マミ「チーズがとっても大好きな、大切な私のお友だち」 (155)

~☆

その頃の私は、本当に心通じ合える友達が欲しくてたまらなかった。
だってあの日、あっさり用意や覚悟もないまま両親と死に別れて、
そのまま独りぼっちの人生へと投げ出されてしまったのだから。

魔法少女としての契約を行い生き延びて、戦いに身を晒し過ごす私の毎日。

それほど他の魔法少女と対立することはなかったけれど、
だからといって深い繋がりを持てたことも、ただ一人を除いてなかった。
その唯一心通じ合えると思った佐倉さんとは、当時、不本意ながら袂を分かってしまっていた。

魔法少女としての非日常。そして、普通の子どもとしての日常。
それらを交互に淡々と、繰り返していく。当り障りのない、会話と目に見える態度。
誰かに不快感や心配を極力与えずに済むよう、気丈でいることを心がけていた。

だけど誰にも言えなかった本心では、事故で両親を一度に亡くした可哀想で健気な子、
そんな周りのみんなのどこか距離をおいた目が、凄く重くて辛かった。

もしかすると、こちらから心の距離を詰めようと本気で努力すれば、
すぐにそれを親身で対等な違った形に変えられたのかもしれない。


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でも、生憎と私は魔法少女だった。

魔法少女。それは私が、自分の力で一生背負うべき罪の荷だった。

両親を助けられなかったぶん、困っている他の人たちを助けることで、罪滅ぼしをする。
私はあえて心の内に、普通の人たちとの壁を作った。
何よりも、私が魔法少女としての理想を追求するためにはそれが必要だと思った。

その道を選んだことに後悔はなかった。
その道が正しい道なのだと、強く私は信じることができたから。

ただそれだけに、契約してからの私は少しそれに意固地になりすぎていたのだろう。

それどころか、私にとってかけがえのなく大切な一人の友だちと出会えていなければ、
きっとその意固地すぎる態度は今も続いていたに違いない。
性別についての自信はないけど多分、彼女。

あの子が私を変えてくれた。



――私を変えてくれたのは、チーズがとっても大好きな、動く魔法のぬいぐるみだった。

~☆

朝、目を覚ますと、布団の上、
丁度私のお腹にあたる位置に、ちょこんとぬいぐるみが座っていた。
そのぬいぐるみに見覚えは全くない。

これはいったいなんだろう?

まず深い考えもなく無警戒に持ち上げてみる。
見た目以上に、軽い。外で放っておくと、そのまま風に吹かれて飛んでいってしまいそうだ。
くすんだ青で一面塗りつぶされた、縦に伸びる楕円形の無機質な目が、こちらをじっと覗き返している。

それぞれ左右おおよそ三角の形に広がっていく、
大きな耳らしきものがついた頭は、耳も含めて全体が桃色。

顔は思い切り牛乳をぶちまけたように白く、中央の小さく丸い鼻とすぐ下にある横線の口は両方ともに黒、
頬の部分だけが若干薄めの黄色に染まっている。

表地が赤、裏地が黒のマントを羽織っている。
腕は付け根から先まで完全に褐色。下半身は薄紅色。
黒を基調にした上に、橙色が乗っかって水玉模様を形成する、モワモワとしたマフラーを首に巻いている。

総評として、普通にとっても愛らしいデザインのぬいぐるみだった。

しげしげ眺めてみても、やはりこんなものを買ったりもらったなんて記憶は浮かんでこない。
目新しい情報も特にない。

もし何かしらの変化を無理にでも探すとすれば、
眺めれば眺めるほど、可愛いという印象がより確かなものになっていくことくらいだ。

――ほっぺたとか、どんな手触りなんだろう?

ふと、そんなことを思った。
持ち上げていたぬいぐるみを一度、先ほどまで座っていた元の位置にそっと戻して、両頬を軽く引っ張ってみる。

するといきなり、ぬいぐるみが小刻みに体を震わせ始めた。プルプルプルプル……。
驚いて、目を見開く私。一瞬、そういう機能がついたぬいぐるみなのかと思った。

しかし、二本足でよたよた歩いて私から離れていこうとするぬいぐるみを見て、
そんな当たり前の発想はあっけなく撤回を余儀なくされた。

何度も振り返りながらこちらの様子を確認しつつゆっくり歩くぬいぐるみ。
表情にこそ変化はないものの、その動きはあまりにも人間じみていた。

そのまま黙ってどうなるか見守っていると、私の方ばかり確認していたせいで生じた前方への不注意がたたって、
ぬいぐるみがベッドから頭を下に転がり落ちていく



『キュベッ!』


アクシデントにもめげず、朝日がうららかに差し込む窓まで一人で出向き、
カーテンを体に巻きつかせ顔だけを垣間見せる。

それからしばし無言の時が流れた。これはいったいどういうことなんだろう。

普通の人なら自分の頭がおかしくなったか、
この状況でもなお、そういう機能のついたぬいぐるみ、というよりはぬいぐるみっぽいロボットだと考えるかもしれない。

だけど私は、こういう普通じゃない世界と深いつながりがある、普通とはかけ離れた人間だった。
ひとまず状況を冷静に受け入れて、これは魔法関係の何かだと判断し、真相の究明を目指す。

何か、こんな妙なことが起こった原因が存在するはずだ。
今までぐっすり寝ていたのだから、その原因となったこととは、きっと私が寝る前にあったはずだ。

さて、昨日、いつもと変わった何か、兆候みたいなものはあっただろうか?
いや、特に変わったことは思いつかない。昨日はいつも通り何ごともなく床についた。

あえて言うならば夜、一人でいるのが耐えられないくらい寂しくて、
友だちが欲しい、なんてことを寝入る直前まで考えていた気がする。

でも、そんなのは今の私にとって別に珍しいことじゃないし、
何よりだからといって、見知らぬぬいぐるみが朝になったら出てくるとは思えない。

結局、あれこれ考えてみただけではよくわからなかった。



「あなた、お名前はなんて言うの?ここへは何をしに来たの?」


よくわからないので、本人に直接聞いてみることにした。
動くぬいぐるみは得体のしれない何かではあったけれど、
どうしてだか私には悪い子であるようには見えなかった。

ぬいぐるみは答えない。もしかしたら言葉が通じないのかもしれない。
そういう思考がやっと後になってから追い付いてくる。
言葉が通じないなら、どうやって意思疎通をしていけばいいのだろう?


『ワカラヌ』


言葉が通じた。ホッとひと安心する私。これから何を訊くべきか?

あれこれ候補が思い浮かんでは……。


『チーズ、タベタイ』

「えっ?チーズ?」

『チーズタベタイ、クダサイ』


チーズ、チーズが食べたい?
ぬいぐるみなのに、食べることができるのね。
どうしよう。えっと、チーズ冷蔵庫に入ってたかしら……?

突然の要求に少し混乱している私を大人しく静かに、
無表情の内に期待が感じられる目でぬいぐるみが見据えている。



この子がどれほどの執着をチーズに注いでいて、そしてどれほど口数多く喋る子なのか。
その時の私にはまだ、到底知る由もなかったのだった。

今日はここまで
投下してみると思ってた以上にレス数含め全く進んでなかった
地の文多量注意って最初に書こうと思ったけどそれだけ書くのもなー、と思ったのでやめました

修正

>>2 九行目
×それどころか、私にとってかけがえのなく大切な一人の友だちと出会えていなければ、

○私にとってかけがえのなく大切な一人の友だちと出会えていなければ、

>>4 九行目
×驚いて、目を見開く私。一瞬、そういう機能がついたぬいぐるみなのかと思った。

○驚いて、目を見開き手を離す私。一瞬、そういう機能がついたぬいぐるみなのかと思った。

十四から十五行目
×そのまま黙ってどうなるか見守っていると、私の方ばかり確認していたせいで生じた前方への不注意がたたって、
ぬいぐるみがベッドから頭を下に転がり落ちていく

○そのまま黙ってどうなるか見守っていると、ぬいぐるみはベッドから頭を下に転がり落ちていく。
振り返って私の方ばかり確認していたせいで、前方が疎かになっていた。

~☆


「そろそろ行きましょう、ベベ」

『イッショニ、ユク』


あれやこれや最初に話してみて、ベベの頭の中からごく僅かな情報をどうにか引き出した。
明確に引き出せたのは、チーズがとっても大好きなこと、そして何故か知っていた私の名前、ただそれだけ。
もちろん、なんでべべがひょっこり私の前に現れたのか、なんてわかるはずもない。

べべというのはその場での第一印象から、私が勝手に付けた名前だ。べべはイタリア語で赤ん坊を意味している。

改めて状況を一歩下がって見つめ直さなくても、べべは露骨に怪しい。
全く未知の存在を、ハイそうですかと信じられるほど、私は上品な生活をしていない。

べべが何か大切なことを、すっとぼけて隠していないとも限らないのだ。
見た目は誰かを判断するのに、それほど当てになる指標にはなってくれない。頭ではそう思っている。

それでもこのままべべを、家から無慈悲に追い出したりするのは可哀想だと、心が感じた。

実のところ、可哀想というよりもひとりぼっちは寂しいという気持ちが、
冷徹な魔法少女としての判断を鈍らせていたのかもしれない。

人間ではない。魔法少女でもない。
べべの特殊な立ち位置は、私が拒絶するのに戸惑う絶妙の塩梅だった。
最終的になあなあで話し合いは終わらせて、家で一緒に住まわせることに決めた。

一人で家においておくとべべは凄く怖がる。
だからお出かけの際は、普通のぬいぐるみのふりをさせて、なるべく一緒に連れて行くことにしている。
鞄に詰めておくのは可哀想なので、肩に乗せるかあるいはおんぶすることが多い。

肩に乗せていると、たまにちょっとした拍子に落っこちてしまうことがある。
ダボダボな服の袖みたいなその両腕を後ろから、私の首に回してくっつくスタイルがお気に入りらしい。

学校のみんなからの好奇の目を日々感じるけど、それほど気にならなかった。

そういう他人の評価よりも、私といない間べべが一人で怖いを思いをすることになる、
なんて考えるほうが余程今は辛かった。

いつの間にかべべは私が意識するよりも早く、私の心の中で大きな位置を占めていた。

『!』


唐突にべべが、ビクンとその場で身体を強張らせてピタリと静止する。
これがどういう合図なのか、既に何度も経験してわかってはいるけど、
どうか違ってくれるようにと祈った。

けれどそう簡単に、都合の悪いことは私の思い通り覆ってはくれない。


『マミ、テキ!マミ、テキ!』

「……はぁ。まったくもう、これからショッピングに行くところだったのに。タイミングが悪いんだから」

『マスカルポーネ!マスカルポーネ!』

「はいはい、わかりました。帰りに幾つか買っておきましょうね」


出会ってからまず意外だったのは、べべが中々に戦えるということだ。
その小さな体のどこにしまっているかよくわからない、
私の身の丈の優に数倍はある、巨大な蛇っぽい何かを口の中から伸ばして戦う。

私を軽く一呑みにできるくくらいの巨躯。実はあれがベベの本体なのかもしれない。
仮にそうだとするとちょっと怖い。

そしてそれ以上に不思議なのは、体中に何か高感度のセンサーでも積んであるのかというくらい、
街全体、広範囲にわたる異常をべべが即座に感知すること。

おかげで今までのパトロールの時間をかなり短縮できたりして、
自分の時間を持てているからかなり助かっている。


「それじゃあナビゲーション、今日もお願いね?」

『マカセテ、ミチビク、マミ』


定位置にべべがしっかりくっついたのを確認すると、私は玄関のドアを開けた。
するとピュゥッと冷たい風が中に吹き込んでくる。
少し寒そうに、べべが身じろぎをした。ぬいぐるみなのに、人肌に温かい。

その体温を感じていると、べべは決して弱くないのに、私が守らなくちゃ、そんな思いが沸き上がってくる。

一度べべの頭を軽く撫でて、これから戦いに行くなんて嘘のように軽やかな気持ちで、外への一歩を踏み出した。

~☆

夕食の時間。一日で一番べべが活発になる時間。
体の大きさと比べて、気持ちが良いくらいによく食べる。
ただあんな大きなニョロニョロを体内にしまっていることを考えると、むしろ小食なのかもしれない。

