに20%で事件起きるんか、とんだトラブルメーカーや」

むつみ「その割にはうまく回避できてますね」

美世「30%(00～30)にしましょう」

いつき「何の話？」

笑美「いやいやこっちの話、しかし三割なら今度こそ……」

美世「公園ですから遊具もあります！　いっそ自分から巻き込まれに行きましょう！」

笑美「せやせや、ここで体張らんといつやるんや！」

むつみ「なんという冒険心」

晴「オレにはいい感じの女子高生が楽しんでるようにしか見えないんだけど」

メアリー「まずは滑り台？」

笑美「そや！　名前は不吉でもいろいろトラブルがネタになる場所や！」

むつみ「怪我だけは気をつけて！」

笑美「足踏み外しそうなほど勢いよく上って！」

――ダダダッ

笑美「座って滑らんと立ったまま駆け下りる！」

――ダダダッ　タッ

メアリー「…………」

笑美「なんもあらへん！？」

美世「こっちのせいじゃないよ！？」

笑美「じゃあ逆向きに勢いよく上って――」

――ダンッ！

いつき「おめでとう！　登頂成功！」

晴「おースゲー」

美世「やったね！　拍手！」

笑美「ちゃう！！　これウチが求めてる拍手と違う！」

笑美「ホンマか！？　これウチ巻き込まれるんか！？　もしかしてドッキリやないか？！」

美世「とりあえずもう一回降りてきてー」

――スーッ

笑美「…………」

晴「普通に降りてきた」

笑美「…………なんかウチ疲れたわ」

むつみ「で、ですね……」

美世「次はどこに？」

笑美「どこかに行って状況変わるなら変えたいわ、ウチだけやないと思うで」

メアリー「よくわからないけど切実に聞こえるワ」

いつき「なら……公園の向こう側、広場の方向に誰かいるかもしれません！」

晴「オレはここにいるから……その、頑張って、ください」

笑美「……意気込んでるウチがアホみたいや」

むつみ「冒険とは思い通りに行かないこともあります……」

笑美「広場言うても、誰がおるかなんて――」

――キキィィ！

茜「おはようございまーー」ガシャンッ！

笑美「ぐへっ！？」

むつみ「交通事故だ！？」

美世「自転車にはねられた！」

笑美「ふふ、ええでええで……場所移動したとたんコレや、キテルで」

美世「駄目だ、笑いに飢えてる」

茜「大丈夫ですか！！！」

笑美「大丈夫や、問題あらへん！　むしろ状況変えてくれてありがとうな！」

茜「……？？　よくわかりませんが褒められました！！」

茜「あっ！　事務所に戻る途中でした！　それでは！」

むつみ「走ってじゃなくて自転車って珍しいですね」

茜「これも鍛錬です！　では！！」

笑美「あ、ちょっと待ってまだウチの服引っかかって」

茜「うおおおお！！　全速力です！！」

笑美「アカンアカン！！　痛だだだ！！」

むつみ「笑美さーん！？」

――事務所

笑美「帰ってきたわけや」

美世「一時間外に居ましたが……変わりましたね」

笑美「ウチの服装？　せやな、めっちゃ汚れた」

茜「気づきませんでした！　すいません！！」

むつみ「途中で服が破れなければ何十メートルも引きずられてましたね」

笑美「自分凄いなホンマ、人を牽引したまま自転車乗れるとか」

茜「ありがとうございます！！」

笑美「褒めてへん褒めてへん」

美世「トラブルは気まぐれです、少しは懲りましたか？　やめますか？」

笑美「いやいやこれしき、もう少し続いたほうが何か起きそうや」

むつみ「チャレンジ精神が」

笑美「事務所なら人も多いしな、そもそも何か起きないと始まらへん……」

美世「じゃあ今は、何か起きない限り一旦休憩ですね」

笑美「……ふー、少し休憩挟んだら気持ちの整理がついたわ」

美世「事務所ということで色々な人も物もありますよ」

