八幡「やはり俺の三学期はまちがっている」 (130)

 自分の中の正義と社会の正義、どちらに従うべきかという話がある。
前者に従えば他人に迷惑をかけてしまうかもしれないし、周りから
白い目で見られる可能性が高い。
よって、多くの人は後者に従う。理不尽だと思うことに対しても、
それが社会の常識だと言われれば納得してしまう、いや、納得するふりをする。
自分の中の正義を押し殺して、他人に合わせる。もう自分の正義など持っていないという
人もいるかもしれない。
皆他人に対して、自分に対して嘘をつきながら生きていく。
中には自分の正義を貫いて「偉人」とよばれるまでになった人もいるが、そんなのはごくまれに起こる例外だ。
すなわち、社会の中で生きるということは、嘘の中に生きるということと同義なのである。

しかし、これがぼっちの場合になるとすべてが逆転する。
自分の中の正義に従ったってそもそも他人に関わらないので迷惑もかけない。
周囲に白い目で見られるどころか眼中に入りさえもしない。何それ悲しい。
とにかく、ぼっちというのは、自分の正義に従って生きることのできる、
自由かつ誠実な生き物で、その生き方は偉人と呼ばれる人たちのそれと同じだ。
つまり、ぼっち=偉人という方程式ができあがってしまうのだ。
そうとなると、ぼっちのなかのぼっちたる俺は、偉人の中の偉人ということになる。
なんだ、おれ最強じゃん。こんな100年に1人の逸材の俺には、過度の罵倒や、
暴力行使をやめるべきである。やめてくれないかなぁ。


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3学期が始まって2週間が経過した。

テレビではどこかの町の積雪量が過去最高などと騒いだりしているが、
教室のなかは暖房が効いていて、ぽかぽかお昼寝日和といったところだ。

今の授業科目は数学なので、寝たふりをしながらまたどうでもいい考え事をしていたが、
暖かさに負けてそのまま寝てしまった。

しばらく寝ていると、「・・ちまん、八幡!」と俺を呼ぶ声がする。

俺のことを下の名前で呼ぶやつは俺の知る限りでは2人しかいない。

ルミルミと愛しの戸塚だけである。(材木座?ナニソレハチマンヨクワカンナイ)

となれば教室にいるのは戸塚だけなので、必然的にこの声の主は戸塚ということになる。

しかし、それにしては声が高い。戸塚も男子の割にはこえが高いが、そのさらに一段上という感じがする。
疑問に思いながらも顔を上げてみると、そこには由比ヶ浜がいた。

「ヒッキーやっと起きた!もう、何回も呼んでるんだからさっさと起きてよね!」

「おう。悪い、それより戸塚に呼ばれた気がしたんだが。」

「へ?、さいちゃんならいま教室にはいないけど。お手洗いじゃないかな」

「……もしやとは思うが、さっき俺の名前を呼んだのはお前か?」

「う、うん……」

言いながら、頬を赤く染める由比ヶ浜。おい、自分からやったんならそんなに恥ずかしがるなよ。こっちまで恥ずかしくなってくるだろうが。

「男の名前を気安く呼ぶなよ、このビッチが!」

「な!ビッチってなんだし!だってヒッキーって呼んでもたまに反応してくれないんだもん!さいちゃんが名前呼んだら絶対反応するからそれの真似しただけだし…」

最初は威勢よくつっこんだ由比ヶ浜であるが、だんだんと尻すぼみになっていく。
どうでもいいけどつっこみはもっと穏やかにしてくれませんかね。さっきからふたつの夢の塊がたゆんたゆんゆれてるんですが…