日にちが経つにつれて、初めて出会った日のべべは、何か間違いだったんじゃないかという気がしてくる。
大人しくこっちの様子を伺っていたあの日のべべ。
今となっては、ただ食事をするだけでちょっとせわしない。

当然のことながら、一人で夕食をとっていたときと今を比べれば、
幸福度はうなぎ登りに上昇したことが理解できる。
でもそんなことを言ったって、疲れるときは疲れるのだからどうしようもない。

それとべべはつまみ食いが多い。佐倉さんよりもそういうことに遠慮がない。
食い意地の張り具合と神経の図太さで、佐倉さんよりも格上の存在。
おそらく相当に貴重な存在だろう。

つまみ食いをしちゃダメだと注意をしても、いつもケロッとした顔をしている。

怒られてもあまり反省しないだけに、つまみ食いの質が悪い。
でもべべのそういうとぼけた顔を見ていると、
私はもっと怒らなきゃいけないのに、もうそれ以上怒る気を失くしてしまう。

つまみ食いが治らない責任は、実際私の側にもかなりあると内心思っている。

べべはいつもチーズチーズとばっかり言っているが、実はちゃんと味のわかるグルメだ。

しかし、どんなにおいしい手間暇のかかった食事を用意したとしても、
その品目のどれかにチーズが関わっていないと、惜しいなー残念だなーみたいな顔をする。
逆に言えば、チーズさえあれば大抵の場合それで一応満足する。

他にも色々おいしいものを作ってあげたい身としては、
もっとチーズ以外の食の楽しみにも目覚めて欲しいと思う。

食べ物関係については自由奔放な性格が目立つべべ。

だけど私がしんみりした気分になっているときは、黙ってその身をひたと寄せて慰めてくれたり、
人の心の機微を察して気配りができる子でもあるのだ。

『チーズウマイ』

「そんなに焦らなくても、ご飯は逃げないから大丈夫よ。ちゃんとよく噛んで食べなさい」


目に見えて食べるペースを落とすべべ。
チラチラと、心なしか得意気な様子でこちらを見てくる。
私の言うことをちゃんと聞けますよって、主張しているのかもしれない。

そのとき、今になって思った。

べべはそのまま噛まずに飲み込んだとしても、
きっと中にいるだろうニョロニョロがモグモグしてくれるはず。

人間と違ってよく噛んで食べるとか、別に気にしなくていいんじゃないかしら?

~☆

気温も、日差しも、風や空気も、そして空の色も、皆々全てが心地よい。
そんな休日のお昼。パトロールも兼ねるつもりで、べべとお散歩に出かけた。

見滝原には、街の地理さえちゃんと把握していれば、
自然を肌に感じながら長い距離を歩ける、そんな余地というか道筋が残されている。
願わくば、開発が進みすぎてこういう空間を全て取り除く、なんてことが未来永劫ないと大変に喜ばしい。

フラフラと立ち寄った公園。
そこのベンチに腰掛けて、鞄からストローを二本取り出す。一本はベベに渡した。
シャボン玉を吹きたい。それは前々からのべべの希望だった。

だから今日はその希望を叶えるべく、お散歩の途中にシャボン玉を作って遊ぶ用意をしてきた。

自家製のシャボン液を入れた容器にストローの先を浸け、そっと息を吹き込む。
順調に膨らんで形をなした私のシャボン玉が、おそるおそるといった感じに浮かび上がった。

キラキラとした水性の球体は、天空を目指してゆらゆらと飛んで行く。

シャボン玉を吹くなんて、いったい何年ぶりなんだろう。
図らずも、両親との楽しかった思い出がふつふつと蘇ってくる。

綺麗なシャボン玉がぽつねんと浮かぶ様子と、今となっては心苦しい私の幸せの記憶が、
不意に私の中で重なって、ちょっとだけ物悲しい気持ちになる。

するとそんな私のシャボン玉の元に、それより大きなシャボン玉たちが波のように押し寄せて、
無情にも集団の内へと飲み込んでいった。

隣に目をやると、べべがシャボン液に浸しもせず、ストローからシャボン玉を連続で飛ばしている。
一心不乱にこれでもかと飛ばし続けている。
終いには一本のストローで、小さいのから大きいのまで種々様々に吹き分け始めた。

べべにこんな特技があるとは知らなかった。
シャボン玉を吹いているベベはとても楽しそうで、それを見ている私まで次第に楽しくなってくる。

ベベのシャボン玉は辛抱強く中々割れない。
思い出したように時折私もシャボン玉を一緒に吹きながら、ふわふわ漂うそれらを、首を上に傾けじっと見据える。

このまま空一面に広がって、いつか埋め尽くしてしまいそうなほどたくさんあるべべのシャボン玉。
浮かぶとすぐにどれだかわからなくなる私のシャボン玉。

その背景となっている白くて大きな雲たちが、ぐんぐんと空を走っているのが見えた。

今日はここまで
冷静に見て今日の更新って、イベントの日にちは違うけど
玄関出て、ご飯食べて、シャボン玉吹いただけなのよね

ベベの服ネタとかいくつかイベント思いつかなくはないけど
いつまでこういうなんとなくのダラダラ続けるべきかさっそく悩んでます
いつでも終わりに舵を切れるのは強みだけど、さすがに早過ぎるような……

何か面白そうで書きやすそうなネタ教えてくれたら書くかも。

~☆


晴天、雲一つない青空。

部屋のオシャレな雰囲気といまいち上手く調和しない、
即席で小型の、物干し竿的なもので日干しされているべべ。

ピンと伸ばされた両腕を、一定間隔でそれぞれ三つずつ、
全て色違いの洗濯ばさみが留めている。
体からポタポタ垂れる水滴を、下に置かれた青色のバケツが受け止めていた。

洗濯を済ませたぬいぐるみを、そのまま室内で太陽の助けを借りて乾かしている。
一見すると、幼い女の子がいる一般家庭できっとよく見かけるだろう、そんな自然な光景に見える。
ただしそれは、ベベが自らの意思で動く、魔法のぬいぐるみでなかったとしたらの話。

時折、微かにその場で足をピクピクさせたり、身動きしているのが確認できる。
逆に言えば、それ以外のときのべべは、努めて普通のぬいぐるみであるかのように演じていた。

ごく普通のぬいぐるみらしくあえて振る舞うベベ。
普段の落ち着きがないべべからすれば違和感しかない行為。
それはべべなりの、断固として自らの「権利」を求めて闘うというアピールだった。

べべの日常生活は、私と家にいるか、一人で家にいるか、私と一緒に外にいるか、
計三通りできっかり分けることができる。

べべは汗をかかないし、トイレに行く必要もない。
しかしだからといってその体や服に、いつか何か汚ない物が付着してしまうのは避けられない。
ましてやべべは、見滝原の平和を守るため、毎日私と一緒に戦っているのだからなおさらのこと。

もちろんお風呂に入って体を洗えば、
べべの体は人間と比べると少し汚れが落ちにくいけれど、
それはすぐに解決する問題だ。

でもべべは、近頃私と一緒にお風呂に入りたがらない。
服の下の裸体を、私に洗われるのが嫌みたいだった。

桃色の体は、人並みに温かくて、柔らかな上質のぬいぐるみの質感、手触り。
特別、私としてはそこに恥じらうべきものを感じない。
ただこれは、あくまで私の個人的な感想。

最近のべべは、人間らしい羞恥心の感情を獲得していたらしい。
例えば普段の服装を、下半身を完全に露出していて、
これじゃ「見せたがり」みたいだと気にしていた。

私はそのときそれを、ただの冗談だと思ってあまり深く気にしなかった。
実際のべべの言葉というか言い方はもっと片言で、
私にはいつものお気楽な調子と同じに聞こえてしまっていた。

そして今日、自分一人で洗うと汚れを上手く落とし切れないことがほとんどのべべに、
おせっかいを焼いたのが本当にマズかった。

予告もせず、べべが入浴中の浴室に私はタオルを巻いて突入した。
べべの制止にも耳をかさず、無許可でべべの体を洗い始める。

久しぶりだったからいつもより念入りに洗った。
最初は大声を出して抗議していたけれど、ついには諦めて泣き始めるべべ。
それを見て狼狽える私。

初めてべべが、本気で抵抗して、怒っていたことに気付いた。

私が手を止めてもなお、べべの怒りは収まらない。
口からニョロニョロを出して、私の頭に噛り付く素振りを見せる。

べべが私に、そんな攻撃的な態度を見せたのは初めてのことだったからだろう。

必要以上に顔に迫ったソレが、私には本当に恐ろしく映った。
驚きと恐怖で頭が真っ白になって、腰が抜けヘナヘナとその場に尻餅をついてしまう。

少しの間、互いの顔を食い入るように見つめあうベベのニョロニョロと私。

それからべべは、無言のままにニョロニョロを口の中に戻すと、
濡れた体を乾かしもせずに居間の方へ素早く飛び出していった。


完全に、私のやったことはべべの逆鱗に触れてしまった。




思えばそれは、私とベベとの間で初めての、本格的な仲違いだった。

~☆


べべをつまらないことで怒らせた日から一週間近くが経った。

いくら謝っても、べべは機嫌を完全に直してくれない。
怒っている様子ではもうなかった。

でも、チーズを交換条件にしても事態は一向に解決してくれない。
べべはそれで一件落着という顔をしない。
まだ、何か心残りがある。そんな顔をする。

チーズで機嫌を直さない。そんなことはこれまで全く経験になくて、酷く困ってしまう。

何より堪えたのは夜、寝るときにそれまでのように同じ布団に入ってきてくれないこと。
毛布を被って、一人リビングの隅で丸くなるべべ。そこがべべの居城だった。
日中も、外に一緒についてくるとき以外は、そこにずっと入りっぱなし。

態度が一向に軟化しないベベにどうしたらいいのか、何をして欲しいのかわからなくなって、
今度は段々とこっちの腹が立ってきた。

このまま放っておくと、しまいには両者泥沼の大喧嘩に突入してしてしまいかねない。
それほどまでに部屋の空気は緊迫しつつあった。

毎晩、私はべべのことが気になって、ムカムカして、眠れなくなってしまった。
そんなとき、そのやり場のない気持ちを、編み物にぶつけてみることをふと思いついた。

べべの新しい服を作る。
元々一着の服しかないから、替えがなくて服の洗濯とかで困っていた。
だったら私が作ってしまえばいい。

べべがどんなデザインを気に入るのかよくわからなかったから、
元の服のデザインというか色使いをかなりの面で参考にした。

服の材料は買えばそれで済んだけれど、たとえお人形の服だとしても、
服を一から作るなんて初めてだったから、素直に魔法の力を借りた。

私の魔法の本質はリボン、モノ同士を繋ぎ合わせることだ。
服を作るなんてのは、魔法の性質からして得意中の得意。

二日、三日かけて、同じ格好の服をいくつか完成させて次の日の朝である今日、
ベベにそれをお披露目してみた。

それを心底喜ぶベベ。

でもなぜか、べべは服をあげる前から既に晴れ晴れとした顔をしていた。
どうして、昨日までとは全く違った顔をしているんだろう?
怪訝な顔をする私の前に、自分の毛布の中からべべは、一枚の紙を引き出してきた。

そしてその紙はべべの頭上に持ち上げられて、私へと手渡される。


『ミテ、マミ。アゲル』


見るとその紙には、どこからどう見ても、私の似顔絵が描かれていた。
上に判読できない文字らしきものが添えられている。

こんなものを書いていただなんて、ほとんど一緒にいたのに全く知らなかった。
べべの指がついてない腕だと、クレヨンを使いこなすのはきっと大変だっただろう。
長い時間をかけて毛布の中でこれを、ひっそり書き続けていたに違いない。

だから夜も、私と同じ布団じゃなくて毛布の中に籠った。
昼ならともかく夜なんて、自分が何を書いてるかろくに確認できないだろうに、
私にサプライズをして喜ばせようとしてくれたんだ。

