モバP「戦姫絶唱シンフォギアCG!」【本編】 (107)

◇注意事項◇

・この番組(SS)は、視聴者参加型新番組制作進行実況企画、

 モバP「戦姫絶唱シンフォギアCG?」【安価】
モバP「戦姫絶唱シンフォギアCG?」【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1381578436/))

にて募集されたお便り(安価)を元に制作された、「モバマス」と「シンフォギア」シリーズのクロス作品です。


・内容としては、「シンフォギア」の世界観と設定を借り、その中でモバマスアイドル達が活躍するタイプになります(シンフォギア側原作キャラの登場予定はありません)


・一部、「劇中設定」と称した設定改変を含みます。また、死亡を含む、悲惨な設定を付加されたアイドルも登場します。


・なお、そういった設定の大半は視聴者投稿(安価)により決定されたものなので、「どうして俺の嫁がこんな扱いなんだよksが」等の理由で脚本(>>1)に石を投げたりするのはやめてくださいお願いしまむら


・登場人物の選出など、各種設定が決まるまでの経緯は上記アドレスから確認できますが、当然ながら、大いにネタバレを含みます。


・要はモバマス本家でのイベント同様、「“そういう設定”で撮影された番組」という解釈でお楽しみいただければ幸いです。



>上記オッケーな適合者は本編へ!


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405014456

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 ――ここではない何処か、今ではない何時かの時代――――



 

 風の吹く丘の上、静かに佇む女が居る。
 身に纏うのは、どの文明のものかも定かでない不可思議な民族衣装。布地の隙間から覗き見える素肌は透き通るように白く、風に遊ぶ長髪は青みがかった銀。下唇に薄く引かれたルージュの色は蒼く、瞳の色もそれに準じる。
 まるでこの世の者ではないかのような、ぞっとするほどの美貌を持つ女だった。
 そんな女の見つめる先、世界もまた、既に滅びを終えていた。
 そこは元々遥か向こうの山脈まで続く広い平野だったが、今は見渡す限り一面が泥の一色に塗り潰されていた。草木の一本、鳥や獣の一匹さえも残さず、全てを濁流が押し流してしまった結果だ。もはや、緑あふれるかつての景色は面影もない。
 そして、不毛の大地から視線を上げれば――星が、空を駆けている。それも天から降るのではなく、地から天へと逆落としに、無数にと言える数が、だ。

「………………」

 女は、物憂げな瞳でじっとそれらを見つめていたが、背後から近付く足音に気付くと、ゆっくりとそちらへ振り向いた。
 丘を登ってきたのは、夫婦らしき二人の男女だった。夫婦は、泥が膝を汚すのにも構わず女の足下に跪くと、深く頭を垂れて感謝と崇拝の言葉を捧げ始める。だが女はかぶりを振ると、夫婦の手を取って優しく立ち上がらせた。
 そして夫婦の背後、丘の下を指し示す。
 そこでは、巨大な船から降り立ったもの達が、再び活動を始めていた。
 まだ幼い少年少女が、様々な動物の仔らと戯れている。少し離れたところで、泥を掘り返して苗木を植えようとしている若者もいる。別の若者が籠の戸を開け放つと、中で眠っていた鳥達が一斉に羽ばたいていく。
 おそらくは皆親族か何かなのだろう、そこに居並ぶ人々は、夫婦の着衣にあるのと同じ、特徴的な編み込み模様の入ったアクセサリをどこかしら身に着けていた。
 その中で、嫌がる仔馬を無理矢理乗りこなしていた、一番腕白そうな少年が視線に気付き、三人に向かって大きく手を振り――直後、その隙を突いて大きく跳ねた仔馬の背から派手に転げ落ちた。
 それを見た夫婦は慌てて駆け寄りかけ、そこで一瞬、女を気遣って躊躇うような素振りを見せたが、女は微笑と首肯で二人を送り出す。
 女に向かって何度も頭を下げながら、夫婦が丘を下りていき、再びその場には女一人になる。
 その時、ごう、と。
 激しく髪を揺らした風に、女は半身を振り向かせた。
 見上げる視線の先、空へと昇っていった星の軌跡は、既に空の青に溶けつつある。もう数分もしないうちに、完全に見えなくなるだろう。
 唇をぐっと引き結び、目を伏せながら、女は胸の中で小さく呟く。

(――大丈夫。これは皆の総意……そして、私自身の意志)

 消えていく星々に背を向け、視線を再び大地に向ければ、そこには家族の団欒があった。
 落馬した少年が両親に助け起こされ、涙を堪えて鼻をすする。そんな少年をからかいに、あるいは励ましに他の者達も集まり、自然と円を形作る。それはこの大地の上ではあまりに小さな輪だったが、彼らが船から楽器を持ち出し、奏で歌い始めた音色は、人の作る境界を越えて遠く広く響き渡った。
 少年を振り落とした仔馬も、空を舞う鳥達も、まるで互いに意思が通じているかのように自らの鳴き声を重ねていき、そうして歌は、風に乗って遠く遠く広がっていく。
 大地が濁流で一掃されても、生命はまだ、生きることを諦めてはいない。
 自分達の行動で、この光景を守ることが出来たのならば、

「……ええ。この選択に、後悔など……」

 そう呟いて、女は優しげに眼を細め――――




 ――その眼が、炎の赤を照り返して大きく見開かれた。
 いつかと同じ丘の上。しかし見える景色は一変している。大地には再び緑が生い茂り、平野には開墾された田畑と中程度の規模の町がある。
 その町は今、夜空を焦がす猛火に半ばまで喰われていた。
 ごうごうと鳴く炎の声を越えて聞こえてくるのは、人々の悲鳴と怒号。町並を俯瞰できる丘の上からなら、町を襲うものの正体を見て取ることができる。
 それは、異形の怪物達だった。
 怪物の一団を率いる男が奇怪な形状の杖を振るうと、怪物達は逃げ惑う人々に次々と食らい付き、被害者諸共、全身を炭と化させて砕け落ちた。だがそうしている間に、杖を振るっていた男もまた、巻物を携えた別の男に別の怪物をけしかけられ、逃げる間もなく炭と化して死んでいく。
 同じようなことが、町のいたるところで繰り広げられていた。
 それを、女はなすすべなく見つめていた。
 見つめていることしか、できなかった。
 ――そうしていつしか、悲鳴も怒号も炎の鳴く声に飲まれ、町はそれ以外の音色を失っていた。
 女は一歩を踏み出しかけ、しかし足が萎えて、今にも膝をつこうとした――その時。町の出入り口で影が動いた。
 それは一人の青年だった。怪物とではなく、それを使役する人間の方と争ったのだろう、体のあちこちに手傷を負いながらも、彼は炭と化すことなくまだ生きていた。
 青年は丘の上に視線を向け、自分の元へと駆け降りてくる女の方へと手を伸ばし、

「……ぉ……ぁ……さ――――」

 苦しげな笑みを浮かべながら、誰かの名を呼ぼうとして、直後に、背後から怪物に抱き付かれて炭と化した。
 駆け付けた女の目の前で、青年が身に着けていた、特徴的な編み込み模様の入ったバンダナもまた、彼と共に炭と化して風に砕け散った。

「っ…………こんな……こんなッ……!!」

 女の悲痛な声に応える者は、もう居ない。
 女が震える体を掻き抱いて空を仰げば、天蓋に映る巨大な月が、煌々と光を放っている。
 その輝きを明確な憎悪のこもった瞳で睨みつけると、女は燃え盛る町に背を向けた。
 丘のふもとにある、切り立った小さな崖。その岩壁に走るひび割れに女が手をかざすと、割れ目をなぞるように光が走った。一拍置いて岩壁が裂け、女を内側へと招き入れる。
 踏み入った女の背後、岩壁は――岩壁に偽装されたゲートは今度こそ隙間なく閉じて、内部は完全な闇となるが、女は迷いの無い足取りで奥へ向かう。
 歩きながら帯をほどき、着衣を脱ぎ捨てると、最奥にあった容器の中へと裸体を投げ入れた。
 ――水音。
 特殊な液体で満たされた槽の中、胎児のように身を丸めながら、女の胸に浮かぶのは遠い日々の思い出だ。
 初めて人と触れ合ったこと。彼らと共に過ごしたこと。世界の終わり、天へ昇る星、生き続ける音楽。

(……あの時の、あの選択に後悔は無い……それは今も変わらない。……けれど)

 けれど、

(取り戻してみせる……ルル・アメルの平穏を……あの、温かな歌声を……いつか再び、この天地へと)

 そう、たとえ、

(このまま悠久のまどろみの中をたゆたうことになろうとも……!)

 そう誓い、女は目を伏せた。
 槽が起動する。
 淡い緑の光が槽の中に溢れ、女の肢体を仄かに照らし出すが、女は膝を抱いた姿勢のまま身じろぎ一つしない。
 ただ、まどろみの中で女が知覚する外の景色は、目まぐるしく変化を始めていた。
 町を食らい尽くした炎が消え、廃墟の跡が緑に呑まれ、それを切り拓いて新たな町が興り、また滅び、剣と槍と弓で争う時代が過ぎ、鉄の車が行き交うようになり、鋼の鳥が空を席巻し、都市は木々を越えて高く高く成長し、そして、そして――――




 そして幾多の年月が流れ――――新たな物語が幕を開ける。



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       戦姫絶唱
     シンフォギアCG



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 ―― この番組は、御覧のスポンサーの提供でお送りします ――


  QUEEN RECORDS


  武士労働


  SomyMusic


  2828動画


  SS速報VIP


  お便り(安価)投稿を下さった皆様


  応援のお便りを下さった皆様


  斜め上の無茶振りをくれやがった皆様


  コンマと乱数の神様



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 ――人気の途絶えた街がある。
 午後に入ったばかりのオフィス街だ。本来なら生活時間帯のど真ん中であるにもかかわらず、行き交う人の姿も道を走る車もなく、並ぶ窓から覗き見えるオフィスはすべて空。律儀に働き続ける信号機だけが、虚しく歩行者誘導のメロディを響かせている。
 そんな街の中央。青空に最も近いビルの屋上に立つ、小柄な人影があった。
 服装だけなら少年にも見えるが、風にたなびく長い黒髪と、服の下から少しずつ自己主張を始めている体の輪郭線は少女のそれだ。
 少女は、まったく物怖じせずに屋上の縁に立つと、そこから、眼下に広がる街並みを見下ろした。

 そこに異形の群れが居た。

 体長は、どれも成人男性を二回りほど上回る。二本の腕を持ち二足歩行する、比較的人間に近い体形のものもあれば、オタマジャクシを毒々しく彩色して巨大化させたようなものまであり、それらがおびただしい数で群れを成して、無人の街を闊歩している。
 共通しているのは、そのどれもがピンボケ写真のように輪郭線をかすれさせ、ガードレール等の、行く手にある障害物をすり抜けて移動している点だ。おおよそ、尋常な生物ではありえない。
 あれらこそが、認定特異災害『ノイズ』。
 どこからともなく現出し、接触した人間を即座に炭素転換させて死に至らしめる『自律行動する災害』だ。この世ならざる存在である彼らは、「こちらの世界」への干渉率を変動することで自在に物質を透過し、通常兵器による攻撃をほぼ完全に無効化する。
 触れられたら即死。反撃も不可能。
 そんな不条理な存在を前にして人類が取り得る選択は、彼らが自壊を起こすまで逃げ続けるか、さもなくば――

「……っ」

 と、少女がわずかに顔をしかめた。
 鼻先をくすぐる風の中に、黒い煤のようなものが混じっている。
 見下ろす町並みのあちこちにある、人の似姿を取る炭の塊。それらがビル風で吹き散らされ、彼女のところまで舞い上がっているのだ。

「……こちら南条光、現着した! 小型ノイズ多数、大型ノイズの存在は確認できず!」

 少女――光が固い声でそう告げると、押さえた耳元から通信の声が応じる。

『了解。一般市民の避難誘導、及びノイズの現出区域一帯の封鎖は完了した。やつらが封鎖区域外への移動を開始する前に、速やかに殲滅せよ!』
「了解ッ!」
『……それじゃあ、ま、いっちょ気合入れて頑張ってみなさい』

 そんな、微笑みの気配が混じる声を最後に通信が切れた。
 光はそれに無言の頷きを返すと、首にかかる細いチェーンをたぐり、服の下から小さなペンダントを引っ張り出す。
 ペンダントトップは、ピンマイクのような細長い形状をした、薄紅色の結晶だ。
 それを握りしめ、精神集中。ゆっくりと深呼吸を行い、やがて閉じていた目を見開くと――光は、眼前の虚空へと躊躇いなく身を投げた。
 重力に引かれ、体は迷いなく加速する。
 落下の風にあおられた髪が、長く後ろへなびくのがわかる。
 地面まではほんの数秒の猶予しかない。
 この高さから墜落すれば確実に死ぬ。
 だが、その口を突いて出るのは悲鳴ではない、
 歌だ。


 ―― Balwisyall nescell caliburne tron ――


 どこの国の言語かも定かでない、謎めいた単語の連なり。
 光がその最後の音律を口にした瞬間、変化は劇的に訪れた。

 ペンダントから溢れ出た輝きが、光を中心に小さな天球儀を展開。
 身に着けていた衣服は下着も含めてすべて細かな粒子へと分解され、淡い燐光を放つ粒子が代わりに全身を包み込む。
 露わになった胸の中央に縦一線、いまだ色濃く残る傷跡があるが、それを隠しもせず、光は、両手を左右に広げた体勢で落ちていく。
 それを追うように、その背後の空間から湧き出てくるものがある。
 白と黄で彩られた、鋼の装甲群だ。
 それらを迎えるように、光の体にも次なる変化が生じていく。
 全身を包む粒子が、胸上から腋、腹、腰、尻周りにかけて順に剥がれ落ち、代わりに、素肌に密着するデザインの戦闘スーツを形成。
 ここでついに追い付いた装甲群が、待ち切れないとばかりに光の肢体に食らいつく。
 すらりと伸びた足を鋭角なフォルムの装甲が前後から挟み込み、そこに下からヒールとつま先のパーツが叩き込まれて全体が合致し、脚甲が完成。
 ナックルガードと一体になったパーツがまず手首まで装着され、そこから一気に変形・伸長して肘までを覆い、前腕を包む篭手が完成。
 腰の両横にスカートアーマーが接続され、細い肩を小ぶりな肩甲が覆い、両耳を覆う細かなパーツ群は、ヘッドセットと類似の機構を内蔵して接合し、円形のプロテクターを形成。
 そこから羽飾りにも似たブレード状のアンテナパーツが伸び、薄紅の結晶が胸上に十字を刻むと、実物と比べてはるかに軽装ながらも、どこか騎士甲冑を思わせる意匠の姿が完成する。

 これこそが、「池袋理論」に基づいて開発された、FG式回天特機装束――通称、シンフォギア・システム。

 聖遺物と呼ばれる、神話や伝説上の武具の欠片から作り出されるこの装備だけが、唯一ノイズに対抗し得る武器となるのだ。
 刹那の間に着装を済ませ、燐光の天球が砕け散ると、光の纏う装甲そのものが震え、軽快な旋律を奏で始める。
 同時に、広がる音色を浴びたノイズ達の輪郭がはっきりと定まり、その姿が鮮明になっていく。

「――行くぞッ!」

 光は、ちょうど直下に居たノイズの一群めがけて拳を振りかざすと、

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

 落下の勢いそのままに、一直線に激突した。
 割り砕かれたアスファルトがめくれ上がり、地殻に反射した衝撃が露出した土面を突き上げて、爆発じみた勢いで粉塵を巻き上げる。
 もうもうと立ち込める土煙が風に押し流されてみれば、高速落下する質量体に真上から打撃されたノイズの群れは、呆気なく圧壊されて炭と化し、その残骸を風に吹き散らされている。
 一方で、地面から拳を引き抜いて立ち上がる光の姿には、傷一つない。
 シンフォギア・システムが、その装者にもたらす恩恵故だ。
 聖遺物が発揮する超常の力は、「音楽」を介して装者に人の枠を越えた力を与える。それは、単純な身体能力や防御力の強化には留まらない。
 彼女の纏う装甲・ギアが奏でる音色は、ノイズの持つ炭素転換能力を低減・無効化し、肉体を炭素化されずに触れることを可能とする。
 加えて、シンフォギアを介して放たれる攻撃は、接触と同時にノイズの存在を「調律」することで、彼らをこの世界の物理法則下に引きずり出す。すなわち、物質透過による無効化を封じ、常に百パーセントのダメージを与えることができるのだ。
 触れられても死なず、反撃が可能。
 この、ノイズが持つ最強の矛と盾の無効化特性こそが、シンフォギア・システムが、アンチノイズプロテクターたり得る所以なのである。
 とはいえ――いくらシンフォギアといえど、その超常の力の加護にも限度はある。
 高層ビルの屋上から自然落下してなお平然と立つその姿からは、光の纏うギアが持つ飛び抜けた防御力と、それを引き出す彼女のポテンシャルの高さが窺えた。

「さあ――どこからでもかかって来い!」

 墜落音の残響と、それを吹き払う光の声に反応して、周囲のノイズ達が一斉に光へと顔を向ける。
 光は両拳を構え直し、胸の内に湧き上がる詞(ことば)を歌へと紡ぎながら、ガードレールを飛び越えて手近な一団へと突撃する。


「――燃え上がる 暁の火は
 夜闇を払い 道を照らす希望――!」


 これもまた、シンフォギアの持つ特性の一部だ。
 シンフォギアシステムは、装者の歌を力と変える。光の戦意が昂るほどにギアは震え旋律を奏で、光がそれに応えて歌を織り成すことで、ギアは相乗的に出力を増していく。
 奇異な光景と映るかもしれないが、「歌いながら戦う」ことこそが、シンフォギア装者にとっては最大の力を発揮できるスタイルなのだ。
 その効果は如実。
 何ら武器を持たない徒手空拳ながら、繰り出される一撃一撃が必殺だ。拳が、蹴りが、並み居るノイズを次々と砕き、その体を炭へと変えて散らしていく。
 対するノイズの側も、無抵抗に打ち倒されるばかりではない。全身を細長く槍のように変形させて、一直線に光へと飛びかかっていくが、


「『今日は何があるだろう』 問う声に答はなくても」


 その反撃も通じない。
 ひとたび光が防御態勢を取れば、胸前に構えられた篭手に激突していったノイズの方が逆に砕かれる有り様だ。
 その残骸を振り払い、


「何もかも 乗り越えて――」


 光が再びの攻勢に出る。
 槍化して襲い来るノイズにカウンターの拳を叩きつけ、打ち砕き、後続が攻撃態勢へと入る前に一気に距離を詰める。


「確かめに行けばいい――!!」


 ほんの一呼吸の踏み込みで、その身はノイズ集団の至近と言える位置まで肉薄する。
 真正面への力任せなストレートから、左右への肘打ちと裏拳までを高速のテンポでこなし、集団前列を砕いて空けたスペースを即座に詰めれば、三呼吸目のタイミングで右足が二列目のノイズを薙ぐ。
 だがそこで手足の届く範囲内の敵が尽きた。
 光が次の一歩を踏む前に、中距離からの突進攻撃が雨のように光を襲う。

