輿水幸子「Pさんは泳げるんですか! ねぇ!」 (27)


P「泳げんぞ!」

幸子「……え、えぇー……」

P「ハハハッ! いや、昔からどうも水は苦手でな。体が沈んでしまうんだ」

幸子「そんな昔の武将みたいな風体をしてるから沈むんじゃないんですか?」

P「いや、昔の武士は鎧を着ながらの泳法なんてものも身に付けていたらしい。
  まぁ大概のヤツは泳げなかったらしいがな! ハハハッ!」

幸子「はぁ……まぁとりあえずPさんは泳げないって事で良いんですよね」

P「あぁ、お前と同じだ」

幸子「そんな胸張って言うような事じゃないと思うんですけど……。
   というより、それじゃあ一体誰がボクに泳ぎを教えてくれるんですか!」

P「ん? それは勿論俺だ」

幸子「泳げない人が泳ぎを教えられるはずないじゃないですか……」

P「いいや、幸子と一緒に頑張っていれば俺も泳げるようになるさ」

幸子「そんな根性論的なので出来る訳ないですって……」


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P「そんな事を言われてもな、二人でプールに行こうと言いだしたのはお前だぞ?」

幸子「い、いえ、それはわかってますけど……」

P「俺が泳げると思ってたのか」

幸子「Pさんは運動出来るって自分で言ってたじゃないですか。だから泳ぎも……」

P「あぁそうか。妙な期待をさせてしまったようだな、スマン」

幸子「いえ、ボクがちゃんと確認しなかったのが悪いんですから……。
   あっ、というより、本当にどうするんですか! お仕事本番まで後二週間も無いんですよ!」

P「安心しろ幸子。泳げないのなら、補助具を使えば良い」

幸子「補助具?」

P「これだ!」バッ


幸子「……何ですその二枚の板は」

P「ビート板だ。プールサイドにあったから借りてきたのさ。何だ幸子、こんな物も知らんのか?」

幸子「いえ知ってますけど、けど……そ、それ使うんですか? というか、二枚って事は……」

P「あぁ俺も使うぞ。それでだ。ほら幸子、ピンクのはお前のだぞ。借り物だから大事に使え」

幸子「あっ、ありがとうございま……って、いやいや、そっちの青いのは何ですか」

P「俺のだ。何だ、青いのが良いのか?」

幸子「いえ、その……大人がビート板使うのはどうかと……Pさんみたいな見た目の人は尚更……」

P「何だ、恥ずかしいのか? ことわざにもあるだろう、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と。
  これも同じだ。慣らす為の道具を使うのは一時は恥だろう。
  だが、これを使わずに泳げぬままにしておくのは、一生の恥となる。
  そんな事にならないようにする為、この補助具を使うんだ」

幸子「だからボクじゃなくてPさんが……」

P「心配するな。万が一溺れそうになっても俺が全力で助けてやる」

幸子「あのだからPさんも泳げない……」

P「よし、では行くぞ幸子! まずはあちらにある深めのプールだ!」

幸子「あぁちょ、ちょっと! 待って下さいよ!」


P「ふん……1.2から1.8mか。端なら大丈夫だろう。幸子、帽子を被って準備だ。
  先に俺が様子見に入ってみるからな」

幸子「ほ、本当にビート板使うんですか?」

P「あぁ使うとも。逆上がりをするにも、皆最初は補助具を使ったものだ。
  これも同じさ」チャプッ

幸子「はぁそうですか……」

P「うむ……そこまで冷たくない。大丈夫そうだ」

幸子「……Pさん」

P「何だ」

幸子「試しにその板使わないで泳いでみて貰えませんか?」

P「何? なんでだ」

幸子「いえその……本当に泳げないのかどうか……」

P「俺を試すか。ふん……良いだろう。もしかしたらいつの間にか体が水に慣れているかも知れんからな。
  よしっ、泳いでみるか!」

幸子(あ、何かこれ駄目そうですね)

P「……行くぞ!」ザプンッ

幸子(行った……)



ブクブク……


幸子(……武士が沈んで行く)