「とにかく、これからは、下の名前で呼ぶのはやめろ。さもないとまたビッチよばわりするぞ。」

「だからビッチ言うなし!…ヒッキーはさ、あたしに名前で呼ばれるの、いや?」

由比ヶ浜が目を若干潤ませながら聞いてくる。やめろその目、おれのわずかにある良心が痛んじゃうだろうが。

「ああ、戸塚専用だからな。戸塚以外が呼ぶことは許さん。」

「どんだけさいちゃんのこと好きなんだし…じゃあヒッキーって呼んでも絶対反応してよね!」

「…善処する」

「絶対だからね!」

そう言って足早に自分の席に戻っていく。

こんな風に、由比ヶ浜と長時間教室の中で話すというのは、3学期に入ってからはもう珍しくなくなってしまった。

最初に話しかけてきたときには、向こうも緊張していたのか、話す言葉もぎこちなかったが、
今では部室にいるときと同じような感覚で話している。

俺は、最初の3日ぐらいは由比ヶ浜に俺と教室で話すリスクをしつこく説明していたのだが、由比ヶ浜は気にしないの1点張りだった。なのでもう俺も諦めてしまった。

いや、本当は諦めるべきではないのだろうが、今のこの状況を心地いいと感じてしまっている以上、やる気もこれ以上起きなかった。

ま、いざとなったら俺が由比ヶ浜を脅していることにすればいいし、由比ヶ浜も三浦がトイレに行ったり寝てたり葉山と話し込んでいるときだけ来ているようだし、

このままとりあえずは現状維持ということで様子を見ている。

幸い三浦達は俺と由比ヶ浜がはなすことについては反対していないようだ。

俺はあれこれ考えながら次の授業の準備をする。

次の授業は平塚先生の現代文だ。そのことをわかってて由比ヶ浜も起こしに来てくれたのだろう。


そして、今日の昼休み、考えもしなかった出来事が起きた。

≫3さんありがとうございます。

一番最初の書き込みで改行し忘れました。読みづらくてすいません。
今日はこれで終わりです

1です。なにぶんネット初心者なもので、トリップや安価のつけ方については申し訳ないです
トリップは変えておきました。
今は書き溜めているので。それが終わり次第投下します

土曜の朝、少し早く起きてしまった俺は、特にすることもないので撮り溜めてあったアニメを見て時間を潰していた。川崎とは昨日連絡を交わしており、12時にマックで集合となっている。

小町は朝早くから友達とどっかに遊んで行ってしまった。なので俺は今、一人で家にいるわけだが、一人でいる家ってなんかいいよね。
こうやってリビングでアニメ見てても誰からも文句言われないし。
はぁー、ほんとにるるもちゃんはかあいいなー。

るるもちゃんに邪な想いをはせていると、もうそろそろ出掛けなければいけない時間になった。
最後にあいまいみーを1本だけ見て、準備を終わらせそそくさと家を飛び出す。

マックには15分前ぐらいに着いた。早く来過ぎたかと思ったが、もうすでに川崎が到着していた。

「よう」

短く声をかけると、川崎はこちらに気づいてなかったらしく、

「ひゃう!」

と、可愛らしい声で驚いたように返事をした。

「おい、そんなに驚かなくてもいいだろ」
「いや、だってびっくりしたから・・・後ろから声掛けないでよ」

「悪い、でもそろそろ集合時間だし来ること分かってただろ。」
「・・・こんなに早く来てくれるとは思わなかったし。」
「いや、早いっていうならお前の方が早いじゃねーか。なんでこんな早く来てんだよ。」
「べ、別になんだっていいでしょ。それより女子待たせといてなんの言葉もないの?」

「別に遅れたわけじゃねーしな。それで謝るとかありえねー。自分が何か悪いことしてもなるべく謝りたくねーってのに。」
「まぁあんたはそういうやつだしね。」

ばっさりといつも通りに言い捨てる川崎。
しかし、今日の川崎の身に纏う雰囲気はいつもとは違う。

服装は清楚な感じの白いワンピースで、ポニーテールの結び目もいつもより低めで留められている。
俺の持っていた川崎のイメージ=黒のショーツだったので、いろいろと覆された気分だ。

俺の川崎へのイメージ酷過ぎだろ。

「にしても今日はずいぶんと感じが違うな。」
「・・・変?」

「いや。ただ一瞬お前のねーちゃんかなんかだと思っちまったってだけだ。」

「・・・それってどういうこと?」

「ん?いや言葉通りの・・」
「ちゃんと言って」

「・・・大人っぽくてよろしいと思いまする。」
「宜しい。ったく、最初からそう言えばいいのに。」

「そんな爽やかイケメンみたいなことさらっとはできねーよ。俺に何求めてんだ。」
「・・それもそーだね。」

そう言って川崎が歩き出したので、その後ろを付いていくように俺も歩き出す。
その間は全くの無言であるが、当然のことながら気まずさは感じない。

ただぼーっと歩いていると、川崎が不意に立ち止まる。するとある家の玄関の中へ入っていった。どうやらここが川崎ん家らしい。

「上がって。」
「おじゃまします。」
「そう言えばあんた、お昼食べてないでしょうね?」
「ああ、そう言われたからな、食べてきてないぞ。」

「…そう。ならリビングで待ってて。いまご飯作ってくるから。」
「あいよ。」

そう言ってリビングへ向かうと、そこには川崎の妹が居た。

「あ!はーちゃんだー!」
俺の姿を見つけるやいなや、けーちゃんは俺の胸に飛び込んでくる。
え?なんでこんなになつかれてんの?ハチマンヨクワカンナイ。

「おう、元気にしてたか?」
「うん!」
「そうかそうかー」

そう言って頭を撫でてやる。ちなみにこの光景が外で繰り広げられようもんなら一発で通報物である。

「けーちゃんもまだご飯たべてないのか?」

「うん、まだ京華ご飯食べてない!これからさーちゃんがすっごいおいしいごはん作ってくれるんだよ。はーちゃんもたべる?」

「おう。八幡も一緒に食べるぞ。」

「ほんと?やったー!」

けーちゃんはそう言って抱きしめる力を強める。
ほんと、なんでこう小さい子供って無条件にかわいいんでしょうね?

