【咲-Saki-】絹恵「あなたの背中に憧れて」 (52)

愛宕姉妹メインのSSです。


絹ちゃんが姫松高校に入った理由、かっこい主将が書きたかったのです。


最後まで読んでいただけたら幸いです。

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4月・姫松高校周辺


漫「はぁ…今日も部活疲れたわー」


絹恵「ほんまやねぇ、県大会も近いから練習時間も増えとるし…」


漫「あーもうダメや…絹ちゃん、なんか食べていかへん?」


絹恵「お腹空いたん? ええよ、付き合ったるわ」


漫「やった! ほんなら最近駅前にできたお好み行こうや」


絹恵「ええで! ほな行こか」

お好み焼き屋さん・店内


漫「おばちゃん、ぶた玉ミックスお願いします」


絹恵「私はシーフードでええかな」


漫「絹ちゃんシーフード好きやなぁ?」


絹恵「そやな、私あんまり好き嫌いないねんな」


漫「そうなんや! それは羨ましいかも…」


絹恵「上重さん、嫌いな食べもの何なん?」


漫「うーん、私は辛いものがあんま得意やないかも…」


絹恵「そうなんや? あ、お好み来たで」

漫「なぁなぁ絹ちゃん」


絹恵「なんや?上重さん」


漫「絹ちゃんって、中学の時はサッカーやっとったんやろ?」


絹恵「せやな、一応キーパーやっとったで!」


漫「そうなんや。 前々からずっと気になったんやけど」


絹恵「ん?気になってたて?」


漫「なんで高校で麻雀始めたん?主将から聞いたんやけど、サッカーで推薦も貰っとったんやろ?」


絹恵「あぁそれな。話すと長くなるんやけど…」


漫「かまへんよ、話聞きたいわ」


絹恵「わかったわ。…あれは私がまだ小学生の時の話やったかな」

ー10年前ー


洋榎『絹ー! 麻雀クラブ行くでー!』


絹恵『お姉ちゃん待ってやー』


洋榎『グズグズすんなや! はよはよー!』


絹恵『待ってってー!』


小学生の頃、お姉ちゃんと私はオカンの知り合いの人がやってた麻雀クラブに通ってたんや。


洋榎『こんちわー! ひろえ様が来たったでー!』


セーラ『うっさいのが来たなー!』


洋榎『おっ、セーラちゃんやんけ』


セーラ『ちゃん付けすんなや!ひろポン!』


洋榎『あほ!ポン付けんなや!』

セーラ『おっ、今日は絹恵もおるやんけ!』


絹恵『こ、こんにちは…』


セーラ『絹恵はおとなしくて可愛えぇなぁー! 姉ちゃんみたいになったらアカンで?』


洋榎『やかましいわ! うちは元気なだけや!』


セーラ『元気通り越してうっさいねん! 少しは女の子らしくせんかい』


洋榎『お前が言うなや! 男子みたいなカッコばっかしよって!』


今は千里山のエースとして有名なセーラさんも、実は同じ麻雀クラブに入っとってな。


二人は似たもの同士っちゅーか、会えばしょっちゅう喧嘩ばっかしとったんや。

セーラ『あーやかまし! ほんなら麻雀でケリつけようや!?』


洋榎『やったるわ! ほれ、絹も卓に入りー!』


絹恵『えっ!? わ、私も二人と同んなじ卓に入るん…』


セーラ『三麻でええやろ? 絹恵も一緒に打とうや!』


洋榎『望むところや! さっさと始めるで!』


絹恵『え…えぇー…』


セーラ『安心しーや、絹恵はなるべく狙わんようにしたるから!』


洋榎『あほ! ウチの妹を甘やかせんでもらえますかー!?』


セーラ『や・さ・し・さ、や!』


絹恵『うぅ…』

洋榎『結果はウチがトップやったな! わっはっはっ!』ドヤァ


