貴音「小野式製麺機」 (39)
・アイマス
小野式製麺機を回す
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やよい「おいしかったですー」
響「めっちゃうまかったな!」
貴音「四条貴音のラーメン探訪、今週も素晴らしい出会いがありました。来週もまた次の出会いを求めて……」
貴音(果たして、このままでよいのでしょうか……)
やよい「煮豚がどどーんってなってましたね!」
響「野菜もばばーんってなってたな!」
響「けど、もやし祭のもやしの方がうまかったぞ」
やよい「ありがとうございます、響さん」
やよい「でもでも、スープと麺のバランスを考えるとやっぱりこの味が合ってますよ」
響「なるほど、そうだな!」
やよい「おいしかったから完食しちゃいましたけど……」
響「うん、スープは残した方がよかったかもな」
貴音(やよいと響の言うとおりです。これはあくまでも『ハレ』の味……)
貴音(日々を健康に過ごすための食事とは異なります)
貴音(わたくしとしては毎日でも食べたいのですが、おそらく体調を維持するのは難しいでしょう)
貴音(プロデューサーには伝えられませんが、また胸と尻に肉がついてしまったようです)
貴音(鍛錬を怠ってはいないので腹周りは変わりませんが……)
貴音(毎日食べることで生命の糧となるようならぁめん)
貴音(どうにかして「ケ」の味をもったらぁめんに巡り逢いたいものです)
貴音(わたくし自身が調理するのも一つの手段やもしれません)
貴音(以前、すぅぷは作ることができました。しかし、麺は……)
貴音(水分を多くすれば、らぁめん独特のコシを出すことはかなわず)
貴音(逆に少なくすれば、麺棒で延ばすことがかないませんでした)
貴音(やっとの思いでできた麺は不揃いで、ゆで上げた後は非常に悲しい気持ちになりました)
貴音(そして麺の味はらぁめんではなくうどん……)
響「……音」
貴音(やはりラーメン探訪に期待を寄せるしかないのでしょうか)
響「貴音!」
貴音「いかがなされましたか、響?」
響「いかがなされましたかじゃないぞ。何度呼んでも上の空なんだから」
貴音「ふふっ、申し訳ありません。少し考え事をしておりました」
響「もう! しっかりしてほしいぞ」
やよい「貴音さんはどうですか?」
貴音「はて? 何がでしょうか」
やよい「今日は日曜日恒例の『麺祭』をするんです」
やよい「響さんは用事があって来れないんですけど、貴音さんはどうかなぁーって」
響「うがー、この後は動物たちの定期検診なんだぞ」
ハム蔵「ぢゅい」
やよい「また来てくださいね!」
響「うん! 次は絶対行くぞ」
やよい「それで、貴音さんはどうですか?」
貴音「折角ですので、ご相伴預かります」
貴音「ハム蔵、響を頼みますよ?」
ハム蔵「ぢゅい!」
響「違うぞ貴音! 動物たち『の』定期健診!」
響「動物たち『と』じゃないぞ……」
貴音「ふふっ。じょおくですよ、響」
やよい「響さん、家族をお大事にしてください!」
響「ありがとう、やよい」
響「そろそろ行くね! バイバイ」
貴音「では、お気をつけて」
やよい「私たちも行きましょうか」
貴音「えぇ」
貴音「直接家に向かいますか?」
やよい「材料を買いにスーパーに寄ります」
やよい「荷物が多くなっちゃいますけど、手伝って貰えますか?」
貴音「無論です。馳走になるのですから労は惜しみませんよ」
やよい「ありがとうございますー!」
――スーパー
店主「おっ、やよいちゃん。いつも大変だね」
やよい「えへへ、そんなことないですよ」
店主「有名になっても贔屓にしてくれて、おじさんうれしいよ」
やよい「こちらこそお世話になってます。今後もよろしくお願いしますね」
貴音(このように気取らない所もやよいの魅力なのでしょうね)
やよい「えぇと、ささみを1kgと豚バラを1kgください」
店主「よっしゃ毎度あり。今日はりんごを一つオマケしとくよ」
やよい「うわぁ、ありがとうございますー」
店主「そういや隣の子は?」
やよい「四条貴音さんです。今日は夕飯を一緒にたべるんですよ」
貴音「四条貴音と申します」
店主「はぁ、テレビで見るよりも別嬪さんだねぇ」
貴音「ありがとうございます」
やよい「そうだ。貴音さんが参加するから、豚バラを後1kgお願いします―」
店主「……『銀髪の大喰い王女』は本当だったんかい?」
やよい「あっ、すみません。そうじゃなくて、うぅ……」
貴音「ふふっ、よいのですよ、やよい」
貴音「わたくし、食は人生の一大事だと考えておりますので」
店主「いやぁ、そこまではっきり言い切るなんて、若いのに大したもんだ」
店主「初対面でいきなり失礼なことを言っちまったお詫びに、これもオマケしとくよ」
やよい「これは何ですか?」
店主「当店自慢の煮豚用のタレだよ。四条貴音のラーメン探訪、いっつも見てるよ」
貴音「まぁ、店主殿。感謝いたします」
やよい「ありがとうございますー」
貴音(今日は麺祭り……。らぁめんは食べられるのでしょうか?)