しばらくけーちゃんの相手をしていると、川崎が飯を持ってきた。
どうやら昼飯はチャーハンのようだ。

「おおー!きょうはチャーハンだ!はーちゃん、さーちゃんの作るチャーハンとってもおいしいんだよ!」

「そうか、それは楽しみだな。」

「まぁそんなに期待しないで食べてよ。」

そう言う川崎の方を見ると、先ほどの私服の上にエプロンを着ている。
なんかこう…すげー色っぽいな。いかにも出来る奥さんって感じだ。

そんなこと恥ずかしくて言えねーが。

「じゃ、いただきます。」
俺が言うと二人もそれに続く。

「いただきます。」

「いただきまーす!」

そしてチャーハンを勢いよく頬張る。うむ、中々にうまい。

「ど、どう?」

川崎が何か心配そうに聞いてくる。どうとは料理の味のことだろう。

「普通に旨い。最高に旨いとは言えねーのかも知れねーがこういう味の方が
温かみがあって俺は好きだ。小町と同じランクをつけてやってもいいぞ。」

「…このシスコン」
「うっせ、ブラシスコン。」
「ファザマザコンでもあるよ。私は。」
「それもうファミコンじゃねーか!」
もうスーパーサキサキブラザーズとか発売しちゃってもいいレベル。

しかし、こんな冗談も言い合いながらも、川崎は顔を真っ赤にしている。
おい、ちょっと料理褒められたぐらいでなんでそんな照れてんだよ。
こっちまで恥ずかしくなっちゃうだろうが。

「まぁ俺の小町びいき心がなかったら小町の王座も危なかったな。」
ふ…やはり俺のシスコン道は何があっても揺るがないのである。シスコンマジ最強。

「そ、それって…ま、まぁあんたが喜んでくれるならそれでよかったよ。」
「なんかはーちゃんとさーちゃん恋人みたーい。」

ファッ!!いきなり何言っちゃってくれてんのこの子。

いやいや俺と川崎が恋人とか…あれ?なんか容易に想像できるぞ!?

ぼっち気質で家族愛が強いという共通点があるから話も合うことが多いし、
おそらく相手を身内と認めたらお互いに強い愛情注ぎそうだし。


こんなことを思ってしまうのはこの一週間一緒に昼飯を食ってるからだろうか。

全く、自分の中学時代からの成長してなさ具合には嫌になる。
いや、こういう自分を諌めるために勘違いするべからずという教訓を持って過ごしてるんだ。
感情は生まれてしまうのだから仕方ない。誰かさんに「化け物」と言われた理性で、
それを制御するのだ

よし、心の整理完了。

しかし。お隣にいるこいつはそんな余裕はなかったようで、

「け、けーちゃん!そんなこと言わない!私がこいつとこ、恋人とかありえないから!」
「なんで?、さーちゃん、はーちゃん嫌い?」

「いや、きらいとかじゃなくてその」
「やっぱりー!さーちゃんいっつもはーちゃんのいいところ京華にいってるもんね!」
「こら!京華!それは言っちゃダメなやつでしょ!」

え、なにそれ、聞いてないんですけど俺の今さっき稼働したばかりの理性が剥がれかかってんですけど。
つーかなんだよ、俺のいいところって。あって2,3個だろ。いっつもってありえないだろ。

「それ…本当なのか?」
「うん!それで京華、あのとき会ったお兄ちゃんがそんなにかっこよくて優しいって分かったから、京華もはーちゃんのこと大好きだよ!」
「ちょ!こら京華!」

川崎史上おそらく最高の慌てぶりでけーちゃんを抑えようとする。

ていうか「も」ってなんだよ「も」って。
まるで川崎も俺の事大好きみたいじゃねーか。
もう俺の理性は崩壊寸前である。

「はーちゃんはさーちゃんのこと好き?」
純粋な眼差しで聞いてくるけーちゃん。く、これじゃ誤魔化すことも叶わなそうだ。
「あー、まぁいいんじゃないか。料理上手いし、優しいところもあるしな。将来いいお嫁さんになると思う。」