思いがけないプレゼントに涙ぐむ私。
そのとき、いきなりべべが予想外の行動をとった。


『ゴメンナサイ。アノトキ、ゴメンナサイ』


私の足元で、べべはいきなり土下座を始める。
そこまで真剣に謝られるような何かをされた覚えは私にはなかった。
慌てて土下座をやめさせて、べべの手を引いて立たせた。

今、わかった。

私が何をしてもべべが機嫌を直さなかったのは、私のせいじゃなくて、
べべが私に何か後ろめたいことの謝罪を済ませてなかったから。

やっと腑に落ちないことに得心がいって、幸せな気持ちになる。
それと同時に、なんだかわからないことで、繰り返し謝られていることが申し訳なくなってくる。

べべは何も、悪いことをしていないはずなのに。



「大丈夫よ、べべ。謝らなくて大丈夫。
私の方こそ、あなたの気持ちをちゃんと考えなくて本当にごめんなさい」

『ゴメンナサイ。ゴメンナサイ』

「もう、だから謝らなくて大丈夫なのに……」

『ゴメンナサイ。ゴメンナサイ』


土下座はやめてくれたけれど、謝罪は依然としてやむ気配がない。
このまま黙って放っておいたら、私に向かっていつまでも謝罪を続けていそうだ。


「ううーん、困ったわね。…………ああっ、そうだわ。
 じゃあそこの毛布を、べべが片付けてくれない?」

『モウフ?』


振り向いて、毛布を見つめて、べべは首をかしげた。


「そう、それが私がべべを許す条件。
 私たち、これで何もかもすっかり仲直りしましょう」

『ナカ、ナオリ?』

「ええ、仲直り。あなたとこんな素っ気ない毎日をこれ以上過ごす。
 私はそれが一番嫌なの。……仲直り、してくれるかしら?」

仲直りと聞いて、べべが何を思ったのかはわからない。
ただ、黙って毛布を片付け始めた。
自分の体よりも大きな毛布を四苦八苦してべべは運ぼうとする。

コロコロ。

退けられた毛布の下から、何色ものクレヨンが転がリ出てきた。
それと、クシャクシャに丸められたカラフルな紙が、かなりの量落散らかっていた。

私がそれを見ているのに気付くと、べべは慌てて毛布を傍にひとまずのけて、
代わりに落ちている紙屑を精一杯抱えてゴミ箱まで走っていく。

あまりしっかり確認できたわけではない。
それでも状況からしてあの紙屑は、べべがあの一枚の絵を描くために費やした、
失敗、努力の結晶であることは間違いなさそうだった。



目頭が熱くなるだけでは今度はどうしても止められなくて、
両目を手のひらで押さえつつ、私は不覚にも泣いてしまった。

嬉しくて嬉しくて、涙が止まらない。

べべが戻ってきてせっかく励ましてくれても、
かえってそれは、私の涙の勢いをますます増長させるばかりだった。

~☆


それから時間をかけて、べべに辛抱強く聞けるだけ詳しく話を聞いてみた。

どうやらべべが何度も謝っていたのは、
ニョロニョロで私に噛みつく動作を見せたこと、に対してらしかった。

事情を聞いている最初の内は、ご飯を用意してるときの、
頻繁なつまみ食いに謝りたかったって話かと思った。

どうもそこら辺の細かいところが、こんがらがって要領を得ない。

べべが言うには昔、とてもこわい夢を見たらしい。
それをあの時浴室で思い出した。
だからそれを私にきちんとした形で謝りたかった。

こわい夢の何について私に謝りたかったんだろう?
夢の私と、今ここにいる現実の私に関係なんて何もないだろうに。
でもそれ以上、べべは何も言いたくなさそうだった。

だから私も、根掘り葉掘り聞くのをそこでやめた。

べべがこわい夢の話をすることは、それから二度となかった。
ただごく稀に、窓の外の景色をしばらく眺めるという時間が、
その頃からべべの生活の中で現れるようになった。

黙って外を見ているだけなのに、一時的ではあるにしても、不思議と大人びて見えるべべ。
そういう時のべべはどことなく心沈んだ様子で、どうにも話しかけ辛い。

その時以外のべべは絶えず元気いっぱいで、
それどころかむしろ共に過ごせば過ごすほど、日に日に喧しくなってゆくようだった。

だから私の中でもベベの新しい一面は違和感なく、
次第に当たり前のものとして受け入れられていったのだった。

今日はここまで
いっつも私下半身露出してる→気にし始める→マミのお手製の服で前から見えなくなる(今ココ)→気にしなくなる

思春期到来

べべの元の服装の露出度がどれだけ高いかという視点で、始まりの物語のマミvsシャル戦何度も見直す虚しさ

絵のイベントと服のイベントとこわい夢イベントを一度に消費してしまった
結構仲良し感でてきた気がするし次の次くらいから話を畳み始めると思います

……一つ、風邪ひくイベントは決まってるけど次どうしようかな

続きまだー?

>>43
丁度今キリのいいところまでできたから投下する
どの道専ブラで見てるから上げなくてもわかるから上げるんじゃない




修正
>>32 六行目
× 見るとその紙には、どこからどう見ても、私の似顔絵が描かれていた。

○ 見るとその紙には、私の似顔絵がクレヨンで描かれていた。

>>35 六行目
× それと、クシャクシャに丸められたカラフルな紙が、かなりの量落散らかっていた。

○ それと、クシャクシャに丸められたカラフルな紙が、かなりの量散らかっていた。

>>36
×頻繁なつまみ食いに謝りたかったって話かと思った。

○頻繁なつまみ食いを謝りたかったって話かと思った。



修正ばっかで申し訳ない

~☆

べべと出会ってから無事に翌年を迎えて、私の周りでもう少し時間が流れた。
クリスマス、大晦日年越し、お正月。イベントの連続。
十二月後半から一月の初めにかけては、本当に目が回るくらい忙しかった。

例えばクリスマスに飾り付けた煌びやかなツリーを用意したり、
お正月にべべと生まれて初めての羽根つきをやった。
特別に力を入れた料理をそのつど三食、私が一人でせっせと用意した。

それらが終わってほっと一息をつく。

正直一連の行事の後には、満足感や幸福感よりも疲労感ばかりが残った。

どうして私はあそこまで深く、年末年始辺りをべべと豪華に過ごすことに入れ込んだのだろう?
お父さんとお母さんがあのとき事故で死んでしまってから、
ずっと家族としての色々を我慢していたからかもしれない。

事実、べべは私にとって、新しい家族のような位置を占め始めていた。
べべと過ごした期間はまだそれほど長くないけれど、共有した時間と思い出はとても濃い。

その時に入れ込んだ程度の差こそあれ、
精力的に私とべべが活動したのは年末年始に限った話ではない。

ずっと去年から魔法少女としての活動の合間を縫って、
べべと遊びにかなりの場所へと出かけた。

遊園地、水族館、動物園、映画館、花火大会、地域のお祭りなどなど。
私の見た限りべべは楽しんでくれているようだったし、
もちろん私もそんな日々を心から満喫してきた。

どこかに遊びに出かけるのではなくて、もっと家で二人のんびりする時間をじっくりとりたい。
中々に詰まったこれまでのスケジュールの反動が、私の中に生まれ始めた近頃。


ドコカトオク、イチド、マミトイキタイ。


そんなことを突如べべが主張し始めた。
話を詳しく聞くに、見滝原からの距離さえあれば、場所はどこでもいいみたいだった。
単純に遠出がしたいらしい。そう思い立った理由が何か、あるのかないのかはわからない。

私としては気乗りする提案ではない。
それでももし仮に、私が見滝原を守る魔法少女でなかったら、
べべたってのお願いをあっさり受け入れていただろう。

でも生憎ながら、魔獣はこちらの都合では動いてくれない。



――魔獣。


魔法少女が奇跡と引き換えに戦うことを運命づけられた、この世のモノならざる存在。
人間を軽く越す背丈の、袈裟を纏い頭を丸めた大男のような全身白っぽい化け物。

ヤツらの顔に絶えずかかった、こちらの視覚を乱すモヤに似たノイズ。
それはサイズを抜きにしても、ヤツらがヒトとは全く異質な存在であるとこちらに嫌でも理解させてくれる。

魔獣は人間の感情エネルギーを吸収するため人前に現れる。
そのとき、一人の人間が、一体の魔獣に感情を吸収される量は精神状態などに応じて違う。
ただし二体三体とそれが積み重なって、一たび感情を完全に吸われてしまえば、その人は廃人になってしまう。

そうなればそれから二度と、元の健全な状態に戻ることはない。

一般人は自分がたった今、魔獣に襲われているのだと自覚することができない。
もちろん抵抗や逃亡なんてなおさらのこと。

それをこの目で認識してかつ立ち向かえるのは私たち魔法少女、
あと私の経験上の例外はべべだけ。

魔獣に吸われた感情は、一日や二日程度では回復しない。
放っておいたら、取り返しのつかない危害を加えられる人が必然増える。
だから私たちが、戦わなくちゃいけない。

魔法少女が本格的に活動する必要があるのは、日が暮れてからまた改めて昇ってくるまで。
緩やかに眠ろうとする街を、闇が深く包み込む時間帯。

だけど太陽が地表を照らす昼間に、全く街に迫る危険がない訳ではない。
そういう時間の方が、起きる事態が密やかで小規模なだけに、
うっかりすると後々マズいことになる可能性がある。

昼にじわりじわりと予め人々の隙間に根を下ろし、夜にそれら下準備の成果を最大限に発揮する。
それが現実となればその日、多くの人が魔獣という災いを被るのは免れない。

そうでなくても単純に夜、同じ時間に暴れまわる数が膨大になれば、到底一人では捌ききれなくなる。
ひとときの気の緩みから、私自身が命の危険に晒される。

諸々のリスクを少しでも減らすには、
魔獣が発生したばかりで力や勢いがまだ弱い間に先手を取る。
なるべく多くを迅速かつ魔力消費を抑えながら、潰しておく必要がある。

そのためには、まだ日が落ちていない時間からの根気強いパトロールが普通欠かせない。
今ではそんなことになる可能性と手間を、べべがかなり減らしてくれた。

とはいえべべだって、この世界のどこからでも、見滝原の異常を察知できるわけじゃない。
これは既に確認済みの事実だ。
あまりうかうかと見滝原を離れているわけにはいかない。

散々どうするか悩んだ末に、不安な気持ちを多少残しながらも決めた。
休日の早朝、まず街全体を念入りに微かな予兆すら見逃さぬようべべとパトロールをする。
それから休まずその足で、電車に揺られ日帰りの山登りに行って陽が沈むまでに帰ってくる。

牧場見学とかでもなければ、大抵の娯楽は見滝原かその近辺で楽しめる。
佐倉さんがいる風見野以外、私が行くのを躊躇うような街は近くにない。
私たちの外出はこれまで、見滝原をちょっと出る程度の範囲に限られていた。

べべの希望通り今まで行ったどの場所よりも遠くに行く。
山に登ることそのものよりもむしろ、電車で揺られることが今回のお出かけの目的と言えた。

~☆


乗り慣れていないながらもどうにか何事もなく乗車した。
座席に腰かけて、べべを対面する格好で膝の上に置く。
電車は時刻表ぴったりに動き出した。


ガタンガタン。ガタンガタン。


しばらくただ何もせず到着を待った。
それでもまだ、目的地まで時間がある。
行けるだけなるべく遠くを選んだのだから当然のことだ。

外の景色を窓越しに見続けるのにも少し飽きた。
電車が刻む独特のリズムを肌に感じながら、べべの顔をなんとなく眺める。


ガタンガタン。ガタンガタン。


べべの感情は声によく表れる。
基本的には無表情。しかし、それでもわかる。
電車に揺られる中で、表情には出辛いながらも、べべは次第に上機嫌になっている。

べべは声を出しても動いてもいない。大丈夫、大丈夫。
自分の心にそう言い聞かせるけれど、周りの人に変だと思われていないかちょっと心配になる。
でも、ひそかに周りの様子を窺う限り、それは杞憂のようだった。

遠く、見滝原から離れれば離れるほどに、べべはうずうず動き出したそうな気配を覗かせる。
べべがどこかに向かう途中、ここまであからさまにウキウキとした素振りを見せたことはなかった。

初めての電車。
電車に乗ることが好きなのかもしれない。
そうなのだとしたら、もっと早くから乗る機会を与えてあげればよかった。

そう思った。

~☆


頂上まであともう少しだ。

大きく息を吸って吐いてしながら、
樹木が互いに影を投げかけるよう左右立ち並んだ山道を、
私はべべを背負って延々と登る。

絶え間なく流れる汗の滴が、顔を垂れてポタポタと地面を濡らす。

魔法少女だからといって、少し、山を舐めすぎていた。
なぜ、明らかに本格的な山をいきなり選んでしまったのか。
山の麓に着いた時点で薄々嫌な予感はしていた。

そもそも家からの距離だけで選んだけれど、ここは日帰りするための山ではないのかもしれない。
何人ものきちんとした装備の登山者を追い越してきた。
私だって、もっとゆったり登りたかった。でも、そうすると家に帰った頃には夜になってしまう。

