P「深夜1時のグルメ」 (22)


 久々に家に仕事を持ち帰ってきたが、さっぱり終わりそうにない。
 時間を見ると日付はとっくに変わっていて、もうすぐ1時になるというような所だった。

「腹減ったな」

 小腹が減ったから何かを買ってこようとも思ったが、外に行く気分でもない。
 仕方ない、こういう時は気分転換に夜食でも作ろう。


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「おお、なかなかだな」

 冷蔵庫の中にはあまり使えそうな食材が残っていなかった。
 今日の晩飯で冷蔵庫の中身整理のチャーハンをやったところだ、当たり前なのか。

「……って、ほうれん草があるじゃないか」

 野菜室を開けてほうれん草を見つけたのを皮切りに、エリンギ、魚肉ソーセージを発見する。
 これでメシを作ろう。


 トントン、と軽快な音を立てて、魚肉ソーセージを一口サイズに切り分けて。
 ほうれん草はあらかじめ水洗いをしておく。

「よっ、と」ジャー

 バターの香りが心地良い。フライパンに馴染ませたら、早速水洗いしたほうれん草、魚肉ソーセージを投入。
 軽く炒める。


 冷凍してあった白米をレンジで解凍して、茶碗に装う。
 そこにバター炒めを乗っけただけの、シンプルメシだった。

 だが、これがまたうまい。

「……うん」

 シャキシャキしたほうれん草の食感、これがクセになりそうだ。


 バターの風味を楽しんだところで、例のアイツを持ってくる。
 少し邪道かも知れないが、ご飯の真ん中に穴を開けて。

「……生卵の登場だ」コンコン パカッ

 夏は飲食店で食えないからこそ、こうやって食いたくなるもんだ。
 真夜中にひとりだけ起きていると、どうも独り言が増えるな。ま、気にしない。


「よくかき混ぜて、と」

 ……うん、バターの味が殺されることなく、卵かけご飯と共存している。
 エリンギも全体をぴっちりと締めていて、なんとも絶妙だ。

 箸を動かす手がどんどん進む。


「うっし、ごちそうさん」

 さあ、片付けよう……と器を持ってシンクに向かうと、キッチンとダイニングの境、
 カウンターに塩むすびが3つ並んでいるのが目についた。

「これ……常温だし、明日の朝には悪くなってそうだな。また握ればいいか」


 まだ少し口が寂しいので、嫁に無断ながら3つのおにぎりを食べることにした。
 塩むすび、海苔も巻いていないシンプルなモノがたまらなくうまいのだが、

「俺はこれにプラスアルファで……」

 さっきの料理に使えなかった少量の明太子と、おつまみ用のチーズ鱈を冷蔵庫から取り出す。
 痛風が怖いが、とりあえず作りはじめよう。


 本当はビールも飲みたいのだが、仮にも仕事をしている。そこは我慢だ。

「ん、うまそうだな」

 明太子を、これまた一口サイズに切る。ちょうど平べったくしやすくなった。
 それをすべて合わせてひとつの円盤のようにして、

「酒飲みてぇ……」


 チーズ鱈の封を開け、まず鱈をすべて剥がす。
 鱈が剥がされたただのチーズを、手で適当に揉んでくしゃくしゃにした。
 細かく砕かれたチーズを明太子の上に乗せて、最後に鱈をトッピング。

「絶対うまいぞ、これ」

 これをつまみながら食う塩むすび。絶品に違いない。


「いただきます」

 ……我ながら、塩の量も適量だ。濃過ぎず薄過ぎずでうまい。
 そしてそこに、さっき作ったチー鱈明太子。箸をのばす。

「んめー……っ」

 ああ、俺は今世界で一番幸せな男かもしれない。


 この組み合わせはやっぱりうまい。ずっと食べていられる気がする。
 具が入っているおにぎりではもちろん、その味を尊重しているが……。

「塩だけかかってても満足出来ねぇよな」

 明太子の上にパラパラと乗ったチーズが、また濃厚に口の中でとろける。
 とどめに鱈が最高にマッチする。元々チーズ鱈なんだから、チーズとの相性は抜群。


 明太子のうまみがたまらない一品だ。

「ビール、一缶だけなら飲んでも良いかな」

 適度に塩味の効いたおにぎりがチー鱈明太子を引き立てている。
 やっぱりビールを飲みたい!


 ……と、思ったのだが。

「そういやビール、先週飲み切っちゃってから買ってないな」

 残念だ、この料理で酒を楽しめないとは……。
 次に作るときはビールを用意しようと決意し、俺は再びノートパソコンを見つめた。


 翌朝、トーストを食べながら朝刊を広げていると、嫁におにぎりが無いことをツッコまれた。

「そういえば、おにぎりとか冷蔵庫の中の明太子とか無くなってたけど、食べちゃった?」

「ああ、悪い。昨日仕事してて夜食代わりに」

「分かったの。お仕事大変だね……」


「今が売り出し時だからな。美希がアイドルだった時よりも凄いぞ」

「へぇー、すっごく興味あるの! CD買ってみようかなぁ」

 そういえば、昨日作った夜食はかなりカロリーが高い。
 そんなもんを食ってることが嫁に知られたら、こっぴどく叱られそうだ。

 あの夜食は自分だけの秘密にしておこう……。

ありがとうございました。
ああ、腹が減った。

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