神官「勇者様の様子が変だ」 (57)
神官「勇者様!勇者様!どうしたんですか!?起きてください勇者様!」
勇者「...ん」
神官「勇者様!目を覚ましましたか!どうしてこんな洞窟で倒れていたんですか!というか、大丈夫なんですか!?」
勇者「...大...丈夫。」
神官「大丈夫に見えないんですけど!ぼんやりしてないでしっかりしてください勇者様!」
勇者「...」ポケー
神官「勇者...様...」
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宿屋
神官「...」ガチャ
戦士「あ!神官、帰ってきたか!」
魔法使い「えっと......で、勇者は?」
神官「ええ...発見はしたんですが...その...。」
戦士「...どうしたんだ?」
勇者「......」ポケ-
戦士「...え?」
魔法使い「勇...者...?」
戦士「おーい、勇者ー?」ブンブン
勇者「......何?」
戦士「一体どうしたんだ?普段は元気とツッコミの塊のくせに。何かあったのか?」
勇者「別に...普通。」
戦士「いや絶対に普通じゃねぇから!お前いままでそんなテンション低い時なんて一瞬でも無かっただろ!」
魔法使い「勇者...どうしたの...?」
戦士「神官!勇者はどうしてこんなんなっちまったんだ?」
神官「私にもわかりません...。町外れの洞窟で勇者様を倒れている所を発見して...それ以降ずっとこんな感じです。」
戦士「洞窟?勇者、お前あんな所で何やってたんだ?」
勇者「......なんか、巨大な魔物がいたから......追いかけて......洞窟に......多分。」
戦士「多分ってなんだ多分って。」
勇者「......さあ?」
戦士「さあ...ってお前なぁ...。こいつ本当に勇者か?誰かの変装なんじゃねえのか?」ビヨ-ン
勇者「......いふぁい。」
神官「偽物...ですか。可能性がゼロとは言えませんが...。」
魔法使い「で、でも見た目はちゃんとした勇者だけど...。」
戦士「こういう時は質問が一番だな。おい勇者!私との模擬戦闘でお前は何勝何敗だ?」
勇者「うー.........21勝5敗3引き分け...だと思う。」
戦士「...あれ?お前それだけしか負けてなかったっけ?...お前確か8敗くr」
神官「21勝5敗3引き分けで間違いないですよ。」メモペラペラ
戦士「そ、そうだそうだ!お前ので正しいんだ!」
勇者「...うん...正しい。」ポヤァ
魔法使い「(あんなに元気だった勇者が...どうして?それに、なんだろう?なんか他にも違和感を感じる...)」
魔法使い「え、えっと...勇者?...ちょっと、僕の杖を握ってみてくれる?」スッ
勇者「...?こう...?」ギュッ
魔法使い「...............あれ?これって......まさか!?」
戦士「?」
神官「一体どうしたのです?」
魔法使い「勇者の......魔翌力が、空っぽになってる!」
戦士「は?」
神官「な、なんですと!?」
勇者「...」ポヤァ
戦士「魔翌力が空って…私みたいになっているって事か?」
魔法使い「いや...普通どんな人でも多かれ少なかれ魔翌力はあるはずなんだけど...今、勇者は文字通り空っぽ...魔翌力が全く感じられない!」
神官「なんと...それは大変な事ではないのですか?」
魔法使い「...理論上は魔翌力が全くなくても生活には支障ないと聞いたことはある。けど、魔翌力がゼロという人は今まで例が無いはず...。」
戦士「そうか。ただ、問題は生活どうこうよりも戦闘に関してだが...」チラッ
勇者「......」ポヤァ
戦士「お前の事で話してるんだ!ちゃんと聞け!」ポカリ
勇者「......痛い。」
戦士「(勇者が魔法を使えない......いやまて。ひょっとしたら、剣の腕までも落ちていたりしてないよな?でも、もしそうだったら...)」
戦士「えーい!勇者っ!」
勇者「.......?」
戦士「模擬戦闘するぞ!異論は認めん!さあこい!」ガシッ
勇者「......ぇ?...ぁ?」ズルズル バタン
神官「...おや、戦士さんは相当不安らしいですね。」
魔法使い「僕だって不安だよ...。いくら勇者でも、魔法が使えないっていうのは相当まずいんじゃないかな?」
神官「確かに、そうですね。......私は、親戚に手紙で聞いておきましょう。」
魔法使い「あ、前に話していた魔物に詳しいっていう親戚の方のこと?」
神官「ええ。あの人は変わった人ですから、意外と何かわかるかもしれません。」
1時間後
戦士「よう......今帰ったぞ。」ボッロボロ
勇者「......ただいま。」ボロッ
神官「...お帰りなさい。どうやら剣術の方は問題ないみたいですね。」カイフクマホウ ピカ-
戦士「いやー、良かった。剣の腕まで落ちていたら、どうしようかと。これで一安心だ。」
勇者「......なんか、戦士、怖かった。」
魔法使い「それより、どうするの?予定では、明日にはここを出るはずだったよね。」
神官「勇者様の異変...。放っておくのはあまり良くないと思いますね。」
戦士「勇者は魔法剣士的なポジションだからなぁ。魔法と剣の両立で戦わないと厳しいんじゃないのか?」
勇者「......問題、ない。」
戦士「問題ありまくりだバカ。魔法使えないなんてただの戦士じゃないか。言っとくが戦士のポジションは渡さないぞ。」
魔法使い「...もしかして、それが本音?」
神官「どちらにしろ、原因だけでも掴んでからにしましょう。出発は延期です。」
勇者「......大丈夫だって。」
戦士「だったらシャキッとしろこの馬鹿!」ポカリ
勇者「......痛い。」
神官「一応、今から勇者様をお医者様に見せに行ってきます。もしかすると、お医者様なら何か分かるかもしれませんしね。」