「――っく……!」

 正面に対し、両腕の装甲をシャッターのように閉じて防御する光。
 激突に砕かれていくのはやはりノイズの側だが、思わず歌声を途切れさせてしまったことでギアの出力が落ちた。
 断続する衝撃に体は徐々に押し返され、踏ん張る脚甲がアスファルトを削って火花のレールを散らす。
 周囲、街中から続々と集結しつつあるノイズ達は、その物量を武器としてなおも攻勢を緩めない。
 耐えかねた光は、一瞬の切れ間を突いて横っ跳びに転がり、追撃をかわして路上に取り残されていた放置車両の陰へと退避。
 だが、ノイズ達はお構いなしに攻撃を続行した。

「ッわぁっ!!」

 十を超える数のノイズが直撃し、光が身を隠した車は数秒と持たずに爆発炎上。
 煽りを受けて吹っ飛ばされた光は、それでも素早く起き上がって体勢を整えるが、
 その頭上に、巨大な影が差した。

「――っ、大型ノイズ!?」

 新たに現れたそのノイズは、周囲のノイズと全く異なる容姿を持っていた。
 大型という呼称に違わず、見上げるような巨体はビルの四階近くまでゆうに届く。頭頂部には一対の湾曲した巨大な角を持ち、ぶよぶよとした体節はイモムシを連想させるが、巨躯を支えるのはそれに足る大木のような四足。虫とも獣とも似て非なるその姿は、まさしく異界の存在だ。
 これだけ巨大で目立つものなら普通は見落とさないが、どうやら屋上から確認した際には、ビル陰の死角に居たらしい。それが今、ビルの壁面をすり抜け、こちら側へと姿を現したのだ。
 見た目通り動きは鈍重な相手だが、このノイズはひとつ、厄介な特性を備えている。

《――――――――!!》

 鳴き声――に相当するものなのだろうか――耳障りな不協和音(ノイズ)を立てながら、大型ノイズがヘドロじみた体液を吐き出した。
 慌てて飛び退った光の正面、アスファルトにぶちまけられた原色の濁流から次々と立ち上がるのは、人やオタマジャクシに似た、小型ノイズの群れだ。
 そう、それは、小型ノイズの生成能力。
 他の小型ノイズをどれだけ駆逐しても、この大型ノイズを一匹放置しているだけで、際限なく新手を生み出されてしまう。

「やらせない、それ以上はっ!!」

 この難敵を見落としたミスから意識を切り替え、光は拳を構え直す。
 戦意の昂りと共に、その口からは再び歌が紡がれ始める。


「――高鳴るHeartbeat 強く刻んで
 はやる心を 追い越していく――!」


 大型の体液から出現した小型ノイズの突進攻撃、その第一波を防御とカウンターで耐え凌ぎ、第二陣の攻撃が来る前に、なおも体液を吐き続けている大型ノイズめがけて疾走。
 だが、さらに増加する小型ノイズがその行く手に立ちはだかる。


「さあBreakthrough 迷いなんて振り切れ」


 次々と槍化して襲い来るノイズの着弾に追われ、突撃の軌道は徐々に大型ノイズから逸れていく。
 さらに、街中に残存していた他の小型ノイズが挟撃に加わった。
 二方向から同時に迫るノイズの死槍を前に、光は刹那の判断を下す。


「果てなく思える道のりを 駆け抜けたその先で――」


 跳躍。
 ギアの力で常人離れした脚力が、彼女の小柄な体躯を上空へと逃した。
 目標を見失って交錯する小型ノイズ達を眼下に、街路灯の頭を足場にして追加の跳躍と軌道修正を入れれば、


「いつかあの背中に」


 眼前、間近と言える距離に、大型ノイズの巨体がある。


「追い付けると、信じてぇ――――ッ!!」


 勢いのままに打撃した。
 胸の奥から湧き上がる歌、その最後のワンフレーズと同時に、大型ノイズの横っ面と思しき位置に渾身の右拳を叩き込む。
 ギアによって存在を調律されたノイズの体に、そのインパクトは一切の減衰なく伝導された。
 足場の無い空中での打撃でありながら、殴打によって発生した衝撃波は打点から放射状に拡散し、あおりを受けたビルの窓ガラスを震わせ街路樹の葉を散らす。ノイズの体表に拳が深くめり込み、光の数十倍はある巨体が大きくしなり傾ぐ。
 だが――その拳は、大型ノイズの外皮を貫通するまでには至らなかった。
 その巨体が持つ弾性でダメージを耐え切った大型ノイズは、しなった体を戻す勢いで、自身の体表に張り付いた光を軽々と振り回し、

「え、うわっ――!」

 そのまま、真横にあったビルの壁面へと叩きつけた。

「――――!!」

 少女一人の悲鳴など、激突の轟音に呆気なく飲み込まれる。
 構造物に叩き込まれた衝撃波は内部で反響して全フロアに伝導。ビル全体が音叉のごとく低く鳴動し、振動で割れ落ちた窓ガラスが、驟雨のごとく路面で甲高い破砕音を連続する。
 その音色が止み、モルタルの粉煙がまだ渦を巻く中、大型ノイズがゆっくりと壁面から体をはがした後には――クレーターじみた陥没の中央に埋まる、光の姿があった。

「……っつ、う……!」

 生身の人間なら、炭化せずとも全身が破裂して形も残っていなかったろうが、光の身を包むギアが、それほどの衝撃すら頭が軽くふらつく程度にまで低減していた。
 だが同時に、抉れた壁材や露出したビルの鉄筋が、その装甲を噛んで身動きを封じてしまってもいた。

「っつつつ……う? あっ、えっ? 嘘っ、これ、動けなっ……!」

 意識を回復した光はすぐその事実に気付いたが、完全に壁にめり込んでしまった体は、もがくことすらままならない。
 それでも数秒の間、抜け出そうと必死にもがいてはみたのだが――頭上に差す影に気付いて顔を上げると、物言わぬ巨体が目と鼻の先にあった。

「………………、」

 奇妙な一瞬の空白の中、互いの手の内を探り合うように、しばし見つめ合う光とノイズ(そもそも身動きの取れない光には打つ手も何も無いし、ノイズの目がどこなのかも不明だが)。
 やがて、大型ノイズがわずかに姿勢を変えた。それが『背筋を伸ばす』という表現で正しいのかどうかはわからないが、ともかく体高が少し上がり、目線の並ぶ高さから、ノイズが光を見下ろす位置関係となる。
 そこで、大型ノイズは口を開けた。
 これから起こることをかなり正確に予想して青ざめた光は、ノイズに向かって恐る恐るといった口調で、

「やっ、あの……ちょ、ちょっとタンマ……とか、は……?」

 なかった。
 光を見下ろした大型ノイズは、小型ノイズを湧き上がらせる体液を――おぞましいヘドロ色をした己の体液を、一切の遠慮も容赦もなく吐き出した。
 先ほどとはかなり意味合いの異なる悲鳴が濁流に飲まれ、呆気なく掻き消された。
 光の真上からぶちまけられた体液は、ビルの壁面を滝のように流れ落ちてアスファルトに広がり、あるいはその途中で、割れた窓からビルのフロア内へと流れ込んでいく。
 そこから新たに現出した小型ノイズの群れは、立ち上がるや否や即座に全身を槍化。
 壁面にできたクレーターの中央、体液を直に浴びせかけられている光の元へと、ビルの外と内の両面から殺到し、激突と爆散を断続する。
 その破壊にただのビルの構造材程度では当然耐えきれず、壁面はより広範に砕かれ、削り取られるようにして内部と断面を露出させていく。
 その間も大型ノイズはひたすら体液を吐き出し続けており、もはや光の姿は完全にその中に飲まれてしまっていた。小型ノイズの着弾だけがその居場所を正確に追尾し、壁面の崩落と共に下方へと弾道を修正していく。
 やがて、着弾点が完全に地面まで落ちたところで、大型ノイズがようやく体液を吐くのを止めた。
 路面に溜まった体液と、そこから立ち上がって群がる小型ノイズ達の中央へ、トドメとばかりに巨大な角を持つ頭を振り下ろし、そこにあった全てを路面ごと粉砕して、




 その瞬間――場違いなブザー音が鳴り響き、街の全てが、風に舞う炭の一片に至るまで完全に動きを止めた。

『――シミュレーション終了! 全オブジェクト、リセット開始!』

 どこからか聞こえた拡声機越しの声と共に、街が遠景から順に闇に食われていく。
 同時に、街を埋めつくしていたノイズの群れも、実体感の薄いテクスチャモデルに変化し、次々と分解消失。
 最後に、頭を垂れた姿勢の大型ノイズと側面を抉られたビル、その瓦礫の山が消えると、薄暗くてやたらとだだっ広いだけの空間に、潰れたカエルのごとき無様な体勢で伏せた光の姿だけが残された。
 その頭上、空中に投影されたウィンドウには、『戦闘評価:D -戦術的敗北-』の文字がでかでかと表示されている。
 ノイズとの戦いにおける完全な『敗北』はすなわち死を意味するので、D評価は『負けはしたけど辛うじて生還くらいはできたでしょう』という意味だが、最後の状況から客観的に推測するなら、生還できたというのもいささか甘い評価と言わざるをえないだろう。
 そう――ここはノイズの脅威に対抗すべく組織された内閣特務機関、特異災害対策機動部二課の本部ビルが擁する、大型シミュレーションルームだ。
 二課に所属するシンフォギア装者である光は、訓練の一環として市街戦のシミュレーションに挑戦し――結果、惨敗を喫したというわけだった。
 シミュレーション結果を表示するウィンドウには、戦闘評価に続けて、戦闘時間、ギアの出力の推移、ノイズ討伐数等の細かなデータがスクロールしていくが、変な体勢で潰れたままの光は当然ながら見ていない。

「ぅあああああ負けたぁぁぁ……!」

 などと悔しげに呻きながら、床上で手足をじたばたさせる光。
 ひとしきりもがいたところで力尽き、今度こそばったりと脱力。と同時に、全身を包むギアが粒子化して弾け、ボーイッシュな私服姿に逆戻りする。
 そこに、

「あっはっは、いや~散々だったわね!」

 訓練の始め、光を鼓舞した通信の声が、豪快な笑い声を上げながら近付いてきた。

「ううぅ、笑い事じゃないよ早苗さん……」
「何言ってんの、今のが実戦だったらそれこそ笑い事じゃ済まないわよ? 笑えるうちは笑って、後で泣かずに済むよう努力なさい。あと、本部に居る時の呼び方、前も注意したわよ」
「うー……了解です、司令」
「うむ、よろしい」

 そう言って、床上に座り込む光に手を差し伸べたのは、小柄で童顔、でありながらなおかつ服の上からもハッキリわかるほどのプロポーションを持った、いわゆるトランジスタグラマーと呼ばれるタイプの女性だった。
 むくれる光をあっけらかんと笑い飛ばしながらも、片手で軽々と引っ張り上げて立たせ、しかもその間体の軸が微塵もぶれない。立って並ぶと光ともあまり身長差が無いくらいの小柄さだが、その体躯には男性にも引けを取らないほどのしなやかさと力強さが凝縮されている。
 彼女の名は、片桐早苗。
 対ノイズ災害における実働(あらごと)担当である二課の、総司令官を務める傑物だ。
 戦闘指揮は元より、二課の組織運営に関わる対外交渉などにも関わっており、紛れもなく、二課の最終決定権を持つ最重要人物である。……が、そんな責任ある立場としては、いささか言動がフリーダム気味なため、今日も傍らには副官である東郷あいが同行している。

「お疲れ様、光君。タオルを」
「あっ、ありがと、あいさん」
「たしかに今回は残念な結果だったが、私が見る限り、動きは確実に良くなってきているよ。その調子で精進するといい」
「うん、頑張ります! ありがとね!」

 と、光のフォローをするあいは、ノーネクタイのラフスタイルを取る早苗とは対照的に、二課の女性制服をかっちりと着こなしている。この三人の中では一番の長身だが、それは単に光と早苗が小柄なのであって、あい自身は際立って背が高いというわけでもない。
 ただ、その身長差と服装、加えて言動の落ち着き具合は、その場の最年長者と最高権力者が誰なのかを誤認させがちだ。過去に、早苗の補佐として同席した会議の場で、初対面の政府高官からナチュラルに二課の司令と勘違いされ、本物の司令である早苗を他所に丁重な挨拶を受けてしまった一件は、早苗の緘口令をかいくぐって今も密かに語り継がれている。

「さて、」

 と、場の空気を切り替えるように手を打ち、視線を集めてから早苗が言うのは、

「ほら光、実技が終わったら、次は座学の時間よ」
「はーい」

 珍しく真面目な口調での指示に、同じく真面目に挙手して従う光。
 二人の傍ら、うんうん、と頷きながらそれを見守るあい。
 が、

「では――本日の教材は、先週に引き続き覆面ライダーWHITEの、第三十六話よ!」
「いぇーぃ!」
「ちょっとお待ちを司令」
「いい光? あの時代の特撮はCGも何も無い、スーツアクターさんのガチのアクションよ! それが生身で出来て、ギア着けたあんたにできない道理はないわ! 殺陣のシーンをよく見て、動きの参考になさい! さあ行くわよ!」
「了解ッ!」
「お待ちください片桐司令、何度も言っていますが司令室の大画面モニターは特撮鑑賞に使うものではないと――相変わらず逃げ足が速いな!」

 言うが早いか猛ダッシュで飛び出していく早苗と光に呆気なく置き去りにされ、広い訓練室に一人ポツンと立ちつくす形になったあいは溜息を吐いた。
 二人を引きとめようと伸ばしかけて全く間に合わず、中途半端に持ち上がっていた手を、そのまま自分の額にあてて、

「まったくうちの司令は……しかし、光君があそこまで明るさを取り戻せたのも、片桐司令の人柄あってのもの、なのかな」

 と、一人ごちてする二度目の吐息には、笑みと安堵の色が混ざっている。

「南条夫妻の『事故』からもう一年になるのか……ああしていると、本当の親子のようだな。――まあ、だからと言って公私混同には困ったものだが」

 やれやれ、と肩をすくめて首を振り、さらに一呼吸を置いてから、あいは意識を切り替えた。
 その場で踵を返し、壁の高い位置に設けられた、モニタールームの窓へと向き直る。

「池袋博士」
『うむ、抜かりなく、ちゃんとモニター出来ているよ』

 耳に着けたインカムに返ってくる声と同時、はめ込み式のガラスの向こうで、壮年の男性が片手を上げてみせる。
 男性の後ろにもう一人分の人影があるようだったが、角度的に誰かまでは確認できなかったため、特に気にしないことにしてあいは続けた。

「如何ですか、彼女の――光君の戦闘データは」
『結果はあの通りだったけれど、計測上はけして悪くない数値が出ているよ。適合係数について言えば、亜季ちゃんと比べても遜色ない……どころか、ピーク時にはそれを上回るくらいだ』

 凄いよね、と朗らかに言う池袋博士。
 しかし、と、対するあいはそう言葉を継いで、

「未だ、アームドギアの形成には至りませんか」
『ああ。未だ、その兆候さえも見られないね』
「そうですか……」

 端的に告げられたその事実に、思案顔で視線を落とす。

 アームドギアとは、シンフォギア装者の用いる主武装のことだ。
 装者の纏う装甲(ギア)が聖遺物の力を『盾』として顕現させたものならば、アームドギアは『矛』としての力の顕現。そこから繰り出される攻撃は、ノイズに対して掛け値なしに必殺の攻撃となり得る。
 その有無の差は、単純な武装の有無の差ではない。聖遺物の持つエネルギーを『攻撃力』として外部に出力するには、アームドギアが必要不可欠と言っていい。
 その肝心要のアームドギアを――光は、未だ形成することができずにいるのだ。

『例えて言うなら、今の光ちゃんは、すごく頑丈な盾を持っているから防御面はそんなに心配いらないんだけど、攻撃する時もその盾でぶん殴るしかないって状態なんだよね。弱い敵相手ならそれでも何とかなるけど……強い敵が相手だと、やっぱり矛が無いと苦しいねえ』
「博士は……池袋博士はどう思われますか。光君が、アームドギアを形成できない理由について」
『うーん……各種数値を亜季ちゃんのと見比べて言うなら、形成出来てもおかしくないレベルには達していると思うよ。ただ、それなのにまだ形成出来ないというのは――』

 一息、

『もしかしたら、光ちゃんの心理的な問題なのかもしれないね』
「心理的な問題……ですか?」
『ああ。同じ聖遺物でも装者によってギアの形状に差異が生じるように、ギアの出力が装者の戦意に応じて増減するように、シンフォギア・システムとその装者の精神状態は、切っても切れない関係にある。あるいはもしかしたら、光ちゃんの抱えている何らかの問題が、アームドギアの形成を阻害している――のかもしれないし、また別の理由があるのかもしれない』
「異端技術(ブラックアート)の権威たる池袋博士でも、そこは断言できませんか」
『既に異端技術の全てを解き明かした、なんて豪語するほど自惚れちゃあいないよ。まあ、僕は完全に技術畑の人間だからね。精神面の問題は、早苗ちゃんやあいちゃんにお任せするよ』
「え……私も、ですか?」

 池袋博士からの予想外の発言に、思わず困惑気味の声を返すあいだったが、さらに返ってきたのは朗らかな笑い声だった。

『光ちゃんを引き取った早苗ちゃんは勿論だけど、なんていうか彼女はほら……言葉選んで言うとちょっと豪快なところがあるから』
「大雑把でいい加減、とストレートに言ってくださっても構いませんよ?」
『いやいやあの人腐ってもココの総司令官だから。最高権力者だからね? ――で、あいちゃんはその辺細やかな気配りが出来る子だからさ。光ちゃんのことについても、上手くフォローしてあげられるんじゃないかな、と』
「……要するに私は、公私に渡って補佐官として苦労させられる役回りだという事ですか」
『……まあたしかにそういう言い方もできるけど、もう少しポジティブにものを考えないかい?』
「上司がポジティブ過ぎるので、それとバランスを取るにはどうしてもネガティブ寄りになるんですよ」

 やれやれ、と呟く声は、しかし呆れや諦めではなく苦笑の色を帯びている。
 深く吐息して胸の中の空気を入れ替えたあいは、改めてモニタールームの窓を見上げ、

「ありがとうございました、池袋博士。計測データの精査や、異端技術に関する調査研究、引き続きよろしくお願いします」
『ああ、任せてくれ。光ちゃんの件も、もし原因があの子の精神面ではなく、異端技術の未解明部分にあるのなら、遠からず僕が解明して見せるからさ』
「頼りにしています。私も、あの人の副官として出来る限りの努力はしていこうと思います。――まずはレコーダーのリモコンを取り上げるところからですが」
『古い特撮番組のレンタル料を経費で落とすのはやめさせたんだっけ? まあ、色々大変だと思うけど、頑張って』
「努力します。……ところで博士」
『何かな?』
「……光君はともかく、成人女性にちゃん付けは、流石に聞いていて恥ずかしいので辞めていただけると」
『……これは失礼』





