海未「『やんやんっ 遅れそうです』?」 (53)

――部室

海未「お疲れ様で……誰もいませんね。みなさんまだなのでしょうか」

海未「おや、鞄が……これはことりのですね」

海未「いくら部室とはいえ、だれもいないところに置くのは不用心だと思うのですが」

海未「手帳まで開きっぱなしでどこに行ったんでしょう?」

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海未「……」

海未(ことりの手帳、いったい何が書いてあるのでしょう)

海未(……放置してあるということは、見てもいいってことですか?)

海未(っ! そんなのだめです! 親しき仲にも礼儀あり、やはり勝手に見るわけには)

海未「あぁ、手が勝手にー」

海未(すみませんことり、あとでどんな罰でもうけます……)

海未「……『やんやんっ 遅れそうです』?」

海未「なんでしょうこれ」

にこ「お疲れ様ー」

海未「にっ、にににこ! おつかれさまですっ」サッ

にこ「なに焦ってんのよ。まだ海未ひとり?」

海未「え? え、ええ、そのようですね」

にこ「ふーん……で? 後ろになに隠したの?」

海未「」ビクッ

にこ「ことりの手帳?」

海未「はい、机上にただ置いてあったものでつい……」

にこ「ついじゃないわよ! 乙女の手帳を勝手に見るなんて重罪よ!?」

海未「ええ、おやつにされてもいい覚悟です」

にこ(おやつ?)

海未「ですが、にこの言うとおりです。後で私からことりに謝るので、見なかったことにしてくれませんか?」

にこ「……待って、にこも見たい」

海未「はぁ? 今自分で重罪って言ったじゃないですか」

にこ「そうだけど……、いまいちことりの素性をつかめてないっていうか」

にこ「メ、メンバーのことを知っておくのは部長としての義務よ!」

海未「要するに仲良くなりたいと?」

にこ「だ、誰もそんなこと言ってないわよ!」

海未(ばれたらむしろ嫌われそうな気が……あぁ、私もでしたね)

海未「後で謝るのであれば」

にこ「もちろんよ。ほら、早く見せなさいよ」

海未(ノリノリじゃないですか)

海未「ここなのですが、なんだと思いますか?」

にこ「遅れそうなんじゃない?」

海未「でしょうね」

にこ「海未ちゃんがつめたいにこー」

にこ「続きは?」

海未「あるようですね。『たいへんっ 駅までだっしゅ!』だそうです」

にこ「よっぽど急いでるのね」

海未「ええ、ことりがダッシュしてるなんて、滅多にないことです」

にこ「いつもふわふわ歩いてるイメージよね」

海未「時折転びそうになるところがまたかわいいですよね」

にこ「え?」

海未「なんでもないです」

海未「それにしても、駅に行くことなどあるでしょうか」

にこ「穂乃果と遊ぶ時とかは?」

海未「大抵誰かの家なので、そうそうないですね」

にこ「じゃあ、海未や穂乃果には関係ない用事なのかしら」

海未「」ギリッ

にこ「う、海未……?」

海未「大丈夫です、まだ続きがあるみたいですよ」

にこ「あ、うん」

海未「こ、これは……」プルプル

にこ「な、なによこれ!」

海未「『初めてのデート』……」

にこ「『ごめんで登場?』!?」

海未「弓持ってきます」

にこ「それはさすがにまずいわよ!」

海未「どいてください、にこ。私のことりに手をかけようとする輩は排除しなくては」

にこ「それは犯罪……え、今なんて?」

海未「……」ハッ

海未「いえ、何も言ってませんがなにか?」

にこ「そ、そう?」

海未「ええ。それにしても、で、デート、ですか……」

にこ「まったくそんな気配感じなかったわ……」

にこ「っていうか、アイドルは恋愛禁止だってあれだけ言ったのに!」

海未「全くです! 破廉恥なことこの上ない!」

海未「そういうのはまきにこで間に合ってます!」

にこ「そうよ、真姫ちゃんとにこで……って何言ってんのよ!」

海未「にこまきでしたっけ?」

にこ「あ、ううん。ほんとのこと言うとまきにこ」

海未「ですよね。間違ってないか不安でした」

にこ「んもう、海未ったら」

にこ「じゃないわよ! 今はことりの話でしょう!?」

海未「おっと、そうでした。ことりにそのような相手がいるとは思ってなかったですね」

にこ「そうね、バイトしてたときは少し疑っちゃったけど」

海未「思えば、にこと真姫はあのころから仲が良かったですね」

にこ「正直言うと、にこは初めから気になって……いい加減にしなさいよ、海未」

海未「すみません」

海未「ですが、これが本当のことなら一大事です」

にこ「ええ、実際に確かめてみないとダメね」

ことり「ふぅ、ちょっと長引いちゃった」ガチャ

海未「こ、ことり!」

ことり「あ、海未ちゃんににこちゃん、おつかれさまっ」

にこ「こ、ことり、荷物、不用心じゃない!」

海未(にこ、言ってることがおかしくないですか?)コソコソ

にこ(だってしょうがないじゃない!)コソコソ

ことり「あ、ごめーん。かばん置いたままだったね」

海未(自然に、そう、あくまで自然に手帳を返さなくては)