セーラ『むかつくわーっ!!』


絹恵『私だけ焼き鳥…』グスン


お姉ちゃんはそのクラブの中でも戦績は常にトップやった。


唯一お姉ちゃんと戦えるのがセーラさんで、私なんか足元にも及ばなかったんや。


洋榎『絹ももうちょい頑張り? センスはええんやから』


絹恵『せやかて…お姉ちゃんもセーラさんも強すぎやねんー』グスン


セーラ『あー!また洋榎が泣かせよったー!』


洋榎『うっさいわ! 絹、なにも泣くことないやろが…』


私は小学生のころ、しょっちゅう泣いてた記憶があってな。


麻雀に負けたから…それよりも自分の弱さ、お姉ちゃんの期待に応えられへんかった悔しさのせいでよう泣いとったわ。

それから数日後、大阪府開催のジュニア選手権があってな。


うちのクラブも団体戦でエントリーしとって、お姉ちゃんとセーラさんはもちろんレギュラーやった。


私はというと…メンバーに選ばれるはずもなく、オカンたちと観客席で応援しとったわ。


その時初めてな、お姉ちゃんが麻雀を打ってる姿を後ろから見たんや。


小学生の時から私の方が背も大きかったし、普段のお姉ちゃんの背中は細くてちっさいなーって印象やった。


せやけど…その時のお姉ちゃんの背中は、もの凄く大きく、勇ましく見えたんや。


絶対に相手に勝つ自信、クラブのトップとしての意地、一緒に戦う仲間への想い…


その背中はほんまに格好よかった…私もいつかお姉ちゃんみたいになりたい、そう思った。


だけど…お姉ちゃんとの大きな力の差に、私には一生無理かもしれへん…そうも思ってしまったんや。


結局その大会の団体戦で私らのチームは優勝し、お姉ちゃんは個人戦でも優勝したんや。

漫「へぇー! 千里山の江口さんと同じクラブやったんやね!」


絹恵「せやねん、セーラさんには昔からお世話になっとって…もう一人のお姉ちゃんみたいな感じやったかな」


漫「えー? 江口さんはどっちかっちゅーと”お兄ちゃん”やないの?」


絹恵「ははは、言われてみたらそうかも。 当時もボーイッシュな格好しとったし」


漫「やっぱりか! …ほんで、絹ちゃんがサッカー始めたんはその後から?」


絹恵「そうやなぁ…ジュニア大会のすぐ後やったかな? 友達に誘われて始めたんやで」


漫「へぇー、主将はサッカーやるのに反対せんかったの?」


絹恵「うーん…まぁ最初は反対された?かな…」

洋榎『絹ぅ! 麻雀クラブやめてサッカー始めるってほんまか!?』


絹恵『う、うん…友達が誘ってくれてな。やってみようか、って…』


洋榎『せやったんかー…麻雀やりながらサッカーは出来へんの?』


絹恵『うーん…どうやろね』


洋榎『あーあ! 絹がおらんかったら麻雀クラブ行ってもつまらんやん』


正直お姉ちゃんが何言うてるんか分からなかった。


麻雀クラブでは一番強くて、周りに友達も沢山おって、下の子の面倒見も良くって…


私が麻雀クラブ辞めたって、お姉ちゃんはつまらんワケないやん!


絹恵『…別に私がクラブ辞めたって…ないやろ』


洋榎『え…? 絹、今なんて…』

絹恵『…私がクラブ辞めたって!お姉ちゃんには関係ないやろ!』


洋榎『ちょっ…絹』


絹恵『お姉ちゃんは麻雀強くて、クラブ内でも友達たくさんおるやんか! 私ひとりいなくなったって関係ないやろ!?』


絹恵『私は…麻雀ぜんぜん強くならへんし、最近はクラブ行くのも嫌になってきてん…!』


絹恵『それに…お姉ちゃんも嫌やろ? 自分の妹が麻雀弱い子なんて…一緒におって恥ずかしいやろ!?』


スパァン!!