幸子(というより、水中で何してるんでしょう。腕を必死に動かしてますけど……あれで泳いでるつもりなんでしょうか)

P「ぶはっ! はぁっ、はぁっ……どうだ幸子! 少しは進んだろう!」

幸子「いえ全然前に進んでないです」

P「そうか! ハハハッ! 結局泳げない体のままみたいだな!」

幸子「気持ちよく笑ってないで早く上がってきて下さいよ」

P「いやぁ、難しいな。水に入るとどうしていいのか全くわからなくなる」ザパァッ

幸子「もがいてるだけでしたね」

P「みたいだな。素直にコイツを使う事にしよう」

幸子「……Pさんは泳ごうとしないで、そのまま立ってボクが泳ぐのを手伝ってくれると良いと思うんですが……」

P「いや、それじゃあ示しがつかんだろう。俺も泳げるようにならないと、幸子に置いていかれるからな」

幸子「Pさんはお仕事で泳ぐ事無いんですから別に良いじゃないですか」


P「……お前だけ頑張らせて、自分は良いぞ良いぞと応援するだけじゃどうも燻ってな。
  俺達はここまで力を合わせて叩き上げて来たんだ。
  人気アイドルであるお前のプロデューサーを名乗るなら苦手な事一つ克服出来んでどうする」

幸子「……Pさん」

P「……やるぞ、幸子」

幸子「……は、はいっ!」

P「ビート板でまずは浮くという感触をつかまないとな」

幸子「そ、そうですね……って、あれ。壁に背中くっつけて、何してるんですか」

P「ん? まずはどんなものか、確かめようと思ってな」

幸子(あ、全部Pさんが先にするんだ)

P「行くぞ!」ザパァッ

幸子(あぁ……武士がビート板を構えて壁を蹴ってプールを横切って行く……)

P「……おぉ! 幸子! 浮いてるぞ!」

幸子「は、恥ずかしいから大声で呼ばないで下さい! わかってますから!」


P「お前もやってみろ! 浮かぶというのは気持ちいいぞ!」

幸子「えぇ……」

P「ほらほら、やってみろ!」

幸子(何かPさんを見てると凄いマヌケな絵面なんですけど……大丈夫ですかね?)

P「こんな板きれで浮けるとはな……」

幸子(……でも、何だか気持ちよさそう……)

P「……ん? どうしたー? 早くしないと練習時間が無くなるぞー」

幸子「わ、わかってますよ!」

幸子(……)

幸子「……よいしょ」トプンッ

幸子(ゴ、ゴーグル付けて……)キュッ

幸子「……よし」

P「そのまま壁を蹴って、脱力すれば行けるみたいだぞー! 力むと沈むらしい!」

幸子「そ、それくらいわかってます! ……えいっ!」



ザパァッ


幸子「……」ブクブクッ

幸子(……沈んで、ない?)

幸子「……お、おぉっ……」プカプカ

P「どうだ、幸子。良いだろうこれは」

幸子「え? え、えぇ……そう、ですね」

幸子(浮いてる……ちゃんと)

P「……よし、まずは俺が手を引いて浮く事になれる事から始めた方が良いみたいだな」

幸子「え、あれ、Pさんも泳ぐとか言ってませんでした?」

P「ん? あぁ俺か。俺はもう何となくわかったから平気だ」

幸子「え、早くないですか」

P「ほら、俺は歩いて手を引くからしっかりバタ足してついてくるんだぞ」

幸子「……は、はい」

P「よし……じゃあ引くぞ」


幸子「て、手を途中で放したりしないで下さいね! 真ん中凄い深いんですから!」

P「大丈夫だ、放したりなんかするものか」

幸子「ほ、本当ですよ! ちゃんと引いて下さいね!」

P「あぁ」

幸子「……」ジャブジャブ

P「……」

幸子「……」ジャブジャブ

P「あんまり緊張すると力みが入るぞ?」

幸子「わ、わかってます」ジャブジャブ

P「……どうだ幸子。良い感じか?」

幸子「え? そ、そうですね。ちゃんと泳げてますし」

P「そうか。とりあえず半分まで来たし、対岸まで行ってみるか」

幸子「は、はいっ」

P「……」

幸子「……」ジャブジャブ

P「ほら、あともう少しだぞ」

幸子「はい」

P「そうだ、その調子……」

幸子(あと、あとちょっと……)


