黒勇者シリーズその他 (11)

適当に色々書いていきます。
短編多し。
世界観関係ある物とない物がありますが、気にしないで楽しんでもらえれば。

黒勇者はあちこちに出てくる、よくわからない奴です。



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第1話~女騎士とオーク~


女騎士「・・・うっ、どこだここは?私は死んだのか?」

女騎士は甲冑を着たまま、小川に顔を半分憑けていた。冷たい朝もやの中で、辺りにはなんの音も気配もしない。

女騎士「これ!血の味だ!」

小川を流れていたのはほとんど血だった。そしてだいぶ死臭が漂っている。

半年前に、東方から蛮族の大群が押し寄せていると聞いた。三ヶ月前に隣国が大混乱に陥り、二ヶ月前に陥落した。
そして、国を挙げて出兵し、国境の山地で隣国の敗残兵と共に蛮族を迎え撃つ事にした。

山に陣を敷き始めた頃に、何百もの巨石がうなりをあげて飛んできて、陣地は大混乱に陥った。
体勢を立て直そうと声を懸命に張り上げていたが、そこに衝撃が襲ってきた事しか覚えていない。

女騎士「くそっ!何がどうなっているんだ!みんな死んだのか?」

深い谷に落ちたから助かったらしいが、状況がわからない。
死臭は敵の物なのか、それとも?

女騎士「とにかく状況の把握だ。・・・いっ!」

立ち上がろうとすると、右半身がひどく痛む。血の混じった水溜りを覗くと、吐血と鼻血の痕があった。
ひどい顔だ。辺りをゆっくり見回すと、出兵前に教会から贈られた剣が抜き身で落ちている。

女騎士「・・・これは!ありがたい!」

女騎士の剣は柄頭の中に「聖ナントカ(名前は忘れた)」の遺骨の欠片が入っている。いわゆる聖遺物と言う奴だ。

女騎士「いけるか?」

剣を逆手に持って柄頭を天に捧げ、聖典の「快癒」の物語を心の中で暗証した。
淡い光が柄頭に満ちると、そこから手を通じて、体内に見えない温風が流れ込むように痛みが退いて行く。

女騎士「信仰も大事な物なのだな。初めて知ったぞ」

深い谷沿いに移動したほうが良さそうだ。それも、なるべく静かに。

もやには煙も混じっているらしいと気付いた。時々、むせる。
しばらく谷底を下っていると、不自然な音が聞こえてきた。

ドサッ、ドサッ・・・

女騎士「この音は・・・」

聞いた事があった。とても嫌な音だ。死体をまとめて埋葬する時などに投げ入れる時の音だ。
それが、上のほうから聞こえてきていた。

足元の小川の水かさが深くなり、死臭と言うよりは血の匂いが強くなってきた。
そして、急に目の前にそれが現れた。

女騎士「!・・・なんて事だ!・・・なんて事だ・・・っ!」

見慣れた甲冑を着た、首の無い死体の山だった。全て首が無かった。だが、女騎士の騎士団の鎧は見当たらないようだ。

女騎士(くそっ!我々は負けたのか?みんな首を刎ねられて。こんな!)

死体の山の上のほうはまだ朝もやの中だ。死体を投げ込む音や気配からすると、蛮族たちはそう多くないかもしれない。
かといって、この状況ではどうにもならない。
見つかれば、良くて数人を道連れにして殺されるのが関の山だ。

女騎士(生き延びたからには、まだできる事があるのだ!)

