真「99%の闇の中の1%の光」 (44)
昔、誰かが言った
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真ファン「キャア―――――――ッ!!真様―――――――!!」
真ファン「真様―――――――――ッ!!こっち向いてええええええええ!!」
真「ふふ」
真ファン「キャア―――――ッ!真様が私に手を振ってくださったわ―――――!!」
真ファン「何言ってんのよ!私に微笑んでくださったのよ――――――ッ!!」
たとえ、自分の周りに大勢、人がいても
インタビュアー「お聞きください、このファンのやまぬ大歓声!」
インタビュアー「さすが今をときめくスーパーアイドル、菊地真!」
インタビュアー「彼の手にかかれば、どんな女性も心動かされるといっても、過言ではないでしょう!」
インタビュアー「おっとと、これは失礼。菊地真さんは女性アイドル。甘いマスクで女性の心を釘づけにしても、“彼”ではなく“彼女”でしたね」
真「はは、いいんですよ、慣れてますから」
自分のことをわかってもらえないのなら
真「今日はボクのためにこのイベントに参加していただき、本当にありがとうございます」
真「ファンのみなさんがこうやって誕生日を祝ってくださったこと、何ものにもかえがたく、本当に嬉しいです」
真「ボクも皆さんの声援に精いっぱいこたえられるよう、がんばって盛り上げていきますので、みんなで楽しんでいきましょう」
真ファン「キャア―――――――――ッ!!!」
インタビュアー「さすが王子様。ファンに対する配慮も心得ています」
インタビュアー「こういう大人気アイドルであっても謙虚にしておごらず、細かな気配りが、人気と」
インタビュアー「かっこよさの秘訣なんでしょうねえ」
それは、孤独でいるのと同じなのだ、と
今日はここまで
――765プロ近くの道
真「ふう、なんとか盛況なまま終われたな」
真「でも、あの司会の人も、あんな言い方ないよな」
真「『かっこいい』『王子様』なんて」
真「いつものことだけどさ」
真「……」
真「……いつものこと、か」
真「『ボクは女の子なのに』……この言葉も何回言ったのかな」
真「人気アイドルになっても、変わらないな」
真「ボク、ずっとこのままかな」
真「……」
真「……プロデューサー……」
真「……早く事務所に帰ろう。一人でいると気分が沈んできちゃう」
真「……」
……┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ド
真「……」
……┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ド
……ドドドドドドド
真「……?」
……ドドドドドドドド
……ドドドドドドドド
真「な、なんだ?この音、だんだん近づいてきて……」
ドドドドドドドドドド!!!
涼「ぎゃおおおおおおおおおおおおおん!!」
大勢の涼ファン(男)「まてえええええええええええええ!!」
ドドドドドドドドドドド!!!
真「!!?」
真「りょ、涼!!?」
涼「うわああああああああああああああ!!!」
涼ファンA(男)「涼―――――――――!!今日こそオレの想いを受け取ってくれえええええええ!!!」
涼ファンB(男)「ふざけるなッ!涼は誰にも渡さねえ!あいつはオレのものだ!!」
涼ファンC(男)「誰が誰のものだって?寝言は寝て言えや!涼はオレの求愛を受けるんだよ!!」
涼「待てぇ!キミたちの求愛なんて受けられるはずがないだろ――――――!!」
涼ファンたち(男)「なに!?なぜだ―――――――!!?」
涼「なぜもなにもないよ!」
涼「僕が男だからに決まってるじゃないか――――――――――!!」
涼ファンD(男)「ふ、涼、それは違うぜ」
涼ファンE(男)「オレは秋月涼という一人の人間に惚れ込んだんだ!」
涼ファンF(男)「だから、男だとか女だとか、性別なんて小さい問題だぜ!」
涼ファンG(男)「いつだって大事なのは、相手を想う気持ちだけだ!」
涼ファンH(男)「オレたちの間に、立ちはだかる障害はねえ!」
涼ファンI(男)「さあ、一緒に、幸せになろうぜ、涼――――――!!」
涼「この場合のその理屈は絶対おかしいよ―――――――――!!!」
涼ファンたち(男)「まてえええええええええええ!!」
ドドドドドドドドド!!
――そして
涼「な、なんとか、まいたけど……」
涼「はあ、はあ、まずい、もう走りすぎと仕事の後とで足が痛くて、このままじゃいずれ捕まる……」
……ドドドドドドドドド!!
涼「うわ、もう聞こえてきた!早く逃げ……」
ガシッ!グイ!