「な、なあああああああ!」
「だが俺の目標は専業主夫だ。おれはいい奥さんじゃなくて働いてくれる奥さんが必要なんだ。」
「……」

そう言って何とか茶化す。こうでも言わないとほんとに川崎ルートに入ってしまいそうだ。
「うーん。京華難しいことよく分かんない!好きか嫌いかで言って!」

茶化せませんでしたとさ。くそ、ちょっと恥ずかしいが思ってることを言うしかない。

「好きか嫌いかでいえば…好き…かな?」

「っ~~~~~!!!」

川崎はとうとう顔から湯気が出るほどに顔を真っ赤にして顔を机に突っ伏した。

リアルに「かぁぁぁぁぁ///////」みたいな効果音が聞こえてきそうである。
多分俺も今そんな感じだろう。

「じゃあさーちゃんとはーちゃんは“かっぷる”だね!」
「…おい川崎」

俺はけーちゃんに聞こえないくらいの声で川崎に囁く。
「…なに」

川崎は突っ伏したまま応える。

「けーちゃんの前では、もうカップルってことで通さないか?
それの方が傷が浅くて済む気がする。」

「分かった。」
川崎は渋々といった感じで了承する。

「ああ、そうだぞけーちゃん、俺たちはカップルなんだよ。」
「そっかー!はーちゃんがお兄ちゃんとか京華嬉しいなー!」

く、眩しい、眩しすぎる。こんないたいけな子供を騙してるなんておれはなんて・・・
なんて…というか考えるまでもなく屑だった。そうだ。おれって屑じゃん何をいまさら
落ち込むことがある。

そんなことを考えてる自分に落ち込んでいると

「とにかく、さっさとご飯食べるよ。そうじゃないと私たち別れちゃうから。」
「えー!それはやだー。」
「じゃあさっさと食べる。」

そう言ってけーちゃんにご飯を食べさせる川崎。オカンスキル高いなー。

飯を食った後はけーちゃんと川崎と一緒にプリキュアの映画を見たり、
おままごとをして遊んだりした。

時折高い高いをねだってくるので、やってあげたりもした。
その度にけーちゃんは大手を振って喜んでいた。

俺はというと、その三人でなにかをしていると、まるで、家族みたいだなーとか思ってしまい、その思いが胸をよぎる度、頭の芯が熱くなるような感覚に襲われた。

だ、だって川崎が悪いんだ!何かある度に顔を赤くし目線を逸らそうとするんだもん!
そんなことされたら理性はもう限界なんですよぅ。



そんなこんなしている内にもう帰宅の時間となった。

はぁ、長かったような短かったような、何とも言えない時間だった。
ただただ恥ずかしかった。

俺が玄関まで出ていくと二人が見送ってきてくれた

「今日はありがとね。いろいろと。」
「気にすんな。そもそも俺は借りを返しただけだ。」
「そう言ってくれると助かる。」
「ああ、じゃあな。」
「じゃあね。」

「はーちゃん、さーちゃんとさよならのキスしないの?」
「な、何言ってんの京華!」

慌てふためく川崎

しかし俺はこうなることは予想していた。
小さい子と言えば恋愛=キスだからだ。
むしろいつ言われるかと身構えてたまである。

だから俺は用意していた文句をさらっと言う

「あのなけーちゃん、キスっていうのは結婚してからしかしちゃいけないんだ。
だからまだ俺たちはキスできないんだ。」

「へー、そうなんだー!初めて知った!」

「ああ、だからまたこんどな。バイバイ、けーちゃん。」
「うん!バイバイ!」


そう言って俺は足早に川崎家をあとにする。

帰り際に川崎が「まだ…まだ…」

とつぶやいてるのが聞こえたので今日は眠れぬ夜確定である。
くっそー、明日も予定あるのにどうしてくれるんだ川崎の奴。

今日はこれで終わり。
ここまで甘くするつもりなかったんだけどなー。なんでだろ

すいません 1です
大志ともう一人の弟(たしかいたはず)は部活でいません。
それをサキサキに言わせるつもりでしたが完璧に忘れてました。
ほんまにすまん。

「葉山先輩!これなんてどうですかね?」
「ああ、いいと思うよ。いろはは何を着ても似合うと思うし。」
「本当ですか?ありがとうございます!」

時は某日曜日、普段ならアニメでも見ながら惰眠を貪っているところだが、
いまはららぽーとにある俺一人なら絶対に来ないような服屋にいる。

一色と葉山のデート(笑)になぜか付き合うことになったためである。

因みに昨日はほとんど眠れなかった。
川崎との一日のことをいろいろ思い出してしまい、蒲団の中で悶々としてしまったからである。

夜中に奇声を上げながらベットの上をゴロゴロしていると
「お兄ちゃんほんとにうるさい!」と小町に言われたときは泣きそうになった。

しかし出掛ける時には
「お兄ちゃんが休日におでかけなんて…小町的にポイント高いよ!」

とかわいい笑顔で見送ってくれたのでその悲しみも無くなったがな。
あれ?でもそれって俺は家に要らないとかそういうこと?なんか死にたくなったんですけど。

何はともあれ俺は一色が俺が居た方が葉山に対して素を出せるということで付いてきたのだが…

「でもー私的にはー、葉山先輩が一番似合うと思ったものを選んでもらいたいっていうかー。」
全く素なんて出してないですね。どういうことあれ?俺いる意味ある?