ベベの意向をできるだけ酌んだ結果とはいえ、
やっぱりせめてもうちょっと近場の山にしておくべきだった。



『ガンバッテ』


耳元に囁かれたベベの励ましで、もう一度喝が入る。
脚の筋肉が悲鳴を上げるのも構わず、脚を運ぶペースを更に加速させる。

一歩、二歩、三歩、四歩……。


『チョウジョウ、ツイタ』


無我の境地でとにかく前へ前へと進んでいると、いつの間にやらべべ曰く頂上に着いたらしい。
ゼイゼイと、呼吸が苦しい。
緊張から解放されて、周りを確認する余裕もなく身体の力が抜けた。

すると勝手に膝が曲がって、前かがみの体勢になる。
目の前が少し暗くなりながら、膝頭に両手をつけて地面と睨めっこする。

今日、帰って魔獣と戦うようなことがあったら、
その前にもったいないけど治癒魔法かけなくちゃ……。




『ミタキハラノ、ソト。マミト、イル』




「……べべ?」




『ココニイル。マミト、イマ、ココニ』





また、今度は足を挫かないよう注意しながら、
これから山を急いで下りなくちゃいけない。

こみ上げる吐き気。倦怠感。

べべのやけにしんみりした声が、頭の中をグワングワンと回っていた。

~☆


山登りをしてから一週間が過ぎた頃、初めてべべが風邪をひいた。

クシャミや咳といった症状はないものの、
布団から出られないくらいにぐったりとして、
おでこに触ると手を引っ込めたくなるくらいの高い熱。

意識も朦朧としているみたいで、見るからに苦しそうだった。
べべは汗をかかないだけに、こういう時の体温調節は人間と比べて苦手そうだ。
寒気もするみたいで、布団をかぶってガタガタと身を震わせている。

お昼ご飯、いつも大好きなチーズをさっきは戻してしまった。
なんでこんな急に酷い症状に至ったのかはわからない。
それでも、思った以上に事態が深刻なのはわかった。

夜、今度はベベの体調をちゃんと考慮して、
消化にいい薄味気味の雑炊を用意した。
雑炊は問題なく食べられたようで、ほっと胸を撫で下ろす。



「早く、良くなってね……。また、電車に乗りましょう?」

『チーズ、チーズ』

「ダメよ。チーズはちゃんと身体を治してから。さっき吐いちゃったじゃない」

『チーズ、チーズ』


人間と身体の構造が違うだろうから、どう看病していいのかわからないのが怖い。
常識的に考えて病院にも連れていけるわけがない。
明日、まだ苦しそうだったら氷用意してみようかな、そんなことをあれこれと悩む。


『マミ』

「何?」

『アリガトウ』


いつも以上に虚ろなべべのくすんだ青の目と、視線を交わす。

ありがとう。

どこにでもある当たり前の感謝の言葉。
日頃のお礼を言うのに、状況は何一つ不自然じゃない。
特別気にするようなことではない。

なのにそれを聞いた私は、痛みを感じるくらいに不吉な胸騒ぎを覚えた。

~☆


一週間経ってもべべの風邪は治らなかった。
治らなかっただけならまだしも、悪化の一途を辿るばかりだった。

長時間、口を微妙に開いて、天井を見上げ死んだように横たわるべべ。
魔法は節約、などと悠長なことは言っていられなかった。
治癒魔法をべべに全力でかけた。

なのに、それでも一時的に症状を緩和することしかできない。

衰弱したべべは、魔獣が街に発生した時だけ、両手を高く伸ばし小さく声をあげる。


『マジュウ』


ちょっと前まではあんなに毎日喧しかったのに、ただその一言だけ。
今では少し離れた私の耳に届かない時があるくらい、
その一言は微かな音量になってしまった。

街の平和は、絶対に守らなくてはならない。
後ろ髪を引かれる思いで、ベベが天高く両手を掲げたのを合図にして、
私は魔獣どもを一秒でも早く片付けるため家を飛び出す。

家に帰ったら、べべは動かなくなっているんじゃないか?
そんな想像するだけでぞっとするような不安に始終駆られながら。



「久しぶりだね、マミ。……さっそくだけど話があるんだ」


ベベの枕元で、身じろぎ一つ、挙動の端から端まで神経を傾けていたせいで、
背後に接近していた訪問者に気付かなかった。
振り返らなくても、声からして誰がやってきたのかはわかる。

そして、十中八九ろくでもない話をするために来たのだということも、なんとなく想像がついた。


「何の用?見ての通り、今忙しいの。悪いけどキュゥべえ、帰ってくれる?」

「そういう訳にもいかないよ。キミはまだまだ働ける優秀な魔法少女だ。
 もっと体調に気遣って、魔獣を狩れるだけ狩り続けて、
 感情エネルギーをボクに回収させてくれないと」

「体調に気遣って?余計なお世話よ、そんなの。
 私の体はどこも悪くない。体を悪くしてるのはべべだけよ」

「その人形を、キミと同じくくりで扱うのは、些か議論の余地があるね。
 ボクの目から見ればこの部屋には、キミとボク以外に生物はいない。
 その人形に対しては壊れかけたとか、そういう言葉を使った方がもっと適切じゃないかな?」

キュゥべえの言い草に、不安定だった頭の中のネジが数本一気に弛んだ気がした。
あなただって、地球上じゃ普通見かけるはずもない姿形してるじゃない。

何を偉そうなことを。

使い終わったグリーフシードをキュゥべえにあげる場所、
キュゥべえが勝手に取っていけるよう置く場所はとっくの昔に決めてある。

この家の敷居を跨ぐという行為が、本来マナー違反だというのに。


「べべを侮辱するのはやめて。べべは私の大切な友達なの」

「そう、その態度が問題なのさ、マミ。キミは現在不可能なことをやろうとしている。
 ソレをこれ以上まともに機能させるのは、キミの負担にしかならないからもうやめるんだ」

「何を言って……」



「魔法の扱いに人一倍長けたキミだ。まさかここまできて、わからないはずはない。
 自分の心の底からの声に目を背けて、わからないフリをしているんだろう?
 でもあくまでも強情に、そこまで受け入れようとしないのなら仕方ない。
 だったら、ボクの口から教えてあげよう」


教えてあげよう。
思わず腰を浮かせて、逃げ場所を求める。
でも、どこへ逃げればいいのだろう。

そう、話なんか律儀に聞かず、開口一番家の表に叩きだしておけばよかった。
もう全て手遅れになってから、一番今の私にとって最善に思える選択肢が浮かんできた。

そんな私の動揺をよそに、キュゥべえが、私が最も聞きたくない言葉を容赦なく淡々と告げる。






「――キミがべべと呼ぶその動く人形は、キミ自身が魔法のリボンで作った物なんだよ」





今日はここまで
今回話畳み始めたせいでほのぼの感がない辛い
魔獣に関して独自解釈溢れてるけどお許しを

書いてる暇はないはずだけど現実逃避更新

続きが思いついてなかったわけではなかったから
次回も今回くらいかそれ以上に間が空くと思います
むしろ現実逃避した皺寄せが来ると思います

本日もまた修正から……前々回のだけど

>>36
八行目
× それをあの時浴室で思い出した。

○ その中で私に酷いことをした。そのことをあの時浴室で思い出した。



「…………嘘よ、そんなの。キュゥべえは、嘘をついてる」


辛うじて、かすれた否定の言葉を口から絞り出した。
自分の心の底からの声に目を背けてる?
身に覚えは全くなかった。

私がいま心の底に感じているのはただ一つだけ。
事実はどうであれそんな無茶苦茶な話を絶対に認めたくない。
理性も真実も、共に遠くへ置き去った純粋な私の気持ちだった。


「まさか、嘘なんかつくはずないよ。
 ボクがキミに嘘をついたことが、今までに一度でもあるかい?」


キュゥべえは言葉で私に問いかけながら、同時に首を軽く傾げて、
疑問に感じているのだと視覚的に表現する。

こちらに可愛らしく映るよう計算し尽くされたキュゥべえのその仕草。
今はただ、無性に腹立たしいだけだった。

私は唇を噛みしめて、返すべき言葉を必死で探す。
魔法少女になってから日を改めて、キュゥべえに色々聞かされた時も、
そう言えば丁度こんな風に頭の中はぐちゃぐちゃだった。

私の人生をすっかり百八十度変えてしまったあの交通事故。
自分を生かすためだけに契約をした。
事前に話を細かく聞いたり、深く考える余裕なんてなかった。

契約してひと段落ついてから、私がどういう契約をしたのか聞かざるを得なかった。

大きく分けて真実は三つ。

この世界には魔獣という存在がいて、人々に害をなしていること。
魔獣を倒すとグリーフシードという小さな黒い結晶が得られること。

そして、グリーフシードでソウルジェムの濁りを浄化しなければ、
魔法少女は消滅してしまうこと。

私の魂は契約によって知らぬ間に、
ソウルジェムというちっぽけな宝石に変えられてしまっていた。

にもかかわらず、それもひっくるめて、
そのときの私にはキュゥべえの語った真実が些細な事柄に思えた。

当時の私の頭の中をぐちゃぐちゃにしていたのは、
あのとき願えば事故から両親を助け出せたかもしれないという可能性。
そしてそれに付随するどうしようもない自責の念だった。


「……確かに、あなたがこれまで嘘をついた覚えはないわね。
 あなたがそんな嘘をつくメリットも私にはわからない。
 それでも、ベベを私自身が作ったなんて話、到底信じることはできないわ」

「そう言われても、この人形の身体を――」

「人形はお願いだからやめて。せめて呼ぶならべべと呼んであげてちょうだい」

「――べべの身体を構成しているのがキミの魔法のリボンである以上、
 キミが作ってそれを維持していると考えるのが合理的だ。
 第一、現にこうして話している間も、キミから魔力がべべに供給されてるしね」


さも当たり前のようにキュゥべえは言った。
私からベベに魔力が供給されている。その実感はない。

私の魔法は、キュゥべえとの契約によって生まれたものだ。
しかも私以外にも、数えきれないほどの魔法少女をキュゥべえは見てきているはず。
キュゥべえが私の魔法を私以上に深く知っていても、それほど不思議な話ではない。

でもそうだとすると、そもそも魔法に限らない色々なことを、
いったいどこまでキュゥべえは知ってるんだろう?