戦士「そうか、分かった。それじゃ...私達は魔物の討伐依頼でもこなして小金を稼ぐとするよ。」
魔法使い「『達』って、あの...僕も?」
戦士「当たり前だ。他に誰もいないだろう。」
魔法使い「ええ...でも僕、勇者が心配で...。」
戦士「神官がついてるんだから大丈夫だ。討伐依頼が済んだらついてに酒場にも行く予定だぞ。」
魔法使い「なら行きます。」ガタッ
診療所
医者「うーん...申し訳ありませんが、私にはさっぱりです。」
勇者「......」ポヤァ
神官「そうですか...病気の類いでないとすると、やはり......あの洞窟ですかね...。」
医者「洞窟?ひょっとして、町外れにポツンとあるあの洞窟の事ですか?」
神官「ええ、そうですが...。」
医者「あの洞窟は立ち入り禁止になってるんですよ。入口に立て札があったはずですが...。」
神官「実は、あの立て札は私が来た時にはバラバラに壊れていまして...文字が読めなかったんです。恐らくは魔物の仕業かと思います。」
医者「なんと...そうでしたか。後で私が町長に報告しておきましょう。」
勇者「......zzz」
神官「......ちょっと気になったんですが、あの洞窟がどうして立ち入り禁止なのか理由をご存知ですか?」
医者「さあ...町長は立ち入り禁止の理由を頑に言おうとしないんですよ。そのせいか、ある噂が流れましてね。」
神官「噂......ですか。」
医者「はい。実は立ち入り禁止のお知らせが出る数週間前に、町長の娘が失踪する事件があったんです。それと何か関係があるんじゃないかってね。」
神官「失踪...?その話、詳しく聞かせて頂けませんか?」
医者「ええ...構いませんよ。」
勇者「......」スピ-スピ-
酒場
魔法使い「ぷはぁ...。親父!もう一杯!」
酒場主人「へいへい。お嬢ちゃん、見かけの割によく飲むねぇ。」
魔法使い「なんだよ。そっちの方が親父も嬉しいだろ?」
酒場主人「まあそうだけどよ。ただ飲み過ぎで汚いものをまき散らすのは勘弁してくれよ。」
魔法使い「心配すんなって!そんなヘマしねぇよ!」グビグビ
戦士「はぁ...いつも思うけどお前のそれは酔いってレベルじゃないよな。もう二重人格だそれは。」
魔法使い「そーか?みんなこんなもんじゃねぇの?」
戦士「そんなのあるわけ...ない...と思うけどな...。とにかくお前はいろいろ変わりすぎだ。」
魔法使い「はっきりしねぇなぁ。お前ももっと飲めばいいのに...。」
戦士「いや、私はすぐ酔いつぶれるから遠慮しておく。」
魔法使い「そりゃ残念だな。お前は人生を相当損してるぞ。」グビグビ
酒場主人「はっはっは!違いねぇ!」
戦士「はいはい。損してる分は戦いに全部まわすから心配するな。それより、あまり飲み過ぎるのは勘弁してくれ。」
魔法使い「なんだよ。さっきの討伐依頼でけっこう儲けたからいいだろ?」
戦士「あんまり無駄遣いすると神官にまた怒られる。誰が稼いだ金でもみんなの共有財産というのが原則だと言われただろ。」
魔法使い「別にまだまだたっぷりあるじゃねぇか。仮になくなってもまた討伐依頼こなしゃいい。お供してやるぜ?」
戦士「出来ればしばらく遠慮したい。あのデカい毒蜘蛛のせいで一回死にかけたんだぞ。」
酒場主人「毒蜘蛛...ってまさかあんたたち、あの討伐依頼をこなしたんか!」
魔法使い「おう、そうだけど...どうしたんだ?」
酒場主人「いや、あの毒蜘蛛の依頼は相当危険で、何人もの腕利きが命を落としたって話だぜ。それを倒すだなんて......強いんだなあんた達。」
魔法使い「なるほど。どーりで報酬がズバ抜けて高かったわけだ。」
戦士「確かにその分いろいろヤバかったな。と言っても、魔法使いがほとんど倒したようなものだがな。」
酒場主人「へえ~。このお嬢ちゃんがねぇ。そりゃ凄いな。」
魔法使い「買いかぶりすぎだ。戦士があいつを引きつけてくれなかったら、絶対ヤバかったって。」
戦士「その性格になっても謙遜癖は変わってないんだな。私は今までお前以上の魔法使いを見た事無い。」
酒場主人「ほう、流石だな。.........あの娘さんだったら、きっとすぐにでも仲良くなれただろうに。」
魔法使い「娘さん?」
酒場主人「ああ、町長のとこの娘さんだ。町で一番魔法が上手くてな…強くて奇麗で人気者だったなぁ….」
戦士「だった....ということは、何かあったのか?」
酒場主人「......失踪さ。ちょうど一ヶ月前くらいだったかな。あの時はみんな大騒ぎだったよ。」
酒場主人「今も捜索は続いているらしいが、成果は上がっていないみたいだな。」
魔法使い「へぇ.........なんで失踪したのか心当たりあったりするかい?」
酒場主人「さあ...なにせ本当に突然のことだったからな...。」
魔法使い「ふむ……じゃ、失踪前に何か気になること言ってたりとかしてたか?」
戦士「おい。なんで急に聞き込みを始めているんだ?」
魔法使い「酒場は情報交換の場だぜ?それに俺はこの町長娘失踪事件が、勇者の異変と何が関係あるに違いないと睨んでるんだ。」
戦士「……どうかな。私には関連性が全く見えないけどな。」
酒場主人「気になること……か。失踪する前日は、町外れの洞窟へ大きな魔物が逃げ込むのを見たから退治しにいくとかは言ってたけど……あの人が魔物退治なんていつものことだからなぁ…。」
戦士「……!」
魔法使い「……案外、ドンピシャってやつかもしれないな。」
宿屋
神官「なるほど……そっちも同じような情報を手に入れたというわけですね。」
魔法使い「うん……一応他の人にも当たってみたけど皆ほとんど同じ話だったよ。」
戦士「半分…結局…半分も……」
神官「…戦士はさっきから一体どうしたんですか?」
魔法使い「ち、ちょっと悲しいことがあって……アハハ」
勇者「……お腹…空いた。」
