美希「最近ヘンなことばっかりなの」 (76)
ホラーになったらいいなって
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「こっちの方が多分、近道だよね」
はー、アイドルってもっと楽チンで楽しいって思ってたのにすっごく期待外れ。
今日もいーっぱいレッスンさせられたし、もうお腹ペコペコなの。
早く帰ってご飯食べてお風呂も入ってゆっくりしたい~って感じ。
「うぅ、なんか薄暗くってヤなふいんき……」
竹林って虫とか多いからあんまり通りたくないんだけどな。
でも今日は急いでるし……あれ?
「お地蔵さん、かな? こーゆーのってお参りした方がいいんだよね、ナンマンダブナンマンダブ」
結構お参りしてる人がいるのかな、お饅頭やお煎餅の袋がたくさん。
あ、お賽銭って言ったら五円だよね!
でもなんで五円なんだろう? まあいっか、えい。
「ゆーっくり、のーんびり暮らせますよーに」
ぱんぱん。
これで明日からは遅刻しても怒られないよね。
ってそんな場合じゃなかったの!
これ以上ゆっくりしてたらミキ、飢え死にしちゃう!
「……」
五円あげたし、お地蔵さんもホントに食べるわけじゃないし、このままじゃ勿体無いし。
いい、よね?
「いただきまーす、なの」
「ごちそう様でした、なの!」
落ち着いてる間にすっかり遅くなっちゃった。
沈みかけの夕日もギラついてて眩しいし、セミもすっごく元気だし。
ホントに早く帰らなきゃ真っ暗になっちゃう。
「お地蔵さん、今度来た時はミキのお気に入り、キャラメルマキアートをご馳走したげるね! あはっ☆」
なでなで、ゴト、なでなで、ゴト……なんかゴトゴトする?
あ、このお地蔵さん、首の所がヒビ割れてる。
前掛けで隠してあるけどこれポッキリ折れちゃってるの。
キャラメルマキアートと一緒にボンドも持って来なくちゃだよね。
「っ、キャ!? ……んもー、強風注意なの!」
レッスン場を出る時にセットした髪がまたボサボサになっちゃった!
急にあんなに強い風が吹くなんて聞いてないの、フツーに立ってたら春香みたいにこけるとこだったの。
あ。
「お地蔵さんの、首……」
地面に落ちて真っ二つに割れちゃってる、けど……ミキのせいじゃないよね!?
だって、急に風が吹いたし! それに最初から首は取れてたもん!
ミキがいなくても、きっとこうなってたってカンジ!
「む、むむー」
仕方ないことなんだから、お地蔵さんもそんな目で睨まないでほしいの……。
ちゃんとボンドでくっ付けておけば許してくれる、よね?
キャラメルマキアートだって奢ってあげるんだし……。
あ、おにぎりも付けてあげよ! うん、これならきっと許してくれるはずって思うな!
「だから、今日はもうサヨナラなのー!」
うぅ、なんか胸のとこがモヤモヤする。
やっぱりすぐ直しに行かないとダメだよね?
でも今日はもうヘトヘトだし……明日行けば、明日、でも明日は遊びに行く予定だし……。
「むう、ただいまー……」
「おかえり、美希。って、ちょっあんたどうしたのその足!?」
「え、ひゃっ!?」
なにコレ!?
菜緒お姉ちゃんの声にもびっくりしたけど、これ、こんな。
「大丈夫? 痛くない? すぐ手当してあげるからそこで待ってなさい。ママー、救急箱どこー!?」
全然気づかなかった。
どこで切ったんだろう、こんなに大きな傷なのに痛みもないし、血も……。
一先ずこれまで
「もう帰っていいの?」
「ええ、色々検査してみましたがどうやら過労の様で」
「最近ダンスのレッスンばっかりだったからきっとそれのせいなの」
「足の傷がちゃんと塞がるまでは激しい運動を控えてくださいね、お休みが出来たと思ってこの機会にゆっくりしてください」
「うん、ありがと」
「いえいえ、人を助けるのがお医者ですから。あの、星井さん?」
「肩の……あー、なんでもないの。バイバイ」
ぼやっとしてる。
律子がよく言ってるツカレメってこれ?
夏の遠くの景色みたいに、お医者さんの肩がゆらゆらしてる。
言われた通りゆっくり休もっと。
「もしもし? うん、もう退院していいって。うん、分かった、お願いー」
ママの車が着くまで、ちょっとだけ日向ぼっこしてよっかな。
んー、夏も曇ってるとちょうどいいカンジ。
なんだか眠くなって来ちゃった。
『切るぅ!!』
「ひっ!?」
……あれは夢だから、あんなのただの夢だから、なんてことないの。
気にしちゃダメだよね、早く忘れなきゃ。
「やっぱり、病院の中で待とうかな」
「……?」
微妙にだけど、変な臭い。
さっきまでこんな臭い、しなかったよね?
なんの臭いだろう、嗅いだことがあるような。どこから? こっち?
「うちの孫もねえ、幼稚園ででっかいおじいさんと遊んだーなんて言ってねえ」
「あら、そちらも? 子供って不思議よねえ」
ミキ、目だけじゃなくて鼻までおかしくなっちゃったの?
みんな、全然いつも通りってカンジ。
お年寄りばっかりだから鈍感さんなのかも。
むー、こっちの方かな……エレベーター?
「あ、この臭いって」
思い出した、何かが焦げた時の空気だ。
でも病院で火なんて、あ、扉が開く。
「えっ」
燃えてる。
エレベーターの中から赤い火が、ごうごう漏れて。
ススが、煙が、嘘?
中に。
誰か、中にいる?