絹恵『…えっ』


洋榎『このアホンダラ! ずっと…ずっとそんな事思っとったんか!?』


絹恵『…うっ…ひぐっ…うっ…』


洋榎『おぅコラ!何泣いとんねん!? 絹が麻雀弱い?一緒におって恥ずかしい? ウチがそんなこと一回でも言うたか!? あぁ!?」


絹恵『うっ…うっ…うわぁぁぁぁん!!』ポロポロ


洋榎『そうやってすぐに泣きよって…! ウチは泣き虫が嫌いや!大っ嫌いや!』ドンッ


絹恵『うわぁぁぁぁーん!!」


洋榎『もうえぇわ…勝手にせえ』

お姉ちゃんにあそこまで怒られたのは初めてやったかもしれへん。


その日は寝る前までお姉ちゃんに謝るタイミングがなくて、それまでは一度も口を効かんかった。


絹恵『…お姉ちゃん?』


洋榎『………』


絹恵『お姉ちゃん起きてる?』


洋榎『…寝とるわ』


絹恵『起きとるやん… あんな、今日のことな…』


洋榎『…もうええよ。もう怒ってへんから』


絹恵『…ごめんなさい。 本当にごめんなさい』グスッ


洋榎『…泣かんでええやん」


絹恵『お姉ちゃん…』


洋榎『…なんや?』

絹恵『一緒に…上で一緒に寝てもええかな…?』


洋榎『えー…ったくしゃあないなー、今日だけやからな?』


絹恵『ありがとう、お姉ちゃん』


洋榎『…やっぱ狭いわ』ギュウ


絹恵『ご、ごめん…』ギュウ


洋榎『明日も早いんやから…もう寝るで』


絹恵『うん…』


二段ベッドで一緒に寝るなんて、もの凄く久しぶりやった。


毎日一緒におるけど、こんなに近くにお姉ちゃんを感じる事はそうそうあらへん。


狭いベッドの中で、お姉ちゃんは私に背中を向けるようにして眠っとった。


降ろした長い髪、そしていつもと変わらない小さくて華奢な背中…


その背中を見て、私はホッとしたような、嬉しいような、そんな気持ちになったんや。

洋榎『きぬー…起きとるか?』


絹恵『うん…?』


洋榎『あのな、その…ウチも悪かったわ。 ビンタしてもうて…」


絹恵『全然ええよ…あれは私が悪かったんやから』


洋榎『うん…まぁ、あれや。 サッカー頑張るんやで?』


絹恵『…ありがとう、お姉ちゃん』


洋榎『ウチも麻雀頑張るから、絹もな』


絹恵『うん…』

漫「ひょえー…主将は怒ったらこわそうやな」


絹恵「普段から口悪いし、ガサツやけど…怒ったりとかは全然しないんやで?」


漫「そっかぁー。 その後はずっとサッカーやろ? いつまで続けてたん?」


絹恵「サッカーは中3の夏まで、最後の大会まで続けとったよ」


漫「ほぅ、じゃあ麻雀をまた始めよう思うたんはその後やな?」


絹恵「せやね。引退してから、お姉ちゃんの応援しにオトンと東京に行ったんや」

ー絹恵が中3・洋榎が高1の夏ー


お姉ちゃんの試合を生で観るのは、あの日の大会以来やった。


洋榎『おっ! 絹も来てくれたんか!珍しいなぁ』


絹恵『うん、今日は応援しとるで!お姉ちゃん!』


洋榎『まかせとき! 姫松の愛宕 洋榎の実力を見せつけたるわ!』


絹恵『ははは、相変わらずの強気発言やなぁー』


洋榎『ウチは全試合、負けるなんて一度も思った事はないんやで! せやから…


部員『ひーろーえーっ! 早う対局室に入らんと失格になるでー!』


洋榎『わーっとるがな! ほな、行ってくるわ!』


絹恵『がんばって!お姉ちゃん!』

洋榎『ロン。12000や!』


姫松高校の先鋒として戦うお姉ちゃんの姿を見て、私はただただ驚くしかなかった。


対戦相手の人たちは、全員が上級生、しかもそれぞれがエース選手やった。


そんな人たちを前にしても、お姉ちゃんは全く怯むことなく和了り続け、どんどん点差を拡げていった。


観客席の大画面に映るお姉ちゃんの背中は…やっぱり格好よかった。


あの時と同じ…いや、あの時以上に”大きな何か”を、その小さな背中に背負っていたに違いないわ。


あの日あの時、なんで私は麻雀を辞めてしまったんやろ。


麻雀を続けていたら、あの大きな背中を…大好きなお姉ちゃんの背中を、もっと近くで見てこれたハズやのに。


その時の私に、迷いはなかった。


”もう一度麻雀がしたい! お姉ちゃんと一緒に麻雀がしたい!”