涼「え!?」
真「こっちだ、涼」
涼「ま、真さん!?」
――そして
涼「ハア、ハア、よかった、本当に助かりました、ありがとうございます」
真「どういたしまして」
涼「でも、どうしてここに?」
真「仕事の帰りだよ。これから事務所に帰るとこだったんだ」
涼「そうだったんですか」
真「はは、それにしても、あんなに大勢に追いかけられてたら、彼女にヤキモチ焼かれるんじゃないか?涼」
涼「え?彼女?」
真「最近、彼女ができたんだろう?涼には」
涼「え、ち、違いますよ!?夢子ちゃんとは!」
真「あ、やっぱりそうなのかな?そこで夢子が出てくるってことは?ボクは一言も、夢子とは言ってないよ?」
涼「え、あ、いや、それは、最近、そのことを聞いてくる人がけっこういるから……」
涼「で、でも、本当に違うんですよ!夢子ちゃんとは、本当にただの大事な友達です!」
真「ふーん、ま、そういうことにしておこうかな、フフ」
真「そうだ、765プロに寄っていかないか?これからみんながボクの誕生日パーティーをしてくれるんだ」
涼「あ、それ知ってます。あずささんからメールがきて、向かってるとこだったんです」
真「なんだ、そうだったのか!へへ、じゃあ、ちょうどよかったな」
真「ここを一緒に歩くのも久しぶりだな」
涼「そうですね、あのときはまだ僕が駆け出しのころでしたから」
真「それが今や同じ人気アイドルだもんな。先輩として、鼻が高いよ」
涼「ええ、ここまでこられたのも、真さんの指導があったからだと思います」
真「よせやい、照れるじゃないか」
涼「本当のことですから」
真「でも、この前のアレには驚いたよ」
涼「アレ?」
真「『オールドホイッスル』のことさ」
涼「ああ……」
真「まさか涼がテレビ画面に大きく映って、僕は男です!と叫ぶとはね」
涼「あ、あのときは無我夢中でしたから……はは」
涼「真さんは聞かないんですね、本当に男なのか?って」
真「……」
真「……本人がそういうんだから、そうなんだろう?それとも、やっぱり違うのか?」
涼「そんなことないです!秋月涼は、正真正銘、男です!」
真「なら、それでいいじゃないか」
涼「真さん……」
真「……なあ、涼」
涼「はい?」
真「……キミはどう思った?」
涼「なにをです?」
真「本当は男なのに、女性として扱われる気持ちは?」
涼「え?……」
真「男なのに、女性の振りをしなければならない気持ちは?」
真「自分が、男だって、世間に発表するとき……」
真「もし、認められなかったら、どうしよう、って……」
涼「それは……」
真「なあ、涼、こう考えたことはないか?」
真「もし……99%の人が、自分を理解してくれなくても……」
真「二人といらない。たった一人でいい。自分のことを理解してくれる。そんな人に出会えたなら……」
真「それだけで、人は、幸せでいられるんじゃないか、って……」
涼「真さん……」
真「……無神経な質問だったな、ごめん、答えなくてもいいよ、やっぱり」
涼「……」
涼「真さん、僕は……あなたに本当に感謝しています」
真「な、なんだ?急にあらたまって……」
涼「僕はずっと……男じゃなく、女みたいだって言われ続けてきました」
涼「だから、僕が男だって認めてもらえるように、頑張ろうって、思いました」
涼「でも、それは違う」
涼「おかしいんです」
涼「だって、僕は男なんです」
涼「逆立ちしたって女性にはなれない」
涼「でも、僕は認められないことを口実にしてしまったんです」
涼「きっと男アイドルとして売っていたら、今までの経験から成功することができなかっただろう……」
涼「だから、まずは女性アイドルとして人気になってから男性アイドルとして売り出せば、成功するはず……」
涼「……口では目指すと言っていても、心のどこかであきらめを感じていたんです」
涼「女性アイドルとして売った方が人気が出るという言葉につられて、夢を追うことをやめた」
涼「僕の夢、男としてのイケメンアイドルになって活躍すること……」
涼「本気で自分の夢を追うなら、男アイドルとしてどうやったら人気が出るかを追求すべきだったのに」
涼「たとえ、それで人気が出なかったとしても」
真「……」
涼「本当にみんなに男だって認められたいなら」
涼「髪を丸坊主にしたって良かったし」
涼「876プロをでて、男アイドルとしてデビューさせてくれるところを探して他の事務所に移籍したって良かったんです」
涼「誰もそれを非難することなんてできません」
涼「だって僕は男なんです」
涼「男がしておかしくないことを、男の僕がしてもおかしくないに決まってます」
涼「あのときの僕は、本当はそうすべきだった」
涼「でも」
涼「僕は、それができなかった。……しなかった」
真「……」
涼「僕はそれを選ばなかった」
涼「僕は男アイドルとして売れると信じきることができなかったからです」
涼「僕の心が……弱かったからです」
涼「僕が」
涼「僕自身が」
涼「もっとも僕を……『秋月涼』を」
涼「男として認めていなかったからです」
真「……」
涼「でも」
涼「876プロの仲間たち」
涼「真さんを始めとした765プロのみなさん」
涼「出会った人々」
涼「応援してくださる大勢のファン」
涼「そして―――」
夢子『……』
涼「……いろんな人が僕に勇気をくれました」
涼「夢を追う覚悟を教えてくれました」
涼「僕を男にしてくれたのは、僕を男として認めないと思っていた、すべての人達だったんです」
涼「世界の99%は闇に染まっていると思っていたのは僕自身だったんです」
涼「だから」
涼「僕に勇気をくれた真さんに……本当に、感謝しています」
真「涼……」
涼「僕にアイドルのいろはを教えてくださった時の真さんは、本当にかっこよかったです」
真「……おいおい、かっこいいなんて……!」
涼「ダメ……ですか?」
真「あんまり女性に向かって使う褒め言葉じゃないじゃないか。『かっこいい』ってさ」
涼「そんなことありませんよ。『かっこいい』って言葉は、男に対してだけの褒め言葉じゃないと思います」
涼「少なくとも真さんは僕が憧れるかっこよさを持っていました」
真「男として、か?」
涼「人として、です」
涼「アイドルとして、先輩として……自分に、仕事に、誇りをもって生きてる……」
涼「そういうかっこよさって、女性だけじゃない。男だって、魅了されるものですよ」
涼「少なくとも、僕はとても魅力的だと思います」
涼「それに……」
涼「『女性としてのかっこよさ』って、あると思います」
真「え……」
ブー!
涼「あ、メール……愛ちゃん?早く来て?あ、しまった!もうこんな時間!?」
真「え、今何時……うわ!話しすぎたな、こりゃ伊織にドヤされるかも」
涼「走りましょう!真さん!」
真「ああ!」
真「……」
真(『女性としてのかっこよさ』、か)
今日はここまで
すぐ終わると思ったのに長びきそうだ
真、誕生日おめでとう
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