「……いやぁ、もうすっかり保護者って感じだねえ。誰のとは言わないけど」

 気合たっぷり、肩を怒らせて訓練室を出ていくあいを見送り、池袋博士はくつくつと肩を震わせながら姿勢を戻した。
 振り返ったモニター室内、すすめられた椅子を丁重に断り、壁に背を預けて立っているのは一人の女性だ。
 シンプルなデザインのジャージにノースリーブのシャツ、首にスポーツタオルをかけたその姿は、彼女自身も訓練を終えたばかりということを示している。
 どこか不機嫌そうに組まれた両腕の上、盛り上がった布地がスタイルの良さを強烈に主張しているが、池袋博士は妻子ある身として咳払いひとつで自制して、

「さて、参考までに聞いておきたいんだけど、君の意見はどうかな、亜季ちゃん」
「自分も既に成人しているのでありますが」
「これはまた手厳しい」

 にべもない返答に、芝居がかった仕草で自分の額を打つ。
 それを見て、小さく吐息する彼女の胸上には、光が持っていたものと同じ、ペンダント化された薄紅色の結晶がある。
 ――大和亜季。あいとの会話の中でも名の挙がった彼女は、二課に所属するもう一人のシンフォギア装者だ。
 壁から背を離した亜季は、慣れた手つきでコンソールを操作。先程までの、光のシミュレーション内容を複数のウィンドウで並列表示させて、

「――未熟、の一言ですな」

「またまた手厳しいね」
「妥当な評価かと。少なくとも、自分が作戦の指揮官であれば、彼女を戦場には出しません。未熟な兵は、自身だけでなく友軍すら危険に晒す」
「元傭兵さんはものの見方がシビアだ。それじゃあ、光ちゃんがまだアームドギアを出せない件について、同じ装者としてはどう考える?」

 池袋博士が手元のキーを幾つか叩くと、亜季が睨むシミュレーション内容の隣に、各種計測データをグラフ化したウィンドウが表示された。
 続く打鍵で、同様にまとめられた亜季自身のデータも追加され、二人の差が客観的な観測結果として並べられる。

「………………」

 たとえばギアの出力推移グラフを見比べてみると、比較的高い水準で安定している亜季に対し、光のグラフは上下の振れ幅が大きい。しかし同時に、瞬間的なものではあるが、最高値は亜季のそれを上回ってもいる。
 どうかな? と視線で促す池袋博士を一瞥し、亜季は視線をウィンドウに戻す。
 そして一呼吸後、キーを叩いて全てのウィンドウをまとめて消去、同じ言葉を繰り返す。

「未熟、の一言であります」

 ふむ、と小首を傾げながら、池袋博士はさらに問いかける。

「それはどういうニュアンスなのかな?」
「自分は、異端技術の未踏領域に原因があるとは考えておりません。自分もまた、博士に開発して頂いたシンフォギアを纏う身。ならばこそ、博士の手によるこの力が、既に十全なものであると確信し、信頼しております」
「開発者冥利に尽きるありがたい言葉だ。それで?」
「南条光のシンフォギアについてもそれは同様。無論、性能面においては異なる聖遺物故の差異はあるでしょうが、少なくとも、機能が十全であるという前提条件が等しいなら、パフォーマンスの差は使用者の差以外には考えられません」
「ふむ……なるほど、実に論理的だ」
「そしてその原因が、単純な練度の不足にせよ、精神的なものであるにせよ、いずれにしても未熟な者を戦場に出せぬことには変わりないかと。後者ならばなおのこと、不安が増すばかりであります」
「なるほどなるほど。……要約すると、尊敬する早苗ちゃんが光ちゃんにばっかり目をかけてるのが妬ましいって事でいいかな」

 と池袋博士が言った瞬間鈍い打撃音が響き、コンソールの端がわずかに凹んだ。

 殴った拳を痛がるそぶりも見せず、亜季が、関節が錆びたロボットのような動きで池袋博士へ向き直り、

「どこをどう歪めればそういう解釈になるのでありますか?」
「何かすごく大きな恩があるって聞いてるけど」
「それとこれとはッ……!」

 思わず声を荒げかけ、乗せられていることに気付いてすんでのところで自制に成功する。
 深呼吸して気持ちを落ち着け、しかし繕い切れずにややぶっきらぼうな口調で言うのは、

「人を殺さずして人を守れる戦場を与えてくれた……早苗殿への恩というのはそれだけであり、そして自分にとってはそれだけで十分なのであります」
「僕にとっても十分な答だ。まあ、亜季ちゃんも色々複雑な事情があるんだろうけど、年上の余裕ってやつで、光ちゃんのことももう少し優しく見守ってあげられないかな?」
「……約束はできませんが、出来る範囲で善処はしましょう」
「君らしい答だ」

 池袋博士はそう言って朗らかに笑うと、若干恨みがましさの滲む亜季の視線には気付かないふりをしながら、白衣の胸ポケットから懐中時計を取り出す。
 その所作を何の気なしに見ていた亜季だったが、懐中時計の蓋の裏に貼り付けられたものにふと目を止め、

「それは……ご家族の写真でありますか?」
「ん? ああ、妻と娘だよ。ふふふ、もっとよく見たいかい? 最近、娘も妻に似てどんどん美人になってきてねえ」
「あ、いえ、別に結構であります」

 途端にだらしなく崩れる池袋博士の表情を見、長話の危険を直感的に察知して丁重に辞退する。
 が、そこで人伝に聞いたある噂を思い出し、長話のリスクと好奇心を天秤にかけた結果、既に本日分の訓練ノルマは終えていると割り切って、改めて問いかけることにする。

「そういえば……自分はまだ直接お会いしたことはありませんが、池袋博士のお嬢さんは、非常に聡明な方であるとか」
「ん? まあね。ああ、その様子だと、噂を聞いたんだね?」
「は。曰く、池袋博士は研究室に娘をよく連れてきており――その娘も、既に博士に比肩するほどの研究者である、と」
「ははは、その情報はちょっと間違ってるなあ」

 笑いながら手を振って否定した池袋博士は、

「妻に似て聡い子だけど、僕と肩を並べるにはまだ早い。――今はまだ、ね」

 端的に、しかし自慢げにそう言った。
 否定ではあるが、実質、半ば以上は肯定だ。その答に、亜季は驚嘆に小さく息を飲み――そして半秒後には、池袋博士の顔を見て脱力の溜息を吐いた。
 池袋博士は、どんな表情筋ならここまで相好を崩せるのか、というくらいの笑みで、

「うちの娘はなんと、九九を覚える前から僕の真似をして機械弄りを覚え、去年には、僕と一緒にこの訓練室の基礎システム構築までやっているんだよ! すごいだろう!」
「なるほど、それでここの職員にも目撃されていたのでありますな」
「ああ。悪い虫が付いたら困るから、最初のうちはこっそり連れて来てたんだけどね。――しばらくしたら僕がロリコンだとかいう不名誉極まりない噂が流れ始めたんで、本当のことを言うことにしたんだ」
「たしかに、実の娘を連れていてそれでは、風評被害も甚だしいですな」
「まあ、ちょうど良かったよ。これで堂々と娘自慢ができる」
「左様で」
「『将来はパパよりすごい研究者になる!』と豪語していてね! いやぁもうあの子の成長が今から楽しみで楽しみで」
「『パパのお嫁さんになる』よりはまだ現実的な夢でありますな」

 と、噂の真偽を確かめ終えて、あとは完全に適当に聞き流す態勢に入っている亜季を他所に、池袋博士は絶好調で話し続ける。

 一息ついてようやくクールダウンしたところで、不意に、どこか遠いものを見るような目を写真に落とし、

「いやぁ、しかし、早いものだ……六月でもう十三歳になる。あの子の誕生日に休みをもらうために、半年前からスケジュールを調整しているんだよ」
「それはまた。博士のような父親を持って、娘さんもお幸せでしょうな」

 そんな亜季の世辞にも、苦笑を浮かべながら首を振る。

「いや……どうかな。結局僕は、共通の“趣味”を介してしか娘を構ってやれていないからね。もしそれすらも……そう、もしもあの子に、研究室にこもりきりの父親と一緒に居るために、他の普通の子供達とは違う趣味を選ばせてしまったのだとしたら――」
「……博士、それはおそらく杞憂であります」

 と、それを途中で遮った亜季の言葉に、どこかきょとんとした表情で見返す池袋博士。

「どういう意味だい?」

 対する亜季は、真っ直ぐに池袋博士の瞳を見つめながら答える。

「他ならぬ博士ほどのお方の御息女であれば、同じ道を志すのはもはや必定でありましょう。むしろその繋がりを、他の父娘にはない、強い絆の証と胸を張れば良いのです」
「……ふむ。ああ……そうかな。そうだね。……うん、ありがとう、亜季ちゃん」
「いえ、こちらこそ差し出口を挟みました」

 そう言って、あくまで真面目な態度を崩さず頭を下げる亜季に、池袋博士は、肩の荷が下りたような、ほっと緩んだ微笑を浮べて礼を言う。
 もう一度、ありがとう、と繰り返してから、デスクから腰を上げ、

「さて時間だ、僕はそろそろ行かなければ。……ああそうだ、亜季ちゃん、もしよければ、君も娘の誕生日パーティに顔を出してやってくれないかな」
「自分も……でありますか?」
「ああ。やっぱり祝い事は大勢で賑やかにやる方がいいからね。まあ、任務もあるだろうし、無理にとは言わないけれど、来てくれればきっと娘も喜ぶよ。――貴重な装者の生のデータが取れると」
「流石に育て方を間違え過ぎてはおられませんか」
「あっはっはっはっはっはっは」
「笑って誤魔化さないで頂きたい」

 まあ考えておいてよ、と、亜季の肩を叩いてそう言い残し、池袋博士はモニタールームを後にした。
 残された亜季は嘆息し、しかし、幸せそうに語る博士の表情を思い返して、小さく呟く。

「……家族、か。良いものでありますな」



………
……




「裕美っ、たっだいまー!」

 走ってきた勢いそのままにドアを開けて飛び込んだ光の声に、室内からは少女の足音と声が返ってくる。

「あ、おかえりなさい」

 リビングから柔和な微笑みを覗かせたのは、光のルームメイトである関裕美だ。
 光よりも背はやや高い。ウェーブがかったくせの強い長髪を左右に分けて留めており、シンプルなデザインのブラウスにスカートという出で立ちだ。
 頭の右側に着けた、薄桃色の花飾りは、

「どうかな、今日の新作なんだけど」

 と彼女が言う通り、趣味で作っている自作の品だ。
 その腕前はかなりのもので、既に安物の市販品程度には負けないクオリティに達している。ちなみに、光が所持するアクセサリ類の大半は、自分から買おうとしない光を見かねた裕美に押し付けられ――もとい贈られたものだったりもする。
 そんなお手製アクセサリの出来を訊かれた光は軽く腕を組んで、

「うーん……デザインは言うことないけど、色はもう少し濃いめの方が裕美には似合うと思うよ?」
「え、そう? でも……これ以上濃くしたら、ちょっと派手すぎない?」
「そんなことないって! アタシが保証する!」
「じゃあ……光がそこまで言うなら、そうしようかな」

 ぐっと親指を立てて言う光に、自作の髪飾りにそっと触れながら、少し恥ずかしそうに微笑む裕美。
 光が靴を揃えるのを待って、一緒に廊下を戻りながら、

「これ、作り方は今日で確立したから、次は光の分作るね。何色がいい?」
「えー……アタシは花よりもっとこう、格好良い系のデザインの方がいいというか……」
「だーめ。可愛くお洒落するのは女の子の義務です。リクエストないなら私が勝手に決めちゃうからね」
「ぅあーもう、じゃあいつも通り、裕美先生にお任せしますぅ」
「はい、承りました。すぐできるから、楽しみにしてて」

 そんな、いつも通りの会話を交わしながら、リビングに入る。
 ここは、二人が通う私立中学校の学生寮だ。名門私立なだけあって、リビング、寝室、トイレからバスルームまで完備しており、それぞれ空間的にも結構な余裕がある。その分、門限や整理整頓、掃除などのルールも厳格だが、光は裕美のフォローに助けられつつ、何とか上手くくぐり抜けている。

「お風呂、もう用意できてるよ」
「あ、じゃあ入る入る! 裕美も早く!」
「あっ、ちょっと待ってってば!」

 ――と、二人で同時に入っても余裕があるくらいには、バスルームも広い。
 それぞれに体を洗いながらも、学友の事や学校の課題、今日あった出来事など、会話の種は尽きない。しばし、二人分の水音と談笑する声が反響し――早々に体を洗い終えた光が一足先に浴槽へ逃げ込もうとして、すかさずそれを捕獲した裕美が、もう一度椅子に座らせて髪を洗ってやるのもいつもの光景だ。
 もこもこと真っ白な泡を立て、丁寧に髪をすく裕美の指遣いに、大人しくされるがままになっている光。

「……あ、ここ、小さいけどあざができてる」
「ゎひゃぁっ!?」

 などと、唐突に背筋を突かれて跳ね上がったりもしつつ。
 そのあざの発見から、光のある“習慣”に話題は波及する。

「これ、また『道場』でつけてきたの?」
「え? ん、あー……うん。そうそう。早苗さんの特訓はハードでさっ」
「先生にも習い事の許可は貰ってるし、体を鍛えるのが悪いとは言わないけど……あんまり、危ないことはしちゃ駄目だよ。そうでなくても、そそっかしくてよく怪我するのに」

 背後にいる裕美の顔は見えなくても、その声だけで、どんな表情をしているかは容易く想像がついた。
 根が単純で真っ直ぐな光は、ばつの悪い表情を隠しきれない。そっと片目を開け、正面の鏡が半分曇って互いの表情を隠していることを確認してから、努めて明るい声で、

「そんなに心配しなくたって、アタシなら大丈夫だって!」
「だーめ。光はそう言ってすぐ無茶するんだから」

 もう、とわざとらしく怒った声を出しながら、風呂桶のお湯で泡を洗い流す裕美。
 光の細い肩に手を置き、どこへも飛び出していかないよう、自分の傍に引きとめるように力を込めて、

「光の血には、私があげた血も入ってるんだから。だから勝手に無駄遣いしちゃ駄目。絶対駄目なんだからね」
「……じゃあ、丁寧に使うなら大じょあいたたたたごめんごめんごめんうそうそ冗談冗談」

 そう言い合いながら見る正面、鏡に映る光の胸の中央には、未だ消えない深い傷跡が残っている。
 それはかつて、両親を失った『事故』の際に負った傷であり――そして、一時は生死の境を彷徨いながらも、ある少女の献身によって救われた時の傷でもある。
 それを指でなぞりながら、光は小さく呟く。

(……うん、わかってる)

 裕美の物言いを、恩着せがましいなどとは思わない。
 その恩を盾にするくらいでなければ引き留め切れないと、そんな横柄な言い方をしてでも引き留めなければと、そこまで思わせ、心配させ、言わせているのは他ならぬ自分なのだから。
 そのことは、ちゃんとわかっている。

(――でも、)

 それでも、自分の性格は曲げられないのだ。

「わかったよ。うん、わかってる。でもごめん」

 光は、肩に置かれた裕美の手に自分の手を重ね、振り返って真っ直ぐに相手の瞳を見ながら言った。

「アタシの命は、裕美に救われたものだから……だから同じようにアタシも、裕美や、他の誰かを助けてあげたいんだ」

 その為の力が、自分には確かにあるのだから。

「そうでなくっちゃ――胸を張って、裕美にありがとうって言えないからさ」

 相手に救われたこの命の価値を、証明する手段を他に知らないから。
 そう言って、苦笑気味に笑った光に対し、裕美は、

「もう……光は、バカなんだから」

 否定しようとしてし切れない、複雑な表情になりながら、困ったような呆れたような笑顔でそう言うのだった。

………
……




(実際、ちょっと無茶をするくらいじゃないと駄目なんだよな……)

 就寝時間。部屋の明かりは落とされ、小さなダウンライトだけが薄ぼんやりとした視界を作っている。
 寝間着に着換えた光と裕美は、いつものように、二段ベッドの上段に二人一緒に潜り込んでいた。ダブルベッドではないのでさすがにそこまで余裕はないが、狭苦しいというほどでもない。寝付きの良い裕美は、既に穏やかな寝息を立て始めている。
 頭を横に倒してその寝顔を見つめながら、光は染み出す焦燥感に胸を焼かれていた。

(今のアタシの実力じゃ……この辺りにノイズが現れた時、裕美や学校の皆を守り切れるかわからない。……ううん、わかってる。今のままじゃ絶対に守り切れない……!)

 ノイズに襲われた人間がどうなるか。
 二課の資料で、そして訓練室のシミュレーションで、光は幾度となくそれを目にしている。
 ノイズに直接触れられた人間は、瞬く間に全身を炭素転換され、ほんのわずかな風や振動で呆気なく粉々に砕けて崩れ落ちてしまう。被害者の遺体は――もはや『遺体』とすら呼べなくなってしまったそれは、他にやりようがないために、掃除機でかき集められることになる。まるで、ゴミでも集めるように、だ。
 それを初めて知った時は、死者への尊厳も何もかもがすべて塵にされてしまったようで、それこそ言葉にならないほどの衝撃を受けたものだ。
 また、たとえ直に触れられなかったとしても、ノイズの攻撃が家屋などの破壊を引き起こすこともあるし、ともすれば、逃げようとしてパニックに陥った、同じ人間のせいで大怪我を負うこともある。過去に人口密集地でノイズが発生した事例では、直接ノイズによって殺された被害者は全体の三分の一から四分の一程度で、残りは将棋倒しによる圧死や交通事故死、果ては避難路を奪い合っての乱闘による傷害致死だったという。
 ノイズの出現は、ただそれだけで、下手な自然災害以上の被害をもたらすのだ。
 もしもそれに裕美が巻き込まれたら――それを想像しただけで背筋が凍る。足下が崩れ、底無しの闇の中に落ちていくような気分になる。裕美が全身を炭に変え、人の形を失くして崩れ落ちるところなど、それこそ死んでも見たくない。
 だから、訓練でどれだけノイズに慣れても、その恐怖心を忘れない限り絶対に油断はしないでいられると思う。
 いつか早苗に言われた、『必要以上に緊張したり油断したりせずに』戦う心構えというものが、自分の中にもちゃんとできつつある――と、思う。
 だが、それだけではまだ足りない。
 今の自分の実力では、小型の群れならまだしも、大型ノイズはたった一匹すら独力では対処できない。そして現実のノイズ災害で、それ以上のものが現れない保証はどこにも無い。

(早く、もっと強くなりたい……裕美や皆をちゃんと守れるくらいに……!)

