ダンガンライブ! 希望の学園と絶望のスクールアイドル (91)

※注意

ダンガンロンパ風ラブライブSSです

貴方の嫁が死亡する可能性があります

安価はありません

亀更新になります

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 最近、頭痛を感じることが多くなった。

 今迄――あの大会に出場するまでは、アイドルとして歌い、踊り、それだけで全てが薔薇色に見えていた。

 脳内麻薬の分泌。一種、ランナーズハイにも似た快楽が私を動かす原動力だった。だというのに、何故だろうか。

 歌っていても楽しくない。踊っていても楽しくない。奇声を上げる観客達は、形も無いヘドロの群れだ。

 それでも、今までは頑張ってきたのだ。仲間たちに悟られぬよう、意地でも笑顔を作り、声にならぬ声を上げ、蠢くヘドロに愛想を振りまいてきた。

 しかし、私の努力と比例するように、頭痛は激しくなっていく。頭の中をキイキイ声のサルが掻き乱しているのだ。当然、満足な睡眠も取れる筈がなく。

 鏡に映る、半狂人のようになった自分の顔を見てようやく私は気が付いたのだ。

 おかしいのは私ではない。オマエラの方だ。

 悪いのは私ではない。オマエラの方だ。

 だから、私は。






※プロローグ

 自分がそこに立っていることが、矢澤にこには未だに信じられなかった。

 今から歌う予定のステージは、今迄経験してきたようなチープな作りとはほど遠い、豪華絢爛という文字を具現化したような大仰なものである。

 客席でははち切れんばかりのアイドルファン達が歓声を上げ、出演アイドルの名前を叫び、コールをしたりと思い思いに自分の推しチームを応援していた。

 このステージには、我が家の食事何年分の金額がかかっているのだろう。緊張を解すことも兼ね、そんな所帯染みた想像を繰り広げながら、にこは仲間たちの方へと視線を送る。

 皆一様に、緊張こそしているようだがそれでも眼前に広がるステージに闘志交じりの視線をやっている。図らず、にこの口元が緩んだ。

 前のアイドル達のパフォーマンスが終わり、一際大きな歓声が会場を包んだ。

「行くよ、皆!」

 それを横目に見ながら、チームのリーダー的存在である高坂穂乃果が、鋭く声を飛ばす。

 時折抜けたような姿を見せるものの、肝心な所で皆を鼓舞できる彼女のことを、にこは決して口に出す気はないが、高く評価していた。

 穂乃果が差し出した手に、皆が手を重ねていく。

 まず園田海未と南ことりが、先を争うように手を重ねた。この二人は穂乃果のことになると、どうにも周りが見えなくなるきらいがある。

 西木野真姫、星空凛、小泉花陽の一年生組がそれに続く。

 絢瀬絵里、東條希が手を重ねたのを見て、最後ににこが皆の頂点に手を置いた。部長という立場か一番病患者か、何だかんだと言ってもにこの好きなものは頂点である。

 お決まりの文句を皆で言い、手を掲げる。皆が笑っていたので、緊張を押し[ピーーー]ように、にこも笑う。

「ラブライブ、絶対勝つわよ」

「当たり前やん、ウチ達には勝利の女神が付いてるんやから」

 希とそんな軽口を言い合いながら、にこはステージに向けて駆け出した。



 筈だった。袖からステージに一歩踏み入れた瞬間に感じたのは、どうしようもない違和だ。

 眼前の景色が歪み、世界が反転し立っていられない程に足元がふわつく。泥酔したサラリーマンのような気分に、吐き気を覚える――無論にこは酒など飲んだことはないのだが。

 徐々に黒が占めていく視界の中、にこは仲間を、 μ'sを見ようと必死に目を凝らす。

 しかし、それを捉えることは出来ず、にこの意識は闇の中へと沈んでいくのだった。

 微睡の中、頬に当たる硬く、冷たい感触ににこは目を覚ました。

 しょぼしょぼとぶれる目で、自分の頬に触れていた物へと視線をやると、それははたして机の天板である。

 どうにも教室の机に突っ伏して寝ていたようだ、と合点しにこは凝り固まった身体を伸ばす為にその場で伸びをした。腰と腕の骨が悲鳴を上げる感触が、やけに心地良い。

 ラブライブに出演とは、妙な夢を見たわね。そう一人ごちたところで、教室内がやけに暗いことに気が付く。電灯がついているので、何も物が見えない程に暗い、というわけではないのだが、夜中に自室で目覚めたような、そんな気分がしたのだ。

 誰も起こしてくれず、夜になってしまったのだろうか。訝しがりながら窓へと顔を向けた瞬間、僅かに残っていたにこの眠気は吹き飛んだ。

 窓に鉄板が打ち付けられている。僅かな隙間すら無く、目に見える範囲全ての窓に、硬質のそれは嵌めこまれていた。

「ど、どういうことにこ」

 にこ、等とふざけている場合ではない。もっと手軽に出来るものであれば、またぞろ凛辺りが悪戯をしたのだろうと呆れることもできた。しかし、このような分厚い鉄板を打ち付けるなど、明らかに悪戯の範疇を超えている。

 そも、自分が寝ている横でガンガンと鉄を突く音が聞こえれば、どんな寝坊助でもたちまち飛び起きるであろう。とすれば、これは一体どういうことなのだ。鉄板部屋で惰眠を貪った覚えは、にこには無い。

 ふと教室の隅に目をやれば、また非現実的なものが視界に映る。黄色い監視カメラと、その横に佇むは武骨なフォルムの、巨大なマシンガンである。銃に関する知識など皆無と言っても過言ではないにこの目から見ても、一度攻撃を受けたら命はないだろうと思わせるほどに、そのマシンガンは凶悪な気配を放っていた。

「何よ、これ。一体何なのよ……」

 人間は、自分の持つ現実からかけ離れたものを見た場合、一時的に思考をやめることがある。山で遭遇する熊、海で遭遇するクトゥルフ、スコアマッチの愛太。それに近しい恐怖を、にこはこの異常な空間から感じ取ってしまっていた。

 必然、思考が止まる。自分が晒されている脅威を認識することを放棄し、挙動不審に辺りを見回す機械と化してしまう。そんな中、黒板に書かれた文字に目が止まる。鉄板とマシンガンに意識を取られすぎて、今迄気付かなかったようだ。

「汚い字ね……ええと、『おはようございます。目覚めたら、体育館へどうぞ』ね。体育館……?」

 非現実の中に出現した日常的単語によって、にこの思考が正常に働き始める。正常化したところで、マシンガンがどうなるというわけでもないのだが。

「明らかに罠っぽいわね」

 そう言いながらも、にこの足は教室の出口へと歩き始めていた。マシンガンをこれ以上視界に入れておきたくなかったのだろう、顔をやや下に向けたまま、にこは教室の扉を開く。

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