「じゃあこれなんてどうかな?」

しかし、今日の葉山の態度には大きな違和感を感じる。
今だって服を選ぶのに全く悩む素振りを見せなかった。

葉山のような、相手に何をしてやればその相手が喜ぶか理解してるやつなら、
あそこは店中の服をある程度見渡してから服を選ぶはずである。

もちろんそれが本当に似合っているかは問題ではなく、

「葉山先輩が私の事で真剣に悩んでくれた!」という事実が必要なのであり、
もしいつもの葉山なら、相手がどんなにどうでもいい相手でも、そういうふりだけでもするはずである。

だが今の葉山は0.1秒も迷うそぶりも見せず、なんなら選んだ服さえ見ずに一色に服を手渡した。
それはもう、あからさまに。

一色に対して、「君には一片の欠片ほどの興味もない」とでも言うように。

一色だって馬鹿ではない。むしろそういうメッセージは敏感に察知してしまうタイプだ。
しかし一色は痛々しいほど顔を引き攣らせながらも

「あは、あははー。いやー葉山先輩が選んでくれるなんて私嬉しいです。
でちょっとお金がなー。」

と笑顔で気丈に応える。
ほんとお前ってすげーやつだな。

「ごめん、実は俺もお金あんまり持ってきてないんだ。なにせ小遣い前でね。
金があったらかってあげたんだけど。」
「いえいえ!そんなおごってもらおうとか思ってなかったんで結構ですよー。
でもお気持ちはありがとうございます!」


これも嘘だ。もし本当に金を持ってないのなら、葉山はこんなデートには来ない。

相手への、特に女性への気遣いを忘れない葉山なら、どんな女性にもある程度の出費を見越してデートの誘いに乗るはずである。

これもまた、「君に出す金はない。」というメッセージであり、
またお金をあまり持っていないダサい自分を演じて一色を遠ざけたいのだろう。

…はぁ、やっぱり俺の危惧していた通りになってしまった。少し胸が苦しい。
別に一色なんてどうでもいいやつなんだが、一応俺の知っている後輩の中では
一番関わっている後輩である。というか知ってる後輩とかこいつだけだけど。

知っている女の子の思いが踏みにじられていく様子を見るのは、どうも気分が悪い。

しかし一概に葉山の事を悪いとも言えない。

一色にこれ以上希望を持たせないようにするというのが、葉山なりの優しさなのだろう。

以前の葉山ならこんなことはできなかっただろう。

自分から一色を捨て、一色から自分を捨てさせる。

他人との関わりを適度に保ってきたこいつからは、考えられないことである。


…いや、違うか。葉山が変わったんじゃない。

俺の知らない葉山の一面が出ているだけだ。
おれはこいつのことなんてほとんど知らない。

今日の葉山は俺の知らなかった葉山だというだけだ。何そのフレーズ、海老名さんが喜びそう。

「じゃあ先輩!先輩は何が似合うと思います?」

「はぁ?」

「いいじゃないかヒキタニ君、選んであげたらどうだ?」
「こいつ…」


どの面下げて言ってるんだこいつ…店の中じゃなかったらぶっ飛ばしてとこだ。

「先輩早くしてください。」

今までの甘ったるい声から一転、やや冷たくも聞こえる声で俺に催促をする一色。
ぷよぷよで言ったら二トリ並の催促である。ふぇぇ、そんなの対応できないよぅ。

ていうかそれを葉山にやれよとも思うが、もう手遅れか。
「わーったよ」

俺は仕方なく服を選ぶ。

と言っても女の子の服の良しあしなんてこれっぽっちも分からない。

そう言えば川崎は昨日清楚系だったな。意外だったが、あれはあれで良かった。

一色も清楚系というわけでもないが、そういう服装というのもギャップ萌えでいいかもしれない。

結局、上は水色、下は黒のシフォンワンピースを選んだ(服の種類は書いてあった)。

「ありがとうございます、先輩!じゃあ早速奢ってください!」
「え?なんで俺は奢らなきゃいけないの?」
「つべこべ言わない!はい先輩。」

そういって服を渡される。くそ、なんでこんなことに。
…まぁ小町に女の子には服の一着ぐらい奢れって言われてるしな。仕方ないか。

しかし、ここで俺はある違和感に襲われる。


何で俺は今一色の服装について真剣に考えた?こんなやつの服装なんてどうでもいいはずである。

高2になってから、何人かが俺のATフィールドを侵してきたが、どうやら一色もその中の一人になっていたらしい。まったく癪に障る。

会計を済ませた後、俺は八つ当たり気味に乱暴に一色に服の入った紙袋を渡す
「ありがとうございます!先輩!えへへー」
なんかにやけてるこいつをみてると、さっきまでの怒りも引いてきた。

