【艦これ】 魚氷に上り、輝よひて (27)

妄想が爆発しました
ありふれているかもですが、よろしくおねがいします

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これは 深く暗く とても悲しい泥の海のおはなし



深く暗い闇の中、私たちは泳いでいる。

ここは、深海と呼ばれる場所らしい。

暗く冷たく、寒い。

なにもいいことはない。

ただ、

かすかに見える天井から射す光が、

ぼんやりと憶えているいつかの思い出が、

私を、私たちを奮い立たせている。

「あ」

ほら、また今日も

あの温かい光を目指して

上へ上へと泳いでいく。



だが、志半ばで阻まれてしまった。

水の流れかその重さ故か、

泳いでいった人たちは、みな深く暗い此処に帰ってきた。

やっぱりだめだったと笑う人。

泳ぎ疲れた友の死を悼む人。

皆等しく帰ってきた。


やっぱり今日もだめだった。

いつになったら、あの温かい場所へいけるんだろう。

ここは寒いなぁ。

暗いなぁ。

苦しいなぁ。

と、落ちてきた人が声をあげた。

「がんばっても!どんなに泳いでも!あの光へはいけないんだよ!
 みんな目を覚ませ!この暗い世界が私たちの現実なんだ!」

……

何も言えなかった。



ところで、ここには皆と少し違う人たちが居る。

彼女たちはこの深海の、さらに深い水底で漂っている。

落ちてきた亡骸を我よわれよと貪り食う。


目のいい私は見えてしまう。見たくもないものが。
耳のいい私は聞こえてしまう。聞きたくもない音が。

一つに群がるそのさまはまるで珊瑚礁で。

食い散らかして満足すると、それは鼻歌交じりに散っていった。



「こんなところは嫌だ」

誰かが言った。

続くように、その隣の人が言った。

泳ぐ人が口々に言った。

「こんなに暗いところは嫌だ」

「こんなに寒いところは嫌だ」

「こんなに苦しいところは嫌だ」


上を見上げて、届かない天井を見上げて、誰もが言った。


ああ 誰か 光をくれ



この暗く寒い世界を、私たちは彷徨い泳ぐ。

時に手を取り、助け合い、泳ぐ。

今もそうやって、みんなで泳いでいる。

明日のために、希望ある未来のために、耀かしい光のために。

同じように生きて、今に私を繋いでくれた人のように。

みんなでつくった明日への輪をくぐって。


でも、そうやって繋いだ明日に何の意味がある?


どうせ何も出来ない。光になんて届かない。

来る日も来る日も泳ぎ続けて、

そうやって生きる日々に何の意味がある?




「教えて」

「教えてくれよ」

「教えてほしい」

みんなが問う。

「教えて」

「教えて」

「教えてくれ」

この世界に問う。

「私たちの生きる意味は何だ!」

応えはない。

そうだ

みんな知っていたんだ

昇る人も

沈む人も

気付かないふりをしていた

認めたくなかった

だが、

そうだ

ここに光はこない

私たちはただ泳ぐしかない

永遠に

永遠にだ



誰かが、または誰もがこう思った(言った)。


光は幻想だ

まやかしだ

なんと 馬鹿馬鹿しいことだ

夢を見てはいけない

夢を見るのは愚か者だ

ひとりで泳いでいけ

たったひとりで泳いでいくのだ

そしてひとりで果てるがよい



……それでも、私は前向きに考えた。

たとえそうであったとしても、必ず先に光があると。

また皆で助け合えば、きっと道はあると。

だが、

そう思って見渡しても、もう誰も居なかった。

みんな、どこかへ行ってしまった。

ひとりで。

ああ、見えていた道が

明日への道が

皆が繋いできた輪が

ない。

ない。

なくなってしまった。



ああ、ここは寒い

ここは苦しい

たすけてほしい


この暗い世界を独り、あてもなく泳ぐ。

今まで返しがあった言葉は、みんなの励ましの言葉は、もうない。

孤独だ。


くるしい

助けてくれ

憎い

愛してる


ああ、疲れた。



……?

突然、目の前が明るくなった。

なんだろうと上を見上げると、光り輝く太陽があった。

濁りきった水はどこへやら、天井から温かい光が見えた。

ああ、彼の光だ。夢に見ていた耀かしい未来だ。

と、

気がつくと、周りには皆が居た。

我先にと、あの光を目指して泳いでいく。

真っ白だった光は、いつしか人の影で見えなくなり、その影が減っては増えていく。

まるで雨のように、人のかたちをした泥が降ってくる。


おそろしいことだ

尻の穴を見せ合っている醜い魚(人)たちが

「我こそが我こそが」

とつぶやいている

早口で

早口で!

早口で早口で早口で!

は や く ち で!