魔法使い「もうちょっと我慢してて。それでせっかくだから、遅くなる前にみんなで町長さんの所に行った方がいいと考えているんだけど…。」
神官「え?ああ、それならもう私たちが話を聞きに行きましたよ。」
戦士「…え?」
魔法使い「あ、そう……なんだ。相変わらず仕事が早いね…。」
(町長「娘は、洞窟へ魔物退治に行った後、すっかり人が変わってしまったんです…。」
町長「何を聞いても上の空。まるで人形のように無表情で、魔法もできないと言い出して……。
町長「次の日には、『探してくる』と謎の書き置きを残して、家からいなくなっていたんです…!」)
神官「…とのことだそうです。今の勇者様の状態とほとんど一致していますね。」
戦士「うーん……『探してくる』ってどういうことだろうな?」
魔法使い「やっぱり、何かを『無くした』って意味じゃないかな。」
神官「『無くした』…というと魔翌力のことでしょうか。彼女はそれを探しに旅立った……?」
戦士「私からすれば『勇者らしさ』が無くなっている方が問題な気がするがな。」
神官「とにかく、今日の所は休みましょう。明日はちょっと危険ですが、あの洞窟を」
勇者「いやだ」
魔法使い「……え?」
勇者「いやだ」
戦士「い、いや勇者はここに残っていていいんだぞ。洞窟へ行くのは私たちだけで」
勇者「そうじゃない……明日は、出発するべき。」
神官「しかし勇者様。あなたは魔法が使えないと、これから苦労するかもしれませんよ。」
勇者「この…『神聖剣』があれば……問題ない。記憶が…そう言ってる。」
魔法使い「確かに、勇者の証であるその剣の力はすごいものだけど……」
戦士「だからって、お前の異変を放っておくわけにもいかないだろ!」
勇者「…別に…みんなが残りたいんだったら…それでもいい。」
勇者「俺…一人で……進むだけだ。」
神官「……!」
戦士「ほほう。冗談を言うようになったな勇者。ちょっと表に出ろ。」
魔法使い「戦士落ち着いて!剣で挑んでもまた返り討ちにあうよ!」
戦士「知るか!全武器使った本気モードで屠ってやる!」
魔法使い「屠るって『敵を打ち破る』と『切り[ピーーー]』の二つの意味があるんだけど、
戦士はどっちの意味で言ってるの!?」
神官「二人共、落ち着いてください。今は、これからのことを話すべきです。」
戦士「フン……私は、勇者を縛ってでもこの町に留まって原因を探すべきだと思うがな。」
魔法使い「……僕も探索を続けるべきだとは思うけど……急がないといけないっていう
勇者の言い分も……一理あるかなって…」
神官「魔王の存在によって、魔物が異様に活発に活動し、毎日のように被害が出ていますからね。
早く魔王を倒せば、それだけ助かる人が増えるでしょうからね。」
戦士「その考え方もわかる…。けど」
神官「ちなみに、私は勇者様に賛成します。」
魔法使い「!?」
戦士「!?」
勇者「zzz…」
戦士「……意外だ。うちのメンバーでもっとも慎重な神官が。」
神官「慎重だからこそです。勇者様をこんな状態にしてしまうような洞窟を調べるのはリスクが高い。」
神官「この町で調べられることは他には無さそうですしね。先に進みながらこの現象に関する情報を集めていった方がいいでしょう。」
魔法使い「…確かに。勇者が対処できないような現象なら、僕たちが何人行っても一緒かも。」
戦士「魔法使いまで!?ちょ、二人共よく考えてみろ!もし勇者がずっとあのままだったら…」
神官「戦士さん。」
戦士「……なんだ?」
神官「性格が変わっても、あの人は正真正銘の勇者です。」
神官「その彼が大丈夫だと言っているのです。」
神官「信じてあげても、良いのではないですか?」
戦士「……っ」
勇者「……」スピ-スピ-
戦士「えーい!勇者っ!」
勇者「……」グ-スカピ-スカ
戦士「起きろゴラァ!」ボガッ
勇者「!!」ピョ-ン
戦士「模擬戦闘本気バージョンを始める!私とガチでやり合ってもらうぞ!」ガシッ
勇者「……お腹…すいt」ズルズル バタン
魔法使い「……結局、こうなるんだ…。」
神官「まあ、戦士さんはこういうコミュニケーションが一番得意ですから。」
魔法使い「物騒だよね…。でも、本気バージョンってことはやっぱり武器全部を使うのかな?」
神官「そうでしょうね。いつもの模擬戦闘ではなぜか剣しか使いませんが、5つ全部を使うのであれば、勇者相手でも勝敗はわかりませんね。」
魔法使い「剣、槍、鎚、盾、鞭…。いつも思うけどよくもあれほどの武器を使いこなせるよね。」
神官「ええ。だからこそ、近接戦闘においての彼女は部類の強さを発揮します。…あまり張り切りすぎないでもらいたいものですね。」
ガチャ
戦士「…フッ」ボッロボロ
勇者「…」ボロボロ
神官「で、どうしますか?」カイフクマホウ ピカ-
戦士「…いいだろう!私も賛成しよう!」
魔法使い「そ、そう…。(なんか、単純だなぁ…。)」
戦士「いやー、ちょっと挑発したら凄い勢いで責め立ててきてな。まだ勇者らしい所が残っていると安心した。」
勇者「…ご……は…ん。」
神官「…勇者様が餓死しそうなので早く夕飯にしましょう。」
戦士「あ、先食べといてくれ!今の模擬戦で痛んだ武器の修繕頼んでくるから!」タッタッタ バタン
魔法使い「(……また武器屋さんを泣かせてしまうだろうな…。)」
神官「皆さん今日は特に疲れているでしょうから、早く食べて早く寝ることにしましょう。」
翌日 町を抜けた後の大草原にて
神官「……魔物の集団が来ました!ポイズンスライム4匹……それと魔狼6匹ほどです。」
魔法使い「了解。それじゃ、ポイズンスライムを主に狙って先制攻撃を仕掛けておく。」スッ
戦士「OK。接近戦になったら勇者は魔狼を中心に頼む。私は魔法使いと連携してポイズンをやる。」チャキッ
勇者「わかった…。」チャキッ
魔法使い「十分引きつけたかな…そろそろいくよ!」カエンマホウ・ダイ!