インターハイが終わって数日後、私はお姉ちゃんに想いを伝えた。


洋榎『なんや絹、あらたまって大事な話ゆうんは…』


絹恵『あぁ、えーと…その…』


洋榎『ん? なんやハッキリ言わんかい』


絹恵『わ、私な…姫松高校に入ろう思ってて』


洋榎『そ…そーか、姫松はええ学校やで!学食も安いし美味いし!』


洋榎『うちの学校、サッカーもなかなか強いみたいやからな! そこなら絹も…


絹恵『お姉ちゃん、ちゃうねん』


洋榎『…は? 何がちゃうねんな?』


絹恵『私…麻雀がやりたいねん! またお姉ちゃんと一緒に麻雀が!』


洋榎『そ、そうなん!? だって絹、サッカーは…


絹恵『サッカーも好きや…せやけどインハイで戦うお姉ちゃんを見て、また私も麻雀がしたくなって!』


洋榎『…ほーか。 なぁ絹、明日少し時間あるか?』


絹恵『明日? 明日は特に予定とかないけど…』


洋榎『明日、ちょっと付き合ってくれや。要件はその場で話すから』


絹恵『う、うん…ええけど』

翌日・とある雀荘


洋榎『こんちはーっ! もう二人来とるかな?』


店員『おー洋榎ちゃん! あっちで二人待っとるよ!』


絹恵『お姉ちゃんここって…』


洋榎『雀荘や。せやけど金を賭けたりすんのは禁止、まぁ純粋に麻雀を楽しむ場所やな』


洋榎『…着いたで、絹』


絹恵『ここは…個室の対局室?』


洋榎『こん中にウチの友達、姫松の麻雀部員が待っとる』


絹恵『え? えっ!まさか!!』


洋榎『そのまさかやで』ガチャ

洋榎『おーっす! 二人とも待たせてすまんなー』


恭子『遅いわー! 自分から言い出しといて遅刻すなや』


由子『まったくなのよー…って、洋榎その子はー?』


洋榎『あぁ、ウチの妹の絹恵や! 絹、二人に自己紹介しーや』


絹恵『あ、うん。 洋榎の妹の絹恵と言います。いつも姉が大変お世話になっております』


恭子『この子が洋榎の妹さんか! 私は末原 恭子や。よろしくな』


由子『かわえぇ子やねー。私は真瀬 由子やで、よろしくねー』


洋榎『よっしゃ! 自己紹介も済んだし、早速四人で打つとしようや」


恭子・由子『えっ!?』


絹恵(お姉ちゃん…いったい何を企んどるんや…)