 自分は何もできないまま、大切なものが失われるのをただ見ていることしか出来ないのには、もう耐えられない。
 布団の中を手探りして、思わず裕美の手を握ると、ん、と寝言をもらしながら、裕美は優しく握り返してくる。小さく身じろぎしつつ、いい夢を見ているのか、穏やかな微笑さえ浮かべている。
 夜、皆が寝静まった寮の中、聞こえるのは裕美の寝息だけだ。

(……強くなろう。裕美や皆を、ちゃんと守れるくらいに……!)

 掌の中、今ここにたしかにある温もりに、胸の中の不安や焦りがゆっくりと溶かされていくのを感じながら、光は深呼吸してそっと目を閉じた。



………
……



 ――暗闇の向こうから、声がする。


『――――かる――光! 無事――――!?』


 それは、聞くだけで安心感を得られるもの。
 かけがえのない、家族の声だ。


(――お父、さん……?)


 続けて聞こえる声も、同じく家族のもの。
 だがその声は、安心とはほど遠い、酷い焦りと緊張を帯びているようだった。


『――あなた、もう―――――が――――!』
『わかっ――――急――私達は――――』


(お母さん……何、が……)


 視界は一面の暗闇だ。
 何が起きているかわからないまま伸ばした手に、何か、小さくて硬いものが握らされる感触があり、


『光――これを――――なくさ――――きっと――――』
『――に隠れて――――べて終わるまで――くるんじゃ――』


 そして、ふたつの声が遠ざかっていく。
 それを追って手を伸ばしたが、触れられるものは何も無い。


(いやだ……待って……まってよ……!)


 必死に空を手繰り寄せると、暗闇の向こうから、不鮮明な音と映像が溢れ出した。
 それらは、壊れた映像テープのように矢継ぎ早に流れていく。


 燃え盛る炎――――崩れ落ちた瓦礫が――――闇と煙が充満する――――両親の声――――手の中に握らされたもの――――近付く足音が、


(ここはくらいよ……せまくて、さむくて……)


 炎の逆光――――笑むのは、長髪の――――悲鳴が――――床に黒く広がり、――――こちらに伸びる手が視界を覆い、


(いやだ……いやだ……! もう……!!)


 細長い影が振りかざされ――――そして、





「――――――光? ごめん……起こしちゃった?」

 見開いた目にまず映ったのは、薄闇に覆われた、見慣れた自室の天井と、そこに向かって伸ばされた自分の右手だった。
 次に声のした方へ頭を倒すと、そこに居たのは、目元をこすりながら梯子を上ってくる裕美だ。

「変な夢見て、目が覚めちゃって……ちょっとトイレに行ってたんだけど…………光? 大丈夫?」
「え、あ、なに、が……?」
「……汗、すごいよ」

 そう言われて、光はようやく自分の状態に気付いた。
 鼓動は早く、前髪が額に張り付いている。服の中も汗で蒸して、少し暑い。
 右手を返して掌の中を除くと、当然ながら、そこには何も無かった。

「……ぁ」
「ねえ、ほんとに大丈夫? 寮監の先生呼んだ方がいい?」
「う、ううん、大丈夫、もう、大丈夫……アタシも、なんか変な夢見ただけだから」
「そう?」

 気遣わしげな表情で尋ねてくる裕美に笑顔を取りつくろってそう答えるが、心臓の鼓動はなかなか静まらなかった。
 袖で汗をぬぐい、深呼吸を繰り返して何とか気持ちを落ち着けている間に、裕美が梯子を登り切り、隣に入ってくる。

「もしかしたら、私の悪夢が移っちゃったのかもね……どんな夢見てたの?」
「えっと…………あれは、何だったんだろ。アタシにもよくわかんないや」
「ああ、そういうの、よくあるよね。凄く怖かったことだけは覚えてるのに、起きたら詳しいことは忘れちゃってるの」
「うん、そんなのだと思う。だからもう、大丈夫。うん……大丈夫、だから……」

 光は気丈にそう答えながらも、なおもまとわりつく悪夢の残滓を拭うように、顔を手で覆うのだった。




      戦姫絶唱
  シンフォギアCG
    (A-part End)



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  ――喪われた命がある。

  喪われない音色がある――





  高峯のあ New Single

 『Lost Symphonia』

(TVアニメ「戦姫絶唱シンフォギアCG」OPテーマ)



  20X4 8月 On Sale



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 南条光、ニューシングル発売決定!






 TVアニメ「戦姫絶唱シンフォギアCG」EDテーマ

  『Ray of Light』


 20X4年8月 発売予定


 その希望-ひかり-は、闇の中でなお輝く――



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  ―― 最新SFアクション、ここに始動! ――


「ぼくが――そうするべきだと思ってるからだ!!」


  ―― 正義感の強い少年・三雲修と ――


   「おまえ、つまんないウソつくね」


  ―― 謎めいた少年・空閑遊真 ――




    「近界民(ネイバー)だ!! 逃げろ!!」

  「よう、平気か? メガネくん」

          「勝ち目が薄いからって、逃げるわけにはいかない!」

「あの近界民は私が始末するわ」

        「はい、こちら実力派エリート」


  ―― 二人の出会いから、物語は動き始める――! ――


     (自分を空っぽにするの……自分を空っぽに……)

  「近界民はすべて殺す。それがボーダーの務めだ」

                         「ぼんち揚げ食べる?」

 「……と、思うじゃん?」

    『それを決めるのは私ではない。ユーマ自身だ』




     「行くぞレプリカ!」『承知した』



  ―― その手に握るは世界の引き金 ――



   「「トリガー起動(オン)!!」」



  ―― 『ワールドトリガー』 ――

  ―― コミックス1~6巻、好評発売中! ――
  ―― アニメ化情報も見逃すな! ――



  \集英社/



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  戦姫絶唱
  シンフォギアCG
 (B-part Start)



 



「……ふぃー……」

 二課本部ビルの一室。
 先程まで黙々とキーボードを叩いていた早苗は、吐息と共に手を止め、大きく伸びをした。
 それを見計らったかのようなタイミングで、ドアを開けてあいが入ってくる。

「司令、まもなく会議の時間です」
「ん、了解。こっちもちょうど一段落ついたところよー」
「それは……今日の会議用の資料ですか?」
「そ。今回はちょっと大勝負だから、ギリギリまでやっときたくてね」

 早苗はそう言いながら、編集していたデータを保存し、メモリーカードへと転送。
 作業を終えて引き抜いたメモリーカードを、ひどく無造作にあいへと投げ、

「ってことで、今日の資料はこれでよろしく」
「っとと……一応これも、二課の備品ですよ、司令」
「ナーイスキャッチ。大丈夫大丈夫、落としたってそのくらいで壊れやしないわよ。それより、今日は頼んだわよ。あの頭の固いお偉いさん方を黙らせなきゃならないんだから」

 そう言って、気合たっぷりの笑みで腕まくりをし、即座にあいに服装を正された。

「これからその『お偉いさん方』と会うんですから、それ以上着崩すのはやめてください」
「あいちゃんは真面目よねぇ……」
「ちゃん付けはやめてください。そもそも、真面目でなければあなたの補佐は務まりません」
「それ、遠まわしにあたしが不真面目だって言ってる?」
「おや、自覚があったので?」
「前言撤回、あなたも結構いい性格してるわ」

 そんな軽口を叩き合いながら、二人は部屋を出、システマチックな廊下を会議室へ向けて歩き出す。
 手持ちのタブレットに先程のメモリーカードを接続し、改訂された資料を確認しながらあいが言うのは、

「とはいえ、今日の会議の重要性は私も理解しています。世知辛い話ですが、私達がどれだけ動けるかは、予算の有無に大きく左右されますからね」
「そ。つまり、今日の会議でどこまでもぎ取れるかが勝負ってことよ。ノイズに対する備えは、どれだけやっても万全とはいかないけど……せめて、十全と言える程度にはしておかないと」
「そうですね。本部の移設の件もありますし……資料、確認終わりました。誤字脱字だけ修正しておきます」
「あらごめん、見落としてた? お願い」

 と、そこで二人のインカムに、今日の会議の相手である、政府高官到着の報が入った。
 ちょうど手近な位置にあった窓から見下ろせば、眼下、正面玄関前に黒塗りのベンツが並んでいる。

「来たわね、石頭共がゴロゴロと」
「今回ばかりは討論という名の殴り合いをしても止めませんので、思い切りどうぞ。必要なら適宜フォローはします」
「だからあいちゃんのこと好きよー。やっぱり、信頼できる後詰めがいてこそ好き放題やれるってものだわ」
「そう考えると私は居た方がいいのか居ない方がいいのか……ともあれ、会議室への案内を――」

 そう言って、あいがフロントへの指示を飛ばそうとした瞬間だ。
 二人の耳朶を、緊急呼び出しのコール音が打った。

「あたしよ、何事?」
『ノイズの出現反応を検知! 現在、正確な位置を特定中です!』

 その知らせに、あいの表情が強張る。

「よりにもよってこんなタイミングで……!?」
「落ち着きなさい。――各員に緊急招集、第三種警戒態勢を発令。出現座標の特定と一課への通達を急いで」
『了解!』

 早苗はいたって落ち着いた口調で指示を飛ばしながら、早足で司令室へと歩き出す。
 次の連絡は、ワンテンポ出遅れたあいが追い付いた直後に来た。

『座標特定、完了しました。一課が避難誘導を開始します』
「いいわ、詳細を副司令の端末にちょうだい」
『了解、送ります』
「どうぞ」
「ありがと」

 歩きながらあいから受け取ったタブレットで確認すると、ノイズが出現した場所は本部から30kmほど西にある市街地となっていた。
 オフィス街で住宅は少ないが、この時間帯なら、夕方最初の帰宅ラッシュが始まる頃合いだ。
 早苗は、反応から推測されるノイズの出現規模を確認してインカムに手を当て、

「亜季、聞こえてる?」
『こちら大和亜季、現在、ヘリポートへ急行中であります!』
「さっすが。そのまま現場に急行、速やかにノイズを殲滅してちょうだい。このくらいの規模なら、あなた一人で十分やれるわ」
『了解ッ! お任せを!』

 気合の入った返事に笑みを浮かべながら通信を切り、借りていたタブレットをあいへと返す。
 受け取ったあいは、やや落ち着かない表情で、

「規模が小さかったのは幸いでしたが……間が悪かったですね。会議は延期に?」
「いやいや、大丈夫、そっちもこのままやるわよ」
「は? ……司令、何をお考えで?」

 ちょうどそのタイミングで、二人の足は司令室前で止まる。
 あいが詰問口調になったのは、早苗の言葉に良い意味でも悪い意味でも不穏な気配を感じたからだ。
 果たして、扉の端末に認証用のカードキーを滑らせながら、振り返った早苗は不敵な笑みで言い放った。

「せっかく来てもらったのに、今更追い返すのも失礼でしょ。あのお偉いさん方を、こっちにご案内してちょうだい」


………
……



 黄から朱へと仄かに色を変えつつある空を、ツインローター式のヘリコプターが音高く駆けていく。
 副座の操縦席に座るパイロット達が見る先、眼下のビル街には、西日の逆光に浮かび上がる異形の影があった。
 ――ノイズだ。
 奇しくもその編成は、光がシミュレーションで挑んだのと同様。人やオタマジャクシに似た小型の群れに加えて、小型ノイズ生成能力を持つ、有角の大型ノイズの姿がある。
 ただし、大型の数は3。
 ヘリが近付いていく間にも、ところ構わず体液を吐き散らし、際限なく小型ノイズを増やしている。
 既に一帯の避難は完了しているようで、生きた人間の姿は見当たらない。代わりに、ノイズの群れが完全に街を占拠していた。

「…………っ!」

 それは、遠目に見てもけして気持ちの良いものではない。
 たとえいかなる近代兵器に乗っていようと、ノイズへの接近は、猛獣の檻に無手で入っていくのと何ら変わらないのだから。
 操縦桿を握るパイロットが、後部座席側へと引きつった声を上げる。

「こ、これ以上は……これ以上接近すれば、我々も捕捉される危険があります!」
「貴官らの安全は自分が保障します! あと少し、前方二時方向のビルまでお願いしたい!」
「っ……了解!」

 粘つく汗をかくパイロットだったが、指令には逆らえない。
 ままよとばかり操縦桿を倒し、指定されたビル目掛けて下降していく。
 下降と言っても、それは着陸には程遠い、ビルの上空十数メートルの位置を通過するような軌道だったが、彼らが運んできた人物にとってはそれで十分だった。

「移送、感謝します。貴官らも、自分が降下し次第速やかに退避を!」
「了解、ご武運を!」

 そのやり取りを最後にヘリのサイドハッチが開放され、機内は風とローターの織り成す爆音で埋め尽くされる。
 後部座席側で待機していた人物――迷彩柄のパンツに軍用のジャケットで身を固めた大和亜季は、開け放たれたハッチから、ビルの屋上めがけて無造作に飛び降りた。
 無重力感に包まれ、うねる大気に全身を打撃されながら、それら全てを射抜いて真っ直ぐに視線は敵を見下ろし、
 その唇が、短い歌を力強く紡いだ。


 ―― Imyuteus amenokagoyumi tron ――

 瞬間、その全身が光球に包まれ、落下までの刹那に砕け散って、シンフォギアを纏った姿が露わになる。
 ギアがもたらす超常の加護によって、亜季は屋上に設置された給水塔の上へ悠々と着地。その衝撃で給水塔を大きくひしゃげさせながらも、自身は何事もなかったかのように姿勢を起こす。
 その立ち姿は、光のギアと比べれば全体的に軽装だ。素肌にフィットした戦闘スーツをベースとして、余分な装甲はほとんど無い。結い上げた黒髪に簪を挿し、腰後ろに円筒形のコンテナをマウントしているのが目立った特徴か。

「――こちら亜季、現着しました」

 報告する亜季の視界には、戦場の全域が映っている。
 真正面と左右前方、一、二ブロックほどの距離に三体の大型ノイズ。その足下から街中へ広がろうとしていた小型ノイズの群れは、ヘリに気付いてこちらへと集結する流れを作っている。あれらが完全に集結するにはまだ時間がかかるだろうが、最初からこちらの方向へ進路を取っていた群れの先端は、既にビルの足元まで辿り着いているかもしれない。
 だが、

「これより、目標を殲滅します」

 亜季は微塵も動じることなく、確定事項としてそれを告げた。
 そもそも、ヘリのパイロットにこのビルを指定したのは、ここが遮蔽物なく大型ノイズを捕捉できる位置だからだ。
 そして、この位置を確保できた時点で、亜季にとって戦いは半分終わったも同然だった。
 ギアから響く弦楽器に似た音色の多重奏に重ねて、ギアの力をより引き出すための言の葉を紡いでいく。


「――駆けよ先陣の嚆矢 迷いなど不要ぞ
 天意にてただ悪を討て」


 その歌声と共に、亜季が纏うギアに変化が生じる。
 正面へと伸ばした右腕、和式の篭手に似た形状の装甲が、手首の辺りを軸として左右へ割れ広がり、さらに伸長・変形を連続。アーチェリーで見られるような、機械的なデザインの長弓へと姿を変える。
 続けて、長弓との接合部から篭手の装甲が前後に伸長して、右腕に沿う形でカタパルトレーンを形成。レーンの裏面からスイングして手の中に下りてきたグリップを力強くホールドすれば、すべてのパーツが固定されて力の展開を完了する。
 これが亜季のアームドギア――国譲りの神話に登場する、最高神より賜った神弓の力の顕現だ。
 亜季が左足を引いて射撃体勢を取れば、光糸が走って弦となる。
 ブーツに仕込まれたアンカーが勢いよくパイルバンクされ、足場を固定。
 同時に、腰後ろにマウントされたコンテナ――“矢筒”の両端が開いて、もはや槍と変わらない長さの矢を生やす。内部で生成した二本の矢を左右へスライドさせてから連結することで、コンテナの全長よりも長い一本の矢を作り出したのだ。
 亜季はおもむろにそれを引き抜き、右腕に沿えた。
 普通の弓矢のように、つがえて引く必要はない。正しい位置に乗せて、軽く引けば、それを感知したアームドギアの発射機構が自動で矢をコッキングする。
 そして、



「我が神弓は狙いを違わぬ
 啼き渡る雉の音――!」


 右腕全体を一基のカタパルトのようにして、亜季は特大の矢を射放った。
 


       -{> 飛閃・雉ノ啼撃 <}-



 火薬を用いていないにもかかわらず爆音が鳴るのは、それが大気との激突音だからだ。
 水蒸気爆発の白い輪を多重に生みながら、射出された槍矢は一直線に右前方の大型ノイズへと向かい、ターゲットが頭を上げたその瞬間に命中した。
 槍矢は、直前まで体液を吐き出していたノイズの口の中へ飛び込み、一瞬でその体内を駆け抜けて後方の地面へ着弾、爆裂音と共に派手にコンクリ片を巻き上げた。貫通されたノイズの体は、叩き込まれた衝撃波によって頭部から尾部にかけて一気に膨張、半秒のタイムラグを経て限界を越え、二度目の爆裂音を上げて呆気なく破裂する。
 その破壊力に、残る二体の大型ノイズがおののくような反応を見せる。
 歌声は、なおも止まらない。


「果ては千尋の奈落 尽く潰えよ
 砺山帯河の礎となりなさい」


 弾け飛び、炭化して散り行くノイズの断片が、地に落ちる前に亜季は次の行動を起こしている。
 今度は矢筒の左側だけが開き、太い矢をさらに三本束ねて接合させたような、極太の矢を吐き出す。
 亜季はそれを引き抜いて再び長弓に装填。
 接近する小型ノイズの群れを睨みながら、射角を上げて空を照準する。
 間を置かず、躊躇いなく発射した。
 放たれた矢は空中で分離。その軌道は上向きの大きな弧を描きながら、途中でさらに分離を重ねて無数に枝分かれし、もはや数える努力も馬鹿らしい量となって、小型ノイズの群れへと驟雨のごとく降り注ぐ。



       -{> 九十九曼珠沙華・散式 <}-



 生まれた結果は、掃射の二文字に相応しいものだった。
 亜季の下を目指して結集しつつあったことが仇となり、群れ全体の半数以上が技の殺傷圏に入っていた。にわか雨が瞬く間に大地を黒く染めるように、細かな矢の雨に打たれた小型ノイズの群れはなすすべなく撃ち砕かれ炭化。たった一射で、散り舞い上がる炭の破片が町に黒い霧を生じさせる。



「三日月の弧に 凛と弦を張り
 星さえも射落とさん――」


 その遠景を前に、ワンコーラス分を歌い終えて、残身を解いて右腕を下ろす亜季。

「す……すごい……これがシンフォギアの、彼女の歌の力か……!」

 その勇姿を後方の空から見下ろしていた、ヘリのパイロットが思わず感嘆の声を上げる。
 亜季の圧倒的な実力を目の当たりにして、先程まで抱いていた、ノイズへの恐怖はもはや無い。
 だがそのことが、逆に彼らの注意力を削いでしまってもいた。
 亜季の背後側、西日の影が濡らすビルの壁面を、オタマジャクシ型の小型ノイズが這い上って来ていたのだ。
 小型ノイズは、低い位置でホバリングするヘリを捕捉。群れの先頭から次々と全身を槍状に伸ばして、致命的に反応が遅れたヘリへと直撃軌道で殺到し、