魂をソウルジェムに変えるなんてことを容易く行うくらいだ。
私が想像もつかないようなことまで知っているに違いない。
しかしそれはおくびにも出さず、こうして普通に私と対話している。

徐々にキュゥべえの赤い瞳が、私の理解できない不気味さを増して見えてくる。



「とはいえ今回の現象には、単純に説明がつかないところがあるのも事実だ。
 魔法でモノを生成したりするキミの技術は確かに並はずれているけど、
 ベベを作り出すのに欠かせない肝心のイメージが、どうして用意できたのかボクにはわからない」

「……イメージ?」

「そう、イメージ。うーん、まず何から説明したらいいかな――」


キュゥべえ曰く、私が生成可能なのはベベの身体だけであるはずらしい。
私が普段魔法のリボンを編み上げて何かを作っても、それはもちろん勝手には動き出さない。

私にとってべべは、私やキュゥべえ、他の人々と同じように唯一無二の人格を持った存在だ。
事実、キュゥべえもべべが私と独立した自我を持っていると認めた。

私の中からべべの全ては生まれた。
べべの身体とその自我は、私を原因としてこの世界に生を受けた。

だけど私の魔法に、自我を生み出す力はない。
魔法でないのだとしたら、ベベの自我は最初から私の中にあったということになる。

しかし契約時のキュゥべえの認識では、
私の魂に全く別の自我が内在する余地などないはずだった。

ましてや契約後の私の魂はソウルジェムになった。
目に見える物質となった魂の中に、
新しい自我が勝手に芽生えるとはとても考えられない。

つまりベベの「心」となるものが、どこから来たのかがわからないということらしかった。


「べべにべべなりの自我がちゃんとあるというなら、私がベベを作ったのだったと仮定しても、
 それを助けようとすることに意味はやっぱりあるはずよ。
 精一杯努力しないうちに端から見捨てるなんて――」

「助けようとしても時間と労力の無駄さ。それは現実不可能なんだから。
 万が一にも、助けられる冴えたやり方なんものは最初からない。
 これまで何事もなくベベが過ごしてこられたのが既に奇跡なんだ。
 まさか純粋に魔力のみで構成された存在が、個物としての同一性をこれほど長く保持するとはね」

キュゥべえが私から目を離し、ベベの方を見遣った。
私もつられてキュゥべえの顔からべべに目線を移す。

動かないべべ。瞼のない目。
眠っているのか起きているのか、見ただけではわからない。
わかるのは、何も言わずわたしたちの側に顔を向け、布団の上で横になっていることだけ。

それは言い換えれば、触れて感じられる形で、
私の傍にいてくれているということだ。

私の、家族みたいな、とっても大切な友だち。
その友だちが今、危機に瀕している。
それを助けたいと思って何か行動するのは、一人の人間としてごく自然なこと。

なのにキュゥべえは、助けようと努力すること自体を、
時間と労力の無駄だと無下に否定する。

どうせ助からないのだから、最初から割り切って諦めろと私に強要する。
愚かなことだと否定する。
何もしなければ、全てが終わってから間違いなく後悔するとわかりきっているのに。

でも失敗したら、どうせ何をしたって後悔するだろう。
そんなことをしても損にしかならない。

魔獣が落とすグリーフシードには限りがある。
一定間隔で一定量決まって得られるものでもない。

言うなれば凪の時期、魔獣の出現数が極端に減るようなときがある。
それ乗り切るために、貯蓄は普段からあればあるだけいい。
だから無理なことに魔力を消費しようとするべきではない。

見滝原の街を守る魔法少女として、私には背負うたくさんの命の重さがある。
他の全てを犠牲にしてでも、それを何よりも優先するべきだ。

おおよそ労力と結果の釣り合わない、
別れの先延ばしなどという無駄な行為は控えるべきだ。

それが正しいことなのだろうか?


「…………いいえ、おかしいわ。そんなのおかしい。
 だって今ここで、べべは現に生きてるんだから」


意識せず漏れた言葉。特定の誰かに対しての言葉じゃない。
しかし、それを聞いたキュゥべえは、やれやれという様子で数回首を横に振った。



「だからべべは生きてはいないんだってば。
 キミは戦いのときに生成したマスケット銃を生きているとは考えないだろう?
 それとベベの構造は基本的に同じなんだよ。
 見かけと自我の違いはあるにしても」

「自我があるなら、生きていようがいまいが――」

「何度でも繰り返すけど、それは無駄な行為だよ。
 べべに自我があってもなくても、だからと言ってベベの崩壊を覆せるわけではない。
 壊れるまでの時間を延ばしたところで、グリーフシードが空費されるだけだ」


話は平行線。決着はつきそうにない。
必死でべべを看病して、必死で魔獣と戦って。
精神肉体両方の疲れが急にどっと押し寄せてくる。

一度目を閉じて、目頭を親指と人差し指で挟む。
疲労している場合ではない。魔力を無駄遣いするわけにもいかない。
私自身がもっと頑張らなくちゃいけない。

キュゥべえの癇に障る声が耳に入ってくる。



「ボクにはそういう心の機微はよくわからない。
 けれどべべ本人だってきっと、どうせ助からない自分よりも、
 マミ自身を真摯に扱って欲しいと思ってるんじゃないかな?」


ただひたすらに不快感がこみ上げる。

キュゥべえにとっては、ベベが本当に何を考えているかなんてどうでもいい。
私が、踏ん切りをつける理由になるかどうかにしか興味はない。

そして、なぜ私に興味があるのかといえば、
私が魔獣を倒してグリーフシードを回収できる力を持っているから。

役に立たなくなったら、あっさり捨てるだろう。
嫌と言うほどわかってる。
私に対しても、本当の意味では興味なんてないんだ。

話を聞こうとすればするだけ、仲良くなろうとすればするだけ、
それに応えようとするキュゥべえ。

なのにそれをたまらなく不快に思い始めた、
キュゥべえと超えられない壁を感じた、もうだいぶ前の記憶を思い出した。

~☆


焦る私を尻目にして、一瞬でも長く繋ぎ止めたい時間は、
歩みを少しも緩めず彼方に去っていく。

べべを助ける方法、あれこれ考えた。一番ましな計画はこれだ。

最初に私が新しいベベの体を用意する。
そしてそこにベベの自我を、キュゥべえの手を借りて移す。

魂に触れることができてそれを外へと引っ張り出せるのだから、
移し替えるくらいキュゥべえがやろうと思えば朝飯前に違いないと思った。

だけどやっと思いついた一番成功しそうな計画は、あっという間に頓挫した。
たとえこの計画が成功したところで、キュゥべえが言うには意味はないらしい。

べべの衰弱は体限定ではなく心的なものにまで及んでいる。
これまで一つの自我という定型をどうにか保っていたべべは、
その基盤となるイメージからも解き放たれようとしている。

自我の崩壊を食い止められなくては意味がない。
そしてそれは、魔法の力では不可能だということだった。

しかもそれ以前にベベは、私たち人間とは自我の在り方が違う。
より脆弱なその自我は、体との結びつきが解けた時点でおそらく消滅する。
キュゥべえと契約して魔法少女になる、なんて選択肢も存在しない。

あくまで全て、キュゥべえが語ったことに過ぎないにしても、状況は絶望的だった。

キュゥべえの、ベベは私が作ったという話は本当なのだろうか?
もしかして嘘をついているんじゃないか?
このまま誠心誠意看病したら、また、元の生活に戻れたりするんじゃないか?

しばしばそんな考えが浮かんで、心が揺れる。

私が冷静に判断できるのは、元の生活にこのまま戻るのは多分無理だということだけ。

べべは私が作ったものかもしれないという意識を思考の片隅に置いて、
マスケット銃を生成する際と似たイメージで治療した結果、
目に見えてベベの状態は改善した。

今のべべの状態は凄く安定している。
でも、それだけにはっきりとわかってしまう。
これでは焼け石に水、何も根本的な解決にはなっていない。

時間が経って補充した魔力が切れれば、また状態は悪化する。
下手をすれば前よりさらに悪くなるかもしれない。

最近、以前元気だった頃みたいな食欲がないようだった。
食事はとるのに、何も体内から出てこないということは、
食物を魔力に変換しているのだろうか?

だとしたら尚更、食欲がなくなっているのはまずい。

解決策を何か思いつくまでは、今のままでいたいなら、
ベベに治癒魔法をかけ続けなくてはならない

そのためには魔力がもっと必要だ。
ただどう考えても、見滝原に出没する魔獣から得られるグリーフシードだけでは足りない。

魔獣が落とすグリーフシードの質は、
人間から吸い上げた感情の量に比例すると言われている。



――わざと、誰かが魔獣にある程度感情を吸われるのを待ってから、魔獣を倒す?


だけどそんなの、街を守る魔法少女として絶対にやってはいけないことだ。
べべを助けるためだからといって、そんなことをしていいはずがない。

だったら諦める?
いいや、諦めてなるものか。
べべは必ず助けてみせる。

私が作ったとか、作ってないだとかそんなことは関係ない。
生物だとか、生物じゃないとかそんなのはもっと関係ない。

べべと過ごした日々の思い出。
べべの笑顔、ベベの優しさ、べべと分かち合った楽しさや喜び。
私にベベが与えてくれたものはすべて本物だ。

壁にかかった、ベベの描いてくれた私の似顔絵が、こっちを見て微笑んでいる。

べべは幻でも、私が用意した偽の友達でもない。
私にとってかけがえのない本当の友だち。

両親を助けられず、佐倉さんも手放してしまった私だけど、今度こそ失敗しない。
だからと言って、そのために自分の矜持を曲げるつもりも、今のところまだない。

べべを助けるか、正義の魔法少女をやるか。
そのどっちかを選ぼうと天秤にかける必要なんてない。
両方、貪欲に追求してしまえばいいんだ。

今日はここまで また現実逃避更新

長い長いマミさん葛藤パート
こんだけ書いても今回ベベ一言もしゃべってないね、ごめんね

マミなぎは結構見かけるけど
一枚絵とかならともかくストーリ仕立てのマミべべ、SS含めほぼ見かけないので
マミべべがっつり自給自足したくて書き始めたこれ

前回までなら話の展開二通り思いつくけど、今回で一通りに絞られた感じ……だと思います

マミべべなのに次回うって変わって杏子一人称パートですがご了承ください
話の区切り上あと二回(どんなに多くても三回)で完結の予定です
一回分の長さは書いてみないと分かりません

なんで投下前に何度か見直しても
大抵一つ以上間違いもしくは手直ししたいところが見つかるのか
もっとできてから日にちを開けろと言うことなのか

>>73 七行目
×べべにべべなりの自我がちゃんとあるというなら、私がベベを作ったのだったと仮定しても、

○べべにべべなりの自我がちゃんとあるというなら、私がベベを作ったことが事実だったとしても、

十一行目
×万が一にも、助けられる冴えたやり方なんものは最初からない。

○万が一にも、助けられる冴えたやり方なんてものは最初からない。

~☆


朝、目を覚ますと、アタシの視界一面には青空が広がっていた。

どうなってるんだ?

数秒かかってようやく事情を把握した。
昨日、相次ぐ魔獣狩りでへとへとになって、
公園のベンチに腰かけたと思ったらうっかりそのまま寝てしまったらしい。

座った姿勢で長時間眠ったせいで、体がぎゅうっと縮こまってる気がする。
ひとまず立ち上がって自分の肩や首を何度か揉んでみた。
そこまで効果があった気がしない。

仕方ないので試しに凝り固まった身体をほぐそうと、
ラジオ体操の動作をうろ覚えなりにやってみた。
ラジオ体操の音楽なんて周りではもちろんかかってない。

地味な動きを黙々と再現していると、どうも物足りない感じがする。
段々と、耳にズンズン響く、ゲーセンのあの喧しい音楽が聴きたくなってきた。
スコアをもう少し上げられるはずだ。今日は時間に余裕もある。

疲れはしたけれど、昨日はおかげで大量にグリーフシードが手に入った。
これでしばらくは楽したり、まあとにかくいろいろできるな。
そんなことを体操しながら考えていると、不意にあまり聞きたくない声が聞こえた。


「久しぶりだね、杏子」


声のした方に目を向けると、ベンチの下の隙間からスルリとキュゥべえが出てきた。
つい顔をしかめてしまう。別に、キュゥべえ本人が嫌いなわけじゃない。
こいつがアタシに自分から話しかけてくるときは、基本その話は良いもんじゃないってだけだ。



「何の用?」

「キミに一つ、頼みたいことがあるんだ」

「……ふーん。アンタが直々に、か。
 モノをアタシに頼もうってんなら、それにはそれ相応の見返りがあるんだよね?」

「どうだろう?上手く立ち回れば何かおいしい思いができるかもね。
 でもボクがお願いに来たのは、
 それができるのがここら一帯ではキミしかいないからだよ。
 キミが承諾してくれそうな案件だからじゃない」

「アタシにしかできない?」


ここら一帯、つまりマミにもできないことをこっちに回そうとしてるということ。
予想通り、いや、予想以上に面倒な話らしい。
見返りもあやふやと言うことなら、関わらないでおくに限る。



「悪いけど、アタシはパスってことで」

「せめて話だけでも聞いてもらえないかな?」

「引き受けない話をわざわざ聞くことに、何の意味があるってのよ?」

「キミが何もしなくても、相手からここに来る可能性は高い。
 そういうことも考慮すると、話だけは今、
 聞いておいてもらった方がいいと思うんだ」


こっちが何もしないからといって、
それで無関係でいられるようなトラブルじゃない。ますます面倒だ。

聞きたくはないけれど、だからといって、
そんな面倒な話に何も知らぬまま巻き込まれるのはイヤだ。

大人しく聞いておく以外に、選択肢は残されてなさそうだった。


「わかった。じゃあ、話だけね」

「助かるよ。話って言うのは、マミについてなんだけどね」

「マミ……?」

完全に予想外だった名前が、キュゥべえの口から飛び出す。

何かあったのだろうか?