ボゥ--ボゥ--
ピギャ---ワオ---ン
プギャ---ワフ---ン
戦士「よし、今のうちだ、行くぞ!」ダッ
勇者「……」コクリ ダッ
夜中 大草原 野宿場所
神官「…戦闘フォーメーションを変えてみても、今の所は問題ないみたいですね。」
戦士「まだ雑魚敵の集団だからな。中ボスあたりでうまく立ち回れるかが問題だ。」
魔法使い「大丈夫。勇者の分まで頑張るから。」
勇者「……ありがと。」
戦士「それより、次の町まであとどれくらいあるんだ?」
神官「このペースで進んでいけば明日の夕方頃には次の町へ到着できますよ。」
魔法使い「ふーん、意外と近いんだね。」
神官「ですがその次の町へ行くには、洞窟を進むか山を登るかしかなくて…………おや?」
鳩「クルッポ-」バサバサ
魔法使い「あ、あれって神官さんの鳩じゃないですか?」
神官「ええ。どうやら返事が来たようですね。」
戦士「親戚のおじさん…だっけ?本当に知ってたりするのか?」
神官「ま、まあ。あの人は変わり者ですから…もしかすると……。」
神官「…………」ウ-ン
戦士「…やっぱ、分からないって?」
神官「……いや、心当たりが無いことも無いと…書いてるんですが…」
魔法使い「!」
戦士「ほ、ホントか!」
勇者「……」モグモグ
神官「ええ。『ただ、自分が知ってるものだとは断定できない。確信を得るために、ある証拠が欲しい』と書いてあります。」
魔法使い「証拠?」
神官「…………『勇者の似顔絵』が欲しいと書いてあります。」
戦士・魔法使い「「は?」」
鳩「クルックルッ」
勇者「……?」スッ
鳩「クルッ!?」パタパタ
魔法使い「…それ、ただ単に勇者のファンなだけじゃなくて?」
神官「流石にそれはないと思います……けど。」
戦士「一体どんな手紙だ。ちょっと見せてみろ。」バッ
戦士「…ってなんだこれは?一体何語だ?」
神官「なんでも、古代の文献に乗っていた言葉だそうで。あの人が手紙書く時はいっつもこの言葉で送ってくるので解読が大変なんですよ。」
魔法使い「……なんで?」
神官「先ほども言いましたが変わり者なんですよ。変人が変なことをするのに理由なんて求めるだけ無駄ですよ。」
戦士「(自分の親戚を変人呼ばわりしたぞこいつ…。)」
勇者「……♪」ツカマエタ
鳩「クル---!」ジタバタ
魔法使い「勇者それ神官の鳩だからいじめちゃダメ!(こういう所は変わってないよなぁ…。)」
神官「ちなみに、魔法使いさんは似顔絵とか描けます?」
魔法使い「え、ええまあ…それなりには。」
魔法使い「でも、流石に今はちょっと暗くて描けないかな…。」
神官「まあそう急がなくて大丈夫でしょう。町について一段落ついたら描いて下さい。」
戦士「その親戚おじさんどこに住んでいるんだ?近かったら直接顔見せにいけばいいんじゃないのか。」
神官「…………あの人は王都に住んでいますから。流石にここから引き返すわけにはいかないでしょう。」
魔法使い「(…え?)」
戦士「それなら仕方ないか。というかそもそも似顔絵がなんで証拠になるんだ?」
神官「私にもよく分かりません。それよりもうそろそろ休みましょう。勇者様、鳩は放しておいて下さい。」
勇者「……わかった」ポイ
鳩「クルッポ-!」ベチャ
戦士「(...こういうのに無頓着なのは、相変わらず勇者だな。)」
魔法使い「感知魔法、張り終わったよ。」
神官「ありがとうございます。それでは皆さん、おやすみなさい。」
戦士「おう。おやすみ。」モゾモゾ
勇者「zzz…」
魔法使い「………(あの鳩が来た方角って、確か…)」
魔法使い「ん……できた。こんな感じでいい?」ペラッ
神官「ええ。十分すぎる出来ですよ。わざわざありがとうございます。」
勇者「……意外な、特技。」
戦士「それにしても上手すぎるなこれ。画家で食っていけるレベルじゃないか?」
魔法使い「そ、それ程でもないよ…///(モデルが終始微動だにしない無表情で描きやすかったしね…。)」
神官「これで、何か進展があるといいんですけどね。」
戦士「さて、それじゃ」ズイッ
魔法使い「そろそろだね」ズイッ
神官「お話の時間……ですね」ズイッ
勇者「…………?」オロオロ
戦士「オロオロするな。もう話をしてくれてもいいころだろ。」
魔法使い「勇者が洞窟に入って何が起こったのか…ほとんど話していないよね?」
神官「あの時は町の調査に集中してましたが、これを機に勇者様が体験した事を詳しく聞きたいと思いまして。」
勇者「……えー……眠い。」
戦士「お前は前もそう言って!今度こそ吐いてもらうからな!」ポカリ
勇者「……痛い。」
勇者「あの時……町を歩いていたら、外に…魔物がいた…から追いかけた。」
魔法使い「…ちなみにどんなのだった?」
勇者「…スライムっぽく透けて、ゴブリンみたいな体して…変なお面してた…っけ?」
戦士「聞くな。…それにしても変な魔物だな。いやホントに魔物かソイツ?」
神官「まあ、人間やただの動物ではないでしょうね。」
勇者「…で、洞窟へ逃げたから…追いかけた。一番奥まで行った。……魔物は消えてた。」
魔法使い「……え?」
戦士「き、消えた…って…?」
勇者「……なんか、空気に溶けるみたいに…スーって…」
神官「…………」
勇者「…そしたら、洞窟の壁が……ピカー……って」
戦士「ピ、ピカー??」
魔法使い「光った…ってこと?」
勇者「うん……それで、眩しくて……気が遠く…なって…終わり。」
戦士「お、終わり?え、それだけか?」
勇者「…」コクリ
魔法使い「つまり、変な魔物を追いかけて…洞窟に入ったら…壁が光って…こうなったと。」
戦士「手がかりどころか、もうますます訳が分からなくなってきたな…。」
神官「……勇者様。自分の振る舞いが以前と大きく違っている事、自覚してますか?」
勇者「……うん。」
神官「では、勇者様が自分自身で感じ取れる『変化』がどういうものか、教えてもらえますか。」
魔法使い「…?」
勇者「変化…………変わった……こと?」
神官「ただ、勇者様から魔翌力が失われているという変化は分かっています。私が知りたいのは、勇者様の『心』の変化です。」
勇者「『心』…?」
神官「そうです。脳で考える理屈的な『変化』ではなく、勇者様が心で感じた『変化』を教えて頂きませんか?」
戦士「お、おい神官?何を言っているのかサッパリなんだが…」
勇者「……」
勇者「…今まで、『心』のことを考えた記憶なんて、無い…。」
勇者「だから…『心の変化』と言われても、よくわからない。」
神官「そう…ですか。」