「――安全は保障すると言いました」

 届く直前、飛来した蒼の光矢に貫かれて四散した。
 亜季が振り返りもせずかざした左腕、篭手が右腕と同様に変形展開して、機械式の短弓を形成している。
 矢筒で生成した弾体の発射を主目的とする右腕の長弓に対し、左腕の短弓は、自ら生成した光矢を放射状に並べて、五本以上の同時発射を可能とする。
 続く連射で、急上昇をかけるヘリへの追撃を正確に射落としながら、亜季はヘリコプターのパイロットたちを振り仰ぎ、

「援護は容易ですが、出来れば貴官らは安全圏へ退避を」
『も、申し訳ありません!』
「いえ、自分の歌を褒めて頂いたこと、光栄であります。ただ……」

 はにかむような微苦笑で、頬を掻きながら小声で言った。

「……ただ、まだ慣れていないもので、誰かにそうして傾聴されるのは、少々気恥ずかしいのであります」
『…………!』
「ここは自分の戦場であります。安心して任せて頂きたい」
『りょ、了解! 任務完了次第、お迎えに上がります!』
「お願いします」

 パイロットの返答が思わず上ずったのは、恐怖とはまた別の理由だ。
 だがここでその意味を論じている暇は無い。亜季の周囲、壁面を這い上がり、屋上の床をすり抜けて、多数の小型ノイズが姿を現しつつある。大型ノイズも、まだ二体健在だ。
 それら全てを前にして、亜季は、戦場に立つ兵士に似つかわしい、獰猛な笑みへと表情を変えて、

「――子細無し! 万難一切撃ちてし止まん!!」

 己が持つ全攻撃力でもって、惜しげもなく射撃した。

………
……




「それでは、来期の予算案はこれで決定、ということでよろしいですね?」

 大画面モニターを背後に、早苗は挑発的にお淑やかな微笑でそう言った。
 彼女の視線の先、臨時に設置されたテーブルに渋い顔を並べているのは、いかにも高級そうなスーツに身を包んだ各省庁の高官だ。彼らが早苗を見る視線は、皆一様に厳しい。
 それも当然だ。特異災害対策機動部――特にシンフォギア・システムを擁する二課は、非常識な経理を上げてくる部署として悪名が高い。
 単純な金額の多寡だけではなく、遺跡の発掘や芸能事務所のスカウトじみた活動まで、すべて「異端技術の研究・開発のため」と称して経費で上げてくるのだから、内訳を見た常識的な役人から睨まれるのは当然と言えよう。別に、最高責任者である早苗の破天荒な言動のせいではない。断じてない。
 そういった下地があったため、今日の会議では、出席者の多くが隙あらば二課の予算を削りにくるだろう、と予想されていたのだが、

「……異議は無い」

 最も上座に座る、一番高級そうなスーツを着ている老人が、渋い声で早苗の言を肯定。
 残る列席者も苦い顔で首肯し、次々と手元のタブレットに電子捺印をかざしていく。
 その間も、彼らの視線は、早苗の背後の大画面モニターに――そこに映し出された、ノイズと亜季の戦闘の様子に、否応なく引き寄せられていた。
 そう、ここは二課本部の作戦司令室だ。
 元々、二課の予算がかかったこの会議を二課本部で行うよう取りつけたのは、ホームグラウンドで少しでも優位に話を進めようという意図からだった。
 だが早苗はその手をさらに飛躍させ、「緊急時なので」などとうそぶいて、戦闘指揮真っ最中の司令室に会議場を置いたのだ。
 人類の天敵たるノイズの脅威と、それを容易く駆逐する聖遺物の力をライブ中継で見せつけられながらでは、「非常識に見える経費にも相応の合理的な必要性がある」という主張も認めざるをえなくなる。
 そうして完全に主導権を握った上で会議を進めた結果――早苗は、想定以上の予算増額を勝ち取ることに成功したのだった。
 列席者全員が捺印を終え、会議で取り決められた予算が正式なものとして確定されるのを確認し、背中側でこっそりガッツポーズを取る早苗。
 それを後ろに控えているあいから咳払いでたしなめられつつも、何食わぬ顔で自身も捺印を済ませ、

「よし、と。いやぁ、これで肩の荷が下りました。私はこの後も指揮があるので、お見送りもできず申し訳ありません」
「結構。緊急時ならば仕方のないことだ」

 と、老役人が「緊急時」を強調して嫌味を言ってくるのにも、不気味なくらいお淑やかな営業スマイルはびくともしない。予算増額が確定した以上、所詮は負け犬の遠吠えである。
 とはいえ、どれだけ戦況が優位に見えていても司令室を離れるわけにはいかない、というのも本当のところだ。
 早苗は意識を討論から戦闘指揮へと完全にスイッチ。おそらく戦闘の行方が気になるからだろう、微妙に名残惜しそうに帰り支度を始めている高官達に背を向け、モニター側へと向き直った。

「で、こっちの状況は?」
「先の掃射で、現出した小型ノイズ、約72%の殲滅に成功。現在は、突出していた小さな群れに近接戦闘に持ち込まれ、大型への狙撃を妨害されていますが、増援の接近までには撃破し、大型への狙撃体勢に入れるものと――」

 早苗の問いに、戦況をモニターしていたオペレーターがよどみない口調で報告を返す。
 だが突如それを遮って、別の若いオペレーターが緊迫した声を上げた。

「しっ――司令ッ! あ、新たなノイズの出現反応を検知しました!」
「落ち付きなさい。出現地点は?」
「…………ここ、です」

 その返答に、司令室内の全員が、あの早苗さえもが、一瞬動きを止めた。
 生まれた空白の中、若いオペレーターは青ざめた顔で早苗へと振り返り――ノイズの反応を示す赤い円が、多重に表示された画面を示して、

「この本部ビルを取り囲むように……ノ、ノイズの反応、さらに、増加中っ……です」
「……何、ですって?」



 




 避難警報が鳴り響く町の上空を、群れを成して旋回する影がある。
 遠目には鳥のようにも見えるが、その実態は、鳥とは似ても似つかない異形だった。
 サイズは片翼だけで二メートル超。フォルムは鳥の翼に似ているが、質感は羽毛よりも軟体動物の触手に近い。翼の半分ほど、一メートル弱の胴体は頭も足もなく、「中央にかけて膨らんだ細長い円筒」と言う他ない非生物的な形状をしている。鳥のように羽ばたいて飛ぶのではなく、胴体尾部から空気を噴射して飛ぶその姿は、もはや生物よりも航空機に近い。
 二課では便宜上“鳥型”と呼称している、飛行能力を持つ小型ノイズだ。
 似通ったビルが林立する中、集結した鳥型ノイズの群れは明らかに特定のビルを――二課の本部ビルだけを狙って、一斉攻撃を開始した。
 旋回しながら射程距離まで高度を落とした鳥型は、両翼を体に巻きつけるようにして引き絞り、捻じれた槍のような形状になって高速で落下していく。
 屋上のヘリポートにいた作業員達は、逃げる間も避ける間もなく次々と貫かれ、吐血よりもショック死よりも早く全身を炭素転換されて絶命。高階層の窓際に居た者達も、窓をぶち割って斜めに飛び込んできた死槍によって同様に犠牲になった。
 鳥型はなおも攻撃の手を緩めず、ヘリポートにあった三機のヘリまでもが、十を越える数に串刺しにされ爆発炎上。一部の鳥型は屋上の床を貫通し、直下のフロアに居た者にまで襲いかかった。
 それと同時に、地上側でも小型ノイズの群れが大挙して押し寄せてきている。
 全方位から殺到した小型ノイズ達は、壁をすり抜けて、あるいは正面玄関から堂々とビル内に侵入。逃げ惑う職員を片端から抱きしめ、フロアに炭の山を量産していく。
 それでも、直接ノイズに抗う術を持たないとはいえ、彼らも特異災害対策機動部の一員だ。
 初撃の難を逃れた者達は、速やかにシェルターへの退避を始めていた。それは恐怖と焦りに追い立てられた動きではあったが、定員の枠を奪い合ったり、同僚を見捨てて先に逃げたりすることもなく、緊急用のエレベーターに定員限界まで分乗して、訓練通りに地下シェルターへと避難する。
 だが、下降するエレベーターの床をすり抜けてノイズが侵入してきた瞬間、逃げ場のない密室に絶望が充満した。
 シェルターに到着した時点で、エレベーターはただの移動する棺桶と化していた。電子音と共に扉が開いても、出てくるのは崩れ落ちる炭の山だけだ。
 それを知る由もない他の職員達は、乗り込んだエレベーター内で同じようにノイズに襲われ、あるいは乗りそびれてフロアを逃げ惑っているうちに別のノイズに襲われて、なす術なく息絶えていく。
 なおも外部から侵入を続けるノイズの群れに、二課本部ビルの下層は、瞬く間に占拠されていった。


  




 その被害状況を全てモニターしていた司令室は、かつてない切迫した空気に満ちていた。

「屋上のヘリ全機、鳥型の攻撃で破壊されました!」「緊急避難用のエレベーターシャフト内に、多数の小型ノイズが侵入しています! これじゃあ……」
「全エレベーター緊急停止! こっちでコントロール全部奪って、上の階へ上げなさい! 全館放送で、地下シェルターには入らず上の階へ逃げるよう呼び掛けて!」

 早苗の指示に、オペレーター達も即座に対応する。
 一人が端末を叩いてエレベーターの操作を開始すれば、別の一人は警報を切って、館内放送で指示された内容を繰り返す。
 だが、その努力を嘲笑うように、ノイズ達は着実に侵攻を進めていた。

「小型ノイズ、さらに侵入! 第三フロアまで、完全に占拠されました!」
「鳥型の動きは!?」
「現在、本部ビル上空をなおも多数旋回中!」

 その報告に、早苗はほんの数秒間黙考した。
 すべてのモニターを素早く確認して決断を下すと、よく通る声を張り上げ、

「――各員に通達! 現時刻をもって、十階より下と、二十七階より上のフロアを放棄します! 生存者はその中間階層へ退避! 鳥型に殺られたくなかったら、窓際には極力近付かないように!」
「「「了解!」」」
「退避が完了したフロアから順に、防犯用シャッターから何から全部下ろしちゃて! まあ、それでも――」

 ――ノイズ相手には、時間稼ぎにもならないでしょうけど。
 口には出さず噛み潰したその台詞を、その場の誰もが察していた。
 それでも、早苗の判断に全幅の信頼を預ける彼らは、ただ指示された通りのことを全力でこなしていく。


 




 その退避の指示は、研究セクターにも同様に届いていた。
 白衣姿の研究員達が慌ただしく避難していく中、しかし研究室最奥のコンソールの前で動かない人物が一人いる。

「――博士! 間もなくここにもノイズが来ます! 退避を!」
「駄目だ。僕はまだ行けない」

 若い研究員の言葉を、にべもなくはねのけたのは池袋博士だ。
 池袋博士の見つめる画面上では、データの転送率を示すバーが遅々とした動きで伸びていく。
 頬に汗を浮べながらも、普段通りの口調と表情を崩さず言うのは、

「異端技術にまつわる資料は、国家レベルの最高機密。それ故、もしもの時はこの施設ごと破棄されることになっている。――今日までの、最新の研究データさえもね。そして、そんなデータを他所に移すには、ここの最高責任者である僕の管理者権限とパスコードが必要というわけだ」
「し、しかしっ……!」
「おっと、そんなものより命の方が、なんて台詞は言わないでくれよ。あの子達がこれから先もノイズと戦っていくために――ひいては未来の犠牲者を少しでも減らすために、これは絶対に必要不可欠なものだ」

 ノイズの侵入と、安全なフロアへの退避命令を知らせる放送はなおも続いている。
 それを聞きながら、青ざめた表情で立ちすくむ同僚達に、池袋博士はいつも通りの――少なくとも自分ではそのつもりの――のほほんとした微笑で振り返り、短く言った。

「君達は先に逃げてくれ。僕も後から行く」
「…………ッ!」

 それを聞いた者達の反応は、二通りに分かれた。
 まだその場に残っていた者の大半は、池袋博士を置いて逃げる罪悪感からか、立ち去り難い仕草を見せていたが――いずれここまで来るであろうノイズの恐怖には勝てず、申し訳なさそうな顔をしつつも研究室を出、放送で指示されたフロアを目指して退避していった。
 その一方で、数人は互いに引きつった笑みを見せ合いながらその場に残り、

「そういうわけにも……いきませんよね」
「ええ。ここで博士を失う方が、ある意味、二課にとってはよっぽど大きな損失ですよ」
「まあ、俺達が残ったところでノイズ相手にゃ無力ですが……囮くらいには、なれんじゃないかと」
「君達……馬鹿だなぁ。すまない。ありがとう……!」

 いえいえ、と、傍目にもそれとわかる必死な強がりで、それぞれ武器になりそうなものを探して構える研究員達。
 池袋博士ももはやそれ以上は何も言わず、メモリーカードへの転送を続けるコンソールへと向き直った。

 そこから、無限にも等しい数秒が過ぎ――画面に「Complete」の表示が出た瞬間、メモリーカードを引き抜き、傍らに置いてあった耐火仕様のアタッシュケースを取って踵を返す。
 それを見て、残っていた研究員達もほっとした表情で、一斉に出口へ向かおうとした、
 まさにその瞬間に、壁をすり抜けて小型ノイズが姿を現した。

「ひぐっ……は、博士は行ってください! こッここは、わわ私達がッ!」
「ほとんど時間稼ぎにゃなりません! お早くッ!!」
「う、――ぅおおあわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」

 研究員達は、一瞬恐怖に身をすくませながらも、すぐさま現れたノイズ達へと特攻していく。
 プリンターなど、抱えられるサイズの電化製品を盾のように構えて、ノイズめがけて体当たりしていく者が居た。
 研究室で使われていたキャスター付きの椅子を振り回し、ノイズに殴りかかっていく者が居た。
 もはや手にした道具を武器としてまともに使うこともできず、ただ恐慌して我武者羅に突っ込んでいくことしかできない者がいた。
 そうして、それぞれがそれぞれの虚勢を張って、皆等しく炭素片へと散っていった。

(すまない……皆、すまない……!!)

 ノイズに、通常の物理攻撃は通用しない。彼らの抵抗は何の効果もあげられず、無慈悲に押し潰されるだけだ。
 だが彼らの犠牲が、出口までのか細い道のりをたしかに切り拓いた。
 人を炭素転換する際、同時にノイズ自身も炭化して崩壊する。室内の人間を包囲するように、全方位から多数のノイズが侵入して来ていたが、研究員達が道連れにして崩壊させた分だけ、その包囲網に穴が開いたのだ。
 池袋博士はメモリーカードとアタッシュケースを胸に抱きかかえ、今にも閉じ行くその穴へと全速力で駆け込んだ。

「…………っ!」

 目にあたる器官を持たないはずのノイズから、視線らしきものが集中するのを全身に感じる。
 全てのノイズが、こちらへと進路を向ける。
 糸のように細い脱出経路が閉じていく。
 だが――駆け抜けた。
 濃密な死の気配に後ろ髪を煽られながら、池袋博士は間一髪のところでノイズをかわし、部屋の出口のドアに辿り着き、

「――――!」

 それを開いた瞬間、通路を歩いていたノイズの群れがこちらに振り返った。
 通路をほぼ埋め尽くす密度で行軍していた小型ノイズは、そのまま行く手に立ち塞がる壁となる。背後の室内は最初から袋小路だ。そちらも既に、壁や床をすり抜けて入ってきたノイズによって満員になっている。
 この上なく完璧に、活路は断たれた。
 それを理解した瞬間、池袋博士は動いた。
 アタッシュケースにメモリーカードを投げ入れ、二課の関係者以外の手には渡らないよう、ケースの電子ロックに四桁の暗証番号を設定する。
 必要な動作はただそれだけで、幸いにも、それを完遂する猶予だけは与えられた。
 ケースが正常にロックされたことを確かめ、池袋博士は深く吐息。
 既に、ノイズの壁は一歩でも動けばぶつかるほどの距離に迫っていたが、池袋博士はそれを見ずに済むよう、アタッシュケースを固く抱きしめて床に伏し、

「ごめんな、晶葉――」

 そう呟いた直後、ノイズの群れが震える背中めがけて雪崩込んだ。


 




「第六フロア、制圧されましたっ……! 侵入したノイズ群、第七フロアへ進攻します!」
「上空の鳥型、いまだ健在。変わらず本部上空を旋回しています!」

 司令室内、状況を報告するオペレーター達の声にも、徐々に絶望感が滲み始めていた。
 それを取りまとめる早苗の表情は、まだ平静を保っている。だが、戦闘指揮においても交渉においても、これまで様々な窮地を覆してきた早苗の姿を知る者達にとっては、あの不敵な微笑が消えた今の彼女の表情は、事態の深刻さを十分に物語るものだった。

「……館内の生存者全員を収容するのに、何フロア必要かわかる?」

 放たれた問いに、傍らに控えるあいが、タブレットを操作して即座の答を返し、

「正確な生存者数は不明なので推測ですが、すし詰め状態でなら六フロア以内には何とか」
「そう。――各員に通達。第十二フロア以下の階を放棄します、生存者は上の階に退避を」
「司令」
「わかってるわ」

 一言で退けた早苗にも、あいの言いたいことは分かっている。
 このままフロアの放棄と撤退を繰り返しても、ノイズを排除する手段がない以上、いずれ逃げ場がなくなって追い付かれる。生き残っているスタッフも、今はまだ冷静に指示に従ってくれているが、最期の瞬間まで平静を保ってくれる保証はない。
 本部の壊滅はとうに秒読みに入っているのだ。
 それに対抗し得るのは、

「装者の……亜季の状態は!?」
「健在です! しかし……」
『申し訳ありません! 戦況は、些か芳しくありません……!』

 そう通信で答える亜季側の状況は、司令室のモニターからも確認できた。
 殲滅も時間の問題と思われていたノイズの群れが、異様な動きを見せているのだ。


 




 ギアがもたらす人間離れした身体能力は、数十メートル単位の跳躍すら可能とする。
 その恩恵を存分に発揮した亜季は、空中で体を捻り、槍化して追いすがる小型ノイズを左腕の短弓で撃墜しながら、ビルの屋上から屋上へと移動を続けていた。
 先程からの本部の状況は、通信でこちらにも届いている。一刻も早くこの場の敵を殲滅し、救援に向かわねばならない。
 だが、

「くっ……またしても死角にッ……!」

 何度目かの着地から即座の動きで構えた長弓の照準する先、二体の大型ノイズは手近なビルの陰へとその身を隠していた。
 亜季のアームドギアの攻撃力ならば、ビルごと撃ち抜くこともおそらく不可能ではない。だが、遮蔽物越しの射撃では確実性に欠ける上、それほどの大技を連発すれば、自身の消耗も町への被害も甚大なものになってしまう。
 故に先程から、邪魔な小型ノイズを蹴散らしながら、大型ノイズへの射線を取れる位置へ移動を繰り返しているのだが、その度に、また別のビルの陰へと逃げられてしまうのだ。