先ほどまでと違って、話の内容に興味が湧いてくる。


「最近のマミは、他の魔法少女の縄張りにまで手を伸ばして、
 グリーフシードを得るために魔獣を倒してるんだ。
 今はまだ、それがここら一帯で名高いマミだから、
 誰もが手出しせずひとまず様子見してる。だけど――」

「ちょっと待ちな」

「何かな?」

「マミが他の魔法少女の縄張りにまで手を伸ばしてって、
 どういうこと?」

魔獣を倒すことにマミが熱心なのは知ってる。
アイツはそれが人々のためになることだと信じてるから。
だけど、自分の縄張りを越えてまで、それを押し通そうとするようなヤツじゃない。

グリーフシードを得るために?

マミがそこまで必死にグリーフシードを欲しがる理由がアタシには思いつかない。
ちゃんと使う量さえ考えて貯めながら生活していれば、
生きてくのに余程のことがなければ困らないはずだ。

それなのに誰よりも他人との争いを好まないアイツが、
わざわざ自分からそんなことをするとは信じられなかった。


「そのままの意味だよ。見滝原の外に出て、グリーフシードを収集してるんだ。
 今後それによって、魔法少女同士の無益な争いが起こることをボクは避けたい。
 だから早くマミを止めなくちゃいけないんだけど、ボクの忠告は残念ながら失敗してしまった」

「…………つまり今度はそれを、アタシにやれってのか?」



「うん。何かあった時まともにマミと対峙できる実力者で、
 見滝原の近くにいるのは現状キミだけだからね。
 しかもかつて師弟関係にあったキミなら、傷ついたマミの心に寄り添いやすいだろう」

「傷ついた……、ってことはやっぱり何かアイツにあったのかよ」

「正しくはこれから起こる、かな?」


そう一度前置きをして、キュゥべえが詳しく語ったマミの近況は、なんとも言い難いものだった。

孤独から逃れるために、マミは魔法のリボンで友だちを作った。
そして今、その友だちが消滅するという事態を避けるために奔走している。

けれど治癒魔法の繰り返しによる一時しのぎ的な消滅の回避では、
そう遠くない内に綻びを抑えきれなくなって、やがて限界を迎えるだろう。

対象が消滅するのが先か、近隣の魔法少女たちの堪忍の緒が切れるのが先か。

それがキュゥべえの見解だった。

キュゥべえにもマミの友だち、ベベの誕生は予想外だった。
ベベという存在がどんな影響をマミに与えるのかも未知数だった。
なおかつ、べべが危ういバランスの上に成り立つモノであることも、早くから把握していた。

にもかかわらず、ベベの不安定さを十分加味した上でキュゥべえは、
割と最近までマミとベベの関係を完全に放任していた。

アタシを失って不安定だったマミの精神状態を、
きっと安定させてくれると考えたから。

その無干渉がかえって、今の引くに引けないギリギリの状況を生み出してしまった。
マミはベベを救うことに躍起になっている。

このままでは他の近隣の魔法少女全てを敵に回すことになっても、
それを決してやめないだろう。

……アタシが、アイツの隣にいることを諦めてしまったせいなのか?
マミなら、きっといい仲間を見つけられると思った。
だからといって、こんなことを望んでたわけじゃない。

アタシはこんな所で、何をやってるんだろう?



「……でも今更、どういう顔をしてアイツの前に出ろって言うんだ」

「さあ?ボクにはわからないよ。まあ、キミから出向く必要はないかもしれない。
 さっきも言ったけど、マミからこっちに来る可能性は高い。
 本当なら、距離と手間からしてもっと早く来てないとおかしいくらいだ。
 マミの方も、キミを意識してるんだろうね」

「……でも。……だけど。もし、アイツがこっちに顔を見せたって、
 ……それでまた、組み直すなんてゴメンだからな。
 アタシはもう、誰かのために魔法を使うなんてやめたんだ」

「ボクからすると、また組み直してくれると助かるんだけど。
 その方が二人、互いを支えあって効率的かつ長期的に、
 魔獣を倒すことができるだろうし」

冷静に見れば、そうだろう。
見滝原は広いし、魔獣は豊富だ。
魔法少女を二人か三人、養っていけるポテンシャルは十分にある。

むしろマミが一人で管轄してるって今の状況の方がおかしい。

それでも、アタシの感情が、マミの元に大手を振って帰ることを許さない。
アタシには正義のためだなんて、大層な理念を掲げて戦う資格なんてもうない。

大切な家族を自分の勝手な願いで壊して、自分の何もかもが重荷になって。
ついには魔法も使えなくなった、愚かで情けないアタシ。

全部から逃げ出して、こっちに戻って来た。

今のアタシなら、戦闘面でマミの足手まといにならない自信はある。
だけど、マミの横に並び立つことを快く良しとできない、
マミに対する引け目がある。

どんなに辛くても、正しくあろうと崇高な理念を掲げて前を向いてきたマミと、
正しくあることに背を向けて、都合よく、こんな生活に甘んじた自分とを比べることが辛い。

そして何よりも、アイツにそんなアタシの情けないところを見破られたくない。
それが他の誰かだったら、誰であれ、嘲笑されようが憎まれようが生きていける。

でも、絶対にマミだけは――。


「とりあえず、ボクが言っておきたいのはこれだけだ。
 後はどうするべきか、杏子が自分で考えてくれ。
 これ以上何かをボクが言ったとしても、悪戯に混乱させるだけだろうし」

そう言って、あっさりとキュゥべえが背を向ける。

自分で考えてくれ。それがスッとできるようなら苦労はない。
自分が何をするべきなのか、あるいは何をしたいのか。
とても自分一人の力じゃ判別できそうになかった。

キュゥべえが現れた時と同じようにベンチの下を潜って、
今度はどこかへと消える。

ふと見ると、ベンチの端、アタシがさっきまで座ってた横に、
お菓子の入ったビニール袋が無造作に置かれていた。
そう言えば昨日、魔獣狩りの前に食糧を手に入れたんだった。

我慢できないくらいムシャクシャしていて、
それをひと時でいいから忘れたくて、
袋から適当に取り出したポッキーを貪るように食べた。

~☆


キュゥべえの「話」を聞いてから数日後、
いつも通りに風見野で発生した魔獣の元へ駆けつけると、
そこでばったりマミと再会した。

こっちに来るかもしれないとキュゥべえに言われてたのに、なぜだか現実味がなくて、
地面に落ちたグリーフシードを拾うマミを見て、頭の中が真っ白になった。

魔獣を倒した後だというのは見て明らかだった。

本当に、余所の縄張りにまで手を伸ばしてるんだ。

声が出せなかった。


「……久しぶり、佐倉さん。……少し、お邪魔してるわ」


マミの口振りは妙に途切れ途切れだったけど、ほぼあの頃と変わっていなかった。

でも、一目でわかるくらい目つきが尋常じゃない。

記憶の中より顔もやつれて見えるし、別れたあの時と違って殺気立っている。
死相が出ているような気がして、とても冷静には見ていられなかった。


「こんな所までフラフラやって来て魔獣狩りかい?
 それはちょっとばかし、お行儀が悪いんじゃあないの?」



「……ええそうね。……魔法少女として、良くない行いだとは私も思うわ。
 ……だけどこの魔獣を、あなたが倒そうが私が倒そうが、
 ……一般の人たちの安全が守られるのは事実よ」


心ここに在らず、といった様子だった。目をこちらに合わせて話そうとしない。
俯いて、虚ろな表情で、手の中にあるグリーフシードを弄っている。
記憶にある堂々としたマミの様子と引き比べると、あまりにもその姿は痛ましく思えた。


「グリーフシードが、そんなに欲しいのか?」


グリーフシード。

その言葉に反応して、アタシの方へとマミが顔を上げた。
その時一瞬、値踏みするような目で見られてゾッとする。

佐倉さんのグリーフシード。

きっとそんな言葉がマミの頭を掠めていたに違いない。



「…………ええ。手に入るだけ多く、必要なの」

「ベベっていう、友だちのためにか?」


それを聞いたマミの目が途端に警戒するものへと変わる。
恐怖もその中にうっすら覗き見えた。


「キュゥべえに聞いたのね。だけど、誰にも邪魔させないわ。悪いけど――」

「あー、違う違う。アンタの邪魔をしようってつもりはない。
 ……ならついてきなよ。昔のよしみだ。
 そこまで欲しいってんなら、少しだけ貯蓄分けてやるから」


早口でアタシはそう言い切った。



「…………どういうつもり?」


訝しげに問うマミ。どういうつもり?
こっちだってそんなのわかるわけがない。

わからないけど、これ以上こんなマミの姿を見ているのはこりごりだった。

さっさと大人しく帰ってもらって、アタシが心を落ち着ける時間を持たせて欲しかった。


――今の弱ってるマミの傍にだったら、アタシのいる場所があるかもしれない。


そんなズルいことを僅かにでも考えてしまう、
弱くてちっぽけなアタシがたまらなく嫌だった。

今日はここまで
こんな感じの杏マミシチュエーション他に書いたの思い返すと三回目な気がする だから凄い既視感
び、微妙に全部違うから……

ED後に向けたちょっとしたイベントなのに書いてみると思った以上に長くて困る
次回なるべく二回に分けたくないんだけどなー

予定通りいけば次回完結

杏子の表立った出番終了
「新年年越しクリスマスー」の辺り書いてた時にどうにかならんか無茶苦茶悩みましたが
改変後ってこともあってTDS時間を採用しておりません(まどポはやったことない)
杏子の家族破滅の際に雪降ってること考えると、どう足掻いてもこれと整合性がどうも……

読み返してて思ったけどよく考えたらマミさんの家ってロフトにベッドだし
マミべべ出会いのシーンで既におかしなことになってると気づいた
今は亡き両親の部屋で普段寝てる(脳内)設定で行くか……!? とも思ったけど潔く訂正しよう

モチベ激下がりしましたけど多分もうちょっとなんで頑張ります
スレ立て前は修正なんて一度もせず最後までスマートに書き切る予定だったんだけどもうそんなの夢のまた夢

修正
>>103 九行目
×早口でアタシはそう言い切った。

○マミを遮って一度間をおいてから、最後アタシは迷いながらもそう言い切った。

>>5 二行目から三行目
×アクシデントにもめげず、朝日がうららかに差し込む窓まで一人で出向き、
カーテンを体に巻きつかせ顔だけを垣間見せる。

○アクシデントにもめげず、その後壁に突き当たるまでまっすぐ一人で歩いた。
そして、壁を背にする状態で腰をペタンと下ろし私と向かい合う。

最後の更新 これまでのこのスレで最も多い更新量なので一応注意してください

今回まどかが歌ってる『また あした』聞きながら書きました。
そしてむっちゃその歌詞に引きずられました

~☆


『マミ』


ベベの声が聞こえた。

前に垂れていた私の首が反射的に持ち上がる。
それまで閉じていた目を開き、周囲をさっと見回す。

数歩先にベベの背中、ただそれだけが目に留まった。

辺りの様子からして現在の時刻は夜。
ベベと我が家で二人きりの状況。

室内に点された明かりはなく、外から少量の光が流れ込むばかり。
窓からは街並みの輝き、月とそれを飾る星空が遠く見通せた。

ベベの方へ足先を向けながら、体育座りでこっくりこっくり舟を漕ぎ、
私はいつしかうたた寝どころか深く眠り込んでしまっていた。

どこを見るでもなく何度かまばたきしていると、少しずつ意識がはっきりしてくる。

ベベを気遣って、体調がいつ急変するかと怯えながら、まんじりとせず過ごしたここ数日。
その疲れは、私の肉体と精神が耐えられる限界をとっくに超えていた。

どんなに治癒魔法を継続してかけても、それは根本療法にはなり得なくて、
その場しのぎの対症療法でしかなかった。

例えるなら、亀裂の深く走った器に液体を注ぎ続けているようなもの。
しかもその亀裂は時間が経てば経つほどに酷くなっていく。

だけど諦めるわけにはいかない。
大切な人を繋ぎ止められないのはもうたくさん。
私がべべを守るって、そう決めたんだから。


「………………」


物音一つない室内。

名前を呼んで私を眠りから目覚めさせた後、
こちらに背を向けたままべべは何も喋ろうとしない。
ベベの後姿をじっと見つめる私。時間ばかりがゆっくりと過ぎていく。

寝起きなのと疲れているのが合わさって、
フワフワ雲の上に浮かんでいるような心持ちがした。

自分だけではなく、目の前にいるべべも実体がないように思えて奇妙だった。

まるで、何か夢を見ているような…………。



『コレイジョウ、マミ、ムリ』


突然、立ち込めた静寂を断ち切るように、ベベのハキハキとした声が部屋に響いた。


ベベが私の方に向き直る。
無理?何が無理なんだろう?
理解が追い付かなくて、相変わらず無意味な視線を私はべべに投げかけていた。

再度訪れる無音。

しかし今度はそれほど時間を取らずに、躊躇いがちではありながらベベが喋りだす。


『オワカレ、キメタ。コレイジョウ、マミ、ツライ、イヤ』


――お別れ、決めた。


その言葉の響きに、心臓を凍った手で鷲掴みされたような、
とても嫌な感覚がゾワゾワッと爪先から脳髄までを駆け巡った。
堪えようもなく寒気立つ自らの身体を、私は力強く抱きしめる。