勇者「ただ…」
魔法使い「?」
勇者「以前の自分から…何かかが抜け落ちているのは、分かる。」
勇者「なんだか、胸の辺り…大きな穴……あるみたい。」ギュッ
勇者「大事な物が…ごっそり抜けた感覚がして……すごく…モヤモヤしてる。」
神官「(……あの手紙で言ってた事は、やはり…!)」
戦士「…あの、すまん。さらに訳がわからなくなった。」
魔法使い「ひょっとして…勇者の何か大事な物をあの洞窟が奪い取ったのかな?もし、そうだとしたら…」
神官「……私にもさっぱりですね。やはり話を聞いただけで解決できるような問題ではなかったようです。」
魔法使い「……!?」
戦士「そうだなー。私はもう考えすぎて頭痛くなってきた。」
神官「でしたら、気分直しに武器屋と防具屋に行ってみてはどうでしょう。この町は鍛治業が盛んで、武器も防具も非常に質が良いのが揃っていると聞いています。」
戦士「おお、それは是非ともいかないとな。ほら、勇者も行くぞ。」クイックイッ
勇者「…え?いや……俺の剣は別に……」
戦士「剣じゃなくて防具!お前の防具もうボロボロだったろ!もう面倒くさいは聞かないからな!」ガシッ
勇者「いや……だから…歩けるって……」ズルズル バタン
神官「……やれやれ…いつものパターンですね…。」フ-
魔法使い「……」ジッ
神官「…どうしました?」
魔法使い「いや……もっと深く追求していくのかと思ったら…意外とあっさり諦めたんだね。」
神官「…まあ、勇者様に話を聞いたくらいで簡単に解決するような問題じゃなさそうでしたしね。」
神官「旅も終盤を迎える頃合いですし、今問題についてあれこれ考えるのは良くありませんよ。」
魔法使い「(勇者と話する事を提案したり、自分から詳しい質問投げかけたりしたのも神官なのに…どうして急に消極的に?)」
神官「それに……私は、王からちゃんと言いつけられていましてね。」
神官「『勇者が魔王城へ一刻も早くたどり着けるように全力でサポートせよ。それがお前の任務だ。』と。」
神官「今私がやるべきことは、勇者の背中を後押しすること。この問題は、旅が終わったらゆっくりと解決しましょう。」
魔法使い「そう……そうだよ…ね。」
神官「魔法使いも、店を回ってきてはどうですか?お金も、少しなら自由に使っていいですよ。」チャリン
魔法使い「うん…そうする。ありがとう。」
魔法使い「(王様推薦の神官だけあって、色々あるんだなぁ……やっぱり、思い過ごしなのかな…?)」
なんで「saga」入れないの?
「sage」じゃなくて「saga」ね
自分で書いたの読み返してみ
数時間後 宿屋
神官「…この先の山を超えたら、もう魔王城まで町は二つしかないようですね。」チズバサリ
魔法使い「最後の町から魔王城までは随分離れているね…ま、当たり前だけど。」
戦士「いよいよラストスパートって感じだな。」
勇者「…」コクリ
神官「あの山を通るには二つルートがあります。」
神官「一つは普通に山を登るルート。時間こそかかりますが、魔物の数が少ないので、商人などが一般的に使用しているルートでもあります。」
神官「もう一つは、洞窟を通っていくルートです。元々、この洞窟はルート短縮のために開通されたものらしいです。」
神官「が、そのうち強い魔物が住みつくようになり、何度も討伐隊が魔物を追い出そうと戦闘を繰り返してきたそうです。」
神官「洞窟は崩落の繰り返しによって複雑な構造になり、魔物討伐が断念された今でも魔物がたくさん住みついている...。」
神官「ですが、魔物との戦闘時間を考えても、登山ルートの半分以下の時間で抜けられるはずですよ。」
戦士「そうか。…私たちもそれなりに強くなったし、ここは急ぎの道で洞窟ルートへ行った方がいいんじゃないか?」
勇者「……洞窟通って……急ぐべき。」
魔法使い「でも、折角武器も最高級の物を新調したんだし…体力や武器の温存という事も考えて、登山ルートもありだと思う。」
神官「そうですね…。これから先の町にはここほど良い物は売っていないでしょうし………まあ、でも」チラリ
勇者「……一刻も、早く……進む。絶対。」
神官「勇者様、妥協する気はないようですよ?」
魔法使い「ハァ…わかったよ。ちょっと心配だけど、洞窟を進もう。」
戦士「何、心配するな。いざとなったら、私がなんとかする!」ドンッ
神官「(…もうすぐ、ですね。)」
次の日 洞窟内
魔狼「ウォォ~ン!」
勇者「!」バッサリ
ゴブリン「ゴブッ!」
戦士「ああもう!そんな錆びた斧なんか効かないよ!」ガキン ザシュ
ファイアスライム「ピキ-!」ボワッ
魔法使い「っ!ウォーターボール!」バンバン
神官「全体回復魔法・祝福!」パァァ
戦士「ちょっと、これは、多すぎ...だろ!」ブシュッ
魔法使い「洞窟の中だから広範囲魔法もできないし...きついかも!」バシュッ
神官「ですが、確実に数は減っています...もう少しです!皆さん!」パァア
勇者「.........」ザシュッ ザシュッ ザシュッ
一時間後
戦士「.........」ゼ-ゼ-
魔法使い「.........」ハ-ハ-
勇者「......」フゥ
神官「もう...来ないのでしょうか?」カイフクマホウ ピカ-
魔法使い「......そう...みたい。周りに魔物の反応はないよ。」タンチマホウ
戦士「(やっぱり、登山ルートにしとけば良かったかも......)」
勇者「......うん。そろそろ...行こう。」
戦士「え?もう?」
勇者「もう。」
魔法使い「ゆ、勇者。あと少しだけ休も?流石に今のラッシュはキツかった...から。」
勇者「...でも」
神官「まあ、そう焦らないで下さい勇者様。...それに、ちょっと気になることがあります。」
戦士「気になる...こと?」
神官「率直に言うと、魔物の様子がいつもと違っている印象を受けました。」
勇者「......うん。なんか、やたらめったら?......に感じた。」
戦士「......そう、言われてみれば......防御よりもひたすら攻撃!みたいな感じだったな。」
魔法使い「そ、そうだった...の?」
神官「分かりやすく言うなら『焦ってた』感じがします。」
戦士「『焦り』......私たちを倒そうと躍起になってたってことか?魔物が?」
魔法使い「な、なんで...?」
神官「さぁ...あくまでも見た印象ですから。思い違いかもしれませんね。」
神官「...ですが、この不自然なまでの魔物の数...ひょっとすると」
ヴゥゥーー!ヴゥゥーー!ヴゥゥーー!