P「……よし、着いた。お疲れだ」

幸子「ふぅ……何だか意外と簡単でしたね! ボクの才能でしょうか!」

P「ハハハッ! かもな。幸子はやれば出来る子だからな」

幸子「……フフーン! そうですね! そういえばボクはやれば出来る子でしたからね!
   何でもやれば出来ちゃいますもんね! あぁ自分の才能が――」

P「ただ、ちょっとバタ足がぎこちなかったな。まだ少し、脚に力みが入ってる証拠だ」

幸子「え? あ、そうでしたか?」

P「あぁ。ただ体幹自体はそれなりに脱力出来ていたし、すぐ慣れるだろう。
  このままいけばこんな補助具もすぐにいらなくなるな」

幸子「そう、ですか……なら、心配ありませんね! すぐに慣らしてこんな板使わないで泳げるようにしてみせますよ!」

P「そうか。ただ気負い過ぎないようにな。早く成長しようとしても、体は簡単には追いついていかない」

幸子「わかってますよ。順番に、覚えていきますから」

P「それで良い。よし、じゃあとりあえずあっちに戻ってみるか。もう一回手を引くからちゃんとバタ足するんだぞ」

幸子「はいっ」

P「行くぞ」

幸子「……ほっ」ジャブジャブ

P「よし、上手いぞ」

幸子「フフン、当然ですよ」


P「調子に乗る余裕はないぞ、まだ半分も来てないんだ」

幸子「わ、わかってますよ」ジャブジャブ

P「……」

幸子「……」

P「……」

幸子「……ふふっ」

幸子(何だか……楽しい……)

P「ん、どうした」

幸子「え? あ、いえ、何でもないです」

P「そうか。いや、とても楽しそうにしていたから、良いなと思ってな」

幸子「良い?」

P「あぁ。何事も楽しむ事から扉が開くものさ」

幸子「……はぁ」

P「幸子が楽しんでくれているなら、俺も嬉しいし、何より上達が早くなるだろうし、良い事尽くめだからな」

幸子「……そう、ですか」

P「そうさ。よし半分超えたぞ、もうちょっとだ」

幸子「は、はい」


P「ちゃんと泳げるようになったら、お前の好きな飯を食べに行こうな」

幸子「え、良いんですか?」

P「あぁ。何でも好きなのを言うと良い。金を借りてでも好きなものを食べさせてやるさ」

幸子「……じゃ、じゃあ練習終わったら行きますよ!」

P「何? そんな急がなくても良いだろう。本番まで後何回か練習する機会はある」

幸子「今日行くんです! もう決めました!」

P「今日は俺が行きたいと思っていた店に連れてってやる。それで我慢してくれ」

幸子「え……あ、まぁ……へ、変な店じゃないなら、つ、連れて行ってくれても良いですよ?」

P「評判の店だ、案ずるな」

幸子「そうですか……じゃあ、ついて行って、あげます」

P「そうか……というより、幸子」

幸子「な、何ですか」

P「足、止まってるぞ。手を引くとは言ったが、ちゃんと自分で進まないと前には行かんぞ」

幸子「え? あ、いえ、ちょっと小休止してただけですよ! 対岸なんてすぐ着いてみせますから!」ジャブジャブ


P「おっ、おいおい、力強くやれば良いってもんじゃないぞ」

幸子「Pさんはとにかくボクの手を引いててくれれば良いんです! 後はボクがやりますから!」ジャブジャブ

P「……ふっ、そうか。なら、ちゃんと着いて来い」

幸子「はい!」ジャブジャブ

P「……」

幸子「ほ、ほら! 着きましたよ!」

P「あぁ、偉いぞ」

幸子「フフーン、凄いでしょう? 凄いですよね? ね?」

P「あぁ、凄いぞ。泳げないって言ったのに、ちゃんと怖がらずに出来た。幸子は凄い子だ」

幸子「もっと! もっと誉めて良いんですよ!」

P「おいおい、あんまり調子に乗ると途中で足つるぞ。あまり興奮するな」

幸子「ボクは誉めて伸びるタイプなんですよ!」

P「ハハハッ、そうだな。そうだった。じゃあ凄い幸子は凄く頑張ったんだ。
  一旦上がって呼吸を整えようじゃないか。それからまた練習だ。幸子ならすぐに出来るようになるさ」