洋榎『ロンや! 8000!』


恭子『ツモ! 3000・6000!』


由子『ロン!一発18000よー』


絹恵『……っ』


洋榎『…絹、さっきから一度も和了れてないやんけ』


絹恵『はは、三人とも強過ぎて…私はダメダメやなぁ』


洋榎『…ようそんなんで姫松に入りたいって言えたもんやなぁ』


絹恵『…!!』


洋榎『またウチと一緒に麻雀がしたい? 笑わせるわ!そんな実力やったら二軍にも入られへんで!』


恭子『ちょっと洋榎、一体なんの話を…』


絹恵『…うぐっ…グスッ』ポロポロ

洋榎『まーたすぐに泣きよって…それでもウチの妹かいな』


由子『絹恵ちゃん、大丈夫? ハンカチ貸そかー?』


絹恵『グスッ…す、んません…大丈夫…うっ…です』ガタッ


絹恵『末原さん、真瀬さん…私もう…帰ります』ガチャ


洋榎『逃げるんやな? また昔みたいに…』


絹恵『……』バタン

漫「あの夏のインハイ、私も見とったで。 当時の主将は先鋒で稼ぎ頭やったよね」


絹恵「そうやったみたいね」


漫「うーん…それにしても主将ひどくない!? せっかく絹ちゃんが麻雀やろう思っとったのに」


絹恵「あぁそれな、お姉ちゃんほんまに意地悪やなーって思うたで」


漫「ひどいわー…末原先輩と由子先輩の前でそんな事言うなんて」


絹恵「上重さん」


漫「ん?なんや?」


絹恵「実はこの話にはね、裏があったんやで」

結局私はまた逃げてしまったんやな。麻雀から…お姉ちゃんから。


それから数日間、お姉ちゃんとはロクに話もせんかった。


そんなある時な、街中で偶然にも末原先輩に会うたんや。


恭子『きーぬちゃん!』ポンッ


絹恵『…! 末原さん!』


恭子『よっ! なんや買い物か?』


絹恵『お久しぶりです、そんな所ですね』


恭子『そっか。 いやー今日もあっついなー…あ、そこのカフェでお茶してかへん?』


絹恵『ええですよ、外暑いですし…入りましょうか』

カフェ店内


絹恵『この間は、その…すいませんでした!』


恭子『このあいだ…? あぁー、全然気にしてへんよ!』


絹恵『はぁ…それなら良かったです』


恭子『うん。 絹ちゃんは…姫松高校に入りたいんやろ?』


絹恵『はい。でもこの間の試合で、けっこうメゲてもうて…』


恭子『私が入ったらお姉ちゃんに恥かかせてしまう、とか思っとるんやない?』


絹恵『…! どうしてそれを…』


恭子『洋榎から聞いたんや。昔の話とか色々とな』


絹恵『…そやったんですか

恭子『なぁ絹ちゃん?』


絹恵『はい、なんでしょう?』


恭子『洋榎な、いっつも私らに絹ちゃんの話してくんねんで?』


絹恵『え…?』


恭子『サッカーで活躍してる話とか、よく気が利いてしっかり者やとか』


恭子『ちっさい頃は一緒に麻雀やっとったとか、泣き虫やとか…』


絹恵『…泣き虫やないです』


恭子『ははは、泣きたい時は泣いたってええねん。人間なんなから』


恭子『ほんでな、いっつも洋榎はこう言っとった』


絹恵『…なんて?』

恭子『絹とまた一緒に麻雀がしたい、この台詞…もう何回聞いたかわからんで』


絹恵『……!!』


恭子『きっと洋榎は嬉しかったんやろ、絹ちゃんがまた麻雀したい言うてくれて』


絹恵『…せやけど、なんでこの間みたいな事を」


恭子『あれな…あのあと洋榎に聞いたんよ。そしたらこう言っとった』


”絹は一度麻雀を諦めた。姫松は部員数も多いし、あいつがレギュラーになれる保証は何処にもないやろ”


”絹がまた勝手に、ウチの顔色を気にして麻雀を諦めるなら…もう一緒に麻雀する事はないかもしれん”


”あんだけウチに酷いこと言われて、それでもほんまに姫松で麻雀やりたい言うなら、絹の気持ちは本物や”


”ウチもほんまはな、絹と一緒に麻雀がしたいねん。あいつがいくら弱くたって、恥ずかしいとか嫌やとか全く思わんよ”


”ウチにとって絹は、たった一人の大事な妹なんやから”