貴音「やよい、麺は何を買いますか?」
やよい「麺は買わないですよ?」
貴音「なんと!」
貴音(では、今日の麺祭は一体何を食べるのでしょうか)
貴音(もしや、『えあー麺』? 囃家は扇子のみを用いて見事に演じますが、わたくしは……)
貴音「……えあー麺が食べられません」
やよい「?」
やよい「麺は買わないですけど、これとこれを買いますー」
貴音「これは、強力粉と薄力粉ですか」
やよい「そうです! 今日は麺祭りなので、まずは麺を作らなきゃです」
貴音「やよいは自分で麺を作れるのですか!?」
やよい「はい! とぉーっても美味しいですよ。 楽しみにしてくださいね」
貴音「あぁ、期待に胸が膨らみます」
――帰路
貴音「しかし、れっすんや営業の後に夕餉の支度までしていては大変でしょう」
貴音「辛くはないですか」
やよい「そんなことないですよー」
貴音「多分に厳しい言い方かもしれませんが、周囲の人間は貴女に『いい子』という役割を強要している様に感じます」
貴音「知らず知らずの内に負担を抱えているのやもしれません」
やよい「ううー、私いい子なんかじゃないですー」
貴音「そうでしょうか」
やよい「はい、みんなには秘密にしていたんですけど……」
やよい「おじさんにオマケしてもらった物を家に着くまでに食べちゃうんです」
やよい「私は悪い子ですー……」
貴音「そんなことはありません」
貴音「人間、秘密の1つや2つはあります」
貴音「それに女性は秘密を持つことでより美しく輝きます」
やよい「……ものすごい説得力かも」
貴音「やよいは悪い子ではありません。淑女への階段を登り始めたのです」
やよい「……」
やよい「貴音さん。このりんごを半分こしますから、私たちだけの秘密にしてくださいね」
貴音「もちろんです」
やよい「えへへ」
貴音(はにかみながら、さながら豚まんを分けるかの如くりんごを分けてくれました)
貴音(この甘酸っぱさは、今のやよいのようですね)
やよい「おいしいですー」
貴音「ええ、とても」
――高槻家
やよい「我が家へようこそー」
(見事な壌土の匂い、良き菜園があるのですね)
やよい「ただいまー、みんないい子にしてたー?」
長介「おかえり」
浩太郎「あ、しじょーさんだ」
かすみ「すごい、本物だー」
貴音「四条貴音です。本日は麺祭にお招きいただきありがとうございます」
「「いらっしゃーい」」
やよい「じゃあ準備してくるね」
貴音「やよい、わたくしは何をすればよいですか」
やよい「最初の準備は私だけで大丈夫なので、弟たちを見てて貰えますか」
貴音「えぇ、よしなに」
――居間
坐ッ!
貴音「響から聞き及んでおりますよ、浩太郎と浩司はやんちゃだと」
貴音「さぁどこからでもかかって来なさい!」
浩司「そんかことしないよー」
浩太郎「響ねぇちゃんは大げさだよー」
貴音「……そうですか、大変失礼しました。ではかすみ、『ゆるふわうぇいぶへあ』の話から始めましょうか」
かすみ「わたしも四条さんみたいになれるかな?」
貴音「えぇ、貴女がそう願うのであれば」
浩太郎(浩司!)
浩司(こーたろーにいちゃん!)
「「隙ありー!」」
貴音の視線が切れた瞬間に兄弟は飛びかかる。タイミングは完璧。2人掛かりで響を押しつぶした時のように、貴音を押し潰せるはずだった。
貴音「ふふっ、やはり2人はやんちゃですね」
兄弟が天井を眺める一瞬前、確かに笑顔の貴音と目が合った。
「「あははは」」
浩太郎「しじょーさんすげぇ」
かすみ「あれ?いつの間に?」
浩司「もういっかい、もういっかい」
貴音「えぇ、何度でもかかってきなさい」
飛びかかるたびにころりころりと転がされる。その間も貴音は正座を崩さなさい。
「「あははははー」」
かすみ「わ、わたしもー」
飛びかかってはころりと転がされ、つかみかかってはふわりと投げられる。
長介「四条さんすごいね、それって何なの?」
貴音「とっぷしーっくれっと……と言いたいところですが。これはただの『柔』です」
貴音「貴方もいかがですか?」
長介「俺は後でいいや。 浩三が寝るまでは一緒に居てやらないと」
貴音「そうですか、やよいには素晴らしい弟がいるのですね」
長介「そんなことないよ。俺はやよい姉ちゃんじゃないから、自分でできることをやっているだけだよ」
貴音「ふふっ」
浩司「ちょーすけにいちゃん、ボクもうくたくたー」
長介「ちょっと寝てろよ、晩ご飯になったら起こすからさ」
浩司「うん」
貴音「浩太郎、立派な兄と姉が居て誇らしいですか」
浩太郎「うん、最近の兄ちゃんはやよい姉ちゃんみたいに何でもできるんだぜ」
貴音「そうですか、自慢の兄なのですね」
貴音「アイドルが姉というのはいかがですか」
浩太郎「やよい姉ちゃんはもっとすごいんだぜ。家のことも自分のことも全部やって、それでもって僕らよりパワフルなんだ」
浩太郎「そうだ。あと、アイドルもやってる」
貴音「やよいがアイドルでなくとも良いと?」
浩太郎「うん、やっててもやってなくてもやよい姉ちゃんはやよい姉ちゃんだよ」
貴音「そうですか。浩太郎こちらへおいでなさい」
よくわからないという顔をした浩太郎を呼び寄せ、貴音はその頭を撫でてやる。
貴音「それでこそ大和男子(やまとおのこ)と言うものです」
しばらく頭を撫でられた後、浩太郎は何か考え事をしながら長介のそばに移動した。
貴音「おや、やよい。準備は済みましたか?」
やよい「買い忘れたものがあって。ちょっと行ってきますね」
浩太郎「やよい姉ちゃん、僕が行く」
やよい「え?浩太郎が?」
浩太郎「僕が行く」
やよい「どうしたの急に?1人で行けるの?」
長介「大丈夫、俺がついてくよ」
やよい「そう?じゃあ、お願いするね」
貴音「浩太郎、頼みましたよ」
浩太郎「はい!行ってきます」
やよい「……行っちゃった」
やよい「浩太郎どうしたんだろう?」
かすみ「普段あんまりほめられないからねー」
貴音「『男子三日会わざれば刮目して見よ』」
貴音「やよいが見ていない間にも成長しているのですよ」
やよい「うーん?」
貴音「さて、かすみ。『ゆるふわ縮れ卵麺』の話の続きをしましょうか」
かすみ「さっきと違うよー」
やよい「貴音さん、そろそろ麺を用意するので手伝ってもらえますか?」
貴音「なんと!とうとう麺を打つのですね!?」
やよい「はい!麺祭の主役を準備します」
貴音「かすみ、話の続きはまた後ほど」
かすみ「はーい」
貴音「直ぐに参りましょう。厨はどちらですか」
やよい「こっちですー」
かすみ「……」
かすみ「お姉ちゃんたちはあわただしいねー、浩三?」
――台所
やよい「じゃあ早速始めちゃいましょう」
貴音「やよい」
やよい「はい?」
貴音「わたくしはあれをやりたいのです」
やよい「うー?あっ!」
やよい「高槻やよいの~」
やよたか「「うっう~、お料理さしすせそー!」」
やよい「今日のアシスタントは四条貴音さんです」
貴音「あぁ、この感覚なのですね。いつかは体験したいと思っておりました」