ううん違う。
中で何人も、燃えながら。
「たすけて」
「熱い」
「たすけてっ」
「たすけてっ」
「ごほっ、げほ……!」
「熱い!」
「助けて!」
「嫌だ!」
「助けてくれ!」
熱い。
こっちに来る。
燃えながら、足を引きずりながら、ミキの方に、手を。
「美希?」
「きゃあ!?」
ママ、がいた。
「どうしたの? ぼーっとしてたみたいだけど」
「あ、ゃ。はぁっ、は、はぁ、え? え?」
空っぽのエレベーター。
燃えてない。
誰もいない。
ここ何日かで見慣れた、いつものエレベーター。
「やっぱりまだ、頭がはっきりしない? 今からでも先生に言って、検査のやり直しを」
「だい、じょうぶ。うん、大丈夫だよ、もう元気になったから」
「? なら、いいんだけど……あ、帰りに退院祝いのケーキでも買いましょうか」
「ケーキ! ミキ、駅前のお店がいいな!」
「やっと元気な顔見せてくれたわね、じゃあ行きましょっか」
「うん!」
後ろから焦げた臭いがしたけど、振り向かなかった。
「もぐもぐ、はむはむ、まふまふ、はぐはぐ」
うーん、この甘酸っぱさがやめられないの!
ふんわりスポンジに甘ーい生クリーム、それに赤くてかわいいイチゴ! いくらでも食べれそうなの!
「美希、足の方はどう?」
「ふ? ふぁほふぉへーふぁん!」
「はいはい菜緒お姉ちゃんだよー」
「もぐんっ……えっとね、まだ何日かは走ったりしちゃダメって言われたよ」
「そっか、それじゃアイドルも暫くお休み?」
「だと思ったんだけどね、小鳥から自主トレしろってメール来て」
「やるの?」
「やらないよ?」
菜緒お姉ちゃん、心配してくれたんだな。
普通に話してるみたいだけど、ちょっと泣きそうになってる。
「ね、菜緒お姉ちゃん」
「なに?」
「大好き! あはっ☆」
「ふふっ、どうしたのよ急に」
「今のミキはそんな気分なの、あ、パパ帰ってきた?」
「え? ちょっ、美希?」
玄関には誰もいない。
うーん、あれ?
ドアの音がしたと思ったんだけど。
「この時間、パパはまだお仕事してるよ。美希も知ってるでしょ?」
「うん……むー?」
「何? しばらく家族の顔見なくて寂しくなっちゃった?」
「……そうかも」
「寂しかったのは私達もだよ、ばか」
ぎゅって抱き締められた。
こんなに心配かけて、っていっぱい泣かれた。
えへへ、ただいま。
菜緒お姉ちゃんの手、あったかいな。
「一緒に寝るの、久しぶりだね」
「寂しいならいつでも言っていいのよ? 昔みたいに手繋いでてあげる」
「ミキ、もう子供じゃないもん。でも今日はトクベツっ」
お布団の中で一緒にくすくす笑う。
ホントに久しぶり、最後に一緒に寝たのってミキがチューガク入る前ぐらい?
「じゃ、電気消すよー」
「はいなの!」
ミキがぎゅって握ると、菜緒お姉ちゃんもぎゅって握り返してくれる。
「ふふ、寝られないよ」
「ふふふっ」
握ったり、握り返されたり、握られたり、握り返したり。
菜緒お姉ちゃんの手、あったかいな。
……あさ?
んー。
雨の音がうるさいー。
……おやすみなさいなの。
「美希、朝だよ!」
「あとちょっと~」
「五秒だけね、ごーよーんさーん」
「あと五時間~」
「ほらほら、もう起きるの!」
「足引っ張らないで~……ぐぅ」
「え? 引っ張ってないわよ?」
飛び起きた。
菜緒お姉ちゃんはベッドの脇に立ってる。
パジャマも着替え終わって出かけられる格好。
じゃあ、このお布団の下で今も足首を掴んでるのって。
「菜緒、お姉ちゃん? これ、めくってくれる……?」
「? ん、これでいい?」
想像してたような物は何もなかった。
シーツか布団カバーが絡まってただけ、だよ。
うん、そうに違いないの。
だってじゃないと、おかしいもん。
考えすぎなの。
「……あ。菜緒お姉ちゃん、雨だけど出掛けるの?」
「はぁ? 思いっきり晴れてるじゃない、ほら」
窓から青い空が見える。
夢、夢。寝ぼけてたの。
「それよりどんな夢みてたの?」
「多分、雨が降る夢……」
「ふーん? 寝言で『行かなきゃ、行かなきゃ』って言ってたけど」
「行かなきゃ?」
「」
「それよりどんな夢みてたの?」
「多分、雨が降る夢……」
「ふーん? 寝言で『行かなきゃ、行かなきゃ』って言ってたけど」
「行かなきゃ?」
「うん、苦しそうな声で何度も」
行かなきゃ? どこに? 事務所?
事務所に行ってもまたつまんないレッスンばっかりさせられるし、違うよね。
最近行ってないし、カラオケかな?
そういえば自主トレしろって言われてたんだよね。
うん、カラオケでボーカルレッスンなの!
好きな歌を好きなように歌った方が上手くなるに違いないってカンジ!
「じゃカラオケ行ってくるね!」
「あ、うん、行ってらっしゃい」
ふんふんふふーん♪
何歌おっかな、最近暗くなりがちだし明るいのがいいかな。
「痛っ」
……?
今、頭に当たったのってこの石ころ?
むぅ、誰? 人に石なんて投げちゃダメなの!
「……」
誰もいないし。
遠くで誰かが投げた石が、たまたまミキに当たった。
なんて、ありえないよね正直。
「痛っ」
また?
でも、さっきよりなんていうか、近いところから落としたみたいな。
上?
「……空が青いの」
いいや、カラオケ行こ。
今宵はここらで
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