恭子『あんたの所のお姉ちゃん、ありゃ相当不器用やで?』


絹恵『…そうかも…うっ…しれへんです…ね』ポロポロ


恭子『ははは、絹ちゃんは泣き虫やなー』


絹恵『うっ…すびません。 あのっ!末原さん!』


恭子『ん? なんや?』


絹恵『わたし…もっと強くなりたいです! もっと麻雀で勝ちたい!』


恭子『…よう言ったな、絹ちゃん。その言葉を待っとったで』ポン


絹恵『……!!」

恭子『絹ちゃんはどんなプレイスタイルを目指してるんや?』


絹恵『そりゃあ、お姉ちゃんみたいな攻撃型プレイヤーに…』


恭子『ははは、そりゃ無理やな!』


絹恵『えっ!? なんでですの!?』


恭子『ええか、絹ちゃん。この世には天才と凡人…二種類の人間しかおらんのや』


絹恵『はぁ…』


恭子『麻雀において、洋榎は間違いなく天才や。絹ちゃんはどっちや?天才か、凡人か』


絹恵『凡人、でしょうか』


恭子『せやな、絹ちゃんも私と同んなじ凡人や』


絹恵『いやいや!末原さんだってあんなに強かったやないですか?』

恭子『おおきに、でも私は紛れもない凡人や。麻雀においてはな』


絹恵『はぁ…』


恭子『そんな凡人が天才に勝つには方法は一つしかあらへん』


絹恵『その方法とは…?』


恭子『”考えること”や。そして相手をよく”見ること”やな』


絹恵『”考えること”と”見ること”…ですか』


恭子『せやで。とくに絹ちゃんにやってみて欲しいのは”見ること”や』


恭子『河の状況は常に見ること、相手の表情や目の動き、相手の癖や仕草なんかも大事やな』


絹恵『末原さんはそんな細かな所まで見てはるんですか?」

恭子『まぁね。凡人の私が天才に勝つには、この方法しかないねんな』


絹恵『なるほど』


恭子『それに、絹ちゃんはサッカーでキーパーやっとったんやろ?』


絹恵『えぇ、一応はスタメンでやらせて貰ってましたけど』


恭子『私はサッカーの事はよう分からんけど、キーパーの時はボールだけやなくて、味方の動きも敵の動きもよう見とったんやないの?』


絹恵『…たしかに』


恭子『せやろ? ほんなら麻雀でも同じようにしたらええねん』


絹恵『ありがとうございます。私、やってみます!』

恭子『…もうこんな時間か。 そろそろ出ようか?』


絹恵『そうですね。そうしましょうか』


店の外


絹恵『末原さん、今日はほんまに色々とありがとうございました!』


恭子『ええよええよ、後は絹ちゃんが頑張るだけやで?』ニコ


絹恵『はい!』


恭子『ほなまた、何か掴めたら勝負しような』


絹恵『ありがとうございました!』


私は末原先輩の姿が見えなくなるまで、その背中をずっと見ていた。


お姉ちゃんにもよく似た小さな背中、せやけど頼もしくてかっこいい背中…


姫松に入りたい、あの人からもっと沢山の事を学びたい…そう思ったんや。

漫「主将も末原先輩も…かっこよすぎやで!」


絹恵「せやなぁ、末原先輩には特にお世話になりっぱなしで…」


漫「そういや確かに、対局中に絹ちゃんと目が合うこと多いわ」


絹恵「上重さん、爆発すると止められへんし、発火する前に止めなアカンから…」


漫「なんか私…危険人物みたいになっとるやん」


絹恵「あっ、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃ…」


漫「ははは! ええって、ほんでこの後に主将達と再戦するわけやな?」



絹恵「せやな」

末原先輩にアドバイスを貰ってから、私は毎日ネトマをしたり雀荘に通って麻雀を打った。


何かの役に立つかも、そう思って心理学に関する本も沢山読んで勉強したんや。


そしてついに、私のプレイスタイルが完成した。


絹恵『お姉ちゃん』


洋榎『なんや?絹』


絹恵『今度の週末、私と麻雀で戦ってくれへん?』


洋榎『…ええよ。 次また泣いて逃げたりしたら、しばき倒すで?』


絹恵『もう逃げへんよ、絶対に逃げへん!』


私はお姉ちゃんに再戦を申し込んだ。決戦は次の週末、今度こそお姉ちゃんに勝つんや!

週末・洋榎の部屋


洋榎『面子も揃ったし、さっそく始めよか』


由子『よろしくなのよー』


恭子『よろしくお願いします』


絹恵『よろしくお願いします!』


相手は全員上級生、そして名門・姫松高校の麻雀部員…。


たしかに相手は強いかもしれへん、せやけど私は私の戦い方で勝ってみせる。


”考えること”をやめない限り、私は負けへん。 五感を研ぎ澄まし、感覚に頼らず、相手の動きを常にマークするんや…!