海未「こ、ことこ……こと、ことり?」

にこ(怪しすぎる!)

ことり「んー? なぁに、海未ちゃん?」

海未「て、手帳がそkことり「返して!」

海未「」

にこ「」

ことり「あっ……。その、えっとね? 手帳見られるのはさすがに恥ずかしいから、その……」

海未「い、いえ。落ちてたので拾っただけですよ。中はもちろん見てません」

にこ(謝るとはなんだったんだろう)

ことり「う、うん。大きな声出してごめんね?」

海未「構いませんよ。ですが、荷物の管理はしっかりしてくださいね?」

ことり「はぁい」

にこ(それっぽいこと言って切り抜けるとは、さすが海未ね)

ことり(よかったぁ)フゥ

――練習後

海未「ことり、ちょっといいですか?」

ことり「なぁに?」

海未「あの、今度の土曜なのですが、その……泊まりに行っても?」

ことり「あー……ごめん、海未ちゃん! 今週末はもう予定が……」

海未「そう、ですか」

ことり「ほんと、ごめんね

にこ「真姫ちゃーん」

真姫「にこちゃん! ど、どうしたの?」

にこ「土曜日って練習お休みでしょー。だからぁ」

真姫「ご、ごめんにこちゃん。土曜日は用事が……」

にこ「あ、うん。そっか、じゃあしかたないにこ!」

真姫「ほんとにごめんなさい……嫌いにならないで……」

にこ「それくらいで嫌いになったりしないわよ!」

にこ「だって真姫ちゃんは、にこだけの真姫ちゃんなんだから」ボソッ

真姫「にこちゃん……!」

――翌日、部室

にこ「ということで土曜日暇になったわ」

海未「珍しいですね、あの真姫がにこの誘いを受けないなんて」

にこ「さすがに四六時中一緒ってわけにはいかないわよ」

海未「それもそうですね。では一緒にことりを尾行しませんか?」

にこ「え? 暑さでどうかしちゃったの?」

海未「いえ、私はいつもどおりですが?」

にこ「いつもそうだったのね」

海未「だってにこは気にならないのですか? 手帳に書かれていたこと。そのうえ私の誘いを断ったのですよ?」

にこ「気にはなるけど……ん、誘ったの? 海未から?」

海未「ええ、せっかく勇気を振り絞ったというのに……」

にこ「へぇ、珍しいこともあったもんね」

海未「それを断るだなんて、何かあるに違いありません!」バンッ

にこ「」ビクッ

海未「なので、尾行します。いいですね?」

にこ「は、はい!」

――土曜日

海未「! 出てきました、ことりです」

にこ「他人の家の玄関凝視って……はたからみたら通報ものよね」

海未「あ、あれは! この前私がプレゼントしたワンピースですね」

海未「ふふ、見立て通り、最高に似合ってます!」カシャッカシャッ

にこ(帰っていいかなぁ……)

海未「何してるのですか、にこ! 早くいきますよ!」

にこ(やっぱりだめかぁ)

海未「はぁ、ことり……後姿もなんと素敵な……」

にこ(海未ってこんなんだったかしら)