勇者「!!」
戦士「ま、魔法使い!どうした!」
魔法使い「ま、魔物が接近してくる!しかも......魔力量が、普通の魔物とは桁違いだよ!これ!」
神官「(な............まさか。いや、そんなはずは)」
?「おっとっと......不意打ちやろーとしたのに。探査魔法かけてたのかよ。ケッ」
勇者「...」ジャキ
魔法使い「え......こ、声?」
戦士「何者だ。お前。」
魔族将軍「さーて。一応初めまして、かな?勇者御一行サマ?」
戦士「ひ、人…?いや、違うぞ!」
魔法使い「人型だけど…巻き角にあのコウモリ羽……間違いない、魔族だよ!」
魔族将軍「…へー。最近の人間は、魔族と魔物の区別がつくようになってたのか。知らんかった。」
神官「……」
魔族将軍「…まー。もっと大事な区別がついてないみたいだけどな!」ケラケラ
戦士「ワケ分からんこと言うな!…というか、魔族って魔王城を守護する魔王直属の部下じゃなかったか!?」
魔法使い「確かに……なんでこんな所に…」
魔族将軍「おーいおい。そんなに驚く事でもないだろーに。」
魔族将軍「我らが魔王様を狙う勇者一行が、魔王城に刻一刻と近づきつつある。」
魔族将軍「なら、その前に叩き潰しちゃえ!...という発想に辿り着くのは、いたって普通だろ?」
神官「……なるほど。あの魔物を追い立てていたのは、あなたでしたか。」
魔族将軍「そーそー。こうして消耗した所を狙えば…………!!」
勇者「………邪魔、だ。」ブンッ
魔族将軍「いきなりかよ……全然消耗してねえなオイ!」グググ
勇者「………。」ギリギリ
魔法使い「魔を滅する勇者の剣を、素手で止めた………!」
戦士「いや…あいつ…手のひらから何か出てるぞ!」
勇者「……トゲ、か。」
魔族将軍「せーかい。俺は体のあらゆる所からトゲが出せるっていう、魔族の中でも珍しい能力なのさ。」
魔族将軍「フグみたいでキモいよなー。当人の俺ですらあんまり好きな能力じゃないんだよー。」ガキンッ
勇者「…」ズザッ
戦士「そ、そうか。…なら、能力無しで戦うってのはどうだ?私たちは歓迎するぞ。」
魔族将軍「ところがどっこい。この能力…」ウニュ
魔族将軍「意外と便利なんだよねー!」ウニュウニュ!
魔法使い「ぜ、全身から…とげが!?」
勇者「…確かに、キモい。」
魔族将軍「……いくぜ?『千本飛ばし』」ビュビュビュビュ!!
戦士「!…魔法使い!」ガチンッ
魔法使い「…電磁障壁付与術!」ビビビビン
キン!キキキキキキン!
魔族将軍「……盾を媒体にして巨大な電磁シールドを張ったのか…。」
魔族将軍「見事な連携プレイ…だな。流石勇者一行。」
戦士「…どうする?あれじゃうかつに近寄れないぞ。」
勇者「……いつもの、対遠距離魔物用の動きで。」
神官「……それはやめた方がいいです。彼の攻撃は遠距離かつ広範囲です。そしてこの狭い洞窟…勇者様と戦士さんの陽動は通用しないでしょう。」
戦士「なら…どうすればいいんだ?」
神官「…幸い、この防御シールドで敵の攻撃は防げます。これを盾にしつつ、魔法使いが遠距離から……」
ボコッ
ボコボコッ
ボコボコボコッ
魔法使い「…な、何…!」
勇者「地面…!」
戦士「下から来るぞ!避けろ!」バッ
神官「っ…!」バッ
ビュビュ!!ビュビュ!!
ビュビュ!!ビュビュ!!
魔族将軍「盾があるからって、慢心するのはよくないな。」
魔族将軍「俺のトゲは体から離れても自在に操れる。数に限りはあるがな。」
戦士「…皆、大丈夫か?」
勇者「俺は……無事…でも」
魔法使い「……う…」グサリ
神官「魔法使い…!今抜きます…!」
魔族将軍「そんな暇、無いと思うけど?『千本飛ばし』」ビュビュビュビュ!!
戦士「なっ…くそっ!電磁効果が消えた…防ぎきれるか!?」ガキン
勇者「…!」バッ
キキキキキン!キン!キン!キン!キン!キキン!
キキキン!キキン!キン!キン!キン!キキキン!
戦士「ゆ、勇者…!」
魔族将軍「ほぇー…剣だけでこれの大部分を弾くなんて…恐るべし勇者。」
勇者「………」ハァハァ
神官「(さっきの魔物のラッシュで大分体力を使ったはずなのに…まだこれ程の力を…)」
魔法使い「ごめん…勇者。僕がしっかりしていれば…」
魔法使い「……!?う…うぁ…」バタリ
戦士「魔法使い!どうした!?」
神官「…こ、これは…!」
魔族将軍「あ、言い忘れてた。俺のトゲはな、血と魔力を吸い取って膨張するんだ」
魔族将軍「刺さったままにしておくと、どんどん膨らんで、傷口もエラいことになるぜ?」
神官「……」ヌキッ×7 カイフクマホウ ピカ-
魔法使い「……ありがと、神官……。」フラフラ
魔族将軍「一安心してるとこ悪いが、次は更に多くするぜ?」ウニュウニュウニュウニュ!