むつみ「どれから行きます？」

笑美「あ、もうそういう感じ？ 果敢にチャレンジする方針なん？」

むつみ「駄目でした？」

笑美「いや……それで行こ、何か起きないと始まらへん」

美世「じゃあ何しましょう？ 麗奈ちゃんの小道具でも出しますか？」

笑美「初っ端からなんか持って来よったでこの人」

美世「これなんてどうですか！ ずいぶん前ですが亜季ちゃんの使った砲台を使い回したもので」

笑美「アカンで！ それ一番アカン奴！」

美世「だってゼロですよ！？ それなりの事しなくちゃいけない気がするんです！」

笑美「何の話やねん！？ とりあえず置いて！ このままやと事務所吹き飛ぶレベルのトラブル起きる気がすんねんて！」

むつみ「流石にそれは」

美世「おっと引き金に手が」

笑美「えっ」

ーーパァンッ！ べしゃっ

むつみ「わっと！ ……あれ？」

美世「あれっ、思ったより小規模……」

笑美「なんか出とったな、カラーボール？ ちょっと着弾箇所が汚れるけど核爆発とかよりマシやな……」

美世「なーんだ……期待して損したなぁ」



ーーポタポタ

時子「……」

むつみ「あっ、おはようござ……」

美世「あっ」

笑美「あっ」

時子「…………随分なご挨拶ね」

時子「誰？」

むつみ「美世さんです」

笑美「美世さんです」

美世「あっ！ ひどい！」

笑美「ひどいも何もあれへんわ！ 完全にそっちの不祥事やコレ！！」

美世「あたしはただ引いた時の状況を面白くしようと！」

笑美「悪意100%やん！」

時子「そう、子供の戯れなら百歩譲ってたけど」

時子「大人が何を遊んでいるのかしら、トレンチコート高かったわよ」

美世「あ、え、はい、すいません」

時子「屋上」

美世「…………はい」

ーーバタン

むつみ「惜しい人を亡くしました」

笑美「自業自得や。……そんで、次は何しよ」

むつみ「おおっ、これを踏まえてもまだ行きますか？」

笑美「まだまだ行くで、ここで終わる訳にはいかへんよ」

笑美「せやけどあんなトラブルは御免やから、なるべく安全かつ色々ありそうな……うん、冷蔵庫や」

ーーガチャ

笑美「おー、飲み物と……おっとアイスクリームが二つ」

むつみ「誰のでしょう？」

笑美「名前は書いとらんな、てことは自由に食べてええはず」

むつみ「食べるんですか？」

笑美「イエスと言いたい所やけど、この流れで食べるのは勇者やろ」

むつみ「ですね……じゃあ飲み物にします？」

笑美「せやな、一杯くらいなら。ペットボトルがこれまた二本、色的にコーラと……なんや、ただの水？」

むつみ「飲んで見ましょう！ それが確実です！」

笑美「任せとき！ 果敢なチャレンジ！ ただし酒かどうかはチェックするからな」

むつみ「飲酒はまずいですもんね」

笑美「じゃあこっちの黒っぽい方から、コップに注いで」

むつみ「どうぞ！」

笑美「よっしゃ一気や！ 匂い的に酒やない、炭酸でも野菜ジュースでもなんでもこい！」

ーーグイッ

七海「あれ～？ さっきここに置いたペットボトルはどこに起きました～？」

葵「まだ使わん言うてたから冷蔵庫に入れとるよ醤油」

笑美「ゲホッ！！ ゴホッ！！」

むつみ「笑美さーん！？」

笑美「飲み物ですらないとは予想外や……まだ蕎麦つゆのがマシやったで……」

むつみ「結構コップに入ってましたけど」

笑美「半分は飲んでもーたな……後で甘いもんで相殺しよ」

笑美「甘いもん……そや、もう一本あったな飲み物、それで相殺しよ」

むつみ「甘いものとは限らないのでは……」

笑美「せやかて透明な色で酒やなかったら大丈夫やろ……よし、一気や！」

むつみ「ペットボトルごとですか！？」

ーーダンッ！