にこ「……あれ?」

海未「どうしました?」

にこ「なんかこの道、見覚えある気がして」

海未「そうなのですか? 私はわかりませんが」

にこ「うーん……」

海未「にこ、ことりが角を曲がりました。見失わないように急ぎますよ」

にこ「え、ええ。そうね」

にこ「んー、やっぱり」

海未「にこ? さっきからどうしたのですか?」

にこ「ここから三つ先の角を左に曲がると、真姫ちゃんの家に着くのよ」

海未「へぇ、真姫はこんなところに住んでたんですね」

海未「立派な一軒家が立ち並んでいますが……さすが西木野ですね」

にこ「ちょっと、真姫ちゃんを西木野として見るのやめなさいよ。本人は結構気にしてるんだから」

海未「あ、すみません……。あれ、ことりが左に曲がりましたよ」

にこ「三つ目の角……!」

海未「行きましょう、にこ!」

真姫「いらっしゃい、ことり」

ことり「うん、いらっしゃいましたぁ」

真姫「道に迷ったりしなかった? この辺りわかりにくいから……」

ことり「大丈夫だったよー、あんまり来ない場所だからちょっと楽しかったかも」

真姫「そう、ならよかったわ。さ、暑いから中にどうぞ」

ことり「はぁーい、お邪魔しまーす」

海未「」

にこ「」

海未「……いやぁ、真姫のお家は大きいですねー」

にこ「……そうねー、お風呂だってすんごく広いんだからー」

海未「一緒に入ったりするんですかー?」

にこ「たまーになら入ってあげないこともないけどねー」

海未「仲がよさそうで羨ましいですー」

にこ「でっしょー」

海未・にこ(……こんな話してる場合じゃない!)

海未「ど、どどどどういうことですかにこ! 真姫が私のことりに手をだすだなんて!」

にこ「な、ななななに言ってんのよ! にこの真姫ちゃんを誘惑したのはことりじゃない!」

海未「な、ゆ、誘惑!? 私のことりがそんなことするはずがありません! 真姫のほうこそ!」

にこ「は、はぁ!? なによ! にこの真姫ちゃんがそんないやらしいことするとでも言いたいの!?」

海未「……」

にこ「……」

海未「こうなったら……」

にこ「直接確かめるしか……!」

海未「それではにこ、インターホンを押してください」

にこ「なんでにこなのよ」

海未「私が急に真姫の家にやってきたら不信感しかないじゃないですか」

にこ「で、でも」

海未「……おや、怖いんですか? 本当は、真姫が私のことりを誘ったんじゃないかと」

にこ「んな! そんなわけないじゃない! にこの真姫ちゃんよ!」

海未「それなら早く押してくだs真姫「うるさいわよあなたたち!」

海未「」ビクッ

にこ「あ、真姫ちゃん!」

真姫「なに他人の玄関先で言い合ってるのよ! 私がに、にこちゃんの……だとか!」

真姫「恥ずかしすぎてもう外に出られないじゃない!」

にこ「えぇー? でも事実だしー。ていうか真姫ちゃん、ことりを連れ込んで何しようとしてたのよ」

真姫「な、なにってそれは……」

にこ「にこにも言えないようなこと、なの?」

真姫「そんなこと……」

ことり「真姫ちゃんどうしたのー? あ、海未ちゃんとにこちゃん?」

真姫「ことり……」

ことり「……とりあえず、中に入ってもらったら? いつまでも外でってわけには……」

真姫「そうね、二人ともいらっしゃい。ちゃんと話すから」

真姫「いいわよね、ことり」

ことり「……うん、明日には言おうと思ってたことだし」

にこ「ふーん……。だそうよ、海未。ほら、中に入るわよ」

海未「あ、え? は、はい」

にこ「ピアノ……?」

真姫「ええ、ことりが作詞、私が作曲。それを今日で完成させようと思ってたの」

ことり「えへへ、歌詞書いてるって言い出すのがちょっと恥ずかしくて」

海未「そうだったのですか……それなら相談してくれてもよかったんですよ?」

ことり「うん……でも、海未ちゃんいっぱいいろんな事やってるから、ちょっと遠慮しちゃって」

ことり「それに、ことりも歌詞を書ければ海未ちゃんの負担減らせるかなって思ったんだ」

海未「ことり……あなたは本当に優しいですね。でも、ことりの相談だったら私はいつでもうけますよ!」

ことり「海未ちゃん……うんっ、ありがとう!」

にこ「なぁんだ、そういうことだったのね」

真姫「なによ、この真姫ちゃんがにこちゃんを差し置いて浮気でもすると思ったの?」

にこ「それは……ちょっとは不安になっちゃうわよ」

真姫「そう。じゃあ……」

にこ「えっ……?」

真姫(私の想い、今夜たっぷりにこちゃんに注いであげるんだから)ボソッ

にこ「」ゾクゾク

ことり「あ、ねぇ真姫ちゃん! せっかくだし、二人にも手伝ってもらおうよ!」

真姫「そうね、歌詞はことりの甘々なものだから、私もちょっと悩んでたのよ」

海未「そうですか? でも私、作曲のことについてはまったく……」

真姫「大丈夫よ、ことりのイメージに合う曲にしたいと思ってるの」

真姫「だからことりをよく知っている海未の意見がきっと参考になるわ」

海未「そういうことでしたら、この園田海未にお任せください! にこもそれでいいですよね!」

にこ「」

海未「……にこ?」

にこ「」ハッ

にこ「え、ええ。それでいいわ」

真姫「たしかサビがまだ途中だったのよね」

ことり「うん、そうだね」

海未「いきなりサビのところですか? それだと意見が出せるかどうか」

真姫「それもそうね。じゃあいったん完成してるところまで聞いてもらいましょうか」

ことり「歌詞もおっけーだよ!」

にこ(歌詞……あれ、ことりが手に持ってるのって、あの手帳?)