「ノイズがビルを遮蔽物に使うなど、過去のどのデータでも見たことがない! 一体何なのでありますか、この挙動は……!?」

 人の存在を感知し次第、それを追い、接触して死に至らしめる。
 小型ノイズの生成を行う大型など、形態によって若干の差はあるが、ノイズの行動原理とは基本的に『人類の殺害』ただそれだけで、行動パターンは動物や昆虫よりもシンプルなもののはずだった。
 だがこの大型ノイズは、本部襲撃の報が入った直後あたりから急にこのような不可解な動きを見せ始めた。同時に、小型ノイズの群れもまた、愚直に亜季のいる場所を目指して近付いてくるのではなく、散開し、迂回して、一網打尽に殲滅されないようにしながら、包囲網を形成するように動き始めたのだ。
 その不可解な動きの為に、亜季は予想外の苦戦を強いられていた。
 そうこうしている間にも、時間とスタミナは着実に削られ、小型ノイズの包囲網は密度を増していく。
 確実かつ早急な決着を目指すならば、

「リスクを負ってでも、接近する他ありませんか……!」

 射撃に特化した亜季のシンフォギアでは、近接戦、特に同時多面攻撃には対応し辛い。
 故に、広範囲攻撃と、高威力長射程の狙撃とを用いて、接近される前に遠距離から一方的に殲滅してしまうのが最も安全かつ確実な戦法だった。
 だが、状況はそれを許してくれそうにない。
 本部の防衛と自分の安全、どちらが重要かなど天秤にかけるまでもない。

「片桐殿、どうか、どうか今しばらくもたせてくださいッ!」

 亜季は通信に向かって叫び、大型ノイズの居る方向へと――ノイズの群れのただ中へと跳び込んでいく。


 




 亜季の判断を認め、健闘を祈る以外に、本部に居る人間にできることは何も無かった。
 早苗は不動の姿勢で思考をフル回転させる。内心は頭をかきむしりたいくらいだったが、それをやると周囲の人間にまで自分の焦りを露呈してしまう。
 副官のあいを始め、居並ぶスタッフ全員が、それぞれに緊張と不安を押し殺し、求められた情報を報告する以外は無言で指示を待っている。
 全員の命を預かる者として、彼らの信頼は裏切れない。
 だが同時に、信頼の足りない部外者もまた、今の司令室内には存在した。

「どうするつもりかね、この状況を!」
「我々は一体どうなる!? 無事に避難できるんだろうな!?」
「あの女を呼び戻せ! 向こうは避難も終わっているんだろう、呼び戻してこっちのノイズを排除させろっ!」

 そうやかましく騒ぎ立てるのは、帰るタイミングを失った政府高官達だ。会議の為にこちらから招き入れた手前、司令室から追い出すタイミングを掴めず、結局そのまま居座る形になっていたのだ。
 騒ぐ以外に不安や恐怖を紛らわす術がないことは理解できるが、そうしてぶちまけられる何の足しにもならない怒声は、明確に思考の邪魔だった。
 気を散らされて早苗のフラストレーションが溜まり、それを察知したあいの胸中に、早苗が高官相手に暴言を吐きはしないかという不安が追加される。
 が、同じようにあいのその懸念を肌で感じ取った早苗は、深呼吸ひとつで自制。
 高官達に向き直り、まずは亜季を呼び戻せという要請に対して明確な意思表示をした。

「申し訳ありませんが、それはできません」

 言いながらの目配せで指示を察したあいが、モニター上に戦闘区域の地図を拡大表示する。
 反射的に上がる反論を「いいですか」という前置きで遮って、早苗は順を追って説明を開始した。

「過去のデータから、出現後、一定時間が経過したノイズは自動的に炭素化し自壊することが分かっています。交戦中の装者とノイズが居るのはこの地点ですが――」

 その説明の進行に応じて、あいが必要な情報を地図上に追加していく。

「一課による封鎖区域は、交戦地点を中心にこの範囲となります。仮に今すぐ戦闘を放棄し、装者が撤退した場合、大型ノイズが自壊までに移動可能なのはこの範囲と推測されます」
「その程度ならば――」
「そして。大型ノイズが移動限界地点で新たに生成した小型ノイズの移動可能範囲を重ねると、被害予測範囲はここまで拡大します。御覧の通り、一課の封鎖範囲を大幅に超えます。――避難も封鎖も、到底手が回りません」
「何とかしたまえ! 何のために巨額の予算を注ぎ込んでやってると思ってるんだ!」
「――はあ!? 何かと理由つけて出し渋ってばっかりの癖に何を恩着せがましく! 金で物理法則超えられるんなら、とっくにワープ装置でも開発してるってのよ!」
「何だと!? わかっているのか、ここで我々にもしもの事があれば君の責任問題だぞ!」
「えーえーその時はあたしも皆さん同様ノイズの犠牲になって責任取らせて頂きますとも! 文句がそれだけなら指揮の邪魔なんで黙ってて頂けます!?」
「何だと貴様ぁ――!?」
「何だとは何よ――!?」
「司令! 抑えて! 抑えてください非常時です!!」
「皆も止めよ、ここで言い合ったとて埒は開かん」

 結局途中からヒートアップして口論に発展し、あいと、ここまで沈黙を貫いていた老役人の仲裁で、どうにか乱闘騒ぎだけは阻止される。
 だが、仲裁はしても完全な味方ではない。老役人は、あいに羽交い締めにされながらなお鼻息の荒い早苗に鋭い視線を向け、

「しかし実際問題として、どう対処するつもりなのかね」
「っ……どうにかします。それが、二課の仕事ですから」
「ならば我々は、その仕事が完遂されることを祈りながら待たせてもらう」

 淡々とそう述べ、用意された椅子に再び腰を下ろす。
 その落ち着きの差は年季の違いというものか。二課における早苗同様、老役人も相応の実績があってその立場に居るということなのだろう。
 狂乱一歩手前に差し掛かりつつある高官達を宥める貫録は見事なもので、彼のおかげで雑音は取り除かれたが、同時に「何とかする」という言質を取られてしまったのも確かだった。
 自分からそう言った手前、何とかしなければならない。ならないのだが、

(実際問題、どうしたもんかしらねこの状況は……!)

 口が裂けても言わないが、現状、打つ手はないに等しい。
 せめて要人の避難だけでも行えれば最低限の言い訳も立つのだが、地下シェルターに降りるエレベーターを封鎖され、空を鳥型に押さえられたこの状況ではそれも難しい。

(そもそも想定されてないってのよ……ノイズが本部周辺に出現するだけならまだしも、ここまで統率されたような動きで、このビルの人間だけをピンポイントで殺しにくるなんて事態は!)

 本来なら、人だけを狙い、人だけを無差別に殺すのがノイズのはずだ。
 だが、監視カメラが捉えていた映像によれば、屋上では無人のヘリが鳥型の攻撃対象になっている。また、地上側の小型ノイズも、すぐ手の届く位置に居た者さえ完全に無視して、一直線にこのビルへと集結していた。このビルに居た人間以外で犠牲になったのは、誤ってノイズの進路上に立ち入ってしまった者だけだ。
 亜季と交戦中のノイズといい、前例に無い想定外の動きが重なり過ぎている。

(どうする……!? 考えなさい片桐早苗! この状況、どうすればいい……!?)

 全速の思考は、しかし結論を見出せないまま空転する。
 一フロア、また一フロアと、処刑人が階段を上ってくる。首にかかった縄がじわじわと締め上げられる。足下に火が回り、ギロチンの刃が落ちるまで、残る猶予は如何程か。
 焦りが思考を焦がし、早苗が思わず下唇を噛み切りそうになった時、
 甲高い内線の呼び出し音が、膠着した思考を断ち切った。

「こちら司令室、何事?」

 習慣から反射的に取った受話器の向こう、聞こえてきた声は、


『早苗さ――じゃなかった、司令! アタシを出してくれ!!』


「――光っ!?」

 聞き慣れた、そして今この状況で聞くはずはないと思っていた少女の声に、思わず素っ頓狂な声を上げる早苗。
 その名前を聞いてあいやオペレーター達が浮足立つが、周囲の様子はもう早苗の目には入っていなかった。

「これ内線でしょ!? あんた、なんでここに居るのよ!? 今日は大事な会議があるから訓練は無しって言っといたでしょうが!!」
『自主トレに来てたんだよ! そんなことより、ノイズが来てるんだろ!? ならアタシに出撃命令をくれよ! 皆して行かせてくんなくて――』

 そこで周りの人間が取り押さえに入ったのか、『当たり前だ』とか『無茶だ』といった別の声が割り込んで一瞬声が遠ざかる。
 が、それを押し退けて戻ってきた光の声は、先ほどよりも強い口調で、

『司令ッ! 今この場であいつらに対抗できる力があるのはアタシだけだ! アタシならあいつらを食い止められる!』
「馬鹿言うんじゃないわよ! 未熟なやつをほいほい実戦に出せるわけないでしょうが!」
『じゃああいつらがここまで登って来た時、アタシはどうすればいいんだ!? 皆が殺されていく中、一人だけギアを纏って生き延びればいいのか!? そんなのアタシは嫌だ!! アタシは皆を守りたいから今日まで訓練してきたんだ!』
「そんなことっ……聞き分けなさい、光!!」
『そっちこそ!!』

 鼻先に思い切り言葉を叩きつけられ、早苗が一瞬言葉に詰まった隙に、光は一気にまくしたてた。

『ノイズがここまで登ってきたら、結局は自分の身を守るためにシンフォギアを使うことになる! それは、命令があってもなくても同じだろ!? なら、追い詰められる前にこっちから打って出た方が、センジュツ的にもいいんじゃないのかっ!?』
「それは――」
『亜季さんが戻ってくるまで、あとどれくらいかかるんだ? それまでに、またどれだけの人が死ぬんだ……!? アタシにはノイズと戦う力があるのに、皆を助けられる力があるのに、何もしないでやられていくのを見ているだけなんて嫌だよ……!』
「…………!」

 光の言を認めたくない早苗は、なおも反論を探す。
 しかし、光の次の一言で、決定的な意識の差を突き付けられた。

『――だから、アタシに行かせてください、“司令”ッ!!』
「――――!」

 その呼び方は、他ならぬ自分が正したものだ。
 それに気付いてしまったら、それ以上は光の正しさから目を逸らせなくなった。
 現状、対抗戦力を出し惜しみしていられるような状況でないのは火を見るより明らかだ。まして、シンフォギアを使わずに死ねなどという理不尽な命令を出せるわけもない。遠からず戦わざるをえなくなるなら、今打って出て、少しでも多くの人命を守るべきという光の意見は正しい。
 その上で光は、独断専行せず、ちゃんとこちらに上申して出撃許可を取りに来た。周囲の人間に引き留められただけで、もしかしたら最初は勝手に行こうとしたのかもしれないが――少なくとも今、上役に許可を求めるその行動は組織の一員として正しい。
 そこまで認めてしまったらもう、個人的な感情論以外に、光の要請を下す理は早苗には無かった。

「……公私混同はあたしの方か……」
『司令?』
「……司令」
「わかってるわ、光。あいちゃんも」

 今この場において、片桐早苗は二課の司令として、使えるものはすべて使ってこの状況を打破しなければならない。
 たとえそれが、我が子として引き取った、亡き親友の忘れ形見であっても。
 早苗は深々と吐息しながら、表情を隠すように顔を一撫でした。
 それを意識のスイッチとして、表情から口調までがらりと切り替え、

「――シンフォギア装者、南条光に出撃命令を下します」
『! は、はい!』
「ただちにギアを着装し、本部ビル内に侵入したノイズを迎撃。……何としても、生存者を守りなさい」
『了解ッ!!』

 しかしその力強い返答に、我知らず、目元をわずかに歪ませた。



 




 ギアの脚甲が床を打つ、硬質な足音が疾駆する。
 シンフォギアをその身に纏ったヒカルが飛び込んだのは、本部ビル十三階、フロアのおおよそ中央にある多目的ホールだ。
 通信から、あいの声が作戦目的を説明する。

『いいか光君、君の役目は連中の足止めだ。亜季さんさえ戻れば、鳥型から制空権を奪い、応援のヘリを呼んで屋上から脱出できる。君はそれまで時間を稼いでくれ。殲滅する必要はない、無理はするな』
「了解ッ!」

 と、口ではそう素直に返事をしたが、必要なら無理でも無茶でもする気でいた。
 具体的には知らされなくても、下の階で何が起きたか、どんな状況になっているのかは、想像くらいできている。
 訓練で訪れる度挨拶をしていて、すっかり顔馴染みになった受付のお姉さん。こちらを見かける度にお菓子をくれようとする清掃のおじいさん。特撮談義で意気投合した、若い研究員のお兄さん。
 たまに子供扱いされるのは少し不満だったが、皆いい人達だった。
 けれど、あの人達の何人かには、もう二度と会うことはない。死に顔を見ることすらも叶わない。

「ノイズッ……!」

 きつく噛みしめた歯が軋る。
 戦意の昂りに呼応して、身に纏うギアが震え出す。
 全体のリズムを根底で支えるのは、鼓動にも似た力強い打音だ。主旋律を奏で始める前に、脈打つビートが加速する。
 光は、身と心が震えるままに全身で吠えた。

「アタシはここだぁぁぁ――――ッ!! どこからでもかかって来いッッッ!!!」

 その闘志は、ビルの床や壁までをもビリビリと鳴動させる。
 その残響が消え、光が息を整えて身構えるのとほぼ同時――最初の人型ノイズが、音もなく床をすり抜けて姿を現した。
 一体現れると、あとは雨後の筍のように次々と異形が浮上し、たちまちのうちに、ホールはノイズで埋め尽くされる。
 光の挑発を理解してのことかは定かでないが、居並ぶノイズ達が一斉に光へと顔を向ける。
 シミュレーションとは違う“生”のプレッシャーを前に、光は一度深呼吸。
 実戦への恐れはある。だがそれ以上の熱が恐怖を焼き捨てた。

「これ以上は……一人たりともやらせないッ!!」

 猛る声に呼応して、ノイズの群れが動く。
 壁のような密度で襲い来るノイズに対し、光は、鼓動の熱が突き動かすままに全霊で打撃した。


 




 ――丁度それと時を同じくして、本部ビル一階に、ヒールの足音が踏み入った。
 無人のフロアはあちこちに炭の山が堆積し、そこから舞い上がった塵のせいでひどく薄暗い。まるで冥府の入り口のような、澱んだ、陰鬱とした空気がそこにある。
 足音は、何の躊躇いもなく奥へ。
 一階には、上階へ進攻した本隊から別れた十体前後のノイズが居残って、生存者を探すかのように徘徊していた。
 新たな物音に反応したノイズ達は、足音の方へ顔を向け――しかしすぐ興味を失ったかのように、それぞれの徘徊ルートへ戻っていく。
 そんなノイズ達の間を悠々と進んだ足音の主は、天井を――天井越しに、幼い装者の奮闘する方角を見上げると、紅いルージュを三日月型に吊り上げた。


 

………
……




 光は、孤軍奮闘という言葉に相応しい激闘を続けていた。
 既にホールの床は、砕かれたノイズが転化した炭の山で、足の踏み場もないほどに埋め尽くされている。
 だが、ノイズの増援はなおも尽きなかった。

「はぁっ、はぁっ、……っああありゃァァァァァッッ!!」

 雄叫びで無理矢理自分を奮起させ、もう何十体目になるかもわからないノイズに拳を叩き込む光。
 反動で止まりそうになる拳を強引に打ち抜いて、床上に炭の塊をひとつ追加する。
 だが、その向こうから全身を槍化して突撃してくるノイズには対応できず、よろめくように膝をついて姿勢を下げ、辛うじて回避に成功する。
 肩で息をしながら立ち上がると、周囲の壁や床をすり抜けて、さらなる増援が姿を現していた。

『光君、一度左奥の通路まで下がれ』
「大丈夫っ、まだやれますっ!」
『下がれ。君はよくやってくれているが、敵の密度も上がってきている。このまま同時多面攻撃を受け続ければ、質量差で押し切られてしまう』

 あいの声は、反駁を押さえるようにさらに重ねられ、

『君の役目は時間稼ぎと言ったはずだ。まだ倒れられるわけにはいかない。通路側に誘い込んで、各個撃破に切り替えるんだ』
「……了解!」

 その指示に、光は大人しく頷いた。
 司令室では、戦闘中の装者のバイタルを常にチェックしている。つまり、息の荒さは、当然向こうにはばれている。
 なのにそれを指摘しないのは、自分のプライドに対するあいなりの気遣いだ。そのことが分かってなお無理をする気は光にも無かった。

「……ふー……」

 光は一度深呼吸すると、前触れなしに弾かれたような勢いで転身。ホールから繋がる通路目指して、一直線の退却に移る。
 当然、ノイズも即座に反応し、全身を槍化して追撃してくる。
 それに対して、移動をバックステップに切り替えて防御態勢を取る光だったが、

「――ッ!」

 床に積もった炭で足が滑り、激突の衝撃を受け止め損なった。
 後退速度を強引に上乗せされ、ほとんど吹っ飛ばされるような形で、通路へ仰向けに投げ出される。

「防火シャッター、七十二番落とせ!」

 その様子をモニターしていた司令室では即座にあいの指示が飛び、それを受けたオペレーターも即応。
 結果、光の眼前で鋼色のシャッターがギロチンじみた速度で降り、倒れた光を狙って槍化したノイズが、その向こう側から音高く激突する。
 だが、障害物が障害物として機能したのは、ノイズが攻撃のために「こちらの世界」への干渉率を上げていたために過ぎない。
 次のノイズは、衝撃で歪んだ防火シャッターをあっさりすり抜け、易々と通路へ踏み込んでくる。
 その顔面に、起き上がった光がカウンターで拳を叩き込み、シャッターとの間で挟み潰して粉砕する。続くノイズも、シャッターを抜けてきた瞬間に迎撃し、殴打と蹴撃でシャッターに叩き付けては打ち砕いていく。
 その衝撃でシャッターがさらに歪み、炭の山が膝丈まで積もったところで、

『そこまでだ光君。壁越しに囲まれつつある。背後を取られる前にもう一本奥の通路まで下がるんだ』
「了……解ッ!」

 返事と共に最後の一体を炭の塊に変えて、光は次が来る前に踵を返した。
 ホールから通路に入ったことで視野は狭まったが、壁の向こうのノイズの動きも、監視カメラで捕捉しているあいが適宜ナビゲートしてくれる。
 挟撃されないよう立ち回り、壁をすり抜けてくるものはすかさず叩き、光は着実に敵の数を減らしていく。

 ――その姿を、監視カメラの映像で追う司令室。
 光への通信を切ったあいが、傍らの早苗に微笑を向けて言った。

「今のところは、問題なく迎撃出来ていますよ」
「……そ」

 言葉少なに答える早苗は、装者二人分の指揮をあいと分担して、亜季側の動向を注視している――という体で、その実光の様子を窺ってばかりいた。
 そのことを、あいは当然気付いていたし、早苗も気付かれていることに気付いていた。
 あいからの報告に、それ以上取り繕うことを諦めた早苗は重低音の溜息を吐き、