やよい「喜んでもらえてうれしいです。改めて始めちゃいますよ」
貴音「ところで何の麺を作るのでしょうか」
やよい「うどんですね。さっと茹でられる細い目のうどんですー」
貴音(……細麺ですか。果たして同じ太さに切りそろえられるでしょうか)
やよい「まずは、強力粉と薄力粉を半分ずつ混ぜたうどん粉をつくります」
貴音「はい、しばしお待ちを……」
やよい「混ざりましたか?」
貴音「えぇ、十二分に混ざりました」
やよい「その4割くらいの水を入れてください」
貴音「4割は体積ですか?質量ですか?」
やよい「質量です。入れたら箸で混ぜてください」
貴音「なにやら、ぽろぽろとしてまとまらないのですが」
やよい「大丈夫です。粉の部分がなくなるまでは箸でお願いします」
貴音「やよい!塩を入れておりません。今から間に合うでしょうか?」
やよい「塩は入れませんよ」
貴音「なんと。それで構わないのですか」
やよい「はい、お店で出てくるものとは違いますけど。たくさん食べてもらうために塩分は控えめです」
やよい「お家で食べるなら、まずは健康ですよね」
貴音「その通りです!まさにその通りなのです」
やよい「粉っぽさがなくなりましたか?じゃあこねちゃいましょう」
貴音「どのくらい捏ねるのでしょうか?実は捏ね終わりが良くわからないのです」
やよい「えぇと、ぽろぽろが全部がくっついてから20回折りたたんでくださいー」
貴音「承知しました」
貴音がうどん種を捏ねている間に、やよいは麺つゆの味見と揚げ物の準備を進め、煮豚の様子を確認した。
貴音「手際がよいのですね」
やよい「そんなことないですよー。けど、同じことをするなら早いほうがお得かも」
やよい「空いた時間でほかのことができますから」
貴音「日々これ鍛錬……やよいには敵いませんね」
貴音「あ、捏ね終わりました」
やよい「ありがとうございます!じゃあ、麺にしちゃいましょう」
貴音「とうとう、この時が……。麺棒をわたくしに……。今日こそは必ず!」
やよい「麺棒はないですよ?」
貴音「なんと?では、やよいは手延べができるのですか!?」
やよい「できないですよ?」
貴音「……わたくしをからかっているのでしょうか?」
やよい「ううー、そんなことないです」
やよい「我が家ではこれを使います!」
貴音「こっ、これは!?」
やよい「この機械は……」
やよい「小野式製麺機です-」
貴音「小野式製麺機……。それはどういう」
やよい「説明は難しいので実際にやってみますね」
やよい「貴音さんがこねたうどん種をちぎりまーす。これを棒にするとやりやすいですー」
貴音「どのような大きさでしょうか?」
やよい「片手で握って少しはみ出るくらいでしょうか?大体でいいですよ」
貴音「ふむ。長さは一束、径は一寸といったところでしょうか」
やよい「それくらいがちょうどいいです」
やよい「これをローラーにあてがって、ハンドルを回すと……」
きっちりとかみ合った歯車が2つのローラを力強く回す。その力強さはやよいの手から差し出されたうどん棒を静かに押しつぶし、伸展させた。
貴音(……これは)
貴音は胸の高鳴りを抑えることができなかった。あれほど苦労し、かつ、不均一な厚みにしかできなかった麺をのす行為。やよいは、絹を織るが如き優雅さで実現させている。
やよい「2回くらいのしたら、後ろのねじを回してさらに薄くします」
貴音(あぁ……。これはまさに天女の羽衣……)
縫目など無い完璧なしなやかさがそこにあった。
やよい「もう2回くらいのしたら、ハンドルをずらして……。いきますよ~」
やよい「うっう~!」
のしたうどん種を手前のローラーに移動させ、ハンドルを回すやよい。
そのふたつのローラーが生み出す圧縮状態の創造空間は、まさに歯車的製麺の小宇宙!
