ハルヒ「キョンの部屋でエロ本探しよ!」 (39)

ある晴れた日の日曜日のことだった。

ハルヒが突然に家を訪ねてきた。

「団長様が遊びにきてやったわ!」

当然の様に上がり込むハルヒに対して、
俺は止める術もなく自室への侵入を許してしまった。

そして妹が遊びに行っていると知った途端、
ベッドの上に仁王立ちになり発せられたお言葉が題名のセリフだった。

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オレの抗議を無視して家捜しを始めたハルヒは、

「そうね。キョンのことだから妹の手が届かない高い場所か思い物の下に置いているはずだわ!」

などと名探偵よろしく推理して箪笥の上を調べる。

そして見つけてしまったのだ。

「えっと…なになに…熟妻倶楽部に人妻味比べ……」

ハルヒは取った本の題名を読み上げると、
「きゃっ」っとハルヒらしくない声を小さく出して本を放り投げた。

まさかあるとは思っていなかったらしい。

だが、俺も年頃だし、わかるだろ?

「なに?あんたああいうオバサンが好きなわけ?」

ハルヒは腕を組み口をへの字に曲げて睨みつけている。

「いや、別にオバサンが好きという訳ではなくてな……」

「じゃなくて?」

ハルヒの追及に言いよどんでいると、

「もういいわ!」

と、フンとでも言いたげな態度で振り返り、

「帰る!!」

とドスドスと足音を立てて出て行った。

俺は心の中で古泉に謝っておいた。

それから二十五年ほどたったある日の土曜日。

ハルヒは相変わらず不思議探索を続けており、俺たちも未だに付き合わされている。

変わったところと言えば、喫茶店でアイスコーヒーを啜っていた謎の高校生五人組が、
昼間からビールを飲む----正確にはハルヒ----だけなのだが、謎の中年五人組になったことくらいだ。

ハルヒはと言えば、度々起業して驚くほどの成長を見せる企業にしたかと思えば、
「飽きた」と言って売り払う一部では知らぬ人がいない程の有名人になっている。

古泉達が関係しているのかと疑った時期もあったが、
「我々としては涼宮さんのお手伝いをしたいのですが、出る幕がないほどに優秀な実業家ですよ」
とは古泉の弁。

見た目も相変わらずだ。
世の中には、台湾を代表する美人女優や、
若い頃にオバさんになったら若い子に負けるわ等と意味不明な供述をしていたアイドルが実際にオバさんになったら案の定若い子に圧勝していたり、
あんな奇跡のアラフォー連中に負けず劣らずの一般人なのは流石はハルヒと言うことなのだろう。