久々にべべがこんなにしっかり喋ってるのを聞いた。
意識がはっきりしてる証拠だ。
だからこそ、お別れという言葉が、真剣に口にされたものだってことがわかる。

自分の命を手放すつもりなんだ。
私が、弱いから。何一つやり遂げられないから。

何か、言わなくちゃ。手遅れになる前に、言わなくちゃ。

だけど何を言うか、何を言うべきなのか。
どうすればこの気持ちをべべに伝えられるのかがわからない。

ギュッと凝縮された短い時間、これでもかと悩みに悩んで、
結局一番単純な言葉が口を突いて出た。


「イヤ。…………イヤよ。……イヤ!」

『マミ――』

「絶対に、イヤっ!」


久しぶりに出したんじゃないかってくらい大きな声で、自分でも少しびっくりする。

イヤ、イヤ、イヤ、イヤ。

赤ん坊のように駄々をこねる私。

こんなに時間があったのに、何一つ覚悟はできていなかった。
だって、助けるって決めたから。

……助けるって決めた。それにいったいどれほどの意味があるのだろう?

いつかこんな日が来るだろうって、多分薄々わかってた。

でも、認めない、認めたくない。

助けるって決めた。

覚悟ができてなかったんじゃない。最初から覚悟することを避けてたんだ。

一度覚悟を決めてしまえば、もうそれでべべとの何もかもを、
すっかり私は諦めてしまいそうだったから。


「お願い、ベベ。どこにもいかないで……。
 できることなら何だってするから、私の傍にいて……。
 あなたが傍にいてくれるんだったら、正義の味方だって私はやめられる。だから……」


――私の前からいなくならないで。


言葉が詰まる。それは、ベベが自力でどうにかできることじゃない。

でも、それを先延ばしにすることはきっとできるはずだ。
予断を許さない状況ではあるけれど、
ベベに生きようとする意志さえあればまだいくらか。

あと、もうちょっと。

あるはずだった未来、べべとの幸せな毎日を潔く手放す決心。
そして、手放してもなお私がこれから生き続ける意味。
その二つをどうすれば自力で見つけられるのかがわからない。

ベベがいなくなったら、何を理由にして私は毎日、
学校に行って、魔獣を倒して、この家に帰ればいいのだろう?

一人での食事。一人での睡眠。

一人の空間。一人の時間。

一人で戦って。一人で傷ついて。

死ぬまで延々と続く、孤独と恐怖にただひたすら耐える人生。

魔法少女が出現した魔獣を倒す。

それは人々の安全な暮らしに直結する、通常人々の目には留まらないながらも、
社会を円満な形にするための重大な歯車の一つだ。

見滝原の街においてもまた、人々と魔法少女の関係は当然成り立つ。

しかし、見滝原のそれを担うのが私である必然性なんてどこにも在りはしない。
この街の平和を継続的に一人で保つのはなかなか骨が折れることだけど、
それを担うのが一人だけである必要はない。

一人、二人、三人。

私が担っていた時よりは、人々の安全に関していくらかいい加減になるかもしれない。

けれどもグリーフシードが魔法少女の生命線である以上、
必要なら魔法少女同士協力して魔獣を退治するはずだ。

それに生きるためだけに限らず、魔法少女である恩恵を何か受けようとしたら、
魔獣を倒しグリーフシードを備蓄することは必須になる。

そして、利己的な行動の末、結果的に多くの人々が救われる。

この街を守るのは、別に私じゃなくてもいい。
にもかかわらず私は戦い続けてきた。

それは私が、一人でも多くの人に少しでも幸せでいて欲しいから。
他の誰でもないこの私自身の手によって、
一人でも多くの人のことを助けたいと考えているから。

あと、自分が生き延びたいから。

生き延びる理由がなくなったのなら、無理に頑張らなくてもいいんじゃないか?

魔獣が落とす一粒一粒のグリーフシードは、あまり多くの浄化をもたらしてはくれない。
生活に困るくらい、日々かつかつな魔法少女も世の中にはいると聞く。
見滝原という魔獣が多い地域を、そういう子に明け渡した方がいいんじゃないか、そんな考えが浮かぶ。

私は、生きていけるだけのグリーフシードを計画的に貯蓄しながら、
同時に困っている街の人々のため、余ったグリーフシードを惜しまず使ってきた。

ベベと出会うまでは、自分の自由時間を毎日かなり多く捧げて、
街のパトロールに一所懸命努めてきた。

色々やりたかったこと、普通の生活を犠牲にした。

それが他の魔法少女と馬が合わない要因になったとしても、
私を孤独に追い込むのだとしても、
他の見知らぬ誰か一般人を自分より優先するスタイルは変えなかった。

そうするのが魔法少女として正しい道だと信じてたし、それは今だって変わらない。

でももう、疲れてしまった。
こんなことを続けてもどうせ見返りなんてない。
第一、正しいことをするのに見返りなんて求めちゃいけない。

人として生きるために大切なモノをたくさん、私に与えてくれたベベ。
もし、このままべべがいなくなってしまうのなら、いっそ私も…………。


『マミ、サミシガリ、シル、シル』


ベベがテクテクと近寄ってきて、私の身体をよじ登り、
じゃれるようにこっちの右頬に顔をピタリと寄せてきた。

人肌の体温と、ぬいぐるみの感触が私をくすぐる。

ベベは私が作った。

効率的な魔力供給を毎日あれこれ細かく試行錯誤していく内に、
その認識は私の中で半信半疑から確信に変わっていた。

例えばマスケット銃を構成する時などに見られる私の魔力伝達の癖。
今ならわかる。確かに、ベベの身体は私が作ったものだ。

しかしだからこそ、ベベと私が一緒に過ごしてこられたのは、
本物の奇跡のたまものだと胸を張って言える。
私にとってはそれが真実。それ以上でもそれ以下でもない。

ベベがいなかったら、きっと私はもっと疑り深く、
日に日に自分の殻の中へ閉じ籠っていったと思う。

それを変えてくれたのはべべだった。

私がベベのためにしてあげられたこと、何かあったのかな?
何かといっても、ありふれた何かなんかじゃない。

こんなに大切なモノをたくさんもらったのに、格別な何かを一つも返せないなんて悲しすぎる。

他の誰でもない、私だから与えられたような何かを、べべに…………。



『イマ、タノシイ、ジカンノ、ツヅキ。タノシイ、ジカン。イツマデモ、ツヅカナイ』


いつも以上に、明瞭にベベの言葉が私に届く。
齟齬のないよう、私に伝えようとするベベの必死さを感じる。
言葉を選んでるんだ。これで最後だから。

そう思うといきなり耐えられなくなって、涙が私の服とベベ、それに床を濡らした。
目を閉じて、こぼれる量を減らそうと懸命に努力する。
だけど涙は微塵も止まろうとせず、それどころか私の言葉にまでジワジワと混ざっていった。