やよいが回す手を止めた時、そこには見事なうどんが存在していた。
やよい「これで完成です。これが小野式製麺機ですー!」
貴音は無言のまま震えていた。
やよい「貴音さん?大丈夫ですか?」
貴音「……な」
やよい「えっ?」
貴音「面妖な!」
貴音「小野式製麺機……。まこと面妖なからくりです」
やよい「はい!小野式製麺機は麺用の機械です」
貴音「えぇ、面妖ですね」
やよい「うっう~!麺用ですー」
貴音「胸躍るとはまさにこのことなのでしょうか。やよい、わたくしも小野式製麺機を回しても構いませんか?」
やよい「どんどん回しちゃってください」
貴音「それでは失礼します……」
目の前の機械に一礼してから取手を掌に収める。やよいを真似て、静かに、本当に静かに歯車を走らせる。この日を迎えるまでに幾度となく失敗を重ねた、自画自賛もできない出来だった。それでもなお、諦めることはできなかった。ただそれだけの話だった。
貴音(これほど容易く……。磁器と見紛う程の質感です)
貴音(次はこちらの刃に通します)
取手をずらして歯車を変え、再び回す。するすると、こうあれかしと願った通りに形を変えた。
貴音「……やよい、どうでしょうか」
やよい「うわー、上手です―。まだまだありますから頑張っちゃいましょう!」
貴音「えぇ!」
~貴音奮闘中~
貴音「……んっ……くぅ」
やよい「ささみ揚げ終わりました―。貴音さん、何か手伝いますか?」
貴音「歌を……わたくしのために応援歌を!」
やよい「え?え~と…」
やよい「おーおーきな鋳物の製麺機~♪」
やよい「おのしーきー♪せいめんきー」
やよい「百年いつもーうごいーていたー」
やよい「おじいーさんの機械さ~♪」
貴音(じいや……わたくしは今、かつて憧れた立場まで来れました)
貴音(自分で自分の麺を用意できるという、そんな立場へ)
貴音(そういえば、じいやに言われて摩尼車を回していたときがありましたね)
貴音(あの時は何もわからないままでしたが、今は違います)
貴音(集中、専心、没入……。言葉は違えど必要なものは同じ、回す行為そのものではなく、その心の在り方が大切だと)
貴音(ふふっ、4つも年下のやよいの方がよっぽど先を歩んでいるのですよ?)
貴音(仲間なくしては辿り着けない場所でした)
貴音(じいや、くにの皆、わたくしは決して歩みを止めたりはしないと、改めて誓いましょう!)
やよい「いまはー♪もうー♪うごかない~」
やよい「おのしーきーせいめんき~♪」
貴音「……」
やよい「……」
やよたか「「ちゃんと動きます!!」」
やよい「貴音さん!」
貴音「やよい!」
やよい「ハイ、ターッチ」
やよたか「「いえい!」」
貴音「こんなにもたくさん麺が出来ました!」
貴音「わたくし感無量です」
やよい「元気でましたか?よかったですー、響さんにも伝えないと」
貴音「はて?何故ここで響の名前がでるのでしょう」
やよい「収録後に響さんが言ってたんです、『あれはものすごく悩んでる顔さー。やよい、今日は貴音をひとりにしないでやって欲しいぞ』って」
貴音「まぁ、そのような」
やよい「けど、響さんはよく気がつきましたよね。私はぜんぜん気がつかなかったです」
貴音「響とは付き合いが長いですからね……。やよい、わたくしに気をかけてくださりありがとうございます」
やよい「いいんですよ、お礼なら響さんに言ってくださいー」
貴音「もちろん響にも感謝を伝えますよ」
やよい「あとあと、『具体的にはラーメンを食べたりなかった顔さー』って言ってました!」
やよい「麺祭はラーメンじゃないですけど、たーくさん食べてくださいね」
貴音「……感謝を伝えた後に懲らしめねばなりませんね」
浩太郎「ただいまー」
やよい「帰ってきました。みんな~ご飯にするよ」
――居間
やよい「それでは麺祭開催しちゃいまーす」
かすみ「量が多すぎてすごいビジュアルになってるよ……」
長介「麺がいつものもの倍以上……。煮豚はこの日に仕込むだけのはずなのに何であるのさ」
やよい「貴音さんがいーっぱい手伝ってくれたんだよ」
貴音「麺祭のため精一杯務めさせていただきました」
やよい「じゃあみんな」
「「いただきまーす」」
貴音(釜揚げうどん形式ですね。なるほど、細麺にしたわけです)
貴音(皆上手に湯に湯に潜らせて、浩司の分はその時々で手伝ってやる)
貴音(美しきは家族愛ということですか)
やよい「貴音さん、食べないとなくなっちゃいますよ」
貴音「えぇ、いただきます」
麺の味を確かめるために、つゆを使わずに啜りあげる。
貴音(麺に塩気はなく、寝かせていないので深みも足りず……)
貴音(しかし、食とはそれだけに非ず。この家族、この場所、この状況)
貴音(客をもてなすために全力を尽くす。即ち、本来の意味での馳走)
浩太郎「しじょーさん、それ不味くない?」
貴音「そのようなことはありません、とても美味しいですよ」
浩太郎「いや、麺つゆつけて食べてよ」
貴音「それもそうですね、では……」
貴音(これはなんという美味!麺どころかつゆにさえ鹹味が足りないにもかかわらず、一体何がこれ程の味を!?)