戦士「…トゲはさっきより細いが、量は倍…ってところか…どうする…。」
勇者「……」ジャキ
魔族将軍「『二千本飛ばし』」ビュビュビュビュビュビュビュビュ!!
魔法使い「……『塞氷結界』」ゴゴゴゴゴゴ!!!!
キキキキキン!キキキキキン!キン!キン!キキン!
キキキン!キキン!キキキン!キキキキキン!
キキキキキン!キキキキキン!キン!キン!キキン!
キキキン!キキン!キキキン!キキキキキン!
魔法使い「ハァ……ハァ……うっ…」バタリ
戦士「魔法使い!馬鹿、無理しやがって!」ダキッ
勇者「……」
神官「(これは…炎熱系魔物を封じ込める時に使う結界術…それで私たちを囲って防御を…)」
神官「(だが、本来これは敵単体に対して使用するもの……魔物との戦闘に加え、トゲで魔力を吸い取られている状態で、これほど巨大な結界を作るとは……)」
魔法使い「……勇…者……来て…。」
勇者「……!」ザッ
戦士「ま、魔法使い…?」
魔法使い「僕……ヘマをしちゃったから…。魔力…ほとんど空っぽだ…。多分、今は…もう戦えない。」
魔法使い「だから……僕の残りの魔力…少ないけど、勇者が……受け取って…。」
勇者「!?」
魔法使い「一時的でも……勇者が、力を戻せれば…きっと、あいつを…。」
神官「…しかし、魔力の直接の受け渡しはリスクが高い…。専用の魔導器具の無い今は…。」
魔法使い「…分かって…る。勇者…剣、貸して…。」
勇者「……」ジャキッ
戦士「……剣?なんで?」
神官「まさか…? ……出来るのですか?」
魔法使い「この剣は、特別。これに魔力を預ければ…きっと、勇者の力に…。」
魔族将軍「…『三千本飛ばし』」
ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュ!!
ガガガガガガガガガガキキキキキキキン!!!!
キキキキキキキン ガガガガガガガガガガ!!!!
魔族将軍「ちっ……ほんっとに硬いな…。」
魔族将軍「(どーするかな…。あんまり時間かけると、面倒な事に…。いや、どっちにしろアイツがチクったら同じか...。)」
魔族将軍「(まーどっちにしろ長引くのはよろしくない……これでお開きにするとしよう。)」ズズズズズズズズ!
魔族将軍「必殺『大釘打』…この巨大トゲで、一気に貫いて終わりかな?」
勇者「……ここ…だ!」バッ
魔族将軍「…なっ…んだと!?」
魔族将軍「(い、いつのまに結界の外に出てやがった!?てっきり中で引きこもってると思ったのに…!)」
勇者「……!」ブンッ
魔族将軍「(くそっ、この『大釘打』の重さで、避けられないか…!)」
ガキンッ
勇者「……」ギリギリ
魔族将軍「まっ…特に問題は無いけど…ね。」
魔族将軍「俺の体のトゲを使えば、剣なんて避ける必要も無い。ちっとは学習したら…」
勇者「…燃え盛れ、『浸炎』」
魔族将軍「…え?」
ボオオオオ!!ボオオオオ!!ボオオオオ!!
魔族将軍「ギャァァ!!アッチ!アチチチチ!!」
魔族将軍「(うっそだろ!?俺が覗き見したやつには確か…!)」
魔族将軍「(ええい!そんなことより、もっと距離を…!)」バッ
勇者「…『幻象・颪切り』」ズバッシュ!!
魔族将軍「はぃぃい!?ちょっちょ危ねぇ!!」ヒラリッ
勇者「………む、外したか。」
魔族将軍「(む。じゃねぇよ!ああくそっ!ここまで本気でやり合う気なかったのに!)」
魔族将軍「最大本数!!『五千本飛ばし』!!」
ビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュビュ!!!!!!!!
勇者「……『風陣壁・大旋風』」フゥゥオオオ!!
フヒュルルルルルルル……フォォォォオオオ!!
キキキキキキキン!!キキキキキキキン!!!!キキキキキキキン!!
魔族将軍「(あーもう…ここまでする気は、無かったんだがな…。)」
魔族将軍「(まあでも……なかなかいい体験ができた…。)」
魔族将軍「………いやはや、見事な戦いっぷりだな。勇者。」ハクシュパンパン
勇者「……。」
魔族将軍「この勝負は預ける。氷の中で縮こまってる仲間達にもよろしく言っておくんだな。」クルリ
勇者「…逃がすと、思ってるのか?」ジャキッ
魔族将軍「いくら平静装っても、結構ギリギリなのは分かるぜ。今までお前が使った魔剣技は体力も魔力も消費が激しい事くらい知ってんだぞ?」
勇者「…関係ない。貴様を……倒さないと……後々」
魔族将軍「また会えたら…な。『千本飛ばし』」ビュッビュッビュッビュッ!!