今までとは逆に、沢伝いになるべく高く山を上って陣地を離れ、なるべく全体を見回してみる事にした。


女騎士「そういえば・・・」

作戦のために配られた山と周辺の地図が、確か懐にあったはず。
探ると、それはあった。びしょ濡れだったが、羊皮紙なので読むことは十分にできた。

ここはかなり高い山をとりまく山の一つで、尾根伝いに隣の高い山にも移動できるし、
寂れた鉱山集落もいくつかあるようだ。
蛮族がそれを知っている可能性は低いし、知っていても足を延ばす意味はほとんど無いはずだ。

女騎士「よし!」

生き残っている仲間も居ればいいが、と思う。
希望が足を少しだけ軽くした。

登るにつれて、血の匂いや人の気配が明らかに少なくなっていく。
朝もやが濃いうちに、蛮族の気配の無いところまで上らなくてはならない。

自分が目覚めた辺りに差し掛かり、辺りをよく探すと、ザックがやや高いところに落ちている。

女騎士「これは幸先が良いかもしれん」

静かに登って回収すると、水音が気配を消すのを幸いとして、どんどん登り始めた。
もともと雨が降る天気だったのか、もやは全く晴れない。
やがてわずかに冷たい雨が降ったが、それも通り過ぎ、風が出てきた。

だいぶ長い時間歩き続け、谷間が次第に低くなった頃には、もう背の高い木々は無くなり、低木や草だけになった。
蛮族の気配などは全く感じられない。
鳥の声と水音以外は、高い山の深い静寂だけだった。

女騎士「思ったとおり、ここまでは誰も来ないよな・・・」

でも、たぶん味方も、だ。

女騎士「あれから、何がどうなってどれくらい時間が経ったのか、全くわからん」

今まで歩いた時間と地図を見比べると、目の前の丘を超えれば、硫黄の鉱山集落があるようだ。

女騎士「まずは、安心して休める場所。それからだな」

女騎士「流石に疲れたが、もう少し、と」

丘を登り終えると、黄色がかった白い岩肌や地面がむき出しのところと、低木や草が生えているところがはっきりと別れた景色になった。
その向こうに幾つかの小屋がある。人の気配は無いようだ。

女騎士「む?」

まっすぐ突っ切ろうかと思ったが、幾つかのむき出しのく窪地に、鹿や鳥、ウサギの屍骸が転がっている。

女騎士「そういえば・・・」

硫黄は毒の空気を出す山で産出されると聞いたことがある。いつも噴出す場所や、時間によって噴出す場所があり、熟知していないと命を落とすのだとか。そして、大抵はどこかに注意書きがあるとも。
おそらく登山道の近くにそれがあるはずだ。

女騎士「あれか?」

古くなった登山道沿いに、これまた古く、曝(さ)れた立て札があった。
人の居ない事を確認し、目立たぬように近づく。

立て札「10分以上立ち止まるな。風の無い時は歩くな。草のある場所を経由し、硫黄の匂いが強いところは歩くな。夜は歩かない事」

女騎士「なるほど。危なかったなぁ」

女騎士(でもこれなら、蛮族よけには最適かもしれないな。奴ら字も読めないしな)

女騎士(さて、と)

女騎士は走るルートを見極めると、控えめな呼吸をしながら硫黄地帯を走り抜け始めた。
途中で強い硫黄の臭いがした時は寒気がしたが、構わずに息を止めて走った。

女騎士「・・・くっ、はあっ、はあっ・・・ふーっ!」

最初の山小屋の陰に転がり込むと、そのまま横になって息を整えた。人の気配は全く無い。汗が噴出しても、山の冷たい風にすぐに冷やされてしまう。

女騎士(本当に、これからどうしようか・・・)

今のところ、「命拾いしているだけ」だ。

女騎士はザックを漁ると、個人的に持ち歩いている松の実を取り出した。
健康に良いのと。冷静な判断を助けるとかでいつも持ち歩いている物だ。
10粒ほど口にすると、ゆっくりと探索を始めた。

女騎士(うう、お腹減ったな・・・)

女騎士(確か、この手の集落は・・・)

確か、こういう小規模な集落は、夏の間だけ稼動する物だ。冬の間に仕込んだ保存食が何か残っているはずだ。

女騎士「おっ!」

洞穴と繋がった、保存用の小屋を見つける。干し肉や小麦、乾燥野菜がそれなりに保存されていた。

女騎士(これこれ!しかし微妙に運がいいな!)

なぜか女騎士の脳裏に「ご都合主義」という言葉が浮かんだが、気のせいだ。

焚き火はまずいから、まだしばらく探索だな。


待ってるよ

まだかー

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