貴音「浩太郎!とても美味しいですよ」
浩太郎「へへーん、決め手は特製麺つゆなんだぜ!」
やよい「はわっ!?私のセリフがとられた?」
貴音「ふふっ、よいではありませんか。さてさて、早く食べないとわたくしが全て平らげてしまいますよ?」
浩司「たべるー」
貴音「たくさん食べて大きくなりなさい。そしていつかやよいを超えるのです」
「「はーい」」
――台所
やよい「すみません、お片付けまで手伝ってもらっちゃって」
貴音「いいのですよ。あれだけ馳走にあずかったのですから」
貴音「皆、麺祭を楽しんでいましたね。無論わたくしもですが」
やよい「はい!人数も多くて楽しかったです。けどみんな寝ちゃってすみません」
貴音「満腹になれば睡魔も誘いに来るというものです。いつもより量が多かったのでは?」
やよい「貴音さんが来てくれたのでどどーんと増量しちゃいました!」
貴音「そうですか」
貴音「今宵……わたくしは夢に一歩近づくことができました」
やよい「貴音さんの夢ですか?」
貴音「えぇ、毎日食べるためのらぁめんを見つけ出すという夢です。やよいのお陰で大きく前進しました。塩も加えず自分であれ程の麺が用意できたのですから」
やよい「お手伝いできてよかったです」
貴音「あとはらぁめんの麺が用意さえできればこの夢は叶うのです。ふふっ、実に楽しみです」
やよい「できますよ?」
貴音「なんと!それはまことですか?」
やよい「はい!」
貴音「うどんではないのですよ?細麺でコシの強いうどんではないのですよ?」
やよい「大丈夫ですよ!今からやっちゃいますか」
貴音「『時は得難くして失い易し』ですね」
貴音「やよい、よろしくおねがいします」
やよい「うっうー!頑張りまーす!」
やよい「さっきと大体は一緒です。まず強力粉に水を入れます」
貴音「ずいぶんと水が少なく感じるのですが」
やよい「さっきはうどんでしたから。今回はラーメンなので水は3割です」
貴音「3割……」
貴音の脳裏をよぎった事柄は、かつて麺作りに失敗したときの加水率だった。40%以下ではのすことができず、35%以下では捏ねることすらできなかったのだ。
そんな不安もすぐにかき消される。気がついたときには手早く捏ねられた麺塊が小野式製麺機を通過していた。
やよい「出てきた麺に友粉をまぶして、ぎゅっ♪ぎゅっ♪」
そんなことをしては麺が塊に戻ってしまうのではないか、なぜそんなことをするのか。貴音が疑問を投げる前に解答が提示された。
貴音「……縮れ麺ですね」
やよい「その方がラーメンっぽいかなーって。すぐに茹でちゃいますね」
やよい「茹でるときのお湯に重曹を入れるとラーメンになるんですよー」
貴音は鍋に向かうやよいをぼんやりと眺め、そして考える。全力をかけて努力をした、限界一杯までやりつくして、それでもなおできなかった。それが今、自身の力を超えたところで実を結ぼうといている。人事を尽くして天命を待つ。ならば、この天命を運んできた者は一体何なのか。
貴音(あぁ、そういうことですか)
古きも今も、西も東も問わず、祈りの所作は変わらない。胸の前で手を――。
やよい「できましたー」
やよい「はわっ!『いただきます』はもうちょっと待ってください―」
――――――
―――
―
貴音「ご馳走様でした。まさに天界の味でした」
やよい「えへへ、言いすぎですよ。でもでも、貴音さんが満足してくれたのならうれしいです―。あとはこれのお陰かも」
貴音「その通りですね。ではあらためまして」
貴音「ありがとう、やよい」
貴音「ありがとう……」
貴音「小野式製麺機」
おしまい
これにて終了です。
反応をくださった方々に沢山の感謝を捧げます。
設定
高槻家に小野式製麺機があれば、きっとやよいは貴音にラーメンを作ってあげるだろう。
ちなみに、小野式製麺機は実在する機械です。
もう少し短くまとめたかったです。
精進致します。
以上です。
小野式乙
>>1は小野式製麺機持ってるの?
>>35
はい。小野式製麺機A型を一台所持しています。切刃は2mm幅の物です。
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