朝比奈さんは特盛の朝比奈さんになった時点で止まっている。

一度「いつまでも変わりませんね」と言ったところ、

「え?未来では普通ですよ?寿命も違いますし」

と答えてくれた。

嘘か真かは知らないが、少なくとも禁則事項は大きく減っているようだ。

普段はハルヒが会社を作る度に引っ張り回されているらしい。

古泉はにこやかな笑みを浮かべる一見軽薄だが、やり手なのが明らかな若々しいオジさまになった。

大企業にでも勤めていたら、次々に女性に手を出しながらも出世していくリアル島耕作にでもなっていたことだろう。

もっとも、実際には未だにハルヒのお付きをやっている訳なのだが。

長門は何故か相変わらず北高の制服だ。

身長は伸びていない。

ついでに言えば、体型も未だに女性らしくない。

もっと言えば、顔もそのままだ。

要するに一切変化なく、あの時のままの長門だ。

だが俺としては、今の時点で長門が存在してくれているだけで嬉しい。

十年後に存在しているか解らないと言っていた長門が二十五年後も存在していたのだからな。

先ほどは一切変化がないと言ったが、表情の変化のレパートリーが増えた。

ほんの僅かな変化で見逃してしまいそうになる変化だ。

もっとも、これは単に俺が気付くようになっただけかも知れない。

長門も相変わらずハルヒについて回っている。

場所を部室からハルヒの事務所に変えて本を読み続ける生活も変わってないという話だ。

俺はというと高校卒業後、ハルヒ達の行った大学からすると三流とされる大学に進学した。

ハルヒ達と言ったのは、俺以外の四人は同じ大学に進んだ----朝比奈さんは一浪したが----のだ。

道行く人十人に聞けば十人が超難関名門大学と知っている大学で、俺から見れば殿上人な大学だ。

古泉は、

「涼宮さんは同じ大学に進むことを望んでいるので受けてください。絶対に受かりますから」

などと言っていたが、模試の点数をハルヒに馬鹿にされ続けて意固地になってた俺は挑戦校以前の話の大学で受けなかった。

俺から見たら羨ましい限りの大学に進学したハルヒだったが、
入学してから三か月と経たないうちに「面白くない」と大学を辞めて起業家をはじめていた。

まぁ、在学中はハルヒが起業するたびに俺はアルバイトとして引っ張り回されて居た訳だが、
卒業後は親戚に紹介された企業に就職して、今では土曜日の不思議探索くらいでしかハルヒと会わなくなっていた。

ハルヒは俺の就職内定から今に至るまで、

「そんな所は辞めてあたしと一緒に働きなさいよ!」

とことあるごとに言ってくる。

親戚の紹介で就職した以上はそう簡単には辞められないのだが、ハルヒには理解できないことだろう。

それにハルヒには言っていないが、不安定で不毛なハルヒの起業ごっこに付き合うわけにはいかない理由があった。

安定して無ければいけない理由、それは俺に家族ができたことだ。

要するに結婚して二人の子供まで居るということだ。四十なんだし、別におかしくはないだろう?

大学時代にはバリバリと起業ごっこをしているハルヒを尻目に中学以来の女友達のいい感じになったこともあった。

もっとも、ハルヒの起業ごっこに付き合った俺の成績は散々なもので就職に苦戦していた一方で、
彼女の方はあっさりと財閥系の金融機関の総合職の内定を取ってしまい、俺の方が卑屈となり疎遠になってしまった。