「待って……。私まだ、何もあなたにしてあげられてない……。
 まだ、何も……、やりたいこと、まだ……」

『マミ、ワラッテ。マタ、アエル。ダカラ、ワラッテ』


笑ってという言葉と共に、ベベが肩を飛び下りたのを感じた。
右の二の腕を、べべの両手で挟み込まれる感触がその後に続く。

視界を滲ませる涙を、私は服の左袖で精一杯拭き取って、ベベの方を見た。

するとべべは、私の方にニコリと笑いかけていた。

顔一面に笑顔が広がっているような笑い方じゃない。
べべにそんな笑い方はできない。

口角を限界まで引き上げて、笑っているのだと相手に印象付ける。

ベベの笑顔。

前に何度か、べべの無表情さを改善しようと笑顔の練習をした。
そんな些細な日常がいま鮮明に思い起こされて、途端に胸が苦しくなった。


「無理よ……、そんなの……。また、会えるわけなんてない……。
 いなくなった人とは……」

『ダイジョウブ。マタ、アエル。シッテル。ワラッテ。ワラッテ』


その場で勢いよくバンザイをするべべ。

誤魔化しを言ってるようには感じなかった。
本当に何か確信があって、そういうことを言っていそうな気配があった。


「どうしてわかるの……、そんなこと……?」


問いかけられてベベは、笑顔のままに首を傾げた。
ベベが困っているのが、表情には出てこなくても良く分かった。



『ワカラヌ。デモ、スグ、アエル。シッテル』


わからないけど知ってる、と言われても困る。

大げさな身振り手振りで何かを伝えようとするベベ。
だけど必死さはともかく、何一つ言いたいことは伝わってこない。

楽しかったあの時間と全く変わらない、べべのそそっかしい動き。

限界まで緊張していた心に予期せぬ不意打ちがきて、
泣きながら思わず笑ってしまった。

ベベは私がやっと笑ったことに気を良くしたらしく、
慌ただしい動きをやめて、言葉を続けた。


『マミ、ワラウ、ウレシイ。シアワセ』


少し、気分が落ち着いた。

そして、ベベが何を言いたいのか私がちゃんと理解できるまで、
私とベベは同じようなやり取りを何度も交わした。

べべは大体こんな意味の言葉を、私に伝えようとしていた。


私と一緒に毎日を過ごしてこられて幸せだった。
今お別れしても、すぐにまた違う形で再会できる。
笑ってる私が好き。私が笑ってると幸せな気持ちになる。

だから私には、ベベがいなくなっても朗らかに笑っていて欲しい。
それがこれからいなくなるべべにとっても幸せなことだから。
笑って待ち続けていれば、また会えるから。

久しぶりにべべの頭の中がすっきりしてる。
多分今回が、まともな意識をベベが保ったまま、私とお別れできる最後のチャンス。

そうでなくてもグリーフシードを集める手間だったり、
別れを先延ばしにすればするだけ、私に無用の迷惑がかかる。

だから今、覚悟を決めてお別れをしなくちゃいけない。

私には笑顔でいて欲しい。私の笑顔を妨げたくない。


私を思ってのべべの言葉は、ベベがいないと生きていけない、
そんな自分のことばかり考えていた私の心を、強く打った。



「…………べべは、怖くないの?これから、消えてしまうのよ?」

『マミダッテ、ヒトリ、コワイ。デモ、マケナイ。ソレト、オナジ』


――でも、負けない。


それは私への激励だった。

悔しいし情けないけれど、私にベベを救うことはできない。

私がこれからひとりぼっちになるのは避けられない。
それでも生きていてとベベは言う。辛くても笑ってと言う。

笑って、笑って、笑って……。

べべの気持ちが他の何よりも大切だ。

今、私がべべのためにしてあげられることは、
ベベの言う通りにしてあげることだけだった。
それがどんなに私の望まぬ結末を招くのだとしても。

私は口角を上げ、目を細めて笑っている顔を作る。
涙が目尻を伝うのも構わず作り笑いをべべに向ける。

ベベもまた、笑っていた。



『ワラッテ。ワラッテ。マタ、スグ、アエル』

「…………っ!」


まだ、心配されてるんだ。私が弱いから。
自分の心を改めて引き締め直す。
ここまできて、これ以上べべにカッコ悪いところは見せたくない。

だけど、少しでも口を開くと漏れてしまいそうになる。
一秒でも長く私と一緒にいて欲しい。そう言ってしまいそうになる。
それはベベの望むことじゃない。

自分の想いを噛み殺して、言葉なくべべに笑いかけるしかなかった。
静かに、何も言えずに、時間ばかり過ぎていった。

一秒、一秒.、この時間が少しでも長く続いて欲しいと心から願い続ける。

その我儘をベベに向かって押し通すことも、
自分の心から投げ捨て諦めることもできなかった。

いくらでも言いたいことはあるはずなのに、明確な言葉にならない。
何か一言でも口にしてしまえば、それは真っ赤な嘘になってしまう気がした。

私の綺麗な所だけをべべに見せて、
他の汚い所は全て誤魔化してしまいそうだった。

私とベベが面と向かい笑い始めてから、
どれだけ時間が過ぎたのかはわからない。

ベベが口元をフッと緩めて、びっくりするくらい肩の力が抜けた、
平静な声音でポツリと言った。



『アリガトウ』 


それはまさに一瞬の出来事だった。

頭からつま先まで細い線が螺旋状に走ったかと思うと、
ベベはグニャリと歪んで、すぐさま黄色のリボンに変わった。

一本のリボン。

慌てて地面に落ちたリボンを掴んだけれど、
それは数秒でサラサラ完全に溶けきって、砂のように手からこぼれ落ちていく。

結局ベベだったモノは何一つ残らなかった。

ただ一つその場に残ったのは、
私がべべのために作ってあげたお手製の服だけだった。

駄目だ、朝から見直したりしてて疲れた
キリがいいんでちょっと休憩します

少なくとも今日中には終わらせるつもりです

~☆


ベベがいなくなった世界。

ベベの「笑って」というお願いを力の及ぶ限り実現すること。
それが暫定的な私の生きる意味として残った。

魔法少女として、依然同じやり方で見滝原の魔獣を狩り続けた。
この街を守るのが私であってはならない理由はなかった。

魔獣と戦って、家に帰って、学校に行って。

無味乾燥な日々が果てしなく続くに違いないと思ったけれど、
現実全くそんなことはなかった。

見滝原にフラリと戻ってきた佐倉さん。
そして最近出会った新米魔法少女の美樹さん。
私は今、彼女ら二人とチームを組んで魔獣を狩っている。

かつての魔法少女として強く気負った気持ちはかなり薄れていた。
私には、正義に殉ずることは無理なんだってわかったから。

それで毎日の生活のパターンが何か変わるわけではないけど、
私の良心が赴くままに困った人々を救う。
そう心に決めて、私は魔法を使うことにしていた。

とりあえず、ずっと楽な気持ちでいられるようになった。

あと、明らかに学校生活は少しだけ変わった。
こだわりから少し吹っ切れたおかげで、
クラスのみんなと、今更ながら少し距離が縮められたように思う。

佐倉さんと美樹さんに街のことを一日任せて、
クラスの友達と一緒に遊ぶなんてことが将来あるかもしれない。

まだ、よくわからない。

予想外に順調な私の毎日だけど、一つ大きな問題があった。

私の人間関係に変化があったとはいえ、
やっぱりどうしても一人になってしまう時間がある。

絶対にマミの世話にはならない。

そんな感じでやけに突っ張った佐倉さんは、
巡り巡って美樹さんの家の厄介になっている。

見滝原に戻ってきてくれた佐倉さんが、
どうして未だに、妙につんけんした態度を私に時折とるのかよくわからないけど、
確かにその選択の方が客観的に見て正しいと思う。

ただ結果として、お泊りとかの特別な場合を除いて、
寝るときいつも私は一人きりだった。

でも、一人になる時間があることそのものが、
それほど大きな問題というわけじゃない。

実際ベベが突如私の前に現れるまでは、
両親と死に別れてからずっと家でひとりぼっちだった。

現在は佐倉さんたちがしばしば私の家で長い時間を過ごしてくれるし、
魔法少女として以前よりも伸び伸びと活動できているから、
寂しさをベベと出会う直前ほど切羽詰まって感じることはない。

問題なのは、そういう一人の時間になると、
ベベを失ったことをひしひしと実感せずにいられないことだ。

どんなに他の人たちが私の孤独を埋めてくれたとしても、
ベベを失ったという事実が覆されることはない。

それはべべとの毎日が、両親との日常とはまた別の価値を持っていたのと同じ。


――またすぐ会える。


ベベが消えていく一部始終を目撃していた。

それなのにどうして会えるのか、いつ会えるのかもわからない中、
いったいどんな形でその言葉を信じていけばいいのか。

ベベと暮らした毎日は、全て私の妄想だったんじゃないか?
最初からベベなんて存在しなかったんじゃないか?

どん底まで心が弱っていたときは、そんな思いを抱いてしまうことすらあった。

もっとも私がベベのために作ったいくつもの服と、
そういう意味では信用できるキュゥべえの両方が、
私の記憶は真実であると保証してくれていた。

でもそれは、ベベのあの言葉が真実であるということまでは肯定してくれない。

ベベが嘘をつくはずがない、ベベが嘘をつくはずがない。

そういくら自分に言い聞かせてみたところで、ベベの言葉が与えてくれた安心感は、
日が経つにつれゆっくりとではあるけれど薄れていってしまった。

そして、まだ起こっていない問題が一つ未来に予想できた。

佐倉さんたちとのぬくぬくとした毎日が、
ベベを失った悲しみとまた会えるという言葉の価値を、
私からいつの日か忘れさせてしまいそうだった。

ベベを失った悲しみを感じることは辛いし大きな問題だけども、
ベベを失った悲しみを感じなくなることも嫌だ。

これら難しい問題を解決してくれる方法は、ベベの言葉が実現することだけ。

すなわちべべと再会することしかなさそうに私には思えた。

~☆


なぜかその日は朝から、いつもとは何かが違う、そんな予感がしていた。

学校での授業を平凡に済ませた放課後、
私は数日分の食材を調達しようと、近場で行きつけのお店に顔を出した。

野菜。肉。魚。紅茶。あれか、それともこれか?

なんて考えながら店内を巡っていると、
チーズが食べたいという気持ちが急に沸々こみ上げてきた。

ベベと共に暮らしていたころは、
ほぼ毎日と言っていいくらいチーズを一緒に食べていた。

しかしべべがいなくなってからは、チーズとはずっとご無沙汰だった。
だってチーズを見ると、ベベをどうしたって思い出してしまうから。

だけどたまにはこんな日があってもいいんじゃないかな?

それまでは努めてチーズから目を背けようとしていたのに、
特に理由もなくそう感じたのだった。

チーズ売場へと足を運ぶ。

積まれ山となったチーズの四角い箱。
そしてその傍らにいる幼い小学生くらいの女の子。

チーズを取ろうとその山に近づく私。

すると唐突に積まれた箱がグラリと揺れて、女の子の方に雪崩れかかった。
慌ててそれをどうにか押し止める私。

私の切羽詰まった様子に目を遣って初めて、
チーズの箱が自分の上に倒れ掛かろうとしていたことに、女の子は気付いたようだった。

女の子と私の目と目が合う。

実感があった。

ベベとは全く見た目が違う普通の人間の子なのに、
私にはベベと何か繋がりのある女の子だとわかった。

でも、そんなのおかしい。べべは私の前で消滅した。

そもそもべべは私が魔法で作ったぬいぐるみで、この子は見ず知らずの女の子だ。

それなのに、べべと繋がりがあるなんて考えるのはどうかしてる。

べべとまた会えた。ベベの言っていたことは本当だった。
いや、そんなはずはない。

私が一人混乱しているのを余所に、ベベを思い出させる少女は、ハッとした様子でおそるおそる言った。



「マミ……?」

~☆


「マミさん、マミさん」

「なあに?」

「クレヨン、ありませんか?」

「クレヨンならあるわよ?どうしたの?」

「壁にかかったあの絵を見てたら、無性にマミさんの似顔絵を書いて、
 それをマミさんにプレゼントしたくなってきたのです。
 なぎさだったら、あの絵よりもっとうまくマミさんを描けます」

「あらあら、私にプレゼント?嬉しいわ、ありがとう。
 じゃあ、あの隣に飾ることにしましょうか」

「むむむ」

「どうしたの?」

「どうもあの絵を見ていると、こう、胸の辺りがもやもやってなって……。
 あれを書いたのって、マミさんなのですか?」



「いいえ、違うわ。あれはね、私の大切な友だちにプレゼントしてもらった物なの」

「…………ふーん。それってなぎさよりも大切な人?」

「う、うーん……、難しいわね。
 付き合いはなぎさちゃんよりずっと長かったけど」

「お名前は?」

「ベベ、って私が名づけたわ」
 
「名づけた?……あっ、そう言えばマミさん、
 最初会ったとき私のことそんな風に呼んでました!」

「ふふ、確かにそんなこともあったわね」

「あれからしばらく経ってベベの意味を知ったとき、なぎさは凄く憤慨したのです。
 まったく、なぎさはどう見たって赤ちゃんじゃないのに。
 出会ったばかりで、人をいきなり赤ちゃん呼ばわりだなんて普通ありえないのです!」


「ご、ごめんなさい。
 あのときどうしてもあの子とあなたが被って見えたから……」

「でも、それを言うならなぎさちゃんだって、私の名前を不思議と知ってたじゃない。
 それだって十分おかしな話だわ」

「あー……、そうでした。なんで、マミさんの名前を知ってたのかは、
 実はなぎさ自身にもよくわかりません」
 
「マミさんの顔を見たら、自然と巴マミって名前が頭に浮かんで、それが口からパッと。
 ……えーと、それはそれとして、そのベベってお友だちはそんなに私と似ているのですか?」

「……似ている、と言うべきなのかしら?
 とりあえず明らかな共通点と言えば、
 その子、なぎさちゃんと同じでチーズが大好きな子だったわ」

「チーズ!?そうですか!なかなか話のわかりそうなやつなのです!
 ……うん?大好きな子、だった?」

「ええ。あの子はもう、私が二度と会えない遠くに行ってしまったわ……」

「……そうですか」


「ベベとなぎさちゃん。二人に優劣なんて私にはつけられない。
 あの子はあの子。なぎさちゃんはなぎさちゃんよ」
 
「そりゃあべべとの時間が濃密だったのは確かだけど、
 なぎさちゃんとだって、これからそれと同じくらいに楽しい時間を過ごせるはずだわ」

「そのベベって子のこと、大好きだったんですか?」

「今も、大好きよ。いつまでも変わらない私の大切なお友だち」

「……聞きたいのです!そのベベって子の話!
 なんでこんなに聞きたいのか、上手く言葉にできないのですが……、
 でも、聞きたいです」

「……いい機会だし、私の昔話も含めてちょっと長い話をしましょうか。
 なぎさちゃんには、私のことをもっと知ってもらいたいから。いいわよね?」

「大丈夫なのです!」



「えっとね、そのころの私は、本当に心通じ合える友だちが欲しくてたまらなくてね――」



終わり

休憩挟んだらさらに途中急遽ようじ入って
投下ペースぐちゃぐちゃになっちゃった ごめん

ほのぼの箇所書いてたころに想定していたのとエンディングの意味が変わってしまった
「ベベ」=マミさんのリボン 最後マミなぎ再会ってだけ最初きちんと決めて
行き当たりばったりに始めたから仕方ない

・叛逆改変で杏子が見滝原に来る理由をねじ込める(マミ杏つき)
・マミさんの偽装記憶と真実の境目問題をスル―して結界内マミべべを示唆できる
・叛逆じゃなかったマミさんとベベのお別れをじっくりやれる

このメリット(特に三つめ)がお得だったからマミべべを叛逆後改変完了前にねじ込みました

マミさん視点なので裏設定だらけになったけどあまり気にしない方が良い感はある
でも何か質問があれば受け付けます

なぎさも魔法のリボン製とかだったらイヤだな

>>151
「ベベ」=なぎさじゃないってだけで流石になぎさは本物のつもり
マジョマン○カマンベールとかなしに喋ってるのがそれの描写の一つだけどクソ分かりにくい
ベベの模倣再現から脱却した結果今回の饒舌「ベベ」に繋がったけどこれもわかりにくい

最初はほむらとまどかの関係性をなぞった感じで行こうと思ってたけど
「ベベ」=なぎさじゃないとそれ上手く成立しないから意味変わっちゃったなーって
「ベベ」消滅しちゃったんで元の予定の完全無欠ハッピーエンドってわけでもないですし

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