ったく、これだから女の笑顔は卑怯だ。

「やっぱりそれ返せ。妹への土産にする。」
「えーそりゃないですよ先輩!」
「うるさい。まぁ今日のお前の俺への態度次第で返してやる。」

そう言って紙袋をひょいと取り上げる

「あ!…あーそういうことですか、全く、先輩は素直じゃないですねー。」
「…うっせ」

目論見があっさり看破されてしまい、少し気恥ずかしくなる。

「葉山せんぱ~い、お腹すきました。おやつにしません?」
「いいね、どこにする?」

俺がぼーとしていると、どんどんと予定は進んでいく。なんかもう俺の存在意義がやばい。
あ、それは元々か。

「あ、あそこにミスドがありますよ!」
「じゃああそこにしようか。」

どうやら3時のおやつはミスドに決まったらしい。
あんたら昼飯食ってきたんじゃないの?ほんとにリア充というのはよく物を食う。

その分ぼっちというのは何分カロリー消費が少ないため、あまりご飯を食わなくても大丈夫だ。つまりぼっちというのは食糧不足問題の解決に一役買っているのである。
もうぼっち全体でノーベル平和賞とかもらってもいいレヴェル。それはないか。ないな。


もう少しでミスドに到着というところで、俺たちは最悪の人物に出くわした。



「あれ?比企谷くんに隼人じゃなーい。それともう一人…お名前なんて言うのかな?」

「陽乃さん…」


最悪だ、最悪過ぎる。考えられる限りで最悪の人物に遭ってしまった。
俺たちはこの後、この人にめちゃくちゃにされるかもしれない。


そんな俺のほぼ百発百中とも言える悪い予感を胸に、俺たちは店の中に入っていった。

今日はここまで。
次はヒッキーの見せ場です。

月曜日、恐らく全ての社畜にとって最も憂鬱な曜日であろう。

休日という天国から一転、労働という地獄へと叩き落される。

またこれから六日間、働かねばならないのか。疲労が取れきっていない体に
更に鞭を打つのか。またあの嫌いな上司と顔を突き合わさねばならないのか。

そんな思いを胸に、電車の中で人ごみに揉まれながら出勤をする。
うわ、想像するだけで嫌気がさしてきた。

しかし俺が今学校に行くのが嫌な理由は、憂鬱ではなく羞恥によるものであろう。

たしかに土日に両方予定が入ってしまい、疲れがあるのは事実だが、
今はそんなことに気が回らない。

とにかく今は今日の昼休みの事が気になって仕方がない。

川崎とあんなことがあった後だ、どう顔を合わしていいか皆目見当もつかない。
くそっ、考えたらまた顔が熱くなってきやがった。

よし、もうなにも気にしてない感じで平静を装おう。
大体向こうは何も気にしてねぇかもしれねえじゃねぇか。

あいつは家族のことが関わらなかったら結構クールだ。
もし何も気にしてない感じだったら、俺も冷静になれるだろう。

行ける、行けるぞ比企谷八幡。

なんとか気持ちを落ち着けた俺は教室の中に入る。
なるべくだれとも目を合わせずに机につく。
そして寝たふりの開始。よし何もおかしなところは無いな!

そしてとうとう昼休み、内心すんげードキドキしながら川崎がくるのを待つ。

頼むからいつもどうりの感じできてくれと今まで一度も信じたことのない神に祈っていたが、やはりそんな奴に神の御加護はなかった。

「…ひきゃぎゃ、う、うん。比企谷。」
そこで噛んだらだめでしょー。

川崎もいつもどうりのクールな感じで行こうとしていたようだが、噛んだことで全てのプランが崩れ去ったらしい。

まるでリンゴのように頬を赤く染め、照れる川崎。

なにこれ、超お持ち帰りしたいんですけど。
もちろんそんなことは怖くて言えない。

何が怖いかってOKされそうなところが怖い。いつも通り勘違いであることを願うばかりだ。

「…一昨日はありがとね。京華もすごく喜んでたし…その…あたしも嬉しかったし…」

話していくにつれ、声が小さくなっていくが、難聴じゃない俺はきっちり聞き取れてしまう。

ソッカーウレシカッタノカーソレハヨカッタナー。

「まぁ…その…俺も楽しかったこともないこともないし…喜んでくれたならそれは良かった。」
「う、うん」

なんでそんなにしおらしくなんの?もう恥ずかしすぎて目を合わせられないんですけど。

そんなこんなで食事は進んでいく。

いつも通りの沈黙が流れていくが、今日に限ってはそれが妙にこそばゆい。
もう食べもんの味なんか何もわからない。

そして、二人ともが食べ終わりかけたとき、

「優美子ー、今日ゆきのん平塚先生に呼ばれて早く帰ってきちゃったから久しぶりに一緒に…って何でヒッキーとサキサキが一緒にご飯食べてんの!?」

「あ!結衣ー。あーしたちもまだ食べ始めたばっかだし一緒に」
「ごめん優美子!それはまたあとで。」
「結衣?」

あっさりといなされてちょっとしょぼんとしているあーしさんまじかわいいです。

「ヒッキーどういうこと?一人で食べるのが好きって言ってたから今まで誘うの遠慮してきたのにサキサキと一緒にお昼してるとかどういうことだし!」
「い、いや~なんかいつのまにかこうなってたというかなんというか…」