幸子「当然ですよ! じゃあササッと上がって休憩しましょう!」ザパッ


P「休憩はササッとは出来ないからな。ゆっくり落ちつくんだぞ」

幸子「わかってますよ、ほら早く」グイッ

P「手を引かなくても、すぐ座るよ」

幸子「Pさんは豪気な癖にこういう所でゆっくりし過ぎるんですよ」

P「そうかな? まぁ良いじゃないか」

幸子「ほら、早くついて来て下さい!」

P「わかったわかった。そう引っ張るな」

幸子「……ふふっ」


……


P「うん、旨いな」

幸子「カレーですからね、おいしいに決まってますよ」

P「それもそうだな。どうだ、幸子も旨いか」

幸子「え? えぇ、おいしいです。でも夏なんですからもっと涼しげなものを食べた方が良いんじゃないですか?」

P「プールで体を冷やした後に冷たいものを食べたら体を壊すぞ。
  なるべく温かいものを口にし、体温上昇に努めないと体が持たん」

幸子「そう、ですか。確かに一理ありますね」

P「あぁ、それに、こういうものを食べて体力をつけないとな。まだまだこれからも練習をするんだ」

幸子「……そうですね。でもボクはあんまり食べれませんから、大盛とかは無理ですよ?」

P「わかってるさ。食べれるだけ食べなさい。残したなら俺が全部食うから」

幸子「はい。残したりはしませんから、安心して下さい」

P「そうか。ならいい、自分の出来る範囲を知っているのも良い事だ」

幸子「フフン、ボクを誰だと思ってるんですか」

P「そうだったな」


幸子「……」モグモグ

P「……幸子」

幸子「ん……何ですか?」

P「泳げるように、なろうな。俺も一緒に頑張るから」

幸子「……はいっ」


幸子(そうして、数日間泳ぎの練習をしたボクは25m程度ならビート板無しでも泳げるようになりました。
   一方Pさんはいつの間にか100m泳ぎ切るようになりました。体育会系は末恐ろしいです)

幸子(そして、運命の本番当日……)


……


周子「でさーPさん」

P「うん? 何だ」

周子「幸子ちゃんと一緒に練習したんだよね」

P「あぁ、したぞ」

周子「Pさんは泳げるようになったんだよね」

P「あぁ、なったぞ」

周子「……どう見ても幸子ちゃん泳げてるように見えないけど」

P「ハハハッ! いや、潜る練習は全くしなかったからな! まさか潜る競技とは思わなんだ」


ピピーッ


周子「あーあ、ビリだよ幸子ちゃん。全然泳げない人って潜れもしないって聞いたけど、本当なんだね」

P「前に素潜りさせたから大丈夫だと思ったんだがなぁ。いや海水と真水では勝手が違うか! ハハハッ!」



チョ、チョットPサン! モグルキョウギナラサイショカライッテクダサイヨ!


周子「なんかこっち見て抗議してるよ」

P「すまんなー! とりあえず第二ラウンドもあるから気合いで乗りきれー!」


ムリニキマッテルジャナイデスカ! エ、ナンデスカシンパンサ……モウツギノラウンド!? キュウケイハナインデスカ!?


P「頑張れ幸子ー! 負けるなー!」

周子「いや、もう負け確定してるってPさん」

P「何、そうか。ベストを尽くせー! 幸子ー!」


カ、カエッタラウッタエマス! ウッタエマスカラネPサン!


周子「訴えるってさ」

P「そうかー! じゃあ法廷で会おう!」


……Pサンノヒトデナシー!


ピピーッ

終わりです。
昔はスイミングスクール的なの言ってた発言はハッタリだったようで。
そこん所もカワイイです。

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