笑美「……水や」

むつみ「普通でしたね」

笑美「なんや面白くない、ここは和風ダシとかやろ」

むつみ「なんですかその発想……それにダシならさすがに気付きますよね？」

笑美「そこは、ほら、ウチが一瞬嗅覚失えばええやん」

むつみ「ご立派な芸人思考で……」



笑美「他は何も入ってへんの？」

むつみ「どうでしょうか、こっちのクーラーボックスは？」

笑美「なんや、面白そーなもんあるやん、開けよ開けよ」

笑美「さーて何が入っとるか」

ーーカチャン

むつみ「あ、これは」

ーーぶしゃー

七海「あっ、そこはイカさん入ってるんれすよ～」

笑美「遅いわー、顔面真っ黒やわーベタやわー」

むつみ「ちょっと予想出来ましたね」

笑美「見えてても踏み抜く勇気は大事やで」

むつみ「その顔では説得力が……」

笑美「でも体現しとるやろ？」

むつみ(アイドルでしたよね……？)

笑美「ちょい顔洗ってくるわ」

むつみ「洗面所はさっき誰か使っていましたよ」

笑美「かまへんかまへん、ちょっと顔洗うだけや」

むつみ「真っ黒ですからね……ここまで綺麗になるとは」

笑美「綺麗に真っ黒から綺麗な笑美ちゃんが出てくるで、待っときや」

むつみ「あ、はい」

――ガチャ

笑美「邪魔すんでー」

楓「邪魔するなら帰ってください」

笑美「はいよ～」



笑美「……うん、ええわー、この感じ」

楓「笑美ちゃん、顔真っ黒」

笑美「色々ありましてん、ところで楓さんは何してますの」

楓「屋上で涼んでたら修羅場が始まって」

笑美「あぁ……それでまた何でココ？」

楓「台所で皆お料理中だったの、邪魔しちゃ悪いと思って」

笑美「めっちゃおつまみ広がってますがな」

楓「……そうだ、せっかくだからこの余った」

笑美「お、何か頂けるん？」

楓「10個中9個が特別性のたこ焼きを」

笑美「それ絶対アレですやん、ウチ駄目な奴ですわ」

楓「一気、一気」

笑美「アカンて、かろうじての10%潰しよったでこの人」

――ガチャ

むつみ「確率の綱渡りですか！？」

楓「そう、これは彼女の偉大なる冒険」

笑美「ロープ切れてますやん」

楓「じゃあ、とりあえず一個……どうぞ」

笑美「……よし、ウチも食べるけどその前に事務所の誰かに持っていこ」

むつみ「あっ、巻き込む気ですか」

笑美「いやいや、オイシイたこ焼きの差し入れやで？」

むつみ「その“おいしい”はどっちの意味ですか？」

笑美「人によりけりや。それにな、ウチだけオイシイ思いするのはどうかと思ってな？」

笑美「いっその事、見つけ次第全員巻き込んで行った方が楽しいやろ？」

むつみ「やっぱり芸人的な意味ですかそのおいしいは」

――ガチャ

薫「おはようございまーす！　あ、美味しそうな匂いがする！」

――タタッ

薫「えみさん！　かおるにもひとつちょうだい！」

笑美「あー、えーと……」

薫「……くれないの？」

笑美「せ、せせせやねん、ウチお腹空いてるから食べさせてくれへんかなー？」

笑美（こういう系のトラブルはガチで困るわ……良心が）

むつみ「薫ちゃん、これは笑美さんのお昼ご飯だから食べちゃ駄目」

薫「はーい」

むつみ「今から“お腹空いた”笑美さんが“全部”食べるからね？」

薫「これ全部？　すごーい！」

笑美「逃げ道消えてもうた」

笑美「あはは……いや、全部は多い――」

薫「じゃあかおるに一つちょうだい！」

笑美「食べさせていただきますわ……」

むつみ（楽しい）



笑美（言うても10%でセーフや、引けるて……）

笑美（……いや、よう考えたらハズレって楓さんが言うてただけやんな？）

笑美（特別製ってだけで、勝手に思い込んでたけどただのたこ焼きやってコレ、うん）

――ぱくっ