「あの光は私のもの!」

「違う!私のものだ!」

「邪魔だ!」

「どけ!」

「うるさい!死ね!」

「何だと!?そっちが死ね!」

「暗いのは嫌だ寒いのは嫌だ苦しいのは嫌だ」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

「死んでしまえ死んでしまえ」

「そうだみんな死ねばいい」

「そして私ひとり生きればいい」

「嫌だ疲れた苦しい助けて」


そうやって沈んでいく。

あんなにきれいだった水はあっという間に泥で濁り、

光を浴びたものは誰一人としてなく、

生き残った私はただ佇んでいた。



水底で漂う珊瑚礁たちは、降ってきた泥に夢中だった。

喘ぐように貪り、呼吸も忘れ、

ただひたすらに食べ続ける。

泥を押し付け合って慰めるように、みんなでかたまって食べている。

姦しく食い散らかしている。


そうして、食べ終えた人たちはまたどこかへ去っていった。

あれだけやかましかった音は消え、残ったのはただ水が流れる音だけ。


こんなことが毎日毎日

泳いで 泳いで 泳いで

その繰り返し

まったく嫌になっちゃうよ



濁った海を独りで泳ぎ、また思う。


例えこんな繰り返しの日々でも、いつか終わりは来ると。

いつかこの寒い冬のような世界を抜け出して、

光射す温かい春のような世界へ行ける(戻れる)と。

そしてその世界で、幸せに生き死ねると!


だから、泳ぐ。

この暗く寒い水の中を、泳ぎ続ける。

背中に希望を背負って光を目指す。

遠い思い出の愛する人が、私を待っていると!


そうやって、ついに見つける。

さっきもあったきれいな場所。

天井から光が射している場所。

今度は大丈夫。今度は諦めない。今度こそ、光の下に!



上を目指し泳ぐ私の後ろに、人がついてくる。

さらにそれについてくる人、人、ひと。

途中で疲れて死んでいく人。

他人を蹴落とし昇っていく人。

傷ついていく私の身体。


千は百になり

百は十になり

十は一になり


沈んでいく泥(人)

一が積もり千となる

是まさに 堂々巡り



こんな悲しいところに

幸せなんてないようなところに

悲しみしかないようなところに

光が届く道理など無く


ああ、見える。

深海に降り続く、

琥珀色の日陰にも似たこの雨(泥)が。


上る人たちが口々に呟いている。

ああ、誰か

光を

光をくれ



ああ、そういえば



はるか昔に

大切な人が歌っていた子守歌があったなぁ

「~♪」

少し思い出しては、歌っていく。

愛した人が歌ってくれた歌を。

それを自分で、自分のために、奮い立たせるために歌っていく。

かわいらしい 迷い子の歌


歌いながら、眺め遣る。

ああ、こんなにも迷い子たちが、

泡沫のように消えては生っている。

上を目指して上っている。


そうして、そうしてようやく



天井に近づかんとする私の中で

かつての思い出が鮮明になる。

あの光の下、

遠い昔、

幸せに暮らしていた日々を。

大切な人たちと、笑い合って過ごしていた日々を。

時に泣き、時に怒り、されども幸せに生きていた耀かしい日々を。

そんなそんな、遠い思い出。

幸せな、大切な思い出。


もうすぐ、私は氷に上る。

あの光の下で、また耀ける。

水面から飛び跳ねる魚のように。

生き生きと。

生き生きと!



―『敵艦隊、見ゆ!』―



ぷはっと息を吐く。

水面から顔をだす。

真上には照りつける太陽があって。

濁った海のその上は、とても青くて。

まるでこの世のものではないように綺麗で。

暗く寒く苦しい世界では考えられないほどに快適で。

その中に独り佇んで風を受けたりなんかしてみて。

ああ、温かい

ああ、とても

とても

幸せだなぁ

ああ、なんて

なんて

幸せだなぁ


あ!

ほら、あの大切な思い出の場所から

私を祝福するように

私の大切な人たちが出迎えに来ている。

ああ、みんな

私、帰ってキ――



「ア、アァ――」

熱い。

足元が燃えている。

腕が燃えている。

熱くて 痛い 熱くて 息が出来ない。

「ド、ウ――」

空が凍っている。

いつの間にか太陽は蜻蛉達に埋め尽くされ遮られ。

寒くて 痛い 寒くて 息が出来ない。

「シ、テ――?」


どうしようもない

そうだ、どうしようもない

誰もが どうしようも! ない!


光を目指して泳ぎ疲れた人たちがただ泣いている。

幸せを求めて泳ぎ疲れたひとたちがただ泣いている。

どうしようもないと泣いている。



ココハ地獄ダ

ここは天国だ

ココハ天国サ

ここは地獄さ


ああ、私の信じたものの

夢見た希望の、耀かしい未来の先には何もなく、

必死に泳いできた、あの暗く寒く苦しい泥の海にも何もない。


それでも

私たちは

何も知らず

ただ、

泳いで

泳いで泳いで

泳いで泳いで泳いで

今日も明日も明後日も

来週も来月も来年も

十年先も

そして

命尽きた その後も

ひとはきっと

泳いで

泳いで泳いで

泳いで泳いで泳いで

そう 嵶やかに

「――タス、ケテ――」


――――わらえる

以上で完結となります。ありがとうございました!
お話の元はあさき氏の「魚氷に上り、輝よひて」という曲です

乙です

ニコニコサンフラワーキッスかと思ったらその通りだったか

>>23
読んでいただきありがとうございました!
>>24
最初は行き過ぎて後にも書こうと思っていたんですが、途中でくじけました

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