大学のランクや成績を考えれば当然のことだったのだが。

当時は、

「くっくっくっ、いざとなれば専業主夫というというのもいいと思うよ」

などという言葉に腹を立てたが、今にして思えば彼女なりのやさしさの表れだったのかもしれない。

その後は妹の小学校時代からの友達といい感じになったりもしたのだが、

ある年の忘年会で自覚がないまま酷く深酒をしたのか俺は翌日ホテルの一室で横に裸の状態の同僚が居る状態で目が覚めた。

それが見事に命中したらしく、デートすらしたことがない同僚とできちゃった結婚をしたという訳だ。

俺の結婚を聞いた古泉は顔面蒼白となり、

「涼宮さんには絶対に言わないでください!」

と懇願されて未だに秘密という訳だ。

古泉は心配していたが、学生時代は兎も角、今は問題ないと思うがな。

何故なら、昔、学生時代に一度ハルヒにそれとなくモーションをかけた事もあるのだが、
「まだでしょ!」と一蹴されてしまった。

おそらく起業家ごっこが楽しくて未だに恋愛は精神病とでも思っているのだろう。

ちなみに未だに不思議探索に参加してるのは古泉に頼まれたアルバイトだ。

そんな事を考えているうちにその日の不思議探索も終わった。

不思議探索の後は、反省会と称して軽く飲むのが通例となっていた。

反省会とは名ばかりで他愛のない話に近況報告----俺の結婚は内緒だから細心の注意が必要----で終わる。

もっともその日の反省会は何時もと違うイベントが待っていた。

ちょいと小洒落たバーで飲んでいるとハルヒが話しかけてきた。

「あんたいい加減あたし達と一緒に働きなさいよ!SOS団の一員の自覚がないの!?」

ここまでは毎回言われていることだ。

「さっさとここに名前を書いて印鑑を押しなさいよ!」

ハルヒはそう言うと紙を一枚テーブルにバンと叩きつけた。

入社届かと思いその紙を見る。

見覚えのある書き込み欄はほとんど書き込まれている。

「証人、古泉一樹…と朝比奈みくる………なんだこれ?」

俺はハルヒに質問してみる。

ハルヒはそっぽを向いて、

「どうでもいいからさっさと書きなさいよ!」

ハルヒはそう言いながら紙の一部に指を乗せ見えなくしている。

俺はハルヒの「コラ!やめなさい!」との抗議を無視して、その指をどかす。

そこには『婚姻届』と書いてあった。

「なんで今なんだ?」

俺の当然の質問に対して、

「だって、あんたは熟女好きなんでしょ?熟すまで待っててあげたんだから感謝しなさい」

ハルヒはどこか照れながら、さも当然と言った感じ答えた。

「どこで何を考えたらそうなるんだ?」

「だってあんたの部屋にそういう本があったじゃない」

「本?」

「そうよ。高校生の時。箪笥の上に」

俺は遥かな記憶を辿りながら、エロ本の一件を思い出す。

「お前は何を言ってるんだ?」

「あら?嬉しいからって照れなくてもいいわよ!
 あんたみたいな冴えない中年を貰ってあげるんだから感謝はして欲しいけどね!」

「何を勘違いしたのか知らないが、当時の俺は人妻ブームだったんだよ!」

「え?熟女好きじゃなかったの!?」

「熟女というより、高校生ならではの年上のお姉さんが良い的なアレだ」

「まぁ、人妻好きでも同じね。結婚したら相手は人妻なんだし」

「いや、そこで言う人妻一般に自分の嫁は含まん」

「なんでよ!」

「ここでいう人妻は他人の芝は青い的な奴だ」

「ぐぬぬ……」

ハルヒがとても悔しそうな顔をしてる。アラフォーになって急に結婚したくなったのか?

「ちょっと古泉くん!」

ハルヒがいきなり古泉を呼びつける。

「なんでしょう?」

古泉が笑顔のまま応じる。

「結婚するわよ!」

コイツは誰でもいいのか?

流石の古泉も笑顔のまま凍り付いている。

もしかしたらこいつも既婚者なのかもしれない。

ハルヒは俺の方を見て、

「どう!これであたしも人妻よ!」

エヘンとでも言いたげだ。だが古泉は返事をしていないぞ?

「お前は俺を人妻好きだと思って自慢している様だが極一時期のブームだぞ?」

「はぁ?なによそれ?」

「それにな、俺はもう結婚して子供もいるんだ。例えお前が魅力的な人妻だとしても火遊びをする気はないぞ」

「ちょっと!!結婚して子供も居るってなによ!!!!」

しまった!あまりの突拍子の無さに、つい口が滑ってしまった!

ハルヒが涙を浮かべたかと思うと頭を抱えて下を向いてしまった。

「………と、いう夢をみたんだが」

何時もの部室で将棋を打ちながら、古泉に話しかけた。

古泉は何時もの笑みを浮かべながら、

「奇遇ですね。偶然ながら僕も同じような夢を見ました」

「そうか。ところで俺の愛する妻と子供達はハルヒに消されてしまったのか?」

顔すら思い浮かばない家族の話を古泉にしてみた。

答えは窓辺の方から聞こえた。

「大丈夫。あなたに子供は居なかった」

長門は夢と変わらない平穏な発音で答えた。

「そうか?夢の中では居た気がするのだが?」

「遺伝的な意味ではあなたの子供である可能性は0.0001%未満。生物的な意味では親子関係はない」

「おやおや、まるでカッコウですね」

笑顔のままの古泉を殴ろうかと思ったが、あまり記憶になくて正直どうでも良かった。

「もっと言えばあなたは童貞のままだった」

「おいおい!子供が二人いることになってたのに流石にそれはないだろう?」

「二回ともあなたは泥酔していたと説明されたはず」

憶えていないが長門が言うなら、きっとそうなんだろう。

「睡眠薬を飲まされた結果」

悪い女もいるもんだね。俺が呆れていると、

「涼宮さんがそう望んだのかもしれませんね」

古泉は笑顔のままだ。まぁ、思いっきり不自然だしそうなのかもしれないな。

自分のことなのだが、記憶がほとんど残っていなかったので別段なにも思わなかった。

「あなたの遺伝子を残せるのは私」

長門が本から目を離し、俺を真っ直ぐ見ている。

「信じて」

長門流のジョークだろう。

「僕としては涼宮さんと引っ付いて欲しいんですけどね」

古泉は笑顔のまま二歩をした。流石に焦ったのだろう。

その時、乱暴にドアが開いた。

ハルヒが朝比奈さんを従えて部室に入ってきた。

何時もの部活の始まりだ。

ハルヒが議題を発表する。

「今日の議題はみくるちゃんの活用方法よ!!」

朝比奈さんはマスコットだから居るだけいいのですよ。







チラ裏SS オチマイ

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