洋榎『終わりやな』パタッ


恭子『トップは洋榎、次いで1000点差で絹ちゃんか…』


由子『絹ちゃん凄く強くなったねー! 私なんか全然和了れなかったのよー』


絹恵『いえいえ! そんな…私なんてまだまだですよ!』


恭子『絹ちゃん、そこは自信持ってええんちゃうかな?』ニコ


絹恵『末原さん…』


恭子『洋榎もどうや? 絹ちゃん随分と強うなったと思わんか?』


洋榎『ま、まぁな! せやけどまだまだや! ウチを倒せるくらいにならんとな…!』


絹恵『お姉ちゃん…!』


恭子『ほんと、素直やないんやから…』

その日の夜・洋榎の部屋の前


絹恵『……』コンコン


洋榎『もう寝とるでー…』


絹恵『起きとるやん…』ガチャ


洋榎『なんや絹…明日も遠征やから早く寝たいんやけど…』


絹恵『…一緒に寝てええかな?』


洋榎『…今日だけやからな』


絹恵『ありがとう、お姉ちゃん』


洋榎『…せまい、特に背中のあたりに圧迫感が…』


絹恵『ご、ごめん!』

洋榎『…こうやって一緒に寝るのも久しぶりやな』


絹恵『うん』


洋榎『最後は確か…すまん、忘れてもうたわ』


絹恵『えー?』


洋榎『なぁ絹…ウチな…」


絹恵『なんや?お姉ちゃん』


洋榎『…なんでもない、おやすみ』


絹恵『……』

絹恵『…ありがとう、お姉ちゃん』


洋榎『……』


絹恵『私な、姫松入ったら麻雀頑張るで…』


洋榎『……』


絹恵『ほんでな、レギュラーになって…お姉ちゃんと全国に行くんや』


洋榎『……』


絹恵『お姉ちゃんの背中、私な…めっちゃ好きやねん』


洋榎『……』


絹恵『もしもな、お姉ちゃんが負けそうになった時は…私が背中を支えてあげるで』


洋榎『…!!』

絹恵『……』


洋榎『絹…寝たんか?』


絹恵『……』


洋榎『なぁ…絹、もう十分…背中支えられてるで』


洋榎『お姉ちゃんな、絹とまた麻雀が出来てホンマに嬉しいんや…」


洋榎『絹のこと、弱いとか言うやつがおったら、お姉ちゃんがシバいたるから…』


洋榎『姫松には強い先輩もたくさんおる…お姉ちゃんもおるし、恭子も由子もおる』


洋榎『せやから…待っとるで、絹が姫松に入ってくるのを。お姉ちゃん楽しみに待っとるからな…』

その時の私は、溢れ出る涙をこらえるのに必死やった。


お姉ちゃんの言葉が、優しさが、嬉しくて嬉しくて大泣きしそうやった。


目の前の、小さく華奢な背中…私の大好きなお姉ちゃんの背中。


お姉ちゃん、私がこの背中を守ったるからな。


私、もっともっと強くなるで。 お姉ちゃんと一緒に戦えるように。


私たち姉妹で、姫松高校で、目指すは全国優勝や!!

漫「…アカン、泣いてしまいそうや」


絹恵「なんか恥ずかしいわ…こうやって昔話を話すんは」


漫「絹ちゃんは、サッカーやめて後悔はしてへんの?」


絹恵「ぜーんぜん! 姫松に入って、麻雀が出来て幸せやで」


漫「そっか! 絹ちゃん、県大会がんばろな!」


絹恵「もちろん! 勝ってみんなで全国に行くんやからな」

洋榎「こんちわー…って絹と漫がおるやんか!」


絹恵・漫「お姉ちゃん!?」


洋榎「漫がお姉ちゃん言うのおかしいやろ! 珍しい組み合わせやな」


恭子「ちょっと洋榎、早う店ん中入れやー!」


由子「入口で止まらないで欲しいのよー!」


漫「末原先輩に由子先輩もおるね」


絹恵「お姉ちゃん達も寄り道?」


洋榎「そんなところやな。せっかくやから皆で食べようや」

恭子「漫ちゃんと絹ちゃんが一緒におるなんて珍しいな。二人で何話とったんや?」


漫「えーっと…内緒です!」


由子「お腹空いたのよー…」


洋榎「アカン! 財布ん中に全然お金入っとらんわ!」


絹恵「お姉ちゃん、私多めに持っとるから大丈夫やで!」


恭子「内緒ってなんやねん! デコ油性されたいんか!?」


漫「ひっ!? 末原先輩そりゃないですよー!」


由子「おばちゃん、私スペシャルミックスでー!」


洋榎「なんや騒がしい連中やなー!もうちょい静かに…」


絹恵「ええやんか、お姉ちゃん。私達らしくて!」


洋榎「せやな! よーし、絹の奢りやから一番高いのを…」


絹恵「ちょっとは遠慮してや!?」

帰り道


洋榎「はー…食べた食べたー」


絹恵「お姉ちゃん…食べ過ぎやで?晩ごはん入らなくなるよ?」


洋榎「大丈夫や、もうちょいしたらお腹空いてくるやろ…」


絹恵「なんやそれ!」


洋榎「はー…」


絹恵「……」


洋榎「……」


絹恵「…お姉ちゃん」


洋榎「ん?なんや?」

絹恵「県大会…頑張ろね!」


洋榎「…なに言うとんねん、絹」


絹恵「え?」


洋榎「ウチらが目指すんは全国制覇や! 夢はでっかく持つんやで!」


絹恵「さすがお姉ちゃん!」


洋榎「ウチは中堅、絹は副将や。ウチの後は頼むで、絹ぅ!」


絹恵「まかせとき! お姉ちゃん!」


洋榎「よーし! あの夕陽に向かってダッシュや! ついてこーい!」


絹恵「ちょっ!お姉ちゃん!? そっち方向逆やでー!?」


夕陽に染まる街を、目の前を走る小さな背中を私はずっと追いかけた。



おかんとの会話読みてえ

>>48

ありがとうございます。


>>49


ありがとうございます。今度はオカンも入れたSS書いてみたいですね。

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