歩「探していた場所」 (17)


「おはよう、って誰もいないか」

 貸し切りのレッスンスタジオにアタシの声が響く。時刻は早朝、アタシの呼吸音以外聞こえないなんて普段なら考えられないな。
 
 いつもなら誰かしらと一緒にレッスンをする。真たちとダンス対決をしたり、苦手な歌をジュリアに教えてもらったり。
 
 だが今日は誰もいない。それだけに、身が引き締まる。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1406045683



「それじゃ、始めるとしますか」

 ストレッチをすませ、ウォーミングアップ。軽い動きは次第に激しく。うん、いつも通りだ。
 
 CDプレイヤーのスイッチを入れる。流れてきたのは今日のライブで踊る曲だ。

 靴が床を擦る音、荒い息遣い、大変だが笑顔は忘れずに。鏡を見てチェックする。
 
 顔は自然と笑顔になっていた。当然だ。私は今最高に楽しんでいる。

「夢はナンバーワン、ってな」


 少し前まで、アタシはアメリカにいた。
 
 そこでたくさん学ぶことはあった。友人もできたし、楽しい思い出も辛い思い出もある。
 
 だが結果というものは付きまとう。アタシにとって、それは失敗だった。
 
 何も成せず、何も掴めず。そうやってアタシは日本に帰ってきた。

 帰ってきたころは辛かったかもしれない。だが時が経てば、想いは薄れていくものだ。


 ぼんやりと過ごす日々、目的も見失ってアタシはただ過ぎていく時間に流されていた。

 さすがに親から文句を言われ、自分が唯一自慢できるダンスを活かせないかと考えた。
 
 リベンジ、だろうか? アタシの中に夢を追う情熱がまだあったのかもしれない。

 そうしてアタシは、導かれるようにアイドルの門を叩いた。


『舞浜歩、19歳。夢は大きくスーパーアイドルになること!』

 最初の挨拶はこんなもんだったはず。プロデューサーの困ったような顔は今でも忘れられない。 
 
 そりゃそうだ。どう見ても遊び歩いていたような見た目だからな。

 
 それでもプロデューサーはアタシをアイドルにしてくれた。理由を聞いたとき、ティンと来たとか言ってたっけ。
 
 仲間も受け入れてくれた。真や昴なんかとはすぐ仲良くなれたし、未来や静香にも色々聞かれたなぁ。


 それからは大変だった。まずアタシはダンスしかできない。アイドルは歌に演技も必要だ。
 
 教わりながら、少しずつだけど前に進んでいった。アタシは努力が嫌いじゃないし、なにより楽しかった。
 

 プロデューサーがアタシの苦手な仕事を持ってきて、それに文句を言うのが楽しかった。
 
 真と一緒のステージに立ったときは、今まで生きてきた中で一番燃えたかもしれない。
 
 冬にやったブレイクダンスは今でも時々披露する。そのたびにファンは大盛り上がりだ。


 そう、アタシには見ていてくれる人がいる。

 ファンの人たちはこんなアタシを応援してくれている。
 
 仲間たちは苦手なことの多いアタシを支えてくれたし、共に歩いてくれた。
 
 プロデューサーには……感謝してもしきれないぐらい、たくさんのものを貰った。

「ダンスはオッケー、あとは歌だな」


 今日は初めてソロ曲を披露する。アタシの苦手な歌メインの曲だ。
 
 昔のアタシならできなかったかもしれない。だけど今のアタシならできる気がする。
 
 それだけアタシは成長できたってことだろう。身も心も。


「Anyway 止められない 止めたくない ときめきも きらめきも この鼓動も」

 この歌はアタシが考えたアタシだけの曲だ。もちろんプロデューサーや作曲家さんなど色んな人の力を借りて作られてるけど。
 
 それでも、これに込めた想いはアタシだけのものだ。


「ずっと 自分らしく輝く場所 欲しかった 探してた どんなときも」

 アタシの目指す場所はまだまだ先だ。スーパーアイドルなんて夢のまた夢。いつ到達できるかなんてわからない。
 
 だけど皆となら、プロデューサーとならたどり着ける。そう信じてる。


「Get my shinin',I can't stop groovin',baby Feel me,Feel you,Starry heavens...」


しばらくして扉がガチャリと開いた。やってきたのはプロデューサーだった。

「今日は本番だな。こんな朝から飛ばしてて大丈夫か?」

 飲み物を渡しながら聞いてくる。

「心配ないって。もう体調管理ぐらいできるよ。それに、今日のアタシは絶好調なんだ。動いてないと落ち着かないんだよ」

「ははっ、そうか。なら安心だな」

 そう言って、笑いながら撫でてきた。予想外すぎて完全に固まってしまった。

「ちょ、子供じゃないんだから!」

「俺からすれば皆子供みたいなもんだよ。ほら、そろそろ会場に向かうぞ」

 パッと手が離れる。恥ずかしさに混じって、少しだけ寂しいのはどうしてだろう? まっ、気にしなくてもいいか。


「もうそんな時間か? オッケー、ちょっと待ってて」

 手早く片づけて移動の準備を整える。……よし、大丈夫だ。

「それじゃ行こうか。歩」

「よっしゃ! 行こうぜ、プロデューサー!」

 アタシの居場所へ。いつか夢見たステージへ。

これにて終わりです。ミリオンライブ、舞浜歩のお話でした。
即興なので短いですね。歩の誕生日なので勢いで書いてしまいました。
自分は歩の曲が大好きです。まだ聞いたことのない人はぜひ聞いてみてください。
それでは読んでくれた皆さん、ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom