晴絵「洗濯よろしくな」灼「ハルちゃん…」 (27)
玄「こども麻雀クラブ時代の赤土先生の話?」
灼「うん。聞かせてほし」
そのことについて聞かれたのは、正直いって意外だった。
灼ちゃんはあの頃の赤土先生を見たくなくて麻雀からも離れていたことを知っていたから。
灼ちゃんも大人になった、ってことなのかな? そんなこと私が言ったら怒られちゃいそうだけどね。
灼「ダメ?」
玄「ううん!話すよ!灼ちゃんのためにとっておきの話をしてあげる!」
灼「ありがと」
せっかく灼ちゃんが大人になったんだもん。私もとっておきの話で応えてあげなくちゃ!
とっておきの話とっておきの話…、あれ?
玄「ちょっと何か面白い話なかったか穏乃ちゃんたちに聞いてくるね!」
灼(別に面白い話は求めてな…)
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玄「そういうわけで相談に来たんだけど…」
穏乃「赤土先生の面白い話かー。川で遊んだ時のは?」
憧「それは晴絵よりしずや桜子が面白くなっちゃってるでしょ」
二人とも灼ちゃんのために真剣に悩んでくれてる。
私は考えてるふりをしながら二人がいいアイデアを出してくれるのを待った。
穏乃「そうだ!レジェンドっ屁大放銃事件はどう?」
憧「あ、それいいね!」
玄「レジェンドっ屁大放銃事件?」
憧「ほら、上級生と晴絵でピクニックにいった時のこと」
ピクニック?レジェンドっ屁?…あ!
玄「ありがとう。さっそく話してくる!」
憧「ああっ、ちょっと待って!」
玄「ただいまー」
灼「おかえり。随分遅かったね」
玄「ちょっと話が長引いちゃって」
あれから憧ちゃんに細かいところの確認とアドバイスをもらったんだ。だから遅くなったのは憧ちゃんのせいだね!
玄「それじゃ話すよ。私のとっておきの面白い話…、あ、違う!」
いけない!自分で面白いとか言うとハードルがあがっちゃうって憧ちゃんに言われてた。じゃあとっておきと面白いをやめて…
玄「え~、ちょいとばかばかしい話を一つ」
灼「落語?」
よし!第一関門クリア!後はオチを先に言わないことと、笑いながら話さないこと…だったかな?
まあ一生懸命話せばきっと伝わるよね。
私がんばるよ!
玄「あれは麻雀クラブの五人で山に行ったときのことなんだけど」
灼「五人?」
玄「私と穏乃ちゃんと憧ちゃんと和ちゃん、それに赤土先生。迷子になるといけないから下級生は連れてこなかったの」
玄「それでね…」
私は一生懸命話した。
お弁当を食べてる時に赤土先生がおならをしたこと。
赤土先生がそのおならを穏乃ちゃんのせいにしようとしたこと。
憧ちゃんが『しずのおならはもっとクリーミーよ!』ってかっこよく穏乃ちゃんを弁護したこと。
それもこれも全部、灼ちゃんの知らない赤土さんを知ってもらいたいからだったんだ。
玄「で、結局和ちゃんに言われちゃったんだよ」
玄「そんなオナラはありえませんって!」
灼「…」ブルブル
灼ちゃんは私の話を、小さな体を震わせながら聞いていた。
そうまでして笑いをこらえてるのかと思うと、すごく微笑ましい気持ちになったんだ。
でも、そうじゃなかった。
灼「ハルちゃんは…」
次の灼ちゃんの言葉を聞いて初めて、初めて私は灼ちゃんの気持ちがわかったんだ。
灼「ハルちゃんはおならなんかしない!」
玄「え?」
灼「私はおならをするハルちゃんなんて見たくない。もっと凛として、おならをしないところを見ていたかった!」
灼「そのおなら、ほんとは玄たちがしたんでしょ?それをよってたかってハルちゃんに罪をなすりつけて…」
玄「違うよ!なんでそんなこと言われなくちゃいけないの!」
灼「違わない!」
灼ちゃんの勢いにつられちゃったのか、私も感情的になっていた。
そして私は、すごくひどいことを言ってしまったんだ。
玄「灼ちゃんは赤土先生に夢を見すぎなんだよ!」
灼「っ!…」
灼ちゃんはわたしに言い返してはくれなかった。
私も何も言えなかった。どう謝ればいいのかよくわからなかった。
二人で長い間黙っていた。
そんなに時間は経ってないのかもしれないけど、私たちには長い間だった。
そこへ…
晴絵「おう、二人ともどうしたんだ?」
阿知賀のレジェンドがやってきた。
灼「ハルちゃん!ハルちゃんはおならなんかしないよね!」
晴絵「どうした灼、一体何があったんだ」
灼「それは…」
灼ちゃんはこれまでのことを赤土先生に話した。
すると赤土先生は、思いもよらないことを言い出した。
晴絵「そうだな。確かにあの時私はおならをしていないよ」
玄「!?」
ふざけないで。あれは先生のしたおならでしょ。なんで平気なことしてそんなことがいえるの。
灼「ハルちゃん…」
晴絵「でもな、灼。わたしだって人間なんだ。トイレに行きたくなることもあるし、おならをしてしまうこともあるよ」
晴絵「でもお前には、そういう赤土晴絵も認めた上でついてきてほしいんだ」
灼「ハルちゃん…」
やめて。いい話にしようとしないで。だれがなんと言おうとあれはあなたのおなら。あなたのおならを捻じ曲げないで。
そう思っているとどこかからから穏乃ちゃんたちの声が聞こえた。
この近くで散歩でもしているのだろうか。
穏乃「憧、ちょっと気になることがあるんだけど…」
憧「何?」
穏乃「あのおなら、本当に赤土先生がしたんだったっけ?」
憧「何言ってるの?他に考えられる人いないでしょ!」
穏乃「いや、さっきその話をちゃんと思い出そうとしたんだけどさ」
穏乃「あのおなら、玄さんがした気がするんだよ」
灼「…玄!今の話聞いた?」
あのおならを私が?