「ぅあー……ごめんなさいね、あいちゃん。あたし自分で思ってる以上に駄目だったみたいだわ……自分でやるとどうしても私情が入っちゃう気がして」
「それをご自分で自覚して対処出来ているうちは大丈夫ですよ」

 そこを補うのが私の仕事ですから、と、あいは澄ました表情で応える。

「ただ……私にも、仕事と割り切れない感情はあります。これが終わったら、光君に焼き肉か何か奢ってあげてもいいでしょうか」
「存分に奢ってあげるといいわ。……ちなみにあたしも着いてっていい?」
「酒代はもちませんよ」
「ちっ」
「私よりもいいお給料をもらっているはずでしょう。大人ならご自分で面倒を見てください」
「その分あいちゃんより苦労してんのよー? 労わりなさいよこのいけずー」

 などと、そんな軽口を叩き合い、心身を強張らせる緊張をわずかながらほぐす。
 その上で――表情と口調を改めたあいは、端的に事実としてそれを告げた。

「こちらはおそらく、あまり長くはもちません」
「スタミナの量は今後の課題ね。まあ実戦での消耗はシミュレーションの比じゃないから仕方ないか」

 同じく態度を改めた早苗の方も、ずっと横目に眺めていたので光の状態には気付いている。

「壁に叩きつけたり踏み潰したりする攻撃パターンが増えたのは、膂力だけで砕き切れなくなってきてる証拠ね。通路側へ下がらせたのは正解だったわ」
「ただ、あまりノイズから距離を取らせると、光君を放置して上階へ進攻されてしまう恐れがあるため、これ以上は戦闘のペースを落とせません。亜季君の側はどうなっていますか」
「予想通り、接近したせいで小型の密度が上がって苦戦させられてるわ。高さは保たせてるから、完全に包囲されずには済んでるけど――」

 そう言って、二人が亜季側にやや意識を向けたタイミングで、当の本人から通信が入った。

『こちら大和亜季、大型ノイズ一体撃破! 残り一体、早急に片を付けます!』
「頼んだわ! 小型だけなら、放置しても一課の封鎖範囲を出る前に自壊するはず。連戦で悪いけど、大型を倒し次第急いでこっちに戻って頂戴!」
『了解!』
「光君、聞こえるか? 亜季さんの方はじき片付く。あと少しだけ頑張ってくれ」
『了解っ……!』

 通信の向こう、装者二人の声はいずれも色濃く疲労を滲ませている。
 だが、か細い希望がようやく見えてきたのだ。それを確実に手繰り寄せるまで、二人には戦い抜いてもらうしかない。
 司令室側でも、打てる手はすべて打っていく。亜季を素早く回収するため、近場で待機しているヘリに指示を出し、あらゆる伝手を使って避難に使うヘリの応援要請を飛ばし、その間も、戦況の監視と装者へのフォローは忘れない。
 そうして矢継ぎ早に指示が飛び交う中、不意に、亜季のサポートについていたオペレーターの一人が戸惑いの声を上げた。

「副司令! 装者が戦闘中の十三階に、人影……のようなものが」
「何? 逃げ遅れた生存者がいたのか?」
「不明です。カメラの視界ギリギリを横切っただけで……シルエットからして、ノイズではないと思われるのですが」
「その映像を出せるか」
「はい。――これです」

 オペレーターがいくつかキーを叩くと、監視カメラの映像が巻き戻され、コンソールの画面に当該箇所の静止画が表示される。
 あいは、オペレーターの背後から身を乗り出すようにして画面を覗き込んだ。
 画面に映し出されているのは、真っ直ぐ奥へと伸びる通路の様子だ。左右の壁には等間隔でドアが並び、視界の突き当たりで別の通路と交差している。
 問題の人影は、その突き当たりの通路を横切ろうとしているところだった。
 カメラから遠いため細部は見て取れないが、輪郭からして人間であることは間違いないだろう。ただ、身に着けているものは、少なくとも二課の制服でないこともまた確かだった。
 画素の粗いその映像からわかる残りの特徴は、長い銀髪の持ち主であるということくらいか。
 二課の職員に、そんな特徴に該当する者はいない。あいはオペレーター同様に、疑問の呟きをこぼした。

「……一体誰だ、これは……? 他のカメラの映像も確認して、この人物の現在位置を特定してくれ」
「了解しました」
「どうしたの? 何が――」

 そのやり取りに早苗も反応して、あいと反対側から画面を覗き込み――その人影を認めた瞬間、あいとオペレーターが思わず気圧されるほどの怒気を全身から噴き上がらせた。
 直後に、風を巻く速度で身を翻し、一直線に出口へ走り出す。

「し、司令!? どちらへ!?」
「現時刻を持って、東郷副司令にあたしの指揮権限を委譲します! ――ここはお願いっ!!」

 それだけを言い捨てて、あいが問い返そうとした時にはもう室内に姿はない。
 自動で閉まる司令室のドアから、問題の静止画が映された画面へと視線を戻して、あいは呆然としたまま呟いた。

「一体……何が起きているというんだ……?」

 画面に映る銀髪の女に問うても、答は無い。


 

………
……




 十三階で戦い続けている光には、司令室での異変を察知する術はなかった。
 小型ノイズは、壁や床をすり抜け、散発的に襲いかかってくる。あいからの指示が途切れたため、光は自己判断でその場に留まって迎撃を続けていた。丁度通路の交差点だったため、ある程度前後左右に広い視界が確保できたことも迎撃には都合が良かった。
 だが、指示がないまま倒したノイズが五体を超え、十体に届くまでになれば、いくら疲労で余裕がなくても違和感には気付く。
 光は油断なく周囲を警戒しながら、司令室に通信を飛ばした。

「こちら光! 司令室、応答してくれ! 何かあったのか!?」

 まさか司令室が直接襲われたのかと、最悪の想像が一瞬胸を過ぎる。
 だが、すぐにあいからの応答が入ってその不安は払拭された。

『――指示が途切れてすまなかった光君、こちらは大丈夫だ。そちらには異常はないか?』
「良かった……こっちは大丈夫です! 指示がなかったから、ここから動かずに戦ってたけど、それで良かった?」
『君が無事ならそれで良い。ノイズの数もかなり減ってきたはずだ。今、フロアの映像を確認して――』

 と、あいがそこまで言いかけた時、通信の向こうで誰かの声が上がった。
 声が遠いため、光には内容までは聞き取れなかったが、それを聞いたあいは言葉を止め――直後、今までになく切迫した声で告げた。

『気を付けろ光君! 君から見て右の通路だ――誰か来る!』
「誰か――?」

 ――って、誰が?
 わからないまま言われた方へ振り向いた光に、ヒールの足音がぶつかった。
 視界の外からゆっくりと近付いてきた足音は、曲がり角を折れて、ついに光の正面の通路へと入ってくる。
 そうして姿を現した足音の主は――長い銀髪の女だった。

「シン……フォギア……?」

 その姿を見て、光は思わずそう呟いた。
 銀髪の女が身に着けた装甲は、光の目にはそうとしか見えなかったのだ。少なくとも、女の総身から立ち昇る超常の力の波動は、趣味の悪いコスプレとは決定的に一線を画していた。
 装甲色は、全体的に暗紫色と濃紺がベース。細いベルトを幾重にも編み上げたような意匠の戦闘スーツは、肩周りや太腿といった一部を除いて隙間なく全身を包んでいる。高いヒールを持った脚甲は鋭角的で、指先も鉤爪のように鋭い。
 目元は濃い色のバイザーで覆われており、真っ赤なルージュを引いた口元しかわからない。だが、顔の輪郭と、全身のプロポーションから、成人か、それに近い十代後半には達している者と見て取れた。
 それが彼女のアームドギアなのだろうか、右手には、幾つものプレートを寄木細工のように組み上げ重ね合わせた刀身を持つ、武骨で分厚い長剣を提げている。

「――――ッ!?」

 その立ち姿を見た瞬間、頭の奥に鈍い疼痛を感じて、光は思わずこめかみに手を当てた。
 だがその疼きの正体を探ろうとする前に、銀髪の装者が新しい動きを起こした。
 光から数メートルの距離を置いて立ち止まった銀髪の装者は、空の左手を光に向けて真っ直ぐ持ち上げる。
 手首に装着された円盤型の装甲は、腕輪というにはあまりにも巨大で分厚く、むしろ手枷に近い印象を受けるものだ。そのリングが前後に割れ、開いたスリットから、薄緑の粒子で形作られた、本の頁にも似た仮想スクリーンが立ち上がる。
 その動きに対して、光は反射的に身構えた。
 この相手から感じる雰囲気は、あまりに不吉で禍々し過ぎる。直感以上の根拠はないが、敵か味方かの二元論で言えば間違いなく敵だ。
 しかし、対人戦闘――それも同じ装者を相手にした戦闘など経験したことのない光は、そこからどう動けばいいのか、自力で判断を下せずにいた。

「あんたは……あんたは一体何者なんだ……!? どうしてここに居る!?」

 問い掛けに答えはない。銀髪の装者は、薄く微笑みを浮かべているだけだ。

「あいさん!」
『……二課には一切データがない。味方とは思うな、警戒するんだ』

 通信で応えるあいの声にも、戸惑いが大きく混じっている。あまりに想定外の事態に対して、あいもまた即断できずにいるのだ。

 そうしている間にも、銀髪の装者は次の動きを取る。持ち上げた手を軽く振り払えば、浮き上がった頁は無数に分裂しながら空中へスライド。銀髪の装者を中心とした半円に並ぶと、どの国の言語かも定かでない文字を一斉にスクロールさせ始める。
 やがてスクロールが止まると、頁と文字を形作る粒子が形を変え、魔法陣じみた図形を描き出し――その中央から、オタマジャクシ型の小型ノイズを吐き出した。

「ノイズを――召喚したっ!?」
『気を付けろ光君、来るぞ!』

 あいの言葉通り、魔法陣から出現した三匹の小型ノイズが、高速で床を這い寄り飛びかかってくる。
 視界を覆うほどに肉薄した小型ノイズに対し、考えるより先に体が動いた。
 膝下のスナップを利かせた直蹴りから、蹴り足を下ろす動きを踏み込みとして即座のワンツーパンチ。体が覚えていた三連撃は過たず放たれ、直撃を受けたノイズは呆気なく砕け散る。
 だが、その砕け落ちる残骸の向こう、長剣を振りかぶった銀髪の装者が既に至近にまで迫っていた。

「ッ!!」

 振り下ろされるのは不可避の一撃だ。
 これもまた訓練で体に染みついた動きとして、光は咄嗟に頭上で両腕を交差し、辛うじてそれを受け止めることに成功する。
 しかし、

「っ、アタシのギアが、削られたッ……!?」

 相手が剣を振るのに使ったのは右腕一本だ。にもかかわらず、思わず膝をつきそうになるほどの衝撃が光を襲い、ノイズの激突をものともしない堅牢さを誇る篭手が、激しい火花と共にわずかに欠け落ちた。
 篭手自体が砕かれるまでには至っていないが、装甲に傷らしい傷を付けられたこと自体が初めてだ。
 その動揺を突かれ、銀髪の装者の容赦ない直蹴りが、無防備な光の腹に突き刺さる。

「ぐほッ……!!」

 相手の身体能力もまた、身に着けたギアによって大幅に底上げされている。
 光の体は軽々と宙を舞い、幾度も床にバウンドしながら激しく二転三転。装甲で床を削るようにしてようやく制動するが、先程までの疲労に痛烈なダメージを上乗せされて、すぐには立ち上がることができない。
 全身を震わせながら、何とか上半身だけは起こす光に、銀髪の装者は悠々とした足取りでゆっくりと近付いてくる。
 と、その歩みが不意に止まり、視線が床に伏す光から、その背後を見るように持ち上げられた。
 同時に、

『っ、光君、そのまま伏せろ!』
「あい……さん……?」
『いいから早く!』

 何故かひどく慌てた口調のあいの声を、容易く上塗りするほどの打撃音が通路の空気を震わせた。

 あまりの轟音に、一瞬目の前に迫る敵のことすら頭から吹っ飛ばされ、光は思わず音のした方向へと振り返った。
 光の後方、通路の突き当たりにあるのは、床から天井までを塞ぐ大きな防火扉だ。その下の隅には、人が通り抜けるための通用扉が設けられているのだが、今、その通用扉の中央が、向こう側からの打撃によって大きく歪み盛り上がっている。
 と、見ている間に二度目の打撃音が轟いて、通用扉がさらに大きくひしゃげた。あいからの指示の意味を理解して光が伏せた瞬間三撃目が入り、とうとう限界を超えた通用扉は砲弾じみた速度で枠から打ち出される。
 歪んだ鉄扉が、光の髪をかすめながら向かう先は銀髪の装者。直撃軌道だ。
 それを、銀髪の装者は正面にかざした長剣で受け、無造作に切り払った。断ち切られたと言うよりは、引き千切られたような粗い断面を晒して、両断された鉄扉は銀髪の装者の後方へけたたましい音を立てて転がっていく。
 しかし銀髪の装者がそうしている間にも、

「ぎ」

 突然の乱入者は既に次のアクションを起こしていた。

「ん」

 震脚じみた踏み込みがフロアの床を震わせ、

「ぱ」

 振りかぶる動きに全身のバネが最大まで引き絞られ、

「――つぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッッッ!!!!」

 そこから放たれた投擲物は、レーザービームそのものの弾道を描いて一直線に空を突っ走った。
 吹っ飛んできた鉄扉に死角を作られ、それを切り払った直後で反応できなかった銀髪の装者は、避けようもなく顔面に直撃弾を受ける。激突の衝撃で投擲物の方が砕け散り、ばらばらと落ちる破片から、ようやくそれが皮靴であったことが分かる。
 しかし、常人なら鼻くらいは折れていただろうその出鱈目な一撃も、聖遺物がもたらす超常の力の加護の前ではさしたるダメージにはならない。
 微笑を絶やさぬまま、衝撃で傾いだ首の角度を戻す銀髪の装者の視線の先、伏せた床から光が見上げる視線の先、金属製の扉を素手でぶち破って駆け付けた者の正体は、

「さ……早苗さんっ!?」

 二課の総司令、片桐早苗その人だった。



 



 投擲に使用したせいで片足だけタイツ履きの素足を晒した早苗は、通用扉をぶち抜かれた防火扉を抜け、光達のいる通路へと踏み込んでくる。
 その表情は、これまで光が見たこともないほど険しいものだった。
 ことさら目を吊り上げたり、眉間にしわを寄せたりしているわけではない。顔の各パーツの状態は、むしろ無表情とさえいえるほどにフラットだ。
 にもかかわらず、眼光は抜身の日本刀すら霞むほどに鋭い。
 たった数歩で光のもとまで距離を詰め、引き起こすと言うより摘まみ上げるようにして立たせる間も、その視線は銀髪の装者から一瞬たりとも離れなかった。

「さ、早苗さん、なんでこんなとこに――」
「光、あんたは下がりなさい」

 言いながら、徐々にダメージから回復しつつある光を背後に庇って前に出る早苗。
 シンフォギア装者でも何でもない、ノイズに触れれば即死する生身の状態でありながら、その口調は一切の有無を言わせない。
 長剣を携えた謎の装者を前にしながら、無手のまま、指の骨をポキポキ鳴らして、

「こいつの相手は――」

 言いかけたところで銀髪の装者がわずかに姿勢を変えようとし、
 その瞬間には、既に早苗が肉薄していた。

「あたしがやる」
「…………!」

 裸足を使った踏み込みは足音すら立てず、特殊な歩法か、たった一歩で彼我の距離を零にする。
 その急接近に、銀髪の装者が焦りを帯びた反射的な動きで迎撃をしかけた。
 振るうのは右手の長剣。非常に頑強な光のギアさえ削った刃だ、生身で受ければひとたまりもないだろう。
 その威力を知る光は思わず声を上げようとして、

「――――!」

 その暇さえなかった。
 早苗の動きは高速かつ正確だ。跳ね上げた右前腕が剣を振り下ろそうとした手首を、突き上げた左掌底が真下から顎の先端を、続けざまに抉るように打ち込まれた左肘が鳩尾をそれぞれ捉え、まばたきする間に三発が入って、打撃音はほとんど一音に重なって響く。

「あぶ――――ってぇえっ!?」

 光が叫び始めた時点で、既に銀髪の装者は廊下の奥まで派手に吹っ飛ばされていた。
 生身とは思えない非常識な打撃力を発揮して見せた早苗は、何かの呼吸法か、深く長く吐息しながら独特の構えを作る。
 床上を五六回転した末に突き当たりの壁に激突し、仰向けに倒れたままの銀髪の装者に対して、なおも油断なく闘気を研ぎ澄ませながら言うのは、

「あんたの目的が何かは知らないけど……あたしの前で、これ以上の好き勝手はさせないわ。その聖遺物の出所その他諸々、きっちり吐いてもらうわよ」

 降伏しろ、抵抗するなら鎮圧すると、鋭い視線が言外に告げている。

 対する銀髪の装者は、全く堪えた様子もなくゆらりと立ち上がった。
 十メートル以上を吹っ飛ばされながらも手放さなかった長剣を握り直し、不敵な微笑みを貼り付けたままで、全身に戦意を滾らせる早苗と睨み合う。
 しかし、再び距離を詰めようと一歩を踏みかけたところで不意に動きを止め、自分の左腕に視線を落とした。
 視線の先、血管のようにも、何かの回路のようにも見える暗紫色のラインが、左腕の上を這っている。手首の腕輪から伸びるそれは、前腕に絡みついて、肘近くまで達しようとしていた。
 ほんの半秒ほどそれを見つめていた銀髪の装者は、二三度、左手を握ったり開いたりを繰り返して、

『……今日はここまでですね』

 その呟きは、二つの声が重なって聞こえるような、不可思議な響きを持っていた。
 顔を上げ、バイザー越しに、早苗と、その背後に庇われた光とを順に見つめた銀髪の装者は、

『今はまだ、そちらに預けておきます』
「逃がすと思ってんの?」
『捕まると思います?』

 さらに高まる早苗の気迫も、一切意に介さない。
 早苗に先のような急接近を許さないためだろう、右手の剣を正眼に構えながら左手を振り払うと、再び粒子で出来た頁が無数に宙を舞う。頁上の文字のスクロールが先程よりも短時間で終わると、頁全体が振動し、モスキート音にも似た不愉快な音色を響かせ始めた。

「ぅあっ、ヤな音っ……!」
「ちっ……耳障りな……!」
『司令! 気を付けてください、その階に居るノイズの動きが!』

 通信のあいの声が危急を告げると同時、通路の左右の壁をすり抜けて、生き残っていた小型ノイズが次々と這い出してくる。
 ちょうど銀髪の装者の目の前に割り込む形で現れたノイズの群れは、間近に居る銀髪の装者を完全に無視して、光と早苗の方へと振り返る。一歩一歩、ゆっくりと前進しながら隊列を変え、通路の横幅一杯に並んで完全に封鎖するその動きは――ノイズに意思があると仮定するなら、紛れもなく、銀髪の装者を庇い、立ちはだかろうとする動きだった。