「あたしが誘ったんだよ。」

「え!?サキサキが?ってそれもそうか。ヒッキーから女の子誘うとかありえないもんね。」

「当たり前だろ。のみよりも小さい心臓を持つ俺にそんなことできるか。」

「でもそういうお誘いOKするのはヒッキーらしくないというか…」
「それはあたしが適当な理由話したらOKしてくれた。
それにこいつ頼まれたら結局断れない性格してるし。」

え?あの理由って適当だったの?ていうか俺の性格かってに決めつけんなよ。

頼まれても断らないのは小町の時だけだぞ。
あれ?でもそれって小町経由されたら誰の頼みでも断れないじゃん。

「あー確かにヒッキーってそんな感じかも。
あたしやゆきのんが甘えても全然許してくれるし。」

「は?お前らが俺に甘えたことあったか?」
「あ!い、今のなし!ていうかヒッキーがあたしたちのことあまやかしてくるんじゃん!」

「甘やかした覚えないんだが。」

「由比ヶ浜。こいつは天然だから。そんなこと言っても無駄だと思うよ。」

「そっかー、そうだよね。そんなんだからヒッキーの周りに女の子いっぱいいるんだよ。」
「天然ってなんだよ。ていうか俺の周りの女の数なんて葉山とかに比べたらたかが知れてるだろ。」

「たしかに隼人君よりは少ないかもしれないけど…でも大岡君とかよりは全然多いでしょ?」

由比ヶ浜がその言葉を発した瞬間、だれかが椅子から転げ落ちた。
どうやらこっちの話にこっそり聞き耳を立てていた大岡のようだ。

由比ヶ浜からの唐突すぎる流れ弾に撃沈してしまったらしい。南無三。

「まぁそうかもしれんが…でもそんなことお前には何の関係もないだろ。」
「むぅー。もうそろそろ関係あるってわからせるべきなのかなー?」

おいおいわからせるとか怖すぎだろやんきーかよ。

「いや、こいつは分かって無い振りしてるだけでしょ。多分分かろうとするのが怖いとかそんな感じで。」

ぐはっ、中々痛いところを付いてくるなこいつ。

そんな感じで話していると、予鈴が鳴る。よしお前ら、さっさと席につけ。


「じゃあ比企谷、また明日」

「また明日!?これって毎日やってるの?」
「ま、まぁ先週からな」

「むー、とりあえずゆきのんには黙っといてあげるけど、次なんか隠し事してたらゆきのんにばらすから!」
「あいよ。」


「あ、それと比企谷、明日からあんたの分の弁当あちゃし、あたしが作るから。
昼飯は持ってこなくていいよ。」

おそらくさらっと言うつもりだったのだろうが、顔を赤らめながら言っているので、
噛むまでもなく動揺しているのはバレバレである。

よし、あともう一回こんな感じの事があったらお持ち帰りしよう。

「え!?サキサキずるい!あたしもお弁当…」
「お前はやめろ。」

「うわーん、ヒッキー酷過ぎ!」

所変わって奉仕部部室。いつも通り時間が進み、いつも通りに雪ノ下が終了の合図を告げる。

真っ先に部室を出ようとする俺に、由比ヶ浜が声をかける。
どうやら今日は校門まで一緒に行くことになるらしい。

職員室から帰ってきた雪ノ下と合流し、校門前まで三人で歩く。
少し前なら考えられなかったようなことだが、今ではもう当たり前のこととなってしまった。


もう少しで校門から出ようかというとき、

「せんぱーい!」


一色が飛びついてきた。


「いきなりなんだよ。てか手ぇ放せ。」

なんか二人がすごい目で見てくるんですけど。一色さんさっさと放してくれませんかね?