勇者「…?どこに、飛ばして……?」
ピキッ ピキピキピキ…
戦士「勇者っ!奴は落盤を起こす気だ!」
勇者「…っ!?」
ピキピキピキピキピキピキピキピキピキ
魔法使い「早く……結界に入って!ここなら大丈夫だから…!」
勇者「……」バッ
ピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキ!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
戦士「…収まった…か?」
魔法使い「今……開ける。」シュゥゥウウウ
神官「…ふむ。思ったより大きく崩れている訳ではなさそうです。…ですが、この先は完全に塞がってしまったようですね。」
戦士「あいつは逃げた…か。結局、何だったんだあいつは。私たちを本気で倒す気ではなかったのか…?」
勇者「………」
魔法使い「………あ」フラリ
勇者「……!」ガシッ
魔法使い「…!あ…ありがと、勇者……。」
勇者「……」オブル
魔法使い「……///」
神官「……洞窟の開通は困難。そして今回の戦闘で皆さんの疲労も溜まっています。…今日の所は、引き返すしかありませんね。」
戦士「…くそっ、あいつめ……。面倒なことしてくれたな…。」
魔法使い「(……僕が、もっとしっかりしないと…。)」
さっきの町 宿屋
魔法使い「……」ス-ス-
勇者「…」ベットニヨコタエ
戦士「こんなに疲れたのは久しぶりだ…。まさかあんな所で魔族に出くわすなんて……」
勇者「……魔族が…魔界の外で活動する……聞いた記憶がない…。」
神官「…そうですね。魔族は、いつも魔王城で迎え撃つよう……歴代勇者の記録にも、魔族が人間界にまで来るといった事例は無いはずです。」
戦士「…ひょっとすると、ヤバいんじゃないのか…。もし、あんな力を持つ魔族を町を襲い始めたら……」
神官「その可能性も考えられなくはないですね。今はもう、前例で語れる状況じゃなさそうですから。」
勇者「……急ごう。魔法使いが、回復したら………すぐ。」
神官「ですが、今日はもう遅いです。明後日、登山ルートを使って先を急ぐとしましょう。」
戦士「…うーん……なあ、町の人達に洞窟開通の手伝いを頼めないのか?勇者一行ですって言えば喜んでやってくれると思うんだが?」
神官「……それは王様から禁止されてるって前も言ったじゃないですか。魔王側に情報が行き渡らないよう、勇者の名を出すのは避けろと。」
戦士「いや確かにそうだけど。でももう魔族に私たちのことバレてるじゃないか。こうなったらいっそ開き直って堂々とした方がいいんじゃないか?」
勇者「……」コクコク
神官「…それでも、私はあまり賛成しません。例え人手があっても、時間はそれなりにかかりますし、あの洞窟は一晩経てばすぐに魔物が住み着きます。」
神官「作業中の皆さんを守りながら戦うのは難しいですし、危険です。」
神官「そして何より、彼らがほとんど使わない洞窟を、私達のために危険を冒して掘り返しに行かせるというのに気が進まないのです…………個人的な感情になってしまいますが。」
勇者「………」
戦士「…そっか。……そうだよな。悪い。変な事言って。」
神官「いえ。全然変な事ではありません。魔王城を目前にして急ぎたいという気持ちはよくわかります。」
神官「ですが、『急がば回れ』とも言います。安全かつ着実な道を選ぶ方が良いと私は考えていますから。」
勇者「…………」
神官「さて、戦士さんも今日はゆっくり休んでいて下さい。明日で武器の整備等を行って、明後日山に向かって出発します。」
戦士「ああ…そうさせて、もらうよ。」ドサリ
神官「さ、勇者様。私たちも部屋へ戻りますよ。」ガチャ
勇者「……」コクリ
次の日
戦士「……魔法使い。大丈夫か?」
魔法使い「……うん。魔力はほとんど回復した。もう大丈夫だよ。」
戦士「そうか…。でもまあ、念のため今日だけはゆっくり休んでくれな。いざって時のために、体調は万全にしておかないと。」
魔法使い「…でも、ゆっくりしてなんかいられないよ。早く魔王を倒さなきゃ...いけないのに……。」
戦士「落ち着け。…今はお前が要なんだ。勇者が魔法を自由に使えない今は…な。」
魔法使い「……戦士」
戦士「え?い、いや別に勇者が要じゃないとかそういう意味で言ったんじゃなくてだな…。」
魔法使い「…大丈夫。それはわかってる……けど。」
戦士「けど?」
魔法使い「……ううん。なんでもない。」
神官「……勇者様。」
勇者「…ん?」
神官「眼に隈ができてます。それに顔色も悪いです。……昨晩は眠れなかったのですか?」
勇者「……そんなところ。」
神官「…今日は一応自由行動としてますが…勇者様はゆっくり休んでいた方が良いですね。」
勇者「…でも。」
神官「何か、したいことがあるのですか?」
勇者「……鍛錬。」
神官「そう…ですか。無理に引き止める訳ではありませんが、オススメはしませんね。魔王城へ向けての最後の段階に入ってる今は、鍛錬よりも休息を優先し、万全の状態を整える事が第一だと思います。」
勇者「…………」
神官「…それでは、私はこれで失礼します。」ペコリ
コツコツコツ バタン
勇者「……」
ムクリ ジャキッ
鍛冶屋「………よし。こんな感じでどうだ?」スッ
戦士「……これだけ奇麗に直っていれば十分です。すみませんね、一気に4つも修理してもらっちゃって。」
鍛冶屋「気にすんなって。どれも凄くいい得物で、こっちも鍛え甲斐があった。結構大事に使ってるみたいだな。」
戦士「…ああ、どれも恩師から譲り受けた大切なものだ。それじゃこれ、お代な。」ジャラ
鍛冶屋「はいよ。確かに受け取った。またいらっしゃい。」
ガチャガチャ テクテク バタン
戦士「さて…」
戦士「(武器の整備は終わった…となると暇だなぁ…。)」
戦士「(まだ昼過ぎだし…街巡りでもして、魔法使いにお土産でも買ってくか…)」テクテク
家具屋「さあさあいらっしゃい!あなたの体に合わせたオーダーメイドの家具をお造りいたしますよー!」
服屋「お好みのデザインや大きさでお作りいたします!これを機におしゃれをしてみませんか?」
宝石屋「あなたの大切な人に素晴らしいプレゼントをあげてみませんか?仲が深まること間違い無しです!」
戦士「(……うーん。)」テクテク
戦士「……あれ?」キョロキョロ
戦士「(しまった……結構町の外れまで来てしまったみたいだ。)」
戦士「(相当ぼーっとしてたのか…とりあえず、戻らないと。)」クルリ
ブンッ ブンッ ブンッ ブンッ ブンッ
戦士「……?」ピタッ
戦士「(この音…何かを振るってる?こんなに大きな音…相当重くて速いもののはず…。)」
戦士「……まさか。」ザッ
勇者「……970」ブンッ ブンッ ブンッ ブンッ ブンッ
勇者「……980」ブンッ ブンッ ブンッ ブンッ ブンッ
勇者「……990」ブンッ ブンッ ブンッ ブンッ ブンッ
勇者「……1000」ピタッ
勇者「………」ドサッ ハ-ハ-
勇者「……」スクッ
戦士「あー、やっぱり勇者だったか。こんな重い音立てて剣振り回すなんて勇者くらいなものだしな。」
勇者「……? ……戦士、か。」
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