違う。そんなはずはない。わたしはかわいい玄ちゃんおならなんかしない。
灼「やっぱり玄がおならしたんだ」
違う。そんな目で見ないで。そんなおならをした人を見るような目で私を見ないで。
灼「しかもクリーミーなにおいじゃないおなら。とげとげしいおなら」
やめて。私壊れちゃう。やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて。
灼「今日から阿知賀のオナラゴンロー「やめろ灼!」
玄「赤土先生…?」
晴絵「少し灼と話をしてくる。お前はそこで待っていろ」
灼「ハルちゃん…」
晴絵「お前には本当のことを話しておこうと思ってな」
晴絵「あのおならは確かに、玄がしたものなんだ」
灼「…じゃあどうして?」
晴絵「あの時さ、玄、泣いてたんだよ」
晴絵「一人だけ上級生なのにおならをしてしまったことが恥ずかしかったんだろうな。見てられないと思った私はその罪をかぶろうと考えたんだ」
灼「でもハルちゃんは一度穏乃に…」
晴絵「大の大人がいきなりおならしましたなんて宣言したらかえって怪しまれるだろ。だから一度しずを疑ってみたんだ」
晴絵「そうしたら人に疑いをかける私が怪しいってことになる。憧や和のような頭の回転が早い子はすぐにそこまで気づくと思ったんだ」
晴絵「もっとも和は、玄がクロってことまでわかった上で私の策に乗ってくれた感じだったけどな」
灼「じゃあ穏乃が真相を知っていたのは…」
晴絵「きっと、和に聞いたんだろうな」
灼「それでも私、ハルちゃんの名誉が汚されるのは…」
晴絵「おいおい、お前はこの阿知賀のレジェンドの名誉がたかがおならごときでかき消されると思ってるのか?」
灼「それは…」
晴絵「それにおならなんて誰だってしてしまうものだ。お前もわたしも、あの小鍛治健夜だってしてしまうものだ。私はあの小鍛治プロのおならのせいで牌を握れなくなったんだぞ」
晴絵「ほんとは、恥ずかしがるほうがおかしいんだよ」
晴絵「わたしはな、ただひとつのおならで壊れるようなものなんて信じられないんだ」
晴絵「だから玄が安心しておならができるような部活を作ろうと、今までがんばってきたはず、だったんだがな」
灼「ハルちゃん…」
晴絵「確かにお前らはスカートの下にパンツをはいていない。だからおならの被害は普通の人よりひどいことになっている」
晴絵「しずに至っては、下に何も着てはいないしな」
晴絵「それでもお前らには、安心しておならができる仲間であってほしい」
晴絵「頼めるか、部長?」
灼「う、うん」
ブッ!
晴絵「今のは…」
灼(どうしよう…、ハルちゃんの目の前でおならしちゃった)
灼(やっぱり私もおならは恥ずかしい…)
ブッ!
灼「え?ハルちゃん今…」
晴絵「これでおそろいだな」
灼「ハルちゃん!!」
玄「…」
赤土先生と灼ちゃんの話は全部聞こえていた。
私は、自分がおならをしたのが恥ずかしくて自分の記憶に嘘をついていたんだ。
赤土先生の思いを知った今ではそのことが何より、恥ずかしい。
玄「私、謝らなきゃ!」
そうだ。おならが出るのはよくあることで、私は慣れてるはずだったんだ。
前に向かうために、一旦謝ろう!
晴絵「引き受けてくれるか?」
灼「うん。がんばる」
晴絵「ありがとう。そんなお前にもうひとつ頼みたいことがあるんだ」
灼「ハルちゃん、なんでズボン脱ごうとしてるの!?まさか私とそういう関係に…」
晴絵「いや、さっきおならした時力み過ぎちゃってさ」
晴絵「その、大きい方も出てしまったんだ」
灼「え?」
晴絵「洗濯よろしくな」
灼「ハルちゃん…」
カン!
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