佐天「元素を操る能力……?」(18)
研究員「そうだ。君の能力を使えば、自由に物質を分解したり、構築したりできる……
佐天「やった!つまり錬金術みたいに、鉄から金を作ったりできるんですね?」
研究員「いや、それは無理だ」
佐天「え?なんでですか」
研究員「君の能力はあくまで元からある元素を操ることだけだ。君がしたいことをするには、自由に核融合・核分裂を起こす能力者が必要だな」
佐天「そんなぁ……」
研究員「まあそこまで悲観することは無いよ」
佐天「儚い幻想がぶち壊されました……」
研究員「さて、能力の説明に戻ろうか」
佐天「はぁ」
研究員「先ほど私は、自由に物質を分解構築できる、と言ったが、厳密には違う」
佐天「と言いますと」
研究員「君は6つ、たった6つの元素しか扱うことができない」
佐天「…………へ?」
研究員「6つ」
佐天「え、ちょっと。それって少なすぎじゃないですか?元素って100種類以上ありますよね」
研究員「そうだ。しかし残念ながら、君の能力では6種類の元素しか扱えないんだよ」
佐天「…………そんなぁ」
研究員「まあそう落ち込むな」
佐天「って言われても!たった6つの元素を操るだけで、一体何ができるって言うんですか?」
研究員「……その質問に答える前に、君が扱える元素について説明をしようか」
佐天「…………お願いします」
研究員「まずはh、水素だ」
佐天「水素、ですか」
研究員「これは割とどこにでもある物質だな、例えば水」
佐天「h2oですね」
研究員「そうだ。そして君は、そのo、酸素も扱うことができる」
佐天「へぇー……」
研究員「続けるぞ。次はc、炭素だ」
佐天「炭素……?」
研究員「ここまでくれば、察しの良いものはわかってくれるかもしれないね。君の能力」
佐天「さあ……なんでしょうね。水を分解して酸素と水素にする能力ですか?」
研究員「炭素はどうした」
佐天「二酸化炭素を分解して、温暖化問題に立ち向かう?」
研究員「それはそれでアリだな。次いくぞ、n、窒素だ」
佐天「空気中の成分の8割を占める気体のあれですか」
研究員「そうだ。バラの花を瞬間冷凍するアレだ」
佐天「…………」
研究員「残りはsとp、硫黄とリンだ」
佐天「硫黄って温泉の……」
研究員「そうだな。リンは君にとってあまりなじみがないかもな」
佐天「そうですね。よく知りません」
研究員「さて、私がこれからそれぞれのサンプルを持って来よう。ちょっと待っていなさい」
佐天「はい」
研究員「まずはhとoのサンプル、つまりまんま水だ」
佐天「はぁ……」
研究員「どうした、やる気がないな」
佐天「自分の能力があまりにもショボすぎて……なんですかリンって」
研究員「まあそう言うな。私の説明を聞き終えた後、君は自分の能力の価値に気付くぞ」
佐天「そういうものですかね……」
研究員「勿論。では、この何の変哲もない水を、よく見てみなさい」
佐天「…………何にも変わりないですね、本当にただの水っぽいです」ジー
研究員「……何か、見えてこないかね」
佐天「いいえ何にも」
研究員「もっと良く見るんだ」
佐天「…………」ジー
研究員「もっと!分析するように!」
佐天「…………!?」
研究員「どうだ佐天。何か見えたかね」
佐天「何か……たくさんの点々が、プルプルしてます」
研究員「色は?どう見える?」
佐天「白い大きいのと、水色の小さいのがくっついた変な形……?」
研究員「白いのと水色の奴の数は?」
佐天「水色のが多いです。白いのは水色の半分くらい…………あれ?」
研究員「気づいたかね」
研究員「つまり君が見ているものが、酸素と水素の結合した水分子だ。私には当然見えないがね」
佐天「凄い……」
研究員「とはいえ、色がついているわけでは無いだろうから、それは君の脳の錯覚だね。次は炭素」
佐天「シャーペンの芯……」
研究員「さっきの要領で、これを見なさい」
佐天「……黒いのがいっぱい」
研究員「じゃあこっちだ。ダイヤモンド」
佐天「……こっちも、同じ。でも並び方が違うような……」
研究員「その通り。ダイヤモンドと黒鉛は、同じ元素からできていても、並び方が違うんだ」
佐天「ほぇー」
研究員「……君の中学では、まだ習っていないのかね」
佐天(あっちゃー、最近の理科はずっと寝てたんだよね。こんなことなら聞いておけばよかった」
――――
研究員「とまあ、全ての物質を一通り見終わったところで、次のステップに移ろう」
佐天「はい」
研究員「こいつを見てみろ。可愛いだろう?」
ハツカネズミ「チュウ」
佐天「わぁ……」ナデナデ
研究員「研究で余って殺処分されそうだった奴を、こっそりくすねて置いたんだ。私の可愛い相棒だよ」
佐天「可愛いですね……」ナデナデ
研究員「では、さっきの要領でこのネズミを見てみたまえ。おっと、これ以上触ってくれるなよ?危険だからな」
佐天「…………」ジー
研究員「どうだ?」
佐天(あ、れ……?)
研究員「……」
佐天(いくつか何かわからないものがあるけど、ほとんどはさっき見たものばっかりだ)
研究員「どうだ?面白いだろう?」
佐天「なんで……なんで……」
研究員「『さっき見せたものばかり』だっただろう?」
佐天「!!!!!!」
研究員「そういうことだ。生物の体は、ほとんどその6つの元素から成る」
ネズミ「チュゥ」
研究員「お次はこいつ。タンポポだ」
佐天「…………」ジー
研究員「触ってみたまえ」
佐天「はい」ポン
サラサラサラサラ……
研究員「おお……」
佐天(えっ?触った瞬間、何かの繋がりが全部切れて、元素が私の手に……)
研究員「それが『分解』だ」
佐天「…………」
研究員「さて、能力を一回切りなさい」
佐天「えと……どうやって……?」
研究員「仕方ない、一瞬だけ我慢したまえ」
キィン
佐天「ッ」
研究員「相変わらず耳障りな音だ。こいつは」
佐天「…………」
研究員「明日からまた能力の制御法を教えよう。それまではむやみやたらに能力を使うんじゃない。わかったな?」
佐天「はい……」
――――
佐天「というわけで、晴れて能力者になることが出来ました!」
美琴「おめでとう佐天さん。でもその能力凄いわね」
佐天「そうですか……?あたし、この能力が凄いのかどうか分かんないんですよね」
美琴「でも、本当にすごい能力よ?」
佐天「…………よく分かりません」
美琴「例えば、このストロー……つまりプラスチックね。これも佐天さんが扱える6種類の元素でできているのよ」
佐天「へぇー……」
美琴「この紙コップも、私の服も、このベンチも……」
佐天「……つまり?」
美琴「『有機物』よ。その研究員、肝心なところを言わないのね」
佐天「有機物……ねぇ」
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