ことり「じゃあ歌うねっ」

海未「」パチパチ

ことり『走りーだす、べりべーりとれいん あーまーくて、すっぱくてー』

海未「ことりー! 素敵ですー!」

にこ「ちょっと、まだ始まったばかりよ」

ことり『かーがみさん、おーしえてよ』

海未「いえ、私が教えてあげます!」

にこ「うるさいわよ、海未!」

ことり『どうか、とびっきりー、か・わ・い・くしてよ!」

海未「十二分にかわいいですよ!」

にこ「たしかにかわいいけど……」

ことり『女の子はー、みんな悩む とにかく、おしゃれはー最優先!」

海未「ことりはそのままでもかわいいですよ!」

にこ(もうつっこまない)

ことり『とめーる? はずーす? ひーとまわり 髪にリボンにあうかな?』

海未「どれも似合うにきまってるじゃないですか!」

にこ(……あれ、もしかしてこれ)

ことり『やんやんっ 遅れそうですー』

にこ(あ、やっぱり)

海未「はっ、急いでくださいことり!」

ことり『たいへんっ 駅までだっしゅ』

にこ(海未は気付いてない……?)

海未「あぁ……転ばないように気を付けてください!」

ことり『初めーてのデート ごめんで登場?』

海未「……デート?」

にこ(あ、気付いたかも)

真姫「ふぅ、とりあえずここまでかしら。ここからはサビの締めを考えていくわ」

ことり「どうだったかなぁ、海未ちゃん!」

海未「素晴らしかったですことり! ことりには作詞の才能もありますね!」

ことり「えへへ、てれちゃうよぉ」

海未「それにしても、手帳に書いてあったのは歌詞の一部だったのですね!」

ことり「……え?」

にこ(言っちゃうんだ……真姫ちゃんに隠れとこ)

真姫「どうしたの? にこちゃん」

にこ「しっ、静かにして!」

真姫「わ、わかったわよ」

ことり「それって……」

海未「いやぁ、ことりが私の知らない誰かとデートに行ってしまうんじゃないかと不安でした」

海未「ですが、そんな不埒なことなかったのですね! よかったです!」

ことり「う、海未ちゃん? いつ、手帳見たの?」

海未「え? あの日です、ことりが鞄を置いて部室を離れて……あっ!」

ことり「……ふーん」

にこ(やっちゃったか……)

海未「あ、あの、ことり? 違うのです、あれは……」

ことり「何が違うのかな? 海未ちゃん?」ニコニコ

真姫(笑顔が怖い)

海未「いえ、違わないのですが、その」

ことり「ことり、手帳は見ちゃダメってずっと前から言ってたよね?」ニコニコ

海未「え、えぇ」

ことり「……見ちゃったんだ」ジロッ

海未「」

海未「ことり? あの、本当に申し訳nことり「帰ろっ、海未ちゃん」

海未「え……」

ことり「真姫ちゃん、せっかく時間とってもらったのに、ことり急用ができちゃった」

真姫「あ、そ、それならしょうがないわ。また今度にしましょう」

ことり「うん、にこちゃんもまたねっ」

にこ「え、ええ」

ことり「さ、海未ちゃん、行こっ?」

ことり(今日明日はことりのおやつにしてあげる)ボソッ

海未「! そ、そんな! 二日もだなんて! うわああぁぁぁぁああ!」

真姫「」

にこ「」

真姫「なんだったのかしら、あの海未の怯えよう」

にこ「さ、さぁ。知らないほうがいいことだって、あるわよ」

真姫「……二人きりね」

にこ「そ、そうね……」

真姫「お風呂、入りましょう?」

にこ「も、もう!?」

真姫「言ったでしょ? 『たっぷり』って」

にこ「え、うそ、本気? いやああぁああぁぁぁ!」


――おわり

スクフェスやってたら思いついた
即興だから海未ちゃんのキャラがぶれてる気がするけど許してください
見てくれた方ありがとうございました

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