「むー分かりましたよ。ほんと先輩ってケチですよね。」

「待て、俺ほど寛容なやつもそうそういないぞ。」

「それはあなたが反抗する度胸がないだけでしょう?」

「いや、反抗したってどうせ勝てないからな。無駄な労力を省いているだけだ。」
「そんなにしたり顔で言うことじゃないでしょうに…」

雪ノ下がこめかみを抑えながら言う。お前ほんとそのポーズ好きだな。

「で、何しに来たんだよ。」
「あ、それはですねー、昨日のお礼を」

その瞬間俺は昼休みに由比ヶ浜に言われたことを思い出す。
そう言えば隠し事はするなって…まずいぞこれは。

「おい一色、昨日の事はこいつらの前では…」
俺が耳打ちすると、

「ひゃあ!!」

と一色がのけぞった。なんだ?前はこんな風にはならなかったのに。

「先輩、くすぐったいですよぅ。」

この台詞だけみればあざとさMAXなのだが、いまのこいつはこれを素で言っているように感じる。
こいつは陽乃さんほど面の皮は厚くないので、素かそうでないかぐらいは分かるようになってしまった。

ていうか、素じゃないんだとしたら…ちょっとどきっとするな。

「おまえなぁ、そういう反応は葉山にしろよ。
多分あいつでもイチコロだぞ」

「へ?それって…」

みるみるうちに頬を紅潮させる一色

「そ、そんなこと急に言わないでください先輩がいくらひねくれた物言いしても私わかりますからそれにそんなこと言って口説いてももう今更すぎますごめんなさい。」
「わかった、分かったからもっとゆっくり喋れ、な?」

俺は一色を落ち着かせる多めに肩に手を置いた。あれ?なんか普通に触っちまったわ。

こりゃどんな言葉を浴びせられるか…

「ふわ!?だ、だからそういうのをやめてくださいってば!歯止めがきかなくなります!」

「す、すまん。」

「…それに、葉山先輩のことはもうどうでもいいですしねー。」

「なんだ、あきらめちまったのか?それとも雪ノ下さんが言ってたことが原因か?
あんなもん気にすることねーぞ。」
「い、いやーそうじゃなくてですねー、理由は先輩には絶対言えないですけど。」

「?。まぁおまえがいいってんならいいけどよ。」
「そういうことです!先輩!ではまた!」

そう言って立ち去る一色。

すると由比ヶ浜が俺の肩をグワングワン揺らしてくる。ちょっと近いって!
たまに胸とか当たってるって。
「ちょっとヒッキーどういうこと!?なんであんなにいろはちゃんといちゃいちゃしてるの?やっぱり年下がいいの?あたしも年下になればいいの?」
「お、落ち着け由比ヶ浜。別に俺に年下趣味は無い。」

「そう言えばさっき一色さんが昨日何かあったような事言ってたわね。
姉さんのこともあなた言っていたし。そう言えば昨日いきなり変な電話をしてきたわね、姉さん。」

「は?」

「もう比企谷君に手を出すなとかなんとか…今までは私と比企谷君の仲を応援…ではなく取り持つように動いてきたのに、ここにきていきなりそんなことを言い出すものだから少し驚いていたのだけれど…。」

「そりゃあれだろ。もう俺に対する興味が失せたんだろ。
昨日たまたま会ってちょっと悪口を言った。そしたらもう玩具とは見ないって脅されてな。」

「いえ、あの姉はそんなことで誰かを嫌いになる人ではないわ。むしろ…。
それにその現場を一色さんもみていたと推測できるし…それにあなたは誰かになんの意味もなく悪口なんて言わない…比企谷君、あなた女とみれば本当に節操がないのね、見直したわ。」

「見直すのかよ…」

「とにかく、今日は洗いざらい私の家で吐いてもらいます。由比ヶ浜さんも来れる?」
「うん!もちろん!ヒッキ―、サキサキのことも詳しく聞くからね!?」
「えー…」

どうやら俺には、平穏な生活など訪れてはくれないらしい。

まぁ、でもいいか。そんな生活にも、それなりに楽しいことはある。

いろんなことを間違えながら、俺はこの学校生活を進んでいくだろうが、正解しかない人生は、多分とてもつまらないものだろうから、俺は堂々とこの言葉を宣言することができる。


―――やはり俺の三学期はまちがっている、と―――

完結です。駄文にお付き合いただきありがとうございました。

誤字、脱字、変換ミス、句読点の入れ忘れなどは脳内変換でおねがいします。


次回作は長編の前に、イチャイチャ短編でも書こうかなと思ってます。シリアスなしの台本形式で。
タイトルは
小町「雪乃さん、結衣さん、お兄ちゃんって実は、抱き枕がないとねられないんですよ!」

完結です。駄文にお付き合いただきありがとうございました。

誤字、脱字、変換ミス、句読点の入れ忘れなどは脳内変換でおねがいします。


次回作は長編の前に、イチャイチャ短編でも書こうかなと思ってます。シリアスなしの台本形式で。
タイトルは
小町「雪乃さん、結衣さん、お兄ちゃんって実は、抱き枕がないとねられないんですよ!」
みたいな感じになると思います。
では失礼します。

何故か途中で送信してしまった…
あとageわすれてたんでageときます

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