 徐々に近付いてくるノイズの壁を前にして、それでも早苗は戦意を鈍らせなかったが、

「なるほど……ノイズを呼び出すだけじゃなく、操ることもできるってわけ……!」

 生身の状態では、触れられただけで即死だ。流石の早苗も、半歩ずつ下がって距離を開ける。
 そうして後退しながらも、早苗は冷静に次の一手を模索していたのだが――その一方で、冷静さを保てなかったのが光だった。

「危ない早苗さん! 下がって!」

 銀髪の装者はともかく、ノイズは自分が対応しなければ早苗が死ぬ。
 その焦りから、光は慌てた動きで早苗の前に出て庇おうとし――そうして早苗を気遣い、ノイズを警戒し過ぎたために、ノイズの背後に隠れた銀髪の装者の動きを見落とした。

『降りなさい、巨人の一撃』

 銀髪の装者がそう呟くと同時、腰だめに構えた長剣が変形する。
 寄木細工のように組み合わさって刀身を形成するプレートが、解けるようにスライドして割れ広がり、長剣から大剣へとサイズを拡大させる。そうしてできた刀身中央の隙間に、光を歪め捻じ曲げるほどのどす黒い力場塊が発生。
 そのエネルギーは、瞬く間に刀身全体へと波及して、

『それでは――さようなら』

 銀髪の装者が一直線に振り下ろす動作に合わせて、無造作に解放された。



       【[= Σ∥§∃Я∥¢◎Яθ∥∀ =]】



 放たれた力は、まさしく巨人の一撃と呼ぶに相応しいものだった。
 大剣が帯びた不可視の力場は、目に見える刀身に数倍するサイズの巨大な刃を形成。その破壊痕は、もはや斬撃というより面打撃に等しいものだ。銀髪の装者の直上、不可視の刃に突き上げられた天井が砕け散り、振り下ろしに合わせて破砕が一気に前方へ加速し、ひしめくノイズが通路ごと叩き潰されて消滅し、衝撃と残骸が床を割り砕いて下層へと抜ける。
 二課の本部ビルは、戦場となった十三階を中心に、実に上下二フロアにも渡る巨大な斬撃を叩き込まれ、局地的な地震でも起きたかのように激震した。
 その圧倒的な破壊の力を前に、光の反応は致命的に遅れていた。


「――――ッ!!?」

 ビルそのものが断砕される轟音を叩き付けられ、一瞬、意識が真っ白に塗り潰される。
 そこから復帰した光が最初に見たものは、自身の右篭手と、右肩の装甲が粉々に粉砕されて宙を舞う様子だった。あまりの衝撃に、自分がそれを浴びたということにすら、まだ認識が追いついていなかった。
 そして、そのダメージでさえも直撃ではなかったのだということを、視界に散った鮮やかな紅色から理解する。

「――さな、え、さん……?」

 ノイズから庇って、自分の背後に居たはずの早苗が、いつの間にか、自分を抱きかかえるような姿勢で正面に回っている。
 間近で向かい合う早苗の顔は、まるで出来の悪い我が子を見守る母親のような、穏やかな微笑を浮べていたが、――直接は見えないその背中側で、スーツが大きく裂け、鮮烈な赤が翼のように広がっていることは肩越しにもわかる。
 光がそこまでを理解したと同時、小さな咳き込みと共に、微笑を形作る早苗の口端から深紅のラインが滴り落ちた。
 それでもなお、早苗は表情を崩さず口を開き、

「――いい? 光」

 その、無限に引き延ばされた一瞬の中で、光は、確かに早苗の言葉を聞いた。



「辛い時ほど笑いなさい。いつかその笑顔を、本物にできるように」



 そう言って、早苗は凍りついたままの光の胸をそっと押す。
 ほんのわずかな浮遊感。必死に伸ばした手の先、ゆっくりと遠ざかっていく早苗は最後に優しい微笑を見せて、

「早苗さ――――!」

 次の瞬間、ビルの崩落が全てをシャットアウトした。

「――――!!」

 光は思わず両手で顔を庇ったが、崩れ落ちる瓦礫は彼女を巻き込みはしなかった。浮遊感も、気付けば既に消えていた。
 ほんの数秒で崩落音は止み、光が恐る恐る目を見開くと――そこには、もう何も無かった。
 それは比喩でも何でもなく、尻もちをついた光の正面、三十センチと離れていない場所から先は、十数メートルに渡って通路そのものが消滅し、上下の階と吹き抜けの状態になっているのだ。
 崩落した通路の向こう側には、ノイズの姿も、あの銀髪の装者の姿も既に無い。
 断崖の淵から階下を覗けば、瓦礫が一面を埋めつくして山となっている。そこにも、もはや誰の姿も見て取れない。


「…………」

 呆然の二文字そのままにそれらを眺めていた光は、ふと、床についた手に湿ったような、粘るような感触を覚えて、持ち上げた手首を返して掌を覗き込んだ。
 小刻みに震える掌は、自分のものではない誰かの血で、真っ赤に染まっている。
 ゆっくりとそこから視線を外し、崩落した通路をもう一度見下ろし、ゆっくりと、ゆっくりと、すべての理解が意識に追い付いてきて、

「さ……なえ、さ……早苗さ、ぁ、ぅあ、あ…………っ!」

 通信越しに何かを叫んでいるあいの声も耳に入らず、光は、両手で顔を覆って床に突っ伏した。

「あ、ぁあ――――――――――――――――――――……!!!」

 名を呼べど、応える者はもう居ない。どこにも。この地上の、どこにもだ。
 裂けた喉から血を吐くような慟哭が、長く長く、半ば廃墟と化したビルの中にこだました。











 







       EPISODE 1
       あの日、星は流れて




 



    キャスト

    南条 光

    大和 亜季

    関 裕美

    片桐 早苗

    東郷 あい


    銀髪の女

    銀髪の装者


    池袋博士

    南条夫妻の声

    老役人

    政府高官A

    政府高官B

    研究員A

    研究員B

    研究員C

    オペレーターA

    オペレーターB




    劇中歌

 「聖剣・エクスカリバー」

   歌 南条 光
  作詞 ◆aMrANsPXKM28



 「罪弓・天鹿児弓」

   歌 大和 亜季
  作詞 ◆aMrANsPXKM28



  オープニングテーマ

  「Lost Symphonia」

   歌 高峯 のあ










 製作 projectシンフォギアCG



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早苗「戦姫絶唱シンフォギアCG、BD/DVDシリーズがリリース決定よ――っ!」

あい「司令、作戦司令室で騒ぐのはやめてください。あと、ここの大型モニターはアニメ鑑賞用ではないと何度言」

早苗「初回生産限定版には、特製ブックレットやオリジナルサウンドトラックなどなど、豪華特典が盛り沢山! これは何としても、あの頭の固いお偉いさん方を黙らせて、予算を確保しておかないと……!」

あい「公費を私的に使い込まないでください! 横領ですよ、ちょっと、聞いてますか司れ」

早苗「さーらーにー、全巻特製収納BOXは、毎巻新規描き下ろしイラスト付きっ! 第一巻のカバーイラストは光ね。あーもう精一杯格好付けちゃってーこの子はー!」

あい「……親馬鹿患うのは一度でもご結婚なされてからにしてはどうですか」

早苗「あっはっはっは、――あいちゃん後で屋上ね?」

あい「嫌です」



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 戦姫絶唱シンフォギアCG
 キャラクターソングシリーズリリース決定!!



 第一弾「南条 光」


 第二弾「大和 亜季」



 そして第三弾以降もリリース予定!

 詳細は、番組ホームページにて!




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 ―― この番組は、御覧のスポンサーの提供でお送りしました ――


  QUEEN RECORDS


  武士労働


  SomyMusic


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  お便り(安価)投稿を下さった皆様


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  斜め上の無茶振りをくれやがった皆様


  コンマと乱数の神様



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|KeyWord
|用語解説

○シンフォギア・システム New!
○ノイズ New!
○聖遺物 New!
○特異災害対策機動部 New!
○対ノイズシミュレーター New!
○二課本部襲撃事件(市街戦) New!
○二課本部襲撃事件(籠城戦) New!

○シンフォギア・システム

特異災害対策機動部二課の技術主任であった、
池袋博士の提唱した「池袋理論」に基づき、
聖遺物の欠片から生み出されたFG式回天特機装束の名称。

認定特異災害ノイズに対抗しうる唯一の装備であるが、
その存在は、現行憲法に抵触しかねないため完全秘匿状態とされる。

身に纏う者の戦意に共振・共鳴し、
旋律を奏でる機構が内蔵されているのが最大の特徴。
その旋律に合わせて装者が歌唱することにより、
シンフォギアはバトルポテンシャルを相乗発揮していく。

また、シンフォギア・システムには、
総数301,655,722種類のロックが施されており、
装者の技量、そのバトルスタイルに応じて
系統的、段階的に限定解除される構造となっている。

纏う者の個人差に合わせることで、
身体への負荷を可能な限り低減させるのが目的であるが、
そのため、より強力に使いこなすためには、
装者自身の鍛錬と運用練度が不可欠という、扱いの難しさにも繋がっている。

なお、交戦中にダメージを受けるなど、
何らかのカタチで歌唱が中断されると、バトルポテンシャルは一時的に減衰する。
それは、今後の課題として挙げられるシンフォギアの弱点のひとつである。





○ノイズ

13年前の国連総会にて認定された特異災害の総称。

形状に差異が見られ、
一部には兵器のような攻撃手段が備わっているが、
全てのノイズに見られる特徴として――

・人間だけを襲い、接触した人間を炭素転換する。
・一般的な物理エネルギーの効果を減衰?無効とする。
・空間からにじみ出るように突如発生する。
・有効な撃退方法はなく、
 同体積に匹敵する人間を炭素転換し、自身も炭素の塊と崩れ落ちる以外には、
 出現から一定時間後に起こる自壊を待つしかない。
・生物のような形態から、
 過去にコミュニケーションを取る試みも進められたがいずれも失敗。
 意思の疎通や制御、支配といったものは不可能であると考えられる。

…などが挙げられている。

余談になるが、
国連総会での災害認定後、
民間の調査会社がリサーチしたところ、ノイズの発生率は――

東京都心の人口密度や治安状況、経済事情をベースに考えた場合、
<そこに暮らす住民が、一生涯に通り魔事件に巻き込まれる確率を下回る>
……と、試算されたことがある。

ノイズについては、
あまりにも情報が不足しているため数字の信憑性には疑問が残るものの、
発生件数についての一般認識はほぼそのようなものとなっている。


○聖遺物

世界各地の神話や伝承に登場する、超常の性能を秘めた武具を指す言葉。

現在では製造不可能な異端技術(ブラックアート)の結晶であり、
多くは遺跡などから発掘されている。
発掘されても、経年による劣化や損傷から、
かつての状態をそのまま残したものは、本当に希少な存在となっている。

そのため、ほとんどの場合は、
「聖遺物の欠片」として存在している。

基底状態にある聖遺物は、
歌の力によって励起状態となり、その力を解き放つ。





○特異災害対策機動部

認定特異災害ノイズが出現した際に出動する政府機関。

一課は主に、避難誘導やノイズの進路変更、ノイズの出現区域の封鎖、
さらには被害状況の処理といった任にあたっており、
通常、「特異災害対策機動部」と聞いた場合に、
一般の人間が思い浮かべるのは、報道媒体に取り上げられる一課のイメージとなっている。

対して二課は――
一課同様、ノイズ被害の対策を担っているのだが、決定的に異なる点がひとつある。
それが、シンフォギア・システムの保有である。

シンフォギア・システムをはじめとする異端技術(ブラックアート)の研究・開発により、
ノイズ対策においては、世界的に見ても最先端の技術力・戦闘力を保有する組織であるが、
その希少価値に反して、日本政府内での評価はけして芳しくない。

その最大の理由として挙げられるのが、予算の額面とその内訳である。
二課司令・片桐早苗が、予算会議で文字通り強引に「勝ち取って」いく金額の多寡もさることながら、
新たな聖遺物の探索・収集を目的とした、古代遺跡の発掘調査や保全活動、
聖遺物を起動させ得る歌声の持ち主を探すための、芸能事務所の真似事のような活動など、
それらの「必要経費」は、異端技術やその詳細を知らない役人からしてみれば、
公費を横領するための口実か何かと映るのも詮無いことであろう。

現状、唯一ノイズに対抗し得る組織である二課の立場が政府内で軽んじられているのは、
国内外でのノイズの発生確率が、台風などの他の災害や、刑事事件の発生件数などに比して、
非常に低く極めて偶発的なものであるためだと思われる。

○対ノイズシミュレーター

池袋博士の主導の下開発された、二課が有する大型仮想訓練装置。
ノイズや一般市民、市街地などを訓練室内に再現し、
極めて実戦に近い形式で訓練を行うことができる。

ノイズの全滅や、一般市民の救出の成否など、
設定された勝利条件/敗北条件を満たすと訓練は終了。
「ゲームのリザルト風」「小学校の通信簿風」「辛辣高飛車お嬢様風」など、
18種類から選べるUIで評価が表示され、高得点はランキングにも記録される。

主な利用者はシンフォギア装者だが、非戦闘員である他のスタッフも、
「ノイズ出現時の避難訓練」などの設定で利用できる。

ちなみに、戦闘シミュレーションの歴代最高記録保持者は二課司令・片桐早苗である。
「あたしも一回くらいノイズを思い切りぶん殴ってみたい」と駄々をこねる彼女の為に、
生身でもノイズを殴れる設定で挑戦させてみたところ、
シンフォギア装者・大和亜季の最高記録を桁二つ分上回るハイスコアを叩き出し、
ついでに勢い余って床を踏み割り計測機を粉砕して二週間使用不可にするという、
色々な意味で誰も超えられない記録を打ち立ててしまった(以後使用禁止)。

この教訓を踏まえて改修されたVer.2では、
「もし中で司令が酔って暴れても壊れない」水準を目指してかなりの機能強化が施されており、
高層ビルクラスの立体空間の再現や、数キロ単位での狙撃訓練なども行えるまでになっている。

○二課本部襲撃事件(市街戦)

二課の本部が正体不明の装者による襲撃を受けた事件は、市街地でのノイズ発生から始まった。

二課本部から約30km西のオフィス街で、大型ノイズ三体を含む中規模のノイズ群が出現。
これに対し、二課所属のシンフォギア装者・大和亜季が出撃し殲滅にあたった。

絶好の狙撃位置を確保し、当初はそのまま何事もなく殲滅されるものと思われたが、
二課本部周辺で大規模なノイズ発生が確認されたのと前後して、ノイズの挙動が変化。
大型ノイズが、ビルを遮蔽物として利用するような回避行動を取り始め、
同時に小型ノイズの群れもまた、多方向に散開して亜季を包囲しようとするという、
まるで何者かに統率されているかのような戦術的挙動を見せ始める。

この不可解な動きによって、殲滅も時間の問題と思われていた戦況が一気に悪化。
亜季は予想以上の苦戦を強いられることとなる。

最終的には、大型ノイズの一体が建材を透過してビルの内部に立てこもるという遅滞行動を取ったため、
やむを得ず、ビルごと撃ち貫く高威力貫通撃でこれを撃破。
一課の避難誘導が速やかに行われていたため、人的被害は比較的軽微に抑えられた一方で、
ビル一棟の倒壊という、ノイズ災害においては珍しい、経済的に大きな被害を残す結果となった。

二課に現れた正体不明の装者が、ノイズを任意に発生させ、それをコントロールしていた様子から、
この市街地でのノイズ発生は、亜季を二課本部から引き離すための陽動であった可能性が高いと見られている。





○二課本部襲撃事件(籠城戦)

市街地で発生したノイズと、シンフォギア装者・大和亜季の交戦開始からしばらくして、
二課本部ビル周辺でノイズが大量発生。
ノイズはこちらでもまた、周辺の他の人間には一切見向きもしないという不可解な挙動を見せ、
発生した全ノイズが二課本部へ殺到した。
最大戦力である亜季の不在により、二課職員は本部ビルでの籠城戦を強いられることとなる。

発生したノイズの群れのうち、まず飛行能力を有する鳥型が、
ヘリポートに残存していた二課保有のヘリ三機を攻撃・破壊。
その後は本部上空で待機し、空路での避難経路を封鎖した。
同時に、地上側の小型ノイズは、
緊急避難用の地下シェルターに繋がるエレベーターシャフト内に多数侵入し、これを封鎖。
これにより、二課本部は空陸の避難路を断たれ、完全に孤立させられることとなる。

小型ノイズ群の侵攻に対し、当初はフロアの放棄と上階への避難を行っていた二課は、
その後十三階にて、いまだ訓練中であるシンフォギア装者・南条光を投入。
侵入したノイズの迎撃と、亜季が戻るまでの足止めにあたらせた。

足止めは功を奏し、光の奮戦によって侵入してきたノイズの大半は撃滅されたが、
光の疲労を見計らったかのようなタイミングで、正体不明の銀髪の装者がフロアに出現。
何らかの聖遺物によるものか、任意にノイズを召喚し、またそれを操って見せ、
光と接触・交戦の後、残存していたノイズを囮として撤退した。

この装者の撤退の際に放たれた高威力の一撃によって、
本部ビルは、十一階から十五階にかけての広範囲に渡って崩壊。
また、この襲撃事件の中で、二課総司令官である片桐早苗、
及び、二課技術主任であり、異端技術の権威でもあった池袋博士の両名が死亡。
その他、事件当時ビルに詰めていた職員のうち、
(個人が判別不可能な遺体の状態から、正確な人数は未だ不明であるが)百名以上の犠牲者を出す大惨事となった。

謎の装者が二課を襲った目的はいまだ不明であるが、
この結果は、事実上、二課の大敗であったと言える。

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戦姫絶唱シンフォギアCG @SYMPHOGEARCG 7月27日

本日(ギリギリですが)は新田美波さんの誕生日です! おめでとうございま
す!! EDに名前が出るのは二話以降になりますが、既に出演することは
決まっています。新田美波さんの活躍にご期待ください! #symphgearCG


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戦姫絶唱シンフォギアCG @SYMPHOGEARCG 8月18日

すいません! 間に合いませんでしたが、本日(8月17日)は、主人公・光の
親友(本妻)枠である関裕美ちゃんの誕生日です!(でした!) 夏真っ盛りで
毎日大変ですが、裕美ちゃんの笑顔で癒されましょう('∀`*) #symphgearCG


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戦姫絶唱シンフォギアCG @SYMPHOGEARCG 9月13日

本日は、主人公・南条光の誕生日です! そして、シンフォギア原作の主人
公・立花響の誕生日でもあります! シンフォギアCGの主人公は元々視聴
者投稿で決まった事を考えると、なんだか運命的なものを感じますね……。
改めて二人とも、誕生日おめでとうございます! #symphgearCG


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